(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297404
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】スポンジチタンの製造方法およびこれを用いたチタンインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/12 20060101AFI20180312BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20180312BHJP
C22B 9/16 20060101ALI20180312BHJP
C25C 3/04 20060101ALI20180312BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C22B34/12 101
C22B5/04
C22B9/16
C25C3/04
C25C7/06 302
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-100417(P2014-100417)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-218337(P2015-218337A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 一彦
(72)【発明者】
【氏名】深澤 英一
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−031551(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/080272(WO,A1)
【文献】
実開平02−010437(JP,U)
【文献】
特公昭49−030350(JP,B1)
【文献】
野田敏男,スポンジチタンの工業生産技術の開発と余話,日本金属学会会報,1991年,Vol.30, No.2,pp.150-160
【文献】
伊藤喜昌,チタン製造技術の系統化,国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第13集,独立行政法人 国立科学博物館,2009年 5月29日,pp.211-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/00−34/12
C22B 5/00− 5/04
C22B 9/00− 9/16
C25C 3/00− 3/04
C25C 7/00− 7/06
J−STAGE
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四塩化チタンのマグネシウム還元により、スポンジチタンを製造する方法において、次の工程を含むことを特徴とするスポンジチタンの製造方法。
工程A:チタン鉱石を、内面に流動塩化炉で生成された金属塩化物を含む保護層が形成された流動塩化炉で塩素化反応により四塩化チタンを製造する工程
工程B:工程Aで得られた四塩化チタンを金属マグネシウムで還元した後、真空分離によりスポンジチタン塊と塩化マグネシウムとを分離、製造する工程
工程C:工程Bで分離された塩化マグネシウムを溶融塩電解して、塩素ガスと金属マグネシウムを製造する工程
工程D:工程Bで製造されたスポンジチタン塊を破砕する工程
【請求項2】
工程Bの金属マグネシウムが、工程Cで製造された金属マグネシウムに、工程Bの真空分離工程で回収された金属マグネシウムおよび塩化マグネシウムを混合したものである請求項1に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項3】
工程Cの溶融塩電解において、生成する金属マグネシウムを電解槽から抜き出した後、直ちに、塩化マグネシウムを電解槽に補充することからなる請求項1に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項4】
工程Dのスポンジチタン塊の破砕が、プレス式切断機でスポンジチタン小塊に切断することである請求項1に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項5】
スポンジチタン小塊が、300mmよりも大きいものである請求項4に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項6】
