特許第6297314号(P6297314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6297314軟磁性熱硬化性フィルム、および、軟磁性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297314
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】軟磁性熱硬化性フィルム、および、軟磁性フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/28 20060101AFI20180312BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   H01F1/28
   H05K9/00 M
   H05K9/00 W
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-243065(P2013-243065)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-103659(P2015-103659A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】土生 剛志
(72)【発明者】
【氏名】増田 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】松富 亮人
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−059753(JP,A)
【文献】 特開2009−059752(JP,A)
【文献】 特開2002−201447(JP,A)
【文献】 特開2008−134837(JP,A)
【文献】 特開2013−212642(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/007834(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/28
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成される軟磁性熱硬化性フィルムであって、
前記軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化した直後の周波数1MHzにおける初期比透磁率μ0´と、前記軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化し、85℃、85%RHの雰囲気下で168時間放置したときの周波数1MHzにおける比透磁率μ1´との比率(μ1´/μ0´)が0.85以上であり、
前記エポキシ樹脂および前記フェノール樹脂からなる熱硬化性樹脂の含有割合が、前記軟磁性熱硬化性組成物から前記軟磁性粒子を除いた軟磁性粒子除外成分100質量部に対して、20質量部以上であり、
前記フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリオキシスチレンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、軟磁性熱硬化性フィルム。
【請求項2】
前記軟磁性粒子を40体積%以上含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成されることを特徴とする、請求項1に記載の軟磁性熱硬化性フィルム。
【請求項3】
前記軟磁性熱硬化性組成物が、さらにアクリル樹脂を含有することを特徴とする、請求項2に記載の軟磁性熱硬化性フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項の軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化し、硬化状態にすることにより得られることを特徴とする、軟磁性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性熱硬化性フィルムおよびそれから得られる軟磁性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ペン型の位置指示器を位置検出平面上で移動させて位置を検出する位置検出装置は、デジタイザと呼ばれ、コンピュータの入力装置として普及している。この位置検出装置は、位置検出平面板と、その下に配置され、ループコイルが基板の表面に形成された回路基板(センサ基板)とを備えている。そして、位置指示器とループコイルとによって発生する電磁誘導を利用することにより、位置指示器の位置を検出する。
【0003】
位置検出装置には、電磁誘導の際に発生する磁束を制御して通信を効率化するために、センサ基板の位置検出平面とは反対側の面(反対面)に、軟磁性物質を含有する軟磁性フィルムを配置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1には、軟磁性粉末と、アクリルゴム、フェノール樹脂、エポキシ樹脂およびメラミンなどからなるバインダ樹脂と、ホスフィン酸金属塩とを含有する軟磁性フィルムが開示されている。この軟磁性フィルムは、ホスフィン酸金属塩やメラミンが多くの割合で含有することによって、電子機器の信頼性に影響を与えず、回路基板に難燃性を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−212790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、軟磁性フィルムは、一般的に軟磁性粉末およびバインダ樹脂を含有する熱硬化性樹脂を加熱硬化することにより製造される。しかし、軟磁性フィルムは、加熱後、高温高湿雰囲気下に長期保存しておくと、比透磁率などの磁気特性が劣化する不具合が生じる。
