(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1引張りホイールは動作可能に第2引張りホイールに結合され、それにより前記第1引張りホイールの動きが前記第2引張りホイールに同方向への同時の動きを実施させ、
前記第2引張りホイールはその外周周りに前記可撓性バンドを保持するように構成され、それにより前記第1引張りホイールの動きが前記細長表面部材の前記先端部で前記生体適合性可変形物またはバルーンと閉ループを形成する前記可撓性バンドの前記一部を縮小または伸長させる、請求項8に記載のクランプデバイス。
前記ハンドルはさらに、前記第1引張りホイールの動く方向を制御する、前記ハンドルに取り付けられた可動スイッチを含む、請求項8または請求項9に記載のクランプデバイス。
前記スイッチは、操作者がアクセス可能な前記ケースの外側の部分と、前記スイッチ近傍に配置されたラチェットに動作可能に結合された前記ケースの内側の部分と、を有するように取り付けられ、それにより前記スイッチの移動が前記ラチェットを移動させ、
前記ラチェットの移動により前記第1引張りホイールを係合し、
前記ラチェットの位置が前記第1引張りホイールが動くことのできる方向を決定する、請求項10に記載のクランプデバイス。
前記細長表面部材は低侵襲手術中に内視鏡ポートを通して組織もしくは臓器またはそれらの一部にアクセスするのに十分な長さおよび直径を有している、請求項1〜請求項12の何れか一つに記載のクランプデバイス。
前記組織もしくは臓器またはそれらの一部は、肝臓、膵臓、胆嚢、脾臓、胃、生殖器およびそれらの一部から選択される、請求項1〜請求項14の何れか一つに記載のクランプデバイス。
前記可撓性バンドを伸長するために前記可撓性バンドを緩めて、前記閉ループの高さを前記組織もしくは臓器またはそれらの一部の厚みよりも大きくして、前記組織もしくは臓器またはそれらの一部を前記閉ループ内に嵌合することができる、請求項1〜請求項16の何れか一つに記載のクランプデバイス。
前記表面部材は前記生体適合性可変形物またはバルーンを載置する揺架を形成するために凹面となっている、請求項4〜請求項18の何れか一つに記載のクランプデバイス。
前記生体適合性可変形物またはバルーンは前記可撓性バンドに取り付けられておらず、前記閉ループは前記可撓性バンドの、前記表面部材内に載置されている前記生体適合性可変形物またはバルーンの前記先端部近傍の前記表面部材との結合によって形成されており、前記細長表面部材の前記先端部は、凹面であり、前記生体適合性可変形物またはバルーンを載置する揺架を形成している、請求項1〜請求項19の何れか一つに記載のクランプデバイス。
前記生体適合性可変形物は、エラストマーフォーム、シリコーン、エラストマー、シリコーンゴム、ヴィコエラスティックゲル、ハイドロゲル、および非エラストマーフィルム材料の中から選択された材料で作成される、請求項1〜請求項26の何れか一つに記載のクランプデバイス。
前記材料は、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール修飾(PETG)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、およびシリコーンの中から選択される、請求項27に記載のクランプデバイス。
前記組織または臓器の区分化を実施して、体循環からの前記組織もしくは臓器またはそれらの一部への血流を止めるために、前記組織もしくは臓器またはそれらの一部の実質組織をクランプするのに使用するための、請求項1〜請求項28の何れか一つに記載のクランプデバイス。
【発明を実施するための形態】
【0057】
A. 定義
B. バンドクランプデバイス
1.デバイスの構成要素
a.ピストル型グリップハンドル
b.シース部
c.クランプ部
i. 可撓性上側バンド
ii.生体適合性可変形物バルーン
2.デバイスの動作
C. クランプデバイスの方法および使用
1.核酸送達の区分化された方法
a.バンドクランプデバイスを使用した組織または臓器の区分化
b.核酸分子の送達
i. 送達薬剤の実質組織注入
ii.投薬量
c.区分化の終了/解放
2.切除および移植
3.他の処置
D. 送達薬剤およびその組成物
1.核酸分子
2.核酸分子を収容する媒体および構成物
a.ウイルスおよびウイルスベクター
i. アデノウイルス
ii. アデノ随伴ウイルス(AAV)
iii.レトロウイルス
iv. レンチウイルス
b.非ウイルスベクター
3.例示的な遺伝子治療剤
4.組成物
E. インジェクションデバイス
1.標準的なインジェクションデバイス
2.一体型インジェクションデバイス
3.ドッキング可能インジェクション
F. システムおよびキット
G. 実施例
【0058】
A.定義
別段の規定がない限りにおいて、本明細書に使用する技術的および科学的用語は、本発明(複数可)が属する技術の当業者が共通して理解するものと同じ意味を有するものとする。本明細書の開示全体を通じて言及する全ての特許、特許出願、公開出願および公報、ジェンバンクのシーケンス、データベース、ウェブサイトおよびその他の出版物は、別様に記載されない限り、参照することによりその全体を本明細書に組み込むものとする。本明細書の用語について複数の定義が存在する場合は、本項に規定する定義を優先するものとする。URLまたは他のそのような識別子またはアドレスを参照する場合は、そのような識別子は変更可能であり、インターネット上の特定の情報は改変可能であるが、均等の情報をインターネットの検索により探すことができると理解されるものとする。それらを参照することによりそのような情報の入手可能性および公開性が証明される。
【0059】
本明細書において、「低侵襲手術」または「低侵襲処置」という表現、時には内視鏡とも言う表現は、同じ目的のための開腹手術よりもより侵襲性の低い(外科的その他の)あらゆる処置を意味する。低侵襲処置は、皮膚を通して、あるいは体腔または解剖学的開口部を通して実施される。処置は一般的に、(関節および脊柱用の)関節鏡検査装置または(腹部手術用の)腹腔鏡検査装置などの、処置に適した装置の使用を含んでいる。低侵襲処置は、内視鏡または大型表示パネルを介して手術領域を間接的に監視しながら実施することができ、器具の手動または遠隔操作を含むことができる。例示的な低侵襲処置は腹腔鏡検査である。その他の低侵襲処置には、これらに限定されないが、屈折矯正手術、経皮的手術、関節鏡下手術、冷凍外科手術、顕微鏡下手術、キーホールサージェリー、胸腔鏡下手術、脳血管内手術(血管形成術など)、冠状動脈カテーテル処置、定位脳手術、画像誘導手術、および超音波誘導経皮的エタノール処理がある。
【0060】
本明細書において、「腹腔鏡検査」または「腹腔鏡下手術」とは、腹部の手術を小さな切開部を通して実施する低侵襲外科手術手技を意味する。切開部は一般的に長さ5ミリメータ(mm)〜20mmである。1つまたは複数の切開部を設け、一般的に直径5mm〜12mmの腹腔鏡ポートが切開部に挿入される。腹腔鏡ポートを通して腹腔鏡下手術用の器具を挿脱する。
【0061】
本明細書において、「内視鏡」とは、体内に導入されてその内側部分を見せることができる器具を意味する。「腹腔鏡」とは、腹部内に導入されてその内側部分を見せることができる器具を意味する。
【0062】
本明細書において、「内視鏡ポート」とは、低侵襲処置のための切開部内に挿入されて、低侵襲装置に皮膚または体腔を通過させる通路を提供する医療用具を意味する。腹腔鏡検査については、「腹腔鏡ポート」とは、腹腔鏡処置のための切開部内に挿入されて、腹腔鏡デバイスを皮膚を通して腹腔内まで通す通路を提供する医療用具を意味する。
【0063】
本明細書において、低侵襲処置のための装置は、低侵襲処置中に組織または臓器にアクセスするのに十分な長さおよび細さを有する装置である。
【0064】
本明細書において、腹腔鏡装置は、低侵襲処置中に組織または臓器にアクセスするのに十分な長さおよび細さを有する装置である。
【0065】
本明細書において、クランプは、臓器、導管または組織などの構造体を押圧するために使用する、手術装置などの装置を意味する。クランプは大略的に、構造体を圧縮するために構造体の両側に圧力または力を印加するために駆動または調節できる対向する側部または部分を有している。クランプは鋸歯状のあご部、ロックハンドルおよび/または膨脹式バルーンを備えることができる。大略的に、クランプ力または圧力は調節可能である。
【0066】
本明細書において、「実質組織のクランプ」とは、組織または臓器の実質組織を押圧可能なクランプを意味する。
【0067】
本明細書において、バンドクランプデバイスとは、調節可能な可撓性バンドと、膨脹式バルーンなどの生体適合性可変形物を収容する表面部材とを備え、それらが、組織もしくは臓器またはそれらの一部などの構造体の両側に圧力または力を印加して、構造体を圧縮するために、駆動または調節可能な対向する側部または部分を形成する、クランプを意味する。調節可能な可撓性バンドは構造体に力を印加するように引張ることができ、一方で生体適合性可変形物は構造体に均一な圧力を印加できるように組織または臓器に適合する。たとえば、調節可能な可撓性バンドは構造体に力を印加するように引張ることができ、バルーンは構造体に均一な圧力を印加できるように膨脹させることができる。可撓性バンドとバルーンの組み合わせにより、クランプは確実に、均一のクランプ圧力を印加するようにターゲットの構造体に均一に適合されて構造体の周りに押しつけられる。本明細書に記載するバンドクランプデバイスは、閉ループデバイスである。バンドクランプは組織もしくは臓器またはそれらの一部の実質組織をクランプするのに適用可能である。本明細書に記載の目的のために、バンドクランプデバイスは腹腔鏡処置などの低侵襲処置のために構成されており、したがって、処置中に体腔にアクセス可能な細くかつ長い本体を含んでいる。デバイスは低侵襲手術のために使用されるポートの外側で手動で操作することができる。
【0068】
本明細書において、クランプ部とは、構造体を圧縮するために構造体の両側に圧力または力を印加するために駆動または調節できるバンドクランプデバイスなどのデバイスの一部分を意味する。たとえば、バンドクランプデバイスのクランプ部は、可撓性バンドと、バルーンなどの生体適合性可変形
物を収容する表面部材とで構成されている。本明細書に記載の目的のために、バンドクランプのクランプ部は閉ループである。
【0069】
本明細書において、バンドクランプデバイスに関する閉ループとは、開放端を有さない連続的なループであるクランプ部を有するクランプを意味する。したがって、クランプはクランプ対象の構造体(たとえば、組織もしくは臓器またはそれらの一部)を取り囲む。
【0070】
本明細書において、可撓性バンドとは、可撓性でかつ可動であるが、バンドが構造を維持しかつループを形成することができるように十分な柱強度を有する材料でできたバンドを意味する。バンドは、シリコーンおよび可撓性ポリマーなどの材料で作り、繊維などの柱強度を提供する材料で補強することができる。たとえば、可撓性バンドは、ポリウレタンまたはポリエチレン、たとえば繊維で補強されたポリウレタンで作ることができる。
【0071】
本明細書において、生体適合性可変形物とは、変形可能であり、したがって本明細書で提供するデバイスに採用した場合、組織もしくは臓器またはそれらの一部の解剖学的構造に適合可能な物を意味する。そのような物は、一般的に、低、低〜中、中程度の硬度またはデュロメータを有し、生体適合性を有する材料で作られる。ある程度の変形は可能であるが、生体適合性可変形物は、本明細書で提供するデバイスを使用して組織もしくは臓器またはそれらの一部に比較的均一なクランプ圧力を印加するために、力を印加した場合の変形には十分な耐性を有し、かつ解剖学的構造に適合できるように、十分高いデュロメータの材料で作られている。たとえば、ショアA硬度計で判定した材料のデュロメータまたはショア硬度は5A〜95Aであってよく、大略的には、20A〜85A、20A〜70A、20A〜60A、20A〜50A、20A〜40A、30A〜85A、30A〜70A、30A〜60A、30A〜50A、30A〜40A、40A〜85A、40A〜70A、40A〜60A、40A〜50A、50A〜85A、50A〜70A、50A〜60A、60A〜85A、60A〜70A、または70A〜85Aなどをそれぞれ含む、10A〜95Aまたは20A〜95Aであってもよい。材料はエラストマーでも非エラストマーでもよい。たとえば、生体適合性可変形物は、エラストマーフォーム、シリコーン(たとえば、低デュロメータシリコーン)、エラストマー(たとえば、低デュロメータエラストマー)、粘弾性ゲル、ハイドロゲルまたは非エラストマーフィルムで作ることができる。そのような材料の例としては、これらに限定されないが、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール修飾(PETG)、エチレン酢酸ビニル(EVA)またはシリコーンが含まれる。特定の実施例では、生体適合性可変形物はバルーンである。
【0072】
本明細書において、バルーンまたは膨脹式バルーンへの言及は、本明細書で提供するデバイスに採用した場合、組織もしくは臓器またはそれらの一部の解剖学的構造に適合できるように変形可能な膨脹させられたバルーンを作成するために、その容積を増加させるように空気または気体を充填することができる物を意味する。変形可能である一方で、バルーンは膨脹させられたときに、力を印加した場合の変形には十分な耐性を有し、それによりバルーンは解剖学的構造に適合でき、かつ本明細書で提供するデバイスを使用して組織もしくは臓器またはそれらの一部に対して比較的均一なクランプ圧力を印加することができる。バルーンは、これらに限定されないが、ポリウレタン、ポリエチレン、可撓性ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ナイロン、エチレン酢酸ビニル(EVA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)、エチレンエチルアクリレート(EEA)、スチレンブタジエンスチレン(SBS)、およびエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのエラストマーまたは非エラストマー材料で作ることができる。一般的には、膨脹式バルーンは中デュロメータ(硬度)の材料などの非エラストマーフィルムでできている。バルーンまたは膨脹式バルーンは、本明細書で提供するデバイスにおいて、本明細書で説明するように膨脹または収縮状態で提供することができる。
【0073】
本明細書において、デュロメータまたはデュロメータ硬度(ショア硬度とも呼ぶ)とは、通常、ゴムまたはプラスチックなどの材料の変形に対する抵抗を意味し、一般的には、既知の負荷で特定の寸法および形状の圧子による変形に対する抵抗を意味する。デュロメータは、ショア(Share)AおよびDスケール、およびロックウェルRスケールに従って測定できる。一般的に、デュロメータはショアA硬度スケール(A)によって測定され、これにより、0〜100の目盛りで、高い数値が硬度のより高い材料を示す、デュロメータ値(A)が得られる。本明細書において、可撓性バンドに関して引張ることとは、組織もしくは臓器またはそれらの一部に力を印加するためにクランプ部の閉ループ内の可撓性バンドの長さを減少させる行為またはプロセスを意味する。
【0074】
本明細書において、「クランプ圧」または「クランプする圧力」とは、本明細書で提供するクランプデバイスによって組織もしくは臓器またはそれらの一部に対して印加される力を意味する。たとえば、その用語は、デバイスのバンドの張力と生体適合性可変形物との組み合わせによって組織もしくは臓器またはそれらの一部に対して印加される力を意味する。力または圧力の強度は、たとえばバンドの張力度によって制御または調節できる。膨脹式バルーンを含むデバイスの実施例において、圧力は膨脹させられたバルーンの膨脹によっても制御可能であり、バルーンは一般的に組織またはそれらの一部の解剖学的構造に適合するために膨脹させられる。可撓性バンドとバルーンなどの生体適合性可変形物との組み合わせにより、確実にクランプをターゲットの構造体の周りに均一に適合させるとともに加圧させて、均一なクランプ圧力を印加する。このように、腹腔鏡処置中、組織のクランプ領域全体への均一なクランプ圧力を達成でき、すなわち、厚い部分は過度にクランプされず、薄い部分はクランプが不十分にならない。均一なクランプ圧力により、確実にターゲット組織に不十分なクランプまたは過度なクランプになる部分は無くなる。たとえば、均一なクランプ圧力により、過度にクランプされる厚い部分もクランプが不十分な薄い部分も無く、組織を傷つけることなく、ターゲット組織の全体にわたって血流を停止させることができる。
【0075】
本明細書において、「ラチェット」または「ラチェット機構」とは、一方向のみの回動を許可し、反対方向の動きを阻止する装置を意味する。ラチェットは、たとえば円形ギヤまたはホイールの一方向のみの回動を許可し、反対方向の動きを阻止するあらゆる形状または構成であることができる。たとえば、ラチェットはY字形状であることができ、この場合ラチェットの上部はたとえば「Y」の上部を形成する2つの枝部である。一般的に、ラチェットの上部の枝部は円形ギヤまたはホイールの歯と係合する。
【0076】
本明細書において、可撓性バンドに関して緩めることとは、クランプ部の閉ループ内の可撓性バンドの長さを伸長する行為またはプロセスである。ループ内の可撓性バンドの長さの伸長の範囲は、組織、臓器もしくはそれらの一部に印加される力を部分的にまたは完全に無くすか、あるいは組織、臓器もしくはそれらの一部を可撓性バンドによって印加される力から解放するものであることができる。
【0077】
本明細書において、臓器または組織とは、特定の機能を実行する、対象の体の分化した部分を意味する。組織とは、一般的に、特定化された機能を形成するために集合した特定のセルの集合体である。たとえば、筋肉組織は収縮することができる特定化された組織である。臓器は機能を実行する組織から構成されている。臓器の例としては、これらに限定されないが、目、耳、肺、肝臓、腎臓、心臓、または肌などがある。
【0078】
本明細書において、「組織または臓器の一部」という言及は、対象の体の組織または臓器の部分を意味する。部分(part)は、組織または臓器の領域、区分、葉、断片または他の部分であることができる。部分(portion)は、一般的に、その部分を組織または臓器の残りの部分からクランプすることを許可するために、組織または臓器の残りの部分から独立して集結または分離することができる。部分はまた、薬剤の送達を行うのに十分であることができる。クランプするのに十分な組織または臓器の一部分の適切なサイズを決定すること、および/または薬剤を有効に送達することは、当業者の技術の範囲内であり、それは特定の臓器、表示治療、投薬量、対象のサイズおよびその他のパラメータによって決まる。一般的に、組織または臓器の一部分の容積は、少なくとも約5mm
3、10mm
3またはそれ以上である。たとえば、部分は、0.5cm〜25cmの長さ、0.5cm〜20cmの高さ(厚み)および/または0.5cm〜15cmの深さを有する、組織または臓器のあらゆる領域であることができる。一例として、肝臓の葉または区分の部分は、5cm〜10cmの長さ、1cm〜3cmの高さおよび1.5cm〜3cmの深さ(先端からの)を有している。部分がクランプ可能である限り、より小さな領域または部分もまた考えられる。
【0079】
本明細書において、デバイスの構成要素またはデバイスに関して「基部の(proximal)」とは、デバイス使用中にデバイスを操作する医療従事者に最も近い構成要素またはデバイスの端部を意味する。近位部は構成要素の端部である必要はないが、デバイス使用中にデバイスを操作する医療従事者に最も近い構成要素の部分全体を含むことが理解される。たとえば、可撓性バンドについては、近位部は引張りホイールから自由に垂下しているという事実により、引張りホイールと係合しているか、または引張りホイールと係合できる部分を含んでいる。
【0080】
本明細書において、デバイスの構成要素またはデバイスに関して「先端の(distal)」とは、デバイス使用中に医療従事者から最も遠いデバイスの端部を意味する。
【0081】
本明細書において、2つの構成要素に言及する場合の「動作可能に」または「動作的に」とは、区分はそれらの意図された目的に一致して機能する、たとえば一構成要素が別の構成要素によって動くように構成されているということを意味する。
【0082】
本明細書において、「係合された」とは、接触または結合されるように設計された2つの部材が、それらが接触または結合するように設計された方法で互いに物理的に接触または結合されている状態を意味する。たとえば、雌ねじと雄ねじは、それらが結合されるように設計された方法で互いに物理的に結合されたときに係合することができる。
【0083】
本明細書において、ねじに関して
「雄」とは、その外側表面上にねじを含む部材を意味する。
【0084】
本明細書において、ねじに関して
「雌」とは、その内側表面上にねじを含む結合部材を意味する。
【0085】
本明細書において、表面部材に関して細長いとは、表面部材が幅または直径に関して長いということを意味する。細長い構造により、腹腔鏡処置または手術などの低侵襲処置においてポートを介して体腔にアクセスするためのデバイスの使用が可能になる。
【0086】
本明細書において、「軸回転」または回転に関して「軸方向に」とは、物体のそれ自身の軸周りの回動を意味する。
【0087】
本明細書において、直線的にまたは直線移動とは、直線に沿った動きを意味する。この動きは、水平面または垂直面内の線に沿ったものであることができる。たとえば、シースの移動については、シースはその水平面に沿って、デバイスの先端部に向かって前方、またはデバイスの基端部に向かって背後/後方の何れか一方向に、移動することができる。
【0088】
本明細書において、構成要素または部品に関して取り付けられたとは、基部、裏材、または台に設置することまたは取り付けることを意味する。よって、構成要素または部品は基部、裏材、または台から突出している。構成要素または部品は、部品が基部、裏材、または台から外方に突出していてかつアクセス可能である限り、基部、裏材、または台の上に完全に設置でき、あるいは基部、裏材、または台の内部に設置できる。
【0089】
本明細書において、「区分化された核酸の送達」とは、区分化された組織もしくは臓器またはそれらの一部に対する核酸の送達を意味する。
【0090】
本明細書において、組織もしくは臓器またはそれらの一部に関する「区分化」、「区分化された」またはそれらの文法的変化(本明細書において循環系の分離または血管系の分離とも言う)とは、組織もしくは臓器またはそれらの一部の体循環からの分離を意味する。分離は、組織もしくは臓器またはそれらの一部を横切っており、かつ体循環に注ぐ、アクセスするまたは他の方法で連通している、1つ以上、大略的には全ての、動脈、静脈、導管または脈管をブロックまたは閉塞することによって達成することができる。組織または臓器の区分化は、組織もしくは臓器または組織もしくは臓器の一部もしくは領域への血流の停止または阻止を特徴とする。区分化によって、組織および臓器の間、あるいは組織または臓器の一部または領域と身体の他の部分との間の体循環を介した連通またはアクセスが途絶される。区分化は、本明細書に記載するバンドクランプデバイスの使用によるなどの、1つ以上の動脈、静脈、導管または脈管をブロックまたは閉塞するあらゆる方法によって達成することができる。
【0091】
本明細書において、「組織もしくは臓器またはそれらの一部への血流が削減または排除される」または同様の表現は、組織もしくは臓器またはそれらの一部に機能するまたはそれらを横切る動脈、静脈、導管および/または脈管からの血液の供給または流れに干渉またはブロックが存在し、それにより組織または組織の一部の血液中を搬送される物質へのアクセスを阻害することを意味する。そのようなブロックにより、組織もしくは臓器または組織もしくは臓器の一部を無酸素または虚血状態にすることができる。組織または臓器への血流の削減または排除を監視することは、当業者の技術レベルの範囲内である。たとえば血流の削減または排除は、組織の色、墨または他の報告可能な染料を使用した電子常磁性共鳴(EPR)酸素測定、組織分光器(TiSpec)の使用、灌流磁気共鳴画像法、陽電子放射断層撮影法、近赤外線(NIR)分光、光学的ドップラー断層撮影法、超音波および当業者に公知のその他の方法に基づいて監視することができる。区分化された核酸の送達のために、組織もしくは臓器または組織もしくは臓器の一部への血流は、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化中に、75%、80%、85%、90%、95%、を超えて、また約100%または100%まで、削減されなければならない。
【0092】
本明細書において、「体循環」または「全身循環」とは、左心室から体組織へ酸素を含む血液を運び、静脈血を右心房へ戻す全身循環を意味する。
【0093】
本明細書において、区分化に関する連通を回復することとは、組織もしくは臓器または組織もしくは臓器の一部の区分化が停止されて体循環の組織または臓器とのアクセスを回復または再開するプロセスを意味する。これは、組織もしくは臓器またはそれらの一部を横切る1つ以上、全体的には全ての、動脈、静脈、導管または脈管をブロックまたは閉塞するために使用されたデバイス、装置またはプロセスの取り外しまたは解除によって達成される。
【0094】
本明細書において、体循環との連通の回復の前の区分化の停止に関する所定の時間とは、予め知られていて制御できる限定された時間を意味する。一般的には、所定の時間とは、組織または臓器の実質組織(たとえば、肝臓の肝細胞)の細胞において、送達薬剤の少なくとも80%、85%、90%、95%またはそれ以上もしくは少なくとも約80%、85%、90%、95%またはそれ以上が細胞内である送達薬剤の投与または送達に続く時間である。大略的には、そのような時間は、区分化の停止によって連通が回復された後、送達薬剤の10%、5%またはそれ以下が体循環内に存在する時間である。そのような時間は、当業者であれば経験的に決定することができ、たとえば、特定のターゲットの臓器および送達薬剤の作用である。特定の実施例では、所定の時間は、区分化および/または送達薬剤の投与の開始後、少なくとも約15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分もしくは60分または少なくとも15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分もしくは60分である。所定の時間は、送達薬剤の細胞による摂取を増加させる方法、機構または技術によって制御することができる。そのような方法は当業者に公知であり、本明細書に説明する。したがって、いくつかの実施例では、所定の時間は5分〜15分など、15分未満であることができる。
【0095】
本明細書において、送達核酸分子に関する「持続した」発現とは、核酸の臓器への導入後の時間であって、その間に、ピークの発現の少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上が観察される時間を意味する。一般的には、コード化されたタンパク質が6カ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12カ月、16ヶ月、24ヶ月またはそれ以上を超える期間にわたって発現した場合、発現は持続している。
【0096】
本明細書において、対象は脊椎動物、より具体的には、哺乳動物(たとえば、ヒト、馬、猫、犬、牛、豚、羊、山羊、マウス、うさぎ、ラット、およびモルモット)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、およびその他のあらゆる動物とすることができる。この用語は、特定の年齢または性別は表していない。したがって、成年および新生の対象が、雄でも雌でも、含むことを意図する。本明細書において、患者または対象という用語は交換可能に使用してよく、治療薬を必要とする対象を意味することができる。患者または対象と言う用語はヒトおよび獣医学的対象を含む。治療的、産業的、獣医学的および農業的(たとば、産肉)利用を本明細書で開示する。
【0097】
本明細書において、患者はヒトの対象を意味する。
【0098】
本明細書において、実質組織とは、臓器の特定の機能を実行し、臓器の容積を構成する、組織および臓器の関連した細胞の部分を意味する。したがって、実質組織とは、臓器の主要な基礎的機能組織である。これらには、上皮組織、筋肉組織、神経組織およびそれらに関連する細胞を含むことができる。実質組織は、結合組織である支質、血管、神経および導管とは異なる。したがって、実質組織は結合組織、血管、神経および導管を含まない。たとえば、肝臓の実質組織は肝細胞を含み、心臓の実質組織は筋細胞などの心筋細胞を含み、腎臓の実質組織はネフロンを含む。皮膚の実質組織は表皮である。
【0099】
本明細書において、「実質組織細胞」とは、組織または臓器の実質組織内に収容されるまたはそれを構成する細胞を意味する。たとえば、肝細胞は肝臓の主要な組織の細胞であり、肝臓の質量の70〜80%を構成している。肺では、全ての肺細胞の75%が実質組織内に収容されている。これらは、たとえば、タイプ1およびタイプ2細胞(肺細胞)および刷子細胞などの、肺胞を覆う間質および上皮細胞の繊維芽細胞を含む。皮膚では、実質細胞内に見られる細胞は、ケラチノサイトなどの表皮細胞を含む。当業者であれば、様々な組織および臓器ならびにそれらの中の細胞の実質組織に精通している。
【0100】
本明細書において、実質組織の投薬とは、組織または臓器の実質組織への投薬を意味する。実質組織への投薬は一般的に注入または毛管拡散によって実施される。
【0101】
本明細書において、組成物とは、あらゆる混合物を意味する。それは、溶剤、懸濁液、液体、粉末、ペースト、水性、非水系またはそれらのあらゆる組み合わせであることができる。
【0102】
本明細書において、流体とは流動可能なあらゆる組成物を意味する。したがって、流体は、半固体、ペースト、溶剤、水成混合物、ゲル、ローション、クリームの状態の組成物および他のそのような組成物を含む。本明細書の目的のため、流体は大略的に注入可能である。
【0103】
本明細書において、治療薬とは、治療効果を生成可能な薬剤、製品、化合物、または組成物を意味する。薬剤、製品、化合物、または組成物は小分子の薬品、プロドラッグ、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、ウイルス、抗体、有機分子、糖類、多糖類、脂質およびそれらの組み合わせまたは結合体から構成することができる。薬剤、製品、化合物、または組成物は、1つ以上の疾病または健康状態の治療に役立つことが当業者に一般的に知られている、他の薬剤的に有効な薬剤を含むことができる。本明細書において例示的な治療薬を説明する。
【0104】
本明細書において、治療効果とは、疾病または状態の症状を変化させる、一般的には改善または寛解させる、または疾病または状態を治す、対象の治療の結果得られる効果を意味する。治療上有効な量とは、対象への投与によって治療効果をもたらす組成物、分子、または化合物の量を意味する。
【0105】
本明細書において、「遺伝子治療」または「遺伝子療法」は、そのような治療が求められる不調のまたは状態の哺乳類、特にヒトの、一定の細胞、ターゲットの細胞への異種DNAなどの核酸分子の移植を含む。DNAは、異種DNAが発現されかつそれによってコード化された治療用産物が生成されるような方法で選択されたターゲットの細胞内へ導入される。あるいは、異種DNAは、治療用産物をコード化するDNAの発現を何らかの方法でもたらすことができ、治療用産物の発現を直接的または間接的に何らかの方法でもたらすペプチドまたはRNAなどの産物をコード化することができる。遺伝子治療の使用はまた、欠陥のある遺伝子を交換するために遺伝子産物をコード化する核酸を送達することができるか、またはそれが導入された哺乳類または細胞によって生成された遺伝子産物を補足することができる。導入された核酸は、通常は哺乳類宿主内で生成されない、あるいは治療上有効な量または治療上有用な時間に生成されない、治療用化合物をコード化(たとえば、その増殖因子阻害物、あるいはその受容体などの腫瘍壊死因子またはその阻害物)することができる。治療用産物をコード化する異種DNAは、産物またはその発現を増進または別様に変更するために、病気の宿主の細胞内に導入する前に改良することができる。
【0106】
本明細書において、核酸分子とは、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)、ならびにRNAまたはDNAの何れかの類似物または派生物などの、一本鎖および/または二本鎖のポリヌクレオチドを意味する。「核酸」という用語はまた、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNAなどの核酸の類似物、および他のそのような類似物および派生物も含む。核酸は、たとえば、ポリペプチド、調節RNA、マイクロRNA、低分子阻害RNA(siRNA)および機能RNAなどの遺伝子産物をコード化することができる。したがって、核酸分子は、siRNA、アプタマー、リボザイム、相補DNA(cDNA)、プラスミド、および修飾ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似物を含むDNAを含む、DNA分子の全てのタイプおよびサイズを含むことを意味する。
【0107】
本明細書において、治療用核酸は治療用産物をコード化するまたは治療効果をもたらすことができる核酸分子である。産物は、制御産物または遺伝子などの核酸であることができるか、または治療作用または効果を有するタンパク質をコード化できる。たとえば、治療用核酸は、リボザイム、アンチセンス、二本鎖RNA、タンパク質をコード化する核酸およびその他であることができる。
【0108】
本明細書において、「媒体」とは、遺伝子治療のための核酸分子を収容し、かつ核酸分子の細胞への流入および/またはその発現を容易にする、ベクターまたは構造体などの薬剤または導管を意味する。したがって、核酸を収容する媒体は、対象に投与され、かつ媒体に包まれるかまたは関連付けられた核酸分子を収容する、送達薬剤である。媒体の例には、これらに限定されないが、ウイルス、ウイルス様粒子、ミニサークル、プラスミドまたはベクター、リポソームおよび/またはナノ粒子が含まれる。たとえば媒体は、宿主の対象に送達するために、核酸分子もしくは本明細書で提供する非ウイルス性ベクターまたはウイルスなどの他の薬剤と関連付けられた、リポソームなどのリピド系またはその他のポリマー系の組成物、ミセルまたは逆ミセルを含むことができる。媒体の摂取は、エレクトロポーレーション、ソノポーレーション、または「遺伝子銃」などの様々な機構的技術を使用することにより、さらに増加または促進できる。
【0109】
本明細書において、ウイルスのゲノム内に収容された核酸に関する異種核酸(外因性核酸または外来核酸とも言う)とは、通常は、そこから発現される有機体またはウイルスによってインビボで生成されない核酸、有機体またはウイルスによって他の場所で生成される核酸、あるいは、転写、翻訳または調節可能な生化学プロセスに作用することによって、DNAなどの内因性核酸の発現を変更するメディエーターを媒介またはコード化する核酸を意味する。したがって、異種核酸は多くの場合、それが導入される有機体またはウイルスに対して通常は内因的ではない。異種核酸は、同種または他種を含む、同じ有機体または他の有機体内の他のウイルスからの核酸分子を意味することもできる。しかし、異種核酸は、内因的であることもできるが、他の場所から発現されるか、あるいはその発現またはシーケンス(たとえば、プラスミド)において変更される核酸である。したがって、異種核酸は、DNAなどの対となる核酸分子がゲノム内に見られるように、正確な方向または位置に存在しない核酸分子を含んでいる。大略的には、必ずしもそうではないが、そのような核酸は、通常は有機体またはウイルスによって、またはそれが発現されるウイルス内と同じように生成されない、RNAおよびタンパク質をコード化する。DNAなどの、その中で核酸が発現されるウイルスに対して異種、外因的、または外来であると当業者が認識または考えるあらゆる核酸が、本明細書において異種核酸に含まれる。異種核酸の例としては、これらに限定されないが、診断用および/または治療用薬を含む外来性のペプチド/タンパク質をコード化する核酸が含まれる。異種核酸によってコード化されるタンパク質は、ウイルス内で発現されるか、分泌されるか、または異種核酸が導入されたウイルスの表面上に発現されることができる。
【0110】
本明細書において、DNA構成物は、自然界には見られない方法で結合および並列されたDNAセグメントを含む、一本鎖または二本鎖、線状または環状DNA分子である。DNA構成物は、人間の操作の結果として存在し、クローンおよびその他の操作された分子のコピーを含む。
【0111】
本明細書において、ベクター(またはプラスミド)とは、異種核酸をその発現または複製の何れかのために細胞に導入するために用いられる離散要素を意味する。ベクターは、一般的には遺伝子副体のままであるが、遺伝子またはその一部のゲノムの染色体への融合を行うように設計されることができる。ベクターは、非ウイルス性の発現ベクターなどの非ウイルス性のベクターを含む。また、酵母人工染色体および哺乳類人工染色体などの人工染色体であるベクターも考えられている。ベクターはまた、「ウイルスベクター」または「ウイルス性ベクター」も含む。そのような媒体の選択および使用は当業者に周知である。
【0112】
本明細書において、発現ベクターはDNAを発現させることができるベクターを含んでおり、このベクターは、そのようなDNAフラグメントの発現を行うことができる、プロモーター領域などの調節シーケンスに操作可能に連結されている。そのような付加的な部分は、プロモーターシーケンスおよびターミネーターシーケンスを含むことができ、任意で、1つ以上の複製起源、1つ以上の選択可能マーカー、エンハンサー、ポリアデニレーションシグナルなども含むことができる。発現ベクターは、大略的には、プラスミドまたはウイルスDNAから得られるか、あるいは両方の要素を収容することができる。したがって、発現ベクターは、適切な宿主細胞内に導入されると、クローン化DNAの発現をもたらす、プラスミド、ファージ、組換ウイルスまたは他のベクターなどの、組換DNAまたはRNA構成物を意味する。適切な発現ベクターは、当業者に周知であり、真核細胞および/または原核細胞内に複製可能なもの、および遺伝子副体のままのもの、または宿主細胞のゲノム内に融合されるものを含む。
【0113】
本明細書において、「ウイルス」とは、宿主細胞無しに成長または複製できない感染性実体の大きな群の何れかを意味する。ウイルスは一般的に、遺伝子材料のRNAまたはDNAの核を被覆するタンパク膜を含むが、半透膜は含んでおらず、生細胞においてのみ成長および増殖可能である。ウイルスは、ウイルスゲノムの全てまたは一部を収容するベクターがそのような粒子の生成のために適切な細胞または細胞株に変換されるときに形成されるものを含む。その結果得られたウイルス粒子には、これに限定されないが、インビトロまたはインビボの何れかにおいて核酸を細胞内へ運ぶことなどの、様々な用途がある。したがって、ウイルスはパッケージングされたウイルスゲノムである。ウイルスは、単粒子、粒子のストック、またはウイルスゲノムを意味することができる。
【0114】
本明細書において、ウイルスベクターとは、ウイルス源の少なくとも1つの要素を含み、かつウイルスベクター粒子またはウイルス内にパッケージングされることができる、核酸ベクター構成物を意味する。本明細書におけるウイルスベクターという用語は、それがタンパク質の被覆内にパッケージングされている場合、ウイルスとほとんど同じ意味で使用される。ウイルスベクター粒子またはウイルスは、DNA、RNAまたは他の核酸をインビトロまたはインビボの何れかで細胞内へ運ぶために用いることができる。ウイルスベクターには、これらに限定されないが、レトロウイルスベクター、ワクシニアベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター(たとえば、HSV)、バキュロウイルスベクター、サイトメガロウイルス(CMV)ベクター、パピローマウイルスベクター、シミアンウイルス(SV40)ベクター、シンドビスベクター、セムリキ森林熱ウイルスベクター、ファージベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが含まれる。適切なウイルスベクターは、たとえば、米国特許第6,057,155号、第5,543,328号、および第5,756,086号に記載されている。ウイルスベクターは一般的に、外因性の遺伝子を細胞内に(媒体またはシャトルとして)運ぶために外因性の遺伝子に操作可能に結合されている組換ウイルスを含んでいる。
【0115】
本明細書において、「アデノウイルスベクター」および「アデノウイルス性ベクター」はほとんど同じ意味で用いられ、アデノウイルスゲノムの全てまたは一部を収容するポリヌクレオチドを意味することが当該技術分野においてよく理解されている。アデノウイルスベクターは、完全ゲノムまたは変更ゲノムをコード化する核酸、または細胞内に運ばれる場合、特に粒子としてパッケージングされる場合、異種核酸を導入するために用いることができる核酸を意味する。アデノウイルスベクターは、これらに限定されないが、ネイキッドDNA、アデノウイルスのカプシド内に封入されたDNA、(単純ヘルペス、およびAAVなどの)他のウイルスまたはウイルス様体内にパッケージングされたDNA、リポソーム内に封入されたDNA、ポリリジンと複合されたDNA、合成ポリカチオン分子と複合されたDNA、トランスフェリンと複合化されたDNA、免疫学的に分子を「マスキング」および/または半減期を増加するためにPEGなどの化合物と複合されたDNA、または非ウイルス性タンパク質に複合化されるDNAを含む複数の形態の何れかであることができる。
【0116】
本明細書において、「アデノウイルス」または「アデノウイルス粒子」は、全てのグループ、サブグループ、および血清型を含むヒトまたは動物を感染させるあらゆるアデノウイルスを含む、アデノウイルスとして分類できる、あらゆるおよび全てのウイルスを含めるように用いる。文脈によっては、「アデノウイルス」はアデノウイルスベクターを含むことができる。少なくとも51のアデノウイルスの血清型が存在し、それらは複数のサブグループに分類される。たとえば、サブグループAは、アデノウイルス血清型12、18および31を含む。サブグループBは、アデノウイルス血清型3、7、11a、11p、14、16、21、34、35および50を含む。サブグループCは、アデノウイルス血清型1、2、5および6を含む。サブグループDは、アデノウイルス血清型8、9、10、13、15、17、19、19p、20、22〜30、32、33、36〜39、42〜49および51を含む。サブグループEは、アデノウイルス血清型4を含む。サブグループFは、アデノウイルス血清型40および41を含む。したがって、本明細書において、アデノウイルスまたはアデノウイルス粒子はパッケージングされたベクターまたはゲノムである。本明細書の目的のために、ウイルスは一般的に、異種核酸をそのゲノムに収容し、アデノウイルスベクターがアデノウイルスのカプシドに封入されるときに形成される組換アデノウイルスである。
【0117】
アデノウイルスには、全てのグループ、サブグループ、および血清型を含むヒトまたは動物を感染させるあらゆるアデノウイルスを含む、アデノウイルスとして分類できる、あらゆるおよび全てのウイルスが含まれる。したがって、本明細書において、「アデノウイルス」および「アデノウイルス粒子」は、別段の指摘がある場合を除き、ウイルス自体およびその派生物を意味し、全ての血清型およびサブグループならびに自然起源および組換の形態を含む。アデノウイルスには、ヒトの細胞を感染させるアデノウイルスが含まれる。アデノウイルスは野生型、あるいは当該技術分野で公知のまたは本明細書に開示する様々な方法で変更されたものであることができる。そのような変更には、これに限定されないが、感染性ウイルスを生成するために粒子内にパッケージングされるアデノウイルスのゲノムへの変更が含まれる。変更の例としては、E1a、E1b、E2a、E2b、E3またはE4のコード化領域のうちの1つ以上における削除などの、当該技術分野において公知の削除が含まれる。他の例示的な変更には、アデノウイルスのゲノムの全てのコード化領域の削除が含まれる。そのようなアデノウイルスは「ガットレス」アデノウイルスとして知られている。この用語はまた、複製条件付きアデノウイルスも含み、それらは特定のタイプの細胞または組織内で優先的に複製するが、他のタイプではより低い程度の複製または全く複製しないウイルスである。
【0118】
本明細書において、形質導入とは、ウイルスによる遺伝子材料の細胞への移動を意味する。
【0119】
本明細書において、インジェクションデバイスとは、組織もしくは臓器またはそれらの一部などの、身体または体腔内への流体の送達に使用できるデバイスを意味する。デバイスは大略的には、プランジャと嵌合した中空筒またはシリンジおよびターゲットに侵入するための中空針などの針を含んでいる。本明細書の目的のために、インジェクションデバイスは、腹腔鏡手術または処置などの低侵襲処置のために使用できるものである。
【0120】
本明細書において、直接注入とは、たとえば組織もしくは臓器またはそれらの一部に直接などの、ターゲット内に直接注入を行うことを意味する。
【0121】
本明細書において、インジェクションデバイスのプランジャに関して伸長されるとは、プランジャの基端部が、プランジャの長さがより大きな面積を覆うように伸長または増加されて動作可能にシリンジ筒に結合されるように、シリンジ筒に対して近位ではないことを意味する。
【0122】
本明細書において、シースストッパ間の距離と比較した露出された針の長さに関して「実質的に同じ」とは、その長さとその距離が大部分において同じであるか、または実質的に同じであるが、重要でない程度に僅かに異なる可能性があることを意味する。たとえば、露出された針の長さとシースストッパ間の距離は、露出された針の長さがシースストッパ間の距離よりも、1mm以下、および大略的には、1mm未満、0.8mm、0.6mm、0.5mm、0.4mm以下、長いかまたは短い場合に、実質的に同じである。
【0123】
本明細書において、針シースコントローラに関してシースストッパとは、シースの移動を中止または停止または阻止するためにコントローラ内に形成された開口部または溝を意味する。シースのストッパとの係合は直接的である必要はなく、間接的にもできる。たとえば、シースはそれ自体がストッパと係合する構成要素に動作可能に結合できる。本明細書のインジェクションデバイスの実施例では、シースは、シースの移動を中止、停止または阻止するためにストッパに直接的に係合するポジショナに結合される結合部材に結合されている。それにより、ストッパはシースの移動をロックする。ストッパは、シースが2つ以上の位置(たとえば、被覆位置および非被覆位置)で移動可能にロックできるように、互いに異なる長さの位置に配置できる。
【0124】
本明細書において、注射針に関して「被覆された」または「被覆された位置」とは、シースがシースの鈍化端部の外側に伸長または露出されないように、シースが針の周りを覆うことを意味する。
【0125】
本明細書において、注射針に関して「被覆されていない」または「非被覆位置」とは、針の先端がシースの外側に伸長または露出され、シースが針の先端を覆っていないことを意味する。針の先端が被覆されていない範囲は特定のデバイス(たとえば、シースストッパ)によって決まる。
【0126】
本明細書において、軸力とは、物の中心軸に直接作用する力を意味する。本明細書で用いられる軸力は、長手方向軸に沿って印加される。たとえば、軸力はプランジャを押し込むまたは引き戻すために印加されなければならない。軸力は一般的に、たとえばプランジャの押し込みなどの圧縮力、またはたとえばプランジャの引き戻しなどの伸長力である。
【0127】
本明細書において、管腔とは、管状構造体の内部空間を意味する。管状構造体は規則的な管状もしくは円筒状の形状、または不規則な管状もしくは円筒状の形状を有することができる。
【0128】
本明細書において、腔とは、物の内部の空のもしくは中空の空間、または空の空間に至る開口部を意味する。
【0129】
本明細書において、凹所とは、物の一部によって形成され、さらに残りの部分から背部が構築されている、空のもしくは中空の空間を意味する。それは、空間を取り囲む壁によって形成された中空の空間であることもできる。たとえば、凹所は、物を通過させることができるように一端部または両端部に開口部を有する溝であることができる。
【0130】
本明細書において、所定の長さとは、デバイスの構成によって設定された長さを意味する。デバイスが構築および構成された後に、所定の長さは変更できない。
【0131】
本明細書において、シリンジを充填するとは、シリンジ筒、流体リザーバに流体を充填することを意味する。シリンジ筒は一般的に、プランジャを後方、すなわちデバイスの基端部方向に引くことによって充填される。
【0132】
本明細書において、シリンジから流体を放出、解放、排出または噴出することは、プランジャを押し込んでシリンジの先端部を通してシリンジ内の流体を空にすることである。
【0133】
本明細書において、内層とは、物の内側表面上に配置された材料の別の層を意味する。たとえば、中空の管状構造物が内側表面上に嵌合した僅かに小さな直径を有する別の中空の管状構造体を有する場合、内側の管状構造体は外側の管状構造体の内層である。
【0134】
本明細書において、一体化されたとは、他の部分で物理的に被覆されたまたは包まれた部分を意味する。一体化された部分は、一体化された部分を封入被覆または包む部分から分離できない。一体化されたインジェクションデバイスについては、シリンジ筒はシースに包まれまたは封入被覆されており、シースから分離できない。
【0135】
本明細書において、ドッキング可能または取外し可能とは、他の部分のアダプタ内に取付け、ドッキング、スナップフィットまたは載置することができる部分を説明する。ドッキング自在の部分はアダプタ内に取付け、ドッキング、スナップフィットまたは載置でき、その逆も可能である。たとえば、その部分は切り離しまたは取外し、すなわち他の部分から分離可能である。したがって、その部分はドックまたはアダプタを含む他の部分に対して物理的に接着されていない。ドッキング自在シリンジインジェクションデバイスについては、シリンジはシースから取り外しまたは切り離しできる。同様に、標準的なインジェクションデバイスについては、シリンジはデバイスから取外し可能である。
【0136】
本明細書において、デッドボリュームとは、シリンジ筒内に充填されたが、デバイスから排出できずにシリンジ筒または針の中に残留する流体の体積である。デッドボリュームの量に影響を与える要因としては、針の長さ、針の直径、およびシリンジ筒の直径が含まれる。
【0137】
本明細書において、注入圧とは、流体を流体リザーバからターゲットへ注入するために要求される圧力を意味する。要求される注入圧は、流体の組成の特性(たとえば、粘度)、針の長さおよびターゲットの部位(たとえば、固さ)によって異なる可能性がある。
【0138】
本明細書において、圧力低下とは、抗力および摩擦の影響などの要因により、流体が流路を流れるときの圧力の低下を意味する。圧力低下に影響を与え得る要因としては、針の長さ、針の直径、および流体の粘度が含まれる。著しい圧力低下が発生した場合、プランジャに印加される軸力は針において十分な注入圧を付与できない。
【0139】
本明細書において、組み合わせとは、2つ以上の要素の間のあらゆる関連を意味する。組み合わせは、2つの組成物または2つの収集物などの2つ以上の別個の物であることができ、2つ以上の物の1つの混合物などのそれらの混合物、またはそれらのあらゆる変種であることができる。組み合わせの構成要素は大略的に機能的に関係または関連している。
【0140】
本明細書において、システムは共通の目的のために共に採用されることを目的とする2つ以上の物または構成要素を含む組み合わせである。たとえば、構成要素は、手術、たとえば低侵襲処置または手術などの処置の実施に共に使用することができる。構成要素は共に使用するように製造することができる。
【0141】
本明細書において、キットは、追加の試薬およびその組み合わせまたは構成要素の使用のための指示書などの他の構成要素を任意に含むパッケージングされた組み合わせまたはシステムである。キットは任意に使用のための指示書を含む。
【0142】
本明細書において、単数形の「a」、「an」および「the」は文脈が明らかに別段の規定をしない限り、複数形の意味も含んでいる。
【0143】
本明細書において、「または」という言葉は、二者択一のみを意味することを明白に示さない限り、または代替物が互いに排他的ではない限り、「および/または」を意味するように用いられている。
【0144】
本明細書において、範囲および量は、「約」特定の数値または範囲として表現することができる。「約」は正確な量も含んでいる。したがって、「約5グラム」は「約5グラム」も「5グラム」も意味する。また、本明細書に示す範囲は、範囲内の全ての数字およびそれらの小数を含んでいることも理解される。たとえば、5グラムと20グラムの間の範囲は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および20グラム等の全数値、および、これらに限定されないが、5.25、6.72、8.5および11.95グラムを含む範囲内の小数を含んでいる。
【0145】
本明細書において、「任意の」または「任意で」は、後に記載されるイベントまたは状況が発生するまたは発生しないこと、およびその記載がそのイベントまたは状況が発生する場合および発生しない場合を含んでいることを意味する。
【0146】
開示を明確にするために、および限定によってではなく、詳細な説明を以下のサブセクションに分ける。
【0147】
B.バンドクランプデバイス
本明細書において説明するデバイスは、腹腔鏡処置などの低侵襲処置において、組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプするために使用できるバンドクランプデバイスである。デバイスは、腹腔鏡ポートなどの内視鏡ポートを介して挿入して、低侵襲処置(たとえば、腹腔鏡処置)中に操縦することができ、したがって低侵襲手術中に組織の一部を血流から遮断するために使用することができる。デバイスは、組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプすることが要求されるあらゆる手術または技術において使用することができる。たとえば、デバイスは、区分化されたターゲット組織またはその一部への核酸の送達を含む遺伝子治療法のために、組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプして、体循環からの組織もしくは臓器または組織の一部の区分化を行うことができる。本明細書において説明するデバイスはまた、移植または摘出などの他の組織への手術にも使用することができる。デバイスは、単一ポートまたは複数ポートの処置中に他の低侵襲(たとえば、腹腔鏡)手術用デバイスと併せて使用することができる。
【0148】
バンドクランプデバイスはあらゆる組織または臓器の一部をクランプするのに有用である。いくつかの場合、組織または臓器の一部に印加される特定の張力および圧力によっては、クランプすることにより組織または臓器の一部を体循環から区分化することができる。そのような印加される圧力または力の程度は、個々の用途によって決まる。そのような組織または臓器には、これらに限定されないが、肝臓、脳、脊髄、膵臓、心臓、皮膚、腎臓、肺、血管、骨、筋肉、子宮、頸部、前立腺、尿道、または腸が含まれる。当業者であればさらなるターゲットとなる臓器およびその一部を認識すると考えられるため、このリストは網羅的であることを意図していない。特定の実施例では、本明細書で説明するバンドクランプデバイスを使用する組織もしくは臓器またはそれらの一部は、肝臓またはその一部である。
【0149】
添付の図面を参照しながら以下にさらに詳細に説明するように、本明細書で提供するバンドクランプデバイスは、内視鏡ポート(たとえば、腹腔鏡ポート)の外側でデバイスを操作するためのハンドルグリップと、内視鏡ポート(たとえば、腹腔鏡ポート)を介して嵌合するのに十分小さい直径を有しかつクランプ部内のデバイスの先端部で終結する、長く延びた可動シースと、を含んでいる。クランプ部は、ハンドルグリップを起点としてシースを横切り、デバイスの先端部で、ハンドルからデバイスの長さ方向に延びる細長表面部材の先端部に取り付けられた可撓性上側バンドを含んでいる。細長表面部材は、その先端面に載置されたバルーンなどの生体適合性可変形物を含んでおり、それにより可撓性バンドと細長表面部材の先端部との結合によって細長表面部材およびバルーンなどの生体適合性可変形物と閉ループが形成されるようになっている。
【0150】
細長表面部材、バルーンなどの生体適合性可変形物および可撓性上側バンドで形成された閉ループは、デバイスのクランプ部を形成する。クランプ部は調節可能でかつ組織または臓器の一部の周りに嵌合することができる。本明細書で説明するようなバルーンを含むデバイスの実施形態において、下側バルーンは膨脹および収縮が可能である。クランプ部の対向する可撓性上側バンドおよび下側のバルーンなどの生体適合性可変形物は、組織または臓器の一部の両側に力または圧力を印加するために動態化または調節することができる。クランプ力下で、膨脹式バルーンなどの生体適合性可変形物は、解剖学的構造に適合して、クランプ対象の組織または臓器の一部を均等に圧縮するためにクランプ力の均一な分布を確保することができる。すなわち、バンドクランプは、他のクランプデバイスで発生する、クランプ対象の組織に対するクランプ力の超過または不足の問題を回避する。さらに、バルーンを含むデバイスの実施形態により、ユーザはクランプ力を正確に制御および監視することができる。他の実施例では、クランプ力はバンドの張力によって制御することができる。
【0151】
たとえば、可撓性上側バンドは閉ループのサイズを増大(すなわち、緩める)または縮小(すなわち、引張る)させるように調節可能であり、それによりあらゆる所望の組織または臓器の一部にぴったり嵌ることができる。可動シースはさらに、組織または臓器の一部に嵌合するようにクランプ部のサイズを変更または調節するように、軸回転によって直線的に調節することができる。可撓性バンドおよび細長表面部材の可撓性バンドの近傍に載置されたバルーンなどの生体適合性可変形物が閉ループを形成するため、本明細書で提供するバンドクランプデバイスのクランプ部は張力によってあらゆる所望の組織または臓器の一部の解剖学的構造に適合できる。張力は、組織または臓器に損傷を与えるクランプ力を印加することなく、確実に組織または臓器にぴったり嵌るように操作者が調節することができる。可撓性上側バンドおよび可動シースが調節可能であることはまた、多くの種類の厚みの組織への対応を可能にする。
【0152】
さらに、ほとんどの組織はサイズが均一ではない(たとえば、組織全体が均一の厚みではない)。特に、成人の肝臓などの肝臓は、構成全体が均一ではない、すなわち、肝臓の厚みは組織全体でばらつきがあり、そのため、腹腔鏡処置中にクランプすることは困難である可能性がある。バンド張力が印加されたときなどに、組織の解剖学的構造に適合する生体適合性可変形物の性能によって、他の方法では組織にクランプ部で接触できないあらゆる空所を埋める。たとえば、バルーンを含むデバイスの実施形態では、バルーンを膨脹させる性能によって、クランプ部をさらに組織の解剖学的構造に適合させ、可撓性バンドが完全に適合しないクランプ部のあらゆる空所を埋める。すなわち、クランプ対象の組織の一部の全体への均一な圧力が得られる。これにより、クランプ部はクランプ対象の部分全体の周りに均一に係合され、選択された領域へのクランプ力の超過または不足を回避する。このように、本明細書に説明するバンドクランプデバイスは、腹腔鏡処置中、組織のクランプ対象領域全体への均一なクランプ力の印加およびクランプ対象の部分全体の区分化を達成する、すなわち、厚い部分へのクランプ力の超過および薄い部分へのクランプ力の不足は無い。
【0153】
本明細書に説明するバンドクランプデバイスは、低侵襲処置中、腹腔鏡ポートなどの内視鏡ポートを介して挿入できる。一般的には、ポートのサイズ、すなわち直径は3mm〜15mmであり、たとえば、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、もしくは15mmまでまたは略これらのサイズまでであるが、いくつかの実施例では、より小さい3mm未満、またはより大きい15mmを超えるサイズであることもできる。本明細書に説明するデバイスは低侵襲処置に使用される一般的な腹腔鏡ポートなどの一般的なポート内に嵌合するように設計されており、たとえば、ポートの直径は3mm〜15mmであり、一般的には直径は少なくとも5mm、10mm、もしくは12mmまたは少なくとも約5mm、約10mm、もしくは約12mmであり、大略的には、直径は少なくとも10mmまたは少なくとも約10mmである。たとえば、ポートを介して挿入されるデバイスの部分の直径、すなわち本明細書に説明するデバイスのシース部およびクランプ部の直径は、ポートと同じサイズであることができる。たとえば、ポートを介して挿入されるデバイスの部分の直径、すなわち本明細書に説明するデバイスのシース部およびクランプ部の直径は、3mm〜15mmの間または略このサイズであり、たとえば、直径は3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、または15mmまでまたは略これらのサイズまでであるが、いくつかの実施例では、より小さい3mm未満、またはより大きい15mmを超えるサイズであることもできる。一般的には直径は少なくとも5mm、10mm、または12mmあるいは少なくとも約5mm、約10mm、または約12mmであり、大略的には、直径は少なくとも10mmまたは少なくとも約10mmである。一実施例では、ポートを介して挿入されるデバイスの部分の直径、すなわち本明細書に説明するデバイスのシース部およびクランプ部の直径は、10mmまたは約10mmである。
