【実施例】
【0061】
製剤例1
粘着付与剤としての100重量部の水素化ロジンエステル樹脂(商標名「Pinecrystal KE311」)を、100重量部のスチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(商標名「Quintac 3520」)と混ぜることにより、SIS(スチレンイソプレンスチレン)ベースの感圧粘着剤を得た。99.0w/w%のSISベースの感圧粘着剤(Pinecrystal KE311/Quintac 3520の比は、50%/50% (w/w)である)、および1.0w/w%のクロベタゾールプロピオネイトをトルエン中に溶解し、50重量%の固体含有量を有するコーティング液を得た。40μmのドライコート厚となるように、このコーティング液を剥離紙上にコーティングした。乾燥後、支持体(12μmの厚さを有するポリエステルフィルム)をラミネートしてパッチ製剤を得た。
【0062】
製剤例2
0.005gの架橋剤(キレート型架橋剤; 商標名「NISSETSU CK-401」)および0.05gのクロベタゾールを12.363g(固体:4.945g)のアクリル系の感圧粘着剤[商標名「NISSETSU PE-300」; アルキル(メタ)アクリレート-酢酸ビニル共重合体; 40重量%の固体含有量を有する感圧粘着剤溶液(酢酸エチル/トルエン混合溶媒)]に加えることにより、57.3重量%の濃度を有するコーティング液を調製した。80μmのドライコート厚となるように、このコーティング液を剥離紙上にコーティングした。乾燥後、支持体(12μmの厚さを有するポリエステルフィルム)をラミネートしてパッチ製剤を得た。
【0063】
製剤例3
ゴム状エラストマー物質としての40.5gのスチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(商標名「SIS5000」)、粘着付与剤としての40.5gのテルペン樹脂(商標名「YS Resin 115ON」)、および10gのクロベタゾールプロピオネイトを、150gのトルエン中に溶解させることにより、40重量%の固体含有量を有する感圧粘着剤溶液(コーティング液)を得た。40μmのドライコート厚となるように、このコーティング液を剥離紙上にコーティングした。乾燥後、支持体(12μmの厚さを有するポリエステルフィルム)をラミネートしてパッチ製剤を得た。
【0064】
製剤例4
ゴム状エラストマー物質としての400gのスチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(商標名「Cariflex TR-1107」)、粘着付与剤としての400gのテルペン樹脂(YS Resin 1150N)、軟化剤としての125gの流動パラフィン、および5gのクロベタゾールプロピオネイトを、加熱混練機を用いて混練することにより均一に混合した。混練後、200μmの厚さとなるように一面がカレンダによるシリコーン処理に付された剥離ライナーのシリコーン表面上に混合物を塗った。次いで、そこに支持体(12μmの厚さを有するポリエステルフィルム)をラミネートしてパッチ製剤を得た。
【0065】
実験例1
クロベタゾールプロピオネイト、アムシノニド、ベタメタゾンジプロピオネイト、ロテプレドノールエタボネイト、デキサメタゾン、プレドニゾロンアセテイトおよびその代謝産物(プレドニゾロン)の皮膚透過性を調べるための、ヘアレスマウスの皮膚を通じたインビトロ透過性試験
【0066】
材料および方法
以下の手順に従ってステロイドパッチを作製した。ステロイド(クロベタゾールプロピオネイト、アムシノニド、ベタメタゾンジプロピオネイト、ロテプレドノールエタボネイト、デキサメタゾンまたはプレドニゾロンアセテイト)を透明なポリプロピレンカップ中で軽量した。2mLの酢酸エチルを加え、超音波処理器を用いて超音波により分散させた。DURO-TAK(登録商標)87-4098を透明なポリプロピレンカップ中に慎重に加えた。へらを用いて成分を混合した後、蒸発を防止するためにカップの蓋を閉じた。コーティングバーを約370μmに調整して厚さを制御した。コーティングバーの近くの剥離ライナー上へ生成物を慎重に分配した。手でコーティングバーを動かすことによりコーティングプロセスを開始した。コーティングされたシートをオーブンに移し、80℃で10±1分間加熱した。乾燥したシートをオーブンから取り出し、ポリエチレンテレフタレートフィルムをラミネートした。パッチの厚さを確認した。
【0067】
