(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液状内容物が収容される容器では、容器の材質を問わず、内容物に対する排出性が要求される。水のように粘性の低い液体を収容する場合では、このような排出性はほとんど問題とならないが、粘度の高い粘稠な物質では、プラスチック容器であろうがガラス製容器であろうが、この排出性はかなり深刻な問題である。即ち、このような内容物は、容器を傾けて速やかに排出されないし、また、容器壁に付着してしまうため、最後まで使い切ることができず、特に容器の底部にはかなりの量の内容物が排出されずに残ってしまう。
特に、容器の分野では、ケチャップやマヨネーズなどに代表される食品類が含水物であることから、粘稠な含水物についての滑性(滑落性)をより向上することが求められており、特に、マヨネーズの如き乳化物は、大きな滑性を得難いことから、このような粘稠な乳化物についての滑性向上がより強く求められている。
【0003】
最近になって、容器等の成形体の表面に油膜を形成することによって、粘稠な物質に対する滑落性を高めることが知られており、かかる技術によれば、成形体表面を形成する合成樹脂に滑剤などの添加剤を加える場合と比して、滑落性を飛躍的に高めることができるため、現在注目されている。
【0004】
このように表面に油膜を形成することにより、内容物に対する滑落性を改善する技術については、油膜の下地面を適度な粗さの粗面とし、油膜の厚みを小さくすることが提案されており、かかる技術は既に特許されている(特許文献1)。
【0005】
かかる技術によれば、表面に油膜を形成して滑落性を付与する種々の技術の内でも、滑落性向上効果はかなり大きいのであるが、油膜の下地となる粗面は、樹脂により形成されていることが必要であり、しかも、粗面を形成している樹脂層には、粗面化剤として機能する微細な固体粒子が配合されていなければならない。即ち、下地樹脂層中の粗面化剤粒子により、所定の粗さの粗面を形成するため、その表面粗さのコントロールがかなり難しく、製法的な難点がある。また、下地面は、樹脂製でなければならないという制限もある。
【0006】
また、本出願人は、先に、最大粗さRzが0.5〜5.0μmの範囲にある粗面部が表面に形成されており、該粗面部上に、0.1〜3.4μm程度の厚みの薄い液膜を形成されている構造体を提案している(特開2015−214144号)。
かかる構造体の表面は、液膜を形成する液体の種類を選択することにより、種々の粘稠な物質に対して優れた滑性を示すため、この構造体を容器として利用することができるのであるが、この技術の大きな利点は、液膜の下地となる粗面は、構造体表面に固体粒子を外添することにより形成することができるため、用いる固体粒子の大きさや量により、粗面の粗さを容易にコントロールできるという利点がある。
しかしながら、かかる技術では、液膜により発現する滑性効果が経時と共に低下するという問題が有り、その改善が必要である。
【0007】
さらに、本出願人は、内容物と接触する容器内面に液膜が形成されており、該液膜には、粒子径が300μm以下の固体粒子が分散されていることを特徴とする包装材を先に提案している(WO2015/194251、WO2015/194625、WO2015/194626)。
しかるに、上記技術は、滑落性の持続性という点での検討は全くされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、粘稠な含水物質に対する滑性及びその持続性に優れた外添領域を表面に備えている構造体、特に容器として好適に使用し得る構造体を提供することにある。
本発明の他の目的は、外添により形成された外添凸部が分布している外添領域を利用して、粘稠な含水物質に対する滑性及び持続性に優れた表面特性を有する構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、容器等の成形体の表面に外添により凸部を形成したときの表面特性について研究を推し進めた結果、この外添凸部がある程度以上の高さで分布しており、且つこのような外添凸部がワックス成分と油性液体との混合物で形成されており、さらに外添凸部間隙が油性液体で被覆されている場合には、粘稠な含水物質に対して優れた滑性を示すと同時に、その持続性も向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明によれば、所定形状に成形されている成形体と、該成形体の表面に形成されている外添領域とを含む構造体において、
