特許第6297260号(P6297260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6297260軟磁性熱硬化性接着フィルム、軟磁性フィルム積層回路基板、および、位置検出装置
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  • 特許6297260-軟磁性熱硬化性接着フィルム、軟磁性フィルム積層回路基板、および、位置検出装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297260
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】軟磁性熱硬化性接着フィルム、軟磁性フィルム積層回路基板、および、位置検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/28 20060101AFI20180312BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   H01F1/28
   H05K9/00 M
   H05K9/00 W
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-35700(P2013-35700)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-165363(P2014-165363A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】土生 剛志
(72)【発明者】
【氏名】江部 宏史
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−059752(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/126690(WO,A1)
【文献】 特開2008−134837(JP,A)
【文献】 特開2009−059753(JP,A)
【文献】 特開平10−289815(JP,A)
【文献】 特開昭60−058497(JP,A)
【文献】 特開2013−062318(JP,A)
【文献】 特開2012−212790(JP,A)
【文献】 特開2009−218450(JP,A)
【文献】 特開2010−196123(JP,A)
【文献】 特開2006−202266(JP,A)
【文献】 特開2007−258432(JP,A)
【文献】 特許第4807523(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/28
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および熱硬化触媒を含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成される軟磁性熱硬化性接着フィルムであって、
前記軟磁性熱硬化性組成物において、前記軟磁性粒子を除く軟磁性粒子除外成分100質量部に対して、前記エポキシ樹脂および前記フェノール樹脂の合計含有量が53質量部以上99質量部以下であり、
前記フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリオキシスチレンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、軟磁性熱硬化性接着フィルム。
【請求項2】
前記軟磁性熱硬化性接着フィルムが、半硬化状態であることを特徴とする、請求項1に記載の軟磁性熱硬化性接着フィルム。
【請求項3】
前記軟磁性熱硬化性接着フィルム100体積部に対して、軟磁性粒子を30体積部以上70体積部以下含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の軟磁性熱硬化性接着フィルム。
【請求項4】
前記アクリル樹脂、前記エポキシ樹脂および前記フェノール樹脂からなる樹脂成分100質量部に対して、前記熱硬化触媒を0.2質量部以上1質量部以下含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の軟磁性熱硬化性接着フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の軟磁性熱硬化性接着フィルムを、回路基板に積層し、前記軟磁性熱硬化性接着フィルムを熱硬化することにより得られることを特徴とする、軟磁性フィルム積層回路基板。
【請求項6】
請求項5に記載の軟磁性フィルム積層回路基板を備えることを特徴とする、位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性熱硬化性接着フィルム、軟磁性フィルム積層回路基板、および、位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ペン型の位置指示器を位置検出平面上で移動させて位置を検出する位置検出装置は、デジタイザと呼ばれ、コンピュータの入力装置として普及している。この位置検出装置は、位置検出平面板と、その下に配置され、ループコイルが基板の表面に形成された回路基板(センサ基板)とを備えている。そして、位置指示器とループコイルとによって発生する電磁誘導を利用することにより、位置指示器の位置を検出する。
【0003】
位置検出装置には、電磁誘導の際に発生する磁束を制御して通信を効率化するために、センサ基板の位置検出平面とは反対側の面(反対面)に、軟磁性物質を含有する軟磁性フィルムを配置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、軟磁性粉末と、アクリルゴム、フェノール樹脂、エポキシ樹脂およびメラミンなどからなるバインダ樹脂と、ホスフィン酸金属塩とを含有する磁性フィルムが開示されている。この軟磁性フィルムは、ホスフィン酸金属塩やメラミンが多くの割合で含有することによって、電子機器の信頼性に影響を与えず、回路基板に難燃性を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−212790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、センサ基板には、薄型化のために、その基板の両面にループコイルなどの配線パターンが形成された両面回路基板が採用されていることがある。
【0007】
このとき、例えば、この両面回路基板の反対面に軟磁性フィルムを接着テープを介して貼り付けようとすると、一般的に手作業で貼り付けが実施されるため、貼り合わせ時に位置ずれなどが生じ、作業効率が低下する。
【0008】
