特許第6297025号(P6297025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297025
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/30 20060101AFI20180312BHJP
   H01L 35/32 20060101ALI20180312BHJP
   H02N 11/00 20060101ALN20180312BHJP
【FI】
   H01L35/30
   H01L35/32 A
   !H02N11/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-506803(P2015-506803)
(86)(22)【出願日】2014年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2014057351
(87)【国際公開番号】WO2014148494
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-58893(P2013-58893)
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】武田 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】武藤 豪志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健
【審査官】 柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−035203(JP,A)
【文献】 特開2008−120353(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/161336(WO,A1)
【文献】 特開2009−188088(JP,A)
【文献】 特開2006−186255(JP,A)
【文献】 特開2008−182160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/30
H01L 35/32
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型熱電素子とN型熱電素子と電極とで構成された熱電変換モジュールの第1面に、直接接するように、熱伝導性樹脂層Aと、該熱伝導性樹脂層Aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層Bとが交互に設けられ、該熱電変換モジュールの第1面とは反対側の第2面に、直接接するように、熱伝導性樹脂層aと、該熱伝導性樹脂層aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層bが交互に設けられ
前記第1面に設けられた熱伝導性樹脂層A及び熱伝導性樹脂層Bに対向する第2面に、それぞれ前記熱伝導性樹脂層b及び熱伝導性樹脂層aが設けられ、
前記熱伝導性樹脂層Aと熱伝導性樹脂層Bとが接し、かつ前記熱伝導性樹脂層bと熱伝導性樹脂層aとが接し、
前記熱伝導性樹脂層Aと熱伝導性樹脂層Bが、前記第1面に、それぞれ前記P型熱電素子及び/又はN型熱電素子とに対応して設けられ、かつ第1面とは反対側の第2面に、前記熱伝導性樹脂層bと熱伝導性樹脂層aが、それぞれ前記P型熱電素子及び/又はN型熱電素子とに対応して設けられ、さらに前記熱伝導性樹脂層A及び前記熱伝導性樹脂層aが、高熱伝導性フィラーを含むことを特徴とする熱電変換素子。
【請求項2】
前記熱伝導性樹脂層A、前記熱伝導性樹脂層B、前記熱伝導性樹脂層a及び前記熱伝導性樹脂層bの幅が同じである請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記熱伝導性樹脂層A中及び前記熱伝導性樹脂層a中の高熱伝導性フィラーの含有量が、30〜60質量%である請求項1又は2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記熱伝導性樹脂層A及びaの熱伝導率が0.5(W/m・K)以上であり、かつ前記熱伝導性樹脂層B及びbの熱伝導率が0.5(W/m・K)未満である請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記熱伝導性樹脂層A、熱伝導性樹脂層B、熱伝導性樹脂層a及び熱伝導性樹脂層bの幅が、前記P型熱電素子と前記N型熱電素子の幅と同じである請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の膜厚が、0.1〜100μmである請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