【0154】
ピストル型グリップハンドル部、シース部およびクランプ部を含むバンドクランプデバイスの各構成要素のサイズおよび寸法は、所望のサイズに調節することができる。たとえば、バンドクランプデバイスのサイズおよび寸法は、これらに限定されないが、実施する処置、デバイスのユーザ、ターゲット組織の固有性および物理的特徴、およびその他の当業者の技量内の事項の要因を含む1つ以上の検討事項に基づいて決定することができる。一実施例として、本明細書で提供するバンドクランプデバイスのサイズおよび寸法は、大略的に肝臓、たとえば成人の肝臓に関連して説明するが、バンドクランプデバイスがあらゆる組織または臓器をクランプできるように調節および変更を行うことができる。
【0155】
デバイスの例示的な実施形態を含めて、バンドクランプデバイスを添付の図面を参照して説明する。バンドクランプデバイスは大略的にハンドル端部およびクランプ端部の2つの端部を有している。別段の規定がない限り、本明細書に説明するデバイスの例示的な実施形態は「正面側」が描かれており、クランプ端部は大略的に図面の右側に向かった状態で、ハンドル端部は大略的に図面の左側に向かった状態で描かれている。クランプ端部は大略的に「先端部」として説明し、ハンドル端部は大略的に「基端部」として説明する。「先端部」という用語は、デバイスを保持する人物から最も遠いバンドクランプデバイスの端部を意味することを意図しており、「基端部」という用語は、デバイスの保持者から最も近いバンドクランプデバイスの端部を意味することを意図している。構成要素を他の構成要素に対してより「近位」と説明している場合は、その構成要素は基端部(ハンドル端部)により近い。構成要素を他の構成要素に対してより「遠位」と説明している場合は、その構成要素は先端部(クランプ端部)により近い。
【0156】
バンドクランプデバイスのいくつかの構成要素は、時計回りおよび反時計回りに回転または回動できる。「時計回り」および「反時計回り」という用語は、デバイスの正面側から見た場合の回転方向を説明するために用いている。いくつかの構成要素は軸周りに回動または回転することができる。回転は、構成要素がその周りを回動または回転する軸に関して「軸回転」または「軸方向に」として記載している。軸運動はデバイスの正面側への回転およびデバイスの背面側への回転であることができる。「前方回転」という用語は、デバイスの正面側への回転の方向を説明するために用いる。「後方回転」という用語は、デバイスの背面側への回転の方向を説明するために用いる。大略的に、添付の図面において回転方向は矢印で示す。いくつかの構成要素は、直線的に移動、前進または後退することができる。この運動は「直線移動」または運動が関係する他の構成要素に対して「直線的に」として説明する。直線移動はデバイスの先端部へ向かう運動またはデバイスの基端部へ向かう運動であることができる。たとえば、以下に説明するように、シースの直線移動は前方または後方への軸回転によって誘発することができ、それによりシースは直線的に前進または後退する。
【0157】
1.デバイスの構成要素
図1Aおよび
図1Bは本明細書に説明するバンドクランプデバイスの実施形態を示す図である。本明細書に説明するバンドクランプデバイス10は大略的に、ピストル型グリップハンドル部20と、シース部30と、クランプ部40と、を含んでいる。細長表面部材41がピストル型グリップハンドル部20に結合されており、ピストル型グリップハンドル部20のケース26の上部内に固定されている(
図3Aおよび
図3Bに詳細を示す)。細長表面部材41はピストル型グリップハンドル部20に、2つの構成要素を結合しかつ保持することができるあらゆる方法で固定することができ、たとえば、ねじ、ピン、スロット、溝、または溶接もしくは接着剤の使用を含む機械的方法で細長表面部材41をピストル型グリップハンドル部20に固定することができる。一実施例では、細長表面部材41はピストル型グリップハンドル部20にねじで固定されている。
【0158】
図1Aおよび
図1Bに示すように、細長表面部材41はピストル型グリップハンドル部20からデバイスの先端部へ水平に延び、シース部30およびクランプ部40をピストル型グリップハンドル部20に結合する基部として機能する。シース部30の中空シース32の管腔は、細長表面部材41を取り巻く筒状であり、
図6Dを参照して以下に詳細に説明するように、固定された細長表面部材41に対して直線的に移動することができる。細長表面部材41は、中空シース32の先端部から出て、クランプ部40の長さ方向に延び、クランプ部40の基部を形成している。
【0159】
このように、細長表面部材41は、バンドクランプデバイス10のシース部30およびクランプ部40の長さ全体に延びており、それが内視鏡ポート(たとえば、腹腔鏡ポート)内に挿入される部分である。シース部30およびクランプ部40の全長は、低侵襲処置中に体内にアクセスし(たとえば、腹腔鏡処置)かつ関心対象のターゲットにアクセスするのに十分な長さであり、その長さは大略的には、100mm〜500mmまたは約100mm〜約500mm、あるいは250mm〜400mmもしくは300mm〜400mmまたは約250mm〜約400mmもしくは約300mm〜約400mmなど、100mm〜600mmである。たとえば、シース部30およびクランプ部40、すなわち細長表面部材41の全長は、実施する処置のタイプ、クランプ対象の組織または臓器、または患者のタイプ、たとえば成人の患者であるか子供の患者であるか、およびその他の要因などの要因によって選択される。個々の構成要素および構成について、それぞれ特定の図面を参照して以下により詳しく説明する。
【0160】
a.ピストル型グリップハンドル
図1Aおよび
図1Bに示すように、ピストル型グリップハンドル部20はバンドクランプデバイス10のユーザのための把持部または柄として機能する。ピストル型グリップハンドル部20の寸法、すなわち長さ、幅および高さは、ユーザにバンドクランプデバイス10の把持を提供するのに十分である一方、バンドクランプデバイス10の動作を制御する内部の構成要素を封入するのに十分なあらゆる寸法とすることができる。一般的には、ピストル型グリップハンドル部20の長さ、すなわち基端部から先端部の長さは15mm〜50mmまたは約15mm〜約50mm、大略的には20mm〜40mmまたは約20mm〜約40mmであり、たとえば30mmである。ピストル型グリップハンドル部20の幅、すなわち正面側から背面側の幅は10mm〜40mmまたは約10mm〜約40mm、一般的に15mm〜30mmまたは約15mm〜約30mmであり、たとえば20mmとすることができる。高さ、すなわち上端から下端の高さは75mm〜200mmまたは約75mm〜約200mm、一般的に100mm〜150mmまたは約100mm〜約150mmであり、たとえば125mmとすることができる。
【0161】
図1Aおよび
図1Bに示すように、ピストル型グリップハンドル部20は、バンドクランプデバイス10の動作を制御する内部の構成要素を封入するケース26を含んでいる。ケース26はバンド引張り/緩めスイッチ23を露出する開口部27を含んでいる。バンド引張り/緩めスイッチ23はケースの両側に露出させることができ、すなわち、ケース26の両側にそれぞれ1つの開口部を設けて2つの開口部とすることができ、あるいはバンド引張り/緩めスイッチ23はケース26の片側のみに露出させることができ、すなわち、ケース26に開口部を1つのみ設けることができる。開口部27はケース26の何れかの側部または両方の側部に設けることができる。たとえば、スイッチ23をケース26の両側に設けてデバイス10の操作者にデバイスの制御および操作における柔軟性を与えてもよく、たとえば、操作者はスイッチ23に到達するのに左手または右手の何れかを使うことができる。バンド引張り/緩めスイッチ23は可動であり、上下、すなわち上位置および下位置に移動可能である(
図3Aおよび
図3B参照)。
【0162】
図1Aおよび
図1Bに示すように、ケース26はバンドクランプデバイス10の内部の構成要素を封入している。ケース26は射出成型プラスチックなどの硬質塑性材料で
作ることができる。たとえば、塑性材は射出成型が可能なあらゆるタイプのものであることができ、たとえば、これらに限定されないが、アクリル(すなわち、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)およびポリカーボネートを含むあらゆる熱可塑性または熱硬化性のポリマーであることができる。ケース26は金属で
作ることもできる。ケース26は正面側および背面側を含んでいる。ケース26の正面側と背面側は1つの連続した構成要素、すなわち1つの部品で構成することができる。ケース26の正面側と背面側は2つの別の構成要素、すなわち2つの部品で構成することができる。一実施例において、ケース26の正面側と背面側は2つの別の構成要素、たとえば塑性材料でできた2つの部品で構成されている。2つの構成要素、すなわち2つの部品は、ピストル型グリップハンドル部20内に配置された内部の構成要素を封入するために閉じて互いに固着することができる。2つの構成要素はケース26を形成するために、2つの構成要素を結合して保持することができるあらゆる方法で互いに固着することができ、たとえば、2つの構成要素、すなわち2つの部品は、継ぎ目に沿った螺合、接着、熱融着、溶接、または鋳付けによって固着することができる。
【0163】
図2は、
図1Aおよび
図1Bに示す、シース部30のシース調節ノブ31およびシース32と結合しているピストル型グリップハンドル部20の拡大切り欠き図である。
図2の切り欠き図は、ケース26の下にある、バンドクランプデバイス10のピストル型グリップハンドル部20の内部の構成要素を示している。
【0164】
図2に示すように、可撓性上側バンド42の基端部はバンドクランプデバイス10のピストル型グリップハンドル部20の内側内に封入されている。可撓性上側バンド42の一部は第2バンド引張りホイール22の周りで湾曲して第2バンド引張りホイール22と係合し、可撓性上側バンド42の基端部はピストル型グリップハンドル部20の内側内で自由に垂下している。たとえば、可撓性上側バンド42の基端部はピストル型グリップハンドル部20の内側内で固定されておらず、可撓性上側バンド42を移動可能、すなわち引張りまたは緩め移動可能にしている。可撓性上側バンド42の先端部は細長表面部材41の揺架45内に載置されて揺架45によって案内され、可撓性上側バンド42および細長表面部材41は中空のシース調節ノブ31の基端部内へ水平に延びている。(
図1Aおよび
図1Bに示すように)可撓性上側バンド42はシース調節ノブ31を通って連続しており、中空のシース32の長さ方向に延びて、クランプ部40内まで延びている。
【0165】
以下の可撓性バンドの説明に関して、可撓性上側バンド42の全長、すなわち、ピストル型グリップハンドル部20内に封入され、シース32を通って延び、かつクランプ部40内に延びる可撓性上側バンド42の長さは、少なくとも、可撓性上側バンド42が第2バンド引張りホイール22と係合するのに必要な長さに、シース部30およびクランプ部40の長さと、ターゲット組織上に配置するのに十分な大きさのループを形成するために緩めるまたは中空シース32から繰り出すことができる可撓性上側バンド42の長さとを加えた長さである(
図6Bを参照して以下により詳細に説明する)。大略的には、可撓性上側バンド42の全長は200mm〜1000mmまたは約200mm〜約1000mmであり、一般的には300mm〜800mm、たとえば、400mm〜600mmであるが、デバイスのサイズおよびクランプ対象の組織のサイズによって、これより長くするか、または短くすることができる。一実施例では、可撓性上側バンド42の全長は、ターゲット組織が3cm〜4cmの大きさのループを必要とし、かつシース部30およびクランプ部40の長さが400mmまたは約400mmである場合、少なくとも450mmである。
【0166】
図2に示すように、第1バンド引張りホイール21および第2バンド引張りホイール22は、ピストル型グリップハンドル部20の内側の上部に配置される。第1バンド引張りホイール21は部分的にピストル型グリップハンドル部20の内側内に封入されており、第2バンド引張りホイール22は完全にピストル型グリップハンドル部20の内側内に封入されており、すなわち、第2バンド引張りホイール22にはピストル型グリップハンドル部20の外部に存在する部分は無い。第1バンド引張りホイール21の残りの部分はピストル型グリップハンドル部20から突出しており、ピストル型グリップハンドル部20内に封入されていない。
【0167】
第1バンド引張りホイール21は第2バンド引張りホイール22に結合されている。第1バンド引張りホイール21および第2バンド引張りホイール22は、第1バンド引張りホイール21の中央部またはその近傍で結合されている。第1バンド引張りホイール21および第2バンド引張りホイール22は、2つのホイールを固定することができるあらゆる方法で結合され、たとえば、ホイールは融着、螺合、接着、熱融着、溶接、または鋳付けによって結合することができる。第1および第2バンド引張りホイール21および22は、それぞれ可動であり、互いに関して動き、すなわち、第1バンド引張りホイール21および第2バンド引張りホイール22は、互いに独立して動かない。第1および第2バンド引張りホイール21および22は、それぞれ、時計回りおよび反時計回りに回動または回転することができる。第1バンド引張りホイール21は、回転すると同時に第2バンド引張りホイール22を回転させ、第2バンド引張りホイール22上に載置されている可撓性上側バンド42に係合する。
【0168】
図2に示すように、第1バンド引張りホイール21および第2バンド引張りホイール22の両方の外側縁部には歯を付けることができる。第1バンド引張りホイール21の外側縁部に歯を付けることができ、それによりたとえば、第1バンド引張りホイール21を時計回りまたは反時計回りに回転させるときなど、第1バンド引張りホイール21を回転させるときにユーザに牽引力を提供することができる。第2バンド引張りホイール22の外側縁部に歯を付けることができ、それによりたとえば、第1および第2バンド引張りホイール21および22がそれぞれ、たとえば時計回りまたは反時計回りに同時に回転するときなどに、第2バンド引張りホイール22上に載置された可撓性上側バンド42に係合してそれを移動させることができる。たとえば、上述のように、可撓性上側バンド42は、可撓性上側バンド42全体の幅方向または長さ方向に設けられた歯を有するなど、歯を付けることができる。可撓性上側バンド42の各歯の間の距離、すなわち歯間は、補足的な距離、たとえば第2バンド引張りホイール22の歯と同じ歯間であることができる。たとえば、可撓性上側バンド42の歯が幅方向に設けられ、可撓性上側バンド42の歯間が補足的である場合、たとえば第2バンド引張りホイール22の歯間と同じである場合、第2バンド引張りホイール22の歯は可撓性上側バンド42の歯に係合することができ、それにより、可撓性上側バンド42が第2バンド引張りホイール22の周りで湾曲するときに可撓性上側バンド42を第2バンド引張りホイール22上の正しい場所に保持し、第1および第2バンド引張りホイール21および22がそれぞれ、同時に回転したときに可撓性上側バンド42を移動させる。
【0169】
大略的には、
図2に示すように、第1バンド引張りホイール21は第2バンド引張りホイール22より直径が大きい。第1バンド引張りホイール21の直径は25mm〜45mmもしくは約25mm〜約45mm、または30mm〜40mmもしくは約30mm〜約40mmなど、20mm〜50mmもしくは約20mm〜約50mmであることができるが、所望であれば、それよりも大きくまたは小さくすることもできる。第2バンド引張りホイール22の直径は5mm〜25mmもしくは約5mm〜約25mm、または10mm〜20mmもしくは約10mm〜約20mmなど、5mm〜30mmもしくは約5mm〜約30mmとすることができるが、所望であれば、それよりも大きくまたは小さくすることもできる。いくつかの実施形態では、第1バンド引張りホイール21の第2バンド引張りホイール22に対するサイズ比は、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3.3:1、3:1、2:1、1.5:1、1:1またはそれ未満もしくは略これらの比率である。大略的には、第1バンド引張りホイール21および第2バンド引張りホイール22の比率および直径は、デバイス10の操作者に操作者の親指によって印加される力と(可撓性上側バンド42の)バンド張力との間の機械的利益を提供するように決定する。たとえば、より大きな第1バンド引張りホイール21のサイズは生物工学によって決定することができ、第1バンド引張りホイール21と第2バンド引張りホイール22との間の比率は、
図3Aおよび
図3Bを参照して以下に説明するように、ラチェットの1クリック毎の可撓性上側バンド42の所望の引張り量によって決定することができる。一実施例では、第1バンド引張りホイール21と第2バンド引張りホイール22との間の比率は3.3:1である。他の実施例では、第1バンド引張りホイール21の直径は33mmであり、第2バンド引張りホイール22の直径は10mmである。
【0170】
図2は、バンド引張り/緩めスイッチ23およびラチェット機構24の配置を示している。バンド引張り/緩めスイッチ23およびラチェット機構24は協働して第1バンド引張りホイール21が回転できる方向、たとえば時計回りまたは反時計回りを制御する。第1バンド引張りホイール21の時計回りおよび反時計回りの回転は、
図6Bおよび
図6Eを参照して詳細に説明するように、可撓性上側バンド42の繰り出し、すなわち緩め、および引き戻し、すなわち引張りのそれぞれを交互に制御する。
【0171】
図2に示すように、バンド引張り/緩めスイッチ23は第1バンド引張りホイール21の下方の、ピストル型グリップハンドル部20の中央部またはその近傍に配置される。スイッチ23は、
図1Aおよび
図1Bを参照して上述したように、ケース26の両側または片側のみの開口部を通して突出し、ケース26の片側または両側でアクセス可能にできる。バンド引張り/緩めスイッチ23は、たとえばバンドクランプデバイス10のユーザによって、手動で上下動させるなど、上下に移動可能である。
【0172】
ラチェット機構24は、
図2に示すように、第1バンド引張りホイール21の下に直接的に配置されている。
図3Aおよび
図3Bを参照して以下により詳細に説明するように、バンド引張り/緩めスイッチ23を上位置または下位置に移動させると、同時にラチェット機構24がそれぞれ引張り位置および緩め位置に移動させられる。ラチェット機構24はY字形状または、バンド引張り/緩めスイッチ23を上位置または下位置に移動させたときに、第1バンド引張りホイール21およびバンド引張り/緩めスイッチ23の両方に接触、すなわち触れることができるあらゆる形状であることができる。たとえば、ラチェット機構24の底部はバンド引張り/緩めスイッチ23に接触、すなわち触れることができ、一方でラチェット機構24の上部は第1バンド引張りホイール21の底部に接触、すなわち触れることができる。Y字形状のラチェット機構24の底部はスイッチ23の側部に対して接しており、
図3Aおよび
図3Bを参照して以下により詳細に説明するように、スイッチ23を上下に移動させることによって移動、すなわちシフトさせることができる。Y字形状のラチェット機構24の上端部は2つの枝部になっている。各枝部の上端は、バンド引張り/緩めスイッチ23の位置によっては、第1バンド引張りホイール21の底部に接触、すなわち触れることができる。枝部のサイズは、
図3Aおよび
図3Bを参照して以下に説明するように、ラチェット機構24が引張り位置または緩め位置にあるときに第1バンド引張りホイール21の歯の間に配置される、すなわち止まることができるあらゆるサイズであることができる。Y字形状のラチェット機構24の下部の(スイッチ23に対して)基端部側には、
図3Aおよび
図3Bに詳細に示すように、スイッチ23を上位置または下位置に移動させたときにバンド引張り/緩めスイッチ23が嵌入できる1つ以上の溝またはノッチを設けることができる。
【0173】
図3Aおよび
図3Bは、
図1Aおよび
図1Bおよび
図2に示すピストル型グリップハンドル部20の拡大切り欠き図であり、第1バンド引張りホイール21、ラチェット機構24(24aおよび24b)およびバンド引張り/緩めスイッチ23(23aおよび23b)の関係を示している。バンド引張り/緩めスイッチ23(23aおよび23b)およびラチェット機構24(24aおよび24b)の位置は、第1バンド引張りホイール21が回転可能な方向(すなわち、時計回りまたは反時計回り)を制御し、それにより可撓性上側バンド42の動き(すなわち、緩めまたは引張り)を制御する。第1バンド引張りホイール21の回転によって可撓性上側バンド42を引張るまたは緩めることができる範囲は、ラチェット機構の1クリックで繰り出されるまたは引き戻される可撓性上側バンド42の量によって決定することができ、1クリックとは、第1バンド引張りホイール21の歯がY字形状のラチェット機構24の枝部を超える移動を意味する。たとえば、ラチェット機構の1クリックで繰り出しまたは引き戻しができる可撓性上側バンド42の量は、0.1mm〜1mmまたは約0.1mm〜約1mm、大略的には0.25mm〜0.75mm、一般的には約0.5mmとすることができるが、所望であれば、それより長くまたは短くすることもできる。
【0174】
バンド引張り/緩めスイッチ23(23aおよび23b)は、Y字形状のラチェット機構24(24aおよび24b)を引張り位置または緩め位置に同時に移動させるように、上位置または下位置にそれぞれ移動させることができる。たとえば、以下に説明するように、Y字形状のラチェット機構の一方の枝部24a、たとえばスイッチ23から遠いほうの枝部の上端は、スイッチ23aが下位置にあるときに第1バンド引張りホイール21の底部に接触、すなわち触れることができ、Y字形状のラチェット機構の他方の枝部24b、たとえばスイッチ23から近いほうの枝部の上端は、スイッチが上位置23bにあるときに第1バンド引張りホイール21の底部に接触、すなわち触れることができる。
【0175】
図3Aは、スイッチ23aが下位置にあるときの、第1バンド引張りホイール21、ラチェット機構24aおよびバンド引張り/緩めスイッチ23aの互いに対する位置を示している。下位置にあるスイッチ23aはラチェット機構24aの底部に接触してラチェット機構24aを緩め位置に配置または移動させる。ラチェット機構24aが緩め位置にあるとき、ラチェット機構24aは、ラチェット24aの底部がスイッチ23aから離れる方向(すなわち、バンドクランプデバイス10の基端部(ハンドル側)方向)に押され、Y字形状のラチェット24aの上部がスイッチ23aに向かう方向(すなわち、バンドクランプデバイス10の先端部(クランプ側)方向)に押されるように配置される。緩め位置において、スイッチ23から遠いほうの枝部の先端は第1引張りホイール21の底部に接触する、すなわち触れる。これにより、第1引張りホイール21を時計回りに回転させ、反時計回りの回転を阻止する。枝部は時計回りに移動するときに第1バンド引張りホイール21の歯を持ち上げるが、反対方向(すなわち、反時計回り)にはホイール21の歯に対して停止する。たとえば、Y字形状のラチェット24aのスイッチから遠いほうの枝部の先端は第1バンド引張りホイール21の底部の2つの歯の間に配置され、すなわち入り、それにより反時計回りの回転を阻止する。第1バンド引張りホイール21の時計回りの回転は、結合された第2引張りホイール22を同様に時計回りに回転させる(
図2を参照して上記で示し説明した)。第1および第2バンド引張りホイール21および22の時計回りの回転はそれぞれ、第2バンド引張りホイール22と係合する可撓性上側バンド42を繰り出す、すなわち緩める。たとえば、第1および第2バンド引張りホイール21および22の時計回りの回転はそれぞれ、中空シース32を通してクランプ部40内に可撓性上側バンド42を繰り出す(
図4Bを参照して以下に示し説明する)。
【0176】
図3Bは、スイッチ23bが上位置にあるときの、第1バンド引張りホイール21、ラチェット機構24bおよびバンド引張り/緩めスイッチ23bの互いに対する位置を示している。上位置にあるスイッチ23bはラチェット機構24bの中央部に接触してラチェット機構24bを引張り位置に配置または移動させる。ラチェット機構24bが引張り位置にあるとき、ラチェット機構24bは、ラチェット24bの底部がスイッチ23bに向かう方向(すなわち、バンドクランプデバイス10の先端部(クランプ側)方向)に押され、Y字形状のラチェット24bの上部がスイッチ23bから離れる方向(すなわち、バンドクランプデバイス10の基端部(ハンドル側)方向)に押されるように配置される。引張り位置24bにおいて、スイッチ23から近いほうの枝部の先端は第1引張りホイール21の底部に接触する、すなわち触れる。これにより、第1引張りホイール21を反時計回りに回転させ、時計回りの回転を阻止する。枝部は反時計回りに移動するときに第1バンド引張りホイール21の歯を持ち上げるが、反対方向(すなわち、時計回り)にはホイール21の歯に対して停止する。たとえば、Y字形状のラチェット機構24bのスイッチから近いほうの枝部の先端は第1バンド引張りホイール21の底部の2つの歯の間に配置され、すなわち入り、それにより時計回りの回転を阻止する。第1引張りホイール21の反時計回りの回転は、結合された第2バンド引張りホイール22を同様に反時計回りに回転させる(
図2を参照して上記で示し説明した)。(
図2を参照して上述したように)第1および第2バンド引張りホイール21および22の反時計回りの回転はそれぞれ、第2バンド引張りホイール22と係合する可撓性上側バンド42を引き戻す、すなわち引張る。たとえば、第1および第2バンド引張りホイール21および22の反時計回りの回転はそれぞれ、中空シース32を通してクランプ部40から可撓性上側バンド42を引き戻す、すなわち引張る(
図4Cを参照して以下に示し説明する)。
【0177】
b.シース部
上述のように、ピストル型グリップハンドル部20は、(
図1Aおよび
図1Bに示すように)ピストル型グリップハンドル部20の上側先端部に固定され、かつシース部30およびクランプ部40の長さ全体に延びる細長表面部材41によってシース部30に結合されている。細長表面部材は軟質または硬質であることができる。通常は、細長表面部材41は硬質であり、硬く撓まないようになっており、金属または硬質プラスチックなどの曲がらないあらゆる材料で作成することができる。たとえば、細長表面部材41は、真鍮、ステンレス鋼、チタンまたはアルミニウムなどの金属で作成することができ、あるいはガラス入りナイロンなどの硬質プラスチックで作成することができる。一実施例では、細長表面部材41は真鍮で作成されている。他の実施例では、細長表面部材41はステンレス鋼で作成されている。
【0178】
細長表面部材41は平坦または溝付きであることができる。たとえば、
図2、
図3A、
図3B、
図4Bおよび
図4Cについては、細長表面部材41は凹形表面として細長表面部材41の中央に延びる揺架45を備えることができる。一実施例では、(
図2、
図3A、
図3B、
図4Bおよび
図4Cに詳細に示すように)細長表面部材41は細長表面部材41の全長にわたり、すなわちシース部30およびクランプ部40全体に延びる細長表面部材41の長さにわたり、中央に延びる揺架45を備えている。細長表面部材41の揺架45は、たとえば、デバイス10のシース部30およびクランプ部40内の細長表面部材41上に載置された可撓性上側バンド42を定位置に安定させる、すなわち保持するために用いることができる。膨脹式バルーンなどの膨脹可能な生体適合性可変形物を含むデバイスの実施形態において、細長表面部材41の揺架45はまた、バルーン膨脹線25およびシース部30およびクランプ部40内の細長表面部材41上に載置されたバルーン43をそれぞれ定位置に保持することもできる。
【0179】
図1Aおよび
図1Bに示すように、細長表面部材41はシース32の先端部から延びてデバイス10のクランプ部40の下側部分を形成している。細長表面部材41の一部分、すなわち、ピストル型グリップハンドル部20に結合されてピストル型グリップハンドル部20から先端部方向に延びる細長表面部材の部分は、シース部30の長さ方向に延びる中空の筒状シャフトであるシース32によって被覆されている。シース32はシース調節ノブ31から先端部方向に延び(以下にさらに説明する)、クランプ部40の基端部で終結する。
【0180】
シース32はシース調節ノブ31を介してピストル型グリップハンドル部20に結合されている。シース調節ノブ31は、中空シリンダであり、両端部、すなわち基端部および先端部が開口しており、ピストル型グリップハンドル部20および中空シース32をそれぞれ収容する調節可能ノブである。シース調節ノブ31の基端部側開口部はピストル型グリップハンドル部20に結合されている。シース調節ノブ31は、シース調節ノブ31がシース32周りで回動または回転、たとえば前方回転または後方回転されたときに軸回転自在になるあらゆる方法でピストル型グリップハンドル部20に結合することができる。たとえば、ピストル型グリップハンドル部20内の対応する溝内に入ることができるピンまたはねじをシース調節ノブ31に挿入することができる。他の実施例では、シース調節ノブ31の内側表面をピストル型グリップハンドル部20内の対応する溝に係合可能なリングと嵌合させることができる。シース調節ノブ31の先端部側開口部はシース32の基端部側端部に結合されている。シース32の基端部側端部は、(
図3Aおよび
図3Bに示すように)シースのスクリュー機構33を介してシース調節ノブ31の先端部側開口部内にねじ込むことができる。たとえば、シース調節ノブの内側表面を、たとえば雌ねじにねじ切りして、シース32の基端部側端部の外側表面をスクリュー機構33の補足的なねじ、たとえば雄ねじにねじ切りすることができる。
【0181】
シース調節ノブ31の各端部の開口部のサイズ、すなわち直径は、基端部側端部にピストル型グリップハンドル部20を、先端部側端部にシース32を収容するのに十分なあらゆるサイズとすることができる。たとえば、シース32の直径が10mmである場合は、シース調節ノブ31の先端部側開口部の直径は10mmよりも僅かに大きい。シース調節ノブ31は軸回転可能であり、
図6Dを参照して以下に説明するように、シース32の移動を制御するように回動または回転させることができる。
【0182】
シース調節ノブ31は、一般的に射出成型プラスチックなどの硬質塑性材料で作成される。たとえば、塑性材は射出成型が可能なあらゆるタイプのものであることができ、たとえば、これらに限定されないが、アクリル(すなわち、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)およびポリカーボネートを含むあらゆる熱可塑性または熱硬化性のポリマーであることができる。シース調節ノブ31の基端部側の外側表面は、ユーザのための把持部をノブ31に形成するために刻み目または畝を設けることができる。
【0183】
図1Aおよび
図1Bに示すように、シース32は細長表面部材41に対して直線的に移動可能である。たとえば、シース32は細長表面部材41の長さ方向に沿って先端部方向へ、すなわちクランプ端部またはデバイス10の先端部に向かって、前進させることができ、かつ細長表面部材41の長さ方向に沿って基端部方向へ、すなわちハンドル部端部またはデバイス10の基端部に向かって、後退させることができる。シース32を前進させることにより、中空シース32の先端部から外へ延びるクランプ部40の量を減少させ、シース32を後退させることにより、中空シース32の先端部から外へ延びるクランプ部40の量を増大させる。たとえば、シース32は、シース32を前進または後退させることにより、それぞれ細長表面部材41をより多くまたはより少なく被覆するように調節することができる。シース32の位置および直線移動は、スクリュー機構33を介してシース調節ノブ31によって制御される(
図6Dに詳しく示す)。
図3Aおよび
図3Bおよび
図6Dに関して、シース調節ノブ31の内側表面の先端部は、たとえば雌ねじにねじ切りされており、
図6Dを参照して以下に説明するように、シース調節ノブ31を回動または回転させたときに細長表面部材41に対して直線的にシース32を前進および後退させるために、雄ねじにねじ切りされたスクリュー機構33に係合する。
【0184】
シース32の長さは、一般的に100mm〜500mmまたは約100mm〜約500mm、大略的には200mm〜400mmまたは約200mm〜約400mm、たとえば300mmであるが、所望であれば、より長い、すなわち500mmを超える長さ、またはより短い、すなわち100mm未満の長さにすることもできる。一実施例では、シース32の長さは300mmまたは約300mmである。
【0185】
一般的に、
図1に示すように、中空シース32の直径は3mm〜15mmまたは約3mm〜約15mmであり、たとえば、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、もしくは15mmまで、または略これらの数値まで、または略これらの数値であるが、いくつかの実施例において、より小さい、たとえば3mm未満、またはより大きい、たとえば15mmを超える直径にすることもできる。一般的に、シース32の直径は少なくとも5mm、10mm、もしくは12mm、または少なくとも約5mm、約10mm、もしくは約12mmであり、大略的には少なくとも10mmまたは少なくとも約10mmである。一実施例では、シース32の直径は10mmまたは約10mmである。
【0186】
シース32は、たとえばステンレス鋼または耐久性プラスチックなど、一般的に腹腔鏡手術器具に使用されるあらゆる耐久性材料で作成することができる。
【0187】
c.クランプ部
図1Aおよび
図1Bに示すように、細長表面部材41は中空シース32の先端部から外へ延びており、クランプ部40の底部を形成している。クランプ部40の長さ、たとえば、
図1Aおよび
図1Bに示すように中空シース32から外へ延びる細長表面部材41の長さは、クランプすることを要求される組織の所望の領域または部分を収容するためのあらゆる長さとすることができる。特定の直径はクランプ対象の組織のサイズおよび物理的特徴、ならびにクランプ対象の組織の特定の量に基づいて決定することができる。たとえば、クランプ対象の組織の量は、たとえば実施する処置の性質またはクランプ対象の特定の組織に基づくことができる。組織のサイズ、したがってクランプのサイズは、組織上のクランプの位置によって変更することができる。たとえば、組織がヒトの肝臓などの肝臓である場合は、組織の端部では組織は薄く、組織の中央部に向かってサイズ、たとえば厚みが大きくなる。クランプ対象の組織のサイズは、たとえば対象によって変更することができる。一実施例では、組織はより大きい、たとえばヒトの大人の肝臓であることができる。他の実施例では、組織はより小さい、たとえばヒトの子供の肝臓であることができる。より大きな組織はより長いクランプ部40を要求することができる一方、より小さい組織はより短いクランプ部40を要求することができる。一実施例において、クランプ対象の組織は成人の肝臓などの肝臓であり、本明細書に説明するバンドクランプデバイスでクランプする対象の組織の量は、肝臓の5g〜50gまたは約5g〜約50gなど、一般的に1g〜100gまたは約1g〜約100gである。
【0188】
特定の実施例において、たとえばMRIモデリングスタディなどの、3次元モデリングスタディなどのモデリングスタディを、クランプ対象の組織、すなわちターゲット組織に対して実施して、組織の解剖学的構造その他の物理的特徴、および所定の領域または部分を収容するために要求されるクランプのサイズを決定することができる。いくつかの実施例において、モデリングスタディの結果はバンドクランプデバイス10の構成要素のサイズおよび寸法を決定するために用いられる。一実施例において、たとえば成人の肝臓などの肝臓の3次元MRIモデリングスタディの結果が、バンドクランプデバイス10の構成要素のサイズおよび寸法を決定するために用いられる。たとえば3次元MRIモデリングスタディなどの、3次元モデリングスタディなどのモデリングスタディの結果は、腹腔鏡処置などの処置中にクランプまたは区分化する組織の量を決定するために用いることができる。たとえば、ヒトの肝臓などの組織の3次元モデルは、隔離可能な組織の体積を決定するために漸進的に区分化することができる。体積は隔離すべき組織のものであることができ、クランプ40の適切な寸法、すなわち幅および高さを決定するために用いることができる。
【0189】
一般的に、中空シース32から外へ延びてクランプ部40の底部を形成している細長表面部材41の長さは、50mm〜500mmまたは約50mm〜約500mm、大略的には、たとえば100mmまでまたは少なくとも100mmまたは約100mmなどの75mm〜200mmまたは約75mm〜約200mmであるが、所望の場合はより長い、すなわち500mmを超える長さ、またはより短い、すなわち50mm未満の長さとすることもできる。一実施例において、クランプ対象の組織は成人の肝臓などの肝臓であり、クランプ部40の長さ、たとえば中空シース32から外へ延びる細長表面部材41の長さは、100mmまたは約100mmである。
【0190】
i.可撓性上側バンド
細長表面部材41は、クランプ部40の先端部で終結する。
図1Aおよび
図1Bに示すように、細長表面部材41の先端部にはノッチ44が設けられている。細長表面部材41はノッチ44で可撓性上側バンド42に結合されている。可撓性上側バンド42の端部はノッチ44内に挿入されて、細長表面部材41と可撓性上側バンド42との間に閉ループを形成することができる。ノッチ44のサイズは、可撓性上側バンド42の端部を収容できるあらゆるサイズ、すなわち深さとすることができる。たとえば、ノッチ44は可撓性上側バンド42の厚みと同じまたは略同じ深さとすることができる。細長表面部材41と可撓性上側バンド42との間に形成された閉ループはノッチ44で固定することができる、すなわち、細長表面部材41および可撓性上側バンド42はノッチ44で封止されて封止閉ループを形成することができる。たとえば、可撓性上側バンド42および細長表面部材41は接着、熱融着、溶接、または鋳付けによって結合できる。あるいは、細長表面部材41と可撓性上側バンド42との間にノッチ44で形成された閉ループは、着脱可能または固定可能とすることができる、すなわち、たとえばフックを用いて、可撓性上側バンド42をノッチ44に挿入して細長表面部材41と閉ループを形成し、かつノッチ44から外してループを開くことができる。たとえば、可撓性上側バンド42を細長表面部材41内のノッチ44から外して、必要な時に細長表面部材41内のノッチ44に再挿入することができる。
【0191】
図1Aおよび
図1Bに示す可撓性上側バンド42は、
図2を参照して以下により詳細に説明するように、ピストル型グリップハンドル部20内を起点として中空シース32全体に延びている。可撓性上側バンド42は中空シース32の先端部から外へ延びており、クランプ部40の細長表面部材41のノッチ44で終結している。中空シース32から外へ延びる可撓性上側バンド42の長さは調節可能であり、可撓性上側バンド42の位置によって決めることができる。たとえば、
図4A〜
図4Dを参照して以下により詳細に説明するように、バンド42は(
図1Aおよび
図1Bに示すように)緩み位置、平坦位置、または引張り位置にあることができる。大略的に、中空シース32から外へ延びる可撓性上側バンド42の長さは、少なくとも中空シース32から外へ延びる細長表面部材41の長さと同じであり、たとえば、少なくとも50mm、75mm、100mm、150mm、200mm、250mm、300mm、350mm、400mm、450mm、もしくは500mm以上、または少なくとも略これらの長さである。一実施例では、中空シース32から外へ延びる可撓性上側バンド42の長さは、少なくとも100mmである。
【0192】
可撓性上側バンド42は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、細長表面部材41とループを形成することができ、バンドが緩められたときまたはシース32から繰り出されたときに細長表面部材41上に平坦に載置されないあらゆる材料で作成できる。たとえば、材料は、可撓性上側バンド42が緩められたまたはシース32から繰り出されたときに細長表面部材41とループを形成できるのに十分な剛性および/または形状記憶性を有するあらゆる材料とすることができる。可撓性上側バンド42に用いることができる材料の例としては、可撓性上側バンド42が繰り出された後に、細長表面部材41上に平坦に載置された状態になるよりも、可撓性上側バンド42が細長表面部材41とループを形成できる柱強度と柔軟性とを兼ね備えており、引張られたときにターゲット組織の解剖学的構造に適合するのに十分軟質であるあらゆる材料を含む。例示的な材料としては、これらに限定されないが、シリコーンおよびポリウレタンまたはポリエチレンなどの屈曲性重合体、たとえば、繊維強化ポリウレタンなどの可撓性強化ポリウレタンなどの、たとえばタイミングベルトなどのベルトの作成に一般的に用いる材料を含む。いくつかの実施例では、繊維強化材は重合体に完全に封入されているおよび/または生体適合性を有している。
【0193】
可撓性上側バンド42は、歯を設けることができる(たとえば、
図4E参照)。可撓性上側バンドの歯は、可撓性上側バンド42を横切って全体の長さ方向または幅方向に配置することができる。たとえば、歯は可撓性上側バンド42の長さ方向全体、すなわち、ピストル型グリップハンドル部20からシース部30およびクランプ部40全体に延びる可撓性上側バンド42の全長にわたって、可撓性上側バンド42を横切って全体の長さ方向または幅方向に配置することができる。一実施例では、デバイス10の一端部、たとえばハンドル部の端部の歯は、可撓性上側バンド42の一部を横切って幅方向に配置し、デバイス10の他端部、たとえばクランプ部の端部の歯は、可撓性上側バンド42を横切って長さ方向に配置することができる。一実施例では、可撓性上側バンド42は歯付きの可撓性繊維ガラス強化ポリウレタンで作成される。他の実施例では、可撓性上側バンド42は繊維ガラスで強化されていない成型可撓性ポリウレタン材料で作成される。可撓性上側バンド42の各歯の間の空間、すなわち歯間は、第2バンド引張りホイール22上の空間、すなわち歯間と同じになるように選択できる(
図2を参照して以下により詳しく示し説明する)。可撓性上側バンド42の歯間は、これらに限定されないが、可撓性上側バンド42のサイズもしくは幅、第2バンド引張りホイール22上の歯間、またはターゲット組織の特徴を含む1つ以上の要因に基づいて選択することができる。一般的には、より小さな歯間は歯の間の間隔を小さくして可撓性上側バンド42のより精密な制御およびよりスムーズな操作をもたらすことができるため、より小さな歯間が望ましい。大略的には、可撓性上側バンド42上の歯間は第2バンド引張りホイール22上の歯間と同じである。
【0194】
ii.生体適合性可変形物
図1Aに示すように、生体適合性可変形物4は、クランプ部40の細長表面部材41上に載置されている。生体適合性可変形物4が細長表面部材41の先端部に載置され、可撓性バンドが細長表面部材41の先端部に結合されているため、可撓性バンド42および生体適合性可変形物4で閉ループも形成されている。閉ループにおいて、生体適合性可変形物4は細長表面部材41と可撓性上側バンド42との間に配置されている。形成される閉ループは低侵襲手術中に組織もしくは臓器またはそれらの一部に嵌合可能となるのに十分である。したがって、生体適合性可変形物4はデバイスのクランプ部の対向する側部の一部を形成し、構造体を圧縮するために組織もしくは臓器またはそれらの一部に圧力または力を印加する。
【0195】
本明細書のデバイスの目的のために、生体適合性可変形物は、本明細書のデバイスを使用してクランプ力の均等な分布、したがって均一の圧力を確実にするために組織もしくは臓器またはそれらの一部の解剖学的構造に適合することができるあらゆる物である。生体適合性可変形物4は、ターゲット組織に適合できかつ、ターゲット組織が閉ループ内に配置されてクランプ圧力または力がバンド張力から印加されたときに、組織に損傷を与えることなくターゲット組織に圧力を印加できるあらゆる材料で作成することができる。生体適合性可変形物4は、あらゆる変形可能な高分子材料で作成することができる。生体適合性可変形
物4に使用可能な材料の例としては、低デュロメータ(すなわち、硬度)、低〜中デュロメータまたは中デュロメータの材料である。たとえば、ショアA硬度計で判定した材料のデュロメータまたはショア硬度は5A〜95Aであることができ、大略的には、20A〜85A、20A〜70A、20A〜60A、20A〜50A、20A〜40A、30A〜85A、30A〜70A、30A〜60A、30A〜50A、30A〜40A、40A〜85A、40A〜70A、40A〜60A、40A〜50A、50A〜85A、50A〜70A、50A〜60A、60A〜85A、60A〜70A、または70A〜85Aなどをそれぞれ含む、10A〜95Aまたは20A〜95Aとすることができる。いくつかの場合、ショア00硬度計の材料を使用することができる。特定のターゲット組織、適用、印加すべきクランプ圧力、および他の要因によって、適切な材料を選択することは、当業者の技量内の事項である。生体適合性可変形物4は、エラストマーフォーム、シリコーン(たとえば、低デュロメータシリコーン)、エラストマー(たとえば、低デュロメータエラストマー)、シリコーンゴム、粘弾性ゲル、ハイドロゲルまたは非エラストマーフィルム材料で作ることができる。そのような材料の例としては、これらに限定されないが、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール修飾(PETG)、エチレン酢酸ビニル(EVA)またはシリコーンが含まれる。特定の実施例では、生体適合性可変形物は
図1Bに例示するバルーン43などの膨脹可能なあらゆる物であることができる。
【0196】
細長表面部材41は、(上記で説明し、
図2、
図3A、
図3B、
図4Bおよび
図4Cに詳細に示すように)生体適合性可変形物4を定位置に安定させる、すなわち保持することができ、生体適合性可変形物4がクランプ部40内の細長表面部材41から外れることを阻止することができる揺架45を備えることができる。上述のように、生体適合性可変形物4はクランプ対象の部分の閉ループ内にクランプすることを要求される組織もしくは臓器またはそれらの一部に嵌合し、クランプ対象の組織もしくは臓器またはそれらの一部全体への均一な圧力の印加を可能とする、サイズである。特定の物、クランプ対象の組織もしくは臓器またはそれらの一部、クランプの特定の用途、印加すべき圧力、および他の要因によって、生体適合性可変形物のサイズを調節または選択することは、当業者の技量内の事項である。一般的に、生体適合性可変形物の長さは、シースより長い表面部材の一部と略同じである。たとえば、細長表面部材の先端部の揺架内に載置されている生体適合性可変形物の長さは、25mm〜200mm、50mm〜150mmまたは75mm〜125mmである。特定の実施例では、細長表面部材の先端部の揺架内に載置されている生体適合性可変形物の長さは、100mmまたは少なくとも100mmである。
【0197】
大略的には、生体適合性可変形物の直径はシース部32の直径以下であり、デバイスのクランプ部は内視鏡ポートを通して嵌入可能となっている。たとえば、生体適合性可変形物の直径は14mm、13mm、12mm、11mm、10mm、9mm、8mm、7mm、6mm、5mm、4mm、3mm、2mmまたはそれ未満などの15mm未満の直径である。いくつかの実施例において、生体適合性可変形物は
図1Bに示すデバイスで例示するような膨脹式バルーンである。バルーンは内視鏡ポートを介して挿入した後に膨脹可能であるため、このような実施例ではバルーンの直径はシースの直径よりも大きくできるが、大略的には、可撓性バンドおよびバルーンで形成されたクランプ部の閉ループへの組織またはその一部の嵌入を損なうほど大きくない。一般的には、バルーンの直径は、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、15mmまでの直径または少なくともこれらの直径または略これらの直径である。
【0198】
バルーン
本明細書で提供するデバイスの実施形態において、生体適合性可変形物4は
図1Bに例示するバルーン43である。バルーンは、膨脹したときに解剖学的構造に適合してクランプ力の均等な分布を確実にすることができる。バルーンまたは他の膨脹式の物のさらなる有利な設計の特徴は、ユーザがバルーンの圧力を監視することによってクランプ力を正確に制御および監視できることである。たとえば、以下にさらに説明するように、バルーンの圧力は、いつ所望の圧力量が達成されたかを判定するため、または圧力に変化、たとえば低下があったかどうかを判定するために監視することができる。いくつかの場合、クランプ力をバンド張力によって適切に制御できるため、クランプ力または圧力の監視は必要とされない。
【0199】
図1Bに示すように、バルーン43はクランプ部40の細長表面部材41上に載置されている。細長表面部材41は、(上記で説明し、
図2、
図3A、
図3B、
図4Bおよび
図4Cに詳細に示すように)バルーン43を定位置に安定させる、すなわち保持することができ、たとえばバルーン43が収縮されたとき
43aにバルーン43がクランプ部40内の細長表面部材41から外れることを阻止することができる揺架45を備えることができる。バルーン43が細長表面部材41の先端部に載置され、可撓性バンドが細長表面部材41の先端部に結合されているため、可撓性バンド42およびバルーン43で閉ループも形成されている。閉ループにおいて、バルーン43は細長表面部材41と可撓性上側バンド42との間に配置されている。
図1Bに示すバルーン43は、ターゲット組織に適合できかつ、膨脹したときにターゲット組織に圧力を印加できる一方で過度に膨脹して組織を傷つけることのない、あらゆる材料で作成することができる。それらには、エラストマー材料または、たとえば非エラストマーフィルム材料などの非エラストマー材料を含むことができる。一般的には、バルーンは、20A〜95Aなどのショア硬度試験のAスケールに該当する硬度、たとえば50A〜70Aまたは70A〜85Aなどの40A〜90Aの硬度の材料で作成される。バルーン43に使用できる材料の例としては、たとえば血管形成術バルーン用材料などの当業者に公知の剛性バルーン材料などの、中デュロメータ(すなわち、硬度)の材料である。たとえば、中デュロメータの材料は、70A〜85Aまたは約70A〜約85Aのショア硬度のポリウレタンなどのポリウレタンであることができる。中デュロメータの材料は、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンテレフタレートグリコール修飾(PETG)などのポリエチレン材料であることができる。一般的には、バルーン43の材料は、バルーン43が膨脹したときにバルーン43がターゲット組織に圧力を印加せずに膨出するほどの伸縮性はなく、たとえば、一般的にはバルーン43はラテックスなどの材料では作成されない。
【0200】
バルーン43は中空シース32に近いほうのバルーン43の端部でバルーン膨脹線25の先端部に結合されている。
図1Bに示すように、バルーン膨脹線25はケース26の底部の開口部を通してケース26に入り、ピストル型グリップハンドル部20およびシース部30の中空シース32を通り、中空シース32の先端部から延出し、クランプ部40内のバルーン43の基端部に結合されている。バルーン膨脹線25はバルーン43を膨脹および収縮させるために用いることができるが、
図6Fを参照して以下により詳細に説明する。バルーン膨脹線25の外側部分(すなわち、基端部)、すなわちケース26の底部から延出しているバルーン膨脹線25の一部は、外部のバルーン43を膨脹および収縮させるために用いることができる流体または気体、たとえば空気の供給源に結合することができる。
【0201】
バルーン膨脹線25は、これらに限定されないが、ウレタン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレンおよびポリウレタンを含む広範囲の材料で作成することができる。一実施例では、バルーン膨脹線25はPVCで作成される。他の実施例では、バルーン膨脹線25はバルーン43と同じ材料で作成され、たとえば、バルーン膨脹線25およびバルーン43は、共にウレタンで作成される。バルーン膨脹線25のサイズは、バルーンのサイズ、中空シース32のサイズ、バルーン43の膨脹に使用される流体または気体の供給源および性質、ならびに実施する処置のタイプなどの1つ以上の要因によって変更することができる。大略的には、バルーン膨脹線25の内径は0.01インチ〜0.05インチまたは約0.01インチ〜約0.05インチ、一般的には0.02インチまたは0.03インチなどの0.02インチ〜0.04インチまたは約0.02インチ〜約0.04インチとすることができる。バルーン膨脹線25の外径は0.04インチ〜0.08インチまたは約0.04インチ〜約0.08インチ、一般的には0.06インチなどの0.05インチ〜0.07インチまたは約0.05インチ〜約0.07インチとすることができる。一実施例では、バルーン膨脹線25はPVCで作成され、内径が0.02インチまたは0.03インチであり、外径が0.06インチである。
【0202】
2.デバイスの操作
本明細書で提供するデバイスは、組織もしくは臓器またはそれらの一部のクランプが要求されるあらゆる手術または技術に使用可能である。たとえば、デバイスは、区分化されたターゲット組織またはその一部への核酸の送達を含む遺伝子治療法のための、体循環からの組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化を行うために、組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプすることができる。本明細書に説明するデバイスはまた、移植および摘出などの他の組織手術にも使用可能である。デバイスはまた、腹腔鏡処置などの低侵襲処置における組織もしくは臓器またはそれらの一部のクランプにも使用可能である。デバイスは腹腔鏡ポートなどの内視鏡ポートを介して挿入されて、低侵襲処置(たとえば、腹腔鏡処置)中に操縦することができ、低侵襲処置中に組織の一部への血流の遮断を行うために使用可能である。デバイスは、単一ポートまたは複数ポート処置の間、他の低侵襲(たとえば、腹腔鏡)手術用デバイスと併用することができる。
【0203】
そのような処置におけるデバイスの操作または使用について以下に説明する。以下の説明は、バルーン膨脹線によって膨脹または収縮可能なバルーンである生体適合性可変形
物を含むデバイスを例示して行う。上述のように、そのようなデバイスはユーザによるクランプ力の正確な制御および監視を可能とするため、本明細書で提供する他の生体適合性可変形物よりも有利な点を提供する。しかし、本明細書に説明するように、解剖学的構造に適合できるあらゆる生体適合性可変形物を採用することができる。特に、そのような他の物は、クランプ力のそのような正確な制御および監視を必要としない場合、またはバンド張力などの他のクランプ力の制御手段で十分である場合に使用可能である。生体適合性可変形物を膨脹または収縮することを必要としない場合に、他の生体適合性可変形物に代えること、あるいは実質的に上述のようなデバイスを使用することは、当業者の技量内の事項である。
【0204】
図6A〜
図6Fを参照してより詳細に説明するように、大略的に、クランプ部40の構成要素およびそれらの位置は、
図1A、
図1B、
図2、
図3Aおよび
図3Bを参照して上記に示し説明したように、ピストル型グリップハンドル部20およびシース部30内に配置されたバンドクランプデバイス10の他の構成要素によって制御されている。たとえば、クランプ部40の可撓性上側バンド42(42a、42bおよび42c)の動き、たとえば繰り出しまたは引張りは(
図2、
図3Aおよび
図3Bを参照して上述したように)、ピストル型グリップハンドル部20の第1バンド引張りホイール21の時計回りまたは反時計回りのそれぞれの回転によって制御されている。バルーン43(43aおよび43b)はバルーン膨脹線25を介して膨脹または収縮することができる。バルーン膨脹線25は、
図1Bを参照して上述したように、バルーン43(43aおよび43b)の先端部に結合され、シース部30およびピストル型グリップハンドル部20を通って延び、流体または気体、たとえば空気の外部の供給源に結合されている。
【0205】
図4A〜
図4Eは、
図1Aおよび
図1Bに示すバンドクランプデバイス10のクランプ部40の拡大図である。クランプ部40は中空シース32の先端部から延出している。クランプ部40は、
図1Aおよび
図1Bを参照して上述したように、細長表面部材41、可撓性上側バンド42(42a、42bおよび42c)およびバルーン43(43aおよび43b)で構成されている。可撓性上側バンド42(42a、42bおよび42c)および細長表面部材41は、上述のように、ノッチ44で結合されて閉ループを形成している。
【0206】
図4Aは、バルーン43aが収縮状態でかつ可撓性上側バンド42aが平坦位置にあるときのクランプ部40の構成要素の例示的な配置を示している。クランプ部40は、たとえば、内視鏡ポート(たとえば、腹腔鏡ポート)を介してバンドクランプデバイス10を挿入する前に、この配置であることができる。クランプ部40は、たとえば、腹腔鏡ポートを介してバンドクランプデバイス10を挿入している間、この配置であることができる。バルーン43aは、
図1Bを参照して上述したように、収縮位置にあり、細長表面部材41の揺架45(
図4Aでは不可視)内に載置されている。可撓性上側バンド42aは平坦位置にあり、収縮したバルーン43aおよび細長表面部材41の上に載置されている。大略的には、可撓性上側バンド42aが平坦位置にあるとき、緩みは無い、すなわち、可撓性上側バンド42aは細長表面部材41の上に平坦に載置されており、可撓性上側バンド42aと細長表面部材41との間に空間は存在しない。たとえば、可撓性上側バンド42aが平坦位置にあるとき、可撓性上側バンド42aは引張られている、すなわち緩みが無い。可撓性上側バンド42aが平坦位置にあるとき、中空シース32の端部から延びる可撓性上側バンド42aの長さは、中空シース32から延出する細長表面部材41の長さと同じまたは略同じであることができる。一実施例において、中空シース32から延出する細長表面部材の長さは100mmまたは約100mmであり、中空シース32から延出する可撓性上側バンド42aの長さは100mmまたは約100mmである。
【0207】
図4Bは、バンドクランプデバイス10のクランプ部40の例示的な配置を示している。バルーン43aは収縮状態で細長表面部材41の揺架45内に載置されている。揺架45は、バルーン43aを細長表面部材41の定位置に安定させ、すなわち保持し、バルーン43aが収縮位置にあるときに外れることを阻止するように機能する。可撓性上側バンド42bは、緩み位置にある。大略的には、可撓性上側バンド42bが緩み位置にあるときは、可撓性上側バンド42bは中空シース32を通して繰り出されている。可撓性上側バンド42bを繰り出すことにより、中空シース32から延出する可撓性上側バンド42bの量(すなわち、長さ)は、可撓性上側バンド42aが平坦位置にあるときに中空シース32から延出する可撓性上側バンドの量(すなわち、長さ)と比較して増大される。可撓性上側バンド42bを繰り出すことにより、可撓性上側バンド42および細長表面部材41で形成された閉ループのサイズが広げられる、すなわち増大される。
【0208】
図4Bに示すように、可撓性上側バンド42bが緩み位置にあるときに繰り出されている可撓性上側バンド42bの量は、ターゲット組織の周りに嵌合するのに十分な大きさ、すなわち広さのループを形成するのに十分なあらゆる量であることができる。たとえば、中空シース32から繰り出された可撓性上側バンド42bの量は、細長表面部材41と緩み位置にある可撓性上側バンド42bとの間に広げられたループを形成可能なあらゆる量であることができ、その幅は1cm〜10cmまたは約1cm〜約10cm、大略的には、たとえば3cm〜4cmまたは約3cm〜約4cmなどの2cm〜5cmまたは約2cm〜約5cmであるが、所望であれば、それよりも大きい、すなわち10cmを超える幅またはそれよりも小さい、1cm未満の幅とすることができる。一実施例では、細長表面部材41と緩み位置にある可撓性上側バンド42bとの間に形成された広げられたループのサイズは、
