特許第6297643号(P6297643)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6297643ホルムアルデヒド滅菌インジケータ及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297643
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】ホルムアルデヒド滅菌インジケータ及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/22 20060101AFI20180312BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20180312BHJP
   G01N 21/77 20060101ALI20180312BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20180312BHJP
   A61L 2/28 20060101ALI20180312BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20180312BHJP
   A61L 101/32 20060101ALN20180312BHJP
【FI】
   G01N31/22 122
   G01N31/00 V
   G01N21/77 Z
   G01N21/78 Z
   A61L2/28
   A61L2/20 102
   A61L101:32
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-172912(P2016-172912)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-40584(P2018-40584A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2016年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】特許業務法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 信夫
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−235030(JP,A)
【文献】 特開2007−136035(JP,A)
【文献】 特開2012−050664(JP,A)
【文献】 特開平09−026420(JP,A)
【文献】 特開2012−245215(JP,A)
【文献】 特開2009−031273(JP,A)
【文献】 特開昭53−138393(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0211618(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第19846325(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/22
A61L 2/20
A61L 2/28
G01N 21/77
G01N 21/78
G01N 31/00
A61L 101/32
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内非水素結合性ナフトール水酸基を含有するナフトールスルホン酸類からなる変色成分を含み、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒド含有水蒸気のいずれとの接触によっても変色して滅菌完了を表示することを特徴とするホルムアルデヒド滅菌インジケータ。
【請求項2】
前記ナフトールスルホン酸類が、下記化学式(1)
【化1】
(化学式(1)中、Xは水素原子、水酸基、又はアミノ基であり、Yは水素原子、アミノ基又はSOMであり、Mは水素原子又はアルカリ金属である)で表わされるα−ナフトールスルホン酸類、
及び/又は下記化学式(2)
【化2】
(化学式(2)中、X、Y、及びMは前記化学式(1)に同じ)
で表されるβ−ナフトールスルホン酸類であることを特徴とする請求項1に記載のホルムアルデヒド滅菌インジケータ。
【請求項3】
前記ナフトールスルホン酸類が、1−ナフトール−3−スルホン酸、1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、4,6−ジヒドロキシナフタレン−2−スルホン酸、3,6−ジヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸、6−アミノ−1−ナフトール−3−スルホン酸、6−アミノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸、これらの塩、これらの水和物、及びこれらの塩の水和物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のホルムアルデヒド滅菌インジケータ。
【請求項4】
ベースシートに付されたインキ層に、前記変色成分が含まれていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のホルムアルデヒド滅菌インジケータ。
【請求項5】
前記インキ層が前記変色成分とこれを分散、溶解、及び/又は混合しているビヒクルとを含んでおり、前記インキ層中での前記変色成分の含有率を0.1〜40質量%としていることを特徴とする請求項4に記載のホルムアルデヒド滅菌インジケータ。
【請求項6】
前記ホルムアルデヒドガス及び前記ホルムアルデヒド含有水蒸気を透過する前記ベースシートとこれに向き合った可撓シートとが周縁で接合された接合部位を有し被滅菌物を収容する包装袋であり、前記インキ層が両シート間に挟まれ前記接合部位に付されていることを特徴とする請求項4に記載のホルムアルデヒド滅菌インジケータ。
【請求項7】
