特許第6297321号(P6297321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6297321機能膜付き基板の製造方法、多層膜付き基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、及び転写用マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297321
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】機能膜付き基板の製造方法、多層膜付き基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、及び転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/68 20120101AFI20180312BHJP
   C23G 1/00 20060101ALI20180312BHJP
   G03F 1/40 20120101ALI20180312BHJP
【FI】
   G03F1/68
   C23G1/00
   G03F1/40
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-253881(P2013-253881)
(22)【出願日】2013年12月9日
(65)【公開番号】特開2015-114356(P2015-114356A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】折原 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】笑喜 勉
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−128096(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146990(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/084934(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0017574(US,A1)
【文献】 特開2012−064972(JP,A)
【文献】 特許第4887266(JP,B2)
【文献】 特開平11−015141(JP,A)
【文献】 特開平04−039660(JP,A)
【文献】 特開昭62−080655(JP,A)
【文献】 特開2015−075630(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/104009(WO,A1)
【文献】 特開2010−186984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G03F 1/00−1/90、
7/20−7/24、
9/00−9/02、
H01L 21/30、
21/027、
21/46、
21/306、
21/308、
21/465−467
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層が酸素を含む酸化物材料からなる機能膜が基板上に形成された、機能膜付き基板を準備する工程と、
前記機能膜の表層と、表面に触媒が被着された触媒定盤の加工基準面との間に、処理流体を介在させ、そして、前記加工基準面と前記機能膜の表面とを接触又は接近させる工程と、
前記機能膜付き基板と前記触媒定盤の加工基準面とを相対運動させて前記機能膜の表層を触媒基準エッチングする工程と、
前記機能膜の表面に付着した触媒物質の材料からなる異物を、洗浄媒質を利用して前記機能膜の表面から除去する洗浄工程と、
を有する機能膜付き基板の製造方法において、
前記洗浄媒質による前記触媒を溶解又は除去する速度は、前記洗浄媒質による前記機能膜の表層を溶解又は除去する速度よりも速く、
前記基板は、ガラス材料からなること、
を特徴とする機能膜付き基板の製造方法。
【請求項2】
前記機能膜をエッチングする工程を有し、前記エッチングする工程において、前記機能膜のエッチング速度は、前記基板のエッチング速度よりも速いことを特徴とする、請求項1記載の機能膜付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記機能膜は、導電性の膜であることを特徴とする、請求項1又は2記載の機能膜付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記機能膜はさらに金属を含有し、前記金属は、クロム、タンタル、モリブデン、ルテニウム、タングステン、ハフニウム、ニッケル、アルミニウム、チタンのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法。
【請求項5】
前記触媒定盤の触媒は、前記金属以外の金属元素を含有するものであって、周期律表の第3族及至第12族に属する元素のうちの少なくとも一つの金属又は該金属の合金を含む材料であることを特徴とする請求項記載の機能膜付き基板の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄媒質は、硫酸、塩酸、硝酸、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニア水と水素水を含む水溶液のうち少なくとも何れか一つを含む薬液からなることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法。
【請求項7】
前記基板は、マスクブランク用基板であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法によって製造された機能膜付き基板の前記機能膜上に、多層反射膜を形成することを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の機能膜付き基板の製造方法によって得られた基板の主表面上若しくは前記機能膜上、又は、請求項記載の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、転写パターン用薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項10】
請求項に記載のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの転写パターン用薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能膜付き基板の製造方法、多層膜付き基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、及び転写用マスクの製造方法に係わり、特に、平滑度が高く、且つ欠陥数が少ない機能膜付き基板の製造方法、多層膜付き基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、及び転写用マスクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスでは、高集積回路の高密度化、高精度化が一段と進められている。このため、マスクブランクに用いられる基板には、電気特性、光学特性、化学特性、及び機械特性等の特性制御が求められている。その制御のために、基板(基体)上にこれらの特性を制御するための機能を形成する方法が開発され、機能膜付き基板が製造されている。例えば、導電性のある機能膜を用いることによって、マスクパターンエッチング時のチャージアップによる位置ずれが防止され、加えて、転写露光時に発生するパターン静電破壊が防止されている。また、反射防止機能を持った機能膜を用いることによって、転写露光の時の光学像コントラストが向上している。また、位相制御機能を持った機能膜や、露光光の透過率を調整する機能膜を用いることによって、所望の転写露光特性が確保されている。また、応力調整機能を持った機能膜によって、そりを防止した平坦なマスクブランクや転写用マスクが製造されている。
【0003】
また、微細化や露光転写精度の高精度化のため、回路パターン転写に用いるマスクブランク用基板や転写用マスクに対し、一段の平坦化、平滑化、及び、より微細なサイズでの低欠陥化が求められている。
【0004】
例えば、半導体デザインルール1xnm世代(ハーフピッチ(hp)14nm、10nm等)で使用されるマスクブランクとして、EUV(Extreme Ultra Violet)露光用の反射型マスクブランク、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリーマスクブランク及び位相シフトマスクブランク、並びにナノインプリント用マスクブランクなどがあるが、これらの世代で使用されるマスクブランクでは、30nm級の欠陥(SEVD(Sphere Equivalent Volume Diameter)が23nm以上34nm以下の欠陥)が問題となる。このため、マスクブランクに使用される上記機能膜付き基板においては、機能膜の表面(すなわち、転写パターンを形成する側の表面)においては、30nm級の欠陥数が極力少ないことが好ましい。また、30nm級の欠陥の欠陥検査を行う高感度の欠陥検査装置において、表面粗さはバックグランドノイズに影響する。すなわち、平滑性が不十分であると、表面粗さ起因の疑似欠陥が多数検出され、欠陥検査を行うことができない。このため、半導体デザインルール1xnm世代で使用されるマスクブランクに用いられる機能膜付き基板の機能膜の表面は、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.08nm以下の平滑性が求められている。
【0005】
また、近年、ハードディスクドライブ(HDD)においては、磁気記録媒体の記録容量が高密度化してきていることに伴い、磁気記録媒体に対する記録読取り用ヘッドの浮上量(フライングハイト)をより減少させたものとなっている。そのようなヘッドとして、DFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載したヘッドも普及している。DFH機構は、磁気ヘッドに設けられた発熱素子の発熱によって磁気ヘッドが熱膨張し、磁気ヘッドが浮上面方向にわずかに突出するように動作させるものであり、これによりフライングハイトを一定に保つことができる。このようなDFH機構を搭載したヘッドは、フライングハイトが数nm程度であるため、磁気記録媒体を使用したときにヘッドクラッシュなどの不良が生じやすい。このような不良を減少するために、磁気記録媒体用基板の表面としては、平滑性が高く、実質的に突起のない低欠陥な表面が要求されている。
【0006】
磁気記録媒体用基板としては、アルミなどの金属基板があるが、金属基板に比べて塑性変形しにくく、基板主表面を鏡面研磨したときに、高い表面平滑性が得られるケイ素を含んだガラス基板(基体)が好適に用いられている。
【0007】