約30mm〜約400mmである。クランプ部40は、たとえば腹腔鏡ポートを介してバンドクランプデバイス10を挿入した後に、この配置、すなわち可撓性上側バンド42bは緩み位置にあり、細長表面部材41と広げられたループを形成している配置になることができる。クランプ部40は、たとえば可撓性上側バンド42bおよび細長表面部材41によって形成された広げられたループが肝臓などのターゲット組織の周りに配置される前に、この配置、すなわち可撓性上側バンド42bは緩み位置にあり、細長表面部材41と広げられたループを形成している配置になることができる。
【0209】
バンドクランプデバイス10のクランプ部40の例示的な配置を
図4Cに示す。バルーン43aは収縮状態で細長表面部材41の揺架45内に載置されている。可撓性上側バンド42cは引張り位置にある。大略的には、可撓性上側バンド42cが引張り位置にあるとき、可撓性上側バンド42cは中空シース32を通して引き戻されている、すなわち、引張られており、ループが締められている(すなわち、引張られている)。可撓性上側バンド42cを引張ることにより、中空シース32から延出する可撓性上側バンド42cの量(すなわち、長さ)は、可撓性上側バンド42bが緩み位置にあるときに中空シース32から延出する可撓性上側バンドの量(すなわち、長さ)と比較して縮小される。たとえば、可撓性上側バンド42cが引張り位置にあるとき、中空シース32から延出する可撓性上側バンド42cの量は、可撓性上側バンド42が緩み位置42bにあるときに中空シース32から延出する可撓性上側バンド42の量よりも小さいが、可撓性上側バンドが平坦位置42aにあるときよりも大きくすることができる。可撓性上側バンド42cを引き戻す、すなわち引張ることにより、可撓性上側バンド42および細長表面部材41で形成された閉ループを狭める、すなわち小さくする。クランプ部40は、たとえば内視鏡ポート(たとえば、腹腔鏡ポート)を介してバンドクランプデバイス10を挿入した後に、この配置になることができる。クランプ部40は、たとえば可撓性上側バンド42および細長表面部材41によって形成された閉ループが肝臓などのターゲット組織の周りに配置され、可撓性上側バンド42cが
図5Bを参照して以下に説明するように引き戻された、すなわち引張られた後に、この配置になることができる。
【0210】
図4Cに示すように、可撓性上側バンド42cが引張り位置にあるときに引き戻される可撓性上側バンド42cの量は、
図5Bを参照して示し以下にさらに詳細に説明するように、可撓性上側バンド42cおよび細長表面部材41によって形成された閉ループを締めて、ターゲット組織の周りに密接に嵌合し、ターゲット組織の解剖学的構造に適合するのに十分なあらゆる量であることができる。たとえば、引張られたとき、可撓性上側バンド42cはターゲット組織に密接するが、著しいクランプ力は印加しない。一般的に、締められたループの長さは、クランプ対象の組織の上面の長さまたは略その長さであり、締められたループの高さはクランプ対象の組織もしくは臓器またはそれらの一部の厚みまたは略その厚みであることができる。いくつかの実施例では、可撓性上側バンド42cがターゲット組織の周りに印加する張力は、
図5Bを参照して以下にさらに詳細に説明するように、測定可能である。クランプ部40は、たとえば内視鏡ポート(たとえば、腹腔鏡ポート)を介してバンドクランプデバイス10を挿入し、肝臓などのターゲット組織の周りに配置し、可撓性上側バンド42cが引き戻された、すなわち引張られた後に、この配置、すなわち、可撓性上側バンド42cが引張り位置にあり、ターゲット組織の周りに細長表面部材41と締められたループを形成する配置になることができる。
【0211】
図4Dは、バルーン43bが膨脹位置にあり、かつ可撓性上側バンド42cが引張り位置にある場合のバンドクランプデバイス10のクランプ部40の例示的な配置を示している。
図6Fを参照して以下にさらに詳細に説明するように、バルーン43bは、流体または気体、たとえば空気の外部の供給源に結合することができるバルーン膨脹線25を介して流体または気体、たとえば空気で膨脹させることができる。大略的には、バルーン43bが膨脹位置にあるとき、バルーン43bは収縮位置にあるバルーン43aと比較すると膨脹されている。たとえば、バルーン43は、たとえば少なくとも5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、15mmまたはそれよりも大きい直径または略これらの直径などの、5mm〜15mmまたは約5mm〜約15mmの直径まで膨脹させることができる。膨脹したバルーン43bの直径は、実施する処置ならびにデバイス10のサイズおよび寸法を含むあらゆる1つ以上の要因によって決めることができる。一実施例では、バルーン43bの膨脹した直径は8mmまたは約8mmである。いくつかの実施例では、
図5Cを参照して以下にさらに詳細に説明するように、膨脹したバルーン43bがターゲット組織に印加する圧力は測定可能である。クランプ部40は、たとえば可撓性上側バンド42cおよび細長表面部材41によって形成された閉ループが肝臓などのターゲット組織の周りに配置され、可撓性上側バンド42cが引き戻され、すなわち引張られて締められたループを形成し、バルーン43bが膨脹した後に、この配置になることができる。
【0212】
図4Eは、
図4Dに代わる図であり、可撓性上側バンド42cの底面側を示すようにクランプ部40を後方に傾けた図である。本明細書に説明するバンドクランプデバイスの例示的な実施形態において、可撓性上側バンド42cは歯を付けることができる。一般的に、可撓性上側バンド42cの歯はバンドの幅方向にわたって設けることができる。いくつかの実施形態では、可撓性上側バンド42cの歯はバンドの長さ方向にわたって設けることができる。他の実施形態では、バンド42cの一端部、たとえばハンドル部端部の歯を長さ方向に設け、バンド42cの他端部、たとえばクランプ部端部の歯を幅方向に設けることができる。(
図1A、
図1Bおよび
図2を参照して上述したように)可撓性上側バンド42cの個々の歯のそれぞれの間の空間、すなわち歯間は、これらに限定されないが、可撓性上側バンド42cのサイズもしくは幅、ターゲット組織の特徴、または第2バンド引張りホイール22上の歯間を含む1つ以上の要因によって決めることができる。一実施例では、可撓性上側バンド42c上の歯間は、第2バンド引張りホイール22上の歯間と同じである。
【0213】
図5A〜
図5Cは、ターゲット組織50に適用されたバンドクランプデバイス10のクランプ部40の拡大図である。ターゲット組織はあらゆる組織もしくは臓器またはそれらの一部であることができる。クランプを適用できるターゲット組織の限定しない例としては、肝臓、脳、脊髄、膵臓、心臓、皮膚、腎臓、肺、血管、骨、筋肉、子宮、頸部、前立腺、尿道、もしくは腸またはそれらの一部である。
図5Aは、可撓性上側バンド42bが緩め位置にあり、バルーンが収縮位置43aにあるクランプ部40を示す図である。可撓性上側バンド42bは中空シース32から延出し、細長表面部材41とノッチ44で結合されて細長表面部材41とループを形成している。ノッチ44の結合は固定、すなわち封着することができ、あるいは、たとえばフックで固締することができる。クランプ対象のターゲット組織50の一部は、ターゲット組織50の底部が収縮されたバルーン43aおよび細長表面部材41の上に載置された状態でループ内に配置されている。可撓性上側バンド42bが緩め位置にあるとき、ターゲット組織50の上部と可撓性上側バンド42bとの間に空間または開口エリアが存在する、すなわち、可撓性上側バンド42bはターゲット組織50の周りに締めつけられていない、または引張られていない。
【0214】
図5Bは、可撓性上側バンド42cがクランプ対象のターゲット組織50の一部の周りで引張られているクランプ部40を示している。ターゲット組織50は収縮されたバルーン43aおよび細長表面部材41の上に載置されている。可撓性上側バンド42cは、クランプ対象のターゲット組織50の周りに密接に嵌合するように引張られる、すなわち、バンドはターゲット組織50の解剖学的構造に適合するようにターゲット組織50の周りに締めつけられている。引張られたとき、可撓性上側バンド42cはターゲット組織50に密接するが、著しいクランプ力は印加しない。たとえば、可撓性上側バンド42cは少なくとも緩みが完全に無くなるまで引張ることができる。所望の場合は、たとえば、可撓性上側バンド42cが組織50を圧縮し始めて組織50を可撓性上側バンド42cの何れかの側に変位させるまで、可撓性上側バンド42cをさらに引張ることができる。可撓性上側バンド42cの要求される引張り量は、たとえば、可撓性上側バンド42cを引張るときにターゲット組織50の周りの可撓性上側バンド42cの張力を目視により監視することで目視により判定、または測定することができる。可撓性上側バンド42cの要求される引張り量は、たとえばスプリングゲージ、デジタルひずみゲージ、アナログゲージなどの張力計または力計などの外部計器などの計器による、視覚的には、たとえば、可撓性上側バンド42cを引張るときにターゲット組織50の周りの可撓性上側バンド42cの張力を目視により監視することによる、あるいは、たとえば2.2.ボタン式圧縮負荷変換器(アリゾナ州スコッツデールのインターフェース・アドバンスト・フォース・メジャメント)などの圧縮負荷変換器によるなど、当該技術分野において公知の技法を用いて判定、または測定することができる。一実施例では、可撓性上側バンド42cに結合された計器によって直接的に張力を測定することができる。たとえば、計器を可撓性上側バンド42cの一部分に接合することができる。計器は、可撓性上側バンド42cがターゲット組織50に印加する張力を測定するために用いることができ、所望の引張り量がいつ達成されたかを判定することができる。他の実施例では、可撓性上側バンド42cに可動ベアリングを通過させて、ベアリングの偏向がバンド42cの張力を示すことができるようにして、張力を間接的に測定することができる。
【0215】
図5Cはターゲット組織50の一部のクランプを示している。可撓性上側バンド42cは、
図5Bを参照して上述したように、引張り位置にあり、ターゲット組織50の周りに密接している。細長表面部材41の上に載置されているバルーン43bは膨脹されてターゲット組織50の解剖学的構造に適合している。バルーン43bは50mmHg〜250mmHgの圧力に膨脹させることができ、大略的には、120mmHg(圧縮期圧)を超える圧力に膨脹させることができる。膨脹したバルーン43bはターゲット組織50に均一のクランプ圧力を印加する。たとえば、膨脹したバルーン43bは、クランプ対象のターゲット組織50の一部の物理的寸法、たとえば厚さまたは薄さに関わらず、ターゲット組織50に均一の圧力を印加する。ターゲット組織50に印加される均一のクランプ圧力は、バンドクランプデバイス10の可撓性および適合性のあるクランプ要素、すなわち可撓性上側バンドおよびバルーンによって達成される。均一のクランプ圧力により、ターゲット組織50にクランプ不足または過度にクランプされた部分が無いことを確実にする。たとえば、均一のクランプ圧力により、過度にクランプされた厚い部分およびクランプ不足の薄い部分も、組織への外傷も無く、ターゲット組織50全体にわたって血流の遮断が可能となる。
【0216】
所望であれば、バルーンの圧力はバルーン43b(
図5C参照)の膨脹および収縮中およびその後に測定および/または監視することができる。たとえば、バルーンの圧力は、所望の圧力量がいつ達成されたかを判定するため、または変化、たとえば圧力低下があったかどうかを判定するために監視することができる。たとえば、圧力低下は、クランプ部40がターゲット組織50の周りからずれた位置にあり、クランプされていないことを示す可能性がある。バルーンの圧力は、たとえば、エクスビボまたはインビボにおいて、コール・パーマー・デジタル圧力測定装置(たとえば、イリノイ州バーノンヒルズのCole−Parmer(登録商標))などの、デジタル計器またはアナログ計器などの圧力計を使用することによる、術中超音波による、たとえば圧力ディスプレー、圧力指示LEDおよびアラームなどを含むことのできるユーザインターフェースを介して、クランプの失敗を示す圧力低下などの圧力の変化を示す電子的な方法による、あるいは、たとえばバルーン43bが膨脹および収縮の間、視覚的に監視できてバルーン43bをより大きく膨脹させるまたはより小さく収縮させることによって所望の圧力に調節できるなど視覚的な方法によるなどの、当該技術分野において公知の技法を用いて判定することができる。一実施例では、たとえば、(
図6Fを参照して以下に説明するように)バンドクランプデバイス10の外側のバルーン膨脹線25の一地点でバルーン膨脹線25に結合された圧力計によって圧力が監視されている。
【0217】
いくつかの実施例では、圧力はクランプ、したがってクランプ域の区分化のレベルを、当該技術分野において公知の様々な他の技法で測定することによって判断することができる。たとえば、メチレンブルーまたはプロモフェノールブルーなどの染料または他の同様の染料を、クランプまたは区分化対象のターゲットの領域または部分に注入してその領域へのその配置を判断することができる。たとえば、クランプを取り除いた後に、クランプが配置されていた両側の組織を解剖して染料の存在を分析することができる。クランプによって達成される区分化などのクランプは、染料が隔離された組織の一部または領域に侵入していない場合、完了する。実質組織の圧縮の全期間中に導管から隔離された組織の領域または一部が存在する限り、クランプの境界周りの周辺領域に(血流を表す)ある程度の染料の漏洩が起こり得ることは理解される。区分化を要求するクランプ処置のために、理想的には、クランプの境界を越えて近傍の組織に染料が侵入しないように区分化が達成される。クランプ圧力の監視または測定は、所望のクランプ圧力を達成するために、腹腔鏡処置などの処置のあらゆる段階中に行うことができ、腹腔鏡処置などの処置のあらゆる段階中に調節および制御を行うことができる。
【0218】
例示的な実施形態において、ターゲット組織50に印加される圧力は、クランプ対象の組織もしくは臓器またはそれらの一部を区分化するために血流を遮断するのに十分な圧力であるが、周囲の組織に重大な損傷を与えるほどの圧力ではない。たとえば、ターゲット組織50に印加する圧力によって、ターゲット組織50の一部の区分化を行うことができる。大略的には、圧力はデバイス10のクランプ部40全体にわたり均一である。クランプおよび印加される圧力は、組織または臓器の一領域または一部分を近傍の組織領域および周囲の血管系から区分化することができなければならない。臓器またはその一部の最適なクランプおよび/または区分化を達成する一方で組織への損傷または外傷を最小化するための理想的な圧力を決定することは、熟練した外科医などの当業者の技量内の事項である。
【0219】
図6A〜
図6Fは、本明細書に説明するバンドクランプデバイス10の例示的な使用法を示している。本明細書に説明するバンドクランプデバイス10は、処置の過程で組織またはその一部への血流を遮断することを必要とするあらゆる医療処置または手術のためにターゲット組織の一部をクランプするために使用できる。バンドクランプデバイスが使用できるそのような方法の例は、本明細書の他のセクションであるセクションCに説明する。本明細書に説明するバンドクランプデバイス10は、
図6A〜
図6Fに示すように、あらゆる低侵襲処置(たとえば、腹腔鏡処置)、特に組織の部分または一部のクランプが要求される処置に使用することができる。本明細書に説明し、
図6A〜
図6Fに示す例示的な実施形態において、ターゲット組織は肝臓501、たとえば成人の肝臓である。
【0220】
バンドクランプデバイス10はまず、内視鏡ポート(たとえば、腹腔鏡ポート)を介して挿入される。
図6Aは、挿入前およびポートを介して挿入中のバンドクランプデバイス10を示している。バンド引張り/緩めスイッチ23bは上位置にある。上述のように、第1引張りホイール21は、バンド引張り/緩めスイッチ23bが上位置にあるとき、時計回りの回転を阻止され、可撓性上側バンド42aを繰り出すまたは緩めることが阻止される。可撓性上側バンド42aは、収縮したバルーン43aおよび細長表面部材41の上に平坦位置で載置されている。バンドクランプデバイス10は、デバイスのクランプ部の端部でポートを介して挿入される。クランプ部40およびシース部30はポートを介して部分的または全体的に挿入され得る。クランプ部40およびシース部30の腹腔鏡ポートへの挿入量は、これらに限定されないが、処置のタイプ、クランプ対象の組織の性質および位置、患者、たとえば患者の年齢、身長および/または体重、ならびに体腔内への注入レベルを含む、1つ以上の要因によって決めることができる。腹腔鏡ポートを介して挿入した後、患者内でのバンドクランプデバイス10の所望の配置が達成されるまで、クランプ部40およびシース部30の量は調節することができる。
【0221】
バンドクランプデバイス10を腹腔鏡ポートを介して挿入した後、
図6Bに示すように、可撓性上側バンド42bをシース32を通して繰り出すことができる。バンド引張り/緩めスイッチ23aを下位置に移動させることによって、第1引張りホイール21の時計回りの動き、すなわち回転が可能となる。第1引張りホイール21は時計回りに動くことにより、可撓性上側バンド42bに係合し、シース32を通してバンドを前方に前進させ、デバイス10のクランプ部40の細長表面部材41と緩んだループ42bを形成する。上述のように、可撓性上側バンド42bは、可撓性上側バンド42bが繰り出されたときに細長表面部材41と広げられたループを形成できるように適切な剛性および/または形状記憶性を有する材料で作成することができる。たとえば、材料は可撓性上側バンド42bが繰り出されたときに細長表面部材上に平坦状に載置されないような材料である。可撓性上側バンド42bに用いることができる材料の例としては、可撓性上側バンド42bが繰り出された後に、可撓性上側バンド42bが細長表面部材41上に平坦状に載置されるよりも、細長表面部材41と広げられたループを形成できる柱強度および柔軟性とを兼ね備えており、かつ引張られたときにターゲット組織の解剖学的構造に適合するのに十分軟質であるあらゆる材料を含む。例示的な材料としては、これらに限定されないが、ポリウレタンまたはポリエチレンなどの屈曲性重合体、たとえば、繊維ガラス強化可撓性ポリウレタンなどの可撓性強化ポリウレタンベルトなどの、たとえばタイミングベルトなどのベルトの作成に一般的に用いる材料を含む。いくつかの実施例では、可撓性上側バンド42bには歯が設けられている。
【0222】
形成される広げられたループのサイズ、または高さは、たとえばクランプ対象のターゲット組織の一部のサイズによって決めることができる。たとえば、1cm〜9cm、1cm〜8cm、1cm〜7cm、1cm〜6cm、1cm〜5cm、1cm〜4cm、1cm〜3cm、1cm〜2cm、2cm〜10cm、2cm〜9cm、2cm〜8cm、2cm〜7cm、2cm〜6cm、2cm〜5cm、2cm〜4cm、2cm〜3cm、3cm〜10cm、3cm〜9cm、3cm〜8cm、3cm〜7cm、3cm〜6cm、3cm〜5cm、3cm〜4cm、4cm〜10cm、4cm〜9cm、4cm〜8cm、4cm〜7cm、4cm〜6cm、4cm〜5cm、5cm〜10cm、5cm〜9cm、5cm〜8cm、5cm〜7cm、5cm〜6cm、6cm〜10cm、6cm〜9cm、6cm〜8cm、6cm〜7cm、7cm〜10cm、7cm〜9cm、7cm〜8cm、8cm〜10cm、8cm〜9cm、および9cm〜10cmなどの、1cm〜10cmまたは約1cm〜約10cmの幅とすることができる広げられたループを形成するように、可撓性上側バンド42bを緩めるまたは繰り出すことができる。大略的には、可撓性上側バンド42bと細長表面部材41との間に形成される広げられたループの高さは10cm未満、たとえば5cm未満である。たとえば、可撓性上側バンド42bと細長表面部材41との間に形成される広げられたループの高さは、少なくとも1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm、8cm、9cmまたは少なくとも約1cm、約2cm、約3cm、約4cm、約5cm、約6cm、約7cm、約8cm、約9cmであるが、10cm未満とすることができる。一実施例では、ターゲット組織は肝臓、たとえば成人の肝臓であり、可撓性上側バンド42bおよび細長表面部材41で形成される広げられたループの高さは、3cm〜4cmなどの2cm〜5cmまたは約2cm〜約5cmである。
【0223】
可撓性上側バンド42bを繰り出して細長表面部材41と所望のサイズ、すなわち幅のループを形成した後、ループを、
図6Cに例示する肝臓501などのクランプ対象のターゲット組織の一部の上に配置することができる。この技法は本明細書の他の部分に説明する他の組織もしくは臓器またはそれらの一部に対しても実施することができることが理解される。クランプする組織の量は、たとえば1g(すなわち、1cc)〜100g(すなわち、100cc)または約1g〜約100g、大略的には2g〜75gまたは約2g〜約75g、一般的には5g〜50gまたは約5g〜約50gとすることができる。大略的には、クランプする組織の量はターゲット組織の性質および特性によって決まる。たとえば、ターゲット組織が成人の肝臓501などの肝臓である場合、クランプする組織の量は、たとえば5g〜50gもしくは約5g〜約50gなどの1g〜50gもしくは約1g〜約50gなどの、1g〜100gまたは約1g〜約100g(すなわち、1cc〜100ccまたは約1cc〜約100cc)とすることができる。クランプするターゲット組織の量は、たとえばMRIモデリングスタディなどの3次元モデリングスタディなどの、モデリングスタディを実施することにより決定することができる。
【0224】
一実施例では、ターゲット組織、たとえば肝臓501の5g〜50gまたは約5g〜約50gをクランプする。ターゲット組織、たとえば成人の肝臓などの肝臓501の5g〜50gまたは約5g〜約50gをクランプするために、クランプ部40の広げられたループは、肝臓501などのターゲット組織の先端から1cm〜5cmまたは約1cm〜約5cm、一般的には1cm〜3cmまたは約1cm〜約3cm、大略的には肝臓501などのターゲット組織の先端から2cmまたは約2cmの位置に配置することができる。クランプ部40の広げられたループが肝臓501の先端から1cm〜5cmまたは約1cm〜約5cm、一般的には2cmの位置に配置される場合、一般的に、成人の肝臓などの肝臓は、幅が5cm〜10cmまたは約5cm〜約10cm、大略的には7cm、厚みが1cm〜2cmまたは約1cm〜約2cm、大略的には1.5cmである。肝臓の厚みは端部から離れるにつれて増大する、すなわち肝臓の厚みは肝臓の中心に向かって増大する。一般的に、肝臓の幅が10cmまたは約10cmである場合、肝臓の厚みは3cmまたは約3cmである。
【0225】
当初のループのサイズ、すなわち幅がクランプ対象の肝臓501などのターゲット組織の一部を囲むのに十分な大きさではない場合は、可撓性上側バンド42bをさらに繰り出して、ループが肝臓501などのターゲット組織の所望の量に嵌合できるようになるまでループのサイズ、すなわち幅を増大させるために、第1バンド引張りホイール21を時計回りの位置に回転または回動させることによって、ループのサイズ、すなわち幅をさらに増大させることができる。バンド引張り/緩めスイッチ23aは下位置に留まり、それにより、第1バンド引張りホイール21を時計回りに回転させ、第1バンド引張りホイール21が反時計回りに回転または回動して可撓性上側バンド42bを引張るのを阻止する。バルーン43aは収縮位置に留まり、
図4Bおよび
図4Cを参照して上述したように、細長表面部材41の上の揺架45内に載置されている(揺架45は
図6Cでは不可視)。
【0226】
図6Cに示すようにループに囲まれた肝臓501などのターゲット組織の量は、たとえば、肝臓501などのターゲット組織の所望の量の上にループを配置して、たとえば、肝臓501などのターゲット組織が細長表面部材41の上に平坦に載置されるようにループを所望の位置に移動させることによって、操作および調節することができる。ループに囲まれた肝臓501などのターゲット組織の量は、たとえば、把持具またはピンセットなどの、ループを介して肝臓501などのターゲット組織を把持または引張ることができるデバイスを使用して、ループを介して肝臓501などのターゲット組織の一部を把持して所望の位置へ引張ることによって、操作および調節することができる。一実施例では、肝臓501などのターゲット組織は、可撓性上側バンド42bおよび細長表面部材41で形成されたループを介して、たとえば把持具で把持して所望の位置へ引張ることができる。いくつかの実施例では、ループを肝臓501などのターゲット組織の上に配置する前に、肝臓501などのターゲット組織に結合する靱帯を切断することができる。肝臓501などのターゲット組織に結合する靱帯は、たとえば腹腔鏡超音波振動メスなどの腹腔鏡処置用メス、または腹腔鏡処置用はさみなどの、当業者に公知の、靱帯を外科的に切断するために使用するあらゆるデバイスまたは方法を用いて切断することができる。一実施例では、ターゲット組織は肝臓501であり、クランプ対象の肝臓501の一部は、たとえば左中葉などの左葉である。
【0227】
図6Dに示すように、シース32の位置は、クランプ部40の可撓性上側バンド42bおよび細長表面部材41で形成されたループが肝臓501などのクランプ対象のターゲット組織の所望の部分の上に配置された後に、肝臓501などのターゲット組織の解剖学的構造に嵌合するために調節することができる。シース32は、細長表面部材41に対して直線的に移動可能であり、シース32の先端部から延びるクランプ部40のサイズを調節するために細長表面部材41の長さ方向に沿って前進または後退することができる。シース32の位置は、スクリュー機構33を介してシース調節ノブ31によって制御される。シース調節ノブ31の内側表面の先端部は雌ねじにねじ切りされており、雄ねじにねじ切りされたスクリュー機構33に係合して、シース調節ノブ31を回動または回転させたときにシース32を前進および後退させる。
【0228】
シース調節ノブ31は、軸回転可能であり、前方、すなわちバンドクランプデバイス10の正面側に向かって回動または回転させることができ、あるいは後方、すなわちバンドクランプデバイス10の背面側に向かって回動または回転させることができる。シース調節ノブ31を
図6Dに示すように前方に回動または回転させることにより、シース32をバンドクランプデバイス10のクランプ端部に向かって細長表面部材41に対して直線的に前進させる。シース32の前進により、中空シース32の端部から延びるクランプ部40の量が減少する。たとえば、シース32は細長表面部材41をより多くまたはより少なく被覆するように調節可能である。たとえば、シース調節ノブ31を前方に回動させることにより、中空シース32から延びるクランプ部40の長さをクランプ対象の肝臓501などのターゲット組織の一部のサイズに縮小することができる、すなわち、クランプ部40をクランプ対象の肝臓501の一部の解剖学的構造およびサイズに適合するサイズに縮小することができる。シース32はクランプ部40の所望の量を被覆することを要求される限り前進させることができる。たとえば、シース32はクランプ部40の全てまたはほとんど全てがシース32によって被覆されるまで前進することができる。
【0229】
シース調節ノブ31は、後方、すなわちバンドクランプデバイス10の背面側に向かって回動または回転させることができる(
図6Dには図示せず)。シース調節ノブ31を後方に回動または回転させることにより、シース32をバンドクランプデバイス10のクランプ端部から離れ、ハンドル部端部に向かって細長表面部材41に対して直線的に後退させる。シース32の後退により、中空シース32の端部から延びるクランプ部40の量が増大する。たとえば、シース調節ノブ31を後方に回動させることにより、中空シース32から延びるクランプ部40の長さをクランプ対象の肝臓501などのターゲット組織の一部のサイズに適応させるように伸長することができる、すなわち、クランプ部40をクランプ対象の肝臓501などのターゲット組織の一部の解剖学的構造およびサイズに適合するサイズに伸長することができる。
【0230】
図6Eは、肝臓501などのターゲット組織の周りに嵌合するための可撓性上側バンド42cの引張りを示している。バンド引張り/緩めスイッチ23bを上位置に移動させることにより、第1バンド引張りホイール21を反時計回り方向に回動または回転させる。第1バンド引張りホイール21は反時計回り方向の回転により、可撓性上側バンド42cに係合し、シース32を通してバンドを引張る、または引き戻す。可撓性上側バンド42cを引張ることにより、デバイス10のクランプ部40の可撓性上側バンド42cと細長表面部材41との間に形成されたループを引張る。可撓性上側バンド42cは、ループのサイズ、すなわち幅が所望のサイズに減少するまで引き戻す、または引張ることができる。たとえば、第1バンド引張りホイール21は、バンドが肝臓501などのターゲット組織に密接するまで可撓性上側バンド42cを引張るが、著しいクランプ力を印加しないように、反時計回りに回動させることができる。可撓性上側バンド42cは、たとえば、肝臓501などのターゲット組織の周囲の余剰空間を減らす、すなわち肝臓501などのターゲット組織の解剖学的構造に適合するように引張ることができる。
図5Bを参照して上述したように、可撓性上側バンド42cの張力は、たとえばスプリングゲージ、デジタルひずみゲージ、アナログゲージまたはコール・パーマー・デジタル圧力測定装置(たとえば、イリノイ州バーノンヒルズのCole−Parmer(登録商標))などのデジタル圧力計などの張力計または力計などの外部計器などの計器による、視覚的には、たとえば、可撓性上側バンド42cを引張るときにターゲット組織50の周りの可撓性上側バンド42cの張力を目視により監視することによる、あるいは、たとえば2.2.ボタン式圧縮負荷変換器(アリゾナ州スコッツデールのインターフェース・アドバンスト・フォース・メジャメント)などの圧縮負荷変換器によるなど、当業者に公知のあらゆる方法を用いて測定することができる。
【0231】
上述のように、可撓性上側バンド42は、たとえばポリウレタンなどの、可撓性を有し、かつバンド42が引張られたときに肝臓501などのターゲット組織の解剖学的構造およびサイズに適合できるあらゆる材料で作成することができる。いくつかの実施例では、可撓性上側バンド42に歯を設けることができる。可撓性上側バンド42は肝臓501を把持できるように歯を設けることができる。たとえば、可撓性上側バンド42の歯を使用して、クランプ対象の肝臓501などのターゲット組織の一部がクランプ部40から滑り落ちることを阻止することができる、すなわち歯はクランプ部40をクランプ対象の肝臓501などのターゲット組織の一部の周りの所望の位置に保持することができる。
【0232】
可撓性上側バンド42cが引張られて肝臓501などのターゲット組織のサイズおよび解剖学的構造に適合した後、
図6Fに示すように、バルーン43bを膨脹させることができる。バルーン43bは、バルーン膨張線25を介して膨脹させる。上述し、
図1に示すように、バルーン膨張線25は、バルーン43bの基端部に結合され、シース部30およびピストル型グリップハンドル部20を通って延び、他端がピストル型グリップハンドル部20の底部から出て、流体または気体、たとえば空気の外部の供給源に結合されている。バルーン43bは、バルーンを所望のサイズおよび/またはバルーン膨脹圧力に膨脹させることができるあらゆる流体または気体、たとえば空気で膨脹させることができる。流体または気体、たとえば空気の外部の供給源は、プラスチックの注射器またはガラスの注射器、再利用可能または使い捨ての注射器などの注射器、血圧測定用ポンプまたはカフなどのポンプ、あるいは、たとえば加圧ガスタンクまたはシリンダなどのガスタンクまたはシリンダなどのタンクまたはシリンダとすることができる。たとえば、流体または気体、たとえば空気の外部の供給源は、たとえば500mL、250mL、100mL、75mL、50mL、30mL、25mL、20mL、15mL、10mL、5mL、1mL、またはそれよりも小さいサイズなどの、あらゆるサイズのガラスの注射器またはプラスチックの注射器などの注射器とすることができる。一実施例では、流体または気体の外部の供給源は、たとえば空気を充填した20mLの標準的注射器などの注射器である。
【0233】
バルーン43は、たとえば注射器または他の手動ポンプを用いて手動で膨脹および収縮させる、あるいは、たとえばユーザインターフェースを介して電子的に制御されて膨脹および収縮させることができる。膨脹したバルーン43bは、
図6Fに示すように、肝臓501などのターゲット組織の解剖学的構造に適合し、肝臓501などのターゲット組織のクランプ領域全体に均等に均一の圧力を印加する。バルーン43bを膨脹させるために使用する流体または気体、たとえば空気の量は、たとえば肝臓501などのターゲット組織に膨脹したバルーン43bが印加する圧力量によって決定することができる。膨脹したバルーン43bは、50mmHg〜250mmHgの圧力、一般的には120mmHgを超える圧力(たとえば、収縮期圧)まで膨脹させることができる。膨脹したバルーン43bは、クランプ対象の肝臓501などのターゲット組織の一部の物理的寸法、たとえば厚さまたは薄さに関わらず、肝臓501などのターゲット組織に均一の圧力を印加することができる、すなわち、均一の圧力が組織の厚い部分および組織の薄い部分の全体に均等に印加される。バルーン43bの膨脹により、所望のクランプ圧力が達成できる。たとえば、バルーン43bは、バルーン43bが肝臓501などのターゲット組織の解剖学的構造に適合し、可撓性上側バンド42cと細長表面部材41との間に形成されたループ内の、肝臓501などのターゲット組織の周囲のあらゆる開いた空間を埋めることができるサイズに膨脹させることができる。肝臓501などのターゲット組織に印加される均一の圧力は、組織を傷つける恐れのある圧力よりも低く安全である。
【0234】
例示的な実施形態において、クランプおよびバルーンの膨脹により、組織または臓器のクランプ部は、組織または臓器の一部に印加される特定の張力および圧力によって、体循環から区分化することができる。たとえば、バルーン43bによって肝臓に均一の圧力を印加することによって、組織への外傷を最小化し、かつ肝臓501などのターゲット組織のクランプ部の完全な区分化を確実にする。たとえば、バルーン膨脹圧力の範囲は、50mmHg〜300mmHgまたは約50mmHg〜約300mmHg、一般的には、200mmHg〜300mmHgなどの、100mmHg〜300mmHgまたは約100mmHg〜約300mmHgとすることができる。一実施例では、完全な区分化を達成するために、膨張したバルーン43bによって肝臓501などのターゲット組織に印加される均一の圧力は、収縮期圧、すなわち120mmHgを超えるが、組織を傷つける恐れのある圧力より低い圧力とすることができる。
【0235】
図6Fに示す、バルーン43の膨脹および収縮中に、
図5Cを参照して上述したように、バルーンの圧力を監視または測定することができる。たとえば、バルーンの圧力は、所望の圧力量がいつ達成されたかを判定するため、または変化、たとえば圧力低下があったかどうかを判定するために監視することができる。バルーンの圧力は、たとえば、デジタル計器またはアナログ計器などの圧力計を用いて監視することができる。圧力計はバルーン膨張線25に、たとえばバンドクランプデバイス10の外側のバルーン膨張線25の一点で結合することができる。圧力は、圧力ディスプレー、圧力指示LEDおよびアラームを含むことのできるユーザインターフェースを介して、たとえば区分化の失敗を示す圧力低下などの圧力の変化を示すために電子的に監視することができる。バルーンの膨脹圧力は、たとえば視覚的に監視することができる。たとえば、バルーン43は膨脹および収縮中に視覚的に観察して、バルーン43をさらに膨脹させるかまたはさらに収縮させるかによって、所望の圧力に調節することができる。バルーンの圧力の監視または測定は、腹腔鏡処置などの処置中のあらゆる段階の間に行うことができ、所望のバルーンの圧力を達成するために、腹腔鏡処置などの処置中のあらゆる段階の間に調節および制御することができる。
【0236】
C.クランプデバイスの方法および使用
本明細書で提供するバンドクランプデバイスは、たとえば腹腔鏡処置などのあらゆるタイプの低侵襲外科的処置に使用することができる。本明細書で提供するクランプデバイスは、組織もしくは臓器またはそれらの一部のクランプが要求される、あらゆる低侵襲外科的処置に使用することができる。バンドクランプデバイスは、単一ポートまたは複数ポートの低侵襲外科的処置に使用することができる。バンドクランプが導入されるポートの正確な位置は、クランプ対象の特定のターゲットまたは臓器、およびクランプ処置の特定の目的(たとえば、区分化された遺伝子の送達、移植または摘出)によって決まる。たとえば、腹腔鏡処置は、たとえば肝臓、膵臓、胆嚢、脾臓、胃、生殖器を含む、腹部内の組織または臓器のクランプに採用することができる。
【0237】
大略的には、腹腔鏡処置には、腹腔鏡処置の範囲および性質、ならびに使用する腹腔鏡用器具の量によって、1つ〜6つのポート、一般的には3つまたは4つのポートなどの2つ〜5つのポートが使用される。各ポートの正確なサイズおよび配置は、たとえば処置の性質、ターゲット組織、腹腔鏡用器具のサイズ、および採用される腹腔鏡用器具の数などによって変更可能である。実施例として、
図8A〜8Cは、肝臓またはその一部をクランプするための例示的な腹腔鏡手術用概略図を示している。
図8A〜8Cに示すように、上腹部領域に配置されるポートは、クランプ対象の肝臓の一部の上に配置することができる。
図8A〜8Cに示すように、他のポートは、たとえば以下にさらに説明するように、手術中に使用される他の低侵襲器具のアクセスを提供するために腹部領域に配置することができる。これらには、近位左腰部、臍部または左腰部に配置されるポートも含まれる。たとえば、上腹部の真下の臍部に配置されたポートは、腹腔鏡に使用することができる。
【0238】
1.核酸送達の区分化された方法
本明細書で提供するデバイスは、組織もしくは臓器またはそれらの一部を体循環から分離するように一時的にクランプすることによって区分化された組織もしくは臓器またはそれらの一部へ、核酸分子を送達するために使用することができる。この核酸送達の区分化された方法において、この方法は、1)本明細書で提供するバンドクランプデバイスを使用して組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプし、体循環との連通を阻止または実質的に阻止して、臓器またはその一部へのおよびそこからの血流を遮断することと、2)核酸分子を含む送達薬剤を組織またはその一部の組織の実質細胞に直接投与することと、3)選択された薬剤の細胞内取込を可能とするのに十分な期間、導管の隔離を維持することと、を特徴としている。これらの態様の効果とは、ウイルスベクターなどの送達薬剤が体循環に露出されないため、全身性免疫反応を起こさず、全身毒性を回避し、他の非ターゲットの臓器または組織を汚染しないことを意味する。
【0239】
さらに、送達薬剤を区分化された組織または臓器の実質細胞に直接投与することにより、細胞内取込を最大化する。薬剤の細胞内取込を最大化するとは、組織または臓器の区分化を解放した後、実質的に全ての送達核酸分子は細胞内の導入遺伝子発現に使用可能であり、体循環に漏れ出し得る送達薬剤の量が削減されるか、または無くなることを意味する。したがって、本明細書で提供される方法は、ターゲットの臓器内の所望の細胞のみをターゲットとすること、および持続した期間の導入遺伝子生成の発現を可能にする。
【0240】
以下にさらに説明するように、バンドクランプデバイスは、組織もしくは臓器または組織もしくは臓器の一部もしくは領域への血流を遮断または拘束して、それにより組織もしくは臓器またはそれらの一部を体循環から区分化するために、組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプすることに使用される。これは、可撓性バンドが組織上に密接して締めつけられるように引張られるように可撓性バンドを調節すること、およびバルーンがクランプ対象の領域に均一の圧力を印加するようにバルーンを膨脹させることにより達成される。以下に説明するように、バンドクランプ部によって実質組織に印加される張力および圧力は血流を遮断するのに十分であるが、周囲の組織に重大な損傷を与えるほど大きくない。したがって、
図7に示すように、肝臓501などの組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化は、肝臓501などのターゲット組織の一部が、細長表面部材41と引張り位置42cにある可撓性上側バンドとの間に、ループをターゲット組織501の先端部の周りに密接に嵌合させた状態でバンドクランプデバイス10内に配置されたときに実施され得る。バルーンもまた、肝臓501などの組織または他のターゲット組織の解剖学的構造に適合するように膨脹位置43bにあり、それによりクランプされた領域全体に均一のクランプ圧力を印加する。以下にさらに説明するように、クランプの程度は、処置の経過中に測定、監視または調節することができる。クランプ部(すなわち、引張バンドおよびバルーンなどの生体適合性可変形物を含む)は、組織もしくは臓器またはそれらの一部を横切る、および流入、アクセス、その他により体循環と連通している1つ以上の、大略的には全ての動脈、静脈、導管または脈管を遮断またはふさぐためにデバイスを使用できるように、適切に調節することができる。
【0241】
方法において、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化は、核酸薬剤の投与後、体循環に露出される送達薬剤が10%未満となり、および/または、臓器またはその一部の細胞によって選択された送達薬剤の細胞内取込が80%を超えることを可能にするのに十分な期間、維持される。本明細書で提供する方法は、60日を超える期間、90日を超える期間、6か月を超える期間、9か月を超える期間、または1年を超える期間、組織もしくは臓器またはそれらの一部内で導入遺伝子生成の発現が持続することを可能にする。
【0242】
核酸送達の区分化された方法は、持続的かつ長期間の高レベルの導入遺伝子生成の発現を可能にする。したがって、方法は、これらに限定されないが、欠陥のある遺伝子産物の交換への適用または治療薬の外因的投与への適用を含む医学的利用、移植用臓器の作成、遺伝子導入動物の治療タンパク質(たとえば、バイオリアクタ)の生成、ならびに農業利用、獣医学的利用および産業的利用を含む、多様な用途に利用できる。たとえば、方法は選択されたポリペプチドのインビボの細胞発現に利用することができる。いくつかの実施例では、ポリペプチド剤は、ポリペプチドが対象の不調または体調を治療または改善する、あるいは他の方法で対象の生活の質を向上する場合、治療設定に役立つことができる。他の実施例では、ポリペプチド剤は、たとえば、産肉の質または量を向上する用途の農業用設定に役立つことができる。方法の特定の用途は、投与される特定の核酸分子によって決まる。あらゆる所望の用途に基づいて関連する核酸分子を選択することは、当該技術分野の技量内の事項である。
【0243】
特定の実施例において、核酸は、区分化された核酸方法における送達に続く核酸の発現が疾病または体調の治療に有効となるように選択される。そのような核酸の例は、関連する疾病および体調とともに、以下のセクションDで提供する。区分化された核酸送達方法による核酸分子の送達によって治療可能な疾病または不調の例としては、これらに限定されないが、遺伝性酵素欠損症(たとえば、ムコ多糖症、糖原病、リソソーム蓄積症)、癌、血友病、糖尿病、筋ジストロフィー、循環器疾患、嚢胞性線維症、神経変性疾患、精神的外傷、疼痛、鎌状赤血球貧血、自己免疫疾患、炎症性疾患、遺伝性免疫力低下、高血圧症およびパーキンソン病が含まれる。たとえば、疾病または体調は、A型およびB型血友病、I型糖尿病、アルファ−1−アンチトリプシン(AAT)欠損症、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、I型クリグラー・ナジャー症候群、II型オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、家族性高コレステロール血症、無フィブリノーゲン血症、Ia型糖原病(GSD)、Ib型GSD、II型GSD(ポンぺ)、ムコ多糖症(MPS1)、MPS IIIA、MPS IIIB、MPS VII、ファブリー病、ゴーシェ病、ニーマン−ピック病、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(OTC)、フェニルケトン尿症、肝線維症、肝虚血再灌流傷害、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症(ALS)、ガラクトース血症、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、1型チロシン血症、メチルマロン酸血症、シトルリン血症、痛風およびレッシュ・ナイハン症候群、スライ症候群、ツェルウェガー症候群、複合免疫不全症(SCID)、嚢胞性線維症、急性間欠性ポルフィリン症、リポタンパク質リパーゼ欠乏症(LPLD)、または多発性硬化症から選択される。肝臓について例示すると、本明細書の方法は、セクションDに記載のものなどの、あらゆる核酸を含む送達薬剤を、当該技術分野において遺伝子治療を用いてきたあらゆる疾病を治療するために区分化された肝臓または肝臓の一部に送達するのに利用することができる。たとえば、肝臓(または他の組織もしくは臓器)は、これらに限定されないが、A型血友病治療のための第VIII因子の送達、B型血友病治療のための第IX因子の送達、α(アルファ)1−アンチトリプシン欠損症治療のためのα(アルファ)1−アンチトリプシンの送達、Ia型糖原病(GSD)治療のためのグルコース−6−リン酸−αの送達、Ib型GSD治療のためのG6PTの送達、II型GSD(ポンぺ)治療のための酸性−α−グルコシダーゼの送達、ムコ多糖症(MPS1)治療のためのα−L−イズロニダーゼの送達、MPS IIIA治療のためのサルファミダーゼの送達、MPS IIIB治療のためのα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NaGlu)の送達、MPS VII治療のためのβ−グルクロニダーゼの送達、ファブリー病治療のためのα−ガラクトシダーゼAの送達、ゴーシェ病治療のためのグルコセレブロシダーゼの送達、ニーマン−ピック病治療のための酸性スフィンゴミエリナーゼの送達、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症治療のためのオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)の送達、クリグラー・ナジャー症候群治療のためのUDPグルクロノシルトランスフェラーゼ1A1(UGT1A1)の送達、家族性高コレステロール血症治療のためのLDL受容体の送達、フェニルケトン尿症治療のためのフェニルアラニンヒドロキシラーゼの送達、メタロプロテアーゼ(MMP1またはMMP8)の送達、肝線維症治療のためのTIMP拮抗薬または抗HSC分子の送達、肝虚血再灌流傷害治療のための抗ROS分子の送達、糖尿病治療のためのβ細胞分化転換のためのプロインシュリン前駆体または転写因子の送達、B型肝炎治療のためのウイルスRNAに対するRNAiの送達、C型肝炎治療のためのウイルスRNAに対するRNAiの送達、肝癌治療のためのp53の送達、多発性硬化症治療のためのIFN−βまたは他の抗炎症サイトカインの送達、誘発性肝炎治療のためのインターフェロン−αの送達、リポタンパク質リパーゼ欠乏症(LPLD)治療のためのリポタンパク質リパーゼの送達、または癌治療のためのエンドスタチンまたはアンジオスタチンなどの抗血管新生薬の送達を含む、疾病および体調の治療のための治療薬の送達のために、バンドクランプデバイスを使用して区分化することができる。
【0244】
本明細書で提供するバンドクランプデバイスを使用して核酸を送達する方法は、あらゆる哺乳類の対象に実施することができる。腹腔鏡アクセス部の長さおよび/またはクランプ部を含むデバイスのサイズは、特定の対象に適応させるために調節可能である。一般的に、デバイスは調節可能に構成されており、多様な対象に適応させることができる。そのような対象の例としては、これらに限定されないが、マウス、ラット、犬、牛、豚、羊、山羊、馬およびヒトが含まれる。特に、本明細書で提供する方法は、ヒトを対象として実施される。特に、方法は、乳児、幼児および小児などの18歳未満の子供であるヒトを対象として実施することができる。いくつかの実施例では、方法は子宮内の胎児に実施することができる。方法は、持続的かつ長期間の高レベルの導入遺伝子産物の発現を可能にするため、方法は、これらに限定されないが、欠陥のある遺伝子産物の交換への適用または治療薬の外因的投与への適用を含む医学的利用、移植用臓器の作成、遺伝子導入動物の治療タンパク質(たとえば、バイオリアクタ)の生成、ならびに農業利用、獣医学的利用および産業的利用を含む、多様な用途に利用できる。
【0245】
核酸分子の送達のために組織もしくは臓器またはそれらの一部を区分化するためにバンドクランプデバイスを使用する方法は、対象に一回実施することができる、あるいは数回実施することができる。たとえば、バンドクランプデバイスは、特に組織または臓器全体に高レベルの形質導入または発現が求められる場合、複数のターゲットの位置で送達を実施するために、一連の治療の間に位置変更が可能である。あるいは、バンドクランプデバイスの位置を変更する代わりに、腹腔鏡手術中に可動であるおよび/または他の方法で組織またはその一部のクランプしたまたは区分化した領域内の複数の位置に送達を実施できるインジェクションデバイスを用いて方法を実施することができる。そのような実施例では、方法は大略的に方法の最初の適用から数分、数時間または数日以内に繰り返して実施することができる。他の実施例では、方法は最初の適用から数週間、数か月または数年の間、繰り返して実施することができる。
【0246】
以下のサブセクションに、方法のステップ、および様々な例示的な本発明の限定しない実施形態を説明する。
【0247】
a.バンドクランプデバイスを使用した組織または臓器の区分化
本明細書で提供する方法において、本明細書で提供するバンドクランプデバイスを使用して、低侵襲手術において組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプして、組織もしくは臓器またはそれらの一部を血管系から分離することによって区分化する。いくつかの実施例では、特定の組織もしくは臓器またはそれらの一部によっては、導管系および/またはリンパ系からの分離によっても、さらに区分化が達成される。区分化は選択された薬剤の投与の前に開始され、クランプは、選択された薬剤の細胞内取込を可能とするのに十分な時間が経過するまで、組織もしくは臓器またはそれらの一部への血液循環を回復するように解放または終了しない。
【0248】
低侵襲手術法に熟練した内科医または外科医がアクセスでき、かつバンドクランプを組織もしくは臓器またはそれらの一部の上で可撓性バンドを引張り、バルーンを膨脹させるように構成できる限り、区分化された領域に核酸を送達するために、あらゆる組織もしくは臓器またはそれらの一部を、バンドクランプによってクランプすることができる。そのような組織または臓器には、これらに限定されないが、肝臓、肺、CNS(脳または脊髄)、末梢神経系(たとえば、神経)、膵臓、胆嚢、内分泌腺(脳下垂体、副腎、甲状腺など)、心臓血管組織(たとえば、心臓および血管)、皮膚、泌尿生殖器官(腎臓、子宮、子宮頸部、前立腺、尿道)、呼吸器系組織(たとえば、肺または気道)、骨、筋肉、および腸が含まれる。当業者であればさらなるターゲット臓器およびその一部を認識するため、このリストは排他的であることを意図しない。特定の実施例では、バンドクランプは、核酸の送達のために肝臓またはその一部を区分化するために使用される。
【0249】
大略的には、本明細書の方法においてクランプされて区分化された組織もしくは臓器またはそれらの一部は、実質細胞が実質的に全ての送達薬剤を取込むのを可能とするのに十分な期間、導管の隔離を実施できるものである。本明細書における特定の実施例では、本明細書で提供するバンドクランプは、少なくとも10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分またはそれより長い時間、臓器またはその一部の区分化を維持するために、組織もしくは臓器またはそれらの一部上に維持される。大略的には、クランプおよび区分化は少なくとも20分間でかつ60分間以内である。たとえば、バンドクランプは、肝臓またはその一部などの、臓器またはその一部を区分化するために少なくとも30分間でかつ、大略的には60分間以内の時間、維持される。したがって、特定の送達される薬剤によっては、区分化は、短い期間、臓器組織またはその一部に血流不全を発生させ得る状況の下で維持される。したがって、本明細書の方法で用いられる臓器またはその一部は、短時間の血流不全に耐えられるものである。
【0250】
方法は、腹腔鏡などの低侵襲の外科的処置を用いて実施される。バンドクランプデバイスは、血管、動脈、脈管またはリンパ管を圧縮して組織または臓器の領域、葉、部分または区分への血流を遮断するために、組織もしくは臓器またはそれらの一部の実質組織をクランプするために使用される。低侵襲手術における使用のために、バンドクランプは、
図6A〜
図6Fを参照して本明細書に説明するように、組織もしくは臓器またはそれらの一部に適用され得る。
図6Aを参照して上述したように、内視鏡アクセス(たとえば、腹腔鏡アクセスまたは他の低侵襲手術タイプ)のためのポートまたはカニューレにクランプを挿入する前に、クランプは、可撓性バンドが細長表面部材の先端部上に平坦に載置され、バルーンが収縮され、バンド引張り/緩めスイッチがその上位置23bに合わせられているように、構成されている。この配置において、クランプ部およびシース部がポートを介して挿入され、一方でハンドル部は可撓性バンドおよびバルーンの操作を行うためにポートの外側に残すことができる。
【0251】
バンドクランプが導入されるポートの正確な位置は、核酸の送達のために区分化される特定のターゲットまたは臓器によって決まる。たとえば、内視鏡処置は、たとえば肝臓、膵臓、胆嚢、脾臓、胃または生殖器を含む、腹部内の組織または臓器をクランプするために採用できる。一実施例として、
図8A〜
図8Cは、肝臓またはその一部をクランプするための例示的な腹腔鏡手術用概略図を示している。
図8A〜
図8Cに示すように、バンドクランプデバイス10およびインジェクションデバイスは複数ポートの腹腔鏡処置に使用することができる。たとえば、腹腔鏡処置は、
図8A〜
図8Cにおいて黒い丸で示した4つのポートを使用する複数ポートの腹腔鏡処置であり得る。4つのポートは、核酸分子の送達のために区分化を要求される特定のターゲット組織によって、様々な腹部領域に配置することができる。一実施例として、区分化および肝臓への核酸分子の送達のために、4つのポートは上腹部、臍部、近位左腰部および遠位左腰部(たとえば、
図8A〜
図8C参照)に配置することができる。
図8A〜
図8Cに示す4つのポートの位置は、ポートが配置できる領域の大略的な図示である。正確な配置および位置は変更可能であり、これらに限定されないが、処置のタイプ、組織の位置、および使用する腹腔鏡用器具の量を含む、何れか1つ以上の要因によって決まる。
【0252】
特に、
図8A〜
図8Cが示す様々な概略図において、腹部領域は、本明細書に説明するバンドクランプデバイスを用いて使用される例示的な腹腔鏡処置のための4つの腹腔鏡ポートの肝臓に対する位置を示している。処置は、以下にさらに説明するように、これもまた腹腔鏡処置などの低侵襲手術用に構成された、インジェクションデバイスを併用して実施することができる。上腹部に配置されたポートは、クランプ対象の肝臓の一部の真上に位置している。本明細書で提供するバンドクランプデバイスは、腹腔鏡処置の間に、上腹部のポートへ挿入することができる。臍部に配置されたポートは、上腹部の真下にあり、たとえば腹腔鏡に使用することができる。肝臓に近いほうの左腰部に配置されたポートは、肝臓に近く、かつ上腹部のポートに近い位置に配置されている。近位左腰部のポートは、手術の実施に必要な他の手術用器具に使用することができる。たとえば、あらゆるシリンジまたは針などのインジェクションデバイスを腹腔に挿入するために使用することができる。近位左腰部のポートの位置は、インジェクションデバイスのサイズおよび長さ、ならびにクランプされた組織の位置に基づいて決めることができる。たとえば、近位左腰部のポートは、本明細書に説明するシリンジ型インジェクションデバイスなどのインジェクションデバイスが、ポートを介して挿入されたときにクランプされた領域に治療薬を送達できるように、たとえば肝臓などのターゲット組織に十分近い位置になるように、配置することができる。肝臓から遠いほうの左腰部に配置されたポートは、たとえば把持具またはピンセットなどの、肝臓などのターゲット組織を把持し、移動させることができる処置具に使用することができる。遠位左腰部のポートの位置は、把持用デバイスのサイズおよび長さ、ならびにクランプされた組織の位置に基づいて決めることができる。
【0253】
ポートに挿入されるバンドクランプデバイスの量は、外科的処置中、変更することができる。たとえば、外科医は、組織もしくは臓器またはそれらの一部(たとえば、肝臓またはその一部)の所望の部分を適切に目視およびクランプできるまで、腹腔内のデバイスの長さを絶えず調節(出し入れ)することができる。さらに、腹腔鏡処置中のヒトの腹部などの身体の内側のデバイスの量は、処置を実施している対象の解剖学的寸法(たとえば、年齢、体重、身長)によって変更することができる。さらに、外科医は、デバイスを配置するために外科医がどの程度体腔内を目視できるかによって、腹部ガス注入などのガス注入の量を調節することを選択することができる。これは、外科医による目視の程度によっては、組織もしくは臓器またはそれらの一部(たとえば、肝臓またはその一部)のクランプおよび区分化に成功するために体腔内へのデバイスの挿入量を加減するためにガス注入の調節が必要となる可能性があるためである。
【0254】
バンドクランプデバイスは、クランプ対象の組織もしくは臓器またはそれらの一部近傍の腹腔鏡ポートなどのポートに挿入されると、組織またはその一部のクランプを実施するように調節することができる。たとえば、
図6Bを参照して説明したように、バンド引張り/緩めスイッチ23aは、調節、たとえば可撓性バンドを緩めることができるように、下位置に移動させることができる。引張りホイール21は、デバイスのクランプ部の細長表面部材の先端部にループが形成されるように、バンドを前方へ前進させるために、時計回りに回動または回転させることができる。
【0255】
本明細書の他の部分に説明したように、引張りホイールが動く範囲、およびループを形成するためにシースから繰り出されるバンドの部分は、ループがクランプ対象の組織もしくは臓器またはそれらの一部に嵌合するように決定することができる。遺伝子送達法を実施するために、ループの高さは、送達薬剤の送達および注入を実行するのに十分なループを通して組織の領域を引張ることができるのに十分な高さである。たとえば、ループは、肝臓501などの組織の5g〜50gまたは約5g〜約50gをクランプできるように調節される。たとえば成人の肝臓などの肝臓の例では、肝臓の先端から1cm〜5cmまたは約1cm〜約5cm、一般的には2cmの位置では、肝臓は、幅が5cm〜10cmまたは約5cm〜約10cm、大略的には7cmであり、厚みが1cm〜2cmまたは約1cm〜約2cm、大略的には1.5cmである。肝臓の厚みは端部から遠ざかるにつれて増大する、すなわち、肝臓の厚みは肝臓の中心に向かって増大する。一般的には、肝臓の幅が10cmまたは約10cmの場合、肝臓の厚みは3cmまたは約3cmである。したがって、たとえば、成人の肝臓などの肝臓501の5g〜50gまたは約5g〜約50gをクランプするためには、ループの高さは3cm〜4cmまたは約3cm〜約4cmでなければならず、それにより広げられたループは肝臓の先端から1cm〜5cmまたは約1cm〜約5cm、一般的には1cm〜3cmまたは約1cm〜約3cm、大略的には2cmまたは約2cmの位置に配置できる。特に、ループが肝臓の左中葉に嵌合するように、可撓性バンドは高さ3cm〜4cmに調節される。
【0256】
