【文献】
SOx対応技術のエンジン潤滑への影響,日本マリンエンジニアリング学会誌,2015年 5月 1日,第50巻 第3号(2015),347-353頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(C)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド又はそのホウ素化誘導体を、組成物全量基準で窒素分として0.015質量%以下含有する、
請求項1に記載のスクラバー搭載クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダ潤滑油組成物。
請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物を、スクラバーを備えるクロスヘッド型ディーゼル機関のシリンダに供給しながら、前記クロスヘッド型ディーゼル機関を運転する工程、および、
前記シリンダから排出されたガスの少なくとも一部を、前記スクラバーにおいて浄化する工程
を有する、スクラバー搭載クロスヘッド型ディーゼル機関のシリンダ潤滑方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。なお、特に断らない限り、数値A及びBについて「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。
【0019】
<潤滑油基油>
本発明における基油としては、鉱油および合成油から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0020】
鉱油としては特に制限はないが、一般的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を、脱硫、水素化分解し、所望の粘度グレードになるよう分留したもの、及び、上記常圧残油を溶剤脱ろう若しくは接触脱ろうし、必要に応じてさらに、溶剤抽出および水素化したものを好ましく例示できる。
【0021】
さらに鉱油としては、常圧蒸留残油をさらに減圧蒸留し、所望の粘度グレードになるよう分留した後、溶剤精製、水素化精製等のプロセスを経て、溶剤脱ろうして製造する基油製造過程の、脱ろう過程において副生する石油系ワックスを水素化異性化した、石油系ワックス異性化潤滑油基油や、フィッシャー・トロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造されるGTL系ワックス異性化潤滑油基油等も用いることができる。これらのワックス異性化潤滑油基油を製造する際の基本的な製造過程は、水素化分解基油の製造方法と同様である。
【0022】
また合成油としては特に制限はなく、通常の潤滑油基油として使用される合成油を用いることができる。具体的には、ポリブテン及びその水素化物;1−オクテン、1−デセン、ドデセン等のオリゴマー、またはその混合物のオリゴマー等である、ポリα−オレフィン及びその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油;並びにこれらの混合物等を例示できる。
【0023】
基油の100℃における動粘度は、好ましくは10mm
2/s以上、より好ましくは14mm
2/s以上であり、また好ましくは25mm
2/s以下、より好ましくは20mm
2/s以下である。基油の100℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑箇所において十分な油膜を形成することができ、良好な潤滑性を得ることができる。また、基油の100℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、良好な低温時の流動性を得ることができる。なお、本発明において、100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃における動粘度を指す。
【0024】
基油の好ましい一形態として、100℃における動粘度が10〜14mm
2/sである基油と、100℃における動粘度が20〜40mm
2/sである基油との混合基油を例示できる。
【0025】
基油の粘度指数は85以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましく、95以上であることが特に好ましい。基油の粘度指数が上記下限値以上であることにより、低温での粘度を低く抑えることができ、良好な始動性を得ることができる。なお、本発明において、粘度指数は、JIS K2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0026】
本発明で用いる基油の、基油全量を基準とした飽和分含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは52質量%以上であり、また好ましくは90質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。飽和分が上記下限値以上であることにより、良好な酸化安定性を得ることができる。また飽和分が上記上限値以下であることにより、アスファルテンや劣化物の十分な溶解性を得ることができるため、良好な清浄性が得られる。なお、本発明において、飽和分とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により測定される飽和分を意味する。
【0027】
<(A)Caフェネート系清浄剤>
本発明における(A)Caフェネート系清浄剤(以下、「(A)成分」という。)としては、以下の式(1)で示される構造を有する化合物のカルシウム塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。(A)成分は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
式(1)中、R
1は炭素数6〜21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル基又はアルケニル基を表し、mは重合度であって1〜10の整数を表し、Aはスルフィド(−S−)基またはメチレン(−CH
2−)基を表し、xは1〜3の整数を表す。なおR
1は2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。
【0030】
式(1)におけるR
1の炭素数は、好ましくは9〜18、より好ましくは9〜15である。R
