特許第6296827号(P6296827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日精化工業株式会社の特許一覧 ▶ 浮間合成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296827
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20180312BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   C09J175/06
   C09J11/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-37489(P2014-37489)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160911(P2015-160911A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】今野 義紀
(72)【発明者】
【氏名】美細津 岩雄
(72)【発明者】
【氏名】石山 剛
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−217572(JP,A)
【文献】 特開2007−119521(JP,A)
【文献】 特開2011−225851(JP,A)
【文献】 特開2011−226047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールの質量比が40/60〜60/40であるポリオール混合物とポリイソシアネートとを、水酸基の合計モル数と、イソシアネート基のモル数との比([NCO]/[OH])0.2〜0.9で反応させて得られるポリウレタンポリオールと、ポリイソシアネート硬化剤とからな前記ポリウレタンポリオールの数平均分子量が2500〜10000であり、前記脂肪族ポリエステルポリオールが植物由来成分を含む、接着剤組成物。
【請求項2】
溶剤を除く全成分のうち前記植物由来成分が、質量比で25%以上のバイオプラスチックである、請求項に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記ポリオール混合物に、さらに鎖伸長剤を含む、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
ポリウレタンポリオールの酸価が1.5mgKOH/g以下である、請求項1〜のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の接着剤組成物を用いた、ラミネート用接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関し、特に、組成物の原料の一部に植物由来の原料を用いた、ラミネート用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、フィルムをラミネートする技術として、溶剤を用いるドライラミネート法や無溶剤のノンソルベントラミネート法等があり、それらに用いる接着剤組成物として、接着又は積層するフィルム材料、及びその組合せ、またその用途によって多くの種類のものが検討されている。
例えば、ポリエステルポリオールを主剤に、多官能イソシアネートを硬化剤とするラミネート用接着剤においては、ラミネート後の多官能イソシアネート硬化剤との反応が遅く、エージング(硬化)に長時間を要していた。また、分子構造の異なるポリエステルのブロック共重合接着剤として、ホットメルト用に芳香族・脂肪族ブロック共重合ポリエステル接着剤が知られているが、これをラミネートの主剤として使用した場合、接着強度は脂肪族ポリエステル単独より高いが、やはり多官能イソシアネート硬化剤との反応性に乏しく、ラミネート後のエージングに時間がかかってしまっていた。
【0003】
このような中、特許文献1には、ポリ塩化ビニルと鋼板とのラミネート接着剤として、低温接着可能で接着強度の発現の速い、芳香族骨格を有するポリエステルジオール、脂肪族骨格を有するポリエステルジオールとジイソシアネートとを反応させて得られたポリウレタン樹脂と、硬化剤(カルボジイミド変性ポリイソシアネート等)とからなる接着剤が開示されている。
また、特許文献2にはラミネート加工した後の、接着剤の硬化時間の短縮を目的として、特定のポリエステルアルコールを部分的に酸で変性して得られる部分酸変性ポリエステルアルコールとポリイソシアネートとを含有するポリエステル系接着剤が開示されている。
一方、近年、地球温暖化等に係る環境問題が指摘されており、これらを背景に、環境に優しいラミネート用フィルムとして、バイオマス(植物)成分であるポリ乳酸(PLA)等からなるバイオプラスチックフィルムが流通しており、これに対して専用のバイオプラスチック接着剤を開発する業界動向も散見されるようになった。これらの使用は、カーボンニュートラルの観点から、焼却時の二酸化炭素排出削減に貢献するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−25456号公報
【特許文献2】国際公開第2006/117886号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2の接着剤を用い、フィルムをラミネートした場合、硬化反応のための時間短縮、及び接着強度が向上されているものの、生産効率の観点から、さらなる時間短縮の改善が必要であった。