図6Cを参照して本明細書で説明したように、所望のサイズのループを形成するように可撓性バンドを調節した後、ループをクランプ対象のターゲット組織の一部上に配置することができる。いくつかの例では、クランプできるように領域へのアクセスを可能にするために組織または臓器の一部の動態化を必要とする可能性がある。たとえば、組織もしくは臓器またはそれらの一部の、クランプのループを通してアクセスするために十分な部分を露出するために、クランプ対象の組織またはその一部に結合されている靱帯を切断することができる。たとえば、肝臓の解剖学的構造を独立したユニットに区分するため、その特定の葉、区分または部分の区分化が達成される一方で、他の区分への血流は維持される。動態化により、関連する靱帯および/または関連する腺の分割が必要となる可能性がある。肝臓の様々な葉または区分を動態化または隔離するための技法および技術は、当業者にとって周知である。たとえば、尾状葉、左葉、または左中葉は全て、血管的に適度に隔離されかつアクセス可能となっている。哺乳動物の種間の肝臓の解剖学的構造の違いは、特定の領域または葉を、1つの種において他の種よりもより隔離しやすくする可能性がある。当業者であれば、他の動物に比較可能な葉を認識し、本明細書の方法を使用して区分化のための動態化または隔離に適した葉または区分を特定することができるであろう。
【0257】
本明細書の特定の実施例では、尾状葉、左葉もしくは左中葉、またはそれらの一部が区分化される。必要であれば、他の領域の組織もしくは臓器または周囲の構造体に損傷または害を与えることなく、脈管構造から適切に区分化できる領域にアクセス可能にするために、肝臓の葉または区分を周囲の付着から後退させ切り離すことができる。たとえば、尾状葉は区分IVの後ろにあり、下大静脈および門脈に密着している。尾状葉の動態化は、胃肝網および背部の尾状葉−大静脈の靱帯を分割することによって達成される。肝臓の左葉は、左の三角靱帯を分割することによって動態化することができる。ヒトまたは他の対象の同等の葉の動態化には同様の技法を用いることができる。
【0258】
必要であれば、組織もしくは臓器またはそれらの一部は、腹腔鏡用器具を用いてアクセス可能な把持具またはピンセットを使用してクランプのループ内に引き込むことができる。そのような構成では、収縮したバルーンは全体的に組織の下側にあり、可撓性バンドは組織または臓器の上部の上に延びている。クランプのループ内に収容した後、クランプは、
図6Dを参照して本明細書に説明するように、たとえばシース調節ノブ31を用いてシースを調節することによって組織または臓器の一部に嵌合するサイズにすることができる。
図6Eに示すように、組織もしくは臓器またはそれらの一部のクランプは、バンド引張り/緩めスイッチ23bを上位置に移動させ、可撓性バンドが組織もしくは臓器またはそれらの一部の周囲のループのサイズを縮小するように引張られるように引張りホイールを調節することによって実施される。たとえば、シースは可動であり、可撓性バンドは組織上に密接に嵌合するが、大きすぎるまたは高すぎるクランプ力を印加しないように、引張られる。
【0259】
所望であれば、クランプ力は、張力計を使用するなどの、当該技術分野において公知の技法を使用して決定することができる。可撓性バンドが印加する張力の量を直接的または間接的に示すあらゆる張力計を使用することができる。張力計は、機械的または電子的、デジタル式またはアナログ式のものであることができる。たとえば、張力計は可撓性バンドが印加する引張力の量を定量的に表示するデジタルディスプレイを備えることができる。デバイスの片側に張力を示す目盛りを備え、針が直線的に移動する形式で読み出す、直線的アナログ表示のデバイスも使用することができる。表示は、有線または無線でコンピュータにリモートすることもできる。計器は低侵襲手術中、ポート内に個別に導入することができ、あるいはバンドクランプデバイスと共に導入するように構成することができる。たとえば、張力計は、ベルト内の張力を直接的に測定できるようにバンドの一部内に接合することができる。あるいは、バンドクランプは、可撓性バンドをベアリングの上に通す方法で、可動ベアリングを備えて構成することができる。そのようなデバイスでは、ベアリングの偏向に基づいて、組織上の可撓性バンドの張力を間接的に測定することができる。
【0260】
クランプ対象の領域全体を区分化するために組織またはその一部を均一に圧縮するために、バルーンも全体的に膨脹させる。本明細書の他の部分で説明するように、バルーンは、バルーンを所望のサイズおよび/またはバルーン膨脹圧力に充填することができるあらゆる外部の供給源を用いて、バルーン膨脹線を通して膨脹させることができる。
図6Fを参照して本明細書で説明するように、バルーンの膨脹は、クランプ対象の組織もしくは臓器またはそれらの一部の領域に均一のクランプ圧力を印加するように、バルーンを適合させる。
【0261】
膨脹、したがって組織に印加される均一の圧力の範囲または量は、クランプ下にある組織または臓器の区分または部分全体にわたって血流を停止または遮断する圧力を達成するあらゆる量とすることができる。組織の損傷または外傷を最小にしながら臓器またはその一部の最適な区分化を達成するための理想的な圧力を判定することは、熟練した外科医などの当業者の技量内の事項である。通常の生理学的血圧範囲が120mmHg(収縮期圧)〜80mmHg(拡張期圧)であることに基づき、組織または臓器の安全かつ有効な区分化は、たとえば200mmHg〜250mmHgなどの、120mmHg〜250mmHgなどの、50mmHg〜300mmHgの範囲のバルーン膨脹圧力によって達成することができる。一般的に、圧力は、血流を完全に遮断するように収縮期圧の120mmHgを超えるが、組織の損傷が発生するほど高くない圧力である。バルーン内の圧力は、臓器の圧縮を表示するものとして測定することができる。ミリメートル水銀柱の圧力は、コール・パーマー・デジタル圧力測定装置(たとえば、イリノイ州バーノンヒルズのCole−Parmer(登録商標))などの圧力計または当業者に公知の他の同様の装置を使用して判定することができる。バルーン圧力は外科的処置の間、監視または測定することができる。たとえば、バルーン圧力の変化は、クランプしているデバイスが対象内で移動したこと、バルーンの膨脹が危険な状態になったこと、または引張っているバンドが他の状態に緩んだことを示す可能性がある。バルーン圧力を監視することによって、外科的処置中に確実にバルーン圧力を均一に保つために、デバイスを調節することができる。
【0262】
確実に組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化が達成されるためにバンドクランプによって印加された張力および圧力もまた、組織または臓器への血流を評価することができるあらゆる方法によって監視することができる。たとえば、血流の減少または除去は、組織の色、墨または他の報告可能な染料を用いた電子常磁性共鳴(EPR)酸素測定、組織分光器(TiSpec)の使用、灌流磁気共鳴画像法、陽電子放出断層撮影、近赤外線(NIR)分光法、光学的ドップラー断層撮影法、超音波およびその他の当業者に公知の方法に基づいて監視することができる。
【0263】
クランプ後、したがって組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化の発生後、送達薬剤が区分化された領域に直接投与される。したがって、区分化の実施のために組織もしくは臓器またはそれらの一部をクランプすることは、送達薬剤を組織に送達する直前に開始される。以下にさらに説明するように、核酸の送達後、体循環からの領域の区分化は、バンドクランプを解放する前に一定の期間維持される。
【0264】
b.核酸分子の送達
組織または臓器をクランプまたは区分化した後、関心対象の核酸分子を含む送達薬剤は、区分化された組織または臓器の領域内の実質組織に送達することができる。送達薬剤は大略的に、臓器またはその一部の区分化の開始後10分以内、大略的には5分以内などの、臓器またはその一部の区分化の開始直後に投与される。たとえば、送達薬剤は対象に、区分化開始後30秒、1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分または10分以内に送達される。
【0265】
i.送達薬剤の実質組織注入
一般的には、送達薬剤の直接的実質組織内投与が採用される。あらゆる所望の核酸分子または核酸分子を含む送達薬剤、特にセクションDに記載の何れかを、区分化された組織もしくは臓器またはそれらの一部に送達することができる。特に、送達薬剤は、核酸が臓器もしくは組織またはそれらの一部内の細胞に直接的に送達されるように実質組織内に直接注入することによって投与される。たとえば、肝臓の場合、ターゲットの実質組織は肝実質細胞である一方で、非実質細胞は血管内皮細胞、クッパー細胞および支持間質細胞を含んでいる。実質細胞内または間質腔内への直接注入は、上述の組織細胞の区分化(たとえば、血管除外および隔離)と相まって、組織細胞による送達薬剤の取込の頻度および効率を向上させつつ、全身循環への露出を最小にする。組織細胞による送達薬剤の取込の頻度および効率の向上に加えて、実質組織への送達は送達薬剤の免疫細胞への露出も回避することができる。
【0266】
一般的には、送達された送達薬剤は、組成物として提供される。そのような送達薬剤および組成物の例は、セクションDに記載するものである。送達薬剤は、医薬的に許容される液体または水性担体で送達することができる。送達薬剤は、針または他の同様のデバイスを用いた注入によって、組織もしくは臓器またはそれらの一部の実質組織内に直接的に導入することができる。送達される担体内の送達薬剤の体積は、0.5mL〜50mL、1mL〜20mL、5mL〜50mL、または5mL〜20mLなどの、0.5mL〜100mLまたは約0.5mL〜約100mLである。
【0267】
たとえば、核酸を含む送達薬剤を区分化された領域に送達する方法の何れにおいても、送達される薬剤を収容し、腹腔鏡のアクセスに適したインジェクションデバイスを、核酸分子を含む送達薬剤の送達のために使用することができる(
図7および
図8A〜
図8C参照)。インジェクションデバイスは、バンドクランプデバイスの一部として構成することができ、あるいは別体のデバイスとすることもできる。たとえば、導管隔離後の送達薬剤のより迅速かつ効率的な送達を可能とするために、バンドクランプデバイスは送達デバイスに対応するように適合または修正または作成することができる。一般的には、別体のインジェクションデバイスが利用され、それにより処置に柔軟性が提供され、核酸の組織への送達が、インジェクションデバイスがバンドクランプまたは結合されたデバイスの構成に近いことによって制限されないようになる。たとえば、
図7に示すように、核酸分子を含む送達薬剤は、たとえばインジェクションデバイス51などの、ターゲット組織に薬剤を送達できる、当業者に公知のあらゆるインジェクションデバイスによって投与することができる。デバイス51は、一般的に、薬剤のための流体リザーバを含むシリンジ筒と、薬剤の放出および充填を制御するためのプランジャと、ターゲット組織に侵入するための注射針とを含んでいる。一般的に、別体のインジェクションデバイスは、別の腹腔鏡ポートを介して低侵襲手術中に導入されて、使用される。したがって、インジェクションデバイスは腹腔鏡アクセス用に構成されている。本明細書の区分された方法に使用できる例示的なインジェクションデバイスは、セクションEに説明する腹腔鏡用インジェクションデバイス、および米国仮特許出願第61/863,888号に記載の何れかのデバイスである。
【0268】
本明細書において、組織または細胞に送達される送達薬剤は、以下にさらに説明するように、滞在細胞が取込むことができるものである。必要であれば、送達薬剤は特定の細胞による侵入を増加または媒介するように修正することができる。たとえば、アデノウイルスの繊維カプソメア改質は、効率的なウイルス侵入のために細胞ターゲットへのウイルスベクターの付着を可能にすることは、当該技術分野において公知である(たとえば、Campos et al.(2007)Curr.Gene Ther.,7:189−204;Russel,W.C.,(2009)J.Gen.Virol.,90:1−20を参照)。
【0269】
実質組織注入による送達薬剤の送達は、実質組織および細胞を周囲の脈管構造および関連する構造から区別する画像処理技術の使用によって支援することができる。画像処理は、注入の直前、注入と同時および/または注入後に実施することができる。そのような画像処理技術には、これらに限定されないが、磁気共鳴画像法(MRI)、超音波およびドプラ法などの超音波検査技術が含まれる。たとえば、B−グロー、三次元イメージングまたはカラードプラが使用できる。必要であれば、画像処理を促進するために造影剤を注入することができる。たとえば、そのような方法はまた、血管系または管系の管腔への薬剤の導入の可能性を最小にするためにも用いることができる。
【0270】
必要であれば、組織細胞による送達薬剤の取込の有効性を、当業者に公知の様々な技術を用いて向上することができる。送達薬剤の取込を促進する処置は、細胞によって送達薬剤が十分取込まれることを確実にするために要求される時間をより短くするため、(上述したように)区分化の時間を短縮することができることが理解される。特定の技法の選択は、送達する特定の送達薬剤、投与ルート(たとえば、特定の組織または臓器)および投与される薬剤の投与量によって、当業者が経験的に決定することができる。一実施例では、送達薬剤は、脂質、高分子トランスフェクション試薬、またはその他の薬剤を配合することができる。他の実施例では、送達を促進するために物理的方法を用いることができる。送達薬剤の送達を促進するための物理的方法の例としては、これらに限定されないが、「遺伝子ガン」法、エレクトロポレーション、ソノポレーション、圧力または超音波が含まれる。組織の損傷を最小にしつつインビボの遺伝子送達を促進する他の方法として、医薬組成物をフェムト秒赤外レーザーを使用して投与することができる(LBGT技術)。
【0271】
一実施例では、送達薬剤、特にアデノウイルスなどの、ウイルスまたはウイルス様の粒子である送達薬剤の取込は、様々な薬剤の存在によって促進することができる。たとえば、送達薬剤は、ウイルス特異細胞表面レセプターの転写エンハンサーである薬剤または化合物と共に投与することができる。そのような薬剤または化合物には、たとえばヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が含まれる。HDAC阻害剤は、ヒドロキサム酸、環状テトラペプチド、ベンズアミド、求電子性ケトンまたは脂肪酸化合物のクラスの阻害剤を含んでいる。たとえば、HDAC阻害剤には、これらに限定されないが、トリスコスタチンA、ボリノスタット(SAHA)、ベリノスタット(PXD101)、LAQ824、パノビノスタット(LBH589)、エンチノスタット(MS−275)、C199、モセチノスタット(MGCD0103)、ロミデプシン(Istodax)、バルプロ酸、PCI−24781、SB939、レスミノスタット、ギビノスタット、CUDC−101、AR−42、CHR−2845、CHR−3996、4SC−202、CG200745、ケベトリン(Kevetrin)、またはトリコスタチンA(TSA)が含まれる。例示的なHDAC阻害剤は、アデノウイルスレセプターCARおよび治療的導入遺伝子の転写エンハンサーであるバルプロ酸である。研究により、アデノウイルスの取込がバルプロ酸の存在により増加することが証明されている(Segura−Pancheco et al.(2007)Genet.Vaccines Ther.,5:10)。そのような実施例では、ウイルスベクターが薬剤と一緒にまたは別々に形成される。ウイルスベクターが別に形成される実施例では、転写エンハンサー剤または化合物は送達薬剤の送達の前に送達される。転写エンハンサー剤は、たとえば、40mg/kgなどの20mg/kg〜60mg/kgまたは約20mg/kg〜約60mg/kgなどの、1mg/kg〜100mg/kgまたは約1mg/kg〜約100mg/kgの量を投与することができる。投与量は、分割して、全投与量を達成するまで別々に投与することができる。たとえば、投与のサイクルは、1日に1回、2回、3回、4回、または5回とすることができる。投与の頻度は、一日計算で少なくとも3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、または2週間とすることができる。薬剤は、皮下注入、静脈注入、経口または局所注入など、あらゆる投与経路で投与することができる。特定の実施例では、薬剤は直接的実質組織投与によって投与される。
【0272】
いくつかの実施例では、送達薬剤は、送達薬剤と結合または複合し、細胞への侵入を媒介する薬剤または送達媒体で形成される。例示的な薬剤には、これらに限定されないが、陽イオン性リポソームおよび脂質、リポタンパク、合成ポリマーまたはポリペプチド、ミネラル化合物またはビタミンが含まれる。例示的なポリマーにはポリカチオンまたはポリアニオンが含まれる。たとえば、送達薬剤は、ポリアミン、リン酸カルシウム沈殿物、ヒストンタンパク質、プロタミン、ポリエチレンイミン(polyethylenemine)、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、DEAEデキストラン(dextrane)、ポリブレン、高分子両性電解質複合体、スペルミン、スペルミジン、プトレシン(purtrescine)、ヒト血清アルブミン、DNA結合タンパク質、非ヒストン染色体タンパク質、DNAウイルスからのコートタンパク質およびN−置換グリシンのポリマーで形成することができる。
【0273】
たとえば、送達薬剤は、対象または対象由来の細胞に送達される前に、脂質に封入するか、またはリポソームにパッケージングすることができる。脂質封入は、大略的に、安定して核酸を結び付ける、あるいは封入して保持することができるリポソームを用いて達成される。凝縮核酸送達薬剤の脂質製剤に対する割合は変更可能であるが、大略的には略、DNA
1mg:脂質1マイクロモル以上である。リポソーム製剤は、陽イオン性の(陽電気を荷電した)、陰イオン性の(負電気を荷電した)、および中性の製剤を含む。そのような製剤は当業者に周知であり容易に入手可能である。たとえば、例示的な陽イオン性脂質には、これらに限定されないが、N[1−2,3−dioleyloxy]propyl]−N,N,N−triethyammonium(DOTMA:Lipofectin(登録商標)の製品ラインにて入手可能)、DDAB/DOPEおよびDOTAP/DOPEが含まれる。陰イオン性および中性のリポソームもまた容易に入手可能であり、商業的に入手可能なアバンティポーラリピッドの製剤などの、ホスファチジルコリン、コレステロール、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)から生成することができる。リポソームには、多層小胞(MLV)、小単層小胞(SUV)、または大単層小胞(LUC)が含まれる。
【0274】
いくつかの実施例では、送達薬剤は、たとえばターゲットとなる細胞内で発現されたレセプターに結び付くターゲット分子などの薬剤の細胞送達をさらに支援および増加させるために官能基またはターゲット剤を含むナノ粒子であることができる。官能基またはターゲット剤は、たとえば、薬剤または複合体の細胞との結合を促進する細胞ターゲット化部を含んでいる。細胞ターゲット化部は、これらに限定されないが、タンパク質、ペプチド、脂質、ステロイド、糖、炭水化物、(非発現の)多核酸または合成化合物であることができる。たとえば、細胞ターゲット化信号は、レセプターへの細胞結合を促進するリガンドを含むことができる。そのようなリガンドは、これらに限定されないが、RGDシーケンスを含む、インシュリン、増殖因子(EGFまたはFGF)、トランスフェリン、ペプチドを含む。他のターゲット化部は、これらに限定されないが、チオールと反応する化学基、細胞上のスルフヒドリルまたはジスルフィド、葉酸および他のビタミンを含む。
【0275】
ii.投薬量
投与される送達薬剤の投与量は、特定の用途および送達される薬剤の特定のタイプ(たとえば、ウイルス)に基づいて経験的に決定することができる。本明細書で提供するバンドクランプデバイスを用いて達成されるなどの、区分化された組織または臓器への核酸の送達は、直線的な投薬−応答の動態をもたらす。たとえば、投与されるアデノウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはその他のウイルスなどの、ウイルスなどの送達薬剤の量と、生成される導入遺伝子産物との間に直接的な相関性が存在する。治療上有効量のタンパク質を生成するためには、40ゲノムの導入ウイルスで十分であるため(たとえば、Nathwani et al.(2002)Blood,100:1662を参照)、区分化された遺伝子送達を用いて、より少ない量のウイルスを投与することができる。たとえば、量は、細胞ごとに40ゲノム以上のウイルスを細胞に導入するのに十分な量とすることができる。遺伝子送達の区分化された方法は、細胞ごとのゲノム複写をさらに増加させることができ、それにより従来の方法よりも少ない投与量で産物の持続した発現をさらに増加させることができる。したがって、遺伝子送達の区分化された方法を用いることによって、注入される粒子量、細胞内のゲノムおよび発現したタンパク質の量を正確に関連付けることができる。
【0276】
大略的には、核酸送達の区分化された方法を用いることにより、従来の方法に比べて大幅に削減した量の送達薬剤を、治療用核酸分子などの核酸分子の最適な送達を達成するために投与することができる。さらに、投与される送達薬剤の量は、送達薬剤の投与量と生成される治療生成物の量との間の直線的関係により、制御することができる。その結果、核酸送達の区分化された方法を用いることにより、同じ送達薬剤を静脈内に投与するよりも、100倍までまたは100倍未満の送達薬剤の投与が可能となる。たとえば、遺伝子送達の区分化された方法を用いて投与される送達薬剤の量は、静脈を介してターゲット臓器または組織に投与される同じ送達薬剤の量よりも、10倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、5000倍、10000倍までまたはそれら未満とすることができる。特定の送達薬剤、核酸分子、および治療する疾病または体調に基づいて、投与される送達薬剤の特定の量を決定することは、当業者の技量内の事項である。
【0277】
特に、区分化された組織または臓器に投与される送達薬剤の投与量または量は、生成されるタンパク質生成物のレベルが治療または予防効果を実現できる量である。一般的に、その量は、核酸送達の区分化された方法を用いて上記レベルが少なくとも6カ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12カ月、14ヶ月、16ヶ月、18ヶ月、20ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月、60ヶ月、72ヶ月、84ヶ月、96ヶ月、10年、15年またはそれを超える期間、維持される量である。投与される送達薬剤および生成される生成物の量に直線的関係が存在するため、そのような投薬量は当業者が決定することができる。投薬量の決定において考慮すべき事柄には、特定の遺伝子治療および治療生成物、タンパク質生成物の半減期、導入遺伝子産物の発現に使用されるプロモーター、特定の送達薬剤および他の同様の要素を含むことができる。
【0278】
送達薬剤が非ウイルス性の核酸である場合は、DNAまたはRNAの有効な投薬量は0.005mg/体重kgまたは約0.005mg/体重kg〜50mg/体重kgまたは約50mg/体重kgの範囲内である。大略的には、投薬量は0.005mg/体重kgまたは約0.005mg/体重kg〜20mg/体重kgまたは約20mg/体重kg、より大略的には0.05mg/体重kgまたは約0.05mg/体重kg〜5mg/体重kgまたは約5mg/体重kgである。たとえば、非ウイルス性の核酸(たとえば、プラスミド、ネイキッドDNA、低分子干渉RNA、低分子ヘアピン型RNAまたはアンチセンス核酸)については、0.05mg〜1500mg、1mg〜1000mg、10mg〜1500mg、または100mg〜1000mgなどの、0.01mg〜2000mgが送達される。
【0279】
送達薬剤がアデノウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはその他のウイルスなどのウイルスである場合は、投薬量は一般的にウイルス粒子(vp)またはプラーク形成単位(pfu)の数によって提供され、投薬量は大略的に、1×10
12全粒子または1×10
12pfu未満であり、大略的には、1×10
6〜1×10
10粒子もしくは1×10
7〜1×10
9粒子などの、10〜1×10
12粒子、10〜1×10
6粒子、1×10
3〜1×10
12粒子の範囲内もしくは略これらの範囲内、または1×10
6〜1×10
10pfuもしくは1×10
7〜1×10
9pfuなどの、10〜1×10
12pfu、10〜1×10
6pfu、1×10
3〜1×10
12pfuの範囲内もしくは略これらの範囲内である。上記の範囲よりも低いまたは高い投薬量を要求することができる。何らかの特定の対象または患者に対する特定の投薬量および治療計画は、特定の遺伝子治療およびその治療生成物、特定の化合物または薬剤の作用、年齢、体重、全体的な健康状態、性別、規定食、投与時間、排出率、薬の組み合わせ、疾病、体調または症状の重症度および経過、対象または患者の疾病、体調または症状に対する傾向、投薬方法および治療を行う医師の判断を含む、様々な要素によって決めることができる。正確な投薬量を決定することは治療を行う当業者である医師の技量内の事項である。
【0280】
ウイルスの組成物の生成のためのウイルスの力価および/または投薬量の決定の方法は、当業者に周知である。たとえば、力価はウイルスDNAおよびタンパク質の濃度を測定するOD
260分析評価によって決定することができる。増殖媒体内のリンパ液およびその他の要素は吸光読取を妨害する可能性があるため、そのような分析評価を実施するために、純化ウイルスのストックが要求される。たとえば、ウイルスはCsCl密度勾配または他の当業者に公知の方法を用いたバンディングによって純化される。一般的に、ウイルスの希釈化が行われる。光学粒子ユニット(opu)または1mL当りのウイルス粒子(vp)は吸光度から決定することができる。たとえば、アデノウイルスについては、vp/mLは1.1×10
12をOD
260吸光度およびウイルスの希釈比で掛けることによって決定される。OD
260分析評価は生菌と死菌を区別しない。他の実施例では、力価は当該技術分野において公知の標準的な技法を用いてプラーク法を実施することによって決定することができる。一般的に、たとえば293細胞などの、単層内で増殖できる細胞は、適度の高密度(たとえば、70%または約70%またはそれを超える密度)でプレートに蒔かれ、その後、様々な希釈液でウイルスストックに感染させる。細胞の感染および形質導入に十分な時間の経過後、アガロース溶液を細胞に加える。細胞の溶解によって形成されるプラークは数日後に可視となり、10日後までに数えることができるようになる(一般的にプラーク領域を差異化することができる染料を使用することによる)。力価はプラーク数を希釈比で割ることによって1mL当りのプラーク形成ユニット(pfu)として計算される。さらなる実施例では、エンドポイント法を用いることができる。この分析評価は、より多くの希釈が行われる(大略的に10
−3〜10
−10)こと以外は、プラーク法と同様である。また、プラークの特定のためにアガロースで覆う代わりに、感染した細胞のプレートを顕微鏡下で手動で視覚化して細胞変性効果(CPE)のための窪みを特定する。プレートの窪みはスピアマン−カーバー法に基づいてエンドポイント希釈度を決定するために評価することができる。
【0281】
投薬治療は、単一回投与計画または複数回投与計画とすることができる。投与頻度は、投与される薬剤、対象の疾病または体調の進行、および他の当業者に公知の検討すべき事項によって決めることができる。たとえば、送達薬剤または組成物は1回で送達することができ、あるいは少なくとも2回、3回、4回、5回、6回、7回もしくは8回または略これらの回数の投与などの、複数回の投与で送達することができる。治療はまた、単一のターゲット位置または複数のターゲット位置で実施することができる。たとえば、送達薬剤の送達はターゲット位置ごとに1回の注入とすることができ、あるいはターゲット位置に繰り返し注入することができる。例としては、嚢胞性繊維症のような肺の疾病の治療では、対象の十分な導入遺伝子産物および/または機能的向上を達成するために複数回の注入により肺の少なくとも25%、50%、75%、80%、85%、90%、または95%をターゲットとすることが必要となる可能性がある。したがって、複数の注入用の位置を使用することができる。繰り返し注入は連続して、前回の注入の直後、または数分、数時間、数日または数年後に実施することができる。いくつかの実施例では、送達薬剤は、特に高レベルの形質導入または発現が要求される場合、臓器またはその一部内の1つ超の位置に投与される。たとえば、いくつかの実施形態では、最初の投与位置に加えて、送達薬剤を含む組成物は他の場所または位置に投与される。他の場所または位置は、ターゲット組織の同じ領域または部分内の最初の位置に隣接するまたは近傍の位置とすることができ、あるいは、同じターゲットの臓器内の最初の位置から離れた位置とすることができる(たとえば、肝臓または肺の異なる位置または領域)。
【0282】
c.区分化の終了/解放
送達薬剤の送達後、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化は送達薬剤の十分な取込を可能とするおよび/または送達薬剤の体循環への露出を最小にするために十分な期間、維持される。たとえば、区分化は送達薬剤を細胞に侵入させるのに十分な期間、体循環を回避している。区分化の効果とは、毒性および免疫活性化を最小にすることである。大略的には、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化は、(たとえば、局部または全身のサイトカインの発現、好中球およびリンパ球の浸潤などの炎症性浸潤、および/または組織の酵素によって評価されるように)毒性および免疫活性化を限定、最小化または回避するように維持される。投与される特定の送達薬剤、ターゲットの組織もしくは臓器またはそれらの一部、治療対象、または特定の用途を含む要因に基づいて区分化を維持する正確な期間を経験的に決定することは当業者の技量内の事項である。
【0283】
区分化の最適な期間は、特定のターゲットの臓器もしくは組織またはそれらの一部、送達薬剤、および送達に用いられる特定の方法を含む様々な要因によって変更することができる。たとえば、異なる組織または臓器に滞在する細胞は、送達薬剤の細胞内取込のための異なるエンドサイトーシスの能力および動きを発揮する。このエンドサイトーシスの機能は特定の送達薬剤によって影響されるか、または異なる可能性がある。たとえば、アデノウイルスなどのウイルスベクターである送達薬剤に対して、アデノウイルス感染の動きは、そのレセプターと結合し反応した後に開始される。アデノウイルスのサブグループA、C〜Fに対するレセプターはコクサッキーウイルスB Adレセプター(CAR)である。主要レセプターへの結合は関連するウイルスのエンドサイトーシスを媒介する。形質導入後1分以内に、全体的に約2%のウイルスが細胞内に存在する。分解されたアデノウイルスは、エンドソームの内容物を細胞質内へ解放することによりサイトゾルに逃避する。形質導入後30分以内またはその前に、約80%のウイルスが細胞内に存在する。さらに分解された後、カプシドは細胞質を介して搬送され、そこで最終的にウイルスDNAを細胞核内に送達する。形質導入後60分以内またはその前に、全ての導入遺伝子が核内に送達される。
【0284】
さらに、導管区分化の最適な持続期間は、組織もしくは臓器またはそれらの一部、およびその中の滞在細胞の、虚血状態に対する耐性によって決めることができ、本明細書の方法において考慮すべき事項である。いくつかの臓器または組織は他に比べて虚血状態に対する耐性が低い。たとえば、肝細胞は大略的に導管隔離に対して神経細胞または心筋細胞よりも長時間、存続可能である。肝臓は大略的に、60分までまたはそれを超える時間の間、血流の中断に耐える(Abdalla et al.(2004)Surg.Clin.N.Am,84:563−585)。腎臓の場合は、導管隔離は実質的に全ての核酸を組織細胞に取込ませるための所定の期間、実施できる。腎臓は一般的に2時間までの虚血期間に耐えるが、大略的には1時間以内または30分以内である(Hoffman et al.(1974)AMA Arch.Surg.,109:550−551およびThompson et al.(2006)J.Urology,177:471−476)。筋肉は4時間まで虚血に耐える(Blaisdell F.W.(2002)Cardiovascular Surgery,10:620−630)。当業者であれば、十分な細胞内取込を達成し、全身的な暴露を最小化し、可逆的または回復可能な臓器またはその一部への虚血を無くすまたは許容可能な虚血にする期間を決定するために組織または臓器を監視および評価することができる。たとえば、デジタル光処理(DLP(登録商標))ハイパースペクトル撮像(HSI)は、組織もしくは臓器またはそれらの一部の「リアルタイムの」組織酸素付与図を作成するために利用することができる(Best et al.(2011)Proc.SPIE,7932,793202)。
【0285】
特定の実施例では、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化は15分を超える。たとえば、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化を維持する期間は、区分化開始および/または送達薬剤の投与後、少なくとも15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、65分、70分、75分、80分、85分、90分、95分、100分、105分、110分、115分、もしくは120分または略少なくともこれらの期間またはこれらの期間までである。区分化を維持する期間は、取込または侵入を促進することができる薬剤の存在下では15分より短くすることができることが理解される。したがって、本明細書の実施例では、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化を維持する期間は、少なくとも5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分、15分またはそれを超える期間、あるいは略少なくともこれらの期間またはこれらの期間までである。特定の実施形態では、区分化は少なくとも約30分または30分まで維持される。大略的には、本明細書の何れの方法においても、組織もしくは臓器またはそれらの一部の区分化は、15分よりも長いが60分未満であるなどの、60分以下である。
【0286】
たとえば、肝臓またはその一部が本明細書の方法によって区分化される本明細書の実施例では、肝臓の区分化を維持する期間は、区分化開始および/または送達薬剤の投与後、少なくとも15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分もしくは60分または略少なくともこれらの期間またはこれらの期間までである。大略的には、本明細書の何れの方法においても、肝臓または肝臓の一部の区分化は、少なくとも15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分あるいは略少なくともこれらの期間であるが60分未満などの、60分以下である。たとえば、区分化は15分〜60分、15分〜50分、15分〜40分、15分〜30分、20分〜60分、20分〜40分または略これらの期間、大略的には約または略30分とすることができる。
【0287】
本明細書のいくつかの実施例では、核酸送達の区分化された方法はさらに、臓器もしくはその一部または術野から、細胞外の送達薬剤(すなわち、投与された送達薬剤のうち、区分化された臓器またはその一部の細胞が取込まなかった部分)を除去することも含むことができる。除去のステップには、臓器またはその一部への導管循環の回復後、送達薬剤の全身循環への到達がほとんどまたは全く無いようにするために、吸収、吸引、または洗い流すことを含むことができる。したがって、除去ステップは臓器またはその一部への導管循環を回復する前に実施される。
【0288】
区分化期間の後、臓器またはその一部への区分化が終了される。これは、クランプを外すことによって、組織もしくは臓器またはそれらの一部の体循環との連通を回復することによって実施される。たとえば、バンドクランプデバイスによって達成された区分化は、バルーンを収縮させ、バンド引張り/緩めスイッチを下位置に移動させて引張られた可撓性ループを緩め、引張りホイールを時計回りに回動させて可撓性バンドを緩み位置になるように緩めることによって、終了することができる。組織または臓器はその後、クランプ部から外されて、クランプデバイス全体はポートから取り外される。組織もしくは臓器またはそれらの一部への血流を遮断するために用いたデバイス、装置またはプロセスを、その下にある組織、脈管、静脈または動脈、あるいは導管への損傷が発生しないように注意深く取り外すことは、熟練した医師の技量内の事項である。たとえば、クランプの圧力は、組織、臓器またはその一部への血流の回復を制御するために注意深く解放することができる。
【0289】
2.切除および移植
本明細書で提供するバンドクランプデバイスは、組織切除手術または移植手術などのあらゆる腹腔鏡外科的処置中に使用することができる。一般的に、切除手術には、腫瘍、悪性腫瘍または他の周囲の組織からの病変などの増殖または異常を含む、臓器、組織または構造体の全てまたは一部の切除が含まれる。組織切除手術は、組織または臓器の一部または全体の除去を必要とするあらゆる組織、臓器またはその一部に対して実施可能である。たとえば、組織切除は肝臓、前立腺、腎臓、腸、肺、脾臓、消化管、胃、膵臓、生殖器、および組織または臓器の一部または全体の除去を必要とするあらゆる他の組織または臓器に対して実施することができる。たとえば、本明細書で提供するクランプデバイスは肝臓切除中に使用することができる。肝臓切除は、肝腫瘍および新生物の根治的治療の最も有効な方法とすることができる。
【0290】
本明細書で提供するデバイスは、腹腔鏡移植手術中に使用することができる。移植手術は、一般的に、ドナーから組織または臓器の全てまたは一部を切り離す、すなわち切除することを含んでおり、切除された組織もしくは臓器またはそれらの一部はレシピエントに移される。移植は、ドナーおよびレシピエントが存在する場合に、これらに限定されないが、肝臓、前立腺、腎臓、腸、肺、脾臓、消化管、胃、膵臓、生殖器、および組織または臓器の一部または全体のドナーから切除してレシピエントへ移すことを必要とするあらゆる他の組織または臓器に対して実施することができる。一実施例では、本明細書で提供するデバイスは、たとえば腹腔鏡によるドナーの腎切除術などの臓器移植処置中、たとえば、腎移植処置中に使用することができ、腎臓はドナーから切除されてレシピエントに移植される。大略的には、切除手術または移植手術中に、クランプは所望の組織または臓器上のあらゆる位置に適合し、操作者の操作により様々なサイズの組織または臓器の摘出が可能となる。
【0291】
3.他の処置
本明細書で提供するクランプデバイスは、組織もしくは臓器またはそれらの一部のクランプを必要とする他のあらゆるタイプの低侵襲外科的処置に使用することができる。処置の例としては、切除、子宮摘出、虫垂切除、(胆石治療のための)胆嚢摘出、肥満外科手術、たとえば胃バイパス手術、ラップバンド手術、子宮内膜症のための内視鏡手術、ヘルニア修復、クローン病、結腸直腸癌、憩室炎、家族性ポリポーシス、便失禁、直腸脱、潰瘍性大腸炎、結腸ポリープ、慢性腸閉塞などの消化管の疾病の治療のための内視鏡手術、およびその他の組織もしくは臓器またはそれらの一部がクランプできるあらゆる低侵襲手術が含まれる。
【0292】
D.送達薬剤およびその組成物
セクションCに記載の区分化された核酸の送達方法を使用して、区分化された組織または臓器へ送達することに使用するための送達薬剤は、任意の所望の核酸分子、または、任意の核酸分子を収容する媒体、構成物もしくは複合体であってよい。特に、送達薬剤は、核酸分子であるか、または、所望の機能を有する、もしくは、選択されたポリペプチドを所望の機能でコード化する核酸分子を含む。送達薬剤は、DNA(たとえば、二本鎖環状または線状)、RNA、リボザイム、またはアプタマーであり得る。さらに、送達薬剤は、これらに限定されないが、ネイキッドDNA、マイクロRNA、低分子干渉RNA、またはアンチセンス核酸等の任意の形態であり得る。送達薬剤は、異種核酸分子を含む構成物として提供され得る。インビトロまたはインビボの何れかでの細胞への核酸送達のための、当業者に既知の多くの構成物が存在する。このような構成物として、ウイルスベースの送達システムおよび非ウイルスベースの送達システムがある。たとえば、送達薬剤は、ナノ粒子(たとえば、ターゲットのまたは放射標識されたナノ粒子)、プラスミドまたはベクター(たとえば、ウイルスベクターまたは発現ベクター)中で送達される核酸分子を含む構成物であり得る。このような構成物は、本分野で周知であり、本明細書で提供する組成物および方法とともに使用するのに容易に適用可能である。
【0293】
使用される送達薬剤の選択は、ターゲットの組織または臓器の部位に依存することが理解される。ターゲットの組織または臓器の細胞による細胞摂取に適合する送達薬剤および/または送達方法を経験的に決定および特定することは、当業者の技量内の事項である。たとえば、レトロウイルスベースのベクターは大略的に分裂細胞を積極的に伝達するのみであることは、当業者に既知である。肝臓細胞は、大略的に静止状態であり、よって、レトロウイルスベースのベクターの肝臓細胞への送達には処置が要求され、それにより、方法には、細胞分裂を刺激するステップ(たとえば、部分肝切除術)が含まれる。逆に、アデノウイルスベースのベクターは、非分裂細胞に送達され得る。
【0294】
1.核酸分子
区分化された核酸の送達方法に使用される特定の送達薬剤は、核酸分子であるかまたはそれを含み、それによって、ターゲット組織内に存在する際または血流に分泌される際に有用な活性または特性を、その送達および/または発現がもたらす。たとえば、核酸分子の送達および/または発現は、欠損または欠陥(たとえば、部分機能的または非機能的)遺伝子産物の置換をもたらし、遺伝子産物の過剰生成を達成し、DNAワクチンとしてはたらき、所望の効果または治療作用を有するポリペプチドをコード化し、または、遺伝子発現をコード化する。たとえば、核酸分子は、所望の効果または治療成果を目的としてポリペプチドをコード化するために選択されたものであってよい。別の実施例において、核酸分子は、遺伝子の転写または翻訳の阻害物質等の、遺伝子のまたは遺伝子産物の核酸ベース阻害物質である。たとえば、送達薬剤は、低分子干渉RNA(siRNA)シーケンス、アンチセンスシーケンスまたはマイクロRNA(miRNA)シーケンスであり得る。さらなる実施例では、送達薬剤は、予防タンパク質を送達するために予防的に使用され得る。さらなる実施例では、核酸分子の送達および/または発現は、たとえば産肉を改善(たとえば、ミオスタチン生成のブロックにより)するため、農業用途用にタンパク質をコード化し得る。特定の用途または処置される特定の疾病もしくは障害により核酸分子を選択することは、当業者の技量内の事項である。
【0295】
核酸分子は、ネイキッドDNAとして送達され得、または、媒体内でもしくは複合体もしくは構成物として送達され得る。よって、送達薬剤が核酸分子であるかまたはそれを含むことが理解される。たとえば、核酸分子は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクター等の、核酸分子を収容するベクターまたはプラスミドを含み得る。核酸分子は、リポソーム内に封入されてもよい。核酸分子は、ターゲットリガンドまたは他の部分等の他の薬剤に複合され、ナノ粒子として送達され得る。
【0296】
核酸分子は、プロモータによりエンハンサへと駆動され得、発現を制御または調節する。プロモータは、コード化領域に作動可能に結合される。当業者に既知の任意の強力なプロモータが、DNA発現の駆動に使用され得る。プロモータは、CMVプロモータ、組織特有のプロモータ、誘導性または調節可能プロモータ等の構成型プロモータであり得る。特定の実施形態において、遺伝子治療目的で導入される核酸分子は、核酸の発現が転写の適切な誘導物質の有無の制御により制御可能であるよう、コード化領域に動作可能に結合された誘導性プロモータを含む。大略的に、プロモータは、コード化されたポリペプチドの調節発現を可能にするための、公開されたテトラサイクリン調節システムまたは他の調節可能システム(たとえば、国際公開WO01/30843号参照)等の、被調節プロモータおよび転写ファクタ発現システムである。他のプロモータの例は、米国特許第5,998,205号に記載のもの等の組織選択的プロモータであり、これにはたとえばαフェトプロテイン、DF3、チロシナーゼ、CEA、表面活性剤タンパク質およびErbB2プロモータである。例示的な調節可能プロモータシステムは、たとえばクロンテック(カリフォルニア州パロアルト)から入手可能なTet−On(およびTet−Off)システムである。このプロモータシステムは、テトラサイクリンまたはドキシサイクリン等のテトラサイクリン誘導体により制御される導入遺伝子の調節発現を可能とする。他の調節可能プロモータシステムが既知である(たとえば、ホルモン受容体由来のもの等の、リガンド結合ドメインおよび転写調節ドメインを含む遺伝子スイッチを記載した「単鎖、単量体、リガンド依存ポリペプチドスイッチを用いる遺伝子発現の調節」と題された米国公開第2002−0168714号参照)。採用可能な他の適切なプロモータには、これらに限定されないが、アデノウイルス主後期プロモータおよび/またはE3プロモータ等のアデノウイルスプロモータ、または、サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ等の異種プロモータ、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモータ、MMTプロモータやメタロチオネインプロモータ等の誘導性プロモータ、ヒートショックプロモータ、アルブミンプロモータおよびApoAIプロモータがある。
【0297】
いくつかの例では、送達薬剤は、所望のポリペプチドをコード化する核酸分子であるか、またはそれを含む。区分化された核酸の送達方法における送達薬剤の送達に際し、コード化されたポリペプチドは、生物学的療法または薬品として使用され得るものであり得る。核酸分子は、サイトカイン、凝結因子または凝固因子、ホルモン、増殖因子、酵素、輸送タンパク質、調節タンパク質、受容体または抗原等の、任意の所望の遺伝子産物をコード化し得る。核酸分子は、細胞成長、細胞分化または代謝を調節するためにホルモンタンパク質をコード化し得る。所望の治療用ポリペプチドをコード化する特定の核酸分子の選択は、処置される特定の疾病または状態に依存し、当業者の技量内の事項である。たとえば、核酸分子は、処置対象がI型糖尿病を患っている場合はインシュリンを、処置対象が血友病を患っている場合は特定の血液凝固因子を、処置対象がパーキンソン病を患っている場合はドーパミンを、または、処置対象が家族性高コレステロール血症を患っている場合はLDL受容体を、コード化する。当業者であれば、処置対象の特定の必要性に基づいて必要なポリペプチドおよびそれをコード化する核酸の選択方法を熟知しているであろう。例示的な核酸分子は、免疫調節タンパク質、酵素、ホルモン、サイトカイン、受容体、抗体または抗血管新生薬剤をコード化する。核酸分子は、融合タンパク質であるタンパク質をコード化し得る。
【0298】
免疫刺激タンパク質である、または、免疫調節特性を呈するポリペプチドを、選択された核酸分子はコード化し得る。このような核酸分子には、これらに限定されないが、サイトカイン、たとえばインターロイキン、インターフェロン、顆粒球コロニー刺激因子またはそれらのインターロイキン(IL)−1、IL−2、IL−4、IL−5、IFN−β、IFN−γ、IFN−α、TNF、IL−12、IL−18およびflt3等をコード化する遺伝子;免疫細胞(B7、分化28(CD28)のクラスター、主要組織適合性複合体クラスI(MHCクラスI)、MHCクラスII、抗原処理(TAP)に関連付けられたトランスポーター)との相互作用を刺激するタンパク質;腫瘍関連抗原(T細胞1(MART−1)によって認識されるメラノーマ抗原由来の免疫原性ポリペプチド、gp100(メラノサイトタンパクpmel−17);チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1、チロシナーゼ関連タンパク質2、メラノサイト刺激ホルモン受容体、メラノーマ関連抗原1(MAGE1)、MAGE2、MAGE3、MAGE12、Bメラノーマ抗原(BAGE)、癌−生殖系列抗原(GAGE)、癌−精巣抗原NY−ESO−1、β−カテニン、変異メラノーマ関連抗原1(MUM−1)、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK−4)、カスパーゼ8、モノクローナル抗体Ki−67(KIA)0205によって識別される抗原、ヒト白血球抗原(HLA)−A2R1701、α−フェトプロテイン、テロメラーゼ触媒タンパク質、G−250、ムチン1(MUC−1)、癌胎児性タンパク質、p53、Her2/neu、トリオースリン酸イソメラーゼ、細胞分裂制御タンパク質27(CDC−27)、低密度脂質受容体GDP−l−フコース:β−d−ガラクトシド2−α−l−フコシルトランスフェラーゼ融合タンパク質(LDLR−FUT)、テロメラーゼ逆転写酵素、および前立腺特異的膜抗原(PSMA))、抑制シグナルをブロックするcDNAコード化抗体(細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)遮断)、ケモカイン(マクロファージ炎症性タンパク質(MIP1)、MIP3、CCR7リガンド、およびカルレティキュリン)、および他のタンパク質、が含まれる。
【0299】
核酸分子は、受容体またはリガンドに結合するそれらの増殖因子受容体またはその部分に結合するそれらの増殖因子又はその一部であるポリペプチドをコードすることができる。増殖因子および増殖因子受容体は当該技術分野で知られている。たとえば、BaxleyおよびSerra,Curr.Drug Targets 11(9):1089−102(2010);Lo,Curr.Mol.Pharmacol.3(l):37−52(2010);BarakatおよびKaiser,Expert Opin.Investig.Drugs18(5):637−46(2009);TrojanowskaおよびVarga,Curr.Opin.Rheumatol.19(6):568−73 (2007);JimenoおよびHidalgo,Biochim.Biophys.Acta 1766(2):217−29(2006);FinchおよびRubin,J.Natl.Cancer Inst.98(12):812−24(2006);Lo et al,Breast Canc.Res.Treat.95(3):211−8(2006);Schilephake,Int.J.Oral Maxillofac.Surg.31(5):469−84(2002);George,Urology60(3 Suppl.1):115−21(2002)を参照。増殖因子としては、たとえば、骨形態形成タンパク質(BMP類)、上皮増殖因子(EGF)、エリスロポエチン(EPO)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様増殖因子(IGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、形質転換増殖因子αおよびβ、および血管内皮増殖因子(VEGF)がある。増殖因子受容体としては、たとえば、上皮増殖因子受容体(EGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、または形質転換増殖因子受容体(TGFR)がある。
【0300】
核酸分子は一本鎖抗体又は抗特発性抗体を含む、抗体または抗体フラグメントであるポリペプチドをコード化することができる。抗体は、当技術分野で周知である。たとえば、BrekkeおよびSandlie,Nat.Rev.Drug.Discov.2(l):52−62(2003);Mellstedt,Drugs Today 39(Supl.C):l−16(2003);Therapeutic Antibodies: Methods and Protocols; Ed.Dimitrov,A. S.,Humana Press,Springer,New York,NY (2009);Zheng et al.(2007)Cell Research,17:303−306を参照。コード化された抗体またはフラグメントの非限定的な例としては、たとえば、抗胸腺細胞グロブリン、ムロモナブ、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブ、ダクリズマブ(Daclizuma)、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ−CD3、ナタリズマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブまたはトラスツズマブがある。
【0301】
核酸分子は、ポリペプチドをコードすることができ、ポリペプチドは、これらに限定されないが、酵素(たとえば、ガルスルファーゼ、ラロニダーゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−スルファターゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、酸アルファグルコシダーゼ、イミグルセラーゼ、アルグルコシダーゼα)、ホルモン(たとえば、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、インシュリン、甲状腺ホルモン、エリスロポエチン)、血管形成モジュレーター、免疫調節剤(デニロイキンジフチトクス;インターロイキン−2)、疼痛調節(たとえば、NP2)、融合タンパク質(たとえば、インシュリン様増殖因子2および酸性αグルコシダーゼ(IGF2−GAA);アバタセプト;アレファセプト;エタネルセプト)、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤、ヒランまたはヒアルロン酸の他の誘導体、またはアレルゲン(たとえば、ピーナッツまたは他の食物アレルゲン)である。
【0302】
たとえば、核酸分子は、ヒトエリスロポエチンまたはその変異体(たとえば、米国特許第4,703,008号、アクセッション番号P01588を参照)、ヒトG−CSFまたはその変異体(たとえば、アクセッション番号P09919を参照);ヒトGM−CSFまたはその変異体(たとえば、Cantrell et al.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci,82:6250−4;アクセッション番号P04141を参照);プラスミノーゲン活性化因子またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P00750を参照);ウロキナーゼまたはその変異体(たとえば、アクセッション番号P00749を参照);インシュリンまたはその変異体(たとえば、米国特許第4,652,525号、米国特許第4,431,740号、Groskreutz et al.(1994)J.Biol.Chem.,269:6241−5、アクセッション番号P01308);インターロイキン1またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P01583、P01584を参照)、インターロイキン2またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P60568、米国特許第4,738,927号を参照)、インターロイキン3またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P08700、欧州特許公開第275,598号または第282,185号を参照)、インターロイキン4またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P05112を参照)、インターロイキン7またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P13232、米国特許第4,965,195号を参照)などのインターロイキン、インターフェロンまたはその変異体、第VIII因子またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P00451を参照)、第IX因子またはその変異体(たとえば、P00740を参照)、フォン・ヴィレブランド因子またはその変異体(たとえば、アクセッション番号P04275を参照)、またはヒト成長ホルモンまたはその変異体(たとえば、アクセッション番号P01241、P01242、米国特許第4,342,832号を参照)をコード化することができる。
【0303】
関心対象の他の核酸分子には、抗血管形成または自殺タンパク質をコード化するものが含まれる。抗血管形成タンパク質は、たとえば、METH−1、METH−2、TrpRSフラグメント、プロリフェリン関連タンパク質、プロラクチンフラグメント、PEDF、バソスタチン、細胞外マトリックスタンパク質及び増殖因子/サイトカイン阻害剤の種々のフラグメントを含む。細胞外マトリックスタンパク質の種々のフラグメントは、これらに限定されないが、アンジオスタチン、エンドスタチン、キニノスタチン、フィブリノーゲンEフラグメント、トロンボスポンジン、タムスタチン、カンスタチン、およびレスチン(restin)を含む。増殖因子/サイトカイン阻害剤は、これらに限定されないが、VEGF/VEGFRアンタゴニスト、sFlt−1、sFlk、sNRP1、アンジオポエチン/タイアンタゴニスト、sTie−2、ケモカイン(IP−10、PF−4、Gro−β、IFN−γ(Mig)、IFN、FGF/FGFRアンタゴニスト(sFGFR)、エフリン/Ephアンタゴニスト(sEphB4および溶解性エフリンB2(sephrinB2))、PDGF、TGFおよびIGF−1を含む。自殺タンパク質は、ジフテリア毒素Aの発現と同様、細胞死につながる可能性があるタンパク質であり、すなわちタンパク質の発現により、細胞を、特定の薬物に対して選択的感受性を有することができるようにし、たとえば、単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV−TK)の発現は、アシクロビル、ガンシクロビルおよびFIAU(1−(2−デオキシ−2−フルオロ−β−D−アラビノフラノシル)−5−ヨードウラシル)などの抗ウイルス化合物に細胞を敏感にさせる。他の自殺タンパク質は、カルボキシペプチダーゼG2(CPG2)、カルボキシルエステラーゼ(CA)、シトシンデアミナーゼ(CD)、シトクロムP450(cyt−450)、デオキシシチジンキナーゼ(dCK)、ニトロレダクターゼ(NR)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、チミジンホスホリラーゼ(TP)、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ(VZV−TK)、およびキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)を含む。他のコード化されたタンパク質は、これらに限定されないが、安全スイッチとして有用である単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)(PCT国際公開WO99/25860号として公開された、1997年11月19日に出願された米国特許出願第08/974,391号を参照)、Nos、FasLおよびsFasR(可溶性Fas受容体)を含む。
【0304】
本明細書の他の実施例では、核酸分子は、リソソーム貯蔵障害に関与するタンパク質をコード化するもの、および、特にその中に欠陥がある酵素を含み、これらに限定されないが、アスパルチルグルコサミニダーゼ、ガラクトシダーゼA、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、リソソーム膜貫通タンパク質、システイントランスポーター、酸性セラミダーゼ、酸α−L−フコシダーゼ、保護タンパク質/カテプシンA、酸βグルコシダーゼまたはグルコセレブロシダーゼ、酸βガラクトシダーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ、α−L−イズロニダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、酸α−マンノシダーゼ、酸β−マンノシダーゼ、アリールスルファターゼB、アリールスルファターゼA、N−アセチルガラクトサミン−6−硫酸スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、ニーマン・ピック病タイプCI(NPC−1)、βヘキソサミニダーゼB、ヘパランN−スルファターゼ、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NaGlu)、アセチル−CoA:α−グルコサミニド(glucosamininde)N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−硫酸スルファターゼ、β−グルクロニダーゼ、および酸性リパーゼを含む。様々なリソソーム蓄積疾患におけるこのような酵素の役割は、当業者に知られている(たとえば、米国特許公開第2008/0025952号参照;第20120009268号を参照)。酵素の選択は、特定のリソソーム障害によって異なる。関心対象の核酸分子の非限定的な例としては、以下をコード化する任意のものが含まれる:ムコ多糖症疾患(たとえば、スライ症候群)の治療のためのβ−
