(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書には、滅菌されたシプロフロキサシン組成物を作る方法が提供される。本明細書にはまた、開示される方法により形成されるシプロフロキサンを含有する耳科用製剤、及び、様々な耳の障害及び疾病を処置するために耳にシプロフロキサンを持続放出するための、前記耳科用製剤の治療的使用が記載される。
【0045】
<医薬品の滅菌>
医薬組成物は時に、特定の医療用途又は治療用途のために滅菌される必要がある。目標は、感染症を引き起こす微生物を比較的含まない、安全な医薬品を得ることである。米国食品医薬品局は、http://www.fda.gov/cder/guidance/5882fnl.htmで利用可能である、刊行物「Guidance for Industry:Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing」において規制ガイダンスを提供し、該刊行物は、その全体を参照することにより、本明細書に組み込まれるものとする。
【0046】
本明細書で使用されるように、滅菌は、生成物又は包装に存在する微生物を死滅させるか、又は除去するプロセスを意味する。物体及び組成物を滅菌するのに利用可能な任意の適切な方法が使用される。微生物を不活性化するのに利用可能な方法は、限定されないが、極度の熱の適用、致死性の化学物質、又はγ線放射或いはEビーム照射を含む。幾つかの実施形態において、耳科用治療製剤の調製のためのプロセスは、加熱滅菌、化学物質による滅菌、放射線滅菌、又は濾過滅菌から選択される滅菌方法に製剤をさらす工程を含む。使用する方法は、滅菌対象のデバイス又は組成物の性質に大きく依存する。多くの滅菌方法の詳細な記載は、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy published by Lippincott,Williams & Wilkins」の40章において提供され、この主題に関する参照により組み込まれる。
【0047】
<加熱による滅菌>
極度の熱の適用による滅菌のための多くの方法が利用可能である。その1つは、飽和蒸気によるオートクレーブの使用による方法である。幾つかの実施形態において、少なくとも121℃の温度での飽和蒸気は、滅菌の対象に接触される。熱は、滅菌される対象の場合には微生物に直接伝達され、或いは、滅菌される水溶液の大半を加熱することにより微生物に間接的に伝達される。この方法は、滅菌プロセスにおいて柔軟性、安全性、及び経済性を可能にするよう広範囲に実施される。例えば、摂氏121.5度に加熱し、特定の期間にわたり保持する、典型的な湿熱滅菌プロセスは、液体製剤を滅菌するために頻繁に使用され、この方法は、規制機関によって無菌状態を確実にするのに許容可能なものであると頻繁に見なされている。
【0048】
乾熱滅菌は、高温で微生物を死滅させ、発熱物質の除去を行う方法である。このプロセスは、滅菌プロセスの間、HEPA濾過された微生物を含まない大気を例えば130−180℃の温度に加熱し、発熱物質除去プロセスの間、例えば230−250℃の温度に加熱するのに適した装置において行われる。濃縮した製剤又は粉末化した製剤を再構築するための水も、オートクレーブにより滅菌される。
【0049】
<濾過>
濾過滅菌は、溶液から微生物を破壊するのではなく除去するために用いられる方法である。膜フィルターを用いて、熱に感受性のある溶液を濾過する。このようなフィルターは、混合セルロース誘導体エステル(MCE)、フッ化ポリビニリデン(PVF;PVDFとしても知られる)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の薄く、強力で、均質なポリマーであり、0.1から0.22μmに及ぶ孔径を有している。様々な特性を有する溶液は、異なるフィルター膜を用いて随意に濾過される。例えば、PVF膜およびPTFE膜は、有機溶媒を濾過するのに十分適しており、一方、水溶液は、PVF膜又はMCE膜を介して濾過される。フィルター装置は、シリンジに取り付けられる単回使用時の(the single point−of−use)の使い捨てフィルターから、製造工場で使用するための商業規模のフィルターまで、多くの規模での使用に利用可能である。膜フィルターは、オートクレーブ滅菌又は化学滅菌で滅菌される。膜濾過システムの検証は、以下の標準化されたプロトコルに従って行われ(Microbiological Evaluation of Filters for Sterilizing Liquids,Vol4,No.3.Washington,D.C:Health Industry Manufacturers Association,1981)、Brevundimonas diminuta(ATCC19146)などの著しく小さな微生物の知られている量(約10
7/cm
2)で膜フィルターを感作すること(challenging)を含む。
【0050】
医薬組成物は、膜フィルターに通されることにより随意に滅菌される。ナノ粒子(米国特許第6,139,870号)又はマルチラメラベシクル(Richard et al.,International Journal of Pharmaceutics(2006),312(1−2):144−50)を含む製剤は、それらの組織構造を破壊することなく、0.22μmのフィルターに通して濾過することによる滅菌に適している。
【0051】
幾つかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、濾過滅菌により製剤(又はその成分)を滅菌する工程を含む。別の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、粒子製剤が濾過滅菌に適切である粒子を含む。更なる実施形態において、上述の粒子製剤は、大きさが300nm未満、大きさが200nm未満、又は大きさが100nm未満の粒子を含む。別の実施形態において、耳に許容可能な製剤は、粒子製剤を含み、この粒子の滅菌性は、前駆体成分の溶液を滅菌濾過することによって確保される。別の実施形態において、耳に許容可能な製剤は、粒子製剤を含み、この粒子製剤の滅菌性は、低温滅菌濾過によって確保される。更なる実施形態において、低温滅菌濾過は、0から30℃の間、0から20℃の間、0から10℃の間、10から30℃の間、又は10から20℃の間の温度で行われる。
【0052】
別の実施形態において、耳に許容可能な粒子製剤を調製するプロセスは、粒子製剤を含有する水溶液を滅菌フィルターに通して低温で濾過する工程;滅菌溶液を凍結乾燥する工程;及び、投与前に粒子製剤を滅菌水でもどす工程を含む。幾つかの実施形態において、本明細書に記載される製剤は、微粉化した活性医薬成分を含有する、1つのバイアル製剤中の懸濁液として製造される。1つのバイアル製剤は、滅菌ポロキサマー溶液を、微粉化した滅菌活性成分(例えば、シプロフロキサシン)と無菌状態で混合し、且つ製剤を滅菌医薬容器に移すことによって調製される。幾つかの実施形態において、本明細書に記載される製剤を懸濁液として含有する1つのバイアルは、分注及び/又は投与前に再懸濁される。
【0053】
特定の実施形態において、濾過手順及び/又は充填手順は、本明細書に記載される製剤のゲル温度(Tgel)より約5℃低い温度で、100cPの理論値よりも下の粘度と共に行われることで、蠕動ポンプを用いて妥当な時間での濾過が可能となる。
【0054】
別の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、濾過滅菌に適したナノ粒子製剤を含む。更なる実施形態において、ナノ粒子製剤は、大きさが300nm未満、大きさが200nm未満、又は大きさが100nm未満のナノ粒子を含む。別の実施形態において、耳に許容可能な製剤は、ミクロスフェア製剤を含み、ミクロスフェアの滅菌性は、前駆体の有機溶液及び水溶液を滅菌濾過することによって確保される。別の実施形態において、耳に許容可能な製剤は、熱可逆性ゲル製剤を含み、このゲル製剤の滅菌性は、低温滅菌濾過によって確保される。更なる実施形態において、低温滅菌濾過は、0から30℃の間、0から20℃の間、0から10℃の間、10から30℃の間、又は10から20℃の間の温度で行われる。別の実施形態において、耳に許容可能な熱可逆性ゲル製剤を調製するプロセスは、熱可逆性ゲル要素を含有する水溶液を滅菌フィルターに通して低温で濾過する工程;滅菌溶液を凍結乾燥する工程;及び、投与前にこの熱可逆性ゲル製剤を滅菌水でもどす工程を含む。
【0055】
特定の実施形態において、活性成分は、適切なビヒクル(例えば、緩衝液)中で溶解され、別々に滅菌される(例えば、熱処理、濾過、ガンマビーム又はe−ビーム放射)。幾つかの例において、活性成分は、乾燥状態で別々に滅菌される。幾つかの例において、活性成分は、懸濁液として、又はコロイド状懸濁液として滅菌される。残りの賦形剤(例えば、耳科用製剤に存在する流体ゲル成分)は、適切な方法(例えば、賦形剤の冷たい混合物の濾過及び/又は照射)により別個の工程で滅菌され、その後、別々に滅菌される2つの溶液は無菌で混合されることで、最終的な耳科用製剤が提供される。幾つかの例において、本明細書に記載される製剤を投与する直前に最終的な無菌状態の混合が行われる。
【0056】
幾つかの例において、従来から使用されている滅菌方法(例えば、熱処理(例えば、オートクレーブ中で)、ガンマビーム又はe−ビーム照射、濾過)によって、製剤中のポリマー成分(例えば、熱硬化性、ゲル化性、又は粘膜接着性のポリマー成分)及び/又は活性薬剤が不可逆的に分解される。幾つかの例において、耳科用製剤を膜(例えば、0.2μmの膜)に通して濾過することによる滅菌は、製剤が濾過プロセス中にゲル化するチキソトロピー性ポリマーを含む場合には、不可能である。
【0057】
従って、本明細書には、ポリマー成分(例えば、熱硬化性及び/又はゲル化性及び/又は粘膜接着性のポリマー成分)及び/又は活性薬剤が、滅菌プロセス中に分解するのを防ぐ、耳科用製剤を滅菌する方法が提供される。幾つかの実施形態において、緩衝剤成分を特定のpH範囲で用いること、及び、特定の比率のゲル化剤を製剤中で用いることによって、活性薬剤(例えば、本明細書に記載される任意の耳科用治療薬剤)の分解が減るか、又はなくなる。幾つかの実施形態において、適切なゲル化剤及び/又は熱硬化性ポリマーの選択により、本明細書に記載される製剤の濾過による滅菌が可能となる。幾つかの実施形態において、適切な熱硬化性ポリマー及び適切なコポリマー(例えば、ゲル化剤)を、特定のpH範囲と組み合わせて用いることにより、治療剤又はポリマー賦形剤が実質的に分解することなく、記載される製剤を高温で滅菌することができる。本明細書に提供される滅菌方法の利点は、特定の例において、製剤が、滅菌工程中に活性薬剤及び/又は賦形剤及び/又はポリマー成分が失われることなくオートクレーブにより最終滅菌され、且つ、微生物及び/又は発熱物質を実質的に含まない状態にすることである。
【0058】
<放射線滅菌>
放射線滅菌の1つの利点は、熱分解又は他の損傷を受けることなく、多くの種類の生成物を滅菌する能力である。一般的に使用される放射線は、ベータ線、又は代替的に、
60Co源由来のガンマ線である。ガンマ線の透過能により、溶液、組成物、及び不均質な混合物を含む多くの種類の生成物の滅菌における使用が可能となる。この照射による滅菌効果は、ガンマ線と生体高分子との相互作用によるものである。この相互作用により、帯電種及び遊離ラジカルが生成される。再配列及び架橋プロセスなどのその後の化学反応の結果、これら生体高分子の通常の機能が失われる。本明細書に記載される製剤はまた、ベータ照射を用いて随意に滅菌される。電子ビーム(E−ビーム)照射又は電子線照射は、様々な目的のために物体を処理するために、通常は高エネルギーの電子の使用を含むプロセスである。これは、高温及び窒素雰囲気下で行われ得る。電子線照射の可能な使用は滅菌を含む。電子ビーム処理は、細菌などの生物のDNAの鎖を破壊し、その結果微生物を死滅させ、生物の居住空間を無菌にするという能力を有している。E−ビーム照射は、医療品及び食品の滅菌包装材料の滅菌、加えて、穀物、タバコ、及び他の未処理の大量の(bulk)作物からの生きた昆虫の除去に使用されてきた。幾つかの実施形態において、電子による滅菌により、迅速且つ確実な滅菌がもたらされ、これは大抵の材料に適合し、処理後の任意の隔離期間を必要としない。酸化的効果に感受性のある幾つかの材料及び生成物について、電子ビーム照射のための放射線耐性レベルは、ガンマ線被ばくのためのレベルよりも高い場合がある。このことは、酸素の分解効果を減らすと示された、e−ビーム照射のより高い線量率及びより短い暴露時間によるものである。
【0059】
<化学滅菌>
化学物質による滅菌方法は、極度の熱による滅菌に耐性の無い生成物に対する代替法である。この方法において、滅菌性を有する様々な気体及び蒸気、例えば、エチレンオキシド、二酸化塩素、ホルムアルデヒド、又はオゾンは、アポトーシス剤として使用される。例えば、エチレンオキシドの滅菌活性は、エチレンオキシドが反応性アルキル化剤として作用する能力によるものである。故に、滅菌プロセスは、エチレンオキシド蒸気を、滅菌される生成物と直接接触させることが必要となる。
【0060】
<微生物>
本明細書には、本明細書に記載される耳の障害を改善又は減らす、耳に許容可能な組成物又はデバイスが提供される。更に、本明細書には、上述の耳科用組成物の投与を含む方法が提供される。幾つかの実施形態において、組成物又はデバイスは、実質的に微生物を含まない。許容可能な生物汚染度レベル又は滅菌レベルは、限定されないが、米国薬局方1111章(以下参照)を含む、治療に許容可能な耳科用組成物を規定する適用可能な標準に基づく。例えば、許容可能な滅菌レベル(例えば、生物汚染度)は、製剤1gあたり約10コロニー形成単位(cfu)、製剤1gあたり約50cfu、製剤1gあたり約100cfu、製剤1gあたり約500cfu、又は製剤1gあたり約1000cfuを含む。幾つかの実施形態において、製剤の許容可能な生物汚染度レベル又は滅菌レベルは、微生物剤の10cfu/mL未満、50cfu/mL未満、500cfu/mL未満、又は1000cfu/mL未満を含む。加えて、許容可能な生物汚染度レベル又は滅菌レベルは、特定の好ましくない微生物製剤の除外を含む。例として、特定の好ましくない微生物製剤としては、限定されないが、Escherichia coli(E.coli)、Salmonella sp.、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、及び/又は他の特定の微生物剤が挙げられる。
【0061】
耳に許容可能な耳科用治療剤製剤の滅菌度は、米国薬局方61章、62章、及び71章に従った滅菌保証プログラムを通じて確認される。滅菌保証による品質管理、品質保証、及び検証プロセスの鍵となる要素は、滅菌試験方法である。滅菌試験は、ほんの一例として、2つの方法によって行われる。第1の方法は、試験対象の組成物サンプルを成長培地に加え、21日間までの期間インキュベートする、直接接種である。成長培地の濁りは、汚染を示す。この方法の欠点は、材料の塊からのサンプリング量が少量だと感受性が下がること、及び、微生物の成長の検出が視覚的な観察に基づくことが挙げられる。代替法は、膜濾過による滅菌試験である。この方法において、ある容量の生成物が小さな膜濾紙に通される。次いで、濾紙を培地に入れ、微生物の成長を促進させる。この方法は、生成物の塊全体をサンプリングするので、感受性がより高くなるという利点を有する。膜濾過による滅菌試験によって決定するために、市販のMillipore Steritest滅菌試験システムが随意に用いられる。クリーム又は軟膏の濾過試験のために、SteritestフィルタシステムのNo.TLHVSL210が使用される。エマルジョン又は粘性生成物の濾過試験のために、SteritestフィルタシステムのNo.TLAREM210又はTDAREM210が使用される。予め充填されたシリンジの濾過試験のために、SteritestフィルタシステムのNo.TTHASY210が使用される。エアロゾル又はフォームとして分散される物質の濾過試験のために、SteritestフィルタシステムのNo.TTHVA210が使用される。アンプル又はバイアル中の可溶性粉末の濾過試験のために、SteritestフィルタシステムのNo.TTHADA210又はTTHADV210が使用される。
【0062】
E.coli及びSalmonellaについての試験は、30−35℃で24−72時間インキュベートされる乳糖ブロスの使用、MacConkey寒天及び/又はEMB寒天における18−24時間のインキュベーション、及び/又はRappaport培地の使用を含む。P.aeruginosaを検出するための試験は、NAC寒天の使用を含む。米国薬局方の62章は、特定の好ましくない微生物のための試験手順を更に列挙している。
【0063】
特定の実施形態において、本明細書に記載される任意の制御放出型製剤は、製剤1gにつき、微生物剤の約60コロニー形成単位(CFU)未満、約50コロニー形成単位未満、約40コロニー形成単位未満、又は約30コロニー形成単位未満を有している。特定の実施形態において、本明細書に記載される耳科用製剤は、内リンパ及び/又は外リンパと等張になるように処方される。
【0064】
<内毒素>
本明細書には、本明細書に記載される耳の障害を改善又は減らす耳科用組成物が提供される。更に、本明細書には、上述の耳科用組成物の投与を含む方法が提供される。幾つかの実施形態において、組成物又はデバイスは、実質的に内毒素を含まない。滅菌プロセスの付加的な態様は、微生物の死滅により生じる副生成物(以下、「生成物」)の除去である。発熱物質除去プロセスは、サンプルから発熱物質を除去することである。発熱物質は、免疫応答を誘発する内毒素又は外毒素である。内毒素の例は、グラム陰性菌の細胞壁に見出されるリポ多糖体(LPS)分子である。オートクレーブ又はエチレンオキシドでの処理などの滅菌手順により細菌は死滅するが、LPS残基は、敗血性ショックなどの炎症性免疫応答を誘発する。内毒素の分子の大きさが広く異なり得るので、内毒素の存在は、「エンドトキシン単位」(EU)で表わされる。1EUは、E.coliのLPSの100ピコグラムに相当する。ヒトは、体重のわずか5EU/kgに対する反応を発達させ得る。生物汚染度(例えば微生物限度)及び/又は滅菌度(例えば微生物の不在)又は内毒素レベルは、当該技術分野で認識されるような任意の単位で表わされる。特定の実施形態において、本明細書に記載される耳科用組成物は、従来の許容可能な内毒素レベル(例えば、被験体の体重の5EU/kg)と比較した場合、より低い内毒素レベルを有する(例えば、被験体の体重の<4EU/kg)。幾つかの実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、被験体の体重の約5EU/kg未満を有している。他の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、被験体の体重の約4EU/kg未満を有している。付加的な実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、被験体の体重の約3EU/kg未満を有している。付加的な実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、被験体の体重の約2EU/kg未満を有している。
【0065】
幾つかの実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤又はデバイスは、約5EU/kg未満の製剤を有している。他の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約4EU/kg未満の製剤を有している。付加的な実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約3EU/kg未満の製剤を有している。幾つかの実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約5EU/kg未満の生成物を有している。他の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約1EU/kg未満の生成物を有している。付加的な実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約0.2EU/kg未満の生成物を有している。幾つかの実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約5EU/g未満の単位又は生成物を有している。他の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約4EU/g未満の単位又は生成物を有している。付加的な実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約3EU/g未満の単位又は生成物を有している。幾つかの実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約5EU/mg未満の単位又は生成物を有している。他の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約4EU/mg未満の単位又は生成物を有している。付加的な実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約3EU/mg未満の単位又は生成物を有している。特定の実施形態において、本明細書に記載される耳科用組成物は、約1から約5EU/mLの製剤を含有する。特定の実施形態において、本明細書に記載される耳科用組成物は、約2から約5EU/mLの製剤、約3から約5EU/mLの製剤、又は約4から約5EU/mLの製剤を含有する。