また、磁気記録媒体用基板においても、磁気特性、電気特性、光学特性、化学特性、及び機械特性等の特性制御が求められていて、ガラス基板等の基板(基体)上に機能膜を設けた機能膜付き基板が製造されている。例えば、磁力線の遮断機能を持った機能膜を基板上に形成することにより、磁気擾乱に強い記録媒体を製造することが可能となっている。
【0008】
これまで、マスクブランク用基板や磁気記録媒体用基板上の機能膜の表面を、高平滑性で、低欠陥で、実質的に突起のない状態にするために、さまざまな加工方法が提案されているが、所望の特性を満たす主表面の表面状態を有する機能膜付き基板を実現することは困難であった。
【0009】
近年、主表面について実質的に突起のない低欠陥で高平滑な状態が求められる基板の加工方法として、触媒基準エッチング(Catalyst Referred Etching:以下CAREとも言う)による加工方法が提案されている。触媒基準エッチング(CARE)加工では、触媒物質から形成される加工基準面に吸着している処理流体中の分子から水酸基が活性種として生成し、この活性種によって加工基準面と接近又は接触する基板表面上の微細な凸部が加水分解反応し、当該微細な凸部が選択的に除去されると考えられる。特許文献1には、金属触媒を用いた触媒基準エッチングによる加工方法が記載されている。
【0010】
特許文献1では、水の存在下で、触媒物質の加工基準面を、ガラスなどの固体酸化物からなる被加工物表面に接触又は接近させ、加工基準面と被加工物表面とを相対運動させて、加水分解による分解生成物を被加工物表面から除去し、被加工物表面を加工する固体酸化物の加工方法が記載されている(以降、当該固体酸化物の加工方法もCARE加工方法と称する)。触媒物質としては、金属元素を含み、当該金属元素の電子のd軌道がフェルミレベル近傍のものが用いられ、具体的な金属元素としては、例えば、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)が挙げられている。触媒物質としては、バルクである必要はなく、安価で形状安定性のよい母材の表面に、金属、あるいは遷移金属をスパッタリング等によって形成した薄膜であってもよい旨記載されている。また、触媒物質を表面に成膜する母材としては、硬質の弾性材でも良く、例えば、フッ素系ゴムを用いることができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2013/084934号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
機能膜には上述のようにその目的に応じて様々な機能が要求されているが、その材料としては金属酸化物や金属などが多用されている。これは、ArFエキシマレーザー露光用のマスクブランク基板(基体)やEUV(Extreme Ultra Violet)露光用のマスクブランク基板(基体)には、主に、合成石英ガラスやSiO−TiOガラスなどのケイ素酸化物ガラスが用いられており、その材料の性質とは異なった機能を機能膜に付加するのに好適なためである。機能膜が金属酸化物である場合は当然として、機能膜が金属の場合もその表面は大気にさらされているため、表層部は酸化されて金属酸化物、すなわち金属と酸素を含む酸化物状態になっている。また、密着性など諸特性を向上するために積極的に表面を酸化処理することもある。
また、機能膜として、酸素とケイ素を含んだ酸化物が用いられることもある。この場合、前述のように広く用いられているマスクブランク基板(基体)の合成石英ガラスやSiO−TiOガラスなどのケイ素酸化物ガラスとは、ケイ素を含んだ酸化物という観点では同種のものとなるが、組成や分子の結合状態、あるいはガラスかアモルファスかなどの物質状態などの違いから、マスクブランク基板(基体)とは異なった機能を機能膜に付加することが可能になる。このように、少なくとも表層部が酸素を含んだ酸化物状態になっている機能膜が使用されることもある。
表面が酸化されて酸素を含む状態になっていると、触媒を処理流体存在下でこの表面に接近あるいは接触させると加水分解が起こる。このことによって触媒基準エッチングが進行して、凸部が削られた平滑な面が得られる。一方で、この平滑処理において異物欠陥源となる研磨砥粒を使用していないものの、欠陥が多かった。詳細な検討の結果、この欠陥は主に使用した触媒金属由来であることがわかった。
本発明は、前記欠陥の問題を解決し、少なくとも表層部が酸素を含む酸化物材料からなる機能膜付き基板に対して、30nm級の欠陥の低欠陥化と、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.08nm以下という高い平滑性を両立させる機能膜付き基板の製造方法、多層膜付き基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、及び転写用マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)
表層が酸素を含む酸化物材料からなる機能膜が基板上に形成された、機能膜付き基板を準備する工程と、
前記機能膜の表層と、表面に触媒が被着された触媒定盤の加工基準面との間に、処理流体を介在させ、そして、前記加工基準面と前記機能膜の表面とを接触又は接近させる工程と、
前記機能膜付き基板と前記触媒定盤の加工基準面とを相対運動させて前記機能膜の表層を触媒基準エッチングする工程と、
前記機能膜の表面に付着した触媒物質の材料からなる異物を、洗浄媒質を利用して前記機能膜の表面から除去する洗浄工程と、
を有する機能膜付き基板の製造方法において、
前記洗浄媒質による前記触媒を溶解又は除去する速度は、前記洗浄媒質による前記機能膜の表層を溶解又は除去する速度よりも速いこと、
を特徴とする機能膜付き基板の製造方法。
(構成2)
前記機能膜をエッチングする工程を有し、前記エッチングする工程において、前記機能膜のエッチング速度は、前記基板のエッチング速度よりも速いことを特徴とする構成1記載の機能膜付き基板の製造方法。
(構成3)
前記機能膜は、導電性の膜であることを特徴とする、構成1又は2記載の機能膜付き基板の製造方法。
(構成4)
前記基板は、ガラス材料からなることを特徴とする構成1及至3のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法。
(構成5)
前記機能膜はさらに金属を含有し、前記金属は、クロム、タンタル、モリブデン、ルテニウム、タングステン、ハフニウム、ニッケル、アルミニウム、チタンのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする構成1乃至4のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法。
(構成6)
前記触媒定盤の触媒は、前記金属以外の金属元素を含有するものであって、周期律表の第3族及至第12族に属する元素のうちの少なくとも一つの金属又は該金属の合金を含む材料であることを特徴とする構成5記載の機能膜付き基板の製造方法。
(構成7)
前記洗浄媒質は、硫酸、塩酸、硝酸、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニア水と水素水を含む水溶液のうち少なくとも何れか一つを含む薬液からなることを特徴とする構成1乃至6のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法。
(構成8)
前記基板は、マスクブランク用基板であることを特徴とする構成1乃至7のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法。
(構成9)
構成1乃至7のいずれか一に記載の機能膜付き基板の製造方法によって製造された機能膜付き基板の前記機能膜上に、多層反射膜を形成することを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法。
(構成10)
構成8に記載の機能膜付き基板の製造方法によって得られた基板の主表面上若しくは前記機能膜上、又は、構成9記載の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、転写パターン用薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
(構成11)
構成10に記載のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの転写パターン用薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、表層が酸素を含む酸化物材料からなる機能膜が基板(基体)上に形成された機能膜付き基板に対して、CARE加工工程と、機能膜の表面に付着した触媒物質の材料からなる異物を、洗浄媒質を利用して前記機能膜の表面から除去する洗浄工程を行い、前記洗浄媒質による前記触媒を溶解又は除去する速度は、前記洗浄媒質による前記機能膜の表層を溶解又は除去する速度よりも速くする。CARE加工により機能膜の平滑度は高くなり、かつ上記洗浄により機能膜表面の欠陥低減化を図ることが可能になる。このため、低欠陥で高平滑な表面を有する機能膜付き基板の製造方法を提供することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る多層反射膜付き基板の製造方法によれば、上述した基板の製造方法により得られた基板を用いて多層反射膜付き基板を製造するので、所望の特性をもった多層反射膜付き基板を製造することができる。
【0017】
また、本発明に係るマスクブランクの製造方法によれば、上述した基板の製造方法により得られた基板または上述した多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板を用いてマスクブランクを製造するので、所望の特性をもったマスクブランクを製造することができる。
【0018】
また、本発明に係る転写用マスクの製造方法によれば、上述したマスクブランクの製造方法により得られたマスクブランクを用いて転写用マスクを製造するので、所望の特性をもった転写用マスクを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】機能膜付き基板の構造の概要を示す断面図である。
図2】マスクブランク用基板に対して触媒基準エッチングによる加工処理を施す触媒基準エッチング加工装置の構成を示す部分断面図である。
図3】マスクブランク用基板に対して触媒基準エッチングによる加工処理を施す触媒基準エッチング加工装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る機能膜付き基板の製造方法、この機能膜付き基板を用いた多層膜付き基板の製造方法、この機能膜付き基板または多層反射膜付き基板を用いたマスクブランクの製造方法、及びこのマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法を、適時図を参照しながら、詳細に説明する。尚、図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0021】
実施の形態1.