また、前述した専用のバイオプラスチック接着剤は、バイオプラスチックであるポリ乳酸、あるいはポリブチレンサクシネート(PBS)のような脂肪族ポリエステルの共重合やポリマーブレンドによって調製したものであり、該接着剤はポリ乳酸(PLA)等の生分解性フィルムの接着剤として用いられているに過ぎなかった。さらに、バイオプラスチックフィルム専用の接着剤を使用する製造工程では、フィルム構成が、従来の石油由来のフィルムに変わる度に、接着剤をその都度、石油由来のものに切り替えが必要となり、工数、時間の観点から大変煩雑であった。このようなことから、カーボンニュートラルへの貢献を含め、接着剤として、フィルム材料及びその組合せ構成に依存せず、バイオマス成分由来の原料を用いたものが切望されていた。
【0006】
本発明は、エージング(硬化)時間が短く、生産性の向上が図られた接着剤組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、他の目的として、植物由来成分の比率の高い接着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、接着剤組成物において、主剤として、特定の質量比を有する芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールとの混合物と、ポリイソシアネートとを特定のモル比[NCO]/[OH]で反応させ、芳香族ポリエステルポリオールのブロックと脂肪族系ポリエステルポリオールのブロックからなるポリウレタンとし、硬化剤として、さらにポリイソシアネートを用いることにより、前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)である。
(1)芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールの質量比が10/90〜70/30であるポリオール混合物とポリイソシアネートとを、水酸基の合計モル数と、イソシアネート基のモル数との比([NCO]/[OH])0.2〜0.9で反応させて得られるポリウレタンポリオールと、ポリイソシアネート硬化剤とからなる、接着剤組成物。
(2)前記脂肪族ポリエステルポリオールが植物由来成分を含む、上記(1)に記載の接着剤組成物。
(3)溶剤を除く全成分のうち前記植物由来成分が、質量比で25%以上のバイオプラスチックである、上記(2)に記載の接着剤組成物。
(4)前記ポリオール混合物に、さらに鎖伸長剤を含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(5)ポリウレタンポリオールの酸価が1.5mgKOH/g以下である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤組成物を用いた、ラミネート用接着剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の接着剤組成物によれば、エージング(硬化)時間が短く、生産性の向上が図られた接着剤組成物、また、植物由来成分の比率の高い接着組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[接着剤組成物]
本発明は、芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールの質量比が10/90〜70/30であるポリオール混合物とポリイソシアネートとを、水酸基の合計モル数と、イソシアネート基のモル数との比([NCO]/[OH])0.2〜0.9で反応させて得られるポリウレタンポリオールと、ポリイソシアネート硬化剤とからなる、接着剤組成物である。
【0011】
本発明の接着剤組成物においては、接着強度の高い芳香族含有ポリエステルポリオールと、柔軟性の高い脂肪族ポリエステルポリオールを混合し、それらにポリイソシアネートを使用してウレタン結合させ、芳香族ポリエステルポリオールのブロックと脂肪族系ポリエステルポリオールのブロックからなるポリウレタンポリオール構造とした。また、硬化剤のポリイソシアネートは、ポリウレタンポリオール末端の水酸基と反応(鎖延長反応:ウレタン結合)することはもとより、ウレタン結合が持つ活性水素とも効率的に反応(架橋反応;アロファネート結合)が進むので、結果的に硬化を促進させることができる。
上記のことから、該接着剤組成物を、例えば、ラミネート用に使用した場合、優れた接着強度を維持したまま、接着剤の性質として重要な要素の一つであるエージング時間を短縮することができる。
なお、本発明における水酸基価は、JIS K1557−1(2007年)に、酸価は、JIS K0070(1992年)に準拠して測定したものであり、水酸基価及び酸価の単位はいずれも、(mgKOH/g)である。また、本発明における数平均分子量は、水酸基価換算分子量である。
【0012】
〈芳香族ポリエステルポリオール〉
芳香族ポリエステルポリオールは、芳香族骨格を有するポリカルボン酸及び/又は芳香族骨格を有するポリオールから合成される。芳香族ポリエステルポリオール中の、芳香族骨格の含有量は、特に制限されないが、好ましくは15質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。
【0013】
