特許第6296670号(P6296670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6296670密閉型二次電池の変形検出センサ、密閉型二次電池、及び、密閉型二次電池の変形検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296670
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】密閉型二次電池の変形検出センサ、密閉型二次電池、及び、密閉型二次電池の変形検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/10 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   H01M2/10 E
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-531221(P2016-531221)
(86)(22)【出願日】2015年6月10日
(86)【国際出願番号】JP2015066754
(87)【国際公開番号】WO2016002454
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-134509(P2014-134509)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-234466(P2014-234466)
(32)【優先日】2014年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 武司
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴啓
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−098687(JP,A)
【文献】 特開2002−294149(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/073770(WO,A1)
【文献】 特表2008−535174(JP,A)
【文献】 特開2008−234840(JP,A)
【文献】 特開昭59−000039(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/061684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/10
H01M 10/04
H01M 10/42−10/48
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉型二次電池の変形検出センサにおいて、
高分子マトリックス層と、検出部とを備え、
前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有し、前記検出部は前記外場の変化を検出し、
前記高分子マトリックス層は、ガラス転移温度(Tg)が−30℃以下であり、
前記高分子マトリックス層は、20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)と−20℃での貯蔵弾性率E’(−20℃)との比E’(20℃/−20℃)が0.2以上であり、かつ20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)と60℃での貯蔵弾性率E’(60℃)との比E’(20℃/60℃)が5以下であることを特徴とする密閉型二次電池の変形検出センサ。
【請求項2】
前記高分子マトリックス層は、前記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、
前記検出部は、前記外場としての磁場の変化を検出する請求項1に記載の密閉型二次電池の変形検出センサ。
【請求項3】
前記高分子マトリックス層は、20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)が5.0MPa以下である請求項1または2に記載の密閉型二次電池の変形検出センサ。
【請求項4】
前記高分子マトリックス層は、活性水素含有化合物と、イソシアネート成分とを反応させることにより得られるポリウレタンエラストマーであり、前記活性水素含有化合物はシリコーン含有ポリオールを含むものである請求項1〜3いずれか1項に記載の密閉型二次電池の変形検出センサ。
【請求項5】
前記シリコーン含有ポリオールの数平均分子量(Mn)が1000〜5000であり、かつ前記高分子マトリックス層中、前記シリコーン含有ポリオールの含有量が20〜80重量%である請求項に記載の密閉型二次電池の変形検出センサ。
【請求項6】
請求項4または5に記載の変形検出センサが取り付けられた密閉型二次電池。
【請求項7】
密閉型二次電池の変形検出方法において、
前記密閉型二次電池は、筐体の内部に複数の単電池を有し、
前記密閉型二次電池が有する、互いに隣り合う前記単電池の間、または前記単電池と前記筐体との間に高分子マトリックス層を装着し、
前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有し、かつガラス転移温度(Tg)が−30℃以下であり、
前記高分子マトリックス層の変形に伴う前記外場の変化を検出し、それに基づいて前記密閉型二次電池の変形を検出することを特徴とする密閉型二次電池の変形検出方法。
【請求項8】
前記高分子マトリックス層は、前記密閉型二次電池が有する、互いに隣り合う前記単電池の間、または前記単電池と前記筐体との間で挟まれて圧縮状態で装着される請求項7に記載の密閉型二次電池の変形検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型二次電池の変形を検出するセンサと、それが取り付けられた密閉型二次電池と、密閉型二次電池の変形を検出する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代表される密閉型二次電池(以下、単に「二次電池」と呼ぶことがある)は、携帯電話やノートパソコンなどのモバイル機器だけでなく、電気自動車やハイブリッド車といった電動車両用の電源としても利用されている。二次電池を構成する単電池(セル)は、正極と負極をそれらの間にセパレータを介して捲回または積層してなる電極群と、その電極群を収容する外装体とを備える。一般には、外装体としてラミネートフィルムや金属缶が用いられ、その内部の密閉空間に電極群が電解液とともに収容される。
【0003】
