(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アワビを陸上で養殖することは行われており、このための装置も種々提案されている(特許文献1、2)。特許文献1に記載のものは、飼育水である飼育海水を案内するシェルター(アワビが付着する付着板)を同心円状に複数枚配置し、海水を回転させて異物を中心の底から飼育海水と共に排出して水質を保つものである。特許文献2に記載のものは、飼育槽とミネラル分を含んだ濾材が収納されている濾過タンクとの間で、飼育槽内の貯水を循環させて、濾材のミネラル分で好気性バクテリアを活性化するものである。
【0003】
一方、エゾアワビの生育の報告では、海水温が26℃以上の場合には、24℃よりも酸素消費量が低下し、また、海水の汚染指標として、生物の糞尿等を由来とするアンモニア態窒素(アンモニア性窒素)が用いられているが、この値が10μg-atoms/Lを越えると飼育海水では、酸素消費量が急激に減少する報告がある(非特許文献1)。即ち、アンモニア態窒素の水中濃度とアワビの酸素消費量には強い相関があり、この酸素消費量の低下は、エゾアワビの活動が低下していることを意味する。水温を低下させるためには、冷却装置で飼育海水を冷却すれば良いが、エネルギー消費が大きくなり、しかもアンモニア態窒素を除去することは容易ではない。上記のような提案がされている装置により、飼育海水を浄化しても限界があり、特に、海水温が上昇する夏期は、養殖中のアワビの死滅はある程度避けられない。
【0004】
そこで、新鮮な海水を頻繁に入れ替える方法が採用されており、例えば、低水温期で4日に1回、高水温期は2日に1回の間隔で飼育海水を全て入れ替えている。この海水を頻繁に入れ替える方法は、この給排水のためのポンプエネルギーの損失、冷却海水の放出によるエネルギー損失、海洋汚染等の問題が発生する。更には、この海水の入れ替えは、新鮮な海水温との間での温度差、水質の急激な変化により、飼育中のアワビに大きなストレスを与えることになるので、可能な限り少ない頻度で交換するほうがよい。他方、本発明者は、飼育海水に酸素供給と同時に、薬液注入装置から水酸化ナトリウムを供給して、pH値の低下を防ぐための魚介類生息水の活性化装置を提案した。これにより、飼育海水中の二酸化炭素の蓄積を防ぐものである。しかしながら、この装置をアワビにそのまま適用しても、溶存酸素を多くすることはできても、アンモニア態窒素を取り除くことはできないので、アワビの最適な環境は必ずしも得られない。
【0005】
クルマエビの養殖において、餌として重要な飼育海水中の褐色性プランクトン、或いは緑色植物プランクトンの発生を、窒素濃度及びリン酸濃度で調節することによって、理想的な植物プランクトンと褐色性プランクトンを発生する方法が提案されている(特許文献4)。他方、海ぶどう等の藻類の栽培を促進するために、温度を一定に保ち、波長を制御した光を照射し、酸素を含む空気又は窒素ガスを溶解させ、かつ藻類の生長に不可欠な必須栄養素等を供給する、促進栽培装置とその栽培方法も提案されている(特許文献5)。しかしながら、提案されているものは、何れも発明の目的が異なり、本発明のアワビの飼育海水の改善に直ちに適用できるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような技術背景で発明されたものであり、次の目的を達成するものである。
本発明の目的は、アワビに必要な栄養を効率的に摂取できるアワビの養殖方法とその養殖システムを提供することにある。
本発明の他の目的は、飼育海水の交換頻度を低くできるアワビの養殖方法とその養殖システムを提供することにある。
本発明の更に他の目的は、飼育海水中の糞、残餌等の有機物由来の二酸化炭素、硝酸態窒素、及び燐酸酸態燐等を低くできるアワビの養殖方法とその養殖システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明1のアワビの養殖方法は、
循環する飼育海水でアワビを陸上で養殖するアワビの養殖方法において、
アワビを養殖する飼育槽から排出される前記飼育海水中の固形物を分離した後、
