(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハイブリッドキャパシタは急速充放電が可能なため、自動車等の車両においてエンジン起動時の電力源や加速時のアシストとしての活用が検討されている。かかる車両は、寒冷地や冬季などの低い気温でも作動可能でなければならず、この場合に備えるべき蓄電デバイスとしての要件は、低温での優れた電気特性である。しかしながら、従来の一般的なハイブリッドキャパシタは、常温(例えば25℃)では比較的高い静電容量を示すものであっても、低温(例えば−30℃)では静電容量が著しく低下する場合があった。本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、低温での容量低下が起こりにくいハイブリッドキャパシタの構築に資する高性能な活性炭を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、正極もしくは負極に活性炭を用いたハイブリッドキャパシタにおいて、低温(例えば−30℃)で静電容量が低下する要因は、活性炭の表面に存在する塩基性官能基であることに思い至り、かかる塩基性官能基の量を変えることによって、低温での容量低下を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明によって提供されるハイブリッドキャパシタ用活性炭は、ハイブリッドキャパシタの電極材料として用いられる活性炭であって、該活性炭の中和滴定に基づく塩基性官能基量が0.3mmol/g以下となるように規定されている。
【0007】
このことにより、上記塩基性官能基量が0.3mmol/gを上回るような従来の活性炭と比較して、低温での静電容量の低下が起こりにくくなる。すなわち、活性炭に吸着した電荷体(リチウムイオンキャパシタの場合、リチウムイオン)の脱着を阻害する塩基性官能基の量が、活性炭1g当たり0.3mmol以下に抑えられているので、活性炭に吸着した電荷体の脱着が阻害されるような事態が生じ難い。そのため、活性炭に吸着した電荷体の脱着が阻害された場合に起こり得る、低温での静電容量の低下を抑制することができる。
【0008】
ここで開示される活性炭の好ましい一態様では、温度−196℃における二酸化炭素吸着量が0.2ml/g以上(例えば0.2ml/g〜0.4ml/g、好ましくは0.25ml/g以上)となるように規定されている。このような二酸化炭素吸着量の範囲内であると、常温での高容量化を実現し得る。
【0009】
ここで開示される活性炭の好ましい一態様では、前記塩基性官能基として少なくとも窒素含有官能基(例えばアミノ基)を有する。アミノ基などの電子供与性をもつ塩基性官能基が活性炭の表面に存在すると、活性炭に吸着した電荷体の脱着が阻害され、静電容量が低下するなどの不都合が生じがちであるが、本発明によれば、活性炭の塩基性官能基量が0.3mmol/g以下に抑えられているので、そのような不都合が生じ難い。
【0010】
また、本発明は、ここに開示されるいずれかの活性炭を備えたハイブリッドキャパシタを提供する。即ち、正極と負極と電解質とを備えたハイブリッドキャパシタであって、前記正極は、正極材料として活性炭を含んでいる。そして、前記活性炭の中和滴定に基づく塩基性官能基量が0.3mmol/g以下となるように規定されている。かかる構成によると、低温での容量低下が抑制された高性能なハイブリッドキャパシタを提供することができる。この場合、前記活性炭は、温度−196℃における二酸化炭素吸着量が0.2ml/g以上となるように規定されていてもよい。この場合、常温での高容量を有しつつ低温でも容量が維持された、最適なハイブリッドキャパシタを提供することができる。前記活性炭は、前記塩基性官能基として少なくとも窒素含有官能基を有していてもよい。
【0011】
また他の側面として、本発明は、ハイブリッドキャパシタの電極材料として用いられる活性炭の製造方法を提供する。この製造方法は、活性炭前駆体を用意する活性炭前駆体用意工程を包含する。また、前記活性炭前駆体用意工程で用意した活性炭前駆体を賦活して活性炭を得る賦活工程を包含する。さらに、前記賦活工程で得られた活性炭を酸で洗浄する酸洗浄工程を包含する。また、前記酸洗浄工程で洗浄された活性炭を水系媒体で洗浄する水洗工程を包含する。さらに、前記水洗工程で洗浄された活性炭を熱処理する熱処理工程を包含する。そして、前記熱処理工程後の前記活性炭の中和滴定に基づく塩基性官能基量が0.3mmol/g以下となるように、前記水洗工程を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明者の知見によれば、酸洗浄工程にて活性炭を酸(例えば硝酸)で洗浄した場合、酸由来の官能基(例えば−NO、−NO
