【実施例】
【0071】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0072】
実施例1.
A.機能膜付きガラス基板の製造
1.基板準備工程
主表面及び裏面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO
2−TiO
2ガラス基板である低熱膨張ガラス基板を準備した。尚、SiO
2−TiO
2ガラス基板は、以下の粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て得られたものであり、機能膜付きガラス基板の基体となるものである。
【0073】
(1)粗研磨加工工程
端面面取加工及び研削加工を終えたガラス基板を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の粗研磨を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)を含有する水溶液
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
粗研磨後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0074】
(2)精密研磨加工工程
粗研磨を終えたガラス基板を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の精密研磨を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径1μm)を含有する水溶液
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
精密研磨後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0075】
(3)超精密研磨加工工程
精密研磨を終えたガラス基板を再び両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨を行った。10枚セットを2回行い合計20枚のガラス基板の超精密研磨を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:コロイダルシリカを含有するアルカリ性水溶液(pH10.2)
(コロイダルシリカ含有量50wt%)
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
超精密研磨後、ガラス基板を水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液が入った洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0076】
(4)局所加工工程
粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程後のガラス基板の主表面及び裏面の平坦度を、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用いて測定した。平坦度測定は、ガラス基板の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域に対して、1024×1024の地点で行った。ガラス基板の主表面及び裏面の平坦度の測定結果を、測定点ごとに仮想絶対平面に対する高さの情報(凹凸形状情報)としてコンピュータに保存した。仮想絶対平面は、仮想絶対平面から基板表面までの距離を、平坦度測定領域全体に対して二乗平均したときに最小の値となる面である。
その後、取得された凹凸形状情報とガラス基板に要求される主表面及び裏面の平坦度の基準値とを比較し、その差分を、ガラス基板の主表面及び裏面の所定領域ごとにコンピュータで算出した。この差分が、局所的な表面加工における各所定領域の必要除去量(加工取り代)となる。
【0077】
その後、ガラス基板の主表面及び裏面の所定領域ごとに、必要除去量に応じた局所的な表面加工の加工条件を設定した。設定方法は以下の通りである。事前にダミー基板を用いて、実際の加工と同じようにダミー基板を、一定時間基板移動させずにある地点(スポット)で加工し、その形状を平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)にて測定し、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積を算出した。そして、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積と上述したように算出した各所定領域の必要除去量に従い、ガラス基板をラスタ走査する際の走査スピードを決定した。
その後、ガラス基板の主表面及び裏面を、基板仕上げ装置を用いて、磁気粘弾性流体研磨(Magnet Rheological Finishing:MRF)により、所定領域ごとに設定した加工条件に従い、局所的に表面加工した。尚、このとき、酸化セリウムの研磨粒子を含有する磁性研磨スラリーを使用した。
【0078】
その後、ガラス基板を、濃度約10%の塩酸水溶液(温度約25℃)が入った洗浄槽に約10分間浸漬させ、続いて、純水によるリンス、イソプロピルアルコール(IPA)による乾燥を行った。
【0079】
(5)タッチ研磨工程
局所加工工程によって荒れたガラス基板の主表面及び裏面の平滑性を高めるために、研磨スラリーを用いて行う低荷重の機械的研磨により微小量だけガラス基板の主表面及び裏面を研磨した。この研磨は、基板の大きさよりも大きい研磨パッドが張り付けられた上下の研磨定盤の間にキャリアで保持されたガラス基板をセットし、コロイダルシリカ砥粒(平均粒子径50nm)を含有する研磨スラリーを供給しながら、ガラス基板を、上下の研磨定盤内で自転しながら公転することによって行った。
