特許第6297304号(P6297304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297304
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】ハチの巣浸透補助剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/00 20060101AFI20180312BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20180312BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20180312BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20180312BHJP
   A01N 53/10 20060101ALI20180312BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20180312BHJP
   A01N 31/14 20060101ALI20180312BHJP
   A01N 27/00 20060101ALI20180312BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   A01N25/00 101
   A01N25/06
   A01P7/04
   A01N53/08 125
   A01N53/10 210
   A01N53/08 110
   A01N53/06 110
   A01N31/14
   A01N27/00
   A01M7/00 S
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-233969(P2013-233969)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93847(P2015-93847A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
(72)【発明者】
【氏名】三好 一史
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 弘基
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰史
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−073215(JP,A)
【文献】 特開2011−144151(JP,A)
【文献】 特開平11−322502(JP,A)
【文献】 特開昭63−174907(JP,A)
【文献】 特開2001−220302(JP,A)
【文献】 特開2000−141317(JP,A)
【文献】 特開昭61−218502(JP,A)
【文献】 特開2009−173608(JP,A)
【文献】 特開2004−329148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00
A01M 7/00
A01N 25/06
A01N 27/00
A01N 31/14
A01N 53/06
A01N 53/08
A01N 53/10
A01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフルトリン、フタルスリン、プラレトリンから選ばれる少なくとも1種のピレスロイド系殺虫成分を含有するハチ防除成分と、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ステアリン酸ブチルから選ばれる少なくとも1種の高級脂肪酸エステルを含むハチの巣表面処理剤に50w/v%以上配合され、かつ、23〜27mN/m(20℃)の範囲の表面張力を有する飽和炭化水素であって、前記飽和炭化水素が、ノルマルパラフィンであることを特徴とする前記ハチ防除成分のハチの巣浸透補助剤。
【請求項2】
前記ハチの巣表面処理剤をエアゾール原液とし、これに噴射剤を加えてエアゾール形態となしたことを特徴とする請求項1に記載のハチの巣浸透補助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハチの巣浸透補助剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市周辺の丘陵地帯等の宅地化が進み、害虫のなかでもハチに関する問合せや苦情が増えている。ハチは日本で約3000種類が知られているが、そのうち、刺咬性の強いハチは約20種類で、これらによる人的被害の増大に伴いエアゾール剤等のハチ防除用製品が多く市販されている。
