特許第6297778号(P6297778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6297778水素化ポリゲルマンの製造方法及び水素化ポリゲルマン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297778
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】水素化ポリゲルマンの製造方法及び水素化ポリゲルマン
(51)【国際特許分類】
   C01B 6/06 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   C01B6/06
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-541533(P2012-541533)
(86)(22)【出願日】2010年12月6日
(65)【公表番号】特表2013-512841(P2013-512841A)
(43)【公表日】2013年4月18日
(86)【国際出願番号】EP2010068979
(87)【国際公開番号】WO2011067411
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年12月6日
【審判番号】不服2016-6371(P2016-6371/J1)
【審判請求日】2016年4月28日
(31)【優先権主張番号】102009056731.3
(32)【優先日】2009年12月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】317001851
【氏名又は名称】ナガルジュナ ファーティライザーズ アンド ケミカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】アウナー, ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】バオホ, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ホル, スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】デルチェフ, ルーメン
(72)【発明者】
【氏名】モッセニ, ヤファト
(72)【発明者】
【氏名】リッポルト, ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ゲーベル, トーラルフ
【合議体】
【審判長】 豊永 茂弘
【審判官】 宮澤 尚之
【審判官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−221301(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102008016386(DE,A1)
【文献】 米国特許第7498015(US,B1)
【文献】 国際公開第2008/110386(WO,A1)
【文献】 特開平09−237927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B3/00-3/58
C01G1/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GeCl4とH2よりプラズマ化学的に生成された式GexCly(式中、x≧2、x≦y≦2x+2)で表される塩素化ポリゲルマンを、
LiAlH4, DibAlH 及び LiHからなる群より選ばれる水素化剤と反応させて水素化して、
式GexHy(式中、x≧2、x≦y≦2x+2)で表される水素化ポリゲルマンを得る、
純粋化合物または複数の化合物の混合物としての水素化ポリゲルマンを製造する方法。
【請求項2】
前記水素化は−60〜200℃の範囲から選択される温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水素化は1Pa〜2000hPaの範囲から選択される圧力で行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩素化ポリゲルマンは、水素化される前に溶媒で希釈されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに、水素化ポリゲルマンを製造する方法と、純粋化合物としての、あるいは複数の化合物の混合物としての水素化ポリゲルマンとについて詳述する。
【背景技術】
【0002】
ポリゲルマンを製造するために、GeH4を出発物質とした公知の方法が行われているが、まず、健康に害を及ぼす物質であることに関しこれを回避しなければならず、また、得られる収率がしばしば低くなるという問題もある。特に、今日までに所望の程度に長鎖の化合物を作ることが可能でないことである。