【0007】
本発明の目的は、高温高湿雰囲気下に長時間保存後においても、磁気特性の劣化が抑制される軟磁性熱硬化性フィルム及びそれから得られる軟磁性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の軟磁性熱硬化性フィルムは、軟磁性粒子を含有する軟磁性熱硬化性フィルムであって、前記軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化した直後の周波数1MHzにおける初期比透磁率μ0´と、前記軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化し、85℃、85%RHの雰囲気下で168時間放置したときの周波数1MHzにおける比透磁率μ1´との比率(μ1´/μ0´)が0.85以上であることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の軟磁性熱硬化性フィルムは、前記軟磁性粒子を40体積%以上含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成されることが好適である。
【0010】
また、本発明の軟磁性熱硬化性フィルムは、前記軟磁性熱硬化性組成物が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂を含有することが好適である。
【0011】
また、本発明の軟磁性フィルムは、上述の軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化し、硬化状態にすることにより得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化して得られる本発明の軟磁性フィルムは、高温高湿雰囲気下に長時間保存(放置)後においても、磁気特性の劣化が抑制され、良好な磁気特性を備える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の軟磁性熱硬化性フィルムは、例えば、軟磁性粒子および樹脂成分を含有する軟磁性熱硬化性組成物から形成される。
【0014】
軟磁性粒子を構成する軟磁性材料としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−A1合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si―B(−Cu−Nb)合金、Fe−Si−Cr−Ni合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金、フェライトなどが挙げられる。これらの中でも、磁気特性の点から、好ましくは、センダスト(Fe−Si−Al合金)が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、より好ましくは、Si含有割合が9〜15質量%であるFe−Si−Al合金が挙げられる。これにより、軟磁性フィルムの磁性特性を向上することができる。
【0016】
軟磁性粒子の形状としては、好ましくは、扁平状(板状)が挙げられる。扁平率(扁平度)は、例えば、8以上、好ましくは、15以上であり、また、例えば、80以下、好ましくは、65以下である。扁平率は、軟磁性粒子の平均粒子径(平均長さ)の粒径を軟磁性粒子の平均厚さで除したアスペクト比として算出される。
【0017】
軟磁性粒子の平均粒子径(平均長さ)は、例えば、3.5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、100μm以下である。平均厚みは、例えば、0.3μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、3μm以下、好ましくは、2.5μm以下である。軟磁性粒子の扁平率、平均粒子径、平均厚みなどを調整することにより、軟磁性粒子による反磁界の影響を小さくでき、その結果、軟磁性粒子の透磁率を増加させることができる。なお、軟磁性粒子の大きさを均一にするために、必要に応じて、ふるいなどを使用して分級された軟磁性粒子を用いてもよい。
【0018】
軟磁性熱硬化性組成物(ひいては、軟磁性熱硬化性フィルムや軟磁性フィルム)における軟磁性粒子の質量割合は、例えば、70質量%以上、好ましくは、80質量%以上、より好ましくは、85質量%以上であり、また、例えば、95質量%以下、好ましくは、92質量%以下、より好ましくは、90質量%以下である。軟磁性熱硬化性組成物における軟磁性粒子の体積割合は、例えば、30体積%以上、好ましくは、40体積%以上、より好ましくは、50体積%以上であり、また、例えば、80体積%以下、好ましくは、70体積%以下、より好ましくは、60体積%以下である。上記上限以下の範囲とすることにより、軟磁性フィルムの成形性に優れる。一方、上記下限以上の範囲とすることにより、軟磁性フィルムの磁気特性に優れる。
【0019】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂を含有する。
【0020】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。好ましくは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が挙げられ、より好ましくは、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の併用が挙げられる。これらは単独または2種以上を併用して用いることができる。
【0021】
