(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297279
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】内接歯車ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20180312BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
F04C2/10 311B
F04C2/10 341C
F04C15/00 A
F04C15/00 K
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-163737(P2013-163737)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2014-37830(P2014-37830A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2016年7月21日
(31)【優先権主張番号】10 2012 214 356.4
(32)【優先日】2012年8月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】レーネ・シェップ
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト・アラーゼ
(72)【発明者】
【氏名】エドガー・クルツ
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−052694(JP,A)
【文献】
特表2011−501023(JP,A)
【文献】
米国特許第05690481(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯車(2)と、該内歯車(2)と噛み合っているピニオン(3)とを備え、前記内歯車(2)と前記ピニオン(3)とが、互いに噛み合っている周部分の外側で、該内歯車(2)とピニオン(3)との間に三日月状のポンプ室(6)を画成し、該ポンプ室内に、該ポンプ室(6)を2つの領域に分割する分離部材(7)が配置され、該分離部材(7)の外側に前記内歯車(2)の歯の歯頭が当接し、内側に前記ピニオン(3)の歯の歯頭が当接することで、前記分離部材(7)が前記内歯車(2)の歯先円の位置と前記ピニオン(3)の歯先円の位置とで該内歯車(2)の歯と該ピニオン(3)の歯との間の歯中間空間を閉じており、前記分離部材(7)が前記内歯車(2)および前記ピニオン(3)の歯の歯先円に沿って周方向に延在する外側部分(9)と内側部分(10)とを有し、該外側部分と内側部分とが、互いに半径方向に移動可能であり、且つ弾性予緊張力でもって前記内歯車(2)および前記ピニオン(3)の歯の歯頭に当接している、液圧式車両ブレーキ装置の内接歯車ポンプにおいて、前記分離部材(7)が2つの外側部分(9)と2つの内側部分(10)とを有し、該2つの外側部分と2つの内側部分とが、前記内歯車(2)および前記ピニオン(3)の歯の歯先円に沿って互いに逆の周方向に延在して、弾性予緊張力により前記内歯車(2)および前記ピニオン(3)の歯の歯頭に当接し、前記外側部分(9)と前記内側部分(10)とが前記分離部材(7)と一体であることを特徴とする内接歯車ポンプ。
【請求項2】
前記分離部材(7)が板ばね状の外側部分(9)および/または内側部分(10)を有していることを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項3】
前記分離部材(7)の前記外側部分(9)および/または内側部分(10)が鏡像対称であることを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項4】
前記分離部材(7)が前記外側部分(9)と前記内側部分(10)との間で前記内接歯車ポンプ(1)の前記ポンプ室(6)内に回動可能に支持されていることを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項5】
前記分離部材(7)の前記外側部分(9)と前記内側部分(10)との間の中間空間が前記ポンプ室(6)と連通していることを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項6】
1つの外側部分(9)と1つの内側部分(10)との間に、該外側部分(9)と内側部分(10)とを前記ポンプ室(6)内で密封している密封要素(12)が配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文の構成を備えた液圧式車両ブレーキ装置の内接歯車ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内接歯車ポンプは、内歯車と、該内歯車と噛み合うピニオンとを有している。内歯車は内歯歯車であり、ピニオンは外歯歯車であり、内歯車とピニオンとは内接歯車ポンプの歯車とも呼ぶことができる。
【0003】