その後、ガラス基板を、水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
タッチ研磨工程終了後のガラス基板の主表面の表面粗さを、基板の中心の1μm×1μmの領域に対して、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。その結果、主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
【0080】
(6)機能膜形成工程
基体であるタッチ研磨工程終了後のガラス基板の主表面上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと酸素(O
2)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素酸化物(TaBO)からなる膜厚14nmの機能膜を形成した。タンタルホウ素酸化物(TaBO)には導電性があり、導電膜としてチャージアップ防止、静電破壊防止などの効果がある。
【0081】
2.基板加工工程
次に、
図2及び
図3に示す基板加工装置を用いて、TaBOからなる機能膜の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施した。
【0082】
この実施例では、ステンレス鋼(SUS)製の円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたフッ素系ゴムパッドと、機能膜付きガラス基板と対向する側のフッ素系ゴムパッドの表面全面にアルゴン(Ar)ガス中でクロム(Cr)ターゲットを用いてスパッタリング法によって形成されたCr薄膜からなる加工基準面33とを備えた触媒定盤31を使用した。ここで、触媒定盤の直径は100mmであり、フッ素系ゴムパッド上に形成されたCr薄膜の膜厚は100nmである。
加工、洗浄条件は以下の通りである。
処理流体:純水
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:100hPa
加工取り代:10nm
洗浄液:硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる水溶液
【0083】
まず、機能膜側を上側に向けて機能膜付きガラス基板Mを支持部21に載置して固定した。
その後、アーム部51の長手方向移動(両矢印C)、アーム部51のスイング移動(両矢印E)、アーム部51の第1方向移動(両矢印F)、アーム部51の第2方向移動(両矢印G)により、触媒定盤31の加工基準面33が機能膜の主表面に対向して配置された状態で、触媒定盤31を配置した。触媒定盤31の配置位置は、ガラス基板及び触媒定盤31を回転させたときに、触媒定盤31の加工基準面33が、機能膜の主表面全体に接触又は接近することが可能な位置である。
【0084】
その後、機能膜付きガラス基板を10.3回転/分の回転速度及び触媒定盤31を10回転/分の回転速度で回転させる。ここで、ガラス基板の回転方向と触媒定盤31の回転方向とが、互いに逆になるようにガラス基板及び触媒定盤31を回転させる。これにより、両者間に周速差をとり、触媒基準エッチングによる加工の効率を高めることができる。また、両者の回転数は、僅かに異なるように設定される。これにより、触媒定盤31の加工基準面33が機能膜の主表面上に対して異なる軌跡を描くように相対運動させることができ、触媒基準エッチングによる加工の効率を高めることができる。
【0085】
機能膜付きガラス基板及び触媒定盤31を回転させながら、処理流体供給ノズル42から処理流体である純水を基板表面に供給して、加工基準面33と機能膜主表面の間に純水を介在させた。その状態で、触媒定盤31の加工基準面33を、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、機能膜の表面に接触又は接近させた。その際、機能膜に加えられる荷重(加工圧力)が100hPaに制御された。
その後、加工取り代が10nmとなった時点で、アーム部51の上下移動(両矢印D)により、触媒定盤31を、機能膜の主表面から所定の距離だけ離した。この間、純水は処理流体供給ノズル42から供給し続け、且つガラス基板及び触媒定盤31の回転は続けて、純水によるスピン洗浄を行った。その後、純水の供給を止めて、スピン乾燥を行った。しかる後、支持部21から機能膜付きガラス基板Mを取り外した。
【0086】
その後、洗浄装置に機能膜付き基板Mを載置し、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液を使って洗浄を行った後、リンスおよび乾燥を行って機能膜付きガラス基板を作製した。硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液による触媒
であるCrの溶解レートは約7000nm/hourであり、一方、機能膜表層部であるTaBOの溶解レートは無視できるものであって、触媒だけを溶解させ、TaBO層にはダメージを与えず洗浄することが可能となる。
【0087】
3.評価
触媒基準エッチングによる加工前後の機能膜の主表面の表面粗さを、基板の中心の1μm×1μmの領域に対して、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。
