(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前段重合工程において、仕込み工程で調製した混合物を温度170〜270℃に加熱して重合反応させた後、後段重合工程において、温度245〜290℃に加熱して重合反応を継続する請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
後段重合工程において、相分離剤の存在下で反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続する請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[I.PASの製造方法]
本発明に係るPASの製造方法の一実施形態について以下に説明する。本実施形態におけるPASの製造方法は、主な工程として、仕込み工程と、前段重合工程と、後段重合工程と、を含む。また、所望により、脱水工程や後処理工程を含むことができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0018】
(脱水工程)
脱水工程は、仕込み工程の前に、有機アミド溶媒、硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含む混合物を含有する、重合反応時の反応系内から水を含む留出物を反応系外に排出する工程である。
【0019】
硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって促進又は阻害される等の影響を受ける。したがって、上記水分量が重合反応を阻害しない水分量である限りにおいて脱水工程は必須ではないが、重合の前に脱水処理を行うことにより、重合反応系内の水分量を減らすことが好ましい。
【0020】
脱水工程では、不活性ガス雰囲気下での加熱により脱水を行うことが好ましい。脱水工程は、反応槽内で行われ、水を含む留出物は、反応槽外へ排出される。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水和水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水等である。
【0021】
脱水工程における加熱温度は、300℃以下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは100〜250℃である。加熱時間は、15分〜24時間であることが好ましく、30分〜10時間であることがより好ましい。
【0022】
脱水工程では、水分量が所定の範囲内になるまで脱水する。即ち、脱水工程では、有効硫黄源1モルに対して、好ましくは0〜2モル、より好ましくは0.5〜1.8モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節すればよい。
【0023】
(仕込み工程)
仕込み工程は、有機アミド溶媒、硫黄源、ジハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物を含む混合物を仕込む工程である。仕込み工程において仕込まれる混合物を、「仕込み混合物」とも称する。
【0024】
先に説明したように、仕込み工程の前には脱水工程を実施することが好ましい。したがって、仕込み混合物における各成分の量の調整及びpHの制御等は、脱水工程で得られた混合物中の各成分の量を考慮して行うことが好ましい。また、仕込み混合物における硫黄源の量(以下、「仕込み硫黄源」(有効硫黄源)の量とも称する)は、脱水工程で投入した硫黄源のモル量から、脱水工程で揮散した硫化水素のモル量を引くことによって算出することができる。
【0025】
硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数は、好ましくは等モル未満、より好ましくは0.5〜0.99モル、更により好ましくは0.7〜0.98モル、一層更により好ましくは0.75〜0.97モル、特に好ましくは0.78モル以上0.95モル未満の範囲である。アルカリ金属水酸化物のモル数は、仕込み工程で添加するアルカリ金属水酸化物のモル数、並びに、脱水工程を行う場合には、脱水工程において添加したアルカリ金属水酸化物のモル数、及び、脱水工程において硫化水素の生成に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数に基づいて算出される。硫黄源がアルカリ金属硫化物を含む場合には、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数は、アルカリ金属硫化物のモル数を含めて算出するものとする。硫黄源に硫化水素を使用する場合には、生成するアルカリ金属硫化物のモル数を含めて、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数を算出するものとする。ただし、他の目的で添加されるアルカリ金属水酸化物のモル数、例えば、重合助剤や相分離剤として有機カルボン酸金属塩を有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物との組み合わせの態様で使用する場合におけるアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。更に何らかの理由で、無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が使用される場合は、上記少なくとも1種の酸を中和するに必要なアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。
【0026】