実施の形態1では、機能膜付き基板の製造方法及び機能膜付き基板の加工装置について説明する。
本発明が対象とする機能膜付き基板は、基板の断面構造を表す図1(a)に示すように、基板本体部である基体101上に機能膜102が形成された基板M、あるいは図1(b)に示すように、機能膜102の上面部に酸素を含む酸化物材料からなる表層部103が形成された基板Mである。ここで、前者の機能膜102は酸素を含む酸化物材料からなるが、後者の機能膜は、必ずしも酸素を含む酸化物材料である必要はない。重要なことは、機能膜の表層部が酸素を含む組成になっていることである。また、表層部103は、機能膜102の表面を酸化形成したものでも、機能膜102の上に酸素を含む酸化物からなる膜を被着形成したものでも良い。
【0022】
ここでは、基体上に機能膜を形成した機能膜付き基板を準備する機能膜付き基板準備工程と、触媒物質の加工基準面をこの機能膜の表面に接触又は接近させ、加工基準面と主表面との間に処理流体を介在させた状態で、機能膜の表面を触媒基準エッチングにより加工する機能膜付き基板加工工程とにより、機能膜付き基板を製造する。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0023】
1.機能膜付き基板準備工程
機能膜付き基板の製造方法では、先ず、基体となる基板本体部を準備し、その後その基体上に機能膜を形成する。
【0024】
準備する基体は、剛性があって塑性変形しにくく、且つ用途に応じて露光光透過性や低熱膨張係数を有する材料からなる基板である。材料としては、ケイ素酸化物やケイ素酸化物を含むガラスがその代表である。また、その基体の上面や下面に基体とは異なった材料が形成された基板であっても良い。
【0025】
基体の材料としては、例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、SiO−TiO系ガラス等のガラスや、ガラスセラミックスが挙げられる。また、上記ケイ素酸化物を含む材料以外からなる基体の材料としては、シリコン、カーボン、金属が挙げられる。
また、上述の材料には、本発明の効果を逸脱しない範囲で、窒素、炭素、水素、フッ素等の元素が含まれていてもよい。
準備する基体は、好ましくは、塑性変形しにくく、高平滑性の主表面が得られやすいガラス基板や、ガラス基板本体部の主表面である上面や下面に、シリコン酸化物(SiO(x>0))からなる薄膜が形成された基板である。シリコン酸化物はこの分野で多用されている材料なので、扱いやすく、精度の高い加工がしやすい。また、硬度などの点でも優れている。
【0026】
準備する基体は、マスクブランク用基板用途であっても、磁気記録媒体用基板用途であってもよい。マスクブランク用基板の用途は、反射型マスクブランク、バイナリーマスクブランク、位相シフトマスクブランク、ナノインプリント用マスクブランクのいずれの製造に使用するものであってもよい。バイナリーマスクブランクは、遮光膜の材料が、MoSi系、Ta系、Cr系のいずれであってもよい。位相シフトマスクブランクは、ハーフトーン型位相シフトマスクブランク、レベンソン型位相シフトマスクブランク、クロムレス型位相シフトマスクブランクのいずれであってもよい。反射型マスクブランクに使用する基板材料は、低熱膨張性を有する材料である必要がある。このため、EUV露光用の反射型マスクブランクに使用する基板本体部材料は、例えば、SiO−TiO系ガラスが好ましい。また、透過型マスクブランクに使用する基板本体部の材料は、使用する露光波長に対して透光性を有する材料である必要がある。このため、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリーマスクブランク及び位相シフトマスクブランクに使用する基板本体部材料としては、例えば、合成石英ガラスが好ましい。また、磁気記録媒体用基板に使用する基板本体部の材料としては、耐衝撃性や強度・剛性を高めるために、研磨工程後に化学強化を行う必要がある。このため、磁気ディスク用基板に使用する基板本体部の材料は、例えば、ボロシリケートガラスやアルミノシリケートガラスなどの多成分系ガラスが好ましい。
【0027】
準備する基体は、固定砥粒や遊離砥粒などを用いて主表面が研磨された基板であることが好ましい。例えば、所定の平滑性、平坦性を有するように、以下のような加工方法を用いて主表面として用いる上面や下面を研磨しておく。尚、下面を主表面として用いない場合であっても、必要に応じて、所定の平滑性、平坦性を有するように、以下のような加工方法を用いて下面も研磨しておく。ただし、以下の加工方法はすべて行う必要はなく、所定の平滑性、平坦性を有するように、適宜選択して行う。
【0028】
表面粗さを低減するための加工方法として、例えば、酸化セリウムやコロイダルシリカなどの研磨砥粒を用いたポリッシングやラッピングがある。
平坦度を改善するための加工方法として、例えば、磁気粘弾性流体研磨(Magnet Rheological Finishing:MRF)、局所化学機械研磨(Local Chemical Mechanical Polishing:LCMP)、ガスクラスターイオンビームエッチング(Gas Cluster Ion Beam etching:GCIB)、局所プラズマエッチングを用いたドライケミカル平坦化法(Dry Chemical Planarization:DCP)がある。
【0029】
MRFは、磁性流体に研磨スラリーを混合させた磁性研磨スラリーを、被加工物に高速で接触させるとともに、接触部分の滞留時間をコントロールすることにより、局所的に研磨を行う局所加工方法である。
LCMPは、小径研磨パッド及びコロイダルシリカなどの研磨砥粒を含有する研磨スラリーを用い、小径研磨パッドと被加工物との接触部分の滞留時間をコントロールすることにより、主に被加工物表面の凸部分を研磨加工する局所加工方法である。
GCIBは、常温常圧で気体の反応性物質(ソースガス)を、真空装置内に断熱膨張させつつ噴出させてガスクラスタを生成し、これに電子線を照射してイオン化させることにより生成したガスクラスタイオンを、高電界で加速してガスクラスターイオンビームとし、これを被加工物に照射してエッチング加工する局所加工方法である。
【0030】
DCPは、局所的にプラズマエッチングし、凸度に応じてプラズマエッチング量をコントロールすることにより、局所的にドライエッチングを行う局所加工方法である。
上述した平坦度を改善するための加工方法によって損なわれた表面粗さを改善するために、平坦度を極力維持しつつ、表面粗さを改善する加工方法として、例えば、フロートポリッシング、EEM(Elastic Emission Machining)、ハイドロプレーンポリッシングがある。
【0031】
触媒基準エッチングによる加工時間を短くするため、準備する基体の主表面は、0.3nm以下、より好ましくは0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rms)を有することが好ましい。
【0032】
その後、機能膜102を基体101の上に形成する。前述のように、機能膜はその目的に応じて、電気特性、光学特性、化学特性、機械特性、及び磁気特性等の特性を制御するための膜である。もう少し詳しく言うと、電気特性制御としては、導電膜、絶縁膜、誘電体膜など、光学特性制御としては反射防止膜、位相制御膜、透過率調整膜、反射膜など、化学特性制御としてはエッチングストッパ膜や保護膜など、機械特性制御としては強度増強膜、保護膜、応力制御膜など、磁気特性制御としては磁性膜、磁力線遮断膜などがある。他に、結晶配向性制御膜、イオン拡散防止膜、密着力向上膜、欠陥低減膜なども対象である。例えば、導電膜を機能膜として用いると、マスクパターンエッチングの時の位置ずれや、転写露光時に発生するパターン静電破壊の防止に効果がある。また、転写露光光やOoB(Out of Band)光に対する反射防止膜を機能膜として用いると、転写露光の時の光学像コントラストが向上するという効果がある。ここで、OoB光とは、転写露光に用いる波長とは異なる波長の光のことである。EUVリソグラフィなどで見られるように、光源としてプラズマ光源を用いると、遠紫外線、紫外線、可視光、あるいは赤外線など転写露光用の波長とは異なる波長帯域の光が発生する。紫外線や遠紫外線などはレジストを感光するが、転写露光用の光とは波長が異なるため、分解能や光学像が異なり、転写露光にOoB光が被ると光学像コントラストは低下する。逆に反射膜を機能膜として用いると、反射型マスクの反射率をより高めることが可能となる。EUVリソグラフィ用ブランクではEUV光の反射率は64%程度であるが、少しでも反射率が高まると転写露光の効率を改善できるので、反射率の向上が嘱望されている。保護膜を機能膜として用いると、基体を効率よく再利用することが可能となる。この他、マスクパターン描画を行うときの位置基準マーク(フィデューシャルマーク)を機能膜に形成しておくと、マスクブランク基板内でのマスクパターン描画の位置を所望の位置に設定することも可能になる。これはマスクブランクやマスクブランク基板に欠陥、特に欠陥修正が困難な位相欠陥がある場合、その場所が吸収体パターンに覆われる位置に来るようにマスク描画パターン全体の配置をシフトさせるときの位置基準として活用される。このようにすると、欠陥は転写露光の時に転写せず、欠陥のあるマスクブランクやマスクブランク基板を活用することができて、マスクブランクやマスクブランク基板の歩留まりを実効的に改善することが可能になる。
【0033】
