特許第6297798号(P6297798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297798
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】難燃性電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   H01G9/02 311
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-138386(P2013-138386)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-12247(P2015-12247A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三村 英之
(72)【発明者】
【氏名】江口 久雄
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−135693(JP,A)
【文献】 特開2011−141974(JP,A)
【文献】 特開2008−021560(JP,A)
【文献】 特開平11−260401(JP,A)
【文献】 特開2001−185458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化皮膜を設けた陽極箔と、陰極箔と、セパレータと、溶媒中に溶質を含有する電解液と、を有する電解コンデンサであって、前記電解液中に下記一般式(1)
【化1】

(1)
(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるリン酸ジエステルアニオンを含有することを特徴とする難燃性電解コンデンサ。
【請求項2】
前記電解液中にさらに、下記一般式(
【化2】


(式中、nは1または2であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。Rfは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。)
または、下記一般式(
【化3】


(式中、nは1または2であり、Aは炭素数4〜7のポリメチレン基、炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−O−C結合となった基、炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−NH−C結合となった基、または炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−N(CH)−C結合となった基を表す。Rfは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。)
で表されるリン酸エステルアミドを含有することを特徴とする請求項1記載の難燃性電解コンデンサ。
【請求項3】
前記電解液が、溶媒としてエチレングリコールまたはジエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性電解コンデンサ。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるリン酸ジエステルアニオンを電解液全体に対して5〜50wt%含有することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の難燃性電解コンデンサ。
【請求項5】
前記一般式()または()で表されるリン酸エステルアミドを電解液全体に対して0〜30wt%含有することを特徴とする請求項乃至のいずれかに記載の難燃性コンデンサ。
【請求項6】
前記電解コンデンサの素子中の水分率が10wt%以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の難燃性電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解コンデンサに係り、特に長時間経過後においても良好な難燃性および安定した高温ESR特性を維持できる電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、小型、大容量の特徴を有しており、各種電子機器、車両搭載機器等の構成部品の1つとして広く用いられている。電解コンデンサは、表面に酸化皮膜を有する陽極箔、陰極箔及びセパレータとを備え、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させた状態でこれらを巻回して得られる素子を電解液に浸漬してなる構造を有する。ここで電解液としては、エチレングリコール、γ−ブチロラクトン等の可燃性の有機溶媒にホウ酸やカルボン酸、或いはそのアンモニウム塩等を溶解した溶液が使用されている。
【0003】
このため、電解コンデンサに過大な電気ストレスが加えられて安全弁が作動した際、ショートなどで発生した火花によりガス化した電解液に引火し、素子が燃焼するおそれがある。よって、電解コンデンサに難燃性を付与する検討が行われている。
【0004】
特許文献1、特許文献2では難燃性のセパレータを用いる方法が開示されている。この方法は、電解コンデンサ自身の燃焼は抑制されるものの安全弁から噴出した電解液成分の難燃化が困難である。一方、特許文献3、特許文献4では、電解液にリン酸トリメチルやリン酸トリエチルなどのリン酸エステルを添加して難燃性を付与し、電解液成分の燃焼を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−243089号公報
【特許文献2】特開2011−129773号公報
【特許文献3】特開平1−95512号公報
【特許文献4】特開平3−180014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、電解コンデンサは大気圧下で製造されるため、セパレータとして用いられる天然繊維や電解液は、大気中の水分を吸収する性質がある。そのため、電解液として水を添加していないものを用いた場合であっても、製造後の電解コンデンサの素子は、通常、水分を含有している。従来、難燃剤として使用されていたリン酸トリメチルやリン酸トリエチルは、素子中の水分と反応し、加水分解を起こしやすい。このため、長時間経過後にはリン酸トリメチルやリン酸トリエチルが分解してしまい、難燃効果を発揮できなくなるという問題があった。