2)が活性炭の表面に残留する。これら残留官能基が熱処理工程において還元雰囲気に曝されると、塩基性官能基(例えば−NH
2)に還元されるので、塩基性官能基量が増大する要因になり得る。これに対し、本発明の製造方法では、活性炭を酸で洗浄した後、水洗して酸由来の残留官能基を取り除く。そして、酸由来の残留官能基を取り除いた活性炭に対して上記熱処理を行う。このことにより、従来に比して、活性炭の表面に存在する塩基性官能基が少ない(塩基性官能基量が0.3mmol/g以下に抑制された)活性炭を得ることができる。かかる活性炭は、低温での容量低下が抑制されたキャパシタの構築に資する高性能な活性炭となり得る。
【0013】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記水洗工程は、該水洗工程後の前記活性炭のJIS
K 1474に基づくpHが少なくとも4.0を上回るまで行われる。pHが4.0を上回るまで水洗することにより、酸由来の官能基が効果的に除去される。そのため、従来に比して塩基性官能基量が少ない活性炭を確実に得ることができる。
【0014】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記賦活工程は、前記活性炭前駆体1当量(1質量部)に対してアルカリ金属化合物3当量(3質量部)以上を添加した後、600℃〜1000℃の温度域で熱処理することを含む。この方法によれば、比較的大きな比表面積をもつ活性炭を得ることができる。
【0015】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記酸洗浄工程は、前記活性炭を無機酸(例えば硝酸)中に5時間以上浸漬する処理を含む。この方法によれば、賦活時に残留したアルカリ成分を除去することができる。
【0016】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記熱処理工程は、前記活性炭を還元性ガス雰囲気下で600℃〜1000℃の温度域で熱処理することを含む。この方法によれば、不純物の少ない活性炭を得ることができる。
【0017】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記活性炭前駆体用意工程後かつ前記賦活工程前に、前記活性炭前駆体を平均粒径が80μm〜120μmとなるように粉砕する処理を行う。この方法によれば、賦活の効果が上がるとともに、小径かつ粒度分布の狭い活性炭を得ることができる。
【0018】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記水洗浄工程後かつ前記熱処理工程前に、前記活性炭を平均粒径が1μm〜5μmとなるように粉砕する処理を行う。かかる方法によれば、常温での静電容量の大きいキャパシタの構築に資する高性能な活性炭を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適ないくつかの実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。以下では主として本発明をリチウムイオンキャパシタ用正極材料に用いられる活性炭に適用する場合を例として説明するが、これに限定することを意図したものではない。
【0021】
本発明によって提供される活性炭は、リチウムイオンキャパシタの正極材料として用いられる活性炭である。かかる活性炭の中和滴定に基づく塩基性官能基量は、概ね0.3mmol/g以下であることが適当であるが、0.25mmol/g以下が好ましく、0.2mmol/g以下が特に好ましい。
【0022】
ここで上記中和滴定は以下のようにして実施するものとする。すなわち、所定量の活性炭を塩酸に分散させ、濾過により活性炭を塩酸から分離した後、濾液を水酸化ナトリウムで中和滴定してpH8付近の中和点までの滴定量を判断することによって、上記所定量の活性炭の表面に存在する塩基性官能基の量α(mmol/g)を求めることができる。具体的には以下の式(1)を用いてαを求めることができる。
α(mmol/g)=(C×D−A×B)÷E (1)
A:中和点までの水酸化ナトリウム滴定量(mL)
B:水酸化ナトリウムのモル濃度(mol/L)
C:塩酸の量(ml)
D:塩酸のモル濃度(mol/L)
E:活性炭の質量(g)
【0023】
