(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296795
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】改善されたワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20180312BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20180312BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/00 G
A61P37/04
【請求項の数】23
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2013-530744(P2013-530744)
(86)(22)【出願日】2011年9月30日
(65)【公表番号】特表2013-538841(P2013-538841A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2011067080
(87)【国際公開番号】WO2012042003
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年9月16日
【審判番号】不服2016-11400(P2016-11400/J1)
【審判請求日】2016年7月29日
(31)【優先権主張番号】PA201000887
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】513078985
【氏名又は名称】ユーロシネ ヴァクシンズ アクチエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュレーダー ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】アルヴィッドソン ハンス
【合議体】
【審判長】
田村 聖子
【審判官】
冨永 みどり
【審判官】
井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−512292(JP,A)
【文献】
Vaccine,2010年 9月 7日,Vol.28,No.39,p6491−6497
【文献】
Positive Results from Eurocine Vaccines Clinical Phase I/II Study with the Nasal Influenza Vaccine,Press Release,2010年 7月 9日,[online],[平成27年7月14日検索],インターネット,<URL:http://www.eurocine−vaccines.com/wp−content/uploads/2011/08/2010−07−09−Positive−Results−from−Eurocine−Vaccines−Clinical.pdf>
【文献】
Vaccine,2004年,Vol.22,No.11−12,p1498−1508
【文献】
Vaccine,2003年,Vol.21,No.25−26,p4081−4093
【文献】
New England Journal of Medicine,2004年,Vol.350,No.9,p896−903
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00-39/44
CA(STN)
Biosis(STN)
Medline(STN)
Embase(STN)
JSTplus
JMEDplus
JST7580
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベル麻痺として観察される副作用を回避するためのヒト対象の経鼻投与用ワクチン接種における使用のための、
i) 1種もしくは複数種の抗原
ii) a)オレイン酸および/またはラウリン酸
および
b)モノオレインを含むアジュバント
を含むワクチン組成物。
【請求項2】
従来のアジュバントを含む経鼻投与用ワクチン組成物において発生していたベル麻痺として観察される副作用を回避するためのヒト対象の経鼻投与用ワクチン接種における使用のための、
i) 1種もしくは複数種の抗原
ii) a)オレイン酸および/またはラウリン酸
および
b)モノオレインを含むアジュバント
を含むワクチン組成物。
【請求項3】
ヒト対象の経鼻投与用ワクチン接種における使用のための、
i) 1種もしくは複数種の抗原
ii) a)オレイン酸および/またはラウリン酸
および
b)モノオレインを含むアジュバント
を含むワクチン組成物であって、前記ワクチン組成物を投与されたヒト対象におけるベル麻痺の頻度を、ベル麻痺の自然発生率と等しくするための、ワクチン組成物。
【請求項4】
ヒト対象の経鼻投与用ワクチン接種における使用のための、
i) 1種もしくは複数種の抗原
ii) a)オレイン酸および/またはラウリン酸
および
b)モノオレインを含むアジュバント
を含むワクチン組成物であって、前記ワクチン組成物を投与されたヒト対象におけるベル麻痺の頻度を、ベル麻痺の自然発生率よりも高くなくするための、ワクチン組成物。
【請求項5】
モノオレインの濃度が、アジュバント混合物100 ml当たり0.1 g〜50 gの範囲、または100 ml当たり1 g〜20 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり0.5 g〜40 g、0.5 g〜30 g、0.5 g〜25 g、1 g〜20 g、2 g〜15 g、5 g〜10 gである、請求項1〜4のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項6】
オレイン酸および/またはラウリン酸の濃度が、アジュバント混合物100 ml当たり0.1 g〜50 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり1 g〜20 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり0.5 g〜40 g、0.5 g〜30 g、0.5 g〜25 g、1 g〜20 g、2 g〜15 g、5 g〜10 gであってよい、請求項1〜5のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項7】
アジュバント混合物中のオレイン酸および/またはラウリン酸と合わせたモノオレインが、最大で75% w/v、または最大で50% w/v、または最大で25% w/v、または最大で20% w/v、または最大で15% w/v、または最大で10% w/v、または最大で5% w/v、または最大で4% w/v、または最大で3% w/v、または最大で2% w/v、または最大で1% w/v、または最大で0.5% w/v、または最大で0.1% w/vである、請求項1〜6のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項8】
アジュバントが媒体をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項9】
媒体が水性である、請求項1〜8のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項10】
媒体が、生理学的に許容される範囲内、pH 4〜pH 9、pH 5〜pH 7、pH 5.5〜pH 6.5、またはpH 6もしくはpH 5もしくはpH 8、またはpH 7〜pH 9、pH 7.5〜pH 8.5のpHを有する、請求項1〜9のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項11】
媒体が界面活性剤をさらに含む、請求項8〜10のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項12】
界面活性剤が、親水性であり、かつ不活性かつ生体適合性である、請求項11記載のワクチン組成物。
【請求項13】
アジュバントが、スクアレン、ダイズ油、もしくはアルミニウム塩から選択される付加的なアジュバントをさらに含み、アルミニウム塩が水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸ヒドロキシリン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、またはそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1〜12のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項14】
媒体が、緩衝剤、安定化剤、浸透活性剤、保存剤、およびpH調整剤、またはそれらの任意の組み合わせから選択される、1種または複数種の生理学的に許容される添加剤または薬学的賦形剤をさらに含む、請求項8〜12のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項15】
抗原が、細菌、ウイルス、寄生虫、アレルギー、癌抗原、またはそれらの組み合わせより選択される、請求項1〜14のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項16】
抗原が、肝炎ウイルスA、B、C、D、およびE3、HIV、ヘルペスウイルス1、2、6、および7、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ブニヤウイルス(ハンタウイルス)、コクサッキーウイルス、ピコルナウイルス、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ポックスウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、パポバウイルス、ムンプスウイルス、ならびに麻疹ウイルス、結核およびハンセン病を引き起こすマイコバクテリア、肺炎球菌、好気性グラム陰性桿菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌感染症、連鎖球菌感染症、サルモネラ、ならびにクラミジア、ヘリコバクター・ピロリ(helicobacter pylori)、マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラズマ症、住血吸虫症、フィラリア症から選択される、1種または複数種のウイルス抗原または細菌抗原または寄生虫抗原より選択される、請求項1〜15のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項17】
抗原が、結核およびハンセン病を引き起こすマイコバクテリア、肺炎球菌、好気性グラム陰性桿菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌感染症、連鎖球菌感染症、サルモネラ、ならびにクラミジアから選択される、感染を引き起こす1種または複数種の抗原より選択される、請求項1〜15のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項18】
抗原が、寄生虫性マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラズマ症、住血吸虫症、フィラリア症を引き起こす1種または複数種の抗原より選択される、請求項1〜15のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項19】