グルクロニダーゼ(
glucuronidase);ハーラー症候群の治療のためのα−L−イズロニダーゼ;シャイエ症候群またはハーラー−シャイエ症候群の治療のためのα−L−イズロニダーゼ;ハンター症候群の治療のためのイズロン酸スルファターゼ;サンフィリッポ症候群A(MPS IIIA)の治療のためのヘパリンスルファミダーゼ;サンフィリッポ症候群B(MPS IIIB)の治療のためのN−アセチルグルコサミニダーゼ;サンフィリッポ症候群C(MPS IIIC)の治療のためのアセチルCoA:α−グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ;サンフィリッポ症候群D(MPS IIID)の治療のためのN−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼ;モルキオ症候群Aの処置のためのガラクトース−6−硫酸スルファターゼ;モルキオ症候群Bの治療のためのβガラクトシダーゼ;マロトー・ラミー症候群の治療のためのN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ;ファブリー病の治療のためのα−ガラクトシダーゼ;ゴーシェ病の治療のためのグルコセレブロシダーゼ;またはグリコーゲン蓄積疾患(たとえば、ポンペ病)の治療のためのリソソーム酸性α−グルコシダーゼ。
【0305】
関心対象の他の例示的な核酸分子は、これらに限定されないが、以下をコード化する任意のものを含む:メタロエンドペプリダーゼ、たとえば酵素ネプリライシン分解アミロイドβ、インシュリン分解酵素インシュリシン、またはthimetオリゴペプチダーゼなどのアルツハイマー病の処置のためのタンパク質;ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染などのウイルス感染症を治療するための抗レトロウイルス剤として作用することができるタンパク質またはペプチド、たとえば、エンフビルチド(Fuzeon(登録商標));これらに限定されるものではないが、インシュリン増殖因子−1(IGF−1)、カルビンジンD28、パルブアルブミン、HIFlアルファ、SIRT−2、VEGF、SMN−1、SMN−2、GDNFまたは毛様体神経栄養因子(CNF)等の、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置のためのタンパク質;これらに限定されるものではないが、第VIII因子または第IX因子等の、血友病を有する対象に欠損しているタンパク質;フューリン切断可能なインシュリン遺伝子等のI型糖尿病の処置のためのタンパク質;低密度リポタンパク質受容体(LDLR)などの家族性高コレステロール血症の処置のためのタンパク質;リポタンパク質リパーゼ(LPL)のようなリポタンパク質リパーゼ欠損症(LPLD)の処置のためのタンパク質;AATのようなα−1アンチトリプシン(AAT)欠乏症の治療のためのタンパク質;肝ビリルビンUDP−グルクロニルトランスフェラーゼまたはその機能的変異体、たとえば、UGTlAl(Gong et al.(2001)Pharmacogentics,11:357−68)などのクリグラーナジャール症候群タイプIまたはタイプIIの治療のためのタンパク質;グルコース−6−ホスファターゼなどのグリコーゲン貯蔵欠損症タイプ1Aの処置のためのタンパク質;ホスホエノールピルビン酸−カルボキシキナーゼなどのPepck欠損症の治療のためのタンパク質;ガラクトース1リン酸ウリジルトランスフェラーゼなどのガラクトース血症に関するタンパク質;フェニルアラニンヒドロキシラーゼなどのフェニルケトン尿症に関するタンパク質、分岐鎖α−ケト酸デヒドロゲナーゼなどのメープルシロップ尿症に関するタンパク質;フマリルアセト酢酸加水分解酵素などのチロシン血症1型に関するタンパク質; メチルマロニルCoAムターゼなどのメチルマロン酸血症に関するタンパク質;オルニチントランスカルバミラーゼなどのオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症に関するタンパク質;アルギニノコハク酸合成酵素などのシトルリン血症に関するタンパク質;アデノシンデアミナーゼなどの重症複合免疫不全疾患に関するタンパク質;ヒポキサンチン(hyposanthine)グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼなどの痛風およびレッシュナイハン症候群に関するタンパク質;ビオチニダーゼなどのビオチニダーゼ欠損症に関するタンパク質;ベータグルコセレブロシダーゼなどのゴーシェ病に関するタンパク質;β−
グルクロニダーゼ(
glucuronidase)などのスライ症候群に関するタンパク質;ペルオキシソーム膜タンパク質70kDaなどのゼルウィガー症候群に関するタンパク質;ポルホビリノゲンデアミナーゼ(PBDG)などの急性間欠性ポルフィリン症に関するタンパク質;アルファ1アンチトリプシンなどのアルファ1アンチトリプシン欠損症(肺気腫)に関するタンパク質、p53などの腫瘍抑制遺伝子などの癌に関するタンパク質;パーキンソン病の処置のためのタンパク質コード化グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD);またはリソソームスルファミダーゼ、およびα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(NaGlu)などの、リソソーム蓄積症、特にサンフィリポ症候群(ムコ多糖症タイプIII、MPS IIIとも呼ばれる)において欠損しているタンパク質。
【0306】
関心対象の他の例示的な核酸分子は、癌の処置のためのタンパク質をコード化する任意のものを含むが、これらに限定されない。たとえば、癌は固形腫瘍を含み、これらに限定されないが、乳癌、黒色腫、頭頸部癌、結腸癌、腎臓癌および肉腫を含む。このような癌は、血管新生を阻害する任意の分子で処置することができる。したがって、核酸分子は、血管新生を阻害するタンパク質をコード化することができ、これには、限定されるものではないが、エンドスタチン、アンジオスタチン、バスキュロスタチン、トロンボスポンジン−1、メタロプロテアーゼの組織阻害剤(TIMP)、可溶性血管内皮増殖因子(VEGF)受容体およびバソスタチン(カルレティキュリンフラグメント)が含まれる。そのような抗血管新生剤はまた、眼疾患などの他の血管新生疾患または状態の治療に使用することができる。
【0307】
あるいは、治療用核酸は、たとえば、アンチセンスメッセージもしくはリボザイム、スプライシングもしくは3’プロセシング(たとえば、ポリアデニル化)に影響を与えるタンパク質、または細胞内の他の遺伝子の発現レベルに影響を与えるタンパク質をコードすることにより、たとえば、mRNA蓄積の変化した割合、mRNA輸送の変更、および/または転写後調節の変化を調節することにより、RNAのレベルでその効果を発揮することができる。これらは、RNAiおよび他の二本鎖RNA、アンチセンスおよびリボザイムなどのRNAを含み、他の機能の中で、構造タンパク質、転写因子、ポリメラーゼ、細胞傷害性タンパク質をコード化する遺伝子、ヌクレアーゼ(たとえば、RNアーゼA)またはプロテアーゼ(たとえば、トリプシン、パパイン、プロテイナーゼKおよびカルボキシペプチダーゼ)の操作された細胞質の変異体をコード化する遺伝子などの、増殖に必須のタンパク質をコード化するmRNAに向けられ得る。
【0308】
たとえば、核酸分子は、遺伝子の転写または翻訳の阻害剤などの、遺伝子または遺伝子産物の核酸ベースの阻害剤であることができる。送達される薬剤は、低分子干渉RNA(siRNA)シーケンス、アンチセンスシーケンスまたはマイクロRNA(miRNA)シーケンスであり得る。RNAは、19〜25または21〜25ヌクレオチド長などの10〜30ヌクレオチド長であることができる。遺伝子の発現産物が、5’非翻訳(UT)領域、ORF、または3’UT領域を含む、(たとえば、少なくとも19〜25ヌクレオチド長のセグメントに)ターゲット遺伝子転写産物のヌクレオチドセグメントに相補的である特定の二重鎖由来のsiRNAヌクレオチドシーケンスによってターゲット化されるsiRNA媒介遺伝子サイレンシング法は、当技術分野で知られている(たとえば、PCT国際公開WO00/44895号、WO01/75164号、WO01/92513号またはWO01/29058号を参照)。siRNAシーケンスは、一般的には、正確な相補性でターゲットmRNA内の固有のシーケンスに特異的に結合し、ターゲットmRNA分子の分解をもたらす。siRNAシーケンスは、mRNA分子内の任意の場所に結合することができる。siRNAによってターゲットとされたシーケンスは、目的のポリペプチド、またはそのような遺伝子の上流もしくは下流の調節因子を発現する遺伝子を含む。遺伝子の上流または下流の調節因子の例には、遺伝子プロモーター、目的のポリペプチドと相互作用するキナーゼまたはホスファターゼ、ならびに目的のポリペプチドに影響を与えることができる調節経路に関与するポリペプチドに結合する転写因子を含む。miRNAシーケンスは、一般的には、正確なまたはやや正確な相補性でターゲットmRNA内の固有のシーケンスに特異的に結合し、ターゲットmRNA分子の翻訳抑制をもたらす。miRNAシーケンスは、mRNAシーケンス内のどこにでも結合できるが、大略的には、mRNA分子の3’非翻訳領域内に結合する。
【0309】
ヌクレオチドsiRNAまたはmiRNAシーケンス(たとえば、21〜25ヌクレオチド長)は、たとえば、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)シーケンス、より長い(たとえば、60〜80ヌクレオチド)前駆体シーケンス、の転写によって発現ベクターから製造することができ、これは、その後、siRNAまたはmiRNAシーケンスの何れかを生成するための細胞RNAi機構によって処理される。あるいは、ヌクレオチドsiRNAまたはmiRNAシーケンス(たとえば、21〜25ヌクレオチド長)は、たとえば、化学的に合成することができる。siRNAまたはmiRNAのシーケンスの化学合成は、Dharmacon(コロラド州ラファイエット)、キアゲン(カリフォルニア州バレンシア)、およびアンビオン(テキサス州オースティン)などの企業から市販されている。siRNAまたはmiRNAの分子を送達する方法は当技術分野で知られている。たとえば、OhおよびPark,Adv.Drug.Deliv.Rev.61(10):850−62(2009);GondiおよびRao,J.Cell Physiol.220(2):285−91 (2009);およびWhitehead et al,Nat.Rev.Drug.Discov.8(2):129−38(2009)を参照。
【0310】
たとえば、核酸分子は、アンチセンス核酸シーケンスであり得る。ハイブリダイゼーション相互作用により、アンチセンス核酸は、細胞または病原体mRNAの発現をブロックする。アンチセンス核酸分子は、たとえば、ターゲットmRNAおよび/またはターゲットをコード化する内因性遺伝子の少なくとも固有部分に相補的であるRNAを産生するために発現ベクターから転写することができる。特定の細胞状態下でのアンチセンス核酸のハイブリダイゼーションにより、転写および/または翻訳を阻害することによってターゲットタンパク質発現の阻害が生じる。アンチセンス核酸の例としては、これらに限定されないが、以下のIsis Pharmaceuticals製品が含まれる:高コレステロール用Mipomersen;冠動脈疾患、炎症、および腎疾患用ISIS−CRP
Rx;高トリグリセリド用ISIS−APOCIII
Rx;凝固障害用ISIS−FXI
Rx;冠動脈疾患用BMS−PCSK9
Rx;2型糖尿病用ISIS−SGLT2
Rx、ISIS−PTP1B
Rx、ISIS−GCGR
Rx、およびISIS−GCCR
Rx;肥満用ISIS−FGFR4
Rx;癌用OGX−011f、LY2181308、ISIS−EIF4E
Rx、OGX−427、ISIS−STAT3
Rx;ALS用ISIS−SOD1
Rx;TTRアミロイドーシス用ISIS−TTR
Rx;脊髄性筋萎縮症用ISIS−SMN
Rx;CMV網膜炎用Vitravene;潰瘍性大腸炎用Alicaforsen;重症細菌感染症用ACHN−490;多発性硬化症用ATL1102;ローカル線維症用EXC001;眼疾患用iCo−007;および先端巨大症のためATL1103。本明細書で教示される方法を用いて投与することができるマイクロRNAの例としては、これらに限定されないが、以下のSantarisPharma製品が含まれる:C型肝炎用Miravirsen;固形腫瘍用EZN−2968;癌用EZN−3042;アンドロゲン受容体用EZN−4176;高コレステロール用SPC4955およびSPC5001。さらなる治療用マイクロRNAは、癌治療のための以下のMirnaTherapeuticsの製品を含む;let−7、miR−34、miR−Rx02、miR−16、miR−Rx−01、miR−Rx−03、miR−Rx−06、およびmiR−Rx−07。
【0311】
他の例において、核酸分子は、欠陥のある細胞RNAを修復するために、または望ましくない細胞性または病原体コード化されたRNAを破壊するために設計されたリボザイム(たとえば、ハンマーヘッドまたはヘアピンベースリボザイム)とすることができる(たとえば、Sullenger(1995)Chem.Biol.,2:249−253;Czubayko et al.(1997)Gene Therapy,4:943−9;Rossi(1997)Ciba Found.Symp.,209:195−204;JamesおよびGibson(1998)Blood,91:371−82; Sullenger(1996)Cytokines Mol.Ther.,2:201−5;Hampel(1998)Prog.Nucleic Acid Res.Mol.Biol.,58:1−39;またはCurcio et al.(1997)Pharmacol Therapy,74:317−32を参照)。
【0312】
2.核酸分子を収容する媒体および構成物
核酸分子は、ベクター、構成物または他の送達媒体中に提供することができる。そのようなものの例は、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、ナノ粒子または細胞全体である。送達のためのそのような構成物または媒体を生成する方法は、当業者に周知である。たとえば、核酸分子は、当業者に周知の標準的な方法を用いて、非ウイルスまたはウイルスベクターに挿入することができる。いくつかの例では、ルーチンの分子生物学および組換えDNA技術が使用可能である(たとえば、Ausubel et al,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York,N.Y.,1998,Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)を参照)。他の例では、任意の適切な調節シーケンスまたはシーケンスの制御下にあるように、核酸分子を挿入することができる。他の例において、核酸分子は、プロモーターまたはエンハンサーなどの調節エレメントを含む発現カセットの一部として挿入されている。適切な調節エレメントは、たとえば、発現の所望のレベルに基づいて、当業者によって選択することができる。特定の例において、調節エレメントは、組織特異的細胞への遺伝子の発現を制限するために、肝臓特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターを含むように選択することができる。
【0313】
a.ウイルスおよびウイルスベクター
ウイルスは、送達薬剤として区分化された核酸の送達方法で送達薬剤として用いることができ、それにより外因性核酸シーケンスがウイルスベクターに挿入される。ウイルスは、それらが宿主細胞へのウイルスDNAの転写に効率的であり、それらが感染してウイルス付着タンパク質(たとえば、カプシドまたは糖タンパク質)に応じて特定のターゲット細胞によって取込まれ得、それらは非必須遺伝子を除去し、異種核酸分子を加えるために操作可能であるため、インビボで核酸分子を送達するのに有用である。多くのウイルスベクターが当業者に知られている。本明細書の方法で使用することができるウイルスの例としては、これらに限定されないが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、バキュロウイルス、ヘパドナウイルス(hepadenavirus)、バキュロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、およびパルボウイルス(parovirus)がある。特定の例において、ウイルスはアデノウイルスである。ウイルスの選択は、当業者の技量内の事項であり、ウイルスDNAの複製または組み込みの要求、ウイルスの向性、および/またはウイルスの免疫原性などの多数の要因に依存する。このようなウイルスおよびその誘導体は、よく知られており、当業者に利用可能である。たとえば、多くはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(メリーランド州ロックビルのATCC)から、または販売業者(たとえば、ペンシルバニア州フィラデルフィアのVector Biolabs、カナダ、ブリティッシュコロンビア州リッチモンドのApplied Biological Materials)から入手可能である。
【0314】
組み換えウイルス産生に使用するウイルスベクターは、複製コンピテントウイルスおよび複製欠損ウイルスを含む。複製欠損ウイルスにおいて、ウイルスは、一般的にウイルス複製に関連する1個以上の遺伝子を欠き、感染の第一サイクル以降、複製できない。いくつかの例において、複製欠損ウイルスを産生するために、トランスファーベクター、パッケージングベクターまたはヘルパーウイルスが必要である。たとえば、パッケージングベクターはコスミドとしてまたは欠損ベクターのパッケージングのためのウイルス構造タンパク質を提供する細胞株に提供され得る。
【0315】
ウイルスベクターはまた選択した導入遺伝子に操作可能に結合する調節エレメント、たとえばプロモーターおよびエンハンサーを含む発現カセットも含み得る。上記のとおり、あらゆる適切なプロモーターを使用できる。適切なプロモーターおよびエンハンサーは、選択したウイルスベクターにおいて使用するために、当分野で広範に利用可能である。一般的に、プロモーターは構成的プロモーターである。プロモーターの例は、これらに限定されないが、CMVプロモーター、切断型CMVプロモーター、ヒト血清アルブミンプロモーターまたはα−1−アンチトリプシンプロモーターを含む。たとえば、プロモーターは、既知転写リプレッサーへの結合部位が欠失している、切断型CMVプロモーターである。他の例において、プロモーターは、誘発性プロモーターである。たとえば、プロモーターは、誘発性エクジソンプロモーターである。他のプロモーターの例は、ステロイドプロモーター、たとえばエストロゲンおよびアンドロゲンプロモーターおよびメタロチオネインプロモーターを含む。エンハンサーは組織特異的または非特異的エンハンサーであり得る。たとえば、エンハンサーは肝臓特異的エンハンサーエレメントである。エンハンサーエレメントの例は、これらに限定されないが、ヒト血清アルブミン(HAS)エンハンサー、ヒトプロトロンビン(HPrT)エンハンサー、α−1−マイクログロブリンエンハンサー、イントロンアルドラーゼエンハンサーおよびアポリポタンパク質E肝臓制御領域を含む。
【0316】
i.アデノウイルス
アデノウイルスは、関心対象の核酸分子を含む送達薬剤として使用できるウイルスベクターである。アデノウイルスは、約36kbのゲノムを有する核DNAウイルスであり、古典的遺伝学および分子生物学を通して十分特徴づけされている(Horwitz,M.S.,“Adenoviridae and Their Replication,”in Virology,2nd edition,Fields,B.N., et al.,eds.,Raven Press,New York,1990)。ゲノムは、2種のウイルスタンパク質の一過性産生に照らして、早期(E1〜E4として知られる)および後期(L1〜L5として知られる)転写単位に分類される。これらの事象の分界はウイルスDNA複製である。
【0317】
アデノウイルスは、呼吸器および消化管の上皮細胞に天然指向性を有する。アデノウイルスはまた肝細胞、たとえば肝細胞および内皮細胞に感染でき、これは、全身投与後に肝臓へのウイルスのクリアランス後に起こり得る。特に、本発明方法において、実質組織への直接注射は、肝細胞による選択的肝細胞取込を促進する。ウイルス表面上のペントンベースおよび繊維タンパク質がウイルス指向性を生じる。アデノウイルス粒子と宿主細胞との間の複数相互作用が、効率的細胞侵入のために必要である(Nemerow(2000)Virology 274:1−4)。サブグループCアデノウイルス、たとえばアデノウイルス2および5(Ad2またはAd5)について、ウイルス侵入経路は十分特徴づけされており、2個の異なる細胞表面事象を含むと考えられる。第一に、アデノウイルス繊維ノブとコクサッキー−アデノウイルス受容体(CAR)との間の高親和性相互作用が細胞表面へのアデノウイルス粒子付着を仲介する。続くペントンと、共受容体として作用する細胞表面インテグリン類α
vβ
3およびα
vβ
5の結合が、ウイルス内部移行を増進する。肺上皮細胞を含む多くのヒト組織で発現されるCAR(Bergelson et al.,(1997)Science 275:1320−1323)は、サブグループB以外のほとんどのアデノウイルスサブグループで細胞受容体として機能しているようである(Bergelson et al.,(1997)Science 275:1320−1323;Roelvink et al.,(1998)J.Virol.72:7909−7915)。
【0318】
アデノウイルスは50を超える血清型を含み、これはA〜Fの6個のサブグループに分割される。アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(メリーランド州ロックビルのATCC)および営利および非営利提供者から入手可能なこれらのアデノウイルス血清型の何れも本発明方法において使用でき、または、当分野で知られるとおりさらなる修飾源として使用できる。また、任意の他の供給元から入手可能な任意の他の血清型のアデノウイルスを使用できまたはさらに修飾できる。たとえば、アデノウイルスは、サブグループA(たとえば、血清型12、18、31)、サブグループB(たとえば、血清型3、7、11a、11p、14、16、21、34、35、50)、サブグループC(たとえば、血清型1、2、5、6)、サブグループD(たとえば、血清型8、9、10、13、15、17、19、19p、20、22〜30、32、33、36〜39、42〜49、51)、サブグループE(たとえば、血清型4)、サブグループF(たとえば、血清型40、41)または任意の他のアデノウイルス血清型のものであり得る。ある実施形態において、アデノウイルスはサブグループCアデノウイルスであるかまたはサブグループCアデノウイルスに由来する。サブグループCアデノウイルスは、これらに限定されないが、Ad2およびAd5を含む。
【0319】
アデノウイルスベクターは当分野で入手可能であり(たとえば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(メリーランド州ロックビルのATCC)から入手可能)、多くの異なるアデノウイルス血清型からの野生型アデノウイルスタンパク質のシーケンスは当分野で知られる(たとえばRoberts et al.(1984)J. Biol.Chem.,259:13968−13975;Chroboczek et al.(1992)Virology,186:280−285;Sprengel et al.(1994)J.Virol.,68:379−389;Chillon et al.(1999)J.Virol.,73:2537−2540;Davison et al.(1993)J.Mol.Biol.,234:1308−1316;www.binf.gmu.edu/wiki/index.php/Human_Adenovirus_Genome_Sequences_and_Annotations)。アデノウイルスベクターは、たとえば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)または他の営利または非営利提供者から当業者が広く利用できる。ATCCから、アデノウイルスはATCC番号VR−1〜VR−1616として入手可能である。たとえば、野生型アデノウイルス2型は、ATCCからVR−846として入手可能であり、5型はVR−5およびVR−1082として入手可能である。当分野でここに記載したとおり、または当業者に知られる任意の適切な方法により、上記の血清型の何れかに由来する多くの組み換えまたは修飾アデノウイルスを産生できる。
【0320】
アデノウイルスベクターは遺伝子送達媒体として使用する上でいくつかの利点を有しており、その利点には分裂および非分裂細胞の両者への指向、最小病原性、ベクターストックを製造する上での高力価複製能力および大挿入物を運搬する能力が含まれる (たとえばBerkner(1992)Curr.Top.Micro.Immunol.,158:39−66;Jolly et al.(1994)Cancer Gene Therapy,1:51−64参照)。
【0321】
たとえば、アデノウイルスベクターは、第一早期遺伝子領域(E1〜E4)に少なくとも1個の欠失を含む欠損アデノウイルスベクターを含む。アデノウイルスベクターの修飾は、当分野で知られる欠失、たとえばE1、E2a、E2b、E3またはE4コード領域の1個以上の欠失を含む。たとえば、遺伝子治療のためのアデノウイルスベクターは、E1、E2a、E2b、E3および/またはE4遺伝子の場所への異種核酸分子の置換により製造できる。欠失は、制限エンドヌクレアーゼ群を使用して実施できる。たとえば、E1a領域は、E1a領域内の都合よい制限エンドヌクレアーゼ部位を使用して欠失できる。しばしば、E3の部分はまた、新ウイルス粒子にパッケージングするために必要なサイズ制限をなお充足しながら、大きな異質DNA片の挿入を可能とするために、制限エンドヌクレアーゼ付加により欠失する。これらの領域の欠失のため、アデノウイルスベクターのクローニングキャパシティは約8kbであり得る。このようなアデノウイルスベクターは、第一ウイルス早期遺伝子領域、たとえばE1aおよびE1b領域を含むE1における少なくとも1個の欠失のために、一般的に複製欠損アデノウイルスと呼ばれる。
【0322】
ウイルスE1領域などの早期遺伝子の欠失は、組み換えアデノウイルスを複製欠損とし、その後に感染したターゲット細胞における感染性ウイルス粒子の産生を不可能にする。それゆえに、早期遺伝子欠失アデノウイルスゲノムを複製させ、たとえばE1欠失アデノウイルスゲノムを複製させ、ウイルス粒子を産生することを可能にするために、不在遺伝子産物を提供する補完システムが必要である。たとえば、E1補完は、一般的にE1を発現する細胞株、たとえばヒト胚腎臓パッケージング細胞株、すなわち293と呼ばれる上皮性細胞株(ATCCにアクセッション番号CRL−1573として寄託)により提供される。細胞株293は、細胞株におけるE1欠失ウイルスの増殖を“補助”するためのE1遺伝子領域産物を提供する、アデノウイルスのE1領域を含む(たとえば、Graham et al.,J.Gen.Virol.36:59−71,1977参照)。さらに、アデノウイルスE4領域の部分を有する欠損アデノウイルスの産生に有用な細胞株が報告されている(たとえば、国際公開WO96/22378号参照)。E3もベクターから欠失させ得るが、ベクター産生に必要ではないため、補完産生細胞から除いてもよい。
【0323】
ベクターとして複製欠損ウイルスを使用する利点は、最初に感染した細胞で複製できるが、新感染性ウイルス粒子を産生できないため、他の細胞型に拡散できる範囲が制限されていることである。複数欠損アデノウイルスベクターおよび補完細胞株も記載されている(たとえばPCT国際公開WO95/34671号、米国特許第5,994,106号参照)。複製欠損アデノウイルスの構築は記載されている(Berkner et al.,J.Virol.61:1213−20(1987);Massie et al.,Mol.Cell.Biol.6:2872−83(1986);Haj−Ahmad et al.,J.Virol.57:267−74(1986);Davidson et al.,J.Virol.61:1226−39(1987);Zhang et al.,BioTechniques 15:868−72(1993);Berkner(1983)Nuc.Acids Res.11:6003;Ghosh−Choudhury(1987)Biochem.Biophys.Res.Commun.,147:964;Gilardi et al.(1990)FEBS 267:60;Mittal(1993)Virus Res.28:67;Yang(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:4601;およびPCT国際公開WO1995/026411号参照)。
【0324】
アデノウイルスベクターはまたベクター増殖に必要なITRおよびΨ以外の全ウイルス遺伝子が除去された“ガットレス”または“ヘルパー依存性型(gutted)”ベクターも含む。このようなアデノウイルスベクターは、ベクターゲノムの複製およびパッケージングに必要な最小シス作用性ヌクレオチドシーケンスを含むアデノウイルスのゲノムに由来するため、シュードアデノウイルスベクター(PAV)と呼ばれる。PAVベクターは、PAVゲノムのパッケージングに必要な複製起点およびシス作用性ヌクレオチドシーケンスを含む5’末端逆位シーケンス(ITR)および3’ITRヌクレオチドシーケンスを含む。これらは、適当な調節エレメント(たとえばプロモーターまたはエンハンサー)と共に1個以上の導入遺伝子を含むように修飾できる。PAVは、ほとんどのウイルスコーディングシーケンスに欠失を含むため、8kbサイズよりはるかに多い運搬能を有し、最大36kbサイズである(たとえば米国特許第5,882,887号または第5,670,488号;PCT国際公開WO96/40955号、WO97/25466号、WO95/29993号、WO97/00326号;Morral et al.(1998)Hum.Gene Ther.,10:2709−2716,Kochanek et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.,93:5731−5736;Parks et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.,93:13565−13570;Lieber et al.(1996)J.Virol.,70:8944−8960またはFisher et al.(1996)J.Virol.,217:11−22参照)。
【0325】
PAVは、“ヘルパー”ウイルスを有する産生細胞の同時感染により増殖し(たとえばE1欠失アデノウイルスベクターを使用)、そこで、パッケージング細胞はE1遺伝子産物を発現する。ヘルパーウイルスは、粒子集合に必要なウイルス構造タンパク質の産生を含む、不在アデノウイルス機能をトランス補完する。たとえば、ヘルパーアデノウイルスベクターゲノムおよびガットレスアデノウイルスベクターゲノムをパッケージング細胞に送達する。本細胞は、標準細胞維持または増殖条件下に置かれ、これによりヘルパーベクターゲノムおよびパッケージング細胞は、一体となって、アデノウイルスベクター粒子のパッケージングのための補完タンパク質を提供する。このようなガットレスアデノウイルスベクター粒子を標準手法で回収できる。ヘルパーベクターゲノムは標準トランスフェクション手法によりプラスミドまたは類似構成物の形態で送達してよくまたはゲノムを含むウイルス粒子による感染を介して送達してよい。このようなウイルス粒子は一般にヘルパーウイルスと呼ばれる。同様に、ガットレスアデノウイルスベクターゲノムをトランスフェクションまたはウイルス感染により細胞に送達できる。
【0326】
アデノウイルスはまた、異種プロモーターの制御下の複製に必須のアデノウイルス遺伝子の配置の結果として、あるタイプの細胞または組織で複製するが、他のタイプではしないウイルスである、複製条件付きアデノウイルスも含む(上記;また米国特許第5,998,205号、米国特許第5,801,029号および米国特許公開第2003−0104625号として公開され、PCT国際公開WO2002/067861号に対応する米国特許出願第10/081,969号参照)。
【0327】
アデノウイルスはまたたとえば、ウイルスの指向性を変えるために、ターゲティングリガンドに対する受容体(タンパク質、脂質、炭水化物またはそれらの部分)を発現する特異的ターゲット細胞の感染を高めるために、ターゲティングリガンドを含むように修飾されているものを含む。アデノウイルスベクターおよびその他は治療的適用に多くの可能性を秘めるが、特異的細胞型へのアデノウイルスベクターの送達を制限するCARの広範組織分布のために、その有用性は限られている。さらに、インビボでのある種の細胞上のCARおよび/またはα
vインテグリン受容体の不在はアデノウイルスベクターによりターゲット化され得る細胞または組織のタイプを制限する。それゆえに、アデノウイルスはまた所望の細胞受容体または組織特異的受容体に対するターゲットリガンドを包含させるために天然受容体への結合を減少するかまたは無くすおよび/またはカプシドタンパク質、たとえばHIループ、繊維のC末端、ヘキソンのL1ループまたはペントンベースのRGDループまたはカプシドタンパク質IXの設計により修飾されているものを含む(たとえばKrasnykh et al.(2000)Mol.Ther.,1:391−405;Wickham et al.(2000)Gene Ther.,7:110−4;Dmitriev et al.(1998)J.Virol.,72:9706−12;Mizuguchi et al.(2004)Hum.Gene Ther.,15:1034−44;Wickham et al.(1997)J.Virol.,71:8221−9;Curiel(1999)Ann NY Acad.Sci.,886:158−71参照)。カプシドタンパク質は、たとえば、ターゲットリガンドの付加または繊維の他のタイプのアデノウイルス繊維での置換により修飾され得る。ターゲットリガンドは、細胞内または細胞上の部分、たとえば細胞表面タンパク質、脂質、炭水化物または他の部分と結合するあらゆるタンパク質またはその部分であり得る。たとえば、ターゲットリガンドは、増殖因子、接着分子、サイトカイン、タンパク質ホルモン、神経ペプチド(神経伝達物質)および一本鎖抗体または適切なその部分を含むが、これらに限定されない。他の例において、アデノウイルスベクターはアダプター分子、たとえばターゲティングリガンドを伴う抗Ad一本鎖抗体(scFv)を含む抗体および融合タンパク質またはCARの細胞外ドメインと複合化してよくまたはターゲティングリガンドを含むポリマー、たとえばポリエチレングリコール(PEG)部分で化学的修飾される(たとえばMizuguchi et al.(2004)Hum.Gene Ther.,15:1034−44;Eto et al.(2008)Int.J.Pharm.,354:3−8参照)。
【0328】
任意の上記アデノウイルスまたは任意の当分野で知られたものをここでの送達薬剤として使用するために所望の異種核酸分子を含むように修飾できる。所望の異種核酸シーケンスを含むアデノウイルスを、当業者に知られた任意の技法により製造できる(Levrero et al.,Gene 101(1991)195,欧州特許第185,573号;Graham,EMBO J.3(1984)2917;PCT国際公開WO95/26411号)。特に、このようなウイルスは、アデノウイルスベクターおよび異種DNAシーケンスを運搬するプラスミド間の相同組換えにより製造できる。相同組換えは、適当な細胞株へのアデノウイルスベクターおよびプラスミドの同時導入後に起こりうる。使用する細胞株は、大略的に形質転換性のものである。トランスフェクションは、アデノウイルス粒子の産生株細胞への侵入を支持する試薬の存在下で実施できる。このような試薬は、これらに限定されないが、ポリカチオン類および二機能性試薬を含む。ある例においては、アデノウイルスが欠損アデノウイルスであるならば(早期遺伝子または繊維タンパク質欠失による)、細胞株は、また組換えのリスクを避けるために、欠損アデノウイルスゲノム部分を補完できるシーケンスを、たとえば組込型で含む。補完細胞株の例は、これに限定されないが、Ad5アデノウイルスのゲノムの左手部分を含むヒト胚腎臓株293(Graham et al.,J.Gen.Virol.36(1977)59)を含む。補完細胞はまた、たとえば、アデノウイルスE1遺伝子を含むPER.C6細胞株の細胞(PER.C6は、たとえば、オランダのCrucellから入手可能;ECACCアクセッション番号96022940で寄託;またFallaux et al.(1998)Hum.Gene Ther.9:1909−1907も参照;また、米国特許第5,994,128号も参照)またはAE1−2a細胞(Gorziglia et al.(1996)J.Virology 70:4173−4178;およびVon Seggern et al.(1998)J.Gen.Virol.79:1461−1468)参照)を含む。次いで、増幅したアデノウイルスを慣用の分子生物学的手法により回収し、精製する。
【0329】
遺伝子治療におけるアデノウイルスの使用を説明する参考文献は、これらに限定されないが、VorburgerおよびHunt(2002)The Oncologist,7:46−59;Breyer et al.(2001)Current Gene Therapy,1:149−162;Shirakawa(2009)Drugs News Perspectives,22:140−5;Wang et al.(2005)Gene Therapy and Mol.Biology,9:291−300;およびSheridan(2011)Nature Biotechnology,29:121を含む。
【0330】
ii.アデノ随伴ウイルス(AAV)
送達薬剤として使用するウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)を含む。AAVは一本鎖ヒトDNAパルボウイルスであり、そのゲノムのサイズは4.6kbである。AAVゲノムはrep遺伝子およびcap遺伝子の2個の主要な遺伝子を含む。rep遺伝子はrepタンパク質をコードする(Rep76、Rep68、Rep52およびRep40)。cap遺伝子はAAV複製、レスキュー、転写および組込みをコードし、一方、capタンパク質はAAVウイルス粒子を形成する。AAVは、AAVが増殖性感染(すなわち宿主細胞でそれ自体の複製)をすることを可能にする必須遺伝子産物の供給を、アデノウイルスまたは他のヘルパーウイルス(たとえばヘルペスウイルス)に依存することに由来して名づけられている。ヘルパーウイルス非存在下で、AAVは、ヘルパーウイルス、通常はアデノウイルスで宿主細胞の重感染によりレスキューされるまで、プロウイルスとして宿主細胞の染色体に統合される(Muzyczka(1992)Curr.Top.Micro.Immunol.,158:97−129)。
【0331】
AAVウイルスは細胞ゲノムに統合され得る。組込み機構は、ウイルス複製、レスキュー、パッケージングおよび組込みに必要なシス作用性ヌクレオチドシーケンスを含むAAVゲノムの両端の末端逆位シーケンス(ITR)の存在が仲介する。トランスでrepタンパク質が仲介するITRの組込み機能は、AAVゲノムがヘルパーウイルス非存在下で感染後に細胞染色体に統合されることを可能にする。AAVのための組込み部位は十分確立されており、ヒトの染色体19に局在化している(Kotin et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.,87:2211−2215)。組込み部位の知識により、宿主遺伝子を活性化または不活化し得るまたはコーディングシーケンスを中断し得る、細胞ゲノムへの無作為挿入事象の危険性が減る。AAVはまたその宿主範囲が広く、多くの細胞型への指向性を示すため、遺伝子治療適用にも有用である。AAVはまた非分裂細胞および分裂細胞の両者に感染できる。
【0332】
AAVベクターは、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、AAV−8またはAAV−9を含む任意の天然に存在するAAV血清型に由来し得る。このようなウイルスは周知であり、当業者が利用可能である(たとえばGrimm et al.(2003)Current Gene Therapy,3:281−304;Muramatsu et al.(1996)Virol.,221:208−217;Chiorini et al.(1997)J.Virol.,71:6823−6833;Chiorini(1999)J.Virol.,73:1309−1319; Rutledge et al.(1998)J.Virol,72:309−319;Xiao et al.(1999)J.Virol.,73:3994−4003;Gao et al.(2002)Proc Natl.Acad.Sci.,99:11854−11859;Kotin(1994)Human Gene Therapy,5:793−801参照)。他の血清型も知られ、入手可能であり、AAV−8〜AAV−12を含む。たとえば、多くのAAVベクターがアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(メリーランド州ロックビルのATCC;たとえばVR−197、VR−645、VR−646、VR−680、VR−681、VR−1449、VR−1523、VR−1616参照)から入手可能である。また利用可能なものは適合性宿主細胞およびヘルパーウイルスである。AAVベクターはまた“偽型”AAVベクターを含み、ここでは、AAV−2ベクターゲノムが他のAAV血清型のカプシド内にクロスパッケージされている(Burger et al.(2004)Mol.Ther.,10:302−17;米国特許第7,094,604号)。このような偽型AAVベクターはAAV−2由来血清型の制限、たとえばある細胞、たとえば肝臓または筋肉細胞への形質導入における非効率を克服する。
【0333】
多くのAAVベクターが、全身発現を達成する送達方法によって、多数組織、たとえば骨格筋および心筋などの広範な形質導入を示す。これらは、たとえば、AAV血清型−6、−8および−9を含む。特に、AAVベクターは、アデノウイルス関連血清型9を含む(AAV−9;ジェンバンクアクセッション番号AY530629.1;Gao et al.(2004)J.Virol.,78:6381−6388)。AAV−9は、中枢神経系(CNS)をターゲットとするために血液脳関門を迂回できるベクターである(たとえばFoust et al.,(2009)Nature Biotechnology,27:59−65;Duque et al.(2009)Mol.Ther.,17:1187−1196参照)。それゆえに、脳またはCNSに影響するまたは関連するここでの神経変性疾患または他の疾患の例において、AAV−9を、送達全身性のための関心対象のタンパク質をコード化する送達薬剤として使用できる(たとえば血中での発現のために肝臓またはその部分に送達)。
【0334】
AAVベクターは、関心対象の異種核酸を含む組み換えAAVベクターを含む。このようなベクターを産生する手技は当業者に知られる。たとえば、AAVベクター産生のための標準的手法は、AAV ITRシーケンスに挟まれた関心対象の核酸分子を含むAAVベクターゲノムでの宿主細胞のトランスフェクション、トランスで必要なAAV repおよびcapタンパク質の遺伝子をコード化するプラスミドによる宿主細胞のトランスフェクションおよび遺伝子導入された細胞のトランスで必要な非AAVヘルパー機能を提供するためのヘルパーウイルスでの感染を必要とする(Muzyczka(1992)Curr.Top.Micro.Immunol.,158:97−129;米国特許第5,139,941号)。ヘルパーウイルスはアデノウイルスまたは他のヘルパーウイルスであり得る。ヘルパーウイルスタンパク質がAAV rep遺伝子転写を活性化し、次いでrepタンパク質がAAV cap遺伝子転写を活性化する。次いで、capタンパク質はITRシーケンスを使用して、AAVゲノムをウイルス粒子にパッケージする。
【0335】
あるいは、AAVウイルス粒子の組換えは、複製機能源として使用できる周知ヘルパーウイルスの一つによる感染と組み合わせた、ヘルパー機能遺伝子を含むプラスミドの使用を助ける(たとえば米国特許第5,622,856号および第5,139,941号参照)。同様に、当業者は、必要な複製機能を提供するために、wt AAVの感染と組み合わせて、アクセサリー機能遺伝子を含むプラスミドを使用できる。三重トランスフェクション方法も、rAAVウイルス粒子の産生に使用でき、これは、ヘルパーウイルスを必要としない方法である(たとえば、米国特許第6,001,650号参照)。これは、rAAVウイルス粒子産生のためのAAVヘルパー機能ベクター、アクセサリー機能ベクターおよびrAAVベクターの3種のベクターの使用により達成される。
【0336】
遺伝子治療におけるAAVウイルスの使用を説明する参考文献は、これに限定されないが、Sheridan(2011)Nature Biotechnology 29:121を含む。
【0337】
iii.レトロウイルス
送達薬剤として使用するウイルスベクターはレトロウイルスベクターを含む(たとえば、Miller(1992)Nature,357:455−460参照)。レトロウイルスベクターは、再配列されていない、単一複製遺伝子を、広範な齧歯類、霊長類およびヒト体細胞に送達する能力により、核酸の細胞への送達によく適合する。レトロウイルスベクターは宿主細胞のゲノム内に統合される。他のウイルスベクターと異なり、これらは分裂細胞にのみ感染する。
【0338】
レトロウイルスはRNAウイルスであり、ウイルスゲノムがRNAである。宿主細胞がレトロウイルスに感染したとき、ゲノムRNAはDNA中間体に逆転写され、これが感染細胞の染色体DNAに極めて効率的に統合される。この統合されたDNA中間体はプロウイルスと呼ばれる。プロウイルスの転写および感染性ウイルスへの集合は、適当なヘルパーウイルス存在下または夾雑ヘルパーウイルスの同時産生を伴わず封入を可能にする適当なシーケンスを含む細胞株内で起こる。封入のためのシーケンスが適当なベクターとの同時導入により提供されるならば、ヘルパーウイルスは、組み換えレトロウイルスの産生のために必要ではない。
【0339】
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2個の末端反復(LTR)シーケンスに挟まれたgag、polおよびenvの3遺伝子を有する。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、カプシドおよびヌクレオカプシド)タンパク質をコード化し、env遺伝子はウイルス外被糖タンパク質をコード化する。pol遺伝子は、ウイルスRNAを二本鎖DNAに転写するRNA依存性DNAポリメラーゼ逆転写酵素、逆転写酵素により産生されたDNAを宿主染色体DNAに統合させるインテグラーゼおよびコード化されたgagおよびpol遺伝子のプロセシングに作用するプロテアーゼを含む、産物をコード化する。5’LTRおよび3’LTRは、ウイルス粒子RNAの転写およびポリアデニル化の促進に作用する。LTRは、ウイルス複製に必要な全ての他のシス作用性シーケンスを含む。
【0340】
レトロウイルスベクターは、Coffin et al.,Retorviruses,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1997)により記載されている。レトロウイルスの例は、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)またはマウス幹細胞ウイルス(MSCV)である。レトロウイルスベクターは複製コンピテントまたは複製欠損であり得る。一般的に、レトロウイルスベクターは、ウイルス粒子複製およびパッケージングのさらなるラウンドに必要な遺伝子のコード領域が欠失しているかまたは他の遺伝子により複製される複製欠損である。結果として、ウイルスは、最初のターゲット細胞が感染すると、その一般的溶解性経路を継続できない。このようなレトロウイルスベクターおよびこのようなウイルス(たとえばパッケージング細胞株)の産生に必要な材料は市販されている(たとえばClontechから入手可能なレトロウイルスベクターおよび系、たとえばカリフォルニア州マウンテンビューのClontechのカタログ番号634401、631503、631501およびその他を参照)。
【0341】
このようなレトロウイルスベクターは、複製に必要なウイルス遺伝子を送達する核酸分子で置き換えることにより、送達薬剤として産生できる。得られたゲノムは、各末端にLTRを含み、所望の1個または複数個の遺伝子をその間に有する。レトロウイルスを産生する方法は当業者に知られる(たとえばPCT国際公開WO1995/26411号参照)。レトロウイルスベクターは、ヘルパープラスミドまたはプラスミドを含むパッケージング細胞株に産生できる。パッケージング細胞株は、ベクターのカプシド産生およびウイルス粒子成熟に必要なウイルスタンパク質を提供する(たとえばgag、polおよびenv遺伝子)。一般的に、少なくとも2種のヘルパープラスミド(別々にgagおよびpol遺伝子;およびenv遺伝子を含む)を、ベクタープラスミド間の組換えが起こり得ないように、使用する。たとえば、レトロウイルスベクターは、トランスフェクションの標準的方法、たとえばリン酸カルシウム仲介トランスフェクションを使用して、パッケージング細胞株にトランスファーする。パッケージング細胞株は当業者に周知であり、一般に入手可能である。パッケージング細胞株の例は、GP2−293パッケージング細胞株(Clontechのカタログ番号631505、631507、631512)である。ウイルス粒子産生の十分な時間の後、ウイルスを回収する。所望により、回収したウイルスを、たとえば多様な宿主指向性を有するウイルスを産生するために、第二パッケージング細胞株の感染に使用できる。最終結果は、関心対象の核酸を含むが、新規ウイルスが宿主細胞内で形成され得ないように、他の構造遺伝子を欠く、複製無能組み換えレトロウイルスである。
【0342】
遺伝子治療におけるレトロウイルスベクターの使用を説明する参考文献は、Clowes et al.,(1994)J.Clin.Invest.93:644−651;Kiem et al.,(1994)Blood 83:1467−1473;SalmonsおよびGunzberg(1993)Human Gene Therapy 4:129−141;GrossmanおよびWilson(1993)Curr.Opin.in Genetics and Devel.3:110−114;Sheridan(2011)Nature Biotechnology,29:121;Cassani et al.(2009)Blood,114:3546−3556を含む。
iv.レンチウイルス
【0343】
レンチウイルスは、レトロウイルスのサブクラスである。レンチウイルスの例はHIV、SIVおよびFIVである。他のレトロウイルスと異なり、レンチウイルスは非分裂細胞のゲノムに統合できる。それゆえに、たとえば、レンチウイルスベクターは、一次肝細胞に効率的に遺伝子を送達することおよび永久に非分裂一次肝細胞のゲノムに統合することが報告されている(LewisおよびEmerman(1994)J.Virol.,68:510−6)。レンチウイルスベクターはまたMMLVレトロウイルスベクターと同じ転写サイレンシング機構を苦にしない。レンチウイルスは、核移入機構と相互作用し、ヌクレオポアを介するウイルス組込み前複合体の活性輸送を仲介する、いくつかのウイルス粒子タンパク質、たとえばマトリックスまたはVPR、に包含される核親和性決定基を有する点で、他のレトロウイルスと異なる。それゆえに、レンチウイルスの宿主細胞のゲノムへの組込みは細胞分裂に依存しない。
【0344】
他のレトロウイルスと同様、レンチウイルスはウイルスタンパク質をコードする主遺伝子であるgag、polおよびenv遺伝子を含む。さらに、また合成の調節、ウイルスRNAのプロセシングおよび他の複製機能に関与する他のアクセサリー遺伝子もある(たとえばHIVのTatおよびRev)。これらは、末端反復(LTR)シーケンスにより挟まれる。複製サイクルは、ウイルス糖タンパク質の宿主細胞受容体への結合、膜の融合およびウイルスの細胞への侵入により開始される。侵入によりウイルスは脱殻し、逆転写が起こり、組込み前複合体(PIC)の形成に至る。PICの形成およびレンチウイルスがPICを介して核外被を通って細胞核へ能動的に進入することにより非分裂細胞に感染する能力を発揮するのは、他のアクセサリー遺伝子である。プロウイルスが核外被に進入すると、それ自体、宿主ゲノムと統合する。
【0345】
レンチウイルスベクターの例は、HIV−1、HIV−2、SIVまたはFIVに基づく。安全なレンチウイルスベクターを産生するために、数プラスミドベクター、たとえば、4プラスミドベクター系を含むパッケージング細胞株を産生する。たとえば、第一プラスミドは、プロモーター、転写ウイルスRNAが新規ウイルスの集合に包含されることを可能にするgagおよびpolおよびPsiパッケージングシーケンスのみを含むように欠失されるアクセサリータンパク質(たとえばtat、brf、vprおよびnef)を含み、第二プラスミドは逆転写酵素を含み、第三プラスミドは水疱性口内炎ウイルス外被タンパク質(VSV−G)に置き換わったenv遺伝子を含み、第四プラスミドは複製に必要なウイルス遺伝子を、送達する核酸分子で置き換えた関心対象のベクターを含む。
【0346】
このようなレンチウイルスベクターおよびレンチウイルスを製造するための系および方法は当分野で知られる(たとえばBuchshacherおよびWong−Staal(2000)Blood,95:2499−2504;Blomer et al.(1997)J.Virol.,71:6641−9;Choi et al.(2001)Stem Cells,19:236−46;米国特許第6,218,186号参照)。レンチウイルスベクターは複製欠損であり、複製に必要な遺伝子を含まない。レンチウイルスを産生するために、数個のパッケージングプラスミドをパッケージング細胞株、大略的にHEK293または他の類似細胞株の誘導体(たとえば293FT細胞、カタログ番号R700−07、カリフォルニア州カールスバッドのInvitrogen,Life Technologies);293LTV細胞株、カタログ番号LTV−100、カリフォルニア州サンディエゴのCell Biolabs,Inc.;レンチ−Pac 293Ta細胞株、カタログ番号CLv−PK−01、メリーランド州ロックビルのGeneCopoeia)に遺伝子導入する。パッケージングプラスミドは、別々にウイルス粒子タンパク質(たとえばカプシドおよび逆転写酵素)およびベクターにより送達される核酸分子(これはパッケージング細胞株に遺伝子導入できる)をコード化する。一本鎖RNAウイルスゲノムが転写され、これはウイルス粒子にパッケージングされる。レンチウイルスベクターの産生方法は当業者に周知である(たとえばNaldine et al.(1996)Science,272:263−267参照)。レンチウイルスベクターおよびウイルス産生のための系は市販されている(たとえば、レンチウイルス発現ベクター、たとえばCell Biolabs,Inc.から入手可能なpSMPUWレンチウイルスベクターおよびその誘導体およびレンチウイルス発現およびパッケージングシステム参照)。
【0347】
レンチウイルスベクターは遺伝子治療適用に使用されている(たとえばManilla et al.(2005)Human Gene Therapy,16:17−25;Sheridan(2011)Nature Biotechnology,29:121参照)。特に、レンチウイルスベクターは低分子干渉RNA(siRNA)の送達に使用されている(Sachdeva et al.(2007)Journal of Medical Virology,79:118−26)。
【0348】
b.非ウイルスベクター
非ウイルスベースの薬剤を送達薬剤として使用できる。これらは非ウイルス発現ベクターを含む。非ウイルス発現ベクターは、関心対象の核酸、たとえばポリペチド、アンチセンスDNAまたはsiRNAをコード化する核酸を含み、ここで、該核酸類は発現制御シーケンス(たとえばプロモーター)に操作可能に結合している。適切なベクター骨格は、たとえば、当分野で通常使用されているもの、たとえばプラスミド、ミニサークル類および人工染色体(たとえば哺乳動物人工染色体(MAC)、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)または植物人工染色体(PAC)を含む。多くのベクターおよび発現系がNovagen(ウィスコンシン州マディソン)、Clontech(カリフォルニア州パロアルト)、Stratagene(カリフォルニア州ラホヤ)およびInvitrogen/Life Technologies(カリフォルニア州カールスバッド)から入手可能である。
【0349】
ベクターは、一般的に1個以上の調節領域を含み、これは、コード化領域に機能的に結合している。調節領域は、これらに限定されないが、プロモーターシーケンス、エンハンサーシーケンス、SMARS(足場マトリックス付着領域)、インスレーター、応答エレメント、タンパク質認識部位、誘発性エレメント、タンパク質結合シーケンス、5’および3’非翻訳領域(UTR)、転写開始部位、終結シーケンス、ポリアデニル化シーケンスおよびイントロンを含む。
【0350】
哺乳動物宿主細胞でベクターからの転写を制御するプロモーターは種々の源、たとえば、ウイルスのゲノム、たとえばポリオーマ、サルウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、最も好ましくはサイトメガロウイルス(CMV)または異種哺乳動物プロモーター、たとえばβ−アクチンプロモーターまたはEF1αプロモーターまたはハイブリッドまたはキメラプロモーター(たとえば、β−アクチンプロモーターに融合したCMVプロモーター)から入手可能である。宿主細胞または関連種からのプロモーターもここで有用である。
【0351】
エンハンサーは、一般に転写開始部位から固定された距離がなく、転写単位の5’または3’の何れにも機能できるDNAシーケンスをいう。さらに、エンハンサーは、イントロンならびにそのコーディングシーケンス自体内にあり得る。それらは通常、10〜300塩基対(bp)長であり、シスで機能する。エンハンサーは通常、近くのプロモーターからの転写を増加させるために機能する。エンハンサーはまた転写調節を仲介する応答エレメントも含む。多くのエンハンサーシーケンスが哺乳動物遺伝子で知られているが(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、フェトプロテインおよびインシュリン)、一般的に、全般的発現のために真核細胞ウイルス由来のエンハンサーを使用する。例は、複製起点の後期側のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス早期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーである。
【0352】
プロモーターおよび/またはエンハンサーは誘発され得る(たとえば化学的または物理的に調節されている)。化学的に調節されたプロモーターおよび/またはエンハンサーは、たとえば、アルコール、テトラサイクリン、ステロイドまたは金属の存在により調節できる。物理的に調節されたプロモーターおよび/またはエンハンサーは、たとえば、環境因子、たとえば温度および光により調節できる。所望により、プロモーターおよび/またはエンハンサー領域は、転写する転写単位の領域の発現を最大化するように、構成的プロモーターおよび/またはエンハンサーとして作用できる。あるベクターにおいて、プロモーターおよび/またはエンハンサー領域は細胞型特異的方法で活性であり得る。所望により、あるベクターにおいて、プロモーターおよび/またはエンハンサー領域は、細胞型と無関係に全真核細胞で活性であり得る。このタイプのプロモーターの例はCMVプロモーター、SV40プロモーター、β−アクチンプロモーター、EF1αプロモーターおよびレトロウイルス末端反復シーケンス(LTR)である。