【0003】
ポリゲルマンは例えば特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0078252号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一形態の目的は、公知の方法に比べて収率を向上されるとともにGeH4を出発物質として用いない水素化ポリゲルマンを製造する方法を提供しすること、及び特性の向上した水素化ポリゲルマンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの目的は請求項1記載の方法、及び請求項8記載の水素化ポリゲルマンによって達成される。他の請求項の対象は当該水素化ポリゲルマンから生成されるゲルマニウム層、該ゲルマニウム層の製造方法、該水素化ポリゲルマンの製造方法の別の形態、又水素化ポリゲルマンの別の形態である。
【0007】
純粋化合物としてあるいは複数の化合物の混合物として水素化ポリゲルマンを製造する方法を詳述し、ハロゲン化ポリゲルマンが水素化される。水素化ポリゲルマンとは、例えば、それぞれにおいて2つのゲルマニウム原子の間に少なくとも1つの直接結合が存在する純粋化合物としての、あるいは複数の化合物の混合物としての水素化ポリゲルマンを意味する。当該水素化ポリゲルマンは、水素を含む置換基Zを有することが可能であり、ゲルマニウムに対するZの割合が少なくとも1:1であり、一般化学式(gemittelte Formel)GeZxにおいて、1≦x≦3、好ましくは1.5≦x≦3、より好ましくは2≦x≦3であり、平均鎖長nは2≦n≦100である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
純粋化合物としてあるいは複数の化合物の混合物として水素化ポリゲルマンを製造する方法を詳述し、ハロゲン化ポリゲルマンが水素化される。水素化ポリゲルマンとは、例えば、それぞれにおいて2つのゲルマニウム原子の間に少なくとも1つの直接結合が存在する純粋化合物としての、あるいは複数の化合物の混合物としての水素化ポリゲルマンを意味する。当該水素化ポリゲルマンは、水素を含む置換基Zを有することが可能であり、ゲルマニウムに対するZの割合が少なくとも1:1であり、一般化学式GeZxにおいて、1≦x≦3、好ましくは1.5≦x≦3、より好ましくは2≦x≦3であり、平均鎖長nは2≦n≦100である。
【0009】
前記「純粋化合物」とは、以下において、当該水素化ポリゲルマンが、分岐がある場合でも、鎖長において相違せず、及び/又は環の数と種類とに相違がない化合物で構成されることを意味する。すなわち、純粋化合物には、水素化ポリゲルマンの1つの分留(Fraktion)だけしか存在しない。ここで「純粋」とは典型的なファインケミカルの基準で理解されたい。従って、純粋化合物でさえ、例えば、微量の炭素やハロゲンを少量の不純物として含み、あるいは異なる水素化ポリゲルマンを少量含むこともある。この文脈での少量とは0.5mol%より小さく、好ましくは10ppmより少ない。
【0010】
同様に「複数の化合物の混合物」とは、以下において、当該水素化ポリゲルマンが少なくとも2つの分留を有しており、これらの分留の水素化ポリゲルマンは、分岐がある場合でも鎖長が相違しており、及び/又は環の数や種類が相違しているということを意味すると理解されたい。
【0011】
従って、純粋化合物のすべての分子にしても、複数の化合物の混合物の前記少なくとも2つの分留のすべての分子にしても、いずれも、少なくとも1つの直接結合を2つのゲルマニウム原子間に有している。
【0012】
拠ってここに、公知の製造方法に比べ、収率が、特に長鎖のポリゲルマンの場合に顕著に向上する水素化ポリゲルマンを製造する方法を提案する。水素化ポリゲルマンがハロゲン化ポリゲルマンから作られることにより、ハロゲン化ポリゲルマンに存在する構造は、水素化ポリゲルマンに大部分保持され、又は水素化ポリゲルマンの構造に一致させることが可能である。
【0013】
ここで「大部分」とは、少なくとも50%を意味する。しかしながら、水素化の間中、ハロゲン化ポリゲルマンの既存の構造が再編される可能性があり、それによって、例えば、出発物質に存在した当該ハロゲン化ポリゲルマンよりも水素化ポリゲルマンにおける分岐が増えることもある。但し、本製法により生成される水素化ポリゲルマンは、その元となるハロゲン化ポリゲルマンによって、区別可能な状態を保つこともある。
【0014】
本製法によれば、一般式がGexHyで表され、x≧2、x≦y≦2x+2である完全に水素化されたポリゲルマンからなる純粋化合物又は複数の化合物の混合物を生成することができる。この生成は、一般式GexXyで表され、x≧2、X=F、Cl、Br、I、x≦y≦2x+2であるハロゲン化ポリゲルマンを水素化することにより成される。
【0015】
