【実施例】
【0016】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
図示のドアガード構造は、吊式の引戸装置に適用した一例を示している。
引戸装置は、
図1に示すように、開口部Aの幅方向を開閉方向として開閉動作する戸体10と、戸体10から前記開閉方向に対する交差方向(図示例によれば前記開閉方向に略直交する上下方向)へロッド13aを出没させるロッド出没装置13と、ロッド13aの突出方向側でロッド13aに嵌脱されるように不動部位に固定された受け部材20と、戸体10の戸先と対向して設けられた縦枠30と、戸体10の上方側で開口部Aの幅方向へわたる上枠40とを備え、全閉状態の戸体10の開放動作量をロッド13aと受け部材20との嵌合により規制するドアガード構造を構成している。
【0017】
戸体10は、正面視略矩形状の戸本体11と、該戸本体11の上端から上方へ突出して回転自在に支持された吊車12と、戸本体11の戸先側に設けられたロッド出没装置13と、同戸先側におけるロッド出没装置13よりも下側に設けられた鍵装置14とを備え、左右の縦枠30、上枠40、床面等によって囲まれた開口部Aを開閉する。
【0018】
ロッド出没装置13は、戸本体11表部に設けられたレバー13bを回転させる操作(
図1によれば手前側に180度回転させる操作)により、戸本体11内のロッド13aを戸本体11上端から上方へ出没させる機構であり、例えば、周知のフランス落とし構造等を用いる。
図示例のロッド出没装置13は、レバー13bを引っ張って下方へ回転させた状態では、ロッド13aが上方へ移動して戸本体11から上方へ突出した状態に維持され、同レバー13bを上方へ回転して戻した状態では、ロッド13aが下方へ移動して戸本体11内へ没入するようになっている。
そして、この戸体10は、複数の吊車12によって上枠40内のガイドレール41に吊るされるとともに、下端側が床面のガイドローラ(図示せず)に嵌め合せられて、横幅方向へ直進運動する。
【0019】
ロッド13aは、基軸部13a1と、該基軸部13a1の突端側に位置するとともに該基軸部13a1よりも太い頭部13a2とを有し、金属材料等の硬質材料によって一体に構成される(
図5参照)。
基軸部13a1は、戸本体11内の上部側で上下方向へわたる長尺円柱状を呈する。また、頭部13a2は、基軸部13a1よりも外径が大きい短尺円柱状を呈する。
なお、基軸部13a1及び頭部13a2の断面形状は、円形に限らず任意とすることが可能である。
【0020】
また、鍵装置14は、鍵穴に挿入される鍵の操作、あるいは鍵穴と逆側に設けられたレバーの操作等により、鍵部材14aを回転させて、縦枠30側の係脱凹部32(受け座と称される場合もある)に引掛けて施錠状態にしたり、この施錠状態を、前記鍵又は前記レバーによる逆方向の回転操作により解除したりする周知構造の装置である。鍵部材14aは、
図1に示すように、正面視L字状の金属製部材であり、鎌状ボルト等と呼称される場合もある。
図示例の鍵装置14では、鍵部材14aを下方から回動させて、略水平になった状態で縦枠30側の係脱凹部32の開口縁の上端に接触又は近接させる。この状態は、鍵装置14内の周知構造の施錠機構により維持される。
【0021】
受け部材20は、
図5に示すように、不動部位である上枠40に固定された支持部材21と、該支持部材21に対し着脱可能に装着された受け本体22とから一体に構成される。
【0022】
支持部材21は、垂直片部21aと水平片部21bとからなるL字状に形成され、その水平片部21bに、ロッド13aの頭部13a2を遊挿して上方へ突き抜け可能な横向きU字状の切欠部21b1を有する(
