(54)【発明の名称】ポリウレタン塗膜防水材用主剤及びその製造方法、ポリウレタン塗膜防水材、ポリウレタン防水塗膜、並びに遊離トリレンジイソシアネート含有量の低減方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリオキシアルキレンポリオールを含むポリオール組成物とトリレンジイソシアネートを含むイソシアネート組成物との反応物からなるイソシアネート基末端プレポリマーを含むポリウレタン塗膜防水材用主剤の製造方法であって、
前記トリレンジイソシアネート中の2,4−トリレンジイソシアネート含有量を90質量%以上とし、
前記ポリオール組成物と前記イソシアネート組成物とを、前記ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基(OH基)に対する前記トリレンジイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)が1.50〜1.90となるように反応させ、前記反応物のNET.CPR値を−35〜0.3とする、ポリウレタン塗膜防水材用主剤の製造方法。
ポリオキシアルキレンポリオールを含むポリオール組成物とトリレンジイソシアネートを含むイソシアネート組成物との反応物における、遊離トリレンジイソシアネート含有量の低減方法であって、
前記トリレンジイソシアネート中の2,4−トリレンジイソシアネート含有量を90質量%以上とし、
前記ポリオール組成物と前記イソシアネート組成物とを、前記ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基(OH基)に対する前記トリレンジイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)が1.50〜1.90となるように反応させ、前記反応物のNET.CPR値を−35〜0.3とする、低減方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、遊離TDIの含有量を十分に低減するのは困難であり、特許文献2に記載の方法では、遊離TDIを除去するために蒸留が必要であることから、製造工程が増えてしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、蒸留等の煩雑な工程を必要とすることなく製造でき、遊離TDI含有量が、臭気や取り扱いの点で実用上問題とならない程度に十分に低減されたポリウレタン塗膜防水材用主剤及びその製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、この主剤を用いたポリウレタン塗膜防水材及びポリウレタン防水塗膜、並びに遊離トリレンジイソシアネート含有量の低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イソシアネート基末端プレポリマーを含むポリウレタン塗膜防水材用主剤であって、主剤のNET.CPR値が−35〜0.3であり、イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリオキシアルキレンポリオールを含むポリオール組成物とトリレンジイソシアネートを含むイソシアネート組成物とを、ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基(OH基)に対するトリレンジイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)が1.50〜1.90となるように反応させて得ることがでるものであり、トリレンジイソシアネートは、2,4−トリレンジイソシアネートを90質量%以上含む、ポリウレタン塗膜防水材用主剤を提供する。
【0008】
このポリウレタン塗膜防水材用主剤は、蒸留等の煩雑な工程を必要とすることなく製造でき、遊離TDI含有量が、臭気や取り扱いの点で実用上問題とならない程度(例えば、0.1質量%未満)に十分に低減される。このポリウレタン塗膜防水材用主剤においては、アロファネートが形成されるような副反応を極力抑えてプレポリマー化が可能となっている。
【0009】
主剤は、カルボン酸ハロゲン化物を含んでいてもよく、ポリオール組成物又はイソシアネート組成物は、カルボン酸ハロゲン化物を含んでいてもよい。また、ポリオール組成物は、ポリオキシアルキレンポリオール及びカルボン酸ハロゲン化物からなっていてもよく、イソシアネート組成物は、トリレンジイソシアネート及びカルボン酸ハロゲン化物からなっていてもよい。これらの場合、主剤のNET.CPR値が−35〜0.3となりやすい傾向にある。
【0010】
カルボン酸ハロゲン化物は、塩化ベンゾイルであってもよい。塩化ベンゾイルは、ポリオールと良く混和し、また中和後の処理が不要であるため取扱いやすい。
【0011】