300mmよりも大きいスポンジチタン小塊を電子ビーム溶解用原料として直接使用する請求項4又は5に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項7】
前記請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法で製造された300mmよりも大きいスポンジチタン小塊を、電子ビーム溶解炉にて直接、溶解することを特徴とするチタンインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロール法によるスポンジチタンの製造方法およびこれを用いたチタンインゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタンは、航空機向けのみならず、海水淡水化設備、食品産業、自動車、スポーツあるいは医療の分野にも広く利用されるようになってきている。
金属チタンの原料となるスポンジチタンは、現在、主にクロール法により製造されているが、このような状況において、スポンジチタンの生産効率を高める様々な工夫が積み重ねられてきている(特許文献1〜5参照)。
しかしながら、種々の取り組みが行われてきているものの、スポンジチタンの製造工程に係る、各工程の中では、未だ改善すべき課題が残されている。
【0003】
スポンジチタンの製造工程においては、チタン鉱石を塩素化して四塩化チタンを製造する工程、該四塩化チタンをマグネシウムで還元して、スポンジチタンを製造する工程、更には、前記スポンジチタンを破砕整粒して、製品スポンジチタンを製造する工程、および四塩化チタンのマグネシウム還元で副生された塩化マグネシウムを溶融塩電解して金属マグネシウムと塩素ガスを副生する工程を含んでいる(非特許文献1参照)。
ところで、四塩化チタン製造工程においては、チタン鉱石とコークスを流動塩化炉内で塩素化して製造されているが、流動塩化炉内では、チタン鉱石とコークスを含む原料層が、塩素ガスにより流動化されており、このため、流動塩化炉の内面は、高温下で激しい摩耗環境に曝されている。
このような高温下での摩耗環境に曝されている流動塩化炉の内面は、耐火物で構成されているのが一般的であり、流動塩化炉の使用を継続していく中で、一定期間の操業後に耐火物は寿命を迎え、流動塩化炉の整備に入ることになる。
【0004】
流動塩化炉は、例えば、特許文献1に開示されているように、筒状容器の内壁には耐火物による施工がなされ、その底部に塩素ガスを分散させるための分散盤が配置され、原料であるチタン鉱石とコークスが、塩化炉の側部に設けられた原料供給口から供給され、分散盤の直上に流動層(原料層)を形成する構造から成っている。ここにおいて、鉱石やコークスの流動化により、その内部に施工されている耐火物が摩耗、損傷し、この耐火物を新規なものと交換する必要が生じるが、これは長期に亘る施工となるため、時間と費用を有することなり、耐火物の摩耗、損傷をできるだけ少なくする方法が求められていた。
【0005】
また、四塩化チタンは金属マグネシウムで還元されてスポンジチタン塊とされ、該スポンジチタン塊は副生される塩化マグネシウムや未反応の金属マグネシウムが分離されるが、この分離工程についてコスト的に有利な方法が見つかっていなかった。
更に、四塩化チタンをマグネシウムで還元して生成したスポンジチタン塊を破砕・整粒して顆粒状のスポンジチタンにするが、その際に使用される設備や方法が、必ずしも最適化されているとはいい難く、改良の余地が残されていた。
一方、四塩化チタンの還元に用いられ、塩化マグネシウムとなったマグネシウムは、元の金属マグネシウムに戻されて再使用されるが、このマグネシウムの再生工程にも改善の余地が残されていた。
このようにクロール法によるスポンジチタンの製造方法は、成熟期に入っているものの、現実には改善すべき課題が多く残されており、これらの解決手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2005/080272号
【特許文献2】特開2001‐348629号公報
【特許文献3】特開2002‐3960号公報
【特許文献4】特開2001‐355089号公報