エポキシ樹脂は、接着剤組成物として一般に用いられるものであれば限定されず、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂など)、フェノール型エポキシ樹脂(特に、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオンレン型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などの二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂が挙げられる。また、例えば、ヒダントイン型エポキシ樹脂、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂なども挙げられる。これらは単独または2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
これらのエポキシ樹脂のうち、好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が挙げられ、より好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂を含有させることより、フェノール樹脂との反応性が優れ、その結果、軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化して得られる軟磁性フィルムにおいて、高温高湿雰囲気下での磁気特性の長期保存性に優れる。
【0023】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤であり、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂、例えば、レゾール型フェノール樹脂、例えば、ポリパラオキシスチレンなどのポリオキシスチレンが挙げられる。これらは単独で使用また2種以上を併用することができる。これらのフェノール樹脂のうち、好ましくは、ノボラック型樹脂、より好ましくは、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、さらに好ましくは、フェノールアラルキル樹脂が挙げられる。これらのフェノール樹脂を含有することより、エポキシ樹脂との反応性が優れ、その結果、軟磁性フィルムが長期保存性に優れる。
【0024】
樹脂成分が、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を併用するとき、エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂の水酸基当量が1g/eq以上100g/eq未満である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、15質量部以上、好ましくは、30質量部以上であり、また、例えば、70質量部以下、好ましくは、50質量部以下、より好ましくは、40質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、5質量部以上、好ましくは、15質量部以上であり、また、例えば、30質量部以下、好ましくは、20質量部以下である。
【0025】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂の水酸基当量が100g/eq以上200g/eq未満である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、25質量部以上であり、また、例えば、50質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、25質量部以上であり、また、例えば、50質量部以下である。
【0026】
エポキシ樹脂のエポキシ当量100g/eqに対するフェノール樹脂の水酸基当量が200g/eq以上1000g/eq以下である場合、樹脂成分100質量部に対するエポキシ樹脂の含有割合は、例えば、5質量部以上、好ましくは、15質量部以上であり、また、例えば、30質量部以下でもあり、樹脂成分100質量部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、15質量部以上、好ましくは、35質量部以上であり、また、例えば、70質量部以下である。
【0027】
なお、エポキシ樹脂が2種併用される場合のエポキシ当量は、各エポキシ樹脂のエポキシ当量に、エポキシ樹脂の総量に対する各エポキシ樹脂の質量割合を乗じて、それらを合算した全エポキシ樹脂のエポキシ当量である。
【0028】
また、フェノール樹脂中の水酸基当量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量当たり、例えば、0.2当量以上、好ましくは、0.5当量以上であり、また、例えば、2.0当量以下、好ましくは、1.2当量以下である。水酸基の量が上記範囲内であると、軟磁性熱硬化性フィルムの硬化反応が良好となり、また、劣化を抑制することができる。
【0029】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂に加えて、好ましくは、アクリル樹脂を含有する。より好ましくは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を併用する。さらに好ましくは、樹脂成分は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂のみからなる。樹脂成分が、これらの樹脂を含有することにより、軟磁性熱硬化性フィルムを複数積層させ、熱プレスすることにより、一枚の軟磁性フィルムを製造する際に、積層界面にむらがなく均一で、磁気特性が良好な軟磁性フィルムを得ることができる。
【0030】
アクリル樹脂としては、例えば、直鎖もしくは分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマー成分とし、そのモノマー成分を重合することにより得られるアクリル系重合体などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を表す。