抗原が、乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、悪性黒色腫、喉頭癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌から選択される様々な種類の癌を引き起こす、1種または複数種の抗原より選択される、請求項1〜15のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項20】
抗原が、チリダニ、花粉、またはその他の環境アレルゲンに起因するアレルギーおよび自己免疫疾患を引き起こす、1種または複数種の抗原より選択される、請求項1〜15のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項21】
免疫応答を誘発するのに十分な量のアジュバントおよび抗原を含む、請求項1〜20のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項22】
鼻腔中にワクチンを噴霧することにより、または鼻腔の粘膜上にピペットでワクチンを滴下することによってワクチンを投与することにより、ワクチンが鼻腔の粘膜に投与される、請求項1〜21のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【請求項23】
最終ワクチン組成物100 g当たり、
i) 0.1 g〜90 gのオレイン酸および/またはラウリン酸
ii) 0.1 g〜90 gのモノオレイン
iii) 0.001 g〜90 gの抗原
を含む、請求項1〜22のいずれか一項記載のワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、本発明によるアジュバントおよびアジュバントを含むワクチン組成物の使用であって、それによって、自然発生を上回る頻度のべル麻痺の現象を回避する、使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ベル麻痺とは、患側の顔面筋の制御不能をもたらす第VII脳神経(顔面神経)の機能不全である。いくつかの病態、例えば、脳腫瘍、脳卒中、およびライム病が顔面麻痺を引き起こし得る。しかしながら、具体的な原因を特定することができない場合、その病態はベル麻痺として知られる。初めてこれについて述べたスコットランドの解剖学者Charles Bellにちなんで命名されたベル麻痺は、最も一般的な急性単神経炎(単一の神経のみを侵す疾患)であり、急性顔面神経麻痺の最も一般的な原因である。
【0003】
ベル麻痺は、通常は自己限定的である特発性片側顔面神経麻痺と定義され、年間約30〜35/100,000の頻度で起こる。典型的な特徴は、部分麻痺または完全麻痺の通常1日での急速な発症である。症例のおよそ1%では、これが両側に起こり、完全な顔面麻痺を引き起こし得る。例えば欧州では、ベル麻痺の年間発生率は100,000人当たりおよそ32症例である。63%の確率で、右側が罹患する。糖尿病を有する人は、糖尿病のない人よりもベル麻痺に罹患するリスクが29%高い。したがって、ベル麻痺の診断時に血糖値を測定することで、診断されていなかった糖尿病が検出される場合がある。国際的には、最も高い発生率は1986年にSeckori、日本での研究で見られ、最も低い発生率は1971年にスウェーデンで見られた。大部分の集団研究から、一般的に、年間発生率は100,000人および1年当たり30〜35症例であって、発生率は年齢に依存し、高齢者ほど発生率が高く(100,000当たり60症例まで)、若いほど発生率が低いことが示される。
【0004】
炎症状態が顔面神経の腫脹を引き起こすと考えられている。この神経は、頭蓋骨を通って耳下の細い骨管の中を走行している。細い骨管の中での神経の腫脹および圧迫が、神経の阻害、損傷、または死滅を引き起こすと考えられている。
【0005】
ベル麻痺は、顔面の筋肉を制御する顔面神経(第VII脳神経)の機能不全に起因する、罹患側の顔面の下垂を特徴とする。顔面麻痺は、顔面筋の動きを制御できないことによって典型的に表される。この麻痺は、核下性/下位運動ニューロン型である。
【0006】
顔面神経は、まばたきおよび閉眼、微笑み、眉ひそめ、流涙、および唾液分泌などのいくつかの機能を司る。この神経はまた、中耳のアブミ骨(stapedial)(アブミ骨(stapes))筋を支配し、舌の前3分の2からの味覚を伝達する。
【0007】
解剖学的特性により、前頭部の筋肉は脳の両側から神経支配を受ける。したがって、顔面麻痺が脳の半球の一方の障害によって生じた患者(中枢性顔面麻痺)は、それでもなお額にしわを寄せることができる。障害が顔面神経自体にある場合には(末梢性麻痺)、前頭部まで含め、顔の同側(病変と同じ側)半分ですべての神経シグナルが失われる(反対側の額はそれでもなおしわが寄る)。
【0008】
鑑別診断において除外が困難であると考えられる1つの疾患は、帯状疱疹ウイルスによる感染への顔面神経の関与である。この状態における大きな違いは、外耳上の小疱疹または小水疱の存在および聴覚障害であるが、これらの所見は見られない場合もある(無疱疹性帯状疱疹)。
【0009】
ライム病は典型的な麻痺を生じ得、血液中のライム特異的抗体を見出すことによって容易に診断することができる。流行地では、ライム病が顔面神経の最も一般的な原因となり得る。
【0010】
神経損傷の程度は、House-Brackmannスコアを用いて評価することができる。
【0011】
単神経炎(単一の神経のみを侵す)と定義されるにもかかわらず、ベル麻痺と診断された患者は、「顔面神経機能不全によって説明のつかない」「顔面の刺痛、中等度または重度の頭痛/頸部痛、記憶障害、平衡障害、同側の四肢の知覚異常、同側の四肢の脱力、およびぎこちなさ感」を含む「無数の神経学的症状」を有し得る。これは、いまだこの病態の不可解な面である。
【発明の概要】
【0012】
発明の詳細な説明
ワクチン組成物の臨床試験中に、ベル麻痺の高頻度の発生が見られている(Plos One (2009), vol 4 (9), e6999)。ベル麻痺は通常、神経的な顔面能力の完全な回復を受ける一時的な病態であるが、これは極めて許容できない副作用として見られ、その結果として臨床試験は終了し、このワクチンは決して市場に出ることはない。本発明によるアジュバントを使用することにより、ベル麻痺の発生率または頻度が自然発生率(年間、100,000個体当たり15〜30症例)と同じであるという意味で、ベル麻痺として観察される望ましくない副作用が回避されることが企図される。
【0013】
本発明によるアジュバントは、
i) 1種もしくは複数種のカルボン酸または1種もしくは複数種のアミン
および任意で
ii) 1種または複数種のモノグリセリド
を含み得る。
【0014】
本発明によるアジュバントはまた、
1種のアミンまたは2種のアミンの混合物
を含むアジュバントであってもよい。
【0015】
本発明によるアジュバントはまた、
1種のアミンまたは2種のアミンの混合物を含み、かつ付加的なアジュバント、例えばスクアレンまたはダイズ油などをさらに含むアジュバントであってもよい。本発明によるアジュバントはまた、
i) 1種または複数種のカルボン酸、および任意で
ii) 1種または複数種のモノグリセリド
を含むアジュバントであってもよい。
【0016】
本発明によるアジュバントはまた、
i) 1種または複数種のカルボン酸、および任意で
ii) 1種または複数種のモノグリセリド
を含み、かつ付加的なアジュバント、例えばスクアレンまたはダイズ油などをさらに含むアジュバントであってもよい。
【0017】
本発明によるアジュバントはまた、
i) 1種のカルボン酸または2種のカルボン酸の混合物、および任意で
ii) 1種または複数種のモノグリセリド
を含み、かつ付加的なアジュバント、例えばスクアレンまたはダイズ油などをさらに含むアジュバントであってもよい。
【0018】
本発明はまた、ワクチンにおける、
i) 1種もしくは複数種のカルボン酸および/または1種もしくは複数種のアミン、ならびに
b) 任意で、1種または複数種のモノグリセリド
を含むアジュバントの使用であって、それによって、対象におけるベル麻痺のリスクをほぼ自然発生率まで減少させる、使用に関する。
【0019】
いかなる理論にも縛られることはないが、本発明によるカルボン酸(およびそれらの対応するアミン)およびモノグリセリドの内因性様の特徴により、最小の全身的撹乱が達成され、これによりベル麻痺の観察される症例が低発生となり得る、すなわちベル麻痺の自然発生症例とほぼ同じ頻度の発生が生じ得ると考えられる。
【0020】
さらに、ベル麻痺の考えられる1つの原因は嗅神経の形態変化であることも推測されており、これは、とりわけコレラ毒素がワクチン中のアジュバントとして用いられた場合に観察されている。
【0021】
本発明において用いられるアミンは、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミンを含み、該不飽和はさらに任意で異なる種類のものであってよい。この定義は、任意の組み合わせであってよい異なる種類の異性体、例えばジアステレオ異性(シス・トランス異性体)なども網羅することが意図されることもまた理解される。
【0022】
本発明において用いられるカルボン酸は、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、任意で分岐または非分岐、環式または非環式であってよい長鎖(C4〜C30)アルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、またはアルキニルカルボン酸を含み、該不飽和はさらに任意で異なる種類のものであってよい。
【0023】
本発明において用いられるモノグリセリドはグリセリンのカルボン酸エステルであってよく、該カルボン酸は、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、任意で分岐または非分岐であってよい長鎖(C4〜C30)アルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、またはアルキニルカルボン酸であってよく、該不飽和はさらに任意で異なる種類のものであってよい。
[本発明1001]
ワクチンにおける、
i) 1種もしくは複数種のカルボン酸または1種もしくは複数種のアミン
および任意で
b) 1種または複数種のモノグリセリド
を含むアジュバントの使用であって、それによって、対象におけるベル麻痺のリスクをほぼ自然発生率まで減少させる、使用。
[本発明1002]
1種または複数種のアミンが、単独であるかまたは任意の組み合わせの、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミンであり、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよく、該不飽和が、さらに任意で異なる種類のものであってよい、本発明1001の使用。
[本発明1003]
1種または複数種のアミンが、ラウリルアミン(C12)、ミリスチルアミン(C14)、セチルアミン(C16)、パルミトレイルアミン(C16:1)、オレイルアミン(C18:1)、リノレイルアミン(C18:2)、およびステアリルアミン(C18)であり、その他の例は、単独であるかまたは任意の組み合わせの、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミンである、本発明1001または1002の使用。
[本発明1004]