【0066】
特定の実施形態において、本明細書に記載される耳科用組成物又はデバイスは、従来の許容可能な内毒素濃度(例えば、0.5EU/mLの製剤)と比較した場合、より低い内毒素レベルを有する(例えば、0.5EU/mL未満の製剤)。幾つかの実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤又はデバイスは、約0.5EU/mL未満の製剤を有している。他の実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約0.4EU/mL未満の製剤を有している。付加的な実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、約0.2EU/mL未満の製剤を有している。
【0067】
発熱物質の検出は、ほんの一例として、様々な方法で行われる。滅菌度に適した試験は、米国薬局方(USP)71章の滅菌度試験(Sterility Tests)(第23版、1995)に記載される試験を含む。ウサギの発熱物質試験及びLimulus変形細胞溶解物試験は共に、米国薬局方の85章及び151章(USP23/NF18,Biological Tests,The United States PHarmacopeial Convention,Rockville,MD,1995)に特定されている。代替的な発熱物質アッセイは、単球活性化−サイトカインアッセイに基づいて進展されてきた。品質管理の用途に適した均一な細胞株が発達され、ウサギ発熱物質試験及びLimulus変形細胞溶解物試験を通過したサンプルにおける発熱を検出する能力を実証した(Taktak et al, J. Pharm. Pharmacol. (1990,43:578−82))。更なる実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤は、発熱物質除去にさらされる。更なる実施形態において、耳に許容可能な耳科用治療剤製剤を製造するプロセスは、発熱性について製剤を試験する工程を含む。特定の実施形態において、本明細書に記載される製剤は、実質的に発熱物質を含まない。
【0068】
<シプロフロキサシンの滅菌>
医薬製剤は、熱、放射線、又は濾過により滅菌され得る一方、特定の医薬組成物の有効な滅菌は頻繁に、特有の問題を提示する。そのような問題は時に、例えば、医薬組成物の物理特性及び化学特性、活性剤の物理特性及び化学特性、担体材料の物理特性及び化学特性、助剤の物理特性及び化学特性、及び/又は賦形剤の物理特性及び化学特性に依存する。
【0069】
微粉化された活性剤などの微粒子の活性剤を含む幾つかの医薬組成物について、懸濁液の濾過滅菌により、滅菌フィルターを通過する組成物の残りから、微粒子の活性剤の少なくとも一部は物理的に分離され得る。更に、滅菌フィルターを通過できない微粒子の活性剤は、十分に滅菌されない場合もある。
【0070】
一方で、塊の微粒子の活性剤の放射線又は乾熱による滅菌は、製造プロセスの一部として無菌の粉末剤フィル又は製剤を必要とし得る。例えば、水性担体中の微粉化されたシプロフロキサシンの懸濁液は、塊のシプロフロキサシン粒子の放射線又は乾熱による滅菌、及び滅菌したシプロフロキサシン粒子及び滅菌した水性担体の無菌での複合により処方され得る一方で、このプロセスは、カスタマイズされた装置及び/又はプロセス設計を必要とする。代替的に、微粉化されたシプロフロキサシンは、バイアル中で放射線又は乾熱により滅菌され、その後、投与前に(希釈剤の成分としての)水性担体でもどされる。
【0071】
本開示は、すぐに使用可能な無菌のシプロフロキサシン懸濁液を製造するために、シプロフロキサシンの塊の懸濁液の湿熱滅菌プロセスを使用する技術的効果を認識する。更に、本開示はまた、薬物生成物の放出特徴などの所望の特性に対する、シプロフロキサシン懸濁液の粒径及び/又は粒径分布の技術的効果を認識する。更に、本開示は、懸濁液中のシプロフロキサシンの粒径及び/又は粒径分布に対する、滅菌プロセス中の混合及び/又は均質化の技術的効果を認識する。
【0072】
例えば、シプロフロキサシンの所望の粒径を得るために、トライミキサーシステムを持つリアクターが、シプロフロキサシン懸濁液の加熱滅菌中に使用される。水中のシプロフロキサシン塩基(無水)の13.4% w/wの懸濁液が、長期間(例えば20分)にわたり>121.5℃で加熱された時、液体懸濁液は、熱曝露後の冷却中に固形物又は反固形物の塊に変わり始めることが、偶然にも発見される。最終的に、液体懸濁液は、幾つかの例において、
図3に示されるようにシプロフロキサシンと水の乾燥した硬い固形混合物に凝固する。この固形混合物は、液体懸濁液を形成するように、更に加工及び/又は処理、或いは再懸濁することができない。
【0073】
更に、本開示は、シプロフロキサシン懸濁液が凝固し始める時に激しく混合され又は均質化される場合に、懸濁液は遷移を受けて液体のままとなることを認識する。懸濁液を液体として維持することができる場合、>121.5℃での加熱滅菌の第2のサイクルを行うことができ、そこでは、シプロフロキサシン懸濁液は第2の冷却中に凝固する可能性が低い。例えば、多くの大規模な製造を実行するにあたり、懸濁液が凝固し始めた時に、混合タンクは第1の冷却中に開かれる。シプロフロキサシン懸濁液は、操作者により均質化され、又は大きなテフロン(登録商標)パドルで混合されたため、液体懸濁液のままである。第2の加熱滅菌サイクル時に、懸濁液は時に凝固しないこともある。
【0074】
また更に、本開示は、塊のシプロフロキサシン遊離塩基(無水)が、乾熱滅菌され、或いはガンマビーム又はE−ビーム照射により滅菌され得、及び、水又は水性担体中のシプロフロキサシンの無菌懸濁液が、滅菌された塊のシプロフロキサシン遊離塩基(無水)を、滅菌濾過した水又は水性担体に無菌で加え、その後で広範に混合することにより調製され得ることを、認識する。代替的に、シプロフロキサシンの遊離塩基(水和物)が、このプロセス中に使用され得る。シプロフロキサシン遊離塩基(水和物)は、承認されたDrug Master File(DMF)の下で利用可能でない一方で、シプロフロキサシンのHCl塩又は無水遊離塩基の何れかから生成され得る。
【0075】
幾つかの実施形態において、本明細書に開示される滅菌されたシプロフロキサシン組成物を作る方法は、(a)シプロフロキサシン粒子を含む水性懸濁液を形成する工程;(b)約100℃から約120℃までの温度範囲でシプロフロキサシン粒子を含む水性懸濁液を加熱する工程;及び(c)シプロフロキサシン粒子を含む水性懸濁液を冷ます工程を含む。
【0076】
幾つかの実施形態において、シプロフロキサシン粒子を水と混合することにより、工程(a)における水性懸濁液が形成される。幾つかの実施形態において、水中でシプロフロキサシン粒子を均質化することにより、工程(a)における水性懸濁液が形成される。
【0077】
幾つかの実施形態において、工程(a)における水性懸濁液は、有機溶媒を実質的に含まない。
【0078】
幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、シプロフロキサシン無水粒子、シプロフロキサシン水和物粒子、又はそれらの組み合わせといった形態である。幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、実質的にシプロフロキサシン水和物粒子の形態である。
【0079】
幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、約4wt%から約30wt%の濃度で、水性懸濁液中に存在する。幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、約4wt%から約20wt%の濃度で、水性懸濁液中に存在する。幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、約4wt%から約16wt%の濃度で、水性懸濁液中に存在する。
【0080】
幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、約40μmから約80μmのD90を有している。幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、約45μmから約75μmのD90を有している。幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、約50μmから約70μmのD90を有している。幾つかの実施形態において、工程(a)におけるシプロフロキサシン粒子は、約40μmから約80μmのD90を有している。
【0081】
幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約101℃から約119℃の温度で加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約102℃から約118℃の温度で加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約103℃から約117℃の温度で加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約104℃から約116℃の温度で加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約105℃から約115℃の温度で加熱される。
【0082】
幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約5分から約5時間の期間にわたり加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約10分から約5時間の期間にわたり加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約20分から約5時間の期間にわたり加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約30分から約5時間の期間にわたり加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約40分から約4時間の期間にわたり加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約50分から約3時間の期間にわたり加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約1時間から約2時間の期間にわたり加熱される。
【0083】
幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約1時間の期間にわたり約115℃の温度で加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約2時間の期間にわたり約105℃の温度で加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、約1時間から約2時間の期間にわたり約110℃の温度で加熱される。
【0084】
幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、温度範囲内の一定温度で加熱される。幾つかの実施形態において、工程(b)における水性懸濁液は、温度範囲内の可変温度で加熱される。
【0085】
幾つかの実施形態において、工程(b)におけるシプロフロキサシン粒子は、加熱時に水性懸濁液中で均質化される。
【0086】
幾つかの実施形態において、工程(c)におけるシプロフロキサシン粒子は、実質的にシプロフロキサシン水和物粒子の形態である。
【0087】
幾つかの実施形態において、工程(c)におけるシプロフロキサシン粒子は、冷却中に水性懸濁液中で均質化される。幾つかの実施形態において、工程(c)における水性懸濁液は、約2℃から約10℃までに冷まされる。
【0088】
幾つかの実施形態において、工程(c)におけるシプロフロキサシン粒子は、冷却後、約5μmから約40μmのD90を有している。幾つかの実施形態において、工程(c)におけるシプロフロキサシン粒子は、冷却後、約10μmから約35μmのD90を有している。幾つかの実施形態において、工程(c)におけるシプロフロキサシン粒子は、冷却後、約15μmから約25μmのD90を有している。
【0089】
シプロフロキサシン懸濁液が高すぎる温度(例えば>121.5℃)で加熱滅菌されるか、又は少なくとも最初に高すぎる温度で加熱される(例えば、最初に135℃で加熱される)場合、濃い懸濁液がより薄くなることが、偶然にも発見される。任意の特定の理論に縛られることなく、シプロフロキサシン遊離塩基(無水)は、水と混合した後にシプロフロキサシン遊離塩基(水和物)に変換され、水和物形態のシプロフロキサシン遊離塩基は、高温暴露中に無水形態に再変換されることが、考慮される。
【0090】
更に、初期のシプロフロキサシン懸濁液が、より低い滅菌温度(例えば、100℃−120℃)で加熱滅菌される場合、懸濁液の濃さは、懸濁液がより高温度で加熱される場合と同じくらいまで変化しないことも、偶然にも発見される。幾つかの実施形態において、懸濁液は濃いままで残る。更に、懸濁液がより高温で加熱されるため、より低温で加熱される懸濁液は、冷却中に凝固しない。任意の特定の理論に縛られることなく、シプロフロキサシン遊離塩基(無水)は、水と混合した後にシプロフロキサシン遊離塩基(水和物)に変換され、水和物形態のシプロフロキサシン遊離塩基は、より低い温度(例えば、100℃−120℃)での曝露中に水和物形態のまま残ることが、考慮される。
【0091】
更に、シプロフロキサシンの可溶性は、室温から、より高い滅菌温度(例えば、121℃以上)の間で著しく増大する。例えば、この可溶性は、30−60μg/mLから10−15mg/mLまで増大すると測定される。任意の特定の理論に縛られることなく、可溶性の増加は、より高温(例えば、121℃以上)で加熱された時に、シプロフロキサシン懸濁液の凝固に起因し得ることが、考慮される。例えば、より高温で、より多くのシプロフロキサシンが水中で溶解し、次いで冷却されると、シプロフロキサシンは溶液から沈殿/結晶化する。それは既存の結晶の上で成長し、長い針状の固形シプロフロキサシンをもたらし、それにより壊れにくい凝固した固まりを作り出す。本開示は、シプロフロキサシン懸濁液の加熱滅菌に対する、可溶性の変化と結晶化プロセスの技術的効果を認識する。
【0092】
<耳科用シプロフロキサシン製剤>
<特定の定義>
本明細書で使用されるように、製剤、組成物、又は成分に関して、用語「耳に許容可能な」は、処置を受ける被験体の耳の構造に対して、持続的な有害効果が無いことを含む。「耳に薬学的に許容可能な」は、本明細書で使用されるように、担体又は希釈剤などの物質を指し、これは、耳の構造に関連して化合物の生物活性又は特性を無効化せず、及び、耳の構造に対する毒性を相対的に減少させる又は減少させるものであり、即ち、この物質は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、或いは、含有される組成物の成分の何れかと有害に相互作用を生じることなく、固体に投与される。
【0093】
本明細書で使用されるように、特定の化合物又は医薬組成物の投与による、特定の耳の疾患、障害、又は疾病の症状の改善又は減少は、化合物又は組成物の投与に起因又は関連して、持続的又は一時的、永続性又は一過性のものであっても、重症度の減少、発症の遅延、進行の減速、又は持続期間の短縮の何れかを指す。
【0094】
「内耳(Auris interna)」は、蝸牛及び前庭迷路、並びに蝸牛を中耳と接続する正円窓を含む、内耳(inner ear)を指す。
【0095】
「中耳(Auris media)」は、中耳を内耳と接続する、鼓室、耳小骨、及び卵円窓を含む、中耳(middle ear)を指す。
【0096】
「平衡障害」は、被験体にふらつきを感じさせ、又は運動感覚を持たせる、障害、病気、又は、疾病を指す。この定義には、目まい、回転性目まい、不平衡、失神性目まいが含まれるが、これらに限定されない。平衡障害として分類される疾患は、ラムゼイ・ハント症候群、メニエール病、mal de debarquement、良性発作性頭位めまい症、迷路炎を含むが、これらに限定されない。
【0097】
「血漿濃度」は、被験体の血液の血漿成分における、本明細書で提供される化合物の濃度を指す。
【0098】
「担体物質」は、湿熱、耳の構造標的部位、及び耳に許容可能な医薬製剤の放出特性に適合する賦形剤である。このような担体物質は、例えば、結合剤、懸濁化剤、崩壊剤、充填剤、界面活性剤、可溶化剤、安定化剤、潤滑剤、湿潤剤、希釈剤などを含む。「薬学的に耳に適合する担体物質」は、アカシア、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、マルトデキストリン、グリセリン、ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン(PVP)、コレステロール、コレステロールエステル、カゼインナトリウム、大豆レシチン、タウロコール酸、ホスファチジルコリン、塩化ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸二カリウム、セルロース並びにセルロース接合体、糖ナトリウムステアロイルラクチレート、カラゲナン、モノグリセリド、ジグリセリド、アルファ化デンプンなどを含むが、これらに限定されない。
【0099】
用語「希釈剤」は、送達前に抗菌剤を希釈するために使用され、且つ耳の構造の標的部位に適合する、化学化合物を指す。
【0100】
「分散剤」及び/又は「粘度調節剤」は、液体媒体を通る抗菌剤の拡散性及び均質性を制御する物質である。拡散促進剤/分散剤の例は、限定されないが、親水性ポリマー、電解液、Tween(登録商標)60又は80、PEG、ポリビニルピロリドン(PVP;商業上、Plasdone(登録商標)として知られる)、及び炭水化物系の分散剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(例えばHPC、HPC−SL、及びHPC−L)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えばHPMC K100、HPMC K4M、HPMC K15M、及びHPMC K100M)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸塩、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートステアラート(HPMCAS)、非晶質セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルピロリドン/ビニルアセタートコポリマー(S630)、エチレンオキシド及びホルムアルデヒドを備えた4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェノールポリマー(チロキサポールとしても知られる)、ポロキサマー;及びポロキサミン(例えば、ポロキサミン908(登録商標)とも知られるTetronic908(登録商標)であり、それは、エチレンジアミンへのプロピレンオキシドとエチレンオキシドの連続的な追加から得た四官能性ブロックコポリマーである(BASF Corporation,Parsippany,N.J.))、ポリビニルピロリドンK12、ポリビニルピロリドンK17、ポリビニルピロリドンK25、又はポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニルコポリマー(S−630)、ポリエチレングリコール(例えば、ポリエチレングリコールは、約300乃至約6000、又は約3350乃至約4000、又は約7000乃至約5400の分子量を有している)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリソルベート80、アルギン酸ナトリウム、ゴム、例えばトラガカントゴム、アカシアゴム、グアーゴム、キサンタンゴムを含むキサンタン、糖、セルロース化合物、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリソルベート80、アルギン酸ナトリウム、ポリエトキシル化モノラウリン酸ソルビタン、ポリエトキシル化モノラウリン酸ソルビタン、ポビドン、カルボマー、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸塩、キトサン、及びそれらの組み合わせを含む。セルロース又はトリエチルセルロースのような可塑剤も、分散剤として使用される。本明細書に開示される抗菌剤のリポソーム分散と自己乳化性分散に有用な分散剤は、ジミリストイルホスファチジルコリン、卵由来の天然ホスファチジルコリン、卵由来の天然ホスファチジルグリセロール、コレステロール、及びミリスチン酸イソプロピルである。