なお、上記中和滴定は、活性炭を塩酸に分散させておく時間を概ね同程度に揃えて実施することが好ましい。このことによって上記塩基性官能基量をより精度よく把握することができる。好ましい一態様では、上記分散時間を10分〜20分程度の間に設定される概ね一定の時間(例えば15分)とする。塩酸に活性炭を分散させてから所定時間(分散時間)経過後に、濾過により活性炭を塩酸から分離する。その後、濾液に水酸化ナトリウムを加え、中和滴定を行うとよい。
【0024】
ここで開示される活性炭は、上記式(1)で求められる活性炭の中和滴定に基づく塩基性官能基量が0.3mmol/g以下となるように規定されている。このことにより、上記塩基性官能基量が0.3mmol/gを上回るような従来の活性炭と比較して、低温での静電容量の低下が起こりにくくなる。すなわち、本発明者の知見によれば、活性炭は性質上、その表面に多くの官能基が存在しているが、アミノ基などの電子供与性をもつ塩基性官能基が存在すると、活性炭に吸着したリチウムイオンの脱着が阻害され、静電容量が低下する要因になり得る。特に低温での充放電時には、リチウムイオンの移動速度が鈍く、塩基性官能基との相互作用が強まるため、上記容量低下が起こりやすい。これに対し、本構成によれば、リチウムイオンの脱着を阻害する塩基性官能基の量が活性炭1g当たり0.3mmol以下に抑えられているので、塩基性官能基との相互作用によって活性炭に吸着したリチウムイオンの脱着が阻害されるような事態が生じ難い。つまり、低温時でも活性炭に吸着したリチウムイオンが円滑に脱離するようになる。そのため、低温時にリチウムイオンの脱着が阻害された場合に起こり得る、静電容量の低下を抑制することができる。
【0025】
例えば、本発明によって提供される活性炭としては、塩基性官能基量が0.3mmol/g以下であることが好ましく、0.25mmol/g以下であることがより好ましく、0.2mmol/g以下であることがさらに好ましい。その一方で、塩基性官能基量が0.1mmol/gを下回る活性炭は生成(製造)に時間がかかることに加えて低温での静電容量向上効果も鈍化するため、メリットがあまりない。生産性の観点からは、活性炭の塩基性官能基量は0.1mmol/g以上とすることが好ましい。例えば、塩基性官能基量が0.1mmol/g以上0.3mmol/g以下(特に0.15mmol/g以上0.25mmol/g以下)の活性炭が低温での静電容量向上効果と生産性を両立するという観点から適当である。
【0026】
ここで開示される活性炭としては、二酸化炭素吸着量が0.2ml/g以上となるように規定されていることが好ましい。このような二酸化炭素吸着量の範囲内であると、静電容量に寄与する小サイズ(典型的には1nm以下)の細孔が増えるので、常温での高容量化を実現し得る。ここで上記CO
2吸着量は、115℃で1時間以上乾燥させた所定量の活性炭を真空状態で200℃、3時間乾燥させてから−196℃で測定するものとする。例えば、ここで開示される活性炭としては、二酸化炭素吸着量が0.2ml/g以上であることが好ましく、0.25ml/g以上であることがより好ましく、0.3ml/g以上であることが特に好ましい。その一方で、二酸化炭素吸着量が0.5ml/gを上回る活性炭は生成(製造)が難しいことに加えて低温での常温での高容量化も鈍化するため、メリットがあまりない。製造容易の点からは、活性炭の二酸化炭素吸着量は0.5ml/g以下(例えば0.2ml/g以上0.5ml/g以下)とすることが好ましい。
【0027】
ここで開示される活性炭の好適例として、塩基性官能基量が0.3mmol/g以下であり、かつ−196℃での二酸化炭素吸着量が0.2ml/g以上であるもの、塩基性官能基量が0.25mmol/g以下であり、かつ−196℃での二酸化炭素吸着量が0.25ml/g以上であるもの、塩基性官能基量が0.2mmol/g以下であり、かつ−196℃での二酸化炭素吸着量が0.3ml/g以上であるもの、等が挙げられる。このような所定範囲内の塩基性官能基量および二酸化炭素吸着量を両立して有することにより、常温での高容量化を実現しつつ、低温でも比較的高い容量が維持された、高性能な活性炭を得ることができる。
【0028】
次に、
