特許第6297644号(P6297644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297644
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20180312BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20180312BHJP
   F16D 47/04 20060101ALI20180312BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   B62D5/04
   F16D41/08 Z
   F16D47/04
   F16D27/112 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-173488(P2016-173488)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-39319(P2018-39319A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2018年1月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕之
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−160064(JP,U)
【文献】 特開2011−116214(JP,A)
【文献】 特開2015−090189(JP,A)
【文献】 特開2010−221995(JP,A)
【文献】 特開2009−248762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
F16D 27/112
F16D 41/08
F16D 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸(3)と出力軸(6)との間の回転の伝達と遮断を切り替える2方向クラッチ(10)と、
前記2方向クラッチ(10)の切り替え操作を行うアーマチュア(31)と、前記アーマチュア(31)に対向して設けられるロータ(32)と、前記ロータ(32)に対向して設けられ、このロータ(32)に前記アーマチュア(31)を吸着する磁力を与える電磁コイル(33)と、を備えた電磁クラッチ(30)と、
前記ロータ(32)に磁界を印加する反力モータステータ(40)と、
を有する回転伝達装置。
【請求項2】
前記電磁コイル(33)への通電に伴って前記ロータ(32)に磁極を形成した上で、前記反力モータステータ(40)のコイル(42)への通電によって回転磁界を形成し、前記入力軸(3)に対して軸回りに力を生じさせる請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記ロータ(32)の前記電磁コイル(33)に対向する面にクローポール型の磁極対が形成された請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記反力モータステータ(40)が、前記電磁コイル(33)の径方向外側に配置された請求項1から3のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
ステアリングシャフト(2)と一体に回転する前記入力軸(3)とステアリング装置(5)に接続された前記出力軸(6)との間の回転の伝達と遮断を切り替えるとともに、前記入力軸(3)に操舵反力を与え得る自動車用ステアバイワイヤ装置に用いられる請求項1から4のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力軸から出力軸への回転の伝達と遮断を切り替える回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転伝達装置は、ステアバイワイヤ方式を採用した車両のように、運転者のステアリング操作によって軸周りに回転する入力軸(操舵軸)と、車輪を左右に転舵するステアリング装置に接続された出力軸(転舵軸)との断続を切り替え可能な機構に採用されることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1に係る構成においては、入力軸と出力軸との間の、回転の伝達と遮断を切り替えるクラッチと、転舵装置を駆動して左右の車輪を転舵する転舵モータを備えている。このクラッチは、通常時には遮断されており、入力軸と出力軸は機械的に非連結の状態となっている。この状態で、運転者がステアリング操作を行うと、その操作量が入力軸に設けられた転舵角センサ及び転舵トルクセンサで検知され、各センサによる検知量に基づいて、反力モータ制御部が、反力モータを駆動して入力軸に操舵反力を付与し、運転者に自然な操舵感を与えるとともに、転舵モータ制御部が、転舵モータを駆動して左右の車輪を転舵する。そして、反力モータ等に何らかの不具合が生じたときには、クラッチが入力軸側から出力軸側への回転伝達が可能な連結状態に切り替えられ、通常のステアリング装置と同様に、運転者のステアリング操作に基づく車輪の転舵を可能としている。
