(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検体の血管を造影するための血管造影用粒子と前記被検体の病変組織を造影するための病変組織造影用粒子とを有する造影剤であって、前記血管造影用粒子は、EPR効果発生時の血管内皮細胞間の間隙よりも大きい第1の粒径を有し、前記病変組織造影用粒子は、前記間隙よりも小さい第2の粒径を有する、ことを特徴とする造影剤。
前記血管造影用粒子と前記病変組織造影用粒子とは、前記被検体の撮像に利用される撮像機構の撮像原理に応じた造影効果を有する物質に結合され、または、前記造影効果を有する物質を内包する、請求項10記載の造影剤。
前記造影効果を有する物質は、前記撮像機構が磁気共鳴診断装置であり縦緩和時間または横緩和時間の相違を利用した撮像を行う場合、常磁性体金属または超常磁性酸化鉄を含む、請求項11記載の造影剤。
前記造影効果を有する物質は、前記撮像機構が磁気共鳴診断装置でありCEST効果を利用した撮像を行う場合、ランタノイド元素に属する常磁性体金属を含む、請求項11記載の造影剤。
前記血管造影用粒子に含まれる造影効果を有する第1の物質と前記病変組織造影用粒子に含まれる造影効果を有する第2の物質とは、同一の撮像機構の撮像原理において互いに異なる造影効果を有する、請求項18記載の造影剤。
前記血管造影用粒子に含まれる第1の造影効果を有する物質は、第1の撮像機構の撮像原理において造影効果を発揮し、前記病変組織造影用粒子に含まれる第2の造影効果を有する物質は、前記第1の撮像機構とは異なる撮像原理を利用する第2の撮像機構において造影効果を発揮する、請求項18記載の造影剤。
前記第1の撮像機構がX線コンピュータ断層撮影装置であり前記第2の撮像機構がフォトンカウンティングCT装置である場合、前記第1の造影効果を有する物質は、ヨウ素であり、前記第2の造影効果を有する物質は、放射性核種である、請求項20記載の造影剤。
前記第1の撮像機構がX線コンピュータ断層撮影装置であり前記第2の撮像機構がPET装置である場合、前記第1の造影効果を有する物質は、ヨウ素であり、前記第2の造影効果を有する物質は、放射性核種である、請求項20記載の造影剤。
前記第1の撮像機構が磁気共鳴診断装置であり前記第2の撮像機構がフォトンカウンティングCT装置である場合、前記第1の造影効果を有する物質は、常磁性体金属、超常磁性酸化鉄であり、前記第2の造影効果を有する物質は、放射性核種である、請求項20記載の造影剤。
前記血管造影用粒子と前記病変組織造影用粒子とは、気体を包含する脂質二重膜であり、前記血管造影用粒子は、第1の周波数により破砕可能な周波数を有し、前記病変組織造影用粒子は、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数により破砕可能な周波数を有する、請求項1記載の造影剤。
前記血管造影用粒子と前記病変組織造影用粒子との少なくとも一方は、造影効果を有する物質を内包する、または、造影効果を有する物質が結合された脂質二重膜である、請求項1記載の造影剤。
前記血管造影用粒子と前記病変組織造影用粒子との少なくとも一方は、疎水性セグメントと親水性セグメントとを有する複数のブロックコポリマーにより構成されるコロイド状粒子であって、前記疎水性セグメント又は前記親水性セグメントには造影効果を有する物質が結合される、請求項1記載の造影剤。
前記血管造影用粒子と前記病変組織造影用粒子との少なくとも一方は、中心から樹状に結合された複数の単位分子構造部により構成されるデンドリマーであって、前記複数の単位分子構造部のうちの末端側の単位分子構造部には造影効果を有する物質が結合される、請求項1記載の造影剤。
前記血管造影用粒子と前記病変組織造影用粒子とは、治療対象の検出のために使用される場合、前記血管造影用粒子の存在量が前記造影剤全体に占める前記病変組織造影用粒子の存在量よりも大きくなるように混合される、請求項1記載の造影剤。
前記血管造影用粒子と前記病変組織造影用粒子とは、治療効果の判定のために使用される場合、前記血管造影用粒子の存在量が前記造影剤全体に占める前記病変組織造影用粒子の存在量よりも小さくなるように混合される、請求項1記載の造影剤。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる造影剤を説明する。
【0009】
本実施形態に係る造影剤は、医用画像イメージング分野において利用される造影剤に関する。本実施形態に係る造影剤は、病変組織の血管系と間質系とを個別に標的とすることが可能な特性を有する。本実施形態に係る造影剤の造影対象である病変組織は、病変の進行に伴い近傍血管や新生栄養血管にEPR効果が生じる如何なる病変組織であっても良い。また炎症発生初期に顆粒球などの免疫細胞が近傍の血管内皮細胞に対してその体積を縮小させるサイトカインを放出して、結果として血管内皮細胞間の間隙が広がり血管透過性が亢進するEPR効果様の炎症反応組織であっても良い。しかしながら、以下の説明を具体的に行うため、病変組織は癌組織であるものとする。
【0010】
ここで
図1を参照しながら、癌組織におけるEPR効果について説明する。
図1は、癌組織周辺の解剖学的構造を模式的に示す図である。
図1に示すように、癌組織は、複数の癌細胞からなり、近傍血管や新生栄養血管から栄養を受けている。複数の癌細胞の間隙は、図示しない間質液で満たされている。血管壁は、複数の血管内皮細胞を有している。血管内皮細胞間には間隙が設けられており、血管内を流れる栄養成分等が間隙を通過し間質液を介して癌細胞等に供給される。以下、血管内皮細胞間の間隙を血管内皮細胞間隙と呼ぶことにする
癌の進行に伴い癌細胞の近傍血管や新生栄養血管にはEPR効果が生じる。
図2は、EPR効果が発生していない領域の血管系の解剖学的構造を模式的に示す図であり、
図3は、EPR効果が発生している領域の血管系の解剖学的構造を模式的に示す図である。
図2及び
図3に示すように、癌の進行に伴い血管内皮細胞が収縮し、血管内皮細胞間隙が拡張する。
図2に示すように、正常時の血管内皮細胞間隙Gnは、典型的には、約5〜50nmである。しかしながら、
図3に示すように、EPR効果が生じている血管の血管内皮細胞間隙Gaは、正常時の血管内皮細胞間隙Gnよりも大きく、約150nm以上に拡張する。
【0011】
従来の造影剤としては、基本的には単一の粒径の造影用粒子が用いられている。癌組織の間質系を画像化することを目的として粒径が血管内皮細胞間隙より小さい造影用粒子を使用した場合、当該造影用粒子が血管内皮細胞間隙を通過し間質液を介して癌組織に到達するので、癌組織の間質系を明瞭に造影することは可能である。しかし、当該造影用粒子による血管に対する造影効果が弱まる。逆に、血管系を画像化することを目的として粒径が血管内皮細胞間隙より大きい造影用粒子を使用した場合、当該造影用粒子が血管内皮細胞間隙を通り抜けることが困難になるので、血管を明瞭に造影することは可能であるが、癌組織の間質系に対する造影効果が弱まってしまう。なお造影用粒子とは、当該造影剤の撮像に利用するモダリティ(撮像機構)の撮像原理において造影効果を有するナノ粒子である。造影効果とは、ある撮像原理に従ってモダリティにより造影剤が撮像された場合において、当該モダリティにより収集された医用画像上に造影剤部分と非造影剤部分とに明瞭なコントラストを生じさせることができる性質を意味する。
【0012】
