特許第6296995号(P6296995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6296995アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296995
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20180312BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20180312BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20180312BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20180312BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180312BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180312BHJP
【FI】
   A61K48/00ZNA
   A61K31/713
   A61P25/28
   C12Q1/02
   C12Q1/68 A
   !C12N15/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-553106(P2014-553106)
(86)(22)【出願日】2013年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2013083435
(87)【国際公開番号】WO2014097978
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-277068(P2012-277068)
(32)【優先日】2012年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 正樹
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/100197(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/113289(WO,A1)
【文献】 特開2003−169699(JP,A)
【文献】 国際公開第02/063009(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/078721(WO,A1)
【文献】 Netzer,W.J. et al.,Gleevec inhibits beta-amyloid production but not Notch cleavage.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2003年10月14日,Vol.100, No.21,p.12444-9
【文献】 Weggen,S. et al.,A subset of NSAIDs lower amyloidogenic Aβ42 independently of ctclooxygenase activity.,Nature,2001年11月 8日,Vol.414, No.6860,p.212-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61P 25/00
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ILEI (interleukin-like epithelial-mesenchymal transition inducer)、又はILEIをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターを含む、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物。
【請求項2】
アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
以下の工程を含む、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1) ILEIを発現する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2) 候補となる化合物が存在しない場合と比較し、ILEIの発現レベルを増加させる化合物を選択する工程。
【請求項4】
アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患がアルツハイマー病である、請求項3に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
以下の工程を含む、ILEIと類似の活性を有する、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1) アミロイドβタンパク質を産生する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2) 候補となる化合物が存在しない場合と比較し、Notch切断を阻害せず、アミロイドβタンパク質産生を減少させ且つAPP-CTF (amyloid-β precursor protein C-terminal fragment)を減少させる化合物を選択する工程。
【請求項6】
アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患がアルツハイマー病である、請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
ILEI、又はILEIをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターを非ヒト哺乳動物に投与することを特徴とするアミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物に関する。さらに、本発明は、アミロイドβタンパク質が蓄積する疾患を治療及び/予防するための化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノイドβタンパク質(Aβ)が脳内に異常蓄積することが、アルツハイマー病(AD)の分子病態であり、Aβを減少させることは病態に基づいた治療法となる可能性が期待されている。