表1は、ステロイド(クロベタゾールプロピオネイト、デキサメタゾン、またはプレドニゾロンアセテイト)パッチの成分を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
インビトロ皮膚透過性実験のために、6匹の8週齢雌性ヘアレスマウスの腹部皮膚を用いた。
図1に示すようなインビトロ皮膚浸透性実験装置にその皮膚を取り付けた。(水平セル, 有効容積: 5mL, 有効面積: 0.64cm
2)。クロベタゾールプロピオネイト5%パッチ、アムシノニド5%パッチ、ベタメタゾンジプロピオネイト5%パッチ、ロテプレドノールエタボネイト5%パッチ、デキサメタゾン5%パッチ、またはプレドニゾロンアセテイト5%パッチを角質層表面に貼付した。5mLの40%ポリエチレングリコール400溶液をレセプターセルに加え、シンク条件を維持した。実験温度を37℃に制御し、400μLのレセプター溶液を1、2、3、4、5、6、9、12、22、28、34および48時間でサンプリングした。その後、同じ量の40%ポリエチレングリコール400溶液をレセプターセルに加えた。サンプリングしたレセプター溶液中の各ステロイドの濃度をUPLCで分析した。
【0070】
結果および考察
表2は、ヘアレスマウスの皮膚を横切るステロイドの定常状態透過速度およびラグタイムをまとめたものである。
【0071】
【表2】
【0072】
アムシノニド、クロベタゾール、ロテプレドノールおよびベタメタゾンの定常状態透過速度は、眼科用軟膏として使用されるプレドニゾロンおよびデキサメタゾンの定常状態透過速度よりも、それぞれ、20倍および10倍、14倍および8倍、12倍および7倍、6倍および3倍高かった。アムシノニド、クロベタゾール、ロテプレドノールおよびベタメタゾンのラグタイムは、プレドニゾロンおよびデキサメタゾンよりも、それぞれ、5倍および4倍、7倍および6倍、5倍および4倍、4倍および3倍短かった。クロベタゾールブチレイトは、クロベタゾールプロピオネイトと同様に作用することが予期される。6種のステロイド間で皮膚浸透性が異なる理由は、ステロイド化合物の化学構造等の化学的特徴に依るものであり得る。
【0073】
本発明以前には、異なるステロイドが、経皮パッチ中で、眼に適用されたときに異なる透過速度を有するかどうかは知られていなかった。本発明者らは、アムシノニド、クロベタゾール、ロテプレドノールおよびベタメタゾンが、プレドニゾロンアセテイトやデキサメタゾン等の眼科用ステロイドと比較して、驚くべきことに皮膚内によく透過することを発見した。
【0074】
実験例2
カラギーナンにより誘発された眼瞼の炎症に対するステロイドパッチの有効性を、酢酸プレドニゾロンを含む市販の眼科用軟膏と比較するためのインビボ薬理試験
【0075】
材料および方法
クロベタゾールプロピオネイト5%パッチ、アムシノニド5%パッチ、ロテプレドノールエタボネイト5%パッチおよびベタメタゾンジプロピオネイト5%パッチを実験例1および表1の記載に従って作製した。
【0076】
市販の眼科用軟膏は、プレドニゾロン0.25%軟膏である。
【0077】
更に、活性物質(ステロイド)を含まずに同じ成分を含むプラセボパッチをコントロールとして用いた。
【0078】
実験の対象は、約8週齢、体重約180gの雄性ウィスター系ラット(n=47)であった。
【0079】
被験物質の投与
パッチ群および軟膏群の動物をイソフルラン吸入により麻酔した。麻酔下、皮膚が滑らかになるまで、右下眼瞼周辺の皮膚の被毛を電動バリカンおよび電気シェーバーを用いて刈った。翌日、0.4cm
2の面積(長さ0.8cm×幅0.5cm, 172.8μg/0.4cm
2)のステロイドパッチを右下眼瞼に貼付した後、皮膚から外れるのを防止するためにパッチ上にカバーテープを貼付した。貼付の8時間後にパッチを取り外した。
【0080】
カラギーナン溶液の調製、ならびにカラギーナンによる結膜浮腫の誘発、および結膜浮腫の切除
【0081】
カラギーナンを40℃の温浴槽中の生理食塩水に溶解し、1%濃度とした。カラギーナンの注射の間、溶液を40℃の温浴槽中に保った。作業日毎に使用前にカラギーナン溶液を調製した。
【0082】
動物をイソフルラン吸入により麻酔した。パッチを取り外した後、50μLの1%カラギーナンを右下眼瞼に注射した。4時間後、ラットを二酸化炭素の吸入により屠殺し、浮腫の部分をはさみで切除し、電子天秤で計量した。
【0083】
以下に示す通り、参照薬物として、カラギーナンの注射の8および4時間前に20mgの軟膏(50μgのプレドニゾロン)を右眼瞼に塗布した。
【0084】
【0085】
結果および考察
