【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
[009]特定の歯の形状と特定の溝の形状を組み合せたエンドミルが、ある条件下でチタニウムを機械加工すると、驚くべき耐用寿命を達成できることが見出された。
【0010】
[0010]もっと正確に言えば、歯の形状は、鈍いすなわち切れ味の悪い切れ刃(切れ刃は、切削副すくい面と逃げ面とが交わるところにある)と、切削副すくい面から延在する、窪んだ副すくい面(以下、「凹型副すくい面」)とを含む。
【0011】
[0011]鈍い切れ刃は、それによって機械加工するために要する電力が比較的増加することにより、不利益であると考えられていたが、実験結果では逆の結果が示された。
【0012】
[0012]もっと正確に言えば、鈍い切れ刃は、切削副すくい面と逃げ面とが交わるところに形成された実内部切削角を有していると定義され、実内部切削角の値は、凹型副すくい面の仮想上の延長線と逃げ面の仮想上の延長線とが交わるところに形成された仮想上の内部切削角よりも大きい。
【0013】
[0013]以下、切れ刃に言及するとき、用語「鈍い」は、上述の定義と置き換えることができることを理解されたい。
【0014】
[0014]切削副すくい面に隣接して凹型副すくい面を設けること(すなわち、隣接する凹型副すくい面は、切れ刃を通過する仮想上の放射状線に対して、隣接する切削副すくい面よりも歯の方に窪んでいるか、または、換言すると、切削副すくい面は、切れ刃を通過する仮想上の放射状線に対して、凹型副すくい面よりも隆起している)は、理論上は、チタニウムの機械加工時のエンドミルへの熱伝達を低減させると考えられている。
【0015】
[0015]同様に、切削副すくい面の長さを最小限にすることも、エンドミルのすくい面と切り屑の接触を減少させることによって、熱伝達を低減させると考えられている。
【0016】
[0016]ここで上述の溝の形状を参照すると、溝は、凹形状の曲げ部分を含み、それに、特定のサイズの凸形状の追い出し部分が続く。
【0017】
[0017]曲げ部分は、フライス作業中にチタニウム切り屑を曲げるように構成される。曲げ部分を含む溝が、CN第102303158号の
図4に示されている。
【0018】
[0018]一般的に言えば、凸形状の溝部分は、歯に構造強度をもたらし(すなわち、その厚さを厚くする)、かつ慣性モーメントを大きくし得る。しかしながら、そのような凸部分が存在することによって、溝の横断面形状は小さくなり、これは、溝からの切り屑排出に不利益であると考えられている。そのような凸部分がない溝を、CN第102303158号の
図3に示す。
【0019】
[0019]ここで、特定のサイズであるにもかかわらず、凸部分を設けることにより、チタニウム加工物の機械加工中に有益な切り屑排出効果を提供し得る(その結果、本出願の主題の凸形状の部分は、「追い出し部分」と称する)ことが見出された。もっと正確に言えば、そのような追い出し部分は、切り屑排出用の空間が限定されているチタニウムの溝削り作業中に、より良好な機械加工性能をもたらし、比較的高速のチタニウム機械加工において特に良好な結果が示されることが見出された。
【0020】
[0020]チタニウムを機械加工するときの別の検討事項は、典型的には、エンドミルの非対称的な特徴によって、びびりを低減させることである。非対称性の利益があることは認識されているにも関わらず、対称的な割り出し角度配置を有するエンドミルは、他と比べて耐用寿命が優っていることが見出された。
【0021】
[0021]本明細書および特許請求の範囲のために、対称的な割り出し角配置のエンドミルは、切削端面において、全ての溝が、対向する溝の割り出し角の値と同一の割り出し角の値を有するものと定義される。反対に、非対称的な割り出し角配置を備えるエンドミルは、この定義に入らないものとし得る。
【0022】
[0022]本出願の主題の第1の態様によれば、チタニウムを機械加工するためのエンドミルが提供され、このエンドミルは、らせん形状の溝と交互に歯を有し、切削部分直径D
