(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
また、以下においては、一例として、X線による画像情報を光学像などに変換するX線イメージ管について説明する。
【0008】
図1は、本実施の形態に係るイメージ管1を例示するための模式断面図である。
なお、
図1中のLはX線を、Mは電子線を、Nは可視光像を、Tは被写体をそれぞれ表している。
図1に示すように、イメージ管1には、真空外囲器2、入射部3、集束電極4、陽極5、封着部23、出射部6、高圧電源7、電源回路8、およびX線発生装置9が設けられている。
【0009】
真空外囲器2は、筒状を呈し、内部の雰囲気を大気圧よりも減圧された状態に維持する。この場合、真空外囲器2の内部は、高真空(例えば、10
−8Torr〜10
−9Torr程度)とされる。
真空外囲器2の一方の端部には、開口である入射窓21が設けられている。
真空外囲器2の他方の端部には、開口である出射窓22が設けられている。
【0010】
入射部3は、真空外囲器2の入射窓21を塞ぐように設けられている。
入射部3には、入射膜31、入射側蛍光膜32、および光電変換膜33が設けられている。
入射膜31は、真空外囲器2の外部に面している。入射膜31の外部に面する面は、入射面となっている。入射膜31には、放射線であるX線Lが入射する。また、入射膜31は、陰極として機能する。入射膜31は、例えば、アルミニウムなどから形成されている。入射膜31の厚み寸法は、例えば、1mm程度とすることができる。
入射側蛍光膜32は、入射膜31と光電変換膜33との間に設けられている。
入射側蛍光膜32は、入射膜31を介して入射したX線Lを光に変換する。
入射側蛍光膜32は、例えば、ヨウ化セシウム(CsI)を含む。
入射側蛍光膜32の厚み寸法は、例えば、350μm程度とすることができる。
入射側蛍光膜32は、例えば、真空蒸着法を用いて、入射膜31の入射面側とは反対側の面上に蒸着することで形成することができる。
光電変換膜33は、真空外囲器2の内部に面している。
光電変換膜33には、入射側蛍光膜32により変換された光が入射する。
光電変換膜33は、入射した光を電子線Mに変換する。
光電変換膜33は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)を含む。
光電変換膜33の厚み寸法は、例えば、0.12μm程度とすることができる。
光電変換膜33は、例えば、真空蒸着法を用いて、入射側蛍光膜32の入射膜31側とは反対側の面上に蒸着することで形成することができる。
【0011】
集束電極4は、真空外囲器2の内部に設けられている。集束電極4は、光電変換膜33から放射された電子線Mを制御する。
集束電極4には、フォーカス用集束電極41と、視野可変用集束電極42とが設けられている。
フォーカス用集束電極41は、入射部3側に設けられている。フォーカス用集束電極41は、光電変換膜33から放射された電子線Mの焦点位置を制御する。
視野可変用集束電極42は、出射部6側に設けられている。視野可変用集束電極42は、光電変換膜33から放射された電子線Mの照射領域を制御する。
【0012】
陽極5は、真空外囲器2の内部に設けられている。陽極5は、集束電極4と、出射部6の間に設けられている。
陽極5は、集束電極4により集束させた電子線Mを加速させる。
陽極5は、筒状を呈し、イメージ管1の軸方向に貫通する孔部を有している。集束電極4により集束された電子線Mは、陽極5の孔部を通って、出射部6に入射する。
【0013】
封着部23は、環状を呈し、真空外囲器2の出射窓22側の端部に融着されている。
出射部6は、真空外囲器2の出射窓22を塞ぐように設けられている。
後述する出射部6の出射フェース融着板63は、封着部23に気密に溶接されている。 出射部6は、陽極5により加速させた電子線Mを光に変換し、可視光像Nとして出射する。
なお、出射部6に関する詳細は後述する。
【0014】
高圧電源7は、真空外囲器2の外部に設けられている。高圧電源7は、例えば、真空外囲器2を保持する図示しない真空外囲器ケースに設けることができる。
高圧電源7は、集束電極4、陽極5、および後述するメタルバック層64に高電圧を印加する。
なお、集束電極4に印加される電圧は、集束電圧となる。
この場合、フォーカス用集束電極41には数100V程度、視野可変用集束電極42には数1000Vの電圧が印加される。
また、陽極5に印加される電圧は、陽極電圧となる。
この場合、陽極5には、25kV〜30kV程度の電圧が印加される。
メタルバック層64には、25kV〜30kV程度の電圧が印加される。
【0015】