前記外添領域は、ワックス成分と液体との混合物からなり且つ前記成形体表面に形成されている外添凸部を有していると共に、該外添凸部の分布によって形成される山谷表面を有しており、
マイクロスコープによる表面観察において、下記式:
F=F
1/F
0
式中、
F
0は測定面積であり、
F
1は、前記測定面積F
0内において、1000μm
2以上の投影面積を有する山
部が占める投影面積の和を示す、
で定義される山部比率Fが0.5〜0.9であることを特徴とする構造体が提供される。
尚、本明細書において、成形体とは、その表面に外添処理がされていないものを意味し、構造体とは、成形体の表面に外添処理がなされて外添凸部が分布した外添領域が形成されているものを意味する。
【0012】
本発明の構造体においては、
(1)前記外添領域における山谷表面の山部と谷部との高低差hが、少なくとも10μm以上であること、
(2)前記ワックス成分の融点が50℃以上であること、
(3)前記液体が、油性液体であること、
(4)前記油性液体が、前記成形体表面に対する接触角(23℃)が45°以下であり、且つ100mPa・s以下の粘度(25℃)を有していること、
(5)前記外添凸部は、該外添凸部間の前記成形体表面と共に、該外添凸部の形成に使用されている液体によって被覆されていること、
(6)前記外添領域には、前記液体が、前記ワックス成分100質量部当り、1000〜5000質量部の量で存在していること、
(7)前記外添領域の下地面となる前記成形体の表面が、合成樹脂製またはガラス製であること、
(8)前記成形体が容器であり、該容器に収容される内容物が接触する容器内面が前記外添領域となっていること、
(9)前記容器が、粘度(25℃)が200mPa・s以上の流動性内容物の収容に使用されること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構造体に特有の表面構造は、ワックス成分と液体の混合物を成形体表面に外添することにより形成される。即ち、この表面構造は、成形体表面を形成する樹脂層に固体粒子を内添しておくことにより形成されるものではないため、ワックス成分の融点や使用量によって、表面形態(固体粒子による凹凸の程度や分布など)を容易に且つ確実にコントロールすることができる。
【0014】
しかも、本発明の構造体は、特有の表面構造によって、粘稠な含水物質に対して優れた滑性を示すばかりか、例えばマヨネーズ様食品のような乳化物に対しても、その滑性は高く、その持続性も向上している。
従って、本発明の構造体は、特に粘稠な含水物質、例えばケチャップやソース、マヨネーズ様食品などの粘度(25℃)が200mPa・s以上の粘稠な物質が収容される容器として使用することにより、これらの内容物を速やかに排出でき、しかも、容器内の付着残存を著しく抑制し、そのほぼ全量を使い切ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、本発明の構造体は、用途に応じた形状に成形された成形体1の表面(下地面1a)に、外添凸部3が分布している外添領域を設けることによって形成され、このような外添凸部3の形成により、成形体1の表面には、山部Xと谷部Yとが形成されることとなる。
この外添凸部3は、ワックス成分と液体5との混合物によって形成され、下地面1aに保持されて山部Xを構成している。また、外添凸部3は液体5で覆われた形態となっていると同時に、外添凸部3が形成されていない谷部Xでの成形体1の下地面1a’も、液体5で被覆されている。
【0017】
<滑性発現の原理>
このような構造体の外添領域(例えば容器の内面)において、
図1では、ワックス成分と液体5との混合物によって形成された外添凸部3による山部Xが3つ形成されており、これら山部X(外添凸部3)の間の谷部Yにおいても、その下地面1a’が液体5で被覆されている。
この外添凸部3は、ワックス成分と液体5との混合物により形成されているため、半固体状ないしゲル状の形態を有しており、下地面1a上に安定に保持されている。
【0018】
このような山部X及び谷部Yが形成されている表面上を粘稠な含水物質が移動すると、この含水物質は、液体5に接触して移動するが、外添凸部3はワックスと液体5で形成された半固体状ないしゲル状であるため、粘稠な含水物質が移動した際に外添凸部3との間に生じる摩擦力が極めて小さく、このため、優れた滑性を示す。また、粘稠な含水物質の移動に伴う摩擦力が小さいため、外添凸部3自体には大きな荷重がかからないこととなり、その下地面1aと外添凸部3との界面には応力がほとんどかからず、その結果、外添凸部3は下地面1aから動かず、安定に保持され続ける。