【0003】
Aβは神経細胞においてアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)の2段階のタンパク質分解によって産生する。細胞外の膜近傍部位における最初の切断はβセクレターゼ(β-secretase)によって触媒され、分泌型のN末端外部ドメイン(sAPPβ)と膜貫通C末端フラグメント(APP-CTFβ又はAPP-C99)を産生する。次に、膜内のアスパルチルプロテアーゼγセクレターゼ(γ-secretase)(次の4つのコア成分からなる巨大分子複合体:presenilin, nicastrin, anterior pharynx defective-1 (APH-1), presenilin enhancer-2 (PEN-2))が、APP-C99をAβとAPP細胞内ドメイン(AICD)に分解する(図4参照)。APP-C99の分解にはこの他、Aβを産生しない経路も知られている。
【0004】
アルツハイマー病治療のストラテジー開発の中で、APPからのAβ産生を減少させる方法として、従来γセクレターゼ活性の阻害剤が主に用いられてきた。多くの阻害剤が開発されてきたが、それらγセクレターゼ阻害剤の投与では、臨床治験の結果から細胞内APP-C99の蓄積、及びAPPと共に基質となるNotchタンパク質の切断不全によると考えられる副作用として認知症の憎悪や皮膚癌発症頻度の増加が認められることが明らかとなっている。
【0005】
特許文献1ではアルツハイマー病のバイオマーカーについて報告されている。具体的には、被験体におけるアルツハイマー病の状態を定性化するための方法に関する発明であって、当該方法は、(a)該被験体由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程であって、該少なくとも1つのバイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)から選択される、工程;ならびに(b)該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける工程、を包含することを特徴としている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、4種のタンパク質をアルツハイマー病のバイオマーカーとして使用することが記載されているだけであって、その他の用途については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008-537143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Aβ産生を減少させるが、Notch切断を阻害しないタンパク質、又は該タンパク質をコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターを含む、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、Aβ産生を減少させるが、Notch切断を阻害しないタンパク質の発現レベルを増加させる化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、Aβ産生を減少させるが、Notch切断を阻害しないタンパク質と類似の活性を有する化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、APP-C99の非Aβ産生経路による分解を促進することによりAβ産生を減少させる活性を示すタンパク質としてILEI (interleukin-like epithelial-mesenchymal transition inducer) (別名 family with sequence similarity 3, member C (FAM3C))を同定した。このような活性は特異であるとともに、ILEIは分泌タンパク質であり、培養動物細胞によって作製した組換え体のILEIタンパク質が細胞の外側から作用することにより同様の活性によって培養細胞のAβ産生を用量依存的に減少させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の医薬組成物、スクリーニング方法並びに治療及び/又は予防方法を提供するものである。
【0013】
(I) 医薬組成物
(I-1) ILEI、又はILEIをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターを含む、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物。
(I-2) アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患がアルツハイマー病である、(I-1)に記載の医薬組成物。
(I-3) アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物の製造における、ILEI、又はILEIをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターの使用。
【0014】
(II) スクリーニング方法1
(II-1) 以下の工程を含む、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1) ILEIを発現する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2) 候補となる化合物が存在しない場合と比較し、ILEIの発現レベルを増加させる化合物を選択する工程。
(II-2) アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患がアルツハイマー病である、(II-1)に記載のスクリーニング方法。
【0015】
(III) スクリーニング方法2