図1を参照しつつ、本実施形態に係るリチウムイオンキャパシタ用活性炭の製造方法について説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る方法は、リチウムイオンキャパシタの正極材料として用いられる活性炭を製造する方法であって:活性炭前駆体を用意する活性炭前駆体用意工程(S10)と、活性炭前駆体を平均粒径が80μm〜120μmとなるように粉砕する処理を行う一次粉砕工程(S11)と、活性炭前駆体を賦活して活性炭を得る賦活工程(S12)と、賦活工程で得られた活性炭を酸で洗浄する酸洗浄工程(S13)と、酸洗浄工程で洗浄された活性炭を水系媒体で洗浄する水洗工程(S14)と、活性炭を平均粒径が1μm〜5μmとなるように粉砕する処理を行う二次粉砕工程(S15)と、活性炭を熱処理する熱処理工程(S16)とを包含する。そして、熱処理工程(S16)後の活性炭の中和滴定に基づく塩基性官能基量が0.3mmol/g以下となるように、水洗工程(S14)を行うことを特徴とする。以下、各工程を説明する。
【0030】
活性炭前駆体用意工程(S10)では、活性炭前駆体を用意する。活性炭前駆体は、所定の活性炭製造用原料を炭化して得られるものであり、例えば、鉱物系、植物系、樹脂系などの炭素質材料を焼成することにより製造され得る。鉱物系の炭素質材料としては、石炭(亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等)、コークス類、不融化ピッチ、オイルカーボンなどが例示される。植物系の炭素質材料としては、木炭、ヤシ殻、オガ屑、木材チップ、草炭などが例示される。樹脂系の炭素質材料としては、フェノール樹脂が例示される。炭素質材料の炭化(焼成)は、従来公知の方法で行うことができる。あるいは、市販されている活性炭前駆体(既成品)を購入して使用してもよい。
【0031】
一次粉砕工程(S11)では、上記した活性炭前駆体を平均粒径が80μm〜120μmとなるように粉砕する。活性炭前駆体の粉砕は、ハンマークラッシャ、コーンクラッシャ、ディスククラッシャ、ロータリークラッシャ、ボールミル、遠心ロールミル、リングロールミル、遠心ボールミルなど公知の粉砕機で行うとよい。後述する賦活工程(S12)を有効に進めるべく、活性炭前駆体の平均粒径(D50径)は凡そ80μm〜120μmとすることが適当であり、好ましくは90μm〜110μmである。かかる粒径は、後述する二次粉砕工程(S15)において、粒径が数μm以下であり、かつ粒径分布が狭い活性炭を得る観点からも好適である。なお、本明細書で平均粒径はメジアン径(d50)をいい、市販されている種々のレーザー回折/散乱法に基づく粒度分布測定装置によって容易に測定することができる。
【0032】
賦活工程(S12)では、上記粉砕した活性炭前駆体を賦活して活性炭を得る。この実施形態では、活性炭前駆体に粉末状のアルカリ金属化合物を添加し、熱処理することにより賦活処理を行う。アルカリ金属化合物としては、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、塩化カリウムなどが好ましく用いられる。これらの1種または2種以上を混合して使用してもよい。中でも水酸化カリウムの使用が好ましい。アルカリ金属化合物の添加量は、1当量の活性炭前駆体に対して3当量以上(例えば3当量〜10当量)とすることが適当であり、好ましくは3.2当量以上であり、特に好ましくは3.5当量以上である。例えば、活性炭前駆体1質量部に対してアルカリ金属化合物3質量部以上(例えば3質量部〜10質量部)添加することが適当であり、好ましくは3.2質量部以上であり、特に好ましくは3.5質量部以上である。アルカリ金属化合物の添加量が少なすぎると十分な賦活効果を得ることができない場合があり、一方、添加量が多すぎると未反応のアルカリ金属化合物が過剰に残留する虞があるため好ましくない。
【0033】
活性炭前駆体にアルカリ金属化合物を添加した後に行う熱処理は、例えば不活性ガス(例えば窒素ガス)雰囲気中において600℃〜1000℃の範囲内に最高到達温度を決定するとよい。前記熱処理温度が低すぎると賦活が十分に進行しないため、適当な細孔をもつ活性炭が得られない場合がある。一方、熱処理温度が高すぎると、アルカリ金属化合物が溶融するため、賦活が不十分になる場合がある。従って、賦活工程における熱処理温度は、概ね600℃〜1000℃が適当であり、好ましくは650℃〜900℃であり、特に好ましくは700℃〜800℃である。熱処理時間(最高到達温度での保持時間)は、賦活が十分に進行するまでの時間とすればよく、通常は5時間〜30時間であり、好ましくは8時間〜20時間であり、特に好ましくは10時間〜15時間である。
好ましくは、室温から600℃〜1000℃(例えば700℃)の温度域まで3時間〜10時間(好ましくは5時間〜10時間)程度かけて昇温するとよい(例えば1℃/min〜3℃/min)。そして、当該最高到達温度域にて5時間〜30時間程熱処理するとよい。このような加熱スケジュールによって活性炭前駆体を熱処理することにより、比較的大きな比表面積をもつ活性炭を得ることができる。