図5参照)。この切欠部21b1は、後述する嵌脱孔22a1及びガイド孔22a2を含むように、戸体開閉方向へ長尺状に形成される。そして、この支持部材21は、ねじ止めや、リベット止め、溶接等の固定手段によって、上枠40に固定される。
【0023】
また、受け本体22は、
図5に示すように、支持部材21に対し、戸体開放方向側から嵌め合わせられた金属製の部材であり、ネジやボルト等の止着具23によって支持部材21に脱着可能に止着されている。より詳細に説明すれば、この受け本体22は、略矩形平板状の平板部22aと、該平板部22aの戸厚方向の両端側から上方へ突出する係合部22b,22bとを有する。そして、平板部22aには、嵌脱孔22a1及びガイド孔22a2が形成される。
止着具23は、メンテナンスや交換等の作業性を向上する観点等から、
図5に示すように、受け本体22の下方側から着脱できるようにすることが好ましい。
また、係合部22bは、図示例によれば、断面逆L字型に上方へ突出しているが、この係合部22bは、支持部材21を係合できれば、図示例以外の形状とすることが可能である。さらに、この係合部22bは、支持部材21と受け本体22を止着具23のみによって頑強に固定できれば、上端側の曲げ部分を省いたり、当該係合部22b全体を省いたりすることが可能である。
【0024】
嵌脱孔22a1は、ガイド孔22a2の延設方向へ長尺なスロット孔状に形成され、支持部材21と受け本体22が止着された状態において、ガイド孔22a2の戸体閉鎖方向側に連通している。
嵌脱孔22a1と、該嵌脱孔22a1に挿入された際の頭部13a2との間には、
図2に示すように、戸体10の開閉方向に沿う第一の隙間(隙間X1,X2)と、前記開閉方向に直交する方向の第二の隙間(隙間Y1,Y2)とが確保される。
また、ガイド孔22a2は、ロッド13aの頭部13a2を挿入不能であって、基軸部13a1のみをスライド自在に挿入するように、幅寸法および長さ等が設定されている。
【0025】
前記第一の隙間について詳細に説明すれば、
図2(a)に示すように、基軸部13a1よりも戸体閉鎖方向側(図示例によれば左側)における嵌脱孔22a1内縁と頭部13a2外周面との間の開閉方向の最大の隙間をX1とし、基軸部13a1よりも戸体開放方向側(図示例によれば右側)における嵌脱孔22a1内縁と頭部13a2外周面との間の開閉方向の最大の隙間をX2とした場合に、前記第一の隙間は、隙間X1と隙間X2とを合わせた隙間である。
また、前記第二の隙間は、戸体開閉方向に直交する戸厚方向(
図2(a)によれば上下方向)において、頭部13a2の両側に位置する嵌脱孔22a1内縁と頭部13a2外周面との間の隙間Y1,Y2を合わせた隙間である。
そして、前記第一の隙間は、前記第二の隙間よりも大きく設定される。
【0026】
受け本体22の各係合部22bは、他の係合部22bに対向する断面横向き凹状の部材であり、受け本体22の戸厚方向の端縁に沿って戸厚方向へ連続している(
図5参照)。これら両係合部22b,22bの間には、戸体開放方向側から受け本体22が挿入嵌合される。受け本体22は、支持部材21に対し止着具23(ねじ又はボルト等)によって固定されている。この固定状態では、受け本体22の嵌脱孔22a1及びガイド孔22a2は、上下方向において切欠部21b1内の空間に重ね合わせられる。
また、止着具23を緩めれば、支持部材21から受け本体22を外すことが可能である。
【0027】
また、縦枠30は、戸体10の戸先と対向して上下方向へ連続する部材である。
この縦枠30における戸体10と対向する面には、開閉する戸体10の戸先を嵌脱する凹部31(
図3参照)と、鍵部材14aを係脱させる係脱凹部32(
図1参照)が形成される。
【0028】
凹部31は、戸体10の高さ方向の全長にわたって連続する凹溝状に形成される。なお、