Eを有する切削部分を含み;各歯は、切削副すくい面と逃げ面とが交わるところに形成された鈍い切れ刃、および切削副すくい面よりも歯に窪んでいる凹型副すくい面を含み;各溝は、エンドミルの回転軸に垂直な平面において、凸形状の追い出し部分に接続された凹形状の曲げ部分を含み、凸形状の追い出し部分は、条件0.010D
E<E<0.031D
Eを満たす追い出し高さEを有する。
【0023】
[0023]本出願の主題の別の態様によれば、チタニウムを機械加工するためのエンドミルが提供され、このエンドミルは、縦方向に延在する回転軸A
Rを有し、かつ、シャンク部分、およびシャンク部分から切削端面まで延在し、かつらせん形状の溝と交互になった少なくとも4つの切歯と一体的に形成されており、および切削部分直径D
Eを有する切削部分を含み;各歯は、すくい面、逃げ面、すくい面と逃げ面とが交わるところに形成された切れ刃、および切れ刃から離間し、かつ逃げ面と、この歯に後続する溝の隣接する面とが交わるところに形成された逃げ刃(relief edge)を含み;各すくい面が、凹型副すくい面、回転軸から凹型副すくい面よりも遠くに位置決めされ、かつ切れ刃を通過する仮想上の放射状線に対して、凹型副すくい面の上側に隆起した切削副すくい面、および凹型副すくい面と切削副すくい面とが交わる点に形成されたすくい不連続点を含み;各歯は、切削副すくい面と逃げ面とが交わるところに形成された実内部切削角を含み、実内部切削角の値は、凹型副すくい面の仮想上の延長線と逃げ面の仮想上の延長線とが交わるところに形成された仮想上の内部切削角よりも大きく;回転軸A
Rに垂直な平面において、各溝は、凸形状の追い出し部分、および追い出し部分と凹型副すくい面とを接続する凹形状の曲げ部分を含み;追い出し部分は、追い出し部分の頂点と、隣接する曲げ部分の最下点から隣接する逃げ刃まで延びる仮想上の直線との間で測定可能である追い出し高さEを有し、追い出し高さEは、条件0.010D
E<E<0.031D
Eを満たす大きさを有し;および切削端面において、溝の割り出し角は、対称的な割り出し角配置にある。
【0024】
[0024]本出願の主題のさらに別の態様によれば、チタニウムを機械加工するためのエンドミルが提供され、このエンドミルは、縦方向に延在する回転軸A
Rを有し、かつ、シャンク部分、およびシャンク部分から切削端面まで延在し、かつらせん形状の溝と交互になった少なくとも4つの切歯と一体的に形成されており、および切削部分直径D
Eを有する切削部分を含み;各歯は、すくい面、逃げ面、すくい面と逃げ面とが交わるところに形成された切れ刃、および切れ刃から離間し、かつ逃げ面と、この歯に後続する溝の隣接する面とが交わるところに形成された逃げ刃を含み;各すくい面は、凹型副すくい面、回転軸から凹型副すくい面よりも遠くに位置決めされかつ切れ刃を通過する仮想上の放射状線に対して凹型副すくい面の上側に隆起した切削副すくい面、および凹型副すくい面と切削副すくい面とが交わる点に形成されたすくい不連続点を含み;各歯は、切削副すくい面と逃げ面とが交わるところに形成された実内部切削角を含み、実内部切削角の値は、凹型副すくい面の仮想上の延長線と逃げ面の仮想上の延長線とが交わるところに形成された仮想上の内部切削角よりも大きく;各歯は、そのすくい不連続点からその切れ刃まで測定された切削副すくい面長寸法L
Cを有し、条件0.01R
T<L
C<0.05R
T(式中、R
Tは、回転軸から切れ刃まで直線的に測定された歯の半径寸法である)を満たし;各歯の半径方向すくい角は、6°〜−6°の範囲であり;各溝のねじれ角Hは、条件30°<H<50°を満たし;回転軸A
Rに垂直な平面において、各溝は、凸形状の追い出し部分、および追い出し部分と凹型副すくい面とを接続する凹形状の曲げ部分を含み;追い出し部分は、追い出し部分の頂点と、隣接する曲げ部分の最下点から隣接する逃げ刃まで延びる仮想上の直線との間で測定可能である追い出し高さEを有し、追い出し高さEは、条件0.010D
E<E<0.031D
Eを満たす大きさを有し;および切削端面において、溝の割り出し角は、対称的な割り出し角配置にある。