【0353】
ベクターはまた、たとえば、複製起点および/またはマーカーも含み得る。マーカー遺伝子は、細胞に選択可能な表現型(たとえば、抗生物質耐性)を付与するか、他の方法でも検出可能である。検出可能マーカーの例は大腸菌lacZ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびルシフェラーゼを含む。さらに、発現ベクターは、発現ポリペチドの操作または検出(たとえば、局在化)を容易にするために設計されたタグシーケンスを含み得る。タグシーケンス、たとえばGFP、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン、c−myc、赤血球凝集素またはFLAG(商標)タグ(コネチカット州ニューへイブンのKodak)シーケンスは一般的に、コード化されたポリペチドおよびマーカーを含む融合ポリペチドとして発現される。このようなタグを、カルボキシルまたはアミノ末端を含むコード化されたポリペプチドのどこにでも挿入できる。
【0354】
特に、たとえば、関心対象の遺伝子、アンチセンスDNAもしくはsiRNAまたは他の核酸分子をコード化する、所望の関心対象の核酸分子を含む、所望の核酸分子発現ベクターは、ネイキッドDNAとして送達薬剤としての送達に使用できる。本発明方法においてネイキッドDNA送達の効率は、当業者に周知の種々の方法を使用して増加できる(たとえばLiおよびHuang(2006)Gene Therapy,13:1313−1319参照)。このような方法は、たとえば、本明細書の他の場所に記載するとおりおよび当業者に知られるとおり、たとえばエレクトロポレーション、ソノポレーションまたは“遺伝子銃”手法を含む。また、送達効率は、ここに記載するとおりリポソームに封入するかまたはポリマーと複合体化することにより上昇できる。特定の例において、核酸はナノ粒子として送達できる。
【0355】
遺伝子治療における非ベクターの使用を説明する参考文献は、Sheridan(2011)Nature Biotechnology,29:121を含む。
【0356】
非ウイルスベース送達薬剤は、核酸分子が関心対象の細胞への特異的ターゲティングのための、ターゲティング分子を含む特定の担体に封入されているかまたは複合化している、ナノ粒子(一般的に3〜200nm)を含む。遺伝子治療のためのナノ粒子の産生は当分野で周知である(たとえばCho et al.(2008)Clin.Cancer.Res.,14:1310;Jin et al.(2007)Biotechnol.Prog.,23:32−41参照)。ナノ粒子は、たとえばポリ(L−グルタミン酸(PGA)、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびポリエチレンイミン(PEI)からの逐次重合により、ポリマー、たとえばポリマー担体(たとえばポリ乳酸、多糖、ポリ(シアノアクリレート、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド))またはデンドリマーを産生するための分枝ポリマーとして製造できる。使用できる生分解性ポリマーは、たとえば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−グリコール酸(PLGA)またはポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)を含む。他のタイプのナノ粒子を、種々の脂質混合物を使用してリポソームとして、酸化鉄を使用して磁気ナノ粒子として、SiO
2を使用してシリカナノ粒子としてまたは塩化金酸またはクエン酸ナトリウムを使用して金ナノ粒子として産生できる。ナノ粒子系は当業者に周知である。
【0357】
ナノ粒子は、表面上にターゲティング分子、たとえば、ターゲットである細胞に発現される受容体のリガンドであるか他に結合するターゲティング分子を複合化またはコーティングすることにより官能化し得る。このようなターゲティング分子は、これらに限定されないが、リガンド、抗体またはペプチドを含む。具体例において、細胞への選択性を高めるためにデュアルリガンド手法を使用できる。ターゲティング分子の例は、増殖因子、たとえば、線維芽細胞増殖因子受容体をターゲットとする線維芽細胞増殖因子である。ターゲティング分子の選択は、ターゲットとする組織または臓器を含む特定の適用に依存し、当業者により経験的に決定され得る。ターゲット化ナノ粒子は当分野で知られる(たとえば、Franzen(2011)Expert Opin.Drug.Deliv.8(3):281−98;FarajiおよびWipf(2009)Bioorg.Med.Chem.17(8):2950−62;Sajja et al.,(2009)Curr.Drug.Discov.Technol.6(1):43−51参照)。特に、ナノ粒子の組織特異的遺伝子送達方法は当分野で知られる(たとえばHarris et al.(2010)Biomaterials,31:998−1006参照)。たとえば、実質肝細胞は、アシアロ糖タンパク質受容体(ASGP−R)および肝臓レクチンを発現する。それゆえに、肝臓特異的ナノ粒子は当分野で知られ、アシアロ糖タンパク質受容体(ASGP−R)および、たとえば、アシアロ−フェチュイン(asialo−feutin)、アシアロ−トランスフェリン、アシアロ−セルロプラスミン、アシアロ−ラクトフェリン、アシアロ−オロソムコイド、lac−BSA、ヘパトグロブリン、抗体およびガラクトースを含む他の受容体を認識する薬剤での官能化を含み得る(たとえばPathak et al.(2008)Int.J.Nanomedicine,3:31−49参照)。
【0358】
3.例示的な遺伝子治療剤
核酸分子含有送達薬剤は、関心対象の核酸、たとえば当業者に知られた任意の遺伝子治療薬剤をコード化する任意のウイルスまたは非ウイルスベクターであり得る。処置する特定の疾患または状態により適当な遺伝子治療薬剤を選択するのは当業者の技量内の事項である。何百もの遺伝子治療剤が治験中であり、そのいくつかは欧州(たとえばGlybera(登録商標),AdLPL)および中国(たとえばrAd53,Gendicine(登録商標))で販売承認を受けている(たとえばSheridan(2011)Nature Biotechnology,29:121参照)。
【0359】
たとえば、遺伝子治療ベクターの例は、アデノウイルス−またはAAVベース治療剤を含む。本発明の方法、使用または組成物において使用するためのアデノウイルスベースのまたはAAVベースの治療剤の非限定的例は、これらに限定されないが、たとえば、癌の処置に使用するための、野生型ヒト腫瘍サプレッサータンパク質p53をコード化する組み換えアデノウイルスベクターであるrAd−p53(別名Gendicine(登録商標)、Genkaxin(登録商標)、Qi et al.(2006)Modern Oncology,14:1295−1297);宿主p53を不活性化するためのE1B遺伝子を欠くアデノウイルスであるAd5_dl1520(別名H101またはONYX−015;たとえばRussell et al.(2012)Nature Biotechnology,30:658−670参照);AD5−D24−GM−CSF、たとえば、癌の処置に使用するための、サイトカインGM−CSF含有アデノウイルス(Cerullo et al.(2010)Cancer Res.,70:4297);rAd−HSVtk、たとえば、癌の処置に使用するための、HSVチミジンキナーゼ遺伝子を含む複製欠損アデノウイルス(Cerepro(登録商標)として開発、Ark Therapeutics、たとえば米国特許第6,579,855号参照;AdvantageneによりProstAtak(商標)として開発;PCT国際公開WO2005/049094号);rAd−TNFα、たとえば、癌の処置に使用するための、化学放射線治療誘発性EGR−1プロモーター制御下にヒト腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)を発現する複製欠損アデノウイルスベクター(TNFerade(商標)、GenVec;Rasmussen et al.(2002)Cancer Gene Ther.,9:951−7);rAd−FGF4、たとえば、血管形成および冠動脈疾患の処置のための、FGF−4をコード化するアデノウイルスベクター血清型5(GENERX,BioDrugs,2002,16:75−6;米国特許第5,792,453号);rAd−VEGF−D、たとえば、血管形成関連疾患および状態の処置に使用するための、血管内皮細胞増殖因子(VEGF−D)をコード化する遺伝子を含むアデノウイルスベクター5(Trinam(登録商標)、Ark Therapeutcs;米国特許公開第20120308522号);rAd−PDGF、たとえば、創傷処置に使用するための、PDGF−Bをコード化する遺伝子を含むアデノウイルスベクター5(Excellarate,GAM501 Tissue Repair Co.; Blume et al.(2011)Wound Repair Regen.,19:302−308);Ad−IFNβ、たとえば、癌の処置のための、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーターの指示の下のヒトインターフェロン−ベータ遺伝子を発現する、E1およびE3遺伝子が欠損しているアデノウイルス血清型5ベクター(BG00001およびH5.110CMVhIFN−ベータ、Biogen;Sterman et al.(2010)Mol.Ther.,18:852−860);たとえば、LPLDまたは家族性高カイロミクロン血症の対象の処置のためのリポタンパク質リパーゼ欠損(LPLD)遺伝子をコード化する遺伝子を含むAAV(alipogene tiparvovec, Glybera(登録商標)、Amsterdam Molecular Therapeutics;たとえばPCT国際公開WO2010/134806号;WO2001000220号、Yla−Herttuala(2012)Mol. Ther.,20:1831−2参照);AMT−021、たとえば、急性間欠性ポルフィリン症(AIP)の対象の処置のための酵素ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ(PBGD)をコード化する遺伝子を含むAAV(たとえば米国特許公開第US2011/0262399号;欧州特許第1,049,487号参照);rAAV9−CMV−hNaGlu、CMVプロモーター制御下にNaGluをコード化する遺伝子を含むAAV−9(たとえばFu et al.(2011)Mol.Ther.,19:1025−33参照)を含む。
【0360】
本発明の方法、使用および組成物において使用するための他の遺伝子治療剤の例は、これらに限定されないが、rAd−H1F1α(Genzyme/Sunway)、V930/V932(Merck)、NLX−P101(Neurologix)、Toca−511(Tocagen,サンディエゴ(San Dieog))、レンチグロビン(Bluebird Bio)、ProSavin(Oxford BioMedica)、rAAV−1−CB−hAAT(Applied Genetic Technologies)、rAAV2−CB−ヒト網膜色素上皮特異的65ダルトンタンパク質(RPE65)(Applied Genetic Technologies)、AMT−101(Amsterdam Molecular)、Ad5CMV−p53(Aventis)、CERE−120(Ceregene,サンディエゴ)、CERE−110(Ceregene,サンディエゴ)、SERCA−2a(Celladon,ラホヤ)、AAV2−sFLT01(Genzyme)、tgAAG76(Targeted Genetics,シアトル)、tgAAC94(Targeted Genetics,シアトル)、GX−12(韓国、ソウルのGenexine)、SC1B1(イギリス、ノッティンガムのScanCell)、アロベクチン−7(Vical,サンディエゴ)、VM202(ミネソタ州ミネトンカのViroMed)またはRexin−Gナノ粒子(カリフォルニア州サンマリノのEpeius Biotechnologies)を含む。
【0361】
4.組成物
組成物、たとえば医薬組成物として送達薬剤を提供し得る。組成物は、インビボ投与に適する。組成物は、実質組織投与用に製剤される。一般的に、ここでの組成物は注射剤として提供され、本明細書で提供される腹腔鏡検査インジェクションデバイスなどの任意のインジェクションデバイスを使用して送達され得る。注射剤は慣用の形態で、溶液または懸濁液、注射前に溶液または懸濁液に溶解するのに適する固体形態またはエマルジョンとして製造できる。大略的に、本明細書に提供される送達薬剤組成物は、液体形態である。
【0362】
本組成物は薬学的に許容される担体を含み得る。注射のために、担体は典型的に液体である。特に、医薬担体は、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではない、すなわち組成物が対象に望まない副作用を誘発することなく投与される、または、包含される医薬組成物中の他の成分と有害な方法で相互作用しない、あらゆる担体である。担体は、活性成分の分解を最小化するためおよび対象への有害副作用を最小化するために選択される。たとえば、細胞に投与するための薬学的に許容される担体は、一般的に注射による送達が許容される担体であり、細胞を損傷させる洗剤または他の化合物のような薬剤は含まない。
【0363】
適切な担体およびその製剤はRemington:The Science and Practice of Pharmacy,21
st Edition, David B.Troy, ed.,Lippicott Williams&Wilkins(2005)に記載されている。投与用組成物は、無菌水溶液または非水溶液、懸濁液およびエマルジョンを含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、たとえばオリーブ油および注射用有機エステル、たとえばオレイン酸エチルを含む。水性担体は、食塩水および緩衝化媒体を含む、水、アルコール性/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液を含む。注射媒体として、一般に、担体は、注射溶液に有用な添加物、たとえば安定化剤、塩類または食塩水および/または緩衝液を含む水を含む。生理学的に許容される担体の例は、無菌水、食塩水、緩衝化溶液またはデキストロース溶液を含む。たとえば、生理学的担体の例は、生理学的食塩水、リン酸緩衝化食塩水、平衡塩類溶液(BSS)またはリンゲル溶液および肥厚化剤および可溶化剤、たとえばグルコース、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールおよびそれらの混合物を含む溶液を含む。溶液のpHは一般的に約5〜約8または約7〜7.5である。必要であれば、製剤のpHを薬学的に許容される酸類、塩基類または緩衝液で調節し、
製剤化された化合物またはその送達形態の、安定性を高める。
【0364】
送達薬剤(核酸分子であるかまたは核酸分子を含む)は、組成物中の唯一の薬学的活性成分として製剤できまたは処置する特定の障害のための他の活性剤と組み合わせ得る。所望により、他の薬剤、医薬品、担体、アジュバント、希釈剤をここに提供する組成物に包含させうる。たとえば、任意の1種以上の湿潤剤、乳化剤および滑沢剤、たとえばラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、ならびに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、風味剤および芳香剤、防腐剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスも本組成物に存在し得る。組成物に包含できる他の薬剤および添加物の例は、たとえば、水可溶性抗酸化剤、たとえばアスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム;油可溶性抗酸化剤、たとえばパルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロール;および金属キレート剤、たとえばクエン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸およびリン酸を含む。
【0365】
本組成物はまた徐放性製剤のために、たとえばコラーゲンスポンジを含む生物分解可能な支持体に吸着してまたはリポソーム内に製剤できる。徐放性製剤は、選択期間中、たとえば1ヶ月または最大約1年、数回の投与量が投与されるように、多回使用量投与用に製剤できる。それゆえに、たとえば、リポソームは、1回注射により、1回投与量の計約2〜最大約5倍以上が投与されるように、製剤できる。
【0366】
本組成物は、急速な排出から保護する担体、たとえば時間放出製剤またはコーティングを施し得る。このような担体は、制御放出製剤、たとえば、これらに限定されないが、マイクロ被包送達系および生分解性、生体適合性ポリマー、たとえばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸および体内に直接配置できる他のタイプのインプラントを含む。本組成物はまたペレット、たとえばELVAXペレット(エチレン−ビニルアセテートコポリマー樹脂)でも投与できる。
【0367】
組織ターゲット化リポソームを含むリポソーム懸濁液も薬学的に許容される担体として適する。たとえば、リポソーム製剤は当業者に知られた方法により製造できる(たとえば、Kim et al.(1983)Bioch.Bioph.Acta 728:339−348;Assil et al.(1987)Arch Ophthalmol.105:400;および米国特許第4,522,811号参照)。送達薬剤は、リポソーム系の水相に被包され得る。
【0368】
活性物質は、所望の作用を妨害しない他の活性物質、望まれる作用を補充する物質または他の作用を有する物質、たとえば粘弾性物質、たとえば約300万の高分子量(MW)のヒアルロン酸ナトリウムフラクションである商品名HEALON(Pharmacia,Inc.製造;たとえば、米国特許第5,292,362号、第5,282,851号、第5,273,056号、第5,229,127号、第4,517,295号および第4,328,803号参照)として販売されているヒアルロン酸を含む物質とも混合できる。さらなる活性剤を包含し得る。
【0369】
組成物は、1回服用量投与または複数回服用量投与用に製剤され得る。たとえば、1回服用量投与のための組成物中のアデノウイルスの量は、10プラーク形成単位(pfu)〜1×10
12pfu、1×10
2pfu〜1×10
10、1×10
3pfu〜1×10
10pfu、1×10
3pfu〜1×10
9pfu、1×10
3pfu〜1×10
8pfuまたは1×10
6pfu〜1×10
9pfuまたは10粒子〜1×10
12粒子、1×10
2粒子〜1×10
10粒子、1×10
3粒子〜1×10
10粒子、1×10
3粒子〜1×10
9粒子、1×10
3粒子〜1×10
8粒子または1×10
6粒子〜1×10
9粒子である。大略的に、1回服用量投与のための組成物中のアデノウイルスの量は10ウイルス粒子(vp)〜1×10
12vp、1×10
2vp〜1×10
10vp、1×10
3vp〜1×10
12vp、1×10
3vp〜1×10
10vp、1×10
3vp〜1×10
9vp、1×10
3vp〜1×10
8vp、1×10
3vp〜1×10
6vp、1×10
6vp〜1×10
12vp、1×10
6vp〜1×10
10vpまたは正確にまたは約1×10
12vp、1×10
11vp、1×10
10vp、1×10
9vp、1×10
8vp、1×10
7vp、1×10
6vp、1×10
5vp、1×10
4vp、1×10
3vp、1×10
2vp、10vp未満である。他の例において、1回服用量投与のための組成物中のアデノウイルスの量は、10pfu〜1×10
12pfu、1×10
2pfu〜1×10
10pfu、1×10
3pfu〜1×10
12pfu、1×10
3pfu〜1×10
10pfu、1×10
3pfu〜1×10
9pfu、1×10
3pfu〜1×10
8pfu、1×10
3pfu〜1×10
6pfu、1×10
6pfu〜1×10
12pfu、1×10
6pfu〜1×10
10pfuまたは正確にまたは約1×10
12pfu、1×10
11pfu、1×10
10pfu、1×10
9pfu、1×10
8pfu、1×10
7pfu、1×10
6pfu、1×10
5pfu、1×10
4pfu、1×10
3pfu、1×10
2pfu、10pfu未満である。本組成物は、10μL〜5mL、たとえば20μL〜1mLまたは50μL〜500μLで製剤され得る。このような組成物において、アデノウイルスは実質組織投与用に製剤される。具体例において、アデノウイルスは肝臓への実質組織投与用に製剤される。
【0370】
組成物は、貯蔵および/または使用のためにパッケージできる。薬剤のパッケージングに使用するためのパッケージング物質は当業者に周知である。パッケージング物質の例は、アンプル、ビン、チューブ、バイアル、容器、シリンジおよび選択製剤および実質組織投与に適するあらゆるパッケージング物質を含む。たとえば、組成物をアンプル、使い捨てシリンジまたはガラス、プラスチックまたは他の適切な物質から製造された複数または単回用量バイアルを含む。パッケージング物質は、実質組織投与目的での投与を促進するために針または他のインジェクションデバイスを含み得る。たとえば、組成物は、セクションEで記述されるインジェクションデバイスでの使用のためのシリンジ筒にパッケージングされ得る。パッケージの選択は特定の送達薬剤による。大略的に、パッケージングはその中に含まれる組成物と非反応性である。また、組成物およびパッケージング物質は無菌である。
【0371】
たとえば、送達薬剤を含む組成物を、投与により十分な量の送達薬剤(たとえばウイルス粒子)が送達されるような量を含む、容器、たとえば密閉無菌バイアルまたはシリンジ筒(たとえば、セクションEで記述されるインジェクションデバイスに適用可能なもの)に提供できる。組成物中の送達薬剤、たとえばアデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスの量は、正確にまたは約10pfu〜1×10
12pfu、1×10
2pfu〜1×10
10、1×10
3pfu〜1×10
10pfu、1×10
3pfu〜1×10
9pfu、1×10
3pfu〜1×10
8pfuまたは1×10
6pfu〜1×10
9pfuまたは10粒子〜1×10
12粒子、1×10
2粒子〜1×10
10粒子、1×10
3粒子〜1×10
10粒子、1×10
3粒子〜1×10
9粒子、1×10
3粒子〜1×10
8粒子または1×10
6粒子〜1×10
9粒子である。容器中の組成物の体積は50μL〜50mL、50μL〜5mL、50μL〜500μL、100μL〜10mL、100μL〜5mL、100μL〜2mL、100μL〜1mL、200μL〜4mL、200μL〜2mL、1mL〜10mLまたは1mL〜2mLであり得る。たとえば、容器は、単回使用または複数回使用投与用に提供され得る。容器中の薬剤の体積は100μL〜10mLであってよく、ここで、このような体積中の少なくとも約10〜10
10プラーク形成単位(pfu)または粒子、たとえば10
2〜10
6プラーク形成単位(pfu)または粒子を含む約20〜5mL、たとえば20〜500μl、50〜150μl、100μL〜10mLまたは200μl〜2mLが送達される。
【0372】
E.インジェクションデバイス
ターゲット組織への直接注射によるなどの、ターゲット場所への直接注射による、治療剤などの送達流体に使用するために、たとえば、腹腔鏡処置などの低侵襲処置において使用することができるインジェクションデバイスが、本明細書で提供される。デバイスは、小径の細長い針シースを有しており、内部のターゲット部位に到達するために、腹腔鏡ポート、トロカールまたはカニューレのように、内視鏡ポートを介して挿入することができる。本明細書に提供されるデバイスは、大きな標準シリンジおよび切開手術を必要とせずに、直接、ターゲット組織への流体の小さくかつ正確な用量を送達することができる。デバイスは、必要に応じて、同じまたは異なるターゲット部位に複数用量を送達することができる。
【0373】
デバイスは、低侵襲性処置のように、ターゲット部位へのアクセスが限定される、ターゲット部位への薬剤の直接注射を必要とする任意の方法で使用することができる。たとえば、腹腔鏡手術に加えて、本明細書で提供されるデバイスはまた、胸腔鏡手術などの他の低侵襲医療または外科的処置の間、治療剤などの流体の直接注入のために使用することができる。本明細書の他の箇所で説明したように、治療用などの任意の流体を投与することができ、その流体には、これらに限定されないが、タンパク質、核酸、小分子、ウイルス、抗体または他の流体が含まれる。デバイスは、単一ポートまたはマルチポート内視鏡(たとえば、腹腔鏡)手術を使用して、他の低侵襲外科装置と共に使用することができる。デバイスは、取り外すことなく、または腹腔鏡ポートからデバイスを除去した後、注射の同一または異なる部位に複数の別個の用量を送達するために使用することができる。
【0374】
デバイスの例示的な実施形態を含むデバイスを、添付の図面を参照して説明する。示されたように、符号へのプライム(’)記号の使用は、異なる図示または記載がある場合を除き、図示または説明されている要素が、非プライム要素と同じであることを示している。小文字の符号(たとえばa、b、等)は、同一部品だが異なる位置または状態を指す。
【0375】
デバイスは大略的に、2つの端部、針先端およびプランジャ端部を有する。説明を明確にするために、例示的なデバイスは、大略的に、図面の右側に向かって針先端部が示されており、図面の左側に向かってプランジャ端部が示されていることに留意すべきである。針先端部は、大略的に「先端部」と記述され、プランジャ端部は、大略的に「基端部」と記述される。用語「先端部」は、デバイス保持者から最も遠いインジェクションデバイスの端部を指すことを意図し、用語「基端部」は、デバイス保持者に最も近いデバイスの端部を指すことを意図している。構成要素が他の構成要素よりもより「近位」であると記述されている場合、構成要素は、基(プランジャ)端部により近い。構成要素が他の構成要素よりもより「遠位」であると記述されている場合、構成要素は、先(針先端)端部により近い。
【0376】
インジェクションデバイスの一部の構成要素は、他の構成要素に対して相対的に長手方向軸に沿って2つの大略的な方向に移動することができる。たとえば、構成要素は、大略的に、基端部または先端部に向かって移動することができ、または近位方向または遠位方向に移動し得る。遠位方向(針先端)に向かって移動する構成要素は、前進移動と記載されており、近位方向(プランジャ)に向かって移動する構成要素は、後方/後退移動と記載されている。例示的なデバイスはまた大略的に、ポジショナが、デバイスを見下ろし鳥瞰図である
図12A〜
図12Cを除いて、上方向に向くように配置された針シースコントローラとともに描かれている。たとえば、ポジショナなどの構成要素のいくつかは、垂直軸に平行に移動することができる。構成要素は、上方向または下方向に移動することができる。ポジショナを針シースコントローラに向かって押すことが、「下向き」に押すことと記載され、ポジショナを解除することが、ポジショナの「上向き」の移動と記載される。
【0377】
大略的な実施形態では、本明細書で提供されるインジェクションデバイス、または装置は、針シースおよび針シースコントローラ、被覆および非被覆することができる針先端を伴う注射針、ターゲット組織に送達される治療薬などの流体用のリザーバとして使用されるシリンジ筒、流体の負荷および放出を制御するプランジャ、を含む。針シースは、大略的に剛体のシャフトであるが、可撓性または操縦可能なシャフトを、使用目的に応じて使用することができる。
【0378】
たとえば、本明細書中に提供される第一の例示的な実施形態を示す、
図9Aおよび
図9Bを参照して、シリンジインジェクションデバイスは、参照符号60によって大略的に示され、かつ針シース72および針シースコントローラ71、注射針81、シリンジ筒91およびプランジャ92を備えている。以下に記載されるように、シリンジデバイスの他の実施形態は、
図10および
図11ならびに他の図に記載されている。たとえば、
図10は、参照符号60’で大略的に示すさらなる実施形態を示し、針シース72’、針シースコントローラ71’、注射針81、シリンジ筒91’およびプランジャ92’を含む。本実施形態では、シリンジ筒91’がデバイス先端部に配置され、かつ、針シース72’に統合されていること以外は、針シース72’、針シースコントローラ71’、シリンジ筒91’およびプランジャ92’は、実質的に
図9Aおよび
図9Bの実施形態と同様であり、したがってプランジャ92’は、針制御シースコントローラ71’を介して横断する。
図11は、参照符号60”で大略的に示すさらなる実施形態を示し、針シース72”、針シースコントローラ71’、注射針81、シリンジ筒91”およびプランジャ92”を含む。本実施形態では、シリンジ筒91”がデバイス先端部に配置され、かつ、針シース72”にドッキング可能であるように適合されていること以外は、針シース72”、針シースコントローラ71’、シリンジ筒91”およびプランジャ92”は、実質的に
図9Aおよび
図9Bの実施形態と同様である。さらに、プランジャ92”は、針シースコントローラ71’を横断し、さらに針シースコントローラ71’の遠位に位置する補助プランジャ920と協働するように適合されており、補助プランジャ920は、シリンジ筒91”内で移動するように構成されている。
【0379】
本明細書で提供される腹腔鏡デバイスの全ての実施形態では、腹腔鏡デバイスの寸法は、腹腔鏡手術または他の低侵襲性外科処置のための一般的なポートを介してその使用を可能にする。たとえば、器具またはデバイスがそれを通して患者に入る腹腔鏡手術のための一般的なポートは、直径が約5〜10mmである。デバイスが使用されてターゲット組織に到達して注入され、ターゲット組織は一般的には、臓器の実質組織を含む身体の内部組織または臓器である。デバイスの長さは、制御困難なほど扱いにくいものではないが、腹腔鏡ポートを介して、特定の所望ターゲット組織へのアクセスを可能にするには十分な長さである。デバイスの寸法は、特定のユーザ、ターゲット組織、処置対象、投与薬剤および当業者の技量内の事項であるその他の要因により決定される。大略的に、インジェクションデバイスの針シース72、72’または72”は、関心対象のターゲットへの腹腔鏡下アクセスを可能にするのに十分な長さのものであり、大略的に250〜400mmなどの200mm〜600mmの長さであり、大略的には少なくともまたは略少なくともまたは正確に300mmである。
【0380】
本明細書に提供されるデバイスの全ての態様において、シリンジ筒91、91’または91”は、プランジャがシリンジ筒の内部で前後に移動できるように、プランジャ92、92’または92”に適合することができる中空円筒形状である。シリンジは、プラスチックまたはガラスまたは他の適切な材料から作ることができる。大略的に、シリンジは、ガラス、またはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートなどのプラスチックで作られている。生体適合性材料の他のタイプを使用してもよい。シリンジ筒は、溶液の体積を測定または検出するために外面にキャリブレーションまたはマーキングを含むことができる。キャリブレーションは、立方センチメートル(cc)、ミリリットル(mL)、ミリリットルの小数点第一位、ミリリットルの小数点第二位または他の目盛などの、任意の目盛でマークすることができる。シリンジ筒の容量は、特定の用途、投与薬剤、使用されているデバイスのタイプおよび他の同様の要因に応じて操作者が選択することができる。たとえば、シリンジ筒の容量は、治療薬などの流体の所望量により決定され得、大略的には、少なくとも500μL、1ミリリットル(mL)、2mL、2.5mL、3mL、4mL、5mL、6mL、7mL、8mL、9mL、10mL以上などの、200μL〜10mL、より一般的には500μL〜2.5mLである。たとえばシリンジ筒は、0.5mL〜20mL(すなわち0.5cc〜20cc)であり得、大略的には、少なくともまたは少なくとも約1mL(すなわち1cc)シリンジなどの、0.5mL〜3mL(すなわち0.5cc〜3cc)である。シリンジ筒はまた、標準的なインシュリンシリンジ(たとえば100単位が1mLに相関する)上に存在するような単位キャリブレーションを持つことができる。一般的には、治療薬などの流体200μL〜600μLがターゲット場所に送達され、シリンジ筒の容量は1mLである。
【0381】
シリンジ筒91、91’または91”は常に注射針の近位側に位置しているが、針シースコントローラの何れかの側に、針シースコントローラの近位側または遠位側にあるように配置することができる。たとえば、シリンジ筒が針シースコントローラの近位側に位置し得、または針シース72、72’または72”内部に位置し得る。特定の態様では、図面および以下の説明を参照して、
図9Aおよび
図9Bは、シリンジ筒91が針シースコントローラ71の近位にある装置60を示している。対照的に、
図10は、シリンジ筒91’が針シースコントローラ71’に対して遠位であって、その先端部で針シースと一体化されているデバイス60’を示している。
図11は、シリンジ筒91”が針シースコントローラ71’に対して遠位であって、かつ先端部にて針シースにドッキング可能であり、したがって取外し可能である、デバイス60”を示している。
【0382】
無菌の注射が必要とされる場合には、シリンジ筒には、無菌手術室などの無菌環境において、治療薬などの流体をロードすることができ、または、無菌のプリロードされたシリンジを使用することができる。たとえば、無菌の標準またはドッキング可能なシリンジは、無菌環境において、治療薬などの流体をロードした後にデバイスに接続することができる。他の場合には、デバイス全体は無菌環境で、ロードされ、操作され、動作し得る。
【0383】
プランジャは、デバイスの基端部に位置し、それが引張られて、シリンジ筒の内側に沿って押し込むことができるように移動可能である。デバイスの長手方向軸に沿って、プランジャの一部がシリンジ筒内を移動する。プランジャは、円筒形であってシリンジ筒内を移動し、シリンジ筒を通しての移動が容易となる材料で作られている。たとえば、プランジャは大略的に、ポリプロピレンやポリエチレンなどのプラスチックで作られている。プランジャはまた、プランジャを操作するため操作者が簡便に掴むことができる、デバイス基端部におけるヘッドを含む。プランジャヘッドは、操作者からの軸力を遠位または近位の両方向に伝達することができ、プランジャをそれぞれ、押し下げ、引き戻すことができる。プランジャは、治療薬などの流体をシリンジ筒にロードするために引き戻され得、または、ターゲット組織に治療薬などの流体を注入するために押し下げられ得る。プランジャをプルバックすると、治療薬などの流体または空気をシリンジ筒に引き込む。プランジャを押すと、空気または流体または空気をシリンジ筒から外に押し出す。プランジャは、針配置を試験するために注射部位にて引き戻すことができる。
【0384】
プランジャの長さは、直接的または間接的にシリンジ筒の内側と関連するのに十分な長さであり、シリンジの先端を通じて(および接続されている場合は針または管へと)治療薬などの流体、または組成物または溶液を吐出することができる。たとえば、本明細書中のいくつかの態様では、操作者にアクセス可能な制御プランジャは、シリンジ筒が遠位に配置されている場合、補助プランジャと共に使用されるように適合させることができる。プランジャの長さは、10mm〜300mm、10mm〜200mmまたは10mm〜100mmなど5mm〜500mmとすることができる。針シースコントローラに対するシリンジ筒の位置決めに応じて、いくつかの態様では、プランジャがまた、針シースコントローラを通って横断する。特定の態様において、図面および以下の説明を参照して、
図9Aおよび
図9Bは、プランジャ92が標準のプランジャであって、針シースコントローラに対してデバイスの基端部に位置するシリンジ筒91内のみ移動するように寸法決めされている装置60を示す。これとは対照的に、
図10は、プランジャ92’が、デバイス先端部でシリンジ筒91’を通って移動する前に、針シースコントローラ71’および針シースの中空内腔を横断するように伸長されている装置60’を示している。別の態様において、
図11は、プランジャ92”が、針シースコントローラ71’および針シースの中空内腔を横断するが、デバイス先端部でシリンジ筒91”を通って移動しないように伸長されている装置60”を示している。代わりに、プランジャは、装置の先端部に位置するシリンジ筒でのみ移動するように寸法決めされている補助プランジャ920と適合可能である。
【0385】
プランジャ92,92’または92”は、手動で押し下げまたは引き戻すことができ、または自動コントローラは、プランジャを制御するために使用することができる。自動的または機械的なプランジャ機構は、腹腔鏡ポートからインジェクションデバイスを取り除く必要性の有無にかかわりなく、治療薬などの流体のいくつかの固定のまたは可変の用量を送達することができる。たとえば、プランジャ92、92’または92”を押し下げるための手段には、油圧流体ラインを介して各プランジャ92、92’または92”要素へと動作可能に接続された、機械的または電子的作動ピストン・シリンダーアセンブリなどの油圧構成要素が含まれ得る。デバイスは、腹腔鏡ポートからデバイスを引き出すことなく、同じ患者への治療薬などの流体の単回用量または複数回注射の送達のために使用することができる。複数の場所が互いに適度に接近していて、腹腔鏡ポートからの除去が必要でない場合、複数回用量を、異なる注入部位に送達することができる。いくつかの個別用量の注入は、機械的制御および油圧機構などの、異なる制御を使用して達成することができる。たとえば、機械的および/または電子的作動ピストン/シリンダアセンブリや油圧プランジャアクチュエータなどの油圧構成要素は、プランジャを制御するために使用することができ、軸力を伝達するために、ストロークまたは力の増大装置の使用を可能にし、またプランジャ機構のためのフレキシブルシャフトを可能にする。複数回の注射のために、インデックス付きの注射トリガーは、トリガーをそれぞれ引く時に、たとえば100マイクロリットル(μL)の治療薬などの流体の個別の用量を送達するために使用される。複数の注射のための用量は、固定または可変であり得、複数回注射用の用量制御のための容量制御またはフィードバック機構を使用することができる。複数回の用量は、単回大量投与を上回る利点を提供し、組織の位置、幾何学的パラメータおよび時間的パラメータなどのパラメータによって操作することができる。
【0386】
本明細書に提供されるデバイスの全ての態様において、針の基端部にてシースの内側に配置され、その遠位先端にて被覆および非被覆とすることができる注射針81が、デバイスに含まれている。注射針には、組織または臓器を貫入または穿刺するのに十分に傾斜した先端が一般的に含まれている。注射針81は、直接的または間接的にその先端部に針を通してシリンジ筒内の流体または溶液の通過を可能にする様式で、シリンジ筒の先端部に接続することができる。たとえば、いくつかの態様では、注射針81は、中間管83によってシリンジ筒に間接的に接続することができ、中間管83は、注射針とともに、溶液が移動する連続的な密封流体通路を形成する。中間管は、溶接、接着または成形することにより、注射針81に直接または間接的に結合されたプラスチックまたは金属管であることができる。中間注入管83は、針カプラ85により間接的に注入管81に結合され得る。針カプラ85は、金属、プラスチック、およびセラミックを含む、任意の生体適合性および薬物適合性の剛性材料で作ることができ、一般的には、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのプラスチックで作られている。任意の結合部材82は、針カプラ85の空洞内部に存在することができる。針カプラ85は、安全で信頼性の高いシールを作成する、溶接、接着、成形またはその他の方法により、中間注入管83と注入管81のそれぞれに接続されている。
【0387】
いくつかの変形例では、シリンジ筒の先端部が、それ自体が注射針81に結合された注射針81または他の中間管83の基端部にて針ハブと互換性のあるアダプタを含むことができる。たとえば、
図9Aを参照し、さらに後述するように、シリンジ筒91の先端部は、中間注入管83の基端部にて針ハブ84と互換性のあるルアー嵌合アダプタ93を含むことができ、それ自体、直接的または間接的に注射針81に結合される。本明細書のデバイスの他の変形例では、注射針81に接続される注射針81または他の中間管83の基端部は直接、シリンジ筒の先端部に固定され、シリンジ筒から外に延びる。たとえば、
図10および
図11を参照して、注射針81は、シリンジ筒に直接、接続されている。
【0388】
注射針81の大きさおよび直径は、組織への挿入の容易さ、許容される組織への損傷、流体に必要な粘度、注入力および注入速度などの流体のせん断/流れパラメータ、ターゲット組織の特性、注射後のデバイスに残るデッドボリュームの量、および当業者によって考慮される他の要因に応じて選択される。一般的には、小径針81は、ターゲット組織または臓器に針を挿入するために必要な力を低減するために、および、ターゲット組織または臓器への外傷を低減するために使用される。大略的に、注射針81は、25ゲージ、26ゲージ、27ゲージ、28ゲージ、29ゲージ、30ゲージまたは31ゲージのように、25〜34ゲージの間であり、一般的には27ゲージである。
【0389】
注射針81の長さは、デバイス内のシリンジ筒の構成(すなわち、シリンジ筒が、デバイスの基端部または先端部に配置されているかどうか)に依存する。注射針81の長さはまた、針が中間注入管83に直接、結合されるか、または間接的に針カプラ85によって中間注入管83に接続されているかに依存する。このようなパラメータは、許容され得る圧力低下、流体の粘度、許容され得るデッドボリューム、および他の同様の要因に関連し得る。たとえば、圧力低下に影響を与える要因は、針の長さ、針の直径、流体の粘度を含む。一定量の注入圧力が、特定の組織に治療薬などの流体を送達するために必要とされ得る。特定の注入圧力が、特定の流体組成物の送達のために必要とされ得る。必要な注入圧力は、粘度、注入速度、およびターゲット組織圧などの、送達される流体のパラメータなどの要因に依存し得る。
【0390】
たとえば、デバイスのいくつかの変形例では、注射針81を長くすることができ、シースコントローラ71を介してデバイスの先端部から延び、これは、デバイスの基端部にて、シリンジ筒91に接続される。したがって、注射針の長さは、10mm〜300mmのような5mm〜500mm以上の範囲とすることができる。大略的に、本明細書のデバイスの実施例において、注射針はより短く、溶液が長い針を介して注入されるときに発生し得る圧力低下の問題を回避する。たとえば、注射針の長さは、大略的に10mm〜40mmのような5mm〜40mmの範囲であることができる。たとえば、広く入手可能である一般的な針の長さは、たとえば12.7mm、25.4mmまたは38.1mm針を含む。より長いパスが移動する溶液または流体のために必要とされる場合(すなわち、シリンジ筒が、デバイス、たとえば
図9Aおよび
図9Bの基端部に配置されている)、より小さな注射針81を、まだ使用することができるが、より大きな直径の中間注入管83へとより小径の注射針81を直接的または間接的に結合することによって、圧力低下を回避し得る。たとえば、注射針81が27ゲージである場合、中間注入管は、大略的には20ゲージ〜25ゲージ、たとえば21ゲージなどの15ゲージ〜25ゲージであることができる。
【0391】
デバイスの注射針81は、注射前に針を被覆および保護し、注射部位で針を非被覆にすることができる、鈍い、細長い針シースによって保護されている。したがって、
図9A、
図9B、
図10または
図11に記載のデバイスのような、本明細書に提供される腹腔鏡インジェクションデバイスの全ての実施形態において、針シース72、72’または72”は、注射針81を被覆および非被覆することができるように適合されている。注射針81を被覆または非被覆可能とすることによって、デバイスの操作者が、注射針が露出されているときまたは注射針が保護されているときを制御することができる。たとえば、針の被覆により、偶発的注射または貫通、ターゲット組織および非ターゲット組織を含む患者の組織への損傷、エラストマーシールや腹腔鏡ポートのバルブの損傷などの腹腔鏡手術器具の破損、針への損傷、および、腹腔鏡ポートへのデバイスの挿入または腹腔鏡ポートからのデバイスの除去の間の、治療薬などの流体の偶発的なドリップを防止することができる。注入部位で、針を非被覆にすることができ、注射針81を露出させて、針の先端がターゲット部位に貫入でき、ターゲット臓器の実質組織などのターゲット部位に薬剤を送達し得る。注射針81は、注射部位以外の組織の偶発的な針穿刺を防止するために、注入後に再び被覆することができる。
【0392】
具体的には、針シース72、72’または72”は、針シースコントローラ71または71’によって制御されるように適合されている。針シースコントローラ71または71’は、針シース72、72’または72”の動きを制御する構成要素を含み、デバイスの基端部および先端部を接続し、インナー管、プランジャまたは他の構成要素がデバイスの基端部と先端部との間で移動することが可能である管路である。針シースコントローラ71または71’は、針シースコントローラ71または71’の内部の構成要素、および、針シース72、72’または72”の基端部、を取り囲むコントローラハウジング710を含む。針シースコントローラハウジング710は、プラスチックもしくはゴムを含む任意のポリマー材料、金属、セラミック、複合材料、または当業者に公知の他の適当な材料のような任意の適切な弾性および剛性の材料で作られてよい。一般的には、針シースコントローラハウジング710は、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンもしくはシリコーンなどの医療グレードプラスチックを含むプラスチック、ゴムまたはアクリルから作られる。針シースコントローラハウジング710は、圧縮成形、熱成形または射出成形を含む当技術分野で公知の任意の技術を用いて成形することができる。ハウジング710は、射出成形によるなどの方法を使用して、1つの単一部品から形成することができる。代替的に、ハウジング710は、別々に製造され、接着剤、ロッキングジョイント、または他の留め具を用いてなどの二次プロセスで取り付けられる複数の部分を含むことができる。
【0393】
図9A、
図9B、
図10および
図11に示すように、針シースコントローラ71または71’は、針シース72、72’または72”の近位側に配置されている。針シースコントローラ71または71’は、外科医などの操作者によって保持され、操作されるよう構成されている。針シースコントローラ71または71’は、操作者がデバイスを保持および操作するのを可能にするのに簡便な任意の形状およびサイズとすることができる。大略的に、針シースコントローラ71または71’は、円筒状であり、平均的な人の手のひらに収まることができる。針シース72、72’または72”の基端部を収容するため、針シースコントローラ71または71’の直径は、針シース72、72’または72”の直径よりも大きい。たとえば、その直径は、15mm〜100mmであり、大略的には20〜35mmであることができる。直径は、均一または可変とすることができる。たとえば、針シースコントローラ71または71’の外側は、段つき、輪郭つき、面取りまたは溝つきとすることができる。針シースコントローラ71または71’は大略的に、50mm〜75mmのような30mm〜225mmの長さを有する。針シースコントローラ71または71’の外側に、任意のグリップを、デバイスの操作および取り扱いを容易にするために存在させてもよい。
【0394】
針シースコントローラ71または71’は、注射針81に対する針シース72の位置を制御し、外部からアクセス可能なポジショナ711を含んでいる。
図9A、
図9B、
図10および
図11に見られるように、針シースコントローラ71または71’は、操作者にアクセス可能であるように針シースコントローラ71または71’から延出するポジショナ711を有する円筒状のリングである。ポジショナ711は、一体的にハウジング710に形成することができるか、あるいは組み立て中にハウジングに結合された別個の部品であってもよい。
【0395】
ポジショナ711は、針シースコントローラ71または71’に対して、前後両方に移動可能であるように、針シースコントローラ71または71’において構成されている。ポジショナ711の前方または後方への移動により、被覆位置72aおよび非被覆位置72cという2つの固定またはロック位置の間の針シース72、72’または72”の移動が制御される。被覆されると、注射針81は針シースの内側に隠れ、非被覆にすると、注射針81は針シースの外側に露出される。注射針81は、しかしながら、固定されて、針シースコントローラ71または71’に対して移動しない。したがって、ポジショナ711は、針シース72、72’または72”の動きを制御するのみであり、注射針81およびデバイスの他の構成要素の位置は、ポジショナ711の位置にかかわらず静止している。注射針81の相対位置は、しかしながら、針シース71または71’が遠位方向または近位方向に移動するとき、針シース72、72’または72”の動きとともに変化し、注射針81を隠す、または露出させる。
【0396】
図12Aに示すように、前方部711aの位置にポジショナが位置決めされると、針シースが注射針を覆って被覆位置72aに移動し、注射針が針シースのシャフト内部に隠される。
図12Bに示すように、完全に前方または後方にロックされていない中間位置711bにポジショナを位置決めするまたは動かすと、針が、針シースシャフトの外側から移行位置72bに移行し、移行位置72bでは、針の最大範囲または長さよりも針の露出は少ない。
図12Cに示すように、後方711cの位置にポジショナを位置決めすると、針シースが針シースコントローラに向かってその完全非被覆位置72cまで近位に移動し、それによって注射針81の最大露出が可能となる。
【0397】
ポジショナ711は、針シースと係合し、針シースをスライドさせる。
図13〜
図15に見られるように、ポジショナ711による針シース72,72’または72”の移動は、接続部材713により容易にされる。接続部材713は、針シース72、72’または72”の基端部およびポジショナ711の下部に接続される。ポジショナ711および針シースコネクタ713は、溶接、接着剤、ロッキングジョイント、留め具または他の適当な手段によって互いに接続することができる。接続部材713の先端部は、針シース72、72’または72” の基端部に接続され、シースは、コントローラハウジング710および注射針81に対して長手方向に移動可能である。具体的に、接続部材713の外側の先端部は、その周囲に針シースの管腔723内部の近位に係合されている。針シース72、72’または72”は、溶接、接着剤、ロッキングジョイント、留め具または他の適切な手段によって接続部材713に接続することができる。
【0398】
ポジショナ711の下側部分、接続部材713および針シース72、72’または72”の基端部は、コントローラハウジング710によって囲まれている。
図13〜
図15を参照すると、針シースコントローラハウジング710は、十分な長さと直径の針シースコントローラ71または71’内部の空洞である針シースコントローラ管腔717を伴って成形されており、接続部材713の前方および後方への移動に対応する。コントローラ管腔717の長さおよび直径は、しかしながら、常に針シースコントローラ71または71’の全長および直径よりも小さく、それによって針シースコントローラ71または71’の内部にて針シースコネクタ713の動きを制限する。コントローラ管腔717は、ハウジング本体に沿って、大略的に長手方向である。コントローラの内部または中央管腔717の形状は、接続部材713が沿ってスライドするトラッキング手段を提供する限り、任意の様々な形状および構成とすることができる。たとえば、コントローラ管腔717は、円筒形または長方形であることができる。コントローラ管腔717においては、形状、サイズまたは直径を均一または不均一にすることができる。たとえば、先端部と基端部は、同じ直径または異なる直径であり得る。
【0399】
針シースコントローラハウジング710はまた、ポジショナ711と係合する手段を提供するシースストッパ715および716として機能するように切欠溝を含む。
図13〜
図15に示すように、ポジショナ711は、針シースコントローラ71または71’の外に突出す突出頂部またはヘッドを含み、それは、操作者によって前方または後方に移動することができる。針シースコントローラ71または71’の内部で、ポジショナ711の本体は、その両側にノッチを有するか、またはそうでなければシースストッパと係合するように構成されている。シースストッパ715および716は、ポジショナのノッチ体にフィットし、ポジショナ711をトラップする針シースコントローラハウジング710内の溝であり、それにより、ポジショナ711は外力なしには移動できない。
【0400】
ポジショナ711は、シースストッパ715および716内でロック可能および解除可能なように構成され、それによりポジショナがシースストッパに係合しているときにはシースが移動するのを確実に防止するが、シースの動きを制御するために簡便に再配置することができる。たとえば、シースストッパは、ポジショナ用揺架を形成するように構成することができ、それにより、ポジショナ711は、シースストッパ内に固定され、ストッパ中で揺架から抜け出すことはあり得ない。ストッパ中で揺架からポジショナ711を移動させるには、ポジショナが物理的に揺架から外側に移動する必要があり、それにより、ポジショナ711は、再配置することができる。ポジショナをロックするには、ポジショナはストッパ内に作成された揺架と係合するよう内側に(ストッパ中の溝または揺架に向かって)物理的に移動する必要がある。このように、ポジショナ711はまた、シースストッパ715および716からロック解除されるために外側に(ストッパ中の溝または揺架から離れて)移動するように旋回させることができ、その後、位置を変更するため長手方向軸に沿ってスライドされ、内側に(ストッパ中の溝または揺架に向かって)移動するため再度、旋回され、シースストッパ715および716に係合およびロックされ、ポジショナ711および針シース72をロックする。
【0401】
別の方法として、ポジショナ711は、シースストッパの溝によるポジショナのロックおよび解除を容易にするロックおよび解除部材を有することができる。
図13は、シースストッパの溝によるポジショナ711のロックおよび解除を容易にするために、ポジショナに含有させることができる任意のロックおよび解除部材712を示している。たとえば、ロックおよび解除部材712は、ばねまたは他の弾性手段とすることができる。ポジショナ711を移動させ、またはストッパの溝にフィットさせた場合には、ポジショナ711および接続部材713に対する下向きの力に抗して垂直方向上向きの力によって、ポジショナ711は所定の位置にロックされる。ポジショナ711を押すと、ロックおよび解除部材712によって印加される垂直方向上向きの力が垂直方向下向きに解除され、ストッパからポジショナが解除される。
【0402】
ポジショナ711および接続部材713が接続されているため、ポジショナ711の移動により、接続部材713および接続された針シース72、72’または72”の移動を制御することができる。それゆえ、シースストッパ715および716間のポジショナ711の移動により、針シース72、72’または72”を被覆位置と非被覆位置との間で移動させる。他の変形例では、ロックおよび解除機構は、ラッチまたはスイッチとすることができ、それは、たとえば、ラッチをスライドさせるか、またはポジショナ711のヘッドに取り付けられたレバーを回動させることにより、その機械的性質に応じて選択的に係合させたり係合解除させたりすることができ、それにより、シースストッパの溝のノッチまたは他の固定機構から外れるようにそれを移動させる。
【0403】
たとえば、
図13〜
図15を参照すると、針シースコントローラハウジング710は2つのシースストッパ715および716を含み、それらは、ポジショナ711の近位および遠位の側にて針シースコントローラハウジング710内に配置されている。
図13を参照すると、ポジショナ711がシースストッパ715または716の何れかに係合するとき、ばねなどのロックおよび解除部材712は、ポジショナ711に対して垂直方向上向きに、および、接続部材713に対して下向きに、力を発揮することができる。ポジショナ711を下方に押すことによって、力がロックおよび解除部材712に対して印加されない限り、ポジショナ711および接続部材713は、ロックおよび解除部材712によって及ぼされる力に起因して、垂直方向に互いに押し離される傾向を持っている。上向きにポジショナ711を押す力によって、ポジショナ711を先端シースストッパ715または基端シースストッパ716のいずれかで所定の位置にロックすることができる。ポジショナ711を垂直方向下向きに押圧する場合、ポジショナ711を溝から解放し、長手方向の前後方向に移動させることが可能となる。
【0404】
図13〜
図15は、シースストッパに対するポジショナ711の代替位置を示している。たとえば、
図13は、ポジショナ711が先端シースストッパ715に係合するかまたは嵌合する前方位置711aにおけるポジショナ711を示している。ポジショナ711が先端ストッパ715と係合すると、接続部材713はコントローラ管腔717内の最も遠い先端位置に長手方向に移動し、シースは針の先端を隠す伸長位置にある。
図14は、ポジショナ711が後方位置711cにある場合を示しており、そこでは、ポジショナ711は基端ストッパ716に係合または嵌合する。ポジショナ711が基端ストッパ716に係合すると、接続部材は、針シース管腔の基端部に向かって長手方向に移動し、それによって注射針を露出させる。
図15は、シースストッパのいずれかでそのロック位置からポジショナを解除し、長手方向軸に沿ってポジショナをスライドさせた後の、中間位置711bにあるポジショナ711を示している。この位置では、注射針81は、中間非被覆位置にあるが、完全には露出されていない。
【0405】
デバイスの先端部にて露出または非被覆とすることができる注射針81の範囲または長さは、ポジショナ711ひいてはシース位置を制御する接続部材713がロック位置間で移動する距離である、第1シースストッパおよび第2シースストッパ間の長手方向軸に沿った距離に関連している。たとえば、
図13〜
図15を参照すると、デバイスの先端部にて露出または非被覆することができる注射針81の範囲または長さは、先端シースストッパ715および基端シースストッパ716間の距離と実質的に同じであることができる。しかしながら、露出される注射針の範囲または長さは、非被覆のときの針シース先端部における注射針先端部のわずかな凹部に起因して、第1および第2溝ストッパ間の距離よりも若干長くまたは短くなり得ることは理解されよう。たとえば、注射針81の先端部が完全被覆位置72c内の針シース73先端部から後退している場合、注射針の露出され得る範囲または長さは、第1シースストッパおよび第2シースストッパ間の距離よりも短い。シースストッパ間の距離と実質的に同じくして露出される針は、1mm以下とわずかしか後退せず、それにより、シースストッパ距離と注射針を露出させ得る長さとの違いは、1mmまたは0.5mm以下である。例として、注射針81の先端はやや完全被覆位置72c内の針シース73の先端部から後退し、デバイス先端部で露出または非被覆とされ得る注射針の最大範囲または長さは、先端シースストッパ715および基端シースストッパ716間の距離から、注射針81の先端および完全被覆位置における針シース73の先端部の間のわずかな距離を差し引いたものである。
【0406】
他の例では、露出したまたは伸長された注射針の長さは、シースストッパ間の距離よりもかなり短い。この場合には、注射針が非被覆位置72cにおける針シース73先端部の内側に1mm超、大略的には非被覆位置72cにおける針シース73先端部から2mm〜5mm、後退するように、注射針を配置することができる。このように、注射針81の先端が完全被覆位置72cにおける針シース73の先端から後退しておれば、デバイス先端部で露出または非被覆とされ得る注射針の最大範囲または長さは、先端シースストッパ715および基端シースストッパ716間の距離から、注射針81の先端および完全被覆位置における針シース73の先端部の間の距離を差し引いたものである。
【0407】