電源回路8は、高圧電源7、フォーカス用集束電極41、視野可変用集束電極42、陽極5、メタルバック層64、陰極である入射膜31、およびアースであるグランド(GND)81を接続することで構成されている。
なお、陰極である入射膜31は接地されている。
【0016】
X線発生装置9は、発生させたX線をイメージ管1の入射膜31に向けて放射する。
X線発生装置9は、例えば、X線を発生させる回転陽極X線管と、回転陽極X線管に高電圧を印加する高圧電源を備えたものとすることができる。
回転陽極X線管は、印加された高電圧により加速させた電子をターゲットに衝突させることでX線を発生させる。
【0017】
次に、出射部6についてさらに説明する。
図2は、出射部6を例示するための模式断面図である。
図2に示すように、出射部6には、フェースプレート61、出射側蛍光膜62、出射フェース融着板63、およびメタルバック層64が設けられている。
【0018】
フェースプレート61は、基部612と、蛍光膜形成部611を有する。
基部612は、円板状を呈し、出射フェース融着板63に接合されている。
蛍光膜形成部611は、円板状を呈し、基部612の陽極5側の面(電子線Mが入射する側の面)から突出している。蛍光膜形成部611の主面6111(出射側蛍光膜62が設けられる面)の平面寸法は、基部612の平面寸法よりも短くなっている。
すなわち、フェースプレート61は、2段の段付き構造を有している。
基部612と、蛍光膜形成部611は、一体に形成されている。
フェースプレート61は、ガラスなどの光透過性を有する材料から形成されている。
そのため、出射側蛍光膜62において発生させた光(可視光像N)をイメージ管1の外部に取り出すことができる。
【0019】
出射側蛍光膜62は、膜状を呈し、蛍光膜形成部611の主面6111に設けられている。
出射側蛍光膜62は、メタルバック層64を介して入射した電子線Mを光に変換し、可視光像Nとして出射する。
【0020】
出射フェース融着板63は、環状を呈している。出射フェース融着板63の電子線Mが入射する側の面とは反対側の面には、凹部631が設けられている。
蛍光膜形成部611は、環状の出射フェース融着板63の内側に位置している。
出射フェース融着板63の凹部631には、フェースプレート61の基部612が融着されている。
すなわち、基部612の陽極5側の面の周縁部分は、凹部631の底面に融着されている。
【0021】
例えば、フェースプレート61の基部612と、出射フェース融着板63との融着部分に高周波電力を印加して、局所的に高熱を発生させることで、フェースプレート61と出射フェース融着板63とを融着することができる。
ここで、フェースプレート61の厚みが薄くなっている部分である基部612の周縁部分と、出射フェース融着板63とを融着しているので、フェースプレート61の中央部分への熱の影響を抑制することができる。
【0022】
出射フェース融着板63の材料の熱膨張係数は、フェースプレート61の材料の熱膨張係数になるべく近くなるようにするのが好ましい。
また、出射側蛍光膜62に残る余剰な電子を、メタルバック層64および出射フェース融着板63を介して放出することを考慮すると、出射フェース融着板63の材料は導電性材料であることが好ましい。
例えば、フェースプレート61の材料がガラスの場合には、出射フェース融着板63の材料は、コバールなどとすることができる。
【0023】
出射フェース融着板63の電子線Mが入射する側の面には、陽極5が接合されている。 例えば、陽極5に設けられた鍔部と、出射フェース融着板63の周縁部分とを接合することができる。
前述したように、出射フェース融着板63の電子線Mが入射する側の周縁部分635は、封着部23に気密に溶接されている。
【0024】
メタルバック層64は、出射側蛍光膜62の表面、環状の出射フェース融着板63の内側に露出するフェースプレート61の表面、および筒状の陽極5の内側に露出する出射フェース融着板63の表面を覆うように設けられている。
すなわち、メタルバック層64は、蛍光膜形成部611の側面613を介して、出射フェース融着板63まで伸びている。
メタルバック層64は、出射側蛍光膜62に残る余剰な電子を出射フェース融着板63を介して放出する。すなわち、メタルバック層64は、出射側蛍光膜62における帯電を防止する。
また、メタルバック層64は、陽極5と同電位になるように接続されるのが好ましい。 メタルバック層64と陽極5を同電位とすれば、メタルバック層64を透過する電子線Mが減速するのを抑制することができる。
そのため、メタルバック層64は、導電性材料から形成されている。
【0025】
また、メタルバック層64は、出射側蛍光膜62において発生し、陽極5側に向かう光をフェースプレート61側に反射する。
そのため、メタルバック層64は、出射側蛍光膜62において発生した光に対する反射率が高い材料から形成されている。