ポリカルボン酸としては、芳香族のテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられるが、脂肪族のコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等を共重合して用いてもよい。
【0014】
ポリオールとしては、特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ブチルエチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA等が挙げられる。これらのなかで、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルキルジオールが好ましい。
【0015】
前記芳香族ポリエステルポリオールを製造する方法は、例えば、前記ポリカルボン酸と、前記ポリオールとを、エステル化触媒の存在下150〜270℃の温度範囲で反応させてポリエステルポリオールを得る方法等が挙げられる。
【0016】
芳香族ポリエステルポリオールの数平均分子量は、500〜5000が好ましく、より好ましくは800〜3500である。数平均分子量がこの範囲であると、ウレタン結合の凝集力が発現し、機械特性が向上する。
芳香族ポリエステルポリオールの水酸基価(固形分換算)は、22〜225が好ましく、より好ましくは32〜141である。酸価(固形分換算)は、3以下が好ましく、より好ましくは1.0以下である。
【0017】
〈脂肪族ポリエステルポリオール〉
脂肪族ポリエステルポリオールは、脂肪族骨格を有するポリカルボン酸と脂肪族骨格を有するポリオールとから合成される。
【0018】
ポリカルボン酸としては、石油由来、又は植物由来の原料のどちらでも用いることができ、特に限定されないが、植物由来のバイオコハク酸、バイオセバシン酸、バイオアジピン酸、バイオ2,5−フランジカルボン酸等のジカルボン酸が好ましい。これらのなかで、バイオコハク酸およびバイオセバシン酸がより好ましい。また、植物由来及び石油由来の原料を併用してもよい。
【0019】
ポリオールとしては、石油由来、又は植物由来の原料のどちらでも用いることができ、特に限定されないが、植物由来のバイオエチレングリコール、バイオ1,3−プロパンジオール、バイオ1,4−ブタンジオール等の二官能ジオールが好ましい。これらのなかで、バイオ1,3−プロパンジオールがより好ましい。また、植物由来及び石油由来の原料を併用してもよい。
【0020】
脂肪族ポリエステルポリオールを製造する方法は、前記芳香族ポリエステルポリオールと同様である。
【0021】
脂肪族ポリエステルポリオールの数平均分子量は、500〜5000が好ましく、より好ましくは800〜3500である。数平均分子量がこの範囲であると、ウレタン結合の凝集力が発現し、機械特性が向上する。
脂肪族ポリエステルポリオールの水酸基価(固形分換算)は、22〜225が好ましく、より好ましくは32〜141である。酸価(固形分換算)は、1.5以下が好ましく、より好ましくは1.0以下である。
【0022】
芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールとの混合割合は、質量比で、10/90〜70/30、好ましくは30/70〜70/30、より好ましくは40/60〜60/40である。質量比が10/90未満であると、接着強度が弱くなる傾向となる。また、質量比が70/30を超えると、柔軟性が小さくなる傾向となる。質量比が上記の範囲にあれば、接着強度、柔軟性に優れる接着剤組成物が得られる。
【0023】
脂肪族ポリエステルポリオールの原料として、上述した植物由来のポリカルボン酸及びポリオールを使用することにより、接着剤組成物において、溶剤を除く全成分のうち植物由来成分が質量比で25%以上とすることができる。
【0024】
〈鎖伸長剤〉
接着剤組成物の初期の接着強度を向上させる目的で、前記ポリオール混合物に、さらに、鎖伸長剤を加えてもよい。該鎖伸長剤としては、ポリエステルポリオールの原料に使用する前述したポリオールと同一のものおよびジアミン等が使用できる。
前記鎖伸長剤の配合量は、芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールの合計量に対して、20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。この範囲であれば、接着剤の初期接着強度が向上する。
【0025】
(ポリウレタンポリオール(主剤))
本発明において、ポリウレタンポリオールは、接着剤組成物の主剤となるものであり、前記芳香族ポリエステルポリオール及び前記脂肪族ポリエステルポリオールと、下記に示すポリイソシアネートとを反応させて、芳香族ポリエステルポリオールのブロックと脂肪族系ポリエステルポリオールのブロックからなるポリウレタンポリオールとして得られる。
【0026】
〈ポリイソシアネート〉
ポリイソシアネートは、以下に限定されるものではなく、公知のジイソシアネートから誘導された化合物を用いることができる。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。また、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4'−ジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。さらに、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'−ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