【特許文献5】特開2010‐132990号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of MMIJ Vol. 123, p693 - 697 (2007) 「東邦チタニウム(株)における金属チタンの製造」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するもので、クロール法によるスポンジチタンの製造方法において、品質の優れたスポンジチタンを効率がよく、しかも製造容器の寿命を延長可能にして経済性に優れたスポンジチタン及びこれを用いたチタンインゴットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討を進めたところ、スポンジチタン製造に供される四塩化チタン製造工程、当該四塩化チタンを金属マグネシウムで還元してスポンジチタンを製造する工程、更には、前記スポンジチタンを、製品スポンジチタンにまで破砕・整粒する工程、また、該スポンジチタンの製造工程において副生した塩化マグネシウムを溶融塩電解して、金属マグネシウムと塩素ガスを回収する、それぞれの工程において、縷々操業上の工夫を行うことにより、前記課題を効果的に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明に係るスポンジチタンの製造方法は、四塩化チタンのマグネシウム還元により、スポンジチタンを製造する方法において、以下の工程を含むことを特徴とするものである。
工程A:チタン鉱石を流動塩化炉で塩素化反応により四塩化チタンを製造する工程
工程B:工程Aで製造された四塩化チタンを金属マグネシウムで還元した後、真空分離によりスポンジチタン塊と塩化マグネシウムとを分離、製造する工程
工程C:工程Bで分離された塩化マグネシウムを溶融塩電解して、塩素ガスと金属マグネシウムを製造する工程
工程D:工程Bで製造されたスポンジチタン塊を破砕する工程
【0011】
本発明は、上記工程Aにおいて使用する流動塩化炉の内壁面に、該流動塩化炉で生成した金属塩化物を含む保護層を形成させることを好ましい態様とする。
本発明は、上記工程Bの金属マグネシウムは、工程Cで製造された金属マグネシウムに、上記工程Bの真空分離により回収された金属マグネシウムおよび塩化マグネシウムを混合して用いることを好ましい態様とする。
本発明は、上記工程Cの溶融塩電解において、生成する金属マグネシウムを電解槽から抜出した後、直ちに、塩化マグネシウムを補充することを好ましい態様とする。
【0012】
本発明は、上記工程Dのスポンジチタン塊の破砕が、プレス切断機でスポンジチタン小塊とすることを好ましい態様とする。
本発明は、上記工程Dで得られるスポンジチタン小塊が、300mmよりも大きいことを好ましい態様とする。
本発明は、上記工程Dで得られる300mmよりも大きいスポンジチタン小塊を電子ビーム溶解用原料として直接使用することを好ましい態様とする。
更に、本発明は、上記方法で製造されたスポンジチタンを直接電子ビーム溶解で溶解するチタンインゴットの製造方法に係るものである。
なお、本発明において、300mmよりも大きいスポンジチタン小塊とは、最も長い辺の長さが300mmよりも大きいスポンジチタン小塊を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、各製造工程の原単位を効果的に改善することができるとともに、製造容器の寿命を延ばすことができ、その結果、製造コストが削減されつつ、品質に優れたスポンジチタンを製造することができる、という顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】は、流動塩化炉の断面の概要を示した説明図である。
【
図2】は、流動塩化炉の炉壁に保護層を形成させた状態を示した説明図である。
【
図3】は、スポンジチタンの製造フローを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の内容を以下に詳細に説明する。
〔工程A〕
本発明の工程Aはチタン鉱石から流動塩化炉を用いて塩素化反応により四塩化チタンを製造するものである。
図1は、チタン鉱石の塩素化反応に好適な流動塩化炉の概要を示すもので、該流動塩化炉の底部には砂状のチタン鉱石と粒状のコークスからなる原料層3が形成されている。当該原料層3の底面下方には分散盤2が設置され、該分散盤2下部に配設した複数ノズルより原料層3に塩素ガスが供給される。また、炉内の温度の保持と外筒容器の保護のため、当該流動塩化炉内部は耐火物で炉壁4が構成されている。
炉壁4を構成する耐火物としては、本発明に係る製造方法に耐えうる耐火性を有するものであれば特に制限されないが、耐火煉瓦が好ましい。