プラセボパッチ群における眼瞼浮腫の重量は67.0±3.9(mg, 平均±標準誤差, n=8)であった。クロベタゾール、アムシノニド、ロテプレドノールおよびベタメタゾン5%パッチ群における眼瞼浮腫の重量は、それぞれ、34.0±3.0(n=9)、44.4±1.6(n=8)、40.9±4.8(n=8)、41.6±2.4(n=8)であり、これらは、それぞれ、49.3%(p<0.0001)、33.7%(p<0.05)、39.0%(p<0.01)および37.9%(p<0.01)浮腫形成を有意に抑制した。クロベタゾールブチレイトはクロベタゾールプロピオネイトと同様に作用することが予期される。プレドニゾロン軟膏群における眼瞼浮腫の重量は62.8±5.4(n=6)であり、プレドニゾロンは、浮腫を有意に抑制しなかった(p<0.38)(表3)。
【0086】
従って、ステロイドパッチは、眼軟膏剤と比べて、眼瞼の疾患の治療において治療的により効果的であることが示唆される。
【0087】
【表3】
【0088】
実験例3
雄性ニュージーランド白色ウサギに局所的に貼付した場合のステロイドパッチの皮膚一次刺激の評価
【0089】
材料および方法
クロベタゾールプロピオネイト5%パッチ、アムシノニド5%パッチ、ロテプレドノールエタノネイト5%パッチおよびベタメタゾンジプロピオネイト5%パッチを実験例1および表1の記載に従って作製した。
【0090】
パッチの貼付の1日前に、ニュージーランド白色ウサギ(n=4)を噴霧器によるイソフルランの吸入により麻酔した。麻酔下、皮膚が露出するまで電動バリカンおよび電気シェーバーを用いて背部周辺の被毛を刈った。テストパッチの貼付の直前に、各ウサギの1つのテスト部位に無菌針で「#」のパターンの上皮擦過創を与え、反対部位の皮膚は正常なままとした。1日目に、4cm
2の面積(長さ2cm×幅2cm)を有する各ステロイドパッチを背部に貼付した後、それが外れないように、そのパッチ上にカバーテープを貼付した。貼付の8時間後にパッチを取り外した。以下に示す通り、1日目にパッチの取り外しの1時間後および16時間後に貼付部位を観察し、同じ手順を3日まで定期的に続けた。
【0091】
【0092】
紅斑および浮腫の重症度について各パッチ貼付部位における皮膚反応を評価した(表4)。
【0093】
【表4】
【0094】
総刺激スコアの和を観察回数で割ることにより、テストパッチについての累積刺激インデクス(cumulative irritancy index)を算出した。テストパッチについての皮膚一次刺激インデックスの分類は、表5のインデクスに基づいて分類した。
【0095】
【表5】
【0096】
結果および考察
ポジティブコントロールとしてのサージカルテープのC.I.I.のスコアは1.6であり、「軽度の刺激」と評価された。ロテプレドノールパッチのC.I.I.は「0」と算出され、「刺激なし」と評価された。アムシノニド、ベタメタゾン、クロベタゾールおよびプラセボパッチのC.I.I.は「0.1〜0.3」と算出され、「ごくわずかな刺激」と評価された。プラセボパッチと比べて、4種のステロイドパッチの刺激スコアには差はなかった。正常皮膚と擦過皮膚との間で皮膚刺激には差はなかった(表6)。
【0097】
【表6】
【0098】
0.3未満と算出された4種のステロイドパッチのC.I.I.は、ごくわずかなウサギ皮膚への刺激を示す。クロベタゾールブチレイトはクロベタゾールプロピオネイトと同様に作用することが予期される。
【0099】
実験例4
カラギーナンにより誘発されたラットの眼瞼の炎症に対するクロベタゾールプロピオネイトパッチの用量反応効果の試験
【0100】
材料および方法
クロベタゾールプロピオネイトパッチを実験例1および以下の表7-9の記載に従って作製した。
【0101】
【表7】
【0102】
【表8】
【0103】
【表9】
【0104】
パッチ群および軟膏群の動物(8週齢の雄性ウィスター系ラット)をイソフルランの吸入により麻酔した。麻酔下、皮膚が滑らかになるまで、電気バリカンおよび電気シェーバーを用いて右下眼瞼周辺の皮膚の被毛を刈った。翌日、0.4cm
2の面積(長さ0.8cm×幅0.5cm, 17.28, 1.728, 0.1728μg/0.4cm
2)を有するクロベタゾール0.005%、0.05%または0.5%パッチを右下眼瞼に貼付した後、皮膚から外れるのを防止するためにパッチ上にカバーテープを貼付した。貼付の8時間後にパッチを取り外した。
【0105】
カラギーナンを40℃の温浴槽中の生理食塩水に溶解し、1%濃度とした。カラギーナン溶液の注射の間、溶液を40℃の温浴槽中に保った。作業日毎に使用前にカラギーナン溶液を調製した。
