【実施例】
【0082】
実施例1:プトレシン排出タンパク質の探索及びプトレシンに対する耐性を付与するライブラリークローンの選択
コリネバクテリウムグルタミカムにはプトレシン生合成経路がないが、外部からオルニチンデカルボキシラーゼを導入してプトレシン合成能を有するようになると、プトレシンが生成されて細胞外にプトレシンが排出される。これは、コリネバクテリウム属微生物の数多くの膜タンパク質の中にプトレシン排出通路として作用するトランスポータータンパク質が存在することを示すものである。
【0083】
コリネバクテリウム属微生物においてプトレシン排出タンパク質を分離、同定するために、野生型コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032の染色体ライブラリーを作製した。具体的には、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032の染色体を制限酵素Sau3AIで処理して不完全切断を行い、3〜5kbのサイズの遺伝子断片を分離してBamHIで処理したpECCG122ベクター(大腸菌とコリネバクテリウムのシャトルベクター,特許文献8)にクローニングした。
【0084】
こうして得られたコリネバクテリウム染色体ライブラリーを参照例1によるプトレシン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミカムKCCM11138Pに形質転換し、その後0.35Mのプトレシン含有最小培地(蒸留水1リットル中に、ブドウ糖10g、MgSO
4・7H
2O 0.4g、NH
4Cl 4g、KH
2PO
4 1g、K
2HPO
41g、尿素2g、FeSO
4・7H
2O 10mg、MnSO
4・5H
2O 1mg、ニコチンアミド5mg、チアミン塩酸塩5mg、ビオチン0.1mg、1mMアルギニン、カナマイシン25mg、0.35Mプトレシン含有、pH7.0)で成長する菌株を選択した。コリネバクテリウム染色体ライブラリーが導入された約5.5×10
5個の形質転換コロニーから413個のコロニーを選択し、次いでプトレシン耐性度2次確認により得られた各ライブラリークローンをプトレシン生産菌株に再導入し、その後プトレシン耐性度3次確認により最終的に1個のクローンB19を選択した。前記クローンを対象に塩基配列分析を行った結果、NCgl2522が含まれることが確認された(
図1)。
【0085】
プトレシン排出タンパク質としてコリネバクテリウムグルタミカムATCC13032から分離、同定されたNCgl2522は配列番号21で表されるアミノ酸配列を有し、これは配列番号20で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0086】
実施例2:NCgl2522欠損菌株の作製及びそのプトレシン生産能の確認
<2−1>ATCC13032ベースのプトレシン生産菌株からNCgl2522欠損菌株の作製
コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032由来のNCgl2522がプトレシン排出に関与しているか否かを確認するために、NCgl2522をコードする遺伝子を欠損させるベクターを作製した。
【0087】
具体的には、前記NCgl2522をコードする遺伝子の配列番号20で表される塩基配列に基づいて、NCgl2522のN末端部位の相同組換え断片を得るための配列番号5及び6のプライマー対と、NCgl2522のC末端部位の相同組換え断片を得るための配列番号7及び8のプライマー対を下記表2のように作製した。
【0088】
【表2】
【0089】
前記コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、2対の各プライマーを用いてPCRを行うことにより、NCgl2522遺伝子のN末端部位とC末端部位のPCR断片をそれぞれ増幅し、その後それを電気泳動することにより目的とする断片を得た。ここで、PCR反応は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長の過程を30回繰り返した。こうして得られたN末端部位の断片を制限酵素BamHI及びSalIで処理し、C末端部位の断片を制限酵素SalI及びXbaIで処理し、処理した断片を制限酵素であるBamHIとXbaIで処理したpDZベクターにクローニングすることにより、プラスミドpDZ−1’NCgl2522(K/O)を作製した。
【0090】
前記プラスミドpDZ−1’NCgl2522(K/O)を電気穿孔法(electroporation)により参照例1及び2によるコリネバクテリウムグルタミカムKCCM11138P及びKCCM11240Pにそれぞれ導入して形質転換体を得て、前記形質転換体をカナマイシン(25μg/ml)とX−gal(5-bromo-4-chloro-3-indolin--D-galactoside)とを含むBHIS平板培地(Braine heart infusion 37g/l,ソルビトール91g/l,寒天2%)に塗抹して培養することによりコロニーを形成させた。こうして形成されたコロニーから青色のコロニーを選択することにより、前記プラスミドpDZ−1’NCgl2522(K/O)が導入された菌株を選択した。
【0091】
前記選択した菌株をCM培地(グルコース 10g/l,ポリペプトン 10g/l,酵母抽出液 5g/l,牛肉抽出物 5g/l,NaCl 2.5g/l,ウレア 2g/l,pH6.8)で振盪培養(30℃,8時間)し、それぞれ10