1の炭素数が6未満では(A)成分の基油に対する溶解性が劣るおそれがあり、一方、R
1の炭素数が21を超える場合は製造が難しく、また(A)成分の耐熱性が劣るおそれがある。
【0031】
式(1)における重合度mは、好ましくは1〜4である。重合度mがこの範囲内であることにより、(A)成分の耐熱性を高めることができる。
【0032】
(A)成分の塩基価は好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは100mgKOH/gであり、また好ましくは350mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下である。(A)成分の塩基価が上記下限値以上であることにより、良好な酸中和性を得ることができ、(A)成分の上記上限値以下であることにより良好な清浄性を得ることができる。なお、本発明において塩基価とは過塩素酸法により測定された塩基価を意味する。
【0033】
<(B)Caフェネート系清浄剤以外の金属系清浄剤>
本発明における(B)Caフェネート系清浄剤以外の金属系清浄剤(以下、「(B)成分」という。)とは、潤滑油において通常用いられる、いわゆる金属系清浄剤である。(B)成分は好ましくはフェネート系清浄剤以外の金属系清浄剤であり、そのような金属系清浄剤としては例えば、スルホネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤を挙げることができる。また、これらの金属系清浄剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
スルホネート系清浄剤としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を例示できる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400〜1500であり、より好ましくは700〜1300である。
アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0035】
スルホネート系清浄剤の塩基価は好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは150mgKOH/g以上、さらに好ましくは250mgKOH/g以上であり、また好ましくは500mgKOH/g以下、より好ましくは450mgKOH/g以下である。塩基価が上記下限値以上であることにより良好な酸中和性を得ることができ、また塩基価が上記上限値以下であることにより良好な清浄性を得ることができる。
【0036】
サリシレート系清浄剤としては、金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を用いることができる。ここでいう金属サリシレートとしては、以下の式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0038】
上記式(2)中、R
2はそれぞれ独立にアルキル基またはアルケニル基を表し、Mはアルカリ土類金属を表し、nは1又は2を表す。Mとしてはカルシウムまたはマグネシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。nとしては1が好ましい。なおn=2であるとき、R
2は異なる基の組み合わせであってもよい。
【0039】
サリシレート系清浄剤の好ましい一形態としては、上記式(2)においてn=1であるアルカリ土類金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。
【0040】
アルカリ土類金属サリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基を反応させること、又は、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と金属交換させること等により、アルカリ土類金属サリシレートを得ることができる。
【0041】
アルカリ土類金属サリシレートの塩基性塩を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ土類金属サリシレートと、過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(アルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得ることができる。
アルカリ土類金属サリシレートの過塩基性塩を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスまたはホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下でアルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得ることができる。
【0042】
サリシレート系清浄剤の塩基価は、好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは100mgKOH/g以上であり、また好ましくは350mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下である。塩基価が上記下限値以上であることにより良好な酸中和性を得ることができ、また塩基価が上記上限値以下であることにより良好な清浄性を得ることができる。
【0043】
好ましい一形態において、(B)成分はCaスルホネート系清浄剤および/またはCaサリシレート系清浄剤である。
ここでいうCaスルホネート系清浄剤とは、上述したスルホネート系清浄剤において、アルカリ土類金属としてカルシウムを用いたものである。すなわち、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を意味する。
Caスルホネート系清浄剤の塩基価は好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは150mgKOH/g以上、さらに好ましくは250mgKOH/g以上であり、また好ましくは500mgKOH/g以下、より好ましくは450mgKOH/g以下である。塩基価が上記下限値以上であることにより良好な酸中和性を得ることができ、また塩基価が上記上限値以下であることにより良好な清浄性を得ることができる。