(III-1) 以下の工程を含む、ILEIと類似の活性を有する、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1) アミロイドβタンパク質を産生する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2) 候補となる化合物が存在しない場合と比較し、Notch切断を阻害せず、アミロイドβタンパク質産生を減少させ且つAPP-CTF (amyloid-β precursor protein C-terminal fragment)を減少させる化合物を選択する工程。
(III-2) アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患がアルツハイマー病である、(III-1)に記載のスクリーニング方法。
【0016】
(IV) 治療及び/又は予防方法
(IV-1) ILEI、又はILEIをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターを投与することを特徴とするアミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防方法。
(IV-2) アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患がアルツハイマー病である、(IV-1)に記載の治療及び/又は予防方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の医薬組成物は、細胞の外側から作用し、APP-C99を選択的に減らすことにより細胞のAβ産生を減少させながら、Notch切断を阻害しないという優れた効果を有する。それ故、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患(特にアルツハイマー病)の進行を予防及び治療することができる上に、γセクレターゼ阻害剤の投与で認められた副作用を回避することが可能である。
【0018】
また、ILEIを利用することで、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患(特にアルツハイマー病)の進行を予防及び治療するための化合物のスクリーニングも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】試験例1の結果を示すグラフである。(a)及び(b) 黒: Aβ40、グレー: Aβ42、**: コントロール又はmockに対するp < 0.01 (c) 示されたイムノブロットは3回の独立した実験の代表的なものである。**: コントロールに対するp < 0.01
図2】試験例2の結果を示すグラフである。*: p < 0.05、**: p < 0.01
図3】試験例3の結果を示す図である。(b) FL: full-length、Sec: secreted form (c)黒: Aβ40、グレー: Aβ42、*: WTに対するp < 0.05、**: WTに対するp < 0.01
図4】APPからのAβ産生経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明において、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患としては、アルツハイマー病の他、ダウン症候群が挙げられる。
【0022】
ILEI
本発明者らは、γセクレターゼ複合体に結合するタンパク質をスクリーニングし、その一つとしてILEIを同定した。そして、培養細胞に用いた解析から、当該ILEIが、(i)Aβ産生を減少させる、(ii)γセクレターゼ複合体に結合するが、その活性には影響を与えない、(iii)Aβ産生の中間産物APP-C99の細胞内レベルを減少させる、(iv)Notch切断を阻害しない、(v)トランジェニック技術によりマウスに強制発現させると脳Aβを減少させること等を見出した。
【0023】
ILEIは、4へリックスバンドル構造を有するサイトカイン様構造に対するデータベース検索で同定された分泌型タンパク質であり、進化的によく保存されている。ILEIは、翻訳後に全長前駆体タンパク質のシグナル配列が切断され分泌小胞の膜から遊離される。
【0024】
本明細書において「ILEI」とは、特に記載が無い限りタンパク質のことを意味する。
【0025】
ILEIのアミノ酸配列としては、配列番号1に記載されるものが挙げられる(GenBank Accession No.NP_055703)。配列番号1の1〜24位はシグナルペプチドであり、成熟タンパク質は配列番号1の25〜227位のアミノ酸配列からなるタンパク質である(配列番号2)。
【0026】
本発明におけるILEIは、全長タンパク質及び成熟タンパク質のいずれも包含するものである。
【0027】
本発明において、ILEIは、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するものであれば、配列番号1又は2で表されるタンパク質の変異体であってもよい。
【0028】
変異体としては、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1〜12個、1〜9個、1〜5個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
【0029】
ILEIは、APP-C99を選択的に減らすことにより細胞のAβ産生を減少させることができる上に、Notch切断を阻害しないという従来報告がない極めて特異な生物活性を有している。また、ILEIは、細胞の外側から作用することが可能である。
【0030】
医薬組成物
本願発明は、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び/又は予防用の医薬組成物であって、ILEI、又はILEIをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターを含むことを特徴とする。
【0031】
ILEIとしては、シグナル配列が無い成熟タンパク質を使用することが望ましい。
【0032】
