(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スクリュを同一方向に回転することにより、前記可塑化シリンダの内部において、前記シール機構の上流側の前記混練物の圧力を第1の圧力に調整した状態で、前記シール機構の下流側に前記混練物を流動させることを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体の製造方法。
前記高圧混練ゾーンを第1の圧力に調整し、前記減圧ゾーンを第3の圧力に調整した状態で、前記高圧混練ゾーンから前記減圧ゾーンへ前記混練物を流動させることを特徴とする請求項7に記載の発泡成形体の製造方法。
前記減圧ゾーンの圧力を制御することは、前記減圧ゾーンに不活性ガスを導入して前記減圧ゾーンを加圧すること、及び/又は、背圧弁を用いて前記減圧ゾーンから前記ガス化した物理発泡剤を排気することを含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の発泡成形体の製造方法。
前記シール機構は、前記高圧混練ゾーンを第1の圧力に調整し、前記減圧ゾーンを第3の圧力に調整した状態で、前記高圧混練ゾーンから前記減圧ゾーンへ前記混練物を流動させる機構であることを特徴とする請求項11に記載の成形機。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[
参考形態]
本
参考形態の発泡成形体の製造方法は、発泡射出成形方法であり、
図2に示す成形機1000を用いて実施することができる。まず、成形機1000について説明する。
【0023】
<成形機>
図2に示すように、成形機1000は、可塑化シリンダ210を有する混練装置200と、物理発泡剤を可塑化シリンダ210に供給する物理発泡剤供給装置100と、金型が設けられた型締めユニット250と、物理発泡剤供給装置100、混練装置200及び型締めユニット250を動作制御する制御装置(不図示)を備える。また、混練装置200には、ノズル先端29にエアーシリンダ12の駆動により開閉するシャットオフバルブ36が設けられ、可塑化シリンダ210の内部を高圧に保持できる。ノズル先端29には、金型が密着し、金型が形成するキャビティ253内に、ノズル先端29から溶融樹脂が射出充填される。
【0024】
図2に示す混練装置200は、可塑化シリンダ210と、可塑化シリンダ210内に回転及び進退自在に配設されたスクリュ20と、スクリュ20を駆動させるスクリュ駆動機構37と、可塑化シリンダ210内に配置される上流側シール機構S1及び下流側シール機構S2と、可塑化シリンダ210に接続する減圧ゾーン圧力調整機構219を備える。本
参考形態では、可塑化シリンダ210内において、可塑化溶融された溶融樹脂は、
図2及び
図3における右手から左手に向かって流動する。したがって、本
参考形態の可塑化シリンダ210の内部においては、
図2及び
図3における右手を「上流」又は「後方」、左手を「下流」又は「前方」と定義する。尚、本
参考形態の混練装置200は、従来公知の混練装置の構成と同様に、可塑化シリンダ210の後方側から見た場合に、スクリュ20を反時計回りに回転させると溶融樹脂を前方(ノズル部側)に送る正回転をし、時計回りに回転させると逆回転するように構成されている。
【0025】
可塑化シリンダ210の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給するための樹脂供給口201、物理発泡剤を可塑化シリンダ210内に導入するための導入口202、及び必要に応じて可塑化シリンダ210内からガス化した物理発泡剤を排気するためのベント203が形成されている。これらの樹脂供給口201、及び導入口202にはそれぞれ、樹脂供給用ホッパ211、及び導入バルブ212が配設されており、ベント203には、減圧ゾーン圧力調整機構219が接続されている。また導入バルブ212は、混練装置200の外に設けられる物理発泡剤供給装置100と接続される。
【0026】
可塑化シリンダ210の外壁面には、バンドヒータ220が配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱されて、熱可塑性樹脂が可塑化される。さらに、可塑化シリンダ210の下部側面の導入口202と対向する位置及びベント203に対向する位置にはそれぞれ、圧力及び温度をモニターするセンサ(不図示)が設けられている。
【0027】
このような構造の混練装置200では、樹脂供給口201から可塑化シリンダ210内に熱可塑性樹脂が供給され、熱可塑性樹脂がバンドヒータ220によって可塑化されて溶融樹脂となり、スクリュ20が正回転することにより下流に送られる。そして、導入口202近傍まで送られた溶融樹脂は、導入された物理発泡剤と高圧下、接触混練される。次いで、物理発泡剤と接触混練された溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、ガス化した一部の物理発泡剤が溶融樹脂から分離し、ベント203から排気される。そして、さらに前方に送られた溶融樹脂はスクリュ20の先端部に押し出され、溶融樹脂の圧力がスクリュ20に対する反力となり、該反力でスクリュ20が後退することにより溶融樹脂の計量が行われる。これにより、可塑化シリンダ210内では、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化して溶融樹脂とする可塑化ゾーン21、溶融樹脂と導入口202から導入される物理発泡剤とを高圧下、接触混練する高圧混練ゾーン22、及び物理発泡剤と接触混練した溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、溶融樹脂から一部分離された物理発泡剤をベント203から排気する減圧ゾーン23が形成される。更に、減圧ゾーン23の下流には、再可塑化ゾーン24が設けられる。尚、溶融樹脂と物理発泡剤との接触混練を効率的に行うため、可塑化シリンダ210に導入口202及びベント203をそれぞれ複数設け、可塑化シリンダ210内に高圧混練ゾーン22及び減圧ゾーン23をそれぞれ複数形成してもよい。