その他、上記ポリイソシアネートのビューレット変性体、アロファネート変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等の変性体;上記ポリイソシアネートとポリオールを反応させて得られるアダクト体等が挙げられる。これらの中で、反応性・物性等総合的な観点から、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらは、単独で、あるいは2種以上で使用してもよい。
【0027】
ポリウレタンポリオールの合成に供する、芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールのポリオール混合物、必要に応じて使用する鎖伸長剤に含まれる水酸基の合計モル数[OH]と、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基のモル数[NCO]との比([NCO]/[OH])は、0.2〜0.9、好ましくは0.3〜0.8、より好ましくは0.4〜0.7である。比([NCO]/[OH])が0.2未満であると、低分子量のため、ラミネート直後の初期強度が出ない、エージング後の硬化が不十分で剥離強度が低くなるなどの問題が生じる。また、比([NCO]/[OH])が、0.9を超えると、高分子量で高粘度となり、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム原反等に対する濡れ性が低下し、接着剤の転写性の悪化につながる。比([NCO]/[OH])が、上記の範囲にあり、かつ前述したように、芳香族ポリエステルポリオールと脂肪族ポリエステルポリオールとの質量比が、特定した範囲にあれば、接着性に優れ、硬化時間が短縮された接着剤組成物が得られる。
【0028】
ポリウレタンポリオールを製造する方法は、前記芳香族ポリエステルポリオール、前記脂肪族ポリエステルポリオールを含むポリオール混合物と前記ポリイソシアネート化合物とを、ウレタン化触媒の存在下50〜100℃の温度範囲で反応させる方法等が挙げられる。
【0029】
ポリウレタンポリオールの数平均分子量は、1000〜10000が好ましく、より好ましくは2500〜5000である。数平均分子量がこの範囲であると、後述するポリイソシアネート硬化剤と十分反応する前、即ちエージング前の接着剤層の凝集力を確保し、例えば、ラミネート時に貼り合わせるフィルム等同士が巻きズレを起こさず、さらに塗工に適した粘度の接着剤組成物が得られる。
【0030】
ポリウレタンポリオールの水酸基価(固形分換算)は、11〜112が好ましく、より好ましくは22〜45である。水酸基価がこの範囲であると、後述のポリイソシアネートとの反応により架橋密度が十分であって、耐久性に優れる接着剤層を形成でき、接着剤組成物の塗工時には、十分な長さの使用可能時間(ポットライフ)を確保できる。
酸価(固形分換算)は、1.5mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは1.0mgKOH/g以下である。酸価がこの範囲であれば、接着剤の耐加水分解性が向上する。
【0031】
〈ポリイソシアネート硬化剤〉
ポリイソシアネート硬化剤としてのポリイソシアネートは、前述したポリウレタンポリオールの原料として用いるポリイソシアネートと同じものを用いることができる。
硬化剤の含有量は、ポリウレタンポリオール100質量部に対して、固形分比で1〜30質量部が好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。硬化剤の含有量がこの範囲にあれば、硬化剤のポリイソシアネートは、ポリウレタンポリオール末端の水酸基と反応することはもとより、ウレタン結合が持つ活性水素とも効率的に架橋反応が進むので、結果としてエージング時間の短縮につながる。
【0032】
さらに、本発明の接着剤組成物には、必要に応じて、シランカップリング剤、レベリング剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、脱泡剤、帯電防止剤、防曇剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0033】
本発明の接着剤組成物には、各種の溶剤を含有していてもよい。前記溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系化合物;トルエン、キシレン等の芳香族系化合物;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等の環状エーテル系化合物;カルビトール、セロソルブ、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系化合物等;水が挙げられる。これらは、単独で、あるいは2種以上併用してもよい。
【0034】
本発明の接着剤組成物は、各種用途に使用でき、特に限定されないが、種々のプラスチックフィルムを接着するためのラミネート用接着剤組成物として好適に用いることができる。
【0035】