前記ホルムアルデヒドガス及び前記ホルムアルデヒド含有水蒸気を透過する前記ベースシートとこれに重なって接合されている可撓性又は非可撓性の被覆シートとの間に前記インキ層が挟まれている滅菌表示カードであることを特徴とする請求項4に記載のホルムアルデヒド滅菌インジケータ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のホルムアルデヒド滅菌インジケータを、被滅菌物とともにホルムアルデヒドガス滅菌処理又は低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌処理を施し、前記変色成分をホルムアルデヒドで変色させることにより、滅菌の程度及び/又は完了を表示することを特徴とするホルムアルデヒド滅菌インジケータの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器のような被滅菌物に滅菌を施すのに使用されるホルムアルデヒド滅菌の完了を表示するのに適したホルムアルデヒド滅菌インジケータ及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器のような被滅菌物の滅菌処理として、被滅菌物をホルムアルデヒドに接触させるという滅菌処理が採用されている。この滅菌処理として、低湿度下でホルムアルデヒドガスに被滅菌物を接触させるホルムアルデヒドガス滅菌処理と、高湿度下のホルムアルデヒド含有水蒸気に被滅菌物を接触させる低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌処理(Low Temperature Steam Formaldehyde;LTSF滅菌処理)とが挙げられる。
【0003】
ホルムアルデヒドガス滅菌処理は、滅菌室と加温装置とを有する滅菌器を用いて実施される。具体的に、ホルムアルデヒド水溶液を加温装置に注入し、これを加温することによって生じた低湿度ホルムアルデヒドガスを、被滅菌物を収容した滅菌室内に導入して滅菌処理を行う方法である。この滅菌処理方法によれば、25〜30℃という常温、約50〜60%RHの湿度、及び常圧の条件下で、被滅菌物は、ホルムアルデヒドガスに直接接触して滅菌される。
【0004】
LTSF滅菌処理は、滅菌室と加温装置と滅菌室内を減圧する真空ポンプとを有する滅菌器を用いて実施される。まず減圧乃至真空条件下、ホルムアルデヒド水溶液を加熱装置によって55〜80℃で沸騰させる。それにより生じた同温度範囲の多湿度の低温ホルムアルデヒド含有水蒸気で、被滅菌物を収容し減圧乃至真空に保たれた滅菌室内に吸引して満たし、滅菌室内を80%RH以上、具体的には95〜100%RHの高湿条件として滅菌処理を行う方法である。この滅菌処理方法によれば、被滅菌物は、ホルムアルデヒド含有水蒸気に接触して滅菌される。
【0005】
これらの滅菌処理において、滅菌処理が完了したとき、被滅菌物がホルムアルデヒドに万遍なく接触して完全に滅菌されたことを作業者等が認識できるように、ホルムアルデヒドに所定濃度で所定時間接触することによって不可逆的に変色して滅菌完了を表示するインキ層を有するホルムアルデヒド滅菌インジケータが用いられる。
【0006】
このインキ層を形成するためのインキとして、例えば特許文献1に、クロモトロプ酸二ナトリウムを含有するホルムアルデヒドガス滅菌処理用のインキ組成物が開示されている。クロモトロプ酸二ナトリウムは、常温よりも高い温度でホルムアルデヒド含有水蒸気と直ちに反応し、多湿下の水蒸気と高温との所為で極めて速やかに変色する。そのためホルムアルデヒドガス滅菌処理よりも高い温度で実施されるLTSF滅菌処理に使用すると、滅菌開始直後に滅菌処理完了前であるにも関わらず変色してしまい、被滅菌物の滅菌処理が不十分であっても完了と判断されてしまう。
【0007】
一方、特許文献2に、コンゴーレッド等の有機染料を含有するLTSF滅菌処理用の化学指示薬インキが開示されている。コンゴーレッドのようなジアゾ系芳香環を有する有機染料は、ホルムアルデヒド分子と媒体中で化合してπ−π遷移を生じて変色するため、変色には水蒸気のような水媒体を要する。そのため、比較的低湿条件下でホルムアルデヒドガスにより直接滅菌が施され湿気がホルムアルデヒドガスと有機染料との化合に関与し難いホルムアルデヒドガス滅菌に使用する際、所定の色調へ変色し難く、被滅菌物の滅菌処理が完了していても、未完了と判断されてしまう。それにより滅菌処理時間が無駄に延長されるので、この化学指示薬インキをホルムアルデヒドガス滅菌に用いることができない。
【0008】
またこの化学指示薬インキが、ホルムアルデヒドガスとの接触によって所定の色調に変色したとしても、ホルムアルデヒドガス滅菌完了後にホルムアルデヒドを中和するアンモニアが滅菌室内に導入されることによって生じる滅菌室内のpH変化に起因して、化学指示薬インキが変色前の色調に戻ってしまう。
【0009】
このように、これらのインキ組成物は、ホルムアルデヒドガス滅菌処理とLTSF滅菌処理とのいずれか一方にしか用いることができない。このため、各滅菌処理の都度、専用のホルムアルデヒド滅菌インジケータを使い分けるという煩雑な操作が必要であることに加えて、複数種のホルムアルデヒド滅菌インジケータを購入・保管・管理しなければならないので、取り扱いが複雑である。このことは、ホルムアルデヒド滅菌インジケータを取扱う作業者に、ホルムアルデヒド滅菌インジケータの選択ミスを生じさせ、滅菌完了を誤認させてしまう原因となっている。
【0010】
特許文献3に、ヒドラジン化合物と、ピリミジン化合物と、有機酸と、アミノ化合物とを変色成分として有するホルムアルデヒド滅菌用インジケータ組成物が、開示されている。このホルムアルデヒド滅菌用インジケータ組成物は、ホルムアルデヒドガス滅菌処理とLTSF滅菌処理とのいずれにも用いることができる。しかし、このホルムアルデヒド滅菌用インジケータは、保管中にホルムアルデヒド非存在下でもヒドラジン化合物の空気酸化や分解等の副反応を引き起こし易い。そこでそれを回避するため低温にして、冷蔵・冷凍して保管・輸送しなければならず、取り扱いが煩雑である。しかも、変色成分として複数種類の物質を用いているので、原材料管理や製造工程の複雑化及びコストの高騰を招来している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−26420号公報
【特許文献2】特開2003−222620号公報
【特許文献3】特開平7−55796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、ホルムアルデヒドガス滅菌処理とLTSF滅菌処理とのいずれの滅菌処理においても変色によって滅菌完了時を正確に検知して表示でき、冷蔵保管・冷蔵輸送が不要で、簡便かつ安価に歩留り良く製造できるホルムアルデヒド滅菌インジケータ、及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた、本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータは、分子内非水素結合性ナフトール水酸基を含有するナフトールスルホン酸類からなる変色成分を含み、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒド含有水蒸気のいずれとの接触によっても変色して滅菌完了を表示するものである。
【0014】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、前記ナフトールスルホン酸類が、下記化学式(1)