また、粘稠な含水物質の種類によっては、外添凸部3が形成されている山部Xばかりか、外添凸部3が形成されていない谷部Yにも接触しながら移動していくことが考えられるが、この谷部Yの下地面1a’も液体5で被覆されているため、この場合も滑性の低下を有効に回避することができる。
【0019】
また、本発明では、外添凸部3は液体5で被覆されており、かつ外添凸部3はワックス成分と液体5により構成されているため、粘稠な含水物質が繰り返し流れ、液体5の膜厚が薄くなった場合にも、液体5は外添凸部3の内部から補充されることとなる。従って、本発明では、上述した優れた滑性は持続して保持され、経時的な滑性低下も抑制されることとなる。
【0020】
尚、上述した本発明の構造体における滑性の発現機構は、先に特許されている特許文献1で示されているものと類似してはいるが、明確に異なっている。
特許文献1では、表面を形成する樹脂層に内添されている固体粒子により表面に凹凸を形成し、この凹凸が表面に反映されるような極薄の油膜を形成しており、このような凹凸表面を有する油膜により滑性を発現させている。一見すると、本発明と同様の機構により、滑性が発現しているように思われるが、特許文献1では、樹脂層に内添されている固体粒子によって凹凸(突部)を形成しているため、その凹凸(突部)の高さは極めて小さい。即ち、特許文献1では、突部間に存在する空気層を滑性発現に利用しているのではなく、凹凸により、表面を流れる物質と構造体表面との接触面積を低減させ、これにより、表面を流れる物質に対する摩擦力を低下させることにより滑性を向上させているものである。
一方、本発明における外添凸3部は、ワックス成分と液体5の混合物で形成させ、半固体状ないしゲル状の形態を有しており、この外添凸部3の表面は液体5で被覆されている。即ち、本発明では、外添凸部3に加わる摩擦力が低減されることで、優れた滑性を示すものである。
特許文献1での液膜の表面形状は微細な凸部を有するのに対し、後述の実施例で示す本発明での表面形状は緩やかなうねりを有する高低差hのある山谷となっており、表面形状の違いからも、滑性の機構が異なることが推察される。
【0021】
<成形体1>
本発明の構造体の形成に使用される成形体1は、その表面(下地面1a)に、外添凸部3を保持することが可能である限り、その材質は特に制限されず、樹脂製、ガラス製、金属製等の任意の材質により用途に応じた形態を有していればよい。
特に、ワックス成分と液体5を用いて外添凸部3は、その下地面1aが合成樹脂製のときに最も高い保持効果を示すが、下地面1aがガラス製や金属製であっても、ある程度の保持効果を示し、これらの材質から形成されている下地面1aを備えた成形体1にも本発明を適用することができ、これは、本発明の大きな利点である。
【0022】
本発明において、成形体1の表面に形成されている表面構造は、粘稠な含水物質に対して優れた滑性を示すという観点から、かかる成形体1は、このような含水物質を流すための配管や、これを収容する容器や容器蓋などの形態を有していることが好適であり、このような含水物質と接触する面に、外添凸部3が形成されることとなる。
【0023】
本発明では、上記で述べたように、ワックス成分と液体5を用いて外添凸部3を形成するという観点から、成形体1の表面(下地面1a)は合成樹脂製であることが最も好適であり、このような合成樹脂(以下、下地樹脂と呼ぶ)としては、成形可能な任意の熱可塑性樹脂や硬化性樹脂を用いることができる。
ただ、一般的には、成形が容易であり且つ油性液体5との親和性が高く、外添凸部3をより安定に保持できるという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0024】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、以下のものを例示することができる。
オレフィン系樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体など;
エチレン・ビニル系共重合体、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等;
スチレン系樹脂、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等;