ILEIは、公知のタンパク質の製造方法に従い製造することができ、例えば、公知の遺伝子配列の情報を利用して遺伝子を取得し形質転換体を作製することにより生産することができる。生産したILEIの精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム塩折法等により行うことができる。
【0033】
ベクターを使用する場合は、シグナル配列を有する分泌型のILEIをコードするポリヌクレオチドを用いることが望ましい。分泌されたILEIは、細胞の外側から作用することによってAβの産生を抑制することが可能である。ILEIをコードするポリヌクレオチドは、公知のポリヌクレオチドの製造方法に従い製造することができ、例えば、ILEI遺伝子の配列情報に基づいてポリヌクレオチドを化学合成することや、ILEI遺伝子を増幅することができるプライマーを使用し相補的DNA(cDNA)を鋳型とするPCRにより製造することができる。ベクターとしては、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等が挙げられる。ベクターの投与は、in vivo又はex vivoの何れであってもよい。
【0034】
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与される。本発明の医薬組成物の投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、経口的又は非経口的に投与される。非経口的投与経路としては、皮下、腹腔内、静脈、動脈、脳脊髄液若しくは脳室内への注射又は点滴、経皮的投与等が挙げられる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、ヒトへの投与に適した医薬上許容される形態であって、生理学的に許容し得る添加剤を含む。かかる組成物は、適宜、医薬として許容し得る希釈剤、緩衝剤、可溶化剤(例えば、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、あるいはTween、プルロニック、クレモフォール、リン脂質などの界面活性剤)、無痛化剤等を添加してもよく、更に必要に応じて、医薬として許容し得る溶剤、安定化剤又は酸化防止剤(例えばアスコルビン酸等)のような成分を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物の投与方法、投与形態等は、ILEIが標的となる細胞周囲においてAβの産生を有効に抑制する濃度となるように適宜選択される。本発明の医薬組成物の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、及び疾患の程度により適宜選択される。
【0036】
本発明の医薬組成物におけるILEIの含量は、0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜100重量%の範囲から適宜選択することが可能である。
【0037】
本発明の医薬組成物は、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患(特にアルツハイマー病)の進行を予防及び治療することができる。さらには、ILEIがNotch切断を阻害しないことから、γセクレターゼ阻害剤の投与で認められた副作用を回避することができる。
【0038】
スクリーニング方法1
本発明のアミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1) ILEIを発現する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2) 候補となる化合物が存在しない場合と比較し、ILEIの発現レベルを増加させる化合物を選択する工程。
【0039】
上記細胞としては、ILEIを発現するものであれば特に限定されないが、例えば、ILEI遺伝子が導入された細胞等が挙げられる。
【0040】
候補となる化合物も特に制限なく使用でき、例えば、低分子化合物、高分子化合物、生体高分子(タンパク質、核酸、多糖類等)等が挙げられ、このような化合物を含む種々の化合物ライブラリーを使用することができる。
【0041】
候補となる化合物を細胞に接触させた場合のILEIの発現レベルを、候補となる化合物が存在していない場合と比較し、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上増加していた場合、当該化合物をアミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び予防に有効なものとして選択できる。
【0042】
ILEIの発現レベルを検出する方法としては、ILEIをコードするmRNA、又はILEI自体を検出することにより行う。生体試料中からのmRNA又はタンパク質の抽出は常法に従い行うことができる。
【0043】
mRNAを検出する方法としては、mRNAを定量できる方法であれば特に限定されないが、例えば、DNAチップ法、realtime PCR法、ノーザンブロット法等が挙げられる。ここでのmRNAを検出する方法は、mRNAに対応するcDNAを検出することも含む。
【0044】
タンパク質を検出する方法としては、タンパク質を定量できる方法であれ特に限定されないが、例えば、ELISA法、プロテインチップ、ウェスタンブロッティング法による解析法等が挙げられる。
【0045】
上記方法により選択される、ILEIの発現を増加させることができる化合物は、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患(特に、アルツハイマー病)の治療及び予防に有効であり得る。
【0046】
スクリーニング方法2
本発明のILEIと類似の活性を有する、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患を治療及び/又は予防するための化合物のスクリーニング方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1) アミロイドβタンパク質を産生する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2) 候補となる化合物が存在しない場合と比較し、Notch切断を阻害せず、アミロイドβタンパク質産生を減少させ且つAPP-CTFを減少させる化合物を選択する工程。