【0034】
上記のようなスケジュールでの熱処理により得られた活性炭を、好ましくは冷却後、純水でpH11〜12程度になるまで濾過洗浄することによって、賦活時に残留したアルカリ成分(典型的には未反応のアルカリ金属化合物や生成アルカリ不純物)を除去することができる。なお、ここでの活性炭のpHは、JIS
K 1474に基づく測定によって把握するものとする。
【0035】
酸洗浄工程(S13)では、上記賦活工程で得られた活性炭を酸で洗浄する。賦活工程後、活性炭を酸洗浄することにより、賦活時に残留したアルカリ成分(典型的には未反応のアルカリ金属化合物や生成アルカリ不純物)を確実に除去することができる。酸洗浄は、例えば活性炭を無機酸中に浸漬することにより行うとよい。洗浄に用いられる無機酸としては、残留アルカリ成分を溶解する酸であれば特に限定なく使用することができる。好適例として、含有窒素酸、例えば亜硝酸(HNO
2)や硝酸(HNO
3)の使用が好ましい。含有窒素酸で洗浄した後、さらに硫酸や塩酸で洗浄してもよい。洗浄に用いられる酸の濃度としては、残留アルカリ成分を溶解し得る濃度であれば特に限定されないが、例えば硝酸を使用する場合は、概ね0.05mol/L〜0.5mol/Lにすることが適当であり、好ましくは0.1mol/L〜0.3mol/Lである。また、酸洗浄時間は、残留アルカリ成分が十分に溶解するまでの時間とすればよく、通常は5時間以上(例えば5時間〜30時間)であり、好ましくは10時間〜20時間であり、特に好ましくは10時間〜15時間である。
【0036】
水洗工程(S14)では、酸洗浄工程で洗浄された活性炭を水洗する。水洗は、例えばフィルタ上の活性炭に水系媒体を通過させる濾過洗浄により行うとよい。水系媒体としては、水または水を主体とする混合媒体が好ましく用いられる。かかる混合媒体を構成する水以外の媒体成分としては、水と均一に混合し得る有機媒体(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系媒体の80質量%以上(より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)が水である水系媒体の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系媒体が挙げられる。
ここで、水洗工程は、活性炭の塩基性官能基量を低減させるという観点から一つの重要なファクターである。好ましくは、水洗工程後の活性炭のJIS K 1474に基づくpHが少なくとも4.0を上回る(好ましくは4.4以上、より好ましくは4.6以上)まで水洗(ここでは濾過洗浄)を繰り返す。これにより、活性炭に残留した酸由来の官能基(例えば硝酸の場合、−NO
2、−NO
3等)を除去することができる。酸由来の官能基は、後述する熱処理工程で還元されて塩基性官能基となるため、上記水洗が不十分な場合、活性炭の塩基性官能基量が増大する要因になり得るが、本構成によれば、pHが4.0を超えるまで水洗を繰り返すので、従来に比して、活性炭の塩基性官能基量を低い値に調整することができる。
【0037】
二次粉砕工程(S15)では、上記のような水洗工程により洗浄された活性炭を、好ましくは乾燥後(例えば100℃〜120℃での10時間〜24時間の乾燥後)、平均粒径が5μm以下(例えば1μm〜5μm)、好ましくは3μm以下(例えば1μm〜3μm)となるように粉砕する。活性炭の粉砕は、振動ミル、遠心ロールミル、リングロールミル、遠心ボールミル、ハンマークラッシャ、コーンクラッシャ、ディスククラッシャ、ロータリークラッシャ、ボールミル、など公知の粉砕機で行うとよい。活性炭の平均粒径を5μm以下とすることで、小径化により比表面積が増大した活性炭(常温での静電容量の大きいキャパシタの構築に資する高性能な活性炭)を得ることができる。
【0038】
熱処理工程(S16)では、上記二次粉砕した活性炭を還元ガス雰囲気下で熱処理することにより、活性炭の表面に残存している官能基(例えば、−COOH、−CHO、−OHなど)を還元して取り除く。還元ガスとしては、水素ガス若しくは水素ガスやアンモニアガスを含む混合ガスの他にメタン(CH
4)ガス、炭酸(CO
2)ガス等を用いることができる。還元ガスは、窒素(N
2)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスで希釈して供給してもよい。好ましくは、水素(H
2)と窒素(N
