特許第6296713号(P6296713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296713
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】排気ターボ過給機
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/18 20060101AFI20180312BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   F02B37/18 H
   F02B39/00 G
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-136952(P2013-136952)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-10557(P2015-10557A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】澤下 真人
【審査官】 北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−065830(JP,A)
【文献】 特開昭59−085426(JP,A)
【文献】 特開昭61−061920(JP,A)
【文献】 実開昭60−055734(JP,U)
【文献】 実開昭61−097537(JP,U)
【文献】 実開昭61−144228(JP,U)
【文献】 実開昭63−126524(JP,U)
【文献】 実開昭60−114237(JP,U)
【文献】 特開昭60−104720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/18
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスで駆動される排気タービン翼と、前記排気タービン翼に向かう排気ガスの量を調節するウエストゲートバルブと、前記排気タービン翼で駆動されるコンプレッサ翼が内蔵されたコンプレッサハウジングとを有しており、
前記コンプレッサハウジングには、前記コンプレッサ翼の回転軸線方向に開口した空気入口と、前記コンプレッサ翼が配置されると共に前記空気入口に連通したコンプレッサ室と、前記コンプレッサ室の外周部に連通すると共に始端と終端とが連通した環状のスクロール通路と、前記スクロール通路の終端に連通した空気出口と、前記ウエストゲートバルブを駆動するための正圧空気取り出し口とが形成されており、
前記スクロール通路は、前記コンプレッサ翼の回転軸心からの距離が始端から終端に向けて徐々に大きくなっていて、前記始端と終端とに連通した舌部が、前記空気入口の軸心に近い内周側に位置している構成であって、
前記舌部は、前記空気出口の軸心と直交した方向にも開口しており、従って、前記舌部は、前記空気出口の軸心方向に広がった横幅を有しており、前記空気取り出し口を、前記舌部が位置する箇所において当該舌部の横幅で前記空気出口の軸心回りに環状に広がる部位に設けている、
排気ターボ過給機。
【請求項2】
前記正圧空気取り出し口を、前記空気出口の軸心を挟んで前記舌部と反対側に設けている、
請求項1に記載した排気ターボ過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ウエストゲートバルブを正圧空気で駆動している方式の排気ターボ過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気ターボ過給機はウエストゲートバルブを備えており、過過給防止等のため、吸気圧が所定の圧力になるとウエストゲートバルブを開くように設定している。そして、ウエストゲートバルブを駆動するアクチュェータの動力源として吸気空気の正圧を使用することが行われており、その例が特許文献1,2に開示されている。
【0003】
このうち特許文献1では、アクチュエータを駆動する正圧空気の取り出し口を吸気系のうち気筒に近い部位に設けており、他方、特許文献2では、アクチュエータを駆動する空気の取り出し口を、排気ターボ過給機におけるコンプレッサハウジングのうちスクロール通路の中途部に設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−126524号のマイクロフィルム