イソシアネート基末端プレポリマー及び主剤中の遊離トリレンジイソシアネート含有量が、0.1質量%未満であってもよい。
【0012】
ポリオール組成物に含まれるポリオキシアルキレンポリオールに占める2官能ポリオールの割合が30〜90質量%であってもよい。この場合、得られるポリウレタン塗膜の特性がより良好になる。
【0013】
上述の本発明は、イソシアネート基末端プレポリマーのポリウレタン塗膜防水材用主剤としての使用(又は応用)としても把握できる。すなわち、本発明は、イソシアネート基末端プレポリマーのポリウレタン塗膜防水材用主剤としての使用であって、主剤のNET.CPR値が−35〜0.3であり、イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリオキシアルキレンポリオールを含むポリオール組成物とトリレンジイソシアネートを含むイソシアネート組成物とを、ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基(OH基)に対するトリレンジイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)が1.50〜1.90となるように反応させて得ることができるものであり、トリレンジイソシアネートは、2,4−トリレンジイソシアネートを90質量%以上含む使用を提供する。
【0014】
また、本発明は、ポリオキシアルキレンポリオールを含むポリオール組成物とトリレンジイソシアネートを含むイソシアネート組成物との反応物からなるイソシアネート基末端プレポリマーを含むポリウレタン塗膜防水材用主剤の製造方法であって、トリレンジイソシアネート中の2,4−トリレンジイソシアネート含有量を90質量%以上とし、ポリオール組成物とイソシアネート組成物とを、ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基(OH基)に対するトリレンジイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)が1.50〜1.90となるように反応させ、反応物のNET.CPR値を−35〜0.3とする、ポリウレタン塗膜防水材用主剤の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、上述した主剤と、この主剤の硬化剤とを有する、ポリウレタン塗膜防水材を提供する。このポリウレタン塗膜防水材は、主剤と硬化剤が分離された2液性ポリウレタン塗膜防水材であることが好ましい。
【0016】
硬化剤は、芳香族ポリアミン架橋剤を含んでいてもよく、ジエチルトルエンジアミンを含んでいてもよい。特に、硬化剤がジエチルトルエンアミンを含む場合、安全性が高いため製造や使用に際しての制約を受けない。
【0017】
ポリウレタン塗膜防水材においては、芳香族ポリアミン架橋剤のアミノ基(NH
2基)に対する、イソシアネート基末端プレポリマーのイソシアネート基(NCO基)との当量比(NCO基/NH
2基)が1.0〜1.8であることが好ましい。この場合、所望の可使時間が得られ、また、硬化性が良好となる。
【0018】
本発明はまた、上述したポリウレタン塗膜防水材における、主剤と、この主剤の硬化剤とを反応させて得ることのできる、ポリウレタン防水塗膜を提供する。このポリウレタン防水塗膜は、遊離TDI含有量が低減された主剤を用いているため、歩行性等の特性に優れている。
【0019】
本発明はさらに、ポリオキシアルキレンポリオールを含むポリオール組成物とトリレンジイソシアネートを含むイソシアネート組成物との反応物における、遊離トリレンジイソシアネート含有量の低減方法であって、トリレンジイソシアネート中の2,4−トリレンジイソシアネート含有量を90質量%以上とし、ポリオール組成物とイソシアネート組成物とを、ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基(OH基)に対するトリレンジイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)が1.50〜1.90となるように反応させ、反応物のNET.CPR値を−35〜0.3とする、低減方法を提供する。
【0020】