各種機能膜としての具体的な材料を下記に列記する。導電膜としては、クロム、タンタル、ニッケル、金、銀、ルテニウム、モリブデンの金属や、これらの合金、又は、上記金属又は合金に炭素、水素、酸素、窒素、硼素等を含有させたクロム化合物、クロム合金化合物、タンタル化合物、タンタル合金加工物、酸化インジウム−錫、酸化亜鉛などが挙げられる。絶縁膜としては、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素酸化窒化物、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウムなどが挙げられる。誘電体膜としては、高屈折材料(酸化チタン、酸化タンタル等)と低屈折材料(酸化ケイ素、フッ化マグネシウム等)を交互に積層した積層膜などが挙げられる。反射防止膜としては、所定の波長を有する露光光に対して反射防止機能を有する材料であればよく、クロム、タンタル、ケイ素、金属シリサイドに酸素、窒素等を含有させた化合物材料が挙げられる。位相制御膜としては、所定の波長を有する露光光に対して位相シフト機能を有する材料であればよく、ケイ素、金属シリサイド、クロム、タンタル、ルテニウム、モリブデン等の金属に酸素、窒素等を含有させた化合物材料などが挙げられる。透過率調整膜としては、所定の波長を有する露光光に対して透過率を調整できる材料であればよく、クロム、タンタル、ケイ素、金属シリサイドに酸素、窒素等を含有させた化合物材料などが挙げられる。反射膜としては、所定の波長を有する露光光に対して反射率を調整できる材料であればよく、高屈折材料(ケイ素等)と低屈折材料(モリブデン等)を交互に積層した積層膜や、クロム、タンタル、アルミニウム、ケイ素、金属シリサイドなどが挙げられる。エッチングストッパ膜としては、機能膜上に形成される材料に対してエッチング選択性を有する材料であればよく、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム−錫、酸化錫−アンチモン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウムなどが挙げられる。保護膜としては、機械的及び/又は化学的耐久性を有する材料であればよく、クロム、タンタル、ルテニウム、ケイ素、金属シリサイドや、これらの合金、又は、上記金属又は合金に炭素、水素、酸素、窒素、硼素等を含有させた化合物材料などが挙げられる。応力制御膜としては、ケイ素、モリブデン、クロム、タンタル、金属シリサイド、これらに酸素、窒素、炭素、水素等を含有させた化合物材料などが挙げられる。磁性膜としては、コバルト、コバルト−白金合金、コバルト−クロム合金、コバルト−ニッケル合金、コバルト−白金−クロム合金、コバルト−ニッケル−クロム合金、コバルト−白金−クロム−ホウ素合金などが挙げられる。磁力線遮断膜としては、ルテニウム、クロムやこれらの合金などが挙げられ、結晶配向性制御膜としてはクロム、チタン、タンタル、ルテニウム、金、白金やこれらの合金、酸化マグネシウムなどが挙げられる。イオン拡散防止膜としては、酸化クロム、炭化酸化クロム、酸化窒化クロム、酸化窒化炭化クロム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウムなどが挙げられる。密着力向上膜としては、機能膜の上又は下に形成される材料に応じて適宜選定され、クロム、タンタルやこれらの合金、又は、炭素、水素、酸素、窒素、硼素等を含有させたクロム化合物、クロム合金化合物、タンタル化合物、タンタル合金加工物などが挙げられる。欠陥低減膜としては、ケイ素、タンタル、タンタル−硼素合金や、さらに酸素、窒素等を含有させた化合物材料などが挙げられる。
【0034】
保護膜を機能として用いて、基体の再生、再利用を行う場合は、基体のダメージを防止するために、保護膜を除去するためのエッチングにおける保護膜のエッチングレートを基体のエッチングレートより速くしておく必要がある。例えば、保護膜にクロム(Cr)、基体に合成石英ガラス、あるいはSiO−TiO系ガラスを用いた場合、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸によるエッチングを行うと、保護膜のエッチングレートは7000nm/hour、合成石英ガラス、SiO−TiO系ガラスのエッチングレートは無視できるものであり、保護膜のエッチングレートの方が基体のエッチングレートより速くなって、基体のダメージが少なく、基体の再生、再利用を行うことが可能になる。
【0035】
機能膜は、単層膜でも複層からなる複層膜でもよい。また、複数の機能を与えるために、複数の種類の機能膜を基板上に積層、すなわち基体上に形成した機能膜上に別の種類の機能膜を積層してもよい。本発明で重要なことは、少なくとも最上層の機能膜の表層は酸化物材料(たとえば、金属と酸素を含む材料)であることで、このことが加工後に平滑な表面となるためのポイントとなっている。この膜には他に、例えば、シリコン(Si)、窒素(N)、炭素(C)、フッ素(F)などが含まれていても良い。また、機能膜が形成された主平面と反対側の基体主平面に機能膜を含む膜が形成されていても良い。例えば、金属と酸素とを含む材料からなる機能膜の成膜法としては、機能膜材料のスパッタリングや蒸着などがある。あるいは、蒸着法、スパッタリング法、電気めっき法などによって金属を含む材料を基体上に成膜後、大気中などの酸素の存在下でアニールなどを行ってその膜の表面を酸化して、機能膜の表層部が金属と酸素を含む膜としてもよい。または、酸素イオンを加速機で浅く注入して表層部が金属と酸素を含む膜としてもよい。金属としては、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)が、これらの金属の複合を含めて、加工性、欠陥低減、及び取り扱いの容易性の観点から好適である。
【0036】
2.基板加工工程
次に、触媒物質の加工基準面を機能膜表層部の主表面に接触又は接近させ、加工基準面と主表面との間に処理流体を介在させた状態で、機能膜表層部の主表面を触媒基準エッチング(CARE)により加工する。
機能膜付き基板の上面及び下面の両面を主表面として用いる場合には、機能膜表層部である上面のCARE加工後に基板下面のCARE加工を行ってもよいし、下面のCARE加工後に上面のCARE加工を行ってもよいし、上面及び下面の両面のCARE加工を同時に行ってもよい。ここで、下面のCARE加工を行う場合には、下面部の材料に酸素が含まれていて、触媒により加水分解反応が引き起こされる必要がある。尚、下面を主表面として用いない場合であっても、必要に応じて、下面も触媒基準エッチングにより加工する。主表面として用いない下面にもCARE加工を行う場合には、主表面として用いる上面には欠陥品質の点で高い品質が要求されるため、下面の加工を行った後に、主表面として用いる上面の加工を行う方が好ましい。
【0037】
この場合、先ず、触媒物質からなる加工基準面を、機能膜表層部の主表面に対向するように配置する。そして、加工基準面と機能膜表層部の主表面との間に処理流体を供給し、加工基準面と前記主表面との間に処理流体を介在させた状態で、加工基準面を、前記主表面に接触又は接近させ、基板に所定の荷重(加工圧力)を加えながら、加工基準面と前記主表面とを相対運動させる。加工基準面と機能膜表層部の主表面との間に処理流体を介在させた状態で、加工基準面と前記主表面とを相対運動させると、加工基準面上に吸着している処理流体中の分子から生成した活性種と機能膜表層部の主表面が反応して、主表面が加工される。ここで、この反応は、機能膜の表層部が酸化物材料、例えば金属と酸素を含む材料の場合、加水分解反応である。活性種は加工基準面上にのみ生成し、加工基準面付近から離れると失活することから、加工基準面が接触又は接近する主表面以外ではほとんど活性種との反応が起こらない。このようにして、機能膜表層部の主表面に対して触媒基準エッチングによる加工を施す。触媒基準エッチングによる加工では、研磨剤を用いないため、機能膜に対するダメージが極めて少なく、新たな欠陥の生成を防止することができる。
【0038】
加工基準面と機能膜表層部の主表面との相対運動は、加工基準面と主表面とが相対的に移動する運動であれば、特に制限されない。基板を固定し加工基準面を移動する場合、加工基準面を固定し基板を移動する場合、加工基準面と基板の両方を移動する場合のいずれであってもよい。加工基準面が移動する場合、その運動は、機能膜付き基板の主表面、すなわち機能膜表層部の主表面に垂直な方向の軸を中心として回転する場合や、前記主表面と平行な方向に往復運動する場合などである。同様に、基板が移動する場合、その運動は、基板の主表面(機能膜表層部の主表面)に垂直な方向の軸を中心として回転する場合や、基板の主表面と平行な方向に往復運動する場合などである。
基板に加える荷重(加工圧力)は、例えば、5〜350hPaである。
触媒基準エッチングによる加工における加工取り代は、例えば、5nm〜100nmである。機能膜表層部の主表面に当該主表面から突出する突起が存在する場合、加工取り代は、突起の高さより大きい値にすることが好ましい。加工取り代を突起の高さより大きい値にすることにより、CARE加工により突起を除去することができる。
【0039】
加工基準面を形成する触媒物質としては、処理流体に対して、酸化物材料からなる機能膜表層部の表面を加水分解する活性種を生む材料であればよく、金属元素、好ましくは遷移金属元素を含む材料が好ましい。例えば、周期表の3族から12族に属する元素のうちの少なくとも一つの金属やそれらを含む合金が、好ましくは、用いられる。具体的には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、亜鉛(Zn)、レニウム(Re)、及びカドミウム(Cd)のうちの少なくとも一つの金属やそれらを含む合金、並びにこの合金に酸素(O)、窒素(N)、及び炭素(C)のうちの少なくとも一つの成分が含まれた合金化合物が挙げられる。上述した合金化合物として、例えば、上述した合金の酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、及び酸化窒化炭化物が挙げられる。このような合金や合金化合物を用いると、加工基準面の機械的耐久性や化学的安定性を向上させることができる。そして、これらの触媒物質は、フッ素系ゴムなどからなるパッドの上に形成される。なお、使用する触媒の金属は、機能膜表層部を構成する金属とは別の金属とすることが、後述の洗浄の観点から好ましい。