前記熱伝導性樹脂層A、前記熱伝導性樹脂層B、前記熱伝導性樹脂層a及び前記熱伝導性樹脂層bの膜厚が、1〜200μmである請求項1に記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱と電気との相互エネルギー変換を行う熱電変換素子に関し、特に熱電素子に効率良く温度差が付与できる熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビル、工場、自動車、電気製品類等からの環境中に放出される熱エネルギーを熱電変換素子によって電気エネルギーに変換し、比較的低消費電力である各種センサー、電子製品等を駆動させる電源として利用する、いわゆるエネルギーハーべスティング(環境発電技術)に関する研究開発が広く行われている。熱電変換素子は、環境中に熱エネルギーが放出されている限り電力が得られるため、電池交換や充電設備等の諸電源を気にすることなく、低消費電力機器等が利用できるようになるなどの特徴を有している。現在用いられている熱電変換素子はフレキシブル性に乏しく、平坦でない形状の廃熱源や放熱源への設置が難しいことや、十分なエネルギーを得るための熱電変換素子の大面積化が難しいことなどから、フレキシブル性の高い薄型の熱電変換素子が望まれている。
【0003】
熱電変換素子では、例えば、P型熱電素子とN型熱電素子を電気的には直列に、熱的には並列に接続して、電力を取り出している。上記のような薄型の熱電変換素子を作製するにあたり、いかに効率良く、P型熱電素子とN型熱電素子の厚み方向に温度差を付与できるかどうかが、得られる電力の観点から重要となる。
【0004】
前記温度差を効率的に付与するために、特許文献1では、図6に示すような構造を有する熱電変換素子が開示されている。すなわち、P型熱電素子41とN型熱電素子42とを直列に接続し、その両端部に熱起電力取り出し電極43を配置し、熱電変換モジュール46を構成し、該熱電変換モジュール46の両面に2種類の熱伝導率の異なる材料で構成された柔軟性を有するフィルム状基板44、45を設けたものである。該フィルム状基板44、45は、前記熱電変換モジュール46との接合面側に熱伝導率の低い材料47、48を設け、該熱伝導率の低い材料として絶縁体であるポリイミドなどの樹脂を用い、また、前記フィルム状基板44、45は、前記熱電変換モジュール46の接合面と反対側に、熱伝導率の高い材料49、50が基板44、45の外面の一部分に位置するように設け、この熱伝導率の高い材料として銅などの金属を用いて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3981738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、熱伝導率の高い材料49、50を設ける部位においても、熱電変換モジュールに直接接しているのは熱伝導率の低い材料であるため、熱電変換素子の厚み方向で温度勾配が小さく、効率良く温度差が付与できていなかった。
【0007】
本発明は、上記問題を鑑み、熱電素子の厚み方向に、効率良く温度差が付与できる熱電変換素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、P型熱電素子、N型熱電素子及び電極とで構成された熱電変換モジュールの第1面に、直接接するように熱伝導性樹脂層Aと、熱伝導性樹脂層Aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層Bを交互に設け、該第1面とは反対側の第2面に、直接接するように熱伝導性樹脂層aと、熱伝導性樹脂層aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層bを交互に設けることにより、P型熱電素子とN型熱電素子の厚み方向に、温度差を効率良く付与できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供するものである。