【0016】
原料層3に供給された塩素ガスは、該原料層3内にあるチタン鉱石およびコークスを流動状態に保持し、該原料層3中の鉱石およびコークスと塩素ガスとの接触効率を高めることができ、結果的には、四塩化チタンの生産速度を高めることができる。
本発明においては、
図2に示すように炉体1の炉壁4内面に、流動塩化炉中の原料層3内で生成した金属塩化物を含む固体状の金属塩化物で保護層5を形成することが好ましい。この金属塩化物の保護層5の厚みは、少なくとも10mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましい。この金属塩化物の保護層5を炉壁内面に形成させることにより、炉体1内に施工した耐火物で構成された炉壁4を的確に保護することができる。
【0017】
この金属塩化物の保護層5は、炉体1の内壁に施工する耐火物の厚みを適切な厚みに調整し、炉体1の内壁を塩化炉内の原料層3内で生成する気体状の金属塩化物が効果的に凝縮固化する温度とすることにより、凝固した金属塩化物を炉体内壁に成長させ、形成することができる。
【0018】
また、
図1には、本発明に係る別の好ましい態様を表している。すなわち、炉体1の頂部の内壁には、耐火物による内貼りを施工しておらず、そのため、外部より強制冷却することが可能であり、その結果として、炉体1頂部の内壁に、チタン鉱石の塩素化反応で副生した金属塩化物を効率よく析出させることができ、炉体1の頂部にも保護層を形成することができる。
なお、前記保護層5は、チタン鉱石中に含まれる鉄やアルミニウムなどが塩素化された塩化鉄や塩化アルミニウムを主体とするものであり、これらの塩化物が複合的に凝縮・固化して形成されることにより、強固な保護層5を形成する。
【0019】
〔工程B〕
工程Bは、工程Aで製造された四塩化チタンを金属マグネシウムで還元した後、真空分離によりスポンジチタン塊と副生する塩化マグネシウムとを分離、製造する工程であるが、この工程Bにおいては、次工程Cで製造される溶融金属マグネシウムが再使用される。この場合、この工程Bの真空分離により分離、回収される副生された塩化マグネシウムおよび未反応の金属マグネシウムを混合することが好ましい。
すなわち、
図3の製造フローの説明図において、系列1として標記した還元工程にある図示しない反応容器内に、系列1よりも先に工程が進んでいる系列2の真空分離工程で回収された金属マグネシウムを含む塩化マグネシウムを系列1の反応容器に装入することが好ましい。要するに、系列2の真空分離工程で回収された金属マグネシウムを含む塩化マグネシウムが装入される製造容器内に、溶融塩化マグネシウムの溶融塩電解で生成された金属マグネシウムを追加装入するものである。
【0020】
その結果、還元反応に用いられる製造容器内の下層部には溶融塩化マグネシウム層が形成し、その上層部に溶融金属マグネシウム層が形成される構成となり、溶融金属マグネシウムと塩化マグネシウムの二層構造とすることにより、溶融金属マグネシウムと直接的に接触する還元反応に用いられる製造容器の面積が減少し、その結果、溶融金属マグネシウムに対するステンレス鋼中のニッケルの溶出を効果的に抑制でき、製造容器の寿命を長くできる。
また、溶融金属マグネシウム中に溶出したニッケルは、四塩化チタンを還元する際に生成したスポンジチタン中に移行することが知られており、これはスポンジチタンにとって不純物となるため、該スポンジチタンの品質低下を招くが、上記方法により、スポンジチタンの品質を向上させることができる。
よって、本発明においては、前記工程Bの真空分離により分離された金属マグネシウムを含む塩化マグネシウムが装入された還元用の製造容器に、所定のスポンジチタンの製造に必要な溶融金属マグネシウムを装入することが好ましい。
【0021】
〔工程C〕
工程Cは、スポンジチタンを製造する工程で副生した塩化マグネシウムを溶融塩電解して、塩素ガスと金属マグネシウムを製造する工程であるが、この工程においては、塩化マグネシウムの溶融塩電解で生成した金属マグネシウムを抜出した後、直ちに塩化マグネシウムを電解槽に補充することが好ましい。
すなわち、塩化マグネシウムの溶融塩電解に用いられる溶融塩電解槽は、通常、生成金属マグネシウムを抜出した後、しばらく時間をおいて、塩化マグネシウムを補給しているが、この場合、電解槽の浴面レベルが降下し、その結果、電解浴に浸漬している陽極の接触面積が低下し、その結果、電解槽の効率が低下する。
【0022】