【0101】
「薬物吸収」又は「吸収」は、耳の中への投与のための局所部位からのシプロフロキサシンの移動のプロセスを指す。用語「同時投与」などは、本明細書で使用されるように、シプロフロキサシンの一人の患者への投与を包含することを意味し、且つ、シプロフロキサシンが同じ又は異なる投与経路により、或いは同時又は異なる時間で投与される処置レジメンを含むことを意図されている。
【0102】
用語「有効な量」又は「治療上有効な量」は、本明細書で使用されるように、処置される疾患又は疾病の1以上の症状をある程度まで緩和すると予想されるのに十分な、投与されるシプロフロキサシンの量を指す。例えば、本明細書に開示されるシプロフロキサシンの投与の結果、耳鳴又は平衡障害の徴候、症状、又は原因が減少され、及び/又は軽減される。例えば、治療用途に「有効な量」は、過度の有害な副作用を生じることなく疾患の症状を減らす又は改善するのに必要な、本明細書に開示される製剤を含むシプロフロキサシンの量である。用語「治療上有効な量」は、例えば、予防に有効な量を含む。本明細書に開示されるシプロフロキサシンの「有効な量」は、過度の有害な副作用を生じることなく、望ましい薬理学的効果又は治療の向上を達成するのに有効な量である。「有効な量」又は「治療上有効な量」は、幾つかの実施形態において、投与される化合物の代謝、被験体の年齢、体重、全身状態、処置される疾病、処置される疾病の重篤度、及び主治医の判断の変動により、被験体ごとに変わることが理解される。また、持続放出の投薬形式における「有効な量」は、薬物動態及び薬理学の考慮に基づき、即時放出の投薬形式における「有効な量」とは異なり得ることも理解される。
【0103】
用語「増強する(enhance)」又は「増強すること(enhancing)」は、シプロフロキサシンの望ましい効果の有効性又は持続時間の何れかの増大或いは拡大、又は、治療剤の投与の結果の任意の有害な症状の縮小を指す。故に、本明細書に開示されるシプロフロキサシンの効果を増強することについてし、用語「増強すること」は、本明細書に開示されるシプロフロキサシンと組み合わせて使用される他の治療剤の効果を、有効性又は持続時間の何れかにおいて、増大又は拡大する能力を指す。「増強するのに有効な量」は、本明細書で使用される場合、所望の系における標的の耳構造の、別の治療薬剤又はシプロフロキサシンの効果を増強するのに十分な、シプロフロキサシン又は他の治療剤の量を指す。患者に用いる場合、この用途に有効な量は、疾患、障害、又は疾病の重篤度及び経過、以前の治療、患者の健康状態及び薬物に対する応答、処置する医師の判断に依存する。
【0104】
「薬理学」は、中耳及び/又は内耳内の所望部位で薬物の濃度に関して観察される生物応答を決定する因子を指す。
【0105】
「薬物動態」は、中耳及び/又は内耳内の所望部位で、薬物の適切な濃度の到達及び維持を決定する因子を指す。
【0106】
用語「耳に対する介入処置」は、1以上の耳構造に対する外部損傷又は外傷を意味し、移植、耳の手術、注射、カニューレ挿入などを含む。移植は、内耳又は中耳科用の医療デバイスを含み、その例は、人工内耳、聴力温存デバイス、聴力改善デバイス、短電極、鼓膜切開チューブ、微小な人工器官またはピストンのような人工器官;針;幹細胞移植片;薬物送達デバイス;任意の細胞ベースの治療薬などを含む。耳の手術は、中耳手術、内耳手術、鼓膜切開術、蝸牛開窓、迷路切開、乳突削開術、アブミ骨摘出、アブミ骨手術、内リンパ球嚢切開術などを含む。注射は、中耳内の注射、蝸牛内の注射、正円窓膜を隔てた注射などを含む。カニューレ挿入は、中耳内、蝸牛内、内リンパ、外リンパ、前庭のカニューレ挿入などを含む。
【0107】
予防用途において、本明細書に記載されるシプロフロキサシンを含む組成物は、特定の疾患、障害、又は疾病の影響を受け易く、又はさもなくばその危険に曝されている患者に投与される。例えば、そのような疾病は、限定されないが、外耳炎、中耳炎、ラムゼイ・ハント症候群、耳梅毒、AIED、メニエール病、及び前庭ニューロン炎を含む。このような量は、「予防に有効な量又は用量」であると定義される。この用途において、正確な量はまた、患者の健康状態、体重などに依存する。
【0108】
用語「実質的に有機溶媒を含まない」は、活性剤の5重量%未満が活性剤の分解生成物であることを意味する。更なる実施形態において、この用語は、活性剤の3重量%未満が活性剤の分解生成物であることを意味する。また更なる実施形態において、この用語は、活性剤の2重量%未満が活性剤の分解生成物であることを意味する。更なる実施形態において、この用語は、活性剤の1重量%未満が活性剤の分解生成物であることを意味する。
【0109】
本明細書で使用されるように、「実質的に微粉化粉末の形態である」は、ほんの一例として、活性剤の70重量%より多くが、活性剤の微粉化粒子の形態であることを含む。更なる実施形態において、この用語は、活性剤の80重量%より多くが、活性剤の微粉化粒子の形態であることを意味する。また更なる実施形態において、この用語は、活性剤の90重量%より多くが、活性剤の微粉化粒子の形態であることを意味する。
【0110】
「すぐに使用可能な」は、例えば希釈、再形成、更なる滅菌などを介し、投与前に医薬組成物又は医療品を更に変更、修飾、又は最適化する必要無しに使用できる、医薬組成物又は医療品を指す。「安定化剤」は、中耳又は内耳の環境に適合する、任意の酸化防止剤、緩衝液、酸、防腐剤などの化合物を指す。安定化剤は、限定されないが、(1)賦形剤と、シリンジ又はガラス瓶を含む容器又は送達システムとの適合性を向上させる、(2)組成物の成分の安定性を向上させる、又は(3)製剤の安定性を向上させる、いずれかの薬剤を含む。
【0111】
本明細書で使用されるように、用語「被験体」は、動物、好ましくは、ヒト又は非ヒトを含む哺乳動物を意味するために使用される。患者及び被験体という用語は、互換的に使用され得る。
【0112】
用語「処置する(treat)」、「処置すること(treating)」、又は「処置(treatment)」は、疾患又は疾病(例えば耳鳴)の症状を緩和、軽減、又は改善すること、付加的な症状を予防すること、症状の根本的な代謝原因を改善又は予防すること、疾患又は疾病を阻害すること、例えば、疾患又は疾病の進行を阻むこと、疾患又は疾病を和らげること、疾患又は疾病を退行させること、疾患又は疾病により引き起こされる状態を和らげること、又は、予防的及び/又は治療的の何れかで疾患又は疾病の症状を止めることを含む。
【0113】
本明細書に記載される方法及び組成物の、他の目的、特徴、及び利点は、後述する詳細な説明から明らかになるだろう。しかし、発明の詳細な説明と特定の実例は、具体的な実施形態を示すものであるが、説明のためだけに与えられたものである。
【0114】
製剤の方法
いくつかの実施形態では、滅菌されたシプロフロキサシン組成物を作る方法は、さらに以下の工程を含んでいる:(d)耳科用製剤を形成するために、熱可逆性ポリマーを含む滅菌された水溶液に、シプロフロキサシン粒子を含む冷やした水性懸濁液を組み合わせる工程。
【0115】
いくつかの実施形態では、熱可逆性ポリマーはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのトリブロックコポリマーである。いくつかの実施形態では、熱可逆性ポリマーはポロキサマー407である。
【0116】
いくつかの実施形態では、水溶液はさらに緩衝剤を含む。いくつかの実施形態では、緩衝剤はトロメタミンである。
【0117】
いくつかの実施形態では、水溶液は水溶液のpHを約7.0〜約8.0に調整するための量でpH調整剤を含む。いくつかの実施形態では、pH調整剤は塩酸である。
【0118】
いくつかの実施形態では、水溶液はさらにモル浸透圧濃度調節剤を含む。いくつかの実施形態では、モル浸透圧濃度調節剤は塩化ナトリウムである。
【0119】
いくつかの実施形態では、水溶液は濾過滅菌、加熱滅菌、または放射線減菌によって滅菌される。いくつかの実施形態では、水溶液は濾過滅菌によって滅菌される。いくつかの実施形態では、水溶液は冷滅菌フィルターを通り抜けることにより滅菌される。
【0120】
いくつかの実施形態では、水溶液を約2°Cから約10°Cに冷ます。
【0121】
いくつかの実施形態では、水性懸濁液と水溶液は無菌条件下で組み合わされる。
【0122】
いくつかの実施形態では、耳科用製剤は、約5重量%から約7重量%のシプロフロキサシンを含む。いくつかの実施形態では、耳科用製剤は、約5.5重量%から約6.5重量%のシプロフロキサシンを含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、耳科用製剤は、約14重量%から約19重量%の熱可逆性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、耳科用製剤は約15重量%から約17重量%の熱可逆性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、耳科用製剤は、約15.5重量%から約16.5重量%の熱可逆性ポリマーを含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、耳科用製剤は約7.0〜約8.0のpHを有する。
【0125】
いくつかの実施形態では、耳科用製剤は約270mOsm/Lから約320mOsm/Lのモル浸透圧濃度を有する。
【0126】
いくつかの実施形態では、耳科用製剤は、製剤1グラムあたり約50コロニー形成単位(cfu)未満の微生物製剤を有する。
【0127】
いくつかの実施形態では、耳科用製剤は被験体の体重1kgあたり約5エンドトキシン単位(EU)未満を有する。
【0128】
いくつかの実施形態では、耳科用製剤は、約約19°Cから約42°Cのゲル化温度を有する。
【0129】
(耳科用のゲル製剤)
ゲル剤は様々な方法で定義される。例えば、米国薬局方は、液体の浸透した小さな無機質微粒子または大きな有機分子から構成されるいずれかの懸濁液からなる半固体の系としてゲル剤を定義する。ゲル剤は単一相または二相の系を含んでいる。単相のゲルは、分散したポリマーと液体の間に明白な境界が存在しないように、液体全体に均一に分布した有機的なポリマーからなる。いくつかの単相のゲル剤は、合成ポリマー(例えばカルボマー)または天然のゴム(例えばトラガント)から調製される。いくつかの実施形態では、単相のゲル剤は一般に水性であるが、アルコールと油を使用しても作られる。二相のゲル剤は小さな離散粒子のネットワークからなる。
【0130】
ゲル剤も疎水性または親水性と分類可能である。特定の実施形態では、疎水性ゲルの塩基は、コロイダルシリカでゲル化したポリエチレンまたは脂肪油を含む流動パラフィン、もしくは、アルミニウム石けんまたは亜鉛の石けんをからなる。対照的に、親水性ゲルの塩基は通常、適切なゲル化剤(例えばトラガント、デンプン、セルロース誘導体、カルボキシビニルポリマー、およびケイ酸アルミニウム−マグネシウム)でゲル化した水、グリセロー、または、プロピレングリコールからなる。特定の実施形態では、本明細書で開示される組成物またはデバイスのレオロジーは、擬塑性、可塑性、揺変性、または膨張性である。
【0131】
1つの実施形態では、本明細書に記載される粘性を改良する耳に許容可能な製剤は、室温の液体ではない。特定の実施形態では、粘性を改良する製剤は、室温と体温(深刻な熱、例えば、最大約42°Cの個体を含む)の間の相転移を特徴とする。いくつかの実施形態では、相転移は、体温より1°C低い温度で、体温より2°C低い温度で、体温より3°C低い温度で、体温より4°C低い温度で、体温より6°C低い温度で、体温より8°C低い温度で、または体温より10°C低い温度で生じる。いくつかの実施形態で、相転移は、体温より約15°C低い温度で、体温より約20°C低い温度で、、または体温より約25°C低い温度で生じる。特定の実施形態では、本明細書に記載される製剤のゲル化温度(Tgel)は、約20°C、約25°C、または約30°Cである。特定の実施形態では、本明細書に記載される製剤のゲル化温度(Tgel)は、約35°Cまたは約40°Cである。1つの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤のほぼ体温での投与は、耳科用製剤の鼓室内投与に関連する眩暈を減らすまたは抑える。健康な個体または熱(最大42°C)のある個体を含む不健康な個体の体温が、体温の定義内に含まれる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物またはデバイスはほぼ室温の液体であり、室温またはほぼ室温で投与され、例えば、眩暈などの副作用を減らすまたは緩和する。
【0132】
ポリオキシプロピレンとポリオキシエチレンから構成されるポリマーは、水溶液に取り込まれると熱可逆性ゲルを形成する。こうしたポリマーは、体温に近い温度で液体状態からゲル状態に変化する能力を有し、ゆえに、標的となる耳の構造に適用される有用な製剤を可能にする。液体状態からゲル状態への相転移は溶液中のポリマー濃度と成分に依存する。
【0133】
ポロキサマー407はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのコポリマーから構成される熱可逆性ポリマーである。他のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのコポリマー(つまり、ポロキサマー)は、188(F−68グレード)、237(F−87グレード)、338(F−108グレード)を含んでいる。ポロキサマーの水溶液は酸、アルカリ、および金属イオンの存在下で安定している。ポロキサマー407は市販で入手可能であり、ポリマーのゲル化特性を増強する適切な方法によってさらに精製可能である。該ポロキサマーはおよそ70%のエチレンオキシドを含んでおり、これがその親水性の主たる理由である。そのメンバーが以下に示す化学式を共有するのは一連のポロキサマーABAブロックコポリマーの1つである。
【0135】
水性のポロキサマー溶液(例えばポロキサマー407)のなかには、(例えば、耳への投与後)体温まで加熱されることで低粘度の溶液から固体のゲルへ変形するものもある。さらに、ポロキサマー407は優れた可溶化能力と低毒性を備えており、したがって、薬物送達系に良好な媒体であると考えられている。
【0136】
代替的な実施形態では、thermogelは、PEG−PLGA−PEG トリブロックコポリマー(Jeong et al, Nature (1997), 388:860−2; Jeong etal, J. Control. Release (2000), 63:155−63; Jeong etal, Adv. Drug Delivery Rev. (2002), 54:37−51)である。ポリマーは、約5%w/wから約40%w/wの濃度にわたってゾル−ゲル挙動を示す。望ましい特性に依存して、PLGAコポリマー中のラクチド/グリコリドのモル比は、約1:1から約20:1に及ぶ。結果として生じるコポリマーは水に溶解可能であり、室温で自由に流動することができる液体を形成するが、体温ではヒドロゲルを形成する。市販で入手可能なPEG−PLGA−PEG トリブロックコポリマーは、Boehringer Ingelheimによって製造されたRESOMER RGP t50106である。この材料は50:50ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)のPGLAコポリマーから構成され、10%w/wのPEGであり、約6000の分子量を有する。
【0137】
ReGel(登録商標)は、米国特許出願第6,004,573号、第6、117949号、第6,201,072号、および第6,287,588号に記載されるような、可逆性の熱ゲル化特性を有する低分子量の生分解性ブロックコポリマーのクラスのMacroMed Incorporatedの商品名である。これはさらに、係属中の米国特許出願第09/906,041号、第09/559,799号、および第10/919,603号で開示された生分解性のポリマー薬物担体を含む。生分解性の薬物担体はABAタイプまたはBABタイプのトリブロックコポリマーまたはその混合物を含み、ここで、Aブロックは比較的疎水性であり、生分解性ポリエステルまたはポリ(オルトエステル)sを含み、Bブロックは比較的親水性であり、ポリエチレングリコール(PEG)を含み、前記コポリマーは50.1〜83重量%の疎水性含有物と17〜49.9重量%の親水性含有物と、2000〜8000ダルトンの全ブロックコポリマー分子量を有する。薬物担体は正常な哺乳動物の体温以下の温度で水溶解性を示し、哺乳動物の生理的な体温と等しい温度でゲルとして存在するために可逆的な熱ゲル化方法に晒される。生分解性の疎水性のAポリマーブロックは、ポリエステルまたはポリ(オルトエステル)を含み、ここで、ポリエステルはD,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε−カプロラクトン、ε−ヒドロキシヘキサン酸、γ−ブチロラクトン、γ−ヒドロキシ酪酸、δ−バレロラクトン、δ−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、およびそのコポリマーからなるとともに約600〜3000ダルトンの平均分子量を有する群から選択されモノマーから合成される。親水性のBブロックセグメントは好ましくは約500〜2200ダルトンの平均分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)である。
【0138】
さらなる生分解性の熱可塑性ポリエステルは、AtriGel(登録商標)(Atrix Laboratories Inc.によって提供される)、および/または、例えば、米国特許第5,324,519号;第4,938,763号;第5,702,716号;第5,744,153号;ならびに、第5,990,194号で開示されるものを含み、ここで、適切な生分解性の熱可塑性ポリエステルは熱可塑性ポリマーとして開示される。適切な生分解性の熱可塑性ポリエステルの例としては、ポリラクチド、ポリグリコシド、ポリカプロラクトン、これらのコポリマー、ターポリマー、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかのこうした実施形態では、適切な生分解性の熱可塑性ポリエステルは、ポリラクチド、ポリグリコシド、これらのコポリマー、ターポリマー、またはこれらの組み合わせである。1つの実施形態では、生分解性の熱可塑性ポリエステルは、カルボキシ末端基を有する50/50ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)であり、約30重量%−約40重量%の組成物中に存在し、および、約23,000〜約45,000の平均分子量を有する。代替的に、別の実施形態では、生分解性の熱可塑性ポリエステルは、カルボキシ末端基を含まない75/25ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)であり、約40重量%から約50重量%の組成物の中に存在し、および、約15,000〜約24,000の平均分子量を有する。追加のまたは代替的な実施形態では、ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)の末端基は、重合の方法に依存して、ヒドロキシル、カルボキシル、またはエステルのいずれかである。乳酸またはグリコール酸の重縮合は、末端のヒドロキシル基とカルボキシル基を有するポリマーを提供する。水、乳酸、またはグリコール酸を用いる環状のラクチドまたはグリコリドモノマーの開環重合により、同じ末端基を有するポリマーが得られる。しかしながら、メタノール、エタノール、または1−ドデカノールなどの単機能アルコールを用いる環状モノマーの開環により、1つのヒドロキシル基と1つのエステル末端基を有するポリマーが得られる。1,6−ヘキサンジオールまたはポリエチレングリコールなどのジオールを用いる環状モノマーの開環重合は、ヒドロキシル末端基のみを有するポリマーをもたらす。