(1)P型熱電素子とN型熱電素子と電極とで構成された熱電変換モジュールの第1面に、直接接するように、熱伝導性樹脂層Aと、該熱伝導性樹脂層Aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層Bとが交互に設けられ、該熱電変換モジュールの第1面とは反対側の第2面に、直接接するように、熱伝導性樹脂層aと、該熱伝導性樹脂層aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層bが交互に設けられていることを特徴とする熱電変換素子。
(2)前記第1面に設けられた熱伝導性樹脂層A及び熱伝導性樹脂層Bに対向する第2面に、それぞれ熱伝導性樹脂層b及び熱伝導性樹脂層aが設けられている上記(1)に記載の熱電変換素子。
(3)前記熱伝導性樹脂層Aと熱伝導性樹脂層Bとが接し、かつ前記熱伝導性樹脂層bと熱伝導性樹脂層aとが接している上記(1)又は(2)に記載の熱電変換素子。
(4)前記熱伝導性樹脂層Aと熱伝導性樹脂層Bが、前記第1面に、それぞれ前記P型熱電素子及び/又はN型熱電素子とに対応して設けられ、かつ第1面とは反対側の第2面に、前記熱伝導性樹脂層bと熱伝導性樹脂層aが、それぞれ前記P型熱電素子及び/又はN型熱電素子とに対応して設けられ、前記熱伝導性樹脂層A、前記熱伝導性樹脂層B、前記熱伝導性樹脂層a及び前記熱伝導性樹脂層bの幅が同じである、上記(1)に記載の熱電変換素子。
(5)前記熱伝導性樹脂層A及びaの熱伝導率が0.5(W/m・K)以上であり、かつ前記熱伝導性樹脂層B及びbの熱伝導率が0.5(W/m・K)未満である上記(1)に記載の熱電変換素子。
(6)前記熱伝導性樹脂層A、熱伝導性樹脂層B、熱伝導性樹脂層a及び熱伝導性樹脂層bの幅が、前記P型熱電素子と前記N型熱電素子の幅と同じである上記(1)に記載の熱電変換素子。
(7)前記P型熱電素子及び前記N型熱電素子の膜厚が、0.1〜100μmである上記(1)に記載の熱電変換素子。
(8)前記熱伝導性樹脂層A、前記熱伝導性樹脂層B、前記熱伝導性樹脂層a及び前記熱伝導性樹脂層bの膜厚が、1〜200μmである上記(1)に記載の熱電変換素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱電変換素子によれば、熱電変換モジュール内の熱電素子に効率良く温度差が付与できるため、発電効率の高い発電が可能となる。また、フレキシブル性が高く、平坦でない面を有する廃熱源や放熱源への設置が可能となり、設置場所を制限されることもなく使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の熱電変換素子の一例を示す断面図である。
図2】本発明の熱電変換素子を構成要素ごとに分解した斜視図を示し、(a)が第1面側に設けられた熱伝導性樹脂層A及び熱伝導性樹脂層Bの斜視図であり、(b)が熱電変換モジュールの斜視図であり、(c)が第2面側に設けられた熱伝導性樹脂層b及び熱伝導性樹脂層aの斜視図である。
図3】熱電変換素子の内部温度分布のシミュレーション計算に係る熱電変換素子モデルの断面構成の説明図であり、(a)が本発明の熱電変換素子モデルの断面構成、(b)が従来型の熱電変換素子モデルの断面構成である。
図4】本発明の断面構成における、付与される最大温度差ΔTと熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbとに係るシミュレーション結果である。
図5】本発明の断面構成における、温度遷移域Δxと熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbとに係るシミュレーション結果である。
図6】従来の熱電変換素子の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[熱電変換素子]
本発明の熱電変換素子は、P型熱電素子、N型熱電素子及び電極とで構成された熱電変換モジュールの第1面に、直接接するように、熱伝導性樹脂層Aと、該熱伝導性樹脂層Aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層Bが交互に設けられ、該第1面とは反対側の第2面に、直接接するように、熱伝導性樹脂層aと、該熱伝導性樹脂層aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層bが、交互に設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明の熱電変換素子の構成等を、図面を使用して説明する。