主に好気性微生物を利用して、前記飼育海水中に含まれている有機物を硝化細菌により酸化分解し、
前記飼育海水に
発生した
珪藻類により、前記
珪藻類の生育に有効な前記飼育海水中の成分を光合成により吸収して栽培し
、
前記飼育海水を、区画された空間内にキャビテーションを発生するノズルから噴射するとき、前記飼育海水に薬液、酸素、及び空気から選択される1種以上、並びに前記珪藻類を繁茂させるためにケイ酸カリ又はケイ酸ナトリウム水溶液を添加して、前記飼育海水中に溶解させることを特徴とする。
【0010】
本発明2のアワビの養殖方法は、本発明1のアワビの養殖方法において、前記飼育海水中のアンモニアを除去するために、前記飼育海水を
前記ノズルから噴射させてキャビテーションを発生させた後、前記飼育海水に空気を吹き込んで前記アンモニアを前記空気に気化させて除去することを特徴とする。
【0011】
本発明3のアワビの養殖方法は、本発明2のアワビの養殖方法において、
前記固形物の分離は、前記飼育槽から排出された飼育海水で旋回流を発生させて、遠心力と重力により固形異物を除去するためにサイクロンにより異物分離を行うものであり、
前記
珪藻類の生育は、太陽光、及び/又は人工光を照射して前記
珪藻類を生育し、
前記飼育海水に空気を吹き込んで、海水中に含まれている好気性微生物を利用して有機物を硝化細菌により酸化分解する微生物濾過槽を利用したことを特徴とする。
【0012】
本発明
4のアワビの養殖システムは、
アワビを養殖するための飼育海水を入れた水槽である飼育槽と、
飼育海水中の固形物を分離するための装置である固形異物回収装置と、
主に好気性微生物を利用して、飼育海水中に含まれている有機物を硝化細菌により酸化分解する微生物濾過槽と、
飼育海水に
発生した
珪藻類により、前記
珪藻類の生育に有効な飼育海水中の成分を光合成により吸収して栽培するための藻類栽培装置と、
飼育海水に薬液、酸素、及び空気から選択される1種以上を吹き込んで溶解させて、飼育海水を活性化させるための活性化装置と
からなるアワビの養殖システムにおいて、
前記活性化装置は、
飼育海水を
、区画された空間内にキャビテーションを発生するノズルから噴射
するとき、飼育海水に
前記薬液、酸素、及び空気から選択される1種以上
、並びに前記珪藻類を繁茂させるためにケイ酸カリ又はケイ酸ナトリウム水溶液を添加して飼育海水に溶解させる噴流発生装置、及び
前記噴流発生装置から排出した飼育海水に空気を吹き込み飼育海水中のアンモニアを気化させる開放タンクからなることを特徴とする。
【0013】
本発明
5のアワビの養殖システムは、本発明4のアワビの養殖システムにおいて、前記固形異物回収装置は、遠心力により飼育海水中の固形物を分離するサイクロン型であることを特徴とする。
【0014】
本発明6のアワビの養殖システムは、本発明4のアワビの養殖システムにおいて、前記飼育槽から前記固形物を排出するために、前記飼育槽に外側管と排出管とからなる二重管を配置し、前記二重管の外側管の底部が前記飼育槽の底面側に開口され、前記外側管と前記排出管との間の隙間に空気を吹き込み、前記水槽の底面の固形物を空気により浮上させて、前記排出
管の上面から排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアワビの養殖方法とその養殖システムは、アワビに必要な栄養を効率的に摂取できる、飼育海水の交換頻度を低くできる、飼育海水中の糞、残餌等の有機物由来の有害なアンモニア、二酸化炭素、硝酸態窒素、及び燐酸酸態燐等を低くできるものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[アワビの養殖システムの概要]
以下、本発明のアワビの養殖システムの概要を図面に基づいて説明する。
図1(a)〜
図1(e)は本発明のアワビの養殖システムの実施の形態であり、このシステムを構成する各装置の概要を示す外観図である。
図1(a)に示す飼育槽1は、アワビを養殖するための海水で満たされた水槽である。この飼育槽1には、飼育水である海水を入れるが、この海水は海岸から近くて可能な限り深い水深のもので、かつ季節的に変動の少ない海水温のものを用いる。この海水を貯水槽6にポンプアップして貯水する。ポンプから送られた海水は、周知技術であるフロート弁(図示せず)により、常に貯水槽6内で一定水位になるように、貯水槽6に汲み上げて貯められる。