従来から、ハチの駆除に際しては、速効性を有する薬剤が求められ、例えば、特開平1−299202号公報(特許文献1)において、2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)シクロペンタ−2−エニル クリサンマートを有効成分とするハチ駆除剤が提案された。また、特開2009−173608号公報(特許文献2)は、一層速効性に優れたハチ防除用組成物として、メトフルトリンとテトラメトリンを有効成分とした組成物を開示するが、いずれも、そのハチに対する防除効果は満足のいくものではない。
ところで、ハチの巣の撤去作業においては、多数のハチの駆除が必要な場合や、スズメバチのような攻撃性の強いハチと対峙せざるを得ないといった、危険性を伴う作業場面も想定されうる。従って、それらの危険性を回避するためにも、ハチの巣内、もしくはハチの営巣が想定される場所にあらかじめ処理可能な、ハチの営巣防除用製剤の開発が切望されていた。
【0003】
そこで、本発明者らは、特願2013−167321(特許文献3)において、有用なハチの営巣防除用エアゾール剤、即ち、「(a)難揮散性ピレスロイド系殺虫成分、(b)ハチの営巣防除用成分として沸点が180℃以上の高級脂肪酸エステル化合物、及び(c)炭素数12〜18の飽和脂肪族炭化水素系溶剤を含有するエアゾール原液と、(d)噴射剤とからなるエアゾール剤において、前記(a)難揮散性ピレスロイド系殺虫成分と、前記(b)沸点が180℃以上の高級脂肪酸エステル化合物との配合比率(a)/(b)が、1/5〜1/50質量比であるハチの営巣防除用エアゾール剤。」を提案した。特許文献3は、エアゾール剤の処方に着目したものであるが、本発明者らは更に鋭意検討を進めた結果、特にハチの巣の表面に処理する防除用製剤においては、ハチの巣の表面構造に関する研究に基づき、薬剤をハチの巣表面から効率効に浸透させることが重要であると知見し、本発明を完成するに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−299202号公報
【特許文献2】特開2009−173608号公報
【特許文献3】特願2013−167321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハチ防除成分を含むハチの巣表面処理剤に配合され、前記ハチ防除成分のハチの巣への浸透を補助する好適なハチの巣浸透補助剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの鋭意検討の結果、本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)シフルトリン、フタルスリン、プラレトリンから選ばれる少なくとも1種のピレスロイド系殺虫成分を含有するハチ防除成分と、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ステアリン酸ブチルから選ばれる少なくとも1種の高級脂肪酸エステルを含むハチの巣表面処理剤に50w/v%以上配合され、かつ、23〜27mN/m(20℃)の範囲の表面張力を有する飽和炭化水素であって、前記飽和炭化水素が、ノルマルパラフィンである前記ハチ防除成分のハチの巣浸透補助剤。
(2)前記ハチの巣表面処理剤をエアゾール原液とし、これに噴射剤を加えてエアゾール形態となした(1)に記載のハチの巣浸透補助剤
【発明の効果】
【0007】
本発明のハチの巣浸透補助剤は、ハチ防除成分を含むハチの巣表面処理剤をハチの巣に施用するに際し、前記ハチ防除成分のハチの巣への浸透を効率的に補助するのでその実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いるハチの巣表面処理剤においては、ハチ防除成分として、ピレスロイド系殺虫成分の少なくとも1種を使用する。
ここで、ピレスロイド系殺虫成分としては、シフルトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、レスメトリン、フタルスリン、トラロメトリン、ビフェントリン、イミプロトリン、シペルメトリン、エトフェンプロックス、エムペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、モンフルオロトリン、テラレスリン、アレスリン、プラレトリン、ピレトリン等を例示できる。
ハチやハチの巣に対する処理剤としては、長期間にわたる防除効果に加え、速効性を必要とする点を考慮すると、シフルトリンとフタルスリンの混合物が好ましい。
これらピレスロイド系殺虫成分の少なくとも1種を含むハチ防除成分の配合量は、ハチの巣表面処理剤中に0.01〜3.0w/v%、好ましくは0.1〜1.0w/v%が適当である。0.01w/v%未満では十分な防除効果が得られないし、一方、3.0w/v%を超えても格別メリットは得られない。尚、ピレスロイド系化合物の酸成分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、これらの各々や任意の混合物も本発明に包含されることは勿論である。
【0009】