一方、軟磁性フィルムをセンサ基板に直接貼り付ける場合、特許文献1に記載された、難燃性を付与するためにホスフィン酸金属塩やメラミンが多くの割合で含有されたシートでは、配線間の隙間に磁性フィルムを埋め込むことができず、貼り合わせ時に隙間が生じる。
【0009】
そうすると、軟磁性フィルムを積層した回路基板は、電子部品の実装などによるリフロー工程が実施されるので、そのリフロー工程による高温によって、その隙間を起点にしてボイドが発生し、その結果、軟磁性フィルム表面に凹凸が発現したり、軟磁性フィルムと回路基板とが剥離する場合が生じる。そのため、軟磁性フィルムの磁気特性を十分に発現できなかったり、外観が不良となる。
【0010】
また、軟磁性フィルムは、一般的に、軟磁性フィルムを形成する液状組成物を基材などに塗布および乾燥することにより製造される。しかし、その液状組成物には、重量が重い軟磁性粒子が含んでおり、組成物中で沈殿してしまうため、安定して塗布することができず、フィルム状(シート状)に成形されない(すなわち、成膜されない)場合が生じる。
【0011】
本発明の目的は、回路基板表面に貼り付ける際に、回路基板表面に形成された配線パターンの配線間に軟磁性粒子を埋め込むことができ、良好な耐リフロー性を備え、成膜性が優れる軟磁性熱硬化性接着フィルム、その軟磁性熱硬化性接着フィルムを用いた軟磁性フィルム積層回路基板および位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムは、軟磁性粒子、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および熱硬化触媒を含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成される軟磁性熱硬化性接着フィルムであって、前記軟磁性熱硬化性組成物において、前記軟磁性粒子を除く軟磁性粒子除外成分100質量部に対して、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の合計含有量が20質量部以上99質量部以下であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムは、半硬化状態であることが好適である。
【0014】
また、本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムは、前記軟磁性熱硬化性接着フィルム100体積部に対して、前記軟磁性粒子を30体積部以上70体積部以下含有することが好適である。
【0015】
また、本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムは、前記アクリル樹脂、前記エポキシ樹脂および前記フェノール樹脂からなる樹脂成分100質量部に対して、前記熱硬化触媒を0.2質量部以上1質量部以下含有することが好適である。
【0016】
また、本発明の軟磁性フィルム積層回路基板は、前記軟磁性熱硬化性接着フィルムを、回路基板に積層し、前記軟磁性熱硬化性接着フィルムを熱硬化することにより得られることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の位置検出装置は、前記軟磁性フィルム積層回路基板を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムは、回路基板表面に貼り付ける際に、配線パターンの配線間の隙間に軟磁性粒子を確実に埋め込むことができる。また、軟磁性熱硬化性接着フィルムは、軟磁性熱硬化性接着フィルムを形成する組成物から、容易にシート状に成形できるため、成膜性に優れる。
【0019】
本発明の軟磁性フィルム積層回路基板は、リフロー処理の際に、軟磁性フィルムと回路基板との剥離、および、軟磁性フィルムの表面の凹凸の発生を抑制することができる。そのため、軟磁性フィルムは、回路基板に確実に接着されている。
【0020】
本発明の位置検出装置は、軟磁性フィルムと回路基板とが確実に接着されている。そのため、リフロー後でも耐熱性を有するので、磁気特性に劣化がなく、確実に位置検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の軟磁性フィルム積層回路基板の製造方法の一実施形態の製造工程図であり、 図1Aは、軟磁性熱硬化性接着フィルムと回路基板とを用意する工程 図1Bは、軟磁性熱硬化性接着フィルムを回路基板に接触させる工程 図1Cは、軟磁性熱硬化性接着フィルムを回路基板に押圧する工程 図1Dは、軟磁性熱硬化性接着フィルムを回路基板に加熱する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムは、軟磁性粒子、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および熱硬化触媒を含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成される。
【0023】
軟磁性粒子を構成する軟磁性材料としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−A1合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si―B(−Cu−Nb)合金、Fe−Si−Cr−Ni合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金、フェライトなどが挙げられる。これらの中でも、磁気特性の点から、好ましくは、センダスト(Fe−Si−Al合金)が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、より好ましくは、Si含有割合が9〜15質量%であるFe−Si−Al合金が挙げられる。これにより、軟磁性シートの透磁率実部を大きくすることができる。
【0025】
軟磁性粒子の形状としては、好ましくは、扁平状(板状)が挙げられる。扁平率(扁平度)は、例えば、8以上、好ましくは、15以上であり、また、例えば、80以下、好ましくは65以下である。なお、扁平率は、50%粒径(D50)の粒径を軟磁性粒子の平均厚さで除したアスペクト比として算出される。
【0026】
軟磁性粒子の平均粒子径(平均長さ)は、例えば、3.5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、100μm以下でもある。平均厚みは、例えば、0.3μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、3μm以下、好ましくは、2.5μm以下でもある。軟磁性粒子の扁平率、平均粒子径、平均厚みなどを調整することにより、軟磁性粒子による反磁界の影響を小さくでき、その結果、軟磁性粒子の透磁率を増加させることができる。なお、軟磁性粒子の大きさを均一にするために、必要に応じて、ふるいなどを使用して分級された軟磁性粒子を用いてもよい。