本製法によれば、水素化ポリゲルマンのみならず水素化オリゴゲルマンも生成することが可能である。このような水素化オリゴゲルマンは2≦n≦8から選択される鎖長nを有する。これの実験式はGenZ2n+2であり、混合物の平均実験式はGenZ2nで表され、ここにZは置換基であって水素を含む。水素化ポリゲルマンはn>8である鎖長nを有し、実験分子式はGenZ2n+2であり、混合物の平均実験式はGenZ2nで表される。原則として、鎖長nが2≦n≦6であれば短鎖と呼ばれ、n>6であれば長鎖と呼ばれる。「鎖長」とは、互いに直接結合されたゲルマニウム原子の数である。
【0016】
前記ハロゲン化ポリゲルマンは熱的に作られるハロゲン化ポリゲルマン及びプラズマ化学法で作られるハロゲン化ポリゲルマンから選択されてもよい。熱的に作られるハロゲン化ポリゲルマンは、分岐鎖をあまり有さないプラズマ化学的に作られるハロゲン化ポリゲルマンに比べて分岐の割合が高くなり得る。ハロゲン化ポリゲルマンは純粋化合物であっても複数の化合物の混合物であってもいい。
【0017】
プラズマ化学的に作られるハロゲン化ポリゲルマンを生成する方法は、例えば米国特許出願公開第2010/0155219号に開示されている。当該公報はここに言及されることにより、本明細書に編入される。
【0018】
ハロゲン化された、より好ましくは高度にハロゲン化されたポリゲルマンは、F、Cl、Br、Iを含む集合から選択される置換基、またはそれらの組み合わせを有するものであってよい。水素化の間に、これらのハロゲンは大部分が完全に置換基としてのHによって置換されることが可能である。ここで大部分が完全にとは、少なくとも50%の程度を意味する。本願の製造方法によって生成される水素化ポリゲルマンのハロゲン含有量は2atom%より小さくてもよく、1atom%より小さいことが好ましい。したがって水素化ポリゲルマンは置換基Zとしてもっぱら水素のみであったり、水素と例えば塩素のようなハロゲンとを組み合わせて持っていたりすることもある。
【0019】
本特許出願の理解において、化合物あるいは混合物の塩素含量、すなわち、塩素化ポリゲルマン及びこれから生成される水素化ポリゲルマンの混合物の塩素含量とは、試料の完全な消化とそれに続くモール法による塩化物の滴定によって測定されるものである。水素含量は、内部標準を用いた、1H NMRスペクトルの積分、及び混合比がわかっている上での、得られる積分値の比較によって測定される。本発明のハロゲン化ポリゲルマン及び水素化ポリゲルマンのモル質量、及びハロゲン化及び水素化されたポリゲルマン混合物の平均モル質量は、凝固点降下法によって測定される。上記変数からハロゲン及び/又は水素のゲルマニウムに対する比が得られる。
【0020】
水素化ポリゲルマンは、金属水素化物及び/又は半金属水素化物から選ばれる水素化合物の(hydridisch)水素化剤と反応することが可能である。金属水素化物及び/又は半金属水素化物はまた、混合された金属水素化物及び/又は半金属水素化物を各々包括するものであり、言い換えれば、異なる金属及び/又は異なる半金属あるいは金属及び有機基を有した水素化物を包括するものである。水素化剤は、MH、MBH4、MBH4-xRx、MAlH4、AlHxR3-xを含んで成る集合から選択することができ、これらの適切な混合物でもいい。水素化剤の例としては、LiAlH4, DibAlH (Dibはジイソブチル), LiH, 及び HClが挙げられる。好ましいのは、ゲルマン骨格を変化させることなくハロゲン化ポリゲルマンの水素化を起こさせるような穏やかな水素化剤である。
【0021】
一実施形態によると、水素化は−60℃〜200℃の範囲から選択される温度で行うことが可能である。温度範囲は好ましくは−30℃〜40℃であり、より好ましくは−10℃〜25℃であってもよい。更に、水素化は1Pa〜2000hPa、好ましくは 1hPa〜1500hPa、より好ましくは20hPa〜1200hPaの範囲から選択される圧力下で行うことが可能である。よって、従来技術に比べると、水素化の条件は圧力も温度も低い穏やかものに設定される。このようにして、比較的不安定なハロゲン化ポリゲルマンでさえよい収率と高い転換率で水素化されうる。
【0022】
ハロゲン化ポリゲルマンは水素化に先立って溶媒により希釈されることが可能である。このときの溶媒は、ハロゲン化ポリゲルマンに対して不活性なものから選択する。すなわちハロゲン化ポリゲルマンと化学反応を起こさないものである。そのような不活性溶媒としては、アルカン、芳香族化合物があり、例えば、ベンゼン、トルエン、ヘキサンである。溶媒の混合物も同様に可能である。水素化は希釈しないハロゲン化ポリゲルマンを用いて行うことも可である。
【0023】
従って、この製法によると、水素化ポリゲルマンは収率よく、所望の鎖長を有したものを、ほとんど害のない先駆物質より作ることができる。更に、先駆物質を適切に選択することにより、得られる水素化ポリゲルマンの構造を大部分決定することができる。また、本製法によるなら、ハロゲン化ポリゲルマンのほとんど完全な水素化が可能である。