このため、本発明においては、電解槽で生成した金属マグネシウムを抜き出した後、直ちに、塩化マグネシウムを電解槽に補充することが好ましい。これにより、電解槽内の電解浴のレベル低下時間を少なくすることができ、その結果、電解槽の効率低下を効果的に抑制することができる。
このような操業を具現するには、例えば、電解槽で生成した金属マグネシウムを抜き出すためのポットと、前記電解槽に供給する塩化マグネシウムを含むポットを電解槽に並列して同時に待機させておくことにより行うことができる。
すなわち、両ポットとも電解槽の近くに配置し、金属マグネシウムを抜き出した後、直ちに、塩化マグネシウムを電解槽に補充することにより電解槽の浴レベル低下時間を短時間に食い止めることができ、その結果、電解槽の効率を高いレベルに維持することができる。
【0023】
〔工程D〕
工程Dでは、工程Bで製造されたスポンジチタン塊を破砕する工程であるが、本発明においては、スポンジチタン塊を、プレス式切断機でスポンジチタン小塊に切断後、該スポンジチタン小塊をジョークラッシャーまたはシャーにより粉砕・整粒して、顆粒状のスポンジチタンとすることが好ましい。
工程Bで製造されたスポンジチタン塊は円筒形状を呈しており、そのままでは、チタンインゴットを製造するための溶解工程の原料として適用することはできないため、数十mm以下に粉砕・整粒することができる。この場合、前記円筒状のスポンジチタン塊を水平状態に姿勢を変えてから、プレス式切断機により、粉砕に適した大きさに切断あるいは粉砕しておくことが好ましい。
次に、前記プレス切断機により切断されたスポンジチタン小塊を、次いで、ジョークラッシャーまたはシャーを利用して、所望の大きさの顆粒状スポンジチタンを得ることが好ましい。
【0024】
一方、チタンインゴットを製造するための溶解工程に、従来の消耗電極式真空アーク溶解法(VRA溶解)に代えて、電子ビーム溶解法を用いる場合は、前記スポンジチタン塊のうち、鉄やニッケルなどが高い部位を除去した後、プレス式切断機で300mmよりも大きいスポンジチタン小塊に切断し、それ以降シャーまたはジョークラッシャーによる粉砕工程を行わないことが好ましい。
その結果、シャーまたはジョークラッシャーによるスポンジチタンの粉砕工程が不要となるため、当該粉砕コストを効果的に削減することができる。
また、電子ビーム溶解法を用いることにより、VAR溶解法のように事前の電極の製作が不要となり、電極作成に要する工数を削減することができるとともに、さらに、従来の方法に比べて大きめのスポンジチタン小塊として、直接供給することができるため、粉砕・整粒が不要となる。
【0025】
この場合、前記スポンジチタン小塊は、少なくとも300mmよりも大きいものが好ましく、500mmよりも大きい小塊がより好ましい。
前記のような大きさのスポンジチタン小塊とすることで、電子ビーム溶解炉内に配置したハースに、効率よく供給することができ、また、電子ビーム溶解炉内のハースに搬送する際に支障が生じる心配が少なく、円滑な溶解作業を進めることができる。このため、本発明においては、少なくとも300mmよりも大きいスポンジチタンを電子ビーム溶解炉に供給することが好ましい。
以上、述べたような本発明に従うことにより、従来の方法に比べて、スポンジチタンの製造コストを削減できるのみならず、その後の溶解工程におけるインゴットの製造工程における電極製造コストも削減できる、という効果を奏するものである。
【実施例】
【0026】
〔工程例1〕(流動塩化炉・炉壁内保護層形成)
塩化炉として、
図1に示すような炉体1を新規に築炉した。当該塩化炉の築炉の際には、炉体1内の炉壁4の温度が、不純物金属塩化物の融点以下となるような耐火物の厚みを選定した。
当該塩化炉に対して、炉内を950〜1050℃に保持しつつチタン鉱石と塩素ガスを炉体1内に形成した原料層3内にて接触反応させて、四塩化チタンを生成せしめ、これを塩化炉の下流に配置した冷却設備にて前記四塩化チタンを液化回収した。
原料層3内で副生したチタン以外の金属塩化物のうち、特に鉄やアルミを主体とする塩化物を主体とする付着物が原料層3よりも上部空間(「フリーボード」)に対応した内壁部に徐々に形成された。当該塩化炉の運転開始から3か月を経過したころには、
図2に示すような推定厚み10〜20mmの保護層が形成された。その後の塩化炉の運転を20か月継続したが、塩化炉の炉壁に対して、前記保護層の厚みは、ほぼ一定に維持された。
【0027】
〔工程例2〕(流動塩化炉)