【0040】
加工基準面の面積は、機能膜主表面の面積よりも小さく、例えば、100mm〜10000mmである。加工基準面を小型化することにより、基板加工装置を小型化できる他、高精度の加工を確実に行うことができる。
また、加工基準面の面積は、機能膜主表面の面積より大きくても構わない。機能膜全面を加工できるので加工時間が短縮でき、また、加工基準面のエッジによる傷等の欠陥の発生を抑えることができる。
【0041】
処理流体は、表面が酸化物材料、例えば金属と酸素を含む材料で構成される機能膜に対して常態では溶解性を示さないもので、加水分解を誘起するものであれば、特に制限されない。このような処理流体を使用することにより、機能膜が処理流体によって溶解せず、不必要な機能膜の変形を防止することができる。例えば、純水、オゾン水、炭酸水、水素水を使用することができる。また、基板表面が、常態ではハロゲンを含む分子が溶けた溶液によって溶解しない場合には、ハロゲンを含む分子が溶けた溶液を使用することもできる。ここで、特に純水は、コスト、加工特性、及び洗浄時の扱い易さなどの観点から処理流体として好適である。
【0042】
次に、CARE加工用の基板製造装置(基板加工装置)について述べる。図2及び図3は機能膜表層部の主表面に対して触媒基準エッチングによる加工を施す基板加工装置の一例を示す。図2は基板加工装置の部分断面図であり、図3は基板加工装置の平面図である。尚、これ以降、図2及び図3に示す基板加工装置を用いて、機能膜付き基板Mの主表面として用いる上面M1をCARE加工する場合について説明するが、基板Mの下面M2も主表面として用いる場合には、上面M1と下面M2を入れ替えて、下面M2もCARE加工する。尚、機能膜付き基板Mの主表面M1は、図1に示されているように、機能膜表層部の主平面のことである。また、下面M2を主表面として用いない場合であっても、必要に応じて、下面M2もCARE加工する。その場合には、下面M2のCARE加工後に上面M1のCARE加工を行う。
【0043】
基板加工装置1は、基板Mを支持する基板支持手段2と、触媒物質の加工基準面33を有する基板表面創製手段3と、加工基準面33と主表面との間に処理流体を供給する処理流体供給手段4と、加工基準面33と主表面との間に処理流体が介在する状態で、加工基準面33を主表面に接触又は接近させる駆動手段5とを備えている。
【0044】
基板支持手段2は、円筒形のチャンバー6内に配置される。チャンバー6は、後述する相対運動手段7の軸部71をチャンバー6内に配置するために、チャンバー6の底部63の中央に形成された開口部61と、処理流体供給手段4から供給された処理流体を排出するために、チャンバー6の底部63の、開口部61より外周寄りに形成された排出口62とを備えている。図2では、排出口62から処理流体が排出される様子が矢印で示されている。
【0045】
基板支持手段2は、基板Mを支える支持部21と、支持部21を固定する平面部22とを備えている。支持部21は、基板加工装置1を上から見たとき、矩形状であり、基板Mの下面M2周縁の四辺を支える収容部21aを備えている。平面部22は、基板加工装置1を上から見たとき、円形状である。
【0046】
基板表面創製手段3は、触媒定盤31を備えている。触媒定盤31は、後述する相対運動手段7の触媒定盤取付部72に取り付けられている。触媒定盤31は、定盤本体32と、定盤本体を覆うように定盤本体の表面全面に形成される基材とその表面に触媒が被着された加工基準面33とを備えている。したがって、加工基準面33上の触媒物質は、基板Mと対向する。
【0047】
触媒定盤の全体形状は、特に制限されない。例えば、円盤、球、円柱、円錐、角錐の外形のものを使用することができる。加工基準面が形成される触媒定盤の部分の表面形状も、特に制限されない。例えば、平面、半球、丸みを帯びた形状のものを使用することができる。
【0048】
処理流体供給手段4は、チャンバー6の外側から支持部21に載置される基板Mの主表面、すなわち機能膜表層部の主表面に向かって延在する供給管41と、この供給管41の下端部先端に設けられ、支持部21に載置される基板Mの主表面に向けて処理流体を噴射する噴射ノズル42とを備えている。供給管41は、例えば、チャンバー6の外側に設けられた処理流体貯留タンク(図示せず)、及び加圧ポンプ(図示せず)に接続されている。
【0049】
駆動手段5は、後述する相対運動手段7の触媒定盤取付部72の上端に接続され、チャンバー6の周囲まで、支持部21に載置される基板Mの主表面(機能膜表層部の主表面)と平行な方向に延びるアーム部51と、アーム部51のチャンバー6の周囲まで延びた端部を支え、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向に延びる軸部52と、軸部52の下端を支持する土台部53と、チャンバー6の周囲に配置され、土台部53の移動経路を定めるガイド54とを備えている。アーム部51は、その長手方向に移動することができる(図2,3中の両矢印Cを参照)。軸部52は、その長手方向に移動することにより、アーム部51を上下動させることができる(図2中の両矢印Dを参照)。土台部53は、支持部21に載置された基板Mの主表面と垂直な方向の軸を回転中心として所定の角度だけ回転することにより、アーム部51を旋回させることができる(図2,3中の両矢印Eを参照)。ガイド54は、支持部21に載置される基板Mの隣り合う二辺と平行な方向(第1の方向と第2の方向)に配置され、土台部53のL字形の移動経路を形成する。土台部53は、第1の方向のガイド54に沿って移動することにより、アーム部51を第1の方向に移動させ(図3中の両矢印Fを参照)、第2の方向のガイド54に沿って移動することにより、アーム部51を第2の方向に移動させることができる(図3中の両矢印Gを参照)。このようなアーム部51の移動により、支持部21に載置された基板Mの主表面、すなわち機能膜表層部の主表面の所定の位置に触媒定盤31を配置することができる。
【0050】
基板加工装置1は、加工基準面33と基板Mの主表面とを相対運動させる相対運動手段7を備えている。相対運動手段7は、平面部22を支え、開口部61を通ってチャンバー6の外部まで延在する軸部71と、軸部71を回転させる回転駆動手段(図示せず)とを備えている。軸部71は、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向に延在し、回転駆動手段(図示せず)により、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向の軸を回転中心として回転することができる(図2中の矢印Aを参照)。軸部71の回転中心の延長方向に、平面部22の中心と支持部21に載置される基板Mの中心とが位置する。軸部71が回転することにより、軸部71に支えられている平面部22がその中心を回転中心として回転し、さらに、平面部22に固定されている支持部21に載置される基板Mがその中心を回転中心として回転する。また、相対運動手段7は、触媒定盤31が取り付けられる触媒定盤取付部72と、駆動手段5のアーム部51に設けられた回転駆動手段(図示せず)とを備えている。触媒定盤取付部72は、回転駆動手段(図示せず)により、支持部21に載置される基板Mの主表面と垂直な方向の軸を回転中心として回転することができる(図2,3中の矢印Bを参照)。
【0051】
基板加工装置1は、基板Mに加える荷重(加工圧力)を制御する荷重制御手段8を備えている。荷重制御手段8は、触媒定盤取付部72内に設けられ、触媒定盤3に荷重を加えるエアシリンダ81と、エアシリンダ81により触媒定盤31に加えられる荷重を測定し、所定の荷重を超えないようにエアバルブをオン・オフして、エアシリンダ81によって触媒定盤31に加えられる荷重を制御するロードセル82とを備えている。触媒基準エッチングによる加工を行うとき、荷重制御手段8により、基板Mに加える荷重(加工圧力)を制御する。
【0052】
加工取り代を設定どおりに確保するための制御方法としては、例えば、予め別に用意した基板Mに対して、種々の局所加工条件(加工圧力、回転数(触媒定盤、基板)、処理流体の流量)、加工時間と加工取り代との関係を求めておき、所望の加工取り代となる加工条件と加工時間を決定し、当該加工時間を管理することで、加工取り代を制御することができる。これに限定されるものではなく、加工取り代を設定どおりに確保できる方法であれば、種々の方法を選択してもよい。
【0053】
図2及び図3に示す基板加工装置を用いて、触媒基準エッチングによる加工を行う場合、先ず、基板Mを、主表面として用いる上面M1を上側に向けて支持部21に載置して固定する。
その後、アーム部51の長手方向移動(両矢印C)、アーム部51の旋回移動(両矢印E)、アーム部51の第1方向移動(両矢印F)、アーム部51の第2方向移動(両矢印G)により、基板表面創製手段3の加工基準面33を、基板Mの上面M1に対向するように配置する。
【0054】