【0007】
また、従来、高耐圧型の電解コンデンサ用電解液は、エチレングリコールを溶媒とし、ジカルボン酸塩を溶質とする場合が一般的であるが、長時間高温で放置した場合に溶媒と溶質のエステル化反応が進行し、電気的特性、特にESR(等価直列抵抗)が変化し易い課題があった。このため、長時間経過後においても優れた電気的特性、特に高温放置中のESR変化の少ない特性を有する電解コンデンサが要望されている。
【0008】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、良好な難燃性を有し、長時間経過後においても良好な難燃性および安定した高温ESR特性を維持できる難燃性電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、電解液中にリン酸ジエステルアニオンを含有させることにより、電解コンデンサが良好な難燃性を有し、長時間経過後においても良好な難燃効果を維持できること、また、長時間経過後においても優れた電気的特性、特に高温放置中のESR変化の少ない特性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の難燃性電解コンデンサは、表面に酸化皮膜を設けた陽極箔と、陰極箔と、セパレータと、溶媒中に溶質を含有する電解液を有する電解コンデンサであって、前記電解液中に下記一般式(1)
【化1】

(1)
(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるリン酸ジエステルアニオンを含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の難燃性電解コンデンサは、前記電解液中にさらに、下記一般式(3)または下記一般式(4)で表されるリン酸エステルアミドを含有することができる。
【化3】
(3)
(式中、nは1または2であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。Rfは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。)
【化4】
(4)
(式中、nは1または2であり、Aは炭素数4〜7のポリメチレン基、炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−O−C結合となった基、炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−NH−C結合となった基、または炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−N(CH)−C結合となった基を表す。Rfは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。)
【0013】
前記電解液は、溶媒としてエチレングリコールまたはジエチレングリコールを含むことが好ましい。
【0014】
前記一般式(1)で表されるリン酸ジエステルアニオンは、電解液全体に対して5〜50wt%含有することが好ましい。
【0015】
前記一般式(3)または(4)で表されるリン酸エステルアミドは、電解液全体に対して0〜30wt%含有することが望ましい。
【0016】
さらに、本発明の難燃性電解コンデンサは、素子中の水分率が10wt%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な難燃性を有し、且つ長時間経過後においても良好な難燃効果を維持する電解コンデンサを提供することができる。
【0018】
また、本発明の電解コンデンサは、水を含む電解液を使用した場合であっても、難燃効果を発揮することができるため、等価直列抵抗(ESR)の低い電解コンデンサを提供することができる。
【0019】
さらに、本発明の電解コンデンサは、電解液中の溶媒と溶質による化学反応が起こりにくいため、高温放置中のESR変化が少なくなる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(リン酸ジエステルアニオン)
本発明の電解コンデンサは、電解液中に前記一般式(1)で表されるリン酸ジエステルアニオンを含有する。このリン酸ジエステルアニオンは、リン原子に由来する優れた難燃性を有し、特にこのリン酸ジエステルアニオンのエステル側鎖中にフッ素原子を結合させた場合に優れた難燃効果が発現される。また、リン酸ジエステルアニオンは、アニオン故に、中性領域にて水の求核攻撃による加水分解を受けにくい特徴を有する。このため本発明の電解コンデンサは長期に渡った難燃効果が発現されるものと考えられる。
【0021】
また、リン酸ジエステルアニオンは、添加により電解液に導電性をもたらし、溶質としても作用することから、従来の溶質の添加を回避または低減することができる。しかも、リン酸ジエステルアニオンは、エチレングリコール等のアルコール系の溶媒を使用した場合もエステル化反応等が進行しないため、高温放置中のESR変化の小さい電解コンデンサが得られるものと考えられる。
【0022】
一般式(1)において、Rf及びRfは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。但し、アルキル基は、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、フッ素原子、アリール基、チオアルキル基、ニトリル基等の置換基により置換されていてもよい。
【0023】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基等を挙げることができる。置換基により置換されたアルキル基としては、例えば、2−メトキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−アミノエチル基、2−(N−メチルアミノ)エチル基、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル基、2−フェニルエチル基、2−メチルチオエチル基、2−シアノエチル基等を挙げることができる。また、含フッ素アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル基等を挙げることができる。
【0024】
