(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素質前駆体が、石油ピッチ若しくはタール、石炭ピッチ若しくはタール、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂を炭素源とするものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池負極用活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1]非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法は、(1)炭素質前駆体に、アルカリ金属元素を含む化合物を添加し、アルカリ添着炭素質前駆体を得るアルカリ添着工程、(2)前記アルカリ添着炭素質前駆体を、(a)非酸化性ガス雰囲気中において800℃〜1500℃で本焼成して焼成物を得るか、又は(b)非酸化性ガス雰囲気中において400℃以上800℃未満で予備焼成し、そして非酸化性ガス雰囲気中において800℃〜1500℃で本焼成して焼成物を得る、焼成工程、及び(3)前記焼成物を、熱分解炭素で被覆する工程、を含む。
【0013】
《アルカリ添着工程(1)》
前記アルカリ添着工程(1)においては、炭素質前駆体に、アルカリ金属元素を含む化合物を添加する。
【0014】
(炭素質前駆体)
本発明の炭素質材料の炭素源である炭素質前駆体は、非酸化性雰囲気中、1100℃以上で熱処理した場合に、炭素元素の含有率が80重量%以上の組成となる炭素材料であれば特に限定されない。
炭素質前駆体の1100℃における炭素化収率が低すぎる場合、後述の焼成工程(2)において炭素質前駆体に対するアルカリ金属元素、又はアルカリ金属化合物の割合が過剰となり、比表面積の増加などの反応を引き起すので好ましくない。従って、炭素質前駆体を、非酸化性雰囲気中1100℃で熱処理したときの炭素化収率は、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは40重量%以上であり、更に好ましくは50重量%以上である。
本明細書において、炭素質前駆体とは、限定されるものではないが水素原子と炭素原子との原子比(H/C)が、0.05以上、さらに好ましくは0.15以上、とくに好ましくは0.30以上のものが好ましい。H/Cが0.05未満の炭素前駆体は、アルカリ添着の前に焼成されていることが考えられる。このような炭素質前駆体は、アルカリ添着を行っても、十分にアルカリ金属元素等が炭素前駆体の内部に含浸することができない。従って、アルカリ添着後に焼成を行っても、多くのリチウムをドープ及び脱ドープすることを可能とする十分な空隙を形成することが、困難となることがある。
【0015】
炭素質前駆体の炭素源は、特に限定されるものではないが、例えば石油系ピッチ若しくはタール、石炭系ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂(例えば、ケトン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、アラミド樹脂、又はポリエーテルエーテルケトン)、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ポリアセタール樹脂、ナイロン樹脂、フラン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂及びアミド樹脂)を挙げることができる。
本発明の炭素質材料は、好ましくは易黒鉛化性炭素質又は難黒鉛化性炭素質である。従って、石油系ピッチ若しくはタール、石炭系ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂を炭素源として用いる場合、酸化処理などの架橋(不融化)処理を行っても良いが、比較的低めの酸素含有量(酸素架橋度)が好ましい。また、不融化なしで、本発明の炭素質材料を得ることも可能である。すなわち、タール又はピッチに対する架橋処理は、架橋処理を行ったタール又はピッチを易黒鉛化性炭素前駆体から難黒鉛化性炭素前駆体に連続的に構造制御することを目的とするものである。タール又はピッチとしては、エチレン製造時に副生する石油系のタール又はピッチ、石炭乾留時に生成するコールタール、コールタールの低沸点成分を蒸留除去した重質成分又はピッチ、石炭の液化により得られるタール及びピッチを挙げることができる。また、これらのタール又はピッチの2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
(不融化処理)
石油系ピッチ若しくはタール、石炭系ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂などの架橋処理の方法としては、例えば架橋剤を使用する方法、又は空気などの酸化剤で処理する方法を挙げることができる。
【0017】
架橋剤を用いる場合は、石油ピッチ若しくはタール、又は石炭ピッチ若しくはタールなどに対し、架橋剤を加えて加熱混合し架橋反応を進め炭素前駆体を得る。例えば、架橋剤としては、ラジカル反応により架橋反応が進行するジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、又はN,N−メチレンビスアクリルアミド等の多官能ビニルモノマーが使用できる。多官能ビニルモノマーによる架橋反応は、ラジカル開始剤を添加することにより反応が開始する。ラジカル開始剤としては、α,α’アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)、過酸化ラウロイル、クメンヒドロベルオキシド、ジクミルペルオキシド、1−ブチルヒドロペルオキシド、又は過酸化水素などが使用できる。
【0018】
また、空気などの酸化剤で処理して架橋反応を進める場合は、以下のような方法で炭素前駆体を得ることが好ましい。すなわち石油系又は石炭系のピッチ等に対し、添加剤として沸点200℃以上の2乃至3環の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱混合した後、成形しピッチ成形体を得る。次にピッチに対し低溶解度を有し、且つ添加剤に対して高溶解度を有する溶剤で、ピッチ成形体から添加剤を抽出除去し、多孔性ピッチとした後、酸化剤を用いて酸化し、炭素前駆体を得る。前記の芳香族添加剤の目的は、成形後のピッチ成形体から前記添加剤を抽出除去して成形体を多孔質とし、酸化による架橋処理を容易にし、また炭素化後に得られる炭素質材料を多孔質にすることにある。このような添加剤は、例えばナフタレン、メチルナフタレン、フェニルナフタレン、ベンジルナフタレン、メチルアントラセン、フェナンスレン、又はビフェニル等の1種又は2種以上の混合物から選択することができる。ピッチに対する添加量は、ピッチ100重量部に対し、30〜70重量部の範囲が好ましい。ピッチと添加剤の混合は、均一な混合を達成するため、加熱し溶融状態で行う。ピッチと添加剤の混合物は、添加剤を混合物から容易に抽出できるようにするため、粒径1mm以下の粒子に成形することが好ましい。成形は溶融状態で行ってもよく、また混合物を冷却後粉砕することにより行ってもよい。ピッチと添加剤の混合物から添加剤を抽出除去するための溶剤としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、又はヘプタン等の脂肪族炭化水素、ナフサ、又はケロシン等の脂肪族炭化水素主体の混合物、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等の脂肪族アルコール類が好適である。このような溶剤でピッチと添加剤の混合物成形体から添加剤を抽出することによって、成形体の形状を維持したまま添加剤を成形体から除去することができる。この際に成形体中に添加剤の抜け穴が形成され、均一な多孔性を有するピッチ成形体が得られるものと推定される。
【0019】
また、多孔性ピッチ成形体の調製方法としては、上記の方法以外に以下の方法も用いることができる。石油系又は石炭系のピッチ等を平均粒径(メディアン径)60μm以下に粉砕して微粉状ピッチを形成し、次いで前記微粉状ピッチ、好ましくは平均粒径(メディアン径)5μm以上40μm以下の微粉状ピッチを圧縮成形して多孔性圧縮成形体を形成することができる。圧縮成形は既存の成形機が使用でき、具体的には単発式の竪型成型機、連続式のロータリー式成型機やロール圧縮成形機が挙げられるが、それらに限定されるものではない。上記圧縮成形時の圧力は、好ましくは、面圧で20〜100MPaまたは線圧で0.1〜6MN/mであり、より好ましくは面圧で23〜86MPaまたは線圧で0.2〜3MN/mである。前記圧縮成形時の圧力の保持時間は、成形機の種類や微粉状ピッチの性状及び処理量に応じて、適宜定めることが出来るが、概ね0.1秒〜1分の範囲内である。微粉状ピッチを圧縮成形する時には必要に応じてバインダー(結合剤)を配合してもよい。バインダーの具体例としては、水、澱粉、メチルセルロース、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、又はフェノール樹脂などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。圧縮成形により得られる多孔性ピッチ成形体の形状については特に限定はなく、粒状、円柱状、球状、ペレット状、板状、ハニカム状、ブロック状、ラシヒリング状などが例示される。