【0139】
熱可逆性ゲルのポリマー系が低温下でより完全に溶けるため、可溶化の方法は低温で使用される水の量に必要とされる量のポリマーを加える工程を含む。一般に、振盪によってポリマーを湿らせた後、混合物をキャップして約0−10°Cの冷室または一定温度の容器に置くことでポリマーを溶解させる。
混合物を撹拌または振盪することで熱可逆性ゲルポリマーの急速な溶解を引き起こす。
【0140】
1つの実施形態では、追加の粘性改良剤を使う必要のない耳に許容可能な医薬ゲル製剤がある。こうしたゲル製剤は少なくとも1つの薬学的に許容可能な緩衝剤を組み込む。1つの態様において、シプロフロキサシンと薬学的に許容可能な緩衝剤を含むゲル製剤がある。別の実施形態では、薬学的に許容可能な賦形剤または担体はゲル化剤である。
【0141】
さらに、シプロフロキサシンと粘性改良剤を含む制御放出製剤またはデバイスが本明細書に記載されている。適切な粘性改良剤としては、ほんの一例として、ゲル化剤および懸濁化剤が挙げられる。1つの実施形態では、粘性を改良する製剤は緩衝剤を含んでいない。他の実施形態では、粘性を改良する製剤は薬学的に許容可能な緩衝剤を含んでいる。必要に応じて、塩化ナトリウムまたは他の等張化剤が張性を調節するために随意に使用される。
【0142】
ほんの一例として、耳に許容可能な粘性剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムが挙げられる。標的とする耳の構造と互換性をもつ他の粘性改良剤としては、限定されないが、アカシア(アラビアゴム)、寒天、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、アルギン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ヒバマタ属の海藻(bladderwrack)、ベントナイト、カルボマー、カラギーナン、カーボポ−ル(Carbopol)、キサンタン、セルロース、微結晶性セルロース(MCC)、セラトニア、キチン、カルボキシメチル化キトサン、ツノマタ属、デキストロース、ファーセレラン(furcellaran)、ゼラチン、ガティガム、グアーガム、ヘクトライト、ラクトース、スクロース、マルトデキストリン、マンニトール、ソルビトール、ハチミツ、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、カラヤゴム、キサンタンガム、トラガカントゴム、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)、オキシポリゼラチン、ペクチン、ポリゲリン、ポビドン、炭酸プロピレン、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)、ポリ(メタクリル酸メトキシエチル)、ポリ(メタクリル酸メトキシエトキシエチル)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、二酸化ケイ素、ポリビニルピロリドン(PVP:ポビドン)、およびSplenda(登録商標)(デキストロース、マルトデキストリン、およびスクラロース)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、粘性を改良する賦形剤はMCCとCMCの組み合わせである。別の実施形態では、粘性改良剤はカルボキシメチル化キトサンまたはキチンとアルギン酸塩の組み合わせである。本明細書で開示されるシプロフロキサシンとのキチンおよびアルギン酸塩の組み合わせは、製剤からのシプロフロキサシンの拡散を制限して、制御放出製剤として役割を果たす。さらに、カルボキシメチル化キトサンとアルギン酸塩の組み合わせは、耳へのシプロフロキサシンの透過性の増加を促すために随意に使用される。
【0143】
いくつかの実施形態では、粘性を改良する製剤は、約0.1mM−約100mMのシプロフロキサシン、薬学的に許容可能な粘性剤、および注射用水を含み、水中の粘性剤の濃度は、約100から約100,000cPの最終的な粘度を備える粘性を改良する製剤を供給するのに十分なものである。特定の実施形態では、ゲルの粘度は、約100から約50,000cP、約100cPから約1,000cP、約500cPから約1500cP、約1000cPから約3000cP、約2000cPから約8,000cP、約4,000cPから約50,000cP、約10,000cPから約500,000cP、約15,000cPから約1,000,000cPまでの範囲である。他の実施形態では、さらにより粘着性の媒体が望ましい場合、生体適合性のゲルは、少なくとも約35重量%、少なくとも約45重量%、少なくとも約55重量%、少なくとも約65重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%、または少なくとも約80重量%程度のシプロフロキサシンを含む。高濃度のサンプルでは、生体適合性の粘性を改良する製剤は、少なくとも約25重量%、少なくとも約35重量%、少なくとも約45重量%、少なくとも約55重量%、少なくとも約65重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約85重量%、少なくとも約90重量%、または少なくとも約95重量%以上のシプロフロキサシンを含む。
【0144】
いくつかの実施形態では、本明細書で提示されるゲル製剤の粘度は、記載される任意の手段によって測定される。例えば、いくつかの実施形態では、LVDV−II+CPCone Plate Viscometer とCone Spindle CPE−40を用いて本明細書に記載されるゲル製剤の粘度を計算する。他の実施形態では、Brookfield(スピンドルとカップ)粘度計を用いて、本明細書に記載されるゲル製剤の粘度を計算する。いくつかの実施形態では、本明細書で言及される粘度範囲は室温で測定される。他の実施形態では、本明細書で言及される粘度範囲は、体温(例えば、健康なヒトの平均体温)で測定される。
【0145】
1つの実施形態では、薬学的に許容可能な粘性を改良する耳に許容可能な製剤は、シプロフロキサシンと少なくとも1つのゲル化剤を含む。ゲル製剤の調製で使用される適切なゲル化剤としては、限定されないが、セルロース、セルロース誘導体、セルロースエーテル(例えば、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース)、ガーゴム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸塩(例えばアルギン酸)、ケイ酸塩、デンプン、トラガント、カルボキシビニルポリマー、カラギーナン、パラフィン、ワセリン、およびこれらの任意の組み合わせまたは混合物が挙げられる。他のいくつかの実施形態では、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Methocel(登録商標))はゲル化剤として利用される。特定の実施形態では、本明細書に記載される粘性を改良する薬剤は、本明細書で提示されるゲル製剤のためのゲル化剤として利用される。
【0146】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される耳の治療薬は、耳に許容可能な塗料として調剤される。本明細書で使用されるように、塗料(paint)(膜形成剤としても知られている)は、溶媒、モノマーまたはポリマー、活性薬剤、および随意に1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤で構成される溶液である。組織への塗布後、溶媒は、モノマーまたはポリマーと活性薬剤で構成された薄い被膜を残して蒸発する。被膜は活性薬剤を保護し、これを塗布部位で固定された状態で維持する。それによって、失われ得る活性薬剤の量が減り、これに応じて被験体に送達される量が増える。非限定的な例として、塗料はコロジオン(例えば、Flexible Collodion(USP))や糖類シロキサンコポリマーと架橋剤を含む溶液を含んでいる。コロジオンはピロキシリン(ニトロセルロース)を含むエチルエーテル/エタノールの溶液である。塗布後、エチルエーテル/エタノールの溶液はピロキシリンの薄膜を残して蒸発する。糖類シロキサンコポリマーを含む溶液では、溶媒の蒸発が糖類シロキサンコポリマーの架橋結合を引き起こした後、糖類シロキサンコポリマーは被膜を形成する。塗料に関するさらなる開示については、Remington: The Science and Practice of Pharmacyを参照する:この文献は主題に本明細書により組み込まれる。本明細書において使用することが企図される塗料は、圧力波が耳を通って伝播するのを妨げることのないように、軟性である。さらに、塗料は、液体(つまり、溶液、懸濁液、またはエマルジョン)、半固体(つまり、ゲル、泡、ペースト、またはゼリー)、またはエアロゾルとして塗布されることもある。
【0147】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される耳の治療薬は、制御放出泡として調剤される。本明細書で開示される組成物中で使用される適切な発泡性の担体の例としては、限定されないが、アルギン酸塩とその誘導体、カルボキシメチルセルロースとその誘導体、コラーゲン、例えば、デキストラン、デキストラン誘導体、ペクチン、デンプン、付加的なカルボキシルおよび/またはカルボキサミド基を有するおよび/または親水性の側鎖を有するデンプンなどの加工デンプン、セルロースとその誘導体、寒天とその誘導体、ポリアクリルアミドで安定化させた寒天、ポリエチレンオキシド、メタクリル酸グリコール、ゼラチン、キサンタンガムのようなゴム、グアーガム、カラヤゴム、ジェランガム、アラビアゴム、トラガントゴム、およびローカストビーンガム、またはこれらの組み合わせを含む多糖類、が挙げられる。さらに、前述の担体、例えば、アルギン酸ナトリウムの塩も適切である。製剤は随意に、界面活性剤または外用の噴霧剤を含む、泡の形成を促す発泡剤をさらに含む。適切な発泡剤の例としては、セトリミド、レシチン、石鹸、シリコーンなどが挙げられる。さらに、Tween(登録商標)のような市販の界面活性剤も適している。
【0148】
他の有用なゲル製剤は本開示の範囲内であると考えられる。例えば、他の市販のグリセリンベースのゲル剤、グリセリン由来の化合物、共役したまたは架橋結合したゲル、マトリックス、ヒドロゲル、およびポリマー、同様に、ゼラチンおよびその誘導体、アルギン酸塩およびアルギン酸塩ベースのゲル、ならびに様々な天然および合成のヒドロゲル、およびヒドロゲル由来の化合物はすべて、本明細書に記載されるシプロフロキサシン製剤に役立つと思われる。いくつかの実施形態では、耳に許容可能なゲル剤としては、限定されないが、アルギン酸塩ヒドロゲルSAF(登録商標)−ゲル(ConvaTec,Princeton、N.J.)、Duoderm(登録商標)Hydroactive Gel(ConvaTec)、Nu−gel(登録商標)(Johnson & Johnson Medical,Arlington、Tex.);Carrasyn(登録商標)(V)Acemannan Hydorogel(Carrington Laboratories,Inc.,Irving、Tex.);グリセリン・ゲルElta(登録商標)Hydrogel(Swiss−American Products, Inc., Dallas, Tex.)、およびK−Y(登録商標)Sterile(Johnson & Johnson)。さらなる実施形態では、生分解性の生体適合性のゲルは、本明細書で記載および開示される耳に許容可能な製剤中に存在する化合物を表す。
【0149】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマーの量は、製剤の全重量の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、または約40%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマーの量は、製剤の全重量の約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、または約25%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約7.5%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約10%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約11%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約12%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約13%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約14%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約15%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約16%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約17%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約18%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約19%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約20%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約21%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約23%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の熱可逆性ポリマー(例えばポロキサマー407)の量は、製剤の全重量の約25%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の増粘剤(例えばゲル化剤)の量は、製剤の全重量の約1%、約5%、約10%、または約15%である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤中の増粘剤(例えばゲル化剤)の量は、製剤の全重量の約0.5%、約1%、約1.5%、約2%、約2.5%、約3%、約3.5%、約4%、約4.5%、または約5%である。
【0150】
哺乳動物への投与のために、およびヒトへの投与のために処方される組成物のために開発されたいくつかの製剤では、耳に許容可能なゲルは、実質的に全重量の組成物を含む。他の実施形態では、耳に許容可能なゲルはの約98重量%または約99重量%もの組成物を含む。これは、実質的に非流体または実質的に粘着性の製剤が必要なときに望ましい。さらなる実施形態では、わずかに粘着性の弱いまたはわずかに流動性の強い耳に許容可能な医薬ゲル製剤が望ましい場合、製剤の生体適合性のゲル部分は、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%もの、または少なくとも90重量%の化合物を含む。こうした範囲内の中間の整数は本開示の範囲内であると企図され、いくつかの他の実施形態では、さらにより流動性の強い(従って粘性の弱い)耳に許容可能なゲル状組成物、例えば、混合物のゲルまたはマトリックス成分が約50重量%以下、約40重量%以下、約30重量%以下、あるいは、約15重量%以下、または約20重量%以下の化合物を含む組成物が処方される。
【0151】
(シプロフロキサシンの濃度)
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される組成物は、組成物の約0.01重量%−約90重量%、約0.01重量%−約50重量%、約0.1重量%−約70重量%、約0.1重量%−約50重量%、約0.1重量%−約40重量%、約0.1重量%−約30重量%、約0.1重量%−約20重量%、約0.1重量%−約10重量%、または約0.1重量%−約5重量%の医薬品活性成分またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩の濃度を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される組成物は、組成物の約1重量%から約50重量%、約5重量%から約50重量%、約10重量%から約40重量%、もしくは約10重量%から約30重量%の医薬品活性成分、または薬学的に許容可能なプロドラッグもしくは塩の濃度を有している。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約70重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約60重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約50重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約40重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約30重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約20重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約15重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約10重量%のシプロフロキサシンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約5重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約2.5重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約1重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約0.5重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約0.1重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の約0.01重量%のシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、製剤の体積の約0.1−約70mg/mL、約0.5mg/mL−約70mg/mL、約0.5mg/mL−約50mg/mL、約0.5mg/mL−約20mg/mL、約1mg−約70mg/mL、約1mg−約50mg/mL、約1mg/mL−約20mg/mL、約1mg/mL−約10mg/mL、または約1mg/mL−約5mg/mLのシプロフロキサシン、またはその薬学的に許容可能なプロドラッグあるいは塩の濃度を有する。
【0152】
(モル浸透圧濃度)
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される耳の組成物またはデバイスは、内耳流体(例えば内リンパおよび/または外リンパ)に適合するイオンの平衡を提供するように処方される。
【0153】
ある例では、内リンパと外リンパのイオン性の組成物は、有毛細胞の電気化学のインパルスを調節し、したがって聴力を調節する。ある例では、耳の有毛細胞に沿った電気化学的刺激の伝導の変化により、聴力損失が引き起こされる。ある例では、内リンパまたは外リンパのイオンバランスの変化により、完全な聴力損失が引き起こされる。ある例では、内リンパまたは外リンパのイオンバランスの変化により、部分的な難聴が引き起こされる。ある例では、内リンパまたは外リンパのイオンバランスの変化により、永久的な聴力損失が引き起こされる。ある例では、内リンパまたは外リンパのイオンバランスの変化により、一時的な聴力損失が引き起こされる。