【0004】
また、特許文献2に係る構成においては、クラッチと反力モータを一体化することによって、回転伝達装置全体としてのコンパクト化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−221588号公報
【特許文献2】特開2015−189346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に係る構成においては、クラッチと反力モータが別部材となっているため、構成全体としてのコンパクト化や軽量化が困難である問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、ステアバイワイヤ方式の回転伝達装置のコンパクト化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、この発明においては、入力軸と出力軸との間の回転の伝達と遮断を切り替える2方向クラッチと、前記2方向クラッチの切り替え操作を行うアーマチュアと、前記アーマチュアに対向して設けられるロータと、前記ロータに対向して設けられ、このロータに前記アーマチュアを吸着する磁力を与える電磁コイルと、を備えた電磁クラッチと、前記ロータに磁界を印加する反力モータステータと、を有する回転伝達装置を構成した。
【0009】
この構成によると、電磁クラッチの構成部品であるロータを、反力モータ用のロータとして共用することができ、電磁クラッチと反力モータを個別に構成する場合と比較して部品点数を削減することができる。このため、クラッチと反力モータの両機能を確保しつつ、構成全体としてのコンパクト化及び軽量化を図ることができる。
【0010】
前記構成においては、前記電磁コイルへの通電に伴って前記ロータに磁極を形成した上で、前記反力モータステータのコイルへの通電によって回転磁界を形成し、前記入力軸に対して軸回りに力を生じさせる構成とするのが好ましい。この構成によると、電磁クラッチを作動させるために電磁コイルによってロータに与えた磁力の一部が、反力モータの駆動のために用いられる。このため、クラッチと反力モータに対して個別に電力供給を行った場合と比較して、トータルの消費電力を低減することができ、バッテリの小容量化による車両のさらなる軽量化を図ることができる。
【0011】
前記各構成においては、前記ロータの前記電磁コイルに対向する面にクローポール型の磁極対が形成された構成とするのが好ましい。このように、ロータにクローポール型の磁極対を形成することによって、その数に対応した磁極を高い密度で形成することができ、ロータの小型化を図ることができる。
【0012】
前記各構成においては、前記反力モータステータが、前記電磁コイルの径方向外側に配置された構成とするのが好ましい。このように、反力モータステータを配置することにより、軸方向の長さがコンパクトになり、例えば、軽自動車等の小型乗用車にも、この回転伝達装置を容易に搭載することができる。
【0013】
前記各構成に示す回転伝達装置は、ステアリングシャフトと一体に回転する前記入力軸とステアリング装置に接続された前記出力軸との間の回転の伝達と遮断を切り替えるとともに、前記入力軸に操舵反力を与え得る自動車用ステアバイワイヤ装置に採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る回転伝達装置は、電磁クラッチの構成部品であるロータを、反力モータ用のロータとして共用する構成としたので、電磁クラッチと反力モータを別部材として構成した場合と比較して、部品点数の削減を図ることができる。このため、回転伝達装置のコンパクト化・軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明に係る回転伝達装置の一実施形態を示す縦断面図
図2図1に示す回転伝達装置を採用したステアリング機構を示す正面図
図3】(a)は図1中のIII−III線に沿う断面図であって、2方向クラッチのフリー状態、(b)は2方向クラッチのスタンバイ状態
図4図1中のIV−IV線に沿う断面図
図5図4中のV−V線に沿う断面図であって、(a)はボールがカム溝の溝深さの最も深いところに位置している状態、(b)はボールがカム溝の溝深さの浅いところに向かって転がり移動した状態
図6図1中のVI−VI線に沿う断面図
図7図6中のVII−VII線に沿う断面図
図8図1に示す回転伝達装置に採用したロータの斜視図
図9】(a)は図1中のIX−IX線に沿う断面図、(b)は(a)の要部断面図
図10図1に示す回転伝達装置の要部を示す縦断面図であって、(a)は電磁コイルに通電した状態、(b)は電磁コイルへの通電を遮断した状態
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る回転伝達装置1の一実施形態を図1から図10を用いて説明する。この回転伝達装置1は、図1及び図2に示すように、ステアリングシャフト2と一体に回転する入力軸3(操舵軸)と、車輪4を左右に転舵するステアリング装置5に接続された出力軸6(転舵軸)との間の回転の伝達と遮断を切り替えるとともに、入力軸3に操舵反力を与え得る自動車用ステアバイワイヤ装置に用いられる。
