(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
白金ナノ粒子は、抗菌作用や抗ウイルス作用に優れ毒性が少ないことから、抗菌、抗ウイルスの分野において白金ナノ粒子を用いた発明が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の発明は、分散媒体が水系で、保護コロイド形成剤を実質含まない金属ナノコロイド液を用いて、噴霧法により担体に白金等の金属ナノコロイド粒子を担持させる方法である。また、特許文献2に記載の発明は、平均粒径が1〜10nmの白金粒子を含むコロイド分散液からなる抗菌処理液に被処理物を浸漬または塗布した後、乾燥して白金粒子を被処理物の表面に担持させてなる抗菌製品である。さらに、特許文献3および4に記載の発明は、水溶性高分子や界面活性剤で保護した白金ナノ粒子を担持した羽毛および布帛である。
【0004】
そして、これらの発明が対象とする担体は、特許文献1では多孔質化処理物(段落0026)、特許文献2の実施例(具体例)では綿(段落0013)、特許文献3および4ではそれぞれ羽毛および布帛等の親水性材料である。これらの事実が示すように、白金ナノ粒子分散液は水系であるため疎水性(撥水性)の担体に対し浸透性や濡れ性が低く、白金ナノ粒子を担体上に広範囲かつ均一に担持させることは難しかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は疎水性の担体に対しても、浸透性や濡れ性に優れ、白金ナノ粒子を担体上に広範囲かつ均一に担持させることができ、抗菌作用や抗ウイルス作用が高い白金ナノ粒子分散液等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記目的にかなう白金ナノ粒子分散液を検討したところ、下記の構成を有する白金ナノ粒子分散液は、前記目的にかなうことを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]スルホコハク酸ビスアルキルエステル塩
、塩化ベンゼトニウム、およびHLBが10〜
14.8かつn(ポリオキシエチレンの付加モル数)が6〜12の範囲にあるポリオキシ
エチレンラウリルエーテルからなる群より選ばれる1種以上を0.01〜1質量%と、白金ナノ粒子を0.01〜25mMとを少なくとも含む
疎水性フィルタ用の白金ナノ粒子分散液。
[2]
前記[1]に記載の白金ナノ粒子分散液を用いて
疎水性フィルタに白金ナノ粒子を担持させてなる、白金ナノ粒子担持フィルタ。
[3]
疎水性フィルタを
前記[1]に記載の白金ナノ粒子分散液に浸漬した後に乾燥するか、または、
疎水性フィルタに
前記[1]に記載の白金ナノ粒子分散液を噴霧する、白金ナノ粒子担持フィルタの製造方法。
[4]
前記[2]に記載の白金ナノ粒子担持フィルタを内蔵してなる空気清浄機。
【発明の効果】
【0008】
本発明の白金ナノ粒子分散液は、疎水性の繊維からなるフィルタに対しても、浸透性や濡れ性に優れ、白金ナノ粒子を繊維上に広範囲かつ均一に担持させることができる。また、本発明の白金ナノ粒子担持フィルタはウイルスや細菌の不活化効果が高く、該フィルタを内蔵した本発明の空気清浄機は、健康的な住環境を提供することができる
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、前記のとおり、特定の界面活性剤を含む白金ナノ粒子分散液等である。以下に、白金ナノ粒子分散液、白金ナノ粒子担持フィルタとその製造方法、および該フィルタを内蔵した空気清浄機に分けて説明する。
【0011】
1.白金ナノ粒子分散液
本発明の白金ナノ粒子分散液は、スルホコハク酸ビスアルキルエステル塩、アルキル硫酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、塩化ベンゼトニウム、およびHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)が10〜20の範囲にあるポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる1種以上の界面活性剤を0.01〜1質量%と、白金ナノ粒子を0.01〜25mMとを少なくとも含む分散液である。該分散液は、疎水性繊維を含むフィルタに用いた場合でも、ウイルス等の不活化効果が高い。