−4から10
−10まで順次希釈し、その後X−gal含有固体培地に塗抹して培養することによりコロニーを形成させた。形成されたコロニーから比較的低い割合で出現する白色のコロニーを選択することにより、2次交差(crossover)によりNCgl2522をコードする遺伝子が欠失した菌株を最終選択した。最終選択した菌株を対象に配列番号5及び8のプライマー対を用いてPCRを行うことにより、NCgl2522をコードする遺伝子が欠失したことを確認し、前記コリネバクテリウムグルタミカム変異株をそれぞれKCCM11138P△NCgl2522及びKCCM11240P△NCgl2522と命名した。
【0092】
<2−2>ATCC13869ベースのプトレシン生産菌株からNCgl2522欠損菌株の作製
コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032ベースのプトレシン生産菌株であるKCCM11138P及びKCCM11240Pと同じ遺伝子型(genotype)を有するコリネバクテリウムグルタミカムATCC13869ベースのプトレシン生産菌株DAB12−a(ArgF欠損,NCgl1221欠損,大腸菌speC導入,argオペロンプロモーター置換,参照例1参照)及びDAB12−b(ArgF欠損,NCgl1221欠損,大腸菌speC導入,argオペロンプロモーター置換,NCgl1469欠損,参照例2参照)を対象にNCgl2522欠損菌株を作製した。
【0093】
具体的には、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869由来のNCgl2522をコードする遺伝子及びそれから発現するタンパク質配列を確認するために、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号5及び8のプライマー対を用いてPCRを行った。ここで、PCR反応は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で2分の伸長の過程を30回繰り返した。こうして得られたPCR産物を電気泳動で分離し、その後配列分析を行った結果、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869由来のNCgl2522をコードする遺伝子は配列番号22で表される塩基配列を含み、それによりコードされるタンパク質は配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む。コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032由来のNCgl2522とコリネバクテリウムグルタミカムATCC13869由来のNCgl2522のアミノ酸配列を比較した結果、これらは98%の配列相同性を有することが確認された。
【0094】
コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869由来のNCgl2522をコードする遺伝子を欠損させるために、実施例<2−1>と同様に、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869のゲノムDNAを鋳型とし、表2に示す2対の各プライマーを用いてPCRを行うことにより、NCgl2522遺伝子のN末端部位とC末端部位のPCR断片をそれぞれ増幅し、その後それらを電気泳動することにより目的とする断片を得た。ここで、PCR反応は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長の過程を30回繰り返した。こうして得られたN末端部位の断片を制限酵素BamHI及びSalIで処理し、得られたC末端部位の断片を制限酵素SalI及びXbaIで処理し、処理した断片を制限酵素であるBamHIとXbaIで処理したpDZベクターにクローニングすることにより、プラスミドpDZ−2’NCgl2522(K/O)を作製した。
【0095】
前記プラスミドpDZ−2’NCgl2522(K/O)を、実施例<2−1>と同様に、コリネバクテリウムグルタミカムDAB12−a及びDAB12−bにそれぞれ形質転換することにより、NCgl2522をコードする遺伝子が欠失した菌株を選択した。こうして選択されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株をそれぞれDAB12−a△NCgl2522及びDAB12−b△NCgl2522と命名した。
【0096】
<2−3>NCgl2522欠損菌株のプトレシン生産能の評価
プトレシン生産菌株においてNCgl2522欠損がプトレシン生産に及ぼす効果を確認するために、実施例<2−1>及び<2−2>で作製されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株を対象にプトレシン生産能を比較した。
【0097】
具体的には、4種のコリネバクテリウムグルタミカム変異株(KCCM11138P△NCgl2522、KCCM11240P△NCgl2522、DAB12−a△NCgl2522、及びDAB12−b△NCgl2522)と4種の母菌株(KCCM11138P、KCCM11240P、DAB12−a、及びDAB12−b)をそれぞれ1mMアルギニン含有CM平板培地(1リットル中に、グルコース 1%、ポリペプトン 1%、酵母抽出液 0.5%、牛肉抽出物 0.5%、NaCl 0.25%、ウレア 0.2%、50%NaOH 100μl、寒天 2%、pH6.8)に塗抹して30℃で24時間培養した。こうして培養された各菌株を25mlの力価培地(1リットル中に、グルコース 8%、大豆タンパク質0.25%、トウモロコシ固形物0.50%、(NH