【0028】
減圧ゾーン圧力調整機構219は、減圧ゾーンの圧力を所定の値に制御する。減圧ゾーン圧力調整機構219は、例えば、バッファ容器5と、バッファ容器5から、圧力計4及び背圧弁3を介して排気口11へ接続される排気機構と、後述する物理発泡剤供給装置100のガスボンベ151から、減圧弁10及び圧力計4を介してバッファ容器5へと接続される加圧機構を有する。
【0029】
減圧ゾーン圧力調整機構219は、排気機構及び/又は加圧機構により、可塑化シリンダ210の減圧ゾーン23内部の圧力を所定の値に制御する。例えば、排気機構の背圧弁3を所定の値に設定し、物理発泡剤のガスの排気量を制限することにより、減圧ゾーン23内部の圧力を制御することができる。また、反対に、減圧ゾーン23の圧力を上昇させる必要がある場合には、加圧機構の減圧弁10を所定の値に設定し、ガスボンベ151から加圧窒素等の不活性ガスを減圧ゾーン23に導入することにより圧力を制御できる。加圧機構により、成形開始前から減圧ゾーン23内の圧力を高めると、急減圧によるベントアップを抑制できるため好ましい。ベントアップとは、減圧してガス化した物理発泡剤を排気する排気口(ベント203)から溶融樹脂が漏れる現象である。ベントアップの主原因は、物理発泡剤が
混練されることで樹脂粘度が低下した状態になり、排気のため急減圧されることで樹脂が体積膨張することだと考えられる。尚、減圧ゾーン23内の圧力は、大気圧以上に保持する必要があるので、本
参考形態の減圧ゾーン圧力調整機構219は、真空ポンプ等の減圧機構は有していない。
【0030】
ベントアップを更に抑制するために、本
参考形態に用いる成形体1000のスクリュ20には、隣接する部分20A、20Cよりも、フライト深さの浅い部分20Bを設けてもよい。フライト深さの浅い部分20Bを下流側シール機構S2の下流側で、且つベント203の上流側に配置することにより、減圧ゾーン23内の急激な樹脂の流通を抑制し、ベントアップを防止できる。
【0031】
物理発泡剤供給装置100は、物理発泡剤である窒素や二酸化炭素等のガスボンベ151を含む。ガスボンベ151は、減圧弁10を介して可塑化シリンダ210の導入バルブ212に接続している。本
参考形態の物理発泡剤供給装置100は、ガスボンベ151内の物理発泡剤を加圧せず、且つ流量制御を行わずに、直接、可塑化シリンダ210内へ導入する。このような加圧装置を有さない物理発泡剤供給装置100を用いることで成形機1000全体の低コスト化が図れる。また、上述したように、本
参考形態では、ガスボンベ151は、減圧ゾーン圧力調整機構219のバッファ容器5に接続しており、減圧ゾーン圧力調整機構219の加圧機構も兼ねている。
【0032】
本
参考形態では、物理発泡剤供給装置100に、混練装置200を1台接続しているが、物理発泡剤供給装置に混練装置を複数台接続してもよい。物理発泡剤供給装置に接続される成形機(混練装置)の台数が少ない場合、本
参考形態のようにガスボンベから、直接、可塑化しリンダ210へ物理発泡剤を供給することが好ましい。物理発泡剤の昇圧工程(高圧ガスの製造工程)が無いため、高圧保安法に基づく手続きが簡素化され、ランニングコストが低減できる。一方、物理発泡剤供給装置に接続される成形機の台数が多い場合は、空気中から窒素を取り出し、簡便なブースターポンプで昇圧して物理発泡剤を製造してもよい。窒素は空気から酸素分離膜を用いる等により安価に製造できる。空気から物理発泡剤(窒素)を製造する方法によれば、1台の昇圧装置から複数台の成形機(混練装置)に安定に物理発泡剤(窒素)を供給できる。
【0033】
<シール機構>
次に、成形機1000に備えられるシール機構S1及びS2について説明する。上述したように、可塑化ゾーン21、高圧混練ゾーン22、及び減圧ゾーン23の間にはそれぞれ、上流側シール機構S1及び下流側シール機構S2が配設されている。上流側シール機構S1は、樹脂の上流側への逆流を抑制することができれば任意のシール機構を用いることができ、例えば、従来の発泡成形等に用いるシールリング等を採用できる。本
参考形態の下流側シール機構S2は、下流側シール機構S2の上流側の高圧混練ゾーン22において、溶融樹脂の圧力を3MPa〜15MPaの第1の圧力に調整した状態で、下流側シール機構S2の下流側の減圧ゾーン23へ溶融樹脂を流動させることができるシール機構を用いる。
【0034】
本
参考形態では、下流側シール機構S2として、以下に説明するバネを介してスクリュ20の外周面に設けられるシールリング60を含むシール機構を用いた。本
参考形態で用いた下流側シール機構S2は、高圧混練ゾーン22の圧力が所定の圧力未満の場合、溶融樹脂を高圧混練ゾーン22から、減圧ゾーン23へ流通させないシール機構である。
【0035】
本
参考形態のスクリュ20は、
図2に示すように、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との境界領域において、この境界領域と隣接する領域に比べて縮径された縮径部50を有している(
図3参照)。そして、縮径部50には、縮径部50の範囲で軸方向(前後方向)に移動可能となるように遊嵌状態で下流側シールリング60が外嵌している。これら縮径部50と下流側シールリング60とで、下流側シール機構S2が構成されている。
【0036】
スクリュ20において、縮径部50の下流側には、減圧ゾーン23に位置する下流スクリュ部51が隣接して設けられており、下流クリュ部51は縮径部50より直径が大きいため、縮径部50と連続する端面51aを有する。端面51aには、4か所の孔51bが形成され、それぞれの孔51bの中にはバネピストン61が配置されている。バネピストン61は、孔51bの中に配置される複数の皿バネ63と、孔51bの中で皿バネ63と接触し、且つ一部が孔51bから突出するように配置されるリング64と、皿バネ63とリング64を貫通する軸62から形成される。
図3(a)に示すように、バネピストン61のリング64は、下流側シールリング60と接触しており、下流側シールリング60を上流方向(
