特許第6297383号(P6297383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297383
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】アーク溶接作業短絡放電体験装置
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20180312BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   G09B9/00 Z
   B23K31/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-66251(P2014-66251)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-191017(P2015-191017A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄住金テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】大森 靖一
(72)【発明者】
【氏名】宮内 守
【審査官】 比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−104074(JP,A)
【文献】 米国特許第04689021(US,A)
【文献】 特開2007−213308(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3139596(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00− 9/56
G09B17/00−19/26
B23K31/00−31/02
B23K31/10−33/00
B23K37/00−37/08
F16P 1/00− 7/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際の溶接対象物を模して形成された溶接構造物と、溶接作業用の溶接ホルダと、前記溶接構造物の溶接部に臨む位置にてスパーク放電を発生させるための放電手段と、前記放電手段をON・OFFするためのスイッチ機構とを備え
前記スイッチ機構として、前記溶接部に対する前記溶接ホルダの接近・離隔に伴って前記放電手段をON・OFFする近接スイッチ機構を設けたことを特徴とするアーク溶接作業短絡放電体験装置。
【請求項2】
前記近接スイッチ機構として、前記溶接ホルダに付設された磁石と、前記溶接部近傍に配置され前記磁石の接近・離隔に伴ってON・OFF信号を発信するマグネットセンサとを設けた請求項記載のアーク溶接作業短絡放電体験装置。
【請求項3】
前記放電手段として、スタンガンを用いた請求項1または2記載のアーク溶接作業短絡放電体験装置。
【請求項4】
前記溶接構造物として、切欠き状の溶接部を有する管状部材を用いた請求項1〜のいずれかに記載のアーク溶接作業短絡放電体験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接作業員に対する安全教育の講習会などにおいて、アーク溶接作業中に発生する放電事故を疑似的に体験することのできるアーク溶接作業短絡放電体験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接は、金属材料(母材)と溶接棒との間にアークを発生させる溶接法であり、従来から、鉄系材料の接合手段として広く利用されている溶接法である(例えば、特許文献1〜3参照。)。アーク溶接においては、溶接棒を取り付けた溶接ホルダを使用し、母材と溶接棒の両方を溶かしながら溶接が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−46396号公報
【特許文献2】特開昭63−188474号公報
【特許文献3】特開平10−166146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アーク溶接作業において、溶接棒を把持する溶接ホルダの絶縁被覆の一部が欠損した状態で使用すると、母材と溶接ホルダとの間で「短絡アーク」が発生して危険であるため、絶縁被覆が欠損した状態にある溶接ホルダを使用してアーク溶接を行うことは法律的にも禁止されている(安全衛生規則329条)。
【0005】
そこで、アーク溶接作業中の事故や災害を未然に防止する観点から、アーク溶接作業に従事する作業者に対しては様々な安全衛生の講習会が行われている。このような講習会においては、絶縁被覆の欠損などの絶縁不良に起因する「短絡アーク」の危険性及び事故防止についても教育が行われているが、言葉による説明だけでは十分な教育効果が得られない面がある。
【0006】
しかしながら、安全衛生の講習会の現場において、「短絡アーク」の発生を安全に再現することは容易ではなく、また、講習会などで「短絡アーク」を発生させた場合、同時に強烈な光線やヒュームも発生するので、作業者は保護メガネや防塵マスクを着用して講習を受けなければならず、安全衛生講習会において「短絡アーク」の危険性を安全に体験学習することは極めて困難である。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、アーク溶接作業における短絡アーク発生の危険性を安全に体験学習し、その危険性に対する予知能力を確実に習得することができるアーク溶接作業短絡放電体験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアーク溶接作業短絡放電体験装置は、実際の溶接対象物を模して形成された溶接構造物と、溶接作業用の溶接ホルダと、前記溶接構造物の溶接部に臨む位置にてスパーク放電を発生させるための放電手段と、前記放電手段をON・OFFするためのスイッチ機構とを備え
