特許第6296722号(P6296722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296722
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】米糠酵素処理組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/12 20060101AFI20180312BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20180312BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20180312BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20180312BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180312BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20180312BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   C07K1/12
   C12P1/00 A
   A23L33/18
   A61K38/01
   A61P43/00 111
   A61P9/12
   A61K36/899
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-158923(P2013-158923)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2014-43442(P2014-43442A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-169860(P2012-169860)
(32)【優先日】2012年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正箱 尚久
(72)【発明者】
【氏名】石角 篤
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳代
(72)【発明者】
【氏名】前田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】松本 元伸
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄太郎
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−084294(JP,A)
【文献】 特開2009−234966(JP,A)
【文献】 特開2009−029772(JP,A)
【文献】 特開2008−037766(JP,A)
【文献】 特表2006−512371(JP,A)
【文献】 特開2001−261698(JP,A)
【文献】 特開平02−036127(JP,A)
【文献】 特開平04−187643(JP,A)
【文献】 特開2011−036241(JP,A)
【文献】 日本醗酵工学会大会講演要旨集,1991年,p.153(444)
【文献】 Journal of Biological Macromolecules,2010年,Vol.10, No.2,p.61
【文献】 日本獣医生命科学大学研究報告,2007年,Vol.56,p.36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/12
C12P 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠のサーモリシン処理組成物。
【請求項2】
ACE阻害用組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
血圧低下用組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
米糠をサーモリシンで処理して、ACE阻害用組成物を製造する方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の組成物を含む、医薬品、医薬部外品又は食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠を酵素処理して得られる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme、以下「ACE」ともいう)は、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する酵素である。アンジオテンシンIIは血管の収縮などにより血圧を上げる働きがある。ACEの働きを阻害すると、アンジオテンシンIIの生成が抑制され、ブラジキニンの分解抑制によるNO(一酸化窒素)増加により末梢血管を拡張し降圧作用を示すことが知られている。このため、ACE阻害物質は、例えば血圧降下剤の有効成分として、あるいは血圧が高めの方に適した食品の関与成分として、用いられている。
【0003】
高血圧患者や血圧が高めのヒトが増加している昨今、安全で優れたACE阻害を示す物質の需要はますます高まっており、研究開発も盛んに行われている。このような研究開発の一態様として、ACE阻害を示すペプチドを探索することが行われている。例えば、特許文献1には、ゴマのサーモリシン(サーモライシンとも呼ばれる)による分解物から、ACE阻害により血圧降下作用を有する3種のトリペプチドが見出されたことが記載されている。また例えば、特許文献2には、ブタ由来タンパク質のペプシンによる分解物から、ACE阻害活性を有するペプチドが見出されたことが記載されている。なお、サーモリシンのCAS.Noは9073-78-3である。また、EC番号(酵素番号、Enzyme Commission numbers)は、3.4.24.27である。
【0004】
このように、生物由来タンパク質素材を各種プロテアーゼで分解し、ACE阻害活性を有する組成物やペプチドを探索する試みがなされているが、どの「タンパク質素材」を、どの「プロテアーゼ」で分解すれば、望ましいACE阻害活性組成物又はペプチドを得られるのかは、全く予測がつかないため、実験でこれら「タンパク質素材」及び「プロテアーゼ」の組み合わせを一つ一つ試していくしか手がないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/082709
【特許文献2】特開2005−220091
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】健康・栄養食品研究Vol.7 No.1,49−64 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全で優れたACE阻害を示す新規な物質又は組成物を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、米糠のサーモリシン処理物またはキモトリプシン処理物がACE阻害を示すことを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
米糠のサーモリシン又はキモトリプシン処理組成物。
項2.
ACE阻害用組成物である、請求項1に記載の組成物。
項3.
血圧低下用組成物である、請求項1に記載の組成物。
項4.
米糠をサーモリシン又はキモトリプシンで処理して、ACE阻害用組成物を製造する方法。
項5.
米糠をサーモリシン処理又はキモトリプシン処理して得られる、ACE阻害用ペプチド。
項6.