【0024】
さらに、純粋化合物としてあるいは複数の化合物の混合物として水素化ポリゲルマンは更に次のように特定される。該水素化ポリゲルマンは水素を含む置換基Zを有しており、ここでゲルマニウムに対するZの割合は少なくとも1:1であり、該水素化ポリゲルマンの一般化学式はGeZxであり、ここでxは1≦x≦3を満たし、好ましくは1.5≦x≦3を満たし、より好ましくは2≦x≦3を満たし、該水素化ポリゲルマンの鎖長nは2≦n≦100を満たす。水素化ポリゲルマンは、例えば、内部に、2つのゲルマニウム原子間に直接結合を少なくとも1つ有した純粋化合物あるいは複数の化合物の混合物であってもよい。
【0025】
「純粋化合物」と「複数の化合物の混合物」の用語については、製法に関してすでに成された定義づけが同様に適用される。「純粋」についても典型的なファインケミカルの基準で理解されたい。従って、純粋化合物でも、例えば、微量の炭素やハロゲンが不純物として少量含まれていることがある。この場合、少量とは0.5mol%より小さく、好ましくは10ppmより少ない。
【0026】
「鎖長」とは、互いに直接結合されたゲルマニウム原子の数である。水素化ポリゲルマンの鎖長は好ましくは4≦n≦50から選択され、より好ましくは6≦n≦20から選択される。
【0027】
従って一般化学式GeZxは、水素化ポリゲルマン中の1つのゲルマニウム原子が平均して、1〜3の置換基Zを有していることを意味する。ここで考慮の対象となるのは直鎖状のポリゲルマンと環状あるいは分岐状ポリゲルマンとにおけるゲルマニウム原子である。この種の水素化ポリゲルマンは、その化学特性によって多種にわたる用途に適している。
【0028】
水素化ポリゲルマンは上述した製造方法で作ることが可能である。従って、ハロゲン化ポリゲルマンの水素化によって作ることが可能である。この生成プロセスによるなら、水素化されたポリゲルマンの構造はハロゲン化ポリゲルマンに存在する構造に類似するものであり、あるいは全く同一であることもありうる。
【0029】
例えば、おおかた線状の水素化ポリゲルマンは、プラズマ化学的に生成されたハロゲン化ポリゲルマンを水素化することにより得ることが可能であり、高い分岐部分を有した水素化ポリゲルマンは、熱的に生成されたハロゲン化ポリゲルマンを水素化することによって得ることが可能である。水素化はほとんど完全に進行させることがあり、そのときは、ポリゲルマン中の置換基Zは大部分が水素である。ここでも「大部分」とは、置換基の水素部分が少なくとも50%であることを意味する。しかしながら、水素化は行き着くところまで進行すると、置換基Zの水素部分は100%となる。
【0030】
一実施形態によると、水素化ポリゲルマンは直接結合されたゲルマニウム原子が3つを越えるポリゲルマン分子の部分を有することがあり、これらのゲルマニウム分子の少なくとも8%、好ましくは11%より多くが分岐部位となる。この場合には、3つより多くの直接結合されたゲルマニウム原子を有したポリゲルマン分子の部分は、純粋化合物であり、あるいは複数の化合物の混合物の場合には、水素化ポリゲルマンの部分であることもある。いずれの場合にも、そのようなポリゲルマン分子は鎖長nがn>3である。「分岐部位」とは2つより多くの他のゲルマニウム原子に結合したゲルマニウム原子を意味する、言い換えれば、置換基Zを1つだけあるいは1つも有していないものをいう。分岐位置は、例えば、1H NMRスペクトルで見つけることができる。
【0031】
複数の化合物の混合物としての水素化ポリゲルマンは混合物の状態では、その混合物を構成する個々の成分の少なくとも1つのものより高い溶解度を有する。従って、当該混合物の少なくとも1つの構成成分は、混合物の他の成分の各々よりも低い溶解度を有している。このことの裏づけとしては、混合物のさまざまな成分は互いに溶解補助剤として働くからである。原則として、同じ種類であればより短鎖の分子のほうが長鎖のものに比べ溶解度が高く、複数の化合物の混合物においては、短鎖分子は長鎖分子の溶解度を向上させる。
【0032】
別の実施形態によると、水素化ポリゲルマンは3つより多くの直接結合されたゲルマニウム原子を有したポリゲルマン分子の部分を有しており、これらのポリゲルマン分子は一般化学式GeZx を有しており、xは2.2≦x≦2.5であり、好ましくは、xは2.25≦x≦2.4である。
【0033】
さらに、当該水素化ポリゲルマンはハロゲンをも含む置換基Zを有することもある。したがって、水素のみならず、当該水素化ポリゲルマンは、例えばF、Br、IもしくはCl、またはこれらの組み合わせからなるハロゲンを置換基として有することができる。この場合、水素化ポリゲルマンのハロゲン部分は2atom%より小さく、好ましくは1atom%より小さい。したがって、ハロゲン置換基部分をほんの少量だけ有し、大部分が水素化されたポリゲルマンが提供される。
【0034】