【0017】
この回転伝達装置1は、2方向クラッチ10と、電磁クラッチ30と、反力モータステータ40を主要な構成要素としている。この2方向クラッチ10、電磁クラッチ30、及び、反力モータステータ40は、ハウジング50内に収納されている。
【0018】
2方向クラッチ10は、図1及び図3に示すように、出力軸6の軸端部に設けられ、その内周に円筒面11aが形成された外輪11と、入力軸3の軸端部に設けられ、その外周に周方向等間隔に複数のカム面12aが形成された内輪12と、円筒面11aとカム面12aの間に配置された係合子としての一対のローラ13、13と、一対のローラ13、13の間に配置され、この一対のローラ13、13を互いに周方向逆向きに付勢する付勢部材14と、各ローラを保持する保持器15と、を備える。
【0019】
カム面12aは、周方向の両端部に形成された傾斜面12a、12aと、両傾斜面12a、12aの間に形成された内輪12の接線に沿う平坦面12aとで構成されている。両傾斜面12a、12aの周方向外側には、後述する保持器15の柱部15a、15bが配置される。そして、外輪11と内輪12の間には、周方向の中央部と比較して、両側ほど円筒面11aとカム面12aとの間の径方向隙間が狭くなる楔空間が形成される。
【0020】
保持器は15、図1に示すように、制御保持器15aと回転保持器15bとからなる。制御保持器15aは、環状のフランジ15aの片面外周部に、カム面12aの数と同数の柱部15aを周方向に等間隔に設け、その隣り合う柱部15a、15aの間に、円弧状の長孔15aを形成するとともに、外周に柱部15aと反対向きに筒部15aを設けた構成となっている。回転保持器15bは、環状のフランジ15bの外周に、カム面12aの数と同数の柱部15bを周方向に等間隔に設けた構成となっている。
【0021】
制御保持器15aと回転保持器15bは、制御保持器15aの長孔15a内に回転保持器15bの柱部15bが挿入されて、図3(a)及び図4に示すように、制御保持器15aの柱部15aと回転保持器15bの柱部15bが周方向に交互に並ぶよう組み合わされている。そして、その組み合わせ状態で柱部15a、15bの先端部が外輪11と内輪12間に配置され、制御保持器15aのフランジ15a及び回転保持器15bのフランジ15bが、入力軸3の外周に嵌合された支持リング16と外輪11間に組み込まれている。
【0022】
このように制御保持器15aと回転保持器15bを組み込むことによって、制御保持器15aの柱部15aと回転保持器15bの柱部15bとの間には、ポケット17が形成される。このポケット17は、内輪12に形成されたカム面12aと径方向に対向している。一対のローラ13、13はこのポケット17内に配置され、この一対のローラ13、13の間に付勢部材14が配置される。
【0023】
図1に示すように、制御保持器15aのフランジ15aは、入力軸3の外周に形成されたスライド案内面3aに沿ってスライド自在に支持されている。回転保持器15bのフランジ15bと入力軸3に嵌合された支持リング16間には、スラスト軸受18が組み込まれている。このスラスト軸受18は、回転保持器15bが電磁クラッチ30側に移動するのを防止するとともに、この回転保持器15bを回転自在に支持している。
【0024】
図1及び図4に示すように、制御保持器15aのフランジ15aと回転保持器15bのフランジ15b間には、制御保持器15aの軸方向への直線運動を、制御保持器15aと回転保持器15bの相対的な回転運動に変換する運動変換機構としてのトルクカム19が設けられている。図5(a)、(b)に示すように、このトルクカム19は、制御保持器15aのフランジ15aと回転保持器15bにおけるフランジ15bの対向面それぞれに、周方向の中央部で深く、両端に向かうほど浅くなる一対のカム溝19a、19bを有し、その一対のカム溝19a、19b間に、ボール19cを組み込んだ構成となっている。
【0025】
制御保持器15aのフランジ15aに対し、回転保持器15bのフランジ15bに接近する方向の外力が作用して、この制御保持器15aが軸方向に移動すると、図5(a)に示すように、ボール19cが、カム溝19a、19bの溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動する。このとき、回転保持器15bは、制御保持器15aに対して一方向に相対回転する。この相対回転によって、制御保持器15aの柱部15aと回転保持器15bの柱部15bとの間の間隔が狭くなり、一対のローラ13、13が付勢部材14の付勢力に抗して互いに接近する。すると、一対のローラ13、13は、ポケット17内に形成された楔空間の径方向隙間が広い場所(周方向の中央付近)に移動し、ローラ13と円筒面11a又はカム面12aの少なくとも一方との間(図3(a)においては円筒面11aとの間)に隙間が生じる。この隙間によって、入力軸3と出力軸6との間の回転伝達は遮断される。
【0026】