一般式(1)のリン酸ジエステルアニオンのうち、Rf及びRfが、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基の場合が難燃性の面で好ましく、特に、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)アニオンが難燃性と電解コンデンサのESR等の性能面で好ましい。
【0025】
(添加方法)
一般式(1)のリン酸ジエステルアニオンは、下式(5)で示されるように、リン酸ジエステル(5−1)として電解液に含有させ、アンモニアやアミン等を電解液に添加しpH調整することにより電解液中で発生させてもよいし、別途リン酸ジエステルの塩(5−2)を事前調製の上、塩として電解液に添加してもよい。ここで塩としては、アンモニウム塩、4級アンモニウム塩、アミン塩、4級イミダゾリウム塩または4級アミジニウム塩等が挙げられる。
【化5】
(5)
【0026】
(添加量)
一般式(1)のリン酸ジエステルアニオンの添加量は、特に限定されるものではないが、電解液全体に対して5〜50wt%の範囲が好適であり、さらに好ましくは25wt%〜40wt%である。電解液全体に対するリン酸ジエステルアニオンの添加量が5wt%未満の場合、溶質としての効果が十分でない場合があり、50wt%を超えると、耐電圧を上昇させることが困難になるおそれがある。また、リン酸ジエステルアニオンを単独で添加した場合に25wt%未満では十分な難燃効果が得られないことがある。
【0027】
(リン酸エステルアミド)
本発明の電解コンデンサは、電解液中に前記一般式(3)及び(4)で表されるリン酸エステルアミドを含有することができる。一般式(3)及び(4)のリン酸エステルアミドは、リン酸ジエステルアニオン同様に加水分解しにくく、且つ難燃効果を有するため、これを含有させることにより電解コンデンサの難燃性を更に向上させることができる。
【0028】
一般式(3)において、nは1または2であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。但し、R及びRは、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、フッ素原子、アリール基、アルキルチオ基及びニトリル基等の置換基により置換されていてもよい。Rfは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。
【0029】
及びRとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基等を挙げることができる。置換基により置換されたR及びRとしては、例えば、2−メトキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−アミノエチル基、2−(N−メチルアミノ)エチル基、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル基、2−フェニルエチル基、2−メチルチオエチル基、2−シアノエチル基等を挙げることができる。Rfとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル基等を挙げることができる。
【0030】
一般式(3)のリン酸エステルアミドとして、n=1の例としては、リン酸ジメチル
ジエチルアミド、リン酸ビス(トリフルオロメチル)ジエチルアミド、リン酸ジエチル ジエチルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジエチルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジn−プロピルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジn−ブチルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジsec−ブチルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジt−ブチルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジn−ヘキシルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジn−オクチルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジn−デシルアミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチルメチルアミド、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)ジエチルアミド、リン酸ビス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)ジエチルアミド、リン酸ビス(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)ジエチルアミド、リン酸ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル)ジエチルアミド、リン酸ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル)ジエチルアミド、リン酸ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル)ジエチルアミド等を挙げることができる。