脱水工程を行う場合、仕込み工程では脱水工程後に系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加することが出来る。特に、脱水時に生成した硫化水素の量と脱水時に生成したアルカリ金属水酸化物の量とを考慮したうえで、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数が1モル未満になるようアルカリ金属水酸化物を添加することが好ましい。
【0027】
硫黄源1モルに対してアルカリ金属水酸化物のモル数が1モル未満であると重合反応時の副生成物の生成を抑制したり、生成されたPAS中の不純物に由来する窒素含有量を十分小さくしたり、PASの収率が十分向上したりすることがある。仕込み工程においては硫黄源1モルあたり、好ましくは0.95〜1.2モル、より好ましくは1〜1.09モルのジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。
【0028】
仕込み混合物のpHは特に限定されないが、12.5より高く14以下であることが好ましく、より好ましくは12.6〜14、更に好ましくは12.7〜13.9である。pHの値は、アルカリ金属水酸化物等の各成分の割合を調節することで所望の値とすればよい。硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数を前記範囲内とすることにより、pHを12.5より高い値に容易に調整することができる。これによって、重合反応を副生成物の生成を抑制しながら安定的に実施し、高品質のPASを得ることが容易となる。本発明に係るPASの製造方法では、以下で説明する前段重合工程において、仕込み混合物を加熱して硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を開始させるが、この前段重合開始時における仕込み混合物のpHが12.5以下であると、前段重合の途中でアルカリ金属水酸化物を追加しても、高品質のPASを得ることが困難になる場合がある。なお、仕込み混合物のpHが高すぎると、アルカリ金属水酸化物の存在量が多すぎる結果、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応や分解反応を引き起こしたりすることがある。
【0029】
なお、有機アミド溶媒、硫黄源、ジハロ芳香族化合物及びアルカリ金属水酸化物としては、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。例えば、有機アミド溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物又はN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。
【0030】
硫黄源としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素を挙げることが出来る。
【0031】
アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムを挙げることが出来る。
ジハロ芳香族化合物としてはo−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられ、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、ジハロ芳香族化合物における2個のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。
【0032】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムを用いることができる。
【0033】
これらの材料は、単独で用いてもよいし、PASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
(重合工程)
重合工程は、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、PASを重合する工程である。重合工程は、前段重合工程と後段重合工程の2つの工程を含む。各工程について以下に説明する。
【0035】
〔前段重合工程〕
前段重合工程は、混合物を加熱して重合反応を開始させ、反応系のpHが10未満7以上の範囲になるまでプレポリマーを生成させる工程である。前段重合工程において反応系のpHが10未満7以上の範囲であると、得られるPASのハロゲン含有量及び溶融粘度が低減しやすい。したがって、低粘度であるため高い流動性を有しながら、ハロゲン含有量が低いPASを効果的に得ることができる。上記pHは、好ましくは9.5〜7.1、より好ましくは9.0〜7.2の範囲である。
【0036】
pHを所望の範囲にコントロールするために、仕込み時のアルカリ金属水酸化物を硫黄源1モル当たり等モル未満の任意の量にコントロールすることが好ましい。あるいは、硫黄源1モル当たり等モル以上のアルカリ金属水酸化物量で反応を開始した後、無機酸及び/又は有機酸を添加してpHをコントロールしてもよい。
【0037】
重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもかまわない。前段重合工程及び後段重合工程では、PASと有機アミド溶媒が均一相となる状態で重合反応を行ってもよいし、PASと有機アミド溶媒が液−液相分離した状態で重合反応を行ってもよい。多くの場合、前段重合工程では、生成するポリマーが均一に有機アミド溶媒に溶解した反応系での重合反応が行われる。
【0038】
前段重合工程では、仕込み工程で調製した混合物、即ち、仕込み混合物を温度170〜270℃の温度に加熱して重合反応させることが好ましい。前段重合工程での重合温度は、180〜265℃の範囲から選択することが、副反応や分解反応を抑制する上で好ましい。
【0039】