【化1】
(化学式(1)中、Xは水素原子、水酸基、又はアミノ基であり、Yは水素原子、アミノ基又はSOMであり、Mは水素原子又はアルカリ金属である)で表わされるα−ナフトールスルホン酸類及び/又は下記化学式(2)
【化2】
(化学式(2)中、X、Y、及びMは前記化学式(1)に同じ)で表されるβ−ナフトールスルホン酸類であってもよい。
【0015】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、前記ナフトールスルホン酸類が、1−ナフトール−3−スルホン酸、1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、4,6−ジヒドロキシナフタレン−2−スルホン酸、3,6−ジヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸、6−アミノ−1−ナフトール−3−スルホン酸、6−アミノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸、これらの塩、これらの水和物、及びこれらの塩の水和物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、ベースシートに付されたインキ層に、前記変色成分が含まれていてもよい。
【0017】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、前記インキ層が前記変色成分とこれを分散、溶解、及び/又は混合しているビヒクルとを含んでおり、前記インキ層中での前記変色成分の含有率を0.1〜40質量%としていることが好ましい。
【0018】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、前記ホルムアルデヒドガス及び前記ホルムアルデヒド含有水蒸気を透過する前記ベースシートとこれに向き合った可撓シートとが周縁で接合された接合部位を有し被滅菌物を収容する包装袋であり、前記インキ層が両シート間に挟まれ前記接合部位に付されていてもよい。
【0019】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、前記ホルムアルデヒドガス及び前記ホルムアルデヒド含有水蒸気を透過する前記ベースシートとこれに重なって接合されている可撓性又は非可撓性の被覆シートとの間に前記インキ層が挟まれている滅菌表示カードであることが好ましい。
【0020】
本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータの使用方法は、上記いずれかのホルムアルデヒド滅菌インジケータを、被滅菌物とともにホルムアルデヒドガス滅菌処理又は低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌処理を施し、前記変色成分をホルムアルデヒドで変色させることにより、滅菌の程度及び/又は完了を表示するというものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータによれば、変色成分であるナフトールスルホン類が非アゾ系で分子内非水素結合性ナフトール水酸基を含有するナフトールスルホン酸類であるので、常温で被滅菌物とホルムアルデヒドガスとが接触するホルムアルデヒドガス滅菌処理と、常温よりも高い温度で被滅菌物とホルムアルデヒド含有水蒸気とが接触するLTSF滅菌処理との双方に使用することができ、かつこれらの滅菌処理において不可逆的に所定の色調へ変色して滅菌の完了を正確かつ確実に表示するので、高い信頼性を有している。
【0022】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、変色成分がナフトールスルホン酸類のみからなるものであるので、低コストで速やかに、かつ簡便に製造することができる。
【0023】
しかも、このホルムアルデヒド滅菌インジケータは、常温・常湿で変色・変質せず、常温・常湿で輸送・保管することができ、取り扱いが簡便であり、作業者の負担を軽減できる。ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、変色成分の安定性に起因して、有効期間が長く、使用前に長期間保管でき、一方、使用して変色した後に長期間褪色しないので滅菌履歴の証拠として保存することができる。
【0024】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、ベースシートと可撓シートとの周縁部で互いに貼り付いた包装袋の接合部位で、両シートに変色成分含有インキ層が挟まれつつ付されているものであると、滅菌前後でインキ層が他の包装袋と擦れ合わないのでインキ層を損傷せず、さらにインキ層が被滅菌物と接触しないので被滅菌物を汚染せずに、滅菌の程度及び/又は完了を示すことができる。ホルムアルデヒド滅菌インジケータは、ベースシートと被覆シートとの間に変色成分含有インキ層が挟まれている滅菌表示カードであると、包装形状に関わりなく、また滅菌室の任意箇所に必要に応じて複数設置して、被滅菌物や包装材を汚染せずに、滅菌の程度及び/又は完了を示すことができる。
【0025】
本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータの使用方法によれば、ホルムアルデヒドガス滅菌処理、及びLTSF滅菌処理のいずれにおいても、複数種のホルムアルデヒド滅菌インジケータを使い分けることを要さないので、作業者に使用すべきインジケータの選択ミスを生じさせない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータである包装袋の一例を示す斜視図である。
図2図1に示すホルムアルデヒド滅菌インジケータのA−A線模式横断面図である。
図3】本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータである滅菌表示カードのホルムアルデヒド滅菌処理前及び処理後の平面図、並びにホルムアルデヒド滅菌インジケータのB−B線模式横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0028】
本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータの一例である包装袋の斜視図を図1に示す。同図に示すホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、ベースシート14と樹脂製で透明な可撓シート15とを有する大略矩形の滅菌バッグである。この滅菌バッグは、医療器具のような被滅菌物(不図示)を収容するものである。
【0029】