【0027】
軟磁性粒子は、その表面に、例えば、カップリング剤でカップリング処理されていてもよい。カップリング処理された軟磁性粒子を用いることにより、軟磁性粒子と樹脂成分との界面が補強されるため、軟磁性熱硬化性樹脂フィルムに軟磁性粒子を高い割合で充填することができる。
【0028】
カップリング剤としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのシランカップリング剤などが挙げられる。
【0029】
なお、このカップリング処理された軟磁性粒子を軟磁性熱硬化性接着フィルムに含有させる場合は、予めシランカップリング処理されている軟磁性粒子を原料として用いてよく、また、軟磁性熱硬化性接着フィルムを製造する際に、軟磁性熱硬化性組成物とともにカップリング剤を混合することにより、カップリング処理してもよい。
【0030】
軟磁性熱硬化性組成物(ひいては、軟磁性熱硬化性接着フィルムや軟磁性フィルム)における軟磁性粒子の含有割合は、例えば、80質量%以上、好ましくは、85質量%以上であり、また、例えば、95質量%以下、好ましくは、92質量%以下でもある。上記上限以下の範囲とすることにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムへの成膜性に優れる。一方、上記下限以上の範囲とすることにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムは、磁気特性に優れる。
【0031】
軟磁性熱硬化性組成物は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる樹脂成分を含有する。
【0032】
アクリル樹脂としては、例えば、直鎖もしくは分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマー成分とし、そのモノマー成分を重合することにより得られるアクリル系重合体などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を表す。
【0033】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、ドデシル基などの炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0034】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0035】
その他のモノマーとしては、例えば、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有モノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などカルボキシル基含有モノマー、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリルまたは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなど燐酸基含有モノマー、例えば、スチレンモノマー、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、好ましくは、グリシジル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーまたはヒドロキシル基含有モノマーが挙げられる。アクリル樹脂が(メタ)アクリル酸アルキルエステルとこれらのその他のモノマーとの共重合体である場合、すなわち、アクリル樹脂がグリシジル基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を有する場合、軟磁性熱硬化性接着フィルムを熱硬化して得られる軟磁性フィルムの耐リフロー性がより一層優れる。
【0037】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他のモノマーとの共重合体である場合、その他のモノマーの配合割合(質量)は、共重合体に対して、好ましくは、40質量%以下である。
【0038】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば、1×10以上、好ましくは、3×10以上であり、また、例えば、1×10以下でもある。この範囲とすることにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムの接着性および耐リフロー性に優れる。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトフラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算値により測定される。
【0039】
アクリル樹脂のガラス転移点(Tg)は、例えば、−30℃以上、好ましくは、−20℃以上であり、また、例えば、30℃以下、好ましくは、15℃以下でもある。上記下限以上であると、軟磁性熱硬化性接着フィルムの接着性に優れる。一方、上記上限以下であると、軟磁性熱硬化性接着フィルムの取扱い性に優れる。なお、ガラス転移点は、動的粘弾性測定装置(DMA、周波数1Hz、昇温速度10℃/min)を用いて測定される損失正接(tanδ)の極大値により得られる。
【0040】
アクリル樹脂の含有割合は、樹脂成分(すなわち、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂、さらには必要に応じて配合されるそのほかの樹脂(後述)からなる成分)100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、40質量部以上であり、また、例えば、80質量部以下、好ましくは、70質量部以下でもある。この範囲とすることにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムにおける成膜性および接着性に優れる。
【0041】
エポキシ樹脂は、接着剤組成物として一般に用いられるものであれば限定されず、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂など)、フェノール型エポキシ樹脂(特に、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオンレン型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などの二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂が挙げられる。また、例えば、ヒダントイン型エポキシ樹脂、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂なども挙げられる。これらは単独または2種以上を併用して用いることができる。