ビニル系樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等;
ポリアミド樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等;
ポリエステル樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等;
ポリカーボネート樹脂;
ポリフエニレンオキサイド樹脂;
生分解性樹脂、例えば、ポリ乳酸など;
勿論、成形性が損なわれない限り、これらの熱可塑性樹脂のブレンド物を、下地樹脂として使用することもできる。
【0025】
本発明においては、上記の熱可塑性樹脂の中でも、粘稠な内容物を収容する容器素材として使用されているオレフィン系樹脂やポリエステル樹脂が好適であり、オレフィン系樹脂が最適である。
即ち、オレフィン系樹脂は、PET等のポリエステル樹脂と比較してガラス転移点(Tg)が低く、室温下での分子の運動性が高いため、油性の液体5の一部および外添凸部3を形成するワックス成分の一部が内部に浸透し、これにより、外添凸部3を下地面1aに安定に保持するという点で最適である。
さらに、オレフィン系樹脂は、可撓性が高く、後述するダイレクトブロー成形による絞り出し容器(スクイズボトル)の用途にも使用されており、本発明の構造体1をこのような容器に適用するという観点からもオレフィン系樹脂は適している。
【0026】
また、かかる成形体1は、上記のような熱可塑性樹脂の単層構造であってもよいし、上記熱可塑性樹脂と紙や金属との積層体であってもよいし、さらに、複数の熱可塑性樹脂が組み合わされた多層構造を有するものであってもよい。
【0027】
本発明の構造体は、粘稠な含水物質に対する滑性及びその持続性に優れているため、このような含水物質と接触する用途に有効に適用され、特に含水物質が収容される容器として使用されることが、本発明の利点を最大限に享受し得るという点で最適である。
【0028】
特に成形体1が容器の形態を有する場合において、内面が、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂で形成されている場合には、中間層として、適宜接着剤樹脂の層を介して、酸素バリア層や酸素吸収層を積層し、さらに、内面を形成する下地樹脂(オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂)と同種の樹脂が外面側に積層した構造を採用することができる。
【0029】
かかる多層構造での酸素バリア層は、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアミドなどの酸素バリア性樹脂により形成されるものであり、その酸素バリア性が損なわれない限りにおいて、酸素バリア性樹脂に他の熱可塑性樹脂がブレンドされていてもよい。
また、酸素吸収層は、特開2002−240813号等に記載されているように、酸化性重合体及び遷移金属系触媒を含む層であり、遷移金属系触媒の作用により酸化性重合体が酸素による酸化を受け、これにより、酸素を吸収して酸素の透過を遮断する。このような酸化性重合体及び遷移金属系触媒は、上記の特開2002−240813号等に詳細に説明されているので、その詳細は省略するが、酸化性重合体の代表的な例は、第3級炭素原子を有するオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレンやポリブテン−1等、或いはこれらの共重合体)、熱可塑性ポリエステル若しくは脂肪族ポリアミド;キシリレン基含有ポリアミド樹脂;エチレン系不飽和基含有重合体(例えばブタジエン等のポリエンから誘導される重合体);などである。また、遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属の無機塩、有機酸塩或いは錯塩が代表的である。
【0030】
各層の接着のために使用される接着剤樹脂はそれ自体公知であり、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどでグラフト変性されたオレフィン樹脂;エチレン−アクリル酸共重合体;イオン架橋オレフィン系共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体;などが接着性樹脂として使用される。
上述した各層の厚みは、各層に要求される特性に応じて、適宜の厚みに設定されればよい。
【0031】