その一方で、制御保持器15aに作用する外力が解除されると、付勢部材14の付勢力によって、一対のローラ13、13が、制御保持器15aの柱部15aと回転保持器15bの柱部15bとの間の間隔を拡げるように逆向きに移動し、回転保持器15bは、制御保持器15aに対して、前記一方向とは逆方向に相対回転する。この相対回転に伴って、図5(b)に示すように、ボール19cが、カム溝19a、19bの溝深さの浅い位置に向けて転がり移動し、制御保持器15aは回転保持器15bと離間するように軸方向に移動する。このとき、一対のローラ13、13は、前記楔空間の径方向隙間が狭い場所(周方向の両端付近)に互いに逆向きに移動する。この移動によって、ローラ13と円筒面11a及びカム面12aが互いに係合した状態(以下において、スタンバイ状態と称する。図3(b)参照)となる。
【0027】
このスタンバイ状態において、入力軸3(内輪12)を一方向に回転すると、一対のローラ13、13のうち一方のローラ13(前記回転の方向とは反対側に配置されたローラ13)が円筒面11aとカム面12aとの間に強く噛み込まれ、入力軸3の回転を出力軸6(外輪11)に伝達することができる。また、入力軸3を逆方向に回転すると、一対のローラ13、13のうち他方のローラ13が円筒面11aとカム面12aとの間に強く噛み込まれ、同様に、入力軸3の回転を出力軸6に伝達することができる。
【0028】
図1及び図7に示すように、内輪12の軸方向の一端面とスライド案内面3aの交差部には、そのスライド案内面3aより大径の円筒形のホルダ嵌合面3bが形成され、そのホルダ嵌合面3bに、ばねホルダ20が嵌合されている。ばねホルダ20は、ホルダ嵌合面3bに対して回り止めされ、かつ、軸方向に移動不能に支持されている。
【0029】
その外周には、図6に示すように、制御保持器15aの柱部15aと回転保持器15bの柱部15b間に配置される複数の回り止め片20aが形成されている。この回り止め片20aは、制御保持器15aと回転保持器15bとがポケット17の周方向幅を縮小する方向に相対回転した際に、制御保持器15aの柱部15a及び回転保持器15bの柱部15bを両側縁で受け止めて、対向する一対のローラ13、13を中立位置に保持する。
【0030】
図6及び図7に示すように、ばねホルダ20の外周部には、各付勢部材14のそれぞれ外径側に張り出すばね保持片20bが設けられている。このばね保持片20bによって、一対のローラ13、13間の外径側への付勢部材14の逃げを防止している。
【0031】
入力軸3の先端部と出力軸6との間、及び出力軸6とハウジング50との間には、それぞれ軸受21、22が設けられている。この軸受21、22によって、入力軸3と出力軸6、及び、出力軸とハウジング50は軸周りに相対回転可能となっている。
【0032】
電磁クラッチ30は、図1に示すように、アーマチュア31と、アーマチュア31と軸方向に対向して設けられるロータ32と、ロータ32に対向して設けられる電磁コイル33と、を備える。アーマチュア31の内周縁は、支持リング16の外周に嵌合されて、軸周りに回転自在かつ軸方向に移動自在に支持されている。また、アーマチュア31の外周縁は、制御保持器15aの筒部15aに嵌合しており、アーマチュア31と制御保持器15aは、軸方向に一体に移動するように構成されている。
【0033】
ロータ32は、図1に示すように、入力軸3と嵌合する筒状の嵌合筒部32aと、嵌合筒部32aの径方向外側に同軸に配置され、この嵌合筒部32aよりも大径筒状のヨーク32bと、嵌合筒部32aとヨーク32bを連設する円板部32cとを備えた、周方向断面がコの字形の部材である。図8に示すように、このロータ32の反力モータステータ40に対向する面(ヨーク32b)にはクローポール型の磁極対が形成されている。このクローポール型の磁極対は、軸方向に対向する二個のヨーク構成部材32b、32bから構成される。
【0034】
各ヨーク構成部材32b、32bには、図8に示すように、周方向に連続する山形の爪部32dが形成されており、一方のヨーク構成部材32b、32bに形成された爪部32dが、他方のヨーク構成部材32b、32bに形成された爪部32dとの間で隙間を保ちつつ、対向して配置されている。電磁コイル33に通電すると、各ヨーク構成部材32b、32bの周方向に並ぶ爪部32dには、その周方向に亘ってN極、S極の磁極が交互に形成される。この実施形態においては、各ヨーク構成部材32b、32bには8個の爪部32dが形成されており、これによって、ロータ32全体として16極(8極対)の構成となる。
【0035】
両ヨーク構成部材32b、32bは、ヨーク32bの周面に所定間隔で形成されたブリッジ部32eによって連設されている。このブリッジ部32eは、両ヨーク構成部材32b、32bを連設する強度を有する限りにおいて、その数が少ないほど、及び、周方向の幅が細いほど、ヨーク32bに形成される磁極への影響が小さくなるため好ましい。
【0036】
電磁コイル33は、その通電によってロータ32に磁力を生じさせて、図1に示すように、その磁力でアーマチュア31をロータ32に吸着する。磁力によってアーマチュア31が吸着されると、このアーマチュア31に嵌合する2方向クラッチ10の制御保持器15aも同方向に移動する。制御保持器15aが軸方向(図1の左向き)に移動すると、上述したように、2方向クラッチ10の作用によって、入力軸3と出力軸6との間が遮断された状態となる。電磁コイル33と入力軸3の間には軸受34が介在して設けられており、入力軸3と電磁コイル33は軸周りに相対回転可能となっている。
