【文献】
Journal of Bioscience and Bioengineering, 2006, Vol.102, No.5, pp.442-446
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは赤色のカロテノイドの一種であり、強力な抗酸化作用を有することが知られている。
特許文献1にはアスタキサンチンを産生する緑藻の製造方法が開示されており、シスト細胞に変化した緑藻に特定条件の光照射を行うことにより、高濃度のアスタキサンチンを含む緑藻を製造する方法が開示されている。
【0003】
アスタキサンチンを蓄積する緑藻類としてヘマトコッカス属に属する緑藻が知られている。ヘマトコッカスは、適切な光照射培養条件下で緑色の遊走細胞として生育する状態と、光環境や栄養枯渇などのストレスにより遊走細胞がシスト細胞へと変化し、著量のアスタキサンチンを細胞内に蓄積する状態が存在することが知られている。
緑藻類を、健康食品や医薬品などの原料として工業的に大量培養することは産業上有用であり、これまで、特許文献1のように、シスト細胞におけるアスタキサンチンの蓄積を増加させる方法は検討されてきた。
一方で、緑藻類の生育を促進し、培養期間を短縮して生産性を向上させることが求められている。このように、大量の細胞を取得するための時間を短縮するためには、シスト細胞に変化する前の遊走細胞における生育を促進し、短時間で高密度の細胞を生産することが有用である。しかしながら、緑藻類の遊走細胞における生育を促進する方法は知られていなかった。
【0004】
一方、人工光を用いて光合成を促し生物を生育させる方法が知られている。
例えば、非特許文献1には、赤色LED光および青色LED光を照射したときのヘマトコッカスの生育に対する影響について開示されている。
また、特許文献2には、青色LED光と赤色LED光を同時または交互に点灯して植物等を栽培する光源が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いずれの上記文献にも、液体培地中で緑藻類の遊走細胞における生育を促進し、細胞を高密度に培養する方法は開示されておらず、知られていなかった。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類を工業的に大量培養するために、遊走細胞における生育を促進し、培養期間を短縮して生産性を向上させるための生育促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、人工光の照射による緑藻類の生育促進効果について鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、赤色照明光と青色照明光を交互連続に照射すると、グリーンステージ(緑藻類の培養において、培養液が緑色ないし褐色である状態)を維持したまま、遊走細胞を短時間で高密度に生育することを見出し、本発明を完成した。
本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1]アスタキサンチンを蓄積する緑藻類に人工光を照射して、前記緑藻類が緑色の遊走細胞である状態での生育を促進させる緑藻類の培養方法であって、赤色照明光と青色照明光を交互かつ連続に照射して、前記緑藻類の培養液が緑色ないし褐色である状態を維持しながら、前記緑藻類を液体培地で生育させる緑藻類培養方法。
[2]前記アスタキサンチンを蓄積する緑藻類が、ヘマトコッカス(Haematococcus)属に属する単細胞緑藻類である上記[1]記載の緑藻類培養方法。
[3]前記ヘマトコッカス(Haematococcus)属に属する単細胞緑藻類が、ヘマトコッカス・プルビアリスまたはヘマトコッカス・ラクストリスである上記[2]記載の緑藻類培養方法。
[4]前記赤色照明光の波長が570nm〜730nm、中心波長が645nm〜680nmである上記[1]〜[3]のいずれか―項に記載の緑藻類培養方法。
[5]前記青色照明光の波長が400nm〜515nm、中心波長が440nm〜460nmである上記[1]〜[4]のいずれか―項に記載の緑藻類培養方法。
[6]前記赤色照明光の光源がLEDである上記[1]〜[5]のいずれか―項に記載の緑藻類培養方法。