2)の混合ガス雰囲気を形成するとよい。希釈の程度については特に限定されないが、通常は、還元ガス濃度が1体積%以上であれば十分であり、例えば1体積%〜10体積%(好ましくは1体積%〜5体積%)にすることが好ましい。
【0039】
熱処理温度としては、600℃〜1000℃の範囲内に最高到達温度を決定するとよい。前記熱処理度が低すぎると残存官能基の除去が不十分になる場合があり、一方、熱処理度が高すぎると、エネルギー的に不経済になる場合がある。従って、熱処理工程における温度は、概ね600℃〜1000℃が適当であり、好ましくは650℃〜900℃であり、特に好ましくは700℃〜800℃である。熱処理時間(最高到達温度での保持時間)は、残存官能基の除去が十分に進行するまでの時間とすればよく、通常は1時間〜15時間であり、好ましくは3時間〜10時間であり、特に好ましくは5時間〜8時間である。好ましくは、室温から600℃〜1000℃の温度域まで3時間〜10時間(好ましくは5時間〜10時間)程度かけて昇温するとよい。そして、当該最高到達温度域にて1時間〜15時間程熱処理するとよい。このような加熱スケジュールによって活性炭を熱処理(焼成)することにより、残存官能基を効率的に除去することができる。
【0040】
このようにして得られた活性炭は、従来に比して、その表面に残存する塩基性官能基量が少ない。典型的には、前述した中和滴定に基づく塩基性官能基量が0.3mmol/g以下(好ましくは0.25mmol/g以下)という、この種の活性炭としては極めて低い塩基性官能基量を示す。また、上記得られた活性炭は、従来に比して、比表面積が大きく、適当な細孔を有する。典型的には、−196℃における二酸化炭素(CO
2)吸着量が0.2ml/g以上(好ましくは0.25ml/g以上)という、この種の活性炭としては極めて高いCO
2吸着量を示す。このことから、ここで開示される活性炭は、ハイブリッドキャパシタ(典型的にはリチウムイオンキャパシタ)の正極材料として好適に使用することができる。
そして、ここで開示される活性炭を使用する以外は、従来と同様の材料とプロセスを採用してリチウムイオンキャパシタを構築することができる。
【0041】
例えば、ここで開示される活性炭に、導電材としてアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の粉末状カーボン材料を混合することができる。また、活性炭と導電材の他に、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の結着材(バインダ)を添加することができる。これらを適当な分散媒体に分散させて混練することによって、ペースト状(スラリー状またはインク状を含む。以下同じ。)の正極形成用組成物を調製することができる。このペーストを、好ましくはアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成される集電体上に適当量塗布しさらに乾燥することによって、リチウムイオンキャパシタ用正極を作製することができる。
【0042】
他方、対極となるリチウムイオンキャパシタ用負極は、従来と同様の手法により作製することができる。例えば負極材料としては、リチウムイオンを吸蔵且つ放出可能な材料であればよい。典型例として黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素等から成る粉末状の炭素材料が挙げられる。あるいは、ポリアセチレンやSnなどの材料であってもよい。特に黒鉛粒子は、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことからより急速充放電(例えば高出力放電)に適した負極材料となり得る。
そして正極と同様、かかる粉末状材料を適当な結着材(バインダ)とともに適当な分散媒体に分散させて混練することによって、ペースト状の負極形成用組成物を調製することができる。このペーストを、好ましくは銅やニッケル或いはそれらの合金から構成される集電体上に適当量塗布しさらに乾燥することによって、リチウムイオンキャパシタ用負極を作製することができる。
本発明の活性炭を正極材料に用いるリチウムイオンキャパシタにおいて、従来と同様のセパレータを使用することができる。例えばポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはそれらの積層体)から成る多孔質のシート等を使用することができる。あるいは、セルロース系の不織布を用いてもよい。
【0043】