図3(a)(b)に示す一例によれば、戸体10の戸先が凹部31内に嵌り合った状態で、戸体10の戸先と凹部31内底部との間に隙間があるように図示しているが、戸体10の戸先は、係脱凹部32の近傍で凹部31内底部に対し部分的に当接するようになっている。
【0029】
また、係脱凹部32は、鍵部材14aを挿入し掛止するように形成される。
詳細に説明すれば、突端側に曲がり部を有するL字状の鍵部材14aは、前記曲がり部よりも戸本体11側の部分を係脱凹部32の開口縁の上端に接触又は近接させて、前記曲がり部を係脱凹部32内に掛止する。前記接触又は近接する部分は、後述する第一の隙間を求める計算において支点Pとして扱われる。
そして、上記構成の縦枠30は、床面または下枠から上方へ柱状に延設されており、上枠40の横幅方向の一端と他端にそれぞれ接続されるようにして、当該引戸装置の設置対象である建造物の壁面等に固定される。
【0030】
上枠40は、左右の縦枠30,30の上端側間にわたって横幅方向へ連続する部材であり、その内部に、ガイドレール41や受け部材20等が固定されている。ガイドレール41は、戸体開閉方向へわたるレール状の部材であり、その上面によって戸体10上端側の吊車12,12を転動可能に受けている。
また、上枠40内には、必要に応じて、戸体10を閉鎖方向または開放方向へ駆動する開閉駆動装置(例えば、戸体10をリールに巻かれたワイヤーで引っ張る装置や、戸体10を開閉動作させるリニアモータ等)や、戸体10の全閉時の衝撃を緩和するダンパー装置等が設けられる。
【0031】
ここで、上述した第一の隙間(
図2参照)について更に詳細に説明すれば、戸体10が戸先を縦枠30の凹部31に嵌合した状態(
図3(b)参照)から、戸体10の戸先10aと凹部31の縁31a(換言すれば縦枠30の戸体開放方向側の端面)との間で戸厚方向へ貫通する第三の隙間X3(
図3参照)が5mm以下0mm以上になった状態(
図4(b)参照)までの範囲で、嵌脱孔22a1が頭部13a2に嵌脱可能となるように、前記第一の隙間(=X1+X2)が設定される。第三の隙間X3は、指等が入らないことを目安に設定された隙間である。
前記設定とすれば、戸体10が凹部31に嵌り合った状態と、戸体10が縦枠30との間に第三の隙間X3を有する状態との範囲内で、受け本体22に対するロッド13aの嵌脱が可能となる。
【0032】
さらに、本実施例では、縦枠30の上端部よりも下方側の部分(
図1の一例によれば、鍵部材14aと係脱凹部32とが接触又は近接する部分)を支点Pにした回転運動により縦枠30が予め設定された層間変形角αラジアン以内で傾くものと仮定し、受け部材20と支点Pとの間の上下方向の距離をLとした場合に、前記第一の隙間のうち、縦枠30の上端側が傾く方向に対する逆側の隙間(X1又はX2)を、層間変形角αラジアンと距離Lとを掛け合わせて求めている。
【0033】
より具体的に説明すれば、例えば地震等に起因して、
図1の実線で示すように、縦枠30が支点Pを中心にした回動により一方向へ層間変形角α2ラジアン傾くものと仮定し、受け部材20と接触部分Pとの間の垂直方向の距離をLとした場合に、縦枠30の上端側が傾く方向に対する逆側(図示例によれば左側)の隙間X1(
図2参照)は、層間変形角α2ラジアンと距離Lとを掛け合わせた値となる。
同様にして、
図1の二点鎖線で示すように、縦枠30が支点Pを中心にした回動により他方向へ層間変形角α1ラジアン傾くものと仮定し、受け部材20と接触部分Pとの間の垂直方向の距離をLとした場合に、縦枠30の上端側が傾く方向に対する逆側(図示例によれば右側)の隙間X2(
図2参照)は、層間変形角α1ラジアンと距離Lとを掛け合わせた値となる。
ここで、層間変形角α1,α2は、例えば建築基準法施行令等によって規定された値を用いることができる。