図3(a)において矢印で示す方向)に付勢している。その結果、シールリング60の内壁60aと、縮径部50の外周面50aが当接し、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通が遮断される。
【0037】
次に、下流側シール機構S2の動作について説明する。スクリュ20が正回転することで、溶融樹脂は上流から下流へ流動する。その結果、高圧混練ゾーン22に滞留する溶融樹脂は、下流側シールリング60を下流方向へ押す。しかし、
図3(a)に示すように、バネピストン61により下流側シールリング60は上流方向に付勢され、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通が遮断されるため、溶融樹脂は高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ流動できない。
【0038】
更に、スクリュ20が正回転すると、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通が遮断された状態のまま、溶融樹脂が可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22へ流動し続け、高圧混練ゾーン22の圧力が上昇する。高圧混練ゾーン22の圧力が所定の圧力以上になると、下流側シールリング60は溶融樹脂に下流方向へ押され移動し始める。これにより、
図3(b)に示すように、下流側シールリング60の内壁60aと、縮径部50の外周面50aが離間し、隙間Gが開口し、隙間Gを通って溶融樹脂が高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ移動可能となる。
【0039】
本
参考形態の下流側シール機構S2を構成する下流側シールリング60及びバネピストン61は、
図2及び
図3に示すように、スクリュ20に外接しており、比較的シンプルな構造をとり、例えば、特許文献5に開示される、スクリュに溶融樹脂が流通する貫通孔を形成し、その貫通孔の内部にバネピストンや溶融樹脂のシール構造を設けるといった複雑な構造とは異なる。この様に、本
参考形態の下流側シール機構S2は、構造が単純であるため、メンテナンスが容易である。また、下流側シール機構S2において、隙間Gが開口し始める所定の圧力は、用いるバネのバネ定数、用いるバネの数及び配置等を設計することにより調整が可能である。また、本
参考形態では、バネとしてストロークが短くて済むことから皿バネ63を用いるが、コイルバネ等を用いてもよい。
【0040】
<成形方法>
次に、
図1に示すフローチャートに従い、本
参考形態の発泡射出成形方法(発泡成形体の製造方法)について説明する。本
参考形態では、上で説明した
図2に示す成形機1000を用いて、発泡射出成形を行う。成形機1000において、可塑化シリンダの可塑化ゾーン21、高圧混練ゾーン22、減圧ゾーン23及び再可塑化ゾーン24の温度は、使用する熱可塑性樹脂、物理発泡剤の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、可塑化ゾーン21、高圧混練ゾーン22、減圧ゾーン23及び再可塑化ゾーン24をバンドヒータで、240〜280℃に制御することが好ましい。また、本
参考形態では、以下に説明する熱可塑性樹脂の可塑化から、溶融樹脂と物理発泡剤の混練物の計量までの間(可塑化計量の間)、スクリュ20を同一方向に回転する。
【0041】
まず、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給し、スクリュ20を正回転させることにより、可塑化ゾーン21で熱可塑性樹脂を可塑化して溶融樹脂とする(ステップS1)。
【0042】
熱可塑性樹脂としては、目的とする成形体の種類に応じて種々の樹脂を使用することができる。具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどの熱可塑性樹脂、及びこれらの複合材料を用いることができる。また、これらの熱可塑性樹脂にガラス繊維、タルク、カーボン繊維などの各種無機フィラーを混練したものを用いることもできる。
【0043】
次に、スクリュ20を正回転することにより、可塑化された溶融樹脂を可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22へ送り、高圧混練ゾーン22において、溶融樹脂の圧力を3MPa〜15MPaの第1の圧力に調整する(ステップS2)。溶融樹脂の圧力を3MPa〜15MPaに高めておくと、溶融樹脂と物理発泡剤との混練性が良好となる。第1の圧力が3MPa未満であると、物理発泡剤の導入後の溶融樹脂の圧力が変動し易くなり、また、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解度が低下して分散が不十分になる。第1の圧力が、15MPaを超えると、圧力が高すぎて熱可塑性樹脂の可塑化自体が困難になる虞がある。第1の圧力は、4MPa〜10MPaが好ましい。また、溶融樹脂の第1の圧力は、物理発泡剤の導入前において、上記範囲内であれば変動してもよいが、発泡剤の溶解安定性の観点から、その変動幅を±2MPaの範囲に制御することが好ましく、±1MPaの範囲に制御することがより好ましい。
【0044】
本