メタルバック層64は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などから形成することができる。
【0026】
ここで、メタルバック層64の厚みが厚くなると、電子線Mが透過し難くなる。またさらに、メタルバック層64の厚みが厚くなると、メタルバック層64からの反射電子あるいは2次電子の発生量が多くなる。
そのため、メタルバック層64の厚みを厚くしすぎると、画像特性(例えば、コントラスト、解像度、輝度など)が劣化するおそれがある。
メタルバック層64の厚みは、例えば、200nm〜350nm程度とすることが好ましい。
メタルバック層64は、例えば、真空蒸着法、スパッタリングなどの物理的気相成長(PVD;Physical Vapor Deposition)法、化学的気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition)法などを用いて形成することができる。
【0027】
前述したように、フェースプレート61と、出射フェース融着板63とを融着する際の熱の影響を抑制するために、フェースプレート61は、基部612から突出する蛍光膜形成部611を有している。
基部612から突出する蛍光膜形成部611は、研磨加工法を用いて形成することができる。
ところが、研磨加工法を用いて、基部612から突出する蛍光膜形成部611を形成すると、蛍光膜形成部611の側面613に凹凸部614が形成される場合がある。
また、研磨加工においては、砥石の角部などの摩耗をなくすことができず、時間とともに凹凸部614の発生が増加することになる。
【0028】
図3は、比較例に係る蛍光膜形成部611aの側面613aに形成された凹凸部614を例示するための模式断面図である。
前述したように、メタルバック層64は、真空蒸着法、物理的気相成長法、化学的気相成長法などを用いて形成される。
この場合、
図3に示すように、メタルバック層64となる蒸着物641は、蛍光膜形成部611aの主面611a1にほぼ垂直な方向から側面613aに入射する。
【0029】
そのため、蛍光膜形成部611aの側面613aに凹凸部614が形成されていると、蒸着物641が、凹凸部614の内部に侵入し難くなる。
その結果、凹凸部614がある部分において、連続したメタルバック層64を形成することが困難となる。
連続したメタルバック層64を形成することができないと、不連続となっている部分において電位差が生じてスパークが発生する。スパークが発生すると、出射された可視光像Nにブレやぼやけなどが発生し、正確な画像診断などを行うことが困難となる。
【0030】
本発明者らの得た知見によれば、蛍光膜形成部611の側面613が、なだらかな傾斜を有するものとすれば、凹凸部614が形成されたとしても、連続したメタルバック層64を形成することが容易となる。この場合、仮に、メタルバック層64が不連続となる部分が生じたとしても、メタルバック層64が不連続となる部分は大幅に少なくなるので、ノイズの低減や画質の向上を図ることができる。
また、なだらかな傾斜は、蛍光膜形成部611の主面6111の周縁の一部の領域に設けられていればよい。
ただし、なだらかな傾斜が、蛍光膜形成部611の主面6111の周縁の全域に設けられているようにすれば、ノイズのさらなる低減や画質のさらなる向上を図ることができる。
【0031】
図4(a)〜(b)は、蛍光膜形成部611の側面613の形態を例示するための模式断面図である。
図4(a)〜(b)に示すように、蛍光膜形成部611の側面613が、なだらかな傾斜を有するものとすれば、蒸着物641が、凹凸部614の内部に侵入し易くなる。
そのため、凹凸部614が形成されたとしても、連続したメタルバック層64を形成することが容易となる。
この場合、側面613の形態は、
図4(a)に示すように直線からなるものであってもよいし、
図4(b)に示すように曲線と直線からなるものであってもよいし、
図4(c)に示すように曲線からなるものであってもよい。
【0032】
なお、
図4(b)は、側面613の主面6111側が曲線からなり、側面613の基部612側が直線からなる場合であるが、これに限定されるわけではない。曲線からなる部分、および直線からなる部分の数、配置は適宜変更することができる。
また、
図4(c)は、側面613の主面6111側が蛍光膜形成部611の径方向外側に突出する曲線からなり、側面613の基部612側が蛍光膜形成部611の径方向内側に突出する曲線からなる場合である。
【0033】
また、本発明者らの得た知見によれば、側面613と、蛍光膜形成部611の主面6111(出射側蛍光膜62が設けられる面)と垂直な方向とがなす角度θが45°以上となれば、連続したメタルバック層64を形成することがさらに容易となる。