4)
2SO
4 4%、KH
2PO
4 0.1%、MgSO
4・7H
2O 0.05%、ウレア 0.15%、ビオチン100g、チアミン塩酸塩3mg、パントテン酸カルシウム3mg、ニコチンアミド3mg、CaCO
3 5%)に1白金耳ほど接種し、その後それを30℃にて200rpmで98時間振盪培養した。全ての菌株の培養の際に、培地に1mMアルギニンを添加した。各培養物から生産されたプトレシンの濃度を測定し、その結果を下記表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3に示すように、NCgl2522が欠損した4種のコリネバクテリウムグルタミカム変異株の全てにおいてプトレシン生産量が大幅に減少することが確認された。
【0100】
実施例3:NCgl2522強化菌株の作製及びそのプトレシン生産能の確認
<3−1>ATCC13032の染色体におけるトランスポゾン遺伝子内へのNCgl2522の導入
プトレシン生成能を有するコリネバクテリウム属微生物KCCM11138PにおいてNCgl2522遺伝子(自己プロモーター部位を含む)の染色体内への追加挿入によるプトレシン高生産効果を確認するために、NCgl2522をトランスポゾン遺伝子内に導入した。コリネバクテリウム属微生物のトランスポゾン遺伝子部位を用いて染色体内への遺伝子導入を可能にする形質転換用ベクターpDZTn(特許文献9)を用いた。
【0101】
自己プロモーターを含むNCgl2522遺伝子は、ATCC13032菌株の染色体を鋳型とし、配列番号9及び10のプライマー対を用いて約1.88kbの遺伝子断片を増幅した(表4参照)。ここで、PCR反応は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒又は2分の伸長の過程を30回繰り返した。このPCR産物を0.8%アガロースゲルで電気泳動し、その後所望のサイズのバンドを溶離して精製した。pDZTnベクターはXhoIで処理し、ATCC13032菌株のNCgl2522 PCR産物をフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングには、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いた。結果として得られたプラスミドをpDZTn−1’NCgl2522と命名した。
【0102】
【表4】
【0103】
前記プラスミドpDZTn−1’NCgl2522を参照例1に示すコリネバクテリウムグルタミカムKCCM11138Pに電気穿孔法(electroporation)で導入して形質転換体を得て、前記形質転換体から実施例2の方法によりトランスポゾンにNCgl2522が導入された菌株を選択した。
【0104】
選択した菌株から得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号9及び10のプライマー対を用いてPCRを行うことにより、プラスミドpDZTn−1’NCgl2522の導入によってトランスポゾン内にNCgl2522が導入されたことが確認された。ここで、PCR反応は、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で2分間の伸長の過程を30回繰り返した。
【0105】
こうして選択されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株をKCCM11138P Tn:1’NCgl2522と命名した。
【0106】
<3−2>ATCC13032ベースのプトレシン生産菌株からNCgl2522プロモーター置換菌株の作製
プトレシン生産菌株においてNCgl2522活性を強化するために、染色体内のNCgl2522の開始コドンの前にCJ7プロモーター(特許文献5)を導入した。
【0107】
まず、配列番号24で表される塩基配列を有するCJ7プロモーターを含み、前記プロモーターの両末端部位が染色体上のNCgl2522本来の配列を有する相同組換え断片を得た。具体的には、CJ7プロモーターの5’末端部位は、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号11及び12のプライマー対を用いたPCRにより得た。ここで、PCR反応は、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長の過程を30回繰り返した。また、CJ7プロモーター部位は、配列番号13及び14のプライマー対を用いて同一条件でPCRにより得て、CJ7プロモーターの3’末端部位は、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号15及び16のプライマー対を用いて同一条件でPCRにより得た。プロモーター置換に用いられたプライマーを下記表5に示す。
【0108】
【表5】
【0109】
前述したように得られた各PCR産物をBamHIとXbaIで処理したpDZベクターにフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングには、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いた。結果として得られたプラスミドをpDZ−P(CJ7)−1’NCgl2522と命名した。