【0037】
反力モータステータ40は、図1に示すように、ロータ32のヨーク32bを挟むように、電磁コイル33の径方向外側に周方向に沿って配置されている。このように反力モータステータ40を配置することによって、軸方向の長さがコンパクトになり、例えば、軽自動車等の小型自動車にも、この回転伝達装置1を容易に搭載することができる。
【0038】
この反力モータステータ40は、コア41にコイル42を巻き付けたものであって、図9(a)、(b)に示すように、このコア41の先端がヨーク32bに対向している。反力モータステータ40の極数Pcと、ロータ32の極数Prは適宜決めることができる。この実施形態においては、反力モータステータ40の極数Pcは12極であるのに対し、上述したようにロータ32の磁極は16極なので、Pc:Pr=12:16の関係が成立している。
【0039】
なお、反力モータステータ40のスロット数Sと、ロータ32の極数Pとの間の関係は、例えば、反力モータステータ40のコイル42に集中巻を採用する場合は、一般的にS:P=3i:2i、S:P=3j:4j、または、S:P=6k:2k(i、j、kはいずれも自然数)が成立する構成とするのが好ましい。さらに、コギングが小さいS:P=9l:8l、振動が小さいS:P=10m:12mやS:P=10n:14n(l、m、nはいずれも自然数)が成立する構成としてもよい。また、反力モータステータ40のコイル巻に分布巻を用いてもよい。分布巻の場合、例えば、ロータ32の極数をP、相数をpとして、スロット数SはqPp(qは自然数)とするのがよい。
【0040】
このように、反力モータステータ40のステータ数Sと、ロータ32の極数Pとを関係付けることにより、反力モータステータ40への通電によって形成される回転磁場と、ロータ32に形成される磁極との間に周方向位置のずれを設けることができる。これにより、運転者がステアリングを操作して入力軸3(ロータ32)を軸周りに回転させた際に、スムーズな操舵反力を発生することができる。
【0041】
図10(a)に示すように、電磁コイル33への通電状態(ロータ32にアーマチュア31が吸着された状態)で、各反力モータステータ40に、3相交流のU相、V相、W相をその周方向に亘って順に印加すると、これによって回転磁場が形成される。このとき、ロータ32内に形成された磁路(本図中の矢印を付した線を参照)が、軸方向に対向するヨーク構成部材32b、32bの間のギャップ部分において、反力モータステータ40側に入り込む。
【0042】
このように、磁路が反力モータステータ40側に入り込んだ状態において、運転者の操作力によってステアリング(入力軸3)を軸周りに回転すると、回転磁場とヨーク32bに生じた磁力との間の相互作用によって、ロータ32(入力軸3)に前記回転と逆向きの反力が発生する。また、運転者の操作に係らず、タイヤからの入力が、反力として運転者に伝達される。これらの反力によって、運転者は、運転者の操舵力によって機械的に車輪を転舵する通常のステアリング装置と同等の操舵感を得ることができる。
【0043】
また、自動運転中に、自動転舵されたタイヤの向きに同期するように、前記反力によってハンドルを回転させることも可能である。
【0044】
通常は電磁コイル33に通電することによって、2方向クラッチ10によって入力軸3と出力軸6は機械的に非連結の状態となっているが、何らかの不具合によって電磁コイル33への通電が遮断されると、図10(b)に示すように、ロータ32とアーマチュア31が離間し、上述したように、入力軸3と出力軸6が2方向クラッチ10を介して機械的に連結される。これにより、運転者のステアリング操作に基づく回転力によって左右の車輪を転舵する、通常のステアリング操作を行うことができる。
【0045】
この実施形態においては、電磁コイル33の径方向外側に周方向に沿って、反力モータステータ40を配置した構成を示したが、この反力モータステータ40を電磁コイル33と同軸に配置した構成とすることもできる(図示せず)。このように反力モータステータ40を配置すれば、回転伝達装置1の径方向のサイズを小さくすることが可能となる。この場合、反力モータステータ40とロータ32のヨーク32bが対向するように、このロータ32の形状が適宜変更される。この反力モータステータ40の配置を電磁コイル33の径方向外側とするか、同軸とするかについては、車両の搭載スペースの形状に対応して適宜決定することができる。
【0046】
上記の各実施形態に係る回転伝達装置1はあくまでも例示であって、ステアバイワイヤ方式の回転伝達装置1のコンパクト化を図る、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、各構成部材の形状、配置等を適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0047】
2 ステアリングシャフト
3 入力軸
5 ステアリング装置
6 出力軸
10 2方向クラッチ
30 電磁クラッチ
31 アーマチュア
32 ロータ
33 電磁コイル
40 反力モータステータ
42 コイル
図1
図2
図3
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図10