(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297375
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】落石防止装置
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
E01F7/04
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-62370(P2014-62370)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-183474(P2015-183474A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】野崎 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山口 聖勝
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−077496(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0111310(US,A1)
【文献】
特開2003−239225(JP,A)
【文献】
特開平07−026527(JP,A)
【文献】
特許第3458134(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 3/00〜 8/02
E01F 1/00、13/00〜15/14
F16F 7/00〜 7/14
E02D 17/00〜 17/20
E02B 5/00〜 8/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
落石を捕捉する落石捕捉部と、
前記落石捕捉部を支持する支持部と、
前記落石捕捉部に作用する落石のエネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、を備える落石防止装置であって、
前記エネルギー吸収機構は、
前記支持部の延在線上から外れた位置に配置された複数の案内部と、
前記支持部に連結され、各案内部に当接するように配置された板材と、
を有し、
前記複数の案内部は、前記支持部の延在線上から交互に上下方向にずれて配置されていることを特徴とする落石防止装置。
【請求項2】
前記エネルギー吸収機構は、前記支持部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の落石防止装置。
【請求項3】
前記案内部は、芯材と、前記芯材の外側において当該芯材と同軸線上に回転自在に設けられたローラと、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の落石防止装置。
【請求項4】
前記板材は、前記ローラに面接触するように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の落石防止装置。
【請求項5】
前記エネルギー吸収機構は、前記案内部が設けられる筐体を有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の落石防止装置。
【請求項6】
前記エネルギー吸収機構は、前記板材の一端に設けられ、前記板材が前記落石捕捉部に向けて所定距離移動した際に、前記筐体に係止されて前記板材の移動を規制するストッパを有することを特徴とする請求項5に記載の落石防止装置。
【請求項7】
前記支持部は、前記落石捕捉部が取り付けられると共に、少なくとも一端が前記板材に連結される第1の支持部材と、
一端が固定され、他端が前記筐体に連結される第2の支持部材と、
を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の落石防止装置。
【請求項8】
前記第1の支持部材と前記第2の支持部材は、同一直線上に延在するように配置されていることを特徴とする請求項7に記載の落石防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
道路脇や山腹斜面等に設置され、路上への落石を防止する落石防止装置が知られている。落石防止装置の中には、落石のエネルギーを吸収して耐久性を向上させたものがある。