【0154】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、内リンパのイオンの平衡を妨害しないように処方される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、内リンパと同じか、または実質的に同じイオンバランスを有する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、部分的なまたは完全な聴力損失を引き起こすようには内リンパのイオンのバランスを破壊しない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、一時的または永久的な聴力損失を引き起こすようには内リンパのイオンのバランスを破壊しない。
【0155】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、外リンパのイオンの平衡をほとんど妨害しない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、外リンパと同じか、または実質的に同じイオンのバランスを有する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、外リンパのイオンのバランスを破壊しないため、部分的または完全な聴力損失を引き起こさない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物またはデバイスは、外リンパのイオンのバランスを破壊しないため、一時的または永久的な聴力損失を引き起こさない。
【0156】
本明細書で使用されるように、「実際的なモル浸透圧濃度/モル浸透圧濃度」または「送達可能なモル浸透圧濃度/モル浸透圧濃度」は、ゲル化剤および/または増粘剤(例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー、カルボキシメチルセルロースなど)を除くすべての賦形剤や活性薬剤のモル浸透圧濃度/モル浸透圧濃度を測定することによって決定されるような組成物またはデバイスのモル浸透圧濃度/モル浸透圧濃度を意味する。本明細書に開示される組成物またはデバイスの実際のモル浸透圧濃度は、適切な方法、例えば、Viegas et. al., Int. J. Pharm., 1998, 160, 157−162に記載されるような凝固点降下によって測定される。いくつかの例では、本明細書に開示される組成物またはデバイスの実際的なモル浸透圧濃度は、高温度で組成物またはデバイスのモル浸透圧濃度の測定を可能にする蒸気圧浸透圧測定(例えば蒸気圧降下方法)により測定される。いくつかの例では、蒸気圧降下方法により、高温度でのゲル化剤(例えば熱可逆性ポリマー)を含む組成物またはデバイスのモル浸透圧濃度の測定が可能となり、ゲル化剤はゲルの形態である。
【0157】
いくつかの実施形態では、作用の標的部位のモル浸透圧濃度は、本明細書に記載される組成物またはデバイスの送達されるモル浸透圧濃度(つまり、標的部位に架橋するまたは浸透する材料のモル浸透圧濃度)とほぼ同じである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される組成物またはデバイスは、約150mOsm/L−約500mOsm/L、約250mOsm/L−約500mOsm/L、約250mOsm/L−約350mOsm/L、約280mOsm/L−約370mOsm/L、または約250mOsm/L−約320mOsm/Lの送達可能なモル浸透圧濃度を有する。
【0158】
本明細書で開示される耳の組成物またはデバイスの実際的なモル浸透圧濃度は、約100mOsm/kgから約1000mOsm/kg、約200mOsm/kgから約800mOsm/kg、約250mOsm/kgから約500mOsm/kg、約250mOsmkgから約320mOsm/kg、または約250mOsm/kgから約350mOsmkg、または約280mOsm/kgから約320mOsm/kgである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される組成物またはデバイスは、約100mOsm/L−約1000mOsm/L、約200mOsm/L−約800mOsm/L、約250mOsm/L−約500mOsm/L、約250mOsm/L−約350mOsm/L、約250mOsm/L−約320mOsm/L、または約280mOsm/L−約320mOsm/Lの実際的なモル浸透圧濃度を有する。
【0159】
内リンパ中に存在する主なカチオンはカリウムである。加えて、内リンパは高濃度の正に荷電したアミノ酸を備える。外リンパ中に存在する主なカチオンはナトリウムである。ある例では、内リンパと外リンパのイオンの組成物は、有毛細胞の電気化学的刺激を調節する。ある例では、内リンパまたは外リンパのイオンのバランスの任意の変化が、耳の有毛細胞に沿った電気化学的刺激の伝導の変化により聴力損失をもたらす。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、外リンパのイオンのバランスを崩さない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、外リンパと同じ、または外リンパと実質的に同じイオンのバランスを有する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、内リンパのイオンのバランスを崩さない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、内リンパと同じ、または外リンパと実質的に同じイオンのバランスを有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される耳科用製剤は、内耳流体(例えば、内リンパおよび/または外リンパ)と適合するイオンのバランスを提供するように処方される。
【0160】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤の送達可能なモル浸透圧濃度は標的とされる耳の構造(例えば、内リンパ、外リンパなど)と等張になるように設計される。特定の実施形態では、本明細書に記載される耳の組成物は、約250−約320mOsm/L、好ましくは、約270−約320mOsm/Lの作用の標的部位で送達される外リンパに適切なモル浸透圧濃度を提供するために処方される。特定の実施形態では、本明細書に記載される耳の組成物は、約250−約320mOsm/kgのH
2Oの作用標的部位で送達される外リンパに適切なモル浸透圧濃度、または、約270−約320mOsm/kgのH
2Oのモル浸透圧濃度を提供するように処方される。特定の実施形態では、製剤の送達可能なモル浸透圧濃度/モル浸透圧濃度(つまり、ゲル化または増粘剤(例えば、熱可逆性ゲルポリマー)の存在しない状態での製剤のモル浸透圧濃度/モル浸透圧濃度)は例えば、適切な塩濃度(例えば、カリウムまたはナトリウム塩の濃度)の使用によって、あるいは標的部位での送達時に製剤を内リンパに適合させるおよび/または外リンパに適合させ(つまり、内リンパおよび/または外リンパで等張にする)等張化剤の使用によって、調節される。熱可逆性ゲルポリマーを含む製剤のモル浸透圧濃度は、ポリマーのモノマー単位と変動する水の量との関係性ゆえに、信頼性の低い尺度である。製剤の実際的なモル浸透圧濃度(つまり、ゲル化剤または増粘剤(例えば熱可逆性ゲルポリマー)のない状態でのモル浸透圧濃度)は信頼できる尺度であり、任意の適切な方法(例えば凝固点降下方法、蒸気降下方法)によって測定される。いくつかの例では、本明細書に記載される製剤は、耳の環境に最小限の妨害しかもたらさず、投与時に哺乳動物に最小限の不快感(例えば、眩暈および/または悪心)しかもたらさない、送達可能なモル浸透圧濃度(例えば、標的部位(例えば、外リンパ)で)を提供する。
【0161】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤も外リンパおよび/または内リンパと等張である。等張な製剤は等張化剤を加えることで提供される。適切な等張化剤は限定されないが、任意の薬学的に許容可能な砂糖、塩、またはその任意の組み合わせもしくは混合物、限定されないが、デキストロース、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、および他の電解質を含む。いくつかの実施形態では、等張化剤は非聴覚毒性である。
【0162】
有用な耳の組成物は、組成物のモル浸透圧濃度を許容範囲にするのに必要な量の1つ以上の塩を含む。こうした塩は、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムのカチオン、ならびに塩化物、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、または重亜硫酸塩のアニオンを含み、適切な塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、および、硫酸アンモニウムを含む。
【0163】
(pH)
内リンパと外リンパは血液の生理的なpHに近いpHを有する。内リンパは約7.2−7.9のpH領域を有し、外リンパは約7.2−7.4のpH領域を有する。近位の内リンパのインサイツのpHは約7.4であり、その一方で遠位の内リンパのpHは約7.9である。
【0164】
他の実施形態では、有用な耳に許容可能なシプロフロキサシン製剤は、内リンパまたは外リンパに適切なpHを供給するために1つ以上のpH調整剤または緩衝剤をさらに含む。適切なpH調節剤または緩衝剤は、限定されないが、酢酸塩、重炭酸塩、塩化アンモニウム、クエン酸塩、リン酸塩、その薬学的に許容可能な塩、およびその組み合わせ、またはその混合物を含む。こうしたpH調整剤と緩衝剤は、約5−約9のpH、1つの実施形態では、約6.5−約7.5のpH、さらに別の実施形態では、約6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5のpHの組成物のpHを維持するのに必要な量で含まれている。1つの実施形態では、1つ以上の緩衝剤が本開示の製剤で利用される場合、これらは、例えば、薬学的に許容可能なビヒクルと組み合わされ、および、例えば、約0.1%から約20%、約0.5%から約10%までの範囲の量で最終製剤中に存在する。本開示の特定の実施形態では、ゲル製剤に含まれり緩衝剤の量は、ゲル製剤のpHが、中耳または内耳の天然の緩衝系に干渉しないような、あるいは、内リンパまたは外リンパの天然のpHに干渉しないような量である。いくつかの実施形態では、約10μMから約200mMの濃度の緩衝剤がゲル製剤中に存在する。ある実施形態では、約5mMから約200mMの濃度の緩衝剤が存在する。ある実施形態では、約20mMから約100mMの濃度の緩衝剤が存在する。1つの実施形態では、弱酸性のpHの酢酸塩またはクエン酸塩のような緩衝剤がある。1つの実施形態では、緩衝剤は、約4.5−約6.5のpHを有する酢酸ナトリウム緩衝剤である。1つの実施形態では、緩衝剤は、約5.0−約8.0または約5.5−約7.0のpHを有するクエン酸ナトリウム緩衝剤である。
【0165】
他の実施形態では、使用される緩衝剤は、わずかに塩基性のpHのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、重炭酸塩、炭酸塩、またはリン酸塩である。1つの実施形態では、緩衝剤は、約6.5−約8.5または約7.0−約8.0のpHを有する重炭酸ナトリウム緩衝剤である。別の実施形態では、緩衝剤は、約6.0−約9.0のpHを有するリン酸ナトリウム二塩基性緩衝剤である。
【0166】
1つの実施形態では、1つ以上の緩衝剤が本開示の製剤中で利用される場合、これらは例えば、薬学的に許容可能なビヒクルと組み合わされ、および、例えば、約0.1%から約20%、約0.5%から約10%までの範囲の量で最終製剤中に存在する。本開示のある実施形態では、ゲル製剤に含まれる緩衝剤の量は、ゲル製剤のpHが身体の天然の緩衝系を妨げないような量である。
【0167】
1つの実施形態では、希釈剤はより多くの安定した環境を提供することができることから化合物を安定させるためにも使用される。緩衝液(pHの制御または維持をもたらし得る)中で溶解した塩は、限定されないが、リン酸緩衝生理食塩溶液を含む当技術分野の希釈剤として利用される。
【0168】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意のゲル製剤は、シプロフロキサシン、またはゲルを含むポリマーを分解することなく、ゲル製剤の滅菌(例えば、濾過または無菌の混合、あるいは加熱処理および/または高圧蒸気滅菌法(例えば、末端の滅菌)による)を可能にするpHを有する。滅菌中に耳科用薬剤および/またはゲルポリマーの加水分解および/または分解を減らすために、緩衝剤のpHは、滅菌(例えば高温高圧蒸気滅菌法)のプロセス中に7−8の領域中で製剤のpHを維持することを目的としている。
【0169】
特定の実施形態では、本明細書に記載される任意のゲル製剤は、シプロフロキサシンまたはゲルを含むポリマーを分解することなく、ゲル製剤の末端の滅菌(例えば、加熱処理および/または高圧蒸気滅菌法による)を可能にするpHを有する。例えば、高圧蒸気滅菌中に耳科用薬剤および/またはゲルポリマーの加水分解および/または分解を減らすために、緩衝剤のpHは高温で7−8の範囲で製剤のpHを維持するように設計される。製剤中で使用される耳科用薬剤に依存して任意の適切な緩衝剤が用いられる。いくつかの例では、温度がほぼ−0.03/°Cで増加するにつれてTRISのpKaが減少し、温度がほぼ0.003/°Cで増加するにつれてPBSのpKaが増加することから、250°F(121°C)での高圧蒸気滅菌法は、トリス緩衝剤中で著しい下方へのpHの変化(つまり、より酸性)を引き起こすが、PBS緩衝剤中では上方へのpH変化は比較的少なく、したがって、PBS中よりもTRIS中で耳科用薬剤の加水分解および/または分解が増加した。耳科用薬剤の分解は、本明細書に記載されるような緩衝剤とポリマー添加剤(例えばCMC)の適切な組み合わせの使用によって減らされる。
【0170】
いくつかの実施形態では、約5.0−約9.0、約5.5−約8.5、約6.0−約7.6、約7−約7.8、約7.0−約7.6、約7.2−7.6、または約7.2−約7.4の製剤のpHが、本明細書に記載される耳科用製剤の滅菌(例えば、濾過または無菌の混合または加熱処理および/または高圧蒸気滅菌法(例えば末端の滅菌)による)に適している。特定の実施形態では、約6.0−約6.5、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、または約7.6の製剤のpHは、本明細書に記載される任意の組成物の滅菌(例えば、濾過または無菌の混合または加熱処理および/または高圧蒸気滅菌法(例えば末端の滅菌)による)に適している。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される医薬製剤は、少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約3日、少なくとも約4日、少なくとも約5日、少なくとも約6日、少なくとも約1週、少なくとも約2週、少なくとも約3週、少なくとも約4週、少なくとも約5週、少なくとも約6週、少なくとも約7週、少なくとも約8週、少なくとも約1か月、少なくとも約2か月、少なくとも約3か月、少なくとも約4か月、少なくとも約5か月、または少なくとも約6か月のいずれかの期間にわたって、pHに関して安定している。他の実施形態では、本明細書に記載される製剤は、少なくとも約1週間、pHに関して安定している。さらに、少なくとも約1か月間pHに関して安定している製剤が本明細書に記載されている。
【0171】
(粒径)
径の減少は表面積を増加させるために、および/または製剤溶解特性を調節するために使用される。径の減少は、本明細書に記載される任意の製剤について、一貫した平均粒度分布(PSD)(例えば、マイクロメートルサイズの粒子、ナノメートルサイズの粒子など)を維持するために用いられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤は、多微粒子、つまり、複数の粒径(例えば、微粉化した粒子、ナノサイズの粒子、分類されていない粒子、コロイド粒子)を含み、つまり、製剤は多微粒子状の製剤である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の製剤も1つ以上の多微粒子状(例えば、微粉化した)の治療薬を含む。微粒子化は固形材料の粒子の平均直径を減らすプロセスである。微粉化した粒子は、直径でほぼマイクロメートルのサイズから直径でほぼナノメートルのサイズまでである。いくつかの実施形態では、微粉化した固体中の粒子の平均直径は約0.5μmから約500μmまでである。いくつかの実施形態では、微粉化した固体中の粒子の平均直径は約1μmから約200μmまでである。いくつかの実施形態では、微粉化した固体中の粒子の平均直径は約2μmから約100μmまでである。いくつかの実施形態では、微粉化した固体中の粒子の平均直径は約3μmから約50μmまでである。いくつかの実施形態では、微粒子の微粉化した固体は、約5ミクロン未満、約20ミクロン未満、および/または約100ミクロン未満の粒径を含む。いくつかの実施形態では、シプロフロキサシンの微粒子(例えば、微粉化粒子)を用いることにより、非多微粒子状のシプロフロキサシンを含む製剤と比較して、本明細書に記載される任意の製剤からのシプロフロキサシンの持続放出および/または徐放が可能となる。いくつかの例では、多微粒子状の(例えば、微粉化した)シプロフロキサシンを含む製剤は、栓をしたり塞いだりすることのなく27Gの針とともに適した1mLのシリンジから放出される。
【0172】
いくつかの例では、本明細書に記載される任意の製剤中の任意の粒子は、コーティングされた粒子(例えば、コーティングされた微粉化粒子、ナノ粒子)および/またはミクロスフェアおよび/またはリポソーム粒子である。微粉化技術は、例として、粉砕、摩砕(例えば、空気摩擦摩鉱(ジェットミル)、ボールミル磨砕)、コアセルベーション、複雑なコアセルベーション、高圧均質化、噴霧乾燥、および/または超臨界流体結晶化を含む。いくつかの例では、粒子は、機械的な影響により(例えば、ハンマーミル、ボールミル、および/またはピンミルにより)大きさを決められる。いくつかの例では、粒子は、流体エネルギーにより(例えば、スパイラルジェットミル、ループジェットミル、および/または流動床ジェットミルにより)大きさを決められる。いくつかの実施形態製剤では、本明細書に記載される製剤は、結晶粒子および/または等方粒子を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、非晶質粒子および/または異方性の粒子を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は治療薬の粒子を含み、治療薬は治療薬の遊離塩基、塩、または、プロドラッグ、もしくはその任意の組み合わせを含む。
【0173】
多微粒子物および/または本明細書に記載される微粉化したシプロフロキサシン製剤は、固体、液体、またはゲルマトリックスを含む任意のタイプのマトリックスによって耳構造(例えば中耳)に送達される。いくつかの実施形態では、多微粒子物および/または本明細書に記載される微粉化したシプロフロキサシンは、鼓室内注入によって固体、液体、またはゲルマトリックスを含む任意のタイプのマトリックスによって耳構造(例えば中耳)に送達される。
【0174】
(耳のシプロフロキサシン製剤の治療用途)
(耳の解剖学的構造)
図4に示されるように、外耳はこの器官の外部部分であり、耳介(心耳)、耳道(外耳道)、および鼓膜(tympanic membrane)(鼓膜(tympanic membrane)としても知られている)の、外部に面する部分からなる。頭の横で目に見える外耳の肉の部分である耳介は音波を集めて、それを耳道に向ける。したがって、外耳の機能とは1つには音波を集め、鼓膜と中耳へ向けることである。
【0175】
中耳は鼓膜の後ろの鼓室と呼ばれる空気で膨らんだ空洞である。鼓膜(tympanic membrane)(鼓膜(ear drum)としても知られている)は、中耳と外耳を分ける薄い膜である。中耳は側頭骨内にあり、この空間内に3つの耳骨(耳小骨):槌骨、キヌタ骨、およびアブミ骨を含む。耳小骨は、鼓室の空間を横切って架け橋を形成する小さな靭帯によって一緒に連結される。一方の端部で鼓膜に付いている槌骨はその前方の端部でキヌタ骨に連結され、これが順にアブミ骨に連結している。アブミ骨は、鼓室内にある2つの卵円窓の1つの卵円窓に付いている。環状靭帯としても知られている線維組織層は卵円窓にアブミ骨を接続する。外耳からの音波はまず鼓膜を振動させる。振動は耳小骨と卵円窓を通って蝸牛全体に送信され、これが内耳中の流体に運動を伝える。したがって、耳小骨は鼓膜と液体で満たされた内耳の卵円窓との間で機械的結合を与えるように配され、音は変形・変換されて内耳に入り、さらに処理される。耳小骨、鼓膜、または卵円窓の堅さ、硬直性、または移動の喪失は、聴力損失、例えば、耳硬化症、またはアブミ骨の硬直化の原因となる。