二次電池は、上述した電動車両用の電源のように高電圧が必要とされる用途において、複数の単電池を含む電池モジュールまたは電池パックの形態で用いられる。電池モジュールでは、直列に接続された複数の単電池が筐体内に収容され、例えば4つの単電池が2並列2直列に、或いは4直列に接続される。また、電池パックでは、直列に接続された複数の電池モジュールに加えて、コントローラなどの諸般の機器が筐体内に収容される。電動車両用の電源に用いられる二次電池では、電池パックの筐体が車載に適した形状に形成されている。
【0004】
かかる二次電池には、過充電などに起因して電解液が分解されると、その分解ガスによる内圧の上昇に伴って単電池が膨らみ、二次電池が変形するという問題がある。その場合、充電電流または放電電流が停止されないと発火を起こし、最悪の結果として二次電池の破裂に至る。したがって、二次電池の破裂を未然に防止するうえでは、充電電流や放電電流を適時に停止できるように、単電池の膨れによる二次電池の変形を高感度に検出することが重要になる。
【0005】
特許文献1には、複数の単電池を有する電池モジュールにおいて、単電池の温度を検知する温度センサを取り付けるために、電池モジュール内にセンサ挿入空間を形成する方法が記載されている。しかし、このような温度センサを利用する手法では、それを取り付けるための空間が別途に設けられることから、二次電池の容積が必要以上に圧迫されてしまう。
【0006】
また、特許文献2には、単電池のケース(外装体の一例)の表面にストレインゲージを接着し、そのケースの膨れに応じたストレインゲージの抵抗値変化を検出することで、二次電池の充電電流または放電電流を減少させる方法が記載されている。しかし、このようなストレインゲージを利用する手法では、特に長期間での使用において、振動によりストレインゲージが位置ずれを起こすなどしてセンサ特性がばらつき、安定性が低下する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−171697号公報
【特許文献2】特開2006−128062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の二次電池は、様々な温度環境下で使用され得るため、常温時のみならず、低温時および高温時においてもセンサ感度の低下を抑制する必要がある。したがって、例えば二次電池の変形を尺度にセンサリングする場合、幅広い温度領域で、単電池の膨れによる二次電池の変形を高感度に検出できることが要求されるのが実情であった。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、単電池の膨れによる密閉型二次電池の変形を、幅広い温度領域で高感度に検出できる密閉型二次電池の変形検出センサ、密閉型二次電池、及び、密閉型二次電池の変形検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち本発明は、密閉型二次電池の変形検出センサにおいて、高分子マトリックス層と、検出部とを備え、前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有し、前記検出部は前記外場の変化を検出し、前記高分子マトリックス層は、ガラス転移温度(Tg)が−30℃以下であることを特徴とする密閉型二次電池の変形検出センサに関する。
【0011】
高分子マトリックス層は、例えば互いに隣り合う単電池の間で、単電池とそれを収容する筐体との間で、挟まれて装着される。あるいは、電池パックに含まれる電池モジュールの筐体とその隣の電池モジュールの筐体との間で、さらには、電池モジュールの筐体と電池パックの筐体との間隙内で、挟まれて装着される。いずれの場合であっても、高分子マトリックス層は圧縮状態で装着されても良い。
【0012】
単電池の膨れにより二次電池が変形を生じると、それに応じて高分子マトリックス層が変形する。検出部は、その高分子マトリックス層の変形に伴う外場の変化を検出する。これにより、二次電池の変形を高感度に検出することができる。上記のように装着された高分子マトリックス層は、二次電池の容積を圧迫しないうえ、振動などによる位置ずれが抑えられることでセンサ特性が安定したものになる。
【0013】
特に本発明に係る密閉型二次電池の変形検出センサを構成する高分子マトリックス層は、ガラス転移温度(Tg)が−30℃以下となるように設定されている。これにより、低温時および高温時においても、常温時と比べて、高分子マトリックス層の弾性率の変化が小さくなるため、単電池の膨れによる密閉型二次電池の変形を、幅広い温度領域で高感度に検出することができる。
【0014】
本発明に係る密閉型二次電池の変形検出センサでは、前記高分子マトリックス層が、前記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、前記検出部が、前記外場としての磁場の変化を検出するものが好ましい。かかる構成によれば、高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を配線レスで検出することができる。また、感度領域が広いホール素子を検出部として利用できることから、より広範囲にわたって高感度な検出が可能となる。
【0015】
前記密閉型二次電池の変形検出センサにおいて、前記高分子マトリックス層は、20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)と−20℃での貯蔵弾性率E’(−20℃)との比E’(20℃/−20℃)が0.2以上であり、かつ20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)と60℃での貯蔵弾性率E’(60℃)との比E’(20℃/60℃)が5以下であることが好ましい。かかる構成によれば、常温時と比べて、低温時および高温時のいずれにおいても高分子マトリックス層の弾性率の変化が小さくなるため、単電池の膨れによる密閉型二次電池の変形を、幅広い温度領域で、より確実に高感度に検出することができる。
【0016】
前記密閉型二次電池の変形検出センサにおいて、前記高分子マトリックス層は、20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)が5.0MPa以下であることが好ましい。この場合、高分子マトリックス層が適度な弾性率を有するため、密閉型二次電池の変形をより高感度に検出することができる。
【0017】
前記密閉型二次電池の変形検出センサにおいて、前記高分子マトリックス層が、活性水素含有化合物と、イソシアネート成分とを反応させることにより得られるポリウレタンエラストマーであり、前記活性水素含有化合物がシリコーン含有ポリオールを含むものであると、高分子マトリックス層のTgを所望の範囲内と調整しつつ、単電池の膨れによる密閉型二次電池の変形を、幅広い温度領域で高感度に検出できるようになるため好ましい。
【0018】
