(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297258
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】マイクロ波距離測定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/02 20060101AFI20180312BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20180312BHJP
G01B 15/04 20060101ALI20180312BHJP
C21B 7/24 20060101ALI20180312BHJP
H01Q 15/08 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
G01S7/02 202
G01S7/03 246
G01B15/04 C
C21B7/24 302
H01Q15/08
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-2393(P2013-2393)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-134447(P2014-134447A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年10月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄住金テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(72)【発明者】
【氏名】遠山 治幸
(72)【発明者】
【氏名】尾形 知輝
(72)【発明者】
【氏名】秋元 哲哉
【審査官】
三田村 陽平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−321325(JP,A)
【文献】
特開2011−145237(JP,A)
【文献】
特開2010−230661(JP,A)
【文献】
特開2000−174543(JP,A)
【文献】
特開昭63−229385(JP,A)
【文献】
特開2006−003162(JP,A)
【文献】
特開2010−096588(JP,A)
【文献】
特開2008−145412(JP,A)
【文献】
特開昭63−100331(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0105300(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
G01B 15/00−15/08
G01B 21/00−21/32
C21B 7/00− 9/16
H01Q 15/00−19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波の発信および受信が可能なマイクロ波送受信器と、
マイクロ波を放射するアンテナと、
前記マイクロ波送受信器と前記アンテナとを連結する導波管と、
マイクロ波透過材と、を有し、
前記マイクロ波送受信器から発信されたマイクロ波が前記アンテナから放射され、前記マイクロ波透過材を透過して測定対象物に照射される距離測定装置において、
前記マイクロ波透過材は、マイクロ波の発信方向に対して直角方向から傾斜角度を有して設置され、
マイクロ波が前記マイクロ波透過材を通過する距離が、式(1)で求められる厚さtに近似するように、前記マイクロ波透過材の板厚および前記傾斜角度を設定することを特徴とする、マイクロ波距離測定装置。
t=λ/(2√ε)×n (1)
ただし、
λ:マイクロ波の波長(mm)
ε:マイクロ波透過材の誘電率
n:自然数
【請求項2】
前記マイクロ波透過材は、誘電率が5以下の材料であることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波距離測定装置。
【請求項3】
前記マイクロ波透過材は、石英ガラスであることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載のマイクロ波距離測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いた距離測定装置に関するものであり、詳しくは、マイクロ波透過材を介して測定対象物にマイクロ波を照射し、反射波を受信して測定対象物までの距離を算出するマイクロ波距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1等において、高炉に装入された鉄鉱石及びコークスによって形成される炉頂部の装入物分布を測定するためのプロフィル測定装置等が記載されている。このプロフィル測定装置は、マイクロ波送受信器で発生させたマイクロ波をアンテナから放射し、反射板で反射させて測定対象物である装入物へ照射し、装入物からの反射波をマイクロ波送受信器で受信して、装入物までの距離を算出するものである。このような測定装置においては、反射板等を高炉内の熱や圧力、粉塵等から保護するため、耐圧耐熱性能を有し且つマイクロ波を透過するガラス等のマイクロ波透過材を介して、マイクロ波を高炉内装入物の表面に照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−145237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにマイクロ波透過材を介してマイクロ波を測定対象物に照射する場合、従来、マイクロ波透過材の面が、マイクロ波の発信方向に対して直角になるように設置されていた。ところが、この場合、マイクロ波透過材により反射される反射波の量が多く、この反射波によるノイズの影響で、測定に支障をきたしていた。