【0020】
得られた多孔性ピッチを架橋するため、次に酸化剤を用いて、好ましくは120〜400℃の温度で酸化する。酸化剤としては、O
2、O
3、NO
2、それらを空気若しくは窒素等で希釈した混合ガス、又は空気等の酸化性気体、あるいは硫酸、硝酸、過酸化水素水等の酸化性液体を用いることができる。酸化剤として、空気又は空気と他のガス例えば燃焼ガス等との混合ガスのような酸素を含むガスを用いて、120〜400℃で酸化して架橋処理を行うことが簡便であり、経済的にも有利である。この場合、ピッチ等の軟化点が低いと、酸化時にピッチが溶融して酸化が困難となるので、使用するピッチ等は軟化点が150℃以上であることが好ましい。
【0021】
炭素前駆体として、前記の方法で得られた多孔性ピッチ以外の石油ピッチ若しくはタール、石炭ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂を用いる場合でも、同様に不融化処理を行うことができる。すなわち、不融化処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化剤を用いて行うことができる。酸化剤も特に限定されるものではないが、気体としては、O
2、O
3、SO
3、NO
2、これらを空気、窒素などで希釈した混合ガス、又は空気などの酸化性気体を用いることができる。また、液体としては、硫酸、硝酸、若しくは過酸化水素等の酸化性液体、又はそれらの混合物を用いることができる。酸化温度も、特に限定されるものではないが、好ましくは、120〜400℃である。温度が120℃未満であると、十分に架橋構造ができず熱処理工程で粒子同士が融着してしまう。また温度が400℃を超えると、架橋反応よりも分解反応のほうが多くなり、得られる炭素材料の収率が低くなる。
【0022】
炭素質前駆体は、粉砕しなくてもよいが、粒子径を小さくするために、粉砕することができる。粉砕は、不融化の前、不融化の後(アルカリ添着の前)、及び/又はアルカリ添着の後などに粉砕することができる。すなわち、不融化に適当な粒子径、アルカリ添着に適当な粒子径、又は焼成に適当な粒子径とすることができる。粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されるものではなく、例えばジェットミル、ロッドミル、振動ボールミル、又はハンマーミルを用いることができる。
前記の通り、粉砕の順番は限定されるものではない。しかしながら、本発明の効果である高い充放電容量を得るためには、炭素質前駆体にアルカリを均一に添着し、そして焼成を行うことが好ましい。従って、アルカリ添着前に粉砕することが好ましく、具体的には粉砕工程、アルカリ添着工程(1)、焼成工程(2)、そして被覆工程(3)の順に実施することが好ましい。最終的に得られる炭素質材料の粒子径とするためには、粉砕工程において平均粒子径1〜50μmに粉砕することが、好ましい。
【0023】
炭素質前駆体の平均粒子径は、限定されるものではないが、平均粒子径が大きすぎる場合、アルカリ金属化合物の添着が不均一になることがあり、高い充放電容量が得られないことがある。従って、炭素質前駆体の平均粒子径の上限は、好ましくは600μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、更に好ましくは50μm以下である。一方、平均粒子径が小さすぎる場合、比表面積が増加し、それによって不可逆容量が増加することあがる。また、粒子の飛散等が増加することがある。従って、炭素質前駆体の平均粒子径の下限は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは3μm以上であり、更に好ましくは5μm以上である。
【0024】
(酸素含有量(酸素架橋度))
炭素質前駆体を酸化により不融化した場合の酸素含有量は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではない。なお、本明細書において、炭素質前駆体に含まれる酸素は、酸化(不融化)によって含まれる酸素でもよく、また本来含まれていた酸素でもよい。但し、本明細書においては、炭素前駆体を酸化により不融化した場合、酸化反応により炭素前駆体に取り込まれた酸素原子が炭素前駆体の分子同士を架橋する働きをすることが多いため、酸素架橋度を酸素含有量と同じ意味で用いることがある。
ここで、酸素架橋による不融化処理を行わない場合は、酸素含有量(酸素架橋度)0重量%でもよいが、酸素含有量(酸素架橋度)の下限は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは2重量%以上であり、更に好ましくは3重量%以上である。1重量%未満であると炭素前駆体における六角網平面の選択的配向性が高くなり、繰り返し特性が悪化することがある。酸素含有量(酸素架橋度)の上限は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下であり、更に好ましくは12重量%以下である。20重量%を超えるとリチウムを格納するための空隙を十分に得られないことがある。
なお、実施例10及び11に記載のように、酸化処理を行わない場合でも、高い充放電容量を示す炭素質材料を得ることができる。
【0025】
(炭素前駆体の真密度)
炭素材料の真密度は、六角網平面の配列の仕方、いわゆる微細組織や結晶完全性により真密度が変化する為、炭素質材料の真密度は炭素の構造を示す指標として有効である。炭素質前駆体の熱処理で炭素質材料となるが、熱処理温度と共に炭素質材料の真密度が変化するため、炭素質前駆体をある特定の処理温度で処理した炭素質材料の真密度は炭素質前駆体の構造を示す指標として有効である。
炭素質前駆体の真密度は、特に限定されるものではない。しかしながら、本発明で好適に使用される炭素質前駆体は、炭素質前駆体を窒素ガス雰囲気中1100℃で1時間熱処理したときの炭素質材料の真密度の下限は、好ましくは1.45g/cm
3以上であり、より好ましくは1.50g/cm
3以上であり、更に好ましくは1.55g/cm
3以上である。真密度の上限は、好ましくは2.20g/cm
3以下であり、より好ましくは2.10g/cm
3以下であり、更に好ましくは2.05g/cm
3以下である。炭素質前駆体を窒素ガス雰囲気中1100℃で1時間熱処理したときの炭素質材料の真密度が1.45〜2.20g/cm
3であることによって、得られる炭素質材料の真密度を1.20〜1.60g/cm
3に制御することができる。
【0026】
(アルカリ金属元素又はアルカリ金属元素を含む化合物)
炭素質前駆体に添着するアルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、又はカリウムなどのアルカリ金属元素を用いることができる。リチウム化合物は他のアルカリ金属化合物と比べ空間を広げる効果が低く、また他のアルカリ金属元素と比べ埋蔵量が少ないという問題がある。一方、カリウム化合物は炭素共存下で還元雰囲気で熱処理を行うと金属カリウムが生成されるが、金属カリウムは他のアルカリ金属元素と比べ水分との反応性が高く、特に危険性が高いという問題点かある。そのような観点からアルカリ金属元素としてはナトリウムが好ましい。ナトリウムを用いることによって、特に高い充放電容量を示す炭素質材料を得ることができる。
アルカリ金属元素は、金属の状態で炭素質前駆体に添着してもよいが、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、又はハロゲン化合物などアルカリ金属元素を含む化合物(以下、アルカリ金属化合物又はアルカリ化合物と称することがある)として添着してもよい。アルカリ金属化合物としては、限定されるものではないが、浸透性が高く、炭素質前駆体に均一に含浸できるため、水酸化物、又は炭酸塩が好ましく、特には水酸化物が好ましい。
【0027】
(アルカリ添着炭素質前駆体)
前記炭素質前駆体にアルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物を添加することによって、アルカリ添着炭素質前駆体を得ることができる。アルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物の添加方法は、限定されるものでない。例えば、炭素質前駆体に対し、所定量のアルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物を粉末状で混合してもよい。また、アルカリ金属化合物を適切な溶媒に溶解し、アルカリ金属化合物溶液を調製する。このアルカリ金属化合物溶液を炭素質前駆体と混合した後、溶媒を揮発させ、アルカリ金属化合物が添着した炭素質前駆体を調製してもよい。具体的には、限定されるものではないが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を良溶媒である水に溶解し、水溶液としたのち、これを炭素質前駆体に添加する。50℃以上に加熱した後、常圧或いは減圧で水分を除去することにより炭素質前駆体にアルカリ金属化合物を添加することができる。炭素前駆体は、疎水性であることが多く、アルカリ水溶液の親和性が低い場合には、アルコールを適宜添加することにより、炭素質前駆体へのアルカリ水溶液の親和性を改善することができる。アルカリ金属水酸化物を使用する場合、空気中で添着処理を行うとアルカリ金属水酸化物が二酸化炭素を吸収して、アルカリ金属水酸化物がアルカリ金属化合物の炭酸塩と変化し、炭素質前駆体へのアルカリ金属化合物の浸透力が低下するので、雰囲気中の二酸化炭素濃度を低減することが好ましい。水分の除去は、アルカリ添着炭素前駆体の流動性が維持できる程度に水分が除去されていればよい。
