(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297479
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】刷版の固定装置
(51)【国際特許分類】
B41F 27/12 20060101AFI20180312BHJP
B41F 13/10 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
B41F27/12 A
B41F13/10 324
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-246965(P2014-246965)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-107501(P2016-107501A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000161057
【氏名又は名称】株式会社ミヤコシ
(72)【発明者】
【氏名】藤原 鈴司
(72)【発明者】
【氏名】戸巻 仁
(72)【発明者】
【氏名】小田嶋 和見
【審査官】
國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−091301(JP,A)
【文献】
特開2004−090378(JP,A)
【文献】
特開2012−166569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 27/12
B41F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪転機において版胴に巻き付けた刷版を固定する刷版の固定装置であって、刷版の咥側と咥尻側を差し込むために、版胴の外周に形成された軸方向に延びる刷版差し込み溝と、刷版の咥側と咥尻側の幅方向両側端部を、前記刷版差し込み溝内で重ね合わせて、咥尻側が当接する面である拘束面に押圧して固定するための版押さえ板と押さえボルトを備えた刷版の固定装置
【請求項2】
前記版胴が、回転軸と、回転軸に挿入、抜き出し自在に嵌合するようにして着脱自在に取り付けられたスリーブ胴とで構成され、このスリーブ胴の外周に前記刷版差し込み溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の刷版の固定装置。
【請求項3】
前記刷版差し込み溝の幅が、刷版の咥側と咥尻側の厚さの合計に0.1mmから0.2mmを加えた寸法であることを特徴とする請求項1に記載の刷版の固定装置。
【請求項4】
版押さえ板には押さえボルトのネジと同径のタップ穴が貫通しており、押さえボルトの首下の外径が、版押さえ板の板厚より長い区間で版押さえ板のタップ穴の内径より細くなっていることを特徴とする請求項1に記載の刷版の固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪転機において版胴に巻き付けた刷版を固定する、刷版の固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続紙に天地長さの異なる印刷画像を印刷するスリーブ胴交換式バリアブル印刷機が特許文献1で公知であるが、この種の印刷機は、版胴交換を手作業で行うので、極力スリーブ胴の肉厚を薄くして軽量化を図る必要があり、同公報の
図4、
図5には、刷版装着において版巻棒や版クランプを使用しない、刷版の咥側と咥尻側を溝に差込むだけの差込み式刷版が示されている。
【0003】
しかし、この方式は単に刷版の咥側と咥尻側を溝に差し込むだけなので、刷版の固定が不確実であった。特許文献2や、特許文献3には、金属,ゴム,樹脂、あるいは板バネ等の圧入部材を溝に圧入して刷版の固定を確実にするものが示されているが、幅方向全体に圧入部材を圧入することが困難であった。また、圧入部材の分だけ溝幅を広くする必要があるため、版胴の高速回転時に溝部でのバウンド(振動)や騒音、印刷障害を発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−91301号公報
【特許文献2】特開2012−166569号公報
【特許文献3】特開2002−326341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高速印刷時の版胴の溝部に起因する振動・騒音が少なく、版をより確実に固定できる、スリーブ胴等の軽量化が必要な版胴に適した刷版固定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による刷版の固定装置は、輪転機において版胴に巻き付けた刷版を固定する刷版の固定装置であって、刷版の咥側と咥尻側を差し込むために、版胴の外周に形成された軸方向に延びる刷版差し込み溝と、刷版の咥側と咥尻側の幅方向両側端部を、前記刷版差し込み溝内で重ね合わせて、咥尻側が当接する面である拘束面に押圧して固定するための版押さえ板と押さえボルトを備えたものである。
上記刷版の固定装置において、 前記版胴が、回転軸と、回転軸に挿入、抜き出し自在に嵌合するようにして着脱自在に取り付けられたスリーブ胴とで構成され、このスリーブ胴の外周に前記刷版差し込み溝が形成されている。
また、前記刷版差し込み溝の幅が、刷版の咥側と咥尻側の厚さの合計に0.1mmから0.2mmを加えた寸法である。
また、版押さえ板には押さえボルトのネジと同径のタップ穴が貫通しており、押さえボルトの首下の外径が、版押さえ板の板厚より長い区間で版押さえ板のタップ穴の内径より細くなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、刷版を版胴に装着後、刷版の幅方向両側端部を版押え板で版胴に固定するので、圧入部材を圧入するため版胴の溝幅を広げる必要がなく、高速印刷時に溝部でのバウンド(振動)や騒音、印刷障害が少なく、かつ版の固定が確実な、スリーブ胴等の軽量化が必要な版胴に適した刷版の固定装置にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による刷版の固定装置を有する版胴及び版胴装置の一例を示す断面図である。