【0005】
本発明の目的は、マイクロ波透過材を介してマイクロ波を測定対象物に照射する際、マイクロ波透過材からの反射波を低減させてノイズを抑制し、正確な距離測定が行えるマイクロ波距離測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本発明は、マイクロ波の発信および受信が可能なマイクロ波送受信器と、マイクロ波を放射するアンテナと、前記マイクロ波送受信器と前記アンテナとを連結する導波管と、マイクロ波透過材と、を有し、前記マイクロ波送受信器から発信されたマイクロ波が前記アンテナから放射され、前記マイクロ波透過材を透過して測定対象物に照射される距離測定装置において、前記マイクロ波透過材は、マイクロ波の発信方向に対して直角方向から傾斜角度を有して設置され
、マイクロ波が前記マイクロ波透過材を通過する距離が、式(1)で求められる厚さtに近似するように、前記マイクロ波透過材の板厚および前記傾斜角度を設定することを特徴とする、マイクロ波距離測定装置を提供する。
t=λ/(2√ε)×n (1)
ただし、
λ:マイクロ波の波長(mm)
ε:マイクロ波透過材の誘電率
n:自然数
【0009】
前記マイクロ波透過材は、誘電率が5以下の材料であることが好ましく、石英ガラスでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロ波透過材からのマイクロ波の反射の影響を低減させて、ノイズの少ない高精度な距離測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態の一例を示す。マイクロ波距離測定装置1は、マイクロ波送受信器2、導波管3、アンテナ4、およびマイクロ波透過材5を有する。マイクロ波送受信器2は、周波数が一定範囲で連続的に時間変化するマイクロ波を発生し、当該マイクロ波の発信および受信が可能なものである。アンテナ4は、例えばφ250〜φ360mm程度のパラボラアンテナであり、導波管3を介して、マイクロ波送受信器2に連結されている。マイクロ波送受信器2には、データ処理部6が信号線7で接続されている。
【0014】
マイクロ波送受信器2で発生した、周波数が連続的に変化するマイクロ波は、アンテナ4から放射され、マイクロ波透過材5を透過して、測定対象物9の表面に照射される。照射されたマイクロ波は測定対象物9の表面で反射し、その反射波をマイクロ波送受信器2で受信して検出する。データ処理部6では、アンテナ4でのマイクロ波の放射から受信までの間の周波数の変化分から、アンテナ4から測定対象物9の表面までのマイクロ波の往復時間が求められ、アンテナ4から測定対象物9までの距離が算出される。このようなマイクロ波距離測定装置1は、例えば高炉の炉頂部に設けられ、炉内に堆積した装入物のプロフィルを測定する際に用いられる。
【0015】
マイクロ波透過材5は、アンテナ4の送受信面よりも大きい面積を有し、マイクロ波を透過させる材質とする。また、マイクロ波距離測定装置1を高炉の炉頂部で使用する場合には、装置本体部分を炉内の圧力や高熱、粉塵等から保護するために、炉内に向けた開口部等にマイクロ波透過材5を設け、マイクロ波透過材5を介してマイクロ波を照射する。そのため、マイクロ波透過材5は、耐圧および耐熱性能が必要とされ、例えば耐圧設計0.3MPa程度、耐熱温度200℃程度の性能を満たす強化ガラスや、耐熱温度1000℃程度の石英ガラス等が用いられる。
【0016】
そして、本実施形態では、マイクロ波透過材5からアンテナ4へ向けた反射Rを低減させるために、マイクロ波透過材5を、マイクロ波11の進行方向に対して垂直の方向から傾斜角度θだけ傾けて配置する。傾斜角度θは5°〜45°の範囲とし、10°〜30°の範囲が更に好ましい。傾斜角度θが5°未満の場合には、反射Rを低減させる効果が低い。傾斜角度が45°を超えると、マイクロ波透過材5のサイズが大きくなり、装置全体が大型になるため、好ましくない。
【0017】
また、マイクロ波透過材5のマイクロ波透過性能を考慮して傾斜角度θを設定することにより、測定精度をさらに向上させることができる。以下に、マイクロ波透過材5の傾斜角度θの設定方法について詳細に説明する。
【0018】
誘電率εのマイクロ波透過材5にマイクロ波を透過させる際の、マイクロ波透過材5の適正な厚さt(mm)は、マイクロ波透過材5中の波長の自然数倍とすることが好ましく、式(1)で求められる。
t=λ/(2√ε)×n (1)
ただし、
λ:マイクロ波の波長(mm)
n:自然数
厚さtとマイクロ波透過材の板厚t0とは、式(2)の関係にある。
t=t0/cosθ (2)
【0019】
式(1)を用いて、例えばマイクロ波送受信器2の周波数が24GHz(波長λ=12.5mm)であり、マイクロ波透過材5として誘電率ε=3.8の石英ガラスを用いる場合に、マイクロ波透過のために適正な厚さt(mm)を求めると、表1のようになる。
【0021】