参考形態では、上述のように高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23の間に下流側シール機構S2を設け、スクリュを同一方向に回転することにより、前記溶融樹脂の圧力を第1の圧力に調整する。以下に、溶融樹脂の圧力の調整方法を説明する。まず、下流側シール機構S2により、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通を遮断した状態で、スクリュ20を正回転する。上流側シール機構S1により、高圧混練ゾーン22から可塑化ゾーン21への逆流は抑制されるため、可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22へ溶融樹脂は流動し続け、高圧混練ゾーン22の圧力が上昇する。スクリュを正回転することにより、高圧混練ゾーン22における溶融樹脂の圧力が更に上昇して所定の圧力以上になると、下流側シール機構S2により、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とが連通し、溶融樹脂は下流の減圧ゾーン23へ流動する。溶融樹脂が下流の減圧ゾーン23へ流動すると、高圧混練ゾーン22の圧力は低下し始め、そして、高圧混練ゾーン22の圧力が所定の圧力以下になると、再び下流側シール機構S2により、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通が遮断される。スクリュは正回転するため、再び高圧混練ゾーン22の圧力は上昇し、そして、所定の圧力以上になると、下流側シール機構S2により、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23とが再び連通し、溶融樹脂は下流の減圧ゾーン23へ流動する。このように、本
参考形態では、スクリュを同一方向に回転(正回転)することにより、高圧混練ゾーン22の圧力に応じて、下流側シール機構S2が高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との連通と遮断を繰り返す。この結果、高圧混練ゾーン22における溶融樹脂の圧力を圧力変動の少ない高圧力(第1の圧力)に維持することができる。例えば、後述する
参考例では、高圧混練ゾーン22の圧力が6MPaのとき、下流側シール機構S2の隙間Gが開口し始め、該圧力が8MPaで
図3(b)に示すようにシールリング60が下流方向へ最前進して隙間Gが最大となるような下流側シール機構S2を用いた。この結果、高圧混練ゾーン22において、溶融樹脂の圧力を7±0.5MPaに調整することができた。
【0045】
次に、高圧混練ゾーン22において、第1の圧力に調整された溶融樹脂に、第1の圧力よりも高く且つ4MPa〜20MPaの第2の圧力の物理発泡剤を混練して、混練物を得る(ステップS3)。第2の圧力が、4MPa未満であると、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解度が低下し、第2の圧力が20MPaを超えると、物理発泡剤を調整するためのブースターポンプ等の高圧装置の負担が大きくなる。第2の圧力は、6MPa〜15MPaがより好ましい。また、本
参考形態のように、窒素等のガスボンベ151から直接、可塑化シリンダ210内へ物理発泡剤を導入する場合には、第2の圧力は、11MPa以下が好ましい。また、可塑化シリンダ210への物理発泡剤の導入を容易にするため、第2の圧力は第1の圧力よりも高く調整するが、第1の圧力と第2の圧力との差は、発泡剤の溶解安定性の観点から、0.5MPa〜10MPaが好ましく、1MPa〜5MPaがより好ましい。
【0046】
物理発泡剤としては、加圧窒素や加圧二酸化炭素等の加圧流体を用いることが好ましい。これらの物理発泡剤は、人体に無害であり、また溶融樹脂への拡散性に優れ、しかも溶融樹脂から容易に除去可能であり、更に、溶融樹脂の可塑剤としても機能する。物理発泡剤の可塑化シリンダ210への導入圧力および温度は、物理発泡剤の種類によっても適切な条件は異なり、任意であるが、密度が高く安定であることから液体状態もしくは超臨界状態が好ましい。また、物理発泡剤の温度は10℃〜100℃であることが好ましい。温度が10℃〜100℃の範囲であれば、系内での物理発泡剤の制御が容易となる。尚、本
参考形態において物理発泡剤として用いる加圧窒素及び加圧二酸化炭素は、可塑化シリンダ210内で瞬時に高温になり圧力も変動する。よって、上述の物理発泡剤の状態、温度及び圧力は、加圧シリンダ210に導入する前の安定な状態の物理発泡剤の状態、圧力及び温度の値である。
【0047】
物理発泡剤を調製する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を使用することができる。また、物理発泡剤を高圧混練ゾーン22に供給する方法は任意の方法を使用することができる。例えば、物理発泡剤を高圧混練ゾーン22に間欠的に導入してもよいし、連続的に導入してもよい。物理発泡剤の導入は、安定な送液が行えるシリンジポンプ等やダブルプランジャーポンプ等の高圧装置を利用して、導入量を制御しながら導入してもよい。
【0048】
本
参考形態では、
図2示す物理発泡剤供給装置100のボンベ151内の物理発泡剤を加圧せず、且つ流量制御を行わずに、直接、可塑化シリンダ210内へ導入する。本
参考形態では、物理発泡剤の導入の後工程として、減圧ゾーン23において、溶融樹脂からガス化した物理発泡剤を分離する。これにより、溶融樹脂中の物理発泡剤の濃度が射出前に制御される。後工程において、溶融樹脂中の物理発泡剤の濃度制御が行われるので、高圧混練ゾーン22に導入の段階で物理発泡剤の導入量を厳密に制御しなくてもよい。また、詳細は後述するが、本
参考形態では溶融樹脂中の物理発泡剤の濃度を飽和溶解度に近づけることができるので、溶融樹脂に導入する物理発泡剤は、必要以上に高圧である必要もない。このため、ボンベ151内の物理発泡剤の昇圧工程は不要である。
【0049】
次に、物理発泡剤が混合された溶融樹脂の圧力(混練物の圧力)を低下させて、溶融樹脂からガス化した物理発泡剤を分離する(ステップS4)。以下に、本
参考形態における溶融樹脂から物理発泡剤を分離する方法について説明する。尚、本願明細書において、溶融樹脂と物理発泡剤とを混練する工程の後工程(
図1のステップS3の後工程)における「物理発泡剤が混練された溶融樹脂の圧力」及び「溶融樹脂の圧力」とは、溶融樹脂と物理発泡剤とを混練する工程(
図1のステップS3)によって得られた、溶融樹脂と物理発泡剤との「混練物の圧力」を意味するものとする。
【0050】
まず、上述した熱可塑性樹脂の可塑化(ステップS1)、溶融樹脂の加圧(ステップS2)及び物理発泡剤の導入(ステップS3)と並行して、減圧ゾーン23の圧力を大気圧以上で且つ溶融樹脂に物理発泡剤を接触混練するときに到達する高圧