n=2の例としては、リン酸ビス(ジエチルアミド)メチル、リン酸ビス(ジエチルアミド)トリフルオロメチル、リン酸ビス(ジエチルアミド)エチル、リン酸ビス(ジメチルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジエチルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジn−プロピルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジイソプロピルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジn−ブチルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジsec−ブチルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジn−ヘキシルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジn−オクチルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジn−デシルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(エチルメチルアミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ジエチルアミド)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(ジイソプロピルアミド)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(ジエチルアミド)2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、リン酸ビス(ジエチルアミド)2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル、リン酸ビス(ジイソプロピルアミド)2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル、リン酸ビス(ジエチルアミド)3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル等を挙げることができる。
【0031】
一般式(4)において、nは1または2であり、Aは炭素数4〜7のポリメチレン基、炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−O−C結合となった基、炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−NH−C結合となった基、または炭素数4〜7のポリメチレン基におけるC−C結合の少なくとも1箇所がC−N(CH)−C結合となった基を表す。Rfは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。
【0032】
一般式(4)のリン酸エステルアミドとして、n=1の例としては、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ピロリジド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ピペリジド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ヘキサメチレンイミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ヘプタメチレンイミド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)モルホリド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ピペラジド、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)N’−メチルピペラジド等を挙げることができる。n=2の例としては、リン酸ビスピロリジド 2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビスピペリジド 2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ヘキサメチレンイミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(ヘプタメチレンイミド)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビスモルホリド 2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビスピペラジド 2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(N’−メチルピペラジド)2,2,2−トリフルオロエチル等を挙げることができる。
【0033】
一般式(3)または一般式(4)のリン酸エステルアミドのうち、それぞれn=1且つRfが含フッ素アルキル基である場合が電解コンデンサの難燃性の面で好ましく、特に、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジエチルアミド及びリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドが難燃性と電解コンデンサのESR等の性能面で好ましい。
【0034】
(添加量)
一般式(3)及び(4)の含フッ素リン酸エステルアミドの添加量は、特に限定されるものではないが、電解液全体に対して0〜30wt%の範囲が好適であり、さらに好ましくは5〜20wt%の範囲である。電解液全体に対する難燃剤の添加量が30wt%を超えると、電解液の比抵抗を上昇させるおそれや難燃剤が電解液に溶解しにくくなるおそれがある。
【0035】
(溶媒)
本発明の電解コンデンサの電解液に用いる溶媒として、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、及びこれらの混合物を用いることができる。プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール類(エタノール、プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール(ヘキシレングリコール)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、トリメチルペンタジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−ペンタジオール、1,2−デカンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、2−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等)等が挙げられる。
【0036】