【0028】
炭素質前駆体に添着するアルカリ金属化合物の添着量は、特に限定されるものではないが、添加量の上限は好ましくは、70.0重量%以下であり、より好ましくは60.0重量%以下であり、更に好ましくは50.0重量%以下である。アルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物の添着量が多すぎる場合、過剰にアルカリ賦活が生じる。そのため、比表面積が増加し、それによって不可逆量容量が増加するので好ましくない。また、添加量の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは5.0重量%以上であり、より好ましくは10.0重量%以上であり、更に好ましくは15.0重量%以上である。アルカリ金属化合物の添加量が少なすぎると、ドープ及び脱ドープのための細孔構造を形成することが困難となり、好ましくない。
アルカリ金属化合物を、水溶液又は適切な溶媒に溶解又は分散させて、炭素質前駆体に添着させたのち、水等の溶媒を揮発乾燥させる場合、アルカリ添着炭素質前駆体が凝集して固形状になることがある。固形状のアルカリ添着炭素質前駆体を予備焼成又は本焼成すると、焼成時に発生する分解ガス等の放出を十分に行うことができず性能に悪影響をおよぼす。従って、アルカリ添着炭素質前駆体が固形物となった場合、アルカリ添着炭素質前駆体を解砕して、予備焼成及び/又は本焼成を行うことが好ましい。
【0029】
《焼成工程(2)》
焼成工程は、前記アルカリ添着炭素質前駆体を、(a)非酸化性ガス雰囲気中において800℃〜1500℃で本焼成するか、又は(b)非酸化性ガス雰囲気中において400℃以上800℃未満で予備焼成し、そして非酸化性ガス雰囲気中において800℃〜1500℃で本焼成する。本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得るための焼成工程においては、前記(b)の操作に従い、予備焼成を行い、次いで本焼成を行ってもよく、前記(a)の操作に従い、予備焼成を行わずに本焼成を行ってもよい。
【0030】
(予備焼成)
予備焼成は、揮発分、例えばCO
2、CO、CH
4、及びH
2などと、タール分とを除去することができる。また、アルカリ添着炭素質前駆体を直接高温で熱処理すると、アルカリ添着炭素質前駆体から多量の分解生成物が発生する。これらの分解生成物は高温で二次分解反応を生じ、炭素材料の表面に付着して電池性能の低下の原因となる可能性、また焼成炉内に付着し炉内の閉塞を引き起こす可能性があるので、好ましくは本焼成を行う前に予備焼成を行い、本焼成時の分解生成物を低減させる。予備焼成温度が低すぎると分解生成物の除去が不十分となることがある。一方、予備焼成温度が高すぎると分解生成物が二次分解反応などの反応を生じることがある。予備焼成の温度は、好ましくは400℃以上800℃未満であり、より好ましくは500℃以上800℃未満である。予備焼成温度が400℃未満であると脱タールが不十分となり、粉砕後の本焼成工程で発生するタール分やガスが多く、粒子表面に付着する可能性があり、粉砕したときの表面性を保てず電池性能の低下を引き起こすことがある。一方、予備焼成温度が800℃以上であるとタール発生温度領域を超えることになり、使用するエネルギー効率が低下することがある。更に、発生したタールが二次分解反応を引き起こしそれらが炭素前駆体に付着し、性能の低下を引き起こすことがある。
【0031】
予備焼成は、非酸化性ガス雰囲気中で行い、非酸化性ガスとしては、ヘリウム、窒素、又はアルゴンなどを挙げることができる。また、予備焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10kPa以下で行うことができる。予備焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.5〜10時間で行うことができ、1〜5時間がより好ましい。
【0032】
(粉砕)
アルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物の添着量が均一、且つ炭素質前駆体への浸透が容易になるため、粒子径の小さな炭素質前駆体へ添着することが好ましい。したがって、予備焼成前の炭素質前駆体を粉砕することが好ましいが、炭素質前駆体が予備焼成時に溶融する場合があるので、予め炭素質前駆体を予備焼成した後に、粉砕することにより、粒度調整を行ってもよい。また、前記の通りアルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物を水溶液又は適切な溶媒に溶解又は分散させて、炭素質前駆体に添着させたのち、水等の溶媒を揮発乾燥させる場合、アルカリ添着粉砕炭素質前駆体が凝集して固形状になることがある。従って、アルカリ添着炭素質前駆体が固形物となった場合、アルカリ添着炭素質前駆体を粉砕することが好ましい。粉砕は、炭素化後(本焼成の後)に行うこともできるが、炭素化反応が進行すると炭素前駆体が硬くなるため、粉砕による粒子径分布の制御が困難になるため、粉砕工程は800℃以下の予備焼成の後で、本焼成の前が好ましい。粉砕によって、本発明の炭素質材料の平均粒子径を1〜50μmにすることができる。粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されるものではなく、例えばジェットミル、ロッドミル、振動ボールミル、又はハンマーミルを用いることができるが、分級機を備えたジェットミルが好ましい。
【0033】
(アルカリ金属及びアルカリ金属化合物の洗浄)
本発明の焼成工程(2)においては、アルカリ金属及びアルカリ金属化合物を除去(アルカリ化合物の洗浄)することが好ましい。アルカリ金属及びアルカリ金属化合物が炭素質材料に大量に残留している場合、炭素質材料が強アルカリ性になる。例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)をバインダーとして用いて負極を作製する場合に、炭素質材料が強アルカリ性を示すとPVDFがゲル化することがある。また、炭素質材料にアルカリ金属が残存した場合、二次電池の放電時に、対極にアルカリ金属が移動し、充放電特性に悪影響を及ぼすことが考えられる。従って、アルカリ金属化合物を、炭素質前駆体から除去することが好ましい。
すなわち、アルカリ金属及びアルカリ金属化合物の洗浄(脱灰)は、炭素質材料にアルカリ金属化合物が残存することを防ぐために行う。アルカリ金属元素等の添着量が少ない場合、アルカリ金属の残存量が少なくなるが、リチウムのドープ・脱ドープ容量が低下する傾向にある。また、焼成温度が高い場合、アルカリ金属は揮発し、残存量が少なくなる、焼成温度が高すぎるとリチウムを格納する空隙が小さくなり、リチウムのドープ・脱ドープ容量が低下するので好ましくない。従って、アルカリ金属元素等の添着量が少ない場合、及び焼成温度が低い場合に、アルカリ化合物の洗浄を行いアルカリ金属の残存量を減少させることが好ましい。
【0034】
アルカリ化合物の洗浄は、限定されるものではないが、本焼成の前、又は本焼成の後に行うことができる。従って、前記焼成工程(2)(a)は、(2)前記アルカリ添着炭素質前駆体を、(a1)非酸化性ガス雰囲気中において800℃〜1500℃で本焼成し、そしてアルカリ金属及びアルカリ金属元素を含む化合物を洗浄により除去する焼成工程でもよい。また、前記焼成工程(2)(b)は、(2)前記アルカリ添着炭素質前駆体を、(b1)非酸化性ガス雰囲気中において400℃以上800℃未満で予備焼成し、アルカリ金属及びアルカリ金属元素を含む化合物を洗浄により除去し、そして非酸化性ガス雰囲気中において800℃〜1500℃で本焼成する、焼成工程であってもよく、若しくは(2)前記アルカリ添着炭素質前駆体を、(b2)非酸化性ガス雰囲気中において400℃以上800℃未満で予備焼成し、非酸化性ガス雰囲気中において800℃〜1500℃で本焼成し、そしてアルカリ金属及びアルカリ金属元素を含む化合物を洗浄により除去する、焼成工程であってもよい。
【0035】
アルカリ金属及びアルカリ化合物の除去は、通常の方法に従って行うことができる。具体的には、気相又は液相で、アルカリ金属及びアルカリ化合物の除去を行うことができる。気相の場合は、高温でアルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物を揮発させることによって行う。また液相の場合は、以下のように行うことができる。