1種または複数種のカルボン酸が、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、およびアルキニルカルボン酸から選択され、かつ炭素原子4〜30個、または炭素原子6〜24個、または炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個から選択され、該不飽和が、さらに任意で同一分子において異なる種類のものであってよい、本発明1001の使用。
[本発明1005]
カルボン酸が、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸(カプリン酸)、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γリノレン酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、およびネルボン酸のうちの1種または複数種から選択される、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1006]
モノグリセリドが、例えばラウリル酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、ステアリン酸、ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸(カプリン酸)、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γリノレン酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ネルボン酸、またはそれらの任意の組み合わせより選択されるカルボン酸でモノエステル化されたグリセリドである、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1007]
モノグリセリドの濃度が、アジュバント混合物100 ml当たり例えば約0.1 g〜約50 gの範囲、または100 ml当たり例えば約1 g〜約20 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり例えば約0.5 g〜約40 g、例えば0.5 g〜約30 gなど、例えば約0.5 g〜約25 gなど、例えば1 g〜約20 gなど、約2 g〜約15 gなど、例えば5 g〜約10 gなどである、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1008]
カルボン酸の濃度が、アジュバント混合物100 ml当たり例えば約0.1 g〜約50 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり約1 g〜約20 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり約0.5 g〜約40 g、例えば0.5 g〜約30 gなど、例えば約0.5 g〜約25 gなど、例えば1 g〜約20 gなど、約2 g〜約15 gなど、例えば5 g〜約10 gなどであってよい、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1009]
アジュバント混合物中の1種または複数種のカルボン酸と合わせた1種または複数種のモノグリセリドが、最大で75% w/v、または最大で50% w/v、または最大で25% w/v、または最大で20% w/v、または最大で15% w/v、または最大で10% w/v、または最大で5% w/v、または最大で4% w/v、または最大で3% w/v、または最大で2% w/v、または最大で1% w/v、または最大で0.5% w/v、または最大で0.1% w/vである、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1010]
モノグリセリドがモノオレインであり、かつカルボン酸がオレイン酸および/またはラウリン酸である、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1011]
2種のアミン間のw/w比が約0.1〜約10、例えば、約0.25〜約9、約0.5〜約8、約0.75〜約7、約1〜約6、約1〜約5、約1〜約4、約1〜約3、約1〜約2、または約1〜約1などであるように、アジュバントが2種のアミンを含む、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1012]
1種のアミンがオレイルアミンまたはラウリルアミンである、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1013]
2種のアミンが、オレイルアミンとラウリルアミンの混合物である、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1014]
オレイルアミンとラウリルアミンのw/w比が、約0.1〜約10、例えば、約0.25〜約9、約0.5〜約8、約0.75〜約7、約1〜約6、約1〜約5、約1〜約4、約1〜約3、約1〜約2、および約1〜約1などであってよい、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1015]
アジュバントが、1種または複数種のアミン、例えば2種またはそれ以上などのアミン、例えば3種またはそれ以上などのアミン、例えば4種またはそれ以上などのアミンを含み、かつモノグリセリドを含まない、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1016]
1種のアミンがオレイルアミンまたはラウリルアミンである、本発明1015の使用。
[本発明1017]
2種またはそれ以上のアミンが、オレイルアミンとラウリルアミンの混合物である、本発明1015の使用。
[本発明1018]
アジュバント含有媒体中のアミンの全量が、約0.1% w/v〜約15% w/v、例えば、約0.25% w/v〜約12.5% w/v、約0.5% w/v〜約10% w/v、約1% w/v〜約7.5% w/v、約1% w/v〜約5% w/v、約1% w/v〜約4% w/v、約1% w/v〜約3% w/v、約1% w/v〜約2% w/v、または約0.5% w/v〜約4% w/vなどである、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1019]
アジュバントが媒体をさらに含む、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1020]
媒体が水性である、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1021]
媒体が、生理学的に許容される範囲内、例えば約pH 4〜約pH 9など、例えば約pH 5〜約pH 7など、例えば約pH 5.5〜約pH 6.5など、または例えば約pH 6もしくは約pH 5もしくは約pH 8など、または約pH 7〜約pH 9、例えば約pH 7.5〜約pH 8.5などのpHを有する、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1022]
媒体が界面活性剤をさらに含む、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1023]
界面活性剤が、例えばPluronic F68またはPluronic-127などのように、親水性であり、かつ不活性かつ生体適合性である、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1024]
アジュバントが、例えばスクアレン、ダイズ油、もしくは例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸ヒドロキシリン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウムなどのアルミニウム塩、またはそれらの任意の組み合わせなどの、付加的なアジュバントをさらに含む、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1025]
媒体が、例えば緩衝剤、安定化剤、浸透活性剤、保存剤、およびpH調整剤、またはそれらの任意の組み合わせなどの、1種または複数種の生理学的に許容される添加剤または薬学的賦形剤をさらに含む、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1026]
i) 本発明1001〜1025のいずれかのアジュバント
ii) 抗原
を含むワクチンの使用であって、それによって、約40/100,000という自然発生率よりも高い頻度での対象におけるベル麻痺を回避する、使用。
[本発明1027]
抗原が、例えば細菌、ウイルス、寄生虫、アレルギー、癌抗原、またはそれらの組み合わせより選択される、本発明1026の使用。
[本発明1028]
抗原が、例えば肝炎ウイルスA、B、C、D、およびE3、HIV、ヘルペスウイルス1、2、6、および7、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ブニヤウイルス(ハンタウイルス)、コクサッキーウイルス、ピコルナウイルス、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ポックスウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、パポバウイルス、ムンプスウイルス、ならびに麻疹ウイルス、結核およびハンセン病を引き起こすマイコバクテリア、肺炎球菌、好気性グラム陰性桿菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌感染症、連鎖球菌感染症、サルモネラ、ならびにクラミジア、ヘリコバクター・ピロリ(helicobacter pylori)、マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラズマ症、住血吸虫症、フィラリア症などの、1種または複数種のウイルス抗原または細菌抗原または寄生虫抗原より選択される、本発明1026または1027の使用。
[本発明1029]
抗原が、例えば結核およびハンセン病を引き起こすマイコバクテリア、肺炎球菌、好気性グラム陰性桿菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌感染症、連鎖球菌感染症、サルモネラ、ならびにクラミジアなどの、感染を引き起こす1種または複数種の抗原より選択される、本発明1026または1027の使用。
[本発明1030]
抗原が、寄生虫性マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラズマ症、住血吸虫症、フィラリア症を引き起こす1種または複数種の抗原より選択される、本発明1026または1027の使用。
[本発明1031]
抗原が、例えば乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、悪性黒色腫、喉頭癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌などの様々な種類の癌を引き起こす、1種または複数種の抗原より選択される、本発明1026または1027の使用。
[本発明1032]
抗原が、チリダニ、花粉、またはその他の環境アレルゲンに起因するアレルギーおよび例えば全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患を引き起こす、1種または複数種の抗原より選択される、本発明1026または1027の使用。