前記密閉型二次電池の変形検出センサにおいて、前記シリコーン含有ポリオールの数平均分子量(Mn)が1000〜5000であり、かつ前記高分子マトリックス層中、前記シリコーン含有ポリオールの含有量が20〜80重量%であることが好ましい。この場合、単電池の膨れによる密閉型二次電池の変形を、幅広い温度領域で、より高感度に検出できるようになるため好ましい。なお、本発明において「シリコーン含有量」は
下記式により算出可能である。
シリコーン含有量(wt%)=反応性シリコーン重量(g)/全樹脂成分量(g)×100
上記「全樹脂成分量」とは、フィラー成分量を除くことを意味し、さらには全樹脂成分量(g)=高分子マトリックス層の重量(g)−フィラーの重量(g)を意味するものとする。
【0019】
本発明に係る密閉型二次電池は、上述した変形検出センサが取り付けられたものであり、その形態は単一の電池モジュールでもよいが、複数の電池モジュールを含む電池パックであってもよい。かかる密閉型二次電池では、単電池の膨れによる変形が変形検出センサにより高感度に検出される。それでいて、二次電池の容積は変形検出センサによって圧迫されず、そのセンサ特性は安定したものになる。
【0020】
本発明に係る密閉型二次電池の変形検出方法は、密閉型二次電池の変形検出方法において、前記密閉型二次電池が有する間隙内に高分子マトリックス層を装着し、前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有し、かつガラス転移温度(Tg)が−30℃以下であり、前記高分子マトリックス層の変形に伴う前記外場の変化を検出し、それに基づいて前記密閉型二次電池の変形を検出するものである。
【0021】
高分子マトリックス層は、密閉型二次電池が有する間隙内に装着される。単電池の膨れにより二次電池が変形を生じると、それに応じて高分子マトリックス層が変形し、その高分子マトリックス層の変形に伴う外場の変化を検出することにより、二次電池の変形を高感度に検出できる。特に本発明においては、高分子マトリックス層のガラス転移温度(Tg)が−30℃以下となるように設定されているため、単電池の膨れによる密閉型二次電池の変形を、幅広い温度領域で高感度に検出することができる。
【0022】
本発明に係る密閉型二次電池の変形検出方法において、前記高分子マトリックス層は、前記密閉型二次電池が有する間隙内で挟まれて圧縮状態で装着されることが好ましい。上記のように装着された高分子マトリックス層は、二次電池の容積を圧迫しないうえ、振動などによる位置ずれが抑えられることでセンサ特性が安定したものになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】電池モジュールの一例を模式的に示す斜視図
図2図1のA−A矢視断面を模式的に示す断面図
図3】高分子マトリックス層の貼り付け箇所の別例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
図1,2に示した電池モジュール1は、その筐体11の内部に複数の単電池2を有する。本実施形態では、4つの単電池2が直列に(例えば2並列2直列に、または4直列に)接続されている。詳しく図示しないが、単電池2は、正極と負極をそれらの間にセパレータを介して捲回または積層してなる電極群と、その電極群を収容する外装体とを備える。外装体の内部の密閉空間には、電極群が電解液とともに収容されている。単電池2の外装体には、アルミラミネート箔などのラミネートフィルムが用いられるが、これに代えて円筒型または角型の金属缶を使用してもよい。
【0026】
この電池モジュール1は、電動車両用の電源として使用され得るリチウムイオン二次電池であり、車両には電池パックの形態で搭載される。電池パックでは、直列に接続された複数の電池モジュール1が、コントローラなどの諸般の機器と共に筐体内に収容される。電池パックの筐体は、車載に適した形状に、例えば車両の床下形状に合わせた形状に形成される。なお、本発明において、密閉型二次電池は、リチウムイオン電池などの非水系電解液二次電池に限られず、ニッケル水素電池などの水系電解液二次電池であっても構わない。
【0027】
図2に示すように、密閉型二次電池には変形検出センサが取り付けられ、その変形検出センサは高分子マトリックス層3と検出部4とを備えている。高分子マトリックス層3は、単電池2の表面(外装体の外面)に貼り付けられ、その貼付には必要に応じて接着剤や接着テープが用いられる。高分子マトリックス層3はシート状に形成されていて、二次電池における間隙内、例えば互いに隣り合う単電池2の間隙内や、図3のような単電池2とそれを収容する筐体11との間に配置される。高分子マトリックス層3を折り曲げるようにして、単電池2や筐体11の角部に貼り付けることも可能である。
【0028】
高分子マトリックス層3は、その高分子マトリックス層3の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有する。検出部4は、その外場の変化を検出する。検出部4は、外場の変化を検出可能な程度で高分子マトリックス層3から離して配置され、好ましくは単電池2の膨れによる影響を受けにくい比較的堅固な箇所に貼り付けられる。本実施形態では、筐体11の外面に検出部4を貼り付けているが、これに限られず、筐体11の内面や電池パックの筐体に検出部4を貼り付けても構わない。これらの筐体は、例えば金属またはプラスチックにより形成され、電池モジュールの筐体にはラミネートフィルムが用いられる場合もある。
【0029】
図2で示した高分子マトリックス層3は、間隙内挟まれて圧縮状態で装着されている。その高分子マトリックス層3の非圧縮状態での厚みは、それが配置される間隙G1よりも大きく、高分子マトリックス層3は厚み方向に圧縮されている。図3に示した高分子マトリックス層3もまた、間隙内で挟まれて圧縮状態で装着されており、この例では単電池2と筐体11との間隙内で挟まれて圧縮状態で装着されている。その高分子マトリックス層3の非圧縮状態での厚みは、それが配置される間隙G2よりも大きく、この高分子マトリックス層3も厚み方向に圧縮されている。
【0030】
単電池2が膨れると、それに応じて高分子マトリックス層3が変形し、その高分子マトリックス層3の変形に伴う外場の変化が検出部4によって検出される。検出部4から出力された検出信号は不図示の制御装置に送られ、設定値以上の外場の変化が検出部4により検出された場合には、その制御装置に接続された不図示のスイッチング回路が通電を遮断し、充電電流または放電電流を停止する。このようにして、単電池2の膨れによる二次電池の変形が高感度に検出され、二次電池の破裂が未然に防止される。この変形検出センサは、二次電池の容積を圧迫せず、位置ずれが抑えられることでセンサ特性が安定する。
【0031】