炭素質前駆体からアルカリ金属及びアルカリ金属化合物を洗浄により除去するには、アルカリ添着した炭素質前駆体を、そのまま、粉砕し微粒子としたのち塩酸等の酸類や水に浸漬して処理することが好ましい。すなわち、酸洗浄又は水洗が好ましく、特には水に浸漬して処理する水洗が好ましい。使用する酸類又は水は、常温のものでもよいが、加熱したもの(例えば、熱水)を用いてもよい。アルカリ化合物洗浄時の被処理物の粒径が大きいと、洗浄率が低下することがある。被処理物の平均粒子径は、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。アルカリ化合物洗浄は、限定されるものでないが、予備焼成して得た炭素前駆体に施すことが、洗浄率を向上させる上で有利である。
【0036】
アルカリ化合物洗浄は塩酸等の酸類、あるいは水の中に被処理物を浸漬してアルカリ金属元素又はアルカリ金属化合物を抽出・除去することによって行うことができる。アルカリ化合物洗浄を行うための浸漬処理は、1回の浸漬処理を長時間行うよりも、短時間の浸漬処理を繰り返し行うことが洗浄率を向上させる上で有効である。アルカリ化合物洗浄は酸類による浸漬処理を行った後、水による浸漬処理を2回程度以上行ってもよい。
【0037】
(本焼成)
本発明の製造方法における本焼成は、通常の本焼成の手順に従って行うことができ、本焼成を行うことにより、非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得ることができる。本焼成の温度は、800〜1500℃である。本発明の本焼成温度の下限は800℃以上であり、より好ましくは1100℃以上であり、特に好ましくは1150℃以上である。熱処理温度が低すぎると炭素化が不十分で不可逆容量が増加することがある。また、熱処理温度を高くすることにより、炭素質材料からアルカリ金属の揮発除去が可能となる。すなわち、炭素質材料に官能基が多く残存してH/Cの値が高くなり、リチウムとの反応により不可逆容量が増加することがある。一方、本発明の本焼成温度の上限は1500℃以下であり、より好ましくは1400℃以下であり、特に好ましくは1300℃以下である。本焼成温度が1500℃を超えるとリチウムの格納サイトとして形成された空隙が減少し、ドープ及び脱ドープ容量が減少することがある。すなわち、炭素六角平面の選択的配向性が高まり放電容量が低下することがある。
【0038】
本焼成は、非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガスとしては、ヘリウム、窒素又はアルゴンなどを挙げることができこれらを単独或いは混合して用いることができる。また、本焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10kPa以下で行うことも可能である。本焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.1〜10時間で行うことができ、0.3〜8時間が好ましく、0.4〜6時間がより好ましい。
【0039】
《被覆工程(3)》
本発明の製造方法は、焼成物を熱分解炭素で被覆する工程を含む。熱分解炭素での被覆は、例えば特許文献7に記載のCVD法を用いることができる。具体的には、焼成物を、直鎖状又は環状の炭化水素ガスと接触させ、熱分解により精製された炭素を、焼成物に蒸着する。この方法はいわゆる化学蒸着法(CVD法)として、よく知られている方法である。熱分解炭素による被覆工程によって、得られる炭素質材料の比表面積を制御することができる。
本発明に用いる熱分解炭素は、炭化水素ガスとして添加できるものであり、炭素質材料の比表面積を低減させることのできるものであれば限定されるものではない。前記炭化水素ガスを、好ましくは非酸化性ガスに混合し、炭素質材料と接触させる。
【0040】
炭化水素ガスの炭素数は、限定されるものではないが、好ましくは炭素数1〜25であり、より好ましくは1〜20であり、更に好ましくは1〜15であり、最も好ましくは1〜10である。
炭化水素ガスの炭素原も限定されるものではないが、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、アセチレン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロプロペン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、デカリン、ノルボルネン、メチルシクロヘキサン、ノルボルナジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ブチルベンゼン又はスチレンを挙げることができる。また、炭化水素ガスの炭素源として、気体の有機物質及び、固体や液体の有機物質を加熱し、発生した炭化水素ガスを用いることもできる。
【0041】
接触の温度は、限定されるものではないが、600〜1000℃が好ましく、650〜1000℃がより好ましく、700〜950℃が更に好ましい。
接触の時間も特に限定されるものではないが、例えば好ましくは10分〜5.0時間、より好ましくは15分〜3時間で行うことができる。しかしながら、好ましい接触時間は被覆される炭素質材料により異なり、基本的に接触時間が長くなるに従って、得られる炭素質材料の比表面積を低下させることができる。すなわち、得られる炭素質材料の比表面積が30m
2/g以下になるような条件で、被覆工程を行うことが好ましい。
また、被覆に用いる装置も、限定されるものではないが、例えば流動炉を用いて、流動床等による連続式又はバッチ式の層内流通方式で行うことができる。ガスの供給量(流通量)も、限定されるものではない。
非酸化性ガスとしては、窒素、又はアルゴンを用いることができる。非酸化性ガスに対する炭化水素ガスの添加量は、例えば0.1〜50体積%が好ましく、0.5〜25体積%がより好ましく、1〜15体積%が更に好ましい。
【0042】
《再熱処理工程(4)》
本発明の製造方法は、好ましくは再熱処理工程(4)を含むことができる。本再熱処理工程は、前記熱処理工程(3)により表面に被覆された熱分解炭素を炭素化するための工程である。
再熱処理工程の温度は、例えば800〜1500℃である。再熱処理工程の温度の下限は800℃以上であり、より好ましくは1000℃以上であり、特に好ましくは1050℃以上である。再熱処理工程の温度の上限は1500℃以下であり、より好ましくは1400℃以下であり、特に好ましくは1300℃以下である。
【0043】
再熱処理工程は、非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガスとしては、ヘリウム、窒素又はアルゴンなどを挙げることができこれらを単独或いは混合して用いることができる。更には塩素などのハロゲンガスを上記非酸化性ガスと混合したガス雰囲気中で本焼成を行うことも可能である。また、再熱処理は、減圧下で行うこともでき、例えば、10kPa以下で行うことも可能である。再熱処理の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.1〜10時間で行うことができ、0.3〜8時間が好ましく、0.4〜6時間がより好ましい。
【0044】
《作用》
本発明においては、炭素質前駆体にアルカリ金属元素を含む化合物を添加し熱処理することにより、炭素質前駆体に対し炭素化反応とアルカリ賦活反応により炭素質材料にリチウムを格納するための空隙を形成することが可能となる。炭素質材料の構造及び添加するアルカリ金属元素を含む化合物を高濃度とすることで大きな空隙を有する炭素質材料を調製することが可能となるが、空隙が大きくなるに伴い比表面積が増加し、ドープ・脱ドープ時に電解液の分解などの反応を生じ、不可逆容量が増加するなどリチウムの格納に適さない空隙となる。本発明者らは、アルカリ賦活反応で形成した大きな空隙にリチウムを格納することが可能となれば、極めて高いドープ・脱ドープ容量を執する炭素質材料が得られるとの着想から鋭意検討したところ、アルカリ賦活反応により形成した大きな空隙を有する炭素質材料の表面を熱分解炭素で被覆することにより、比表面積が激減し、不可逆容量の低減が可能となるとともに、大きな空隙がリチウムを格納するために好適な空隙となることを見出した。
【0045】
[2]非水電解質二次電池負極用炭素質材料
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料は、前記非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法によって、製造することができる。本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の物性は、特に限定されるものではないが、真密度が1.20〜1.60g/cm
3、窒素吸着によるBET法で求められる比表面積が30m
2/g以下、平均粒子径が50μm以下、及び元素分析により求められる水素原子と炭素原子の原子比(H/C)が0.1以下である。