本実施形態に係る造影剤は、癌組織の血管系と間質系とを個別に標的とすることが可能な特性を有する。すなわち、本実施形態に係る造影剤は、血管を造影するための複数の造影用粒子と癌組織を造影するための複数の造影用粒子とを含む。以下、血管を造影するための造影用粒子を血管造影用粒子と呼び、癌組織を造影するための造影用粒子を癌造影用粒子と呼ぶことにする。
【0013】
図4は、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との一例を模式的に示す図である。
図4に示すように、血管造影用粒子10は、EPR効果が生じている撮像対象血管の血管内皮細胞間隙Gaよりも大きい粒径を有するように形成される。癌造影用粒子は、EPR効果が生じている撮像対象血管の間隙Gaよりも小さい粒径を有するように形成される。
【0014】
血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との粒径についてより詳細に説明する。血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、被検体の静脈に略同時に注入される。EPR効果が生じている血管の血管内皮細胞間隙は、典型的には150nm以上となる。従って血管の血管内皮細胞間隙をEPR効果発生時においても通過させないため、血管造影用粒子10の粒径は、最小でも150nm以上に形成されることが必要である。しかしEPR効果発生時において確実に血管内皮細胞間隙を通過させないようにするため、血管造影用粒子10の粒径は、200nm以上、より好適には300nm以上に形成されると良い。このように血管造影用粒子の粒径を設定することにより、EPR効果発生時においても血管造影用粒子10を、血管内皮細胞間隙を通過させずに血管に滞留させることができる。
【0015】
一方、癌造影用粒子20の粒径は、癌造影用粒子20がEPR効果発生時における血管内皮細胞間隙を通過可能なように、最大でも150nm以下に形成される。肝臓や脾臓等の細網内皮系組織(RES:Reticulo-Endothelial System)内には貪食細胞であるマクロファージが存在する。マクロファージは、異物を貪食する細胞である。一般に造影用粒子は体内を循環することになるが、その際に血管内皮細胞間隙を通過した癌造影用粒子20がマクロファージにより貪食されることを防止するため、癌造影用粒子20は、100nm以下の粒径に形成されると良い。このように癌造影用粒子の粒径を設定することにより、癌造影用粒子20をより確実に癌組織へ蓄積させることができる。なおEPR効果発生時に限定して癌造影用粒子20に血管内皮細胞間隙を通過させる場合、癌造影用粒子20は50nm以上の粒径に形成されると良い。
【0016】
図5は、EPR効果発生時における血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との挙動を模式的に示す図である。
図5に示すように、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、血管造影用粒子10がEPR効果発生時においても血管に滞留し、癌造影用粒子20がEPR効果発生時において癌組織に蓄積するように、EPR効果発生時における血管内皮細胞間隙Gaの標準値に応じて個別に設定される。血管内皮細胞間隙は、EPR効果の発生の有無や病変の進行度だけでなく、血管が存在する解剖学的部位に応じても異なる。従って間隙Gaの解剖学的部位毎の標準値に応じて血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との粒径が決定されると良い。これにより撮像対象部位に依らずに癌組織の血管系と間質系とを個別に標的とすることが可能となる。なお解剖学的部位毎の間隙Gaの標準値は、実験的、経験的に定められれば良い。
【0017】
血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とには種々の修飾が施されると良い。以下、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とに施される修飾について説明する。
【0018】
図6は、血管造影用粒子10の一例を模式的に示す図である。
図6に示すように、血管造影用粒子10の表面には、血液中に存在するアルブミンに結合可能な官能基12が化学修飾される。血液中に存在するアルブミンに結合可能な官能基12としては、例えば、カルボニル、エーテル、アミド、アミン等が挙げられる。血管造影用粒子10が被検体の血液中に存在するアルブミンに結合されない場合、血管造影用粒子10は、腎臓により血管内から排出されてしまう。そのため、当該血管造影用粒子10は、血管内に長く滞留することができない。血管造影用粒子10が官能基12を介してアルブミンに結合された場合、血管造影用粒子10は、腎臓による血管内からの排出が抑止される。そのため、当該血管造影用粒子10は、血管内に長く滞留することができる。すなわち、血管造影用粒子10を血液プール造影剤(blood pool agent)として用いることができる。
【0019】
図7は、癌造影用粒子20の一例を模式的に示す図である。
図7に示すように、癌造影用粒子20の表面には、特定の配位子22が結合されている。配位子22は、癌細胞の表面または内部に存在する特異蛋白質(受容体)に特異的に吸着する特性を有する。配位子22の種類は、造影対象の臓器の癌細胞の特性に応じて変更される。配位子22としては、例えば、上皮成長因子(EGF:epidermal growth factor)や血管内皮細胞増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)などが用いられる。このように、造影対象の臓器の癌細胞の特性に応じた配位子22が設けられていることにより、癌造影用粒子20は、当該癌組織に特異的に蓄積することができる。
【0020】
また、
図6と
図7とに示すように、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との各々の表面にポリエチレン・グリコール(PEG:polyethylene glycol)14,24を化学修飾により形成させると良い。PEG14,24は、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とを血管内皮細胞の表面蛋白質に結合することを防止する。PEG14,24は、必ずしも血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との両方に化学修飾される必要はなく、何れか一方のみが化学修飾されるとしても良い。
【0021】
図8は、上記の種々の修飾が施された血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とのEPR効果発生時における挙動を模式的に示す図である。
図8に示すように、PEG14が化学修飾された血管造影用粒子10とPEG24が化学修飾された癌造影用粒子20とは、血管内皮細胞の表面蛋白質に結合することなく長期間、血管内を流れることができる。血管造影用粒子10の官能基12には血管内に存在するアルブミンが結合される。アルブミンが結合された血管造影用粒子10は、腎臓による血管外への排出が抑止され、血管内に長く滞留することができる。さらに、血管造影用粒子10がPEG14に化学修飾されていることにより、血管内における血管造影用粒子10の流動性を向上させることができる。また、血管内皮細胞間隙Gaを通り抜けた癌造影用粒子20の配位子22は、癌細胞の受容体に特異的に結合する。これにより癌造影用粒子20は、当該癌組織に特異的に蓄積することができる。さらに、癌造影用粒子20がPEG24に化学修飾されていることにより、癌組織への癌造影用粒子20の蓄積量を相乗的に高めることができる。