図2,3の例では、それぞれ高分子マトリックス層3と検出部4を1つずつ示しているが、二次電池の形状や大きさなどの諸条件に応じて、それらを複数使用してもよい。その際、図2のように装着された高分子マトリックス層3と、図3のように装着された高分子マトリックス層3とが併存しても構わない。更に、複数の高分子マトリックス層3を同じ単電池2に貼り付けたり、複数の検出部4によって同じ高分子マトリックス層3の変形に伴う外場の変化を検出するように構成したりしてもよい。
【0032】
本実施形態では、高分子マトリックス層3が上記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、検出部4が上記外場としての磁場の変化を検出する。この場合、高分子マトリックス層3は、エラストマー成分からなるマトリックスに磁性フィラーが分散してなる磁性エラストマー層であることが好ましい。
【0033】
磁性フィラーとしては、希土類系、鉄系、コバルト系、ニッケル系、酸化物系などが挙げられるが、より高い磁力が得られる希土類系が好ましい。磁性フィラーの形状は、特に限定されるものではなく、球状、扁平状、針状、柱状および不定形のいずれであってよい。磁性フィラーの平均粒径は、好ましくは0.02〜500μm、より好ましくは0.1〜400μm、更に好ましくは0.5〜300μmである。平均粒径が0.02μmより小さいと、磁性フィラーの磁気特性が低下する傾向にあり、平均粒径が500μmを超えると、磁性エラストマー層の機械的特性が低下して脆くなる傾向にある。
【0034】
磁性フィラーは、着磁後にエラストマー中に導入しても構わないが、エラストマーに導入した後に着磁することが好ましい。エラストマーに導入した後に着磁することで、磁石の極性の制御が容易となり、磁場の検出が容易になる。
【0035】
本発明に係る変形検出センサを構成する高分子マトリックスは、ガラス転移温度(Tg)が−30℃以下であることが特徴である。単電池の膨れによる密閉型二次電池の変形を、幅広い温度領域で高感度に検出するためには、高分子マトリックス層は、20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)と−20℃での貯蔵弾性率E’(−20℃)との比E’(20℃/−20℃)が0.2以上であり、かつ20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)と60℃での貯蔵弾性率E’(60℃)との比E’(20℃/60℃)が5以下であることが好ましい。また、高分子マトリックス層の弾性率を適度なものとし、密閉型二次電池の変形をより高感度に検出するために、高分子マトリックス層は、20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)が5.0MPa以下であることが好ましい。
【0036】
高分子マトリックスとしては、例えばエラストマー成分を使用することができ、エラストマー成分としては、Tgが上記所望の範囲内となるものを任意に使用可能である。エラストマー成分としては、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。また、熱硬化性エラストマーとしては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系合成ゴム、および天然ゴム等を挙げることができる。このうち好ましいのは熱硬化性エラストマーであり、これは電池の発熱や過負荷に伴う磁性エラストマーのへたりを抑制できるためである。更に好ましくは、ポリウレタンゴム(ポリウレタンエラストマーともいう)またはシリコーンゴム(シリコーンエラストマーともいう)である。
【0037】
ポリウレタンエラストマーは、活性水素含有化合物とイソシアネート成分とを反応させることにより得られる。ポリウレタンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、活性水素含有化合物と磁性フィラーとを混合し、ここにイソシアネート成分を混合させて混合液を得る。また、イソシアネート成分に磁性フィラーを混合し、活性水素含有化合物を混合させることで混合液を得ることも出来る。その混合液を離型処理したモールド内に注型し、その後硬化温度まで加熱して硬化することにより、磁性エラストマーを製造することができる。また、シリコーンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、シリコーンエラストマーの前駆体に磁性フィラーを入れて混合し、型内に入れ、その後加熱して硬化させることにより磁性エラストマーを製造することができる。なお、必要に応じて溶剤を添加してもよい。
【0038】
ポリウレタンエラストマーに使用できるイソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を使用できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートを挙げることができる。これらは1種で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、イソシアネート成分は、ウレタン変性、アロファネート変性、ビウレット変性、及びイソシアヌレート変性等の変性化したものであってもよい。好ましいイソシアネート成分は、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジシソシアネート、より好ましくは2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートである。
【0039】
活性水素含有化合物としては、ポリウレタンの技術分野において、通常用いられるものを用いることができる。ただし、本発明においては、活性水素含有化合物として、シリコーン含有ポリオールを使用した場合、特に高分子マトリックス層のガラス転移温度(Tg)を−30℃以下に設定し易く、かつ常温時と比べて、低温時および高温時のいずれにおいても高分子マトリックス層の弾性率の変化を小さくすることができるため好ましい。シリコーン含有ポリオールは、末端に少なくとも一つの活性水素基を有し、その主鎖または側鎖にシリコーン部位(Si−O−Si)を有するものであり、本発明においては主鎖にシリコーン部位を有するポリオール、および側鎖にシリコーン部位を有するポリオールのいずれも使用可能である。ただし、主鎖にシリコーン部位を有するポリオールの方が、ポリウレタンエラストマー中で相分離を発生し難く、最終的に得られる高分子マトリックスの接着性が保持され易いため好ましい。
【0040】
活性水素含有化合物としてシリコーン含有ポリオールを使用する場合、その数平均分子量は1000〜5000であることが好ましい。また、シリコーン含有ポリオールの含有量は、高分子マトリックス層中、20〜80重量%であることが好ましい。
【0041】