その後、軸部71及び触媒定盤取付部72を所定の回転速度で回転させることによって、加工基準面33及び上面M1を所定の回転速度で回転させながら、処理流体供給ノズル42から上面M1上に処理流体を供給し、上面M1と加工基準面33との間に処理流体を介在させる。その状態で、加工基準面33を、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、基板Mの上面M1に接触又は接近させる。その際、荷重制御手段8により、基板Mに加えられる荷重が所定の値に制御される。
その後、所定の加工取り代になった時点で、処理流体の供給並びに触媒定盤取付部72の回転を止める。そして、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、加工基準面33を、上面M1から所定の距離だけ離す。一定時間、処理流体を供給し続けながら軸部71回転を行って処理流体による第1次の洗浄を行った後、洗浄流体の供給を止めて軸部71回転によるスピン乾燥を行う。その後、基板Mを取り出す。
【0055】
その後、洗浄装置に基板Mを載置し、洗浄液による第2次の洗浄を行った後、リンスおよび乾燥を行う。このような基板準備工程、基板加工工程、及び基板洗浄工程により、機能膜が付いた基板Mが製造される。
【0056】
ここで、CARE加工を行うと、被加工面である機能膜の主表面に使用した触媒が異物として残り欠陥の源になることが詳細な検討の結果わかった。そこで、処理流体による第1次の洗浄に加えて、残留触媒を除去する第2次の洗浄を行う。ここで、触媒の主成分は金属であり、また機能膜表層部材に金属が含まれる場合においても、機能膜表層部にダメージを与えずに残留触媒を除去する必要がある。機能膜表層部にダメージがあると、表面荒れとなって、CARE加工により向上させた主表面の平滑性が低下する。このため、洗浄媒質による触媒に対する溶解又は除去する速度(レート)を、洗浄媒質による機能膜表層部を溶解又は除去する速度(レート)より速くしておく。この点が本発明のポイントの1つである。洗浄媒質による機能膜表層部の洗浄は、湿式(ウェット)洗浄、乾式(ドライ)洗浄どちらでも構わない。湿式洗浄と乾式洗浄の両方を行っても構わない。湿式洗浄のための洗浄媒質である洗浄液としては、硫酸、塩酸、硝酸、硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニア水と水素水を含む水溶液の少なくとも何れか一つを含む薬液が、この分野で汎用に用いられている薬液であることもあって、好ましい。また、乾式洗浄のための洗浄媒質であるガスとしては、塩素系ガス、フッ素系ガスを使用することができる。
【0057】
機能膜表層部の材料と触媒材料及び洗浄液の組み合わせとしては、例えば、次のものが好適である。
(a)機能膜表層材料がTaBOやTaO、触媒材料がCrの場合、洗浄媒質(洗浄液)は硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸を含む水溶液、又は洗浄媒質(ガス)としては、塩素と酸素を含む混合ガス
(b)機能膜表層材料がCrCOやCrO、触媒材料がFeの場合、洗浄物質(洗浄液)はフッ酸、塩酸、SC1(Standard Clean 1:アンモニア過酸化水素水)
(c)機能膜表層材料がRuO、触媒材料がCrの場合、洗浄媒質(洗浄液)はSPM(Sulfuric acid Peroxide Mixture:硫酸過酸化水素水)、SC1
(d)機能膜表層材料がMoSiO、触媒材料がCrの場合、洗浄媒質(洗浄)液は硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸を含む水溶液、又は洗浄媒質(ガス)としては、塩素と酸素を含む混合ガス
【0058】
尚、この実施の形態では、基板Mの主表面(機能膜表層部の主表面)上に、基板表面創製手段3の加工基準面33を押し当てるタイプの基板加工装置について本発明を適用したが、基板表面創製手段の加工基準面上に、基板の主表面を押し当てるタイプの基板加工装置にも本発明を適用できる。
また、この実施の形態では、基板の片面を加工するタイプの基板加工装置について本発明を適用したが、基板の両面を同時に加工するタイプの基板加工装置にも本発明を適用できる。この場合、基板支持手段として、基板の側面を保持する部材であるキャリアを使用する。
また、この実施の形態では、チャンバーの外側から基板Mの主表面に向かって処理流体を供給する場合を示したが、基板表面創製手段に処理流体供給手段を設け、処理流体供給手段から処理流体を供給する場合や、基板支持手段に処理流体供給手段を設け、基板支持手段から処理流体を供給する場合にも本発明を適用できる。また、チャンバーに処理流体を貯め、処理流体中に基板表面創製手段と基板支持手段とを入れた状態で触媒基準エッチングによる加工を行う場合にも本発明を適用できる。
【0059】
また、この実施の形態では、加工基準面33と主表面の両方を回転させることにより加工基準面33と主表面とを相対運動させるタイプの基板加工装置について本発明を適用したが、それ以外の方法により、加工基準面33と主表面とを相対運動させるタイプの基板加工装置にも本発明を適用できる。
また、この実施の形態では、基板を一枚ごとに加工する枚様式の基板加工装置について本発明を適用したが、複数枚の基板を同時に加工するバッチ式の基板加工装置にも本発明を適用できる。また、ここでは基板の主表面全面に亘って加工する場合を示したが、必要に応じて、予め定めた局部のみを加工する局部加工のみを行っても良く、これらの加工を併用してもよい。
また、ガラス基体の主表面をCARE加工し、その上に機能膜を形成し、再度機能膜表層部の主表面をCARE加工してもよい。
【0060】
実施の形態2.
実施の形態2では、多層反射膜付き基板の製造方法を説明する。
【0061】
この実施の形態2では、実施の形態1の基板の製造方法で説明した方法により製造した機能膜付き基板Mの主表面(機能膜の主表面)上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜を形成し、多層反射膜付き基板を製造するか、さらに、この多層反射膜上に保護膜を形成して、多層反射膜付き基板を製造する。
【0062】
この実施の形態2による多層反射膜付き基板の製造方法によれば、実施の形態1の機能膜付き基板の製造方法により得られた基板Mを用いて多層反射膜付き基板を製造するので、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもった多層反射膜付き基板を製造することができる。すなわち、多層膜面の欠陥が少なく、且つその表面平滑度の高い多層反射膜付き基板を製造することができる。
【0063】
EUVリソグラフィ用多層膜付き基板の場合は、基板表面のピットやバンプによる凹凸及び多層膜中の欠陥による位相欠陥に留意する必要がある。この位相欠陥の検査感度は、基板段階より多層膜成膜後の段階で検査した方が検査感度は高い。この際、基板表面に表面荒れがあって表面平滑度が低いと、多層膜成膜後の検査であっても、位相欠陥検査の時のバックグラウンドノイズとなって検査感度が低下してしまう。本発明の実施形態によれば、基板表面(機能膜表面)に加え、多層膜表面を含めて必要にして十分な表面平滑度が得られるため、十分な位相欠陥検査感度となり、位相欠陥管理品質の高い多層反射膜付き基板を製造することが可能となる。
【0064】
実施の形態3.
実施の形態3では、マスクブランクの製造方法を説明する。
【0065】
この実施の形態3では、実施の形態1の基板の製造方法で説明した方法により製造した機能膜付き基板Mの主表面上、すなわち機能膜表層部主表面上に、転写パターン用薄膜としての遮光膜を形成してバイナリーマスクブランクを製造し、又は転写パターン用薄膜としての光半透過膜を形成してハーフトーン型位相シフトマスクブランクを製造し、又は転写パターン用薄膜として光半透過膜、遮光膜を順次形成してハーフトーン型位相シフトマスクブランクを製造する。
【0066】
また、この実施の形態3では、実施の形態2の多層反射膜付き基板の製造方法で説明した方法により製造した多層反射膜付き基板の保護膜上に転写パターン用薄膜としての吸収体膜を形成し、又は多層反射膜付き基板の多層反射膜上に保護膜及び転写パターン用薄膜としての吸収体膜を形成し、さらに多層反射膜を形成していない裏面に裏面導電膜を形成して、反射型マスクブランクを製造する。
【0067】
この実施の形態3によれば、実施の形態1の機能膜付き基板の製造方法により得られた基板M又は実施の形態2の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板を用いてマスクブランクを製造するので、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもったマスクブランクを製造することができる。
【0068】
実施の形態4.
実施の形態4では、転写用マスクの製造方法を説明する。
【0069】
この実施の形態4では、実施の形態3のマスクブランクの製造方法で説明した方法により製造したバイナリーマスクブランク、位相シフトマスクブランク、又は反射型マスクブランクの転写パターン用薄膜上に、露光・現像処理を行ってレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクにして転写パターン用薄膜をエッチング処理して、転写パターンを形成して転写用マスクを製造する。
【0070】
この実施の形態4によれば、実施の形態3のマスクブランクの製造方法により得られたマスクブランクを用いて転写用マスクを製造するので、基板要因による特性の悪化を防止することができ、所望の特性をもったマスクブランクを製造することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0072】
実施例1.