[本発明1033]
免疫応答を誘発するのに十分な量のアジュバントおよび抗原を含む、本発明1026〜1032のいずれかの使用。
[本発明1034]
ワクチンが水性媒体をさらに含む、本発明1026〜1033のいずれかの使用。
[本発明1035]
ワクチンが非経口投与または粘膜投与に適した形態である、本発明1026〜1034のいずれかの使用。
[本発明1036]
ワクチンが、鼻、口、腟、直腸、または腸の粘膜への投与に適した形態である、本発明1026〜1035のいずれかの使用。
[本発明1037]
ワクチンが鼻腔の粘膜に投与される、本発明1036の使用。
[本発明1038]
鼻腔中にワクチンを噴霧することにより、または鼻腔の粘膜上にピペットでワクチンを滴下することによってワクチンを投与することにより、ワクチンが鼻腔の粘膜に投与される、本発明1037の使用。
[本発明1039]
ワクチンが、最終ワクチン組成物100 g当たり、
i) 約0.1 g〜約90 gのカルボン酸
ii) 約0.1 g〜約90 gのモノグリセリド
iii) 約0.001〜約0.01 g〜約90 gの抗原
を含む、本発明1026〜1038のいずれかの使用。
[本発明1040]
カルボン酸がオレイン酸および/またはラウリン酸であり、かつモノグリセリドがモノオレインである、本発明1039の使用。
[本発明1041]
ワクチン組成物がオレイルアミンおよびスクアレンまたはダイズ油を含む、本発明1026〜1038のいずれかの使用。
[本発明1042]
ワクチン組成物が、スクアレンもしくはダイズ油またはそれらの混合物より選択される付加的なアジュバントをさらに含む、本発明1041の使用。
[本発明1043]
ワクチン組成物がオレイルアミンおよびラウリルアミンを含む、本発明1026〜1038のいずれかの使用。
[本発明1044]
ワクチン組成物が、スクアレンもしくはダイズ油またはそれらの混合物より選択される付加的なアジュバントをさらに含む、本発明1043の使用。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
特許請求の範囲を含む本文を通して、以下の用語は以下に示されるように定義される。
【0025】
「アミン」という用語は、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミンを包含し、該不飽和はさらに任意で異なる種類のものであってよい。この定義は、任意の組み合わせであってよい異なる種類のジアステレオ異性(シス・トランス異性体)も網羅することが意図されることもまた理解される。
【0026】
例は、これらに限定されないが、ラウリルアミン(C12)、ミリスチルアミン(C14)、セチルアミン(C16)、パルミトレイルアミン(C16:1)、オレイルアミン(C18:1)、リノレイルアミン(C18:2)、およびステアリルアミン(C18)である。その他の例は、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミンである。
【0027】
「カルボン酸」という用語は、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、およびアルキニルカルボン酸を包含し、該不飽和はさらに任意で異なる種類のもの(任意の混合または組み合わせの二重結合および三重結合)であってよい。この定義は、任意の組み合わせであってよい異なる種類のジアステレオ異性(シス・トランス異性体)も網羅することが意図されることもまた理解される。
【0028】
例は、これらに限定されないが、ラウリル酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、およびステアリン酸である。その他の例は、ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸(カプリン酸)、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γリノレン酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、およびネルボン酸である。
【0029】
「モノグリセリド」という用語はグリセリン(プロパン-1,2,3-トリオール)のカルボン酸モノエステルを包含し、カルボン酸は、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、およびアルキニルカルボン酸であってよく、該不飽和はさらに任意で異なる種類のものであってよい。この定義は、任意の組み合わせであってよい異なる種類のジアステレオ異性(シス・トランス異性体)も網羅することが意図されることもまた理解される。
【0030】
グリセロールのエステル化に用いられる酸の例は、これらに限定されないが、ラウリル酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、およびステアリン酸である。その他の例は、ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸(カプリン酸)、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γリノレン酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、およびネルボン酸である。
【0031】
「抗原」という用語は、免疫応答の標的として作用し得るすべてのものと定義される。免疫応答は細胞性または体液性のいずれかであってよく、全身および/または粘膜区画中で検出され得る。
【0032】
「ワクチン」という用語は本明細書において、能動免疫をもたらすために動物またはヒトの身体に導入される、通常、感染病原体または感染病原体のある一部からなる抗原部分の懸濁液または溶液として定義される。
【0033】
本明細書において用いられるような、本明細書により互換的に用いられる「アジュバント」または「アジュバント混合物」という用語は、投与される免疫原と混合することで、ヒトまたは動物の身体に導入した場合に、免疫応答を増加させるか、またはさもなくば変化させる任意の物質である。
【0034】
本明細書で用いられる「媒体」という用語は、生理学的に許容される媒体、例えば、緩衝液、塩、pH調節剤、保存剤等を含み得る水性媒体などを意味することが意図される。
【0035】
病態の発生率を減少させること、例えばベル麻痺の発生率を減少させることなどにおいて用いられる「減少させること」という用語は、その病態の自然発生率とほぼ等しいレベルまでの発生率の減少を意味することが意図される。ベル麻痺の場合、自然発生率は、年間100,000人当たりベル麻痺に罹患する人30〜35名である。
【0036】
病態の発生率を「回避すること」という用語は、対象が、病態、例えばベル麻痺などの自然発生頻度とほぼ等しい、該病態を誘引するリスクを有することを意味することが意図される。ベル麻痺に関して、対象は年間100,000個体あたり約30〜35症例のベル麻痺獲得リスクを有し、本発明に関する結果として、ベル麻痺の病態を回避する対象とは、対象が、年間100,000個体当たり30〜35症例の自然発生率とほぼ同じベル麻痺獲得リスクを有することを意味する。
【0037】
本発明に従って用いられるアジュバント混合物中の1つまたは複数のアミンは、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルアミン、アルケニルアミン、およびアルキニルアミンであってよく、該不飽和はさらに任意で異なる種類のものであってよい。アミンはまた、異なるジアステレオ異性体、シスまたはトランスであってもよく、これらはさらに(複数の不飽和の場合)同一分子において異なる種類のものであってよい。ジアステレオマーはまた、例えば、50%シスおよび50%トランス、または40%シスおよび60%トランス、または30%シスおよび70%トランス、または20%シスおよび80%トランス、または10%シスおよび90%トランス、または5%シスおよび95%トランス、または1%シスおよび99%トランス、または40%トランスおよび60%シス、または30%トランスおよび70%シス、または20%トランスおよび80%シス、または10%トランスおよび90%シス、または5%トランスおよび95%シス、または1%トランスおよび99%シス、または100%シスおよび0%トランス、または0%シスおよび100%トランスなどの任意の混合で存在し得る。
【0038】
例は、これらに限定されないが、ラウリルアミン(C12)、ミリスチルアミン(C14)、セチルアミン(C16)、パルミトレイルアミン(C16:1)、オレイルアミン(C18:1)、リノレイルアミン(C18:2)、およびステアリルアミン(C18)である。その他の例は、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミンである。
【0039】
2種のアミンを含む本発明によるアジュバントは、2種のアミン間のw/w比が約0.1〜約10、例えば、約0.25〜約9、約0.5〜約8、約0.75〜約7、約1〜約6、約1〜約5、約1〜約4、約1〜約3、約1〜約2、または約1〜約1などというものであってよい。あるいは、アジュバント中の1種または複数種のアミンの全量は、アジュバントの容積の、例えば、約100%またはそれ未満、約95%またはそれ未満、約90%またはそれ未満、約85%またはそれ未満、約80%またはそれ未満、約75%またはそれ未満、約70%またはそれ未満、約65%またはそれ未満、約60%またはそれ未満、約55%またはそれ未満、約50%またはそれ未満、約45%またはそれ未満、約40%またはそれ未満、約35%またはそれ未満、約30%またはそれ未満、約25%またはそれ未満、約20%またはそれ未満、約15%またはそれ未満、約10%またはそれ未満、約9%またはそれ未満、約8%またはそれ未満、約7%またはそれ未満、約6%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2%またはそれ未満、約1%またはそれ未満、約0.5%またはそれ未満、約0.25%またはそれ未満、約0.1%またはそれ未満、約0.05%またはそれ未満の範囲であってよい。
【0040】
2種のアミンを含む本発明によるアジュバントは、オレイルアミンとラウリルアミンの混合物であってよい。オレイルアミンとラウリルアミンのw/w比は、約0.1〜約10、例えば、約0.25〜約9、約0.5〜約8、約0.75〜約7、約1〜約6、約1〜約5、約1〜約4、約1〜約3、約1〜約2、および約1〜約1などであってよい。
【0041】
アジュバント混合物中で用いられるカルボン酸は、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、およびアルキニルカルボン酸であってよく、該不飽和はさらに任意で異なる種類のもの(任意の混合または組み合わせの二重結合および三重結合)であってよい。カルボン酸はまた、異なるジアステレオ異性体、シスまたはトランスであってもよく、これらはさらに(複数の不飽和の場合)同一分子において異なる種類のものであってよい。ジアステレオマーはまた、例えば、50%シスおよび50%トランス、または40%シスおよび60%トランス、または30%シスおよび70%トランス、または20%シスおよび80%トランス、または10%シスおよび90%トランス、または5%シスおよび95%トランス、または1%シスおよび99%トランス、または40%トランスおよび60%シス、または30%トランスおよび70%シス、または20%トランスおよび80%シス、または10%トランスおよび90%シス、または5%トランスおよび95%シス、または1%トランスおよび99%シス、または100%シスおよび0%トランス、または0%シスおよび100%トランスなどの任意の混合で存在し得る。