この低減方法において、反応物、ポリオール組成物又はイソシアネート組成物は、塩化ベンゾイル等のカルボン酸ハロゲン化物を含むことができる。また、ポリオール組成物は、ポリオキシアルキレンポリオール及びカルボン酸ハロゲン化物からなり、イソシアネート組成物は、トリレンジイソシアネート及びカルボン酸ハロゲン化物からなることができる。そして、ポリオキシアルキレンポリオールに占める2官能ポリオールの割合は30〜90質量%とすることができる。このような低減方法により、反応物中の遊離トリレンジイソシアネート含有量を0.1質量%未満にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蒸留等の煩雑な工程を必要とすることなく製造でき、遊離TDI含有量が、臭気や取り扱いの点で実用上問題とならない程度に十分に低減されたポリウレタン塗膜防水材用主剤を提供することができる。特に、この主剤においては、経日安定性が改善されている。また、この主剤を有するポリウレタン塗膜防水材においては、特に手塗り塗工に最適な可使時間を保持でき、塗膜の硬化時間が短縮するため、作業時間が短縮できる。また、このポリウレタン塗膜防水材は、労働安全衛生法(特定化学物質障害予防規則)等の法的制約を受けない安全性の高い、且つ環境に配慮したものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[ポリウレタン塗膜防水材用主剤]
本実施形態に係るポリウレタン塗膜防水材用主剤は、イソシアネート基末端プレポリマーを含み、NET.CPR値が−35〜0.3である。ここで、本明細書におけるCPR(Controlled Polymerization Rate)値とは、JIS K1557−4:2007に定義されているものであり、ポリオール30g中の塩基性物質のマイクロ当量値を意味する。また、本明細書におけるNET.CPR値とは、イソシアネート基末端プレポリマー又はポリウレタン塗膜防水用主剤を構成する全原料成分中の塩基性物質と酸性物質との差を意味し、具体的には、下記式(1)によって計算される(「ポリウレタン樹脂」岩田敬治著、日刊工業新聞社、第5版、65頁も参照)。
Cc=EB−EA ・・・(1)
ただし、
Cc:NET.CPRの計算値
EA:30gの全原料成分中に含まれる酸性物質のマイクロ当量
EB:30gの全原料成分中に含まれる塩基性物質のマイクロ当量
【0023】
また、本明細書におけるNET.CPR値は、実験的には以下の手順に従って測定される。
1)最大容量5mLのビュレットをもつ自動滴定装置を用いて試験を行う。
2)100mL滴定フラスコに試料約30gを1mgまで正確に量りとり、これにメタノール(ISO6353−2に規定する試験級)50mLを加え、充分に混ざるまで攪拌し試料用溶液とする。また、空試験用溶液として上記メタノール50mLを用意する。
3)水酸化ナトリウム溶液(0.01mol/L)を1mL用ホールピペットにとり、上記の試料用及び空試験用溶液に加え、十分に混合する。
4)0.01mol/L塩酸で上記試料用溶液及び空試験用溶液を滴定し、終点(最後の変曲点)までの滴定量を記録する。なお、NET.CPR値が−10以下の場合は、規定度の高い水酸化ナトリウム溶液を使用する。
5)NET.CPR値を、下記式(2)によって算出する。
C=(Vs−Vb)×M×1000×30/m ・・・(2)
ただし、
C:NET.CPR値
Vs:試料用溶液の滴定に要した塩酸量(mL)
Vb:空試験用溶液の滴定に要した塩酸量(mL)
M:塩酸モル濃度(mol/L)
m:試料の質量(g)
【0024】
主剤のNET.CPR値は、−35〜0.3であるが、好ましくは−30〜0.1であり、より好ましくは−15〜0である。主剤のNET.CPR値が上記範囲内であると、主剤中の遊離TDI含有量をより低減させることができる。
【0025】
主剤のNET.CPR値は、後述するとおり、酸性物質若しくは塩基性物質の添加によってCPR値が調整されたポリオール組成物、又は酸性物質若しくは塩基性物質の添加によって酸度が調整されたイソシアネート組成物を適宜用いることで調整される。また、ポリオール組成物とイソシアネート組成物とを反応させた直後に酸性物質又は塩基性物質を添加して反応を完結させることにより、主剤のNET.CPR値を調整することもできる。
【0026】
主剤の23℃における粘度は、硬化剤との混合直後の未硬化液状物が、施工時のレベリングを保持できる程度の主剤粘度を有するために、3000〜35000mPa・sであることが好ましく、4000〜15000mPa・sであることがより好ましく、5000〜10000mPa・sであることが更に好ましい。
【0027】
主剤中の遊離TDI含有量は、主剤全量基準で、0.1質量%未満であることが好ましい。主剤中の遊離TDI含有量が多いと、主剤と硬化剤とを反応させてポリウレタン塗膜を得る際に、遊離TDIがイソシアネート基末端プレポリマーより先に硬化剤と反応して、得られるポリウレタン塗膜防水材の品質や塗膜物性(機械的強度、可使時間等)等に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0028】
主剤は、イソシアネート基末端プレポリマー以外に、塗工前の混合攪拌時の粘度調整、手塗り塗工時の粘度調整等のために可塑剤、溶剤等を更に含んでいてもよい。
【0029】
イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリオキシアルキレンポリオールを含むポリオール組成物とトリレンジイソシアネートを含むイソシアネート組成物とを、ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基(OH基)に対するトリレンジイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)が1.50〜1.90となるように反応させて得ることができる。
【0030】
上記のポリオキシアルキレンポリオールの水酸基に対するTDIのイソシアネート基の当量比は、1.50〜1.90であるが、好ましくは1.60〜1.85であり、より好ましくは1.70〜1.85である。当量比が1.50未満になると、引裂強さ(Tt)等の塗膜の物性値がJIS規格値を満たさない可能性がある。また、当量比が1.90を超えると、主剤中の遊離TDI含有量が多くなるおそれがある。
【0031】
ポリオール組成物とイソシアネート組成物とを反応させる反応温度は、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることが更に好ましい。反応温度を上記の範囲内にすると、副反応を抑制することができ、結果的に主剤中の遊離TDI含有量がより低減される。一方、反応温度の下限は特に制限されないが、例えば40℃以上である。
【0032】
イソシアネート基末端プレポリマーのNCO基含有率は、好ましくは1.5〜5.0質量%、より好ましくは1.8〜4.0質量%、更に好ましくは1.8〜3.5質量%である。なお、NCO基含有率が5.0質量%以下であると、所望の可使時間が得られやすくなる。一方、NCO基含有率が1.5質量%以上であると、ポリウレタン塗膜防水材としての物性が良好になる。
【0033】
イソシアネート基末端プレポリマー中の遊離TDI含有量は、プレポリマー全量基準で0.1質量%未満であることが好ましい。このイソシアネート基末端プレポリマー中の遊離TDI含有量は主剤中の遊離TDI含有量に直結する。
【0034】
ポリオール組成物は、ポリオキシアルキレンポリオールを含むが、酸を更に含むことが好ましい。酸を含むことによってポリオキシアルキレンポリオール中の微量のアルカリ金属等が中和され、ポリオール組成物のCPR値が所望の範囲に調整される。また、ポリオール組成物が酸を含むことによって、主剤が酸を含んでいてもよい。
【0035】
ポリオール組成物中のポリオキシアルキレンポリオールの含有量は、ポリオール組成物全量基準で、70質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。また、ポリオール組成物が酸を含むときは、ポリオール組成物は、ポリオキシアルキレンポリオール及び酸からなっていることが好ましく、酸の含有量は例えば1質量%以下とすることができる。ここで、本明細書において「ポリオール組成物が、ポリオキシアルキレンポリオール及び酸からなる」とは、本発明の効果が奏される程度であれば、ポリオキシアルキレンポリオール及び酸以外の成分を含んでいてもよいことを意味する。
【0036】
上記の酸としては、無機酸又は有機酸が挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、塩酸、硫酸、亜硫酸及びそれらの水溶液が用いられる。また、その他にも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸塩も無機酸として用いられる。有機酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸、カルボン酸ハロゲン化物及びそれらの水溶液が用いられる。
【0037】
酸の中では、カルボン酸ハロゲン化物が好ましい。その中でも、特に塩化ベンゾイル(CAS登録番号:98−88−4)は、ポリオールと良く混和し、また中和後の処理が不要で取扱い易いため好ましい。塩化ベンゾイルは、メチルエチルケトン等の有機溶剤に溶解させ、所定の濃度に調整した希釈溶液として使用する。
【0038】
ポリオール組成物のCPR値は、−35〜0.3であることが好ましい。なお、市販されている通常のポリオキシアルキレンポリオールを用いる場合は、CPR値はおよそ0〜5であるため、CPR値を調整してから用いることが好ましい。
【0039】
ポリオキシアルキレンポリオールは、得られるイソシアネート基末端プレポリマーの高粘度化、結晶化を抑制でき、かつ可使時間を長くできる傾向にあることから、ポリオキシプロピレンポリオール又はポリオキシエチレンプロピレンポリオールであることが好ましい。これらは、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの低分子ポリオールにプロピレンオキサイド又はプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとを付加重合して得られる。ポリオキシアルキレンポリオールとしては、その他にも例えばポリオキシテトラメチレングリコールを使用できる。