例えば、層間変形角α1,α2を1/120ラジアン、距離Lを1500mmとした場合、隙間X1,X2は、それぞれ12.5mmとなる。
【0034】
なお、上記実施例では、鍵部材14aと係脱凹部32との接触部分Pから縦枠30の上端部までの距離をLとして、上記のように隙間X1,X2を求めたが、他例として、鍵部材14aを有さない態様の場合には、地震等の際に縦枠30がその下端部に対向する不動部位(例えば床面や下枠等)との接触部分を支点にした回転運動により傾くことから、上記距離Lに置換して、受け部材20と前記接触部分との間の距離L’(
図1参照)を用い、隙間X1,X2を求める。
【0035】
上記構成の引戸装置及びドアガード構造によれば、ロッド13aの先端側と受け部材20の嵌脱孔22a1とが嵌り合った状態で、例えば地震等に起因して縦枠30が戸体開閉方向の一方へ傾いた場合でも、第一の隙間を構成する二つの隙間X1,X2を有するため、頭部13a2がガイド孔22a2側の縁やその逆側(
図2によれば左側)の嵌脱孔22a1の縁等に引っ掛かって抜けなくなるようなことを防ぐことができる。
【0036】
また、万が一、ロッド13aが受け部材20から抜けなくなってしまった場合には、止着具23を緩めて外せば、受け本体22が戸厚開閉方向へ移動自在になるため、ロッド13aを抜くことができる。
【0037】
なお、図示例によれば、第一の隙間を構成する二つの隙間X1,X2を略同等の寸法に設定しているが、他例としては、これら隙間X1,X2を異なる寸法に設定してもよく、この場合には、特にガイド孔22a2側の引っ掛かりによる係脱不良を効果的に軽減できるように、隙間X2を隙間X1よりも大きくするのが好ましい。
【0038】
また、上記実施例によれば、本発明に係るドアガード構造を引戸装置に適用したが、他例としては、同ドアガード構造を、折戸の戸先側に引戸状に開閉する戸体を接続している開閉装置に適用することも可能である。この場合、具体的には、折戸の戸先側で引戸状に開閉する前記戸体に、上下方向へ出没するように上記ロッド13aを設け、ロッド13aの突出方向側の不動部位にはロッド13aに嵌脱するように受け部材20を固定すればよい。
【0039】
また、上記実施例によれば、ロッド13aを戸本体11の上端から上下方向へ出没するようにしたが、他例としては、ロッド13aを戸本体11の下端から下方へ突出したり上方へ没入したりする構成とすることも可能である。この場合には、下方向きのロッド13aに対向するように受け部材20を配置し、該受け部材20を床面や下枠等の不動部位に固定すればよい。
【0040】
さらに他例としては、ロッド13aを戸本体11の表面又は裏面から戸厚方向へ出没する構成とすることも可能である。この場合には、戸厚方向へ出没するロッド13aに対向するように受け部材20を配置し、該受け部材20を例えば戸袋等の不動部位に固定すればよい。
【0041】
さらに他例として、上記ドアガード構造を二枚の戸体を有する引違いタイプの引戸装置に適用することも可能であり、この場合には、一方の戸体を上記戸本体11とし、他方の戸体を上記不動部位として、前記一方の戸体にロッド13aを戸厚方向へ出没するように設けるとともに、前記他方の戸体に受け部材20を固定するようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施例によれば、吊戸方式の引戸に上記ドアガード構造を適用したが、他例としては、床面や下枠のレール上をスライドする引戸に対し、上記ドアガード構造を適用することも可能である。
【0043】
また、上記実施例によれば、支持部材21と受け本体22から受け部材20を構成したが、他例としては、受け本体22を省くとともに、支持部材21に、切欠部21b1に換えて、嵌脱孔22a1及びガイド孔22a2を設け、この支持部材21を受け部材として用いるようにしてもよい。