【0025】
[0025]上記は概要であること、および上述の態様のいずれかは、さらに、以下説明する特徴のいずれかを含み得ることを理解されたい。具体的には、以下の特徴は、単独または組み合わせのいずれかで、上述の態様のいずれかに適用可能である。
A. 追い出し高さEが、条件0.014D
E<E<0.029D
Eを満たす大きさを有し得る。詳しく述べると、範囲0.010D
E<E<0.031D
Eが、チタニウムの機械加工に実現可能であると考えられるが、範囲0.014D
E<E<0.029D
Eが、試験中に良好な結果を達成できる。理論上は、そのような適度な追い出し高さ(すなわち、0.010D
E<E<0.031D
E)は、好適な歯の強度(好適な歯幅を可能にすることによって)および慣性モーメントを容易にできる。
B. 回転軸A
Rに垂直な、エンドミルの有効切削部分の各平面には、追い出し部分および曲げ部分が存在し得る。各平面では、追い出し部分は、上述の条件(すなわち、0.010D
E<E<0.031D
E、または0.014D
E<E<0.029D
E)を満たす追い出し高さEを有し得る。
C. 少なくとも1つのねじれ角は、別のねじれ角とは異なるとし得る。
D. 溝の1つのねじれ角および追い出し部分半径は、溝の別の1つのそれぞれねじれ角および追い出し部分半径よりも小さいとし得る。
E. 溝の最小ねじれ角よりも溝の最大ねじれ角に近いねじれ角は、比較的大きなねじれ角であるとみなされ、および溝の最大ねじれ角よりも最小ねじれ角に近いねじれ角は、比較的小さなねじれ角であるとみなされる。比較的大きなねじれ角の各溝の追い出し部分半径は、比較的小さなねじれ角の各溝の追い出し部分よりも大きいとし得る。
F. 溝の1つのねじれ角および曲げ部分半径は、溝の別の1つのそれぞれねじれ角および曲げ部分半径よりも小さいとし得る。
G. 溝の最小ねじれ角よりも溝の最大ねじれ角に近いねじれ角は、比較的大きなねじれ角とみなすことができ、および溝の最大ねじれ角よりも最小ねじれ角に近いねじれ角は、比較的小さなねじれ角とみなすことができる。比較的大きなねじれ角の各溝の曲げ部分半径は、比較的小さなねじれ角の各溝の曲げ部分よりも大きいとし得る。
H. 溝の1つの曲げ部分半径は、その追い出し部分半径よりも小さいとし得る。各溝の曲げ部分半径は、溝の追い出し部分半径よりも小さいとし得る。
I. 対称的な割り出し角配置を備えるエンドミルの厚くなる部分の潜在的に有益な構成は、以下の通りとし得る。切削端面において、いくつかの溝のみが、追い出し部分とその逃げ刃とを接続する凹形状の厚くなる部分を含み得る。そのような厚くなる部分は、歯幅を広くし、それゆえ、チタニウムの機械加工に必要な構造強度を高め得る。端面においては、厚くなる部分は、シャンク部分へ近づくにつれてサイズが小さくなり得る。端面から離間した位置で開始し、かつシャンク部分へ近づくにつれてサイズが大きくなる厚くなる部分があるとし得る。エンドミルには、切削部分全体に沿って延在する厚くなる部分がないとし得る。
J. 切削部分において、コア径D
Cは、条件0.47D
E<D
C<0.60D
Eを満たす。コア径D
Cは、0.53D
E±0.01D
Eとし得る。前者の条件(0.47D
E<D
C<0.60D
E)は、切り屑を排出するための溝のサイズと、チタニウムの機械加工に許容可能な結果をもたらし得る許容可能な慣性モーメントとの実現可能なバランスをもたらすと考えられている。理論上は、0.53D
Eに近い値が最適であると考えられており、および実際に、そのような値は、試験の最中、良好な結果を達成した。
K. 実内部切削角の値は、仮想上の内部切削角とは4°〜15°だけ異なるとし得る。実内部切削角は、仮想上の内部切削角から8°〜13°だけ異なり得る。前者の条件(4°〜15°)は、チタニウムの機械加工に実現可能であると考えられている。理論上は、差を小さくすること(特に8°〜13°に)が最適であると考えられており、および実際に、後者の範囲は、試験の最中、良好な結果を達成した。