【0046】
(真密度)
理想的な構造を有する黒鉛質材料の真密度は、2.27g/cm
3であり、結晶構造が乱れるに従い真密度が小さくなる傾向がある。従って、真密度は炭素の構造を表す指標として用いることができる。本明細書における真密度はブタノール法により測定されたものである。
本発明の炭素質材料の真密度は、1.20〜1.60g/cm
3である。真密度の上限は、好ましくは1.55g/cm
3以下であり、より好ましくは1.50g/cm
3以下であり、更に好ましくは1.48g/cm
3以下であり、最も好ましくは1.45g/cm
3以下である。真密度の下限は、好ましくは1.25g/cm
3以上であり、さらに好ましくは1.30g/cm
3以上である。真密度が1.60g/cm
3を超える炭素質材料は、リチウムを格納できるサイズの細孔が少なくドープ及び脱ドープ容量が小さくなることがある。また、真密度の増加は炭素六角平面の選択的配向性を伴うため、リチウムのドープ及び脱ドープ時に炭素質材料が膨張収縮を伴う場合が多いため好ましくない。一方、1.20g/cm
3未満の炭素質材料は、細孔内に電解液が侵入し、リチウムの格納サイトとして安定な構造を維持できないことがある。更に、電極密度が低下するため体積エネルギー密度の低下をもたらすことがある。
【0047】
(比表面積)
比表面積は、窒素吸着によるBETの式から誘導された近似式で求めることができる。本発明の炭素質材料の比表面積は、30m
2/g以下である。比表面積が30m
2/gを超えると電解液との反応が増加し、不可逆容量の増加に繋がり、従って電池性能が低下する可能性がある。比表面積の上限は、好ましくは30m
2/g以下、さらに好ましくは20m
2/g以下、特に好ましくは10m
2/g以下である。また、比表面積の下限は、特に限定されないが、比表面積が0.5m
2/g未満であると、入出力特性が低下する可能性があるので、比表面積の下限は、好ましくは0.5m
2/g以上である。
【0048】
(平均粒子径D
v50)
本発明の炭素質材料の平均粒子径(D
v50)は、1〜50μmである。平均粒子径の下限は、好ましくは1μm以上であり、更に好ましくは1.5μm以上であり、特に好ましくは2.0μm以上である。平均粒子径が1μm未満の場合、微粉が増加することによって、比表面積が増加する。従って、電解液との反応性が高くなり充電しても放電しない容量である不可逆容量が増加し、正極の容量が無駄になる割合が増加するため好ましくない。平均粒子径の上限は、好ましくは40μm以下であり、更に好ましくは35μm以下である。平均粒子径が50μmを超えると、粒子内でのリチウムの拡散自由行程が増加するため、急速な充放電が困難となる。更に、二次電池では、入出力特性の向上には電極面積を大きくすることが重要であり、そのため電極調製時に集電板への活物質の塗工厚みを薄くする必要がある。塗工厚みを薄くするには、活物質の粒子径を小さくする必要がある。このような観点から、平均粒子径の上限としては50μm以下が好ましい。
【0049】
(水素原子と炭素原子の原子比(H/C))
H/Cは、水素原子及び炭素原子を元素分析により測定されたものであり、炭素化度が高くなるほど炭素質材料の水素含有率が小さくなるため、H/Cが小さくなる傾向にある。従って、H/Cは、炭素化度を表す指標として有効である。本発明の炭素質材料のH/Cは0.1以下であり、より好ましくは0.08以下である。特に好ましくは0.05以下である。水素原子と炭素原子の比H/Cが0.1を超えると、炭素質材料に官能基が多く存在し、リチウムとの反応により不可逆容量が増加することがある。
【0050】
(アルカリ金属元素含有量)
本発明の炭素質材料のアルカリ金属元素含有量は、特に限定されるものでないが、0.05〜5重量%が好ましい。アルカリ金属元素含有量の下限は、より好ましくは0.5重量%であり、上限はより好ましくは4重量%以下であり、更に好ましくは3重量%であり、最も好ましくは1.5重量%以下である。アルカリ金属元素含有量が高すぎると炭素質材料が強アルカリ性になり、バインダーのPVDFがゲル化したり、充放電特性に悪影響を及ぼすことがある。従って、アルカリ金属化合物の洗浄により、添着したアルカリを除去し、0.05〜5重量%とすることが好ましい。
アルカリ金属元素含有量は、以下の方法で測定することができる。予め所定のアルカリ金属元素を含有する炭素試料を調製し、蛍光X線分析装置を用い、各アルカリ金属元素に相当するX線強度とアルカリ金属元素の含有量との関係に関する検量線を作成しておく。次いで試料について、蛍光X線分析におけるアルカリ金属元素に相当するX線の強度を測定し、先に作成した検量線よりアルカリ金属元素の含有量を求める。蛍光X線分析は、理学電機(株)製の蛍光X線分析装置を用い、以下の条件で行う。上部照射方式用ホルダーを用い、試料測定面積を直径20mmの円周内とする。被測定試料を設置しポリエチレンテレフタレート製フィルムで表面を覆い測定を行う。
実施例1〜19の炭素質材料のアルカリ金属元素含有量は、1.5重量%以下であった。
【0051】
[3]非水電解質二次電池用負極
《負極電極の製造》
本発明の炭素質材料を用いる負極電極は、炭素質材料に結合剤(バインダー)を添加し適当な溶媒を適量添加、混練し、電極合剤とした後に、金属板等からなる集電板に塗布・乾燥後、加圧成形することにより製造することができる。本発明の炭素質材料を用いることにより特に導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができるが、更に高い導電性を賦与することを目的に必要に応じて電極合剤を調製時に、導電助剤を添加することができる。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、又はカーボンファイバーなどを用いることができ、添加量は使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性が得られないので好ましくなく、多すぎると電極合剤中の分散が悪くなるので好ましくない。このような観点から、添加する導電助剤の好ましい割合は0.5〜15重量%(ここで、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100重量%とする)であり、更に好ましくは0.5〜7重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%である。結合剤としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等の電解液と反応しないものであれば特に限定されない。中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得るために好ましい。PVDFを溶解しスラリーを形成するためにN−メチルピロリドン(NMP)などの極性溶媒が好ましく用いられるが、SBRなどの水性エマルジョンやCMCを水に溶解して用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させるので好ましくない。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料粒子相互および集電材との結合が不十分となり好ましくない。結合剤の好ましい添加量は、使用するバインダーの種類によっても異なるが、PVDF系のバインダーでは好ましくは3〜13重量%であり、更に好ましくは3〜10重量%である。一方、溶媒に水を使用するバインダーでは、SBRとCMCとの混合物など、複数のバインダーを混合して使用することが多く、使用する全バインダーの総量として0.5〜5重量%が好ましく、更に好ましくは1〜4重量%である。電極活物質層は集電板の両面に形成するのが基本であるが、必要に応じて片面でもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板やセパレータなどが少なくて済むため高容量化には好ましいが、対極と対向する電極面積が広いほど入出力特性の向上に有利なため活物質層が厚すぎると入出力特性が低下するため好ましくない。好ましい活物質層(片面当たり)の厚みは、限定されるものではなく10μm〜1000μmの範囲内であるが、好ましくは10〜80μmであり、更に好ましくは20〜75μm、特に好ましくは20〜60μmである。
負極電極は、通常集電体を有する。負極集電体としては、例えば、SUS、銅、ニッケル又はカーボンを用いるができ、中でも、銅又はSUSが好ましい。
【0052】
[4]非水電解質二次電池
本発明の負極材料を用いて、非水電解質二次電池の負極を形成した場合、正極材料、セパレータ、電解液など電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水溶媒二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
【0053】
(正極電極)
正極電極は、正極活物質を含み、更に導電助剤、バインダー、又はその両方を含んでもよい。正極活物質層における正極活物質と、他の材料との混合比は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではなく、適宜決定することができる。