【0031】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、ドデシル基などの炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0032】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0033】
その他のモノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有モノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などカルボキシル基含有モノマー、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリルまたは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなど燐酸基含有モノマー、例えば、スチレンモノマー、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0034】
これらの中でも、好ましくは、グリシジル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーまたはヒドロキシル基含有モノマーが挙げられる。アクリル樹脂が(メタ)アクリル酸アルキルエステルとこれらのその他のモノマーとの共重合体である場合、すなわち、アクリル樹脂がグリシジル基、カルボキシル基またはヒドロキシル基を有する場合、軟磁性フィルムの耐リフロー性がより一層優れる。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他のモノマーとの共重合体である場合、その他のモノマーの配合割合(質量)は、共重合体に対して、好ましくは、40質量%以下である。
【0036】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば、1×10以上、好ましくは、3×10以上であり、また、例えば、1×10以下である。この範囲とすることにより、軟磁性熱硬化性フィルムの接着性および耐リフロー性に優れる。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトフラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算値により測定される。
【0037】
アクリル樹脂のガラス転移点(Tg)は、例えば、−30℃以上、好ましくは、−20℃以上であり、また、例えば、30℃以下、好ましくは、15℃以下である。上記下限以上であると、軟磁性熱硬化性フィルムの接着性に優れる。一方、上記上限以下であると、軟磁性熱硬化性フィルムの取扱い性に優れる。なお、ガラス転移点は、動的粘弾性測定装置(DMA、周波数1Hz、昇温速度10℃/min)を用いて測定される損失正接(tanδ)の極大値により得られる。
【0038】
樹脂成分がアクリル樹脂を含有する場合、樹脂成分における熱硬化性樹脂の含有割合は、例えば、35質量%以上、好ましくは、50質量%を超過し、より好ましくは、52質量%以上である。また、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下、より好ましくは、60質量%以下である。熱硬化性樹脂の含有割合が上記範囲である場合、特に熱硬化性樹脂リッチ(50質量%超)である場合、吸水や熱による樹脂の膨張、ひいては、軟磁性フィルムの空隙の発生を効果的に抑制することができるため、高温高湿雰囲気下での磁気特性の長期保存性が優れる。
【0039】
樹脂成分におけるアクリル樹脂の含有割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、より好ましくは、40質量%以上であり、また、例えば、65質量%以下、好ましくは、50質量%未満、より好ましくは、48質量%以下である。
【0040】
軟磁性熱硬化性組成物における樹脂成分の含有割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、8質量%以上、より好ましくは、10質量%以上であり、また、例えば、30質量%以下、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、15質量%以下である。上記範囲とすることにより、軟磁性フィルムの成膜性、磁気特性に優れる。
【0041】
また、熱硬化性樹脂(好ましくは、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる熱硬化性樹脂)の含有割合は、軟磁性熱硬化性組成物から軟磁性粒子を除いた軟磁性粒子除外成分100質量部に対して、例えば、20質量部以上、好ましくは、30質量部以上、より好ましくは、40質量部以上、さらに好ましくは、50質量部を超過し、最も好ましくは、52質量部以上であり、また、例えば、99質量部以下、好ましくは、90質量部以下、より好ましくは、80質量部以下、さらに好ましくは、70質量部以下、最も好ましくは、60質量部以下である。上記範囲とすることにより、軟磁性フィルムが、高温高湿雰囲気下での磁気特性の長期保存性に優れる。
【0042】
なお、軟磁性粒子除外成分は、より具体的には、樹脂成分、必要に応じて添加される熱硬化触媒(後述)および添加剤(後述)からなる成分であって、軟磁性粒子および溶媒は含まれない。
【0043】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂およびアクリル樹脂以外のその他の熱可塑性樹脂を含有することもできる。