【0042】
これらのエポキシ樹脂のうち、好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が挙げられ、より好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂を含有させることより、フェノール樹脂との反応性が優れ、その結果、軟磁性フィルムが良好な耐リフロー性が備える。
【0043】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤であり、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂、例えば、レゾール型フェノール樹脂、例えば、ポリパラオキシスチレンなどのポリオキシスチレンが挙げられる。これらは単独で使用また2種以上を併用することができる。これらのフェノール樹脂のうち、好ましくは、ノボラック型樹脂、より好ましくは、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、さらに好ましくは、フェノールアラルキル樹脂が挙げられる。これらのフェノール樹脂を含有することにより、軟磁性フィルム積層回路基板の接続信頼性を向上させることができる。
【0044】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂のフェノール当量が1g/eq以上100g/eq未満である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、15質量部以上、好ましくは、35質量部以上であり、また、例えば、70質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、5質量部以上、好ましくは、15質量部以上であり、また、例えば、30質量部以下でもある。
【0045】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂の水酸基当量が100g/eq以上200g/eq未満である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、25質量部以上であり、また、例えば、50質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、25質量部以上であり、また、例えば、50質量部以下でもある。
【0046】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂のフェノール当量が200g/eq以上1000g/eq以下である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、5質量部以上、好ましくは、15質量部以上であり、また、例えば、30質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、15質量部以上、好ましくは、35質量部以上であり、また、例えば、70質量部以下でもある。
【0047】
なお、エポキシ樹脂が2種併用される場合のエポキシ当量は、各エポキシ樹脂のエポキシ当量に、エポキシ樹脂の総量に対する各エポキシ樹脂の質量割合を乗じて、それらを合算した全エポキシ樹脂のエポキシ当量である。
【0048】
また、フェノール樹脂中の水酸基当量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量当たり、例えば、0.2当量以上、好ましくは、0.5当量以上であり、また、例えば、2.0当量以下、好ましくは、1.2当量以下でもある。水酸基の量が上記範囲内であると、軟磁性熱硬化性接着フィルムの硬化反応が良好となり、また、劣化を抑制することができる。
【0049】
軟磁性熱硬化性組成物における樹脂成分の含有割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上であり、また、例えば、20質量%以下、好ましくは、15質量%以下でもある。上記上限以下の範囲とすることにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムへの成膜性に優れる。一方、上記下限以上の範囲とすることにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムの磁気特性に優れる。
【0050】
特に、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計含有割合は、軟磁性熱硬化性組成物から軟磁性粒子を除いた軟磁性粒子除外成分100質量部に対して、20質量部以上、好ましくは、30質量部以上、より好ましくは、40質量部以上であり、また、例えば、99質量部以下、好ましくは、90質量部以下、より好ましくは、80質量部以下、さらに好ましくは、60質量部以下でもある。
【0051】
合計含有割合が上記範囲未満であると、貼り合わせ時の弾性率が高くなるため、回路基板の配線間への軟磁性フィルムの埋め込み性が劣る。一方、合計含有割合が上記範囲を超過すると、アクリル樹脂の含有割合が少なくなり、粘度が過度に低下する。そのため、塗布時に軟磁性粒子が沈降し、成膜性が低くなる。
【0052】
なお、軟磁性粒子除外成分は、より具体的には、樹脂成分、熱硬化触媒および必要に応じて添加される添加剤(後述)からなる成分であって、軟磁性粒子および溶媒は含まれない。
【0053】
樹脂成分は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂以外のその他の樹脂を含有することもできる。このような樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用又は2種以上を併用することができる。
【0054】
熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂(6−ナイロン、6,6−ナイロンなど)、フェノキシ樹脂、飽和ポリエステル樹脂(PET、PBTなど)、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0055】
熱硬化性樹脂としては、例えば、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0056】