項1〜3の何れかに記載の組成物又は項5に記載のペプチドを含む医薬品、医薬部外品又は食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る、米糠のサーモリシン処理組成物又はキモトリプシン処理組成物であれば、経口摂取することにより、好ましくACE阻害効果(ひいては血圧低下効果)を得ることができる。米糠は長年食用として用いられてきた食材であり、安全性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】HB−T(米糠サーモリシン処理組成物)及びゴマ−T(ゴマサーモリシン処理物)のACE阻害活性(IC50値)を示すグラフである。
図2】HB−T(米糠サーモリシン処理組成物)、HB−P(米糠ペプシン処理組成物)及びHB−C(米糠キモトリプシン処理組成物)のACE阻害活性の測定結果を示すグラフである。
図3】HB−T水溶液を(i)約10kDa以上画分、(ii)約10〜3kDa画分、及び(iii)約3kDa以下画分、の3画分に分画し、これら(i)〜(iii)の画分について、ACE阻害活性を測定した結果を示す。
図4図3の(i)〜(iii)画分の 120μg/mLにおけるACE阻害活性を示す。
図5】HB−Tをオープンカラムで分画した各フラクションをTLC(薄層クロマトグラフィー)解析した結果を示す。
図6】HB−Tをオープンカラムで分画した各フラクションのACE阻害活性測定結果を示す。
図7図5及び図6で用いた各フラクションのうち、No.12〜14及び15〜20のサンプルをさらに合一して再度オープンカラムで分画して得られた各回収液を、TLC(薄層クロマトグラフィー)解析した結果を示す。
図8図7で示されるTLCに供された各回収液(no.1〜no.18)について、no.2及び3、no.4のみ、no.5〜8、no.9〜15、を合一し、それぞれサンプルII−2−3、II−4、II−5−8、II−9−15とし、これら4種のサンプルのACE阻害活性を測定した結果を示す。
図9】HB−Tを経口摂取することによる血圧降下作用の変化を検討した結果を示す。図中、「※」はP<0.05で媒体投与群に対して有意差が有ったことを示し、「※※」はP<0.01で媒体投与群に対して有意差が有ったことを示す。
図10】HB−Tを経口摂取することによる、肺におけるACE阻害活性の変化を検討した結果を示す。図中、「*」はP<0.05で媒体投与群に対して有意差が有ったことを示す。
図11】HB−Tを経口摂取した際の、血中トロポニン量の測定結果を示す。図中、「*」はP<0.05で媒体投与群に対して有意差が有ったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明は、米糠のサーモリシン処理組成物又はキモトリプシン処理組成物に係る。
【0014】
本発明に用いる米糠は、特に限定されないが、脱脂米糠であることが好ましい。また、圧搾により脱脂された脱脂米糠(圧搾脱脂米糠)であることが好ましい。特に、搗精後に得られた米糠(生米糠)を加熱することでリパーゼを失活させ、さらに圧搾処理することで得られる圧搾脱脂米糠が好ましい。また、脂質含量が5〜20質量%の脱脂米糠を用いるのが好ましい。この範囲の脂質含量の脱脂米糠が、圧搾脱脂(特にリパーゼ失活処理後の圧搾脱脂)により好ましく得られる。
【0015】
リパーゼ失活処理は、18〜20質量%程度の脂質を含有する米糠(生米糠)の酸化劣化を防ぐ目的で行われる。通常、生米糠を70〜130℃程度で加熱焙煎することにより行われる。圧搾処理は、公知の圧搾法、例えば加熱焙煎処理され100〜115℃程度になった米糠を低温連続圧搾機(例えば(株)テクノシグマ社より販売されているミラクルチャンバー)により圧搾することで行う。圧搾は、圧搾後の脱脂米糠中の脂質が5〜20重量%程度となるまで行うことが好ましい。また、リパーゼ失活処理前の米糠や搾油後の脱脂米糠の水分含量を低減させる等の目的で乾燥処理を行っても良い。更に、特に圧搾処理にて得られた脱脂米糠は、さらに公知の方法により粉砕、分級し、粉末状とすることが好ましい。この際、粉末の平均粒子径は、5〜200μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、40〜100μmが最も好ましい。なお、脱脂米糠中の脂質含量は、上述の通り5〜20重量%が好ましく、7〜15重量%がより好ましい。なお、市販されている、上記のような脱脂米糠を購入して用いることもできる。このような市販脱脂米糠としては、例えばハイブレフ(サンブラン株式会社製)を挙げることができる。