【0044】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂(6−ナイロン、6,6−ナイロンなど)、フェノキシ樹脂、飽和ポリエステル樹脂(PET、PBTなど)、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用又は2種以上を併用することができる。
【0045】
軟磁性熱硬化性組成物は、好ましくは、熱硬化性触媒を含有する。
【0046】
熱硬化触媒としては、加熱により樹脂成分の硬化を促進する触媒であれば限定的でなく、例えば、イミダゾール骨格を有する塩、トリフェニルフォスフィン構造を有する塩、トリフェニルボラン構造を有する塩、アミノ基含有化合物などが挙げられる。好ましくは、イミダゾール骨格を有する塩が挙げられる。
【0047】
イミダゾール骨格を有する塩としては、例えば、2−フェニルイミダゾール(商品名;2PZ)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(商品名;2E4MZ)、2−メチルイミダゾール(商品名;2MZ)、2−ウンデシルイミダゾール(商品名;C11Z)、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(商品名;2PHZ−PW)、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾリル(1)’)エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物(商品名;2MAOK−PW)などが挙げられる(上記商品名は、いずれも四国化成社製)。熱硬化触媒は、単独で使用または2種類以上併用することができる。
【0048】
熱硬化触媒の形状は、例えば、球状、楕円体状などが挙げられる。
【0049】
熱硬化触媒の配合割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上であり、また、例えば、5質量部以下、好ましくは、3質量部以下である。熱硬化触媒の配合割合が上記範囲内とすることにより、軟磁性熱硬化性フィルムを低温度かつ短時間で加熱硬化することができ、また、高温高湿雰囲気下での磁気特性の長期保存性および耐リフロー性に優れる。
【0050】
軟磁性熱硬化性組成物は(ひいては、軟磁性熱硬化性フィルムおよび軟磁性フィルム)、必要に応じて、分散剤、架橋剤、無機充填材などの市販または公知の添加剤を含有することもできる。
【0051】
軟磁性熱硬化性組成物は、好ましくは、分散剤を含有する。
【0052】
分散剤としては、例えば、ポリエーテルリン酸エステル、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤が挙げられる。好ましくは、ポリエーテルリン酸エステルが挙げられる。軟磁性熱硬化性組成物が分散剤、特にポリエーテルリン酸エステルを含有することにより、軟磁性熱硬化性組成物の塗工性を向上させるとともに、軟磁性フィルムの磁気特性をより一層向上させることができる。
【0053】
ポリエーテルリン酸エステルとしては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルなどが挙げられる。好ましくは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルが挙げられる。
【0054】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルは、アルキル−オキシ−ポリ(アルキレンオキシ)基が、リン酸塩のリン原子に、1〜3個結合している形態を有している。このようなアルキル−オキシ−ポリ(アルキレンオキシ)基[すなわち、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル部位]において、ポリ(アルキレンオキシ)部位に関するアルキレンオキシの繰り返し数としては、特に制限されないが、例えば、2〜30(好ましくは3〜20)の範囲から適宜選択することができる。ポリ(アルキレンオキシ)部位のアルキレンとしては、好ましくは、炭素数が、2〜4のアルキレン基が挙げられる。具体的には、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチル基などが挙げられる。また、アルキル基としては、特に制限されないが、例えば、好ましくは、炭素数が6〜30のアルキル基、より好ましくは、8〜20のアルキル基が挙げられる。具体的には、アルキル基としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。なお、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルが複数のアルキル−オキシ−ポリ(アルキレンオキシ)基を有している場合、複数のアルキル基は、異なっていてもよいが、同一であってもよい。なお、ポリエーテルリン酸エステルは、アミンなどとの混合物であってもよい。
【0055】
ポリエーテルリン酸エステルの酸価は、例えば、10以上、好ましくは、15以上であり、また、例えば、200以下、好ましくは、150以下である。酸価は、中和滴定法などによって測定される。
【0056】
シランカップリング剤としては、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0057】
分散剤は、単独で使用または2種類以上併用することができる。
【0058】
分散剤の具体例として、楠本化成社のHIPLAADシリーズ(「ED152」、「ED153」、「ED154」、「ED118」、「ED174」、「ED251」)、信越化学社製のKBMシリーズ(「KBM303」、「KBM503」)などが挙げられる。
【0059】
分散剤の含有割合は、軟磁性粒子100質量部に対し、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.2質量部以上である。また、例えば、5質量部以下、好ましくは、2質量部以下である。