[7]前記青色照明光の光源がLEDである上記[1]〜[6]のいずれか―項に記載の緑藻類培養方法。
[8]前記赤色照明光および前記青色照明光の光量が、前記培養液の光照射面における光合成光量子束密度で10〜100μmol/m
2/sである上記[1]〜[7]のいずれか―項に記載の緑藻類培養方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類の生育促進方法において、遊走細胞における生育を促進することにより、培養期間の短縮及び生産性の向上が可能となる簡便で優れた生育促進方法が提供される。
また、本発明の生育促進方法によれば、緑藻類の遊走細胞における生育を促進することができ、短時間で高密度の細胞を生産することができる。そして、本発明の生育促進方法によって、緑藻類を大量に取得した後(遊走細胞の生育後)に、得られた緑藻類をシスト細胞に移行させることにより、大量のアスタキサンチンをより効率的に生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、本発明はそれらに限定されるものではなく、それらにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
本発明に係る緑藻類生育促進方法は、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類に対して、赤色照明光を照射する工程(以下「工程R」とも称する)と、青色照明光を照射する工程(以下「工程B」とも称する)とを交互かつ連続的に行うことによって緑藻類のグリーンステージ(緑藻類の培養において、培養液が緑色ないし褐色である状態)を維持しながら、遊走細胞の液体培地での生育を促進する方法である。
【0013】
(波長)
本発明に用いる赤色照明光としては、波長が570〜730nmの光が挙げられ、波長が620〜730nmの光が好適に用いられる。また、645〜680nmの波長を中心波長とする赤色照明光がさらに好適に用いられ、中心波長を660nmとする赤色照明光がさらに好適である。
本発明に用いる青色光照明光としては、波長が400〜515nmの光が挙げられる。
また、中心波長を440〜460nmとする青色照明光が好適に用いられ、中心波長を445〜450nmとする青色照明光がさらに好適である。
赤色照明光および青色光照明光は、上記波長を中心波長として所定の波長域を有するものとすることができる。波長域としては、例えば、青色照明光であれば450nm±30nm、好ましくは450nm±20nm、さらに好ましくは450nm±10nmであり、赤色照明光であれば660nm±30nm、好ましくは660nm±20nm、さらに好ましくは660nm±10nmである。
【0014】
ここで、「交互かつ連続的に」とは、緑藻類培養期間において工程Rと工程Bを交互に、かつ工程Rと工程Bの間を置かずに繰り返し行う光照射条件を意味する。ただし、工程Rと工程Bの間に短時間の非照射期間や同時照射期間がある場合や、LED光のデューティー比を100%未満として瞬間的な非照射時間を設けたり、パルス光を連続的に照射したりするような場合であっても、実質的に本発明の工程Rまたは工程Bと同等の光照射工程を交互に、かつ繰り返し行っており、本発明と実質的に同等の効果が得られる光照射条件は、本発明の「交互かつ連続的に」に含まれる。本発明で許容できる前記短時間の非照射期間や前記同時照射期間は、最低でも計1時間以内を目安とし、計30分以内とするのが好ましい。ただし、上記時間は緑藻の種類等により異なり、予備実験等により求めることができる。
工程Rと工程Bとの間に、例えば休止期間や、別の光源の照射工程、工程R及び工程Bの同時照射工程等が介在する場合は、生育促進効果が十分に得られないおそれがある。そのため、工程R及び工程Bの工程間は間を置かずに、交互かつ連続的に繰り返し照射することが重要である。
このように、本発明においては、工程R及び工程Bが交互に連続して行われ、工程Rと工程Bとからなる照射サイクルが繰り返し行われるが、当該照射サイクルにおいて工程R及び工程Bのいずれかを先に行うかは任意である。
【0015】
(照射時間)