【0016】
本発明に用いるサーモリシンは公知の酵素であり、EC番号は3.4.24.27である。サーモリシンは、例えば、市販品を購入して用いることができる。例えば株式会社ペプチド研究所や和光純薬工業株式会社等から購入することができる。
【0017】
本発明に用いるキモトリプシンは公知の酵素であり、EC番号はEC.3.4.21.1・EC.3.4.21.2である。キモトリプシンは、例えば、市販品を購入して用いることができる。例えば東京化成工業株式会社やロシュ・ダイアグノスティックス株式会社等から購入することができる。
【0018】
本発明のサーモリシン処理組成物を得るためのサーモリシン処理条件については、サーモリシンの活性が得られる限り特に制限はされず、適宜設定することができる。例えば、米糠及びサーモリシンを水に混合したうえ、37℃前後で穏やかに撹拌しながら10〜30時間程度反応させることで処理を行うことができる。なお、当該処理後、サーモリシンを失活させてもよい。サーモリシンの失活処理は、例えば加熱(例えば100℃、10〜20分程度の処理)等により行うことが出来る。なお、処理後にろ過を行って濾液を回収することで精製を行ってもよい。
【0019】
本発明のキモトリプシン処理組成物を得るために米糠をキモトリプシン処理するにあたり、その処理条件についてはキモトリプシンの活性が得られる限り特に制限はされず、適宜設定することができる。例えば、米糠及びキモトリプシンを水に混合したうえ、37℃前後で穏やかに撹拌しながら10〜30時間程度反応させることで処理を行うことができる。なお、当該処理後、キモトリプシンを失活させてもよい。キモトリプシンの失活処理は、例えば加熱(例えば100℃、10〜20分程度)等により行うことが出来る。なお、処理後にろ過を行って濾液を回収することで精製を行ってもよい。
【0020】
本発明のサーモリシン処理組成物は、米糠をサーモリシンにより処理して得られる組成物であり、サーモリシンによる米糠タンパク質分解物(特にペプチド)を含む組成物である。当該組成物は、ACE阻害活性を有する。当該組成物は、特に経口摂取により血圧上昇抑制効果若しくは血圧低下効果を奏する。また、当該組成物の形態は特に制限されない。例えば当該処理液そのものであってもよく、また当該処理液を蒸留して濃縮した濃縮物や、当該処理液を凍結乾燥した凍結乾燥処理物などであってもよい。なお、本発明は、ACE阻害活性を示す、サーモリシンによる米糠タンパク質分解物、特にペプチド、も包含する。当該ペプチドは、約10kDa以下のものが特に好ましい。
【0021】
本発明のキモトリプシン処理組成物は、米糠をキモトリプシンにより処理して得られる組成物であり、キモトリプシンによる米糠タンパク質分解物(特にペプチド)を含む組成物である。当該組成物は、ACE阻害活性を有する。当該組成物は、特に経口摂取により血圧上昇抑制効果若しくは血圧低下効果を奏する。また、当該組成物の形態は特に制限されない。例えば当該処理液そのものであってもよく、また当該処理液を蒸留して濃縮した濃縮物や、当該処理液を凍結乾燥した凍結乾燥処理物などであってもよい。なお、本発明は、ACE阻害活性を示す、キモトリプシンによる米糠タンパク質分解物、特にペプチド、も包含する。当該ペプチドは、約10kDa以下のものが特に好ましい。
【0022】
なお、本発明の米糠のサーモリシン処理組成物は、米糠をサーモリシン以外のプロテアーゼで予め又は更に処理したものは包含しない。サーモリシン以外のプロテアーゼ処理により、サーモリシン処理により生成したACE阻害活性を有するタンパク質分解物(特にペプチド)がさらに分解され、ACE阻害活性を喪失するおそれが考えられるからである。
【0023】