【0040】
ポリオール組成物中の全ポリオキシアルキレンポリオールに占める2官能ポリオールの割合は、30〜90質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましく、60〜90質量%であることが更に好ましい。上記割合が30質量%以上の場合、引裂強さ(Tt)等の物性値がJIS規格値を満たしやすくなり、90質量%以下の場合、引張強さ(Tb)等の物性値がJIS規格値を満たしやすくなる。
【0041】
防水材用途に好適な所望のイソシアネート基末端プレポリマーを得るには、ポリオキシアルキレンポリオールの重量平均分子量は1500〜8000であることが好ましく、1700〜6000であることがより好ましい。
【0042】
イソシアネート組成物は、TDIを含むが、酸を更に含むこともできる。また、イソシアネート組成物は、可塑剤等の添加剤又は溶剤等を更に含むこともできる。イソシアネート組成物中のTDIの含有量は、イソシアネート組成物全量基準で、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。なお、イソシアネート組成物が酸を含まないときは、当該含有量は99質量%以上であることが好ましい。また、イソシアネート組成物が酸を含むときは、イソシアネート組成物は、TDI及び酸からなっていることが好ましく、酸の含有量は例えば1質量%以下とすることができる。ここで、本明細書において「イソシアネート組成物が、TDI及び酸からなる」とは、本発明の効果が奏される程度であれば、TDI及び酸以外の成分を含んでいてもよいことを意味する。
【0043】
上記の酸としては、上記ポリオール組成物のCPR値の調整に用いるものを同様に用いることができる。
【0044】
TDIは、TDI全量基準で、2,4−異性体を90質量%以上含むが、95質量%以上含むことが好ましく、98質量%以上含むことがより好ましい。2,4−異性体の含有量が90質量%未満であると、得られる主剤中の遊離TDI含有量が多くなるおそれがある。
【0045】
ポリオール組成物とイソシアネート組成物との反応前の混合物(以下、反応系原料という)のNET.CPR値は、−35〜0.3であることが好ましく、−30〜0.1であることがより好ましく、−15〜0であることが更に好ましい。NET.CPR値が上記範囲内であると、得られるポリウレタン塗膜の劣化処理(酸処理)後の引張強さ比等の物性値がJIS規格値を満足しやすくなり、また、主剤中の遊離TDI含有量を低減させやすくなる。また、ポリオール組成物とイソシアネート組成物との反応後の反応物のNET.CPR値も、同様の理由により、−35〜0.3であることが好ましく、−30〜0.1であることがより好ましく、−15〜0であることが更に好ましい。
【0046】
[ポリウレタン塗膜防水材]
本実施形態に係るポリウレタン塗膜防水材は、上記主剤と主剤の硬化剤とを有する。このポリウレタン塗膜防水材は、主剤と硬化剤が分離された2液性ポリウレタン塗膜防水材であることが好ましい。
【0047】
硬化剤は、芳香族ポリアミン架橋剤を含むことが好ましい。芳香族ポリアミン架橋剤としては、ジエチルトルエンジアミン(以下、DETDAという)を用いることが好ましい。DETDAは、通常3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミンと3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミンとの混合物であり、異性体含有率の異なるものが市販されている。市販品としては、例えば“エタキュア100”(商品名、アルベマール・コーポレーション社製、2,4−異性体/2,6−異性体の質量比80/20)などがある。また、DETDAは、従来芳香族ポリアミンとして慣用されていた4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)(以下、MOCAという)より安全性が高いため、製造や使用に際しての制約がなく好ましい。
【0048】