工程R及び工程Bそれぞれの照射時間は本発明の効果が奏される限りにおいて任意に設定できる。工程Rおよび工程Bそれぞれの照射時間は培養期間を通じて一定であってもよいし、延長または短縮してもよい。工程Rと工程Bの照射時間は同じであってもよいし、異なってもよく、本発明の効果が奏される限りにおいて任意に設定できる。
また、培養期間における工程数も任意に設定できる。培養開始時に工程Rと工程Bのいずれから開始してもよく、いずれで終了してもよい。
態様の具体例としては、工程Rを3〜21時間、工程Bを3〜21時間、交互かつ連続的に行うことが挙げられる。
好ましい態様の一例としては、赤色照射光および青色照射光の光量をそれぞれ50μmol/m
2/s、光量比(赤色照射光:青色照射光)を5:3、工程Rと工程Bの照射時間をそれぞれ16時間、8時間で一定とすることが挙げられる。
【0016】
(光量)
工程Rおよび工程Bにおける赤色照射光および青色照射光の光量は、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類の生育に適している範囲であれば特に限定されないが、例えば、培養液の光照射面における光合成光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density:PPFD)でそれぞれ5〜200μmol/m
2/s、好ましくは10〜100μmol/m
2/s、さらに好ましくは20〜70μmol/m
2/sである。赤色照射光および青色照射光の光量は同じであってもよいし、異なってもよい。
なお、「光照射面」とは、PPFDを測定する機器の大きさや培養容器の形状などから、厳格に規定することが困難であるが、培養液のそばの限りなく近い箇所(光照射面から限りなく近い箇所)を指す。
また、工程Rおよび工程Bにおける赤色照射光および青色照射光の光量比は、本発明の効果が得られる範囲であれば制限はないが、例えば「赤:青」が1:20〜20:1の範囲で設定することができ、1:1、5:3、2:1、3:1、4:1、10:1、20:1などのように任意に設定され得る。この内、「赤:青」の光量比が1:1〜10:1であることが好ましく、3:2〜7:1であることがより好ましく、5:3〜3:1であることがさらに好ましい。
【0017】
(照射装置)
本発明に用いる、赤色照射光および青色照射光を照射するための装置としては、本発明の各工程を実行可能なものであればその形状や光源の種類を問わず使用できるが、赤色照明光及び青色照明光を緑藻類に照射する光照射部と、光照射部を制御して工程Rと工程Bとを交互連続に行う制御部とを備える。
【0018】
光照射部には、赤色光および/または青色光を放射する光源が含まれる。赤色光および青色光の光源には、従来公知の光源を用いることができる。光源には、波長選択が容易で有効波長域の光エネルギーの占める割合が大きい光を放射する発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)などの光半導体素子を用いることが好ましい。
光半導体素子は、小型で寿命が長く、材料によって特定の波長で発光して不要な熱放射がないためエネルギー効率が良く、緑藻類に近接照射しても細胞を障害しにくい。このため、光半導体素子を光源に用いることで、他の光源と比較して低電カコストかつ省スペースで培養を行うことが可能となる。
【0019】
光源には、1つの赤色光半導体素子と1つの青色光半導体素子を組み合わせて実装したSMD(2 Chips Surface Mount Device)を線状に配列したSMDライン光源や、赤色光半導体素子あるいは青色光半導体素子のどちらか一方のみを線状、管状あるいは面状に配列した単色ライン光源あるいは単色パネル光源などを使用できる。
半導体素子は、原理上、数メガヘルツ(MHz)以上もの高い周波数で点減駆動が可能である。このため、光半導体素子を光源に用いることで、工程Rと工程Bの切り替えを極めて高速に行うことも可能となる。
【0020】
上記波長域の光を放射するLEDとしては、例えば赤色LEDには、昭和電工株式会社から製品番号HRP−350Fとして販売されているアルミニウム・ガリウム・インジウム・リン系発光ダイオード(ガリウム・リン系基板、赤色波長660nm)などがあり、青色LEDには同社製品番号GM2LR450Gの発光ダイオードなどがある。
【0021】