正極活物質は、正極活物質を限定せずに用いることができる。例えば、層状酸化物系(LiMO
2と表されるもので、Mは金属:例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、又はLiNi
xCo
yMn
zO
2(ここでx、y、zは組成比を表す))、オリビン系(LiMPO
4で表され、Mは金属:例えばLiFePO
4など)、スピネル系(LiM
2O
4で表され、Mは金属:例えばLiMn
2O
4など)の複合金属カルコゲン化合物を挙げることができ、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。
また、コバルト酸リチウムのコバルトの一部をニッケルとマンガンで置換し、コバルト、ニッケル、マンガンの3つを使用することで材料の安定性を高めた三元系〔Li(Ni−Mn−Co)O
2〕や前記三元系のマンガンの代わりにアルミニウムを使用するNCA系材料〔Li(Ni−Co−Al)O
2〕が知られており、これらの材料を使用することができる。
【0054】
正極電極は、さらに導電助剤及び/又はバインダーを含むことができる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はカーボンファイバーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、バインダーとしては、例えば、PTFE又はPVDF等のフッ素含有バインダーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、正極活物質層の厚さは、限定されないが、例えば10μm〜1000μmの範囲内である。
正極活物質層は、通常集電体を有する。負極集電体としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンを用いるができ、中でも、アルミニウム又はSUSが好ましい。
【0055】
(電解液)
これら正極と負極との組み合わせで用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、又は1,3−ジオキソランなどの有機溶媒の一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiAsF
6、LiCl、LiBr、LiB(C
6H
5)
4、又はLiN(SO
3CF
3)
2などが用いられる。二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極層と負極層とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料などからなる透液性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【0056】
《負極材料の最適な構造》
非水電解質二次電池用負極材料として最適な構造とは、第1に負極材料中に多くのリチウムをドープ及び脱ドープすることを可能とする空隙を有していることである。炭素質材料の空隙には、幅広い細孔径を有する細孔構造があるが、電解液の侵入可能な細孔は電気化学的に外表面と見なされるためリチウムの安定な可能サイトにはならない。リチウムの格納サイトとしては電解液が侵入困難な細孔であり、且つリチウムドープ時にその細孔の隅々までリチウムが到達可能な細孔である。隅々までリチウムが到達可能とは、炭素骨格をリチウムが拡散することは当然であるが、その過程で炭素六角網平面を広げながらリチウムが炭素内部まで拡散することが可能な細孔であってもよい。
非水電解質二次電池用負極材料として最適な構造とは、第2にドープ及び脱ドープ反応の初期により観測されるドープ容量と脱ドープ容量の差である不可逆容量が小さいことを可能とする構造、すなわち炭素表面での電解液の分解反応が少ない構造であることがあげられる。黒鉛質材料は表面で電解液を分解することが知られているので、炭素骨格としては非黒鉛質材料が好ましい。また、炭素質材料の中でエッジ面が反応性の富むことが知られていることから、細孔構造の形成過程でエッジ面が生成するのを抑制することが好ましい。
本発明の非水電解質二次電池用負極材料は、アルカリ添着炭素質前駆体を焼成し、そして炭素数1〜20の炭化水素化合物を含む非酸化性ガス雰囲気において熱処理を行うことによって得られる。本発明の非水電解質二次電池用負極材料は、負極材料中に多くのリチウムをドープ及び脱ドープすることを可能とする空隙を有しており、更に炭素表面での電解液の分解反応が少ない構造であると考えられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に炭素質前駆体の物性値(「水素/炭素の原子比(H/C)」、「酸素含有量」及び「真密度」)、並びに本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料の物性値(「水素/炭素の原子比(H/C)」、「比表面積」、「ブタノール法により求めた真密度」、「レーザー回折法による平均粒子径」、の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0058】
《水素/炭素の原子比(H/C)》
JIS M8819に定められた方法に準拠し測定した。CHNアナライザーによる元素分析により得られる試料中の水素及び炭素の質量割合から、水素/炭素の原子数の比として求めた。
【0059】
《酸素含有量》
JIS M8819に定められた方法に準拠し測定した。CHNアナライザーによる元素分析により得られる試料中の炭素、水素、窒素の質量百分率を100から差引き、これを酸素含有量とした。
【0060】
《比表面積》
JIS Z8830に定められた方法に準拠し、比表面積を測定した。概要を以下に記す。
BETの式から誘導された近似式
【数1】
を用いて液体窒素温度における、窒素吸着による1点法(相対圧力x=0.2)によりv
mを求め、次式により試料の比表面積を計算した:比表面積=4.35×v
m(m
2/g)
(ここで、v
mは試料表面に単分子層を形成するに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、xは相対圧力である。)
具体的には、MICROMERITICS社製「Flow Sorb II2300」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における炭素質物質への窒素の吸着量を測定した。
炭素材料を試料管に充填し、窒素ガスを20モル%濃度で含有するヘリウムガスを流しながら、試料管を−196℃に冷却し、炭素材に窒素を吸着させる。次に試験管を室温に戻す。このとき試料から脱離してくる窒素量を熱伝導度型検出器で測定し、吸着ガス量vとした。
【0061】
《ブタノール法による真密度》
JIS R7212に定められた方法に準拠し、ブタノールを用いて測定した。概要を以下に記す。なお、炭素質前駆体を1100℃で熱処理して得られた炭素質材料及び本発明の炭素質材料のいずれも、同じ測定方法で測定した。
内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m
1)を正確に量る。次に、その底部に試料を約10mmの厚さになるように平らに入れた後、その質量(m
2)を正確に量る。これに1−ブタノールを静かに加えて、底から20mm程度の深さにする。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して2.0〜2.7kPaとする。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後取り出して、更に1−ブタノールで満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1−ブタノールの液面を標線に合わせる。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後、質量(m
4)を正確に量る。次に同じ比重びんに1−ブタノールだけを満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後、質量(m
3)を量る。また、使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重びんにとり、前と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m
5)を量る。真密度(ρ
Bt)は次の式により計算する。
【数2】
(ここでdは水の30℃における比重(0.9946)である。)
【0062】
《平均粒子径》
試料約0.1gに対し、分散剤(カチオン系界面活性剤「SNウェット366」(サンノプコ社製))を3滴加え、試料に分散剤を馴染ませる。次に、純水30mLを加え、超音波洗浄機で約2分間分散させたのち、粒径分布測定器(島津製作所製「SALD−3000J」)で、粒径0.05〜3000μmの範囲の粒径分布を求めた。