内歯車とピニオンとは、該内歯車とピニオンとが互いに噛み合っている周部分の外側で、該内歯車とピニオンとの間において三日月状のポンプ室を取り囲んでいる。ポンプ室内には、該ポンプ室内で吸い込み領域と加圧領域とを分離させている分離部材が配置されている。分離部材はほとんどの場合三日月状または半三日月状であり、その形状から鎌状部材または三日月状部材と呼ばれる。分離部材に対する他の呼称は充填部材である。分離部材は内歯車およびピニオンの歯の歯頭の外側および内側に当接して、内歯車の歯先円の位置とピニオンの歯先円の位置とで該内歯車の歯と該ピニオンの歯との間の歯中間空間を閉じている。内接歯車ポンプの作動時にはこれら歯車が回転駆動され、その結果その歯の歯頭は分離部材に沿って滑動し、歯中間空間は周方向において分離部材に沿って移動する。このとき歯中間空間は流体を、通常は液体を、ポンプ室の吸込み領域から加圧領域へ搬送し、すなわち流体が吸込み領域から加圧領域へ搬送される。
【0004】
特許文献1はこの種の車両ブレーキ用内接歯車ポンプを開示しており、その分離部材はポンプ室内である周角にわたって円弧状に延在している。分離部材は剛性のある一体の構成部材であり、その長手方向中央部で回動可能に支持されている。この分離部材は内接歯車ポンプの半径方向において前記歯車の歯先円の間の中間空間よりも幅狭であり、該分離部材と内歯車およびピニオンの歯頭との間には隙間ばめがある。分離部材は、圧力の作用により、一端が内歯車の歯の歯頭外面に当接し且つ他の一端がピニオンの歯の歯頭内面に当接するように、回動する。この内接歯車ポンプは基本的には可逆性があり、両回転方向に駆動することができ、その際回転方向が逆転すると、吸込み領域と加圧領域とが交替して搬送方向が逆になる。
【0005】
特許文献2は、複数の部分から成る半三日月状の分離部材を備えた内接歯車ポンプを開示しており、分離部材は、セグメントキャリアと呼ばれる1つの内側部分と、セグメントと呼ばれる1つの外側部分とを有している。内側部分と外側部分とは一片ずつ幅をもって円弧状に周方向に延在し、内接歯車ポンプの半径方向において互いに逆の方向に可動である。内側部分と外側部分とは周方向において支台で支持され、該支台は、ポンプ室を吸込み領域において貫通して分離部材の吸込み領域側端部にあるピンによって形成される。内側部分と外側部分とはばね要素により且つ圧力の作用により半径方向において互いに離れるようにして内歯車およびピニオンの歯の歯頭に対して押圧される。分離部材は複数の部分から形成されているために製造および組み立てが面倒である。この内接歯車ポンプは可逆性がなく、1つの回転方向でのみ作動させることができる。
【0006】
特許文献3は、分離部材が一体であり、脚ばねによって形成するようにした内接歯車ポンプを開示している。脚ばねはU字状であり、この場合両脚部は同じ側で内歯車およびピニオンの歯先円に対応するように湾曲されている。分離部材を形成しているU字状の脚ばねはヨークを用いて支台としてのピンで支持されている。分離部材の脚部は弾性予緊張力でもって歯車の歯頭に当接し、脚部の間の中間空間内の圧力の作用によって互いに引き離されて歯車の歯頭に対し押圧される。この内接歯車ポンプも可逆性がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007050820A1号明細書
【特許文献2】独国特許第19613833B4号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102007049704A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の内接歯車ポンプを改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の構成を備えた本発明による内接歯車ポンプの分離部材は、2つの外側部分と2つの内側部分とを有し、該2つの外側部分と2つの内側部分とは、内歯車およびピニオンの歯の歯頭に沿って互いに逆の周方向に延在して、内歯車およびピニオンの歯の歯頭に当接している。外側部分と内側部分とは半径方向において互いに逆の方向に可動であり、弾性予緊張力でもって内歯車およびピニオンの歯の歯頭に当接している。外側部分と内側部分とは弾性要素を用いて歯頭に対し押圧させることができ、好ましくは外側部分と内側部分とは弾性があり、取り付け状態で歯頭に対し予め緊張せしめられている。
【0010】
従属項は、請求項1に記載の発明の有利な構成および他の構成を対象としている。
【0011】
本発明による内接歯車ポンプは、特に液圧式車両ブレーキ装置、スリップコントロール式車両ブレーキ装置、および/または車両パワーブレーキ装置のハイドロポンプとして設けられている。スリップコントロール式車両ブレーキ装置では、ハイドロポンプは逆送ポンプとも呼ばれ、今日では主にピストンポンプとして実施されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明による内接歯車ポンプは可逆作動に適しており、すなわち両回転方向に作動させることができる。本発明による内接歯車ポンプは高い容積効率を有し、その分離部材は外側部分および内側部分を含めて、本発明の実施態様では一体に製造することができ、このことは部品数を減らし、内接歯車ポンプへの分離部材の組み込みおよび内接歯車ポンプの組み立てを容易にする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を図面に示した実施形態に関して詳細に説明する。