【0019】
貯水槽6には、蓄えた海水が外気からの温度の影響を避けるために槽壁や天井に断熱材が貼られている。貯水槽6の最低水位が、飼育槽1の最高水位より若干高め(例えば、約10cm)の位置になるように配置されている。この高さ位置に貯水槽6を配置する理由は、蓄えた海水の位置エネルギーの損失を防ぐためである。なお、沿岸からポンプで汲み上げた海水は、飼育水に有害なフジツボの卵、有害なプランクトン等の異物を含むので、フィルター等で除去したものを貯水する。貯水槽6の下部には、手動の開閉弁7が配置されている。開閉弁7は、貯水した海水を飼育槽1にこれを開閉して配水するためのものである。
【0020】
開閉弁7の弁の開度は、次のように決める。例えば、1日で10回の循環で全ての飼育海水が入れ替わるように設定したとき、1循環中に要する時間内に循環水の約10%を追加する量の新規の海水を配水する。海水温、海水の状態、天候で異なるが、本システムでは、上記の条件の場合、約5〜20%程度の新規の海水を配水する。この新規の海水の配水により、循環している飼育海水が多くなるので、飼育槽1からその余分な海水はオーバーフローさせて廃棄する(図示せず)。アワビの糞、尿を含む飼育槽1内の汚れた海水である飼育海水は、その下部から浄化のために排出される。排出された海水は、ポンプによって汲み出されて、
図1(b)に示すサイクロン型汚物回収装置2に送られる。サイクロン型汚物収集装置2は、その原理は知られているように、旋回流による遠心力で飼育海水中の固形物を分離するための装置である。
【0021】
糞、餌の残骸等の固形物は、重力により旋回槽31の下部の円錐部の頂部に沈殿される。旋回槽31に満たされている飼育海水は、この上部の中心部から固形物が除去されてポンプ8により汲み出される。この循環ポンプ8により汲み出された飼育海水は、手動開閉弁9及び手動開閉弁10を介して二手に分岐されて供給される。手動開閉弁10側に分岐した飼育海水は、
図1(c)に示す微生物濾過槽5へ供給される。手動開閉弁9側に分岐した飼育海水は、
図1(e)に示す活性化装置3へ供給される。通常、日中の運転の場合、手動開閉弁10を開けるときは、手動開閉弁9は閉じる。このとき、手動開閉弁9を閉じて活性化装置3は運転しない。微生物濾過槽5は、飼育海水中の有機物を分解して、二酸炭素(CO
2)、硝酸態窒素(NO
3-N)、リン酸態リン(PO
4-P)等を産生するものである。
【0022】
微生物濾過槽5は、主に好気性の硝化菌を利用して、海水中に含まれているアワビの排泄物等の有機物を酸化分解するものである。通水性の合成繊維からなる長繊維不織布が積層され、その中間には通水のための通水空間をサンドウッチ状に挟んで構成である。この通水空間には、空気を含んだ飼育海水、又は酸素を含む空気が吹き込まれている。従って、長繊維不織布に付着した好気性の硝化菌等の微生物がアワビの排泄物を分解してくれる。また、長繊維不織布の間に通水層を挟んでいるので、海水は満遍なく長繊維不織布層を通過する。この微生物濾過槽5は、本発明の発明者の発明であるが、公知の技術であるのでその詳細な構造の説明は省略する(特開平10−118676号公報)。なお、循環ポンプ8のポンプ能力は、飼育槽1内の全海水量を約10〜12回/1日で循環する程度のもので良い。
【0023】
微生物濾過槽5で処理され、有機物が分解された飼育海水は、藻類栽培装置4に送られる。藻類栽培装置4は、主に緑藻類を人工的に栽培し養殖するための養殖装置である。藻類栽培装置4は、空気による飼育海水の攪拌と、緑藻類の培養を太陽光等で行う。雨天、曇天時に太陽光の光が弱いときは、人工的なLED光照射灯が設置されているので、このLED光照射灯を付加的に用いると良い。ここで培養されるアオサ等の緑藻類は、アワビの飼育で発生した有機物が、微生物濾過槽5の好気性の菌、バクテリア等で処理され、二酸化炭素(CO
2)、硝酸態窒素(NO
3-N)、リン酸態リン(PO
4-P)に分解されるが、これらを吸収する。また、緑藻類が光合成で発生した酸素(O