【0013】
図1に本発明の熱電変換素子の断面図の一例を示す。図1に示した熱電変換素子Eは、厚み方向の温度差を利用して熱を電気に変換する熱電変換素子であり、P型材料からなる薄膜のP型熱電素子1、N型材料からなる薄膜のN型熱電素子2及び電極3を設け熱電変換モジュール6を構成し、該熱電変換モジュール6の第1面7に直接接するように熱伝導性樹脂層A4と該熱伝導性樹脂層A4よりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層B5が交互に設けられ、さらに前記第1面7とは反対側の第2面8に、直接接するように熱伝導性樹脂層a4’と該熱伝導性樹脂層a4’よりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層b5’とが交互に設けられている。各熱伝導性樹脂層の配置としては、第1面7の熱伝導性樹脂層A4及び熱伝導性樹脂層B5に対向する第2面8にそれぞれ熱伝導性樹脂層b5’と熱伝導性樹脂層a4’が設けられたものであることが好ましい。
図2図1の熱電変換素子を構成要素ごとに分解した斜視図を示し、(a)が第1面側に設けられた熱伝導性樹脂層A及び熱伝導性樹脂層Bの斜視図であり、(b)が熱電変換モジュールの斜視図であり、(c)が第2面側に設けられた熱伝導性樹脂層a及び熱伝導性樹脂層bの斜視図である。
【0014】
上記のような構成をとることにより、熱電変換モジュール6の第1面7と、第2面8とに温度差を付与することで、第1面7側での熱伝導(熱流束)分布と第2面8側での熱伝導(熱流束)分布の違いから、熱電素子に温度差(温度勾配)を効率的に付与することができる。得られた温度勾配を利用して、熱電変換モジュール6で効率良く発電を行うことができる。
【0015】
本発明に使用される熱電変換モジュール6は、図2(b)に示されるように、P型熱電素子1とN型熱電素子2と電極3とから構成される。P型熱電素子1とN型熱電素子2は直列接続となるように薄膜上に形成され、それぞれの端部で、電極3を介して接合して電気的に接続されている。なお、熱電変換モジュール6におけるP型熱電素子1とN型熱電素子2は、図1に示すように、「電極3、P型熱電素子1、電極3、N型熱電素子2、電極3、・・・・・」のように配置してもよく、「電極3、P型熱電素子1、N型熱電素子2、電極3、P型熱電素子1、N型熱電素子2、電極3、・・・・・」のように配置してもよく、さらに「電極3、P型熱電素子1、N型熱電素子2、P型熱電素子1、N型熱電素子2、・・・電極3」のように配置してもよい。また、熱電変換モジュール6は、図1に示すように、熱伝導性樹脂層A4及び熱伝導性樹脂層B5上に直接形成されていてもよく、その他の層を介して形成されていてもよいが、熱電素子に温度差を効率的に付与できるという点から、熱電変換モジュール6は、熱伝導性樹脂層A4及び熱伝導性樹脂層B5上に直接形成されていることが好ましい。
前記熱電変換素子には、特に制限されないが、熱電変換モジュールにより電気エネルギーに変換される熱源の温度域において、ゼーベック係数の絶対値が大きく、熱伝導率が低く、電気伝導率が高い、いわゆる熱電性能指数の高い材料を使用することが好ましい。
【0016】
P型熱電素子及びN型熱電素子を構成する材料としては、熱電変換特性を有すものであれば特に制限はないが、ビスマステルライド、Bi2Te3等のビスマス−テルル系熱電半導体材料、GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料、アンチモン−テルル系熱電半導体材料、ZnSb、Zn3Sb2、Zn4Sb3等の亜鉛−アンチモン系熱電半導体材料、SiGe等のシリコン−ゲルマニウム系熱電半導体材料、Bi2Se3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料、β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料、酸化物系熱電半導体材料、FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料などが用いられる。これらの中でも、ビスマステルライド、Bi2Te3等のビスマス−テルル系熱電半導体材料、β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料、PEDOT:PSSなどの材料が好ましい。