さらに、上記のような多層構造の成形体1を成形する際に発生するバリ等のスクラップをオレフィン系樹脂等のバージンの樹脂とブレンドとしたリグライド層を内層として設けることも可能であるし、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂により容器内面が形成された容器において、その外面をポリエステル樹脂或いはオレフィン系樹脂により形成することも勿論可能である。
【0032】
容器の形状は、特に制限されず、カップ乃至コップ状、ボトル状、袋状(パウチ)、シリンジ状、ツボ状、トレイ状等、容器材質に応じた形態を有していてよく、延伸成形されていてもよく、それ自体公知の方法で成形される。
【0033】
図2には、本発明の構造体の形成に使用される成形体1の最も好適な形態であるダイレクトブローボトルが示されている。
図2において、全体として10で示されるこのボトル(成形体1に相当)は、螺条を備えた首部11、肩部13を介して首部11に連なる胴部壁15及び胴部壁15の下端を閉じている底壁17を有しており、このようなボトルの内面(下地面1a)に、外添凸部3が形成されることとなる。
かかるボトル10は、粘稠な物質の収容に好適に使用され、胴部壁15をスクイズすることにより、内部に収容された粘稠な物質を排出するというものであり、内容物に対する滑性及びその持続性が向上していれば、このような内容物を速やかに排出することができるし、しかも、その全量を排出し、該内容物を使い切ることも可能となる。
【0034】
<外添凸部3>
外添凸部3は、既に述べたように、成形体1の表面(下地面1a)に外添されて形成されるものであり、ワックス成分と液体5との混合物によって構成される。
このような外添凸部3に形成に使用されるワックス成分は、各種の有機系材料で形成されていてもよいが、液体5との相容性が良好である必要があるため、低分子量系のワックスであることが好ましい。
例えば、合成ワックスとして、オレフィン系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなど、植物系ワックスとして、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木蝋など、動物系ワックスとして、蜜蝋、ラノリンなど、さらに、鉱物系ワックスとして、モンタンワックスなどを挙げることができる。
特に食品類に対しても制限なく使用できるという点で、ライスワックス、カルナバワックスなどの植物系ワックスが最適である。
【0035】
<液体5>
液体5は、その相容性により、上記のワックス成分と共に外添凸部3を成形体1の表面に形成し、かつ、その濡れ性により外添凸部3の表面と、外添凸部3が形成されていない谷部Yでの下地面1a’を被覆すると共に、その非相容性により、含水物質に対して滑性を示すものであり、潤滑剤として機能する。
かかる液体5は、大気圧下での蒸気圧が小さい不揮発性の液体、例えば沸点が200℃以上の高沸点液体でなければならない。揮発性液体を用いた場合には、容易に揮散して経時と共に消失してしまうからである。
【0036】
また、上記のような高沸点液体であると共に、成形体1の表面に対して高い濡れ性を示し、成形体1の表面に密着し油性液体の膜を安定に保持するという観点から、成形体1の表面に対する接触角(23℃)が45度以下、特には15度以下、且つ粘度(25℃)が100mPa・s以下の油性液体であることが好適である。即ち、成形体1の表面素材が、合成樹脂製、ガラス製或いは金属製の何れであっても、上記のような物性を満足する油性液体を用いて成形体1の表面に油性液体の膜を効果的に保持することができる。
さらに、粘稠な含水物質に対する滑性を高めるという点で、表面張力(23℃)が10乃至40mN/m、特に16乃至35mN/mの範囲にある油性液体を用いるのが良い。即ち、表面張力が、滑性の対象となる含水物質と大きく異なるものほど、潤滑効果が高いからである。
【0037】
上述した接触角や粘度及び表面張力に関する条件を満足する油性液体5としては、流動パラフィン、合成パラフィン、フッ素系液体、フッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、脂肪酸トリグリセライド、各種の植物油などが代表的である。特に滑性の対象となる物質が食品類(例えばマヨネーズやケチャップ)である場合には、食用油が好適である。
かかる食用油の具体例としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油などを例示することができる。本発明の特性を示すものであれば油性液体に限らず、水性液体であってもよい。