同様に、本発明の米糠のキモトリプシン処理組成物は、米糠をキモトリプシン以外のプロテアーゼで予め又は更に処理したものは包含しない。キモトリプシン以外のプロテアーゼ処理により、キモトリプシン処理により生成したACE阻害活性を有するタンパク質分解物(特にペプチド)がさらに分解され、ACE阻害活性を喪失するおそれが考えられるからである。
【0024】
なお、上記の説明にも表れているように、本発明の米糠のサーモリシン処理組成物又はキモトリプシン処理組成物は、米糠の水抽出物をサーモリシン処理又はキモトリプシン処理して得られる組成物であってもよい。米糠の水抽出物は、米糠を水で抽出して得られる。米糠水抽出物は、好ましくは米糠を水で抽出処理して得られた液体組成物(水及び抽出された米糠成分からなる)である。当該米糠水抽出物に対して、サーモリシン又はキモトリプシンを加えて、処理することで、本発明の米糠のサーモリシン処理組成物又はキモトリプシン処理組成物を得ることもできる。水抽出条件は特に制限されないが、例えば10〜50℃程度の水に米糠を1〜24時間程度浸漬(又は撹拌)する方法が例示される。
【0025】
本発明の米糠のサーモリシン又はキモトリプシン処理組成物は、上述の通りACE阻害活性を有し、特に経口摂取により血圧低下効果を奏することから、例えば、ACE阻害用組成物、抗高血圧組成物、血圧低下用組成物等として用いることができる。また、特に医薬組成物、食品添加物、又は食品組成物として好適に用いることができる。米糠のサーモリシン又はキモトリプシン処理組成物をそのまま用いてもよいし、薬学上又は食品衛生学上許容される担体等を適宜配合したうえで、製品として調製することもできる。本発明は、このような製品も包含する。すなわち、本発明は、上記米糠のサーモリシン又はキモトリプシン処理組成物を含む医薬品、医薬部外品又は食品も包含する。なお、食品の中でも、特定保健用食品が好ましい。
【0026】
上記米糠のサーモリシン又はキモトリプシン処理組成物は、当該医薬品又は医薬部外品には有効成分として、また、特定保健用食品には関与成分として、それぞれ含まれることが好ましい。また、上記米糠のサーモリシン又はキモトリプシン処理組成物に含まれる特定の1又は複数のペプチドが、有効成分として医薬品又は医薬部外品に含まれてもよく、また、関与成分として特定保健用食品に含まれてもよい。
【0027】
医薬品、医薬部外品又は食品に含まれる米糠のサーモリシン又はキモトリプシン処理組成物の量は、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば0.1〜99質量%、好ましくは1〜90質量%程度含まれ得る。
【0028】
なお、当該医薬品は高血圧の患者に用いることが好ましく、また、当該医薬部外品又は食品(特に特定保健用食品)は血圧が高めの方に用いることが好ましい。ここでの血圧が高めの方とは、いわゆる高血圧予備軍と呼ばれる人であり、より具体的には、収縮期血圧が130〜139mmHg又は拡張期血圧が85〜89mmHgの方が好ましく例示される。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0030】
米糠酵素処理組成物の調製
次のようにして、米糠を酵素処理して、酵素処理物を得た。酵素処理物は、米糠のタンパク質が酵素により分解されて調製されたペプチドが複数種含まれる組成物である。
【0031】
酵素としては、サーモリシン(株式会社ペプチド研究所;Code3504)、αキモトリプシン(東京化成工業株式会社;code C0342)、及びペプシン(SIGMA;「Pepsin from porcine gastric mucosa」)を用いた。
【0032】
また、米糠としては、ハイブレフ(サンブラン株式会社製)を用いた。ハイブレフは、米糠を圧搾することより脱脂を行った圧搾脱脂米糠である。
【0033】
まず、超純水に米糠を30g/Lとなるように混合し、これにサーモリシンを0.4g/Lとなるように加えた。そして、当該混合物を37℃インキュベータ内でスターラーを用いて250r.p.m.で攪拌しながら20時間インキュベートした。さらに、沸騰水浴に浸漬して15分間処理し、酵素を失活させた。15℃、7150r.p.m.(8000×g)15分で遠心分離処理を行い、得られた上清のpHをNaOHを用いて7.0に調整し、フィルターペーパーNo.2(アドバンテック社製)を用いて濾過して、得られた濾液を凍結乾燥した。当該凍結乾燥物を、米糠サーモリシン処理組成物として検討に用いた。なお、当該米糠サーモリシン処理組成物を、以下「HB−T」と記載することがある。