混練ゾーン22の最高圧力以下の第3の圧力に制御する。第1の圧力に調整した高圧混練ゾーン22に物理発泡剤を導入すると、高圧混練ゾーン22の圧力は第1の圧力より上昇する。ここで、「最高圧力」とは、溶融樹脂に物理発泡剤を接触混練する間に到達する高圧
混練ゾーン22の最も高い圧力(最高到達圧力)を意味する。本
参考形態では、減圧ゾーン圧力調整機構219が、減圧ゾーン23の圧力を第3の圧力に制御する。例えば、減圧ゾーン圧力調整機構219の排気機構の背圧弁3を第3の圧力に設定し、物理発泡剤のガスの排気量を制限することにより、減圧内の圧力ゾーン23内部の圧力を制御することができる。減圧ゾーン圧力調整機構219は、溶融状態の樹脂よりも粘性が著しく低いガスの圧力を直接制御するため、瞬時に減圧ゾーン23の圧力を制御できる。
【0051】
本
参考形態では、下流側シール機構S2を設けて、スクリュ20を回転することにより、高圧混練ゾーン22を第1の圧力に保持したまま、順次、溶融樹脂が、高圧混練ゾーン22から下流の減圧ゾーン23へ流動する。高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ流動してきた溶融樹脂(混練物)は第3の圧力まで減圧され、溶融樹脂から余剰な物理発泡剤(導入された物理発泡剤の一部)がガス化し、分離する。ガス化した物理発泡剤は、排気口11から可塑化シリンダ210外に排気する。
【0052】
減圧ゾーン23の圧力(第3の圧力)は、大気圧以上で且つ溶融樹脂に物理発泡剤を接触混練するときに到達する高圧
混練ゾーン22の最高圧力以下であれば特に制限されない。減圧ゾーン23の圧力を大気圧以上とするのは、大気圧未満とすると、ガス化した物理発泡剤を強制排気することになり、溶融樹脂のベントアップの虞があるからである。また、この場合、真空ポンプ等の設備を必要とするので高コストとなる。また、減圧ゾーン23の圧力を高圧混練ゾーン22の最高到達圧力以下とするのは、導入された溶融樹脂を減圧し、物理発泡剤をガス化して溶融樹脂から分離するためである。減圧ゾーン23の内部の圧力は、3MPa〜20MPaが好ましく、3MPa〜15MPaがより好ましい。減圧ゾーン23の内部の圧力が3MPa以上であると、高圧混練ゾーン22に導入される物理発泡剤との差圧を小さくでき、溶融樹脂の圧力変動を小さく抑えられる。また、減圧ゾーンの内部の圧力が20MPa以下であると、装置への負荷を小さくできる。減圧ゾーン23の圧力は、塑化シリンダ210内部の圧力を安定化させるという観点から、一定の圧力に制御されることが好ましい。
【0053】
更に、本
参考形態では、溶融樹脂のベントアップを抑制するため、スクリュ10を強制的に後退させてもよい。これにより、減圧ゾーン23において、スクリュ20におけるフライト深さの深い部分20A、20C上に滞留する溶融樹脂量を削減して飢餓状態とし、ベントアップを抑制できる。ここで、スクリュを強制的に後退させるとは、スクリュ20を駆動させるスクリュ駆動機構37により、後退速度及び後退時間等を制御しながらスクリュ20を後退させる動作を意味する。したがって、可塑化シリンダ210の前方に送られた溶融樹脂の圧力によってスクリュ20の先端部が上流に押されて、スクリュ20が後退することは含まない。スクリュ20の強制的な後退は、例えば、後退速度1mm/s〜10mm/sで、0.5秒間〜30秒間行うことが好ましい。スクリュ20の後退時間が、0.5秒間より短いとベントアップ抑制の効果が十分に得られない虞があり、30秒間より長いと、溶融樹脂の計量動作が不安定になる虞がある。
【0054】
スクリュ10の強制的な後退は、物理発泡剤を導入した直後より、余剰の発泡剤が分離されて樹脂が膨張しやすい状態のときに行うことが好ましい。射出成形では、スクリュの正回転により溶融樹脂がスクリュの前方へ送られ、樹脂圧力(密度)が高まり、スクリュが可塑化計量完了位置まで後退することにより溶融樹脂の計量が行われる。樹脂圧力が高まる前にスクリュ10を強制的に後退させることで、効率的にベントアップを抑制できる。
【0055】
本
参考形態では、物理発泡剤が混合された溶融樹脂の圧力(混練物の圧力)を低下させて、溶融樹脂からガス化した物理発泡剤を分離すること(ステップS4)により、溶融樹脂中の物理発泡剤の濃度を飽和溶解度に近づけることができる。物理発泡剤となる加圧窒素や加圧二酸化炭素の溶融樹脂に対する飽和溶解度(飽和濃度)は、圧力が高いほど高く、圧力が低いほど低い。したがって、上述のように高圧状態を維持したまま、物理発泡剤を溶融樹脂に接触混練した後に、接触混練時に到達する最高圧力以下に溶融樹脂の圧力を減圧すると、圧力の低下に伴い飽和溶解度も低下する。よって、樹脂中の物理発泡剤の絶対量を高くせずに、物理発泡剤の濃度を飽和溶解度に近づけることができる。そして、このとき、溶融樹脂中に含まれる余剰な物理発泡剤は、ガス化し溶融樹脂から分離され、減圧ゾーン23から排出される。物理発泡剤を過剰に導入したとしても、物理発泡剤は溶融樹脂に接触混練されつつ、余剰な物理発泡剤は溶融樹脂から分離し、減圧ゾーン23にて排出されていく。このため、高圧混練ゾーン22では従来法と比較して多量な物理発泡剤を混練できるメリットを有する。
【0056】
ここで、「溶融樹脂中の物理発泡剤の濃度が飽和溶解度に近づく」とは、圧力を制御する前の状態における溶融樹脂への物理発泡剤の飽和溶解度に対する実際の物理発泡剤の濃度の割合と、圧力を制御した後の状態における溶融樹脂への物理発泡剤の飽和溶解度に対する実際の物理発泡剤の濃度の割合を比較した場合に、圧力を制御した後の状態の飽和溶解度に対する実際の物理発泡剤の濃度の割合の方が高いことを意味する。
【0057】
物理発泡剤が飽和溶解度に近い高濃度で含まれる溶融樹脂は、金型へ射出充填されると、高い圧力領域において過飽和に達し、多くの発泡核を発生させる。これにより、発泡成形体の発泡密度を高めることができる。また、溶融樹脂への物理発泡剤の導入後、射出前に溶融樹脂中の物理発泡剤の濃度を制御するので、溶融樹脂への物理発泡剤の導入量は厳密に制御しなくてもよい。