前記スイッチ機構として、前記溶接部に対する前記溶接ホルダの接近・離隔に伴って前記放電手段をON・OFFする近接スイッチ機構を設けたことを特徴とする。
【0009】
このような構成とすれば、アーク溶接作業の講習会などにおいて、実際の溶接個所を模して形成された溶接構造物の溶接部に溶接ホルダを接近させたときにスイッチ機構をONして溶接部若しくはその近傍にスパーク放電を発生させ、講習者に見学させることができるので、スパーク放電に伴って発生する音と光を感知した講習者はアーク溶接作業における短絡アーク発生の危険性を体験学習することができる。
【0010】
スパーク放電に伴う光はアーク放電の光ほど強烈ではなく、ヒュームなども発生しないので、講習者は保護メガネや防塵マスクなどを着用することなく、安全に体験学習することができる。また、前記スパーク放電に伴う音と光は非日常的な現象であるため、これを見学した講習者は強く印象に残ることとなり、その危険性に対する予知能力を確実に習得することができる。なお、前記放電手段は、溶接部のほかに、例えば、溶接機の給電経路の一部を形成するアースクランプの近傍に設けることもできる。
【0011】
前記スイッチ機構については、使用者が手動操作によってON・OFFする方式、あるいは、後述するように、使用者が所定の動作をしたときにON・OFFする方式などを採用することができる。
【0012】
ここで、前記アーク溶接作業短絡放電体験装置においては、前記スイッチ機構として、前記溶接部に対する前記溶接ホルダの接近・離隔に伴って前記放電手段をON・OFFする近接スイッチ機構を設けている。
【0013】
この場合、前記近接スイッチ機構として、前記溶接ホルダに付設された磁石と、前記溶接部近傍に配置され前記磁石の接近・離隔に伴ってON・OFF信号を発信するマグネットセンサとを設けることができる。
【0014】
一方、前記放電手段として、スタンガンを用いることができる。
【0015】
また、前記溶接構造物として、切欠き状の溶接部を有する管状部材を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、アーク溶接作業における「短絡アーク発生」の危険性を安全に体験学習し、その危険性に対する予知能力を確実に習得することができるアーク溶接作業短絡放電体験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態であるアーク溶接作業短絡放電体験装置を示す一部省略平面図である。
図2図1中の矢線A方向から見たアーク溶接作業短絡放電体験装置を示す一部省略正面図である。
図3図1中の矢線Bで示す領域の拡大図である。
図4図3中のC−C線における一部省略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1図4に基づいて、本発明の実施形態であるアーク溶接作業短絡放電体験装置100について説明する。図1図4に示すように、アーク溶接作業短絡放電体験装置100は、実際の溶接対象物を模して形成された溶接構造物10と、溶接作業用の溶接ホルダ20と、溶接構造物10の溶接部11に臨む位置でスパーク放電を発生させるための放電手段であるスタンガン30と、スタンガン30をON・OFFするためのスイッチ機構とを備えている。
【0019】
前記スイッチ機構は、溶接部11に対して溶接ホルダ20を接近・離隔させることによってスタンガン30をON・OFFする近接スイッチ機構であり、溶接ホルダ20に付設された磁石41と、溶接部11の近傍に配置され磁石41の接近・離隔に伴ってON・OFF信号を発信するマグネットセンサ42と、マグネットセンサ42からの信号によりスタンガンをON・OFFする制御装置40とを備えている。
【0020】
図1図2に示すように、溶接構造物10は、切欠き状の溶接部11を有する円管状部材12であり、正面視形状が門型をなすようにフロアパネル13上に立設され、平面視形状が鈍角の略V字状をなすように湾曲部12aが設けられ、この湾曲部12a近傍に溶接部11が設けられている。正面に向かって開いた略扇形のフロアパネル13の背面側には正面に向かって開いた衝立状のパーテーション14が配置され、パーテーション14のコーナ部14aの正面側に目隠しパネル15が立設されている
【0021】
パーテーション14のコーナ部14aと目隠しパネル15とによって包囲されたスペース16内に設けられた棚部17上に制御装置40が載置されている。目隠しパネル15はパーテーション14に対して着脱可能であるため、必要に応じて、スペース16の正面側を開閉することができる。
【0022】
フロアパネル13の正面側には、配電盤1、溶接機2、給電ケーブル3,4などが実際の溶接作業現場を模して配置されている。給電ケーブル3の先端には溶接ホルダ20が取り付けられ、溶接ホルダ20には溶接棒21がセットされている。給電ケーブル4の先端にはアースクランプ5が取り付けられている。アースクランプ5は、溶接構造物10を構成する円管状部材12とフロアパネル13との境界付近に配置されている。なお、配電盤1、溶接機2、給電ケーブル3,4、溶接ホルダ20及びアースクランプ5などは、恰も実際の溶接作業現場であるような雰囲気を醸し出すために設けられたものであり、実際に作動(機能)する必要はない。
【0023】