発光ダイオード以外の光源としては、例えば直管形及びコンパクト形の蛍光ランプ及び電球形蛍光ランプ、高圧放電ランプ、メタルハライドランプ、レーザーダイオードなどが挙げられる。これらの光源に組み合わせて、上記波長域の光を選択的に利用するための光学フィルタを用いてもよい。
【0022】
制御部は、光照射部から放射される赤色照明光および青色照明光の光量および/または照射時間を所定値に維持するか、あるいは所定の光量および照射時間で変化させる。
制御部は、汎用のコンピューターを用いて構成することができる。例えば光源としてLEDを用いる場合、制御部は、メモリやハードディスクに予め保持、記憶された制御パターンに基づいてLEDの駆動電流の大きさを調整し、赤色照明光および青色照明光の光量および/または照射時間を変化させる。また、制御部は、制御パターンに基づいて異なる波長域の光を放射する複数のLEDを切り替えて駆動し、照射される光の波長域を変化させる。
【0023】
(藻類)
本発明に用いられる緑藻類は、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類であれば特に制限なく用いることができる。例えば、ヘマトコッカス(Haematococcus)属に属する単細胞緑藻類が好ましく用いられる。
好ましい緑藻としては、ヘマトコッカス・プルビアリス(H.pluvialis)、ヘマトコッカス・ラクストリス(H.lacustris)、ヘマトコッカス・カペンシス(H.capensis)、ヘマトコッカス・ドロエバケンシ(H.droebakensi)、ヘマトコッカス・ジンバブエンシス(H.zimbabwiensis)などが挙げられる。
【0024】
ヘマトコッカス・プルビアリス(H.pluvialis)としては、UTEX2505株、K0084株などが挙げられる。
ヘマトコッカス・ラクストリス(H.lacustris)としては、NIES144株、ATCC30402株、ATCC30453株、IAM C−392株、IAM C−393株、IAM C−394株、IAM C−339株、UTEX 16株、UTEX294株などが挙げられる。
ヘマトコッカス・カペンシス(H.capensis)としては、UTEX LB1023株などが挙げられる。
ヘマトコッカス・ドロエバケンシ(H.droebakensi)としては、UTEX 55株が挙げられる。
ヘマトコッカス・ジンバブエンシス(H.zimbabwiensis)としては、UTEX LB1758株などが挙げられる。
これらの中でも、ヘマトコッカス・プルビアリスが好ましく用いられる。
【0025】
(グリーンステージ)
本発明におけるグリーンステージとは、緑藻類の培養において培養液が緑色ないし褐色である状態のことを示し、これは培地内の細胞が適切な光照射培養条件下で緑色の遊走細胞として生育する状態に該当する。
なお、適切な光照射培養条件とは、明細書中に記載の波長を有する赤色照明光、青色照明光を、明細書中に記載の照射時間、光量、照射装置で照射し、明細書中に記載の藻類、培地、培養装置、培養条件で培養することを示す。
一方、光環境や栄養枯渇などのストレスにより遊走細胞がシスト細胞へと変化し、著量のアスタキサンチンを細胞内に蓄積して培養液が赤色となった状態のことをレッドステージと呼ぶ。
グリーンステージからレッドステージに移行するグリーンステージの終期では、緑色の細胞(遊走細胞の状態を維持している細胞)と赤色の細胞(シスト細胞へと変化した細胞)が混在し、培養液の色が褐色に変化する。やがて遊走細胞は見られなくなり、著量のアスタキサンチンを蓄積するレッドステージに移行する。
アスタキサンチンを大量に生産するためには、グリーンステージ、すなわち培養液が赤色となる前の状態(培養液が緑色の状態だけでなく培養液が褐色の状態も含む、培地中に遊走細胞が存在する状態)を可能な限り維持しながら、遊走細胞における生育を促進し、短時間で高密度の細胞を生産したのち、レッドステージに移行することが好ましい。本発明の生育促進方法では、これを実現させることにより細胞を短時間で高密度に生育させることができる。
また、他の緑藻類においても、本発明の方法を適用することにより、ヘマトコッカスにおける遊走細胞と同様に、従来法よりも短時間で高密度に生育させることができる。
【0026】
(培地)