【0034】
また、当該サーモリシン処理と同様にして、サーモリシンのかわりにキモトリプシン又はペプシンを用い、米糠のキモトリプシン処理組成物、及び米糠のペプシン処理組成物(凍結乾燥物)を得た。ただし、ペプシン処理を行う際には、HClによりpHを2.0に調整した上で処理を行った。当該米糠キモトリプシン処理組成物を以下「HB−C」と記載することがある。また、当該米糠ペプシン処理組成物を以下「HB−P」と記載することがある。
【0035】
なお、サーモリシンを加えない以外は、当該サーモリシン処理と同様の処理を行い、組成物(凍結乾燥物)を得た。当該組成物を以下「I−HB」と記載することがある。
【0036】
ゴマサーモリシン処理物の精製
上記特許文献1及び非特許文献1に記載されるように、ゴマのサーモリシン処理物は、ACE阻害活性を有することが知られており、ゴマサーモリシン処理物が含まれる食品も上市されている。そこで、次のようにしてゴマサーモリシン処理物を精製し、対照として用いた。
【0037】
市販されている「胡麻麦茶」(サントリー株式会社)700mLをナスフラスコへ入れ、凍結乾燥させて凍結乾燥物を2.4g得た。当該凍結乾燥物をゴマサーモリシン処理物として用いた。以下当該凍結乾燥物を「ゴマ−T」と記載することがある。なお、上記非特許文献1によれば、「胡麻麦茶」700mL中には約1.8gのゴマサーモリシン処理物(ペプチド)が含まれている。
【0038】
ACE阻害活性の測定
各サンプルのACE阻害活性の測定は、測定キット「ACE Kit - WST」(株式会社同仁化学研究所)を用いて行った。当該キットは、3-Hydroxybutyryl-Gly-Gly-Gly (3HB-GGG)から切り出されてくる3-Hydroxybutyric acid (3HB)を酵素法により検出するものである。操作は当該キットの取扱説明書に従い、ACE阻害率を測定した。
【0039】
<HB−T及びゴマ−TのACE阻害活性測定>
HB−T及びゴマ−Tについて、それぞれACE阻害活性を測定した(n=3)。それぞれの測定結果からIC50値を求めた。IC50値の結果を図1に示す。なお、図1中のゴマ−Tの濃度は、ゴマペプチド量(上記「ゴマサーモリシン処理物の精製」における約1.8g)を基準とした値である。当該結果から、HB−Tは、ゴマ−Tに比べ、ACE阻害活性が有意に高いことがわかった。
【0040】
<HB−T、HB−C、及びHB−PのACE阻害活性測定>
HB−T、HB−C及びHB−Pを、それぞれ超純水に溶解させ、それぞれACE阻害活性を測定した(n=3)。結果を図2に示す。また、それぞれの測定結果から求めたIC50値を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
当該結果から、特にHB−T及びHB−C(すなわち、米糠のサーモリシン処理組成物及びキモトリプシン処理組成物)は、優れたACE阻害活性を有することがわかった。
【0043】
HB−TのACE阻害活性成分の分画
<限外濾過による分画>
HB−Tを超純水に溶解した溶液を、限外濾過により分画した。具体的には、HB−T水溶液(濃度:3mg/mL)15mLを限外濾過膜付き遠心カラム(Millipore社製アミコンウルトラ 10,000NMWLメンブレン)に詰めて、遠心(4000×g, 25 ℃, 40 min)し、濾液及び膜上に残った液を回収した。当該濾液については、さらに限外濾過膜付き遠心カラム(Millipore社製アミコンウルトラ 3,000NMWLメンブレン)に詰めて遠心(4000×g, 25 ℃, 40 min)し、濾液及び膜上に残った液を回収した。
【0044】
以上のようにして、HB−T水溶液を(i)約10kDa以上画分、(ii)約10〜3kDa画分、及び(iii)約3kDa以下画分、の3画分に分画した。これら(i)〜(iii)の画分について、それぞれを凍結乾燥し、超純水に溶解させ、上記と同様にしてACE阻害活性を測定した。測定結果をグラフにしたものを図3に示す。また、各画分120μg/mLにおけるACE阻害活性をグラフにしたものを図4に示す。当該結果から、HB−TのACE阻害活性は、主に10kDa以下の成分が有するものであることがわかった。