例えば、落石によって落石防止網を支えるロープに張力が加わった場合にロープが伸長し、この伸長に必要なエネルギーで落石のエネルギーを吸収するものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、可撓性を有する線材に落石捕捉材が設けられ、落石によって落石捕捉材を介して線材に張力が加わった場合に、線材を挟持する挟持板との間のすべり摩擦によって落石のエネルギーを吸収するものがある(例えば、特許文献2参照)。
また、格子状に配置されたワイヤーロープに緩衝器具を設け、緩衝器具に一定以上の張力が作用した場合に、ワイヤーロープが波形に変形しながら移動し、この変形及び移動に必要なエネルギーで落石のエネルギーを吸収するものがある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3458134号公報
【特許文献2】特許第4874925号公報
【特許文献3】特開2012−77496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のようなロープの変形やロープと挟持板との間のすべり摩擦で吸収できる落石のエネルギーは十分なものではないため、ロープや落石捕捉材を大きくすることによって剛性を高めることにより、耐久性を向上させていた。そのため、装置が重くなるほか、製造コストが増大するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、装置自体を大きくすることなく、落石のエネルギーを多く吸収して耐久性を向上することができる落石防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、落石を捕捉する落石捕捉部と、前記落石捕捉部を支持する支持部と、前記落石捕捉部に作用する落石のエネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、を備える落石防止装置であって、前記エネルギー吸収機構は、前記支持部の延在線上から外れた位置に配置された
複数の案内部と、前記支持部に連結され、各案内部に当接するように配置された板材と、を有
し、前記複数の案内部は、前記支持部の延在線上から交互に上下方向にずれて配置されていることを特徴としている。
【0007】
この発明の一態様として、前記エネルギー吸収機構は、前記支持部に設けられていることが好ましい。
【0008】
この発明の一態様として、前記案内部は、芯材と、前記芯材の外側において当該芯材と同軸線上に回転自在に設けられたローラと、を有することが好ましい。
【0009】
この発明の一態様として、前記板材は、前記ローラに面接触するように配置されていることが好ましい。
【0010】
この発明の一態様として、前記エネルギー吸収機構は、前記案内部が設けられる筐体を有することが好ましい。
【0011】
この発明の一態様として、前記エネルギー吸収機構は、前記板材の一端に設けられ、前記板材が前記落石捕捉部に向けて所定距離移動した際に、前記筐体に係止されて前記板材の移動を規制するストッパを有することが好ましい。
【0012】
この発明の一態様として、前記支持部は、前記落石捕捉部が取り付けられると共に、少なくとも一端が前記板材に連結される第1の支持部材と、一端が固定され、他端が前記筐体に連結される第2の支持部材と、を有することが好ましい。
【0013】
この発明の一態様として、前記第1の支持部材と前記第2の支持部材は、同一直線上に延在するように配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、支持部や落石捕捉部の部材を必要以上に大きくしなくても落石のエネルギーを多く吸収して落石防止装置の耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】地盤に取り付けられた落石防止装置を示す斜視図である。
【
図4】落石を捕捉した場合における、支持部に作用する張力と経過時間との関係を示すグラフである。
【
図5】落石を捕捉した場合における、支持部に作用する張力と支持部の変位量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
【0017】
<落石防止装置の構成>
図1は、地盤Gに取り付けられた落石防止装置100を示す斜視図である。
図1に示すように、落石防止装置100は、道路脇や山腹斜面等の地盤Gに設置され、路上への落石を防止するものである。
落石防止装置100は、落石捕捉部1と、支持部2と、エネルギー吸収機構3とを備えている。
【0018】
(落石捕捉部)
落石捕捉部1は、落石が発生した際にその落石を捕捉するものである。落石捕捉部1は、例えば、鋼製のワイヤーロープを格子状に編んで網体を設置して形成したものである。落石捕捉部1は、概矩形状に形成されており、落石捕捉部1には複数の支持部2が張り巡らされている。落石捕捉部1には、上部に落石を落石捕捉部1に導入するための支柱が設けられている(図示せず)。