【0042】
例は、これらに限定されないが、ラウリル酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、およびステアリン酸である。その他の例は、ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸(カプリン酸)、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γリノレン酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、およびネルボン酸である。
【0043】
本発明によるモノグリセリドは、下記式を有し、
式中、Rは、R基のうちの2つがHであるという条件で、H、および炭素原子4〜30個を含むアシル基より選択される。モノグリセリドにおいて、アシル鎖は通常、グリセロール骨格の炭素原子1または3上に配置されるが、炭素原子1および3と中央炭素原子2との間でアシル移動が起こり、その結果としてアシル鎖のおよそ90%が炭素原子1または3上に位置し、約10%が中央炭素原子上に位置する場合もある。アシル基は、グリセロールのエステル化に用いられる対応するカルボン酸より選択されたものであってよいが、これに限定されず、任意で複数の不飽和(二重結合または三重結合)を有していてもよい、炭素原子4〜30個、例えば、炭素原子6〜24個、炭素原子8〜20個、または炭素原子12〜20個などの分岐または非分岐、環式または非環式、置換または非置換のアルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、およびアルキニルカルボン酸であってよく、該不飽和はさらに任意で異なる種類のものであってよい。グリセロールのエステル化に用いられるカルボン酸はまた、異なるジアステレオ異性体、シスまたはトランスであってもよく、これらはさらに(複数の不飽和の場合)同一分子において異なる種類のものであってよい。ジアステレオマーはまた、例えば、50%シスおよび50%トランス、または40%シスおよび60%トランス、または30%シスおよび70%トランス、または20%シスおよび80%トランス、または10%シスおよび90%トランス、または5%シスおよび95%トランス、または1%シスおよび99%トランス、または40%トランスおよび60%シス、または30%トランスおよび70%シス、または20%トランスおよび80%シス、または10%トランスおよび90%シス、または5%トランスおよび95%シス、または1%トランスおよび99%シス、または100%シスおよび0%トランス、または0%シスおよび100%トランスなどの任意の混合で存在し得る。
【0044】
グリセロールのモノエステル化に用いられる酸の例は、これらに限定されないが、ラウリル酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、およびステアリン酸である。その他の例は、ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸(カプリン酸)、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γリノレン酸、ジホモγリノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、およびネルボン酸である。
【0045】
本発明では、少なくとも80% w/w、例えば少なくとも90% w/wまたは少なくとも95% w/wなどの純度を有する、蒸留された1-モノグリセリドが用いられる。
【0046】
モノグリセリドの濃度は、アジュバント混合物100 ml当たり例えば約0.1 g〜約50 gの範囲、好ましくは100 ml当たり例えば約1 g〜約20 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり約0.5 g〜約40 g、例えば0.5 g〜約30 gなど、例えば約0.5 g〜約25 gなど、例えば1 g〜約20 gなど、約2 g〜約15 gなど、例えば5 g〜約10 gなどであってよい。
【0047】
カルボン酸の濃度は、アジュバント混合物100 ml当たり例えば約0.1〜50 gの範囲、好ましくはアジュバント混合物100 ml当たり1〜20 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり約0.5 g〜約40 g、例えば0.5 g〜約30 gなど、例えば約0.5 g〜約25 gなど、例えば1 g〜約20 gなど、約2 g〜約15 gなど、例えば5 g〜約10 gなどであってよい。
【0048】
1種もしくは複数種のモノグリセリドと1種もしくは複数種のカルボン酸とのアジュバント混合物において、カルボン酸中のモノグリセリドの割合は、1〜99%の間、好ましくは10〜90%の間で変化してよく、または例えば、アジュバント中の1種または複数種のモノグリセリドの全量は、例えば、約100%またはそれ未満、約95%またはそれ未満、約90%またはそれ未満、約85%またはそれ未満、約80%またはそれ未満、約75%またはそれ未満、約70%またはそれ未満、約65%またはそれ未満、約60%またはそれ未満、約55%またはそれ未満、約50%またはそれ未満、約45%またはそれ未満、約40%またはそれ未満、約35%またはそれ未満、約30%またはそれ未満、約25%またはそれ未満、約20%またはそれ未満、約15%またはそれ未満、約10%またはそれ未満、約9%またはそれ未満、約8%またはそれ未満、約7%またはそれ未満、約6%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2%またはそれ未満、約1%またはそれ未満、約0.5%またはそれ未満、約0.25%またはそれ未満、約0.1%またはそれ未満、約0.05%またはそれ未満の範囲であってよいという具合である。
【0049】
したがって、アジュバント中の1種または複数種のカルボン酸の全量は、アジュバントの容積の、例えば、約100%またはそれ未満、約95%またはそれ未満、約90%またはそれ未満、約85%またはそれ未満、約80%またはそれ未満、約75%またはそれ未満、約70%またはそれ未満、約65%またはそれ未満、約60%またはそれ未満、約55%またはそれ未満、約50%またはそれ未満、約45%またはそれ未満、約40%またはそれ未満、約35%またはそれ未満、約30%またはそれ未満、約25%またはそれ未満、約20%またはそれ未満、約15%またはそれ未満、約10%またはそれ未満、約9%またはそれ未満、約8%またはそれ未満、約7%またはそれ未満、約6%またはそれ未満、約5%またはそれ未満、約4%またはそれ未満、約3%またはそれ未満、約2%またはそれ未満、約1%またはそれ未満、約0.5%またはそれ未満、約0.25%またはそれ未満、約0.1%またはそれ未満、約0.05%またはそれ未満の範囲であってよい。
【0050】
本発明によるアジュバント混合物は、アジュバント成分、すなわち抗原が添加された場合に、ヒトまたは動物において該ヒトまたは動物に投与された抗原に対する免疫応答を誘発する濃度の、単独の、または1種もしくは複数種のモノグリセリドと混合された1種または複数種のカルボン酸を含む。本発明の発明者らは、ワクチン接種が経鼻経路、例えば鼻腔の粘膜への投与により行われた場合に、本発明によるアジュバントが特に有用であることを見出した。本発明者らは、驚くべきことに、経鼻経路によるワクチン接種において本発明によるアジュバントを使用することで、ワクチン接種時の免疫応答が改善されることを見出した。
【0051】
上記のように、アジュバント混合物は、1種または複数種のカルボン酸および1種またはモノグリセリドを含み得る。アジュバント混合物中の1種または複数種のモノグリセリドと合わせたカルボン酸の全濃度は、アジュバントの全容積に対して最大で75% w/v、または最大で50% w/v、または最大で25% w/v、または最大で20% w/v、または最大で15% w/v、または最大で10% w/v、または最大で5% w/v、または最大で4% w/v、または最大で3% w/v、または最大で2% w/v、または最大で1% w/v、または最大で0.5% w/v、または最大で0.1% w/vである。
【0052】
さらに、1種または複数種のカルボン酸と共に1種または複数種のモノグリセリドを含むアジュバント混合物は、アジュバント混合物の全容積の約0.1% w/v〜約10% w/v、例えば、約0.25% w/v〜約9% w/v、約0.5% w/v〜約8% w/v、約1% w/v〜約7% w/v、約1% w/v〜約6% w/v、約1% w/v〜約5% w/v、約1% w/v〜約4% w/v、約1% w/v〜約3% w/v、約1% w/v〜約2% w/v、または約0.5% w/v〜約4% w/vなどの範囲である、アジュバント混合物中の1種または複数種のカルボン酸と合わせた1種または複数種のモノグリセリドの全量を有し得る。
【0053】
本発明によるアジュバントは、媒体、例えば親水性でかつ不活性でかつ生体適合性であってよい界面活性剤など、例えばポロキサマーなど、例えばPluronic F68またはPluronic-127などをさらに含み得る。
【0054】
媒体は、1種または複数種の生理学的に許容される添加剤または薬学的賦形剤、例えば、緩衝剤、例えばTrisなど、安定化剤、浸透活性剤、保存剤、およびpH調整剤などをさらに含み得る。
【0055】
媒体のpHは、生理学的に許容される範囲内、例えばpH 4〜約pH 9など、例えば約pH 5〜約pH 7など、例えば約pH 7〜約pH 9など、例えば約7.5〜約pH 8.5など、もしくは例えば約pH 5.5〜約pH 6.5など、または例えば約pH 6もしくは約pH 5もしくは約pH 8などであるべきである。
【0056】
本発明によるアジュバントはまた、付加的なアジュバントをさらに含み得る。付加的なアジュバントは、例えば、スクアレン、アルミニウム塩、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸ヒドロキシリン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウムなど、ダイズ油、またはそれらの任意の組み合わせであってよい。付加的なアジュバントの量は、アジュバント混合物100 ml当たり例えば約0.1〜50 gの範囲、好ましくはアジュバント混合物100 ml当たり1〜20 gの範囲、またはアジュバント混合物100 ml当たり約0.5 g〜約40 g、例えば0.5 g〜約30 gなど、例えば約0.5 g〜約25 gなど、例えば1 g〜約20 gなど、約2 g〜約15 gなど、例えば5 g〜約10 gなどであってよい。
【0057】
任意で1種または複数種のモノグリセリドと合わせた1種または複数種のカルボン酸の最終濃度は、最終アジュバントまたはワクチン組成物の約10%まで、最終アジュバントまたはワクチン組成物の例えば約8%までなど、例えば約7%までなど、例えば約5%までなど、例えば約3%までなど、例えば約1%までなど、例えば約0.1%までなどであってよい。
【0058】
1種または複数種のアミンの最終濃度は、最終アジュバントまたはワクチン組成物の約10%まで、最終アジュバントまたはワクチン組成物の例えば約8%までなど、例えば約7%までなど、例えば約5%までなど、例えば約3%までなど、例えば約1%までなど、例えば約0.1%までなどであってよい。
【0059】
ワクチン
本発明によるアジュバント混合物は、ワクチンの調製に用いられることが意図される。このようなワクチンは、免疫原性量の抗原成分と共にアジュバントを含み、これらは任意で水性媒体などの媒体中に分散されている。