緑藻類の培養に用いる液体培地としては特に制限はなく、一般に、増殖に必要な窒素、微量金属の無機塩(例えば、リン、カリウム、マグネシウム、鉄など)、ビタミン類(例えば、チアミンなど)などを含む培地を好適に用いることができる。例えば、AF−6培地、BG−11培地、C培地、MBM培地、MDM培地、VT培地(これらの培地組成は独立行政法人国立衛生研究所ホームページの培地リストに記載されている)、などの培地およびこれらの改変培地などを用いることができる。これらの培地は緑藻類の種類や培養の目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ヘマトコッカス属に属する緑藻を生育させる目的では、C培地またはBG−11培地およびこれらの改変培地を用いることが好ましい。培地には、上記組成のほか、炭素源、窒素源等の成分を適宜添加してもよい。
【0027】
(培養装置)
緑藻類の培養装置としては、二酸化炭素の供給と光照射が可能な装置であれば、特に形状や大きさの制限はない。例えば、実験室で行う場合には、扁平な培養ビン、三角フラスコ、平底フラスコ、などを用いることができる。パイロットスケールや工業生産スケールで実施する場合は、ガラス製またはプラスチック製の透明容器に、外部または内部から光を照射できる装置を備えた培養槽や、金属容器内に内部から光を照射できる装置を備えた培養槽などを用いることができる。このような培養槽としては、例えば、ジャー型培養槽、チューブ型培養槽、エアドーム型培養槽、中空円筒型培養槽などが用いられる。また、いずれの場合も密閉容器が好ましく用いられる。これらには必要に応じ、攪拌機を設置してもよい。
【0028】
(培養条件)
培養条件には特に制限はなく、一般に緑藻類の培養に用いられる温度、pHなどが用いられる。緑藻類の培養温度は、例えば15〜35℃、好ましくは20〜25℃のうちの一定温度に制御される。培養液のpHは、4〜10、好ましくは5〜9、さらに好ましくは6〜8に保たれる。
炭素源の供給およびpHを制御する目的で、二酸化炭素を供給することが好ましい。二酸化炭素は、通常1〜10v/v%濃度の二酸化炭素を含有する混合空気を培地中または培養槽の上部空間に供給する。例えば、0.2〜2vvmとなるように連続的に流通させることで供給される。あるいは上記混合空気で培養槽の上部空間を置換して密閉し、これを繰り返すことにより間欠的に供給してもよい。二酸化炭素の濃度は緑藻類の生育に応じて適宜濃度を変えたり、流通量を変えたりすることか好ましい。好ましい培養条件の一例としては、例えば温度20℃、pH7で、緑藻類の細胞に光が均一に照射されるように緩やかに撹拌された状態で、5v/v%濃度の二酸化炭素を含有する混合空気を1vvmとなるように連続的に流通させ、緑藻類の生育に応じてpH7を維持するように適宜流通量を変えて供給しながら培養を行う。
【0029】
(藻体量測定)
緑藻類の生育状態の測定は、培養液の吸光度測定、蛍光測定、血球計算盤による測定、コールターカウンター、乾燥重量測定等の既知の方法で測定することができる。このうち、560nmの吸光度測定、血球計算盤による測定、乾燥重量測定で行うことが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
なお、本実施例では、ヘマトコッカス・ラクストリスNIES−144株を用いた実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に制限されない。
【0031】
(実施例1)
(緑藻の調製)
BG−11培地の改変培地を調製した。表1に培地組成を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
50ml容培養フラスコに20mlの培地を入れ、ヘマトコッカス・ラクストリスNIES−144株を接種した。光源は白色蛍光灯を用い、光量子計(システムインスツルメンツ社製)を用いて光合成有効光量子密度(PPFD)が培養フラスコの照射面で30μmol/m
2/sになるように調整し、培地に、照射時間を12時間、非照射時間を12時間として断続的に光照射を行い、20℃にて14日間培養を行い、細胞密度が2×10
5cell/mlの培養液を調製した。
【0034】
(本培養)
100ml容三角フラスコに20mlの同培地を入れ、上記の培養液を2ml接種した。光源に3in1LED照明(日本医科器械製、波長 赤:660nm、緑:520nm、青:450nm)を用い、光量子計を用いてPPFDが培養液の照射面で赤62.5μmol/m