本発明においては活性水素含有化合物として、シリコーン含有ポリオールだけでなく、ポリウレタンの分野において公知の化合物を使用できる。例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体等に代表されるポリエーテルポリオール、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、3−メチル−1,5−ペンタンアジペートに代表されるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応物などで例示されるポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させ、次いで得られた反応混合物を有機ジカルボン酸と反応させたポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシル化合物とアリールカーボネートとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオール等の高分子量ポリオールを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
活性水素含有化合物として上述した高分子量ポリオール成分の他に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオール成分、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミン成分を用いてもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、N,N’−ジ−sec−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルメタン、m−キシリレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、及びp−キシリレンジアミン等に例示されるポリアミン類を混合することもできる。好ましい活性水素含有化合物は、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、3−メチル−1,5−ペンタンアジペート、より好ましくはポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体である。
【0043】
ポリウレタンエラストマーを用いる場合、そのNCO indexは、好ましくは0.3〜1.2、より好ましくは0.5〜1.1、更に好ましく0.7〜1.05である。NCO indexが0.3より小さいと、磁性エラストマーの硬化が不十分になる傾向にあり、NCO indexが1.2より大きいと、弾性率が高くなり、センサ感度が低下する傾向にある。
【0044】
磁性エラストマー中の磁性フィラーの量は、エラストマー成分100重量部に対して、好ましくは1〜450重量部、より好ましくは2〜400重量部である。これが1重量部より少ないと、磁場の変化を検出することが難しくなる傾向にあり、450重量部を超えると、磁性エラストマー自体が脆くなる場合がある。
【0045】
磁場の変化を検出する検出部4には、例えば、磁気抵抗素子、ホール素子、インダクタ、MI素子、フラックスゲートセンサなどを用いることができる。磁気抵抗素子としては、半導体化合物磁気抵抗素子、異方性磁気抵抗素子(AMR)、巨大磁気抵抗素子(GMR)、トンネル磁気抵抗素子(TMR)が挙げられる。このうち好ましいのはホール素子であり、これは広範囲にわたって高い感度を有する検出部4として有用なためである。
【0046】
高分子マトリックス層3の非圧縮状態での厚みは、好ましくは300〜3000μm、より好ましくは400〜2000μm、更に好ましくは500〜1500μmである。上記の厚みが300μmよりも小さいと、所要量のフィラーを添加しようとした際に脆くなってハンドリング性が悪化する傾向にある。一方、上記の厚みが3000μmよりも大きいと、上記の如き間隙内に配置する際に高分子マトリックス層3が過度に圧縮されて変形しにくくなり、センサ感度が低下する場合がある。
【0047】
高分子マトリックス層3は、気泡を含まない無発泡体であっても構わないが、安定性やセンサ感度を高める観点から、更には軽量化の観点から、気泡を含有する発泡体であってもよい。その発泡体には、一般の樹脂フォームを用いることができるが、圧縮永久歪などの特性を考慮すると熱硬化性樹脂フォームを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂フォームとしては、ポリウレタン樹脂フォーム、シリコーン樹脂フォームなどが挙げられ、このうちポリウレタン樹脂フォームが好適である。ポリウレタン樹脂フォームには、上掲したイソシアネート成分や活性水素含有化合物を使用できる。
【0048】
ポリウレタン樹脂フォームに用いられる触媒としては、公知の触媒を限定なく使用することができるが、トリエチレンジアミン(1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン)、N,N,N’,N’‐テトラメチルヘキサンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等の第3級アミン触媒、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ビスマス等の金属触媒を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記触媒の市販品として、東ソー社製の「TEDA−L33」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の「NIAX CATALYST A1」、花王社製の「カオーライザー NO.1」、「カオーライザー NO.30P」、エアプロダクツ社製の「DABCO T−9」、東栄化工社製の「BTT−24」、日本化学産業社製の「プキャット25」などが挙げられる。
【0050】
ポリウレタン樹脂フォームに用いられる整泡剤としては、例えば、シリコーン系整泡剤、フッ素系整泡剤など、通常のポリウレタン樹脂フォームの製造に用いられるものを使用することができる。上記シリコーン系整泡剤やフッ素系整泡剤として用いられるシリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤は、分子内に、ポリウレタン系に可溶な部分と、不溶な部分とが存在し、上記不溶な部分がポリウレタン系材料を均一に分散し、ポリウレタン系の表面張力を下げることによって、気泡を発生させやすく、割れにくくするものであり、もちろん、上記表面張力を下げ過ぎると気泡が発生しにくくなる。本発明の樹脂フォームにおいては、例えば、上記シリコーン系界面活性剤を用いる場合、上記不溶な部分としてのジメチルポリシロキサン構造によって、気泡径を小さくしたり、気泡数を多くしたりすることが可能となるのである。