また、電解質としては従来からリチウムイオンキャパシタに用いられる非水系の電解質(典型的には電解液)と同様のものを特に限定なく使用することができる。典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成である。上記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
また、ここで開示される活性炭を正極材料として採用される限りにおいて、構築されるリチウムイオンキャパシタの形状(外形やサイズ)には特に制限はない。外装がラミネートフィルム等で構成される薄型シートタイプであってもよく、外装ケースが円筒形状や直方体形状のキャパシタでもよく、或いは小型のコイン形状であってもよい。
【0044】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
<活性炭の製造>
<サンプル1>
まず、活性炭前駆体としての石炭を粉砕機(株式会社ダルトン製 アトマイザーAIIW−5型)を用いて平均粒径100μmまで粉砕し、一次粉砕品を得た。この一次粉砕品1当量に対して粉末の水酸化カリウム3.2当量を添加し、昇降式焼成炉(美濃窯業株式会社製)で焼成し、賦活処理を行った(賦活工程)。焼成温度(最高到達温度)は700℃、焼成時間(最高到達温度での焼成時間)は10時間とし、室温から2℃/minで昇温した。得られた活性炭を純水でpHが11〜12程度になるまで濾過洗浄し、さらに0.1Nの硝酸で12時間酸洗浄を行うことで、活性炭に付着した残留アルカリ成分を除去した(酸洗浄工程)。次いで、純水で濾過洗浄を繰り返し、JIS K 1474に基づくpHが4.4になるまで水洗した(水洗工程)。そして、得られた水洗物を110℃で24時間乾燥した後、粉砕機(ユーラステクノ株式会社製 連続粉砕機)に投入して平均粒径3μmまで粉砕し、二次粉砕品を得た。この二次粉砕品を3体積%の水素雰囲気下、昇降式焼成炉(美濃窯業株式会社製)で焼成した。焼成温度(最高到達温度)は700℃、焼成時間(最高到達温度での焼成時間)は5時間とし、室温から2℃/minで昇温した。このようにして、サンプル1に係る活性炭を得た。
【0046】
<サンプル2>
水洗工程においてpHが4.6になるまで濾過洗浄を繰り返した。水洗工程においてpHが4.6になるまで水洗したこと以外はサンプル1と同じ構成とした。
【0047】
<サンプル3>
水洗工程においてpHが3.5になるまで濾過洗浄を繰り返した。水洗工程においてpHが3.5になるまで濾過洗浄を繰り返したこと以外はサンプル1と同じ構成とした。
【0048】
<サンプル4>
水洗工程においてpHが3.7になるまで濾過洗浄を繰り返した。水洗工程においてpHが3.7になるまで濾過洗浄を繰り返したこと以外はサンプル1と同じ構成とした。
【0049】
<サンプル5>
水洗工程においてpHが4.0になるまで濾過洗浄を繰り返した。水洗工程においてpHが4.0になるまで濾過洗浄を繰り返したこと以外はサンプル1と同じ構成とした。
【0050】
<サンプル6>
賦活工程において水酸化カリウムの添加量を2.1当量に変更し、かつ、水洗工程においてpHが3.5になるまで濾過洗浄を繰り返した。賦活工程において水酸化カリウムの添加量を2.1当量に変更し、かつ、水洗工程においてpHが3.5になるまで濾過洗浄を繰り返したこと以外はサンプル1と同じ構成とした。
【0051】
<サンプル7>
市販のアルカリ活性炭(関西熱化学社製:MSP−20)をサンプル7の活性炭としてそのまま使用した。
【0052】
<塩基性官能基量の測定>
上記得られた各サンプルの活性炭について塩基性官能基量を測定した。具体的には、115℃で1時間以上乾燥した各サンプルの活性炭2gを秤量し、0.05mol/Lの塩酸20mlと混合し、15分間攪拌した後、濾過した。そして、濾液5mlに1w/v%フェノールフタレイン試薬を滴下し、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で指示薬の色が消えるまで滴定し、その滴下量から塩基性官能基量を算出した。結果を表1に示す。表1に示すように、水洗工程後の活性炭のpHが高いほど塩基性官能基量は低減傾向となることが確認された。また、市販のアルカリ活性炭は塩基性官能基量が0.3mmol/gを大きく上回ることが確認された。
【0053】
<二酸化炭素(CO
2)吸着量の測定>
上記得られた各サンプルの活性炭についてCO
2吸着量を測定した。具体的には、115℃で1時間以上乾燥した各サンプルの活性炭0.015gを秤量し、Quadrasorb SI(カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)を用いて真空状態で200℃、3時間乾燥させた後、−196℃でCO