P型熱電素子1及びN型熱電素子2の膜厚は、0.1〜100μmが好ましく、1〜50μmがさらに好ましい。
なお、P型熱電素子1とN型熱電素子2の膜厚は、特に限定されるものではなく、同じ膜厚でも、異なる膜厚でもよい。
【0017】
また、熱伝導性樹脂層Aと熱伝導性樹脂層Bは熱電変換モジュール6の第1面7上では、互いに接していてもいなくてもよいが、熱電変換モジュール6に効率良く温度差を付与し、機械的強度を維持する観点から、互いに接しているほうが好ましい。
また、熱伝導性樹脂層aと熱伝導性樹脂層bは熱電変換モジュール6の第2面8上では、互いに接していてもいなくてもよいが、熱電変換モジュール6に効率良く温度差を付与し、機械的強度を維持する観点から、互いに接しているほうが好ましい。
【0018】
前記熱伝導性樹脂層Aと熱伝導性樹脂層Bの幅は、それぞれ前記P型熱電素子1とN型熱電素子2の幅と同じであってもよく異なっていてもよい。また、前記熱伝導性樹脂層aと熱伝導性樹脂層bの幅は、それぞれ前記P型熱電素子1とN型熱電素子2の幅と同じであってもよく異なっていてもよい。熱電変換モジュール6に効率良く温度差を付与できるという点から、前記熱伝導性樹脂層A、熱伝導性樹脂層B、熱伝導性樹脂層a及び熱伝導性樹脂層bの幅は、同じであることが好ましく、前記P型熱電素子1とN型熱電素子2の幅と同じであることがさらに好ましい。なお、本発明において、「幅」とは、図3における長手方向(x軸)の長さのことを言う。さらに、前記熱伝導性樹脂層Aと熱伝導性樹脂層Bは、前記熱電変換モジュールの第1面7に、それぞれ前記P型熱電素子1とN型熱電素子2に対応して設けられ、かつ第2面8に、第1面7と第2面8とで熱伝導率が互いに異なるように熱伝導性樹脂層bと熱伝導性樹脂層aを設けることが好ましい。
【0019】
熱伝導性樹脂層Aは、単一の材料からなる樹脂層であっても、複数種類の材料からなる樹脂層であってもよいが、熱伝導性樹脂層Bの熱伝導率より高い熱伝導率を得る観点から、樹脂材料中に、高熱伝導性フィラーを分散させたものが好ましく用いられる。
前記熱伝導性樹脂層Aを構成する樹脂材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。前記熱伝導性樹脂層Aを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリm−フェニレンイソフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミド等のアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等のポリエステル系樹脂;ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物等のシクロオレフィン系ポリマー;塩化ビニル;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリフェニレンエーテル;ポリエーテルケトン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリカーボネート;ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等のポリサルフォン系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;及びこれらの高分子の二種以上の組合せ;等が挙げられる。
高熱伝導性フィラーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、窒化ホウ素等が挙げられる。この中で、アルミナ、窒化ホウ素が好ましく、経済性の観点から、アルミナが特に好ましい。また、熱電変換素子の性能に悪影響を与えない範囲で、金属や半導体材料などの導電性を有する粒子を分散させてもよい。熱伝導性樹脂層A中の高熱伝導性フィラーの含有量は、所望の熱伝導率に応じて適宜調整され、通常30〜60質量%であることが好ましい。
【0020】
熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率は、熱伝導性樹脂層Bに比べ高い樹脂層であればよく、熱伝導率が0.5(W/m・K)以上が好ましく、2.0(W/m・K)以上がより好ましく、10.0(W/m・K)以上が特に好ましい。熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率の上限は、特に制限はないが、通常1000(W/m・K)以下が好ましく、500(W/m・K)以下がより好ましい。
【0021】
熱伝導性樹脂層Aの電気伝導率は、P型熱電素子1とN型熱電素子2と電極とで構成された熱電変換モジュールとの間で、絶縁性が保持されていれば特に制限されない。
熱伝導性樹脂層Aの膜厚は、1〜200μmが好ましく、3〜150μmがさらに好ましい。この範囲であれば、熱電変換モジュールに効率良く温度差を付与でき、また熱電変換モジュールのフレキシブル性、機械的強度が維持できるため好ましい。
【0022】
熱伝導性樹脂層Bは、単一の材料からなる樹脂層であっても、複数種類の材料からなる樹脂層であってもよいが、前記熱伝導性樹脂層Aより低い熱伝導率を有する樹脂層でよいため、単一の樹脂材料を用いることができる。
前記熱伝導性樹脂層Bを構成する樹脂材料としては、上記熱伝導性樹脂層Aよりも熱伝導率が低いものであれば特に限定されず、上述の熱伝導性樹脂層Aを構成する樹脂材料として例示した樹脂の中から、適宜決定する。
熱伝導性樹脂層Bの熱伝導率は、0.5(W/m・K)未満が好ましく、0.3(W/m・K)以下がより好ましく、0.1(W/m・K)以下がさらに好ましい。
【0023】
熱伝導性樹脂層Bの電気伝導率は、使用するP型熱電素子1とN型熱電素子2と電極とで構成された熱電変換モジュールの間で、絶縁性が保持されていれば特に制限されない。
熱伝導性樹脂層Bの膜厚は、1〜200μmが好ましく、3〜150μmがさらに好ましい。この範囲であれば、熱電変換モジュールに効率良く温度差を付与でき、また熱電変換モジュールのフレキシブル性、機械的強度が維持できるため好ましい。
【0024】
熱伝導性樹脂層aの樹脂材料、高熱伝導性フィラーとしては、特に限定されないが、前記熱伝導性樹脂層Aと同一の樹脂材料、高熱伝導性フィラーから選ぶことができる。また、熱伝導率、電気伝導率、及び膜厚等も同一の範囲から選ぶことができる。製造の容易さ、コストの観点から、熱伝導性樹脂層Aと同一物質を使用することが好ましい。
【0025】
熱伝導性樹脂層bの樹脂材料としては、特に限定されないが、前記熱伝導性樹脂層Bと同一の樹脂材料から選ぶことができる。また、熱伝導率、電気伝導率、及び膜厚等も同一の範囲から選ぶことができる。製造の容易さ、コストの観点から、熱伝導性樹脂層Bと同一物質を使用することが好ましい。
【0026】
上記熱伝導性樹脂層A、熱伝導性樹脂層B、熱伝導性樹脂層a及び熱伝導性樹脂層bを形成する方法は、特に限定されないが、それぞれの層を構成する樹脂材料をステンシル印刷、ディスペンサー、スクリーン印刷法、ロールコート法等により、形成する方法が挙げられる。
上記熱伝導性樹脂層A及び熱伝導性樹脂層B、又は熱伝導性樹脂層a及び熱伝導性樹脂層bは、熱電変換モジュールの第1面及び第2面に形成してもよいし、予め上記熱伝導性樹脂層A及び熱伝導性樹脂層B上、又は熱伝導性樹脂層a及び熱伝導性樹脂層b上に熱電変換モジュールを形成してもよい。
【0027】
[熱電変換素子内部熱解析]
次に、本発明者らは、熱電変換モジュール内の熱電素子の内部温度分布を調べるために、図3に示す構成の熱電変換素子のモデルに対して、有限要素法プログラム(アンシス・ジャパン株式会社製、品名:ANSYS−CFD)を用い、シミュレーション計算(定常熱伝導解析)を行った。
図4は、本発明の断面構成における、付与される最大温度差ΔTと熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbとに係るシミュレーション結果である。同様に、図5は、本発明の断面構成における、温度遷移域Δxと熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbとに係るシミュレーション結果である。
【0028】