【0022】
人体の血液は、血球と血漿とを含む。血球は、赤血球、白血球、及び血小板を含む。赤血球は、血球の容積の大部分を占めている。一般的に、赤血球は数μmの直径を有し、白血球は十数μmの直径を有している。このように、癌造影用粒子20の直径は、赤血球及び白血球の直径に比して大幅に小さく、血管造影用粒子10の直径は、癌造影用粒子20の直径と赤血球及び白血球の直径との間にある。癌造影用粒子20のみが被検体に注入された場合、癌造影用粒子20が赤血球等の血球により押し流され、癌造影用粒子20が血管内皮細胞間隙を通過しづらい。しかしながら、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との両方が被検体に注入された場合、癌造影用粒子20は、流体力学的効果により、血管造影用粒子10が注入されなかった場合に比して、効率的に血管内皮細胞間隙を通過することができる。よって、本実施形態に係る造影剤は、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との両方を含むことにより、癌造影用粒子20のみを含む場合に比して、癌造影用粒子20の血管への注入量と血管内皮細胞間隙の通過量との間の線形性が向上する。換言すれば、癌造影用粒子20による間質系の造影効果の定量性が向上する。
【0023】
また、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、本実施形態に係る造影剤の撮像に利用されるモダリティの撮像原理において互いに異なる造影効果を有する物質を含んでも良い。以下、各造影用粒子10,20において支配的な造影効果を発揮する物質を造影物質と呼ぶことにする。血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とが互いに異なる造影物質を含むことにより、当該モダリティにより発生された医用画像において血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とが異なるコントラストで描出される。従ってユーザは、医用画像上において血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とを視覚的に区別することができる。すなわち、本実施形態に係る造影剤は、癌組織の血管系と間質系とを個別に標的とし、血管系と間質系とを長期に亘り視覚的に区別可能に画像化することができる。
【0024】
次に、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との詳細について説明する。以下、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とを区別しない時は造影用粒子と呼ぶことにする。造影用粒子は、造影物質と上記の通りに粒径が設定された搬送体とを含む。造影物質は、搬送体に内包または表面に結合され、搬送体により標的まで搬送される。典型的には、搬送体は、造影物質に比して造影効果の低い素材により形成される。本実施形態に係る搬送体としては、リポソーム、高分子ミセル、及びデンドリマー等のナノ粒子が適当である。
【0025】
図9は、搬送体がリポソーム31の場合における造影用粒子を模式的に示す図である。
図9に示すように、リポソーム31は、球形に配列された脂質二重膜から構成される中空の小胞である。モダリティによる造影効果を有する造影物質33は、リポソーム31の内部に内包される。リポソーム31の粒径は、脂質二重膜を構成するリン脂質35の数を増減することにより調整可能である。なお、
図9においてリポソーム31は、単一の脂質二重膜により構成されるとしたが、複数層の脂質二重膜により構成されても良い。リポソーム31が血管造影用粒子10の場合、官能基12とPEG14とは、リポソーム31の表面に形成される。リポソーム31が癌造影用粒子20の場合、配位子22とPEG24とは、リポソーム31の表面に形成される。なお、造影物質33は、リポソーム31の表面に結合されても良い。
【0026】
図10は、搬送体が高分子ミセル37の場合における造影用粒子を模式的に示す図である。
図10に示すように、高分子ミセル37は、両親媒性の複数のブロックコポリマー39により構成されるコロイド状粒子である。各ブロックコポリマー39は、疎水性セグメント41と親水性セグメント43とを含んでいる。複数のブロックコポリマー39の疎水性セグメント41が内核を形成し、親水性セグメント43が外殻を形成するよう、複数のブロックコポリマー39から高分子ミセル37が形成される。造影物質33は、疎水性セグメント41に化学結合されても良いし、親水性セグメント43に物理吸着されても良い。
図10に示すように、疎水性セグメント41に化学結合された場合、造影物質33は、高分子ミセル37の内核に位置するように内包される。
図10に図示しないが、親水性セグメント43に物理吸着された場合、造影物質33は、高分子ミセル37の表面に位置するように結合される。高分子ミセル37が血管造影用粒子10の場合、官能基12とPEG14とは、高分子ミセル37の表面に形成される。高分子ミセル37が癌造影用粒子20の場合、配位子22とPEG24とは、高分子ミセル37の表面に形成される。高分子ミセル37の粒径は、例えば、ブロックコポリマー39の長さや個数を増減することにより調整可能である。なお
図10には、解りやすさのため、球状の外殻が図示されているが、実際には、球状の外殻は存在しない。
【0027】
図11は、搬送体がデンドリマー45の場合における造影用粒子を模式的に示す図である。
図11に示すように、デンドリマー45は、中心核47から樹状に結合された複数の単位分子構造部(側鎖,デンドロン)49により構成される。中心核47としては、造影効果を有さない原子が用いられると良い。中心核47から末端へのデンドロン49の分岐回数は、世代と呼ばれている。
図11においては、第0世代G0から第4世代G4までの5世代により構成されるデンドリマー45が例示されているが、本実施形態に係るデンドリマー45の世代数は5世代のみに限定されず、1以上の如何なる世代数であっても良い。造影物質33は、複数のデンドロン49のうちの表面側のデンドロン49の末端の官能基に結合される。デンドリマー45が血管造影用粒子10の場合、官能基12とPEG14とは、デンドリマー45の表面に形成される。デンドリマー45が癌造影用粒子20の場合、配位子22とPEG24とは、デンドリマー45の表面に形成される。デンドリマー45の粒径は、世代数、すなわち、デンドロン49の分岐回数を増減させることにより調整可能である。なお
図11には、解りやすさのため、球状の外殻が図示されているが、実際には、球状の外殻は存在しない。
【0028】
なお、上述の説明において本実施形態に係る搬送体は、リポソーム、高分子ミセル、及びデンドリマーの何れかであるとした。しかしながら、本実施形態に係る搬送体は、これに限定されない。本実施形態に係る搬送体は、造影物質を搬送可能であれば、リポソーム、高分子ミセル、及びデンドリマー以外の如何なるナノ粒子であっても良い。
【0029】
また、血管造影用粒子10の搬送体と癌造影用粒子20の搬送体とは、同じ種類でも良いし、異なる種類でも良い。各造影用粒子10,20の造影対象(標的)への搬送や蓄積、滞留の確実性・容易性等の観点から個別に最適な搬送体の種類を選択可能である。