【0176】
鼓室は耳管によって咽喉にも繋がっている。耳管は外部空気と中耳腔との間の圧力を等しくする能力を与える。内耳の一構成要素であるが鼓室内にも到達可能である正円窓は、内耳の蝸牛に開口している。正円窓は正円窓膜により覆われており、これは3層:外部または粘液層、中間または腺維層、および蝸牛の流体と直接連通する内膜からなる。ゆえに、正円窓は内膜を介して内耳と直接連通している。
【0177】
卵円窓と正円窓での動作は相互につながっており、つまり、あぶみ骨が鼓膜からの動きを卵円窓へ伝えることで内耳流体に対して内側に動くにつれ、正円窓(正円窓膜)はこれに呼応して押し出されて蝸牛流体から遠ざかる。正円窓のこの動作により蝸牛内での流体の移動が可能となり、これが蝸牛の内毛細胞の移動を引き起こし、聞こえている信号を変換することを可能にする。蝸牛の流体の移動の能力が欠けているため、正円窓膜の剛性と硬直性は聴力損失の原因となる。最近の研究は正円窓上に機械的な変換器を埋め込むことに焦点を当てており、これは卵円窓を通る正常な導電性の経路を迂回し、増幅された入力を蝸牛室に与えるものである。
【0178】
聴覚の信号伝達は内耳内で起こる。液体で満たされた内耳(auris interna)(またはinner ear)は2つの構成要素:蝸牛と前庭器からなる。内耳は頭蓋の側頭骨中の入り組んだ一連の通路骨である迷路(osseous or bony labyrinth))内にその一部がある。前庭は平衡の器官であり、三半規管と前庭からなる。三半規管は、空間中の3つの直交面に沿った頭部の移動が、流体の移動と、膨大部綾と呼ばれる三半規管の感覚器による信号処理のその後の動作とによって検知することができるように、互いに対して配される。膨大部綾は有毛細胞と支持細胞を含み、頂と呼ばれるドーム型のゼラチン状の塊により覆われる。有毛細胞の毛は頂に埋め込まれている。三半規管は動的平衡、回転運動と角運動の平衡を検知する。
【0179】
頭をすばやく回転させるとき、三半規管は頭とともに動くが、膜質の三半規管にある内リンパ流体は静止したままである傾向にある。内リンパ流体は頂を押圧し、この頂が一方の側に傾く。頂が傾斜するにつれて、頂は膨大部綾の有毛細胞に毛の一部を折り曲げ、これが感覚刺激を引き起こす。それぞれの三半規管が異なる面に位置するので、各三半規管の対応する膨大部綾は頭の同じ動作に対して異なるように応答する。これにより刺激の寄せ集めが形成され、これは内耳神経の前庭枝上の中枢神経系に送信される。中枢神経系はこの情報を解釈し、平衡を維持するために適切な反応を始める。中枢神経系では小脳が重要であり、これはバランス感覚と平衡感覚を媒介する。
【0180】
前庭は内耳の中心部分であり、静的均衡、または重力に対する頭の位置を確認する有毛細胞を有する機械受容器を含む。頭が静止しているか、またはまっすぐに動いているとき、静的均衡は一定の役割を果たしている。前庭の膜迷路は、2つの嚢のような構造である、卵形嚢および球形嚢に分けられる。それぞれの構造は斑と呼ばれる小さな構造を含み、これが静的均衡の維持に関与する。斑は感覚毛細胞からなり、これは斑を覆うゼラチン状の塊(頂に似ている)に埋め込まれている。耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの粒は、ゼラチン状の層の表面上に埋め込まれている。
【0181】
頭が直立位置にいるあるとき、毛は斑に沿って直線である。頭を傾けると、ゼラチン状の塊と耳石がそれに対応して傾斜し、斑の有毛細胞の毛の一部を曲げる。この曲げ作用により中枢神経系に対する信号刺激が開始され、信号刺激は内耳神経の前庭枝を通って伝わり、これが運動心拍を適切な筋肉に伝えることでバランスが維持される。
【0182】
蝸牛は聴力に関連する内耳の部分である。蝸牛はカタツムリに似た形状に巻かれた先細りのチューブのような構造である。蝸牛の内部は3つの領域に分けられ、これは前庭膜と基底膜の位置によってさらに定義される。前庭膜の上の部分は前庭階であり、これは卵円窓から蝸牛の頂端まで伸びており、カリウム含有量が少なく、ナトリウム含有量が多い水性液である外リンパ流体を含む。基底膜は鼓室階領域を定義し、それは蝸牛の頂端から正円窓に伸びており、外リンパもさらに含む。基底膜は何千もの堅い繊維を含み、これは正円窓から蝸牛の頂端まで長さが徐々に増加する。音によって活性化されると、基底膜の繊維は振動する。前庭膜と鼓室階の間は蝸牛管であり、これは蝸牛の頂端で閉じられた嚢として終わる。蝸牛管は内リンパ流体を含み、これは脳脊髄液に似ていてカリウムが多い。
【0183】
聴力の感覚器であるコルチ器官は基底膜に位置し、上方へ伸びて蝸牛管に達する。コルチ器官はその自由表面から伸びる毛髪様の突起を有する有毛細胞を含み、蓋膜と呼ばれるゼラチン状の表面と接触する。有毛細胞に軸索はないが、内耳神経(第III脳神経)の蝸牛枝を形成する感覚神経繊維に囲まれる。
【0184】
議論されるように、楕円窓としても知られている卵円窓は、あぶみ骨と連通することで、鼓膜から振動する音波を中継する。卵円窓に伝えられる振動は、外リンパと前庭膜/鼓室階によって流体で満たされた蝸牛の内部の圧力を増加させ、それにより正円窓膜は反応して拡大する。卵円窓の協調した内部押圧/正円窓の外部への拡張により、蝸牛内の圧力を変化させることなく、蝸牛内の流体の移動が可能となる。しかしながら、振動が前庭膜中の外リンパを通って伝わるため、振動は前庭膜中で対応する発振を生成する。こうした対応する発振は蝸牛管の内リンパを通って伝わり、基底膜へと移動する。基底膜が振動するか、または上下に移動するとき、コルチ器官は基底膜と共に動く。その後、コルチ器官中の有毛細胞受容体は蓋膜とは逆の方向に動き、蓋膜中の機械的な変形を引き起こす。この機械的な変形が神経インパルスを開始し、これは内耳神経を介して中枢神経系に移動し、受け取った音波を信号へと機械的に送信し、信号は中枢神経系によりその後処理される。
【0185】
耳の障害または疾病
外耳炎(swimmer's ear)とも呼ばれる外耳炎(Otitis externa)(OE)は、外耳及び/又は外耳道の炎症である。OEは、主に外耳中の細菌(例えば、Pseudomonas aeruginosaとStaphylococcus aureus)または真菌(例えば、Candida albicansとAspergillus)によって引き起こされ、これらは外耳道の皮膚の損傷後に感染を確立する。
OEの症状は、耳痛、腫れ、および耳漏を含む。疾病が著しく進行した場合、OEは、腫れと分泌の結果として一時的な伝音難聴を引き起こすことがある。OEの処置は、外耳道から悪化する病原体を除去し、炎症を軽減することを含み、これは、通常、抗菌剤(例えば、シプロフロキサシン)と抗炎症剤(例えば、ステロイド)との組み合わせを投与することによって達成される。
【0186】
中耳炎(OM)は中耳の炎症である。細菌感染は、Streptococcus pneumoniae感染に起因する事例の40%を超えて、OMの事例の大部分を占める。
しかしながら、他の微生物と同様にウイルスも、OMの疾病の主たる原因となることがある。OMが、ウイルス、細菌またはその両方によって引き起こされる場合、根本的な病原体を除去するために、シプロフロキサシンが使用される。
【0187】
梅毒は、スピロヘータ・梅毒トレポネーマ(spirochete Treponema pallidum)によって引き起こされる性病であり、結果として、膜迷路炎および二次的な髄膜炎が原因で、耳の障害、特に蝸牛前庭の障害につながり得る。後天性および先天性の梅毒の両方は、耳の障害を引き起こしかねない。梅毒に起因する蝸牛前庭の障害の症状は、AIEDとメニエール病のような他の耳の障害の症状に類似することが多く、耳鳴、難聴、眩暈、倦怠感、咽喉痛、頭痛、および皮疹を含む。
【0188】
内耳梅毒(耳の症状を示す梅毒)の処置は、典型的に、ステロイドと抗菌剤の組み合わせを含む。こうした処置は、炎症を抑えつつ、スピロヘータ生物体を根絶するのに効果的なことがある。しかしながら、トレポネーマは身体中の他の部位からの根絶後でも蝸牛および前庭の内リンパに残ることがある。したがって、内リンパ流体からのスピロヘータ生物体の完全な根絶を達成するために、ペニシリンを用いる長期的な処置が必要とされ得る。
【0189】
耳の障害(例えば、OE、OM、および内耳梅毒)の処置のための全身の抗菌薬投与は、血清中のより高い循環レベルおよび標的の耳器官構造中のより低いレベルの薬物濃度で潜在的な不等性をもたらし得る。その結果、かなり大量の薬物が、その十分な、治療上有効な量を耳に送達するために、この不等性を克服するべく必要とされる。さらに、バイオアベイラビリティは、肝臓による薬物の代謝により低下することが多い。加えて、全身の薬物投与により、標的部位への十分な局所的な送達を有効にするのに必要な高い血清量の結果として、全身毒性と有害な副作用の可能性が増大することがある。全身毒性は、治療薬の肝臓での分解および処理の結果として生じ、投与された治療薬により達成されたあらゆる恩恵を事実上無にする有毒な代謝産物を形成することがある。
【0190】
(細胞に対して毒性であると一般に理解される)シプロフロキサシンの全身送達の毒性および付随する望まれない副作用を克服するために、本明細書には、中耳及び/又は内耳構造へのシプロフロキサシンの局所送達のための方法および組成物が開示される。さらなる又は代替的な実施形態では、耳制御放出製剤は、鼓室内注入によって投与することができる。いくつかの実施形態では、耳制御放出製剤は、シリンジおよび針によって適用され、ここで、針は、鼓膜に通して挿入され、中耳における標的部位の領域へと導入される。
【0191】
耳構造中に存在する生物学的な血液関門に加えて、シプロフロキサシン製剤および組成物の局所的な標的化が要因で、副作用の危険性は、以前に特徴づけられた毒性または効果がないシプロフロキサシンでの処置の結果として低下する。抗生物質が全身に投与されるときの抗生物質耐性の発達の危険性と比較して、抗菌剤組成物の局所的な投与によって、抗生物質耐性の発達の危険性は低下する。本明細書に記載される組成物は、(例えば、抗生物質耐性の発達に応じて)処置レジメンを変更する必要なく、例えば、子どもの再発性の耳感染症を含む再発性の耳の疾患または疾病に効果的である。したがって、本明細書の実施形態の範囲内で、外耳炎、中耳炎、ラムゼイ・ハント症候群、内耳梅毒、AIED、メニエール病、および前庭ニューロン炎を含む、耳の疾患または疾病の処置における、シプロフロキサシンの副作用または無効性が原因で従事者によって以前に拒絶された治療薬を含むシプロフロキサシンの使用も熟考される。
【0192】
本明細書に開示される実施形態内にはまた、本明細書に開示されるシプロフロキサシン製剤および組成物と組み合わせた、追加の中耳及び/又は内耳に許容可能な薬剤の使用が包含される。こうした薬剤は、使用されるときに、眩暈、耳鳴、聴力損失、平衡障害、感染症、炎症反応、またはこれらの組み合わせを含む自己免疫障害に起因する聴力または平衡感覚の喪失または機能不全の処置に役立つ。したがって、眩暈、耳鳴、聴力損失、平衡障害、感染症、炎症反応、またはそれらの組み合わせの影響を改善または低下させる薬剤も、本明細書に記載されるシプロフロキサシン製剤と組み合わせた使用が熟考される。
【0193】
いくつかの実施形態では、組成物はさらに、即時放出薬剤としてシプロフロキサシンを含み、ここで、即時放出シプロフロキサシンは、制御放出薬剤と同じ薬剤、異なる抗菌剤、追加の治療薬、またはそれの組み合わせである。いくつかの実施形態では、組成物は、追加の抗菌剤、抗炎症剤、コルチコステロイド、細胞毒性薬、抗TNF薬剤、コラーゲン、ガンマ−グロブリン、インターフェロン、血小板活性化因子アンタゴニスト、一酸化窒素合成酵素阻害剤、またはこれらの組み合わせを含む、追加の治療薬をさらに含む。別の態様では、追加の治療薬は、即時放出性または制御放出性の薬剤である。
【0194】
いくつかの実施形態では、追加の治療薬は即時放出薬剤である。いくつかの実施形態では、追加の治療薬は制御放出薬剤である。
【0195】
したがって、本明細書には、中耳及び/又は内耳の構造を局所的に処置するための、制御放出シプロフロキサシン製剤および組成物が提供され、それによって、シプロフロキサシンの全身投与の結果として副作用を回避する。局所的に適用されたシプロフロキサシン製剤および組成物は、中耳及び/又は内耳の構造との適合性があり、望ましい中耳及び/又は内耳の構造(例えば鼓室)にどちらかに直接投与される。中耳または内耳の構造を特異的に標的とすることによって、全身の処置の結果としての有害な副作用が回避される。さらに、耳の障害を処置するための制御放出シプロフロキサシン製剤または組成物の提供によって、シプロフロキサシンの一定の及び/又は拡大された供給源が、耳の障害を患う個体または患者に提供され、処置のばらつき(variability)が減少または除去される。
【0196】
治療薬の鼓室内注入はまた、治療薬を鼓膜の後ろから中耳及び/又は内耳に注入する技術を含む。
【0197】
しかしながら、鼓室内注入は、外リンパと内リンパのモル浸透圧濃度およびpHの変化、および耳構造を直接的または間接的に損傷する病原体および内毒素の導入などの、現在利用可能な処置レジメンによって対処されない幾つかの認識されていない問題を引き起こす。当該技術がこれらの問題を認識していないかもしれない理由の1つは、承認された鼓室内組成物がないことであり、中耳および内耳は、独特な製剤の課題(challenges)を提供する。したがって、身体の他の部分のために開発される組成物は、鼓室内組成物にはほとんど又はまったく関係がない。
【0198】
ヒトへの投与に適した耳科用製剤のための要件(例えば、滅菌、pH、モル浸透圧濃度のレベル)に関する先行技術におけるガイダンスはない。種を超えて動物の耳には広大な解剖学的な相違がある。聴覚構造の種間の差の結果として、耳疾患の動物モデルは、しばしば、臨床承認のために開発されている治療薬を試験するためのツールとしては信頼できない。
【0199】
本明細書には、pH、モル浸透圧濃度、イオンバランス、滅菌、内毒素及び/又は発熱物質のレベルに対する厳格な基準を満たす耳科用製剤が提供される。本明細書に記載される耳組成物は、耳(例えば中耳)の微小環境と適合性があり、ヒトへの投与に適している。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される製剤は、色素を含み、鼓室内の治療薬の前臨床及び/又は臨床の開発の間に侵襲的処置(例えば、外リンパの除去)の必要性を回避する投与された組成物の可視化を助ける。
【0200】
本明細書には、標的とされた耳構造を局所的に処置するための制御放出シプロフロキサシン製剤および組成物が提供され、それによって、シプロフロキサシン製剤および組成物の全身投与の結果としての副作用を回避する。局所的に適用されたシプロフロキサシン製剤と組成物およびデバイスは、標的とされた耳構造と適合性があり、望ましい標的とされた耳構造(例えば、蝸牛領域、鼓室、外耳)のいずれかに直接投与される。耳構造を具体的に標的とすることによって、全身療法の結果としての有害な副作用は回避される。さらに、臨床研究は、例えば、治療薬が複数回与えられるときの突発難聴の改善された臨床効果とともに、蝸牛の外リンパへの薬物の長期間の暴露の恩恵を示した。それ故、耳の障害を処置するための制御放出シプロフロキサシン製剤または組成物の提供によって、シプロフロキサシンの一定の及び/又は拡大された供給源が、耳の障害を患う個体または患者に提供され、処置のばらつきが減少または除去される。したがって、本明細書に開示される1つの実施形態は、少なくとも1つの薬剤の連続的な放出を確かなものとするなど、シプロフロキサシンを、変動する割合または一定割合のいずれかで治療上有効な量で放出することを可能にする組成物を提供することである。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるシプロフロキサシンは、即時放出製剤または組成物として投与される。他の実施形態では、シプロフロキサシンは、徐放性製剤として投与され、継続的に、可変的に又は拍動様式のいずれかで放出され、あるいは その変異体として投与される。さらに別の実施形態では、シプロフロキサシン製剤は、即時放出製剤と徐放性製剤の両方として投与され、継続的に、可変的に又は拍動様式のいずれかで放出され、あるいは その変異体として投与される。放出は、随意に、環境条件または生理的条件、例えば、外部のイオン環境に依存する(例えば、Oros(登録商標)release system, Johnson & Johnsonを参照)。
【0201】
加えて、本明細書で包含されるシプロフロキサシン組成物または製剤あるいはデバイスはまた、担体、保存剤、安定剤、湿潤剤または乳化剤などのアジュバント、溶液促進剤、浸透圧を調節するための塩、及び/又は緩衝液を含む。こうした担体、アジュバント、および他の賦形剤は、標的とされる耳構造中の環境と適合する。したがって、標的とされる部分または領域で最小の副作用を伴う本明細書で熟考される耳の障害の有効な処置を可能にするために、耳毒性を欠くか又はは聴覚毒性が最小である担体、アジュバント、および賦形剤が、本明細書に記載される組成物またはデバイスに関して具体的に熟考される。
【0202】
組成物またはデバイスの鼓室内注入は、組成物またはデバイスが投与可能となる前に対処されなければならない幾つかの追加の問題を引き起こす。例えば、聴覚毒性である多くの賦形剤がある。これらの賦形剤は、別の方法による送達(例えば、局所)のための活性薬剤を製剤するときに使用することができるが、それらの使用は、送達デバイスを、それらの内毒性効果が原因で耳に投与されるように製剤するときに、限定、減少、または除去されるべきである。
【0203】
限定しない例として、以下の一般に使用される溶媒の使用は、耳への投与のための薬剤を製剤するときに、限定、減少、または除去されるべきである:アルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサン。それ故、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、アルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサンを含まないか又は実質的を含まない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約50ppm未満の各々のアルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約25ppm未満の各々のアルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約20ppm未満の各々のアルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約10ppm未満の各々のアルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約5ppm未満の各々のアルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約1ppm未満の各々のアルコール、プロピレングリコール、およびシクロヘキサンを含む。
【0204】
さらに、限定しない例として、以下の一般に利用される保存剤の使用は、耳への投与のための薬剤を製剤するときに、限定、減少、または除去されるべきである:塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサール。それ故、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサールを含まないか又は実質的を含まない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約50ppm未満の各々の塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサールを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約25ppm未満の各々の塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサールを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約20ppm未満の各々の塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサールを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約10ppm未満の各々の塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサールを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約5ppm未満の各々の塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサールを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約1ppm未満の各々の塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、およびチオメルサールを含む。