【0019】
(支持部)
支持部2は、落石捕捉部1を支持するものである。支持部2は、例えば、鋼製のワイヤーロープで形成されている。支持部2は、その一端部がアンカー部材Aによって地盤Gに固定されている。
支持部2は、第1の支持部材21と、第2の支持部材22とを有しており、第2の支持部材22の一端は、アンカー部材Aによって地盤Gに固定されている。なお、第2の支持部材22の一端は、地盤Gに固定される場合に限らず、現場に打設されたコンクリート、地盤に設置された鋼材(例えば、H形鋼、角形鋼管、丸形鋼管など)に固定されていても良い。
第1の支持部材21の一端は落石捕捉部1に取り付けられ、他端はエネルギー吸収機構3に連結されており、第2の支持部材22の他端はエネルギー吸収機構3に連結されている。すなわち、第1の支持部材21と第2の支持部材22との間にエネルギー吸収機構3が設けられている。
【0020】
(エネルギー吸収機構)
図2は、エネルギー吸収機構3の断面図であり、
図3は、エネルギー吸収機構3の側面図である。
エネルギー吸収機構3は、落石捕捉部1に作用する落石のエネルギーを吸収するものである。エネルギー吸収機構3は、第1の支持部材21と第2の支持部材22に連結されており、落石捕捉部1に作用する落石のエネルギーによって支持部2にかかる張力を低減する。
【0021】
エネルギー吸収機構3は、案内部4と、板材5と、筐体6と、ストッパ7とを有している。
案内部4は、筐体6内に設けられている。
図3に示すように、筐体6は、側面視略コ字状に形成された溝形鋼61,61の溝側同士を向かい合わせて結合することにより、矩形の筒状に構成されている。筐体6は、双方の溝形鋼61を貫通するように一方の溝形鋼61からボルト41を差込み、他方の溝形鋼61から突出したボルト41にナット42を螺合させることで組み立てられる。
筐体6内において、ボルト41は筐体6内に収容される円筒状のローラ43に挿通されており、ローラ43は、ボルト41の外側においてボルト41と同軸線上に回転自在に設けられている。すなわち、ボルト41は芯材として機能し、ボルト41とローラ43とで板材5を案内する案内部4を構成している。
図2に示すように、ボルト41は、筐体6内の高さ方向中央から所定距離外れた位置において溝形鋼61に挿通されている。より具体的には、案内部4は、筐体6内において複数設けられており、各支持部材21,22の延在線上から外れた位置に配置されている。案内部4は、筐体6内において、各支持部材21,22の延在線に対してジグザグに配置されている。すなわち、
図2において、案内部4は、各支持部材21,22の延在線上から交互に上下方向にずれるように配置されている。案内部4の1つは、筐体6の高さ方向のほぼ中央に設けられており、この案内部4は、第2の支持部材22に連結されている。これによって、筐体6と第2の支持部材22とが連結されている。
【0022】
板材5は、例えば、鋼製の平板材から形成されており、1つの案内部4に対して板材5のいずれかの面が当接するように筐体6内に配置されている。すなわち、板材5は、ローラ43の表面に面接触している状態となっている。板材5は、第1の支持部材21に連結されており、第1の支持部材21に大きな張力が作用することによって第1の支持部材21に引っ張られ、その引張力によって移動するように形成されている。
板材5は、第1の支持部材21の一端に連結金具(シャックル等)23を介して連結されている。ここで、板材5は、筐体6の高さ方向のほぼ中央から筐体6の外部に引き出されており、この位置で第1の支持部材21に連結されている。よって、第1の支持部材21と第2の支持部材22は、同一直線上に延在するように配置される。
板材5は、第1の支持部材21の一端に連結された一端から他端に向かう途中で案内部4に沿って配置されており、その結果、板材5は、複数回にわたって屈曲された状態となっている。
【0023】
板材5の他端には、ストッパ7が設けられている。ストッパ7は、板材5を厚さ方向に貫通するボルト71と、このボルト71とで板材5を挟んで締結するナット72とを有している。板材5の他端にこのようなボルト71及びナット72を設けることにより、この部分は板材5の厚さよりもかなり大きくなるので、板材5が落石捕捉部1に向けて所定距離移動した際に、筐体6と案内部4との間で係止されて板材5のそれ以上の移動を規制するストッパ7として機能する。
なお、案内部4の数量、配置や板材の板厚を変更することで、落石捕捉部1に作用する落石のエネルギーを吸収する量、第1の支持部材21に作用する張力の低減量、板材5の移動量を調整することができる。