【0030】
次に、本実施形態に係る造影剤の具体例をモダリティの種類毎に説明する。本実施形態に係るモダリティの種類としては、単一モダリティと複合モダリティとに分類される。本実施形態に係る単一モダリティとしては、フォトンカウンティングCT(PCCT:photon counting CT)装置、X線コンピュータ断層撮影装置、X線診断装置、PET装置、SPECT(single photon emission CT)装置、及び磁気共鳴診断(MRI:magnetic resonance imaging)装置の何れもが適用可能である。本実施形態に係る複合モダリティとしては、上記のモダリティの何れの組合せにも適用可能である。本実施形態に好適な複合モダリティとしては、例えば、PCCT/CT装置、PET/CT装置、SPECT/CT装置、PET/MRI装置が挙げられる。以下、各モダリティについて造影剤の具体例について説明する。
【0031】
(単一モダリティ)
本実施形態に係る造影剤が単一モダリティによる撮像に用いられる場合、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質とは、例えば、当該単一モダリティの撮像原理において略同一の造影効果を有する造影物質が選択される。この場合、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、同一の造影機序により略同一のコントラストが得られる物質が適宜選択されると良い。また、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質とは、当該単一モダリティの撮像原理において互いに異なる造影効果を有する造影物質が選択されても良い。換言すれば、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、同一の造影機序により異なるコントラストが得られる物質が適宜選択される。
【0032】
PCCT装置:PCCT装置は、例えば、X線管とX線検出器とを被検体回りに回転させながらX線管から被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線をX線検出器により検出し、検出されたX線のフォトン数をエネルギー帯域毎に計数する。そしてPCCT装置は、当該フォトン数の空間分布を表現する画像をエネルギー帯域毎に発生する。PCCTのための造影剤(以下、PCCT造影剤と呼ぶ)の造影機序は、造影剤と周囲組織との間でX線減弱係数差を増大させることにより、当該造影剤を透過するX線のフォトンの強度を変化させることに帰着される。PCCT造影剤の造影物質としては、造影対象の周囲組織のX線減弱係数よりも高い重金属などが用いられると良い。このような重金属としては、例えば、ヨウ素I、ガドリニウムGd、金Au、ビスマスBi等が挙げられる。血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要しない場合、ヨウ素I、ガドリニウムGd、金Au、ビスマスBi等の重金属の中から同種の重金属が適宜選択されると良い。また、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要する場合、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、ヨウ素I、ガドリニウムGd、金Au、ビスマスBi等の重金属の中から互いに異なる造影効果を有する異なる種類の重金属が適宜選択されると良い。搬送体としては、X線減弱係数の高い重金属を内包または結合可能なリポソーム、高分子ミセル、デンドリマーの何れも利用可能である。なおガドリニウムGd、金Au、及びビスマスBiは人体に対して若干の毒性を有しており、リポソームは毒性を軽減可能な性質を有している。そのためガドリニウムGd、金Au、又はビスマスBiを造影物質として利用する場合、当該造影物質をリポソームに内包させるのが好ましい。なおリポソームに内包させる以外にも毒性を軽減可能であれば、ガドリニウムGd、金Au、又はビスマスBiを何れの搬送体に内包または結合させても良い。
【0033】
X線コンピュータ断層撮影装置:X線コンピュータ断層撮影装置は、例えば、X線管とX線検出器とを被検体回りに回転させながらX線管から被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線をX線検出器により検出する。そしてX線コンピュータ断層撮影装置は、当該X線の透過経路上にある物質のX線減弱係数の空間分布を表現する画像を発生する。X線CTのための造影剤(以下、CT造影剤と呼ぶ)の造影機序は、造影剤と周囲組織との間でX線減弱係数差を増大させることにより、当該造影剤を透過するX線の強度を変化させることに帰着される。CT造影剤の造影物質としては、ヨウ素I等のX線減弱係数の高い重金属が用いられると良い。搬送体としては、X線減弱係数の高い重金属を内包または結合可能なリポソーム、高分子ミセル、デンドリマーの何れも利用可能である。
【0034】
X線診断装置:本実施形態に係るX線診断装置は、電流積分型であっても良いし、フォトンカウンティング型であっても良い。電流積分型のX線診断装置は、所望の撮影角度でX線管から被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線をX線検出器により検出する。そして電流積分型のX線診断装置は、当該X線の透過経路上にある物質のX線減弱係数の空間分布を表現する画像を発生する。電流積分型における造影剤の造影機序は、CT造影剤の造影機序と同様である。電流積分型における造影剤の造影物質としては、ヨウ素I等のX線減弱係数の高い重金属が用いられると良い。搬送体としては、X線減弱係数の高い重金属を内包または結合可能なリポソーム、高分子ミセル、デンドリマーの何れもが利用可能である。フォトンカウンティング型のX線診断装置は、所望の撮影角度でX線管から被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線をX線検出器により検出し、検出されたX線のフォトン数をエネルギー帯域毎に計数する。そしてフォトンカウンティング型のX線診断装置は、当該フォトン数の空間分布を表現する画像をエネルギー帯域毎に発生する。フォトンカウンティング型の造影剤の造影機序は、PCCT造影剤の造影機序と同様である。フォトンカウンティング型における造影剤の造影物質としては、ヨウ素I、ガドリニウムGd、金Au、ビスマスBi等のX線減弱係数の高い重金属などが用いられると良い。血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要しない場合、ヨウ素I、ガドリニウムGd、金Au、ビスマスBi等の重金属の中から同種の重金属が適宜選択されると良い。また、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要する場合、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、ヨウ素I、ガドリニウムGd、金Au、ビスマスBi等の重金属の中から互いに異なる造影効果を有する異なる種類の重金属が適宜選択されると良い。搬送体としては、X線減弱係数の高い重金属を内包または結合可能なリポソーム、高分子ミセル、デンドリマーの何れもが利用可能である。なおガドリニウムGd、金Au、及びビスマスBiは人体に対して若干の毒性を有している。リポソームは、毒性を軽減可能な性質を有している。そのためガドリニウムGd、金Au、又はビスマスBiを造影物質として利用する場合、当該造影物質をリポソームに内包させるのが好ましい。なおリポソームに内包させる以外にも毒性を軽減可能であれば、ガドリニウムGd、金Au、又はビスマスBiを何れの搬送体に内包または結合させても良い。