また、DETDAと他の芳香族ポリアミン架橋剤とを併用することもできる。DETDAと併用可能な芳香族ポリアミン架橋剤としては、例えば、MOCA系ポリアミン(MOCA及び変性MOCA)、ポリアルキレンエーテルポリオール−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレングリコールアミノベンゾエート、1,3,5−トリイソプロピル−2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジイソプロピル−2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジイソプロピル−2,6−ジアミノベンゼン、1−エチル−3,5−ジイソプロピル−2,4−ジアミノベンゼン、1−エチル−3,5−ジイソプロピル−2,6−ジアミノベンゼン、メチレンビス(メチルチオ)ベンゼンジアミン、N,N’−ジセカンダリーブチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ビス(sec−ブチルアミン)ジフェニルメタン、及び3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジイソブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジイソブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のテトラアルキルジアミノジフェニルメタンが挙げられる。なお、DETDAと他の芳香族ポリアミンとを併用する場合、塗膜の硬化速度の調整のために必要に応じて硬化剤に触媒を添加することができる。
【0049】
硬化剤は、可塑剤を更に含むことができる。可塑剤としては、主剤に含まれるイソシアネート末端プレポリマーのNCO基との反応性を有さない可塑剤を使用できる。このような可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸イソノニル、イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、塩素化パラフィン、トリス・B−クロロプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0050】
可塑剤の使用量は、手塗り塗工に適した可使時間、塗膜の硬化性、物性等を考慮して適宜決定されるが、例えば、イソシアネート末端プレポリマー100質量部に対して30〜110質量部である。可塑剤の使用量が、110質量部以下であると、塗膜表面に可塑剤がブリードアウトすることを抑制でき、また、30質量部以上であると、手塗り塗工に適した可使時間が確保しやすくなる。なお、可塑剤は、上記主剤に配合することもできる。
【0051】
硬化剤は、湿潤分散剤;沈降防止剤;光安定剤;消泡剤;炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、ケイソウ土等の無機充填材;酸化クロム、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料などを更に含むことができる。
【0052】
ポリウレタン塗膜防水材においては、主剤に含まれるイソシアネート基末端プレポリマーのNCO基と硬化剤に含まれる芳香族ポリアミン架橋剤のNH
2基との当量比(NCO基/NH
2基)が、好ましくは0.8〜2.0、より好ましくは1.0〜1.8、更に好ましくは1.0〜1.6である。当量比(NCO基/NH
2基)が上記範囲内であると、所望の可使時間、塗膜の物性を確保しやすくなり、遊離のアミンによる黄変も抑制できる。また、当量比(NCO基/NH
2基)が上記範囲内であると、速硬化性、他材料との層間接着性に優れる傾向がある。
【0053】
本実施形態のポリウレタン塗膜防水材は、手塗り塗工に適しているが、可使時間及びレベリング可能時間が長くとれる点から、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー等の自動混合装置を使用した、レベリング性を備えた機械塗工にも適用することができる。また、ダレ止め剤を配合して、立面、壁面、曲面等をローラー、リシンガン、エアレスガン等の方法でも塗工することもできる。
【0054】
また、本実施形態のポリウレタン塗膜防水材は、従来からの防水材の用途でもある廊下、階段等の発音性低下、モルタル保護、防塵性を目的とした床材、金属等の腐食防止のための防錆材、コーキング材としても使用できる。使用の際には作業性に応じてキシレン等の有機溶剤を加えて施工することも可能である。
【0055】
本実施形態に係るポリウレタン防水塗膜は、主剤と当該主剤の硬化剤とを反応させて得ることができる。より具体的には、施工現場で所定量の主剤と硬化剤とを容器内で混合攪拌し、その混合液状物をコテ、ヘラ、レーキ等を用いて塗工し、常温で硬化させることにより、ポリウレタン防水塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
まず、実施例及び比較例において用いた主剤及び硬化剤に含まれる成分を以下に示す。また、実施例及び比較例で用いた評価方法についても以下に示す。
【0058】
<主剤>
D−2000:ポリオキシプロピレンジオール、分子量2000
(商品名“アクトコール D−2000”、三井化学社製)
T−3000:ポリオキシプロピレントリオール、分子量3000
(商品名“アクトコール T−3000S”、三井化学社製)