加工前の機能膜主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.32nmであった。一方、加工後の機能膜主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.06nmと、要求値の0.08nmを大幅に下回る良好なものであった。
【0088】
触媒基準エッチングによる加工後の機能膜主表面の欠陥検査を、基板の周辺領域を除外した132mm×132mmの領域に対して、欠陥検査装置(KLA−Tencor社製マスク/ブランク欠陥検査装置 Teron610)を用いて行った。欠陥検査は、SEVD(Sphere Equivalent Volume Diameter)換算で21.5nmサイズの欠陥が検出可能な感度で行った。SEVDは、欠陥を半球状のものと仮定したときの直径の長さである。
加工前の機能膜主表面の欠陥の検出個数は1329個で、洗浄を含む加工後は10個となって、欠陥数は大幅に低減した。
また、実施例1の方法により、機能膜付きガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.07nm以下と良好であり、欠陥個数も12個以下と少なかった。
実施例1の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の主表面を有する機能膜付きガラス基板が安定して得られた。
【0089】
B.多層反射膜付き基板の製造
次に、このようにして作製された機能膜付きガラス基板の主表面上に、イオンビームスパッタ法により、シリコン膜(Si)からなる高屈折率層(膜厚4.2nm)とモリブデン膜(Mo)からなる低屈折率層(2.8nm)とを交互に、高屈折率層と低屈折率層とを1ペアとし、40ペア積層して、多層反射膜(膜厚280nm)を形成した。
その後、この多層反射膜上に、イオンビームスパッタ法により、ルテニウム(Ru)からなる保護膜(膜厚2.5nm)を形成した。尚、イオンビームスパッタリングにおけるガラス基板主表面の法線に対するMo、Si、Ruのスパッタ粒子の入射角度は、それぞれ、Moが50度、Siが45度、Ruが40度とした。
このようにして、多層反射膜付き基板を作製した。
【0090】
得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率をEUV反射率測定装置により測定した。
ガラス基板上に形成されている機能膜の主表面が高い平滑性を持つことにより、保護膜表面も平滑性を保っており(Rmsで0.14nm)、反射率は65%と高かった。
得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を、機能膜主表面の欠陥検査と同様に行った。
保護膜表面の欠陥検出個数は、SEVD換算で21.5nmサイズの欠陥(凸欠陥)が検出可能な感度で16421個であった。位相欠陥検査も合わせて行ったが、高い平滑性を持つため、検査時のバックグラウンドノイズが少なく、高感度な位相欠陥検査を行うことができた。
実施例1の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
【0091】
C.反射型マスクブランクの製造
次に、このようにして作製された多層反射膜付き基板の保護膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N
2)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素窒化物(TaBN)からなる下層吸収体層(膜厚56nm)を形成し、さらに、下層吸収体膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと酸素(O
2)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素酸化物(TaBO)からなる上層吸収体層(膜厚14nm)を形成することにより、下層吸収体層と上層吸収体層とからなる二層吸収体膜(膜厚70nm)を形成した。
その後、多層反射膜付き基板の多層反射膜を形成していない裏面上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N
2)ガスとの混合ガス雰囲気中での反応性スパッタリングにより、クロム窒化物(CrN)からなる裏面導電膜(膜厚20nm)を形成した。
このようにして、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランクを作製した。
【0092】
D.反射型マスクの製造
次に、このようにして作製された反射型マスクブランクの吸収体膜上に、電子線描画(露光)用化学増幅型レジストをスピンコート法により塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚が150nmのレジスト膜を形成した。
その後、形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
その後、このレジストパターンをマスクにして、吸収体膜のドライエッチングを行って、保護膜上に吸収体膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとしては、塩素(Cl
2)ガスを用いた。
その後、残存するレジストパターンを剥離し、洗浄を行なった。
このようにして、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクを作製した。
前述のように、導電性を持つTaBO機能膜が多層膜と基体であるガラス基板の間に形成されているので、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが少なく、高い位置精度でパターン形成を行うことができた。
【0093】
実施例2.