ジハロ芳香族化合物の転化率は、好ましくは50%以上、より好ましくは50〜98%、更により好ましくは60〜97%、一層更に好ましくは65〜96%、特に好ましくは70〜95%である。ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
【0040】
前段重合工程では、pH12.5超過14以下の仕込み混合物を用いて重合反応を開始することが好ましい。この条件が守られる限りにおいて、重合反応の途中で、水、アルカリ金属水酸化物、有機アミド溶媒の少なくとも1種の量を変化させてもよい。例えば、重合途中で水やアルカリ金属水酸化物を反応系に加えることができる。ただし、前段重合工程において、通常は、仕込み工程で調製した仕込み混合物を用いて重合反応を開始し、かつ前段重合反応を終了させることが好ましい。
【0041】
〔後段重合工程〕
後段重合工程は、重合反応を継続する工程である。
【0042】
後段重合工程での重合温度については、好ましくは245〜290℃、より好ましくは257〜285℃に加熱して重合反応を継続する。重合温度は、一定の温度に維持してもよいし、必要に応じて、段階的に昇温又は降温してもよい。重合反応の制御の観点から、一定の温度に維持することが好ましい。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。
【0043】
後段重合工程において、添加するアルカリ金属水酸化物の量は、硫黄源1モル当たり、好ましくは0.01〜0.6モル、より好ましくは0.02〜0.4モル、更により好ましくは0.03〜0.35モル、特に好ましくは0.06〜0.3モルである。後段重合工程において、硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物の合計量は、好ましくは1.00〜1.1モル、より好ましくは1.01〜1.08モル、更に好ましくは1.02〜1.06モルとなるように、アルカリ金属水酸化物を調節して添加することが望ましい。硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物の合計量が少なすぎると、所望の重合度を有するPASを得られないことがある。アルカリ金属水酸化物の合計量とは、仕込み混合物中に存在するアルカリ金属水酸化物の量と後段重合工程で添加したアルカリ金属水酸化物の量、及び所望により前段重合工程で添加したアルカリ金属水酸化物の量との合計である。
【0044】
アルカリ金属水酸化物の添加時期は、後段重合工程の開始時であってもよいし、後段重合工程の途中であってもよい。また、アルカリ金属水酸化物は、一括で添加してもよく、又は、断続的に若しくは連続的に添加してもよい。後段重合工程でアルカリ金属水酸化物を添加しない場合には、副生成物の生成が抑制されなかったり、不純物が多くなったり、高溶融粘度のPASを安定して得ることが困難となったりする。
【0045】
後段重合工程において、相分離剤の存在下で反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続する、相分離重合を行うことが好ましい。具体的には、相分離剤を添加することにより、重合反応系(重合反応混合物)をポリマー濃厚相(溶融PASを主とする相)とポリマー希薄相(有機アミド溶媒を主とする相)に相分離させる。後段重合工程の最初に相分離剤を添加してもよいし、後段重合工程の途中で相分離剤を添加して、相分離を途中で生ずるようにしてもよい。なお、相分離剤は、後段重合工程に限られず存在させることができるが、後段重合工程において使用することが望ましいものである。
【0046】
相分離剤としては、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類、及び、水からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。中でも、コストが安価で、後処理が容易な水が好ましい。また、有機カルボン酸塩と水との組合せも好ましい。上記の塩類は、対応する酸と塩基を別々に添加する態様であっても差しつかえない。
【0047】
相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機アミド溶媒1kgに対し、通常、0.01〜20モルの範囲内である。特に、後段重合工程では、反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当たり4モル超過20モル以下となるように、相分離剤として水を添加する方法を採用することが好ましい。後段重合工程で相分離剤として水を添加する場合、反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当たり、より好ましくは4.1〜14モル、特に好ましくは4.2〜10モルとなるように、水を添加することが望ましい。
【0048】
低ハロゲン含有量のPASをより効果的に製造することができ、また、PASの溶融粘度の調節がしやすくなることから、前段重合工程及び/又は後段重合工程において、末端封止剤の存在下で重合反応を行ってもよい。
【0049】
末端封止剤としては、例えば、ジスルフィド化合物が挙げられる。ジスルフィド化合物としては、ジフェニルジスルフィド(DPDS)、p−p’ジトリルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジベンゾイルジスルフィド、ジチオベンゾイルジスルフィドが挙げられ、ジフェニルジスルフィドが好ましい。
【0050】
末端封止剤の添加量は、仕込み硫黄源1モル当たり、0.0005〜0.015モル、好ましくは0.0006〜0.01モル、より好ましくは0.0007〜0.008モル、更により好ましくは0.0008〜0.006モル、特に好ましくは0.0009〜0.005モルである。
【0051】
〔PAS重合反応液〕