側面613の直線からなる部分においては、側面613と、蛍光膜形成部611の主面6111と垂直な方向とがなす角度θが45°以上となればよい。
側面613の曲線からなる部分においては、側面613の接線と、蛍光膜形成部611の主面6111と垂直な方向とがなす角度θが45°以上となればよい。
【0034】
また、本発明者らの得た知見によれば、研磨加工法に用いる砥石の刃先における角部の曲率半径が大きくなるような側面613の形態とすることが好ましい。
この場合、
図4(c)に示すように、側面613の形態が曲線からなるようにすれば、角部の曲率半径が大きくなるようにすることができる。
砥石の刃先における角部の曲率半径が大きくなれば、砥石の刃先における摩耗を抑制することができるので、凹凸部614の発生を抑制することができる。
その結果、連続したメタルバック層64を形成することがさらに容易となる。
【0035】
次に、本実施の形態に係るイメージ管1の作用について説明する。
図1に示すように、X線発生装置9から放射されたX線Lは、検査対象の被写体T(図中では人間)を透過して、入射部3に入射する。
入射部3に入射したX線L(X線像)は、入射側蛍光膜32により光(蛍光像)に変換される。
【0036】
入射側蛍光膜32により変換された光は、光電変換膜33により、光電子である電子線Mへと変換される。
この際、光の明暗(蛍光像の強度)に比例した強度を有する電子線Mに変換される。光電変換膜33により変換された電子線Mは、真空外囲器2の内部を出射部6側へ向けて伝播する。電子線Mが伝播する際、真空外囲器2の内部に設けられた集束電極4により、電子線Mは加速・集束される。この加速・集束は、高圧電源7により集束電極4に電圧が印加されることで行われる。そして、出射部6側に設けられた陽極5の近傍において焦点が形成されるように、集束電極4に印加される電圧が制御される。
【0037】
陽極5と、出射部6に設けられた出射側蛍光膜62との間においては、陽極5の近傍において集束した電子線Mが発散するとともに、陽極5により加速される。
この際、フォーカス用集束電極41および視野可変用集束電極42により、電子線Mは、出射側蛍光膜62上に照射されるように制御される。
【0038】
出射側蛍光膜62上に照射された電子線Mは、出射側蛍光膜62により光へと変換される。この際、出射側蛍光膜62により変換された光は、真空外囲器2の外部方向だけではなく、陽極5側の方向にも照射される。
陽極5側の方向に照射された光は、メタルバック層64により反射されて、真空外囲器2の外部方向に照射される。
真空外囲器2の外部方向に照射された光は、可視光像Nとして出射部6から出射する。 出射部6から出射した可視光像Nは、例えば、図示しないCCDカメラなどにより電気信号に変換される。変換された電気信号は、被写体Tに関する画像情報(出射像)として用いられる。
【0039】
ここで、高圧電源7により、集束電極4(フォーカス用集束電極41、視野可変用集束電極42)に高電圧が印加される。これにより、陽極5にも高電圧の陽極電圧が印加される。そのため、陽極電圧が印加された陽極5により、電子線Mをさらに加速させることができる。この際、陽極5に接触しているメタルバック層64にも同し電圧が印加されるため、メタルバック層64によっても電子線Mが加速されることになる。この場合、メタルバック層64における陽極5と同じ電圧が印加される領域は、メタルバック層64のうち、出射側蛍光膜62を覆っている部分であればよい。
また、メタルバック層64は、出射側蛍光膜62全体に高電圧を印加することで電子線Mを加速させるだけではなく、出射側蛍光膜62における帯電防止、および前述した光を反射させる機能を有する。そのため、メタルバック層64に不連続な部分が生じると、メタルバック層64の不連続な部分における出射側蛍光膜62の能力低下、ひいては、ぼやけや出射光量の低下が発生するおそれがある。
【0040】
本実施の形態に係るイメージ管1によれば、出射フェース融着板63からフェースプレート61の間において、厚みが薄く、連続したメタルバック層64を形成することができる。
そのため、出射フェース融着板63を介して、メタルバック層64と陽極5とを確実に導通させることができる。
その結果、出射像のコントラストや解像度などの画像特性の向上、画像のブレや画像のぼやけなどの発生の抑制、低ノイズ化、画質の安定化などを図ることができる。
【0041】
以上、本実施の形態に係るイメージ管1について例示をしたが、イメージ管1が備える各要素の形状、数、配置、材料などは、本発明の特徴が失われない限り変更することができる。
【0042】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。