【実施例】
【0051】
本実施例において使用した材料および方法は以下の通りである。
(1)ビフィドバクテリウム属細菌
ビフィドバクテリウム属細菌として、以下AおよびBの2種類のビフィドバクテリウム属細菌の凍結乾燥粉末(以下、「菌末A」および「菌末B」という)を用いた。
(A)Bifidobacterium breve(ATCC15700)
(B)Bifidobacterium infantis(ATCC15697)
前記ビフィドバクテリウム属細菌(A)は、例えば、国際公開第2011/034181号パンフレットに記載の実施例において使用されているものである。また、前記ビフィドバクテリウム属細菌(B)は、例えば、特表2012−520325号公報に記載の実施例において使用されているものであり、いずれの細菌も一般に入手することが可能である。例えば、(A)及び(B)いずれのビフィドバクテリウム属細菌もアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所:12301 Parklawn Drive,Rockville,Maryland 20852,United States of America)から購入することができる。
【0052】
(2)カプセル
カプセルとして、HPMCとジェランガムとからなるハードカプセルDRcaps(登録商標)(カプスゲル社製)を用いた。
【0053】
(3)生菌数の測定方法
生菌数は、強化クロストリジア寒天培地(OXIOID社製)を使用して、コロニー計数法により測定した。
【0054】
(4)胃酸耐性の試験
予め1カプセルあたりの生菌数を測定し、これを人工胃液処理前の生菌数として含む試料カプセルを調製した。試料カプセルを、37℃に予め加温された前記人工胃液8ml入りのL字型試験管に添加し、バイオフォトレコーダー(アドバンテック東洋社製)を使用して37℃、振幅速度20往復/分の条件で2時間振騰した。なお、人工胃液は日本薬局方 崩壊試験第1液を使用した。その後、試料を回収し、これを人工胃液処理後の試料とした。
【0055】
次いで、人工胃液処理後の試料の生菌数を測定し、人工胃液処理前の生菌数に対する人工胃液処理後の生菌数の百分率(%)、すなわち人工胃液処理後の生残率を算出し、これを胃酸耐性の指標とした。
【0056】
[試験例1] カプセルの種類および/または油脂の使用に基づくビフィドバクテリウム属細菌生残率の比較
本試験では、使用するカプセルの種類、カプセル中の油脂の有無、および菌末の種類に応じたビフィドバクテリウム属細菌の生残率を比較した。
【0057】
<試料カプセルの調製>
1−1.試料カプセルA(菌末A使用)
A−a.DRcaps(登録商標)+油脂未封入
Bifidobacterium breve(ATCC15700)の凍結乾燥粉末(森永乳業社製:菌末A)70質量%と松谷乾燥コーンスターチホワイト(松谷化学工業社製)30質量%とを均一に混合した。該混合物を、カプセル充填機(商品名:Profill100、Torpac社製)を使用して、カプセル(商品名:DRcaps(登録商標))に封入した。得られたカプセルのボディとキャップの接合部を、シリンジを用いてバンドシールを行った。相対湿度33%の環境下でバンドシールを乾燥した。
【0058】
A−b.DRcaps(登録商標)+油脂封入
Bifidobacterium breve(ATCC15700)の凍結乾燥粉末(森永乳業社製:菌末A)70質量%と松谷乾燥コーンスターチホワイト(松谷化学工業社製)30質量%とを均一に混合した。該混合物44質量%をココナードMT(花王社製)56質量%に添加してマグネチックスターラーを使用して均一に分散させた。該分散物を、連続分注機を使用してカプセル(商品名:DRcaps(登録商標))に封入した。得られたカプセルのボディとキャップとの接合部を、シリンジを用いてバンドシールを行った。相対湿度33%の環境下でバンドシールを乾燥し、紙の上に広げリークを確認した。
【0059】
1−2.試料カプセルB(菌末B使用)
B−a.DRcaps(登録商標)+油脂未封入
配合するビフィドバクテリウム属細菌の凍結乾燥粉末を、Bifidobacterium infantis(ATCC15697)の凍結乾燥粉末(森永乳業社製:菌末B)に変更する以外は、カプセルA−aと同様にして調製した。
B−b.DRcaps(登録商標)+油脂封入
配合するビフィドバクテリウム属細菌の凍結乾燥粉末を、Bifidobacterium infantis(ATCC15697)の凍結乾燥粉末(森永乳業社製:菌末B)に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
【0060】
上記試料カプセルを用いた胃酸耐性試験の結果を
図1および下記表1−1および1−2に示す。
【0061】
【表1-1】
【0062】
【表1-2】
【0063】
耐酸性ハードカプセルであるDRcaps(登録商標)に油脂を封入せずに、ビフィドバクテリウム属細菌を封入した場合には、ビフィドバクテリウム属細菌の生残率は十分ではなく(試料カプセルA−a、B−a)、DRcaps(登録商標)にビフィドバクテリウム属細菌と油脂とを併せて封入した場合に、良好なビフィドバクテリウム属細菌の生残率を示した(試料カプセルA−b、B−b)。
なお、ジェランガムを含有しないHPMCからなるカプセルを用いて、ビフィドバクテリウム属細菌を封入したカプセル製剤について同様の試験を行ったところ、油脂の封入の有無に関わらず、耐酸性試験後のビフィズス菌の生残率は、いずれも0.1%以下であることが確認された。
よって、本発明のカプセル製剤は、胃酸の影響を受けずに腸まで送達されるという効果も兼ね備えていると考えられる。
【0064】
[試験例2]油脂の種類に基づく生残率の比較
本試験では、使用する油脂の種類に応じたビフィドバクテリウム属細菌の生残率を比較した。
<試料カプセルの調製>
2−1.試料カプセルC(菌末A使用)