ベースシート14は、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒド含有水蒸気透過性で、かつ細菌不透過性の滅菌紙である。また可撓シート15は、ホルムアルデヒドガス、ホルムアルデヒド含有水蒸気、及び細菌不透過性の透明な樹脂フィルムである。ベースシート14と、可撓シート15とは、周縁部である側縁部12a及び下縁部12bの三辺で熱融着されて接合している。それによって両シート14,15は、側縁部12a及び下縁部12bで互いに貼り付いた接合部位12を有している。熱融着されていない一辺が開口部13である。可撓シート15は透明であるので、滅菌バッグであるホルムアルデヒド滅菌インジケータ10内に収容された被滅菌物が、これを通して視認される。
【0030】
ベースシート14の外面の中央部に第1インキ層11aが、付されている。側縁部12aで、第2インキ層11bが、ベースシート14と、可撓シート15とに挟まれて付されている。第1インキ層11aはリング形をなしており、第2インキ層11bは略矩形をなしている。これらのインキ層11は、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキによって形成されており、このインキ層11に、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒド含有水蒸気のいずれとの接触によっても変色する変色成分が含まれている。ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキは、変色成分と共に、ビヒクルや非変色成分の各種添加剤を含んで調製されていてもよい。インキ層は、第1インキ層11a及び第2インキ層11bのいずれか一方のみでもよい。
【0031】
この変色成分は、分子内非水素結合性ナフトール水酸基を含有するナフトールスルホン酸類からなっている。分子内非水素結合性ナフトール水酸基とは、同一のナフタレン環に結合した別な水酸基と水素結合を形成しない水酸基をいう。分子内非水素結合性ナフトール水酸基を有するナフトールスルホン酸類は、例えば下記化学式(1)
【化3】
(化学式(1)中、Xは水素原子、水酸基、又はアミノ基であり、Yは水素原子、アミノ基、又はSOMであり、Mは水素原子、又はLi、Na及びKのようなアルカリ金属である)や、下記化学式(2)
【化4】
(化学式(2)中、X、Y、及びMは化学式(1)に同じ)で表すことができるものである。
【0032】
化学式(1)で表されるα−ナフトールスルホン酸類、及び化学式(2)で表されるβ−ナフトールスルホン酸類として、具体的に、1−ナフトール−3−スルホン酸、1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、4,6−ジヒドロキシナフタレン−2−スルホン酸、3,6−ジヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸、3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸、6−アミノ−1−ナフトール−3−スルホン酸、及び6−アミノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸から選ばれる少なくとも一種のみからなる非アゾ系の特定のナフトールスルホン酸類又はジヒドロキシナフタレンスルホン酸類が挙げられる。これらのナフトールスルホン酸類は、塩であっても、水和物であっても、塩の水和物であってもよい。
【0033】
例えば、1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸二ナトリウム水和物である変色成分は、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒド含有水蒸気と未接触の状態で、白色を呈している。加温されたホルムアルデヒド水溶液から生じたホルムアルデヒドガスによって、常圧下、常温下、湿度50〜60%RHの条件で実施されるホルムアルデヒドガス滅菌処理が施されることにより、淡橙色を呈し、元の白色に戻らない。また、変色成分としての1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸二ナトリウム水和物は、減圧乃至真空下、温度55〜80℃、及び湿度80%RH以上の条件で実施されるLTSF滅菌処理が施されることにより、濃橙色を呈し、元の白色に戻らない。
【0034】
インキ層11に含まれる変色成分は、ホルムアルデヒドと接触して、例えば縮合、共縮合、重縮合、ジメチロール化することによって、π電子の非局在化状態が変化し、上記のように不可逆的に変色するものと考えられる。また変色成分は、比較的低湿かつ常温で行われるホルムアルデヒドガス滅菌処理において淡色系の色調を呈し、高湿かつ常温よりも高い温度で行われるLTSF滅菌処理において濃色系の色調を呈する。この濃淡は湿度と温度に依存していると推察される。
【0035】
このように、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒド含有水蒸気のいずれとの接触によっても反応して、不可逆的に変色し、滅菌処理後に褪色しない変色成分を含むインキ層11が付されているので、本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、滅菌処理が適正かつ十分に行われたことを正確かつ確実に示すことができ、その記録を保存することができる。またホルムアルデヒド滅菌インジケータ10だけで、ホルムアルデヒドガス滅菌処理と、LTSF滅菌処理との双方に使用することができ、呈する色の濃淡によって、どちらが実施されたのかを示すことができる。そのため、このホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、簡便に管理することができ、夫々の滅菌処理に応じて複数のインジケータを使い分けることを要さないので、作業者の作業負担を軽減できるとともに、インジケータの選択ミスを生じさせない。
【0036】
また、この変色成分は、常温下で空気中の酸素や水分によって、酸化したり吸湿したりせず、光や熱で劣化せず、変色・変質しない。そのため、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、冷蔵輸送や冷蔵保管を要さず、常温で輸送や保管をすることができ劣化せずに長期間ストックしておけるので、簡便に取り扱うことができる。またインキ層11は、変色成分として、上述したナフトールスルホン酸類の少なくとも一種を含んでいるだけで、ホルムアルデヒドガス滅菌処理と、LTSF滅菌処理との双方で変色して滅菌処理完了を示すことができるので、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、その変色成分の原材料の管理や製造工程を簡略化でき、極めて低コストで製造することができる。