非被覆時に露出される注射針81の範囲または長さは、経験的に決定することができ、ターゲット組織、治療される特定の対象、投与される薬剤、および、当業者の技量内の事項である他の要因の関数である。たとえば、非被覆となる注射針の範囲は、針の先端が関心対象のターゲット組織の実質組織を貫通可能な程度に十分な長さではあるが、反対側にまでターゲット組織を容易に通過または穿刺できるほどの長さではない。一般的に、非被覆時の露出した注射針の所望の長さは、大略的に5mm〜10mmなどの、2mm〜10mmまたは約2mm〜約10mmである。たとえば、肝臓のような一般的な成体組織は、10mm〜30mmの厚さを有する。組織の厚さは、たとえば、年齢、身長、体重、および/または、組織もしくは臓器の種類、などの対象の解剖学的寸法に応じて変化し得る。したがって、先端シースストッパ715および基端シースストッパ716間の距離は、大略的には5mm〜10mmなど、2mm〜12mm、2mm〜10mm等、2mm〜15mmである。
【0408】
本明細書におけるインジェクションデバイスの変形例では、2つ超のシースストッパ、たとえば、3、4、5またはそれ以上のシースストッパが、シースをロックするためにポジショナ711と別々にそれぞれ係合することができる針シースコントローラハウジング710に構成することができる。最も遠位のシースストッパとのポジショナの係合により、針シース内に注射針を完全に隠すよう、その完全な伸長位置にシースがロックされる。最も近位のシースストッパとのポジショナの係合により、針シース外部に注射針を最大露出させるよう、その完全な後退または開放位置にシースがロックされる。他のシースストッパは、その完全被覆または完全非被覆位置から露出注射針の長さを変化させる手段を提供する。したがって、露出した注射針81の長さは、複数の針シースロック溝を使用して変化させることができる。たとえば、基端715および先端716針シースストッパに加えて、いくつかの追加のシースストッパが基端および先端ストッパの間に存在してもよく、それにより、ポジショナ711および針シース72、72’または72”が、いくつかの異なる位置で、露出注射針81の異なる長さで、ロックされ得る。一例として、コントローラハウジング710は、2mmの距離だけ長手方向軸に沿って分離された4つのシースストッパを含むことができる。よって、ポジショナ711は4つの異なる位置にロックすることができ、2mm、4mmまたは6mmで被覆または露出可能なように注射針の位置決めをもたらすことができる。
【0409】
接続部材713は、ハウジング本体に沿って長手方向に伸びる中央空洞を含み、針シースコントローラ71、71’または71”を横断するデバイスの構成要素の周りで独立してスライドさせるのに十分な大きさ
を有している。たとえば、
図13〜
図15において、注入管またはプランジャは、その長手方向軸を横切って針シースコントローラの内部を横断することができる。特に、
図13は、針シースコントローラの内部を横断する中間注入管83を示し、接続部材713は、注入管83の周りで独立してスライドする中央空洞を含む。注入管83は、その基端部にて針シースコントローラ71に固定されている。
図14〜
図15に示されるように、プランジャ92’または92”はそれぞれ、長手方向に針シースコントローラ71’の内部を横断し、接続部材713は、プランジャ92’または92”を収容し、その周りでそれから独立してスライドする中央空洞を含む。プランジャは、針シースコントローラ71’内で移動可能であり、それには固定されていない。空洞の特定の幅や大きさは、それを経由して横断する特定の構成要素に依存している。接続部材713は、その内部中央空洞を通る構成要素(たとえば注入管またはプランジャ)から離脱し、独立して移動する。
【0410】
本明細書で提供されるインジェクションデバイスの態様では、針シースは、必要に応じて可視窓を有し、それにより、ターゲット臓器における針の配置を試験するために引き戻し流体の可視化を可能にする。広範な血管系を有するターゲット臓器の実質組織への注射のために、引き戻し流体を、実質組織への針の配置を確認するため、および、血管系または胆管への注射を回避するために使用することができる。注射部位で、針が血管またはターゲット臓器に置かれたかどうかを決定するために、少量の流体を引くためにわずかにプランジャを引き戻すことができる。針81が配置され、ターゲット注入部位を貫通した後、プランジャ92、92’または92”を、ターゲット部位へのシリンジ筒に含まれる治療薬などの流体を送達するために押下することができる。
【0411】
シリンジ筒91,91’または91”および/またはデバイスは、使い捨てまたは再使用可能とすることができる。たとえば、シリンジをデバイスと一体化する場合を除いて、シリンジ筒は、治療薬などの流体の注入または排出後に除去することができ、新しいロード済みのシリンジと交換され、またはリロードされ、再接続される。シリンジ筒がデバイス60で説明したように腹腔鏡ポートの外にある場合、腹腔鏡ポートからデバイスを引き出す必要なしにこれを達成することが可能である。いくつかの場合では、デバイスは、腹腔鏡ポートから引き出すことができ、一回の使用後に処分され得る。ローディングの方法ならびに採用されるシリンジおよびシリンジフォーマットのタイプは、経験的に決定され得、注射目的、ターゲット組織または臓器、必要な注射の用量および頻度、治療薬などの流体の特性、組成物、および外科的環境などの、当業者によって考慮される要因の関数である。
【0412】
説明を明確にするために、インジェクションデバイスの例示的な実施形態を以下に説明する。説明される実施形態において、デバイスの大略的態様および構成要素は同じであり、その異なる態様または構成要素は、そのように記載されていることが理解されよう。したがって、特記した場合を除き、様々な例示的な実施形態の説明および上述した実施形態の構造は、インジェクションデバイスの全ての実施形態に適用される。さらに、たとえば、低侵襲手術中におけるターゲット組織への治療薬などの流体の注入のために、インジェクションデバイスを使用する方法が、同様に全ての実施形態に適用される。使用される特定のインジェクションデバイスは、経験的に決定され得、注射目的、ターゲット組織または臓器、必要な注射の用量および頻度、治療薬などの流体の特性、組成物、および外科的環境などの、当業者によって考慮される要因の関数である。
【0413】
1.標準的なインジェクションデバイス
図9A、
図9B、
図13、
図16A、
図16Bおよび
図17A〜
図17Dは、インジェクションデバイス60ならびにその構成要素および特徴を示す。
図9Aおよび
図9Bに示すインジェクションデバイスは、針シース72、針シースコントローラ71、注射針81、シリンジ筒91およびプランジャ92を備える。
図9Aを参照すると、大略的に、インジェクションデバイスの針シース72は、関心対象のターゲットへの腹腔鏡アクセスを可能とする十分な長さを有し、250mm〜400mmなど、大略的に200mm〜600mmであり、大略的に、少なくとも300mmまたは略少なくとも300mmである。デバイスは、大略的に長手方向軸周りに円筒状であり、大略的に、針シース72領域およびプランジャ92領域においてより小さな直径を有し、針コントローラ71領域においてより大きな直径を有する。デバイスの針シース72部分は、一般的には、腹腔鏡ポートを通して挿入されている。針シース72の直径は、一般的に大きさが3mm〜12mmであり、一般的には5mm〜10mmである。腹腔鏡ポート外部のデバイスの部分が10mmよりも大きい直径を有し得ることが理解されよう。たとえば、針シースコントローラ本体71は、操作者にとって容易に把持または取扱い可能である限り、十分に大きな直径を有することができる。操作者、一般的には、外科医が、針シースコントローラ本体71を保持し、プランジャ92を操作しながら、デバイス60を操作および位置決めし、針シース72を制御し、デバイスを支持する。
【0414】
シリンジ筒91は、プランジャがシリンジ筒内部で前後に移動できるようにプランジャ92に嵌合することができる、中空中心を有する円筒形状である。シリンジ筒は、一般的に透明で透過性である。シリンジ筒91は、プラスチックまたはガラスまたは他の適切な材料から作製することができ、特に、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートまたは他の透明な材料のようなプラスチックから作られる。上述したように、シリンジ筒91は、筒内の薬剤の量を示すために、外表面にキャリブレーションまたはマーキングを含むことができる。上述したように、シリンジ筒91は、0.5mL〜20mL(すなわち、0.5cc〜20cc)の範囲である容積容量を有することができ、大略的に、少なくとも1mLまたは少なくとも約1mL(すなわち1cc)シリンジなどの、0.5mL〜3mL(すなわち0.5cc〜3cc)である。一般的には、治療薬などの流体200μL〜600μLが、ターゲット場所に送達され、シリンジ筒の容量は、1mLである。
【0415】
シリンジ筒91は、注射針81の近位に配置され、針シースコントローラ71の基端側に配置される。
図9Aに示すように、シリンジ筒91の先端部は、針シースコントローラ71の近位側で針ハブ84に対応可能なルアー嵌合アダプタ93を含んでいる。シリンジ筒91は、ルアー嵌合ロッキング機構の操作により、針シースコントローラ71および接続された針シース72に対して、取外しおよび取り付け可能である。
図9Aは、取外し位置900aにおけるシリンジを示している。このように、治療薬、組成物または他の溶液などの流体をシリンジ筒へと汲み上げるまたはシリンジにロードするときに、無菌シリンジ筒91を簡便に使用することができる。所望の場合、別々の無菌針をルアー嵌合アダプタ93に嵌合することができ、それにより、治療薬などの流体をシリンジ筒91にローディングすることができる。薬剤がシリンジに引き上げられた後、(針なしの)シリンジ筒91は、シリンジ筒91先端部のルアー嵌合アダプタ93および針シースコントローラ71基端部の針ハブ84を介して針シースコントローラ71に固定することができる。いくつかの場合では、標準的なルアー嵌合アダプタ93を有するプリロードされたシリンジaを接続することができる。
図9Bは、連結位置900bにおいて、針シースコントローラに固定されたシリンジ筒91を有するインジェクションデバイス60を示している。取外しおよび取り付け可能なシリンジ筒91を有するデバイス60の利点として、シリンジ筒のローディングとロードされたシリンジの交換のしやすさがある。標準的なシリンジは、針シースコントローラ71に接続するために使用することができるので、様々なシリンジタイプを使用することができ、必要に応じてシリンジのいくつかの異なる種類を、一人の患者に使用することができる。シリンジを再ロードする必要がある、または追加の流体が必要とされる場合には、新しいまたはリロードされたシリンジを容易に接続することができる。
【0416】
プランジャ92は、デバイス60の基端部に位置しており、シリンジ筒91の内側に沿って引いたり押したりできるように移動可能である。プランジャ92は、流体をシリンジ筒91にロードするために引き戻され得、または、ターゲット組織に流体を注入するために押し下げられ得る。プランジャ92は、針配置を試験するために注入部位にて引き戻すことができる。プランジャは、シリンジ筒91を通って移動可能な円筒形であり、たとえばポリプロピレンやポリエチレンといったプラスチックなどの、シリンジ筒を通して容易に移動可能な材料で作られている。プランジャは、デバイス基端部にヘッド95を含み、ヘッド95は、プランジャを操作するために操作者によって簡便に把持され得る。プランジャヘッド95はまた、大略的にプラスチックで作られている。プランジャ92の先端部は、シリンジ筒91内を移動するときにシリンジ筒91内に気密シールを提供するために、大略的に、シリコーンまたは他の天然もしくは合成ゴムで作られている。
【0417】
プランジャ92は、シリンジの先端部を通して(および接続されている場合は針や管に)流体を排出するために、シリンジ筒91の内側との協働を可能にするのに十分な長さである。たとえば、プランジャは、5cm〜30cmまたは10cm〜20cmなど、5cm〜50cmである。プランジャ92を引き戻すと、治療薬などの流体、または空気を吸入し、プランジャ92を押すと、治療薬などの流体、または空気をシリンジ筒の外に押し出す。必要に応じて、プランジャは、プランジャ92に対してシリンジ筒91の操作を補助することができるシリンジ筒ベース94を含むことができる。
【0418】
シリンジ筒91および/またはデバイス60は、使い捨てまたは再利用可能とすることができる。たとえば、ルアー嵌合アダプタ93を介して針シースコントローラ71の基端側に接続されたシリンジ筒91は、腹腔鏡ポートからデバイスを引き出す必要性の有無にかかわりなく、治療薬などの流体の注入の後に除去することができ、新たなロードされたシリンジと交換可能であり、またはリロードおよび再接続され得る。デバイス60は、腹腔鏡ポートから取り出し、一回の使用後に廃棄することができる。
【0419】
デバイス60は、針81の先端部で被覆および非被覆とすることができる針シース72の内側に配置される注射針81を含む。
図9Aを参照すると、針シース73の先端部は、針導管733を含み、針導管733は、
図9Bに示すように、非被覆のときに針シース72の外側に針を案内する。
図9Bに示すように、注射針81は、組織または臓器を貫入または穿刺するのに十分な傾斜先端部を含んでいる。
【0420】
図13は、シリンジ筒91の先端部および針シースコントローラ71の拡大断面図を示している。
図13に示すように、プランジャ92は、シリンジ筒91内に収容され、シリンジ筒91は必要に応じてシリンジベース94を含むことができ、プランジャ92は、シリンジ筒91内を移動可能である。針シース72の動きを制御し、デバイスの基端部および先端部を接続し、直接的または間接的に中間注入管83に接続された注射針81がデバイスの基端部および先端部の間を移動する導管である構成要素を、針シースコントローラ71は含む。針シースコントローラ71は、外科医などの操作者によって保持および操作されるように構成されている。上述したように、針シースコントローラ71は、操作者がデバイスを保持および操作するのを可能にするのに便利である任意の形状およびサイズとすることができ、一般的には円筒形状である。針シースコントローラ71の直径は、平均的な大人の手のひらに保持することができるようなものであり、針シースコントローラ71は、一般的に直径20mm〜100mmおよび長さ50mm〜225mmである。針シースコントローラ71は、必要に応じて、取扱いのために外部グリップを含むことができる。
【0421】
図9A、
図9Bおよび
図13に示すように、針シースコントローラ71は、針シースコントローラ71内部の構成要素および針シース72の基端部を囲むコントローラハウジング710を含む。上述したように針シースコントローラハウジング710は、プラスチックもしくはゴムを含む任意のポリマー材料、金属、セラミック、複合材料、もしくは当業者に公知の他の適当な材料のような、任意の適切な弾性および剛性材料で作ることができる。コントローラハウジング710は、一般的には、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン、ゴムやアクリルで形成されている。上述したように、ハウジング710は、当業者に公知の任意の製法によって作製することができ、1つの単一部品として形成することができ、または、接着剤、ロッキングジョイントもしくは留め具などを用いて、一緒に結合している2つ以上の片から形成することができる。
【0422】
図9Aおよび
図9Bに示すように、針シースコントローラ71は、外部アクセス可能なポジショナ711を含む。上述したように、ポジショナ711が針シースコントローラ71に対して前後両方に移動可能であるように、ポジショナ711は針シースコントローラ71内に構成されている。前述のように、ポジショナ711は、接続部材713を介して針シース72に係合して、針シース72をスライドさせるために使用することができる。2つの固定またはロック位置、すなわち被覆および非被覆位置、の間の針シースの移動を制御するために、前方または後方位置の間でポジショナ711の移動が、この接続により可能である。被覆位置では、注射針が保護されまたは隠され、一方、非被覆位置では、針が露出される。
【0423】
図13を参照すると、接続部材713は、針シース72の基端部およびポジショナ711の下部に接続されている。針シース基端部との接続部材713の接続により、針シース72が長手方向に、コントローラハウジング710および注射針81に対して移動可能である。たとえば、接続部材713の外側の先端部は、その周囲において針シース72の近位側内部空洞に係合している。ポジショナ711および針シース72とコントローラ部材713との接続は、溶接、接着剤、ロッキングジョイント、留め具または他の適切な手段で行うことができる。
【0424】
大略的に上述したように、接続部材713は、ハウジング710に対して両端で閉じられた針シースコントローラ71のハウジング710の内部に含まれる中空空洞または管腔717内部を移動する。接続部材713が容易に滑走し、または制限された方法で前方または後方に移動することができるよう、コントローラ管腔717は、接続部材713を収容する。たとえば、接続部材713は、円筒状であってもよく、円筒状の中空の管腔空洞717内に嵌合し得る。
図13に示すように、さらに以下に説明するように、接続部材713は、通過する注入管83に嵌合するように内部中空空洞を含んでいる。
【0425】
接続部材713の移動は、ポジショナ711によって制御される。
図9A、
図9Bおよび
図13に示すように、ポジショナ711は、針シースコントローラ71から突出する突出上部またはヘッドを含み、操作者によって前方または後方に移動させられ得る。
図13に示すように、針シースコントローラ71の内部において、ポジショナ711の本体は、その側面が切り欠かれているか、そうでなければシースストッパ715または716と係合するように構成されている。シースストッパ715または716は、針シースコントローラハウジング710内の溝であり、溝はポジショナのノッチ体に嵌合し、ポジショナ711が移動できないように、ポジショナ711をトラップする。
【0426】
図13は、シースストッパ715または716の溝へのポジショナのロックおよび解除を容易にするために、ポジショナ711内に構成された任意選択のロックおよび解除部材712を示している。たとえば、ロックおよび解除部材712は、ばねまたは他の弾性手段であり得る。ロックおよび解除部材712によりシースストッパ715または716の溝でポジショナ711のロックおよび解除を制御する機構は、上述の通りであり、これにより、下向きの、縦または横方向の力が、シースストッパ715または716からポジショナ711を解除またはロックする。ポジショナ711を押し下げると、ポジショナはスライドして、シースストッパ715または716の何れかに嵌合し得る。
【0427】
シースストッパ715および716間のポジショナ711の移動により、接続部材713が移動し、それにより、操作者によるポジショナの制御によって、被覆および非被覆位置から移行できるよう、針シース72が移動する。
図13に例示するようにポジショナが前方位置711aにあるとき、基端シースストッパ716は自由であり、ポジショナ711は先端シースストッパ715に嵌合し、それにより、注射針が保護されるように、注射針が被覆される。
図13には示されていないが、ポジショナ711はまた、
図14に例示するように後方位置711cにあることができ、先端シースストッパ715は自由であり、ポジショナ711は基端シースストッパ716に嵌合し、それにより、注射針が露出されるように、注射針が非被覆とされる。さらなる位置として、ポジショナ711を
図15に例示するように中間位置711bにもすることができ、そこでは、先端シースストッパ715および基端シースストッパ716両方が自由であり、ポジショナ711と係合してはいない。
【0428】
図9Bに示す注射針81は、
図9Aおよび
図5に示すように、中間注入管83を介して間接的にシリンジ筒91に接続される。注入管83には、シリンジ筒91のルアー嵌合アダプタ93で固定された近位針ハブ84が含まれている。注入管83は、針シースコントローラハウジング710に直接、固定され、それにより、注入管は、したがってデバイスの先端部にてそこに結合された注射針は、可動ではない。
【0429】
図13に示すように、注入管83は、針シースコントローラ71の内部管腔717を通過し、接続部材713の中央空洞を通過するが、直接、接続部材に接続されていない。したがって、接続部材713は、固定された注入管83の周りを独立して移動することができる。上述したように、針シース72は直接、コントローラ管腔717に含まれる接続部材713に接続されているので、注入管83は、針シースコントローラ71の内側の針シース72の管腔723に入る。注入管83は、針シースコントローラ71の先端部から出て、それが針シース72の中空空洞内に含まれる。
【0430】
図16Aおよび
図16Bを参照すると、針シース72を通って注入管83が遠位方向および長手方向に走行し、それは注射針81に接続されている。注入管83および注射針81は、一体として形成することができ、または、複数の別個の部品として形成することができる。注入管および注射針81が一体で形成されているとき、注入管83は、近位領域においてより大きな直径を有し、注射針81近くの遠位領域においてより小さな直径を有する、細長いテーパー針とすることができる。任意選択的に、同一または異なる材料で作られた針カプラ85は、間接的に2つの部分を接続するために使用することができる。注入管83および注射針81は、同じ材料または異なる材料で作ることができる。注入管83および注射針81は、同じ直径または異なる直径を有する。
【0431】
図16Aおよび
図16Bに示すように、注入管83を間接的に針カプラ85を介して注射針81に結合する。カプラ85は、溶液が通れるよう連続的な密封流体通路を形成するために、注射針81に注入管83を接続している。接続は、溶接、接着、成形、または、安全で信頼性の高いシールを作成する他の方法によって行うことができる。カプラ85は、シールを提供するのに適した任意の生体適合性および薬物適合性材料から形成され得、大略的にプラスチックで
できている。カプラ85は、透明または透過性または不透明であることができる。たとえば、カプラ85は、ポリカーボネートまたは他の透明な材料で作ることができる。さらに以下に説明するように、針シース72に、引き上げられた流体を視認するための任意選択の可視窓724が含まれている実施形態では、針カプラ85は、大略的に、窓を通る流体または溶液の可視化を可能にするために透明または透過性である。
【0432】
注射針81には、組織または臓器を貫入または穿刺するのに十分な傾斜した先端が含まれている。注射針81は、一般的には、外科用ステンレス鋼または他の医療グレード金属などの、金属または合金からなる。注射針81の大きさおよび直径は、上記パラメータに基づいて選択される。上述したように、一般的には、小径針81は、ターゲット組織または臓器に針を挿入するために必要な力を低減するために、および、ターゲット組織または臓器への外傷を低減するために使用される。たとえば、注射針81は、25ゲージ、26ゲージ、27ゲージ、28ゲージ、29ゲージ、30ゲージまたは31ゲージ針などの25〜34ゲージであり、一般的には27ゲージである。
【0433】
注入管83のゲージは、注射針81と同じでも異なっていてもよい。本明細書で提供されるデバイスは、しかしながら、流体が横断する経路全体にわたって圧力降下を最小にするよう、大略的に設計されている。流体カラム内の圧力に影響を与える要因には、針の長さ、含まれる流体の粘性、流体の送達速度、および針のゲージが含まれる。デバイスは、プランジャ92を押し下げるための合理的な軸力要件を有するように設計され、それによって十分な射出圧力で腹腔鏡方法で流体の送達を可能にする。たとえば、ターゲット臓器に流体を注入するために、プランジャ92を押すのに必要な軸力は、一般的には2ポンド(lbf)未満の力、好ましくは1lbf未満である。プランジャ92を押し下げるために必要な軸力は、流体送達の所望速度に依存し、最適圧力も、操作者に依存し得る。いくつかの場合では、有意な注入力が、腹腔鏡装置の長い針を介して流体を注入するために必要とされ得る。流体が注入管83を横切るときの、即時の有意な圧力低下を防止するために、より大きなゲージの注射管を使用することができる。したがって、注入管83、カプラ85および注射針81からなる連続的な密封流体経路によって作成された長い経路のために発生し得る圧力降下を減少させるために、注入管83は、大略的に、注射針81よりも大きな直径を有している。
【0434】
たとえば、シリンジ筒91が、注射針81に対して少なくとも300mmの近位に配置されており、治療薬などの流体が針シースシャフト72を通る長い経路を横断する必要がある場合は、有意の圧力降下が発生し得る。この場合には、より大きな直径の注入管83が使用され得、より小さな直径を有する注射針81に結合され、狭い針80を横断する際の大きな圧力降下を防止する。注入管83を注射針81と結合させるために、任意選択の針カプラ85を使用することができる。針カプラ85には、針シース管腔723内の適所に針部品の位置を安定的に保持するために注入管83と注射針81を圧入することが可能な凹部が含まれている。針カプラ85は、必要に応じて針カプラ85の凹部における注入管83と注射針81との結合を容易にするために、結合部材82を含むことができる。
【0435】
注入管83と注射針81のゲージが異なる場合は、カプラ85は、対向する径に適合するような大きさにすることができ、たとえば、それは、その基端部または先端部にて面取りすることができる。特定の例において、注入管83は、15ゲージ〜25ゲージであり、注射針81は、25ゲージ〜34ゲージである。たとえば、注入管83は、21ゲージであり、注射針81は、27ゲージである。注入管83は、任意の外科用グレード材料などの、金属またはプラスチックで作ることができる。注入管83、カプラ85および注射針81の組み合わせた長さは、シリンジ筒91の先端部から針シース72の先端部へと通過するのに十分な長さであり、それは100mm〜600mm長であり、大略的には少なくとも300mmまたは略少なくとも約300mmである。注入管83、カプラ85および注射針81の特定のサイズは、ユーザが選択することができ、たとえば、利用可能な注射針の利便性に依存し得る。たとえば、一般的に使用される注射針は12.7mm、25.4mmまたは38.1mm針のようなサイズとされている。
【0436】
注入管83、カプラ85および注射針81によって形成された連続的な密封流体経路は、針シースの空洞または管腔723の内部空洞を通過し、横断する。針カプラ85はまた、注入管83および注射針81を保持し、それにより、シースが被覆位置72aおよび非被覆位置72c間を移動する際に、針シース72が、注入管83、針カプラ85および注射針81を介してスライドできるようになっている。たとえば、針カプラ85は、中空の円形シース管腔723に緩く嵌合する。したがって、針カプラ85から独立して針シース72が移動する。針カプラ85は、金属、プラスチックおよびセラミックなどの任意の生体適合性および薬物適合性の剛性材料で作ることができ、一般的には、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのプラスチックで作られている。注入管83および注射針81は、針カプラ85、したがって、ハウジング710との安定した固定関係を作成するために、針カプラの凹部に圧入することができる。任意選択の結合部材82は、針カプラ85の凹部内部に存在することができ、注入管83および注射針81に接続することができる。結合部材82は、溶接、接着、成形または確実かつ信頼性の高いシールを作成する他の方法によって、中間注入管83および注入管81のそれぞれに結合される。結合部材82は、金属、プラスチック、およびセラミックを含む、任意の生体適合性および薬物適合性の剛性材料で作ることができ、一般的には、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのプラスチックで作られている。
【0437】
デバイス60の先端部において、針シース72は、針導管733を含む針シースの先端部73において終了する。針導管733は、注射針81に嵌合するように十分に寸法決めされ、それにより、針シース72の移動に伴って、注射針を延ばすことも、針導管733を通って後退させることも可能である。
図16Aでは、注射針81は、針シース72によって覆われており、針導管733の先端部を横断しない。
図12Aを参照すると、
図16A中のデバイス60は被覆位置72aにある。
図16Bでは、注射針81は、針シース72の外に伸長され、針導管733の先端部を横断しない。
図12Cを参照すると、
図16B中のデバイス60は、非被覆位置72cにある。
【0438】
非被覆位置では、針シース72が引き戻されるが、注入管83、針カプラ85および注射針81は固定されており、移動しない。たとえば、
図16Bに示すように、針シース72が引き戻されるので、針カプラ85の先端部およびデバイスの先端部73間のシース管腔723の寸法は、
図16Aに示す対応シース管腔の寸法に比べて短縮されている。これは、上記の
図13を参照して説明したように、ポジショナ711を使用したシースの移動は、針シース72の移動を制御するだけであり、一方、デバイスの注射針81および他の構成部品は、ポジショナ711の位置にかかわらず静止していることを示している。
【0439】
上記のように、非被覆位置において、注射針81が伸長される、またはデバイス60の外部に露出される範囲は、
図13に示すように、シースストッパ715および716間の距離の関数である。この距離は、デバイスの特定の用途、特定のターゲット組織、処置対象および他の考慮事項の関数である。たとえば、露出している非被覆針は、それが容易にターゲット組織の反対側に貫通することができるほど長くすべきではない。大略的に、大部分のターゲット組織(たとえば、肝臓)に関しては、非被覆または露出可能な、
図16B、
図17Bおよび
図17Dに示される注射針81の部分は、大略的に、2mm〜10mmなどの1cm未満であり、大略的に5mm以下である。子供の場合は、長さがより小さくなり得、大略的に4mm未満である。子宮内での用途では、長さは2mm〜3mmとすることができる。
【0440】
針シース72は、中実であってもよく、または、透過性または透明とすることもできる。いくつかの場合において、針シース72は、任意選択の可視窓724を含んでいる。上述したように、可視窓724の存在は、投与薬剤または溶液ならびに引き戻し流体の可視化を可能にする。たとえば、いくつかの用途では、血管または胆管への注入ではなく実質組織への直接注入が必要とされるので、血管系や胆管への注入を回避しつつ、針が貫入している領域から流体を引き戻し、視覚化する能力を使用して、実質組織への針の配置を確認することができる。デバイス60が長く、プランジャ92が本体の外にあるので、注入部位により近く、腹腔鏡の視野内にある流体経路を視覚化すると便利である。これを達成するために、可視窓724は、必要に応じて透明または透過性の針カプラ85を介して流体経路を可視化するために、針シース72内に存在することができる。
図17Aおよび
図17Cは、被覆位置72aにある
図16Aに示す針シースの対応する斜視図を提供する。
図17Aでは、針シース72は中実であり、シース内部の注射針を可視化することができない。
図17Cでは、針シース72には、注射針などの針シース72の内部構成要素の可視化を可能にする可視窓724が含まれている。同様に、
図17Bおよび
図17Dは、非被覆位置72cにある
図16Bに示す針シースの対応する斜視図を提供する。
図17Bでは、針シース72は中実であり、シース内部の注射針81が伸長されるが、それ以外は針シース72の内側を可視化することができない。
図17Dでは、針シース72には、シースの外に伸長されていない注射針81の部分を含む針シース72の内部構成要素の可視化を可能にする可視窓724が含まれている。
図17Bおよび
図17Dにおける可視窓724は、例示目的のみであり、可視窓は、任意の所望のサイズとすることができることが理解されよう。たとえば、可視窓はシース全体に拡張することができる。それはまた、遠位方向に延び、針シース73の先端部の部分を含むことができる。他の変形例も意図されており、この記述を考慮して当業者によって容易に想定され得る。
【0441】
シリンジ筒および/またはデバイスは、使い捨てまたは再利用可能とすることができる。たとえば、ルアー嵌合アダプタ93を介して針シースコントローラ71の基端側に接続されたシリンジ筒91は、治療薬などの流体の注入または排出後に除去することができ、腹腔鏡ポートからデバイスを引き出す必要なしに、新しいロード済みシリンジと交換され、またはリロードおよび再接続され得る。いくつかの場合において、デバイス60は、腹腔鏡ポートから引き出すことができ、一回の使用後に廃棄または再利用することができる。
【0442】
上記の図を参照すると、インジェクションデバイス60の動作モードの例は、治療薬などの流体でシリンジ筒91及びプランジャ92を含む標準的なシリンジ(たとえば、1mLのインシュリンシリンジ)をロードすることを含み、その後、シリンジ筒91のルアー嵌合アダプタ93と注入管83に接続された針ハブ84とを介して針シースコントローラ71にシリンジが接続される。シリンジ筒91がロードされ、針シースコントローラ71に接続されると、針シース72は、被覆位置72aに配置することができ、デバイスは、注射の部位の近くに配置されるように、腹腔鏡ポートに挿入することができる。注射(ターゲット組織)の部位に、針シース72は、非被覆72cとすることができ、注射針81は、注射のために露出させることができる。必要であれば、プランジャ92は、注射部位で注射針81の配置を試験するために、注射部位から流体を引き出すために引き戻すことができる。任意選択の可視窓724は、注射部位から引き戻し流体を可視化するために使用することができる。針の配置部位が決定されると、プランジャ92は、ターゲット組織において、治療薬などの流体を注入するために、押下することができる。注射後、針シース72は、非ターゲット臓器を保護し、偶発的な針穿刺を防止するために、被覆位置72aに配置することができ、その後、注射部位から腹腔鏡ポートを介して腹腔鏡装置を除去する。
【0443】
2.一体型インジェクションデバイス
図10、
図14および
図18A〜
図18Dは、インジェクションデバイス60 ’とその構成要素および特徴とを示している。
図10に示すように、インジェクションデバイスは、針シース72’、針シースコントローラ71’、注射針81、シリンジ筒91’およびプランジャ92’を含む。インジェクションデバイスの針シース72’は、関心対象のターゲットへの腹腔鏡下アクセスを可能にするのに十分な長さのものであり、大略的に250〜400mmなどの200mm〜600mm長であり、大略的に、少なくとも300mmまたは略少なくとも300mmである。デバイスは、大略的に長手方向軸の周りに円筒状であり、大略的に、針シース72’領域とプランジャ92’領域とにおいてより小さな直径を有し、シースコントローラ71’領域においてより大きい直径を有する。デバイスの針シース72’は、一般的にポート(たとえば、腹腔鏡ポート)を介して挿入されている。針シース72’の直径は、一般的に3mm〜12mmの大きさであり、一般的には5mm〜10mmである。腹腔鏡ポート外部のデバイスの部分が10mmよりも大きい直径を有し得ることが理解されよう。たとえば、針シースコントローラ本体71’は、それが容易に操作者により把持または取り扱いされ得る限り、十分に大きな直径を有することができる。操作者、一般的に外科医は、針シースコントローラ本体71’を保持し、デバイス60を操作および配置して、プランジャ92’を操作しながら、針シース72’を制御し、デバイスを支持する。
【0444】
シリンジ筒91’は、プランジャ92’に嵌合可能な中空中心を有する円筒形状であり、それにより、プランジャがシリンジ筒内部で前後に移動できる。シリンジ筒は、大略的に透明で透過性である。シリンジ筒は、プラスチックまたはガラスまたは他の適切な材料から作製することができ、特に、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートまたは他の透明な材料などのプラスチックで作られている。大略的に上記したように、シリンジ筒91’は、筒内の薬剤の量を示すために、外面にキャリブレーションまたはマーキングを含むことができる。上述したように、シリンジ筒91’は0.5mL〜20mL(すなわち、0.5cc〜20cc)の範囲である容積容量を有することができ、大略的に、少なくとも1mLまたは約1mL(すなわち1cc)シリンジなどの0.5mL〜3mL(すなわち0.5cc〜3cc)である。一般的には、治療薬などの流体200μL〜600μLが、ターゲット場所に送達され、シリンジ筒の容量は、1mLである。
【0445】
シリンジ筒91’は、針シースコントローラ71’の先端側に位置している。
図10に示すように、シリンジ筒91’が一体化され、針シース72’の最先端部管腔の中に含まれている。このように、シリンジ筒は、針シース72’によって囲まれている。
図18Aおよび
図18Bに示されるように、以下でより詳細に説明するとおり、シリンジ筒91’は直接、シース空洞の管腔723に接続されていないが、それは、針シースコントローラ71’に対して移動不能であるように配置されている。このように、本実施形態では、シリンジ筒91’は、針シース72’から取り外し可能ではない。
【0446】
針シース72’は、不透明にすることができ、透過性または透明とすることもできる。大略的に、針シース72’は不透明であるが、統合されたシリンジ筒91’の可視化のための可視窓725が含まれている。デバイス60’は、針シース72’内に封入されたシリンジ筒91’を含むので、さもなければ見えないが、可視窓725の存在によりシリンジ筒上の目盛つきマーキングの可視化が可能となり、薬剤または溶液の引き上げを支援する。投与される薬剤または溶液の可視化を可能にすることに加えて、可視窓725の存在は引き戻し流体の可視化を可能にする。たとえば、いくつかの用途では、血管または胆管へではなく、実質組織への直接注入を必要とするため、針が貫入している領域から流体を引き戻して視覚化する能力を使用して、血管系や胆管への注射を回避しつつ、実質組織内への針の配置を確認することができる。可視窓725は、ガラスあるいはポリカーボネート等の透明プラスチックから形成することができる。可視窓725は、針シース72’の本体に直接、統合されている。可視窓は針シース72’の全周を囲むことができ、または部分的に針シース72’の周囲を囲むことができる。可視窓725は、任意の所望の長さであり得、シリンジ筒91’の部分が可視窓725下に露出される限り、針シース72’に沿ってどこにでも配置することができる。大略的に、可視窓725は、シリンジ筒91’の先端部を露出させるが、シリンジ筒91全体を露出させることはできない。可視窓725は10mm〜300mmであり得、大略的に20mm〜100mm長であることができる。
【0447】
プランジャ92’がデバイス60’の基端部に配置されており、針シースコントローラ71’および針シース72’を通過し、シリンジ筒91’に係合および到達され得る。プランジャ92’は、針シースコントローラ71’、針シース72’およびシリンジ筒91’を介して移動可能であり、それにより、シリンジ筒91’の内側に沿って引いたり押したりすることができる。プランジャ92’は、シリンジ筒91’に治療薬などの流体をロードするために引き戻され得、または、ターゲット組織では、治療薬などの流体を注入するために押され得る。プランジャ92’は、針配置を試験するために注射部位にて引き戻すことができる。プランジャは、円筒形であってシリンジ筒91’内を移動し、針シースコントローラ71’、針シース72’およびシリンジ筒91’を介して容易に移動可能である材料で作られている。一般的には、プランジャ92’は、たとえば、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどのプラスチックで作られている。プランジャは、デバイス基端部にヘッド95を含み、ヘッド95は、プランジャを操作するために操作者によって簡便に把持され得る。プランジャヘッド95はまた、大略的にプラスチックで作られている。プランジャ92’の先端部は、シリンジ筒91’内を移動するときにシリンジ筒91’内に気密シールを提供するために、大略的に、シリコーンまたは他の天然もしくは合成ゴムで作られている。
【0448】
プランジャ92’は、シリンジの先端部を通して、それに接続されている針81へと、治療薬などの流体を排出するために、シリンジ筒91’の内側との協働を可能にするのに十分な長さである。プランジャは本質的にデバイスの長さを伸長するので、プランジャは、大略的にシースと少なくとも同じ長さであり、それは腹腔鏡ポートの外側に延びるので、大略的にはより長い。たとえば、プランジャ92’は、300〜600mmなどの200mm〜800mmであり得、大略的には少なくとも300〜400mmまたは略少なくとも300〜400mmであり得る。プランジャ92’を引き戻すと、治療薬などの流体、または空気を吸入し、プランジャ92’を押すと、治療薬などの流体、または空気をシリンジ筒の外に押し出す。
【0449】
デバイス60’は、針81の先端部で被覆および非被覆とすることができる、針シース72’の内側に配置される注射針81を含んでいる。
図18Aを参照して、以下でより詳細に説明するように、針シース73の先端部は、
図10に示すように非被覆である場合に、針シース72’の外側に針を案内する針導管733を含んでいる。
図10に示すように、注射針は、組織または臓器を貫入または穿刺するために十分な傾斜先端部を含んでいる。
【0450】
さらに以下に説明するように、注射針81を直接、デバイスの先端部でシリンジ筒91’に取り付けているので、注射針は、比較的短い。これは、より長い針で発生し得る圧力降下の問題を回避する。これはまた、シリンジ筒91’にロードされるが、デバイスから排出されて組織内に注入され得ない流体の容積である、デバイス60’におけるデッドボリュームが大略的に小さいことを意味する。治療薬はしばしば高価であり、または限りがあるので、デッドボリュームの量を最小化するインジェクションデバイスが有利である。デッドボリュームの量に影響を与える要因には、針の長さ、針の直径、およびシリンジ筒の直径が含まれる。長い針の場合には、針内の空気の量は、多くの場合、患者およびターゲット組織および/または臓器において許容できない。したがって、空気を針から除去する必要があり、針はしばしば「プライミング」されている。注入後、プランジャの先端と注射針81の先端との間の流路内に残留する流体の量が完全に排出され得ず、したがって、デッドボリュームをもたらす。長い針の場合には、デッドボリュームの量がこのようにより大きくなっている。デバイス60’において、シリンジ筒91’は、針シース72’の先端に密接して位置しており、デッドボリュームがシリンジ筒91’の先端および注射針81でのみ発生する。
【0451】
図14は、針シースコントローラ71’および針シースコントローラ71’を介して伸長されたプランジャと92’の拡大断面図を示す。針シースコントローラ71’は、針シース72’の基端側に配置されている。針シースコントローラ71’には、デバイスの基端部および先端部を接続する針シース72’の動きを制御する構成要素が含まれており、プランジャ92’がデバイスの基端部および先端部の間で移動する導管である。針シースコントローラ71’は、外科医などの操作者によって保持および操作されるように構成されている。上述したように、針シースコントローラ71’は、操作者がデバイスを保持し、操作するのを可能にするのに簡便な任意の形状およびサイズとすることができ、一般的には円筒形状である。針シースコントローラ71’の直径は、平均的な大人の手のひらに保持することができるようなもので、大略的に直径20mm〜100mm、長さ50mm〜225mmである。針シースコントローラには、必要に応じて取扱いのための外側グリップを含めることができる。
【0452】
図10および
図14に示すように、針シースコントローラ71’は、針シースコントローラ71’の内部構成要素および針シース72’の基端部を囲むコントローラハウジング710を含む。上述したように、針シースコントローラハウジング710は、プラスチックもしくはゴムを含む任意のポリマー材料、金属、セラミック、複合材料、または当業者に公知の他の適切な材料などの、任意の適切な弾性および剛性材料で作ることができる。コントローラハウジング710は、一般的には、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン、ゴムまたはアクリルで形成されている。上述したように、ハウジング710は、当業者に公知の任意の製法によって作製することができ、1つの単一部品として形成することができ、または、接着剤、ロッキングジョイントもしくは留め具などを用いて、一緒に結合している2つ以上の片から形成することができる。
【0453】
図10および
図14に示すように、針シースコントローラ71’は、外部アクセス可能なポジショナ711を含む。上述のように、ポジショナ711が針シースコントローラ71’に対して前後両方に移動可能となるように、ポジショナ711は、針シースコントローラ71’内に構成されている。前述のように、ポジショナ711は、接続部材713を介して針シース72’に係合して、針シース72’をスライドさせるために使用することができる。2つの固定またはロック位置、すなわち被覆および非被覆位置、の間の針シースの移動を制御するために、前方または後方位置の間でポジショナ711の移動が、この接続により可能である。被覆位置では、注射針が保護されまたは隠され、一方、非被覆位置では、針が露出される。
【0454】
図14を参照すると、接続部材713は、針シース72’の基端部およびポジショナ711の下部に接続されている。針シース基端部との接続部材713の接続により、針シース72’が長手方向に、コントローラハウジング710および注射針81に対して移動可能である。たとえば、接続部材713の外側の先端部は、その周囲において針シース72’の近位側内部空洞に係合している。ポジショナ711および針シース72’とコントローラ部材との接続は、溶接、接着剤、ロッキングジョイント、留め具または他の適切な手段で行うことができる。
【0455】
大略的に上述したように、接続部材713は、ハウジング710に対して両端で閉じられた針シースコントローラ71’のハウジング710の内部に含まれる中空空洞または管腔717内部を移動する。接続部材713が容易に滑走し、または制限された方法で前方または後方に移動することができるよう、コントローラ管腔717は、接続部材713を収容する。たとえば、接続部材713は、円筒状であってもよく、円筒状の中空の管腔空洞717内に嵌合し得る。
図14に示すように、さらに以下に説明するように、接続部材713は、通過するプランジャ92’に嵌合する大きさの内部中空空洞を含んでいる。
【0456】
接続部材713の移動は、ポジショナ711によって制御される。
図10および
図14に示すように、ポジショナ711は、針シースコントローラ71’から突出する突出上部またはヘッドを含み、操作者によって前方または後方に移動させられ得る。
図14に示すように、針シースコントローラ71’の内部において、ポジショナ711の本体は、その側面が切り欠かれているか、そうでなければシースストッパ715または716と係合するように構成されている。シースストッパ715または716は、針シースコントローラハウジング710内の溝であり、溝はポジショナのノッチ体に嵌合し、ポジショナ711が移動できないように、ポジショナ711をトラップする。
【0457】
例示的なデバイス60を用いて
図13にて例示したように、シースストッパ715または716の溝へのポジショナのロックおよび解除を容易にするために、ポジショナ711内に構成された任意選択のロックおよび解除部材712を、デバイス60’はまた含んでいる。たとえば、ロックおよび解除部材712は、ばねまたは他の弾性手段であり得る。ロックおよび解除部材712によりシースストッパ715または716の溝でポジショナ711のロックおよび解除を制御する機構は、上述の通りであり、これにより、下向きの、縦または横方向の力が、シースストッパ715または716からポジショナ711を解除またはロックする。ポジショナ711を押し下げると、ポジショナはスライドして、シースストッパ715または716の何れかに嵌合し得る。
【0458】
シースストッパ715および716間のポジショナ711の移動により、接続部材713が移動し、それにより、操作者によるポジショナの制御によって、被覆および非被覆位置から移行できるよう、針シース72’が移動する。
図14に例示するようにポジショナが後方位置711cにあるとき、先端シースストッパ715は自由であり、ポジショナ711は基端シースストッパ716に嵌合し、それにより、注射針が露出されるように、注射針が非被覆とされる。
図14には示されていないが、ポジショナ711はまた、
図13に例示するように前方位置711aにあることができ、基端シースストッパ716は自由であり、ポジショナ711は先端シースストッパ715に嵌合し、それにより、注射針が保護されるように、注射針が被覆される。さらなる位置として、ポジショナ711を
図15に例示するように中間位置711bにもすることができ、そこでは、先端シースストッパ715および基端シースストッパ716両方が自由であり、ポジショナ711と係合してはいない。
【0459】
図14に示すように、プランジャ92’は、針シースコントローラ71’の内部管腔717を通過し、接続部材713の中央空洞を通過するが、直接、針シースコントローラ71’または接続部材713に接続されていない。したがって、接続部材713は、プランジャ92’の周りを独立して移動することができ、プランジャ92’は、接続部材713を通って独立して移動することができる。上述したように、針シース72’は直接、コントローラ管腔717に含まれる接続部材713に接続されているので、プランジャ92’は、針シースコントローラ71’の内側の針シース72’の内部空洞に入る。プランジャ92’は、針シースコントローラ71’の先端部から出て、それが針シース72’の管腔723内に含まれる。
【0460】
図18Aおよび
図18Bを参照すると、針シース72’を通ってプランジャ92’が遠位方向および長手方向に走行し、それはシリンジ筒91’の基端部に係合している。注射針81は、シリンジ筒91’の先端部にて、シリンジ筒91’の内側に直接、接続されている。注射針81には、組織または臓器を貫入または穿刺するのに十分な傾斜した先端が含まれている。注射針81は、一般的には、外科用ステンレス鋼または他の医療グレード金属などの、金属または合金からなる。注射針81の大きさおよび直径は、大略的に上記パラメータに基づいて選択される。上述したように、一般的には、小径針81は、ターゲット組織または臓器に針を挿入するために必要な力を低減するために、および、ターゲット組織または臓器への外傷を低減するために使用される。たとえば、注射針81は、25ゲージ、26ゲージ、27ゲージ、28ゲージ、29ゲージ、30ゲージまたは31ゲージ針などの25〜34ゲージであり、一般的には27ゲージである。
【0461】
デバイス60’の先端部において、針シース72’は、針導管733を含む先端部73において終了する。針導管733は、注射針81に嵌合するように十分に寸法決めされ、それにより、針シース72’の移動に伴って、注射針を延ばすことも、針導管733を通って後退させることも可能である。
図18Aでは、注射針81は、針シース72’によって覆われており、針導管733の先端部を横断しない。
図12Aを参照すると、
図18A中のデバイス60’は被覆位置72aにある。
図18Bでは、注射針81は、針シース72’の外に伸長され、針導管733を横断しない。
図12Cを参照すると、
図18B中のデバイス60’は、非被覆位置72cにある。
【0462】
図18Aおよび
図18Bに示すように、シリンジ筒91’が針シース72’に接続されていないため、針シース72’は、シリンジ91’の周りで独立して移動する。非被覆位置では、針シース72’が引き戻されるが、シリンジ筒91’および注射針81は固定されており、移動しない。たとえば、
図18Bに示すように、針シース72’が引き戻されるので、シース管腔723の寸法は、針シース72’が引き戻されない
図18Aに比べて短縮されている。
図18Bに示される非被覆位置では、シリンジ筒91’の先端部がシースの先端部73に接触する。非被覆位置72cに位置するときにシリンジ筒91’を収容するために、ノッチが先端部73にて構成され得る。これは、上記の
図14を参照して説明したように、ポジショナ711を使用したシースの移動は、針シース72’の移動を制御するだけであり、一方、デバイスのシリンジ筒91’および注射針81は、ポジショナ711の位置にかかわらず静止していることを示している。
【0463】
上記のように、非被覆位置において、注射針81が伸長される、またはデバイス60’の外部に露出される範囲は、
図14に示すように、シースストッパ715および716間の距離の関数である。この距離は、デバイスの特定の用途、特定のターゲット組織、処置対象および他の考慮事項の関数である。たとえば、露出している非被覆針は、それが容易にターゲット組織の反対側に貫通することができるほど長くすべきではない。大略的に、大部分のターゲット組織(たとえば、肝臓)に関しては、非被覆または露出可能な、
図18Bに示される注射針81の部分は、大略的に、2mm〜10mmなどの1cm未満であり、大略的に5mm以下である。子供の場合は、長さがより小さくなり得、大略的に4mm未満である。子宮内での用途では、長さは2mm〜3mmとすることができる。大略的に、デバイス60’内の注射針81の全長は、デバイスの外に延びている非被覆針の先端よりも若干長くなっている。
図18Bに示すように、余分な長さの範囲は、遠位シース先端部73の距離と針の基端部がシリンジ筒91’に接続される範囲とを考慮すれば十分である。たとえば、注射針81の全体の長さは5mm〜40mm、たとえば、12.7mm、25.4mmまたは38.1mm針などの、10mm〜40mmの範囲とすることができる。
【0464】
図18Cは、被覆位置72aにおける、
図18Aに示す針シースの対応する斜視図を提供する。
図18Dは、非被覆位置72cにおける、
図18Bに示す針シースの対応する斜視図を提供する。
図18AおよびDでは、針シース72’は不透明であるが、被覆または非被覆にかかわらずシリンジ筒91’および注射針81を表示するために、可視窓725を含む。
【0465】
デバイス60’は、使い捨てまたは再利用可能とすることができる。たとえば、デバイス60’は、腹腔鏡ポートから引き出すことができ、処分またはリロードおよび再利用され得る。デバイス60’はまた、無菌デバイスとすることができる。たとえば、デバイス60’は、無菌手術室などの無菌環境で注射針81を介してロードすることができる。デバイス60’は、治療薬などの流体をプリロードし、無菌プリロードシリンジとして提供することができる。さらに、シリンジ筒の針シャフトへの完全な一体化に起因して、デバイス60’を使用して無菌の使い捨てのプリロードデバイスの配布は容易に行なえ、シリンジ筒およびデバイスが別々にパッケージングまたは保存されなければならないときに発生し得る汚染を最小限に抑えることができる。あるいは、注射針81は、治療薬などの流体、組成物を有する容器に挿入することができ、プランジャ92’を引き戻して、シリンジ筒91’に治療薬などの流体をロードすることができる。
【0466】
上述の図面および説明を参照すると、インジェクションデバイス60’の例示的な動作モードは、治療薬などの流体をデバイス60’にまずロードすることを含む。非被覆位置72cの針シース72’で、注射針81は、治療薬などの流体の、バイアルまたは容器に挿入することができ、統合されたシリンジプランジャ92’は、治療薬などの流体をシリンジにロードするために引き戻すことができる。必要に応じて、治療用化合物をシリンジにロードするとき、バイアルアダプタが使用され得、シリンジ筒92’をロードして、長いデバイスを、治療薬などの流体のバイアルまたは容器上にて安定化させることができる。シリンジがロードされると、針シース72’は、被覆位置72aに配置することができ、注射部位の近くにデバイスを配置するために、デバイスを腹腔鏡ポートに挿入することができる。注射の部位(ターゲット組織)にて、針シース72’を非被覆72cとすることができ、注射針81は、注射のために露出させることができる。必要であれば、統合されたシリンジプランジャ92’は、注射部位にて注射針81の配置を試験するために、注射部位から流体を引き出すために引き戻すことができる。シリンジ可視窓725は、プランジャ92’の引き戻しおよび動きを可視化するために使用することができる。針の配置部位が決定されると、ターゲット組織において治療薬などの流体を注入するために、プランジャ92’を押下することができる。注射後、針シース72’は、非ターゲット臓器を保護し、偶発的な針穿刺を防止するために、被覆位置72aに配置することができ、その後、注入部位から腹腔鏡ポートを介して腹腔鏡装置を除去する。
【0467】
3.ドッキング可能インジェクションデバイス
図11、
図15および
図19A〜
図19Dは、インジェクションデバイス60”ならびにその構成要素および特徴を示す。インジェクションデバイスは、
図11に示すように、針シース72”、針シースコントローラ71’、プランジャ92”、注射針81を含むドッキング可能なシリンジ910、シリンジ筒91”、および関連する補助プランジャ920を含む。インジェクションデバイスの針シース72”は、関心対象のターゲットへの腹腔鏡下のアクセスを可能にするのに十分な長さであり、大略的には250〜400mmなどの200mm〜600mmの長さであり、大略的には少なくとも300mmまたは略少なくとも300mmである。デバイスは、長手方向軸の周りに大略的に円筒状であり、針シース領域72”およびプランジャ領域92”においてより小さい直径を有し、針コントローラ領域71’においてより大きい直径を有する。デバイスの針シース72”は、一般的にはポート(たとえば、腹腔鏡ポート)を介して挿入されている。針シース72”の直径は、一般的には3mm〜12mmの大きさであり、一般的には5mm〜10mmである。腹腔鏡ポート外部のデバイスの部分が、10mmよりも大きい直径を有することができることが理解される。たとえば、針シースコントローラ本体71’は、それが操作者により容易に把持または取扱い可能である限り、十分に大きな直径を有することができる。操作者、一般的には外科医が、針シースコントローラ本体71’を保持し、プランジャ92”を操作しながら、デバイス60”を操作および位置決めし、針シース72”を制御し、デバイスを支持する。
【0468】
インジェクションデバイス60”は、注射針81を含むドッキング可能なシリンジ910、シリンジ筒91”および関連する補助プランジャ920を一時的にドッキングすることができるよう適合されている。
図11に示すように、シリンジ筒91”は、プランジャがシリンジ筒の内部に前後に移動できるように、補助プランジャ920に嵌合可能な中空の中心を有する円筒形状である。補助プランジャ920は、シリンジ筒91”の近位側に配置され、シリンジ筒91”の内側に沿って押し引きできるように移動可能である。補助プランジャ920は、治療薬などの流体をシリンジ筒91”にロードするために引き戻すことができ、または、ターゲット組織に流体を排出または注入するために押し下げることができる。補助プランジャ920はまた、針配置を試験するために注射部位にて引き戻すことができる。以下に説明するように、デバイスでのドッキング時の補助プランジャ920の移動は、プランジャ92”によって制御される。補助プランジャ920は、シリンジ筒91”内を移動可能なよう円筒形であり、シリンジ筒を通しての移動を容易にする、たとえば、ポリプロピレンやポリエチレンといったプラスチックなどの材料で作られている。
【0469】
補助プランジャ920は、プランジャを操作するため操作者が簡便に掴むことができるか、またはそうでなければ補助プランジャ920の動きを制御するように構成され得る、プランジャ基端部におけるプランジャヘッド95を含む。たとえば、補助プランジャ920は、たとえばドッキング可能なシリンジ910が(以下でさらに論じる)ドッキング解除位置にあるときに、独立して移動および制御可能である。他の例では、ドッキング可能シリンジ910がデバイス60”にドッキングされているときに、補助プランジャ920の移動は、プランジャアダプタ951を介してデバイス60”の基端部にて、プランジャ92”によって制御される(以下でさらに論じる)。プランジャヘッド95も、大略的に、プラスチックで作られている。補助プランジャ920の先端部は、シリンジ筒91”内を移動するときシリンジ筒91”内に気密シールを提供するために、大略的にシリコーンまたは他の天然もしくは合成ゴムで作られている。
【0470】