【特許文献2】実開昭60−114237号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アクチュエータを応答性よく的確に駆動するには駆動源としての正圧空気の圧力はできるだけ高いのが好ましいが、特許文献1のように吸気系のうち気筒の近くから取り出す構成では、流れ抵抗等によって空気(吸気)の圧力が低下した部分からの取り出しになるため、アクチュエータの駆動が不完全になるおそれがあり、さりとて、アクチュエータを的確に駆動するために空気取り出し量を多くすると、気筒に向かう吸気量が低減して機関の動力変動が大きくなるという問題がある。
【0006】
他方、排気ターボ過給機のコンプレッサハウジングの圧力は吸気系全体の中で最も高くなっているため、特許文献2のようにコンプレッサハウジングにおけるスクロール通路から駆動空気を取り出すことは合理的である。
【0007】
しかし、特許文献2のようにスクロール通路のうち始端と終端との間の中途部から駆動空気を取り出すと、スクロール通路において周方向に流れる空気の一部が無くなるため、空気の流れに乱れが生じて圧縮効率が悪くなるおそれがある。また、スクロール通路においては圧力は始端から終端に向けて徐々に高くなっているが、スクロール通路の中途部ではまだ圧力は上昇段階にあるため、排気ターボ過給機で発生した正圧の有効利用の面ではまだ改善の余地があると云える。
【0008】
本願発明はかかる現状に鑑み成されたものであり、ウエストゲートバルブの駆動空気を排気ターボ過給機自体から取り出すことは特許文献2を踏襲しつつ、改良された構成の排気ターボ過給機を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の排気ターボ過給機は、
「排気ガスで駆動される排気タービン翼と、前記排気タービン翼に向かう排気ガスの量を調節するウエストゲートバルブと、前記排気タービン翼で駆動されるコンプレッサ翼が内蔵されたコンプレッサハウジングとを有している。
【0010】
そして、請求項1の発明では、更に、
前記コンプレッサハウジングには、前記コンプレッサ翼の回転軸線方向に開口した空気入口と、前記コンプレッサ翼が配置されると共に前記空気入口に連通したコンプレッサ室と、前記コンプレッサ室の外周部に連通すると共に始端と終端とが連通した環状のスクロール通路と、前記スクロール通路の終端に連通した空気出口と、前記ウエストゲートバルブを駆動するための正圧空気取り出し口とが形成されており、
前記スクロール通路は、前記コンプレッサ翼の回転軸心からの距離が始端から終端に向けて徐々に大きくなっていて、前記始端と終端とに連通した舌部が、前記空気入口の軸心に近い内周側に位置している構成であって、
前記舌部は、前記空気出口の軸心と直交した方向にも開口しており、従って、前記舌部は、前記空気出口の軸心方向に広がった横幅を有しており、前記空気取り出し口を、前記舌部が位置する箇所において当該舌部の横幅で前記空気出口の軸心回りに環状に広がる部位に設けている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、前記正圧空気取り出し口を、前記空気出口の軸心を挟んで前記舌部と反対側に設けている。
【発明の効果】
【0012】
排気ターボ過給機において、コンプレッサ翼の回転に伴い、吸気口から吸引された空気は放射方向に押しやられつつスクロール通路の内部を周方向に移動していき、空気はスクロール通路に集められて空気出口に至る。そして、空気に回転の流れを付与するためスクロール通路の始端と終端とは狭い舌部を介して連通しているため、空気出口に至る空気量はスクロール通路の終端部よりは僅かに少なくなっており、従って、スクロール通路のうち終端部の箇所において空気の圧力が最も高くなっている。
【0013】
そして、本願発明は圧力が最も高くなっている部分から空気を取り出すものであるため、できるだけ少ない空気量でアクチュエータを的確に駆動することができる。また、スクロール通路の終端は空気出口に連通しており、空気は直進性を持って空気出口に向けて流れるため、一部の空気を取り出してもそれがスクロール通路を流れる空気流に圧力変動として影響することはない。従って、空気を取り出した影響がコンプレッサ翼の回転に波及して圧縮効率が悪化するようなことはない。
【0014】
このように本願発明では、コンプレッサ翼の回転に影響を与えない状態で最も高い圧力の高い部位から空気を取り出してアクチュエータを駆動できる。
【0015】