【0012】
前記界面活性剤は、好ましくはスルホコハク酸ビスアルキルエステル塩、アルキル硫酸塩、塩化ベンゼトニウム、およびHLBが10〜20の範囲にあるポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる1種以上であり、これらの中でも、より好ましくは、スルホコハク酸ビスアルキルエステル塩である。そして、前記スルホコハク酸ビスアルキルエステル塩は、さらに好ましくはスルホコハク酸ビス(2−エチルヘキシル)塩であり、前記アルキル硫酸塩は、より好ましくはラウリル硫酸塩である。
【0013】
また、前記界面活性剤の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等のアミン塩、および第4級アンモニウム塩等からなる群より選ばれる1種以上の塩である。
【0014】
また、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル内のポリオキシアルキレン基は、エチレンオキサイドの単独重合体、プロピレンオキサイドの単独重合体、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドのランダム共重合体、またはこれらのブロック共重合体である。
【0015】
なお、前記HLBは下記式により求めることができる。
【0016】
HLB=20×(アルキレンオキサイドの分子量)×n/界面活性剤の分子量
ただし、nは界面活性剤中のアルキレンオキサイドの付加モル数を表す。
【0017】
前記白金ナノ粒子分散液中の界面活性剤の含有率は、0.01〜1質量%である。該含有率がこの範囲にあれば、白金ナノ粒子分散液の浸透性および濡れ性が高く、1質量%を超えても浸透性等は飽和する傾向にある。前記含有率は、好ましくは0.02〜0.6質量%、より好ましくは0.05〜0.3質量%、さらに好ましくは0.07〜0.2質量%である。
【0018】
また、前記白金ナノ粒子分散液中の白金ナノ粒子の粒径は100nm以下であり、好適には10nm以下である。また、前記白金ナノ粒子の製造方法は、特に限定されず、原料となる白金イオンまたは白金錯体を還元剤または電気化学的方法により還元してナノ粒子化する還元法等の湿式法や、白金をそのまま、または担体に担持させて加熱分解する熱分解法、プラズマガス中に蒸発させて得る蒸発法等の物理気相成長法、レーザーで急速に蒸発させるレーザー蒸発法、気相中で化学反応を起こす化学気相成長法、および白金の塊をミル等で砕き、ナノメートルの大きさまで小さくする粉砕法等の乾式法が挙げられる。
【0019】
これらの方法にうち、乾式法を用いて製造された白金ナノ粒子は分散媒を加えて分散液にする。白金ナノ粒子の分散媒は、水、または水と有機溶媒の混合分散媒が挙げられる。該混合分散媒は、疎水性の担体に対し白金ナノ粒子分散液の浸透性や濡れ性を向上させる。また、白金ナノ粒子分散液は市販品を用いてもよい。
【0020】
前記白金ナノ粒子分散液中の白金ナノ粒子の濃度は0.01〜25mMである。該値が該範囲にあれば、菌やウイルスの不活化効果は十分であり、また、製品のコストを抑えることができる。なお、前記白金ナノ粒子の濃度は、好ましくは0.5〜15mM、より好ましくは1.0〜7.0mM、さらに好ましくは2.0〜5.0mMである。
【0021】
2.白金ナノ粒子担持フィルタとその製造方法
本発明の白金ナノ粒子担持フィルタは、前記白金ナノ粒子分散液を用いて白金ナノ粒子を担持させたフィルタである。フィルタの繊維の種類は、有機繊維、無機繊維、金属繊維のいずれでもよく、特に限定されないが、従来、担持が困難であった疎水性の担体にも担持させるという本発明の課題に照らせば、疎水性の繊維が好適であり、例えば、ポリプロピレンおよびポリエチレン等のポリオレフィンの繊維、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステルの繊維、およびナイロン繊維等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。また、HEPAフィルタはメッシュが細かく撥水性が高いため好適である。