L. 各歯の半径方向すくい角は、6°〜−6°の範囲内とし得る。半径方向すくい角は、2°±1°および−2°±1°とし得る。前者の範囲(6°〜−6°)は、チタニウムの機械加工に実現可能であると考えられている。理論上は、より小さな角度(すなわち、6°および−6°よりも小さい半径方向すくい角を使用する)が、チタニウムの機械加工性能を向上させると考えられている。実際に、約2°〜約−2°の値は、試験の最中、良好な結果を達成した。
M. エンドミルの歯は、各第2の半径方向すくい角が同じ値を有し、その値は交互の歯の半径方向すくい角とは異なる、配置にあるとし得る。各第2の歯は、同一の幾何学的形状を有し得る。
N. 各歯は、すくい不連続点から同じ歯の切れ刃まで測定される切削副すくい面長寸法L
Cを有し、条件0.01R
T<L
C<0.05R
T(式中、R
Tは、回転軸から切れ刃まで直線的に測定される歯の半径寸法である)を満たし得る。切削副すくい面長寸法L
Cは、0.026R
T±0.005R
Tとし得る。前者の範囲(0.01R
T<L
D<0.05R
T)が、チタニウムの機械加工に実現可能であると考えられている。理論上は、0.026R
Tに近い切削副すくい面長寸法L
Cの値が最適であると考えられており、および実際に、そのような値は、試験の最中、良好な結果を達成した。
O. 切削端面において、溝の割り出し角は、対称的な割り出し角配置にあるとし得る。溝の割り出し角は、切削部分の全長に沿って対称的な割り出し角配置にあるとし得る。
P. 切削端面において、直径方向に対向する割り出し角は全て、同じ大きさである。切削部分の等割り出し角平面P
Eにある割り出し角は、等しいとし得る。等割り出し角平面P
Eは、切削部分の有効長の中央にあるとし得る。
Q. 切削端面において、全ての歯幅は同じ大きさを有し得る。そのような構成によって生産を促進する。
R. 切削端面において、各歯は、条件0.13D
E<W
T<0.22D
Eを満たす歯幅W
Tを有し得る。切削端面において、歯幅W
Tは、0.165D
E±0.01D
Eとし得る。前者の範囲(0.13D
E<W
T<0.22D
E)は、チタニウムの機械加工に実現可能であると考えられている。理論上は、0.165D
Eに近い歯幅W
Tの値が最適であると考えられており、および実際に、そのような値は、試験の最中、良好な結果を達成した。
S. それぞれ関連の切削副すくい面および凹型副すくい面は、加工物から切削された切り屑が切削副すくい面には接触するが、切れ刃から離れた側にあるすくい不連続点に直接隣接した凹型副すくい面には接触しないように、互いに対して配置され得る。
T. 各歯には鋸歯がなくてもよい。
U. エンドミルの工具の寿命は、チタニウム、具体的にはTI6AL4Vを、速度V
C80.0メートル/分で、送り量F
Z0.08ミリメートル/歯で、切り屑厚さa
e2.00ミリメートルで、深さa
P22.0ミリメートルで機械加工する間、少なくとも60分とし得る。そのような機械加工条件下では、工具の寿命は、少なくとも80分または少なくとも90分とし得る。
V. 各溝は、条件30°<H<50°を満たすねじれ角Hを有し得る。ねじれ角Hは、35°±1°または37°±1°とし得る。前者の範囲は、チタニウムの機械加工に実現可能であると考えられている。理論上は、35°および37°に近い値が最適であると考えられており、および実際に、そのような値は、試験の最中、良好な結果を達成した。ねじれ角は、それぞれ、溝の長さに沿って一定にもまたは可変にもできる(すなわち、1つ以上の点で値が変化するか、または切削部分の長さに沿った各点で値が変化する)。
W. 各凹型副すくい面は、凹形状とし得る。各凹型副すくい面は、同一の形状を有し得る。
X. 各溝は、そのシングルパス生産(single-pass production)を可能にする形状とし得る(マルチパス生産(multi-pass production)よりも単純な製造を可能にする)。
【0026】
図面の簡単な説明
[0026]本出願の主題をより理解し、かつ本出願の主題の実際の実施方法を示すために、以下、添付図面を参照する。