【0037】
インキ層11は、ビヒクルを含んでおり、このビヒクルに、変色成分が、分散、溶解、及び/又は混合しているものであると、調製されたホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキをベースシート14に印刷するだけで、インキ層11を形成することができる。
【0038】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキが含むビヒクルとして、変色成分の変色を妨げず非変色性のもの、例えばアクリル樹脂、フェノール樹脂、ナイロン、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。市販のインキビヒクルであるPAS800メジウム(十条ケミカル株式会社製、商品名)、ハイセットマットメジウム(株式会社ミノグループ製、商品名)、であってもよい。ダイキュアAK(DIC株式会社製、商品名)、FDSニュー(東洋インキ株式会社製、商品名)、レイキュアTU4400(十条ケミカル株式会社製、商品名)、UVSPAクリヤー(帝国インキ製造株式会社製、商品名)、UV8418(株式会社セイコーアドバンス製、商品名)が挙げられる。
【0039】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキに、ビヒクルを溶解する溶媒が含まれていてもよい。このような溶媒は、例えば水、エタノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸イソアミル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、ジエチルベンゼン、トルエン、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ミネラルスピリット、さらにUV硬化樹脂を用いた場合には、感光性樹脂のモノマーが挙げられる。溶媒は、ビヒクルの種類や印刷の方法に応じて適宜選択される。
【0040】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキは、変色成分の色調変化が明瞭となるように、変色成分を分散させるタルク、炭酸マグネシウム、及びシリカのような分散剤が含まれていてもよい。さらに印刷適性を向上させる沈降防止剤、増粘剤、及び界面活性剤のような添加物が含まれていてもよい。
【0041】
必要に応じて、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキ中、変色成分以外に、発色増強剤として、例えばサリチル酸アンモニウム及び硫酸アンモニウムのようなアンモニウム塩類、塩酸エチルアミン及びアミノフェノールのようなアミン類、ベンゼンスルホンアミド及びニコチン酸アミドのようなアミド類、1,2,4−トリアゾール及び2−メルカプトベンゾチアゾールのような環状構造を持つ窒素化合物、並びに変色成分以外の有機硫黄化合物、例えばジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド、L−シスチン、及び2,2’−ジトリルチオ尿素のようなチオ尿素化合物が含まれていてもよい。
【0042】
このようなホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキによって形成されたインキ層11に対する変色成分の含有率は、0.1〜40質量%であることが好ましく、0.1〜30質量%であることがより好ましい。変色成分の含有率が、これらの範囲内であることにより、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10用は印刷適性に優れ、それにより形成されたホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、明瞭で一見にして識別可能な色調変化を示す。一方、0.1質量%未満であると、変色前後の色調変化が目立たず、40質量%を超えると、インキ層11を形成することができない。
【0043】
図2にホルムアルデヒド滅菌インジケータ10のA−A線模式横断面図を示す。ベースシート14に用いられる滅菌紙は、パルプ、フラッシュ紡糸されたポリエチレン不織布、又はこれらの混抄紙のような不織シートであり、40〜80g/mの目付を有していることが好ましい。ベースシート14は、ホルムアルデヒドガス、及びホルムアルデヒド含有水蒸気を透過し、細菌を透過しない材料であればよく、これらの特性を有する多孔性の樹脂フィルムであってもよい。
【0044】
可撓シート15は、外側フィルム15aとラミネート層15bと内側フィルム15cとが、この順で貼り合わされて一体化しているものである。外側フィルム15aは、5〜20μm、好ましくは8〜15μmの厚さを有する透明な二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。内側フィルム15cは、15〜100μm好ましくは20〜40μmの厚さを有する透明な無延伸ポリプロピレン(PP)フィルム又は低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムである。
【0045】
ラミネート層15bは、外側フィルム15aと内側フィルム15cとの間に介在しており、例えば、ポリエステルポリオール−イソシアネート系の2液型接着剤が外側フィルム15a又は内側フィルム15cに塗布された透明な接着層である。
【0046】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、以下のように製造される。
【0047】
まず、変色成分とビヒクルとを、ボールミル、ロールミル、サンドミル、及び/又はライカイ機のような分散機に投入して混合することによって、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキを調製する。変色成分は、ビヒクルに溶解していることが好ましい。それによれば、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10がホルムアルデヒドガス滅菌処理及びLTSF滅菌処理に供されることにより、インキ層11a,11bの全体が均一にするので、インキ層11a,11bの変色前後の色彩差が目立ち、視認性を向上させることができる。変色成分をビヒクルに分散させてもよい。それによれば、ビヒクルに分散された変色成分がこれに被覆されていることにより、変色成分の粒子表面が確りと保護されたり、平滑となって光の乱反射が防止されたりするので、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10がより一層常温条件下での輸送・保管に優れた安定性を示したり、鮮明な色彩を示して視認し易くなったりする。ビヒクルは、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒドガス含有蒸気を透過するものであることが好ましい。またビヒクルと変色成分とを混合した後、溶媒を加えることによって、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキに各種印刷に適した粘度を付与してもよい。