さて、空気はコンプレッサ翼によって運動エネルギを付与されてスクロール通路の内部を周方向に流れるが、空気には遠心力が作用しているため、空気の動圧はスクロール通路の内面のうちコンプレッサ翼の軸心から最も遠い外周部の箇所に最も強く作用しており、従って、スクロール通路の終端部のうちでも空気出口の軸心を挟んで舌部と反対側の外周部の箇所が圧力は最も高くなっている。従って、請求項2の構成を採用すると、終端部のうちでも特に圧力が高い外周部から空気を取り出せるため、アクチュエータの駆動をより的確に行える利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態を示す図で、(A)は模式的な平面図、(B)は要部の縦断正面図である。
図2図1(B)の一部破断IIA-IIA 視図、(B)は請求項2の具体例である別例図である。
図3図2(A)のIII-III 視断面図である。
図4(A)は図2(A)の IVA-IVA視断面図、(B)は図2(A)の IVB-IVB視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1).概略
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1(A)に模式的に示すように、排気ターボ過給機は、排気ガス導入口1と排気ガス出口2とを有する排気側サイドハウジング3と、吸気口4と空気出口5とを有する吸気側サイドハウジング6、及び、両サイドハウジング3,6が左右からボルト止め等で接合されたセンターハウジング7を有している。
【0018】
そして、排気側サイドハウジング3とセンターハウジング7とで囲われたタービン室に排気タービン翼1が回転自在に配置されており、吸気側サイドハウジング6とセンターハウジング7とで形成されたコンプレッサ室9にコンプレッサ翼10が回転自在に配置されている。
【0019】
従って、吸気側サイドハウジング6の全体とセンターハウジング7の一部とにより、請求項に記載したコンプレッサハウジング11が構成されている。また、排気側サイドハウジング3とセンターハウジング7とでタービンハウジング12が構成されている。排気タービン翼1とコンプレッサ翼10とは、一緒に回転するように共通の回転軸13で連結されている。
【0020】
排気側サイドハウジング3の排気ガス導入口1と吸気側サイドハウジング6の空気出口5とは回転軸13と直交した方向に開口しており、排気側サイドハウジング3の排気ガス出口2と吸気側サイドハウジング6の吸気口4とは、回転軸13の軸方向に開口している。排気タービン翼1及びコンプレッサ翼10は、放射方向及び周方向に延びる複数枚のフィンを有している。
【0021】
排気側サイドハウジング3は、排気ガスを排気導入口1から排気出口2に逃がすバイパス通路14と、排気導入口1からバイパス通路14に流れる排気ガスの両を調節するウエストゲートバルブ(図示せず)とを備えている。ウエストゲートバルブを駆動するアクチュエータ16は、コンプレッサハウジング10の内部から取り出された正圧空気によって駆動される。このため、吸気側サイドハウジング6に正圧空気取り出し口17を設けて、これとアクチュエータ16とがチューブ等の管路18で接続されている。
【0022】
図1(B)のとおり、吸気側サイドハウジング6には、センターハウジング7が嵌まる凹所20と、コンプレッサ翼10の外周の外側に位置した環状のスクロール通路21とが形成されている。吸気側サイドハウジング6のうちスクロール通路21より内側の部分とセンターハウジング7との間には、コンプレッサ室9の外周部9aがリング状の形態で存在しており、スクロール通路21は、全体に亙ってコンプレッサ室9の外周部9aに連通している。
【0023】
センターハウジング7の内周には固定軸受け22が嵌着しており、固定軸受け22の内周にシール材22′が嵌まっている。
【0024】
(2).スクロール通路・正圧空気取り出し口
図2のとおり、空気出口5は出口側サイドハウジング6に一体に設けており、空気出口5の軸線23がスクロール通路21の1つの接線と略一致している。従って、スクロール通路21を流れた空気流は、スクロール通路21の1つの接線方向に直進するようにガイドされて空気出口5に流入する。
【0025】
スクロール通路21は大雑把には円形に近い横断面形状であり、センターハウジング7に近い側の内周部は環状の土手24になっている。換言すると、内周部に土手24を形成することで、スクロール通路21の断面形状が略円形になっている。
【0026】