また、非プロトン性の極性溶媒としては、アミド系(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類(γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン等)、スルホラン系(スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等)、環状アミド系(N−メチル−2−ピロリドン等)、カーボネイト類(エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、イソブチレンカーボネイト等)、ニトリル系(アセトニトリル等)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシド等)、2−イミダゾリジノン系〔1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジ(n−プロピル)−2−イミダゾリジノン等)、1,3,4−トリアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン等)〕等が挙げられる。
【0037】
これらのなかでも、エチレングリコールまたはジエチレングリコールを用いると、電解コンデンサの特性が良好なため、好適である。また、溶媒中に水を含有していても良い。
【0038】
なお、エチレングリコール等の炭素数の少ない多価アルコール類を溶媒として用い、前記一般式(3)及び(4)で表されるリン酸エステルアミドを添加する場合、リン酸エステルアミドが溶解しにくい場合がある。この場合、より炭素数の大きいプロトン性極性溶媒や非プロトン性極性溶媒を併用して用いることにより、リン酸エステルアミドの溶解性を向上させることができる。
【0039】
(溶質)
溶質としては、リン酸ジエステルアニオンを溶質として単独で用いてもよいし、リン酸ジエステルアニオンと有機酸もしくは無機酸またはその塩を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、エナント酸等の脂肪族モノカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、メチルマロン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,6−デカンジカルボン酸、ウンデカン二酸、トリデカン二酸、マレイン酸、シトラコン酸、並びにイタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、トルイル酸、並びにピロメリト酸等の芳香族カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、ホウ酸、リン酸、ケイ酸等を用いることができる。
【0041】
上述した有機酸、無機酸の塩としてはアンモニウム塩、4級アンモニウム塩、アミン塩、4級イミダゾリウム塩、4級アミジニウム塩などが挙げられる。4級アンモニウム塩の4級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミンなどが挙げられる。4級イミダゾリウム塩の4級イミダゾリウムイオンとしては、エチルジメチルイミダゾリウム、テトラメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。4級アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。これら溶質の溶媒に対する濃度は、飽和濃度以下であれば良い。
【0042】
(添加剤)
また、電解コンデンサの寿命特性を安定化する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、2−(ニトロフェノキシ)エタノール、ニトロアニソール、ニトロフェネトール、ニトロトルエン、ジニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物を添加することができる。
【0043】
また、電解コンデンサのさらなる耐電圧向上を目的として、非イオン性界面活性剤、多価アルコールと酸化エチレン及び/または酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル化合物、ポリビニルアルコール、多糖類(マンニット、ソルビット、ペンタエリスリトールなど)、ホウ酸と多糖類との錯化合物、コロイダルシリカ等を添加してもよい。
【0044】
(陽極箔、陰極箔、セパレータ)
本発明の電解コンデンサの陽極箔や陰極箔としては、アルミニウム、タンタル等の弁金属等を用いることができる。陽極箔は、電解液との接触面積を増大させるためにエッチング処理等を行い、化成処理によって酸化皮膜が形成される。陰極箔は、エッチング処理を施した電極箔や、エッチング処理を施さないプレーン箔等を用いることができ、化成処理によって酸化皮膜を形成してもよい。陽極箔及び陰極箔の間には、セパレータを設ける。ここで、セパレータとしては、マニラ、クラフト等の天然繊維セパレータ、または、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成繊維セパレータ、あるいは合成繊維と天然繊維の混抄セパレータ等を用いることができる。
【0045】
(素子中の水分率)
電解コンデンサの素子中の水分率は10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.1〜8wt%の範囲である。水分率が10wt%を超えると、電極箔の水和劣化が起こるおそれがあるため好ましくない。前記範囲内で水分率を高めにすることにより、電極箔の劣化を伴うことなく電解コンデンサのESRを低減することができる。本明細書において、素子中の水分とは、電解液中の水分のみを指すのではなく、電解液中の水分と素子が含有している水分の両方を指す。
【0046】
(電解コンデンサの製造方法)
本発明の電解コンデンサの製造方法としては、公知の方法を用いることができる。一例として、陽極箔と、陰極箔と、セパレータとからなる素子に前述の電解液を含浸させ、これを外装ケース内に密封する方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0048】
(リン酸ジエステルアニオンの事前調製)
下式(6)に基づいて、リン酸ジエステルアニオンを調整した。
【化6】
(6)