A.機能膜付きガラス基板の製造
1.基板準備工程
主表面及び裏面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO−TiOガラス基板である低熱膨張ガラス基板を準備した。尚、SiO−TiOガラス基板は、以下の粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て得られたものであり、機能膜付きガラス基板の基体となるものである。
【0073】
(1)粗研磨加工工程
端面面取加工及び研削加工を終えたガラス基板を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の粗研磨を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)を含有する水溶液
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
粗研磨後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0074】
(2)精密研磨加工工程
粗研磨を終えたガラス基板を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の精密研磨を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径1μm)を含有する水溶液
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
精密研磨後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0075】
(3)超精密研磨加工工程
精密研磨を終えたガラス基板を再び両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の超精密研磨を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:コロイダルシリカを含有するアルカリ性水溶液(pH10.2)
(コロイダルシリカ含有量50wt%)
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
超精密研磨後、ガラス基板を水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液が入った洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0076】
(4)局所加工工程
粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程後のガラス基板の主表面及び裏面の平坦度を、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用いて測定した。平坦度測定は、ガラス基板の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域に対して、1024×1024の地点で行った。ガラス基板の主表面及び裏面の平坦度の測定結果を、測定点ごとに仮想絶対平面に対する高さの情報(凹凸形状情報)としてコンピュータに保存した。仮想絶対平面は、仮想絶対平面から基板表面までの距離を、平坦度測定領域全体に対して二乗平均したときに最小の値となる面である。
その後、取得された凹凸形状情報とガラス基板に要求される主表面及び裏面の平坦度の基準値とを比較し、その差分を、ガラス基板の主表面及び裏面の所定領域ごとにコンピュータで算出した。この差分が、局所的な表面加工における各所定領域の必要除去量(加工取り代)となる。
【0077】
その後、ガラス基板の主表面及び裏面の所定領域ごとに、必要除去量に応じた局所的な表面加工の加工条件を設定した。設定方法は以下の通りである。事前にダミー基板を用いて、実際の加工と同じようにダミー基板を、一定時間基板移動させずにある地点(スポット)で加工し、その形状を平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)にて測定し、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積を算出した。そして、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積と上述したように算出した各所定領域の必要除去量に従い、ガラス基板をラスタ走査する際の走査スピードを決定した。
その後、ガラス基板の主表面及び裏面を、基板仕上げ装置を用いて、磁気粘弾性流体研磨(Magnet Rheological Finishing:MRF)により、所定領域ごとに設定した加工条件に従い、局所的に表面加工した。尚、このとき、酸化セリウムの研磨粒子を含有する磁性研磨スラリーを使用した。
【0078】
その後、ガラス基板を、濃度約10%の塩酸水溶液(温度約25℃)が入った洗浄槽に約10分間浸漬させ、続いて、純水によるリンス、イソプロピルアルコール(IPA)による乾燥を行った。
【0079】
(5)タッチ研磨工程
局所加工工程によって荒れたガラス基板の主表面及び裏面の平滑性を高めるために、研磨スラリーを用いて行う低荷重の機械的研磨により微小量だけガラス基板の主表面及び裏面を研磨した。この研磨は、基板の大きさよりも大きい研磨パッドが張り付けられた上下の研磨定盤の間にキャリアで保持されたガラス基板をセットし、コロイダルシリカ砥粒(平均粒子径50nm)を含有する研磨スラリーを供給しながら、ガラス基板を、上下の研磨定盤内で自転しながら公転することによって行った。
その後、ガラス基板を、水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
タッチ研磨工程終了後のガラス基板の主表面の表面粗さを、基板の中心の1μm×1μmの領域に対して、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。その結果、主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
【0080】
(6)機能膜形成工程
基体であるタッチ研磨工程終了後のガラス基板の主表面上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと酸素(O)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素酸化物(TaBO)からなる膜厚14nmの機能膜を形成した。タンタルホウ素酸化物(TaBO)には導電性があり、導電膜としてチャージアップ防止、静電破壊防止などの効果がある。
【0081】
2.基板加工工程
次に、図2及び図3に示す基板加工装置を用いて、TaBOからなる機能膜の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施した。
【0082】
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたフッ素系ゴムパッドと、機能膜付きガラス基板と対向する側のフッ素系ゴムパッドの表面全面にアルゴン(Ar)ガス中でクロム(Cr)ターゲットを用いてスパッタリング法によって形成されたCr薄膜からなる加工基準面33とを備えた触媒定盤31を使用した。ここで、触媒定盤の直径は100mmであり、フッ素系ゴムパッド上に形成されたCr薄膜の膜厚は100nmである。
加工、洗浄条件は以下の通りである。
処理流体:純水
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:100hPa
加工取り代:10nm
洗浄液:硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる水溶液
【0083】
まず、機能膜側を上側に向けて機能膜付きガラス基板Mを支持部21に載置して固定した。
その後、アーム部51の長手方向移動(両矢印C)、アーム部51のスイング移動(両矢印E)、アーム部51の第1方向移動(両矢印F)、アーム部51の第2方向移動(両矢印G)により、触媒定盤31の加工基準面33が機能膜の主表面に対向して配置された状態で、触媒定盤31を配置した。触媒定盤31の配置位置は、ガラス基板及び触媒定盤31を回転させたときに、触媒定盤31の加工基準面33が、機能膜の主表面全体に接触又は接近することが可能な位置である。
【0084】
その後、機能膜付きガラス基板を10.3回転/分の回転速度及び触媒定盤31を10回転/分の回転速度で回転させる。ここで、ガラス基板の回転方向と触媒定盤31の回転方向とが、互いに逆になるようにガラス基板及び触媒定盤31を回転させる。これにより、両者間に周速差をとり、触媒基準エッチングによる加工の効率を高めることができる。また、両者の回転数は、僅かに異なるように設定される。これにより、触媒定盤31の加工基準面33が機能膜の主表面上に対して異なる軌跡を描くように相対運動させることができ、触媒基準エッチングによる加工の効率を高めることができる。
【0085】
機能膜付きガラス基板及び触媒定盤31を回転させながら、処理流体供給ノズル42から処理流体である純水を基板表面に供給して、加工基準面33と機能膜主表面の間に純水を介在させた。その状態で、触媒定盤31の加工基準面33を、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、機能膜の表面に接触又は接近させた。その際、機能膜に加えられる荷重(加工圧力)が100hPaに制御された。
その後、加工取り代が10nmとなった時点で、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、触媒定盤31を、機能膜の主表面から所定の距離だけ離した。この間、純水は処理流体供給ノズル42から供給し続け、且つガラス基板及び触媒定盤31の回転は続けて、純水によるスピン洗浄を行った。その後、純水の供給を止めて、スピン乾燥を行った。しかる後、支持部21から機能膜付きガラス基板Mを取り外した。
【0086】
その後、洗浄装置に機能膜付き基板Mを載置し、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液を使って洗浄を行った後、リンスおよび乾燥を行って機能膜付きガラス基板を作製した。硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液による触媒
であるCrの溶解レートは約7000nm/hourであり、一方、機能膜表層部であるTaBOの溶解レートは無視できるものであって、触媒だけを溶解させ、TaBO層にはダメージを与えず洗浄することが可能となる。
【0087】
3.評価
触媒基準エッチングによる加工前後の機能膜の主表面の表面粗さを、基板の中心の1μm×1μmの領域に対して、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。
加工前の機能膜主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.32nmであった。一方、加工後の機能膜主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.06nmと、要求値の0.08nmを大幅に下回る良好なものであった。
【0088】
触媒基準エッチングによる加工後の機能膜主表面の欠陥検査を、基板の周辺領域を除外した132mm×132mmの領域に対して、欠陥検査装置(KLA−Tencor社製マスク/ブランク欠陥検査装置 Teron610)を用いて行った。欠陥検査は、SEVD(Sphere Equivalent Volume Diameter)換算で21.5nmサイズの欠陥が検出可能な感度で行った。SEVDは、欠陥を半球状のものと仮定したときの直径の長さである。
加工前の機能膜主表面の欠陥の検出個数は1329個で、洗浄を含む加工後は10個となって、欠陥数は大幅に低減した。
また、実施例1の方法により、機能膜付きガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.07nm以下と良好であり、欠陥個数も12個以下と少なかった。
実施例1の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の主表面を有する機能膜付きガラス基板が安定して得られた。
【0089】
B.多層反射膜付き基板の製造
次に、このようにして作製された機能膜付きガラス基板の主表面上に、イオンビームスパッタ法により、シリコン膜(Si)からなる高屈折率層(膜厚4.2nm)とモリブデン膜(Mo)からなる低屈折率層(2.8nm)とを交互に、高屈折率層と低屈折率層とを1ペアとし、40ペア積層して、多層反射膜(膜厚280nm)を形成した。
その後、この多層反射膜上に、イオンビームスパッタ法により、ルテニウム(Ru)からなる保護膜(膜厚2.5nm)を形成した。尚、イオンビームスパッタリングにおけるガラス基板主表面の法線に対するMo、Si、Ruのスパッタ粒子の入射角度は、それぞれ、Moが50度、Siが45度、Ruが40度とした。
このようにして、多層反射膜付き基板を作製した。
【0090】
得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率をEUV反射率測定装置により測定した。
ガラス基板上に形成されている機能膜の主表面が高い平滑性を持つことにより、保護膜表面も平滑性を保っており(Rmsで0.14nm)、反射率は65%と高かった。
得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を、機能膜主表面の欠陥検査と同様に行った。
保護膜表面の欠陥検出個数は、SEVD換算で21.5nmサイズの欠陥(凸欠陥)が検出可能な感度で16421個であった。位相欠陥検査も合わせて行ったが、高い平滑性を持つため、検査時のバックグラウンドノイズが少なく、高感度な位相欠陥検査を行うことができた。
実施例1の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
【0091】
C.反射型マスクブランクの製造
次に、このようにして作製された多層反射膜付き基板の保護膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素窒化物(TaBN)からなる下層吸収体層(膜厚56nm)を形成し、さらに、下層吸収体膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと酸素(O)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素酸化物(TaBO)からなる上層吸収体層(膜厚14nm)を形成することにより、下層吸収体層と上層吸収体層とからなる二層吸収体膜(膜厚70nm)を形成した。
その後、多層反射膜付き基板の多層反射膜を形成していない裏面上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合ガス雰囲気中での反応性スパッタリングにより、クロム窒化物(CrN)からなる裏面導電膜(膜厚20nm)を形成した。
このようにして、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランクを作製した。
【0092】
D.反射型マスクの製造
次に、このようにして作製された反射型マスクブランクの吸収体膜上に、電子線描画(露光)用化学増幅型レジストをスピンコート法により塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚が150nmのレジスト膜を形成した。
その後、形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
その後、このレジストパターンをマスクにして、吸収体膜のドライエッチングを行って、保護膜上に吸収体膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとしては、塩素(Cl)ガスを用いた。
その後、残存するレジストパターンを剥離し、洗浄を行なった。
このようにして、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクを作製した。
前述のように、導電性を持つTaBO機能膜が多層膜と基体であるガラス基板の間に形成されているので、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが少なく、高い位置精度でパターン形成を行うことができた。
【0093】
実施例2.