【0035】
PET装置:PET装置は、被検体内に蓄積された放射性核種から発生される陽電子と当該放射性核種の周囲に存在する電子との対消滅に伴い発生する512keVの一対のガンマ線を同時計測することにより、当該放射性核種の空間濃度分布を表現する画像を発生する。PET撮像のための造影物質としては、陽電子を放出可能な如何なる放射線核種であっても良い。好適には、PET撮像のための造影物質として、フッ素の放射性核種である
18Fや炭素の放射性核種である
11Cなどが用いられると良い。搬送体としては当該放射性核種を内包可能なリポソーム、高分子ミセル、デンドリマーの何れもが利用可能である。リポソーム内に当該造影物質を内包する場合、当該造影物質の毒性の軽減等を目的として、当該造影物質に相応の化合物を合成させた上で内包させると良い。リポソームの表面に当該造影物質を結合する場合、当該造影物質の毒性の軽減等を目的として、当該造影物質に相応の化合物を合成させた上で表面に結合させると良い。高分子ミセルに当該造影物質を内包する場合、例えば、ブロックコポリマーの疎水性セグメントに当該造影物質を反応合成した上で高分子ミセル化する。デンドリマーを用いる場合、デンドロンの末端の官能基に当該造影物質を結合する。
【0036】
SPECT装置:SPECT装置は、被検体内に蓄積された放射性核種から発生される単光子ガンマ線を検出することにより、当該放射性核種の空間濃度分布を表現する画像を発生する。SPECT撮像のための造影物質としては、単光子ガンマ線を放出可能な如何なる放射線核種であっても良い。好適には、SPECT撮像のための造影物質として、テクネチウムの放射性核種である
99mTcやタリウムの放射性核種である
201Tlなどが用いられると良い。単光子ガンマ線のエネルギーは、当該単光子ガンマ線を放出する放射性核種の種類に応じて異なる。搬送体としては当該放射性核種を内包可能なリポソーム、高分子ミセル、デンドリマーの何れもが利用可能である。リポソーム内に当該造影物質を内包する場合、当該造影物質の毒性の軽減等を目的として、当該造影物質に相応の化合物を合成させた上で内包させると良い。リポソームの表面に当該造影物質を結合する場合、当該造影物質の毒性の軽減等を目的として、当該造影物質に相応の化合物を合成させた上で表面に結合させると良い。高分子ミセルに当該造影物質を内包する場合、例えば、ブロックコポリマーの疎水性セグメントに当該造影物質を反応合成した上で高分子ミセル化する。デンドリマーを用いる場合、デンドロンの末端の官能基に当該造影物質を結合する。
【0037】
MRI装置:MRI装置は、撮像目的に応じて複数の撮像原理を利用可能である。当該撮像原理としては、例えば、縦緩和時間T1あるいは横緩和時間T2の相違を利用した撮像や、CEST(Chemical Exchange Saturation Transfer)効果を利用した撮像等がある。撮像原理の違いに応じて造影物質の種類が異なる。
【0038】
1.T1あるいはT2の相違を利用した撮像の場合、T1あるいはT2を短縮する効果を有する造影物質が利用される。当該造影物質としては、常磁性体金属や超常磁性酸化鉄(SPIO:Superparamagnetic iron oxide particle)等が用いられる。常磁性体金属としては、ガドリニウムGdやマンガンMnが用いられる。血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要しない場合、上記の常磁性体金属と超常磁性酸化鉄の中から同種の金属が選択されると良い。また、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要する場合、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、上記の常磁性体金属や超常磁性酸化鉄の中から互いに異なる造影効果を有する金属が適宜選択されると良い。なお血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、T1あるいはT2を短縮する効果を有する造影物質の代わりに共鳴周波数が異なる造影物質が用いられても良い。
【0039】
2.CEST効果を利用した撮像(以下、CEST撮像と呼ぶ)の場合、造影物質としては、外因性造影剤と成りうる、常磁性体金属を含む化合物が用いられる。CEST撮像を目的とした常磁性体金属を含む化合物はPARACEST造影剤と呼ばれている。当該常磁性体金属としては、具体的には、ユウロピウムEu、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、イッテルビウムYb、ツリウムTm等のランタノイド元素に属する常磁性金属が用いられると良い。血管造影用粒子10の常磁性金属と癌造影用粒子20の常磁性金属としては、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要しない場合、上記のランタノイド元素に属する常磁性金属の中から同種の金属が適宜選択されると良い。また、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とでコントラストを要する場合、血管造影用粒子10の造影物質と癌造影用粒子20の造影物質としては、上記のランタノイド元素に属する常磁性金属の中から互いに異なる造影効果を有する金属が適宜選択されると良い。ここで一般的なCEST効果の説明として内因性造影剤における機序について記載する。内因性造影剤に含まれる化合物のプロトンH(例えば、−NH
2(アミド基)のプロトンH)に対応した共鳴周波数で当該プロトンを連続的に励起すると、化学交換現象により内因性造影剤のプロトンと自由水のプロトンとの間で磁気エネルギーが交換される。当該磁気エネルギーの交換により自由水のプロトンからのMR信号の強度が低下する。これがCEST効果と呼ばれる現象である。外因性造影剤(PARACEST造影剤)では自由水のプロトンと外因性造影剤の常磁性体金属との間で直接的に磁気エネルギー交換が行われることにより、上記の如く自由水のプロトンからのMR信号の強度が低下する。CEST撮像は、従来のMRスペクトロスコピーに比べて検出感度が少なくとも10倍以上となることが知られている。
【0040】
搬送体としてリポソームを用いる場合、造影物質をリポソームに内包したり、リポソームの表面に結合したりすると良い。造影物質が毒性を有している場合、二重脂質膜自身が毒性を軽減する構造を有しているため、当該造影物質をリポソームに内包すると良い。より毒性を軽減するため、当該造影物質をキレート化剤によりキレート構造を有する化合物に合成し、当該キレート構造を有する造影物質をリポソームに内包しても良い。あるいは、当該造影物質を、毒性を軽減可能なより簡便な化合物と合成し、当該合成化合物をリポソームに内包しても良い。搬送体として高分子ミセルを用いる場合、上記のキレート構造を有する造影物質とブロックコポリマーとを反応させ、キレート構造を有する当該造影物質を高分子ミセルに内包させると良い。搬送体としてデンドリマーを用いる場合、デンドロンの末端の官能基にキレート構造を有する当該造影物質を結合する。
【0041】