すなわち、フラスコに、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル) 101g、ジエチルエーテル 200gを入れ、氷浴5℃以下に冷却した。撹拌下、反応温度を0〜5℃に制御しながら滴下漏斗から2mol/L アンモニア−メタノール溶液230mlを滴下した。滴下終了後、30分撹拌を継続した。反応終了後、エバポレーターで溶媒を留去後、残渣を真空乾燥し、白色固体 107gを得た。
NMRの分析から、得られた固体が、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)アンモニウム塩であることを確認した。
リン酸ジエチル アンモニウム塩、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)アンモニウム塩についても同様の方法で調製した。
【0049】
表1に示す組成の電解液を常法により作製し、電解液A,B、Cにはアンモニアガスを注入して中和した。作製した電解液に後述する難燃剤を添加し、混合した。
【表1】
【0050】
エッチング処理及び化成処理を施した陽極箔と、エッチング処理のみを施した陰極箔に電極引き出し手段を接続して、セパレータを介して巻回し、素子を形成した。この素子に作製した電解液を含浸し、これを有底筒状の外装ケースに収納し、外装ケースの開口部に弾性ゴムからなる封口体を装着し、絞り加工により外装ケースを密封して電解コンデンサを作製した。
【0051】
(電解コンデンサの自己消火性)
本実施例においては、素子の自己消火性の有無を確認することで、難燃性の検証を行った。電解液を含浸させた素子に着火手段を近付け、10秒間炎をあて、着火手段を素子から離して自己消火性の有無を確認した。本実験においては、素子から着火手段を離した後に、素子の燃焼が10秒以上継続するか否かにより判定した。試験は各素子について3回実施した。また、各素子を105℃で2000時間、無負荷放置後、同様の自己消火性の試験を行った。
【0052】
表2に、実施例1〜11、従来例1および比較例1の電解液の種類、使用した難燃剤の種類、電解液に対する難燃剤の添加量、素子中の含水率、自己消火性の有無及び加熱放置後の自己消火性の有無を示す。自己消火性の有無については、○印は3回共燃焼が10秒以上継続せず自己消火性が有ることを示し、×印は3回共燃焼が継続し、自己消火性が無いことを示す。△印は3回の試験のうち1回または2回燃焼が継続し、十分ではないが自己消火性があることを示す。
【0053】
実施例1および実施例2は難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)アンモニウム塩をそれぞれ電解液A、電解液Bに対して29wt%(リン酸ジエステルアニオンとして27wt%)添加したもの、実施例3は難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)アンモニウム塩を電解液Aに対して21wt%(リン酸ジエステルアニオンとして20wt%)添加したもの、実施例4は難燃剤としてリン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)アンモニウム塩を電解液Aに対して50wt%(リン酸ジエステルアニオンとして47wt%)添加したもの、実施例5は難燃剤としてリン酸ジエチル アンモニウム塩を30wt%(リン酸ジエステルアニオンとして27wt%)添加したもの、従来例1は電解液Aに対して難燃剤を添加していないものであり、比較例1は電解液Aに対して難燃剤としてリン酸トリメチルを12wt%添加したものである。また、実施例6は電解液Cに対し難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)アンモニウム塩を10wt%(リン酸ジエステルアニオンとして9wt%)、リン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドを10wt%添加したもの、実施例7は電解液Cに対し難燃剤としてリン酸ビス(2,2,3,3,−テトラフルオロプロピル)アンモニウム塩を15wt%(リン酸ジエステルアニオンとして14wt%)、リン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドを10wt%添加したもの、実施例8は電解液Cに対し難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)アンモニウム塩を10wt%(リン酸ジエステルアニオンとして9wt%)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジエチルアミドを10wt%添加したもの、実施例9は電解液Cに対し難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)アンモニウム塩を10wt%(リン酸ジエステルアニオンとして9wt%)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)N´−メチルピペラジドを12wt%添加したもの、実施例10は電解液Cに対し難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)アンモニウム塩を5wt%(リン酸ジエステルアニオンとして5wt%)、リン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドを14wt%添加したもの、実施例11は電解液Cに対し難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)アンモニウム塩を21wt%(リン酸ジエステルアニオンとして20wt%)、リン酸ビス(2,2,2,−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドを5wt%添加したものである。
【0054】
ここで、実施例2は径10mm、長さ25mmで、250V−47μFの素子を用い、それ以外の実施例、従来例および比較例は径10mm、長さ25mmで、450V−12μFの素子を用いた結果である。
【表2】
TMP: リン酸トリメチル
【0055】
