(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記炭化珪素製造用原料中、B、P、Al、Fe、及びTiの含有率が、各々、2.0ppm以下、2.0ppm以下、10ppm以下、40ppm以下、2.0ppm以下である、請求項1に記載の炭化珪素の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の炭化珪素の製造方法は、アーク炉を用いて、珪酸質原料及び炭素質原料を含む混合物からなる炭化珪素製造用原料を加熱して、炭化珪素を得る炭化珪素の製造方法であって、上記炭化珪素製造用原料中のCとSiのモル比(C/Si)が2.0以上であることを特徴とするものである。
以下、本発明の炭化珪素の製造方法について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の製造方法で用いられるアーク炉の一例を示す断面図である。アーク炉1の炉体2は、黒鉛やジルコニア等の耐火材からなるものである。炉体2の内部空間には、炭化珪素製造用原料3が収容される。電極4は、炭化珪素製造用原料3に電極4が埋め込まれた状態となるように、炭化珪素製造用原料3に挿入される。電極4の数は、通常1〜3本、好ましくは2〜3本である。また、還元反応を促進する観点から、電極4として、炭素電極を用いることが好ましい。
電極4を通電することで、アーク放電が発生し、炭化珪素製造用原料3が加熱されて、下記式(1)で示される還元反応が起こり、炭化珪素(SiC)が生成される。
SiO
2+3C→SiC+2CO (1)
【0010】
上記反応が行われる際のアーク炉の加熱温度は、好ましくは1600〜2600℃、より好ましくは1650〜2100℃である。加熱温度が1600℃以上であると、上記式(1)の還元反応が十分に行われ、高純度の炭化珪素を得ることができる。
本発明の製造方法で得られる炭化珪素の性状は、アーク炉の加熱温度に影響される。具体的には、上記加熱温度が2100℃を超える場合、得られる炭化珪素は、塊状物を含むため、回収後に粉砕を行う必要がある。また、上記加熱温度が2100℃を超える場合、α型炭化珪素が優先的に生成する。上記加熱温度が2100℃以下の場合、得られる炭化珪素は、粉末状であるため、アーク炉からの回収が容易になるとともに、回収後に粉砕を行う必要がない。また、上記加熱温度が2100℃以下の場合、β型炭化珪素が優先的に生成する。
本発明の製造方法では、アーク炉を用いているため、加熱温度の調整が容易である。
【0011】
アーク炉1内に、炉体2の内部空間の底面を覆うように黒鉛粉末5を敷いた後、黒鉛粉末5の上に炭化珪素製造用原料3を収容してもよい。底面の上に敷かれた黒鉛粉末5の厚みは、好ましくは10mm以上、より好ましくは10〜30mmである。黒鉛粉末5を敷くことで、アーク放電による炉体2の底面の損傷を防止するとともに、アーク放電によって、黒鉛粉末5に電気が流れることで、黒鉛粉末5が発熱し、炭化珪素の生成を促進することができる。
【0012】
アーク炉1は大気開放型でもよく、炉蓋を有する密閉型でもよい。炉蓋を有する密閉型のアーク炉を用いた場合、アーク炉内を容易に非酸化性雰囲気とすることができる。加熱を非酸化性雰囲気下で行うことで、不純物(B、P、O等)の含有率、特に酸素(O)の含有率の低い炭化珪素を得ることができる。具体的には、アーク炉内の空気を、非酸化性のガス(例えば、Ar(アルゴン)ガス等)で置換して、加熱を行えばよい。
【0013】
本発明の製造方法に用いられる珪酸質原料としては、例えば、天然の珪砂、天然の珪石粉、人造珪石粉等の結晶質シリカや、シリカフューム、シリカゲル等の非晶質シリカが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、反応性の観点から、非晶質シリカが好ましい。
珪酸質原料中、B、P、Al、Fe、及びTiのそれぞれの含有率は、好ましくは2.0ppm以下、より好ましくは1.0ppm以下である。珪酸質原料中のB等の含有率を上記範囲内とすることで、製造される炭化珪素中の不純物の含有率を、より小さくすることができる。
なお、上記不純物とは、炭化珪素の製造過程で除去される酸素(O)を除く全元素中、Si及びC以外でSiC半導体用の忌避成分に該当するものである。具体的には、B、P、Al、Fe、Ti等が挙げられる。
また、本明細書中、ppmは質量基準である。