補助プランジャ920は、シリンジ筒91”の先端部を通して、および、それに接続されている注射針81内に、治療薬などの流体を排出するために、シリンジ筒91”の内側との協働を可能にするのに十分な長さである。たとえば、補助プランジャ920は、50mm〜100mm、一般的には70mm〜90mmの長さを有することができる。補助プランジャ920を引き戻すと、流体または空気を吸入し、補助プランジャ920を押すと、シリンジ筒から流体または空気を押し出す。
【0471】
シリンジ筒91”は、大略的に透明および透過性である。シリンジ筒91”は、プラスチックまたはガラスまたは他の適切な材料から作製することができ、特に、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートまたは他の透明な材料のようなプラスチックで作られている。上述したように、シリンジ筒91”は、筒内の薬剤の量を示すために、外面にキャリブレーションまたはマーキングを含むことができる。上述したように、シリンジ筒91”は、0.5mL〜20mL(すなわち0.5cc〜20cc)、大略的には、少なくともまたは略少なくとも1mL(すなわち1cc)シリンジなどの、0.5mL〜3mL(すなわち0.5cc〜3cc)の容積容量を有し得る。一般的には、治療薬などの流体200μL〜600μLが、ターゲット場所に送達され、シリンジ筒の容量は1mLである。
【0472】
デバイス60”のドッキング可能シリンジ910は、シリンジ筒91”の先端部、したがって、ドッキング可能シリンジ910がデバイス60”にドッキングされたときにはデバイス60”の先端部、に配置されている注射針81を含む(さらに以下に説明する)。注射針81は、シリンジ筒91”に直接的または間接的に接続することができる。たとえば、注射針81は直接、シリンジ筒91”の内部に、シリンジ筒91”の先端部にて、接着剤、接着または成形などによって、固定することができる。他の例では、シリンジ筒91”の先端部は、注射針81の基端部にてハブに対応可能なルアー嵌合または他のアダプタを含むことができる。
【0473】
図11に示すように、注射針には、組織または臓器を貫入または穿刺するのに十分な傾斜した先端が含まれている。注射針81は、一般的には、外科用ステンレス鋼または他の医療グレード金属などの、金属または合金からなる。注射針81の大きさおよび直径は、大略的に上記されたパラメータに基づいて選択される。上述したように、一般的には、小径針81は、ターゲット組織または臓器に針を挿入するために必要な力を低減するために、および、ターゲット組織または臓器への外傷を低減するために使用される。たとえば、注射針81は、25ゲージ、26ゲージ、27ゲージ、28ゲージ、29ゲージ、30ゲージまたは31ゲージ針などの25〜34ゲージであり、一般的には27ゲージである。
【0474】
注射針81を直接、シリンジ筒91”に取り付けているので、注射針は、比較的短い。これは、より長い針で発生し得る圧力降下の問題を回避する。上記のデバイス60’と同様、これはまた、デバイス60”におけるデッドボリュームが大略的に小さいことを意味する。たとえば、注射針81の全体の長さは5mm〜40mm、たとえば、12.7mm、25.4mmまたは38.1mm針などの、10mm〜40mmの範囲とすることができる。大略的には、デッドボリュームおよび圧力降下に関する問題を回避するために、より短い針の使用が望ましい。
【0475】
針シース72”は、不透明であるか、または透過性もしくは透明とすることができる。針シース72”は、針シース720の近位部で大略的に中実であるが、その先端部に開放空洞726を含む。補助プランジャ920、シリンジ筒91”および注射針81を含むドッキング可能シリンジ910は、針シース72”がドッキング可能シリンジ910の周りで移動可能なよう、それがシースの開放空洞内にドッキングおよびドッキング解除され得るように構成される。
図11および
図19Aに示されるように、開放空洞726は、針シース72”の上半分にてカットアウトされる。シースの開放空洞726の内側は、シリンジアダプタ内層96から独立してシースが移動するよう、シリンジアダプタ内層96でライニングされる。シリンジアダプタ内層96はまた、実質的に同様のサイズの開放空洞を有する。
【0476】
たとえば、
図19Aおよび
図19Bに示すように、シリンジアダプタ内層96は、シースを通って走行することができ、シースは、シリンジアダプタ内層96の周りを独立して移動する。シリンジアダプタ内層96は、その基端部にて針シースコントローラ71’に接続または固定することができ、ドッキング可能シリンジ用のネストを形成するために、その先端部で開放空洞を有する。たとえば、シリンジアダプタ内層96は、ドッキング可能シリンジ用のネストを形成するために除去される遠位部分を有する皮下管であることができる。管は、針シース72”の内側部分よりも小さい直径を有することができ、管はシース内を通して走行し、それが固定位置にて針シースコントローラ71’に接続することができる。
【0477】
シリンジアダプタ内層96の開放空洞は、プランジャ載置腔960、筒載置腔962および2つの筒ドック961および963を含むことができる。筒載置腔962には、2つの筒ドック961および963が側面配置され、それらは、その基端部および先端部にてそれぞれシリンジ筒91”を設置または固定するよう適合された留め金またはフィッティングである。筒載置腔962のサイズおよび2つの筒ドック961および963間の距離により、シリンジ筒91”との係合が可能となる。シリンジ筒91”に筒ドック961および963に嵌合する溝が含まれる場合、2つの筒ドック961および963間の長さは、シリンジ筒91”内の対応する溝の間の長さと同じである。筒ドック961および963にドッキング可能なシリンジ筒91”の部分は、ドック961および963にそれぞれ嵌合するその基端部および先端部にて狭い溝を有するようシリンジ筒91”を構成することによって制限することができる。これにより確実に、開放空洞726に嵌合されたとき、シリンジ筒91”は、注射針81の被覆および非被覆のために適切に整列される。筒ドック961および963は、同様のサイズであり得るか、またはシリンジ筒91”の特定のサイズおよび構成に応じて異なるサイズとすることができる。筒ドック961または963は、剛性または可撓性とすることができ、金属またはプラスチックなどのポリマー材料から作ることができる。筒ドック961および963はシリンジアダプタ内層96から突出する特徴とすることができ、またはシリンジアダプタ内層96の露出部に取り付けられた別個の部品とすることができる。筒載置腔962とドック961および963とは直接、針シース72に接続されず、それにより、針シース72”は、筒載置腔およびドックを含むシリンジアダプタ内層96の周りでそれから独立して移動する。
【0478】
プランジャ92”の先端部の一部であるプランジャアダプタ951は、腔726の基端部に配置されている。プランジャ92”が伸長位置に引き戻されている場合、プランジャアダプタ951は、シリンジアダプタ内層96の開放腔内に載置されている。以下に説明するように、プランジャ92”は、補助プランジャ920の移動を制御するために、シリンジアダプタ内層96の管腔内で移動可能である。プランジャ92”が伸長位置にある(すなわち、シリンジ筒の外に最大長さまでに引き出す)ときの筒ドック961およびプランジャアダプタ951間の距離により、その伸長位置にて補助プランジャ920に嵌合するのに十分なサイズで、シリンジアダプタ内層96内にプランジャ載置腔960が作成される。
【0479】
したがって、針シース72”の開放腔726およびシリンジアダプタ内層96の開放腔の長さは、ドッキング可能シリンジ910に嵌合するのに十分である。いくつかの例では、腔は、以下で説明する針シース73’の先端部を除いて針シース72”の全長に及ぶことができる。一般的に、オープン腔726の長さは50mm〜250mmである。したがって、針シースの開放空洞726と実質的に同様の長さを有するシリンジアダプタ内層96の開放腔の長さは、50mm〜250mmである。開放腔の長さも、針シース72”の直径、ドッキング可能シリンジ910の容積、長さおよび直径に依存する。特定の注入のためにシリンジ筒91”のより大きな容積が必要とされる場合は、シリンジ筒91”および開放腔の長さをより大きくすることができる。しかしながら、補助プランジャ920のストローク長は、完全に伸長された補助プランジャ920およびシリンジ筒91” の両方が針シース72”および開放腔の長さで嵌合しなければならないため、針シース72”の全長の半分未満に制限される。プランジャ92”のストローク長は、補助プランジャ920の最大ストローク長に制限されている。したがって、シリンジ筒91”のより大きな容量が必要とされる場合、針シース72”の直径をより大きくすることができる。針シース720の近位部分の長さを含む、ストローク長および針シース72”の長さに関連するシリンジ筒91”の最適な長さおよび直径は、腹腔鏡ポートの直径、手術の種類、および必要なシリンジ筒の容量に基づいて経験的に決定することができる。
【0480】
開放腔は、針シース73’の先端部で終端する。針シース73’の先端部は、その上面側に開いた針溝76が含まれていることを除いて、中実である。針溝76は、注射針81が針シース73’の先端に入り込むのに十分に狭い開口部であり、非被覆時に注射針81を外側に案内するために、針導管733と整列することができる。溝76の長さおよび直径は、注射針81に嵌合するのに十分である。たとえば、針溝76の長さは、10mm〜40mmなどの5mm〜40mmである。針溝の幅は、0.3〜1mmなどの0.2〜2mmである。
【0481】
図19Aおよび
図19Bは、シリンジアダプタ内層96および針シース72”を有するドッキング可能シリンジ910のドッキング可能構成およびドッキング解除構成を示している。たとえば、
図19Aは、ドッキング解除位置910aにおけるドッキング可能シリンジ910を示している。
図19Aに示すように、シリンジアダプタ内層96は、針シース72”内にある。針シース72”の開放腔726内へと構成されたシリンジアダプタ内層96の開放腔は、上述のようにドッキング可能シリンジ910に嵌合するように構成されている。
図19Bは、ドッキング位置910bにおけるドッキング可能シリンジ910を示している。ドッキング位置910bにおいて、ドッキング可能シリンジ910は針シースコントローラ71’の遠位側に配置されている。ドッキング位置910bにあるとき、注射針81は、針シース72”の内側に配置されており、以下に説明するように、針81の先端部で被覆および非被覆とすることができる。
【0482】
針シース72”の開放腔726およびシリンジアダプタ内層96の開放腔によりアクセス可能なシリンジドックにドッキングする能力により、デバイス60”内のシリンジ筒の可視化が可能となり、それにより、投与薬剤または引き戻し流体を可視化することができる。たとえば、上述したように、いくつかの用途では、血管または胆管への注入ではなく実質組織への直接注入が必要とされるので、血管系や胆管への注入を回避しつつ、針が貫入している領域から流体を引き戻し、視覚化する能力を使用して、実質組織への針の配置を確認することができる。
【0483】
さらに、インジェクションデバイス60”にてシリンジ910を除去するか、またはドッキングする能力により、シリンジ筒のローディングの容易さ、ロードされたシリンジの交換、およびシリンジの無菌性などの利点が提供される。たとえば、シリンジ筒への治療薬などの流体、組成物または他の溶液でシリンジを引き上げるか、ロードする際に、無菌シリンジ筒91”を簡便に使用することができる。所望であれば、ルアー嵌合アダプタによってなど、個別に無菌針81がシリンジ筒91”に嵌合可能であり、治療薬などの流体でシリンジ筒91をロードすることができる。シリンジ筒91”を、デバイス60”の使用前に別々にロードすることができ、またはプリロードされたシリンジ筒91”を使用することができる。また、デバイス60”とドッキング可能である限り、様々なシリンジタイプおよびサイズを使用することができる。いくつかの場合では、必要に応じてシリンジのいくつかの異なる種類を、一人の患者に使用することができる。シリンジがリロードされる必要があるか、または治療薬などの追加流体が必要とされる場合には、新しいまたはリロードされたシリンジをドッキングさせることができる。
【0484】
図11に示すように、プランジャ92”がデバイス60”の基端部に配置され、腹腔鏡ポートの外側にて、操作者がそれを制御し、操作することができる。プランジャ92”は、針シースコントローラ71’および針シース72”の近位部を通過する。プランジャ92”は大略的に円筒形であり、針シースコントローラ71’および針シース72”内で可動である。プランジャ92”は、針シースコントローラ71’および針シース72”を通る移動を容易にする材料で作られている。一般的には、プランジャ92”は、たとえばポリプロピレンまたはポリエチレンなどのプラスチックで作られている。プランジャ92”の先端部は、針シース72”の開放腔726を介して露出されたプランジャアダプタ951を含み、それは補助プランジャ920と協働する。プランジャ92”の長さは、補助プランジャ920が腔726にドッキングされたとき、針シース72”内での補助プランジャ920との協働が可能な十分な長さである。たとえば、プランジャ92”の長さは、100mm〜400mmまたは100mm〜200mmのような50mm〜500mmの範囲とすることができる。プランジャ92”は、大略的には補助プランジャ920よりも長い。
【0485】
プランジャアダプタ951には、補助プランジャ920のプランジャヘッド95’を介して補助プランジャ920と接続するための溝またはノッチが含まれている。プランジャアダプタ951は、補助プランジャ920のプランジャヘッド95’がプランジャ載置腔960に設置または固定され得るのに十分な大きさおよび形状のものである。。
図19Bに示すように、補助プランジャ920のプランジャヘッド95’がプランジャアダプタ951に嵌合または固定されると、補助プランジャ920およびプランジャ92”は接続され、それにより、プランジャ92”の移動によって、補助プランジャ920の移動を制御する。プランジャ92”を、したがって補助プランジャ920をも操作する操作者によって簡便に把握することができる、デバイス基端部でのプランジャヘッド95も、プランジャ92”は含む。たとえば、プランジャ92”を押すと、補助プランジャ920も押され、シリンジ筒91”から流体または空気が押し出される。
【0486】
図15は、針シースコントローラ71’および針シースコントローラ71’を介して伸長したプランジャ92”の拡大断面図を示す。針シースコントローラ71’は、針シース72”の基端側に配置されている。針シースコントローラ71’は、針シース72”の移動を制御する構成要素を含み、デバイスの基端部および先端部を接続し、プランジャ92”がデバイスの基端部および先端部間で移動する導管である。針シースコントローラ71’は、外科医などの操作者によって保持および操作されるように構成されている。上述したように、針シースコントローラ71’は、操作者がデバイスを保持および操作するのを可能にするのに簡便な任意の形状およびサイズとすることができ、一般的には円筒形状である。針シースコントローラ71’の直径は、平均的な大人の手のひらに保持することができるようなもので、大略的に、直径20mm〜100mmおよび長さ50mm〜225mmである。針シースコントローラには、必要に応じて取扱い用の外側グリップを含めることができる。
【0487】
図11および
図15に示すように、針シースコントローラ71’は、針シースコントローラ71’内部の構成要素および針シース72”の基端部を囲むコントローラハウジング710を含む。上述したように、針シースコントローラハウジング710は、プラスチックもしくはゴムを含む任意のポリマー材料、金属、セラミック、複合材料、または当業者に公知の他の適当な材料を含む、任意の適切な弾性および剛性材料で作ることができる。コントローラハウジング710は一般的には、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン、ゴムやアクリルで作成される。上述したように、ハウジング710は、当業者に公知の任意の製法によって作製することができ、1つの単一部品として形成することができ、または、接着剤、ロッキングジョイントもしくは留め具などを用いて、一緒に結合している2つ以上の片から形成することができる。
【0488】
図11および
図15に示すように、針シースコントローラ71’は、外部からアクセス可能なポジショナ711を含む。上述のように、ポジショナ711は、針シースコントローラ71’に対して前後両方に移動可能であるように、針シースコントローラ71’において構成されている。上述したように、ポジショナ711は、接続部材713を介して針シース72”に係合されており、針シース72”をスライドするために使用することができる。2つの固定またはロック位置、すなわち被覆および非被覆位置、の間の針シース72”の移動を制御するために、前方または後方位置の間でポジショナ711の移動が、この接続により可能である。被覆位置では、注射針が保護されまたは隠され、一方、非被覆位置では、針が露出される。
【0489】
図15を参照すると、接続部材713は、針シース72”の基端部およびポジショナ711の下部に接続されている。針シース基端部との接続部材713の接続により、針シース72”が長手方向に、コントローラハウジング710および注射針81に対して移動可能である。たとえば、接続部材713の外側の先端部は、その周囲において針シース72”の近位側内部管腔723に係合している。ポジショナ711および針シース72”とコントローラ部材との接続は、溶接、接着剤、ロッキングジョイント、留め具または他の適切な手段で行うことができる。
【0490】
大略的に上述したように、接続部材713は、ハウジング710に対して両端で閉じられた針シースコントローラ71’のハウジング710の内部に含まれる中空空洞または管腔717内部を移動する。接続部材713が容易に滑走し、または制限された方法で前方または後方に移動することができるよう、コントローラ管腔717は、接続部材713を収容する。たとえば、接続部材713は、円筒状であってもよく、円筒状の中空の管腔空洞717内に嵌合し得る。
図15に示すように、さらに以下に説明するように、接続部材713は、通過するプランジャ92”に嵌合するように内部中空空洞を含んでいる。
【0491】
接続部材713の移動は、ポジショナ711によって制御される。
図11および
図15に示すように、ポジショナ711は、針シースコントローラ71’から突出する突出上部またはヘッドを含み、操作者によって前方または後方に移動させられ得る。
図15に示すように、針シースコントローラ71’の内部において、ポジショナ711の本体は、その側面が切り欠かれているか、そうでなければシースストッパ715または716と係合するように構成されている。シースストッパ715または716は、針シースコントローラハウジング710内の溝であり、溝はポジショナのノッチ体に嵌合し、ポジショナ711が移動できないように、ポジショナ711をトラップする。
【0492】
例示的なデバイス60を
図13に例示したように、デバイス60”も、シースストッパ715または716の溝へのポジショナのロックおよび解除を容易にするために、ポジショナ711内に構成された任意選択のロックおよび解除部材712を含む。たとえば、ロックおよび解除部材712は、ばねまたは他の弾性手段であり得る。ロックおよび解除部材712によりシースストッパ715または716の溝でポジショナ711のロックおよび解除を制御する機構は、上述の通りであり、これにより、下向きの、縦または横方向の力が、シースストッパ715または716からポジショナ711を解除またはロックする。ポジショナ711を押し下げると、ポジショナはスライドして、シースストッパ715または716の何れかに嵌合し得る。
【0493】
シースストッパ715および716間のポジショナ711の移動により、接続部材713が移動し、それにより、操作者によるポジショナの制御によって、被覆および非被覆位置から移行できるよう、針シース72”が移動する。
図15に例示するようにポジショナが中間位置にあるとき、先端シースストッパ715および基端シースストッパ716の両方は自由であり、ポジショナ711と嵌合されない。
図15には示されていないが、ポジショナ711はまた、
図13に例示するように前方位置711aにあることができ、基端シースストッパ716は自由であり、ポジショナ711は先端シースストッパ715に嵌合し、それにより、注射針が保護されるように、注射針が被覆される。さらなる位置として、
図15には示されていないが、ポジショナはまた、
図14に例示するように後方位置711cにあることができ、先端シースストッパ715は自由であり、ポジショナ711は基端シースストッパ716に嵌合し、それにより、注射針が露出されるように、注射針が非被覆とされる。
【0494】
図15に示すように、プランジャ92”は、針シースコントローラ71’の内部管腔717を通過し、接続部材713の中央空洞を通過するが、直接、針シースコントローラ71’または接続部材713に接続されていない。したがって、接続部材713は、プランジャ92”の周りを独立して移動することができ、プランジャ92”は、接続部材713を通って独立して移動することができる。上述したように、針シース72”は直接、コントローラ管腔717に含まれる接続部材713に接続されているので、プランジャ92”は、針シースコントローラ71’の内側の針シース72”の内部空洞に入る。プランジャ92”は、針シースコントローラ71’の先端部から出て、それが針シース72”の中空空洞内に含まれる。
【0495】
デバイス60”の先端部において、針シース72”は、注射針81に嵌合するように十分に寸法決めされた針導管733を含む針シースの先端部73’において終了する。ドッキング可能シリンジ910が
図19B〜
図19Dに示すドッキング位置910bにおいてデバイスにドッキングされると、注射針81は溝76を通って嵌合し、それは針導管733を通過するよう整列され、それにより、注射針81は針シース72”の移動に伴って針導管733を介して伸長および後退することができる。
図19Bでは、注射針81は、溝76に嵌合し、針シース72”に含まれているが、針導管733の遠位部を横断しない。
図12Aを参照すると、
図19Bのデバイス60”は、被覆位置72aにある。
図19Cでは、注射針81は、針シース72”の外に伸長し、針導管733を通る遠位部を横断している。
図12Cを参照すると、
図19Cのデバイス60”は、非被覆位置にある。
【0496】
図19Bおよび
図19Cに示すように、シリンジ筒91”が針シース72”に接続されていないので、針シース72”は、シリンジ筒91”の周りで独立して移動する。
図19Cに示すように非被覆位置72cでは、針シース72”は引き戻されるが、シリンジ筒91”および注射針81は固定されており、移動しない。たとえば、
図19Cに示すように、針シース72”が引き戻されるので、シリンジ筒91”の先端部は、針シース73の先端部によって隠蔽されている。対照的に、
図19Bに示すように被覆位置72aでは、シースは、引き戻されず、それにより、シリンジ筒91”の先端部が針シース73の先端部によって隠蔽されない。したがって、被覆および非被覆位置間の針シース72”の移動により、デバイス60”のドッキングされた腔内に露出しているシリンジ筒91”の量が短縮される。
【0497】
上記のように、
図19Cに示す非被覆位置72cにおいて、注射針81が伸長される、またはデバイス60”の外部に露出される範囲は、
図15(および関連する
図13および
図14)に示すように、シースストッパ715および716間の距離の関数である。この距離は、デバイスの特定の用途、特定のターゲット組織、処置対象および他の考慮事項の関数である。たとえば、露出している非被覆針は、それが容易にターゲット組織の反対側に貫通することができるほど長くすべきではない。大略的に、大部分のターゲット組織(たとえば、肝臓)に関しては、非被覆または露出可能な、
図19Cに示される注射針81の部分は、大略的に、2mm〜10mmなどの1cm未満であり、大略的に5mm以下である。子供の場合は、長さがより小さくなり得、大略的に4mm未満である。子宮内での用途では、長さは2mm〜3mmとすることができる。大略的に、デバイス60”内の注射針81の全長は、完全非被覆位置にあるデバイスから外に伸長可能な非被覆針の先端よりわずかに長い。
図19Cに示すように、余分な長さの範囲は、デバイスが非被覆位置にあるときのシース先端部73’およびシリンジ筒91”の先端部に依然として含まれる注射針81の基端部の部分を考慮すれば十分である。たとえば、注射針81の全体の長さは5mm〜40mm、たとえば、12.7mm、25.4mmまたは38.1mm針などの、10mm〜40mmの範囲とすることができる。
【0498】
注射針を介する治療薬または他の溶液などの流体の排出または吐出は、プランジャ92”を押すことにより制御され、プランジャアダプタ951によって達成される接続のため、補助プランジャ920の押し下げをもたらす。
図19Cを参照すると、プランジャ92”は伸長位置にあり、それにより、補助プランジャ920もまた、伸長位置にある。対照的に、
図19Dは、押下げ位置にあるプランジャ92”を示し、それにより、補助プランジャ920もまた、押下げ位置にある。これにより、ターゲット組織への治療薬などの流体の送達が可能となる。針配置を試験するために引き戻しが必要がある場合、プランジャ92”もまた、注射部位からの流体の引き戻しを制御するために使用することができる。これは、プランジャ92”を引張ったり引き戻したりすることによって達成され、補助プランジャ920との接続を介して、補助プランジャ920を引き戻す。引き戻し流体は、針シース72”によって覆われていないシリンジ筒91”にて可視とすることができる。
【0499】
ドッキング可能シリンジ910(補助プランジャ920、シリンジ筒91”)および注射針81を含む)および/またはデバイス60”は、使い捨てまたは再利用可能とすることができる。たとえば、シリンジ筒91”からの治療薬などの流体の注入または排出後、またはそうでなければ望ましいときに、ドッキング可能シリンジ910を腹腔鏡ポートから引き抜くことができる。新しくロードされたドッキング可能シリンジ910は、デバイス60”にドッキングすることができる。新たにロードされたドッキング可能シリンジ910は、以前に使用されたドッキング可能シリンジ筒91”を含むことができ、それはリロードすることができ、または新たなプリロードされたドッキング可能シリンジ910であり得る。あるいは、デバイス60”を、腹腔鏡ポートから取り出し、一回の使用後に廃棄することができる。無菌注射が必要とされる場合には、シリンジ筒91”には無菌手術室などの無菌環境で治療薬などの流体を装填することができ、その後、デバイス60”にドッキングされる。あるいは、無菌プリロード済みドッキング可能シリンジ910を使用することができ、デバイス60”にドッキングすることができる。
【0500】
上述の図面および説明を参照すると、インジェクションデバイス60”の例示的な動作モードは、治療薬などの流体をドッキング可能シリンジ910にまずロードすることを含み、その後、針シース72”内に位置するシリンジアダプタ内層96内のシリンジアダプタにシリンジをドッキングする。ドッキング可能シリンジ910がロードされると、筒ドック961および963およびプランジャアダプタ951との係合によりシリンジはシリンジドックにドッキングされる。針シース72”は、被覆位置72aに配置され得、デバイスを、ターゲット部位の近くに配置するために、腹腔鏡ポートに挿入することができる。注射の部位(ターゲット組織)にて、針シース72”を非被覆72cとすることができ、注射針81は、注射のために露出させることができる。必要であれば、制御プランジャ92”は、注射部位にて注射針81の配置を試験するために、注射部位から流体を引き出すために引き戻すことができる。引き戻し流体は、針シース72”内のシリンジ筒91”の先端部において可視である。ターゲット組織において治療薬などの流体を注入するために、制御プランジャ92”を押下することができる。注射後、針シース72”は、非ターゲット臓器を保護し、偶発的な針穿刺を防止するために、被覆位置72aに配置することができ、その後、注入部位から腹腔鏡ポートを介して腹腔鏡装置を除去する。
【0501】
F.システムおよびキット
バンドクランプデバイスを用い、特定の医療処置と組み合わせて用いることができる他の医療用材料と組み合わせて、システムまたはキットとしてバンドクランプデバイスを提供することができる。たとえば、バンドクランプデバイスを、他の外科用器具またはツール、とりわけ低侵襲手術のために使用される特定の他のツールと組み合わせてシステムとして提供することができる。具体的には、バンドクランプデバイスを、日常的にバンドクランプデバイスと組み合わせて使用されている把持具、ピンセット、注射デバイス、ポンプ、圧力計、張力計、腹腔鏡または医療デバイスまたは器具と組み合わせたシステムとして提供することができる。システムおよびキットはまた、クランプ処置において使用することができる医薬組成物または他の薬剤物質と組み合わせて提供することができる。
【0502】
特定の例では、バンドクランプデバイスを採用した方法および処置で使用することができるインジェクションデバイスと組み合わせて、バンドクランプデバイスはシステムとして提供される。具体的には、インジェクションデバイスは、たとえば生物学、化学療法または遺伝子治療用の治療薬(すなわち、核酸分子)などの流体を、ターゲット組織への直接注入のために保持または貯蔵することが可能であるものとすることができる。たとえば、インジェクションデバイスは、バンドクランプデバイスを使用して区分化されている組織もしくは臓器またはその一部に核酸薬剤を送達するために、本明細書に記載の区分化された核酸送達方法におけるバンドクランプデバイスと組み合わせて使用することができるものとすることができる。一般的には、インジェクションデバイスは、腹腔鏡インジェクションデバイスである。特に、本明細書で提供されるのは、本明細書のセクションBに記載のバンドクランプおよび本明細書のセクションEに記載のインジェクションデバイスを含む組合せとして提供されるシステムまたはキットである。このようなシステムまたはキットは、区分化された核酸送達方法に使用することができる。
【0503】
システムまたはキットは、インジェクションデバイスと共に使用される医薬組成物を含有するように必要に応じて供給することができる。たとえば、本明細書にて核酸または核酸分子を含有する送達薬剤を含むセクションD.4に記載の組成物の何れかが、インジェクションデバイスを含む組合せに含まれるように供給されることができる。組成物は、投与のためのインジェクションデバイスに含まれ得るか、または後で別々に添加されるよう提供することができる。キットは、必要に応じて、デバイスまたは複数のデバイスの使用のための指示、投与量、投薬計画および投与指示を含む適用のための支持を含むことができる。他の試薬も提供することができる。たとえば、キットは必要に応じて、組織または臓器の移動を行うための器具、方法の実施における使用のための区分化および他の試薬を監視するためのタイマを含むことができる。
【0504】
G.実施例
以下の実施例は、例示目的のみのために含まれ、本発明の範囲を限定するものではない。
【0505】
実施例1
バンドクランプデバイスの構築
図1〜
図5に示し、詳細な説明に記載されたタイプのバンドクランプデバイスが構築された。肝臓の一部への腹腔鏡アクセスを許可するために、シース部30の直径は10mmであり、シース部30とクランプ部40の長さは300mmであった(たとえば、
図1参照)。可撓性上側バンド42は、繊維強化ポリウレタン(ニューヨーク州ハイドパークのStock Drive Products)で作られた(たとえば、
図1参照)。バルーン43は、中デュロメータポリウレタン製の医療用バルーン(ニューハンプシャー州セイラムのAdvanced Polymers)製であり、クランプ部40の細長表面部材41に形成された揺架溝44に勘合するように長さが約10cmであった(たとえば、
図1参照)。空気で満たされた20mL標準シリンジ(ニュージャージー州フランクリンのベクトン&ディッキンソン社)は、バルーン43の膨張を制御するために、バルーン膨張線25に接続された(たとえば、
図1を参照)。
【0506】
腹腔鏡ポートのカニューレに挿入する前、バルーンは収縮状態43aのままであり、第1バンド引張りホイール21がハンドルに向けて(すなわち、反時計回りに)回転され、それにより、可撓性バンドが収縮バルーン43a上で平坦位置42aとなった(たとえば、
図4A参照)。バンド引張り/緩めスイッチ23は上位置(23b)とされ、第1バンド引張りホイール21がクランプ端(すなわち、時計回り)に向かって回り、可撓性バンド42を繰り出すまたは緩めるのを防止する(たとえば、
図3B参照)。
【0507】
実施例2
バンドクランプデバイスを使用したブタ死骸肝臓におけるエクスビボクランプ調査
ブタ死骸からの新鮮な全体の/完全な肝臓を地元の肉屋から入手した。実施例1に記載のバンドクランプデバイスを用いて、バンド引張り/緩めスイッチ23を下位置23aに配置し、第1バンド引張りホイール21を時計回りに回転させて、可撓性バンドを繰り出し、肝臓に合わせて高さ3〜4cmの緩みループ42bを生成した(たとえば、
図6B参照)。肝臓501の左中葉が特定され、把持されて、20cmの葉が、肝臓から切取り/区画化された。クランプ部40は、肝臓501の区画化された部分の上に配置された(たとえば、
図6C参照)。シース調節ノブ31を回してシースを進め、クランプされる肝臓部分の解剖学的構造と大きさに合うようにするためにクランプ部40の大きさを減少させた(たとえば、
図6D参照)。第1バンド引張りホイール21を反時計回りに回転させて、緩みループ42bの大きさを減少させ、肝臓の解剖学的構造に対してぴったり嵌った引張り位置にあるループ42cを生成した(たとえば、
図6E参照)。バルーン線25に接続されたシリンジを係合することにより、バルーン43に空気を充填し、膨張バルーン43bを、クランプ部40に保持された肝臓501の下側の解剖学的構造に適合させた(たとえば、
図6F参照)。
【0508】
デバイスを配置し、区分化された肝臓の部分の上に嵌めると、スイッチを上位置23bにし、第1バンド引張りホイールが時計回りに移動して、引張られた可撓性ループ42cが繰り出され、または緩められるのを防止する。主要な血管をクランプされた肝臓部分の区分された側面上で特定し、カニューレ管を区分化された肝臓へ3cm挿入した。ブロモフェノールブルー五十(50)mLを、カニューレ処置された血管を介してクランプされた肝臓の実質組織に注入した。50mLが注入されたら、バルーン線25に接続されたシリンジから空気を回収することによって、バルーン43を収縮し、スイッチを下位置23aに移動させ、引張られた可撓性ループ42cの緩みを可能にし、第1バンド引張りホイールを時計回りに回転させ、可撓性バンドをその緩み位置42bへと緩めた。肝臓501を、クランプ部40から除去した。
【0509】
クランプ配置場所の両側の組織を、青色色素の存在により可視化し、分析した。青色色素はカニューレ処置されたクランプ肝臓部分の近位半分側のみに局在し、クランプ組織の反対側には浸透しなかった。したがって、この結果は、バンドクランプデバイスが、循環遮断をシミュレート可能であり、それゆえ、クランプ肝臓部分の遠位側への青色染料溶液の流通を防止することによって、区分化成功を達成したことを示す。
【0510】
実施例3
バンドクランプデバイスを使用した肝臓の区分化に続く、注入アデノウイルスの持続的な可溶性レポータータンパク質の発現
区分化された遺伝子送達方法によって達成可能な長期の遺伝子発現の程度を評価するために、バンドクランプデバイスを使用して30分間、分泌タンパク質、α−フェトプロテイン(AFP)を発現するアデノウイルスを、全身循環から区分化された肝実質組織に注入した。長期の遺伝子発現を決定するために、可溶性タンパク質の存在を、末梢血中に注入後、経時的に評価した。
【0511】
A.方法
Ad−pALB.AFPと命名したアデノウイルスは、ヒトアデノウイルス5型由来であり、イノシシ血清アルブミン遺伝子によって駆動されるブタ(イノシシ)α−フェトプロテイン(AFP)のcDNA(ジェンバンクアクセッション番号AF517770.1)、プロモーター領域(ジェンバンクアクセッション番号AY033476.1)をコード化する。アデノウイルスは、E1領域を削除することによって、複製欠損とされた。この削除されたE1領域へと、レポーター遺伝子のα−フェトプロテイン(AFP)がクローン化され、肝臓への特異性のためにブタアルブミン(ALB)プロモーターによって駆動されるように構築した。ALBプロモーターの制御下にあるイノシシAFPのcDNAを、GenScript(ニュージャージー州ピスカタウェイ)によって合成し、pUC57プラスミドにクローニングした。pUC57プラスミド中のAFPの発現カセットは、デュアルベーシックアデノウイルスシャトルベクターにサブクローニングされ、Ad5(DE1/DE3)ベクター(ペンシルバニア州フィラデルフィアのVectorBiolabs)で組み換えた。Ad.pALB.AFPと命名されたアデノウイルスを、HEK293細胞にパッケージングし、塩化セシウム超遠心分離を用いて精製し、従来のHEK293プラークアッセイを用いて滴定した。
【0512】
簡潔には、全身麻酔下で20キログラム(kg)のベトナムブタ(n=3)を仰臥位に配置した。無菌化および消毒を行い、腹部を無菌外科用シートを用いてドレスした。10cmの臍上内側切開を行い、腹腔および肝臓を露出させた。慎重に、10センチメートル(cm)の肝臓の左中葉を、腹腔から抽出した。
【0513】
左内側葉の遠位部分の約5センチメートル(5cm)は、実施例1に記載のバンドクランプデバイスを用いて区分化された。実施例1に記載のバンドクランプデバイスを用いて、バンド引張り/緩めスイッチ23を緩め下位置23aに配置し、第1バンド引張りホイール21をクランプ端部(すなわち、時計回り方向)に回転させて可撓性バンドを繰り出し、肝臓に合わせて高さ3〜4センチの緩みループ42bを生成した(たとえば、
図6B参照)。肝臓501の左中葉をピンセットで把持し、クランプ部40を、肝臓501上に配置した(たとえば、
図6C参照)。シース調節ノブ31を回してシース32を前進させ、クランプされる肝部部分の解剖学的構造および大きさに合うようにするために、クランプ部40の大きさを減少させた(たとえば、
図6D参照)。第1バンド引張りホイール21をハンドル(すなわち、反時計方向)方向に回し、緩みループ42bの大きさを減少させて、臓の解剖学的構造に対してぴったり嵌った引張り位置にあるループ42cを生成した(たとえば、
図6E参照)。バルーン線25に接続されたシリンジを係合することにより、バルーン43に空気を充填し、膨張バルーン43bを、クランプ部40に保持された肝臓501の下側の解剖学的構造に適合させた。
【0514】
デバイスを配置して、肝臓上に嵌めると、バンド引張り/緩めスイッチを上位置23bに配置し、第1バンド引張りホイール21がクランプ端部(すなわち、時計回り方向)に回転して、引張られた可撓性ループ42cが繰り出され、または緩められるのを防止する。標準的な1mLインシュリンシリンジを使用して、1.2×l0
5pfuのAd.pALB.AFP(n=2)を含む溶液0.500mL(500μL)を、区分化された肝実質組織内に直接、注入した。陰性対照として、第3のブタには、アデノウイルス(n=1)を注入しなかった。
【0515】
腹腔鏡下肝クランプを、30分間、所定位置に保持し、その後、肝臓から解放した。クランプを解除するには、バンド引張り/緩めスイッチを下位置に移動させて引張られた可撓性ループ42cを緩め、第1バンド引張りホイール21をクランプ端(すなわち、時計回り)方向に回して可撓性バンドを緩み位置42bに緩めた。肝臓501を、クランプ部40から除去した。出血のために注射部位を1分間観察し、その後、葉を慎重に腹腔内に再導入した。腹筋切開をVycril 1を使用して縫合した。次に、標準的な外科用ステープルで皮膚を閉じた。切開をドレスし、ブタが回復できるためのケージへとブタを慎重に運んだ。30分間の葉のクランプを含む同じ外科処置を陰性対照ブタ(n=1)にも行ったが、PBSを注射した。
【0516】
アデノウイルス注射前の外科手術中と注射および手術後60日に、末梢血10ミリリットル(10mL)を右頸静脈から採取した。血液は血清分離管(ニュージャージー州フランクリンのBecton Dickinson Corp.)を用いて処理し、サンプルを30分間、凝固させ、15分間、1,000gで遠心分離した。血清を除去し、等分し、−80℃で保存した。AFPは、製造業者の手順に従ってブタα−フェトプロテイン、AFP ELISAキット(中国武漢のCusabio Biotech Co.,Ltd.)を使用して、血清中で検出された。
【0517】
アデノウイルス注射群からの1匹のブタと1匹のPBS注射した対照は、その後12カ月間、フォローアップされ、各ブタのAFPレベルを評価した。血清を採取し、上記のように処理した。AFP ELISAキットの感度の問題が原因で、AFPは、製造業者の手順に従って、固相2サイトシーケンシャル化学発光免疫測定アッセイキットであるIMMULITE 2000 AFP(イギリスグウィネズのシーメンスヘルスケア)を用いて検出した。
【0518】
B.結果
1.初期60日
60日フォローアップの結果により、0.4ng/mLのAFPの平均基礎または背景レベルが、アデノウイルス注入前の動物の末梢血清中で検出されたことが示された。上述のAd.pALB.AFPアデノウイルスを注射した動物において、平均36ng/mLのAFPが、アデノウイルス投与後60日のブタで検出された。これとは対照的に、AFPの基礎レベルが、アデノウイルス(0.4ng/mL)を受けなかった対照ブタで検出された。これらの結果は、バンドクランプデバイスで区分化された肝臓へのアデノウイルス送達が、アデノウイルス形質導入後の少なくとも60日(2ヶ月)間の、持続的な導入遺伝子発現を達成することを実証している。
【0519】
2.12ヶ月フォローアップ
表1は、12ヶ月フォローアップの結果を示し、AFPレベルが、固相2サイトシーケンシャル化学発光免疫測定アッセイを用いて検出された。Ad.pALB.AFPを注射した動物では、投与後、試験したすべての時点で、血清AFPレベルは、12ヶ月のフォローアップを通じて維持された対照よりも実質的に大きかったことを検出した。これらの結果は、バンドクランプデバイスで区分化された肝臓へのアデノウイルスの送達が、アデノウイルス形質導入後の少なくとも1年(12ヶ月)間の持続的な導入遺伝子発現を達成することを示している。
【0521】
実施例4
バンドクランプデバイスを使用した肝臓の区分化の間およびその後の注入アデノウイルスの全身検出
アデノウイルスを、バンドクランプデバイスを用いて30分間、全身循環から区分化された肝臓の実質組織に注入し、クランピングの間およびその後の血流中のその存在を、ウイルス血症が発生するかどうかを決定するために定量的PCRを用いて評価した。実施例3に記載のAd.pALB.AFPと命名されたアデノウイルスを、これらの実験に使用した。
【0522】
簡潔には、全身麻酔下で20キログラム(kg)のブタ(n=3)を仰臥位に配置した。無菌化および消毒を行い、腹部領域を無菌外科用シートを用いてドレスした。10cm臍上内側切開を行い、腹腔および肝臓を露出させた。慎重に、10センチメートル(cm)の肝臓の左中葉を、腹腔から抽出した。ブタの肝臓を、バンドクランプデバイスで区分化し、実施例3で説明した1.2×l0
10pfuのAd.pALB.AFP(n=2)の用量を注入した。陰性対照として、第3のブタには、アデノウイルスを注入しなかった。アデノウイルス注入後(注射後)1、3および5分にて、末梢血5mLを頸静脈から採取した。
【0523】
腹腔鏡下肝クランプを、30分間、所定位置に保持し、その後、肝臓から解放した。クランプを解除するには、バンド引張り/緩めスイッチを下位置に移動させて引張られた可撓性ループ42cを緩め、第1バンド引張りホイール21をクランプ端(すなわち、時計回り)方向に回して可撓性バンドを緩み位置42bに緩めた。肝臓501を、クランプ部40から除去した。その後、クランプ解除後(クランプ解除の後)1、3および5分にて、末梢血5mLを頸静脈から採取した。注射後)1、3および5分にて、末梢血5mLを頸静脈から採取した。出血のために注射部位を1分間観察し、その後、葉を慎重に腹腔内に再導入した。腹筋切開をVycril 1を使用して縫合した。次に、標準的な外科用ステープルで皮膚を閉じた。切開をドレスし、ブタが回復できるためのケージへとブタを慎重に運んだ。30分間の葉のクランプを含む同じ外科処置を陰性対照ブタ(n=1)にも行ったが、PBSを注射した。
【0524】
得られた血液サンプルを血清分離管(ニュージャージー州フランクリンのBecton Dickinson Corp.)を用いて処理し、サンプルを30分間、凝固させ、15分間、1,000gで遠心分離した。血清を除去し、等分し、−80℃で保存した。定量的PCRによりE4アデノウイルス5遺伝子を増幅することによって、アデノウイルスDNAの存在について血清サンプルを分析した。製造業者によって記載されるようにウィザードゲノムDNA精製キット(Promega)を用いて血清サンプル500μLからDNAを精製した。PCR反応あたりのDNA10ngを使用して、アデノウイルスゲノムのコピー数は、SYBRグリーンマスターミックス(Applied Biosystems)とステップワンプラスシステム(Applied Biosystems)を用いたE4ヒトアデノウイルス5領域(ジェンバンクAB685372.1)の増幅によって決定した。PCRのサイクルは以下の通りであった:95℃で10分間の1サイクル、95℃で15秒間の40サイクル、解離プロトコルに続く60℃で1分間。増幅に用いたプライマーは以下の通りであった:順方向5’−GGAGTGCGCCGAGACAAC−3’(SEQ ID NO:1)および逆方向5’−ACTACGTCCGGCGTTCCAT−3’(SEQ ID NO:2)(Kanerva et al, Molecular Therapy Vol.5,No.6,2002)。アデノウイルスゲノムの定量化のために、サンプルの測定値は、アデノウイルスゲノムコピーの既知の数を増幅することによって作成された標準的な曲線と比較した(10
6、10
5、10
4、10
3、10
2、10および1)。
【0525】
結果を表2に示す。この結果は、いかなるゲノムも何れの試験時点においても検出されなかったことを示し、これは、ウイルス血症が発生せず、アデノウイルス注射およびクランプ解除直後に、末梢循環へのウイルス放出がなかったことを示す。
【0527】
実施例5
バンドクランプデバイスを使用した肝臓の区分化の後の末梢臓器における注入アデノウイルスの検出
さらに、実施例3に記載されたように注入されたウイルスのウイルス血症が発生しなかったという知見を確認するために、末梢臓器におけるウイルスの存在を、区分化肝実質組織へのアデノウイルスの注射後に評価した。ブタ肝臓(n=2)をバンドクランプデバイスで区分化し、実施例3に記載したようにAd.pALB−AFP1.2×l0
10pfuの用量を注射した。陰性対照として、30分間の葉のクランプを含む同じ外科処置をブタ(n=1)にも行ったが、PBSを注射した。
【0528】
クランプは、30分後に解除され、実施例3に記載されたようにブタを縫合し、回復させた。区分化肝臓形質導入後8日において、ブタを安楽死させ、組織の3つのランダムサンプルを、注射部位の肝臓、注射部位から遠位の肝臓組織、心臓、肺、腎臓、筋肉、小腸、脾臓、膀胱、大動脈組織および睾丸から得た。処理されるまで、得られた組織サンプルを、−80℃で保存した。DNAは、製造業者によって記載されるようにウィザードゲノムDNA精製キット(Promega)を用いて組織サンプルから精製した。
【0529】
実施例3に記載したように、定量的PCRによりE4アデノウイルス5遺伝子を増幅することによって、組織サンプルから精製されたDNAをアデノウイルスDNAの存在について分析した。結果を表3に示す。この結果は、アデノウイルスを注射した動物における注射部位にてウイルスゲノムが肝臓に存在し、対照動物では存在しなかったことを示す。結果は、ウイルスゲノムが全く、他の分析された臓器/組織の何れにおいても検出されなかったこともさらに示している。したがって、結果は、バンドクランプデバイスが肝臓の区分化を達成すること、および、肝臓の区分化形質導入が非所望の臓器/組織のウイルス形質導入を回避することを示している。
【0531】
実施例6
バンドクランプデバイスによる区分化およびアデノウイルスベクターの送達後の肝臓組織の損傷の評価
バンドクランプデバイスによる肝臓の区分化およびアデノウイルスベクターの送達に続いて、組織学および肝臓損傷レベルバイオマーカーのアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)によって評価して、組織の損傷を決定した。
【0532】
A.方法
肝障害の程度を記すのに、バンドクランプデバイスでブタの左中葉を区分化し、本質的に実施例3に記載されているように500μLのAd.pALB.AFP(用量当たりn=3)の用量1.2×10
10pfu、1.2×10
5pfuまたは1.2×10
2pfuを注射した。30分間の葉のクランプを含む同じ外科処置をブタの陰性対照群(n=2)にも行ったが、PBSを注射した。クランプは、30分後に解除され、実施例3に記載されたようにブタを縫合し、回復させた。末梢血を、クランプ前、および、クランプおよび形質導入後24、48、72、96、120および144時間に動物から採取した。区分化肝臓形質導入後8日において、1.2×10
10pfuを受けたブタを安楽死させた。
【0533】
Ad.pALB.AFP1.2×10
5pfuを受けた1匹のブタとPBS注入された1匹の対照は、その後12ヶ月間、毎月フォローアップされ、肝障害バイオマーカーのアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血清レベルを判定した。
【0534】
血液サンプルは、血清分離管(ニュージャージー州フランクリンのBecton Dickinson Corp.)を用いて処理し、サンプルを30分間、凝固させ、15分間、1,000gで遠心分離した。血清を除去し、等分し、冷凍して、メキシコ国立大学(UNAM)獣医学校に送られ、日立自動分析装置(インディアナ州インディアナポリスのBoehringer Mannheim)にて市販のキット(ミズーリ州セントルイスのSigma Chemicals)を用いてアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血中レベルを判定した。
【0535】
B.結果
1.肝障害のバイオマーカー
a.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
初期の調査の結果では、30分間のバンドクランプデバイスで区分化を施した対照動物におけるALTの平均レベルが、ALTレベルの正常範囲21〜46U/Lよりも平均してわずかに高い約55〜80U/Lの範囲であったことが示された。アデノウイルスを注射した動物では、アデノウイルスの肝臓形質導入は、試験した用量のいずれにおいても、対照動物で観察されたものと比較してALTのレベルを有意に増加させなかった。
【0536】
1.2×10
5pfuのAd.pALB.AFP肝臓伝達を受けた1匹のブタおよびPBSを注入した1匹の対照の、12ヶ月フォローアップ調査のALTレベル判定結果を表4に示す。表4に示すように、最初の6日間、Ad.pALB.AFPを注射されたブタのALTレベルは、約60〜80U/Lの範囲であった。PBSを注射されたブタにおいても、バンドクランプデバイスを用いて区分化方法が行われ、その値は約55〜60U/Lの範囲であった。これらの結果は、両群において21〜46U/Lの正常範囲よりわずかに高いALTレベルを示している。ALTレベルは、Ad.pALB.AFP注入ブタおよび対照ブタの両方で、大略的には徐々に減少して約5ヶ月(150日)以内に正常範囲(21〜46U/L)内に収まった。
【0538】
b.アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)
初期の調査の結果では、30分間のバンドクランプデバイスで区分化を施した対照動物におけるASTの平均測定レベルが、約60U/L(一匹の動物において80U/L〜100U/L)であり、15〜55U/Lの正常範囲を超えるASTレベルのわずかな増加であったことが示された。アデノウイルスを注射した動物では、アデノウイルスの肝臓形質導入は、試験した用量のいずれにおいても、対照動物で観察されたものと比較してASTのレベルを有意に増加させなかった。
【0539】
1.2×10
5pfuのAd.pALB.AFP肝臓伝達を受けた1匹のブタおよびPBSを注入した1匹の対照の、12ヶ月フォローアップ調査のASTレベル判定結果を表5に示す。表5に示すように、最初の6日間、Ad.pALB.AFPを注射されたブタのASTレベルは、約60〜100U/Lの範囲であった。PBSを注射されたブタにおいては、その値は約30〜60U/Lの範囲であった。これらの結果は、Ad.pALB.AFPを注射されたブタにおいて15〜55U/Lの正常範囲よりわずかに高いASTレベルを示している。その後のフォローアップにおいて、ASTレベルは、両群で、1ヶ月(30日)に正常範
囲(15〜55U/L)の範囲内に収まり、レベルは12ヶ月の時点まで正常範囲内にとどまった。
【0541】
c.結論
結果は、短期的には(たとえば、バンドクランプデバイスによる区分化およびアデノウイルス形質導入の1〜6日後)、ALTおよびASTレベルがアデノウイルス注射群でわずかに正常範囲を超えていたことを示す。しかしながら、わずかな増加は、陰性対照群でも観察され、外科的処置がおそらくわずかな増加の原因であることを示している。
【0542】
ALTおよびASTレベルは、アデノウイルス投与群で有意に高くはなかった。長期(最長12ヶ月)にわたり、ALTおよびASTレベルは、アデノウイルス注入群および対照群の両方で正常範囲内に回復された。これらの結果は、区分化された肝臓のアデノウイルス形質導入が、免疫活性化事象や肝障害マーカーの同時増加を伴う肝組織を損傷する他の応答を誘発しなかったことを示している。
【0543】
2.組織学
区分化肝臓形質導入後8日において、安楽死させた豚の肝臓を採取し、左中葉が処理された。組織を4%パラホルムアルデヒドで固定し、組織経路培地(ペンシルバニア州ピッツバーグのFisher Scientific)に包埋した。4マイクロメートル(4μm)厚さの組織切片を調製し、組織ガラススライド上に載せ、ヘマトキシリンおよびエオシンで対比染色し、60倍および190倍の倍率で光学顕微鏡下で観察した。これらの結果は、区分化アデノウイルス肝臓形質導入は、多形核白血球の浸潤の形で肝臓組織の損傷を発生させないことを示している。これはさらに、区画化アデノウイルス肝臓形質導入が、免疫活性化事象や肝組織を損傷する他の応答を誘発しなかったことを照明している。
【0544】
実施例7
シリンジインジェクションデバイスの構築
図9Aに示し、詳細な説明に記載されたタイプのシリンジインジェクションデバイスを構築した。デバイスは、プランジャ92およびシリンジ筒91、針シースコントローラ71、針シース72、注入管83ならびに注射針81を含む。肝臓の一部への腹腔鏡アクセスを行うために、針シース72の直径は5mmであり、針シース72の長さは300mmであった(たとえば、
図9A参照)。
【0545】
被覆位置にある際に、針シース72内の針シース管腔723が注入管83および注射針81を収容するようにデバイスを構築した(たとえば、
図9A参照)。注射針は、長さ10mmの標準的な27ゲージであり、27ゲージの注入管83に直接、接続された。注入管83および注射針81はステンレス鋼製であった。注入管83は、針シースコントローラ71内の基端部にて針ハブ84および針シースコントローラ71に固定された(たとえば、
図9A参照)。注射針81は、針ロックボタン711を前方にスライドさせて被覆およびロックされた。シリンジ筒91およびプランジャ92を含む標準1ccインシュリンシリンジに、針なしで、0.7mLの溶液を充填し、パージした。シリンジを、ルアー嵌合アダプタ93を用いて針シースコントローラ71外の針ハブ84基端部に取り付けた(
図9A参照)。
【0546】
実施例8
腹腔鏡シミュレータにおける肝臓の区分化伝達
注射液送達のため、肝臓の左中葉の一部の区分化を達成するために、熟練した外科医/医師によって、腹腔鏡シミュレータで実施例1に記載のバンドクランプデバイス10および実施例7に記載の腹腔鏡インジェクションデバイス60が利用された。腹腔鏡シミュレータ(メキシコのLapa−Pro)を、対象のセミファウラー位をシミュレートするために35°〜45°の角度の傾きに配置した。セミファウラー位により、重力を用いて腹部臓器を遠位に移動させて、ヒト肝臓の左葉の先端部へのアクセスが容易になる。対象に関して、シミュレータの入口ポートを次のように配置した:心窩部腹部内の1つの入口ポート、臍腹部内の1つの入口ポート、左腰腹部領域の2つの入口ポート。
【0547】
新鮮に得られた死骸ブタの肝臓を腹腔鏡シミュレータ内に配置した。腹腔鏡は、臍部入口ポートを介して挿入した。実施例1に記載のバンドクランプデバイス10のシース部30およびクランプ部40は、心窩部入口ポートを介して挿入した。実施例1に記載したように、腹腔鏡ポートのカニューレ内への挿入のために、デバイスは、バルーン収縮状態43aで配置され、第1バンド引張りホイール21がハンドル端部に向かって(すなわち、反時計回りに)回転し、可撓性バンドが収縮したバルーン43a上で平坦位置42aとなり、第1のバンド引張り/緩めスイッチ23が上位置(23b)となって、第1バンド引張りホイール21が時計回りに移動して可撓性バンド42を繰り出す、または緩めるのを防止する。把持具が遠位の左腰部入口を通して挿入された。
【0548】
バンド引張り/緩めスイッチ23を下位置23aに配置し、第1バンド引張りホイール21をクランプ端部に向かって(すなわち時計回りに)回転させて、可撓性バンドを繰り出し、肝臓に合わせて高さ3〜4cmの緩みループ42bを生成した(たとえば、
図6B参照)。死骸ブタの肝臓の左中葉の遠位部が配置された。少なくとも5cmの肝臓501の左中葉を、把持具を用いて慎重にバンドクランプデバイスの繰り出されたループ42bへと操作し、肝臓の一部がクランプ部40の細長表面部材41上に平らに置かれた(たとえば、
図6C参照)。シース調節ノブ31を回してシース32を進め、クランプされる肝臓部分の解剖学的構造と大きさに合うようにするためにクランプ部40の大きさを減少させた(たとえば、
図6D参照)。第1バンド引張りホイール21をハンドル端部に向かって(反時計回りに)回転させて、緩みループ42bの大きさを減少させ、循環遮断または肝臓部分の区分化をシミュレートするために肝臓の解剖学的構造に対してぴったり嵌った引張り位置にあるループ42cを生成した(たとえば、
図6E参照)。バルーン線25に接続されたシリンジを係合することにより、バルーン43に空気を充填し、膨張バルーン43bを、クランプ部40に保持された肝臓501の下側の解剖学的構造に適合させた(たとえば、
図6F参照)。
【0549】
標準1ccインシュリンシリンジに、0.7mLの水道水の溶液を充填し、パージした。シリンジ筒91およびプランジャ92を含む充填されたシリンジを、針シースコントローラ71の基端部にて針ハブ84に取り付けた。針シースコントローラ71の針ロックボタン711を後方にスライドさせ、針ロックボタン711をロック解除し、針を非被覆とした。シリンジインジェクションデバイス全体を、液体が針の先端で観察される(約200μL)まで、プランジャを押すことによってパージした。針シースコントローラ71の針ロックボタン711をその後、前方にスライドさせ、前方位置711aに針ロックボタン711をロックし、注射針81を被覆した。被覆された針を伴うシリンジインジェクションデバイスを、近位の左腰入口ポートを介してシミュレータに導入した。腹腔鏡モニタを使用して、インジェクションデバイスの先端を、注射部位の近くに配置した。腹腔鏡インジェクションデバイス上の注射針81は、針ロックボタン711を後方にスライドさせて後方位置711cにボタンをロックすることにより、非被覆とした。注射針81の先端を実質組織に導入し、確実にそれが組織を貫通しないようにした。注射針81の先端を慎重に実質組織内に配置した後、液体500μLが注入されるまで、プランジャ92を押した。
【0550】
針シースコントローラ71の針ロックボタン711を前方にスライドさせ、前方位置711aに針ロックボタン711をロックし、針を被覆した。腹腔鏡インジェクションデバイス60を、シミュレータから除去した。肝臓からのクランプを解除するために、バルーン43を、バルーン線25に接続されたシリンジから空気を回収することによって収縮させ、バンド引張り/緩めスイッチ23を下位置23aに移動させて引張られた可撓性ループ42cの緩みを可能にし、第1バンド引張りホイール21を時計回りに回転させ、可撓性バンドをその緩み位置42bへと緩めた。解放されると、処置が終わった。肝臓501を、クランプ部40から除去した。バンドクランプデバイス10を、シミュレータから除去した。
【0551】
当業者であれば変更は明白であるため、本発明は添付の請求項の範囲によってのみ限定されることを意図する。