なお、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、上記したピレスロイド系殺虫成分に加えて、他の害虫防除成分を配合することが出来る。例えば、ジノテフラン等のネオニコチノイド系殺虫成分、フェニトロチオン等の有機リン系殺虫成分、シラフルオフェン等のケイ素系殺虫成分、プロポクスル等のカーバメート系殺虫成分を例示できるが、これに限定されない。
【0010】
本発明者らは、ハチの習性やハチの巣の形態を徹底的に観察し、ハチ防除成分を含むハチの巣表面処理剤の開発を進めた。その結果、ハチの巣表面処理剤としては、ハチ防除成分がハチの巣表面からその下層部分に浸透後よく親和し、更なる内部への浸透状態が適度であること、そして、この浸透状態を調整し補助する好適なハチの巣浸透補助剤の検討が重要であることを認めた。
ところで、ハチの巣の表面構造は、主に木材等の素材をハチが分泌する唾液と混ぜ、薄く引き延ばしたものから形成され、唾液は乾燥重量あたりハチの巣重量の50%以上を占める。唾液の組成はカイコの繭の成分であるセリシンに類似し、プロリン、セリン等の極性アミノ酸が主体であることが知られている。
本発明者らは、木質成分及び極性アミノ酸の双方との親和性を考慮しつつ、実際にハチの巣を用いて最適なハチの巣浸透補助剤の検討を鋭意進め、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、ハチ防除成分を含むハチの巣表面処理剤に配合されるハチの巣浸透補助剤として、23〜27mN/m(20℃)の範囲の表面張力を有する飽和炭化水素を特定し、ハチの巣表面処理剤全体量に対して50w/v%以上配合させたことに特徴を有する。
飽和炭化水素の表面張力が23mN/m(20℃)未満であると、ハチの巣表面が滑らかな部分では当該表面処理剤が表面を展がりすぎたり、あるいは当該表面処理剤を構成する飽和炭化水素のみがハチの巣の表面から内部に過度に浸透しやすくなる傾向を有する。一方、飽和炭化水素の表面張力が27mN/m(20℃)を超えると、当該表面処理剤としての浸透性が悪くなるうえ、ハチの巣の素材成分との親和性が劣り効率的な防除効果を奏し難い。
【0012】
上記飽和炭化水素としてはパラフィン系炭化水素やナフテン系炭化水素が挙げられるが、試験の結果、パラフィン系炭化水素が好ましく、更にノルマルパラフィンとイソパラフィンの中では、ノルマルパラフィンの方が性能的に好ましいことが認められた。ノルマルパラフィンとしては、炭素数が12〜14主体のものが代表的で、例えば、中央化成株式会社製のネオチオゾール[25.8mN/m(20℃)]、ジャパンエナジー社製のノルマルパラフィンN−12[25.4mN/m(20℃)]、ジャパンエナジー社製のノルマルパラフィンN−13[25.7mN/m(20℃)]、ジャパンエナジー社製のノルマルパラフィンN−14[26mN/m(25℃)]等が挙げられる。
【0013】
一方、イソパラフィンとしては、炭素数が12〜16主体のものが使いやすく、例えば、出光石油株式会社製のIPソルベント1620[24mN/m(23℃)]及びIPソルベント2028[26.1mN/m(23℃)]、エクソン化学株式会社製のアイソパーM[25mN/m(20℃)]、シェル化学株式会社製のシェルゾールTK[25mN/m(20℃)]等があげられるが、これらに限定されない。
また、ナフテン系炭化水素としては、ジャパンエナジー社製のナフテゾール160[24mN/m(20℃)]及びナフテゾール200[27mN/m(20℃)]等が代表的である。
【0014】
なお、上記ハチの巣浸透補助剤の液性とその効果を調整するとともに、特に営巣の進行を長期にわたって阻止するために、更に、粘度が5〜15mPa・s(20℃)の範囲にある有機溶剤をハチの巣表面処理剤全体量に対して2〜40w/v%配合するのが好ましい。
このような有機溶剤の好ましいものとしては、脂肪酸エステル系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、具体的には、ミリスチン酸イソプロピル[6.6mPa・s(20℃)]、パルミチン酸イソプロピル[10mPa・s(20℃)]、ステアリン酸ブチル[7.7mPa・s(30℃)]、オレイン酸メチル[5.5mPa・s(25℃)]、オレイン酸イソブチル[9.0mPa・s(20℃)]、ラウリン酸ヘキシル、イソステアリン酸イソプロピル、イソノナン酸イソノニル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル[7.5mPa・s(20℃)]、ジエチレングリコールモノブチルエーテル[6.5mPa・s(20℃)]、トリエチレングリコールモノブチルエーテル[8.1mPa・s(20℃)]、エチレングリコールモノベンジルエーテル[12.0mPa・s(20℃)]、ブチルプロピレンジグリコール[7.4mPa・s(20℃)]、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル[8.2mPa・s(20℃)]等があげられるが、これらに限定されない。なかでも、炭素数の総数が15〜22の範囲のミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸イソブチル等の高級脂肪酸エステルが適している。