珪酸質原料の粒度は、平均粒子径が好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下、特に好ましくは600μm以下の粒度分布となるような粒度であることが好ましい。該平均粒子径が1000μm以下であると、反応性が良くなり、生産性を向上することができる。
なお、上記平均粒子径は、「JIS R 1629:1997(ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布策定方法)」に準拠して測定される。具体的には、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター社製、「モデルLS−230」)を用いて粒子の粒径を測定し、その測定された粒子の粒径に基づいて得られた体積累積分布50%における粒径(メジアン径;d50)を平均粒子径とする。
【0014】
本発明の製造方法に用いられる炭素質原料としては、例えば、石油コークス、石炭ピッチ、カーボンブラック、各種有機樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、純度の観点から、カーボンブラックが好ましい。
炭素質原料中、B、P、Al、Fe、及びTiの含有率は、各々、好ましくは2.0ppm以下、10ppm以下、20ppm以下、100ppm以下、2.0ppm以下、より好ましくは1.0ppm以下、5.0ppm以下、10ppm以下、50ppm以下、1.0ppm以下である。炭素質原料中のB等の含有率が上記範囲内であれば、製造される炭化珪素中の不純物の含有率を、より小さくすることができる。
炭素質原料の粒度は、珪酸質原料との反応性の観点から、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。
炭素質原料がカーボンブラックである場合、カーボンブラックの粒度は、一次粒子の平均粒子径が好ましくは150nm以下、より好ましくは75nm以下の粒度分布となるような粒度であることが好ましい。該平均粒子径が150nm以下であると、反応性が良くなり、生産性を向上することができる。
また、炭素質原料の粒度は、二次粒子の平均粒子径が好ましくは1250μm以下、より好ましくは500μm以下の粒度分布となるような粒度であることが好ましい。該平均粒子径が1250μm以下であると、炭素質原料と珪酸質原料を均質に混合することが容易となり、製品の反応性が向上する。
なお、「二次粒子」とは、一次粒子が凝集してなる凝集体を意味する。また、上記一次粒子の平均粒子径及び二次粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡の観察によって測定された算術平均の直径である。
【0015】
本発明の製造方法で用いられる炭化珪素製造用原料は、さらに、シリコン(Si)質原料を含んでいてもよい。本発明の製造方法では、炭化珪素のSiの供給源として、珪酸質原料が使用されているが、珪酸質原料の一部をシリコン質原料に替えることで、珪酸質原料の使用量を減らすことができる。シリコン質原料の単位Si質量当たりの体積は、珪酸質原料の単位Si質量当たりの体積よりも小さいことから、炭化珪素製造用原料において、珪酸質原料の一部をシリコン質原料に替えることで、アーク炉内に、より多くの原料を投入することができる。その結果、アーク炉を用いて一度に製造することができる炭化珪素の量を増やすことができる。
また、炭化珪素製造用原料において、珪酸質原料の一部をシリコン質原料に替えることで、シリカ(SiO
2)を還元するために必要なエネルギーを減らすことができることから、炭化珪素を製造するために必要な電力量を減らすことができる。
【0016】
上記シリコン質原料としては、例えば、金属グレードシリコン、太陽電池グレードシリコン、半導体グレードシリコン等が挙げられる。また、シリコン質原料として、金属グレードシリコンの不良品、太陽電池グレードシリコンの不良品、半導体グレードシリコンの不良品、使用済みの太陽電池用シリコンウェハ、使用済みの半導体用シリコンウェハ、太陽電池用シリコンウェハの製造工程で発生する太陽電池グレードシリコンの端材(シリコンインゴットからウェハを切り出す際に発生する切りくず等)、及び半導体用シリコンウェハの製造過程で発生する半導体用シリコンウェハの端材等を用いてもよい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