また、ここでいうCaサリシレート系清浄剤とは、上述したサリシレート系清浄剤において、金属としてカルシウムを用いたものである。すなわち、カルシウムサリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を意味する。
Caサリシレート系清浄剤の塩基価は好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは100mgKOH/g以上であり、また好ましくは350mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/gである。塩基価が上記下限値以上であることにより良好な酸中和性を得ることができ、また塩基価が上記上限値以下であることにより良好な清浄性を得ることができる。
【0044】
<(C)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド又はそのホウ素化誘導体>
本発明の潤滑油組成物は、(C)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド又はそのホウ素化誘導体(以下、「(C)成分」という。)を含有してもよく、含有しなくてもよい。ただし、本発明の潤滑油組成物が(C)成分を含有する場合、(C)成分の含有量は組成物全量基準で窒素分として0.015質量%以下である必要がある。(C)成分の含有量が窒素量として0.015質量%以下であることにより、良好な抗乳化性を得ることができ、スクラバー内のスカム生成を抑制することが可能になる。
【0045】
アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドとしては、下記式(3)または式(4)で表される化合物を例示できる。
【0047】
式(3)中、R
3は炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。R
3の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0048】
式(4)中、R
4は、それぞれ独立に炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、異なる基の組み合わせであってもよい。R
4は特に好ましくはポリブテニル基である。また、iは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。R
4の炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0049】
式(3)、式(4)におけるR
3、R
4の炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。一方、R
3、R
4の炭素数が上記上限値以下であることにより、本発明の潤滑油組成物の低温流動性を高めることができる。
【0050】
式(3)及び式(4)におけるアルキル基またはアルケニル基(R
3、R
4)は直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状のアルキルもしくはアルケニル基、または、ポリブテニル基が最も好ましい。
式(3)及び式(4)におけるアルキル基またはアルケニル基(R
3、R
4)の好適な重量平均分子量は800〜3500である。
【0051】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみに無水コハク酸が付加した、式(4)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端に無水コハク酸が付加した、式(5)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。本発明の潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミド及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。
【0052】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの製法は、特に制限されるものではなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸を、ポリアミンと反応させることにより得ることができる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミンを例示できる。
【0053】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドのホウ素化誘導体としては、例えば、上記説明した、アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドにホウ酸を作用させたことにより、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が中和又はアミド化されている、いわゆるホウ素変性化合物を挙げることができる。
(C)成分の分子量には特に制限は無いが、好適な重量平均分子量は1000〜8000である。
【0054】
<その他の添加剤>
本発明の潤滑油組成物は、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤をさらに含有し得る。そのような添加剤としては、例えば、ジチオリン酸亜鉛、酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、極圧剤等を挙げることができる。
【0055】
ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)としては、下記式(5)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【0057】
式(5)中、R
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜24の炭化水素基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。これら炭素数1〜24の炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基を好ましく例示できる。また、R
5の炭素数は好ましくは3以上であり、また好ましくは12以下であり、より好ましくは8以下である。また、R