工程例1において、前記したような炉壁を保護するという観点のみから、炉体1の炉壁の厚みを工程例1における炉壁よりも厚くした炉壁を構築した炉体1を使用して、四塩化チタンの製造を行った。
【0028】
〔工程例3〕(還元工程・R‐MgCl
2)
四塩化チタンのマグネシウム還元で製造されたスポンジチタンの真空分離処理で回収された金属マグネシウムを含む塩化マグネシウムの入った還元容器内に溶融マグネシウムを所定量だけ装入した後、同溶融マグネシウム浴面に四塩化チタンの滴下を開始した。途中、数回の塩化マグネシウム抜きを行いつつ、所定量の四塩化チタンを滴下した。滴下終了後、還元容器に残留している塩化マグネシウムを抜出してから真空分離処理を行って、スポンジチタン塊を得た。
前記方法で得られたスポンジチタン塊を破砕・整粒して製品スポンジチタンを得て、該スポンジチタンの金属成分を調査した。
【0029】
〔工程例4〕(還元工程)
工程例3において、真空分離工程で回収された金属マグネシウムを含む塩化マグネシウムを使用しないで、塩化マグネシウムの溶融塩電解工程で製造された溶融マグネシウムのみを反応容器に装入した以外は、同じ条件下でスポンジチタンの製造を行い、製造されたスポンジチタン中の金属成分を調査した。
【0030】
〔工程例5〕(溶融塩電解・Mg抜きおよびMgCl
2瞬時チャージ)
前記四塩化チタンのマグネシウム還元で生成した金属マグネシウムを抜き出した後、ただちに、電解槽に対して塩化マグネシウムを供給・補充した。この一連の操作においては電解槽への通電を遮断することなく、同操作を継続した。
【0031】
〔工程例6〕(溶融塩電解・Mg抜きおよびMgCl
2時間差チャージ)
電解槽から金属マグネシウムを抜出した後、次いで、塩化マグネシウムポットを電解槽に移動した後、同電解槽にポットから電解浴を補充した。
【0032】
〔工程例7〕
四塩化チタンのマグネシウム還元で製造されたスポンジチタンを、プレス切断機で300mmよりも大きいスポンジチタン小塊に切断した。当該スポンジチタン小塊を電子ビーム溶解炉に供給して、チタンインゴットを得た。
【0033】
〔工程例8〕
四塩化チタンのマグネシウム還元で製造されたスポンジチタンを、プレス切断機で10〜200mmのスポンジチタン小塊に切断した後、シャーにより、更に、1mm〜12.5mmのサイズのスポンジチタン顆粒を得た。
前記顆粒状スポンジチタンを、そのまま電子ビーム溶解炉に供給して溶解し、チタンインゴットを得た。
【0034】
〔実施例1〕
上記工程例1、3、5及び7の方法をそれぞれ採用したところ、品質の優れたスポンジチタン及びチタンインゴットを効率よく製造することができた。
【0035】
〔実施例2〕
実施例1における工程例1に代えて工程例2を採用した以外は、実施例1と同様の方法でスポンジチタン及びチタンインゴットを製造した。
【0036】
実施例1の工程例1で使用した塩化炉の寿命は、実施例2の工程例2で使用した塩化炉の寿命に比べて140%であった。
【0037】
〔実施例3〕
実施例1における工程例3に代えて工程例4を採用した以外は、実施例1と同様の方法でスポンジチタン及びチタンインゴットを製造した。
【0038】
実施例3の工程例4で製造されたスポンジチタン中のニッケル濃度を100とした場合、実施例1の工程例3で製造されたスポンジチタン中のニッケル濃度は80であった。
【0039】
〔実施例4〕
実施例1における工程例5に代えて工程例6を採用した以外は、実施例1と同様の方法でスポンジチタン及びチタンインゴットを製造した。
【0040】
実施例1の工程例5の操作に要した時間は、実施例4の工程例6に要した時間に比べて約1/10であった。
約1ヶ月間の操業成績を比較したところ、実施例4の工程例6に比べて、実施例1の工程例5では2%程度の電流効率の改善が確認された。
【0041】
〔実施例5〕
実施例1における工程例7に代えて工程例8を採用した以外は、実施例1と同様の方法でスポンジチタン及びチタンインゴットを製造した。
【0042】
実施例1の工程例7におけるチタンインゴット用原料は、シャーによる粉砕工程が省略されたものであり、実施例5の工程例8で溶製されたチタンインゴット用原料に対して3%の加工コストが削減された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明は、品質の優れたスポンジチタン及びチタンインゴットを効率よく製造するための製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 炉体
2 分散盤
3 原料層
4 炉壁
5 保護層