【0038】
本発明において、上記のような液体5は、外添凸部3を含む山部Xやその間の谷部Yを形成するために、100質量部のワックス成分に対して500〜10000質量部、特に1000〜5000質量部の量で使用することが好ましい。即ち、液体5の使用量が多すぎると、外添凸部3がやわらかくなりすぎてしまい、流動性を示す状態になるため、外添凸部3を成形体1の表面に保持することが困難となる。さらに、液体5の使用量が少ないと、外添凸部3に適度なやわらかさを与えることができなくなるため、滑性の低下やその持続性の低下を生じてしまうおそれがあり、さらには、谷部Yにおいて、下地面1a’が液体5で覆われなくなるおそれがある。
【0039】
<表面構造の形成>
本発明において、上述した外添凸部3を含む山部Xや谷部Yを成形体1の表面に形成するには、前述した量を満足するように、液体5とワックス成分とを混合して、ワックス成分が分散した塗布液を調製し、この塗布液を、成形体1の表面に塗布すればよい。塗布手段は、成形体1の表面形状に応じて、スプレー噴霧、ナイフコーティング、ロールコーティング、共押出など、公知の方法を採用することができるが、噴霧圧等の調整により外添凸部3の分布量を容易に調整できるという点で、スプレー噴霧が好適に採用される。
また、外添凸部3は、塗布液の加熱温度を調整することより形成することができる。加熱してワックス成分を部分溶解・微分散化させた塗布液を塗布する場合、下地面(成形体1の表面)、或いは、外部環境により冷却され、半固体状乃至ゲル状の外添凸部3が形成される。所定の高低差hが形成されるように外添凸部3が形成されればよく、下地面1aを加熱して、その後冷却することで半固体状乃至ゲル状の外添凸部3を形成してもよい。これらは用途或いは塗布液の性状によって適宜選択すればよい。
【0040】
上記のようにして外添されるワックス成分と液体5によって、外添凸部3を下地面1aに保持することができ、このようにある高さをもった外添凸部3が形成されることとなる。
このようにして形成される外添凸部3の高さは、このような外添凸部3を含む山部X(当頂部A)と谷部Y(液体5の上面)との高低差hが、少なくとも10μm以上、特には20μm以上となるように設定される。ただし、この高低差hが、過度に高いと、外添凸部3の変形・崩壊等を生じ易くなるので、かかる外添凸部3の高さ(下地面1aからの高さ)は、通常、100μm以下であることが望ましい。
尚、液体5の厚みはかなり薄く、このため、外部凸部3の高さは、山部Xと谷部Yとの高低差hとほぼ同じである。
また、上記のような外添凸部3により形成される山部Xは、マイクロスコープによる表面観察において、下記式:
F=F
1/F
0
式中、
F
0は測定面積であり、
F
1は、前記測定面積F
0内において、1000μm
2以上の投影面積を有する山
部が占める投影面積の和を示す、
で定義される山部比率Fが0.5〜0.9、特に0.5〜0.8の範囲にあることが、安定且つ持続した滑り特性を発現させるために好ましい。また、外添凸部3の表面は、さらに微細な凹凸が形成されていてもよい。
【0041】
上述した表面構造が成形体1の表面に形成されている本発明の構造体は、粘稠な含水物質に対して優れた滑性及びその持続性を示すため、粘度(25℃)が100mPa・s以上の粘稠な含水物質を収容する容器、特にダイレクトブロー容器として好適に使用され、例えば、マヨネーズ、ケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス等の粘稠な内容物の充填ボトルとして最も好適である。
特に、マヨネーズ等の乳化物に対しても優れた滑性を示す本発明の構造体1は、包装分野においての有用性が極めて高い。
【実施例】
【0042】
本発明を次の実験例にて説明する。
尚、以下の実施例等で行った各種の特性、物性等の測定方法及び樹脂成形体(容器)の成形に用いた樹脂等は次の通りである。
【0043】
1.構造体の表面形状観察
後述の方法で作製した表面構造を有する多層容器(ボトル)の胴部から20mm×20mmの試験片を切り出し、試験片の内面側の表面状態をデジタルマイクロスコープ(VHX−1000、(株)キーエンス製)にて観察し、3次元の画像を測定した(XYの範囲:1116.1μmx837μm)。得られた画像から、測定面内での最大高低差を求め、山谷部の典型的高低差hとした。