【0047】
上記細胞及び候補となる化合物については、前述するものと同様である。
【0048】
以下の(a)〜(b)の条件を全て満たす化合物をアミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患の治療及び予防に有効なものとして選択できる:
(a) 候補となる化合物を細胞に接触させた場合のアミロイドβタンパク質産生を、候補となる化合物が存在していない場合と比較し、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上減少していた場合:
(b) 候補となる化合物を細胞に接触させた場合のAPP-CTFを、候補となる化合物が存在していない場合と比較し、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上減少していた場合:
(c) 候補となる化合物を細胞に接触させた場合のNotch切断レベルを、候補となる化合物が存在していない場合と比較し、低下無し、好ましくは10%以上には低下していなかった場合。
【0049】
アミロイドβタンパク質及びAPP-CTFを検出する方法としては、これらを定量できる方法であれば特に限定されないが、例えば、ELISA法、プロテインチップ、ウェスタンブロッティング法による解析法等が挙げられる。
【0050】
Notch切断レベルを検出する方法としては、例えば、γセクレターゼにより切断されることによって遊離するNICD (Notch intracellular domain)を検出することにより行うことができる。NICDを検出する方法としては、これを定量できる方法であれば特に限定されないが、例えば、ELISA法、プロテインチップ、ウェスタンブロッティング法による解析法等が挙げられる。
【0051】
上記APP-CTFは、APPの膜貫通C末端フラグメント(CTF)を意味する。APP-CTFとしては、Aβ産生に直接関わっているためAPP-C99が特に望ましい。
【0052】
上記方法により選択される、ILEIと類似の活性を有する化合物は、アミロイドβタンパク質が異常に蓄積する疾患(特に、アルツハイマー病)の治療及び予防に有効であり得る。
【実施例】
【0053】
次に本発明に係わる試験例を記載するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0054】
方法
<プラスミド>
ストップコドンを持つ又は持たないILEI/FAM3CをコードするcDNAは、ヒト脳cDNAライブラリー(Clontech)からPCRを使用して増幅し、pcDNA6/V5-His (Invitrogen)に挿入した。ILEIノックダウンベクターを構築するために、オリゴヌクレオチド5'-GGAGAAGUAUUAGACACU-3'をpSUP (Oligoengine)に挿入した。siRNA抵抗性ILEIのための発現プラスミドを調製するために、PCRに基づく部位特異的突然変異導入法を使用して5つの中立的変異をILEI cDNAに導入した。全ての構築物の配列は、シークエンシングによって確認した。
【0055】
<抗体>
抗ヒトILEIポリクローナル抗体(ILEI-C)は、N末端に追加したCys残基にチログロブリンを結合させたILEIのアミノ酸残基126-143に対応する合成ポリペプチド(C+GGDVAPFIEFLKAIQDGT)に対してウサギで産生させた。この抗体は、固定化抗原を有するイムノアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製した。次の抗体も使用した:ウサギポリクローナル抗APP-CTF抗体及びマウスモノクローナル抗βアクチン抗体(Sigma); マウスモノクローナル抗Notch-1抗体(AbD Serotec); マウスモノクローナル抗ヒトAβ抗体(4G8, Covance)。
【0056】
<RNA干渉>
次のsiRNA二重鎖をDharmaconから購入した:ILEIノックダウンのためのsiGENOME SMART pool M-020514及び非標的コントロールのためのD001210。M-020514 poolは次の配列を標的とする4つの二重鎖からなっていた:F1: 5'-GAACAGCACAUAAAGAACA-3'; F2: 5'-GGAGAAGUAUUAGACACUA-3'; F3:5'-GGAGCACAUCUAUUACUAA-3'; F4: 5'-GAACAAUAAGGAUACAAAC-3'。siRNA二重鎖はリポフェクタミンRNAi MAX (Invitrogen)を使用して培養細胞に導入された。
【0057】
<イムノブロッティング>
脳ホモジネートは、1% Nonidet P40を含むバッファー(25 mM HEPES, pH7.5, 150 mM NaCl, 2 mM EDTA, protease inhibitor cocktail及び10%グリセロール)中で溶解した。イムノブロッティングは、以前に報告したように行った(Nishimura, M., et al. Nat Med 5, 164-169 (1999))。
【0058】
<免疫組織化学>
マウスの脳の左半分を4℃で24時間、リン酸バッファー4%パラホルムアルデヒド中で固定し、クリオスタットで20μm厚さのフローティングセクションとして切断した。切片は30分間PBS 0.3%H2O2中でインキュベートし、それから24時間4℃で各々の一次抗体と、その後、ビオチン化二次抗体、次にアビジン/ビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(Vector Laboratories)でインキュベートした。免疫反応は、0.003% H2O2と0.5 mg ml-1硫酸ニッケルアンモニウム六水和物を含む0.03% 3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩を使用して検出した。
【0059】
<ILEI-Tgマウス>