【0048】
次いで、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキを、ベースシート14の素材である滅菌紙の一方の外向き面での中央部とその他方の内向き面での向かい合う二辺とに、印刷により付して、必要により溶剤を揮発させて、リング形状の第1インキ層11aと、矩形状の第2インキ層11bとを形成する。
【0049】
外側フィルム15aの一方の面に、接着剤を塗布してラミネート層15bを形成し、そこへ内側フィルム15cを、ドライラミネーション法によって貼り合わせ、可撓シート15を作製する。
【0050】
第2インキ層11bと、内側フィルム15cとを向き合わせて、ベースシート14と可撓シート15とを重ね、これらを周縁部の三辺にヒートシールを施して熱融着する。それにより、両シート15,16が互いに接合した下縁部12b、及び第2インキ層11bを挟みつつ接合した側縁部12aである接合部位12を形成して、滅菌バッグ状のホルムアルデヒド滅菌インジケータ10を得る。
【0051】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10の使用方法を、図1及び2を参照しつつ説明する。
【0052】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、冷蔵されることなく、常温条件下で輸送及び保管される。作業者によって例えば鋏、メス、及びピンセットのような医療器具である被滅菌物が、開口部13からホルムアルデヒド滅菌インジケータ10に収容され、開口部13の下縁部12b寄りで、ベースシート14と可撓シート15とがヒートシーラによって熱溶着される。その後、必要に応じ常温条件下で輸送及び保管され又は速やかに、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10に収容されたままの被滅菌物に、ホルムアルデヒド滅菌処理が施される。
【0053】
まず、ホルムアルデヒドガス滅菌処理が施される場合を、説明する。被滅菌物を収容したホルムアルデヒド滅菌インジケータ10が、滅菌器の滅菌室内の棚(不図示)に載置される。滅菌器の扉が閉められて滅菌室が密閉された後、滅菌器の加温装置に12質量%のホルムアルデヒド水溶液が注入され、加温により生じたホルムアルデヒドガスが滅菌室内に導入される。ホルムアルデヒドガスは、加温装置と滅菌室とを繋ぐ導入路で温度低下を生じる。それにより常温の滅菌室内が2000ppmのホルムアルデヒド雰囲気となる。なお、ホルムアルデヒド水溶液の加温時に、加温装置内を20〜90kPaに減圧してもよい。このとき、滅菌室内は少なくとも90kPaにまで加圧されていることが好ましい。
【0054】
この雰囲気が、180分間維持される。それにより、被滅菌物に滅菌処理が施されるとともに、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10のインキ層11に含まれる変色成分は、水溶媒や有機溶媒等の溶媒の非存在下、ホルムアルデヒドガス雰囲気下で、例えば白色から淡橙色に変色する。その結果、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、インキ層11の変色として、目視できるようになり、ホルムアルデヒドガス滅菌が完了したことを検知できる。
【0055】
その後滅菌室内の残留ホルムアルデヒドガスが除去される。作業者によって滅菌器の扉が開かれ、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10が、被滅菌物とともに取り出される。ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、第1インキ層11aと第2インキ層11bとを有しているので、作業者が僅かにホルムアルデヒド滅菌インジケータ10を手で掴んで傾ける。ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10が、所定の色調に変色していることを目視するだけで、滅菌処理が適正な条件下で、確実に施されたことを、速やかに確認することができる。それによって、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、作業者の作業負担を軽減している。
【0056】
次いで、LTSF滅菌処理が施される場合を、説明する。ホルムアルデヒドガス滅菌処理と同様に、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10が滅菌室の棚に載置される。その後、密閉された滅菌室内が真空乃至5〜25kPaに減圧されるとともに、55〜70℃に保たれる。ホルムアルデヒド水溶液(ホルムアルデヒド濃度2〜38質量%)の超音波による沸騰で生じたホルムアルデヒド含有水蒸気が滅菌室内に導入される。滅菌室内が、55〜70℃の温度、80%RH以上の湿度に45分間維持される。それにより、被滅菌物に滅菌処理が施されるとともに、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10のインキ層11に含まれる変色成分は、ホルムアルデヒドガス含有蒸気雰囲気下で、例えば白色から濃橙色に変色する。さらに、滅菌室内にアンモニアが導入され、ホルムアルデヒドが中和された後、作業者によって滅菌器の扉が開かれ、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10が、被滅菌物とともに取り出される。このとき、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は白色に戻っていないので、作業者は、濃橙色に変色したホルムアルデヒド滅菌インジケータ10を目視するだけで、LTSF滅菌処理が完了し滅菌処理が確実に行われたことを確認できる。
【0057】
ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、図1及び2で示した滅菌バッグの他、ベースシートにインキ層が付されたシート、容器、及びコンテナであってもよい。