【0022】
白金ナノ粒子担持フィルタの製造方法は、フィルタを前記白金ナノ粒子分散液に浸漬した後に乾燥するか、または、フィルタに前記白金ナノ粒子分散液を噴霧する方法が挙げられる。
【0023】
前記浸漬時間は、好ましくは10分〜6時間、より好ましくは20分〜3時間、さらに好ましくは30分〜1時間である。また、前記乾燥温度は、有機繊維を含むフィルタでは該繊維の分解温度以下であり、好ましくは軟化温度以下である。
【0024】
前記噴霧量は、フィルタ1cm
2当たり、好ましくは0.05〜20g、より好ましくは0.1〜10g、さらに好ましくは0.6〜6gである。白金ナノ粒子分散液を噴霧した後のフィルタの乾燥の要否や乾燥時間は噴霧量に依存するから、乾燥は必要に応じて行なうとよい。
【0025】
3.白金ナノ粒子担持フィルタを内蔵した空気清浄機
本発明の白金ナノ粒子担持フィルタを内蔵した空気清浄機の一例を
図3に示す。以下、
図3を用いて、本発明の空気清浄機について説明する。
(1)空気清浄機の主な構成
本発明の空気清浄機は、主に、空気清浄機本体(10)、脱臭フィルタ(20)、空気清浄機用濾材(30)、プレフィルタ(40)および前面パネル(50)からなる。
【0026】
前記空気清浄機本体(10)は、送風量を制御するための制御部(11)、操作パネル(12)、送風するための送風ファン(14)、浄化した空気を排気するための排気口(13)を含む。また、前記空気清浄機用濾材(30)には、ウイルスおよび細菌(以下「ウイルス等」という。)を除去するための白金ナノ粒子担持フィルタ(31)が装着され、プレフィルタ(40)には空気中の粗いダストを除去するための粗取り濾布(41)が装着され、吸気口(51)を有する前面パネル(50)により空気清浄機本体(10)の前面が閉じられている。
(2)空気清浄機による空気の浄化過程
ウイルス等に汚染された空気は、送風ファン(14)により吸気口(51)を通じて空気清浄機内に流入し、粗取り濾布(41)により空気中の粗いダストが除かれた後、白金ナノ粒子担持フィルタ(31)によりウイルス等が捕集されると共に、捕集されたウイルス等をフィルタに担持した白金ナノ粒子の抗ウイルス作用等によって不活化(死滅)させることにより空気が浄化され、この浄化された空気が排気口(13)を通じて住環境中に供給される。
【0027】
なお、
図3に掲載された空気清浄機は本発明の空気清浄機の一例を示すに過ぎず、本発明の空気清浄機はこれに限定されない。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)フィルタ
(i)ポリプロピレン繊維製フィルタ(品番:A40708N、住友スリーエム社製)
(ii)ガラス繊維製フィルタ(品番:S320−A、北越紀州製紙社製)
該ガラス繊維製フィルタはHEPAフィルタであり、この表面に水滴を垂らすと水滴は水玉状になることから、該フィルタは疎水性である。
(2)界面活性剤
表1に示す界面活性剤を使用した。
【0029】
【表1】
【0030】
(3)試薬
(i)ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(品番:165−02863、和光純薬工業社製)
(ii)クエン酸三ナトリウム二水和物(品番:191−01785、和光純薬工業社製)
(iii)L(+)−アスコルビン酸ナトリウム(品番:190−01255、和光純薬工業社製)
【0031】
(4)ウイルス、微生物
(i)φX174ファージ Esherichia coliphage Phi-X174(ATCC13706−B1)をインフルエンザ代替ウイルスとして使用した。
(ii)大腸菌 Esherichia coli(ATCC13706)
【0032】
2.白金ナノ粒子分散液の作製
蒸留水を用いて調製した、10mMのヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物の水溶液50mlと10mMのクエン酸三ナトリウム二水和物の水溶液50mlを混合して、白金酸とクエン酸の混合液を得た。