【0015】
本発明で用いるハチの巣表面処理剤は、必要ならば水を配合して水性液剤としてもよく、この場合、必要に応じて適宜、界面活性剤もしくは可溶化剤が添加される。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類等のエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミド等の非イオン系界面活性剤や、例えば、ポリオキシエチレン(POE)スチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル硫酸塩、ドデシルベンゼン硫酸塩等のアニオン系界面活性剤があげられる。
【0016】
ハチの巣表面処理剤には、更に、殺ダニ剤、カビ類、菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤、あるいは、安定剤、消臭剤、帯電防止剤、消泡剤、香料(ハチ忌避香料を含む)、賦形剤等を適宜配合してももちろん構わない。殺ダニ剤としては、5−クロロ−2−トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート等があり、一方、防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、トリホリン、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、オルト−フェニルフェノール等を例示できる。
【0017】
本発明では、前記ハチの巣表面処理剤をエアゾール原液として用い、これに噴射剤を加えてエアゾール形態となしてもよい。この場合、エアゾール剤は、エアゾール原液40〜80容量%と噴射剤20〜60容量%とから構成されるのが適当である。そして、前記した各成分のハチの巣表面処理剤あたりの含有量は、エアゾール原液中の含有量に置き換えられ、例えば、飽和炭化水素はエアゾール原液中にハチの巣浸透補助剤として50w/v%以上配合されることになる。
噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、圧縮ガス(窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等)、あるいはこれらの混合ガスが用いられる。なお、LPG主体の噴射剤を使用する場合のLPGの内圧は、後記する噴射塗布した時の好ましい噴射力[20gf(25℃)以上]や噴霧粒子の好ましい粒子径[体積積算10%粒子径:20〜70μm]等を考慮すると、0.15〜0.71MPa(20℃)の範囲が一般的であるが、例えば、窒素ガスを加えて内圧を調整するような場合は0.15〜0.39MPa(20℃)の範囲のものが適している。
【0018】
本発明では、ハチの巣表面処理剤が屋根裏や軒下など手の届きにくい所にも使用されるため、20cm離れた対象面に噴射塗布した時の噴射力が20gf(25℃)以上に設定されるのが好ましい。また、木質系の対象物への付着性を考慮して、噴霧粒子の体積積算10%粒子径は20〜70μm、好ましくは25〜60μm(25℃)に設定されるのが適当である。
なお、エアゾール剤が充填される容器は、その使用場面、使用目的等に応じて、適宜バルブ、噴口、ノズル等の形状を選択すればよい。
【0019】
こうして得られた本発明で用いるハチの巣表面処理剤は、各成長段階のハチの巣をはじめ、ハチが出入りする周辺や営巣しそうな場所、例えば、屋根裏、軒下、屋根瓦の下、木の枝、樹木の空隙などに処理すればよい。なお、エアゾール剤を噴霧塗布する場合は、目安として50〜250mL/m2程度が適当である。そして、本発明によれば、1〜3ケ月にわたり、ハチの巣浸透補助剤の効果により、巣内のハチを効率的に駆除せしめるとともに、ハチの営巣行動を抑制し、更に、駆除を逃れたハチについても巣に回帰するのを防止できるので極めて実用的である。
【0020】
本発明の対象となるハチ類としては、フタモンアシナガバチ、セグロアシナガバチ、キアシナガバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、チャイロスズメバチなどがあげられるが、これらに限定されない。
また、ハチの巣表面処理剤に配合されるピレスロイド系殺虫成分に基づき、各種の蚊類、ユスリカ類、イエバエ、チョウバエ、ショウジョウバエ等のコバエ類などの飛翔害虫、ゴキブリ類、アリ類等の匍匐害虫にも優れた殺虫効果を示し、広範囲な適用が可能である。
【0021】
次に具体的な実施例に基づき、本発明のハチの巣浸透補助剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
ハチ防除成分としてピレスロイド系殺虫成分のシフルトリン0.33w/v%とd−T80−フタルスリン0.09w/v%を用い、これにミリスチン酸イソプロピル[粘度:6.6mPa・s(20℃)]5.0w/v%を加えたものに、ハチの巣浸透補助剤としてのノルマルパラフィン[製品名:ネオチオゾール、表面張力:25.8mN/m(20℃)]を残量(94.58w/v%)配合してエアゾール原液(ハチの巣表面処理剤)を調製した。