【0045】
<オープンカラムによる分画>
メタノールに溶いた担体(フジシリシア化学社製 CHROMATOREX ODS DM1020T)をカラムに40 g詰めて、分画用カラムとした。当該カラムを20%メタノールで置換し、少量(2ml程度)の超純水に溶解したHB−T2.8gをアプライした。その後20%メタノールで溶出を行った。
【0046】
カラムから溶出した液を5mLずつ試験管に回収した。計20本(各試験管に回収された溶出液をNO.1〜NO.20とする)、合計100mLを回収した。この後、さらに40%メタノールを5mLカラムにアプライし、溶出液を5mL回収し、さらに100%メタノールを5mLカラムにアプライし、溶出液を5mL回収した。
【0047】
そして、各フラクションを幾つかのグループ毎に合一し、エバポレーターによって蒸留した。残ったサンプル量の重量を測定した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
例えば、表2において、NO欄の「4−5」はNO.4及び5の回収溶出液を合一したことを示す。これをエバポレーターによって蒸留した結果、1.6868gのサンプルが残ったことを示し、当該重量は全回収サンプル量の53.9%を占めることを示す。
【0050】
得られた各サンプル及びHB−Tについて、TLC(薄層クロマトグラフィー)により、展開した。TLCプレートとしてHPTLC Silicagel 60 RP-18 WF254S(Merck Millipore)を用い、展開液として20%メタノールを用いた。また、各サンプル及びHB−Tを超純水に溶解(80μg/mL)し、上記と同様にしてACE阻害活性を測定した。TLCの結果を図5に、ACE阻害活性測定結果を図6に示す。なお、図6の縦軸の数値は「ACE阻害活性(%)」を示す。
【0051】
また、No.12〜14及び15〜20のサンプルをさらに合一し(約0.13gに相当)、適量の10%メタノールに溶解させ分画用サンプルとした。さらに、メタノールに溶いた担体(フジシリシア化学社製 CHROMATOREX ODS DM1020T)をカラムに7.1 g詰めて、分画用カラムとし、前記分画用サンプルをアプライし、10%メタノールで溶出を行い、溶出液を5mLずつ試験管に回収した(計18本)。得られた各回収液を、エバポレーターで蒸留した後、展開液として10%メタノールを用いた点以外は上記と同様にしてTLCで展開した。結果を図7に示す。
【0052】
図7で示されるTLCに供された各試験管(計18本;no.1〜18)の溶出液について、no.1〜no.18とし、no.2及び3、no.4のみ、no.5〜8、no.9〜15、を合一し、それぞれサンプルII−2−3、II−4、II−5−8、II−9−15とした。これら4種のサンプルをエバポレーターで蒸留後、超純水に溶解させ、上記と同様にしてACE阻害活性を測定した(終濃度は80μg/mL)。なお、終濃度80μg/mLとは、ACE阻害活性を上記キットで測定するにあたり、測定時に各サンプルの濃度が80μg/mLとなるようにしたということである。各サンプルの重量はエバポレーターで蒸留した際に測定した値である。II−4、II−5−8、II−9−15についてのACE阻害活性測定結果を図8に示す。
【0053】
血圧降下作用の検討
雄性の本態性高血圧ラット(SHR/Izm)に、HB−Tを4週間反復投与し、収縮期血圧を測定して、HB−Tの血圧降下作用を検討した。
【0054】
具体的には次のようにして検討を行った。
【0055】
HB−Tを蒸留水に溶解させて100mg/mL又は10mg/mLの投与サンプルを調製した。また、I−HBを蒸留水に溶解させて100mg/mLの投与サンプルを調製した。また、カプトプリルを蒸留水に溶解させて0.5mg/mLの投与サンプルを調製した。なお、これらの投与サンプルは用時調製した。また、カプトプリルはACE阻害薬であり、ポジティブコントロールとして用いた。
【0056】