遺伝子導入ベクターpMoPrP-ILEIは、神経細胞特異的発現のためのマウスプリオンプロモーターを含むMoPrPベクターのXhoI部位にヒトILEI cDNAのXhoI-XhoIフラグメントをサブクローニングすることによって構築した。遺伝子導入マウスは、標準的な技術を用いてC57BL/6マウス受精卵にpMoPrP-ILEI DNAを注入することによって産生した。初代遺伝子導入個体は、PCRを用いて同定した(下記参照)。遺伝子導入マウスの遺伝型は、次の導入遺伝子特異的プライマー対を使用したPCRによって決定した:mPrP-s 5'-CTGCTCCATTTTGCGTGACTC-3'及びhFAM3C-as 5'-CTTCCAGGCAGATTTTGGGTC-3'。
【0060】
<Aβの測定>
細胞からの分泌Aβの測定は、当該細胞培養液を用いヒトAβ40及びAβ42特異的ELISA (和光純薬工業)によった。
【0061】
マウス脳のAβ測定については、マウスの脳の右半分をTrisバッファー(20 mM Tris, pH7.5, 150 mM NaCl, 0.5 mM EDTA)の4倍量溶液中でモーター駆動Tefron/glassホモジナイザー(10ストローク)を使用してホモジナイズした。ホモジネートは20分間100,000×gで遠心し、上清は可溶性分画として使用した。ペレットは50 mM Tris, pH7.5 6Mグアニジン塩酸塩の1倍量溶液中で短時間の超音波処理によって溶解し、100,000×gで10分間遠心した。上清は12倍に希釈し、不溶性分画として使用した。可溶性及び不溶性分画は、DCプロテインアッセイ(BioRad)、並びにマウス/ラットAβ40及びAβ42特異的ELISA(IBL)に供した。Aβ濃度は、総タンパク質重量あたりのモル濃度で求めた。
【0062】
<統計解析>
統計的評価は、スチューデントのunpaired t検定を使用して行った。データは、平均±s.d. (標準偏差)で表している。統計学的有意性は、*p < 0.05又は**p < 0.01で定義した。
【0063】
試験例1
コントロール又はILEI特異的siRNAをHEK293細胞に一過性に形質移入した。培養液中のAβ40(黒)及びAβ42(グレー)をELISAを用いて測定した(図1a)。図1aから、HEK293細胞における内在性ILEIのRNAi媒介ノックダウンにより、制限培地中でAβ40とAβ42レベルが約2倍になるという結果になった。
【0064】
Mock又はILEI cDNAをHEK293細胞に一過性に形質移入した。培養液中のAβ40(黒)及びAβ42(グレー)をELISAを用いて測定した(図1b)。図1bから、ILEIの過剰発現が、HEK293細胞によるAβ分泌を減少させた。
【0065】
コントロール又はILEI siRNA又はILEI cDNAで形質移入されたHEK293細胞(図中それぞれILEI-k/d、ILEI-oe)を、AICDの分解を防ぐためにNエチルマレイミド(NEM)で60分間処理した。γセクレターゼ阻害剤であるDAPT処理によりAICD産生は抑制された(図中D)。βアクチンは、サンプル量コントロールとして使用した。グラフは、AICDシグナル強度を定量化した結果を示す(n=3)。図1cから、ILEIノックダウンはAICDの生成を増加、ILEI過剰発現はAICD生成を減少させることが示された。
【0066】
次に、マウス胎仔繊維芽細胞(MEFs)における内在性Notch-1のγセクレターゼ切断を試験した(図1d)。MEFのEDTA (1.5mM)での処理は、TMIC (transmembrane/intracellular Notch)の切断を誘導し、NEXT (Notch extracellular truncation)を生成する。NEXTはさらにγセクレターゼによって切断され、NICD (Notch intracellular domain)を遊離する。NICDの生成は、DAPT (1μM)によって阻害された。βアクチンは、サンプル量コントロールとして使用した。グラフは、NICDシグナル強度を定量化した結果を示す(n=3)。図1dから、ILEIノックダウンは、EDTAの存在でNICDの生成に変化を与えなかった。これらの結果は、ILEIがγセクレターゼによるNotch切断に影響を与えないことを意味している。
【0067】
試験例2
安定的にILEIをノックダウンしたHEK293細胞の培養液中に、示された濃度(μg ml-1)の精製ILEI-Hisを添加した。結果を図2に示す。精製ILEI-Hisの投与は、用量依存的にAβ分泌を減少させた。濃度7μg ml-1では、siRNA抵抗性ILEI cDNAの導入と同程度にAβ分泌を減少させた。
【0068】
試験例3
哺乳類の脳におけるILEI過剰発現の結果を分析するため、脳でヒトILEI cDNA導入遺伝子の発現を顕著に促進するためにマウスプリオン(PrP)プロモーターを使用したトランスジェニック(Tg)マウスを開発した。ヘテロ接合性のTgマウスは、形態異常が無く通常の成長及び生殖能力を示した。
【0069】
図3aでは、免疫組織化学により、ILEIが野生型とILEI-Tgマウスの脳の大脳皮質と海馬の神経細胞において発現されていることが示された。野生型のマウスと同様に、ILEI発現はTgマウスの脳の神経細胞に限定された。
【0070】
6週齢のILEI-Tgマウスとその野生型同腹仔の脳ホモジネートをイムノブロッティングに供した。βアクチンは、サンプル量コントロールとして分析した。脳ホモジネートのイムノブロッティングにより、野生型の同腹仔と比べてTgマウスの脳でILEIタンパク質レベルが約3倍に増加していることが示された(図3b)。また、Tgマウスの脳におけるAPP-CTFレベルは30%減少すること、及びNICDレベルには変化がないことが明らかになった(図3b)。
【0071】
脳ホモジネートのTris緩衝生理食塩水への可溶性及び不溶性分画のAβ40 (黒)とAβ42 (グレー)をELISAを使用して測定した(8月齢、n=5)。両方の分画のマウスAβ40及びAβ42レベルは、野生型の同腹仔コントロールと比べてILEI-Tgマウスで有意に減少していた(図3c)。これらの結果は、過剰のILEIはマウス個体の脳においてAPP-CTF蓄積とAβ産生を抑制する一方で、Notch切断を阻害しないことを示唆した。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]