図3は、熱電変換素子の内部温度分布のシミュレーション計算に係る熱電変換素子モデルの断面構成の説明図であり、(a)が本発明の熱電変換素子モデルの断面構成、(b)が従来型の熱電変換素子モデルの断面構成である。なお、図3(a)及び(b)の熱電変換素子モデルにおいては、熱電変換素子の側面に、断熱部19、29が配置され、電極は簡略化のため省略した。
図3(a)に示した熱電変換素子モデルは、P型熱電素子11とN型熱電素子(図示せず)と電極(図示せず)とで構成される熱電変換モジュール13の第1面17に直接接するように熱伝導性樹脂層A14と該熱伝導性樹脂層Aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層B15が交互に設けられ、さらに前記第1面17とは反対側の第2面18に、直接接するように熱伝導性樹脂層a14’と該熱伝導性樹脂層aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層b15’とが交互に設けられている。
一方、図3(b)に示した従来型の熱電変換素子モデルは、P型熱電素子21で構成される熱電変換モジュール23の両面に2種類の熱伝導率の異なる材料で構成された柔軟性を有するフィルム状基板26、27を設けたものである。該フィルム状基板26、27は、前記熱電変換モジュール23との接合面側に熱伝導率の低い材料として、ポリイミド25が設けられており、また、前記フィルム状基板26、27は、前記熱電変換モジュール23の接合面と反対側に、熱伝導率の高い材料として、金属(銅)24が基板26、27の外面の一部分に位置するように設けられている。
【0029】
図3の(a)の本発明の熱電変換素子モデルの断面構成において、熱電変換素子の下面に熱を加えた際の、熱電変換モジュールの内部温度分布について、両端を断熱(断熱部19)した条件とし、以下の条件下で、シミュレーション計算を行った。
上面温度:300K
下面温度:330K
熱伝導性樹脂層A14、熱伝導性樹脂層a14’の膜厚:100μm
熱伝導性樹脂層A14、熱伝導性樹脂層a14’の熱伝導率kb:kb=0.5〜400(W/m・K)
熱伝導性樹脂層A14、熱伝導性樹脂層a14’の幅:1000μm
熱伝導性樹脂層B15、熱伝導性樹脂層b15’の膜厚:100μm
熱伝導性樹脂層B15、熱伝導性樹脂層b15’の熱伝導率:0.2(W/m・K)
熱伝導性樹脂層B15、熱伝導性樹脂層b15’の幅:1000μm
P型熱電素子11の膜厚:2μm
P型熱電素子11の熱伝導率(クロメルを想定):10(W/m・K)
P型熱電素子11の長手方向(x軸)の長さ:2000μm
具体的には、熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbを変数として、熱電変換素子の長手方向(x軸)における温度差を計算し、最大温度差ΔTを求めた。なお、熱電変換素子の長手方向(x軸)の範囲は、図中、P型熱電素子11の左端をx=0とし、温度変化が顕著に表れる、x=500〜1500μmである。前述したように、図4に、本発明の断面構成における、付与される最大温度差ΔTと熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbとに係るシミュレーション結果を示す。
さらに、得られた最大温度差ΔTの10%を示す長手方向(x軸)の位置から90%を示す長手方向(x軸)の位置までの領域長を温度遷移域Δxとして、下記式(1)により算出した。
【0030】
【数1】
【0031】
前述したように、図5に、本発明の断面構成における、温度遷移域Δxと熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbとに係るシミュレーション結果を示す。
【0032】
同様に、図3の(b)の従来型の熱電変換素子モデルの構成において、熱電変換素子の下面に熱を加えた際の、熱電変換モジュールの内部温度分布について、両端を断熱(断熱部29)した条件とし、以下の条件下でシミュレーションを行った。シミュレーションの結果、図3の(b)の従来型の熱電変換素子モデルの構成においては、熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbが400(W/m・K)の時に、最大温度差ΔTが20℃であった。
さらに、同様に、熱伝導性樹脂層Aの熱伝導率kbに対する温度遷移域Δxを算出した。温度遷移域Δxが177μmというシミュレーション結果が得られた。
上面温度:300K
下面温度:330K
熱伝導性樹脂層A24の膜厚:80μm