樹脂成分中におけるその他の樹脂の含有割合は、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0057】
熱硬化触媒としては、加熱により、樹脂成分の硬化を促進する触媒であれば限定的でなく、例えば、イミダゾール骨格を有する塩、トリフェニルフォスフィン構造を有する塩、トリフェニルボラン構造を有する塩、アミノ基含有化合物などが挙げられる。
【0058】
イミダゾール骨格を有する塩としては、例えば、2−フェニルイミダゾール(商品名;2PZ)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(商品名;2E4MZ)、2−メチルイミダゾール (商品名;2MZ)、2−ウンデシルイミダゾール(商品名;C11Z)、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(商品名;2−PHZ)、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾリル(1)’)エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物(商品名;2MAOK−PW)などが挙げられる(上記商品名は、いずれも四国化成(株)製)。
【0059】
トリフェニルフォスフィン構造を有する塩としては、例えば、トリフェニルフォスフィン、トリブチルフォスフィン、トリ(p−メチルフェニル)フォスフィン、トリ(ノニルフェニル)フォスフィン、ジフェニルトリルフォスフィンなどのトリオルガノフォスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド(商品名;TPP−PB)、メチルトリフェニルホスホニウム(商品名;TPP−MB)、メチルトリフェニルホスホニウムクロライド(商品名;TPP−MC)、メトキシメチルトリフェニルホスホニウム(商品名;TPP−MOC)、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(商品名;TPP−ZC)、メチルトリフェニルホスホニウム(商品名;TPP−MB)などが挙げられる(上記商品名は、いずれも北興化学社製)。
【0060】
トリフェニルボラン構造を有する塩としては、例えば、トリ(pメチルフェニル)フォスフィンなどが挙げられる。また、トリフェニルボラン構造を有する塩としては、更にトリフェニルフォスフィン構造を有するものも含まれる。トリフェニルフォスフィン構造及びトリフェニルボラン構造を有する塩としては、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート(商品名;TPP−K)、テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリボレート(商品名;TPP−MK)、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート(商品名;TPP−ZK)、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン(商品名;TPP−S)などが挙げられる(上記商品名は、いずれも北興化学社製)。
【0061】
アミノ基含有化合物としては、例えば、モノエタノールアミントリフルオロボレート(ステラケミファ(株)製)、ジシアンジアミド(ナカライテスク(株)製)などが挙げられる。
【0062】
熱硬化触媒の形状は、例えば、球状、楕円体状などが挙げられる。
【0063】
熱硬化触媒は、単独で使用または2種類以上併用することができる。
【0064】
熱硬化触媒の配合割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、0.2質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上であり、また、例えば、1質量部以下、好ましくは、0.6質量部以下でもある。熱硬化触媒の配合割合が上記上限以下であると、軟磁性熱硬化性接着フィルムにおける室温下での長期保存性を良好にすることができる。一方、熱硬化触媒の配合割合が下限以上であると、軟磁性熱硬化性接着フィルムを低温度かつ短時間で加熱硬化させることができ、また、軟磁性フィルムの耐リフロー性を良好にすることができる。
【0065】
軟磁性熱硬化性組成物は、必要に応じて添加剤を含有することもできる。添加剤としては、例えば、架橋剤、無機充填材などの市販または公知のものが挙げられる。
【0066】
架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物などのポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0067】
架橋剤の含有割合としては、樹脂成分100質量部に対し、例えば、0.05質量部以上7質量部以下である。架橋剤の量を上記上限以下にすると、接着力がより良好となる。一方、上記下限以上にすると、軟磁性フィルムの耐リフローがより良好となる。
【0068】
また、軟磁性熱硬化性組成物は、その用途に応じて無機充填剤を適宜配合することができる。これにより、軟磁性フィルムの熱伝導性や弾性率を向上させることができる。
【0069】
無機充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、石膏、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミナ、酸化ベリリウム、炭化珪素、窒化珪素などのセラミック類、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム、半田などの金属、または合金類、その他、カーボンなどが挙げられる。なかでも、好ましくは、シリカ、特に好ましくは、溶融シリカが挙げられる。
【0070】
無機充填剤の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上80μm以下である。
【0071】
無機充填剤を配合する場合、配合割合は、樹脂成分100質量部に対し、例えば、80質量部以下、好ましくは、70質量部以下であり、また、0質量部を上回る。
【0072】
これら無機充填剤は、単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0073】
次に、本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムの製造方法について説明する。
【0074】
軟磁性熱硬化性接着フィルムを作製するには、上述した軟磁性熱硬化性組成物を溶媒に溶解または分散させた軟磁性熱硬化性組成物溶液を調製する。
【0075】
溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などケトン類、例えば、酢酸エチルなどのエステル類、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類などの有機溶媒などが挙げられる。また、溶媒として、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコールなどの水系溶媒も挙げられる。
【0076】
軟磁性熱硬化性組成物溶液における固形分量は、例えば、10質量%以上、好ましくは、30質量%以上であり、また、例えば、90質量%以下、好ましくは、70質量%以下でもある。
【0077】
次いで、軟磁性熱硬化性組成物溶液を基材(セパレータ、コア材など)の表面に所定厚みとなるように塗布して塗布膜を形成した後、塗布膜を所定条件下で乾燥させる。これにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムが得られる。
【0078】
塗布方法としては特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工などが挙げられる。
【0079】
乾燥条件としては、乾燥温度は、例えば、70℃以上160℃以下であり、乾燥時間は、例えば、1分以上5分間以下である。
【0080】
軟磁性熱硬化性接着フィルムの平均膜厚は、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下でもある。
【0081】
得られる軟磁性熱硬化性接着フィルムでは、軟磁性粒子が、軟磁性熱硬化性接着フィルム100体積部に対して、例えば、30体積部以上、好ましくは、40体積部以上、より好ましくは、50体積部以上、また、例えば、80体積部以下、好ましくは70体積部以下、より好ましくは、65体積部以下含有されている。これにより、磁気特性に優れる。
【0082】
軟磁性熱硬化性接着フィルムは、室温(具体的には、25℃)において、半硬化状態(Bステージ状態)である。
【0083】
また、軟磁性熱硬化性接着フィルムは、好ましくは、扁平状軟磁性粒子が含有され、その扁平状軟磁性粒子が、軟磁性熱硬化性接着フィルムの2次元の面内方向に配列されている。すなわち、扁平状軟磁性粒子の長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性熱硬化性接着フィルムの面方向に沿うように配向している。これにより、軟磁性熱硬化性接着フィルムは、軟磁性粒子が高割合で充填され、磁気特性に優れる。
【0084】
軟磁性熱硬化性接着フィルムの平均厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、250μm以下でもある。
【0085】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、紙などが挙げられる。これらは、その表面に、例えば、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤、シリコーン系剥離剤などにより離型処理されている。
【0086】
コア材としては、例えば、プラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルムなど)、金属フィルム(例えば、アルミウム箔など)、例えば、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維などで強化された樹脂基板、シリコン基板、ガラス基板などが挙げられる。
【0087】
セパレータまたはコア材の平均厚みは、例えば、1μm以上500μm以下である。
【0088】
本発明の軟磁性熱硬化性接着フィルムは、例えば、軟磁性熱硬化性接着フィルムの単層のみからなる単層構造、コア材の片面または両面に軟磁性硬化性接着フィルムが積層された多層構造、軟磁性硬化性接着フィルムの片面または両面にセパレータが積層された多層構造などの形態とすることができる。
【0089】
本発明の好ましい形態としては、磁性硬化性接着フィルムの片面または両面にセパレータが積層された多層構造である。これにより、実用に供するまで軟磁性熱硬化性接着シートを保護でき、また、軟磁性接着フィルムを回路基板に転写する際の支持基材として用いることもできる。
【0090】
次に、軟磁性フィルム積層回路基板の製造方法(貼り付け方法)の一実施形態について、図1を参照して説明する。
【0091】
この方法では、まず図1Aに示すように、セパレータ1が積層された軟磁性熱硬化性接着フィルム2と、配線パターン3が基板4の表面に形成された回路基板5とを用意し、次いで、軟磁性熱硬化性接着フィルム2と、回路基板5とを間隔を隔てて厚み方向に、対向配置する。
【0092】
軟磁性熱硬化性接着フィルム2は、上記の方法で得ることができ、軟磁性粒子6が軟磁性熱硬化性組成物(より具体的には、樹脂成分7)中に分散されている。なお、図1Aの態様では、軟磁性粒子6として、扁平状軟磁性粒子6を用いており、その扁平状軟磁性粒子6はその長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性熱硬化性接着フィルム2の面方向に沿うように配向している。
【0093】
回路基板5は、例えば、電磁誘導方式で使用される回路基板5などであり、基板4の一方面に、ループコイルなどの配線パターン3が形成されている。配線パターン3は、セミアディティブ法またはサブトラクティブ法などによって形成される。
【0094】
基板4を構成する絶縁材料としては、例えば、ガラスエポキシ基板、ガラス基板、PET基板、テフロン基板、セラミックス基板、ポリイミド基板などが挙げられる。
【0095】
配線パターン3を構成する各配線8の幅は、例えば、5μm以上、好ましくは、9μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、300μm以下でもある。
【0096】
配線8の厚み(高さ)は、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、50μm以下、好ましくは、35μm以下でもある。
【0097】
各配線8間の隙間9(ピッチ間、図1Aで示すXの長さ)は、例えば、50μm以上、好ましくは、80μm以上であり、また、例えば、3mm以下、好ましくは、2mm以下でもある。軟磁性硬化性接着フィルム2は、上記範囲の隙間9に対して特に好適に埋め込み性を発現することができる。
【0098】
次いで、図1Bに示すように、軟磁性熱硬化性接着フィルム2と配線8の上面とを接触させる。
【0099】