【0058】
図3にホルムアルデヒド滅菌インジケータ10である滅菌表示カードの平面図を示す。同図(a)は変色成分の変色前を、同図(b)はそれの変色後を、夫々示している。また同図(c)に、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10のB−B線模式横断面図を示す。滅菌表示カードは、平面で矩形をなしている薄型のカードである。
【0059】
図3(c)に示すように、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、ホルムアルデヒドガス及びホルムアルデヒド含有水蒸気を透過する滅菌紙であるベースシート14と、これの一方の面に重なった熱可塑性樹脂製の被覆シートである可撓シート15とを、有している。可撓シート15は、透明な1枚のポリプロピレンフィルムである。変色成分を含むインキ層11は、印刷層16に囲まれつつベースシート14に付され、これと可撓シート15とに挟まれている。それによりインキ層11は、輸送・保管時の擦傷や水濡れから保護されている。ベースシート14と可撓シート15とは、熱融着によって互いに貼り付いている。
【0060】
同図(a)に示すように、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10の短辺の一つに寄った位置に、「OK」の文字を描くように付されている。この状態で、インキ層11に含まれている変色成分は、ベースシート14と同色を呈しているので、可撓シート15を通して視認されない。
【0061】
滅菌表示カードであるホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、常温で輸送や保管がされた後、被滅菌物にホルムアルデヒドガス滅菌処理又はLTSF滅菌処理が行われる際、被滅菌物とともに滅菌室内に載置される。ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10が、ホルムアルデヒドガス又はホルムアルデヒド含有水蒸気のホルムアルデヒドと反応することによって、変色成分が変色し、変色成分がベースシート14と異なる色調を呈する。それにより「OK」の文字が視認可能に現れて、滅菌処理が被滅菌物に、適正にかつ確実に施された結果、滅菌処理の完了が表示される。
【0062】
インキ層11に含まれる変色成分は接触するホルムアルデヒドの濃度や接触時間に依存して淡色から濃色へと変化する。例えば、滅菌の進行の程度と変色成分の濃淡とを対応させた標準色と、滅菌処理によって変色成分が呈する色調とを対比し、ホルムアルデヒド滅菌の完了に加えて、滅菌の程度や度合いを表示するように、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10を用いてもよい。ホルムアルデヒド滅菌インジケータ10は、化学インジケータとして、滅菌の適否を培養による細菌増殖の有無で検知する生物学的検出結果と同様な結果を示す。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1−1)
ビヒクルとしてアクリル樹脂の50gに、溶剤としてブチルセロソルブの50gを、加えて混合してビヒクルを溶解した。これに変色成分として1−ナフトール−3−スルホン酸ナトリウムの1gを加えてボールミルポットに投入・混練して、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキを調製した。これをベースシートである矩形の滅菌紙にスクリーン印刷し、変色成分を含むインキ層を形成した。インキ層を乾燥させて溶剤を揮発させた後、このインキ層を挟むように、ポリプロピレン製の保護シートをベースシートに重ねて全面をヒートシーラで熱融着し、滅菌表示カードである実施例1−1のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0065】
(実施例1−2〜1−7)
変色成分の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして滅菌表示カードである実施例1−2〜1−7のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0066】
【表1】
【0067】
(実施例2−1)
変色成分量を30gとしたこと以外は、実施例1−1と同様にして滅菌表示カードである実施例2−1のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0068】
(実施例2−2〜2−7)
変色成分の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例2−1と同様にして滅菌表示カードである実施例2−2〜2−7のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0069】
【表2】
【0070】
(実施例3−1)
ビヒクルとしてポリエステルアクリレート系UV硬化樹脂を用い、溶剤として酢酸エチルを用いたこと、及びスクリーン印刷に代えて凸版印刷としたこと以外は、実施例1−1と同様にして滅菌表示カードである実施例3−1のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0071】
(実施例3−2〜3−7)
変色成分の種類を表3に示すように変更したこと以外は、実施例3−1と同様にして滅菌表示カードである実施例3−2〜3−7のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0072】
【表3】
【0073】
(実施例4−1)
変色成分量を30gとしたこと以外は、実施例3−1と同様にして滅菌表示カードである実施例4−1のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0074】
(実施例4−2〜4−7)
変色成分の種類を表4に示すように変更したこと以外は、実施例4−1と同様にして滅菌表示カードである実施例4−2〜4−7のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0075】
【表4】
【0076】
(実施例5−1)
ビヒクルとしてウレタン樹脂の15gに、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)の7gを、加えて混合してビヒクルを溶解した。これに変色成分として1−ナフトール−3−スルホン酸ナトリウムの0.1gを加えてボールミルポットに投入・混練し、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキを調製した。これを矩形のベースシートである滅菌紙の一方の面に、リング形を描くようにグラビア印刷して、第1インキ層を付した。この滅菌紙の他方の面に、矩形を描くようにグラビア印刷して、第2インキ層を付した。第1インキ層が外側となるように滅菌紙と可撓シートとを重ね、これらを周縁部の三辺にヒートシールを施して熱融着して接合部位を形成し、滅菌バッグである実施例4−1のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0077】