【0051】
上記シリコーン系整泡剤の市販品としては、例えば、東レ・ダウコーニング社製の「SF−2962」、「SRX 274DL」、「SF−2965」、「SF−2904」、「SF−2908」、「SF−2904」、「L5340」、エボニック・デグサ社製の「テゴスターブ(Tegostab) B8017、B−8465,B−8443」などが挙げられる。また、上記フッ素系整泡剤の市販品としては、例えば、3M社製の「FC430」、「FC4430」、大日本インキ化学工業社製の「FC142D」、「F552」、「F554」、「F558」、「F561」、「R41」などが挙げられる。
【0052】
上記整泡剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは2〜12質量部である。整泡剤の配合量が1質量部未満であると発泡が十分ではなく、15質量部を超えるとブリードアウトする可能性がある。
【0053】
高分子マトリックス層3を形成する発泡体の気泡含有率は、20〜80体積%であることが好ましい。気泡含有率が20体積%以上であると、高分子マトリックス層3が柔軟で変形しやすくなり、センサ感度を良好に高められる。また、気泡含有率が80体積%以下であると、高分子マトリックス層3の脆化が抑えられ、ハンドリング性や安定性が高められる。気泡含有率は、JIS Z−8807−1976に準拠して比重測定を行い、この値と無発泡体の比重の値から算出される。
【0054】
高分子マトリックス層3を形成する発泡体の平均気泡径は、好ましくは50〜300μmである。また、その発泡体の平均開口径は、好ましくは15〜100μmである。平均気泡径が50μm未満または平均開口径が15μm未満であると、整泡剤量の増大に起因してセンサ特性の安定性が悪化する傾向にある。また、平均気泡径が300μmを超え、または平均開口径が100μmを超えると、検出対象である単電池などとの接触面積が減少し、安定性が低下する傾向にある。平均気泡径及び平均開口径は、高分子マトリックス層の断面をSEMにより100倍の倍率で観察し、得られた画像について画像解析ソフトを用いて上記断面の任意範囲内に存在する全ての気泡の気泡径、及び全ての連続気泡の開口径を測定し、その平均値から算出される。
【0055】
高分子マトリックス層3を形成する発泡体の独立気泡率は、5〜70%であることが好ましい。これにより、高分子マトリックス層3の圧縮されやすさを確保しつつ、優れた安定性を発揮できる。また、高分子マトリックス層3を形成する発泡体に対するフィラー(本実施形態では磁性フィラー)の体積分率は、1〜30体積%であることが好ましい。
【0056】
上述したポリウレタン樹脂フォームは、磁性フィラーを含有すること以外は、通常のポリウレタン樹脂フォームの製造方法により製造できる。その磁性フィラーを含有するポリウレタン樹脂フォームの製造方法は、例えば以下の工程(i)〜(v)を含む。
(i)ポリイソシアネート成分および活性水素成分からイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを形成する工程
(ii)該イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー、整泡剤、触媒および磁性フィラーを混合、予備撹拌して、非反応性気体雰囲気下で、気泡を取り込むように激しく撹拌する一次撹拌工程
(iii)更に活性水素成分を加えて、二次撹拌して、磁性フィラーを含む気泡分散ウレタン組成物を調製する工程
(iv)該気泡分散ウレタン組成物を所望の形状に成形し、硬化して、磁性フィラーを含むウレタン樹脂フォームを作製する工程
(v)該ウレタン樹脂フォームを着磁して磁性ウレタン樹脂フォームを形成する工程
【0057】
ポリウレタン樹脂フォームの製造方法としては、水などの反応型発泡剤を用いる化学的発泡法が知られているが、上記工程(ii)、(iii)のような、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー、整泡剤、触媒および磁性フィラーを含有する混合物と、活性水素成分とを、非反応性気体雰囲気下で機械的撹拌する機械的発泡法を用いることが好ましい。機械的発泡法によれば、化学的発泡法に比べて成形操作が簡便であり、発泡剤として水を用いないので、微細な気泡を有する強靭で反発弾性(復元性)などに優れた成形体が得られる。
【0058】
まず、上記工程(i)のように、ポリイソシアネート成分および活性水素成分からイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを形成し、上記一次撹拌工程(ii)のように、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー、整泡剤、触媒および磁性フィラーを混合、予備撹拌して、非反応性気体雰囲気下で、気泡を取り込むように激しく撹拌し、上記二次撹拌工程(iii)のように、更に該活性水素成分を加えて激しく撹拌して、磁性フィラーを含む気泡分散ウレタン組成物を調製する。上記工程(i)〜(iv)のように、ポリイソシアネート成分、活性水素成分および触媒を含有するポリウレタン樹脂フォームにおいて、予めイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを形成してからポリウレタン樹脂フォームを形成する方法は当業者に公知であり、製造条件は配合材料によって適宜選択することができる。
【0059】
上記工程(i)の形成条件としては、まず、ポリイソシアネート成分および活性水素成分の配合比率は、ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基と活性水素成分中の活性水素基との比(イソシアネート基/活性水素基)が、1.5〜5、好ましくは1.7〜2.3となるように選択する。また、反応温度は60〜120℃が好ましく、反応時間は3〜8時間が好ましい。更に、従来公知のウレタン化触媒、有機触媒、例えば東栄化工株式会社から商品名「BTT−24」で市販されているオクチル酸鉛、東ソー株式会社製の「TEDA−L33」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の「NIAX CATALYST A1」、花王株式会社製の「カオーライザー NO.1」、「エアプロダクツ社製の「DABCO T−9」、などを用いてもよい。上記工程(i)に用いられる装置としては、上記のような条件で上記材料を撹拌混合して反応させることができるものであれば使用でき、通常のポリウレタン製造に用いられるものを使用することができる。
【0060】
上記工程(ii)の一次撹拌を行う方法としては、液状樹脂とフィラーを混合することができる一般的な混合機を用いる方法が挙げられ、例えばホモジナイザー、ディゾルバー、プラネタリーミキサなどが挙げられる。
【0061】