【0106】
動物をイソフルラン吸入により麻酔した。パッチを取り外した後、50μLの1%カラギーナンを右下眼瞼に注射した。4時間後、ラットを二酸化炭素の吸入により屠殺し、浮腫の部分をはさみで切除し、電子天秤で計量した。
【0107】
以下に示す通り、参照薬物として、カラギーナンの注射の8および4時間前に5mgの軟膏(2.5μg/5mg、1gの軟膏中に0.5mgのクロベタゾール)を右眼瞼に塗布した。
【0108】
【0109】
結果および考察
プラセボパッチ群の眼瞼の浮腫の重量は、59.7±4.0mg(平均±標準誤差、n=8)であった。クロベタゾール0.005%、0.05%および0.5%パッチ群の眼瞼の浮腫の重量は、それぞれ、35.1±2.3(n=8)、31.8±3.2(n=8)および24.8±2.5mg(n=8)であった。全ての濃度のクロベタゾールが、プラセボ群と比較して有意に浮腫を抑制し(p<0.001)、それらの抑制は、それぞれ、41.2%、46.7%および58.5%であった。表10を参照されたい。クロベタゾールブチレイトはクロベタゾールプロピオネイトと同様に作用することが予期される。
【0110】
クロベタゾール0.05%軟膏群の眼瞼の浮腫の重量は35.7±2.8(n=7)であり、0.05%軟膏は、それを40.2%有意に抑制した(p<0.001)。クロベタゾール0.5%パッチは、0.05%軟膏よりも有意に優れていた(p<0.05%)。
【0111】
クロベタゾールパッチは、眼瞼の疾患に対して、0.05%軟膏と同等以上の効果を持つことが示唆される。
【0112】
【表10】
【0113】
実験例5
ラットに対する14日反復貼付によるクロベタゾールプロピオネイトパッチの用量反応毒性試験
【0114】
材料および方法
実験例4および表7-9に従って、クロベタゾールプロピオネイト0.5%、0.05%および0.005%パッチを作製した。
【0115】
下記表11に従って、プラセボパッチを作製した。
【0116】
【表11】
【0117】
ラット(9週齢の雄性ラット)をイソフルランの吸入により麻酔した。麻酔下、皮膚が露出するまで電動バリカンおよび電気シェーバーを用いて背部周辺の被毛を刈った。14日間にわたって毎日、0.5%、0.05%または0.005%のクロベタゾールプロピオネイトパッチを、背中の皮膚の規定された領域(20cm
2, 4×5cm、それぞれ、860、86または8.6μgのクロベタゾールプロピオネイト/パッチ)に貼付した。パッチをパッチ上のバンデージテープで保護した。貼付の8時間後にパッチを取り外した。14日間にわたって毎日、クロベタゾールプロピオネイト0.05%軟膏を47mg/100g体重の用量にて、背中の皮膚の規定された領域(20cm
2, 4×5cm、クロベタゾールプロピオネイト127μg/軟膏253mg)に塗布した。
【0118】
1) 皮膚毒性学的所見(毎日)
皮膚毒性学的所見観察を適用前後に毎日行った。
- 項目
発毛、表皮および真皮の皮膚萎縮、紅斑ならびに浮腫
- スコアのグレード付け
0; なし、1; 非常に軽度、2; 軽度、3; 中等度、4; 高度
2) 体重(毎日)
適用前に毎日、体重を測定した。
3) 皮膚の折畳んだ厚さ(1、3、7、10および14日目)
皮膚の折畳んだ厚さを測定するために、10mm幅の電気キャリパーを適用部位の中央において皮膚にセットし、測定体をスライドさせることにより皮膚の厚さを測定した。
【0119】
結果および考察
皮膚毒性学的所見
表12は、1日目と14日目との間の、皮膚の総毒性スコアの差を示す。クロベタゾール0.05%軟膏は皮膚萎縮および発毛抑制を誘発し、また、総毒性スコアは8日目から上昇し、そのスコアは14日目には2.0上昇した。全てのパッチ(0.005%、0.05%および0.5%)群は、刺激および萎縮がなく、発毛は正常であった。
【0120】
【表12】
【0121】
体重
表13は、1日目と14日目との間の体重の差を示す。0.005%、0.05%および0.5%パッチ群の体重は、14日目には、それぞれ、8.5g、12.0gおよび4.7g増加した。一方、0.05%軟膏群の体重は、14日目には、40.1g減少した。
【0122】
【表13】
【0123】
皮膚の折畳んだ厚さ
表14は、1日目と14日目との間の皮膚厚の差を示す。0.005%、0.05%および0.5%パッチ群の皮膚厚は、14日目には、それぞれ、用量依存的に0.13mm、0.22mmおよび0.66mm減少した。0.05%軟膏群の皮膚厚も、14日目には、1.05mm減少した。
【0124】
【表14】