5としてのアルキル基は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの混合物が好ましく、第1級アルキル基が最も好ましい。
【0058】
上記ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)としては、例えば、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジヘプチルジチオリン酸亜鉛、又はジオクチルジチオリン酸亜鉛等の、炭素数3〜18、好ましくは炭素数3〜10の直鎖状若しくは分枝状(第1級、第2級又は第3級、好ましくは第1級又は第2級)アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛;ジフェニルジチオリン酸亜鉛、又はジトリルジチオリン酸亜鉛等の炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜10のアリール基若しくはアルキルアリール基を有するジ((アルキル)アリール)ジチオリン酸亜鉛;および、これらのうち2種以上の混合物を挙げることができる。
【0059】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、R
5に対応するアルキル基を有するアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和することにより合成することができる。
【0060】
本発明の潤滑油組成物において、ジチオリン酸亜鉛の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.03〜1.0質量%、より好ましくは0.05〜0.5質量%、特に好ましくは0.01〜0.3質量%である。また、ジチオリン酸亜鉛の含有量は、潤滑油組成物中のリン分が25〜700質量ppmとなる量であることが好ましく、潤滑油組成物中のリン分がより好ましくは40質量ppm以上、さらに好ましくは50質量ppm以上、特に好ましくは80質量ppm以上、また、より好ましくは500質量ppm以下、さらに好ましくは300質量ppm以下、特に好ましくは250質量ppm以下となる量であることが望ましい。潤滑油組成物中のジチオリン酸亜鉛由来のリン分が25質量ppm以上であれば、必要な酸化安定性を確保でき、また、700質量ppm以下であれば、ジチオリン酸亜鉛の加水分解による塩基価の低下を避けることができる。
【0061】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の無灰酸化防止剤等、および、金属系酸化防止剤を例示できる。これらの中では高温清浄性能の維持性の点で、フェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤を好ましく用いることができる。本発明の潤滑油組成物に酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、アミン系酸化防止剤においては0.3質量%以上が特に好ましく、フェノール系酸化防止剤においては0.15質量%以上が特に好ましい。また、酸化防止剤の含有量の上限は特に限定されるものではないが、組成物全量基準で、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0062】
消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。本発明の潤滑油組成物に消泡剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.0005〜1質量%であり、また、消泡剤がケイ素を含む場合、潤滑油組成物中のSi分が5〜50質量ppmとなる量であることが好ましい。
【0063】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系ポリマー等が使用できる。本発明の潤滑油組成物に流動点降下剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0064】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルを挙げることができる。本発明の潤滑油組成物に金属不活性化剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.005〜1質量%である。
【0065】
極圧剤としては、例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等を用いることができる。具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等を例示できる。本発明の潤滑油組成物に極圧剤を含有させる場合、その含有量は特に制限されるものではないが、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0066】
<潤滑油組成物>
本発明の潤滑油組成物の塩基価は15〜125mgKOH/g以上であり、好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは30mgKOH/g以上、さらに好ましくは40mgKOH/g以上であり、また好ましくは120mgKOH/g以下、より好ましくは105mgKOH/g以下、さらに好ましくは100mgKOH/g以下である。
潤滑油組成物の塩基価が15mgKOH/g未満では清浄性が不足するおそれがあり、また潤滑油組成物の塩基価が125mgKOH/gを超えると過剰な塩基成分がピストンに堆積して油膜形成を阻害し、ボアポリッシュやスカッフィングを引き起こすおそれがあるため好ましくない。
【0067】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は10〜30mm
2/sであり、好ましくは12mm
2/s以上、より好ましくは12.5mm
2/s以上、さらに好ましくは16.3mm
2/s以上、特に好ましくは18.0mm
2/s以上であり、また好ましくは27mm
2/s以下、より好ましくは26.1mm
2/s以下、さらに好ましくは21.9mm
2/s以下、特に好ましくは21.0mm
2/s以下である。
潤滑油組成物の100℃における動粘度が10mm
2/s未満では油膜形成能が不足し、リングおよびライナが焼きつくおそれがあるため好ましくない。また潤滑油組成物の100℃における動粘度が30mm