2)を発生し、これを飼育海水に溶かす役割を果たす。
【0024】
アオサ等の緑藻類は、アワビの餌としても使用できるので、循環型の養殖が可能となる。一方、飼育海水を循環させる飼育において、アワビを高密度に収容すると、飼育海水中のミネラルバランスが崩れ、表皮細胞からミネラルを多く吸収するアワビの場合は貝殻形成が悪くなる。特に、本発明者の知見では、自然の中での生育とは違って砂等がないため飼育海水中では元素でいうとケイ素(Si)が不足しがちである。この藻類栽培装置4で加えたケイ素(Si)により、単細胞性の珪藻類を繁茂させる。ここで加えるケイ素(Si)は、農業用肥料で使われているケイ酸カリ、水ガラス(ケイ酸ナトリウムの水溶液)等で補うものである。このケイ素の添加により、飼育海水に珪藻類が発生し、珪藻類はアワビの餌となる。
【0025】
以上の説明から理解されるように、このケイ素等のミネラル類の添加は、必ずしもこの藻類栽培装置4で加え
る必要はなく、活性化装置3等で加えてもよい。藻類栽培装置4の底からの排水は、再び、飼育槽1に送られ配水される。主に夜間の運転であるが、手動開閉弁9を開けるときは、手動開閉弁10は閉じる。このとき、微生物濾過槽5及び藻類栽培装置4は、運転しない。活性化装置3は、海水に水酸化ナトリウム等の薬液、酸素、空気等の気体を吹き込んで溶解させて、飼育海水のpH値を高めて二酸化炭素の濃度を低め、かつアンモニアをガス化して海水から除去するものであり、海水を活性化するための装置である。この詳細な機能については、後述する。通常、日中の運転では、手動開閉弁9を閉じて、手動開閉弁10を開けるので、日中のみ微生物濾過槽5が作動していることになる。
【0026】
夜間の運転では、手動開閉弁9を開けて、手動開閉弁10を閉じるので、夜間のみ活性化装置3を作動させることになる。活性化装置3のタンクの底部から排出された海水は、飼育槽1の配水管に送られる。以下、上述したアワビの養殖システムの各装置の詳細な構造、機能を説明する。
[飼育槽1]
図2は、飼育槽1の外観を示すものであり、
図3はその平面図、
図4は
図3のA−A線で切断した断面図である。飼育槽1は、区画された空間であり、そこに海水を入れてアワビを飼育するものである。飼育槽1の水槽本体12は、FRP、アクリル板などで作られたもので、
図3に示すように両端は円孤状で長方体状の形をしたものであり、上面は開口している。
【0027】
水槽本体12は、本例では隔壁13により4つの空間に区画されている。ただし、隔壁13は水槽本体12の底面まで延びていないので、この4つの空間の底部は区画されいない。このために飼育海水は、水槽本体12の下部で自由に流れている。水槽本体12の中央部に位置する二つの区画された空間は、アワビを養殖するための養殖空間14である。養殖空間14内には、複数台の板材のアワビ活着板15が積層して配置されている。
【0028】
このアワビ活着板15は、本例ではアワビの中でもクロ鮑の性質に適したものである。繊維強化プラスチック、珪藻土、セメント等で作られたものであり、アワビが自由に移動できる、餌となる海藻を与えられる空間を有している、清掃が容易に容易にできる等の理由から、外壁がなく、複数の板を隙間を有して積層したものであり、この板状体を井桁状に組んだ構造を有するものである。この構造のアワビ活着板15は、特開2004−129606号公報等で公知のものであり、その詳細については説明を省略する。本例では、上下に2台のアワビ活着板15を積層し、一つの養殖空間14に合計で12台を設置し、長方体状の空間である二つの養殖空間14で合計24台を設置できる。アワビ活着板15は、複数の貫通孔を有する網状の底板16上に設置されている。このために、底板16と水槽本体12の底面との間には、平たい空間である底部空間17が形成されている。
【0029】