【0060】
軟磁性熱硬化性組成物は、上記成分を上記含有割合で混合することにより調製することができる。
【0061】
次に、本発明の軟磁性熱硬化性フィルムの製造方法について説明する。
【0062】
軟磁性熱硬化性フィルムを作製するには、上記した軟磁性熱硬化性組成物を溶媒に溶解または分散させた軟磁性熱硬化性組成物溶液を調製する。
【0063】
溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などケトン類、例えば、酢酸エチルなどのエステル類、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類などの有機溶媒などが挙げられる。また、溶媒として、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコールなどの水系溶媒も挙げられる。
【0064】
軟磁性熱硬化性組成物溶液における固形分量は、例えば、10質量%以上、好ましくは、30質量%以上であり、また、例えば、90質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
【0065】
次いで、軟磁性熱硬化性組成物溶液を離型基材(セパレータ、コア材など)の表面に塗布し、乾燥させる。これにより、軟磁性熱硬化性フィルムが得られる。
【0066】
塗布方法としては特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工などが挙げられる。
【0067】
乾燥条件としては、乾燥温度は、例えば、70℃以上160℃以下であり、乾燥時間は、例えば、1分以上5分間以下である。
【0068】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、紙などが挙げられる。これらは、その表面に、例えば、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤、シリコーン系剥離剤などにより離型処理されている。
【0069】
コア材としては、例えば、プラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルムなど)、金属フィルム(例えば、アルミウム箔など)、例えば、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維などで強化された樹脂基板、シリコン基板、ガラス基板などが挙げられる。
【0070】
セパレータまたはコア材の平均厚みは、例えば、1μm以上500μm以下である。
【0071】
これにより、軟磁性熱硬化性フィルムを得る。
【0072】
軟磁性熱硬化性フィルムは、室温(具体的には、25℃)において、半硬化状態(Bステージ状態)であり、良好な接着性を備える軟磁性熱硬化性接着フィルムである。
【0073】
また、軟磁性熱硬化性フィルムは、好ましくは、扁平状軟磁性粒子が含有され、その扁平状軟磁性粒子が、軟磁性熱硬化性フィルムの2次元の面内方向に配列されている。すなわち、扁平状軟磁性粒子の長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性熱硬化性フィルムの面方向に沿うように配向している。これにより、軟磁性熱硬化性フィルムは、軟磁性粒子が高割合で充填され、磁気特性に優れる。また、薄膜化が図られている。
【0074】
軟磁性熱硬化性フィルムの平均厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、250μm以下である。
【0075】
本発明の軟磁性熱硬化性フィルムは、例えば、軟磁性熱硬化性フィルムの単層のみからなる単層構造、コア材の片面または両面に軟磁性熱硬化性フィルムが積層された多層構造、軟磁性熱硬化性フィルムの片面または両面にセパレータが積層された多層構造などの形態とすることができる。
【0076】
次いで、本発明の軟磁性フィルムについて説明する。
【0077】
軟磁性フィルムは、上記の軟磁性熱硬化性フィルムから形成される。具体的には、軟磁性フィルムは、上記の軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化することにより得られる。
【0078】
好ましくは、軟磁性熱硬化性フィルムを複数枚用意し、複数枚の軟磁性熱硬化性フィルムを熱プレスにより、厚み方向に熱プレスする(熱プレス工程)。これにより、軟磁性熱硬化性フィルム内に軟磁性粒子を高割合で充填させ、磁気特性を向上させることができる。
【0079】
熱プレスは、公知のプレス機を用いて実施することができ、例えば、平行平板プレス機などが挙げられる。
【0080】
軟磁性熱硬化性フィルムの積層枚数は、例えば、2層以上であり、また、例えば、20層以下、好ましくは、5層以下である。これにより、所望の厚みの軟磁性フィルムに調整することができる。
【0081】
加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。
【0082】
加熱時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.2時間以上であり、また、例えば、24時間以下、好ましくは、2時間以下である。
【0083】
圧力は、例えば、10MPa以上、好ましくは、20MPa以上であり、また、例えば、500MPa以下、好ましくは、200MPa以下である。
【0084】
これにより、半硬化状態の軟磁性熱硬化性フィルムが加熱硬化され、硬化状態(Cステージ状態)の軟磁性フィルムが得られる。
【0085】
この軟磁性フィルムの平均厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、250μm以下である。
【0086】