【0110】
前述したように作製したプラスミドpDZ−P(CJ7)−1’NCgl2522をそれぞれ参照例1及び2によるコリネバクテリウムグルタミカムKCCM11138P及びKCCM11240Pに電気穿孔法で導入して形質転換体を作製した。作製した形質転換体をCM培地に接種して30℃で8時間振盪培養し、こうして得られた培養物を10
−4〜10
−10に希釈し、25μg/mlのカナマイシンとX−galを含むBHIS平板培地に塗抹して培養することによりコロニーを形成させた。
【0111】
ほとんどのコロニーが青色を示すに対して、 、2次交差により最終的にNCgl2522プロモーターがCJ7プロモーターに置換された菌株を選択した。選択した菌株から得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号13及び16のプライマー対を用いてPCRを行うことにより、プラスミドpDZ−1’CJ7NCgl2522の導入によって染色体内のNCgl2522の開始コドンの前にCJ7プロモーターが導入されたことが確認された。ここで、PCR反応は、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で1分の伸長の過程を30回繰り返した。
【0112】
こうして選択されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株をそれぞれKCCM11138P P(CJ7)−NCgl2522及びKCCM11240P P(CJ7)−NCgl2522と命名した。
【0113】
<3−3>ATCC13869の染色体におけるトランスポゾン遺伝子内への遺伝子NCgl2522の導入
コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869由来のプトレシン菌株からNCgl2522遺伝子の染色体内への追加挿入によるプトレシン高生産効果を確認するために、NCgl2522(プロモーター部位を含む)をトランスポゾン遺伝子内に導入することにした。NCgl2522遺伝子は、ATCC13869菌株の染色体を鋳型とし、配列番号17及び10のプライマー対を用いて約1.97kbの遺伝子断片を増幅した(表6参照)。ここで、PCR反応は、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間又は2分間の伸長の過程を30回繰り返した。こうして得られたNCgl2522のPCR断片をXhoIで処理したpDZTnベクターにフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングには、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いた。結果として得られたプラスミドをpDZTn−2’NCgl2522と命名した。
【0114】
【表6】
【0115】
前記プラスミドpDZTn−2’NCgl2522を、実施例<3−1>と同様に、コリネバクテリウムグルタミカムDAB12−aに形質転換することにより、トランスポゾン内にNCgl2522が導入されたことが確認された。
【0116】
こうして選択されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株をDAB12−a Tn:2’NCgl2522と命名した。
【0117】
<3−4>ATCC13869ベースのプトレシン生産菌株からNCgl2522プロモーター置換菌株の作製
コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869由来のNCgl2522の開始コドンの前にCJ7プロモーターを導入するために、実施例<3−2>と同様に、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13869のゲノムDNAを鋳型とし、下記表7に示す3対の各プライマーを用いてPCRを行うことにより、CJ7プロモーター部位、そのN末端部位及びC末端部位のPCR断片をそれぞれ増幅し、その後それを電気泳動することにより目的とする断片を得た。ここで、PCR反応は、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長の過程を30回繰り返した。こうして得られたCJ7プロモーター部位、そのN末端部位及びC末端部位のPCR断片をBamHIとXbaIで処理したpDZベクターにフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングには、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いた。結果として得られたプラスミドをpDZ−P(CJ7)−2’NCgl2522と命名した。
【0118】
【表7】
【0119】
前記プラスミドpDZ−'P(CJ7)−2’NCgl2522を、実施例<3−2>と同様に、コリネバクテリウムグルタミカムDAB12−a及びDAB12−bにそれぞれ形質転換することにより、NCgl2522の開始コドンの前にCJ7プロモーターが導入された菌株を選択した。こうして選択されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株をそれぞれDAB12−a P(CJ7)−NCgl2522及びDAB12−b P(CJ7)−NCgl2522と命名した。