本発明では、重合反応開始後のPAS重合反応液(以下、単に「PAS重合反応液」ということがある。)において有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させるPASの製造方法において副生する副生成物が抑えられている。ここでの副生成物とは、クロロフェニルメチルアミノブタン酸(以下、「CPMABA」ということがある。)やフェノールを指す。PAS重合反応液中において、CPMABAの含有量が16000ppm以下である。また、フェノールの含有量が2100ppm以下に抑えられている。これによって本発明のPASの製造法によれば、後に説明する平均粒径10〜5000μm、温度310℃及びせん断速度1216sec
−1で測定した溶融粘度0.1〜150Pa・s、かつ、窒素含有量600ppm以下であるPASを、高収率で得ることができる。
【0052】
以下、PAS重合反応液中のCPMABA及びフェノールの生成量及びその測定方法について説明する。
[CPMABAの生成量]
PAS重合反応液中のCPMABAの生成量は、好ましくは9000ppm以下、より好ましくは8000ppm以下、特に好ましくは7000ppm以下である。CPMABAの生成量の下限値は0ppmであることが好ましいが、100ppm程度を下限値としてもよい。
【0053】
PAS重合反応液中のCPMABAの含有量(以下、「CPMABAの生成量」ということがある。)は、以下の方法によって測定することができる。
【0054】
重合反応終了後のPASを含有するスラリー状の反応缶内容物を室温まで冷却後、その一部から、遠心分離により液体成分のみを分取する。分取した液体成分をメスフラスコに精秤して、アセトニトリル含有量40質量%の水溶液と混合した後、振とうしてCPMABAを抽出する。CPMABAを抽出した溶液をメンブレンフィルターにてろ過し、このろ液を測定サンプルとしてCPMABAの含有量を測定する。測定は、標準物質として、合成したCPMABAを用いて、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を使用して行い、測定サンプル中のCPMABAの定量を行ってCPMABAの生成量(単位:ppm)とする。次いで、必要に応じ、硫黄源1モルに対するCPMABAのモル数を算出して、副生成物であるCPMABAの生成量(単位:ミリモル/モル)としてもよい。
【0055】
[フェノールの生成量]
PAS重合反応液中のフェノールの生成量は、好ましくは2100ppm以下、より好ましくは2000ppm以下である。フェノールの生成量の下限値は0ppmであることが好ましいが、100ppm程度を下限値としてもよい。
【0056】
PAS重合反応液中のフェノールの含有量(以下、「フェノールの生成量」ということがある。)は、以下の方法によって測定することができる。
【0057】
即ち、重合反応終了後のPASを含有するスラリー状の反応缶内容物を室温まで冷却後、その一部から、遠心分離により液体成分のみを分取する。該液体成分をメスフラスコに精秤して、アセトンと混合した後、振とうしてフェノールを抽出する。フェノールを抽出した溶液を測定サンプルとしてフェノールの含有量を測定する。測定は、標準物質として、和光純薬工業株式会社製のフェノールを用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって行い、測定サンプル中のフェノールの定量を行ってフェノールの生成量(単位:ppm)とする。次いで、必要に応じ、硫黄源1モルに対するフェノールのモル数を算出して、副生成物であるフェノールの生成量(単位:ミリモル/モル)としてもよい。
【0058】
(後処理工程)
後処理工程は、重合工程で得られたスラリーから不要な成分を除去し、ポリアリーレンスルフィドを得る工程である。本発明のPASの製造方法における後処理工程は、PASの製造において通常用いられる工程であれば特に限定されない。
【0059】
重合反応の終了後、例えば、反応混合物を冷却してポリマーを含むスラリー(以下、「生成物スラリー」ということがある。)を得てもよい。冷却した生成物スラリーをそのまま、又は水等によって希釈した後に、濾別し、洗浄及び濾別を繰り返して乾燥することにより、PASを回収することができる。
【0060】
本発明のPASの製造方法によれば、特に、後段重合工程において、相分離剤の存在下で反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続した場合、粒状のPASを生成させることができるので、スクリーンを用いて篩分する方法によって粒状のポリマーを反応液から分離する方法が、副生物やオリゴマー等から容易に分離できる観点から好ましい。これにより、30μm以上、好ましくは35μm以上、特に好ましくは50μm以上の粒状PASを効果的に回収することができる。なお、生成物スラリーは、高温状態のままでポリマーを篩分してもよい。粒状PASは篩上物として回収される。
【0061】
また、本発明のPASの製造方法によれば、前段重合工程及び後段重合工程において、重合反応を均一液相状態で行った場合、微粉状のPASを生成させることができるので、各種の固液分離法により、微粉状のポリマーを反応液から分離することができる。この微粉状のPASは、粒度分布が狭く、均一性が高い。そのため、この微粉状のPASは、粒度分布を揃えるために篩分を行うことが不要である。
【0062】
各種の固液分離後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄することが好ましい。PASを高温水等で洗浄してもよい。生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
【0063】
(得られるPAS)