【0060】
結果として、本発明によるワクチン組成物は、
i) 1種もしくは複数種のカルボン酸または1種もしくは複数種のアミン
および任意で
ii) 1種または複数種のモノグリセリド
ii) 1種または複数種の抗原
を含み得る。
【0061】
例えば、本発明のワクチン組成物は、最終ワクチン組成物100 g当たり、
i) 約0.1 g〜約90 gの1種または2種のカルボン酸
ii) 約0.01 g〜約90 gの抗原
を含み得る。
【0062】
したがってより具体的には、本発明のワクチン組成物は、最終ワクチン組成物100 g当たり、
i) 単一のカルボン酸または2種の酸の混合物のいずれかとしての約0.1 g〜約90 gのカルボン酸
ii) 約0.1 g〜約90 gのモノグリセリド
iii) 約0.001 g〜約90 gの抗原
を含み得る。
【0063】
上記のワクチン組成物は、1種または複数種の付加的なアジュバント、例えばスクアレンまたはおよび油など、例えばダイズ油などをさらに含み得ることが明確に理解されるべきである。
【0064】
したがって、本発明のワクチン組成物は、最終ワクチン組成物100 g当たり、
i) 単一のカルボン酸または2種の酸の混合物のいずれかとしての約0.1 g〜約90 gのカルボン酸
ii) 約0.1 g〜約90 gのモノグリセリド
iii) 約0.1 g〜約90 gの付加的なアジュバント、例えばスクアレンまたはダイズ油など
iv) 約0.001 g〜約90 gの抗原
を含み得る。
【0065】
したがってより具体的には、本発明のワクチン組成物は、最終ワクチン組成物100 g当たり、
i) 約0.1 g〜約90 gのカルボン酸
ii) 約0.1 g〜約90 gのモノグリセリド
iii) 約0.01 g〜約90 gの抗原
を含み得る。
【0066】
さらに、ワクチン組成物は、例えば、最終ワクチン組成物100 g当たり、
i) 約0.1 g〜約90 gの1種もしくは2種またはそれ以上のアミン
ii)約0.01 g〜約90 gの抗原
を含み得る。
【0067】
ワクチン組成物は、付加的なアジュバント、例えばスクアレンまたは油など、例えばダイズ油などをさらに含み得る。
【0068】
抗原は、例えば不活化抗原全体、例えば不活化ウイルス全体などであってよい。抗原はまた、病原体の一部、例えば不活化ウイルスの一部などであってよい。使用され得る抗原成分は、これらに限定されないが、例えば、ウイルス、細菌、マイコバクテリア、または寄生虫抗原である。ウイルス病原体は、例えば、肝炎ウイルスA、B、C、D、およびE3、HIV、ヘルペスウイルス1、2、6、および7、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ブニヤウイルス(例えば、ハンタウイルス)、コクサッキーウイルス、ピコルナウイルス、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ポックスウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、パポバウイルス、ムンプスウイルス、ならびに麻疹ウイルスである。
【0069】
細菌病原体は、例えば、結核およびハンセン病を引き起こすマイコバクテリア、肺炎球菌、好気性グラム陰性またはグラム陽性桿菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌感染症、連鎖球菌感染症、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、サルモネラ、ならびにクラミジアであってよい。
【0070】
1種または複数種の抗原の量は、例えば、約300μgまたはそれ未満、約200μgまたはそれ未満、約100μgまたはそれ未満、約95μgまたはそれ未満、約90μgまたはそれ未満、約85μgまたはそれ未満、約80μgまたはそれ未満、約75μgまたはそれ未満、約70μgまたはそれ未満、約65μgまたはそれ未満、約60μgまたはそれ未満、約55μgまたはそれ未満、約50μgまたはそれ未満、約45μgまたはそれ未満、約40μgまたはそれ未満、約35μgまたはそれ未満、約30μgまたはそれ未満、約25μgまたはそれ未満、約20μgまたはそれ未満、約15μgまたはそれ未満、約10μgまたはそれ未満、約9μgまたはそれ未満、約8μgまたはそれ未満、約7μgまたはそれ未満、約6μgまたはそれ未満、約5μgまたはそれ未満、約4μgまたはそれ未満 約3μgまたはそれ未満、約2μgまたはそれ未満、約1μgまたはそれ未満、約0.5μgまたはそれ未満、約0.25μgまたはそれ未満、約0.1μgまたはそれ未満、約または約0.05μgまたはそれ未満の範囲であってよい。抗原はまた、対象において免疫応答を誘発するのに十分な任意の量であってよい。
【0071】
本発明によるワクチン製剤は、様々な疾患状態、例えば、ウイルス、細菌、または寄生虫感染症、癌、アレルギー、および自己免疫障害に対して動物またはヒトを防御または治療するために使用することができる。本発明による方法または組成物を用いることにより防御または治療することができる障害または疾患状態のいくつかの具体例は、肝炎ウイルスA、B、C、D、およびE3、HIV、ヘルペスウイルス1、2、6、および7、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ブニヤウイルス(例えば、ハンタウイルス)、コクサッキーウイルス、ピコルナウイルス、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ポックスウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、パポバウイルス、ムンプスウイルス、ならびに麻疹ウイルスによって引き起こされるウイルス感染症である。
【0072】
疾患はまた、結核およびハンセン病を引き起こすマイコバクテリア、肺炎球菌、好気性グラム陰性桿菌、マイコプラズマ、ブドウ球菌感染症、連鎖球菌感染症、ヘリコバクター・ピロリ、サルモネラ、ジフテリア、ならびにクラミジアによって引き起こされる感染症などの細菌感染症であってよい。
【0073】
疾患はまた、寄生虫性マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラズマ症、住血吸虫症、フィラリア症、または様々な種類の癌、例えば、乳癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、悪性黒色腫、喉頭癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌などであってもよい。
【0074】
疾患はまた、チリダニ、花粉、およびその他の環境アレルゲンに起因するアレルギー、ならびに自己免疫疾患、例えば全身性エリテマトーデスなどであってもよい。
【0075】
ワクチン組成物中の抗原は、不活化抗原全体、例えば不活化ウイルス全体などであってよい。不活化過程は、熱不活化、UV光による照射不活化、またはホルマリン不活化もしくはβ-プロピオラクトンでの処理による不活化など、当技術分野で周知である。
【0076】
本発明によるワクチン組成物は、薬学的に許容される賦形剤、例えば、親水性でかつ不活性でかつ生体適合性であってよい界面活性剤、例えばポロキサマーなど、例えばPluronic F68またはPluronic 127などをさらに含む水性媒体であってよい媒体などをさらに含み得る。
【0077】
したがって本発明によるワクチンは、さらなるアジュバント、抗菌剤、抗酸化剤、ウイルス不活化剤、保存剤、色素、安定化剤、消泡剤、界面活性物質(非イオン性、陰イオン性、または陽イオン性)、またはこれらの任意の組み合わせをさらに含み得る。
【0078】
ワクチン混合物のpHは、生理学的に許容される範囲内、例えば約pH 4〜約pH 9など、例えば約pH 5〜約pH 7など、例えば約pH 7〜約pH 9など、例えば約7.5〜約pH 8.5など、もしくは例えば約pH 5.5〜約pH 6.5など、または例えば約pH 6もしくは約pH 5もしくは約pH 8などであるべきである。アミンが用いられる場合のアジュバントまたはワクチン組成物のpHは、例えば約pH 5〜約pH 7の範囲、約pH 5.5などとなることが予測される。アジュバントまたはワクチン組成物がカルボン酸に基づく場合には、pH範囲は例えば約pH 7.5〜約pH 8.5であってよい。
【0079】
付加的なアジュバントは、例えば、油、スクアレンもしくはダイズ油など、もしくはアルミニウム塩、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸ヒドロキシリン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウムなど、またはそれらの任意の組み合わせなどであってよい。
【0080】
抗菌剤は、例えば、アンホテリシンもしくはその任意の誘導体、クロロテトラサイクリン、ホルムアルデヒドもしくはホルマリン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ポリミキシンBもしくはその任意の誘導体、ストレプトマイシン、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0081】
抗酸化剤は、例えば、アスコルビン酸もしくはトコフェロール、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0082】
ウイルス不活化剤は、例えば、ホルマリン、β-プロピオラクトン、UV照射、加熱、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0083】
保存剤は、例えば、塩化ベンゼトニウム、EDTA、フェノール、2-フェノキシエタノール、もしくはチメロサール、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0084】
色素は、例えば、任意の指示薬(例えばフェノールレッドなど)もしくはブリリアントグリーン、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0085】
消泡剤は、例えばポリジメチルシロゾン(polydimethylsilozone)であってよい。
【0086】
界面活性物質は、例えば、陰イオン性、陽イオン性、もしくは非イオン性、または双性イオン性、例えば、ポリオキシエチレンおよびその誘導体、ポリソルベート(例えばポリソルベート20またはポリソルベート80など)、Tween 80、ポロキサマー(例えばPluronicF68など)、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0087】
本発明はまた、本明細書に開示されるような任意の感染症の予防および/もしくは治療に関する、またはそれらを可能にする。
【0088】
通常、ワクチンは、非経口投与または粘膜投与、例えば、経鼻、経口、直腸内、腟内、肺内、耳内、もしくは局所投与などによる、または静脈内、筋肉内、皮下、皮内投与、もしくはクリーム剤、軟膏剤、もしくは経皮パッチによる経皮適用による局所経路による、およびこれらの任意の組み合わせなど、任意の簡便な方法で投与することができる。
【0089】
鼻は、容易に到達可能であり、非常に血管に富んでおり、かつ大きな吸収面を含むという事実から、粘膜投与による免疫化の非常に魅力的な経路である。粘膜、全身、および細胞免疫応答のいずれもが誘導され得、腟および直腸などの離れた粘膜部位において免疫応答が誘導され得る。さらに、感染のリスクをほとんど伴わずに、大規模な集団を容易に免疫化することができる。