この実施例では、機能膜をクロム炭化酸化窒化物(CrCON)とし、それに伴って、CARE加工で使用する触媒としてオーステナイト系ステンレスであるSUS316を用い、また洗浄液としては硫酸を用いた。また、加工取り代を5nmとした。それ以外は、基体材料及びその前処理から反射型マスクの製造に至るまで実施例1と同様の方法で、機能膜付きガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。したがって、加工、洗浄条件は下記の通りである。
処理流体:純水
触媒:SUS316
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:100hPa
加工取り代:5nm
洗浄液:硫酸
【0094】
実施例1と同様に、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て、主表面及び裏面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO
2−TiO
2ガラス基板である低熱膨張ガラス基板を準備し、これを機能膜付きガラス基板の基体とした。この段階での、ガラス基板主平面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
その後、この基体の主表面上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと二酸化炭素(CO
2)ガスと窒素(N
2)ガスの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、クロム炭化酸化窒化物(CrCON)からなる膜厚20nmの機能膜を形成した。クロム炭化酸化窒化物(CrCON)には導電性があり、導電膜としてチャージアップ防止、静電破壊防止などの効果がある。
【0095】
その後、ステンレス鋼(SUS)製の円盤形状の定盤本体32と、定盤本体32を覆うように定盤本体32の表面全面に形成されたフッ素系ゴムパッドと、機能膜付きガラス基板と対向する側のフッ素系ゴムパッドの表面全面にアルゴン(Ar)ガス中でオーステナイト系ステンレスであるSUS316ターゲットを用いてスパッタリング法によって形成されたSUS316薄膜からなる加工基準面33とを備えた触媒定盤31を使用して機能膜主表面のCARE加工を行った。ここで、触媒定盤の直径は100mmであり、フッ素系ゴムパッド上に形成されたSUS316薄膜の膜厚は100nmである。加工条件は、前記しているように実施例1と同じである。
洗浄液には、硫酸を用いた。硫酸による触媒であるSUS316の溶解レートは約500nm/hour以上であり、一方、機能膜表層部であるCrCONの溶解レートは無視できるものであって、触媒だけを溶解させ、CrCON層にはダメージを与えず洗浄することが可能となる。
【0096】
実施例1と同様に、CARE加工による加工前後の機能膜主表面の表面粗さを測定した。
加工前の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.152nmであった。
加工後の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.064nmと、CARE加工に比べ大幅に低減されるとともに、要求値の0.08nmを大幅に下回る良好なものであった。
また、実施例1と同様に、洗浄を伴ったCARE加工後の機能膜主表面の欠陥検査を行った。
加工後の主表面の検出個数は18個という良好なものであった。
また、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.072nm以下と良好であり、欠陥個数も25個以下と少なかった。
実施例2の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する機能膜付きガラス基板が安定して得られた。
【0097】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面に形成されている機能膜の主表面が高い平滑性を持つことにより、保護膜表面も平滑性を保っており(Rmsが0.14nm)、反射率は65%と高かった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
保護膜表面の欠陥検出個数は、SEVD換算で21.5nmサイズの欠陥(凸欠陥)が検出可能な感度で17618個であった。位相欠陥検査も合わせて行ったが、高い平滑性を持つため、検査時のバックグラウンドノイズが少なく、高感度な位相欠陥検査を行うことができた。
実施例2の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例2の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
また、前述のように、導電性を持つCrCON機能膜が多層膜と基体であるガラス基板の間に形成されているので、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが少なく、高い位置精度でパターン形成を行うことができた。
【0098】
実施例3.
この実施例では、機能膜を母体(下層)がタンタル窒化物(TaN)で、その表層部(上層)がタンタル酸化物(TaO)構造の二層膜とし、それ以外は、基体材料及びその前処理から反射型マスクの製造に至るまで実施例1と同様の方法で、機能膜付きガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。したがって、加工、洗浄条件は下記の通りである。
処理流体:純水
触媒:Cr
軸部71の回転数(ガラス基板の回転数):10.3回転/分
触媒定盤取付部72の回転数(触媒定盤31の回転数):10回転/分
加工圧力:100hPa
加工取り代:10nm
洗浄液:硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる水溶液
【0099】
実施例1と同様に、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て、主表面及び裏面が研磨された6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO
2−TiO
2ガラス基板である低熱膨張ガラス基板を準備し、これを機能膜付きガラス基板の基体とした。この段階での、ガラス基板主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
その後、この基体の主表面上に、タンタル(Ta)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N
2)ガスの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタル窒化物(TaN)膜を形成し、その後大気中アニールによってTaN膜表面を酸化させてTaN表層部に酸化層TaOを形成し、機能膜とした。膜厚はTaN部が42nmで、TaO部が11nmである。この機能膜には導電性があり、導電膜としてチャージアップ防止、静電破壊防止などの効果がある。