超音波診断装置:超音波診断装置は、被検体内に送信された超音波の反射波を受信することにより、被検体内に存在する物質の音響インピーダンス差の空間分布を表現する画像を発生する。超音波撮像における造影剤(以下、超音波造影剤と呼ぶ)の造影機序は、造影剤と周囲組織との音響インピーダンス差を増大させることにより、造影剤による超音波の反射強度を増強させることに帰着される。従って超音波造影剤において造影物質を用いる必要は無い。超音波造影剤の搬送体としては、上記のリポソーム、高分子ミセル、デンドリマー等の如何なるナノ粒子が利用可能である。しかしながら、超音波造影剤の搬送体としては、超音波を等方的に反射させることが可能な球形のナノ粒子が好適である。この観点から、超音波造影剤の搬送体としては、リポソームが好適である。超音波造影剤としては、第1世代と第2世代とに大別される。第1世代の超音波造影剤は、標的に蓄積された超音波造影剤を超音波で破砕した後、再び当該標的に灌流する超音波造影剤の挙動を映像化するために用いられる。そのため、第1世代の超音波造影剤としては、中空のリポソームが好適である。リポソームに内包される気体の種類は特に限定されない。リポソームに内包される気体としては、例えば、空気やフッ化水素等が挙げられる。第2世代の超音波造影剤は、標的に蓄積された超音波造影剤を超音波で散乱させ、散乱している超音波造影剤の挙動を映像化するために用いられる。そのため、第2世代の超音波造影剤としては、中空である必要はなく、上記のリポソーム、高分子ミセル、デンドリマー等の如何なるナノ粒子が利用可能である。超音波造影剤としてリポソーム、高分子ミセル、デンドリマー等の搬送体を用いる場合にも当該搬送体の表面に官能基12やPEG14、配位子22、PEG24を適宜結合可能である。
【0042】
(複合モダリティ)
本実施形態に係る造影剤が複合モダリティによる撮像に用いられる場合、血管造影用粒子10の造影物質は、当該複合モダリティを構成する第1のモダリティの撮像原理において造影効果を発揮する物質が選択され、癌造影用粒子20の造影物質は、当該複合モダリティを構成する第2のモダリティの撮像原理において造影効果を発揮する物質が選択される。換言すれば、血管造影用粒子10の造影物質として、第1のモダリティの撮像原理に応じた造影機序によりコントラストが得られる物質が選択され、癌造影用粒子20の造影物質として、第2のモダリティの撮像原理に応じた造影機序によりコントラストが得られる物質が選択される。
【0043】
PCCT/CT装置:PCCT/CT装置は、PCCT装置とX線コンピュータ断層撮影装置との複合装置である。血管系イメージングはX線コンピュータ断層撮影装置で行われ、間質系イメージングはPCCT装置により行われると良い。そのため、血管造影用粒子10の造影物質としては、ヨウ素が用いられると良い。また、癌造影用粒子20の造影物質としては、ヨウ素I、ガドリニウムGd、金Au、ビスマスBi等の重金属の中から適宜選択されると良い。なお、上記の説明において、血管系イメージングはX線コンピュータ断層撮影装置で行われ、間質系イメージングはPCCT装置により行われるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、血管系イメージングがPCCT装置で行われ、間質系イメージングがX線コンピュータ断層撮影装置で行われても良い。
【0044】
PET/CT装置:PET/CT装置は、PET装置とX線コンピュータ断層撮影装置との複合装置である。血管系イメージングはX線コンピュータ断層撮影装置で行われ、間質系イメージングはPET装置により行われると良い。そのため、血管造影用粒子10の造影物質としては、ヨウ素Iが用いられると良い。また、癌造影用粒子20の造影物質としては、上述の陽電子を放出可能な放射線核種が用いられると良い。なお、上記の説明において、血管系イメージングはX線コンピュータ断層撮影装置で行われ、間質系イメージングはPET装置により行われるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、血管系イメージングがPET装置で行われ、間質系イメージングがX線コンピュータ断層撮影装置で行われても良い。
【0045】
SPECT/CT装置:SPECT/CT装置は、SPECT装置とX線コンピュータ断層撮影装置との複合装置である。血管系イメージングはX線コンピュータ断層撮影装置で行われ、間質系イメージングはSPECT装置により行われると良い。そのため、血管造影用粒子10の造影物質としては、ヨウ素Iが用いられると良い。また、癌造影用粒子20の造影物質としては、上述の単光子ガンマ線を放出可能な放射線核種が用いられると良い。なお、上記の説明において、血管系イメージングはX線コンピュータ断層撮影装置で行われ、間質系イメージングはSPECT装置により行われるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、血管系イメージングがSPECT装置で行われ、間質系イメージングがX線コンピュータ断層撮影装置で行われても良い。
【0046】
PET/MRI装置:PET/MRI装置は、PET装置とMRI装置との複合装置である。血管系イメージングはMRI装置で行われ、間質系イメージングはPET装置により行われると良い。より詳細には、血管系イメージングは、T1あるいはT2の相違を利用した撮像して造影血管を描出するMRアンギオグラフィーで行われるのが良い。そのため、血管造影用粒子10の造影物質としては、常磁性体金属や超常磁性酸化鉄が用いられると良い。また、癌造影用粒子20の造影物質としては、上述の陽電子を放出可能な放射線核種が用いられると良い。なお、上記の説明において、血管系イメージングはMRI装置で行われ、間質系イメージングはPET装置により行われるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、血管系イメージングがPET装置で行われ、間質系イメージングがMRI装置で行われても良い。また、上記の説明において、血管系イメージングは、MRアンギオグラフィーにより行われるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。また、間質系イメージングをMRI装置で行う場合はCEST撮像により行われても良い。この場合、癌造影用粒子20の造影物質としては、ランタノイド元素に属する常磁性金属が用いられると良い。
【0047】
上記の説明の通り、本実施形態に係る造影剤は、被検体の血管を造影するための血管造影用粒子10と当該被検体の癌組織等の病変組織を造影するための病変組織造影用粒子(造影対象が癌組織の場合は癌組織造影用粒子)20とを有する。血管造影用粒子10は、EPR効果発生時の血管内皮細胞間隙Gaよりも大きい粒径を有し、病変組織造影用粒子20は、当該間隙Gaよりも小さい粒径を有している。血管造影用粒子10と病変組織造影用粒子20とは、互いに異なる造影効果を有する造影物質を含んでいる。
【0048】
本実施形態に係る造影剤を被検体の血管に注入することにより、病変組織造影用粒子20は、病変組織の近傍血管または新生栄養血管の血管内皮細胞間隙Gaを通り抜け当該病変組織に蓄積する。また、血管造影用粒子10は、間隙Gaよりも粒径が大きいため、間隙Gaを通り抜けることができず血管内に滞留する。本実施形態に係る造影剤の注入後、単一モダリティにより被検体を撮像することにより、病変組織の間質系と血管系との両方が視覚的に区別可能に描出された画像(以下、間質・血管系画像と呼ぶ)が収集される。間質・血管系画像は、単一モダリティ等により表示機器に表示される。表示された間質・血管系画像は、技師等のユーザにより観察される。ユーザは、病変組織の間質系と血管系との状態を一枚の画像(間質・血管系画像)で正確に把握することができ、得に定量性に優れた画像を得ることができる。