中でも、コストの低減や入手の容易性の観点からは、金属グレードシリコン、金属グレードシリコンの不良品の中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。また、高純度の炭化珪素を製造する観点からは、太陽電池グレードシリコン、太陽電池グレードシリコンの不良品、太陽電池グレードシリコンの端材、半導体グレードシリコン、半導体グレードシリコンの不良品、及び半導体グレードシリコンの端材の中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0017】
また、シリコン質原料中のSiの含有率は、好ましくは99.0質量%以上、より好ましくは99.9質量%以上、特に好ましくは99.99質量%以上である。該含有率が99.0質量%以上であると、製造される炭化珪素の純度を、非常に高くすることができる。
また、シリコン質原料中、B、P、Al、Fe、及びTiのそれぞれの含有率は、好ましくは2.0ppm以下、より好ましくは1.0ppm以下である。これらの含有率を上記範囲内とすることで、製造される炭化珪素中の不純物の含有率を、より小さくすることができる。
【0018】
シリコン質原料としては、反応性の観点から、予め粉砕された粉体状のものが好ましい。シリコン質原料の平均粒子径は、好ましくは600μm以下、より好ましくは500μm以下、特に好ましくは400μm以下である。該平均粒子径が600μm以下であると、反応性をより良好にし、生産性を向上させることができる。
なお、上記シリコン質原料の平均粒子径は、上述した珪酸質原料の平均粒子径と同様の方法によって測定される。
炭化珪素製造用原料に、シリコン質原料が珪酸質原料と等モル量含まれる場合、電極4を通電することで、アーク放電が発生し、炭化珪素製造用原料3が加熱されて、下記式(2)で示される還元反応が起こり、炭化珪素(SiC)が生成される。
SiO
2+Si+4C→2SiC+2CO (2)
シリコン質原料中のSi(珪素原子)のモルと珪酸質原料中のSi(珪素原子)のモルの合計(100%)に対する、シリコン質原料中のSi(珪素原子)のモルの割合は、好ましくは20〜60%、より好ましくは30〜55%、特に好ましくは40〜50%である。該割合が20%以上であれば、炭化珪素の生産量が増加し、かつ、炭化珪素を製造するために必要な電力量が減少する。該割合が60%以下であれば、反応せずに残存するSi(珪素原子)の量が少なくなる。
【0019】
炭化珪素製造用原料中のC(炭素原子)とSi(珪素原子)のモル比(C/Si)は、2.0以上、好ましくは2.0〜3.5、特に好ましくは2.0〜3.0である。該モル比が2.0未満では、アーク炉内で得られる炭化珪素中に未反応の珪酸質原料が多く残存し、高純度の炭化珪素を得ることが困難である。
なお、上記「炭化珪素製造用原料中のC(炭素原子)とSi(珪素原子)のモル比(C/Si)」とは、炭素質原料と、珪酸質原料と、任意で添加されるシリコン質原料を混合して、炭化珪素製造用原料を調製する場合における、炭素質原料中の炭素原子のモルと、珪酸質原料中の珪素原子のモルと任意で添加されるシリコン質原料中の珪素原子のモルの合計との比(C/Si)をいう。
【0020】
また、炭化珪素製造用原料中、B、P、Al、Fe、及びTiの含有率は、各々、好ましくは2.0ppm以下、2.0ppm以下、10ppm以下、40ppm以下、2.0ppm以下、より好ましくは1.0ppm以下、1.0ppm以下、5ppm以下、20ppm以下、1.0ppm以下である。炭化珪素製造用原料中のB等の含有率が上記範囲内であれば、製造される炭化珪素中の不純物の含有率を、より小さくすることができる。
【0021】
アーク炉を用いて、炭化珪素製造用原料を加熱することで、炭化珪素が生成される。生成された炭化珪素は、アーク炉内の生成された場所にかかわらず高純度である。本発明では、生成された炭化珪素のほぼ全てを高純度の炭化珪素として回収することができる。
また、得られた炭化珪素を、鉱酸を用いて洗浄してもよい。鉱酸を用いて洗浄することで、より高純度の炭化珪素を得ることができる。使用する鉱酸の例としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
本発明の製造方法で製造された炭化珪素は、高純度であり、また、B、P、Al、Fe、Ti等の不純物の含有率が小さいものである。