また、市販の雄性の本態性高血圧ラット(SHR/Izm)を購入し、7週間の馴化期間経過後、収縮期血圧の平均値と標準偏差値が群間でおおよそ均等になるように、下記表3に示すように群分けを行った。
【0057】
【表3】
【0058】
群1のラットには蒸留水を、群2のラットにはHB−T(10mg/mL)の投与サンプルを50mg/kgとなるように、群3のラットにはHB−T(100mg/mL)の投与サンプルを50mg/kgとなるように、群4のラットにはI−HB(100mg/mL)の投与サンプルを50mg/kgとなるように、群5のラットにはカプトプリル(0.5mg/mL)投与サンプルを2.5mg/kgとなるように、それぞれ投与した。各サンプル投与は、1日1回、2.5mL用シリンジおよびテフロン製胃ゾンデを用いて、胃内に強制経口投与することで行った。
【0059】
収縮期血圧の測定は、各ラットを加温器に入れて約36〜38℃に加温し、ラットの安定(心拍数の変動と外観上の動きで判断)を確認した後、血圧を3回測定してその平均値を測定値とすることで行った。測定は、検討スタート日、及びスタート1週間後、2週間後、3週間後のサンプル投与前に行った。測定機器として非観血式自動血圧測定装置BP-98A(株式会社ソフトロン製)を用いた。
【0060】
さらに、各群のラットについて、検討開始4週間後の血圧測定を行った後、16時間以上絶食させた。そして、イソフルラン麻酔下にて腹部大動脈から全採血し(抗凝固剤としてヘパリンナトリウムを使用)、安楽死させた。致死確認後に肺を採取した。また、採取した血液は遠心分離するまで氷中にて保存した。遠心分離は3,000 rpm、15分、4℃にて行い、血漿を得た。得られた血漿は、80℃以下にて保存した。また、採取した肺も80℃以下で保存した。
【0061】
上記のようにして得られた各ラットの肺を用いて、益田の方法(Masuda O., Nakamura Y., and Takano T., The journal of nutrition 126, 3063−3068, 1996)に準じた方法により酵素画分の抽出を行った。具体的には、各肺の左肺の下半分を切りとり、これを用いて4000μl/1gの試料となるようにBuffer(50mmol/l Tris−HCl(pH7.9)/0.3M NaCl)を加えた後、ホモジナイザーで45秒間攪拌し、その上清を超遠心(44000×g、90min、4℃)した。超遠心後に得られた上清を廃棄し、再度Buffer50mmol/l Tris−HCl(pH7.9)/0.3M NaCl)を4000μl/gの試料となるよう加え、超遠心(44000×g、90min、4℃)した。その後、得られた沈殿物に対し、0.5%TritonX含有上記Bufferを4000μl/1g試料となるよう加え、氷上で60min放置した。放置したサンプルを遠心(1000×g、10min、4℃)し、得られた上清を酵素画分とした。
【0062】
酵素分画のACE活性をアンジオテンシン−1変換酵素活性測定キット(有限会社ライフ研究所)によって測定した。
【0063】
血圧測定結果を図9に、肺におけるACE活性測定結果を図10に、それぞれ示す。
【0064】
血中のトロポニンの測定
上記のようにして得られた各ラットの血漿中のトロポニン量を、MILLIPLEX Rat Cardiovascular Disease (CDV) Panel 1(メルクミリポア社製)を用いて測定した。結果を図11に示す。なお、トロポニンは、心筋にかかる負荷の度合の指標として知られており、トロポニン量が多いほど心臓への負荷が大きいことを示す。(よって、トロポニン量が少なければ、抗高血圧効果が奏されていることが推定される。)
【0065】
処方例
以下に、HB−Tを用いた処方例を示す。
<処方例1:飲料>〔%は質量%を示す〕
HB−T 3g(1.5%)
ライム果汁 7g(3.5%)
りんご透明濃縮果汁 18g(9%)
水 172g(86%)
合計 200g(100%)

なお、上記原料を撹拌混合した後、95℃達温まで加熱殺菌した。
調製した飲料は、pHが3.24、Brixが9.84であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11