また、マイクロ波透過材5の大きさおよび板厚t0は、マイクロ波距離測定装置1の用途や使用環境等に応じて設定される。例えば高炉内装入物のプロフィルを測定する場合、炉内圧力0.3MPaに対して、260φの円板状の石英ガラスを用いるとき、安全率を10とした耐圧強度を有する板厚t0は25mm程度となる。板厚t0=25mmの石英ガラスを用いる場合、傾斜角度θ=13°傾けると、マイクロ波が石英ガラス内を通過する距離、すなわち石英ガラスのマイクロ波発信方向の厚さが、表1のn=8のときの厚さt=25.649に近くなる。しかも、マイクロ波透過材5(石英ガラス)を、マイクロ波11の発信方向に対して直角方向から13°傾けることで、マイクロ波送受信器2が受信するマイクロ波透過材5からの反射波のうち、アンテナ4に届く反射Rが低減する。すなわち、板厚25mmの石英ガラスを13°傾けて配置することで、マイクロ波透過性能の向上とノイズ低下との両立が図れ、測定精度が向上する。
【0022】
このように、本実施形態によれば、式(1)によってマイクロ波透過のために適正な厚さtを計算し、一方、マイクロ波距離測定装置1の使用環境等に応じてマイクロ波透過材5のサイズを決定して、マイクロ波がマイクロ波透過材5内を通過する距離が、マイクロ波透過材5の板厚t0よりも少し大きい適正厚さtになるような傾斜角度θを算出する。その傾斜角度θが5°〜45°、好ましくは10°〜30°の範囲となるようにすれば、透過性能の向上とノイズ低下の両立が図れる。尚、マイクロ波がマイクロ波透過材5内を通過する距離は、式(1)で求められる適正な厚さtに近似していればよく、厚さtに対して10%以内の増減量であることが好ましい。
【0023】
マイクロ波透過材5としては、石英ガラスが好適であるが、その他、耐圧耐熱性能を有する各種強化ガラスでもよい。また、誘電率5.0以下の強化ガラス以外の材質についても使用可能である。
【0024】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0025】
例えば、上記の実施形態では、マイクロ波距離測定装置1が高炉の炉頂部に設けられ、炉内に堆積した装入物のプロフィルを測定するものとしたが、本発明はこれに限らない。圧力や熱、粉塵等が発生する環境で測定する際、マイクロ波透過材を介してマイクロ波を照射する場合に適用できる。殊に、測定対象物が、マイクロ波の反射が弱い物質であれば、マイクロ波透過材の反射によるノイズが測定精度に顕著に影響するため、本発明が好適である。
【0026】
また、マイクロ波送受信器の周波数やアンテナおよびマイクロ波透過材の大きさ等は、上記の実施形態の例に限るものではない。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
周波数24GHzのマイクロ波送受信器2を用いた本発明のマイクロ波距離測定装置1において、マイクロ波透過材5として板厚t0=15mm、25mmの2種類の石英ガラスを用いて、マイクロ波の透過性を検証した。測定対象物9は焼結鉱とし、マイクロ波透過材5(石英ガラス)から測定対象物9までの距離を、
図2に示すように、3m、5m、7.5m、10mと4通りに変化させてスペクトル波形を計測した。また、石英ガラスの傾斜角度θを、マイクロ波11の発信方向に対して直角方向から0°、15°、30°の3通りに変化させた。これらの試験から得られたS/N比を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示すように、石英ガラスを傾けない(傾斜角度0°)よりも、傾けた方が、概ねS/N比が向上した。また、板厚15mmのガラスよりも25mmのガラスの方がS/N比が高いことが多く、傾斜角度15°において、傾けない場合よりも顕著にS/N比が高くなることが多かった。ただし、本実施例は、式(1)で求められる適正厚さtを満たすように傾斜角度θを設定したものではなく、大まかな傾向を知るための試験であるため、表2中下線を付したものについては、傾斜角度0°の場合に比べてS/N比が低下している。本発明の実施に当たっては、前述の通り、適正な透過性能が得られる厚さtになる傾斜角度θとすることで、一層の精度向上が図れる。
【0030】
(実施例2)
実施例1により、石英ガラスを15°傾斜させた場合に、傾斜させない場合に比べて、概ね良好なS/N比が得られた。ところが、表1に示した通り、計算上、マイクロ波が物質を透過する際の適正な厚さtは、25mm付近では25.6mmであり、板厚t0=25mmのガラスを傾けてマイクロ波通過距離を25.6mmにするには、傾斜角度θは13°となる。したがって、石英ガラスをマイクロ波発信方向に対して直角方向から13°傾けて、マイクロ波距離測定装置1での測定を実施した。また、比較対象として、傾斜角度θ=15°のデータを採取した。この試験により得られたS/N比を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
表3に示すように、傾斜角度θを13°にすると、15°の場合よりも大幅にS/N比が向上した。したがって、式(1)で求めた適正厚さtを実現する傾斜角度θに傾斜させることにより、S/N比が向上し、マイクロ波を用いた距離測定精度の向上が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、高圧力が作用し、高温で粉塵等が発生する場所で、マイクロ波を用いて距離を測定するマイクロ波距離測定装置に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 マイクロ波距離測定装置
2 マイクロ波送受信器
3 導波管
4 アンテナ
5 マイクロ波透過材
6 データ処理部
7 信号線
9 測定対象物