図3図4に示すように、円管状部材12内の溶接部11の下方にスタンガン30が配置され、スタンガン30の近傍にマグネットセンサ42及びスタンガン30を作動させるための電池32が配置されている。スタンガン30は、電池32の電圧を昇圧する高周波発生部33、高周波発生部33で発生した電流をスパーク放電させる一対の電極34a,34bなどを備えている。スタンガン30及びマグネットセンサ42はそれぞれケーブル30a,42aにより制御装置40と電気的に接続されている。
【0024】
また、図4に示すように、円管状部材12の溶接部11の下面側領域には、円管状部材12の周面と同一の外面形状をなす開閉扉19a付きの開口部19bが設けられている。ヒンジ部19cを中心に開閉扉19aを回動させることにより、開口部19bを開閉することができる。また、図3図4に示すように、円管状部材12の溶接部11を囲む領域には、非導電材料(例えば、塩化ビニル材など)で形成された絶縁部19dが設けられている。絶縁部19dは、外観上、円管状部材12と一体をなすように形成されている。
【0025】
なお、図4に示すように、マグネットセンサ42は、磁石41に対する感知不良を回避するため、絶縁部19dの外周面に極力接近させた状態で配置されている。本実施形態では、絶縁部19dの一部をくりぬいてマグネットセンサ42を取り付け、隙間にパテを充填した後、周辺部材と同色で塗装しているが、これに限定するものではない。
【0026】
さらに、図2に示すように、円管状部材12の左側の下端部には溶接部11と同様の切欠き状の開口部18が設けられ、円管状部材12内の開口部18に臨む位置にスタンガン31が配置されている。スタンガン31もケーブル31aにより制御装置40と電気的に接続されている。
【0027】
ここで、アーク溶接作業短絡放電体験装置100の使い方及び作用効果などについて説明する。アーク溶接作業短絡放電体験装置100は、溶接棒21を把持する溶接ホルダ20の絶縁被覆22の一部が欠損した状態で使用すると、母材(溶接部11)と溶接ホルダ20との間で「短絡アーク」が発生して危険であること、及び、アースクランプ5と母材とが導通不良であるとその近傍に「短絡アーク」が発生して危険であることを体験学習するための装置である。
【0028】
アーク溶接作業の講習会などにおいて、アーク溶接作業短絡放電体験装置100を図1に示すようにセットした後、図4に示すように、絶縁被覆22の一部が欠損した状態にある溶接ホルダ20を溶接部11に接近させると、溶接ホルダ20に付設された磁石41の磁力をマグネットセンサ42が検知し、その信号が制御装置40(図1参照)へ送信される。検知信号を受信した制御装置40はスタンガン30へON信号を送信し、これによってスタンガン30が自動的に作動し、溶接部11に臨む位置にある電極34a,34b間に「バリバリ」、「バチバチ」という音と光を伴うスパーク放電が発生する。
【0029】
このように、実際の溶接個所を模して形成された溶接構造物10の溶接部11に、絶縁被覆22が一部欠損した溶接ホルダ20を接近させると、溶接部11近傍の電極34a,34b間に自動的にスパーク放電が発生し、講習者に見学させることができる。従って、スパーク放電に伴って発生する音と光を感知した講習者は、アーク溶接作業における短絡アーク発生の危険性を体験学習することができる。
【0030】
電極34a,34b間に発生するスパーク放電に伴う光は、実際のアーク放電の光ほど強烈ではなく、ヒュームなども発生しないので、講習者は保護メガネや防塵マスクなどを着用することなく、安全に体験学習することができる。また、前記スパーク放電に伴って発生する「バリバリ」、「バチバチ」という音と光は非日常的な現象であるため、これを見学した講習者は強く印象に残ることとなり、その危険性に対する予知能力を確実に習得することができる。
【0031】
一方、溶接ホルダ20を溶接部11から離隔させるとマグネットセンサ42が検知し、その信号が制御装置40(図1参照)へ送信され、制御装置40はスタンガン30へOFF信号を送信し、これによってスタンガン30が自動停止し、スパーク放電が消失する。
【0032】
さらに、アーク溶接作業短絡放電体験装置100は、図1図2に示すように、溶接構造物10の溶接部11に溶接ホルダ20を接近させると、アースクランプ5近傍の円管状部材12内に配置されたスタンガン31が作動し、アースクランプ5近傍の開口部18に臨む位置に設けられた一対の電極(図示せず)の間にスパーク放電が発生する機能も有する。従って、スタンガン31のスパーク放電に伴って発生する音と光を感知した講習者は、アースクランプ5と母材との導通不良に起因するアーク溶接作業中の短絡アーク発生の危険性も体験学習することができる。
【0033】
なお、図1図4に基づいて説明したアーク溶接作業短絡放電体験装置100は本発明の一例を示すものであり、本発明のアーク溶接作業短絡電体験装置は前述したアーク溶接作業短絡放電体験装置100に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアーク溶接作業短絡放電体験装置は、各種機械金属産業その他の製造業の分野などにおいてアーク溶接作業を行う従業員などが受講するアーク溶接講習会などにおいて広く利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 配電盤
2 溶接機
3,4 給電ケーブル
5 アースクランプ
10 溶接構造物
11 溶接部
12 円管状部材
12a 湾曲部
13 フロアパネル
14 パーテーション
14a コーナ部
15 目隠しパネル
16 スペース
17 棚部
18,19b 開口部
19a 開閉扉
19c ヒンジ部
19d 絶縁部
20 溶接ホルダ
21 溶接棒
22 絶縁被覆
30,31 スタンガン
30a,31a,42a ケーブル
32 電池
33 高周波発生部
34a,34b 電極
40 制御装置
41 磁石
42 マグネットセンサ
100 アーク溶接作業短絡放電体験装置
図1
図2
図3
図4