ラミネート用のプラスチックフィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン(ポリプロピレン、低密度ポリエチレン等)、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリビニルアルコール、ABS樹脂、ノルボルネン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂等からなるフィルムが挙げられる。また、アルミ箔、銅箔等の金属箔が挙げられる。
前記各種フィルム同士等を接着する際のラミネート用接着剤の使用量は、1〜50g/m2dryの範囲であることが好ましい。接着剤の使用量が上記範囲であれば、エージング時間が短縮でき、高い剥離強度が得られる。
【0036】
本発明の接着剤組成物を用い、各種フィルムを接着して得られる複合フィルムは、エージング(硬化)時間の短縮が可能であることから、生産効率が高く、かつ脂肪族ポリエステルポリオールの原料となるポリカルボン酸及びポリオールとして植物由来のものを使用(接着剤層には植物由来成分が質量比で25%以上含有)することで、カーボンニュートラルの観点から、焼却時の二酸化炭素の発生の削減に貢献できる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(合成例1)
攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、バイオセバシン酸349.0g、バイオ1,3−プロパンジオール151.0gを仕込み、200℃で、10時間脱水縮合を行った。得られた脂肪族ポリエステルジオール(ジオールL)の水酸基価は114.1、数平均分子量980であった。
同様に、別の、攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、イソフタル酸307.9g、1,6−ヘキサンジオール125.9g、エチレングリコール66.1gを仕込み、230℃で、10時間脱水縮合を行った。得られた芳香族ポリエステルジオール(ジオールK)の水酸基価は110.3、数平均分子量1020であった。
次いで、さらに別の、攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、得られた水酸基価114.1の脂肪族ポリエステルジオールL、138.1gと、水酸基価110.3の芳香族ポリエステルジオールK、142.9g、及び酢酸エチルを185.0gを仕込み、ポリエステルジオールを均一に溶解させた後、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を34.0g(NCO/OH=0.54)添加し、80℃で3時間重付加反応を行った。得られた芳香族/脂肪族共重合ポリエステルウレタンジオール(ジオールA)は、常温で淡黄色透明溶液であり、固形分の水酸基価は37.9、酸価は0.74、数平均分子量は2960であった。
【0039】
(合成例2)
攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、バイオコハク酸287.2g、バイオ1,3−プロパンジオール212.8gを仕込み、以下実施例1と同様に反応を進めた。得られた脂肪族ポリエステルジオールMの水酸基価は113.5、数平均分子量990であった。別の、撹拌装置・温度計・コンデンサー・加熱装置の付いた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、得られた水酸基価113.5の脂肪族ポリエステルジオール(ジオールM)、138.1gと、合成例1で合成した水酸基価110.3の芳香族ポリエステルジオールK、142.9g、及び酢酸エチルを185.0g仕込み、IPDIを34.0g(NCO/OH=0.55)添加し、80℃で3時間重付加反応を行った。得られた芳香族/脂肪族共重合ポリエステルウレタンジオール(ジオールB)は、常温で淡黄色透明溶液であり、固形分の水酸基価は37.2、酸価は0.67、数平均分子量は3020であった。
【0040】
(合成例3)
攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、イソフタル酸197.3g、1,6−ヘキサンジオール77.2g、エチレングリコール40.5gを仕込み、230℃まで昇温後、10時間脱水縮合した。冷却後、酢酸エチル185.0gで希釈した。得られた芳香環含有ポリエステルジオール(ジオールC)は、常温で淡黄色透明粘稠溶液であり、固形分の水酸基価は36.2、数平均分子量は3100であった。
【0041】
(合成例4)
攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、セバシン酸222.8g、バイオ1,3−プロパンジオール92.2gを仕込み、200℃まで昇温し、10時間脱水縮合した。冷却後、酢酸エチル185.0gで希釈した。得られた脂肪族ポリエステルジオール(ジオールD)は、常温で淡黄色透明粘稠溶液であり、固形分の水酸基価は38.1、数平均分子量は2940であった。
【0042】
(合成例5)
攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、合成例1で合成した芳香族ポリエステルジオール(ジオールK)、106.8gと、ε−カプロラクトン208.2gを仕込み、200℃まで昇温し、5時間付加反応を行った。冷却後、酢酸エチル185.0gで希釈した。得られた芳香族/脂肪族共重合ポリエステルジオール(ジオールE)は、常温で淡黄色透明粘稠溶液であり、固形分の水酸基価は36.7、数平均分子量は3060であった。