(実施例5−2〜5−7)
変色成分の種類を表5に示すように変更したこと以外は、実施例5−1と同様にして滅菌バッグである実施例5−2〜5−7のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0078】
【表5】
【0079】
(実施例6−1〜6−7)
各変色成分量を5gとしたこと以外は、実施例5−1〜5−7と夫々同様にして、滅菌バッグである実施例6−1〜6−7のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0080】
【表6】
【0081】
(比較例1)
特許文献3に準拠し、ビヒクルとしてPAS800メジウム(十条ケミカル株式会社製、商品名)に、溶剤としてブチルセロソルブ30gを加えて混合してビヒクルを溶解した。これに変色成分として硫酸ヒドラジンの20g、4,6−ジメチル−2−ヒドロキシピリミジンの5g、マレイン酸の5g、及びスルファニル酸の5gを加えてボールミルに投入し、72時間混練して、ホルムアルデヒド滅菌インジケータ用インキを調製した。この後、実施例1−1と同様に操作して、比較例1のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0082】
(比較例2)
Tempil社製のホルムアルデヒド滅菌用のインキ(商品名:Tempilink TIFGFRG492)を矩形の滅菌紙にフレキソ印刷し、インキ層を形成した。この後、実施例1と同様に操作して、比較例2のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0083】
(比較例3)
比較例3のホルムアルデヒド滅菌インジケータとして、gke社製の滅菌カード(商品名:Self-adhesive package monitoring indicator)を用いた。
【0084】
(比較例4)
比較例4のホルムアルデヒド滅菌インジケータとして、福沢商事株式会社から購入したACE testバイオロジカルインジケータ付属のケミカルインジケータ(商品名:ACE test バイオロジカルインジケータ(ホルマリン滅菌用)に付属しているケミカルインジケータ)を用いた。
【0085】
(比較例5)
変色成分としてクロモトロプ酸二ナトリウムを用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、比較例5のホルムアルデヒド滅菌インジケータを作製した。
【0086】
(ホルムアルデヒドガス滅菌処理試験)
実施例1−1〜1−7、及び比較例1〜5のホルムアルデヒド滅菌インジケータを、ホルムアルデヒドガス滅菌器(株式会社メディエート製、商品名:エコパルザーPS−140R)内に重ならないように並べて載置した。その後、滅菌室を密閉し、滅菌室内のホルムアルデヒド濃度が2000ppmとなるようにホルムアルデヒド水溶液を滅菌器の加温装置に注入して50℃に加温し、ホルムアルデヒドを気化させ、滅菌室内の湿度を50〜60%RHに維持しつつ180分間保持した。次いで、滅菌室内の残留ホルムアルデヒドガスを除去した後に、すべてのホルムアルデヒド滅菌インジケータを取り出し、目視にて変色の有無を確認した。
【0087】
(LTSF滅菌処理試験)
実施例1−1〜1−7、及び比較例1〜5のホルムアルデヒド滅菌インジケータを、LTSF滅菌器(GETINGE社製、商品名:HS66TurboLTSF)内に重ならないように並べて載置した。その後、滅菌室内を密閉して、ホルムアルデヒド含有水蒸気(ホルムアルデヒドの濃度2%)を滅菌室内に導入し、滅菌室内の湿度を80%RH以上、温度を55℃に維持しつつ45分保持した。次いで、滅菌室内の残留ホルムアルデヒド含有水蒸気を除去した後に、すべてのホルムアルデヒド滅菌インジケータを、取り出し、目視にて変色の有無を確認した。
【0088】
(保管加速試験)
実施例1−1〜1−7、及び比較例1〜5のホルムアルデヒド滅菌インジケータを、温度40℃、湿度80%RHに保たれた恒温恒湿槽内に重ならないように並べ、6か月間放置するという保管加速試験を行った。その後、すべてのホルムアルデヒド滅菌インジケータを、取り出し、目視にて変色の有無を確認した。
【0089】
なお、比較例1のホルムアルデヒド滅菌インジケータのみ、保管加速試験を経たサンプルをホルムアルデヒド滅菌処理試験及びLTSF滅菌処理試験に供した。
【0090】
ホルムアルデヒドガス滅菌処理試験、LTSF滅菌処理試験、及び保管加速試験の結果を表7にまとめて示す。表7中、ホルムアルデヒドガス滅菌処理試験、及びLTSF滅菌処理試験について、○は変色ありを示し、×は所定の色調以外への変色又は滅菌未完了時に既に所定の色調への変色を示し、××は変色なしを示している。保管加速試験について、○は異常変色なしを、×はホルムアルデヒド非接触で変色したという異常変色ありを夫々示している。
【0091】
【表7】
【0092】
表7に示すように、本発明を適用した実施例1−1〜1−7のホルムアルデヒド滅菌インジケータは、ホルムアルデヒドガス滅菌処理とLTSF滅菌処理との双方の滅菌処理に使用できるとともに、常温で保管できるものであった。一方、比較例1〜5に示すように従来のホルムアルデヒド滅菌インジケータは、保管加速試験を経ることにより劣化したため、ホルムアルデヒドに曝さなくとも変色してしまったり、ホルムアルデヒドガス滅菌処理の完了を表示できなかったり、LTSF滅菌処理の完了前に変色したりしたため、ホルムアルデヒド滅菌インジケータとして、汎用性に欠けるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータは、常温で輸送・保管された後、ホルムアルデヒドガス滅菌処理とLTSF滅菌処理との双方の滅菌処理に使用される。
【0094】
本発明のホルムアルデヒド滅菌インジケータの使用方法は、常温で輸送・保管した後、ホルムアルデヒドガス滅菌処理とLTSF滅菌処理とのいずれの滅菌処理であっても適用できる。
【符号の説明】
【0095】
10はアルデヒド滅菌インジケータ、11はインキ層、11aは第1インキ層、11bは第2インキ層、12は接合部位、12aは側縁部、12bは下縁部、13は開口部、14はベースシート、15は可撓シート、15aは外側フィルム、15bはラミネート層、15cは内側フィルム、16は印刷層である。
図1
図2
図3