【0058】
更に、本
参考形態は、溶融樹脂と物理発泡剤との相分離を抑制するという効果も奏する。従来の発泡射出成形方法では、物理発泡剤を混練した後の溶融樹脂の圧力をスクリュ背圧により低下させていた(制御していた)が、この場合、樹脂と物理発泡剤であるガスが相分離することがあった。一方、本
参考形態では、減圧ゾーン23の圧力を制御することにより、溶融樹脂及びその周囲の物理発泡剤のガス圧力の両方を同時に制御するので、樹脂と物理発泡剤の相分離が抑制される。更に、本
参考形態では、接触混練時に溶融樹脂から分離した物理発泡剤を予め減圧ゾーンで排気でき、均一相溶状態の溶融樹脂のみを前方に送ることによっても、溶融樹脂と物理発泡剤との相分離を抑制できる。
【0059】
次に、ガス化した物理発泡剤を分離した前記溶融樹脂(物理発泡剤の一部が分離された混練物)を所定量計量する(
図1のステップS5)。過剰な物理発泡剤がガス化して溶融樹脂から分離されると、溶融樹脂は減圧ゾーン23の下流に位置する再可塑化ゾーン24に送られる。溶融樹脂は、再可塑化ゾーン24において再度混練され、スクリュ20の背圧により圧力調整される。スクリュの正回転により溶融樹脂が可塑化シリンダ前方へ送られ、その樹脂圧力によりスクリュが可塑化計量完了位置まで後退し、溶融樹脂が所定量計量される。
【0060】
溶融樹脂を所定量計量する間、スクリュ背圧を減圧ゾーン23の圧力(第3の圧力)よりも高い圧力に制御しすることが好ましい。減圧ゾーン23の圧力(第3の圧力)より高い圧力をスクリュ背圧とすることで、スクリュ20は前方に送られた溶融樹脂により急激に後方へ押し戻されることなく、安定して溶融樹脂を所定量計量できる。
【0061】
次に、計量した溶融樹脂を発泡させ、且つ、所望の形状に成形する(
図1のステップS6)。本
参考形態では、可塑化計量が終了した後、スクリュ20を前進させ、所定の内部形状を有する金型内に溶融樹脂を射出充填し、物理発泡剤を含む溶融樹脂を急減圧して発泡セルが形成された成形体(発泡成形体)を製造する。本
参考形態では、溶融樹脂を可塑化シリンダ210の先端部から、型締めユニット250のキャビティ253内に射出し、保圧をかけずに金型をわずかに開き(コアバック)成形体を完成させる。
【0062】
以上説明した本
参考形態の発泡射出成形では、熱可塑性樹脂の可塑化から溶融樹脂(混練物)の計量までの間(可塑化計量の間)、スクリュ20を正回転する。本
参考形態で用いた下流側シール機構S2は、可塑化シリンダ内の溶融樹脂及び物理発泡剤の流通を遮断するために可塑化スクリュを停止又は逆回転する必要のある従来のシール機構とは異なる。本
参考形態で用いた下流側シール機構S2は、スクリュ20を同一方向に回転していても、下流側シール機構S2の上流側に位置する高圧混練ゾーン22の溶融樹脂の圧力を第1の圧力に調整した状態で、下流側シール機構S2の下流側に位置する減圧ゾーン23のへ溶融樹脂を流動させる。したがって、本
参考形態の発泡射出成形は、可塑化スクリュ20の停止、逆回転、正回転及び逆回転の繰り返しを行わないため、溶融樹脂の可塑化計量時間を短縮でき、発泡成形体の生産性を向上することができる。
【0063】
ここで、「可塑化計量の間」とは、溶融樹脂を金型に射出充填した後、次のショットのための溶融樹脂を可塑化するためにスクリュが回転を開始した時点から、スクリュの回転により溶融樹脂が可塑化シリンダ前方へ送られ、その樹脂圧力によりスクリュが可塑化計量完了位置まで後退した時点までの間を意味する。つまり、本
参考形態では、熱可塑性樹脂の可塑化(
図1のステップS1)、溶融樹脂の加圧(ステップS2)、物理発泡剤の導入(ステップS3)、物理発泡剤の分離(ステップS4)及び溶融樹脂の計量(ステップS5)の全ての工程において、スクリュ20を同一方向に回転する。
【0064】
また、可塑化シリンダ内の溶融樹脂及び物理発泡剤の流通を遮断するために可塑化スクリュを停止又は逆回転する必要のある従来のシール機構を用いた従来の発泡射出成形方法では、溶融樹脂を高圧混練ゾーンから減圧ゾーンへ流動させるために、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23を連通させると、高圧混練ゾーンの圧力が減圧ゾーン23の圧力まで低下していた。これに対して、本
参考形態の発泡射出成形方法では、高圧混練ゾーン22を第1の圧力に調整し、減圧ゾーン23を第3の圧力に調整した状態で、スクリュ20を同一方向に回転することにより、高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ溶融樹脂を流動させる。これにより、溶融樹脂に対する物理発泡剤の混練性、分散性が向上する。
【0065】
また、本
参考形態の発泡射出成形では、熱可塑性樹脂の可塑化から溶融樹脂の計量までの間(可塑化計量の間)、スクリュ20を同一方向に回転(正回転)し続けてもよい。即ち、可塑化計量の間、スクリュの回転を停止することなく、回転し続けてもよい。これにより、可塑化計量時間を、確実に短縮して生産性を向上させることができる。
【0066】
[
実施形態]
本実施形態の発泡成形体の製造方法は、発泡射出成形方法であり、
図4に示す成形機2000を用いて実施する。成形機2000は、
図2に示す成形機1000の下流側シール機構S2の代わりに、
図5に示す下流側シール機構S12を用いたこと以外は、
参考形態で用いた成形機1000と同様の構成である。以下に、下流側シール機構S12について説明する。
【0067】
<シール機構>
下流側シール機構S12は、
参考形態で用いた下流側シール機構S2と同様に、シール機構S12の上流側の高圧混練ゾーン22において、溶融樹脂の圧力を3MPa〜15MPaの第1の圧力に調整した状態で、シール機構S12の下流側の減圧ゾーン23へ熱可塑性樹脂を流動させることができるシール機構である。本実施形態では、下流側シール機構S12として、スクリュフライトの形状により溶融樹脂の流通を阻害し、溶融樹脂の流通速度を低下させる、ラビリンスシールを用いる。
【0068】