【0049】
また、被検体を単一モダリティにより異なるタイミングで複数回撮像することにより、間質系が血管系に比して明瞭に描出された画像(以下、間質系画像と呼ぶ)と血管系が間質系に比して明瞭に描出された画像(以下、血管系画像と呼ぶ)とを個別に収集することもできる。撮像タイミングは、ユーザによる医用画像診断装置の入力機器を介した指示に従って任意に決定可能である。また、被検体を複合モダリティにより同一又は異なるタイミングで撮像することにより、間質系画像と血管系画像とを個別に収集しても良い。より詳細には、複合モダリティを構成する二つのモダリティで同一領域を同時撮像可能な場合、第1のモダリティで間質系イメージングのための撮像し、第2のモダリティで血管系イメージングのための撮像をする。同時撮像可能な複合モダリティとしては、例えば、PET/MRI装置が挙げられる。複合モダリティを構成する二つのモダリティで同一領域を同時撮像可能でない場合、第1のモダリティによる間質系イメージングのための撮像と第2のモダリティによる血管系イメージングのための撮像とが異なるタイミングで行われれば良い。各モダリティによる撮像タイミングは、ユーザにより複合モダリティの入力機器を介して任意に決定可能である。間質系画像と血管系画像とは、複合モダリティ等により表示機器に表示される。技師等のユーザは、間質系画像と血管系画像とを観察することにより、病変組織の間質系や血管系の状態を個別に把握することができる。間質系画像と血管系画像とは、複合モダリティにより位置整合して表示機器により表示されても良い。従って本実施形態に係る造影剤を利用することにより、病変組織における間質系と血管系との同時撮像あるいは時系列撮像が可能となる。
【0050】
(応用例)
本実施形態に係る血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、任意の比率で混合されれば良い。しかしながら、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、造影剤の使用目的に応じた比率で混合されると良い。ここで、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との混合の比率を混合比率と呼ぶことにする。混合比率は、造影剤全体に占める血管造影用粒子10の存在量に対する造影剤全体に占める病変組織造影用粒子20の存在量に規定される。存在量は、血管造影用粒子10又は癌造影用粒子20の重量や体積、個数、又はモル濃度等の如何なる量でも良い。
【0051】
例えば、治療対象を検出するために本実施形態に係る造影剤が用いられる場合がある。この場合、血管系イメージングにより腫瘍栄養血管の存在等を特定することが重要である。そのため、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、造影剤全体に占める血管造影用粒子10の存在量が造影剤全体に占める癌造影用粒子20の存在量よりも大きくなるように混合されると良い。例えば、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、混合比率が2:1で混合されると良い。このような比率で混合された血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とを含む造影剤が注入された被検体を撮像することにより、医用画像上において血管系が間質系に比して強調される。よって、ユーザは、腫瘍栄養血管の存在等を効率良く特定することができる。
【0052】
また、治療効果の判定のために本実施形態に係る造影剤が用いられる場合がある。この場合、治療過程の観察が主となるため、間質系イメージングが血管系イメージングより重要になる。そのため、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、造影剤全体に占める血管造影用粒子10の存在量が造影剤全体に占める癌造影用粒子20の存在量よりも小さくなるように混合されると良い。例えば、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、混合比率が1:2で混合されると良い。このような比率で混合された血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とを含む造影剤が注入された被検体を撮像することにより、医用画像上において間質系が血管系に比して強調される。よって、ユーザは、間質系の治療効果を効率良く特定することができる。
【0053】
(変形例)
以下、本実施形態の変形例に係る超音波造影剤について説明する。変形例に係る超音波造影剤に含まれる血管造影用粒子と癌造影用粒子は、破砕可能な、あるいは過剰振動可能な超音波の強度、あるいは周波数が異なる。なお以下の説明において、上記実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。また、以下の説明では粒子が超音波によって破砕される現象について記すが、超音波によって過剰振動の現象を発生する粒子であっても良い。さらに、以下の説明では超音波の周波数の違いによる、破砕現象の発生の違いを利用しているが、超音波の送信強度による破砕現象の発生の違いを利用しても良い。さらに、超音波の送信強度による過剰振動の現象の発生の違いを利用しても良い。
【0054】
図12は、変形例に係る超音波造影剤に含まれる血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との粒径及び破砕周波数の比較を示す図である。血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との搬送体はリポソームであるものとする。
図12に示すように、血管造影用粒子10は、EPR効果発生時における血管内皮細胞間隙Gaよりも大きく、癌造影用粒子20は、間隙Gaよりも小さくなるように粒径が調整されている。また、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは、異なる周波数または強度の超音波で破砕されるように強度が調整されている。例えば、血管造影用粒子10は周波数fbよりも高い周波数の超音波を受けて破砕され、癌造影用粒子20は周波数fsよりも高い周波数の超音波を受けて破砕されるように構造強度が調整される。血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との構造強度は、種々の手法により調整可能である。例えば、リポソームをカーボン等の物質によりコーティングすることにより構造強度を調整すると良い。
【0055】