熱伝導性樹脂層A24の熱伝導率kb:kb=400(W/m・K)
熱伝導性樹脂層B25の膜厚:100μm
(ただし、金属(銅)と熱電素子に挟まれた熱伝導性樹脂層B25の膜厚:20μm)
熱伝導性樹脂層B25の熱伝導率(ポリイミド):0.2(W/m・K)
P型熱電素子21の膜厚:2μm
P型熱電素子21の長手方向(x軸)の長さ:2000μm
P型熱電素子21の熱伝導率(クロメルを想定):10(W/m・K)
【0033】
本発明の熱電変換素子モデルでは、図4からわかるように、熱伝導性樹脂層A14の熱伝導率kbが増加するに伴い、最大温度差ΔTも増加し、熱伝導性樹脂層A14の熱伝導率kbが10(W/m・K)、熱伝導性樹脂層B15の伝導率を0.2(W/m・K)とした時、上下面温度差30Kで、内面温度差が28Kというシミュレーション結果が得られた。一方、図3の(b)の従来型の熱電変換素子モデル構成では、熱伝導性樹脂層A14の熱伝導率が400(W/m・K)の時に、最大温度差ΔTが20Kというシミュレーション結果が得られた。このことから、本発明の熱電変換素子モデルの構成では、従来型の構成に比べ、熱伝導性樹脂層A14の熱伝導率kbが1(W/m・K)を超えると、最大温度差ΔTが上回り、熱伝導性樹脂層A14の熱伝導率kbが5(W/m・K)以上であれば、従来型の構成よりも最大温度差ΔTが十分に大きく上回るというシミュレーション結果が得られた。
【0034】
また、図5からわかるように、本発明の熱電変換素子モデルにおいては、熱伝導性樹脂層A14の熱伝導率kbが増加するに伴い、温度遷移域Δxが減少するというシミュレーション結果が得られた。また、温度遷移域Δxに関しては、前述したように、従来型の熱電変換素子モデルでは、熱伝導率kbが400(W/m・K)の時に、温度遷移域Δxが177μmというシミュレーション結果が得られた。本発明の熱電変換素子モデルでは、熱伝導性樹脂層A14の熱伝導率kbが、2(W/m・K)を超えると、従来型より温度遷移域Δxが短くなり、kbが10(W/m・K)では、従来型より、35%も短くなるという結果が得られた。このことから、本発明の熱電変換素子モデルは、従来型のモデルよりも温度遷移域Δxが短く、熱電変換素子の小型化に適した構成であることが推測される。
【0035】
以上のように本発明の熱電変換素子は、P型熱電素子とN型熱電素子と電極とで構成された熱電変換モジュールの一方の面に、熱伝導性樹脂層Aと、熱伝導性樹脂層Aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層Bを直接接するように交互に設け、かつ熱電変換モジュールの他方の面に、熱伝導性樹脂層aと、熱伝導性樹脂層aよりも熱伝導率が低い熱伝導性樹脂層bを直接接するように交互に設け、さらに対向する熱伝導性樹脂層同士の位置関係、及び熱伝導性樹脂層と、P型熱電素子、N型熱電素子及び電極との位置関係等を本発明の範囲にすることで、P型熱電素子とN型熱電素子の厚み方向に、温度差を効率良く付与できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の熱電変換素子は、効率良く温度差が付与できるため、発電効率の高い発電が可能となり、従来型に比べ、熱電変換モジュールの設置数を減じることができ、ダウンサイジング及びコストダウンが可能となる。また、フレキシブル型の熱電変換モジュールとして、平坦でない面を有する廃熱源や放熱源へ設置する等、設置場所を制限されることもなく使用できる。
【符号の説明】
【0037】
E:熱電変換素子
1:P型熱電素子
2:N型熱電素子
3:電極(銅)
4:熱伝導性樹脂層A
4’:熱伝導性樹脂層a
5:熱伝導性樹脂層B
5’:熱伝導性樹脂層b
6:熱電変換モジュール
7:6の第1面
8:6の第2面
11:P型熱電素子
13:熱電変換モジュール
14:熱伝導性樹脂層A
14’:熱伝導性樹脂層a
15:熱伝導性樹脂層B
15’:熱伝導性樹脂層b
17:13の第1面
18:13の第2面
19:断熱部
21:P型熱電素子
23:熱電変換モジュール
24:金属(銅)
25:ポリイミド
26:フィルム状基板
27:フィルム状基板
29:断熱部
41:P型熱電素子
42:N型熱電素子
43:電極
44:フィルム状基板
45:フィルム状基板
46:熱電変換モジュール
47:絶縁体(ポリイミド)
48:絶縁体(ポリイミド)
49:金属
50:金属
図1
図2
図3
図4
図5
図6