【0205】
治療用調製物(または調製物を投与するために利用されるデバイス)の成分を消毒するために使用される特定の防腐剤は、耳科用調製物において限定、減少、または除去されるべきである。例えば、酢酸、ヨウ素、およびメルブロミンはすべて、聴覚毒性であることが知られている。さらに、一般に使用される防腐剤であるクロルヘキシジンは、微小な濃度(例えば0.05%)でも聴覚毒性が高いことから、耳科用調製物(調製物を投与するために使用されるデバイスを含む)のあらゆる成分を消毒するために、限定、減少、または除去されるべきである。それ故、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、酢酸、ヨウ素、メルブロミン、およびクロルヘキシジンを含まないか又は実質的に含まない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約50ppm未満の各々の酢酸、ヨウ素、メルブロミン、およびクロルヘキシジンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約25ppm未満の各々の酢酸、ヨウ素、メルブロミン、およびクロルヘキシジンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約20ppm未満の各々の酢酸、ヨウ素、メルブロミン、およびクロルヘキシジンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約10ppm未満の各々の酢酸、ヨウ素、メルブロミン、およびクロルヘキシジンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約5ppm未満の各々の酢酸、ヨウ素、メルブロミン、およびクロルヘキシジンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約1ppm未満の各々の酢酸、ヨウ素、メルブロミン、およびクロルヘキシジンを含む。
【0206】
さらに、耳科用調製物は、内毒性であると知られている低濃度の幾つかの潜在的に一般的な汚染物質を特に必要とする。他の剤形は、これらの化合物に起因する汚染を制限しながらも、耳科用調製物が必要とする厳格な使用上の注意を必要としない。例えば、以下の汚染物質は、耳科用調製物に存在してはならず、またはほとんど存在してはならない:ヒ素、鉛、水銀、およびスズ。それ故、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるデバイスは、ヒ素、鉛、水銀、およびスズを含まないか又は実質的に含まない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約50ppm未満の各々のヒ素、鉛、水銀、およびスズを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約25ppm未満の各々のヒ素、鉛、水銀、およびスズを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約20ppm未満の各々のヒ素、鉛、水銀、およびスズを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約10ppm未満の各々のヒ素、鉛、水銀、およびスズを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約5ppm未満の各々のヒ素、鉛、水銀、およびスズを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたデバイスは、約1ppm未満の各々のヒ素、鉛、水銀、およびスズを含む。
【0207】
聴覚毒性を防ぐために、本明細書に開示されるシプロフロキサシン組成物または製剤あるいはデバイスは、随意に、限定されないが鼓室を含む、標的とされた耳構造の異なる領域へと標的化される。
【0208】
耳科手術およびインプラント
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される医薬製剤、組成物またはデバイスは、インプラント(例えば人工内耳)と組み合わせて(例えば、移植、短期使用、長期使用、または除去)使用される。本明細書で使用されるように、インプラントは、内耳または中耳の医療機器を含み、それらの例は、人工内耳、聴力温存デバイス、聴力改善デバイス、短電極、鼓膜切開チューブ、微小な人工器官またはピストンのような人工器官;針;幹細胞移植片;薬物送達デバイス;任意の細胞ベースの治療薬などを含む。いくつかの例では、インプラントは、聴力損失を受ける患者とともに使用される。いくつかの例では、聴力損失は出生時に見られる。いくつかの例では、聴力損失は、蝸牛構造の急速な閉塞と深刻な聴力損失を伴う骨形成(osteoneogenesis)及び/又は神経損傷につながる、AIED、細菌性髄膜炎などの疾病に関係している。
【0209】
いくつかの例では、インプラントは、耳における免疫細胞または幹細胞の移植片である。いくつかの例では、インプラントは、耳の後ろに置かれる外側部分、および皮膚の下に外科的に置かれる第2部分を有する、小型電子デバイスであり、これは、深刻に聾であるか又はひどく難聴である人に音の感覚を提供する助けとなる。一例として、そのような蝸牛の医療機器インプラントは、耳の損傷部分をバイパスし、聴神経を直接刺激する。いくつかの例では、人工内耳は、片耳聾において使用される。いくつかの例では、人工内耳は、両耳聾に使用される。
【0210】
いくつかの実施形態では、耳に対する介入(例えば、鼓室内注入、アブミ骨摘出、鼓膜切開、医療機器インプラント細胞ベースの移植)と組み合わせた、本明細書に記載されるシプロフロキサシン組成物の投与は、外部からの耳に対する介入(例えば、耳における外部デバイス及び/又は細胞の導入)によって引き起こされる、耳構造への付随的損傷(例えば、刺激、炎症及び/又は感染)を遅らせるか又は防ぐ。いくつかの実施形態では、インプラント単独と比較して、インプラントと組み合わせた、本明細書に記載されるシプロフロキサシン組成物の投与によって、聴力損失のより有効な回復が可能となる。
【0211】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるシプロフロキサシン組成物の投与は、根本的な疾患(例えば、細菌性髄膜炎、自己免疫性耳疾患(AIED))によって引き起こされた蝸牛構造に対する損傷を減少させ、蝸牛デバイスの埋め込みを成功させることができる。いくつかの実施形態では、耳科手術、医療機器の埋め込み及び/又は細胞移植と組み合わせた、本明細書に記載される組成物またはデバイスの投与は、耳科手術、医療機器の埋め込み及び/又は細胞移植に関係する細胞の損傷及び/又は炎症を減少させるか又は防ぐ。
【0212】
いくつかの実施形態では、人工内耳または幹細胞移植と組み合わせた、本明細書に記載されるシプロフロキサシン組成物(例えば、コルチコステロイドを含む組成物またはデバイス)の投与は、栄養作用を有する(例えば、インプラントまたは移植片の領域において細胞の健全な成長及び/又は組織の治癒を促進する)。いくつかの実施形態では、栄養作用は、耳科手術または鼓室内注入の処置の間に望まれる。いくつかの実施形態では、栄養作用は、医療機器の導入または細胞移植の後に望まれる。いくつかの実施形態では、医療機器は、耳における埋め込み前に本明細書に記載される組成物でコーティングされる(coated)。
【0213】
いくつかの実施形態では、抗炎症または免疫抑制の組成物(例えば、コルチコステロイドなどの免疫抑制剤を含む組成物)の投与は、耳科手術、医療機器の埋め込み又は細胞移植に関係する炎症及び/又は感染を減少させる。いくつかの例では、本明細書に記載されるシプロフロキサシン製剤及び/又は本明細書に記載される抗炎症製剤による手術部分の灌流は、術後及び/又は埋め込み後の合併症(例えば、炎症、細胞損傷、感染、骨形成など)を減少させるか又は除去する。いくつかの例では、本明細書に記載される製剤による手術部分の灌流は、術後または埋め込み後の回復時間を減少させる。
【0214】
一態様では、本明細書に記載される製剤、およびその投与の様式は、中耳区画の直接灌流の方法に適用可能である。それ故、本明細書に記載される製剤は、耳に対する介入と組み合わせると有用である。いくつかの実施形態では、耳に対する介入は、埋め込み処置(例えば、蝸牛における補聴デバイスの埋め込み)である。いくつかの実施形態では、耳に対する介入は、限定しない例として、蝸牛開窓、迷路切開、乳突削開術、アブミ骨摘出、アブミ骨手術、鼓膜切開、内リンパ球嚢切開術などを含む、外科的処置である。いくつかの実施形態では、中耳区画は、耳に対する介入の前、間、または後に、あるいはその組み合わせで、本明細書に記載される製剤によって灌流される。
【0215】
いくつかの実施形態では、灌流が耳に対する介入と組み合わせて行われるときに、シプロフロキサシン組成物は、即時放出組成物(例えば、シプロフロキサシンを含む組成物)である。そのような実施形態のいくつかでは、本明細書に記載される即時放出製剤は、増粘されていない組成物であり、持続放出成分(例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーなどのゲル化成分)を実質的に含まない。そのような実施形態のいくつかでは、組成物は、製剤の5重量%未満の持続放出成分(例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロックコポリマーなどのゲル化成分)を含有している。
そのような実施形態のいくつかでは、組成物は、製剤の2重量%未満の持続放出成分(例えばポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロックコポリマーなどのゲル化成分)を含有している。そのような実施形態のいくつかでは、組成物は、製剤の1重量%未満の持続放出成分(例えばポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロックコポリマーなどのゲル化成分)を含有している。そのような実施形態のいくつかでは、手術部分の灌流に使用される、本明細書に記載される組成物は、ゲル化成分を実質的に含んでおらず、即時放出組成物である。
【0216】
特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、耳に対する介入前(例えば、医療機器または細胞ベースの治療薬の埋め込み前)に投与される。特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、耳に対する介入の間(例えば、医療機器または細胞ベースの治療薬の埋め込みの間)に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、耳に対する介入後(例えば、医療機器または細胞ベースの治療薬の埋め込み後)に投与される。そのような実施形態のいくつかでは、耳に対する介入後に投与される本明細書に記載された組成物は、即時(intermediate)放出または持続放出の組成物(例えば、抗生物質を含む組成物、抗炎症剤を含む組成物、抗生物質と抗炎症剤を含む組成物など)であり、本明細書に記載されるようなゲル化成分を含有している。いくつかの実施形態では、インプラント(例えば、鼓膜切開チューブ)は、耳における挿入前に本明細書に記載される組成物またはデバイスでコーティングされる。
【0217】
投薬の方法とスケジュール
中耳または内耳に送達される薬物は、経口、静脈内または筋肉内の経路で全身に投与されている。しかしながら、中耳または内耳に局所的な病状のための全身投与は、全身毒性および有害な副作用の可能性を増加させ、薬物の非生産的な分布をもたらし、ここで、高レベルの薬物が血清中で見られ、相応して、より低いレベルの薬物が中耳または内耳で見られる。
【0218】
治療薬の鼓室内注入は、治療薬を鼓膜の後ろから中耳及び/又は内耳に注入する技術である。一実施形態では、本明細書に記載される製剤は、鼓室内注入によって鼓室に直接投与される。別の実施形態では、本明細書に記載される耳に許容可能なシプロフロキサシン製剤は、中耳または内耳への非鼓室内のアプローチによって鼓室上に投与される。
【0219】
一実施形態では、送達システムは、鼓膜を貫通することができ、鼓室に直接アクセスすることができる、シリンジおよび針の装置である。いくつかの実施形態では、シリンジ上の針は、18ゲージの針より広い。別の実施形態では、針のゲージは、18ゲージから31ゲージまでである。さらなる実施形態では、針のゲージは、25ゲージから30ゲージまでである。シプロフロキサシン組成物または製剤の濃さまたは粘度によって、シリンジまたは皮下注射針のゲージレベルは変動し得る。別の実施形態では、針の内径は、針の壁厚(薄壁またはさらなる薄壁の針として一般に言及される)を縮小して、十分な針のゲージを維持する間に針が詰まる可能性を減少させることによって増大され得る。
【0220】
別の実施形態では、針は、ゲル製剤の即時送達に使用される皮下注射針である。皮下注射針は、1回用の針または使い捨ての針であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるような薬学的に許容可能なゲルベースのシプロフロキサシンを含有している組成物の送達に、シリンジが使用されてもよく、ここで、シリンジは、プレスばめ(press−fit)(Luer)またはねじ込み(ルアーロック)フィッティング(twist−on (Luer−lock) fitting)を有する。一実施形態では、シリンジは皮下注射器である。別の実施形態では、シリンジはプラスチックまたはガラスで作られている。さらに別の実施形態では、皮下注射器は1回用のシリンジである。さらなる実施形態では、ガラスシリンジは滅菌することができる。またさらなる実施形態では、滅菌はオートクレーブを介して生じる。別の実施形態では、シリンジは、円筒状のシリンジ本体を含み、ここで、ゲル製剤が使用前に保存される。他の実施形態では、シリンジは、円筒状のシリンジ本体を含み、ここで、本明細書に開示されるような薬学的に許容可能なゲルベースのシプロフロキサシン組成物が、使用前に保存され、これにより、適切な薬学的に許容可能な緩衝液との混合が好都合に可能となる。他の実施形態では、シリンジは、シプロフロキサシンまたは他の医薬化合物を安定化するか又は安定して保存するための、他の賦形剤、安定剤、懸濁化剤、希釈剤またはそれらの組み合わせを含有し得る。
【0221】
いくつかの実施形態では、シリンジは、円筒状のシリンジ本体を含み、ここで、本体は、各区画が耳に許容可能なシプロフロキサシンのゲル製剤の少なくとも1つの成分を保存することができるように区画されている。さらなる実施形態では、区画された本体を有するシリンジは、中耳または内耳への注入前の成分の混合を可能にする。他の実施形態では、送達システムは、複数のシリンジを含み、複数のシリンジの各シリンジは、ゲル製剤の少なくとも1つの成分を含有し、その結果、各成分は、注入前に予め混合されるか又は注入に続いて混合される。さらなる実施形態では、本明細書に開示されるシリンジは、少なくとも1つのリザーバーを含み、ここで、少なくとも1つのリザーバーは、シプロフロキサシン、薬学的に許容可能な緩衝液、またはゲル化剤などの粘度増強剤、あるいはそれらの組み合わせを含む。市販の注入デバイスは、鼓室内注入を行うために、シリンジバレルを備えた既製のプラスチックシリンジ、針を備えた針アセンブリ、プランジャーロッドを備えたプランジャー、および保持フランジとしてのそれらの最も簡単な形態で随意に利用される。
【0222】
いくつかの実施形態では、送達デバイスは、中耳及び/又は内耳への治療薬の投与のために設計された装置である。ほんの一例として、GYRUS Medical Gmbhは、正円窓窩の可視化および正円窓窩への薬物送達のためのマイクロオトスコープ(micro−otoscopes)を提供し、Arenbergは、米国特許第5,421,818号;第5,474,529号;および第5,476,446号(その各々は、そのような開示のための引用によって本明細書に組み込まれる)において内耳構造に流体を送達するための医療処置デバイスを記載している。米国特許出願第08/874,208号(そのような開示のための引用によって本明細書に組み込まれる)は、内耳に治療薬を送達するために流体移送導管を埋め込むための外科的方法を記載している。米国特許出願公開第2007/0167918号(そのような開示のための引用によって本明細書に組み込まれる)は、鼓室内の流体サンプリングおよび薬剤適用のための耳科用アスピレーターと薬剤用ディスペンサーの組み合わせをさらに記載している。
【0223】
本明細書に記載されるシプロフロキサシンを含有している耳に許容可能な組成物または製剤は、予防的な及び/又は治療上の処置のために投与される。治療適用において、シプロフロキサシン組成物は、自己免疫性の疾患、疾病または障害を既に患う患者に対して、その疾患、疾病または障害を治癒する又は少なくとも部分的に抑制するのに十分な量で投与される。この使用に対する有効な量は、疾患、障害または疾病の重症度および経過、前の治療、患者の健康状態および薬物に対する反応、ならびに処置する医師の判断に依存する。
【0224】
投与の頻度
いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物は、必要のある個体に1回投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物は、必要のある個体に2回以上投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物の最初の投与の後に、本明細書に開示された組成物の第2の投与が続く。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物の最初の投与の後に、本明細書に開示された組成物の第2および第3の投与が続く。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物の最初の投与の後に、本明細書に開示された組成物の第2、第3、および第4の投与が続く。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物の最初の投与の後に、本明細書に開示された組成物の第2、第3、第4、および第5の投与が続く。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物の最初の投与の後に、休薬期間が続く。
【0225】
組成物が必要のある個体に投与される回数は、医療用専門家の裁量、障害、障害の重症度、および製剤に対する個体の反応に依存する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物は、その軽症の急性疾患を有する必要とする個体に1回投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示された組成物は、その中程度の急性疾患を有する必要とする個体に2回以上投与される。患者の状態が改善しない場合、医者の判断によって、患者の疾患または疾病の症状を改善する又はさもなければ制御または制限するために、シプロフロキサシンが、慢性的に、すなわち、患者の生涯の期間を含む長期間の間投与され得る。
【0226】
患者の状態が改善しない場合、医者の判断によって、患者の疾患または疾病の症状を改善する又はさもなければ制御または制限するために、シプロフロキサシンが、慢性的に、すなわち、患者の生涯の期間を含む長期間の間投与され得る。
【0227】
患者の状態が改善する場合、医者の判断によって、シプロフロキサシンが、継続的に投与され得るか、代替的に、投与されている薬物の量が、一時的に減少され得るか、または特定の期間の間一時的に停止され得る(つまり、「休薬日」)。休薬期間の長さは、2日から1年の間で変化し、ほんの一例として、2日、3日、4日、5日、6日、7日、10日、12日、15日、20日、28日、35日、50日、70日、100日、120日、150日、180日、200日、250日、280日、300日、320日、350日、および、365日を含む。休薬期間中の用量減少は、10%−100%の間であり得、ほんの一例として、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、および100%を含む。