【0043】
(合成例6)
攪拌装置、温度計、コンデンサー、加熱装置を備えた1リットルの四つ口セパラブルフラスコに、芳香族ポリエステルジオールKを282.2g、酢酸エチルを185.0g仕込み、IPDIを32.9g(NCO/OH=0.54)添加し、80℃で3時間重付加反応を行った。得られた芳香族ポリエステルウレタンジオール(ジオールF)は、常温で淡黄色透明溶液であり、固形分の水酸基価は38.0、数平均分子量は2950であった。
【0044】
(実施例1)
合成例1で得られた接着剤組成物の主剤となるジオールAを用い、硬化剤、希釈用酢酸エチルを表1に示す配合Aで、塗布用接着組成物を調製し、複合フィルムを以下の方法で作製し、下記(1)〜(4)の項目を評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0045】
(複合フィルムの作製方法)
各ジオールA〜Fに対応した、前記塗布用接着組成物をそれぞれ、バーコーターにより、塗布量が2.7g/m2となるようにONy(コロナ処理済延伸ナイロン)上に塗布する。次いで、ドライヤーを用いて、希釈溶剤を乾燥させ、LLDPE(コロナ処理済直鎖低密度ポリエチレン)と重ねながらニップロール(ロール圧:3MPa)を通して、複合フィルムを作製する。
【0046】
(1)剥離強度試験
複合フィルムから15mm幅の試験片を切り出し、試験片を温度36℃で4日間エージングを行い、1日毎にサンプリングし、エージングされた試験片をその都度、引張試験機(島津製作所社製、型名:EZ-S)を使用して、20℃×65%RHの環境下、引張速度300mm/分で行い、T形剥離強度(gf/15mm)の経時変化を測定した。
得られた、エージング4日後の試験片の剥離強度(gf/15mm)を、以下の評価基準にて、評価を行った。
80以上:○
60以上から80未満:△
60未満:×
(2)剥離強度安定性
剥離強度の安定性について、剥離強度がエージング4日間で安定するかどうかを試験した。(1)で得られたデータをプロット(剥離強度vsエージング日数)し、剥離強度が一定に達する概略日数を読み取り、4日を超える日数となる(一定値に達しない)ものを×とした。
(3)溶液安定性
10℃における固形分63%の、主剤である各ジオールA〜F溶液を、1週間保存した後の経時的な外観変化を目視で観察した。外観変化が観察されないものを○とし、色変化、白濁等、溶液に明らかな外観変化を生じていたものを×とした。
(4)汎用性
本発明の実施例及び比較例における汎用性とは、合成の容易性、時間の長短であり、以下の評価基準により評価を行った。
短時間で合成ができ、かつ容易である:○
時間はかかるが、合成が容易である:△
時間がかかり、合成が容易でない:×
【0047】
(実施例2)
合成例2で得られた接着剤組成物の主剤となるジオールBを用い、硬化剤、希釈用酢酸エチルを表1に示す配合Bで、塗布用接着組成物を調製し、実施例1と同様、複合フィルムを作製し、上記(1)〜(4)の項目を評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0048】
(比較例1)
合成例3で得られた接着剤組成物の主剤となるジオールCを用い、硬化剤、希釈用酢酸エチルを表1に示す配合C、塗布用接着組成物を調製し、実施例1と同様、複合フィルムを作製し、上記(1)〜(4)の項目を評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0049】
(比較例2)
合成例4で得られた接着剤組成物の主剤となるジオールDを用い、硬化剤、希釈用酢酸エチルを表1に示す配合D、塗布用接着組成物を調製し、実施例1と同様、複合フィルムを作製し、上記(1)〜(4)の項目を評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0050】
(比較例3)
合成例5で得られた接着剤組成物の主剤となるジオールEを用い、硬化剤、希釈用酢酸エチルを表1に示す配合E、塗布用接着組成物を調製し、実施例1と同様、複合フィルムを作製し、上記(1)〜(4)の項目を評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0051】
(比較例4)
合成例6で得られた接着剤組成物の主剤となるジオールFを用い、硬化剤、希釈用酢酸エチルを表1に示す配合F、塗布用接着組成物を調製し、実施例1と同様、複合フィルムを作製し、上記(1)〜(4)の項目を評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
上記表2、3の結果から、実施例1、2では、剥離強度がエージング時間が2日間で一定値になることから、比較例に比べ、硬化時間が短縮されていることがわかった。また、剥離強度の絶対値がより大きく、溶液安定性及び汎用性を同時に満たしていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の接着剤組成物によれば、硬化時間の短縮が可能であるため、例えば、ラミネート用接着剤の生産効率を向上させることができる。また、原料の一つである脂肪族ポリエステルのモノマー成分を植物由来(接着剤組成物から溶剤を除いた固形分の25質量%以上)としているため、カーボンニュートラルの観点から、環境に優しいものとなっている。