2吸着量を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
<リチウムイオンキャパシタの構築>
上記得られた各サンプルの活性炭を用いて評価用のリチウムイオンキャパシタを構築した。ここでは、以下のようにして評価用キャパシタを作製した。まず、上記得られた活性炭を110℃で2時間乾燥した後、活性炭と、結着材としてのSBRと、導電材としてのカーボンブラックとを、90:5:5の質量比となるように秤量して水中で混合し、ペースト状の正極用組成物を調製した。このペースト状正極用組成物をアルミニウム箔(正極集電体、厚み30μm)の両面にドクターブレードを用いて塗布し、110℃で乾燥することにより、該正極集電体の片面に正極材料が設けられた正極シートを得た。
【0055】
上記正極シートを2cm
2のコイン状に打ち抜いて、正極を作製した。この正極(作用極)と、負極(対極)としての金属リチウムと、参照極としての金属リチウムと、セパレータと、非水電解質とを用いて三極セルを構築した。具体的には、正極の両面にセパレータを介して負極(対極)を配置し、また参照極として金属リチウムが用いられてなる構成の三極セルを作製した。
セパレータには、厚み30μmのセルロース系不織布を使用した。非水電解質としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPF
6を約1.5mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた。
【0056】
<静電容量(25℃、−20℃)の測定>
以上のように得られた各サンプルに係る評価用三極セルのそれぞれを、25℃の恒温槽で1時間以上温度調整した後、2mA/cm
2の定電流で3.8Vまで充電し、その後、定電圧方式で合計充電時間が1時間となるまで充電した。そして、10分間の休止後、2mA/cm
2の定電流で2.2Vまで放電した。この放電中におけるセル電圧(キャパシタの電圧)が3.8V‐2.2Vの間の放電時間に基づいて単位体積当たりの静電容量を求めた。また、恒温槽の設定温度を−20℃に変更して同様の手順で静電容量を測定した。そして、(−20℃での静電容量/25℃での静電容量)×100により−20℃静電容量維持率を算出した。なお、充放電装置は、北斗電工株式会社製HJ−1001 SD8を使用した。結果を表1、
図2および
図3に示す。
図2は各サンプルの二酸化炭素吸着量と25℃静電容量との関係を示すグラフであり、
図3は各サンプルの塩基性官能基量と−20℃静電容量維持率との関係を示すグラフである。
【0058】
表1および
図2に示すように、活性炭のCO
2吸着量が増大するに従い25℃静電容量は増大傾向になった。ここで供試した試験用セルの場合、活性炭のCO
2吸着量を0.2ml/g以上とすることによって、22F/mlという極めて高い25℃静電容量を達成することができた。常温での静電容量向上の観点からは、活性炭のCO
2吸着量は、概ね0.2ml/g以上とすることが好ましく、0.25ml/g以上とすることが特に好ましい。また、表1および
図3に示すように、活性炭の塩基性官能基量が低減するに従い−20℃容量維持率は増大傾向になった。ここで供試した試験用セルの場合、活性炭の塩基性官能基量を0.3mmol/g以下とすることによって、70%以上という極めて高い−20℃容量維持率を達成することができた。低温での静電容量維持の観点からは、活性炭の塩基性官能基量は概ね0.3mmol/g以下とすることが好ましく、0.25mmol/g以下とすることが特に好ましい。
【0059】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、ハイブリッドキャパシタの種類は上述したリチウムイオンキャパシタに限られず、電極材料や電解質が異なる種々の内容のキャパシタであってもよい。また、該キャパシタの大きさおよびその他の構成についても、用途(典型的には車載用)によって適切に変更することができる。
【0060】
本発明に係るハイブリッドキャパシタは、常温での高容量化を実現しつつ、低温での静電容量の低下が抑制され得る。かかる特性により、本発明に係るハイブリッドキャパシタは、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源もしくはエンジン起動時の電力源や加速時のアシストを行う補助電源として好適に使用し得る。