T−80:トリレンジイソシアネート、2,4/2,6異性体比=80/20
(商品名“コロネートT−80”、日本ポリウレタン社製)
T−100:トリレンジイソシアネート、2,4/2,6異性体比=100/0
(商品名“コロネートT−100”、日本ポリウレタン社製)
【0059】
<硬化剤>
DETDA:ジエチルトルエンジアミン
(商品名“エタキュア100”、アルベマール・コーポレーション社製)
可塑剤:フタル酸ジオクチル(大八化学工業所製)
無機充填材:炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)
【0060】
<粘度の測定方法>
粘度は、JIS K 7301:1995の「熱硬化性ウレタンエラストマー用トリレンジイソシアネート型プレポリマー試験方法 6.2粘度」に準じて、回転粘度計(東機産業(株)BH II形)を用い23℃で測定した。
【0061】
<遊離TDI含有量の測定方法>
主剤中に残存する遊離TDI含有量は、JIS K 7301:1995の「熱硬化性ウレタンエラストマー用トリレンジイソシアネート型プレポリマー試験方法 6.4遊離トリレンジイソシアネート含有率」に準じて測定した。
【0062】
<NET.CPR値の測定方法>
以下の手順に従って、NET.CPR値を測定した。
1)最大容量5mLのビュレットをもつ自動滴定装置を用いて試験を行った。
2)100mL滴定フラスコに試料約30gを1mgまで正確に量りとった。これにメタノール(ISO6353−2に規定する試験級)50mLを加え、充分に混ざるまで攪拌し試料用溶液とした。また、空試験用溶液として上記メタノール50mLを用意した。
3)水酸化ナトリウム溶液(0.01mol/L)を1mL用ホールピペットにとり、上記の試料用及び空試験用溶液に加え、十分に混合した。
4)0.01mol/L塩酸で上記試料用溶液及び空試験用溶液を滴定し、終点(最後の変曲点)までの滴定量を記録した。なお、NET.CPR値が−10以下の場合は、規定度の高い水酸化ナトリウム溶液を使用した。
5)NET.CPR値を、下記式(2)によって算出した。
C=(Vs−Vb)×M×1000×30/m ・・・(2)
ただし、
C:NET.CPR値
Vs:試料用溶液の滴定に要した塩酸量(mL)
Vb:空試験用溶液の滴定に要した塩酸量(mL)
M:塩酸モル濃度(mol/L)
m:試料の質量(g)
【0063】
<NET.CPR値の計算方法>
下記式(3)によって、NET.CPR値の計算値を求めた。
Cc=EB−EA=(Ep−Et+Eb−Ea) ・・・(3)
ただし、
Cc:NET.CPR値の計算値
EA:30gの全原料成分中に含まれる酸性物質のマイクロ当量
EB:30gの全原料成分中に含まれる塩基性物質のマイクロ当量
Et:30gの全原料成分中、TDI組成物に含まれる酸性物質のマイクロ当量
Ep:30gの全原料成分中、PPG組成物に含まれる塩基性物質のマイクロ当量
Ea:30gの全原料成分中、添加剤に含まれる酸性物質のマイクロ当量
Eb:30gの全原料成分中、添加剤に含まれる塩基性物質のマイクロ当量
【0064】
<歩行性の評価方法>
主剤と硬化剤とを混合した後ガラス板上に流延し、流延後16時間経過時点での塗膜の硬化状態を手で触わることにより歩行性を評価した。歩行性が特に良好なものを++、良好なものを+、やや不良なものを±、不良なものを−とした。
【0065】
<可使時間の評価方法>
主剤と硬化剤とを混合した後、混合液の23℃での粘度が10万センチポイズに達するまでの時間(分)を、支障なく塗工できる時間(可使時間)とした。
【0066】
<硬化塗膜の物性の評価方法>
塗工後、23℃で7日経過後にJIS A 6021(建築用塗膜防水材)に準じて硬化塗膜の物性を評価した。本実施例及び比較例においては、引張強さ(Tb、単位:N/mm
2)、引裂強さ(Tt、単位:N/mm)、破断時の伸び率(Eb、単位:%)、及び酸処理後の引張強さ比(Tb比、単位:%)について評価した。
【0067】
[実施例1、比較例1]
表1に示す組成の主剤を以下の手順に従って調製した。まず、D−2000(CPR値:0.51)とT−3000(CPR値:0.54)とのPPG混合物(CPR値:0.52)に、塩化ベンゾイル(メチルエチルケトンの希釈溶液)を添加して中和処理を行い、ポリオール組成物を得た。このポリオール組成物のCPR値(計算値)を表1に示す。なお、表1に示す塩化ベンゾイルの添加量は、反応系原料(ポリオール組成物とイソシアネート組成物との混合物)の全量を基準とした添加量(マイクロ当量)である。続いて、得られたポリオール組成物にT−100を加え(当量比:TDIのNCO基/PPGのOH基=1.75)、反応温度90℃で反応を完結させてイソシアネート基末端プレポリマーを得た。さらに、添加剤(CPR値:0)を加えて主剤を得た。なお、反応系原料のNET.CPR値(計算値)を表1に示す。また、主剤の性状を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1のとおり、実施例1−1〜1−6では主剤中の遊離TDI含有量が0.1質量%未満であるが、比較例1−1〜1−2では主剤中の遊離TDI含有量が0.1質量%以上であった。また、主剤中の遊離TDI含有量は、主剤のNET.CPR値(測定値)が−1.0〜0.01付近であるときに極小値を有し、NET.CPR値が−1.0から低下するにつれて緩やかに増加する傾向が認められた。