【0090】
鼻への投与を対象とする場合、投与様式は、例えば、鼻腔中にワクチンを噴霧することによるか、または鼻腔中もしくは鼻粘膜壁上にワクチンを滴下することによって、ピペットによりワクチンを投与することによるものであってよい。
【0091】
非経口投与は、静脈内、動脈内、筋肉内、脳内、脳室内、心臓内、皮下、骨内、皮内、髄腔内、腹腔内、膀胱内、または陰茎海綿体内注射であると想定される。
【0092】
したがって本発明は、本発明によるアジュバントを含むワクチンの免疫応答強化有効量をヒトまたは動物に投与する段階を含む、ヒトまたは動物において該ヒトまたは動物に投与された抗原に対する免疫応答を増強する方法に関する。本方法は、経鼻、静脈内、皮下、または筋肉内投与によって本発明によるワクチン組成物を対象に投与する段階をさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】各投与後の、個々のEMA(欧州医薬品庁)HAI(赤血球凝集抑制)基準に達する試験群の数を図示する。
【
図2】負荷電アジュバント製剤の組み合わせ用量反応スコア(HAI、N-IgA H1/Bri/Cal、H3/Bris/Cal、S-IgG、S-IgA、およびINF-γ)を図示する。
【0094】
以下の実施例は、本発明を決して限定することなく、本発明を説明することが意図される。
【実施例】
【0095】
実施例1
アジュバントの調製
オレイルアミンとラウリルアミンを1:1(w/w)の比率で混合することにより、正荷電アジュバント調製物を得た。得られた混合物をその後、オレイルアミン/ラウリルアミンの最終濃度が2% w/vとなるように、pH 6.5の50 mM酢酸緩衝液中で乳化した。
【0096】
あるいは、オレイルアミン、ラウリルアミン、およびスクアレンを1:1:1(w/w)の比率で混合することにより、正荷電アジュバント調製物を得た。得られた混合物をその後、オレイルアミン/ラウリルアミン/スクアレンの最終濃度が2% w/vとなるように、pH 6.5の50 mM酢酸緩衝液中で乳化した。
【0097】
あるいは、オレイルアミンを、オレイルアミンの最終濃度が2% w/vとなるように、pH 6.5の50 mM酢酸緩衝液中で乳化した。
【0098】
あるいは、スクアレンなどの油を1:1比(w/w)でオレイルアミンに添加し、それによって乳濁液中2%のオレイルアミンおよびスクアレンの最終濃度を提供し得た。
【0099】
緩衝液として酢酸を使用することを考慮すると、正荷電製剤の最終製剤のpHはpH 5〜7.5の間となり得る。
【0100】
上記の正荷電乳濁液は、高圧ホモジナイズまたは超音波プローブ超音波処理のいずれかにより生成した。得られた保存溶液は、任意で、水または酢酸緩衝溶液で2、4、8、16、および32の希釈で希釈した。
【0101】
オレイン酸とモノオレインを1:1比で混合し、その後この混合物をpH 8.0を有する0.1 M Tris緩衝液中で乳化することにより、負荷電乳濁液を生成した。
【0102】
あるいは、オレイン酸とラウリン酸を1:1比で混合し、その後この混合物をpH 8.0を有する0.1 M Tris緩衝液中で乳化することにより、負荷電乳濁液を生成した。
【0103】
任意でモノグリセリドと合わせたカルボン酸の最終濃度は、最終アジュバントまたはワクチン組成物の10%までであってよい。
【0104】
上記の負荷電乳濁液は、高圧ホモジナイズまたは超音波プローブ超音波処理のいずれかにより生成した。得られた保存溶液は、任意で、水またはTris緩衝溶液で2、4、8、16、および32の希釈で希釈した。
【0105】
オレイン酸(0.46 g)およびラウリン酸(0.34 g)を混合することにより、負荷電アジュバントを調製し、続いてこれを9.2 mlの0.1 M Tris緩衝液(pH 8.0)を用いて超音波処理する。最終溶液のpHを5 M NaOHでpH 8.0に調整する。最終濃度は8%の脂質製剤である。この組成物を以後、アジュバントAと略記する。
【0106】
さらに、モノオレイン(0.45 g)およびオレイン酸(0.35 g)を混合し、続いて9.2 mlの0.1 M Tris緩衝液(pH 8.0)を用いて超音波処理することにより、さらなる負荷電アジュバントを調製する。最終製剤を5 M NaOHでpH 8に調整する。最終濃度は8%の脂質製剤である。この組成物を以後、アジュバントBと略記する。
【0107】
モノオレイン(0.15 g)、オレイン酸(0.12 g)、およびダイズ油(0.53 g)を混合することにより、なおさらなる負荷電アジュバントを調製する。続いてこの混合物を、0.2 mlの0.1 M Tris緩衝液(pH 8.0)を用いて超音波処理する。最終製剤を5 M NaOHでpH 8.0に調整する。最終濃度は8%の脂質製剤である。この組成物を以後、アジュバントCと略記する。
【0108】
各製剤において4%の最終脂質濃度が得られるように、適切な抗原と8%脂質アジュバント製剤を1:1比で混合することにより、アジュバントのワクチン製剤を調製する。
【0109】
8%脂質アジュバント製剤は当然ながら、さらなる緩衝溶液を添加することにより、所望されるように1%、2%、4%、または6%溶液に希釈することができる。
【0110】
実施例1.1
2%の濃度を有するオレイルアミンを有する正荷電製剤を、不活化インフルエンザウイルス粒子(H1N1/California株)の懸濁液と1+1比(v/v)で混合した。続いてこの混合物を、各鼻孔に5μl量で、マウスの鼻腔内に投与した。インフルエンザウイルス粒子の用量は、1.5μgの赤血球凝集素(HA)と同等であった。マウスに3週間間隔で3回免疫した。最終免疫の3週間後に、マウスを屠殺し、血液試料を免疫学的応答について解析した。
【0111】
結果から、非アジュバント化抗原を投与されたマウスからのHAI力価は、HAI力価47(幾何平均、N=8)を生じたのに対して、正荷電製剤はHAI力価1140(幾何平均、N=8)を生じたことが示された。したがって、HAI力価の24倍の増加が実現された。
【0112】
NP刺激後のINF-γのpg/mlとしてT細胞応答のアッセイを行ったところ、正荷電アジュバントは、該応答を非アジュバント化製剤の28倍増強したことが明らかになった。
【0113】
アミンの最終濃度は、最終アジュバントまたはワクチン組成物の10%までであってよい。
【0114】
実施例1.2
2%の濃度を有するオレイルアミンおよびスクアレンを有する正荷電製剤を、不活化インフルエンザウイルス粒子(H1N1/California株)の懸濁液と1+1比(v/v)で混合した。続いてこの混合物を、各鼻孔に5μl量で、マウスの鼻腔内に投与した。不活化インフルエンザウイルス粒子の用量は、1.5μgの赤血球凝集素(HA)と同等であった。マウスに3週間間隔で3回免疫した。最終免疫の3週間後に、マウスを屠殺し、血液試料を免疫学的T細胞応答について解析した。
【0115】
NP刺激後のINF-γのpg/mlとしてT細胞応答のアッセイを行ったところ、正荷電アジュバントは、該応答を非アジュバント化製剤の60倍増強したことが明らかになった。
【0116】
実施例2
4%の濃度を有するオレイン酸およびモノオレインを有する負荷電製剤を、不活化インフルエンザウイルス粒子(H1N1/California株)の懸濁液と1+1比(v/v)で混合した。続いてこの混合物を、各鼻孔に5μl量で、マウスの鼻腔内に投与した。インフルエンザウイルス粒子の用量は、1.5μgの赤血球凝集素(HA)と同等であった。マウスに3週間間隔で3回免疫した。最終免疫の3週間後に、マウスを屠殺し、血液試料を免疫学的応答について解析した。
【0117】
結果から、非アジュバント化抗原を投与されたマウスからのHAI力価は、HAI力価47(幾何平均、N=8)を生じたのに対して、負荷電製剤はHAI力価147(幾何平均、N=8)を生じたことが示された。したがって、HAI力価の4倍の増加が実現された。
【0118】
NP刺激後のINF-γのpg/mlとしてT細胞応答のアッセイを行ったところ、負荷電アジュバントは、該応答を非アジュバント化製剤の7倍増強したことが明らかになった。
【0119】
実施例3
4%の濃度を有するオレイン酸およびモノオレインを有する負荷電製剤を、不活化インフルエンザウイルス粒子(H1N1/Brisbane株)の懸濁液と1+1比(v/v)で混合した。続いてこの混合物を、各鼻孔に液滴として150μl量で、ヒトの鼻腔内に投与した。インフルエンザウイルス粒子の用量は、5、15、または30μgの赤血球凝集素(HA)と同等であり、異なる群において様々な組み合わせで0.5、1、または2%の濃度の負荷電アジュバント製剤と混合した。合計104名のヒト対象に、抗原とアジュバントの両方を含む製剤で3週間間隔で3回免疫した。アジュバントのみを含み抗原を含まない参照製剤を含め、合計120名の対象が鼻腔内よりアジュバント製剤の投与を受けた。最終免疫の3週間後に、血液試料を免疫学的応答について解析した。
【0120】
結果から、以下のことが明らかになった:
これらのヒト対象のいずれにおいても、ワクチンに関連した重篤な有害事象は認められなかった。アジュバントの投与を受けた対象のいずれにおいても、ベル麻痺の症例は報告されなかった。報告された有害事象には、鼻腔内のわずかな一過性の不快感が含まれたが、これは製剤の投与後2時間以内に消失した。表1中に、抗原15μgおよび2%負荷電アジュバントの投与を受けた群から報告された有害事、AEを示す。
【0121】
(表1)ヒトの臨床試験において、抗原15μgおよび2%負荷電アジュバントの投与を受けた群から報告された有害事象、AE
【0122】
季節性インフルエンザワクチンの承認を得るためには、(欧州医薬品庁、EMAにより決定されているように)以下の基準のうちの少なくとも1つが満たされなくてはならない。これらには、以下のものが含まれる:
血清転換:HAIの有意な増加、すなわち力価の少なくとも4倍の増加)を達成する対象の割合(必要条件>40%)
GMT:HAI力価の幾何平均増加倍率(必要条件>2.5)
抗体保有率:HAI力価≧40を達成する対象の割合(必要条件>70%)。
【0123】
図1に見られ得るように、これらの基準は、1回の投与後に1つの対象群について、2回の投与後に5群により、および3回の投与後に全群により満たされる。
【0124】
ヒト対象で試験した製剤の全体的な免疫原性を評価するため、組み合わせスコアを算出した。例えば、対象が力価の少なくとも4倍の増加を実現した場合、この対象にスコア1を付与した。次に、以下のアッセイについてスコアを決定した:HAI、H1N1/Brisbaneに対する鼻IgA、H1N1/Californiaに対する鼻IgA、H3N2/Brisbaneに対する鼻IgA、H1N1/Californiaに対する鼻IgA、およびIFN-γ。したがって、対象は最大8ポイントを得ることができた。
図2に見られ得るように、負荷電アジュバントの濃度に関する用量反応が得られた。
【0125】
実施例4
本発明によるアジュバントおよびジフテリアトキソイド(DT)を用いた場合の有害事象の調査
この試験は、無作為化二重盲検並行群間デザインを有した。合計40名の健常ボランティアを含め、4つの処置群のうちの1つに無作為に割り付けた。第1群には1%アジュバントB)/DT(ジフテリアトキソイド)を投与し、これは標準的アプリケーターで投与した。第1群の安全性が確証された時点で、次の2群を4%アジュバントB/DTまたは参照としてのDT単独で処置し、これらはいずれも標準的アプリケーターで投与した。4つ目の群では、4%アジュバントB/DTを鼻アプリケーターで投与した。適格な対象に、1日目に鼻粘膜より免疫した。14日後、ワクチンに対する抗ジフテリア免疫応答を評価した。試験期間を通して、有害事象を評価した。
【0126】