本発明のPASの製造方法によれば、副生成物の生成が抑制され、不純物が少ない高品質で低ハロゲン含有量のPASを得ることができる。本発明の製造方法によって得られるPASとしては、ハロゲン含有量が、通常2500ppm以下、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、特に好ましくは1400ppm以下であり、ハロゲン含有量の下限値が10ppmであってもよく、平均粒径が、通常10〜5000μm、好ましくは30〜4000μm、より好ましくは50〜3000μmであり、かつ、温度310℃、せん断速度1216sec
−1で測定した溶融粘度が、通常0.1〜150Pa・s、好ましくは0.5〜130Pa・s、より好ましくは1〜100Pa・s、更に好ましくは5〜80Pa・sであることにより取扱い性・流動性に優れ、また不純物成分の少ないPASであり、本発明のPASの製造方法によれば、このようなPASを高収率で得ることができる。なお、PASの溶融粘度は、乾燥ポリマー約20gを用いてキャピログラフを使用して、所定の温度及びせん断速度条件で測定することができる。
【0064】
本発明のPASの製造方法によって得られるPASは、不純物が少ない高品質のPASである。高品質である指標としては、PAS中の窒素含有量を挙げることができる。本発明のPASの製造方法によれば、好ましくはPAS中の窒素含有量が600ppm以下のPASを得ることができる。PAS中の窒素含有量は、より好ましくは550ppm以下、更に好ましくは520ppm以下である。PAS中の窒素含有量の下限値は、もちろん0ppmであるが、多くの場合10ppm程度を下限値としてもよい。
【0065】
PAS中の窒素含有量は、ポリマー試料約1mgを精秤し、微量窒素硫黄分析計を用いて元素分析を行うことにより測定することができる。
【0066】
ハロゲン含有量は、PAS中のハロゲン含有量として、塩素含有量を燃焼イオンクロマトグラフィー法により測定することができる。
【0067】
本発明のPASの製造方法により得られるPASは、そのまま、又は酸化架橋させた後、単独で、又は所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品やシート、フィルム、繊維、パイプ等の押出成形品に成形することができる。
【0068】
本発明のPASの製造方法により得られたPASは、色調が良好である。また、本発明の製造方法により得られたPASのコンパウンドは、揮発分の発生量が少なく、揮発分の抑制が期待される電子機器等の分野にも好適である。
【0069】
本発明のPASの製造方法において、PASは、特に限定されず、ポリフェニレンスルフィド(PPS)であることが好ましい。
【0070】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態について更に詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0072】
[ハロゲン含有量]
粒状PAS中のハロゲン含有量として、塩素含有量を燃焼イオンクロマトグラフィー法により測定した。
(測定条件)
イオンクロマトグラフ:DIONEX製DX320
燃焼用前処理装置:三菱化学製 AQF−100、ABC、WS−100、GA−100
試料:10mg
ヒーター:Inlet Temp/900℃、Outlet Temp/1000℃
吸収液:H
2O
2 900ppm、内標準PO
43− 25ppm
【0073】
[溶融粘度]
乾燥ポリマー約20gを用いて、東洋精機株式会社製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度は、310℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、せん断速度1216sec
−1での溶融粘度(以下、「MV」ともいう。)を測定した(単位:Pa・s)。
【0074】
[窒素含有量]
ポリマー中の窒素含有量は、ポリマー試料約1mgを精秤し、微量窒素硫黄分析計(アステック株式会社製、機種「ANTEK7000」)を用いて元素分析を行って求めた(単位:ppm)。
【0075】
[ポリマー収率]
PAS(以下、単に「ポリマー」ということがある。)の収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄源の全てがポリマーに転換したと仮定したときのポリマー質量(理論量)を基準値として、この基準値に対する実際に回収したポリマー質量の割合を算出し、ポリマーの収率とした(単位:質量%)。
【0076】
[混合物のpH]
混合物を精製水(関東化学株式会社製)で10倍に希釈し、pHメーターを使用して室温で測定した。
【0077】
[硫黄源の量]
硫黄分として水硫化ナトリウム(NaSH)及び硫化ナトリウム(Na
2S)を含む硫黄源について、ヨージメトリー法により硫黄分の全量を求め、中和滴定法により上記硫黄源中のNaSHの量を求めた。硫黄分の全量からNaSHの量を差し引いた残りをNa
2Sの量とした。
【0078】
[CPMABA(副生成物)の生成量]
重合反応終了後のPASを含有するスラリー状の反応缶内容物を室温まで冷却後、その一部から、遠心分離により液体成分のみを分取した。該液体成分をメスフラスコに精秤して、アセトニトリル含有量40質量%の水溶液と混合した後、振とうしてCPMABAを抽出した。抽出したCPMABAを含む溶液をメンブレンフィルターにてろ過し、得られたろ液を測定サンプルとしてCPMABAの含有量を測定した。測定は、標準物質として、合成したCPMABAを用いて、株式会社日立ハイテクノロジー製の高速液体クロマトグラフ(カラムオーブン「L−5025」、UV検出器「L−4000」)を使用して行い、測定サンプル中のCPMABAの定量を行った。
【0079】
[実施例1]
1.脱水工程:
硫黄源として、ヨージメトリー法による分析値が62.50質量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液を2000g用いた。この硫黄源の中和滴定法によるNaSH分析値は、61.09質量%(22.30モル)であり、硫化ナトリウム(Na
2S)が0.25モル含まれている。上記水硫化ナトリウム水溶液、及び73.3質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液961gを、N−メチル−ピロリドン(NMP)5998gと共にチタン内張り20リットルオートクレーブ(反応缶)に投入した。水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/Sは、0.85(モル/モル、以下「mol/mol」と表記することがある。)となる。反応缶内を窒素ガスで置換した後、約2時間かけて、撹拌しながら徐々に温度200℃まで昇温して、水850gとNMP680gとを留出させた。この際、0.39モルの硫化水素(H
2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量(即ち、「仕込み硫黄源」の量)は、21.92モルとなった。H
2S揮散分は、反応缶に投入した硫黄源に対して、1.75モル%に相当した。
【0080】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」ということがある。)3220g〔pDCB/有効S=1.00(モル/モル)〕、NMP2896g〔NMP/有効S=375(g/モル)〕、及び水67gを加え、更に、缶内NaOH/有効S=0.85(モル/モル)になるように、純度97質量%のNaOHを加えて仕込み混合物を得た〔缶内の合計水量/S=1.5(モル/モル)〕。
【0081】
3.重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を回転して仕込み混合物を撹拌しながら、温度220℃から260℃まで90分かけて連続的に昇温して重合させた(前段重合工程)。pDCBの転化率は88%、前段重合終了時のpHは8.2であった。
【0082】
その後、相分離剤としての水の存在下で反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに分離した状態とするために、水446g、とNaOH167gを圧入し〔缶内の合計水量/S=2.63(モル/モル)、合計NaOH/有効S=1.04(モル/モル)〕、温度265℃に昇温して2時間重合反応を継続させた(後段重合工程)。重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却しその一部をサンプリングして、PAS重合反応液中の副生成物の生成量を測定した。
【0083】
4.後処理工程:
重合反応終了後の反応混合物を室温まで冷却した後、ポリマーを100メッシュの篩で篩分した。篩上に分離したポリマーを、アセトンにより3回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3質量%酢酸による洗浄を行い、更に水洗を4回行って篩上に洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、温度105℃で13時間乾燥した。こうして得られた顆粒状ポリマーの収率は、91%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0084】
[実施例2]
pDCB/有効S=1.01(モル/モル)、缶内NaOH/有効S=0.80(モル/モル)として重合させ(前段重合工程におけるpDCBの転化率は87%、前段重合終了時のpHは7.4)、その後、合計NaOH/有効S=1.04(モル/モル)とした以外は、実施例1と同様にして顆粒状ポリマーを収率91%で得た。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0085】
[実施例3]
缶内NaOH/有効S=0.90(モル/モル)とし、温度200℃から260℃まで2時間かけて連続的に昇温して重合させ(前段重合工程におけるpDCBの転化率は94%、前段重合終了時のpHは7.8)とした以外は、実施例2と同様にして顆粒状ポリマーを収率88%で得た。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0086】
[実施例4]
前段重合終了時にジフェニルジスルフィド4.8g(仕込み硫黄源1モル当たり、0.001モル)、及びNMP219gを添加し、後段重合工程において、ジフェニルジスルフィドの存在下で重合反応を行った以外は実施例1と同様にして顆粒状ポリマーを収率90%で得た。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0087】
[比較例1]
仕込み工程で、pDCB/有効S=1.055(モル/モル)、合計NaOH/有効Sを1.065(モル/モル)とし、温度220℃から260℃まで1.5時間かけて連続的に昇温して重合させ(前段重合工程におけるpDCBの転化率は90%、前段重合終了時のpHは11.8)、後段重合では水のみを圧入(合計NaOH/有効Sを1.065(モル/モル)に維持)した以外は、実施例1と同様にして重合反応、後処理、及び乾燥を行った。こうして得られた微粉状ポリマーの収率は、86%であった。ポリマーの特性を、副生成物の生成量等と共に表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
本発明によれば、原料であるNaOHと硫黄源との比を調節するだけで低ハロゲン含有PASを得ることができるので、簡便かつ低コストで低ハロゲン含有PASを製造できる。更に、本発明によれば、低粘度かつ低ハロゲン含有PASを簡便かつ低コストで製造できる。