この実施例では、機能膜をクロム炭化酸化窒化物(CrCON)とし、それに伴って、CARE加工で使用する触媒としてオーステナイト系ステンレスであるSUS316を用い、また洗浄液としては硫酸を用いた。また、加工取り代を5nmとした。それ以外は、基体材料及びその前処理から反射型マスクの製造に至るまで実施例1と同様の方法で、機能膜付きガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。したがって、加工、洗浄条件は下記の通りである。
処理流体:純水
触媒:SUS316
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:100hPa
加工取り代:5nm
洗浄液:硫酸
【0094】
実施例1と同様に、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て、主表面及び裏面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO−TiOガラス基板である低熱膨張ガラス基板を準備し、これを機能膜付きガラス基板の基体とした。この段階での、ガラス基板主平面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
その後、この基体の主表面上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと二酸化炭素(CO)ガスと窒素(N)ガスの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、クロム炭化酸化窒化物(CrCON)からなる膜厚20nmの機能膜を形成した。クロム炭化酸化窒化物(CrCON)には導電性があり、導電膜としてチャージアップ防止、静電破壊防止などの効果がある。
【0095】
その後、ステンレス鋼(SUS)製の円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたフッ素系ゴムパッドと、機能膜付きガラス基板と対向する側のフッ素系ゴムパッドの表面全面にアルゴン(Ar)ガス中でオーステナイト系ステンレスであるSUS316ターゲットを用いてスパッタリング法によって形成されたSUS316薄膜からなる加工基準面33とを備えた触媒定盤31を使用して機能膜主表面のCARE加工を行った。ここで、触媒定盤の直径は100mmであり、フッ素系ゴムパッド上に形成されたSUS316薄膜の膜厚は100nmである。加工条件は、前記しているように実施例1と同じである。
洗浄液には、硫酸を用いた。硫酸による触媒であるSUS316の溶解レートは約500nm/hour以上であり、一方、機能膜表層部であるCrCONの溶解レートは無視できるものであって、触媒だけを溶解させ、CrCON層にはダメージを与えず洗浄することが可能となる。
【0096】
実施例1と同様に、CARE加工による加工前後の機能膜主表面の表面粗さを測定した。
加工前の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.152nmであった。
加工後の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.064nmと、CARE加工に比べ大幅に低減されるとともに、要求値の0.08nmを大幅に下回る良好なものであった。
また、実施例1と同様に、洗浄を伴ったCARE加工後の機能膜主表面の欠陥検査を行った。
加工後の主表面の検出個数は18個という良好なものであった。
また、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.072nm以下と良好であり、欠陥個数も25個以下と少なかった。
実施例2の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する機能膜付きガラス基板が安定して得られた。
【0097】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面に形成されている機能膜の主表面が高い平滑性を持つことにより、保護膜表面も平滑性を保っており(Rmsが0.14nm)、反射率は65%と高かった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
保護膜表面の欠陥検出個数は、SEVD換算で21.5nmサイズの欠陥(凸欠陥)が検出可能な感度で17618個であった。位相欠陥検査も合わせて行ったが、高い平滑性を持つため、検査時のバックグラウンドノイズが少なく、高感度な位相欠陥検査を行うことができた。
実施例2の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例2の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
また、前述のように、導電性を持つCrCON機能膜が多層膜と基体であるガラス基板の間に形成されているので、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが少なく、高い位置精度でパターン形成を行うことができた。
【0098】
実施例3.
この実施例では、機能膜を母体(下層)がタンタル窒化物(TaN)で、その表層部(上層)がタンタル酸化物(TaO)構造の二層膜とし、それ以外は、基体材料及びその前処理から反射型マスクの製造に至るまで実施例1と同様の方法で、機能膜付きガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。したがって、加工、洗浄条件は下記の通りである。
処理流体:純水
触媒:Cr
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:100hPa
加工取り代:10nm
洗浄液:硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる水溶液
【0099】
実施例1と同様に、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て、主表面及び裏面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO−TiOガラス基板である低熱膨張ガラス基板を準備し、これを機能膜付きガラス基板の基体とした。この段階での、ガラス基板主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
その後、この基体の主表面上に、タンタル(Ta)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタル窒化物(TaN)膜を形成し、その後大気中アニールによってTaN膜表面を酸化させてTaN表層部に酸化層TaOを形成し、機能膜とした。膜厚はTaN部が42nmで、TaO部が11nmである。この機能膜には導電性があり、導電膜としてチャージアップ防止、静電破壊防止などの効果がある。
【0100】
その後、実施例1と同様の触媒(Cr)や処理条件によりCARE加工を行い、その後実施例1と同様に硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液にて洗浄を行った。
硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液による触媒であるCrの溶解レートは約7000nm/hourであり、一方、機能膜表層部であるTaOの溶解レートは無視できるものであって、触媒に対するTaOのレート差により機能膜にはダメージを与えず洗浄することが可能となる。
【0101】
実施例1と同様に、CARE加工による加工前後の機能膜主表面の表面粗さを測定した。
加工前の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.25nmであった。
加工後の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.059nmと、CARE加工により大幅に低減されるとともに、要求値の0.08nmを大幅に下回る良好なものであった。
また、実施例1と同様に、洗浄を伴ったCARE加工後の機能膜主表面の欠陥検査を行った。
加工後の主表面の検出個数は8個という良好なものであった。
また、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.065nm以下と良好であり、欠陥個数も12個以下と少なかった。
実施例3の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する機能膜付きガラス基板が安定して得られた。
【0102】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面に形成された機能膜の主表面が高い平滑性を持つことにより、保護膜表面も平滑性を保っており(Rmsが0.138nm)、反射率は65%と高かった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
保護膜表面の欠陥検出個数は、SEVD換算で21.5nmサイズの欠陥(凸欠陥)が検出可能な感度で11619個であった。位相欠陥検査も合わせて行ったが、高い平滑性を持つため、検査時のバックグラウンドノイズが少なく、高感度な位相欠陥検査を行うことができた。
実施例3の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例3の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
また、前述のように、導電性を持つタンタルTaNとTaOの二層からなる機能膜が多層膜と基体であるガラス基板の間に形成されているので、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが少なく、高い位置精度でパターン形成を行うことができた。
【0103】
比較例.
この比較例では、機能膜を設けず、またCARE加工を実施しないこと以外は、実施例1と同様の方法で、ガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。したがって、基板としては、6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO−TiOガラス基板である低熱膨張ガラス基板に対して、実施例1と同様の、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て得られたものを用いた。そのガラス基板の主表面上に実施例1の方法で直接多層膜を形成して、多層反射膜付き基板を製造した。その後の反射型マスクブランク、及び反射型マスクの製造方法も実施例1と同様とした。尚、この比較例では、機能膜を設けていないことから基板に導電性がなく、マスクパターンエッチングなどの際に電荷が溜まりやすい、すなわちチャージアップしやすい状態になっている。
実施例1と同様に、ガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。その結果、ガラス基板主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
また、実施例1と同様の方法で、ガラス基板主表面上の欠陥検査を行った。その結果、欠陥の検出個数は697個であった。
比較例の方法では、要求値を満たす高い平滑性を持ったガラス基板ではなく、欠陥数も多いものであった。
【0104】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面の表面粗さが要求値を満たさない低いものであったため、保護膜表面の平滑性も低く(Rmsで0.155nm)、その影響で反射率も64.5%とわずかに低かった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
比較例の方法では、欠陥に関しても要求値を満たす平滑性が得られなかったことから、検査時のバックグラウンドノイズも多く、検出個数は83791個と、位相欠陥検査を行うことができる欠陥数限界に近い個数となり、実施例1から3より欠陥が多いという問題があった。さらに、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが多く、パターンの位置精度も実施例1から3より低いものであった。
【0105】
尚、上述した実施例では、触媒基準エッチングによる加工を行った後の洗浄として、湿式(ウェット)洗浄を例に挙げて説明したが、乾式(ドライ)洗浄を行っても同様の効果が得られる。例えば、実施例1、3において、触媒基準エッチングによる加工後の洗浄として、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる水溶液による湿式(ウェット)洗浄の代わりに、塩素ガスと酸素ガスの混合ガスによる乾式(ドライ)洗浄を行うことができる。
また、上述した実施例では、機能膜付き反射型マスクブランク用基板の機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合について本発明を適用したが、機能膜付き位相シフトマスクブランク、バイナリーマスクブランク、及びナノインプリント用マスクブランクの機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合についても、本発明を適用できる。
また、上述した実施例では、機能膜付きマスクブランク用基板の機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合について本発明を適用したが、機能膜付き磁気記録媒体用基板の機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合にも、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0106】
1…基板加工装置、2…基板支持手段、3…基板表面創製手段、4…処理流体供給手段、5…駆動手段、6…チャンバー、7…相対運動手段、8…荷重制御手段、21…支持部、2a…収容部22…平面部、31…触媒定盤、32…定盤本体、33…加工基準面、41…供給管、42…噴射ノズル、51…アーム部、52…軸部、53…土台部、54…ガイド、61…開口部、62…排出口、63…底部、71…軸部72…触媒定盤取付部、81…エアシリンダ、82…ロードセル、101…基体、102…機能膜、103…機能膜表層部、M…基板、M1…上面、M2…下面。

図1
図2
図3