その後、図1Cに示すように、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を配線8に押圧する。これにより、軟磁性硬化性接着フィルム2を形成する軟磁性熱硬化性組成物が流動し、配線パターン3が軟磁性熱硬化性組成物に埋没される。つまり、配線パターン3を構成する各配線8の表面および側面が軟磁性熱硬化性組成物に被覆される。これとともに、配線パターン3から露出する基板4の表面が軟磁性熱硬化性組成物に被覆される。
【0100】
圧力は、例えば、10MPa以上、好ましくは、20MPa以上であり、また、例えば、100MPa以下、好ましくは、50MPa以下である。
【0101】
次いで、図1Dに示すように、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を加熱する。これにより、軟磁性フィルム10が回路基板5に積層された軟磁性フィルム積層回路基板11が得られる。
【0102】
加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、175℃以下、より好ましくは、140℃以下でもある。
【0103】
加熱時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.2時間以上であり、また、例えば、24時間以下、好ましくは、3時間以下、より好ましくは、2時間以下でもある。
【0104】
このようにして得られる軟磁性フィルム積層回路基板11は、配線パターン3が形成された回路基板5と、その回路基板5を積層する軟磁性フィルム10とを備えている。
【0105】
軟磁性フィルム10は、軟磁性粒子6と、樹脂成分7が加熱硬化されてなる硬化樹脂成分7aと、熱硬化性触媒(図示せず)とから形成され、硬化状態(Cステージ状態)である。
【0106】
軟磁性フィルム積層回路基板11では、配線パターン3が軟磁性フィルム10に埋没されている。つまり、配線パターン3を構成する各配線8の表面および側面が軟磁性フィルム10に被覆されている。これとともに、配線パターン3から露出する基板4の表面は、軟磁性フィルム10に被覆されている。
【0107】
また、セパレータ1と配線8または基板4との間、および、配線8間の隙間9には、軟磁性粒子6、硬化樹脂成分7aおよび熱硬化触媒が存在しており、その軟磁性粒子6が、その長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性フィルム10の面方向に沿うように配向している。
【0108】
なお、上記の方法では、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を配線8に押圧した後、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を加熱したが、押圧と同時に加熱することもできる。
【0109】
なお、図1の実施態様では、一方面にのみ配線パターン3が形成されている回路基板5が用いられていたが、一方面および他方面に配線パターン3が形成されている回路基板5を用いることもできる。その場合、他方面も一方面と同様に軟磁性硬化性接着フィルム2を積層することができる。
【0110】
また、図1の実施態様では、軟磁性熱硬化性接着フィルム2は、1枚(一層)のみを回路基板に貼り付けていたが、所望の厚みの軟磁性フィルム10を得るために、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を、複数枚(複数層)貼り付けることもできる。
【0111】
本発明の位置検出装置は、例えば、上記の軟磁性フィルム積層回路基板11およびその軟磁性フィルム積層回路基板に実装されるセンサ部を備えるセンサ基板と、センサ基板の上に対向配置される位置検出平面板と、を備えている。
【0112】
軟磁性フィルム積層回路基板11にセンサ部を実装する際におけるリフロー工程の方法としては、例えば、熱風リフロー、赤外線リフローなどが挙げられる。また、全体加熱または局部加熱のいずれの方式でもよい。
【0113】
リフロー工程における加熱温度は、例えば、200℃以上、好ましくは、240℃以上であり、また、例えば、300℃以下、好ましくは、265℃以下である。加熱時間は、例えば、1秒以上、好ましくは、5秒以上、より好ましくは、30秒以上であり、また、例えば、2分以下、好ましくは、1.5分以下である。
【0114】
上記で得られたセンサ基板に、位置検出平面板を、間隔を隔てて対向配置させることにより、位置検出装置が製造される。
【0115】
そして、この軟磁性熱硬化性接着フィルム2は、軟磁性粒子6、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および熱硬化触媒を含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成され、軟磁性熱硬化性組成物において、軟磁性粒子6を除く軟磁性粒子除外成分100質量部に対して、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の合計含有量が20質量部以上99質量部以下である。
【0116】
そのため、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を、回路基板5に加熱して積層する際に、各配線8間の隙間9に、軟磁性粒子6および樹脂成分7を確実に埋め込むことができる。
【0117】
また、この軟磁性フィルム積層回路基板11は、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を、回路基板5に積層し、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を熱硬化することにより得られている。
【0118】
そのため、各配線8間の隙間9に軟磁性粒子6が埋め込まれており、かつ、硬化樹脂成分が強固に基板3および配線8に接着している。そのため、耐リフロー性に優れており、高温下で処理しても、軟磁性フィルム10と回路基板5とが剥離しにくく、かつ、軟磁性フィルム10の表面の凹凸の発生を抑制することができる。
【0119】
また、この位置検出装置は、軟磁性フィルム積層回路基板11を備えている。そのため、軟磁性フィルム10と回路基板5とが確実に接着されている。よって、磁気特性が良好であり、確実に位置検出を可能とすることができる。
【実施例】
【0120】
以下に実施例、参考例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例、参考例および比較例に限定されない。
【0121】
参考例