具体的には、本発明の製造方法で製造された生成物(微量の不純物を含む炭化珪素)中の炭化珪素(SiC)の含有率は、好ましくは99.0質量%以上、より好ましくは99.9質量%以上である。
また、本発明の製造方法で製造された生成物(微量の不純物を含む炭化珪素)中の、B、P、Al、Fe、及びTiの含有率は、各々、好ましくは0.1ppm以下、0.1ppm以下、2.0ppm以下、2.0ppm以下、0.1ppm以下である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
使用材料としては、以下に示す材料を使用した。
(1)珪酸質原料:非晶質シリカ(太平洋セメント社製、商品名:シレックスピュア、平均粒子径:500μm)
(2)炭素質原料:カーボンブラック(東海カーボン社製、商品名:シーストV、一次粒子の平均粒子径:62nm、二次粒子の平均粒子径:450μm)
(3)シリコン質原料:金属グレードシリコン(エルケム・ジャパン社製、Siの含有率:99.99%、平均粒子径:300μm)
(4)黒鉛粉末:伊藤黒鉛工業社製、商品名「SG−BH8」
(5)黒鉛電極:東海カーボン社製、特注品
珪酸質原料及び炭素質原料中、B、P、Al、Fe、及びTiの含有率を、ICP−AESを用いて測定した。
また、シリコン質原料中、B、P、Al、Fe、及びTiの含有率を、GD−MSを用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
[実施例1]
図1に記載されたアーク炉1(アンドー工業所社製、商品名「ALF−TYPE」:容積0.51m
3)内に、黒鉛粉末3kgをアーク炉1の内部空間の底面全体を覆うように敷いた。アーク炉1の底面に敷いた黒鉛粉末5の厚みは、20mmであった。その後、表2に示す配合に従って、珪酸質原料と炭素質原料を混合し、炭化珪素製造用原料を得た。炭化珪素製造用原料中、B、P、Al、Fe、及びTiの各含有率を、ICP−AESを用いて測定した。結果を表1に示す。
その後、得られた炭化珪素製造用原料3をアーク炉1内に収容した。3本の黒鉛電極4を炭化珪素製造用原料3に挿入して、10時間アーク放電を行い、炭化珪素粉末を得た。なお、アーク放電中のアーク炉内の温度は、約2000℃であった。得られた炭化珪素粉末を酸処理して、炭化珪素粉末24kgを得た。
得られた炭化珪素粉末について、B、P、Al,Fe、及びTiの各含有率を、ICP−AESを用いて測定した。また、得られた炭化珪素粉末について、炭化珪素の含有率を、「JIS R 1616:2007(ファインセラミックス用炭化けい素微粉末の化学分析方法)」に準拠して測定した全珪素、全炭素、遊離珪素、遊離二酸化珪素、及び遊離炭素等の含有率の結果から算出した。
それぞれの結果を表1および表3に示す。
【0025】
[実施例2]
炭化珪素製造用原料3として、表2の配合に従って、珪酸質原料と炭素質原料とシリコン質原料を混合してなる原料を用いた以外は、実施例1と同様にして、粉末状の炭化珪素を得た。得られた炭化珪素粉末を酸処理して、炭化珪素粉末41kgを得た。
炭化珪素製造用原料、及び、得られた炭化珪素粉末について、B、P、Al,Fe、及びTiの各含有率、並びに炭化珪素の含有率を、実施例1と同様にして測定した。
それぞれの結果を表1および表3に示す。
【0026】
[比較例1]
表2に示す配合に従って、珪酸質原料と炭素質原料を混合し、得られた炭化珪素製造用原料および発熱体としての黒鉛粉末を、アチソン炉(容積0.51mm
3)の中へ収容した後、約2500℃で約10時間通電加熱を行い、炭化珪素の塊状物を得た。得られた炭化珪素の塊状物を粉砕した後、酸処理して、炭化珪素粉末20.0kgを得た。
炭化珪素製造用原料、及び、得られた炭化珪素粉末について、B、P、Al,Fe、及びTiの含有率、並びに炭化珪素の含有率を、実施例1と同様にして測定した。
それぞれの結果を表1および表3に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
表3中、実施例1と比較例1の結果から、同じ量の炭化珪素製造用原料を用いて炭化珪素を製造した場合、アチソン炉を用いた場合(比較例1)よりも、アーク炉を用いた場合(実施例1)の方が炭化珪素の製造量が多くなることがわかる。
また、表3中、実施例2では、炭化珪素製造用原料の一部にシリコン質原料を用いているので、比較例1に比べて原料の合計量が減少しているのにもかかわらず、炭化珪素の製造量が増大するとともに、使用電力量が減少することがわかる。