得られた粒径分布から、累積容積が50%となる粒径をもって平均粒径D
v50(μm)とした。
【0063】
《実施例1》
軟化点205℃、H/C原子比0.65、キノリン不溶分0.4重量%の石油系ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼及び出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、加熱溶融混合を行った。その後、加熱溶融混合した石油系ピッチを冷却後、粉砕し、得られた粉砕物を90〜100℃の水中に投入し、攪拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体を得た。大部分の水をろ過により取り除いた後に、球状ピッチ成型体をn−ヘキサンでピッチ成型体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを加熱空気を通じながら、加熱酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。多孔性球状酸化ピッチの酸素含有量(酸素架橋度)は6重量%であった。
次に、不融性の多孔性球状酸化ピッチ200gをジェットミル(ホソカワミクロン社AIR JET MILL;MODEL 100AFG)により、20分間粉砕し、平均粒子径が20〜25μmの粉砕炭素質前駆体を得た。得られた粉砕炭素質前駆体に窒素雰囲気中で炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)水溶液を加え含浸させたのち、これを減圧加熱脱水処理することにより粉砕炭素質前駆体に対して38.0重量%のNa
2CO
3を添着した粉砕炭素質前駆体を得た。次に、Na
2CO
3を添着した粉砕炭素質前駆体を粉砕炭素前駆体の質量換算で10gを横型管状炉に入れ、窒素雰囲気中600℃で10時間保持して予備焼成を行い、さらに250℃/hの昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持して、本焼成を行い焼成炭を得た。なお、本焼成は、流量10L/minの窒素雰囲気下で行った。得られた焼成炭5gを石英製の反応管に入れ、窒素ガス気流下で750℃に加熱保持し、その後反応管中に流通している窒素ガスをヘキサンと窒素ガスの混合ガスに代えることにより熱分解炭素による焼成炭への被覆を行った。ヘキサンの注入速度は0.3g/分であり、30分間注入後、ヘキサンの供給を止め、反応管中のガスを窒素で置換したのち放冷し、炭素質材料1を得た。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0064】
《実施例2》
軟化点205℃、H/C原子比0.65、キノリン不溶分0.4重量%の石油系ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼及び出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、加熱溶融混合を行った。その後、加熱溶融混合した石油系ピッチを冷却後、粉砕し、得られた粉砕物を90〜100℃の水中に投入し、攪拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体を得た。大部分の水をろ過により取り除いた後に、球状ピッチ成型体をn−ヘキサンでピッチ成型体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチに対し加熱空気を通じながら、加熱酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。多孔性球状酸化ピッチの酸素含有量(酸素架橋度)は18重量%であった。
次に、不融性の多孔性球状酸化ピッチ200gをジェットミル(ホソカワミクロン社AIR JET MILL;MODEL 100AFG)により、20分間粉砕し、平均粒子径が20〜25μmの粉砕炭素質前駆体を得た。得られた粉砕炭素質前駆体に窒素雰囲気中でKOH水溶液を加え含浸させたのち、これを減圧加熱脱水処理することにより粉砕炭素質前駆体に対して30.0重量%のKOHを添着した粉砕炭素質前駆体を得た。次に、KOHを添着した粉砕炭素質前駆体を粉砕炭素前駆体の質量換算で10gを横型管状炉に入れ、窒素雰囲気中600℃で2時間保持して予備焼成を行い放冷した。予備焼成したこの炭素質前駆体をビーカーに入れ、脱イオン交換水にて十分に水洗し、アルカリ金属化合物を除去し、濾過後、窒素雰囲気中105℃で乾燥させた。水洗した炭素質前駆体を窒素雰囲気中250℃/hの昇温速度で1100℃まで昇温し、1100℃で1時間保持して、本焼成を行い焼成炭を得た。なお、本焼成は、流量10L/minの窒素雰囲気下で行った。得られた焼成炭5gを石英製の反応管に入れ、窒素ガス気流下で750℃に加熱保持し、その後反応管中に流通している窒素ガスをヘキサンと窒素ガスの混合ガスに代えることにより熱分解炭素による焼成炭への被覆を行った。ヘキサンの注入速度は0.3g/分であり、30分間注入後、ヘキサンの供給を止め、反応管中のガスを窒素で置換したのち放冷し、炭素質材料2を得た。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は21μmであった。
【0065】
《実施例3》
酸素含有量(酸素架橋度)を6重量%に代えて13重量%としたこと、38重量%のNa
2CO
3添加に代えて7重量%のNaOH添加としたこと、熱分解炭素による焼成炭への被覆処理の温度を750℃に代えて700℃として行うことを除き実施例1の操作を繰り返して、熱分解炭素で被覆した焼成炭を得た。この焼成炭を5g横型管状炉に仕込み、非酸化性ガス雰囲気下、1100℃で1時間、再熱処理を行い炭素質材料3を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は20μmであった。
【0066】
《実施例4》
酸素含有量(酸素架橋度)を6重量%に代えて2重量%としたこと、38重量%のNa
2CO
3添加に代えて16.7重量%のNaOH添加としたことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、炭素質材料4を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は18μmであった。
【0067】
《実施例5》
実施例4の操作を繰り返して調製した焼成炭を5g横型管状炉に仕込み、非酸化性ガス雰囲気下、1100℃で1時間、再熱処理を行い炭素質材料5を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は18μmであった。
【0068】
《実施例6》
16.7重量%のNaOH添加に代えて23.0重量%のNaOH添加としたことを除いては、実施例4の操作を繰り返して、炭素質材料6を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は18μmであった。
【0069】
《実施例7》
16.7重量%のNaOH添加に代えて30.0重量%のNaOH添加としたことを除いては、実施例4の操作を繰り返して、炭素質材料7を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は18μmであった。
【0070】
《実施例8》
酸素含有量(酸素架橋度)を2重量%に代えて6重量%としたことを除いては、実施例7の操作を繰り返して、炭素質材料8を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0071】
《実施例9》
酸素含有量(酸素架橋度)を2重量%に代えて8重量%としたことを除いては、実施例6の操作を繰り返して、炭素質材料9を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0072】
《実施例10》
多孔性球状ピッチに対する加熱酸化処理を行わなかったことを除いては、実施例4の操作を繰り返して、炭素質材料10を調製した。加熱処理を行わないときの多孔性球状ピッチの酸素含有量(酸素架橋度)は0%であった。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は18μmであった。
【0073】
《実施例11》
16.7重量%のNaOH添加に代えて30.0重量%のNaOH添加としたことを除いては、実施例10の操作を繰り返して、炭素質材料11を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は18μmであった。
【0074】
《実施例12》
CVD処理温度を750℃に代えて900℃としたことを除いては、実施例8の操作を繰り返して、炭素質材料12を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0075】
《実施例13》
CVD処理温度を750℃に代えて1000℃としたことを除いては、実施例8の操作を繰り返して、炭素質材料13を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0076】