上記工程(ii)において、整泡剤をイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー側に加えて撹拌(一次撹拌)し、上記工程(iii)において、更に上記活性水素成分を加えて二次撹拌することによって、反応系内に取り込んだ気泡が抜けにくくなり、効率的な発泡を行うことができるため好ましい。
【0062】
上記工程(ii)における非反応性気体としては可燃性でないものが好ましく、具体的には窒素、酸素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴンなどの希ガス、これらの混合気体が例示され、乾燥して水分を除去した空気の使用が最も好ましい。また、上記一次撹拌および二次撹拌、特に一次撹拌の条件についても、通常の機械的発泡法によるウレタンフォーム製造時の条件を用いることができ、特に限定されないが、撹拌翼または撹拌翼を備えた混合機を用いて、回転数1000〜10000rpmで1〜30分間激しく撹拌する。そのような装置として、例えばホモジナイザー、ディゾルバー、メカニカルフロス発泡機などが挙げられる。
【0063】
上記工程(iv)において、上記気泡分散ウレタン組成物をシート状など所望の形状に成形する方法も特に限定されず、例えば、上記混合液を離型処理したモールド内に注入し、硬化させるバッチ式成形方法、離型処理した面材上に上記気泡分散ウレタン組成物を連続的に供給し硬化させる連続成形方法を用いることができる。また、上記硬化条件も、特に限定されず、60〜200℃で10分間〜24時間が好ましく、硬化温度が高すぎると上記樹脂フォームが熱劣化してしまい機械的強度が悪化し、硬化温度が低すぎると上記樹脂フォームの硬化不良が生じてしまう。また、硬化時間が長すぎると上記樹脂フォームが熱劣化してしまい機械的強度が悪化し、硬化時間が短すぎると上記樹脂フォームの硬化不良が生じてしまう。
【0064】
上記工程(v)において、磁性フィラーの着磁方法は特に限定されず、通常用いられる着磁装置、例えば電子磁気工業株式会社製の「ES−10100−15SH」、株式会社玉川製作所製の「TM−YS4E」などを用いて行うことができる。通常、磁束密度1〜3Tを有する磁場を印加する。磁性フィラーは、着磁後に磁性フィラー分散液を形成する上記工程(ii)において添加してもよいが、途中の工程での磁性フィラーの取り扱い作業性などの観点から、上記工程(v)において着磁することが好ましい。
【0065】
本実施形態では、既述の通り、図2のように互いに隣り合う単電池2の間で、または図3のように単電池2とそれを収容する筐体11との間で挟むようにして高分子マトリックス層3を圧縮状態で装着する。そして、単電池2が膨れて高分子マトリックス層3が変形した場合には、その高分子マトリックス層3の変形に伴う外場の変化を検出し、それに基づいて二次電池の変形を検出する。
【0066】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【0067】
前述の実施形態では、高分子マトリックス層3が、互いに隣り合う単電池2の間隙内で挟まれる例(図2参照)と、単電池2と筐体11との間隙内で挟まれる例(図3参照)を示したが、これに限定されない。例えば、電池パックに含まれる電池モジュールの筐体とその隣の電池モジュールの筐体との間で、即ち互いに隣り合う電池モジュールの筐体の間隙内で、高分子マトリックス層が挟まれてもよく、特にラミネートフィルム型の電池モジュールにおいて有用である。或いは、電池モジュールの筐体と電池パックの筐体との間隙内で、高分子マトリックス層が挟まれるものでもよい。さらに高分子マトリックス層は、単電池内に配設されても良く、例えば正極とセパレータとの間、負極とセパレータとの間、或いは正極と外装体との間、負極と外装体との間、さらにはセパレータと外装体との間に挟まれるように配設されても良く、特に正極/セパレータ/負極を巻回して構成する円筒型または角型の単電池用の変形検出センサとして使用する場合において有用である。
【0068】
前述の実施形態では、フィラーを分散させて含有する高分子マトリックス層が単層で形成された例を示したが、単層であって厚み方向にフィラーが偏在する構成であっても良い。高分子マトリックス層を単層で構成する場合のフィラーを偏在させる方法としては、例えば、エラストマー成分にフィラーを導入した後、室温あるいは所定の温度で静置し、そのフィラーの重さにより自然沈降させる方法を使用でき、静置する温度や時間を変化させることでフィラー偏在率を調整できる。遠心力や磁力のような物理的な力を用いて、フィラーを偏在させてもよい。
【0069】
前述の実施形態では、フィラーを分散させて含有する高分子マトリックス層が単層で形成された例を示したが、高分子マトリックス層は積層構造であっても良い。このような積層構造を有する高分子マトリックス層は、例えばフィラー濃度が異なる2枚の高分子マトリックス層を積層しても良く、あるいはフィラーを含有しないエラストマー層と任意の濃度でフィラーを含有する高分子マトリックス層を積層しても良い。また、積層構造の高分子マトリックス層を使用する場合、一方を発泡層、他方を無発泡層で構成しても良く、例えばフィラー濃度が低い高分子マトリックス層、或いはフィラーを含有しないエラストマー層を発泡層で構成しても良い。
【0070】
前述の実施形態では、磁場の変化を利用した例を示したが、電場などの他の外場の変化を利用する構成でもよい。例えば、高分子マトリックス層がフィラーとして金属粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの導電性フィラーを含有し、検出部が外場としての電場の変化(抵抗および誘電率の変化)を検出する構成が考えられる。
【0071】
本発明においては、高分子マトリックス層の柔軟性を損ねない程度に封止材を設けても良い。封止材としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、エチレン・アクリル酸エチルコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリブタジエン等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系ゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。封止材として前記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはそれらの混合物を使用する場合、例えばフィルム状のものを好適に使用することができる。これらのフィルムは積層されていても良く、また、アルミ箔などの金属箔や上記フィルム上に金属が蒸着された金属蒸着膜を含むフィルムであっても良い。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0073】