【0024】
<落石防止装置のエネルギー吸収効果>
図4は、落石を捕捉した場合における、支持部2に作用する張力と経過時間との関係を示すグラフであり、
図5は、落石を捕捉した場合における、支持部2に作用する張力と支持部2の変位量との関係を示すグラフである。
図4に示すように、エネルギー吸収機構3を備えていない落石防止装置においては、落石捕捉直後から時間の経過と共に支持部2に作用する張力が増加していき、最大でPmaxの張力が作用する。この時点で、支持部2やアンカー部材Aが破損する恐れがあった。
また、
図5に示すように、支持部2の変位について見ると、落石捕捉直後から時間の経過と共に張力がPmaxになるまで支持部2は変位し続け、張力がPmaxに達した時点、すなわち、変位がδ2となった時点で支持部2又はアンカー部材Aが破損する恐れがあった。
【0025】
これに対して、エネルギー吸収機構3を備えた落石防止装置100においては、落石捕捉直後から時間の経過と共に支持部2に作用する張力が増加していくが、ある張力Poに達すると板材5の変形及び移動に張力が使われるので、支持部2に作用する張力はPoから上昇することはない。従って、張力差Pc=Pmax−Poの分だけピークカットを図ることができる。
図4において、張力Poが一定に維持されている時間t1が板材5の移動した時間となる。
支持部2の変位についても、張力がPoに達するまで変位し、そのときの変位がδ1とすると、それ以降はストッパ7が筐体6に係止されるときまで、すなわち、変位がδ3となるまで板材5は移動する。従って、支持部2の移動量Lwは、Lw=δ3−δ1となる。
【0026】
なお、エネルギー吸収機構3を備えていない落石防止装置のエネルギー吸収量E1は、
E1=1/2×Pmax×δ2
となり、
エネルギー吸収機構3を備えた落石防止装置100のエネルギー吸収量E2は、
E2=1/2×Po×δ1+Po×(δ3−δ1)
=1/2×Po×δ1+Po×Lw
となる。
【0027】
以上のように、上記の落石防止装置100によれば、落石が発生して落石捕捉部1に衝突すると、落石が有する運動エネルギーが落石捕捉部1に作用して落石捕捉部1を突き破ろうとする。これに伴い、落石捕捉部1を支持する第1の支持部材21は、落石捕捉部1に引っ張られ、張力が作用し、第1の支持部材21に連結されている板材5も引っ張られる。ここで、板材5は、案内部4によってガイドされているため、案内部4に沿ってジグザグに移動しようとして、板材5が変形し、移動する。この変形及び移動に張力が用いられるため、第1の支持部材21に作用する張力は軽減され、その結果、支持部2の破断を防止することができる。
よって、従来のように、落石防止装置の各構成を大きくして剛性を高めなくとも、落石のエネルギーを多く吸収して落石防止装置100の耐久性を向上することができる。
また、案内部4はローラ43を有しているので、板材5の引っ張りをスムーズにすることができる。
また、板材5は、ローラ43に面接触するように配置されているので、両者の間に発生する摩擦力が増えてエネルギー吸収効果を高めることができる。
また、ストッパ7を有しているので、板材5が筐体6から逸脱して、第1の支持部材21とエネルギー吸収機構3とが切り離されることがないので、大きな落石によって第1の支持部材21に大きな張力が作用しても落石が落石捕捉部1から飛び出すことはない。
また、第1の支持部材21と第2の支持部材22とが同一直線上に延在しているので、落石によるエネルギー吸収機構3の回転を極力抑えることができる。
また、板材5の材質、板厚、幅や、案内部4の位置、数量を変えることで、支持部2に作用する張力を調整することができる。
【0028】
<その他>
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、本発明の範囲を超えない範囲で適宜変更が可能である。例えば、支持部は、2つに分ける必要はなく、エネルギー吸収機構の筐体の一部をアンカー部材によって地盤などに固定してもよい。また、エネルギー吸収機構は、すべての支持部に設ける必要はなく、支持部に大きな張力が作用する箇所のみに設けるとしても問題はない。また、案内部は、板材を屈曲させるように案内するものであれば、任意に配置や数量を変更可能である。また、ストッパについても、単に板材の端部を折り曲げて板材の板厚よりも十分に大きな端部とすれば問題ない。
【符号の説明】
【0029】
1 落石捕捉部
2 支持部
3 エネルギー吸収機構
4 案内部
5 板材
6 筐体
7 ストッパ
21 第1の支持部材
22 第2の支持部材
41 ボルト(芯材)
43 ローラ
71 ボルト
72 ナット
100 落石防止装置
G 地盤
A アンカー部材