図1に図示した本発明による内接歯車ポンプ1は、内歯車2と、該内歯車2と噛み合っているピニオン3とを有している。ピニオン3は外歯歯車であり、内歯車2は内歯歯車であり、ピニオン3と内歯車2とは内接歯車ポンプ1の歯車と呼ぶこともできる。ピニオン3はポンプ軸4上に相対回転不能に配置され、該ポンプ軸によりピニオン3は内接歯車ポンプ1を作動させるために回転駆動可能であり、噛み合っている内歯車2を一緒に回転駆動させる。内歯車2は、図示していないポンプケーシングに圧入されている支持リング5で滑動可能に支持されている。
【0015】
歯車2,3が互いに噛み合っている周部分の外側で、これらの歯車は三日月状のポンプ室6を取り囲んでいる。ポンプ室6内には、該ポンプ室6を2つの領域に分割している、すなわち吸込み領域と加圧領域とに分割している分離部材7が配置されている。どちらが吸込み領域で、どちらが加圧領域であるかは、内接歯車ポンプ1の回転方向に依存している。図面では、歯車2,3の回転方向が時計方向であるときに吸込み領域が左側で、加圧領域が右側であり、反時計方向の回転では逆になる。
【0016】
分離部材7は鏡像対称であり、その中央部を支持ピン8で回転可能に支持されており、該支持ピンはポンプ室6をその周中央部において軸線平行に貫通している。分離部材7からは両周方向にそれぞれ外側部分9と内側部分10とが突出し、該外側部分と内側部分とは歯車2,3の歯の歯頭に当接している。外側部分9と内側部分10とは板ばねのように形成され、その結果外側部分と内側部分とは内接歯車ポンプ1の半径方向に可動であり、内接歯車ポンプ1の半径方向に弾性運動することができる。外側部分9と内側部分10とは組み込まれた状態において、弾性予緊張力で内歯車2およびピニオン3の歯の歯頭に当接するように、湾曲している。外側部分9と内側部分10とは流体量を、好ましくは液体量を内包し、図示していない液圧式車両ブレーキ装置のハイドロポンプとして内接歯車ポンプ1を使用するために設けられる本発明の本実施形態では、内歯車2の歯とピニオン3の歯との間の歯中間空間内にブレーキ液を内包し、その結果内接歯車ポンプ1の作動時には、歯車2,3の回転駆動により、歯中間空間内の流体は分離部材7の外側と内側に沿ってポンプ室6の1つの領域から他の領域へ搬送される。その際、すでに述べたように、どちらの領域が吸込み領域で、どちらの領域が加圧領域であるかは、回転方向に依存して決まる。
【0017】
分離部材7の外側部分9と内側部分10との間の中間空間には、ポンプ吸込み部およびポンプ排出部を形成するポンプ室6の孔11が開口している。両孔11のどちらがポンプ吸込み部を形成し、どちらがポンプ排出部を形成するかは、同様に回転方向に依存している。これらの孔11は、図示したものと異なり、周方向において外側部分9および内側部分10の外側で、該外側部分9および内側部分10の自由端を通じて外側部分9と内側部分10との間の中間空間と連通しているポンプ室6に開口していてもよい。加圧領域においては、外側部分9と内側部分10とは、圧力の作用によって互いに引き離されて、弾性予緊張力に加えてこの圧力の作用によって歯車2,3の歯の歯頭に対して押圧される。
【0018】
外側部分9と内側部分10とは、弾性材料から成る、たとえばばね鋼から成る分離部材7の一体的な構成部分である。分離部材7の材料とは異なる金属またはプラスチックも可能である。
【0019】
外側部分9と内側部分10とが一体的に分離部材7に移行している、該外側部分9および内側部分10の端部には、該外側部分9と内側部分10との間の中間空間内に、分離部材7を側方から密封している密封要素12が配置されている。密封要素12はたとえば加硫処理して装着されているか、或いは、接着されていてよい。これらの密封要素は図示していないポンプケーシングのアキシアルディスクまたは端壁に側方から当接している。密封要素12は必ずしも必要なものではない。
【0020】
本発明による内接歯車ポンプ1は、図示していない液圧式車両ブレーキ装置、スリップコントロール式車両ブレーキ装置、および/または車両パワーブレーキ装置のハイドロポンプとして設けられ、ブレーキロックプロテクションコントロール、トラクションスリップコントロールおよび/またはダイナミックドライブコントロールのようなスリップコントロールに用いられ、および/または、車両の液圧式パワーブレーキ装置内でブレーキ圧を発生させるために用いられる。このようなハイドロポンプは、必ずしも正確な表現ではないが逆送ポンプとも呼ばれる。前記のスリップコントロールに対してはABS,ASR,FDR,ESPのような略語が使用され、ダイナミックドライブコントロールは一般にはスタビリティコントロールと呼ばれる。
【符号の説明】
【0021】
1 内接歯車ポンプ
2 内歯車
3 ピニオン
6 ポンプ室
7 分離部材
9 分離部材の外側部分
10 分離部材の内側部分