またさらに、当該水素化ポリゲルマンは水素部分を50atom%より多く、好ましくは60atom%より多く、さらに好ましくは66atom%より多く有することができる。したがって、当該水素化ポリゲルマンは非常に高い割合で水素部分を有しており、この高い水素含量によってゲルマニウムに対する置換基の比率が少なくとも1:1に達する。
【0035】
1H NMRスペクトルにおいて、当該水素化ポリゲルマンは6.5〜2.0ppm、好ましくは4.0〜2.1ppmの化学シフト領域において有意な生成物のシグナルを有している。この文脈において、「有意」とは、積分が総積分の1%より大きいことを意味する。さらに、1H NMR スペクトルにおいて、当該水素化ポリゲルマンは3.6〜2.9ppmの化学シフト領域における有意な生成物のシグナルの総積分の少なくとも80%の信号強度を有することができる。
【0036】
さらに、ラマンスペクトルにおいて、当該水素化ポリゲルマンは波数2250〜2000の領域及び、波数330以下の領域に有意な生成物の帯域を有することができる。ラマンスペクトルに関して、「有意」とは、最高ピーク強度の10%より高いものをいう。
【0037】
一実施形態によると、当該水素化ポリゲルマンは無色から淡黄色または無色から象牙色であることができる。また、非晶質固体または結晶性固体として存在することができる。また、好ましくは高粘性のものでない。
【0038】
さらに、当該水素化ポリゲルマンは、少なくとも20%の量を、濃度が10%になるまで不活性溶媒に溶解可能であってもよい。このことは、当該水素化ポリゲルマンの複数の化合物の混合物の少なくとも一つの混合要素が不活性溶媒に容易に溶解するということを意味する。不活性溶媒とは水素化ポリゲルマンとは反応しない溶媒である。例えば、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、SiCl4、GeCl4等のグループから溶媒を選択する。
【0039】
上記複数の化合物の混合物における溶解しやすい水素化ポリゲルマンは減圧下で分解することなく、20%を越える率で、好ましくは80%を越える率で蒸留及び/又は揮発することができる。この場合において、減圧とは好ましくは1〜100Paである。よって、この水素化ポリゲルマンは効率よく分離できる。
【0040】
さらに、上記記載の水素化ポリゲルマンから生成されるゲルマニウム層が提供される。
【0041】
当該水素化ポリゲルマンは、ゲルマニウム層を製造するための、工業規模で容易に得られる出発化合物である。当該水素化ポリゲルマンは、その熱分解温度が500℃、好ましくは450℃よりも低いので、低温で基板上にゲルマニウム層を堆積させるための先駆物質となる。熱分解温度が低いということは、ゲルマニウム層を載せるキャリア層や基板の材料の選択肢を比較的広くすることが可能であり、例としてガラスのキャリア層が挙げられる。更に、堆積されるゲルマニウム層へのキャリア材料からの不純物の拡散が抑制あるいは回避できるようになる。
【0042】
基板へのゲルマニウム層の作製方法は、A)上記した固体又は溶解された水素化ポリゲルマンを基板の上に塗布するステップと、B)前記水素化ポリゲルマンを熱分解するステップと、より成る。この方法によると、水素化ポリゲルマンからゲルマニウム層を高収率及び高変換率で生成することとなる。当該水素化ポリゲルマンを用いた場合、従来のゲルマニウム先駆体よりも高い収率と変換率でゲルマニウム層を形成するための処理ができる。このため、溶解された水素化ポリゲルマンあるいは固体の水素化ポリゲルマンは基板に容易に塗布することができる。従って、CVD(化学気相堆積)、PVD(物理気相堆積)あるいはプラズマ堆積は必要でない。従って、ゲルマニウム層の簡単な製造方法が提供される。
【0043】
当該水素化ポリゲルマンは、例えば伝導性ポリマー、発光ダイオード等の部品の製造用として、ゲルマニウム化学における用途がさらに期待される。
【実施例】
【0044】
水素化ポリゲルマンの製造に関連する実施例を以下に示す。
【0045】
GeCl4とH2とがプラズマ反応させられてできるポリクロロゲルマン(PCG)は粘性オイルあるいは固体であり、いずれの場合も黄色から橙褐色を呈する。PCG 8.5g(GeCl2当量で60mmol)が40mlの無水ベンゼンと混合され、その結果、部分溶解が起こる。0℃で、26mlの水素化ジイソブチルアルミニウム (145mmol, 約20%超) が30分間にわたって滴下される。約1時間にわたって、オレンジ色の沈殿物は反応に消費され淡黄色の粉になる。反応混合物は次に16時間攪拌され、この間に、室温にて温められる。ろ過により固形分が分離され、25mlの無水ヘキサンで洗浄される。減圧下で乾燥された後、水素化ポリゲルマン2.1gが分離される。
【0046】
本発明はこの実施例の記載事項によって限定されるものではない。むしろ、本発明は新しい特徴及び種々の特徴の組み合わせをあまねく包含し、請求項や実施例に明示的に記載されていない特徴や組み合わせについても包含する。