2/s、青37.5μmol/m
2/sになるように調整し、培地に赤12時間照射(工程R)後、連続して青12時間照射(工程B)し、工程Rと工程Bを交互に連続して行い、20℃、pH7にて8日間培養を行った。この時、赤色照射光および青色照射光の24時間当たりの光量比は5:3である。
なお、二酸化炭素の供給の際は、7〜10v/v%濃度で二酸化炭素を含有するガスを、滅菌フィルタを通してフラスコのヘッドスペースに通気し、十分置換させたのち、ブチルゴム栓をした。サンプリング時に開放した場合、その都度同様の手順でヘッドスペースを置換した。
培養中、二酸化炭素濃度は培地のpHが7になるよう調整した。具体的には0〜4日目までは7v/v%、4日目以降は10v/v%となるよう、供給する二酸化炭素濃度を調整した。
途中適宜サンプリングを行い、細胞密度、560nmの吸光度(A560)、遊走細胞率を測定した。細胞密度は血球計算盤を用いて測定した。遊走細胞率は血球計算盤を用いて細胞中の遊走細胞比率を算出した。また、培養液の色を観察した。
【0035】
(実施例2)
光の照射条件を赤50μmol/m
2/s、青50μmol/m
2/sになるように調整し、培地に赤15時間照射(工程R)後、連続して青9時間照射(工程B)した以外は実施例1と同様に培養を行った。この時、赤色照射光および青色照射光の24時間当たりの光量比は5:3である。
【0036】
(実施例3)
光の照射条件を赤50μmol/m
2/s、青50μmol/m
2/sになるように調整し、培地に赤18時間照射(工程R)後、連続して青6時間照射(工程B)し、本培養を6日間行った以外は実施例1と同様に培養を行った。この時、赤色照射光および青色照射光の24時間当たりの光量比は3:1である。
【0037】
(実施例4)
光の照射条件を赤50μmol/m
2/s、青50μmol/m
2/sになるように調整し、培地に赤21時間照射(工程R)後、連続して青3時間照射(工程B)し、本培養を6日間行った以外は実施例1と同様に培養を行った。この時、赤色照射光および青色照射光の24時間当たりの光量比は7:1である。
【0038】
(比較例1)
光の照射条件を赤31.3μmol/m
2/s、青18.8μmol/m
2/sになるように調整し、培地に赤色照射光および青色照射光を同時に連続して照射した以外は実施例1と同様に培養を行った。この時、赤色照射光および青色照射光の24時間当たりの光量比は5:3である。
【0039】
(比較例2)
光源に白色蛍光灯を用い、光の照射条件を50μmol/m
2/sになるように調整し、培地に連続して照射した以外は実施例1と同様に培養を行った。
【0040】
(比較例3)
光の照射条件を赤37.5μmol/m
2/s、青12.5μmol/m
2/sになるように調整し、培地に赤色照射光および青色照射光を同時に連続して照射し、本培養を6日間行った以外は実施例1と同様に培養を行った。この時、赤色照射光および青色照射光の24時間当たりの光量比は3:1である。
【0041】
(比較例4)
光の照射条件を赤43.7μmol/m
2/s、青6.3μmol/m
2/sになるように調整し、培地に赤色照射光および青色照射光を同時に連続して照射し、本培養を6日間行った以外は実施例1と同様に培養を行った。この時、赤色照射光および青色照射光の24時間当たりの光量比は7:1である。
【0042】
実施例1〜4、比較例1〜4の結果を以下に示す。
実施例1,2では比較例1,2より、A560、細胞密度ともに高く、生育が促進していた。培養液の色は6日目ではいずれも緑色で、8日目ではいずれも褐色に変化したものの、遊走細胞率はいずれも70%以上であり、グリーンステージを維持していた。
一方比較例1、2では、8日目の培養液の色が赤色となり、グリーンステージを維持することができなかった。
実施例3,4では比較例3,4より、A560、細胞密度ともに高く、生育が促進していた。培養液の色は6日目ではいずれも緑色で、遊走細胞率はいずれも70%以上であり、グリーンステージを維持していた。
一方比較例3,4では、6日目の培養液の色は緑色を維持していたものの、細胞が凝集して沈殿を生じ、遊走子を維持することができなかった。
【0043】
【表2】