《実施例14》
30.0重量%のNaOH添加に代えて33.0重量%のNaOH添加としたことを除いては、実施例12の操作を繰り返して、炭素質材料14を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0077】
《実施例15》
ヘキサンに代えてシクロヘキサンを用いたことを除いては、実施例8の操作を繰り返して、炭素質材料15を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0078】
《実施例16》
ヘキサンに代えてブタンを用いたことを除いては、実施例8の操作を繰り返して、炭素質材料16を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0079】
《実施例17》
石炭系ピッチを、平均粒子径20〜25μmに粉砕したのち、加熱空気を通じながら、加熱酸化し、熱に対して不融性の粉砕炭素質前駆体を得た。得られた粉砕炭素質前駆体の酸素含有量(酸素架橋度)は、8重量%であった。得られた粉砕炭素質前駆体に窒素雰囲気中で水酸化ナトリウム水溶液を加え含浸させたのち、これを減圧加熱脱水処理し、粉砕炭素質前駆体に対して30.0重量%の水酸化ナトリウムを添着した粉砕炭素質前駆体を得た。次に、水酸化ナトリウムを添着した粉砕炭素質前駆体を粉砕炭素前駆体の質量換算で10gを横型管状炉に入れ、窒素雰囲気中600℃で10時間保持して予備焼成を行い、さらに250℃/hの昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持して、本焼成を行った。なお、本焼成は、流量10L/minの窒素雰囲気下で行った。得られた焼成炭5gを石英製の反応管に入れ、窒素ガス気流下で750℃に加熱保持し、その後反応管中に流通している窒素ガスをヘキサンと窒素ガスの混合ガスに代えることにより熱分解炭素による焼成炭への被覆を行った。ヘキサンの注入速度は0.3g/分であり、30分間注入後、ヘキサンの供給を止め、反応管中のガスを窒素で置換したのち放冷し、炭素質材料17を得た。
【0080】
《実施例18》
酸素含有量(酸素架橋度)を6重量%に代えて14重量%としたこと、38重量%のNa
2CO
3添加に代えて15重量%のNaOH添加としたこと、本焼成温度を1200℃に代えて1150℃としたことを除き実施例1の操作を繰り返して、熱分解炭素で被覆した焼成炭を得た。この焼成炭を5g横型管状炉に仕込み、非酸化性ガス雰囲気下、1100℃で1時間、再熱処理を行い炭素質材料18を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は20μmであった。
【0081】
《実施例19》
酸素含有量(酸素架橋度)を18重量%に代えて14重量%としたこと、30重量%のKOH添加に代えて7重量%のNaOH添加としたこと、本焼成温度を1100℃に代えて1200℃としたことを除き実施例2の操作を繰り返して、熱分解炭素で被覆した焼成炭を得た。この焼成炭を5g横型管状炉に仕込み、非酸化性ガス雰囲気下、1100℃で1時間、再熱処理を行い炭素質材料19を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は20μmであった。
【0082】
《比較例1》
酸素含有量(酸素架橋度)を6重量%に代えて16重量%としたこと、アルカリ添着をしなかったこと、及びCVD処理を行わなかったことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、比較炭素質材料1を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は20μmであった。
【0083】
《比較例2》
酸素含有量(酸素架橋度)を16重量%に代えて6重量%としたことを除いては、比較例1の操作を繰り返して、比較炭素質材料2を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0084】
《比較例3》
NaOH添加量を16.7重量%に代えて50.0重量%としたこと、及び熱分解炭素による焼成炭への被覆処理を行わなかったことを除いては、実施例4の操作を繰り返して、比較炭素質材料3を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は18μmであり、実施例1と同様の方法で電極作製を試みたが、比表面積が大きく電極作製が困難であった。
【0085】
《比較例4》
酸素含有量(酸素架橋度)を16重量%に代えて18重量%としたこと、及び本焼成の温度を1200℃に代えて800℃としたことを除いては、比較例1の操作を繰り返して、比較炭素質材料4を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は20μmであった。
【0086】
《比較例5》
本焼成の温度を800℃に代えて1500℃としたことを除いては、比較例4の操作を繰り返して、比較炭素質材料5を調製した。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は20μmであった。
【0087】
実施例1〜17及び比較例1〜5で得られた電極を用いて、以下の(a)及び(b)の操作により非水電解質二次電池を作成し、そして電極及び電池性能の評価を行った。
(a)試験電池の作製
本発明の炭素材は非水電解質二次電池の負極電極を構成するのに適しているが、電池活物質の放電容量(脱ドープ量)及び不可逆容量(非脱ドープ量)を、対極の性能のバラツキに影響されることなく精度良く評価するために、特性の安定したリチウム金属を対極として、上記で得られた電極を用いてリチウム二次電池を構成し、その特性を評価した。
リチウム極の調製は、Ar雰囲気中のグローブボックス内で行った。予め2016サイズのコイン型電池用缶の外蓋に直径16mmのステンレススチール網円盤をスポット溶接した後、厚さ0.8mmの金属リチウム薄板を直径15mmの円盤状に打ち抜いたものをステンレススチール網円盤に圧着し、電極(対極)とした。
このようにして製造した電極の対を用い、電解液としてはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを容量比で1:2:2で混合した混合溶媒に1.5mol/Lの割合でLiPF
6を加えたものを使用し、直径19mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細細孔膜のセパレータとして、ポリエチレン製のガスケットを用いて、Arグローブボックス中で、2016サイズのコイン型非水電解質系リチウム二次電池を組み立てた。
【0088】
(b)電池容量の測定
上記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置(東洋システム製「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行った。ここで、正極にリチウムカルコゲン化合物を使用した電池では、炭素極へのリチウムのドープ反応が「充電」であり、本発明の試験電池のように対極にリチウム金属を使用した電池では、炭素極へのドープ反応が「放電」と呼ぶことになり、用いる対極により同じ炭素極へのリチウムのドープ反応の呼び方が異なる。そこでここでは、便宜上炭素極へのリチウムのドープ反応を「充電」と記述することにする。逆に「放電」とは試験電池では充電反応であるが、炭素材からのリチウムの脱ドープ反応であるため便宜上「放電」と記述することにする。ドープ反応は、0.5mA/cm
2の電流密度で1時間通電したのち2時間休止する操作を繰り返し、端子間の平衡電位が5mVに達するまで行った。このときの電気量を使用した炭素質材料の重量で除した値をドープ容量と定義し、mAh/gの単位で表した。次に同様にして逆方向に電流を流し、炭素質材料にドープされたリチウムを脱ドープした。脱ドープは、0.5mA/cm
2の電流密度で1時間通電したのち、2時間休止する操作を繰り返し、端子電位1.5Vをカットオフ電圧とした。このとき放電した電気量を電極の炭素材の重量で除した値を炭素材の単位重量当たりの放電容量(Ah/kg)と定義する。さらに、単位重量当たりの放電容量と真密度の積を体積当たりの放電容量(Ah/L)とした。また、重量当たりの放電容量を重量当たりの充電容量で除し、充放電効率を求めた。充放電効率は、百分率(%)で表記した。
同一試料を用いて作製した試験電池についてのn=3の測定値を平均して充放電容量及び充放電効率を計算した。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例1〜19の炭素質材料を用いた二次電池は、553〜663Ah/kg、及び810〜890Ah/Lの高い放電容量を示した。この理由は、実施例1〜19の炭素質材料が、アルカリ添着及びCVD処理を行うことによって得られたからである。一方、アルカリ添着及び/又はCVD処理を行っていない比較例1、2、4、及び5の炭素質材料を用いた二次電池は、高い放電容量を得ることができなかった。