【0120】
<3−5>NCgl2522強化菌株のプトレシン生産能の評価
プトレシン生産菌株においてプロモーター置換によるNCgl2522活性の強化がプトレシン生産に及ぼす効果を確認するために、実施例<3−1>〜<3−4>で作製した6種のコリネバクテリウムグルタミカム変異株(KCCM11138P Tn:1’NCgl2522、KCCM11138P P(CJ7)−NCgl2522、KCCM11240P P(CJ7)−NCgl2522、DAB12−a Tn:2’NCgl2522、DAB12−a P(CJ7)−NCgl2522、及びDAB12−b P(CJ7)−NCgl2522)と4種の母菌株(KCCM11138P、KCCM11240P、DAB12−a、及びDAB12−b)のプトレシン生産能を比較した。各菌株を実施例2−3と同様に培養し、その後各培養物から生産されたプトレシンの濃度を測定した。その結果を下記表8に示す。
【0121】
【表8】
【0122】
表8に示すように、トランスポゾンにNCgl2522をさらに導入するか、プロモーターを置換することによりNCgl2522活性が強化された6種のコリネバクテリウムグルタミカム変異株の全てにおいてプトレシン生産量が増加することが確認された。
【0123】
実施例4:NCgl2522強化菌株の細胞内のプトレシン濃度の測定
NCgl2522活性が強化されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株においてプトレシン排出能が向上することにより細胞内のプトレシン濃度が低下したか否かを確認するために、コリネバクテリウムグルタミカム変異株KCCM11138P Tn:1’NCgl2522及び母菌株KCCM11138Pを対象に有機溶媒を用いた抽出方法で細胞内のプトレシン濃度を測定した。細胞内の代謝物質(intracellular metabolite)の分析は、非特許文献11に記載の方法により行った。
【0124】
まず、コリネバクテリウムグルタミカム変異株KCCM11138P Tn:1’NCgl2522及び母菌株KCCM11138Pをそれぞれ1mMアルギニン含有CM液体培地(1リットル中に、グルコース 1%、ポリペプトン 1%、酵母抽出液 0.5%、牛肉抽出液0.5%、NaCl 0.25%、ウレア 0.2%、50%NaOH 100l、pH6.8)25mlに接種し、その後30℃にて200rpmで振盪培養した。培養中に細胞成長が指数増殖期(exponential phase)に達すると、急速真空濾過(rapid vacuum filtration, Durapore HV, 0.45 m; Millipore, Billerica, MA)により培養液から細胞を分離した。細胞が吸着したフィルタを10mlの冷却水で2回洗浄し、その後5Mモルホリノエタンスルホン酸(morpholine ethanesulfonic acid)及び5Mメチオニンスルホン(methionine sulfone)を含有するメタノールに10分間浸漬した。こうして得られた抽出液に同量のクロロホルムと0.4倍の体積の水を混ぜ合わせ、その後水相(aqueous phase)のみスピンカラム(spin column)にかけてタンパク質汚染物を除去した。濾過した抽出液をキャピラリー電気泳動質量分析計(capillary electrophoresis mass spectrometry)で分析した。その結果を下記表9に示す。
【0125】
【表9】
【0126】
表9に示すように、母菌株KCCM11138Pに比べてNCgl2522活性が強化されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株KCCM11138P Tn:1’NCgl2522の細胞内のプトレシン濃度が低下することが確認された。よって、前記コリネバクテリウムグルタミカム変異株KCCM11138P Tn:1’NCgl2522においてNCgl2522活性の強化によりプトレシン排出能が向上するので、細胞内で生成されたプトレシンが細胞外に円滑に排出されるものと予測される。
【0127】
実施例5:NCgl2522が欠失又は強化された菌株のプトレシン耐性度の評価
NCgl2522のプトレシン耐性に対する影響を確認するために、前述したように作製したKCCM11240P、KCCM11240P△NCgl2522及びKCCM11240P P(CJ7)−NCgl2522菌株を対象にプトレシン耐性度を評価した。
【0128】
各菌株を2mlのCMA液体培地に接種して30℃で約10時間培養し、その後10
5、10
4、10
3、10
2及び10
1に順次希釈した。準備した各希釈液を、0M又は0.8Mのプトレシンを含むCMA平板培地(1リットル中に、グルコース 1%、ポリペプトン 1%、酵母抽出液 0.5%、牛肉抽出物 0.5%、NaCl 0.25%、ウレア 0.2%、寒天 1.8%、1mM アルギニン、pH6.8)にスポッティング(spotting)し、その後30℃で48時間培養して各菌株の成長を比較した。
【0129】
その結果、前記菌株は2つの異なる成長様相を示した。
図2に示すように、NCgl2522遺伝子が欠損した菌株においてはプトレシンが高濃度で含まれる条件で成長できないのに対して、NCgl2522遺伝子の発現が強化された菌株においては同一条件で細胞の成長が促進された。これは、NCgl2522遺伝子の強化によるプトレシン排出能の向上が高濃度のプトレシンが含まれる条件で母菌株に比べて高い細胞成長性を示すものであり、高濃度プトレシン発酵のためにNCgl2522の導入及び強化が必須であることを示すものである。