【0033】
次に、該混合液に、蒸留水を用いて調製した100mMのL(+)−アスコルビン酸ナトリウムの水溶液2.5mlを混合して1週間放置し、白金酸を還元して白金ナノ粒子を生成させた。
【0034】
さらに、該混合液に0.1質量%になるように表1に記載の界面活性剤を加えて、白金ナノ粒子分散液を作製した。また、対照例(Ctrl)として、界面活性剤を含まないこと以外は前記と同じ白金ナノ粒子分散液を作製した。
【0035】
3.白金ナノ粒子担持フィルタの作製
直径90mm、高さ15mmのディスポシャーレに入れた前記白金ナノ粒子分散液中に、縦50mm、横50mmのポリプロピレン繊維製フィルタおよびガラス繊維製フィルタを浸漬した。次に、該シャーレを30℃に調整した恒温槽内に45分間載置した後、フィルタをピンセットで引き揚げて、軽く振りながら20秒間水切りしてフィルタの質量を測定した。さらに、該フィルタを50℃の恒温槽内に3時間入れて乾燥させ白金ナノ粒子担持フィルタを作製し、該フィルタの質量を測定した。
【0036】
表2と
図1に、ポリプロピレン繊維製フィルタにおける、浸漬前後でのフィルタの質量の増加分(a)、および浸漬前と乾燥後でのフィルタの質量の増加分(b)を示す。また、表2と
図2に、ガラス繊維製フィルタにおける、前記と同じ質量の増加分を示す。
【0037】
なお、浸漬後のフィルタの質量測定のバラツキを把握するため、ポリプロピレン繊維性フィルタとラウリル硫酸ナトリウムを含む白金ナノ粒子分散液を用いて、前記分散液のフィルタへの浸漬試験を10回(n=10)繰り返した結果、前記フィルタの質量の増加分の平均は0.95g、その標準偏差は0.05であり、測定した質量のバラツキは小さかった。
【0038】
【表2】
【0039】
表2と
図1に示すように、疎水性のポリプロピレン製フィルタに対して、界面活性剤3および5〜9を含む白金ナノ粒子分散液がフィルタの質量の増加分が高く、浸透性に優れている。
【0040】
また、表2と
図2に示すように、疎水性のガラス繊維製フィルタに対して、界面活性剤1、3および5〜11を含む白金ナノ粒子分散液がフィルタの質量の増加分が高く、浸透性に優れている。
【0041】
さらに、以下に示すように、本発明の白金ナノ粒子分散液は、界面活性剤を含まない白金ナノ粒子分散液と比べ、白金ナノ粒子が均一に分散して担持しているために、ウイルスの不活化効果が高いことが分かる。
【0042】
4.ウイルスの不活化試験
前記の乾燥させた白金ナノ粒子担持フィルタと、φX174ファージを5.4×10
4PFU/ml(常用対数値は4.7)、および5.4×10
6PFU/ml(常用対数値は6.7)それぞれ含む混合液を2時間振盪して処理液を作製した。次に、該処理液を大腸菌C株を含む重層寒天上に滴下して、35±1℃で16〜24時間(プラークの発生が飽和するのに十分な時間)培養した後、培地上に発生したプラークを計測し、処理液1ml当たりのファージ数を求めた。表3にファージ数(PFU/ml)の常用対数値を示す。なお、表3中の「>3.7」の表記は、プラーク数が多過ぎて計測できないことを表す。
【0043】
【表3】
【0044】
処理したフィルタによるプラーク数が、未処理のフィルタ(未処理例)によるプラーク数より2(常用対数値)以上減少できれば、通常、ウイルスの不活化効果は有意と判定される。この判定基準に従えば、疎水性のポリプロピレン製繊維フィルタと高濃度(6.7)のファージを用いた場合、表3に示すように、ウイルスの不活化効果は、界面活性剤1〜3および6〜12を含む白金ナノ粒子分散液が高いことが分かる。
【0045】
これらの中でも界面活性剤1、3および6〜12を含む白金ナノ粒子分散液はプラーク数を2以下にできるから、ウイルスの不活化効果はより高い。さらに、これらの中でも、界面活性剤1、3、6〜9、11および12を含む白金ナノ粒子分散液はプラーク数を2未満にでき、ウイルスの不活化効果は更に高い。特に、界面活性剤3は、疎水性のガラス繊維製フィルタと高濃度のファージを用いた場合でも、プラーク数を2未満にできるため、フィルタの材質に依らずウイルスの不活化効果が高い。