本実施形態の下流側シール機構S12は、スクリュ20の周方向に沿って凹凸を有するスクリュフライト30、40が、スクリュ20の軸方向に、前記凹凸が互い違いに並ぶように複数配置されることにより構成される。
図5(a)〜(c)に示すように、スクリュ20の外周面には、スクリュフライト30、40が設けられている。スクリュフライト30、40は、可塑化シリンダ210の内壁と対向する頂部表面を有し、頂部表面には、スクリュ20の周方向に沿って、凸部30a、40aと、凹部30b、40bとが交互に配置されている。そして、スクリュ20の軸方向において、隣接するスクリュフライト30とスクリュフライト40とでは、前記凹凸が互い違いに並ぶように配置されている。即ち、スクリュフライト30、40の頂部表面の凸部30a、40aと、凹部30b、40bとは、スクリュ20の軸方向に沿っても交互に配置されている。これらスクリュフライト30、40により、可塑化シリンダ210の内壁(静止部)と、スクリュ20(回転軸)の間には、凹凸の隙間を複数段組み合わせたラビリンス構造が形成される。スクリュ20が有しているラビリンス構造が、下流側シール機構S12を構成する。
【0069】
次に、下流側シール機構S12の動作について説明する。スクリュ20が正回転することで、高圧混練ゾーン22に滞留する溶融樹脂は、下流側シール機構S12のラビリンス構造内を通過して、減圧ゾーン23へ流動しようとする。溶融樹脂は、ラビリンス構造によりその流通を阻害され、流通速度が低下する。スクリュ20が正回転するため、高圧混練ゾーン22の圧力は上昇する。そして、圧力が上昇した溶融樹脂は、下流側シール機構S12のラビリンス構造の凹凸の隙間を通過し始める。このとき、溶融樹脂はラビリンス構造の凹凸の隙間を通過しながら、徐々に圧力を低下させて減圧ゾーン23へ流動する。
【0070】
このように、低圧の溶融樹脂は下流側シール機構S12により高圧ゾーン22から減圧ゾーン23への流通を阻止され、高圧の溶融樹脂は下流側シール機構S12を通過できる。本実施形態では、下流側シール機構S12のこの特性を利用して、高圧混練ソーン22の溶融樹脂の圧力を3MPa〜15MPaの第1の圧力に調整する。本実施形態の下流側シール機構S12は、熱可塑性樹脂の種類及びその粘度により、保持できる高圧混練ゾーンの圧力の値が変化するが、高圧混練ソーン22の溶融樹脂の圧力が3MPa〜15MPaとなるように、既知の手法によりラビリンス構造を設計することが可能である。例えば、後述する実施
例では、下流側シール機構S12を用いて、高圧混練ゾーン22において溶融樹脂の圧力を5±1MPaに調整することができた。また、本実施形態の下流側シール機構S12は、可動部を有さない非接触シール機構であるため、メンテナンスが容易である。
【0071】
<成形方法>
本実施形態の発泡射出成形方法(発泡成形体の製造方法)は、
図2に示す成形機1000の代わりに、
図4に示す下流側シール機構S12を有する成形機2000を用いて実施する以外は、
参考形態と同様に実施することができ、同様の効果を奏する。
【0072】
以下、本発明を実施例
及び参考例に基づき更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例
及び参考例に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
[
参考例]
本
参考例では、
図2に示す成形機1000を用いて、熱可塑性樹脂成形体(発泡成形体)を発泡射出成形により製造した。物理発泡剤としては、窒素を用いた。したがって、物理発泡剤供給装置100のガスボンベ151として、14MPaの窒素ボンベ151を用いた。熱可塑性樹脂としては、ガラス繊維を30%含有する6ナイロン(東レ製、CM1011G30)を用いた。尚、スクリュ背圧は6MPaに設定した。後述するように、減圧ゾーン23の圧力(第3の圧力)を4MPaに調整したため、スクリュ背圧と減圧ゾーンの圧力との差は、2MPaであった。
【0074】
まず、物理発泡剤供給装置100において、窒素ボンベ151の窒素ガスを圧力計4の表示が常温(25℃)で、10MPaになるように減圧弁10で減圧した。これにより、可塑化シリンダ210内に物理発泡剤を導入する導入バルブ212までの系内を加圧した。
【0075】
次に、混練装置200において、樹脂供給用ホッパ211から熱可塑性樹脂を供給し、可塑化ゾーン21の外壁面に設けられたバンドヒータ220により可塑化ゾーン21を加熱し、スクリュ20を正回転させた。これにより、該熱可塑性樹脂を過熱、混練し、溶融樹脂とした。本
参考例では、溶融樹脂の温度が210〜240℃となるように可塑化シリンダ210の可塑化ゾーン21を加熱した。尚、本
参考例では、これ以降溶融樹脂の計量が終了するまで、スクリュ20を同一方向に回転(正回転)した。
【0076】
スクリュ20を正回転することにより、溶融樹脂を可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22に流動させた。上述したように、下流側シール機構S2は、高圧混練ゾーン22の圧力が6MPaのとき、下流側シール機構S2の隙間Gが開口し始め、該圧力が8MPaで
図3(b)に示すようにシールリング60が下流方向へ最前進して隙間Gが最大となる。本
参考例では、下流側シール機構S2を用いることにより、高圧混練ゾーン11における樹脂の圧力を7±0.5MPa(第1の圧力)で安定するよう制御した。
【0077】
次に、導入バルブ212を3秒間開放して、高圧混練ゾーン22に物理発泡剤を導入した。そして、スクリュ20を回転することにより、高圧混練ゾーン22において、7±0.5MPa(第1の圧力)に調整された溶融樹脂に、10MPa(第2の圧力)の物理発泡剤を混練した。尚、本
参考例では、導入バルブ212の開放時間のみで物理発泡剤の導入量を調整した。本導入バルブ212直下に設けた圧力センサ(不図示)のモニターした可塑化シリンダ210の内部の圧力は、物理発泡剤の導入後は、最高8±1MPaとなった。
【0078】