以下、血管造影用粒子10又は癌造影用粒子20を破砕可能な周波数の下限を破砕周波数と呼ぶことにする。血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との破砕周波数の大小関係は再灌流の観察対象に応じて任意に調整可能である。例えば、癌造影用粒子20による癌組織への再灌流を観察対象とする場合、癌造影用粒子20の破砕周波数fsは、血管造影用粒子10の破砕周波数よりも低く設定される。また、血管造影用粒子10による病変血管部位への再灌流を観察対象とする場合、血管造影用粒子10の破砕周波数fbは、癌造影用粒子20の破砕周波数fsよりも低く設定される。換言すれば、破砕対象の造影用粒子10,20は、当該造影用粒子の破砕のための超音波(以下、破砕超音波と呼ぶ)の周波数より破砕周波数fb,fsが低くなるように調整され、非破砕対象の造影用粒子10,20は、破砕超音波の周波数より破砕周波数fb,fsが高くなるように調整される。これにより血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とを選択的に破砕することができる。
【0056】
図13は、癌造影用粒子20による癌組織への再灌流を観察対象とする場合における、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との破砕周波数fb,fsの破砕周波数ftに対する比較を示す図である。
図13に示すように、癌造影用粒子20の破砕周波数fsは、破砕超音波の周波数ftよりも低く設定される。従って癌造影用粒子20が周波数ftの破砕超音波の照射を受けた場合、癌造影用粒子20は破砕される。一方、血管造影用粒子10の破砕周波数fbは、周波数ftの破砕超音波の照射により癌造影用粒子20と共に血管造影用粒子10が破砕されることを防止するため、周波数ftよりも高く設定される。このように血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との何れか一方の破砕周波数のみを周波数ftよりも低く設定することにより、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との選択的破砕が可能となる。
【0057】
以下、
図14、
図15、及び
図16を参照しながら、癌造影用粒子20による癌組織への再灌流を観察対象とする超音波撮像における血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との挙動を説明する。
【0058】
図14は、癌造影用粒子20の癌組織への蓄積段階における血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との挙動を模式的に示す図である。
図15は、破砕超音波の送信段階における血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との挙動を模式的に示す図である。
図16は、癌造影用粒子20の癌組織への蓄積段階における血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との挙動を模式的に示す図である。
【0059】
図14に示すように、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とを含む本実施形態に係る造影剤が血管内に注入されると、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20とは血管内を流れる。血管造影用粒子10は、EPR効果発生時における血管内皮細胞間隙Gaよりも大きい粒径を有しているので、血管内を流れ続ける。癌造影用粒子20は、間隙Gaよりも小さい粒径を有しているので、間隙Gaを通り抜け間質系を介して癌組織へ蓄積する。超音波診断装置は、ユーザによる超音波プローブや超音波診断装置本体の操作により、被検体の癌組織を含む撮像領域を超音波で走査し、当該撮像領域における音響インピーダンス差の空間分布を示す超音波画像を即時的に発生し、当該超音波画像を表示機器に即時的に表示する。血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との注入の早期段階においては、超音波画像において血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との流れを観察することができる。すなわち、癌造影用粒子20による癌組織への灌流の様子を超音波画像において観察することができる。なお、
図14の段階における超音波の送信周波数は、当該超音波の送信目的が癌造影用粒子20を破砕ではなく撮像領域の超音波走査であるので、破砕超音波の周波数ftよりも低く設定されている。
【0060】
図15に示すように、血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との注入後、撮像領域における血管に血管造影用粒子10が充満し、癌組織に癌造影用粒子20が充満する。この場合、超音波画像の輝度値は飽和状態になっており、超音波画像において血管造影用粒子10と癌造影用粒子20との流れを観察することが困難となる。ユーザは、癌組織への癌造影用粒子20の再灌流の観察を目的として、超音波診断装置の入力機器等を介して、破砕超音波の送信を指示する。破砕超音波の送信指示がなされた場合、超音波診断装置は、周波数ftを有する破砕超音波を当該撮像領域に向けて超音波プローブから送信する。破砕超音波の送信が行われると超音波診断装置は、再び周波数ftよりも低い周波数の超音波で当該撮像領域を走査して超音波画像を即時的に発生し、当該超音波画像を表示機器に即時的に表示する。当該撮像領域に存在する癌造影用粒子20は、破砕超音波を受けて破砕され、血管内から消滅する。一方、当該撮像領域に存在する血管造影用粒子10は、破砕超音波を受けても破砕されず、血管内を流れ続ける。従って破砕超音波の送信直後の超音波画像には癌造影用粒子20が描出されず、血管造影用粒子10のみが描出されることとなる。なお上記の説明において破砕超音波は、ユーザからの送信開始指示がなされたことを契機として超音波診断装置により送信されるとしたが、予め決定されたタイミングで超音波診断装置により自動的に送信されても良い。
【0061】
図16に示すように、破砕超音波の送信が行われると癌造影用粒子20は、再び血管内皮細胞間隙を通り抜け間質系を介して癌組織に蓄積し始める。すなわち、癌造影用粒子20は、癌組織への再灌流を開始する。従って破砕超音波の送信終了後、超音波画像には血管造影用粒子10(すなわち、血管系)が高輝度で描出されるとともに、癌造影用粒子20による癌組織への再灌流が描出される。
【0062】
上記の説明の通り、変形例に係る造影剤は、被検体の血管を造影するための血管造影用粒子10と当該被検体の癌組織等の病変組織を造影するための病変組織造影用粒子(造影対象が癌組織の場合は癌組織造影用粒子)20とを有する。血管造影用粒子10と病変組織造影用粒子20とは、気体を包含するリポソームである。血管造影用粒子10は、EPR効果発生時の血管内皮細胞間隙Gaよりも大きい粒径を有し、破砕周波数fbにより破砕可能な構造強度を有している。病変組織造影用粒子20は、当該間隙Gaよりも小さい粒径を有し、破砕周波数fbとは異なる破砕周波数fsにより破砕可能な構造強度を有している。
【0063】
上記の構成により、血管造影用粒子10と病変組織造影用粒子20との破砕周波数を調整することにより、血管造影用粒子10と病変組織造影用粒子20とを選択的に破砕することができる。従って、血管造影用粒子10の造影対象血管への再灌流と病変組織造影用粒子20の造影対象病変組織への再灌流とを、超音波診断装置を用いて選択的に観察することができる。
【0064】
かくして、本実施形態によれば、病変組織の血管系と間質系とを個別に標的とする造影剤を提供することが可能となる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。