C−a.サフラワー油使用サンプル
使用する油脂をS3268(太陽化学社製)に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
C−b.大豆油使用サンプル
使用する油脂を国産大豆油(理研農産化工社製)に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
C−c.なたね油用サンプル
使用する油脂をCY−2(太陽化学社製)に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
C−d.オリーブ油用サンプル
使用する油脂をBOSCO エキストラバージン・オリーブ油脂(日清オイリオグループ社製)に変更する以外は、サンプルA−bと同様にして調製した。
C−e.パーム油用サンプル
使用する油脂を80℃で溶解し、40℃に保持したS3267(太陽化学社製)に変更する以外は、サンプルA−bと同様にして調製した。
C−f.やし油用サンプル
使用する油脂を40℃で溶解したRCO(太陽化学社製)に変更する以外は、サンプルA−bと同様にして調製した。
【0065】
前記の試料カプセルを用いた胃酸耐性試験の結果を、油脂としてココナードMTを使用した試験例1のA−bの結果とあわせて
図2および下記表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
前記結果から、いずれの油脂を使用した場合でも、ビフィドバクテリウム属細菌の生残率の向上が認められ、特にパーム油、オリーブ油を使用した場合には、生残率が飛躍的に向上した。
また、使用する油脂は、流動性の状態を維持するか否かに関わらず、胃酸からビフィドバクテリウム属細菌を保護することが示された。
【0068】
[試験例3]油脂配合割合の差異に基づくビフィドバクテリウム属細菌生残率の比較
本試験では、ビフィドバクテリウム属細菌の凍結乾燥粉末に対する油脂の配合割合に応じたビフィドバクテリウム属細菌の生残率を比較した。
<試料カプセルの調製>
3−1.試料カプセルD(菌末A使用)
D−a.粉末:油脂=1:99混合サンプル
混合粉末とココナードMTの配合割合を1:99に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
D−b.粉末:油脂=5:95混合サンプル
混合粉末とココナードMTの配合割合を5:95に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
D−c.粉末:油脂=10:90混合サンプル
混合粉末とココナードMTの配合割合を10:90に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
D−d.粉末:油脂=30:70混合サンプル
混合粉末とココナードMTの配合割合を30:70に変更する以外は、カプセルA−bと同様にして調製した。
D−e.粉末:油脂=50:50混合サンプル
混合粉末とココナードMTの配合割合を50:50に変更する以外は、サンプルA−bと同様にして調製した。
D−f.粉末:油脂=70:30混合サンプル
Bifidobacterium breve(ATCC15700)の凍結乾燥粉末(森永乳業社製:菌末A)70質量%と松谷乾燥コーンスターチホワイト(松谷化学工業社製)30質量%とを均一に混合した。該混合物70質量%とココナードMT30質量%とを、スパーテルを使用して均一に混合し、連続分注機を使用してDRcaps(登録商標)に封入した。得られたカプセルのボディとキャップの接合部を、シリンジを用いてバンドシールを行った。
【0069】
3−2.試験カプセルE(菌末A使用)
E−a.粉末:油脂=1:99混合サンプル
使用する油脂を、80℃で溶解し、常温に戻したS3267(パーム油)に変更する以外は、カプセルD−aと同様にして調製した。
E−b.粉末:油脂=5:95混合サンプル
使用する油脂を、80℃で溶解し、常温に戻したS3267(パーム油)に変更する以外は、カプセルD−bと同様にして調製した。
E−c.粉末:油脂=10:90混合サンプル
使用する油脂を、80℃で溶解し、常温に戻したS3267(パーム油)に変更する以外は、カプセルD−cと同様にして調製した。
E−d.粉末:油脂=30:70混合サンプル
使用する油脂を、80℃で溶解し、常温に戻したS3267(パーム油)に変更する以外は、カプセルD−dと同様にして調製した。
E−e.粉末:油脂=50:50混合サンプル
使用する油脂を、80℃で溶解し、常温に戻したS3267(パーム油)に変更する以外は、カプセルD−eと同様にして調製した。
E−f.粉末:油脂=70:30混合サンプル
使用する油脂を、80℃で溶解し、常温に戻したS3267(パーム油)に変更する以外は、カプセルD−fと同様にして調製した。
【0070】
上記試料カプセルを用いた胃酸耐性試験の結果を、粉末:油脂の比率を44:56で混合した試験例1のA−bおよびパーム油を使用した試験例2のC−eの結果とあわせて
図3および下記表3−1および3−2に示す。
【0071】
【表3-1】
【0072】
【表3-2】
【0073】
中鎖脂肪酸トリグリセライドを使用した場合、ビフィドバクテリウム属細菌の割合が30質量%以上70質量%以下で、ビフィドバクテリウム属細菌の生残率が良好であることが確認された。また、パーム油を使用した場合、ビフィドバクテリウム属細菌の割合が1質量%以上において、ビフィドバクテリウム属細菌の生残率が良好であったが、ビフィドバクテリウム属細菌の割合が5質量%以上70質量%以下の場合に、より生残率が良好であることが確認された。
これらの結果から、菌末と油脂との配合には、油脂の種類および形態に応じて、適切な割合があり得るが、概ね菌末および油脂の合計量に対する油脂の配合量が、30質量%以上70質量%以下で使用することで、胃酸からのビフィズス菌の保護を良好に与えることが確認された。