軟磁性粒子が45体積%となるように、軟磁性粒子(Fe−Si−Al合金、扁平状、メイト社製)500質量部、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチルを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、商品名「パラクロンW−197CM」)72質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER社製、エピコート1004)9質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER社製、エピコートYL980)5質量部、フェノールアラルキル樹脂(三井化学社製、ミレックスXLC−4L)7質量部、および、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート(熱硬化触媒、北興化学工業社製、商品名;TPP−SCN)0.45質量部を混合することにより、軟磁性熱硬化性組成物を得た。
【0122】
この軟磁性熱硬化性組成物をメチルエチルケトンに溶解させることにより、固形分濃度51質量%の軟磁性熱硬化性組成物溶液を調製した。
【0123】
この軟磁性熱硬化性組成物溶液を、シリコーン離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータ1(平均厚みが50μm)上に塗布し、その後、130℃で2分間乾燥させた。
【0124】
これにより、セパレータ1が積層された軟磁性熱硬化性接着フィルム2(軟磁性熱硬化性接着フィルム2のみの平均厚み、80μm)を製造した。この軟磁性熱硬化性接着フィルム2は、半硬化状態であった。
【0125】
参考例2および実施例3〜5
表1に記載の材料および配合割合で、軟磁性熱硬化性組成物を得た。この軟磁性熱硬化性組成物を用いた以外は、参考例1と同様にして、参考例2および実施例3〜5の軟磁性熱硬化性接着フィルム2を製造した。
【0126】
比較例1〜4
表1に記載の材料および配合割合で、軟磁性熱硬化性組成物を得た。この軟磁性熱硬化性組成物を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例1〜4の軟磁性熱硬化性接着フィルム2を製造した。なお、比較例4については、セパレータ上に塗布することが困難であったため、シート状に形成することができなかった。
【0127】
(評価)
・埋め込み性
ループコイル状の配線パターン3が基板4の一方面に形成された回路基板5(配線8の幅100μm、配線8の高さ15μm、隙間6の間隔(ピッチ間)200μm)に、各実施例、各参考例および各比較例の軟磁性熱硬化性接着フィルム2を積層し、175℃、30分加熱することにより、軟磁性熱硬化性接着フィルム2を熱硬化させて、軟磁性フィルム積層回路基板11を得た。
【0128】
この軟磁性フィルム積層回路基板11は、厚み方向に切断し、SEMにて500倍の倍率で観察した。配線8の間の隙間に、軟磁性粒子6および硬化樹脂成分7aが完全に埋め込まれている場合を◎と評価し、配線8間の隙間9に、ほとんど埋まっている場合を○と評価し、配線8間の隙間に硬化樹脂成分7aのみが埋め込まれ、軟磁性粒子6は埋め込まれていなかった場合を×と評価した。
【0129】
その結果を表1に示す。
【0130】
・耐リフロー性
上記埋め込み性の試験において得られた軟磁性フィルム積層回路基板11を、260℃以上の温度を10秒保持するように温度設定したIRリフロー炉に通過させ、リフロー処理基板を得た。
【0131】
このリフロー処理基板について、軟磁性フィルム10と回路基板5との界面を観察した。この界面において、界面で剥離が発生していた場合、または、軟磁性フィルム10表面に凹凸が発生していた場合を×と評価し、剥離および凹凸の発生が認められなかった場合を○と評価した。
【0132】
その結果を表1に示す。
【0133】
・成膜性
各実施例、各参考例および各比較例の軟磁性熱硬化性接着フィルム2を製造した際に、各軟磁性熱硬化性組成物溶液をセパレータに塗布したときの塗布安定性、および、製造した軟磁性熱硬化性接着フィルム2の表面を観察した。
【0134】
軟磁性熱硬化性組成物溶液をセパレータに安定して塗布することができ、製造した軟磁性熱硬化性接着フィルム2の表面に荒れが発生していなかった場合を◎と評価し、軟磁性熱硬化性組成物溶液を安定して塗布することができたが、軟磁性熱硬化性接着フィルム2の表面に荒れが確認できた場合を○と評価し、軟磁性熱硬化性組成物溶液を安定して塗布できなかった場合を×と評価した。
【0135】
その結果を表1に示す。
【0136】
・磁気特性
各実施例、各参考例および各比較例の軟磁性熱硬化性接着フィルム2を175℃30分の熱プレスを実施することにより、軟磁性フィルム10を得た。この得られた軟磁性フィルム10の透磁率を、インピーダンスアナライザーを用いて、1ターン法で測定した。
【0137】
周波数1MHzにおける透磁率μ´が100以上であった場合を○と評価し、100未満であった場合を×と評価した。
【0138】
その結果を表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
また、表中、各成分の略称について、以下にその詳細を記載する。
・Fe−Si−Al合金:商品名「SP−7」、軟磁性粒子、平均粒子径65μm、扁平状、メイト社製
・パラクロンW−197CM:商品名、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチルを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー、根上工業社製
・エピコート1004:商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量875〜975g/eq、JER社製、
・エピコートYL980:商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量180〜190g/eq、JER社製
・ミレックスXLC−4L:商品名、フェノールアラルキル樹脂、水酸基当量170g/eq、三井化学社製
・TPP−SCN:商品名、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、北興化学工業社製
・TPP−ZK:商品名、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、北興化学工業社製
・TPP−MK:商品名、テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリボレート、北興化学工業社製
・2MAOK−PW:商品名、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、四国化成社製
【符号の説明】
【0141】
2 軟磁性熱硬化性接着フィルム
5 回路基板
6 軟磁性成分
7 樹脂成分
10 軟磁性フィルム
11 軟磁性フィルム積層回路基板
図1