軟磁性フィルムにおける、加熱硬化された直後(具体的には、軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化した後30分以内)の周波数1MHzにおける比透磁率(初期比透磁率μ0´)は、例えば、100以上、好ましくは、150以上、より好ましくは、180以上であり、また、例えば、400以下である。
【0087】
加熱硬化後、85℃、85%RHの雰囲気下で168時間放置したときの周波数1MHzにおける比透磁率(比透磁率μ1´)は、例えば、100以上、好ましくは、150以上、より好ましくは、180以上であり、また、例えば、400以下である。
【0088】
また、初期比透磁率μ0´と比透磁率μ1´との比率(μ1´/μ0´)は、0.85以上、好ましくは、0.90以上、より好ましくは、0.95以上、さらに好ましくは、0.96以上、最も好ましくは、0.97以上であり、また、例えば、1.00以下である。上記比率を上記範囲内とすることにより、軟磁性フィルムが、高温高湿雰囲気下での磁気特性の長期保存性に優れる。
【0089】
比透磁率(μ0´およびμ1´)は、インピーダンスアナライザー(Agilent社製、「4294A」)を用いて、1ターン法(周波数1MHz)によって測定される。
【0090】
また、軟磁性フィルムは、好ましくは、軟磁性フィルムに含有される軟磁性粒子が、軟磁性フィルムの2次元の面内方向に配列されている。すなわち、扁平状軟磁性粒子の長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性フィルムの面方向に沿うように配向している。このため、軟磁性フィルムは、薄膜であり、比透磁率が優れる。
【0091】
この軟磁性フィルムは、例えば、軟磁性フィルムの単層のみからなる単層構造、コア材の片面または両面に軟磁性フィルムが積層された多層構造、軟磁性フィルムの片面または両面にセパレータが積層された多層構造などの形態とすることができる。
【0092】
また、上記の実施形態では、軟磁性熱硬化性フィルムを複数枚積層させて熱プレスしたが、例えば、軟磁性熱硬化性フィルム1枚(単層)に対して熱プレスを実施してもよい。
【0093】
この軟磁性フィルムは、例えば、アンテナ、コイル、またはこれらが表面に形成された回路基板に積層するための軟磁性フィルム(磁性フィルム)として好適に用いることができる。より具体的には、スマートフォン、パソコン、位置検出装置などの用途に用いることができる。
【0094】
軟磁性フィルムを回路基板に積層させるためには、軟磁性フィルムを接着剤層を介して回路基板に固定する方法、軟磁性熱硬化性フィルムを回路基板に直接貼着させた後、軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化させて軟磁性フィルムにするとともに回路基板に固定する方法などが挙げられる。
【0095】
接着剤層が不要であり電子機器を小型化できる観点からは、好ましくは、軟磁性熱硬化性フィルムを回路基板に直接貼着させた後、軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化させる方法が挙げられる。
【0096】
また、絶縁性の観点からは、好ましくは、軟磁性フィルムを接着剤層を介して回路基板に固定する方法が挙げられる。
【0097】
接着剤層は、回路基板の接着剤層として通常使用される公知のものが用いられ、例えば、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤、アクリル系接着剤などの接着剤を塗布および乾燥することにより形成される。接着剤層の厚みは、例えば、10〜100μmである。
【0098】
そして、この軟磁性熱硬化性フィルムによれば、初期比透磁率μ0´と比透磁率μ1´との比率(μ1´/μ0´)が0.85以上であるため、軟磁性熱硬化性フィルムを加熱硬化して得られる軟磁性フィルムを高温高湿雰囲気下に長時間保存した場合であっても、その軟磁性フィルムの比透磁率の劣化を抑制することができる。これにより、長期間優れた磁気特性を発揮することができる。
【0099】
高温高湿雰囲気下における耐性温度は、例えば、50℃以上、好ましくは、80℃以上であり、また、例えば、150℃以下、好ましくは、100℃以下である。
【0100】
高温高湿雰囲気下における耐性湿度は、例えば、50%RH以上、好ましくは、80%RH以上であり、また、例えば、100%RH以下、好ましくは、90%RH以下である。
【0101】
高温高湿雰囲気下における保存可能時間は、例えば、96時間以上、好ましくは、168時間以上、より好ましくは、400時間以上、さらに好ましくは、700時間以上である。
【実施例】
【0102】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。以下に示す実施例の数値は、上記の実施形態において記載される数値(すなわち、上限値または下限値)に代替することができる。
【0103】
実施例1
(軟磁性熱硬化性フィルム)
軟磁性熱硬化性組成物に対し軟磁性粒子が40体積%となるように、軟磁性粒子500質量部、アクリル酸エステル系ポリマー22質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エピコート1004」)45質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エピコートYL980」)26質量部、フェノールアラルキル樹脂32質量部、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(「2PHZ−PW」熱硬化触媒)1.26質量部(樹脂成分100質量部に対して1.0質量部)、および、ポリエーテルリン酸エステル(分散剤)2.5質量部(軟磁性粒子100質量部に対して0.5質量部)を混合することにより、軟磁性熱硬化性組成物を得た。
【0104】