表2の結果より、難燃剤を添加しなかった従来例1は自己消火性を有しておらず、燃焼し続けたのに対し、電解液中にリン酸ジエステルアニオンを含有する実施例1〜11は自己消火性を有していることを確認できた。特に、電解液中にリン酸ジエステルアニオンとリン酸エステルアミドの双方を含む実施例6〜11はそれぞれの添加量を比較的少量としながら十分な自己消火性を有することがわかった。更に、実施例1〜11の電解コンデンサは、いずれも加熱放置後も自己消火性が維持されていることが判った。これに対し、比較例1は、初期は自己消火性を有しているが、加熱放置後は自己消火性が消失した。これは、難燃剤として添加したリン酸トリメチルが加水分解したためと推定される。
【0056】
なお、電解液Cでは、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの溶媒に代えて、ヘキシレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、トリメチルペンタジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−ペンタジオール、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルのいずれか、または全てを用いても同等の結果が得られた。
【0057】
(中圧用電解コンデンサの性能及び熱的安定性)
表3に、下記の実施例12および比較例2で用いた電解コンデンサ用電解液の組成を示す。これらの電解液を常法により作製し、アンモニアガスを注入して中和した。作製した電解液に後述する難燃剤を添加し、混合した。エッチング処理及び化成処理を施した陽極箔と、エッチング処理のみを施した陰極箔に電極引き出し手段を接続して、セパレータを介して巻回し、素子を形成した。この素子に作製した電解液を含浸し、これを有底筒状の外装ケースに収納し、外装ケースの開口部に弾性ゴムからなる封口体を装着し、絞り加工により外装ケースを密封して電解コンデンサを作製した。
【表3】
【0058】
表4に実施例12および比較例2の電解コンデンサの電解液の種類、素子中の含水率、静電容量、漏れ電流、ESR、105℃で2000時間放置した後のESRの測定結果及び105℃で2000時間放置した後の自己消火性の試験結果を示す。実施例12は難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)アニオンを用いたもの、比較例2は、難燃剤を添加していないものである。ここで用いた素子はすべて径18mm、長さ40mmで、250V−220μFのものを使用した。漏れ電流は電圧印加5分値、静電容量は120Hzにおける値、ESRは100kHzにおける値である。自己消火性については実施例1〜11と同様の方法により試験した。
【表4】
【0059】
表4より、実施例12の電解コンデンサは、難燃剤を添加していない比較例2と同等の電気的特性を有し、中圧用電解コンデンサとして問題なく作動することが確認された。また、実施例12の電解コンデンサは、長期加熱放置後も自己消火性を有する上、難燃剤を添加していない比較例2と比べESR値の変化が非常に小さく、熱的安定性も良好であることがわかった。
【0060】
(高圧用電解コンデンサの性能及び熱的安定性)
表5に、下記の実施例13、14および比較例3,4で用いた電解コンデンサ用電解液の組成を示す。これらの電解液を常法により作製し、アンモニアガスを注入して中和した。作製した電解液に難燃剤を添加し、混合した。エッチング処理及び化成処理を施した陽極箔と、エッチング処理のみを施した陰極箔に電極引き出し手段を接続して、セパレータを介して巻回し、素子を形成した。この素子に作製した電解液を含浸し、これを有底筒状の外装ケースに収納し、外装ケースの開口部に弾性ゴムからなる封口体を装着し、絞り加工により外装ケースを密封して電解コンデンサを作製した。
【表5】
【0061】
表6に実施例13、14および比較例3,4の電解液の種類、素子中の含水率、電解コンデンサの静電容量、漏れ電流、ESR、105℃で2000時間放置した後のESR測定結果及び105℃で2000時間放置した後の自己消火性の試験結果を示す。実施例13、14は難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)アニオン及びリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドを用いたもの、比較例3は、難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプルピルアミドのみを用いたもの、比較例4は難燃剤を添加していないものである。ここで用いた素子はすべて径10mm、長さ25mmで、450V−12μFのものを使用した。漏れ電流は電圧印加5分値、静電容量は120Hzにおける値、ESRは100kHzにおける値である。自己消火性については実施例1〜11と同様の方法により試験した。なお、実施例13、実施例14、比較例3に含有されるリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドの含有量は、実施例13は10wt%、実施例14は10wt%、比較例3は18wt%である。
【表6】
【0062】
表6より、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)アニオン及びリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドの双方の難燃剤を用いた実施例13、14の電解コンデンサは、難燃剤を添加していない比較例4と同様に、高圧用電解コンデンサとして問題なく作動することが確認された。また、難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドのみを添加した比較例3のコンデンサと比較して、静電容量、漏れ電流、ESRのいずれも優れていることがわかった。また、実施例13、14の電解コンデンサは、長期加熱放置後も自己消火性を有する上、難燃剤としてリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジイソプロピルアミドのみを添加した比較例3や難燃剤を添加していない比較例4と比べ、ESR値の変化が非常に小さく、熱的安定性も良好であることがわかった。
【0063】
なお、本実施例では、巻回型電解コンデンサを用いたが、これに限定されるものではなく、積層型電解コンデンサに適用しても良い。
【0064】
本実施例では、電解液に直接、難燃剤である含フッ素リン酸エステルアミドを添加したが、これに限定されるものではなく、ポリフェニレンサルファイド等のシェル材に難燃剤を封入したマイクロカプセル化難燃剤を電解液に添加しても良い。