2/sを超える場合には高粘度により始動性が悪化するおそれがあるため好ましくない。
【0068】
本発明の潤滑油組成物は、下記の数式(1)で表されるPh値が20×10
−3以下であり、好ましくは19×10
−3以下、より好ましくは18×10
−3以下である。Ph値が上記上限値以下であることにより、抗乳化性が向上し、スクラバー内におけるスカム生成を抑制することが可能になる。
Ph値=C
Ca×2/(r
M×40.08) …(1)
(式(1)中、C
Caは(A)成分由来のカルシウム含有量(質量%)を表し、r
Mは(A)成分の金属比を表す。)
ここでいう(A)成分由来のカルシウム含有量(質量%)とは、本発明の潤滑油組成物中の、(A)成分のCaフェネート系清浄剤に由来するカルシウムの含有量を、潤滑油組成物全量基準の質量%で表した値を意味する。また、ここでいう(A)成分の金属比とは、(A)成分であるCaフェネート系清浄剤において、次の式に従って計算される値である。
(A)成分の金属比=(A)成分であるCaフェネート系清浄剤中のカルシウム含有量(質量%)/(A)成分であるCaフェネート系清浄剤中のせっけん基由来のカルシウム含有量(質量%)
【0069】
<シリンダ潤滑方法>
本発明の第2の態様に係るスクラバー搭載クロスヘッド型ディーゼル機関のシリンダ潤滑方法は、(i)本発明の第1の態様に係る潤滑油組成物を、スクラバーを備えるクロスヘッド型ディーゼル機関のシリンダに供給しながら、該クロスヘッド型ディーゼル機関を運転する工程と、(ii)シリンダから排出されたガスの少なくとも一部を、スクラバーにおいて浄化する工程とを含む。
【0070】
スクラバーを備えるクロスヘッド型ディーゼル機関としては、公知のものを特に制限なく採用できる(例えば特許文献1〜5参照)。本発明の第1の態様に係る潤滑油組成物をクロスヘッド型ディーゼル機関のシリンダに供給する方法は特に制限されるものではなく、クロスヘッド型ディーゼル機関における公知のシリンダ潤滑油供給方法を採用できる。スクラバーはEGRスクラバーであってもよく、スクラバーを通過したガスを吸入側に戻さずに環境に放出する態様のスクラバーであってもよく、それらの組み合わせであってもよい。ただし、本発明の第1の態様に係る潤滑油組成物の高められた抗乳化性が有利に作用する点で、スクラバーは、当該スクラバーに導入されたガスを水および/または塩基性水溶液に接触させることによりガスの浄化を行うスクラバーであることが好ましい。塩基性水溶液としては例えば、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属炭酸塩等の塩基が溶解した水溶液のほか、海水を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
<実施例1〜16、比較例1〜6、参考例1〜2>
表1〜3に示す配合処方の潤滑油組成物を調製し、抗乳化試験および高速乳化試験を実施した。結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3中、基油の量は、基油全量基準での含有量であり、添加剤の量は、組成物全量基準での含有量である。
【0073】
(基油)
基油1:溶剤精製基油、500N、100℃動粘度10.8mm
2/s、飽和分含有率62質量%
基油2:溶剤精製基油、ブライトストック、100℃動粘度31.8mm
2/s、飽和分含有率46質量%
【0074】
((A)成分)
A‐1:上記式(1)においてAがスルフィド基、x=1〜2、m=1〜2であるCaフェネート、塩基価250mgKOH/g、Ca含有量8.9質量%、金属比4.5、硫黄分3.5質量%
A‐2:上記式(1)においてAがスルフィド基、x=1〜3、m=1〜4であるCaフェネート、塩基価150mgKOH/g、Ca含有量5.4質量%、金属比2.7、硫黄分4.1質量%
A‐3:上記式(1)においてAがメチレン基、x=1〜3、m=1〜4であるCaフェネート、塩基価70mgKOH/g、Ca含有量2.5質量%、金属比1.3
【0075】
((B)成分)
B‐1:Caスルホネート、塩基価400mgKOH/g、Ca含有量15.5質量%、金属比20
B‐2:上記式(2)においてMがカルシウム、R
2が炭素数14〜18のαオレフィン由来のアルキル基、n=1〜2であるCaサリシレート、塩基価225mgKOH/g、Ca含有量8.2質量%、金属比3.1
【0076】
((C)成分)
C‐1:上記式(4)においてR
4がポリブテニル基、n=5であるポリイソブテニルコハク酸イミド、ビスタイプ、N含有量1.1質量%、Mw=2490、ポリブテニル基部分の重量平均分子量Mw=1000
C‐2:上記式(3)においてR
3がポリブテニル基、n=4であるポリイソブテニルコハク酸イミド、モノタイプ、N含有量2.0質量%、Mw=1000
【0077】
<評価方法>
(高速乳化試験)
スクラバー内での撹拌後の油−水分離過程を模したモデル実験である。
100mlメスシリンダーに水酸化ナトリウム水溶液(pH=12)を40gおよび試料油10gを採取した。ホモジナイザー(KINEMATICA製POLYTRON PT10-35、ジェネレーターシャフトPT36/4K)にメスシリンダーをセットし、15,000rpmにて5分間撹拌した後、ホモジナイザーをメスシリンダー上方に引き上げ5分間静置し、ホモジナイザーに付着した水分、オイルおよび乳化物をメスシリンダーに回収した。試験後のメスシリンダーを室温で1週間静置し、分離したオイル量により、次のように分離性を判定した。
分離オイル量10ml:評点3、
分離オイル量7.5ml以上10ml未満:評点2.5、
分離オイル量5ml以上7.5ml未満:評点2、
分離オイル量1ml以上5ml未満:評点1、
分離オイル量1ml未満:評点0
とし、評点2以上を合格、評点1以下を不合格とした。
【0078】
<評価結果>
実施例1〜15の潤滑油組成物は、高速乳化試験において良好な分離性を示した(表1及び2)。実施例13〜15の潤滑油組成物は、分散剤として作用する(C)成分を組成物全量基準で窒素分として0.015質量%以下含有していても、十分な抗乳化性を示した。Ph値が20×10
−3を超える比較例1〜3の組成物は、高速乳化試験においていずれも評点0(不合格)であり、分離性に劣っていた。また(C)成分の含有量が組成物全量基準で窒素分として0.015質量%を超える比較例4〜6の組成物は、Ph値は20×10
−3以下であるにも関わらず、高速乳化試験においていずれも評点0(不合格)であり、分離性に劣っていた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】