高分子マトリックス層となる磁性ポリウレタンエラストマーの製造には、以下の原料を用いた。
TDI−80:トルエンジイソシアネート(三井化学社製、2,4−体=80%、コスモネートT−80)
ポリオールA:グリセリンを開始剤にプロピレンオキサイドを付加したポリオキシプロピレングリコール、OHV56、官能基数3(旭硝子社製、EX−3030)。
ポリオールB:プロピレングリコールを開始剤にプロピレンオキサイドを付加したポリオキシプロピレングリコール、OHV56、官能基数2(旭硝子社製、EX−2020)。
ポリオールC:ポリエーテル変性主鎖型反応性シリコーン、OHV56、官能基数2(信越化学社製、X−22−4272)。
ポリオールD:ポリエーテル変性主鎖型反応性シリコーン、OHV112、官能基数2(JNC社製、FM−4411)。
ポリオールE:ポリエーテル変性主鎖型反応性シリコーン、OHV22、官能基数2(JNC社製、FM−4421)。
ポリオールF:ポリエーテル変性主鎖型反応性シリコーン、OHV11、官能基数2(JNC社製、FM−4425)。
ポリオールG:ポリエーテル変性側鎖型反応性シリコーン、OHV112、官能基数2(JNC社製、FM−DA11)。
ポリオールH:ポリエーテル変性側鎖型反応性シリコーン、OHV22、官能基数2(JNC社製、FM−DA21)。
ポリオールI:グリセリンを開始剤にプロピレンオキサイドを付加したポリオキシプロピレングリコール、OHV168、官能基数3(旭硝子社製、EX−1030)
ポリオールJ:グリセリンを開始剤にプロピレンオキサイドを付加したポリオキシプロピレングリコール、OHV865、官能基数3(旭硝子社製、EX−890MP)
ネオジム系フィラー:MF−15P(平均粒径:133μm, 愛知製鋼社製)
オクチル酸ビスマス:プキャット25(日本化学産業社製)
【0074】
また、プレポリマーには、表1に示すプレポリマーAおよび/またはプレポリマーBを用いた。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1
反応容器に、ポリオールAを85.2重量部入れ、撹拌しながら減圧脱水を1時間行った。その後、反応容器内を窒素置換した。次いで、反応容器にTDI−80を14.8重量部添加して、反応容器内の温度を80℃に保持しながら5時間反応させて、イソシアネート末端プレポリマーA(NCO%=3.58%)を合成した。
【0077】
次に、ポリオールC(ポリエーテル変性主鎖型反応性シリコーン、OHV56、官能基数2、信越化学社製、X−22−4272)106.5重量部およびオクチル酸ビスマス(日本化学産業社製、プキャット25)0.24重量部の混合液にトルエン31.0重量部を加え、そこにネオジム系フィラー(愛知製鋼株式会社製、MF−15P)206.5重量部を添加し、フィラー分散液を調製した。また、プレポリマーA 100.0重量部をトルエン31.0重量部に溶解させ、プレポリマー溶液を調製した。このプレポリマー溶液に前記フィラー分散液を添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混合、および脱泡を行った。この反応液を1.0mmのスペーサーを有する離型処理したPETフィルム上に滴下し、ニップロールにて厚み1.0mmに調整した。その後、80℃で1時間硬化を行って、磁性フィラーを含有するポリウレタンエラストマーを得た。得られたポリウレタンエラストマーを着磁装置(電子磁気工業株式会社製)にて2.0Tで着磁することにより、磁性ポリウレタンエラストマーを得た。配合および製造条件を表2に示す。
【0078】
実施例2〜6、比較例1〜2
表2の配合および製造条件に基づき、実施例1と同様にして磁性ポリウレタン樹脂を得た。
【0079】
(ガラス転移点(Tg)、および貯蔵弾性率(E’)の測定)
ガラス転移点(Tg)、および貯蔵弾性率(E’)は動的粘弾性測定装置(メトラー・トレド社製、DMA861e)を用いて下記の条件で測定した。また、該測定で得られたtanδのピークトップ温度をガラス転移温度とした。
測定モード:引張モード
周波数:1Hz
昇温速度:2.5℃/min
測定温度範囲:−100〜100℃
サンプル形状:長さ19.5mm、幅3.0mm、厚み1.0mm
【0080】
(厚み変化量の評価)
作製した磁性ポリウレタンエラストマーを10mm×30mmの大きさに切り出し、1.44Ahの電池体(サイズ:縦90mm×横30mm×厚み4mm)に両面テープ(積水化学工業社製、ダブルタックテープ#5782)で貼り付けた。この電池体を上面の一部が開口したアルミニウム製の筐体(厚み5mm)に取り付けた。前記筐体の開口部を通して、電池体の膨れをレーザー変位計(キーエンス社製、LK−G400)にて測定し、厚み変化量とした。
【0081】
(センサ特性の評価)
作製した磁性ポリウレタンエラストマーを10mm×30mmの大きさに切り出し、1.44Ahの電池体(サイズ:縦90mm×横30mm×厚み4mm)に両面テープ(積水化学工業社製、ダブルタックテープ#5782)で貼り付けた。この電池体を上面の一部が開口したアルミニウム製の筐体(厚み5.0mm)に取り付けた。前記筐体の上面にホール素子(旭化成エレクトロニクス株式会社製、EQ−430L)を取り付けた。
・常温サイクル
この筐体を20℃の恒温槽に入れ、120分静置後、電池体を1.44Aの充電電流で4.3Vまで定電流充電し、4.3Vに到達後、0.07Aに電流値が減衰するまで定電圧充電を行った。その後、10分間、開回路状態を保持した後、1.44Aの電流で3.0Vまで定電流放電を行った。上記充放電の工程を200サイクル繰り返した。200サイクル後の初期値に対する厚み変化と、磁束密度変化を測定した。ここで、磁束密度変化が大きいほどセンサとしての感度が高いことを示す。
・低温サイクル
恒温槽の温度を−20℃にした以外は、常温サイクルの場合と同様の条件にてサイクル特性を測定した。
・高温サイクル
恒温槽の温度を60℃にした以外は、常温サイクルの場合と同様の条件にてサイクル特性を測定した。
【0082】
【表2】
【0083】
比較例1では、磁性ポリウレタンエラストマーのTgが高く(−3.6℃)、−20℃ではエラストマーがガラス領域にあるため弾性率が高くなった。その結果、磁束密度の変化が小さく、センサ感度が悪いことが分かる。また、比較例2では、E’(20℃/−20℃)が低く(0.08)、E’(20℃/60℃)が高く(8.9)、かつ20℃での貯蔵弾性率E’(20℃)も高い(9.78MPa)。したがって、磁束密度の変化が小さく、センサ感度が悪いことが分かる。一方、実施例1〜6では、−20℃および60℃のいずれにおいても磁束密度の変化が大きく、センサ感度の温度依存性が小さいことがわかる。
【符号の説明】
【0084】
1 電池モジュール
2 単電池
3 高分子マトリックス層
4 検出部
6 容器
11 筐体
図1
図2
図3