そして、スクロール通路21は、始端部21aから終端部21bに向けて断面形状が徐々に大きくなっているが、スクロール通路21の始端部21aと終端部21bとは、空気出口5に近い部位に位置した舌部25を介して一連に連通している。従って、スクロール通路21を流れてきた圧縮空気の一部は、舌部25を介してスクロール通路21に還流する。これにより、スクロール通路21の内部にスムースな空気流が形成される。
【0027】
正確に述べると、舌部25は、空気出口5の内周面のうち空気入口4の軸心に最も近い部分の延長位置に形成されている。このため、スクロール通路21に流入した空気の大部分は、舌部25の箇所に衝突することなく空気出口5にスムースに案内される。
【0028】
吸気側サイドハウジング6のうちスクロール通路21の終端部21bを囲う部分26に、正圧空気取り出し口17を設けている。正圧空気取り出し口17は外向きのボス状に構成されており、これに出口穴27を設けて継手筒28を嵌入している。継手筒28にチューブ等の管路18(図1(A)参照)が接続されている。
【0029】
圧空気取り出し口17の出口穴27は、図2(A),図3の例では空気入口4と同じ方向に開口しており、図2(B)に示す例では、空気出口5の軸心と直交した方向でかつ、空気出口5の軸心23を挟んで舌部25と反対側に向けて開口している。従って、図2(B)の例では、正圧空気取り出し口17の出口穴27は、おおよそ舌部25に向けて開口している。
【0030】
コンプレッサ翼10の回転によって空気(新気)が空気入口4から吸引されてスクロール通路21に向けて送られ、空気は全周の各部位からスクロール通路21に流入して空気出口5に向けて流れていくが、スクロール通路21の終端部21bの箇所(すなわち舌部25の箇所)において最も圧力が高くなっている。このため、少ない量の空気でアクチュエータ16の制御を的確に行うことができる。
【0031】
また、スクロール通路21の終端部21bから空気を一部取り出してもスクロール通路21の内部に圧力変動が生じることはないため、空気を正圧空気取り出し口17から取り出したことに起因して圧縮効率が悪化したり変動したりすることはない。
【0032】
スクロール通路21の内部では始端部21aから終端部21bに向けて空気が押しやられるため、圧力は始端部21aから終端部21bに向けて徐々に高くなっているが、空気には遠心力が作用しているため、スクロール通路21の任意の点で見ると、コンプレッサ翼10に近い内周側よりもコンプレッサ翼10から遠い外周側の側が圧力は高くなっており、このため、スクロール通路21の全体としてみると、終端部21bのうちで舌部25と反対側の外周部の部位が最も圧力が高くなっている。
【0033】
従って、図2(B)のように(請求項2のように)、正圧空気取り出し口17を空気出口5の軸心23を挟んで舌部25と反対側に開口させると、少ない空気でアクチュエータ16を的確に駆動することがより確実ならしめられる。
【0034】
他方、空気がコンプレッサ室9の外周部9aからスクロール通路21の内部に流入するため、空気はスクロール通路21の内部を旋回するように流れており、このため、空気の圧力(動圧)は、スクロール通路21のうちの外周部を頂点として、コンプレッサ室9の外周部9a(或いはセンターハウジング7)から離れるに従って運動エネルギが小さくなる。
【0035】
そして、排気ガスに排気弁の開閉に伴う脈動が発生してその脈動がコンプレッサ翼10に波及して、スクロール通路21に流入した空気に脈動が残っていることが有り得るが、図2(A)及び図3のように、正圧空気取り出し口17をスクロール通路21を挟んでコンプレッサ室9の外周部9aと反対側に開口させると、動圧が低下して脈動が減衰した空気を取り出すことができるため、アクチュエータ16に脈動が波及することを防止又は抑制できる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本願発明は、実際に内燃機関の排気ターボ過給機に適用できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 排気タービン
3 排気側サイドハウジング
空気入口 5 空気出口
6 吸気側サイドハウジング
7 センターハウジング
9 コンプレッサ室
10 コンプレッサ翼
11 コンプレッサハウジング
12 タービンハウジング
13 回転軸
14 バイパス通路
15 ウエストゲートバルブ
16 アクチュエータ
17 正圧空気取り出し口
21 スクロール通路
21a 始端部
21b 終端部
23 空気出口の軸心線
25 舌部
26 スクロール通路の終端部を囲う部分
27 正圧空気取り出し口の出口穴
図1
図2
図3
図4