さらに、Image−Pro Plus(Ver.5.0.2.9、Media Cybernetics, Inc.製)を用いて、得られた画像から山部の投影面積を求め、1000μm
2以上の投影面積を有する山部の分布状態を解析した。
【0044】
2.滑り挙動の観察
後述の方法で作成した表面構造を有する多層容器(ボトル)に内容物であるマヨネーズ様食品を常法で100g充填し、ボトル口部をアルミ箔でヒートシールし、キャップで密封して充填ボトルを得た。内容物が充填されたボトルを傾けて滑り挙動を目視にて観察した。内容物の動きが速いほど、滑り性に優れている。
【0045】
3.経時保管後の内容物滑り性試験
後述の方法で作成した表面構造を有する多層容器(ボトル)に内容物であるマヨネーズ様食品を常法で400g充填し、ボトル口部をアルミ箔でヒートシールし、キャップで密封して充填ボトルを得た。
得られた充填ボトルを表1に示す各保管期間・温度にて保管した後、ヒートシール材を剥がし、キャップを装着させたボトルを用いて、胴部を押し、ボトル口部を通して内容物を最後まで搾り出した後、このボトル内に空気を入れ形状を復元させた。
次いで、このボトルを倒立(口部を下側)にして1時間保管した後のボトル胴部壁の内容物滑り性の程度(胴部壁に内容物が付着していない程度)を測定し、次の式で内容物付着率を計算した。
内容物付着率(%)
=(内容物が付着している表面積/ボトル胴部壁表面積)×100
上記で計算された内容物付着率から、滑り性を次の基準で評価した。
○:内容物付着率が10%未満
△:内容物付着率が10%以上で50%未満
×:内容物付着率が50%以上
内容物付着率が低いほど、経時保管後の内容物滑り性に優れている。
【0046】
<内容物>
卵1個(50g)と酢15ccと塩2.5ccを混ぜた後、さらに食用油150ccを混ぜ合わせて、実験用のマヨネーズ様食品を作成した。各実施例、比較例では、必要量の内容物を作成して使用した。
【0047】
<実施例1>
下記の層構成を有する多層構造を有し、且つ内容量400gの多層ダイレクトブローボトルを用意した。
内層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
中間層:エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)
外層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
接着層(内外層と中間層との間):酸変性ポリオレフィン
次に、油性液体100g(中鎖脂肪酸添加サラダ油、粘度33mPa・s(25℃))とカルナバワックス5g(融点:80℃)を、ホモジナイザーを用いて70℃で部分溶解・微分散化させて塗布液を調製した。塗布液の温度を制御しながら、エアースプレーを用いてボトル(容器)の内面に均一となるように所定の量を塗布した。
このようにして用意した構造体を用いて、前述の構造体の表面形状観察と滑り挙動の観察および経時保管後の内容物滑り性試験を行った。構造体の表面形状観察の結果を表1に、滑り挙動の観察および経時保管後の内容物滑り性試験の結果をまとめて表2に示す。なお、表面形状観察により得られた構造体の3次元像を
図3に示す。
【0048】
<実施例2〜5>
油性液体とワックスの割合を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の手順でボトル内面に塗布液を塗布したボトルを作製した。作製したボトルを用いて、前述の滑り挙動の観察と経時保管後の内容物滑り性試験を行った。結果をまとめて表2に示す。
【0049】
<比較例1>
塗布液としてワックスを含有しない油性液体を用いた以外は実施例1と同様の手順で内面に油性液体を塗布したボトルを作製し、滑り挙動の観察、経時保管での内容物滑り性試験を行った。結果をまとめて表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1および
図3より、本発明の構造体では、成形体の表面に外添凸部が分布し、これにより山部及び谷部が形成された構造を有していることが分かる。さらに、表2の、滑り挙動の観察および経時保管後の内容物滑り性試験の結果から、ワックス成分と油性液体の混合物により外添凸部を形成した実施例1から5においては、ワックスを用いていない比較例1に比べ滑り挙動はやや劣るものの、高温での長期保管後の性能に優れていることが分かり、実用上、滑り性が長期間維持することが求められる容器・包装分野での有用性に極めて高いことが分かる。