【0228】
患者の耳の状態が改善したならば、必要に応じて、シプロフロキサシンの維持量が投与される。続いて、投与量または投与の頻度、またはその両方は、随意に、症状に応じて、改善された疾患、障害または疾病が保持されるレベルまで減少される。特定の実施形態では、患者は、症状が再発すると、長期間にわたって間欠処置を必要とする。
【0229】
そのような量に相当するシプロフロキサシンの量は、例えば、投与経路、処置されている自己免疫性疾患、処置されている標的部位、処置されている被験体または宿主を含む、取り巻く特定の状況に従って、特定の化合物、疾患の状態およびその重症度などの要因によって変動する。しかしながら、一般に、成人のヒトの処置のために利用される投与量は、典型的に、1回の投与当たり0.02−50mgの範囲、好ましくは1回の投与当たり1−15mgの範囲である。望ましい投与量は、単回投与量で、または同時に(または短期間にわたって)または適切な間隔で投与される分割量として示される。
【0230】
耳科用製剤の薬物動態
一実施形態では、本明細書に開示される製剤は、1分以内、または5分以内、または10分以内、または15分以内、または30分以内、または60分以内、または90分以内に、組成物からのシプロフロキサシンの即時放出を追加で提供する。他の実施形態では、治療上有効な量のシプロフロキサシンが、すぐに、または1分以内、または5分以内、または10分以内、または15分以内、または30分以内、または60分以内、または90分以内に、組成物から放出される。特定の実施形態では、組成物は、シプロフロキサシンの即時放出を提供する耳に薬学的に許容可能なゲル製剤を含む。製剤の追加の実施形態はまた、含まれる製剤の粘度を増強する薬剤を含む。
【0231】
他の又はさらなる実施形態では、製剤は、持続放出製剤シプロフロキサシンを提供する。特定の実施形態では、製剤からのシプロフロキサシンの拡散が、5分、または15分、または30分、または1時間、または4時間、または6時間、または12時間、または18時間、または1日、または2日、または3日、または4日、または5日、または6日、または7日、または10日、または12日、または14日、または18日、または21日、または25日、または30日、または45日、または2か月、または3か月、または4か月、または5か月、または6か月、または9か月、または1年を超過する期間の間生じる。他の実施形態では、治療上有効な量のシプロフロキサシンが、5分、または15分、または30分、または1時間、または4時間、または6時間、または12時間、または18時間、または1日、または2日、または3日、または4日、または5日、または6日、または7日、または10日、または12日、または14日、または18日、または21日、または25日、または30日、または45日、または2か月、または3か月、または4か月、または5か月、または6か月、または9か月、または1年を超過する期間の間、製剤から放出される。
【0232】
他の実施形態では、製剤は、シプロフロキサシンの即時放出および持続放出両方の製剤を提供する。さらに他の実施形態では、製剤は、0.25:1の比率、または0.5:1の比率、または1:1の比率、または1:2の比率、または1:3の比率、または1:4の比率、または1:5の比率、または1:7の比率、または1:10の比率、または1:15の比率、または1:20の比率の即時放出と持続放出の製剤を含有している。さらなる実施形態では、製剤は、第1シプロフロキサシンの即時放出および第2シプロフロキサシンの持続放出または他の治療薬を提供する。さらに他の実施形態では、製剤は、シプロフロキサシンの即時放出と持続放出の製剤、および少なくとも1つの治療薬を提供する。いくつかの実施形態では、製剤は、それぞれ、0.25:1の比率、または0.5:1の比率、または1:1の比率、または1:2の比率、または1:3の比率、または1:4の比率、または1:5の比率、または1:7の比率、または1:10の比率、または1:15の比率、または1:20の比率の第1シプロフロキサシンの即時放出と持続放出の製剤および第2治療薬を提供する。
【0233】
具体的な実施形態では、製剤は、全身暴露が本質的にない疾患の部位に治療上有効な量のシプロフロキサシンを提供する。追加の実施形態では、製剤は、検知可能な全身暴露が本質的にない疾患の部位に治療上有効な量のシプロフロキサシンを提供する。他の実施形態では、製剤は、検知可能な全身暴露がほとんどない又はまったくない疾患の部位に治療上有効な量のシプロフロキサシンを提供する。
【0234】
即時放出、遅延放出性及び/又は持続放出のシプロフロキサシン組成物または製剤の組み合わせは、他の医療薬剤に加えて、賦形剤、希釈剤、安定剤、等張化剤および本明細書に開示される他の成分と組み合わせてもよい。そのため、望まれる濃さまたは粘度、あるいは選ばれる送達の様式に依存して、本明細書に開示される実施形態の代替的な態様は、それに応じて、即時放出、遅延放出及び/又は持続放出の実施形態と組み合わせられる。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるシプロフロキサシン製剤の薬物動態が、試験動物(一例として、モルモットまたはチンチラで含む)への製剤の鼓室内注入によって判定される。決められた期間で(例えば、1週間の期間にわたって製剤の薬物動態を試験するために、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、および7日)、試験動物は安楽死させられ、耳におけるシプロフロキサシンのレベルが測定される。加えて、シプロフロキサシンの全身レベルは、試験動物から血液サンプルを採取することによって測定される。製剤が聴力を妨害するかどうかを判断するために、試験動物の聴力が、随意に試験される。
【0235】
図5は、4つの組成物からの活性薬剤の予測される調整可能な放出を示す。
【0236】
キット/製品
本開示はまた、哺乳動物における疾患または障害の症状を予防する、処置する、または改善するためのキットを提供する。そのようなキットは、一般に、本明細書に開示された制御放出シプロフロキサシン組成物またはデバイス、およびキットを使用するための説明書の1つ以上を含む。本開示はまた、耳疾患を有する、それを有する疑いのある、またはそれを進行させる危険性のある、ヒトなどの哺乳動物において、疾患、機能不全、障害の症状を処置する、軽減する、低減する、または改善するための薬物の製造における、制御放出シプロフロキサシン組成物の1つ以上の使用を熟考する。
【0237】
いくつかの実施形態では、キットは、担体、パッケージ、またはバイアル、チューブなどの1つ以上の容器を受けるように区画されている容器を含み、容器の各々は、本明細書に記載される方法で使用される個別の要素の1つを含む。適切な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、および試験管を含む。他の実施形態では、容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成される。
【0238】
本明細書で提供される製品は、パッケージング材を含む。医薬品のパッケージングに使用されるパッケージング材も、本明細書に示される。例えば、米国特許第5,323,907号、第5,052,558号、および第5,033,252号を参照。医薬用のパッケージング材としては、限定されないが、ブリスターパック、瓶、チューブ、吸入器、ポンプ、バッグ、バイアル、容器、シリンジ、瓶、および選択された製剤および投与および処置の意図された様式に適したパッケージング材が挙げられる。本明細書で提供される多くのシプロフロキサシン製剤組成物は、耳へのシプロフロキサシンの制御放出の投与から利益を得るであろう、疾患、障害、または疾病に対する様々な処置のためのものとして熟考される。
【0239】
いくつかの実施形態では、キットは、1つ以上の追加の容器を含み、その各々は、本明細書に記載される製剤の使用に関する商用およびユーザの見地から望ましい、様々な材料(随意に濃縮形態の試薬、及び/又はデバイスなど)の1つ以上を有する。こうした材料の非限定的な例としては、限定されないが、緩衝液、賦形剤、フィルター、針、シリンジ;担体、パッケージ、容器、バイアル及び/又はチューブ、内容物をリストするラベル、及び/又は使用説明書および使用説明書が付いた添付文書が挙げられる。1セットの説明書が随意に含まれる。さらなる実施形態では、ラベルは、容器上にあるか又は容器に関連付けられている。またさらなる実施形態では、ラベルは、ラベルを形成する字、数または他の文字が、容器自体に付けられている、成型されている、またはエッチングされているときに容器上にあり、ラベルは、例えば添付文書として、容器も保持するレセプタクルまたはキャリアー内に存在する容器に関連付けられている。他の実施形態では、内容物が具体的な治療適用に使用されることを示すために、ラベルが使用される。さらに別の実施形態では、ラベルはまた、本明細書に記載される方法などの、内容物の使用のための指示を示している。
【0240】
特定の実施形態では、医薬組成物は、本明細書で提供される化合物を含有している1対上の単位剤形を含むパックまたはディスペンサーデバイスに供給される。別の実施形態では、パックは、例えば、ブリスターパックなどの、金属またはプラスチック箔を含む。さらなる実施形態では、パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随する。またさらなる実施形態では、パックまたはディスペンサーにはまた、医薬品の製造、使用、または販売を規制する政府機関によって規定された形態での容器に関連付けられた通知書が付随し、該通知書は、ヒトまたは動物への投与のための薬物の形態の政府機関による承認を反映している。別の実施形態では、そのような通知書は、例えば、処方薬のために米国食品薬品局によって承認されたラベル化、または承認された製品説明書である。さらに別の実施形態では、適合性のある医薬担体中で製剤された本明細書で提供される化合物を含有している組成物も調製され、適切な容器に入れられ、示された疾病の処置に関してラベル付けされる。
【実施例】
【0241】
実施例1 − シプロフロキサシンの形態(無水物/水和物) − 乾燥減量
本開示に記載されるシプロフロキサシンのサンプルの形態を評価するために、比較実験が、加熱後のサンプルの重量減少を評価するために行われる。重量の2%未満の減少は、一般に、サンプルが無水物形態であることを示す。他方で、重量の10%を超える減少は、一般に、サンプルが水和物形態であることを示す。実験の条件および結果を以下のように要約する:
【0242】
【表1】
【0243】
最初のエントリーは、シプロフロキサシン無水物が、オーブン加熱後に1%未満の重量を失っていることを示す。第2のエントリーは、シプロフロキサシン水和物が、オーブン加熱後に10%を超える重量を失っていることを示す。第3のエントリーは、シプロフロキサシン無水物が、水と混合した後に水和物形態に変換されることを示す(混合物から分離された固形物が、オーブン加熱後に10%を超える重量を失うため)。第4のエントリーは、第3のエントリーにおけるシプロフロキサシン水和物の懸濁液が、高温での加熱後に、熱い懸濁液において無水物形態に戻ることを示す。最後に、最後のエントリーは、高温で加熱した熱い懸濁液中のシプロフロキサシンが、クールダウンの間に再水和されることを示す。特定の理論に縛られることなく、水和物−無水物−水和物の転換が、本明細書に記載されるシプロフロキサシン懸濁液の凝固に寄与することが熟考される。
【0244】
実施例2 − シプロフロキサシンの形態(無水物/水和物) − X線の特徴づけ
図1は、シプロフロキサシン無水物(下)、シプロフロキサシン水和物(中)、および本開示の方法によって形成された水性のシプロフロキサシン懸濁液(上)のX線の特徴づけを示す。
図2は、(クールダウンなしの)135度での加熱滅菌後の水性のシプロフロキサシン懸濁液のX線の特徴づけを示す。限定しない滅菌の例において、
図1の下のX線の特徴づけを有する乾燥粉末のシプロフロキサシンの遊離塩基無水物が使用される。これは、水に加えられるときに、直ちに水和する。顕著なことに、シプロフロキサシンは、この工程の間に形態を変え(粒度の増大を示し、長い針の形成を視覚的に示す)、濃くなる(および凝固可能となる)。これは、クールダウンの間の凝固に類似し得、これは、高温の無水物から低温の水和物へと戻る転換が、凝固を引き起こすことに関係することを示唆している。
【0245】
ここで
図1を参照すると、下のX線の特徴づけはシプロフロキサシン無水物を表わし、中央のX線の特徴づけはシプロフロキサシン水和物を表わす。ここで
図2を参照すると、X線の特徴づけは、135℃(クールダウンなし)での加熱滅菌後の水性のシプロフロキサシン懸濁液を表わす。これらの限定しない例のX線の特徴づけの比較は、水性のシプロフロキサシン懸濁液が高温(例えば135℃)で加熱されるときの無水物形態のシプロフロキサシンの存在を示唆している。
【0246】
この熱いシプロフロキサシンの遊離塩基(無水物)懸濁液は、冷まされると凝固する。この凝固した物質は水和物形態であることが示される。
【0247】
図1を再び参照すると、下のX線の特徴づけはシプロフロキサシン無水物を表わし、中央のX線の特徴づけはシプロフロキサシン水和物を表わす。上のX線の特徴づけは、クールダウン後の低温暴露(例えば100℃−120℃)での加熱滅菌後の水性のシプロフロキサシン懸濁液を表わす。これらの限定しない例のX線の特徴づけの比較は、水性のシプロフロキサシン懸濁液がクールダウン後の低温暴露(例えば100℃−120℃)で加熱されるときの水和物形態のシプロフロキサシンの存在を示唆している。
【0248】
実施例3 − シプロフロキサシンの加熱滅菌
本明細書に記載される滅菌プロセスの特徴を実証するために、3回の製造実験が、Alliance Medical Products (9342 Jeronimo Rd, Irvine, CA 92618)によって行われ、その結果を以下に要約する。
Engineering (Process Development) Manufacturing Run, Protocol 14047:2時間105℃の暴露;シプロフロキサシン懸濁液の凝固はない。
Engineering (Process Development) Manufacturing Run, Protocol 14047 追補1:1時間115℃の暴露;シプロフロキサシン懸濁液の凝固はない。
Engineering (Process Development) Manufacturing Run, Protocol 13156:20分間>121.5℃の暴露;シプロフロキサシン懸濁液は凝固した。
【0249】
製造プロセス中の形態の変動はまた、結果としてシプロフロキサシンAPIの粒度の変化をもたらす。シプロフロキサシンの遊離塩基の無水のAPI粉末は、15μmより下のD90の典型的な粒度を有し、水和物形態への転換後に、粒度はおよそ60μmのD90に増大する。最終的な医薬品は約25μmのD90の粒度を有する。特定の理論に縛られることなく、限定されないが、滅菌プロセスの間のより低い滅菌温度及び/又は懸濁液の均質化の使用を含む、本明細書に記載される滅菌方法の1つ以上の特徴は、懸濁液および最終生産物中のシプロフロキサシンの粒度分布に寄与するだろう。いくつかの実施形態では、懸濁液および最終生産物中のシプロフロキサシンの粒度分布に寄与するのは、滅菌プロセスの間のより低い滅菌温度及び/又は懸濁液の均質化の使用である。
【0250】
実施例4 − 希釈剤組成物の濾過滅菌
加熱滅菌されたシプロフロキサシン懸濁液は、希釈剤組成物と混合することなどによって、既製の医薬品へとさらに処理され得る。この例において、希釈剤組成物は、以下のように調製された、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー(例えばポロキサマー407)、緩衝剤(トロメタミン)、モル浸透圧濃度調節剤(例えば塩化ナトリウム)、およびpH調整剤(塩酸)の水溶液である。
【0251】
濃縮したポロキサマー407緩衝液は、およそ2℃−7℃で、圧力下において、窒素散布(nitrogen sparging)を行いながら、すべての成分を混合し、溶解することによって調製される。ポロキサマー407緩衝した希釈剤組成物は、シプロフロキサシン懸濁液とのさらなる組み合わせのために、0.22μmのフィルターに通して滅菌濾過される。
【0252】
実施例5:滅菌濾過のための製造条件の決定
部屋の温度は、19℃以下に溶液の温度を保持するために、25℃未満に維持される。
溶液の温度は、容器を冷蔵/冷却する必要なく、製造の開始から最大3時間まで19℃未満に維持される。
【0253】
17.3cm
2の表面積を有する3つの異なるSartoscale(Sartorius Stedim)フィルターは、20psiおよび14℃の溶液で評価される。
1)Sartopore 2、0.2μmの5445307HS−FF(PES)、16mL/分の流速
2)Sartobran P、0.2μmの5235307HS−FF(セルロースエステル)、12mL/分の流速
3)Sartopore 2 XLI、0.2μmの5445307IS−FF(PES)、15mL/分の流速
【0254】
Sartopore 2のフィルター5441307H4−SSが使用され、濾過は、16psiの圧力で0.015m
2の表面積を有する、0.45、0.2μmのSartopore 2 150無菌カプセル(Sartorius Stedim)を使用して、溶液温度で実行される。流速は16psiでのおよそ100mL/分で測定され、流速に変化はないが、温度は6.5℃−14℃の範囲で維持される。圧力を低下させ、溶液の温度を上昇させることによって、溶液の粘度の増大が原因である流速の低下が引き起こされる。溶液の変色がプロセスの間にモニタリングされる。
【0255】
【表2】
【0256】
粘度、TgelおよびUV/Vis吸収は、濾過評価前に確認される。UV/Visスペクトルは、Evolution 160 UV/Vis (Thermo Scientific)によって得られる。250−300nmの範囲のピークは、原材料(ポロキサマー)中に存在するBHT安定剤に起因する。表3は、濾過前後の上記の溶液の物理化学的性質をリストする。
【0257】
【表3】
【0258】
上記のプロセスは、17%のP407製剤の製造に適用可能であり、室内条件の温度分析を含む。好ましくは、19℃の最高温度によって、製造の間に容器を冷却するコストを減少する。いくつかの例では、ジャケットを付けられた(jacketed)容器はさらに、製造の問題を緩和するために溶液の温度を制御するように使用される。
【0259】
実施例6 − 既製のシプロフロキサシンポロキサマー製剤の調製
この限定しない例において、実施例3でのように調製されたシプロフロキサシン懸濁液おポロキサマー407希釈剤は、無菌状態で一緒に混合され、鼓室内投与された組成物に対する高い滅菌要件を満たす、既製の耳科用製剤が形成される。典型的な製剤は、室温で注射可能な液体であり、鼓室内送達後に耳においてゲル化する熱可逆性ゲルとして以下に提供される。
【0260】
【表4】
【0261】
該製剤は、製剤の1グラム当たり約50コロニー形成単位(cfu)未満の微生物製剤を有し、被験体の体重1kg当たり約5エンドトキシン単位(EU)未満を有する。
該組成物は、鼓室内投与に適している。
【0262】
実施例7 − シプロフロキサシンポロキサマー製剤を含有している既製のバイアルの調製
実施例6の製剤を、無菌容器(例えばバイアル)に充填し、栓をし、蓋をして、すべてを無菌プロセス下に置いて、鼓室内投与に対する滅菌要件を満たす、既製の医療/製薬用の製品が形成される。バイアル中の製剤は、製剤の1グラム当たり約50コロニー形成単位(cfu)未満の微生物製剤を有し、被験体の体重1kg当たり約5エンドトキシン単位(EU)未満を有する。
【0263】
実施例8 − モルモット中のシプロフロキサシン製剤の鼓室内注入のインビボ試験。
21のモルモット(Charles River、体重200−300gの雌)のコホートに、実施例6または実施例7で調製された50μLの異なるP407シプロフロキサシン製剤を鼓室内注入する。1日目に動物に投薬する。製剤のための放出特性は、外リンパの分析に基づいて判定される。
【0264】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に示され記載されているが、そのような実施形態はほんの一例として提供される。本明細書に記載される実施形態の様々な代替案が、本発明の実施に随意に利用される。以下の請求項が本発明の範囲を定義するものであり、これらの請求項の範囲内の方法および構造とそれらの同等物がそれによって包含されるものであることが意図されている。