アジュバントB/DTワクチン:1%または4%アジュバントBおよび75 Lf/ml DT、標準的なまたは鼻のエアロゾルスプレーにより2×100μlを投与した。
【0127】
対象40名のうち38名が、合計107件の有害事象(AE)を報告した。最も一般的な種類の有害事象はいずれも軽微であり、鼻の中の刺すような感覚、鼻水、くしゃみ、鼻詰まり、鼻血、および鼻腔内の圧痛として現れる鼻粘膜の局所的刺激に関連していた。試験中に、死亡、重篤な有害事象、または有害事象による治験生成物の中断は報告されなかった。
【0128】
4.1 有害事象の表示および解析
含めた40名の対象のうち合計38名が、107件の事象を報告した。これらの事象のうちの2件、対象117番における関節鏡検査(artroscopi)および対象106番における片頭痛は重篤であると報告され、12件は中等度と報告され、および93件は軽度と報告された。対象1名当たり報告された事象の数は1〜8件の範囲であり、平均して2.8件の事象であった。報告されたAEのうちの大部分(107件のうちの63件)は、処置との因果関係があった;例えば、可能性がある、まず確実な、または明確な関係。いかなるAEも報告しなかった2名の対象は、参照処置群および1%アジュバントB/DT処置群に含まれた。表6中に、すべてのEAを処置との関係によって要約する。
【0129】
107件の事象のうち9件は併用薬の投与をもたらし、すべての対象が後遺症なしに回復した。最も一般的なAEは、鼻の中の刺すような感覚(26例)および頭痛(15例)であった。
【0130】
表2〜表5は、それぞれ、DT単独、1%アジュバントB/DT、標準的アプリケーターによる4%アジュバントB/DTの投与後、および鼻アプリケーターによる4%アジュバントB/DTの投与後の、処置との関係によるAEの数を示す。
【0131】
(表2)DT単独(参照)の投与後の、処置との関係による有害事象
a 1=明確、2=まず確実、3=可能性がある 4=ありそうにない、5=無関係
【0132】
(表3)1%アジュバントB/DTの投与後の、処置との関係による有害事象
a 1=明確、2=まず確実、3=可能性がある 4=ありそうにない、5=無関係
【0133】
(表4)4%アジュバントB/DTの投与後の、処置との関係による有害事象
a 1=明確、2=まず確実、3=可能性がある 4=ありそうにない、5=無関係
【0134】
(表5)鼻アプリケーターを用いた4%アジュバントB/DTの投与後の、処置との関係による有害事象
a 1=明確、2=まず確実、3=可能性がある 4=ありそうにない、5=無関係
【0135】
試験中に、死亡、その他の重篤な有害事象、または有害事象による中断は起こらなかった。さらに、ベル麻痺の所見またはその徴候は認められなかった。
【0136】
(表6)処置との関係による有害事象、全処置
a 1=明確、2=まず確実、3=可能性がある 4=ありそうにない、5=無関係
【0137】
実施例5
試験物品は、異なる濃度(0.5%および2%)のアジュバントB、および0.1μg/μlの抗原濃度を有する2%アジュバントBであった。対照物品として、媒体である0.1 M TRIS緩衝液を使用した。試験は、雄雌両方のSDラット60匹(雄30匹および雌30匹)で行った。動物を5群に分類した(雌6匹および雄6匹/群)。すべての動物を、カテーテルにより50μl(各鼻孔中に約25μl)の量で、経鼻投与により媒体、アジュバント、またはアジュバント+ウイルス抗原で処置した。投与後、動物を5分間麻酔下で維持して、液体の吸収を可能にし、かつ鼻腔から溶液が流出するリスクを最小限にした。投与は9〜10日間間隔で4回行った。動物は以下のように処置した:
群1:媒体;群2:低用量(0.5%)アジュバント;群3:高用量(2%)アジュバント;群4:高用量(2%)アジュバント+ウイルス抗原血清型H1N1(5μg):群5:高用量(2%)アジュバント+ウイルス抗原血清型H1N1(5μg)、回復。
動物の体重を、到着時、調整後、その後週に3回、および最終的に試験の終了時に記録した。試験群間の体重の統計的有意差は認められなかった。全体的な健康状態の変化の徴候として、食物摂取、活動性等の変化について、動物を毎日チェックした。健康状態の異常は記録されなかった。最終投与の翌日に、群1、2、3、および4中の最初の3匹の動物を、ならびに最終投与の2日後に、群1、2、3、および4中の残りの動物を麻酔し、血液学、臨床化学、および免疫学解析のために血液および血清を採取した。最終処置の1週間後に、群5の動物を上記と同様の採血に供した。試験した血液学的パラメータに関して、群間で統計的有意差は認められなかった。臨床化学は、雌の群間で統計的有意差を示さなかった。雄の間では、媒体処置動物のLDHが、高用量アジュバント+ウイルス抗原で処置した動物よりも統計的に有意に高かった。媒体処置した雄で観察されたLDHは、Sprague-Dawleyラットで通常観察されるものよりも高いため、この所見はおそらくは実際的な意味を有さない。
【0138】
血清の免疫学的解析から、すべての群の動物、意図的にウイルス抗原で処置しなかった群の動物までもが、インフルエンザA(H1N1/PR8)に対する抗体を有することが示された。しかしながら、群5における12/12の動物および群4における9/12の動物が血清陽性であり、これにより、インフルエンザAに対する抗体産生を刺激するのに、2%アジュバントと併用した抗原が効果的であったことが示される。インフルエンザAで意図的に処置しなかった動物の群における抗体の存在から、これらの動物がある時点でインフルエンザAに曝露されたことが示唆されるが、これは隔離飼育器-ケージ環境で飼育していない動物では珍しくない所見である。最終投与の翌日に、群1、2、3、および4中の最初の3匹の動物を、ならびに最終投与の2日後に、群1、2、3、および4中の残りの動物を安楽死させ、肺、心臓、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、生殖腺、回腸、腸間膜リンパ節、腋窩リンパ節、下顎リンパ節、胸腺、骨髄、および頭蓋を切断した。最終処置の1週間後に、群5のすべての動物を上記と同様の器官採取に供した。固定およびパラフィン包埋後、組織の切片を作製し、続いて組織病理学的変化について調べた。組織病理診断から鼻粘膜でのみ病変が示され、切断された他の器官は正常であった。アジュバントおよびウイルス抗原を鼻腔に投与し、免疫学的応答を引き起こしたため、鼻粘膜において炎症反応の徴候が見られることが予測される。しかしながら、病変は媒体処置動物においても見られ、このことから、媒体はそのような影響を及ぼさないため、この組織病理学的所見の解釈が難しくなる。本試験に使用した動物が一見したところインフルエンザAに曝露されたという事実が、観察された病変の1つの原因と考えられるが、他の感染病原体を排除することはできない。高用量のアジュバントで処置した動物の群において、雄の0/6が病変を有さなかったため、アジュバント自体が病変を引き起こした可能性は低いと考えられる。よって、低用量のアジュバントで処置した雄動物の群において観察された病変の頻度は、この動物群における鼻病変の正常高頻度を表し得る。したがって、アジュバントおよびウイルス抗原で処置した動物の群における病変の頻度は、いかなる他の動物群よりも高くなかったと結論づけられ得る。実際に、カイ二乗解析から、処置群の間で病変の頻度の統計的有意差は示されなかった。本試験に使用したH1N1抗原は、H1N1ウイルスに対する抗体産生を刺激する免疫学的応答を誘発したと結論づけられる。アジュバントまたはアジュバント+ウイルス抗原で処置した動物における病変の重症度および頻度は、媒体処置動物において見られる病変の頻度と同様であった。このことから、アジュバントまたはアジュバント+ウイルス抗原が粘膜病変を生じなかったことが示唆される。健康の記録、血液学、臨床化学、および組織病理学解析から、反復投与後のワクチンがラットにおいて一般毒性反応を生じなかったことが示唆される。
【0139】
鼻粘膜における病変に関する組織病理学的所見の概要
表7は、4つに区分されたレベル(L1〜L4)における鼻粘膜で観察された病変の概要を示す。レベルL4bは、嗅球(OB)もまた存在したレベルを表す。Xは病変が見られたことを示し、W/OAR(いかなる所見もない)は、器官の状態について所見が指摘されなかったことを示す。病変は、鼻腔内の血液、鼻粘膜中の上皮の糜爛、浮腫、または炎症の形態であった。「病変」と表示された欄を、群間の病変の頻度を統計解析するために使用した。
【0140】
(表7)
【0141】
5.1 処置群間の病変の存在の頻度
表8a〜cは、鼻粘膜において病変を有することが観察された、各処置群中の動物(病変=1)、および病変のない動物(病変=0)の数を示す。
【0142】
(表8a〜c)
【0143】
実施例6
試験物品は、異なる濃度(0.5%および2%)のアジュバントB、抗原(5μg)、および0.1μg/μlの抗原濃度を有する0.5%または2%アジュバントである。試験物品を各ラットに全量50μlで投与するため、H1N1含有試験物品を0.5%または2%アジュバント+5μg抗原と表す。
【0144】
対照物品
媒体、0.1 M TRIS緩衝液
【0145】
材料および方法
動物:
試験は、到着時に体重約200 gの雄雌両方のSDラット84匹(雄42匹および雌42匹)で行う(ID 2244-8〜2285-8の雄およびID 2287-8〜2328-8の雌)。動物はScanbur BK、Sollentuna, Swedenから取得する。動物をM4ケージ内で維持する(それぞれ3匹ずつ)。動物には、水、およびLactamin AB、Swedenからの市販の食餌R34の自由な摂取を提供する。いずれの動物も、試験開始前に最低7日間かけて順応させる。実験は、Uppsalaの地域動物実験倫理委員会(C25/7)により承認される。ラットは、この種の試験において取り扱いが容易であるという理由で選択される。
【0146】
試験物品および対照物品の投与:
動物を7群に分類する(ラット雌6匹および雄6匹/群)。すべての動物を、ピペットにより50μl(各鼻孔中におよそ25μl)の量で、経鼻投与(軽いイソフルラン麻酔下)により媒体、アジュバント、抗原、またはアジュバント+ウイルス抗原で処置する。投与後、動物を数分間麻酔下で維持して、液体の吸収を可能にし、かつ鼻腔から溶液が流出するリスクを最小限にする。投与は14日間間隔で4回行う。動物は以下のように処置する:
群1:媒体
群2:低用量(0.5%)アジュバント
群3:高用量(2%)アジュバント
群4:ウイルス抗原(単独)血清型H1N1(5μg)
群5:低用量アジュバント0.5%+ウイルス抗原(5μg)
群6:高用量アジュバント2%+ウイルス抗原(5μg)
群7:高用量アジュバント2%+ウイルス抗原(5μg)。
【0147】
技術注記
組織は、以下のように表示したいくつかのカセット中に細分した:
K1:スカル(scull)、レベル1
K2:スカル、レベル2
K3:スカル、レベル3
K4:スカル、レベル4。
【0148】
表中に別段の既定のない限り、組織ブロックにつきスライド1枚が存在する。新たな切片を有するスライド(すなわち、組織ブロックを再度の切片作製に供した)は、n.s.(「新切片」)と表示してある。「niv8...」(レベル)と表示されたスライドは、切片が2つ以上のレベルから得られていることを示す。
【0149】
【0150】
結果として、微細形態変化の頻度は、上記の表中に見られるように、いずれの群においても非常に低い。鼻腔または嗅球におけるそのような形態変化とベル麻痺の発生との関連が示唆されているため、これらの結果から、本発明によるアジュバントを使用することにより、ベル麻痺の発生が、通常観察される頻度(すなわち、100,000当たり約30〜40個体)と同じ頻度となることが予測され得ることが明らかに示される。