この軟磁性熱硬化性組成物をメチルエチルケトンに溶解させることにより、固形分濃度43質量%の軟磁性熱硬化性組成物溶液を調製した。
【0105】
この軟磁性熱硬化性組成物溶液を、シリコーン離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータ(平均厚みが50μm)上に塗布し、その後、130℃で2分間乾燥させた。
【0106】
これにより、セパレータが積層された軟磁性熱硬化性フィルム(軟磁性熱硬化性フィルムのみの平均厚み、90μm)を製造した。
【0107】
(軟磁性フィルム)
次いで、この軟磁性熱硬化性フィルムを、4層積層し、175℃、30分、20MPaの条件で熱プレスにより加熱硬化させることにより、軟磁性フィルムを作製した。
【0108】
実施例2〜4
表1に記載の材料および配合割合で、軟磁性熱硬化性組成物を得た。この軟磁性熱硬化性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4の軟磁性熱硬化性フィルムおよび熱硬化性フィルムを製造した。
【0109】
比較例1
(軟磁性熱硬化性フィルム)
軟磁性熱硬化性組成物に対し軟磁性粒子が40体積%となるように、軟磁性粒子500質量部およびエチレン酢酸ビニル共重合体106質量部を混合することにより、軟磁性熱硬化性組成物を得た。
【0110】
この軟磁性熱硬化性組成物をトルエンに溶解させることにより、固形分濃度40質量%の軟磁性熱硬化性組成物溶液を調製した。
【0111】
この軟磁性熱硬化性組成物溶液を、シリコーン離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータ(平均厚みが50μm)上に塗布し、その後、130℃で2分間乾燥させた。
【0112】
これにより、セパレータが積層された軟磁性熱硬化性フィルム(軟磁性熱硬化性フィルムのみの平均厚み、90μm)を製造した。
【0113】
(軟磁性フィルム)
次いで、この軟磁性熱硬化性フィルムを、4層積層し、175℃、30分、20MPaの条件で熱プレスにより加熱硬化させることにより、比較例1の軟磁性フィルムを作製した。
【0114】
比較例2および3
表1に記載の材料および配合割合で、軟磁性熱硬化性組成物を得た。この軟磁性熱硬化性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2および3の軟磁性熱硬化性フィルムおよび軟磁性フィルムを製造した。
【0115】
(初期比透磁率(μ0´)の測定)
各実施例および各比較例にて製造した軟磁性フィルムについて、熱プレスした直後(30分後)の時点での比透磁率を、インピーダンスアナライザー(Agilent社製、「4294A」)を用いて、1ターン法(周波数1MHz)によって測定した。これを初期比透磁率(μ0´)とした。その結果を表1に示す。
【0116】
(比透磁率(μ1´)の測定)
各実施例および各比較例にて製造した軟磁性フィルムについて、初期比透磁率の測定を実施した後、85℃85%RHの雰囲気下に、168時間保存した。この168時間保存時点の軟磁性フィルムの比透磁率を、インピーダンスアナライザー(Agilent社製、「4294A」)を用いて、1ターン法(周波数1MHz)によって測定した。これを比透磁率(μ1´)とした。その結果を表1に示す。
【0117】
(高温高湿下長期保存後の比透磁率)
比透磁率(μ1´)の測定を実施した後、次いで、85℃85%RHの雰囲気下で400時間経過時点および700時間経過時点の比透磁率μ´についても、上記と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0118】
表1から明らかなように、実施例1〜4の軟磁性フィルムは、400時間や700時間経過後においても、軟磁性フィルムを製造した時点の初期比透磁率を基準にして、高い割合の比透磁率を備えていた、すなわち、比透磁率の低下が抑制されていた。一方、比較例1〜3の軟磁性フィルムでは、400時間や700時間経過後では、軟磁性フィルムを製造した時点の初期比透磁率を基準にして、比透磁率が大きく低下していた。また、比較例2および比較例3の軟磁性フィルムでは、400〜700時間で比透磁率の低下が進行していた。
【0119】
【表1】
【0120】
表における各成分中の数値は、特段の記載がない場合には、質量部を示す。また、表中、各成分の略称について、以下にその詳細を記載する。
・Fe−Si−Al合金:商品名「SP−7」、軟磁性粒子、扁平状、平均粒子径65μm、メイト社製
・アクリル酸エステル系ポリマー:商品名「パラクロンW−197CM」、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチルを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー、根上工業社製
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:商品名「エピコート1004」、エポキシ当量875〜975g/eq、JER社製
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:商品名「エピコートYL980」、エポキシ当量180〜190g/eq、JER社製
・4官能アミノグリシジル型エポキシ樹脂:商品名「テトラッド−C」、エポキシ当量105g/eq、、三菱瓦斯化学工業社製
・フェノールアラルキル樹脂:商品名「ミレックスXLC−4L」、水酸基当量170g/eq、三井化学社製
・2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール:熱硬化触媒、商品名「キュアゾール2PHZ−PW」、四国化成社製
・ポリエーテルリン酸エステル:分散剤、商品名「HIPLAAD ED152」、楠本化成社製、酸価20
・エチレン酢酸ビニル共重合体:商品名「EV170」、三井デュポンポリケミカル社製