【
図4】スリーブ胴3の刷版差し込み溝4を含んだ端面3aの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は版胴2を示し、版胴2は、本体フレーム1a、1bの軸受部材10、11で回転自在に支持される回転軸20と、スリーブ胴3とから構成される。スリーブ胴3は、筒体31の内周面に中心部分が円形に開口した円板状のリブ32を軸方向に間隔を置いて複数有してなる胴本体33から成り、回転軸20に挿入、抜き出し自在に嵌合するようにして着脱自在に取り付けられている。
【0010】
図2に示すように、版胴2のスリーブ胴3(胴本体33)においては、差し込み式の刷版5の咥側5aと咥尻側5bを差し込むための溝としてスリーブ胴3の外周に軸方向に延びる刷版差し込み溝4が形成されている。そして、
図3(a)に示すように刷版差し込み溝4に差し込み式の刷版5の咥側5aを挿入し、その差し込み式の刷版5を
図3(b)に示すようにスリーブ胴3の外周面に巻き付け、
図3(c)に示すように差し込み式の刷版5の咥尻側5bを刷版差し込み溝4に挿入することで、差し込み式の刷版5をスリーブ胴3の外周面に取り付けるようになっている。
【0011】
前述の刷版差し込み溝4は差し込み式の刷版5の咥側5aと咥尻側5bを挿入できる深さが必要であるが、前述のようにスリーブ胴3(筒体31)の肉厚は、軽量化のために薄いので、スリーブ胴3の内周面(筒体31の内周面)に溝加工用凸部41を軸方向に連続するようにして設け、その溝加工用凸部41に刷版差し込み溝4を形成することで、スリーブ胴3の肉厚が薄くとも所定の深さの刷版差し込み溝4を形成できるようにしてある。つまり、スリーブ胴3(筒体31)の肉厚よりも刷版差し込み溝4の深さが大きい。
【0012】
図4(a)は刷版差し込み溝4を含んだスリーブ胴3の端面3aの正面図、
図4(b)はその上面図で、差し込み式の刷版5は2点鎖線で示している。
図4(c)は同側面図で、端面3bも左右対称で同じ形状と構成になっていて、版幅Lの差し込み式の刷版5が、端面3a(端面3b)から距離L1だけ内側に位置するようにしてスリーブ胴3の外周面に巻き付けられ、その咥側5aと咥尻側5bが刷版差し込み溝4に差し込まれた状態を示している。
【0013】
図4(b)に示すように、刷版差し込み溝4のスリーブ胴3の円周方向の幅は、差し込み式の刷版5の咥側5aと咥尻側5bの厚さの合計に0.1mmから0.2mmを加えた寸法で極力狭くしている。極力狭くした刷版差し込み溝4に、折り曲げ加工等でスリーブ胴3の径方向に曲げ且つ円周方向にわずかに変形させた咥側5aと咥尻側5bを強制的に差し込むことで、咥側5aと咥尻側5bが、その変形箇所が版差し込み溝4の壁面に押しつけられて溝から外れ難くなるとともに、高速回転時における溝部でのバウンド(振動)や騒音、印刷障害を少なくすることができる。
【0014】
また、
図4(b)に示すように、差し込み式の刷版5の咥側5aと咥尻側5bの幅方向両側端部が、刷版差し込み溝4内で重ね合わせた状態で、版押さえ板6と押さえボルト7にて咥尻側5bが当接する面である拘束面4bに幅Nにわたり押圧され固定されるようになっているので、回転時に刷版5の咥側5aと咥尻側5bの刷版差し込み溝4への差し込みが緩んでも、刷版5が脱落することはない。なお、版押さえ板6の押圧力は、版押さえ板6と拘束面4bに介在する座金状のシム8の厚みを増減することで調整することもできる。
【0015】
図4(c)に示すように、スリーブ胴3には、刷版差し込み溝4の両端に連続して、拘束面4bに版押さえ板6と押さえボルト7を装着するための、押さえボルト7の頭部より大きなコーナーRがついた切り欠き9aと、拘束面4bに平行な切り欠き9bが設けてある。端面3aから距離L1の位置にある差し込み式刷版5の端縁は、切り欠き9aの垂直面より内側になっている。これは、切り欠き9aのところに刷版があってもそこにはスリーブ胴3の周面が存在しないので印圧が抜けて印刷にならないからである。また、切り欠き9aを設けるためにはそれに必要な分だけスリーブ胴3を軸方向に延長する必要があり、そうするとスリーブ胴3が重くなってしまうので、スリーブ版胴3の軽量化のため切り欠き9aのスリーブ胴3の軸方向の幅は最小限に抑えるのが望ましい。また、切り欠き9bは、
図4(b)のように、刷版差し込み溝4における拘束面4bの対面を、切り欠き9aの垂直面からN以上の長さで版押さえ板6が入る幅に切削して形成したものであるが、刷版差し込み溝4のスリーブ胴3の円周方向の幅が広い場合や、版押さえ板6が薄くできる場合は不要である。
【0016】
また、版押さえ板6には押さえボルト7のネジと同径のタップ穴6aが貫通しており、押さえボルト7の首下7aの外径は、版押さえ板6の板厚より長い区間でタップ穴6aの内径より細くなっている。この構成により、押さえボルト7を版押さえ板6のタップ穴6aにねじ込み、さらに拘束面4bのタップ穴4cにねじ込んだ
図4(b)の状態において、押さえボルト7は、版押さえ板6に拘束されず自由に回動できて
版押さえ板6の押圧力を調整できるとともに、抜け方向に対しては、押さえボルト7のネジと版押さえ板6のタップ穴6aが干渉し、かつ版押さえ板6がスリーブ胴3の切り欠き9aの縁部等に拘束されているので、押さえボルト7がスリーブ胴3から脱落することはない。
【符号の説明】
【0017】
1a、1b 本体フレーム
2 版胴
3 スリーブ胴
3a、3b スリーブ胴の端面
4 刷版差し込み溝
4b 拘束面
4c タップ
5 刷版
5a 咥側
5b 咥尻側
6 版押さえ板
7 押さえボルト
8 座金状のシム
9a 、9b 切り欠
10、11 軸受部材
20 回転軸
31 筒体
32 リブ
33 胴本体
41 溝加工用凸部