【0130】
実施例6:大腸菌へのNCgl2522導入によるプトレシン発酵
プトレシン生合成経路を有する大腸菌野生型菌株W3110においてコリネバクテリウムグルタミカムATCC13032のNCgl2522発現時のプトレシン生産増加効果を確認するために、W3110にプトレシン合成酵素であるspeC発現ベクターとNCgl2522発現ベクターをそれぞれ導入した。
【0131】
speC発現ベクターを生産するために、W3110の染色体を鋳型とし、配列番号34及び35のプライマー対を用いて約2.1kbのspeC遺伝子断片を増幅した(表10参照)。このPCR産物を0.8%アガロースゲルで電気泳動し、その後所望のサイズのバンドを溶離して精製した。Trcプロモーターを含むpSE280ベクター(Invitrogen)をNcoI及びEcoRIで処理し、その後speC PCR産物をフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングには、In−Fusion(R) HD Cloning Kit(Clontech)を用いた。結果として得られたプラスミドをpSE280−speCと命名した。
【0132】
NCgl2522発現ベクターを生産するために、pSE280を鋳型とし、配列番号36及び37のプライマー対を用いてTrcプロモーター断片を得て、コリネバクテリウムグルタミカムATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号38及び39のプライマー対を用いてNCgl2522断片を得た。このPCR産物を0.8%アガロースゲルで電気泳動し、その後所望のサイズのバンドを溶離して精製した。HindIIIで処理したpcc1BACにtrcプロモーター断片とNCgl2522断片をフュージョンクローニングした。結果として得られたプラスミドをpcc1BAC−P(trc)−NCgl2522と命名した。
【0133】
【表10】
【0134】
前記プラスミドpSE280−speCとpcc1BAC−P(trc)−NCgl2522をW3110に形質転換した。大腸菌内での形質転換は2×TSS溶液(Epicentre)を用いて行い、pSE280−speCが導入された大腸菌はアンピシリン(100μg/ml)が含まれるLB平板培地(1リットル中に、トリプトン 10g、酵母抽出液 5g、Nacl 10g、寒天 2%)に塗抹して培養することによりコロニーを形成させた。pcc1BAC−P(trc)−NCgl2522が導入された大腸菌は、クロラムフェニコール(35μg/ml)が含まれるLB平板培地に塗抹して培養することによりコロニーを形成させた。前述したように得られた菌株を対象にプトレシン生産能を確認した。
【0135】
具体的には、W3110、W3110 pSE280−speC及びW3110 pcc1BAC−P(trc)−NCgl2522をそれぞれLB、LA及びLC固体培地に接種して37℃で24時間培養し、それらをそれぞれ25mlの力価培地(1リットル中に、(NH
4)
2PO
4 2g、KH
2PO
46.75g、クエン酸 0.85g、MgSO
4・7H
2O 0.7g、微量元素 0.5%(v/v)、グルコース 10g、AMS 3g、CaCO
3 30g)に接種して37℃で24時間培養した。微量金属溶液(Trace metal solution)は、1リットル中に5M HCl:FeSO
4・7H
2O 10g、ZnSO
4・7H
2O 2.25g、CuSO
4・5H
2O 1g、MnSO
4・5H
2O 0.5g、Na
2B
4O
7・10H
2O 0.23g、 CaCl
2・2H
2O 2g、及び(NH
4)
6Mo
7O
2・4H
2O 0.1gを含む。
【0136】
各培養物から生産されたプトレシンの濃度を測定した。その結果を下記表11に示す。
【0137】
【表11】
【0138】
表11に示すように、プトレシン生合成酵素speCが導入されたW3110 pcc1BAC−pSE280−speC菌株に比べて、NCgl2522が導入されたW3110 pcc1BAC−P(trc)−NCgl2522においてプトレシン生産量がさらに増加することが確認された。
【0139】
これは、前記NCgl2522遺伝子が大腸菌においてもプトレシン排出タンパク質として活性を有することを立証するものである。
【0140】
本発明者は、プトレシン生成能を有するコリネバクテリウム属微生物KCCM11138Pにおいてトランスポゾン内にNCgl2522をさらに導入してNCgl2522活性を強化したコリネバクテリウムグルタミカム菌株が向上したプトレシン排出能により高収率でプトレシンを生産できることを確認し、前記菌株をCorynebacterium glutamicum CC01−0510と命名し、ブダペスト条約に基づいて2013年3月8日付けで韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託番号KCCM11401Pとして寄託した。
【0141】
以上の説明から、本発明の属する技術分野における当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例は全ての面において、あくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態を含むものであると解釈すべきである。