【0070】
[実施例2、比較例2]
表2に示す組成の硬化剤と、実施例1−1〜1−6及び比較例1−1〜1−2で調製した各主剤とを、上記JIS A 6021に準じて、それぞれ23℃で24時間以上静置した後、23℃で質量比(主剤/硬化剤)が1/2(当量比=1.2)となるように混合した。この混合物を、ガラス板上に厚さ約2mmになるように流延し、23℃で7日間養生して硬化した塗膜を得た。この塗膜の物性を測定した結果を表3に示す。なお、実施例2−1〜2−6、比較例2−1〜2−2が、それぞれ実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜1−2で調製した主剤を用いたときに得られた塗膜である。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
表3から、主剤のNET.CPR値が低下しすぎると、酸処理後の塗膜物性(Tb比)が防水材用JIS規格値を満たさないことがわかる(比較例2−2)。
【0074】
[実施例3]
T−100(酸度0.00010%)に塩化ベンゾイルを38.0マイクロ当量添加して、酸度の高いイソシアネート組成物を調製した。このイソシアネート組成物の酸度は0.01100%であった。また、実施例3−2では、PPGにも塩化ベンゾイルを9.0マイクロ当量添加した。上記イソシアネート組成物とPPG(D−2000はCPR=0.41)組成物とを用い、その他は実施例1と同様にしてイソシアネート基末端プレポリマー及び主剤を得た。また、得られた主剤を用いて、実施例2と同様にして塗膜を得た。主剤の性状及び塗膜の物性を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
CPR値を調整していないPPGと、酸度を調整したイソシアネート組成物とを反応させて得られた主剤中の遊離TDI含有量は0.1質量%未満であった。また、当該主剤を用いて得られた塗膜の物性は、JIS規格値を満たしていた。
【0077】
[実施例4、比較例4]
表5に示す条件で、実施例1と同様にして各主剤を調製し、得られた主剤を用いて、実施例2と同様にして塗膜を得た。
【0078】
【表5】
【0079】
表5より、実施例4−1〜4−5では、すべて主剤中の遊離TDI含有量が0.1質量%未満であり、また塗膜の物性がJIS規格値を満足していた。一方、比較例4では、主剤中の遊離TDI含有量が0.1質量%以上であった。
【0080】
[実施例5、比較例5]
主剤中の遊離TDI含有量の低減に関して、2,4−異性体/2,6−異性体含有率の異なるTDI使用による効果を検討した。TDIとしてT−100とT−80とを表6に示す割合で用い、実施例1と同様にして主剤を得た。実施例5においては、TDI中の2,4−異性体の含有量は90%であり、比較例5においては、TDI中の2,4−異性体の含有量は85%であった。また、得られた主剤を用いて、実施例2と同様にして塗膜を得た。主剤の性状及び塗膜の物性を表6に示す。
【0081】
[実施例6]
表6に示す条件で、実施例1と同様にして主剤を調製した。また、得られた主剤と、ポリアミン架橋剤としてポリテトラメチレングリコールアミノベンゾエートを含む硬化剤とを用いて、実施例2と同様にして塗膜を得た。主剤の性状及び塗膜の物性を表6に示す。
【0082】
【表6】
【0083】
[比較例7]
表7に示す条件で、実施例1と同様にして主剤を調製した。主剤の性状を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
[実施例8]
表8に示す条件で、実施例1と同様に各主剤を調製した。実施例8−1〜8−6では、D−2000とT−3000との質量比(D−2000/T−3000)を9.5/0.5〜2/8の範囲で変更した。また、得られた主剤を用いて、実施例2と同様にして塗膜を得た。主剤の性状及び得られた塗膜の物性を表8に示す。
【0086】
【表8】
【0087】
[実施例9]
表9に示す条件で、実施例1と同様にして主剤を調製し、実施例2と同様にして塗膜を得た。実施例9−1〜9−6では、主剤と硬化剤との当量比(NCO基/NH
2基)が0.9〜1.9の範囲となるように、硬化剤中のDETDA含有量を変更した。主剤の性状及び塗膜の物性を表9に示す。
【0088】
【表9】