【0100】
その後、実施例1と同様の触媒(Cr)や処理条件によりCARE加工を行い、その後実施例1と同様に硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液にて洗浄を行った。
硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる洗浄液による触媒であるCrの溶解レートは約7000nm/hourであり、一方、機能膜表層部であるTaOの溶解レートは無視できるものであって、触媒に対するTaOのレート差により機能膜にはダメージを与えず洗浄することが可能となる。
【0101】
実施例1と同様に、CARE加工による加工前後の機能膜主表面の表面粗さを測定した。
加工前の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.25nmであった。
加工後の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.059nmと、CARE加工により大幅に低減されるとともに、要求値の0.08nmを大幅に下回る良好なものであった。
また、実施例1と同様に、洗浄を伴ったCARE加工後の機能膜主表面の欠陥検査を行った。
加工後の主表面の検出個数は8個という良好なものであった。
また、ガラス基板を20枚作製したところ、全数、表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.065nm以下と良好であり、欠陥個数も12個以下と少なかった。
実施例3の方法により、高平滑性で且つ低欠陥の主表面を有する機能膜付きガラス基板が安定して得られた。
【0102】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面に形成された機能膜の主表面が高い平滑性を持つことにより、保護膜表面も平滑性を保っており(Rmsが0.138nm)、反射率は65%と高かった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
保護膜表面の欠陥検出個数は、SEVD換算で21.5nmサイズの欠陥(凸欠陥)が検出可能な感度で11619個であった。位相欠陥検査も合わせて行ったが、高い平滑性を持つため、検査時のバックグラウンドノイズが少なく、高感度な位相欠陥検査を行うことができた。
実施例3の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の保護膜表面を有する多層反射膜付き基板が得られた。
また、実施例3の方法により、低欠陥、且つ高い平滑性の表面状態を維持したEUV露光用の反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られた。
また、前述のように、導電性を持つタンタルTaNとTaOの二層からなる機能膜が多層膜と基体であるガラス基板の間に形成されているので、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが少なく、高い位置精度でパターン形成を行うことができた。
【0103】
比較例.
この比較例では、機能膜を設けず、またCARE加工を実施しないこと以外は、実施例1と同様の方法で、ガラス基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。したがって、基板としては、6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のSiO
2−TiO
2ガラス基板である低熱膨張ガラス基板に対して、実施例1と同様の、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、超精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程を経て得られたものを用いた。そのガラス基板の主表面上に実施例1の方法で直接多層膜を形成して、多層反射膜付き基板を製造した。その後の反射型マスクブランク、及び反射型マスクの製造方法も実施例1と同様とした。尚、この比較例では、機能膜を設けていないことから基板に導電性がなく、マスクパターンエッチングなどの際に電荷が溜まりやすい、すなわちチャージアップしやすい状態になっている。
実施例1と同様に、ガラス基板の主表面として用いる上面の表面粗さを測定した。その結果、ガラス基板主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.14nmであった。
また、実施例1と同様の方法で、ガラス基板主表面上の欠陥検査を行った。その結果、欠陥の検出個数は697個であった。
比較例の方法では、要求値を満たす高い平滑性を持ったガラス基板ではなく、欠陥数も多いものであった。
【0104】
実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率を測定した。
ガラス基板上面の表面粗さが要求値を満たさない低いものであったため、保護膜表面の平滑性も低く(Rmsで0.155nm)、その影響で反射率も64.5%とわずかに低かった。
また、実施例1と同様に、得られた多層反射膜付き基板の保護膜表面の欠陥検査を行った。
比較例の方法では、欠陥に関しても要求値を満たす平滑性が得られなかったことから、検査時のバックグラウンドノイズも多く、検出個数は83791個と、位相欠陥検査を行うことができる欠陥数限界に近い個数となり、実施例1から3より欠陥が多いという問題があった。さらに、マスクパターンエッチングの時のチャージアップが多く、パターンの位置精度も実施例1から3より低いものであった。
【0105】
尚、上述した実施例では、触媒基準エッチングによる加工を行った後の洗浄として、湿式(ウェット)洗浄を例に挙げて説明したが、乾式(ドライ)洗浄を行っても同様の効果が得られる。例えば、実施例1、3において、触媒基準エッチングによる加工後の洗浄として、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸からなる水溶液による湿式(ウェット)洗浄の代わりに、塩素ガスと酸素ガスの混合ガスによる乾式(ドライ)洗浄を行うことができる。
また、上述した実施例では、機能膜付き反射型マスクブランク用基板の機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合について本発明を適用したが、機能膜付き位相シフトマスクブランク、バイナリーマスクブランク、及びナノインプリント用マスクブランクの機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合についても、本発明を適用できる。
また、上述した実施例では、機能膜付きマスクブランク用基板の機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合について本発明を適用したが、機能膜付き磁気記録媒体用基板の機能膜上の主表面に対して、触媒基準エッチングによる加工を施す場合にも、本発明を適用できる。