このエアゾール原液350mLをエアゾール容器に入れ、噴射剤として液化石油ガス主体で内圧調整用に少量の窒素ガスを加えた150mL(エアゾール原液/噴射剤比率:70/30)を加圧充填して本発明で用いるエアゾール剤を得た。
このエアゾール剤は、20cm離れた対象面に噴射塗布した時の噴射力が46gf(25℃)で、噴霧粒子の体積積算10%粒子径は41μm(25℃)であった。
【0023】
一戸建て木質家屋の軒下に造られていたコガタスズメバチの中期段階の巣及びその周囲を目がけてこのエアゾール剤を約200mL噴射した。エアゾール剤の噴霧液は巣の表面から浸透後、その下層部分と適度に親和し、巣内のコガタスズメバチを速やかに致死させることが認められた。また、駆除を逃れたハチもこの巣に回帰することがなく、更に2ケ月以上にわたりこの巣についてコガタスズメバチの営巣行動が進行することもなかった。
【実施例2】
【0024】
ハチの巣浸透補助剤の表面張力が、ハチの巣表面からの浸透性とその内部部分との親和性に関連していることを調べるため、以下の試験を行った。
(浸透性ならびに親和性試験方法)
幅1cm、長さ15cmのセルロース濾紙を用意し、その下端から5cm〜6cmの位置に幅1cm、長さ1cmのコガタスズメバチのハチの巣断片を積層させ、その上下端をホッチキスで固定した。しかる後、巣表面と重なる濾紙部分を切除し、濾紙−巣断片−濾紙の順に繋がる試験片を作製した。
直径2.5cmの試験管に各ハチの巣浸透補助剤10mL(高さ約2cm)を入れ、この液中に前記試験片を挿しいれた。試験片の下端4cmを始点とし、液面がこの位置から下端7cmの位置に達するまでの時間を計測して、浸透性ならびに親和性の指標とした。また、ハチの巣断片を固定しないセルロース濾紙のみの試験片についても試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
試験の結果、ハチの巣断片を固定しない濾紙試験片では、ハチの巣浸透補助剤の表面張力の大小に関わらず到達時間にそれ程の差が認められなかったが、実際に則した巣断片固定濾紙試験片の場合には、表面張力が23〜27mN/mの範囲にあるハチの巣浸透補助剤が適度な浸透性ならびに親和性を示すことを確認できた。
これに対し、表面張力が23mN/m未満のn−オクタンの場合は、n−オクタンのみがハチの巣の表面から内部に過度に浸透し、一方、27mN/m(20℃)を超えるIPソルベント2835や、23〜27mN/mの範囲内であっても飽和炭化水素に該当しないイソノナン酸イソノニルやブチルプロピレンジグリコールは、ハチの巣表面処理剤としての浸透性が悪いうえ、ハチの巣の素材成分との親和性が劣り、単独では効率的な防除効果を奏し難いことを示唆した。
【実施例3】
【0027】
実施例1に準じて表2に示す各種ハチの巣表面処理用のエアゾール剤を調製し、下記に示す試験を行った。
(ハチの巣表面処理方法)
コガタスズメバチが営巣行動を始めた初期段階の巣に各種供試エアゾール剤を処理し、所定期間経過後にハチの駆除状況及び営巣の進行状況を観察した。試験結果は、以下の基準に基づき表3に示した。
・1週間後の駆除状況:巣内の成虫、蛹及び幼虫の殆どを駆除;○、巣内の一部を駆除;△、噴射液が付着した巣外の成虫のみ駆除;×。
・1ケ月後の営巣の進行状況:営巣が殆ど進んでいないもの;○、僅かに進んだもの;△、大きく進んだもの;×。
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
試験の結果、本発明のハチの巣浸透補助剤、即ち、23〜27mN/m(20℃)の範囲の表面張力を有する飽和炭化水素は、ハチ防除成分を含むハチの巣表面処理剤に50w/v%以上配合されて、ハチ防除成分のハチの巣表面からその内部への浸透、親和状態を適度に調整するため、巣内の成虫、蛹及び幼虫の駆除、ならびに営巣行動の抑制の両面において効率的な防除効果を示すことが確認された。なお、飽和炭化水素のなかでは、パラフィン系炭化水素、なかんずくノルマルパラフィンが好ましく、また、営巣行動を長期間にわたり抑制するには、本発明のハチの巣浸透補助剤とともに、粘度が5〜15mPa・s(20℃)の範囲にある有機溶剤を併用するのが好ましかった。
これに対し、表面張力が23〜27mN/m(20℃)の範囲から外れる飽和炭化水素や23〜27mN/m(20℃)の範囲内であってもエステル系あるいはグリコールエーテル系溶剤を使用した比較1〜比較3は、浸透性や親和性が適さないことに起因して特に駆除効果の点で劣ることが認められた。また、比較4から明らかなように、本発明のハチの巣浸透補助剤はハチの巣表面処理剤に50w/v%以上配合されることが必要であった。
更に、実施例2と実施例3の試験結果はよく相関することから、溶剤の表面張力がハチの巣表面処理剤を構成する浸透補助剤を検討するうえで有用な指標となることも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のハチの巣浸透補助剤は、ハチ以外の広範な害虫駆除を目的として利用することが可能である。