一方、減圧ゾーン圧力調整機構219の背圧弁3を4MPaに設定し、減圧ゾーン23の圧力を、常時、4MPaに制御した。尚、成形開始前には、減圧ゾーン圧力調整機構219の加圧機構を用いて加圧窒素を減圧ゾーン23に導入し、減圧ゾーン23を加圧してベントアップを抑制した。成形開始後には、背圧弁3により排気のみ行った。
【0079】
下流側シール機構S2を用い、スクリュ20を正回転することにより、高圧混練ゾーン22を7±0.5MPa(第1の圧力)に保持した状態で、溶融樹脂を減圧ゾーン23へ流動した。減圧ゾーン23へ流動した溶融樹脂及び物理発泡剤は、減圧ゾーンの設定圧力の4MPaまで圧力が低下した。これにより、余剰な加圧二酸化炭素はガス化して溶融樹脂から分離した。溶融樹脂から分離した物理発泡剤は、可塑化シリンダ210のベント203を経て減圧ゾーン圧力調整機構219の排気口11より排気された。このような溶融樹脂の雰囲気の圧力(溶融樹脂の周囲の圧力)の制御によって、溶融樹脂中の物理発泡剤濃度は飽和溶解度に近づいたと推察される。
【0080】
また、本
参考例では、前記溶融樹脂からガス化した物理発泡剤を分離している間に、スクリュ20を後退速度1mm/sで4秒間、強制的に後退させた。これにより、減圧ゾーン23において、スクリュ20におけるフライト深さの深い部分20A、20C上に滞留する溶融樹脂量を削減して飢餓状態とし、ベントアップを抑制した。
【0081】
次に、240℃に設定された再可塑化ゾーン24において、溶融樹脂を加熱、再圧縮した後、可塑化シリンダ210の先端部に送り、可塑化計量を完了した。本
参考例のスクリュストローク30mmにおける計量時間は13秒であった。
【0082】
その後、シャットオブバルブ36を開放して、キャビティ253内に溶融樹脂を射出充填した後、保圧をかけずに金型を2.0mm開き(コアバック)それにより成形体内部を急減圧し、内部に発泡セルを有する発泡成形体を得た。以上説明した成形体の発泡射出成形を連続して100ショット行い、100個の発泡成形体を得た。
【0083】
本
参考例において得られた100個の発泡成形体は、発泡成形体と同形状のソリッド(無発泡の成形体)と比較して、比重が18%軽量化した。また、発泡成形体の3箇所のセル径を測定し、平均セル径を計算した。平均セル径は15〜20μm程度と微細であり、発泡セルの密度も高かった。
【0084】
可塑化シリンダ内で溶融樹脂と物理発泡剤の分離が生じると、得られた成形体の表面に膨れが生じることが知られている。本
参考例で得られた100個の発泡成形体には、表面に膨れが発生した成形体は存在しなかった。このことから、可塑化シリンダ内で溶融樹脂と物理発泡剤の分離は生じなかったと推察される。
【0085】
また、得られた100個の発泡成形体の重量のばらつきは、0.10%程度と小さかった。これらの結果から、スクリュによる溶融樹脂の計量動作は安定していたことがわかった。
【0086】
本
参考例では、上述したように可塑化計量時間が13秒と短時間であった。これは、熱可塑性樹脂の可塑化から溶融樹脂の計量までの間、スクリュ20を同一方向に回転(正回転)し、回転の停止及び逆回転を行わなかったためである。本
参考例に用いた成形機1000における混練装置200の代わりに、特許文献5に開示される混練装置を用いて、本
参考例と同様の発泡成形体を成形したところ、可塑化計量時間は、25秒であった。これは、特許文献5に開示される混練装置を用いた場合には、可塑化シリンダ内の溶融樹脂の圧力を制御するためにスクリュの停止及び逆回転を行う必要があるためである。特許文献5に開示される混練装置を用いた場合には、一旦スクリュを停止して逆回転して物理発泡剤を可塑化シリンダに導入し、再可塑化してガスを排出するまで、約7〜10秒必要であった。本
参考例では、このようなスクリュを停止、逆回転する操作は不要である。
【0087】
また、本
参考例では、高圧混練ゾーン22において、物理発泡剤の導入前に溶融樹脂の圧力を高め、第1の圧力(7±0.5MPa)に調整した溶融樹脂に物理発泡剤を混練した。これにより、物理発泡剤である窒素の溶融樹脂への分散性を向上させることができた。
【0088】
[実施
例]
本実施例では、
図4に示す成形機2000を用いて、
参考例と同様の材料から、
参考例と同様の形状の発泡成形体を発泡射出成形により製造した。本実施例では、可塑化シリンダ210の内部に下流側シール機構S12を設け、スクリュ20を同一方向に回転することにより、高圧混練ゾーン22における溶融樹脂の圧力を5±1MPa(第1の圧力)に調整した。次に、5±1MPa(第1の圧力)に調整された溶融樹脂に、
参考例と同様に、10MPa(第2の圧力)の物理発泡剤を導入し、混練した。高圧混練ゾーン22の圧力は、物理発泡剤の導入後は、最高7.5±1.5MPaとなった。それ以外は、
参考例と同様の方法により、成形体の発泡射出成形を連続して100ショット行い、100個の発泡成形体を得た。本実施例におけるスクリュストローク30mmにおける計量時間は、12秒であった。
【0089】
本実施例において得られた100個の発泡成形体は、発泡成形体と同形状のソリッド(無発泡の成形体)と比較して比重が16%軽量化した。また、発泡成形体の3箇所のセル径を測定し、平均セル径を計算した。平均セル径は15〜20μm程度と微細であり、発泡セルの密度も高かった。本実施例で得られた100個の発泡成形体には、表面に膨れが発生した成形体は存在しなかった。このことから、可塑化シリンダ内で溶融樹脂と物理発泡剤の分離は生じなかったと推察される。また、得られた100個の発泡成形体の重量のばらつきは、0.15%程度と小さかった。これらの結果から、スクリュによる溶融樹脂の計量動作は安定していたことがわかった。
【0090】
本実施例では、
参考例と同様に、熱可塑性樹脂の可塑化から溶融樹脂の計量までの間、スクリュ20を同一方向に回転(正回転)し、回転の停止及び逆回転を行わなかったため、上述したように可塑化計量時間は、12秒と短時間であった。また、本実施例では、高圧混練ゾーン22において、物理発泡剤の導入前に溶融樹脂の圧力を高め、第1の圧力(5±1MPa)に調整した溶融樹脂に、物理発泡剤を混練した。これにより、物理発泡剤である窒素の溶融樹脂への分散性を向上させることができた。