底部空間17には、循環して浄化処理された飼育海水、又は補給された新しい海水を供給するための補給パイプ18が配置されている。補給パイプ18は、浄化された飼育海水が二つの養殖空間14に満遍なく行き渡るように底部空間17の複数箇所に吐出口が配置されている。また、底部空間17には、養殖空間14内の海水に空気を供給するための空気パイプ20が敷設されている。同様に、空気パイプ20は、養殖空間14内の海水に空気が満遍なく行き渡るように、底部空間17の複数箇所に吐出口が配置されエアレーションを行う。エアレーションは、水中に空気を送り込み、泡を作って水をかき混ぜ、水中に空気を溶かし込むものである。海水中のアワビは、この空気中の酸素により呼吸を行うことができる。
【0030】
図5は、飼育槽1の排水空間19部の拡大断面図である。
図5に示すように、水槽本体12の一端部に配置された排水空間19には、下端が水槽本体12に固定された水位管21が鉛直方向に配置されている。水位管21の内部には、排水パイプ23が水位管21の中心線と同心に配置されている。水位管21の下部には、槽本体12の底面25と平行なフランジ22が一体に形成されている。水位管21の内径と排水パイプ23との間は、円筒で環状の異物排出空間24が形成されている。異物排出空間24は、槽本体12の底部に堆積した糞、餌の残骸等の固形物等からなる異物26をエアレーションで浮上させて、排水パイプ23の上端の開口から排出するための空間である。
【0031】
水位管21の下部にフランジ22を設けた理由は、槽本体12の底部に堆積した異物26の排出を促すためである。水位管21の上端と排水管23の上端との間は、段差Sがある。水槽本体12に補給水が注水されているときは、水位管21の上端からも飼育海水が排水パイプ23の上面からも流れ込む。循環水のみで、追加の補給水がなく、水位が水位管21の上面以下に下がったときでも、飼育海水は槽本体12の底面25の近傍から異物排出空間24を通って、異物と共に排水パイプ23からの異物の排出が優先される。排水される飼育海水はフランジ22と槽本体12の底面25との間の空間は、狭くなっているのでこのフランジ22の位置では流れが速くなる。このために異物26の排出を促すことができる。
【0032】
即ち、フランジ22の近くの飼育海水と共に吸い込まれた異物26は、異物排出空間24に流れ込む。異物排出空間24内には、空気パイプ20から空気が供給されているので、異物26は一種のエアーリフトポンプにより飼育海水と共にリフトされて、排水パイプ23の上部に浮上し、排水パイプ23から排出される。
【0033】
[サイクロン型汚物回収装置2]
図6は、サイクロン型汚物収集装置の断面図である。サイクロン型汚物収集装置2は、旋回流による遠心力で飼育海水中の糞、餌の残渣等の固形物を分離するための装置である。槽本体12の排水パイプ23(
図5参照)から排出された飼育海水は、ポンプ30により加圧されて供給パイプ32から円筒状の旋回槽31に供給される。このときの飼育海水の供給パイプ32は、旋回槽31の外周面の接線方向に設置されている。従って、供給された飼育海水中の固形異物は、遠心力により旋回槽31の内周面33上に追いやられ、遠心力と重力の合力で旋回槽31の内周面33に沿って、螺旋状に旋回して落下する。そして、最終的には、固形異物は旋回槽31の下部の漏斗状の円錐部34に堆積する。
【0034】
旋回槽31の内周面33上には、複数の突起36が配置されている。突起36は、旋回槽31に対して、リード角を有して配置されている。このために、内周面33上を移動する異物は、この突起36に引っ掛かり速度を落とすことになる。このために異物はよりその重力の影響を受けて、旋回槽31の下部の漏斗状の円錐部34に落下することになる。体積した固形異物は、開閉弁35により定期的に手動で排出する。排出されたアワビの糞等の異物は、自然界と同様にナマコの餌として使える。旋回槽31の中心には、この中心線に沿って排出パイプ37が配置されている。
【0035】
排出パイプ37から出た飼育海水は、前述したように、次の活性化装置3、又は微生物濾過槽5に送られる。排出パイプ37から出た飼育海水は、旋回槽31の中心部の浄化された飼育海水のみが汲み出されて排出される。旋回槽31に送られる質量のある異物は、漏斗状の円錐部34により集められるので、中心部の飼育海水は固形物等の異物が除かれた浄化されたものとなっている。従って、固形物が除かれた飼育海水が、次の活性化装置3、又は微生物濾過槽5に送られる。
【0036】
[活性化装置3]
図7は、活性化装置3の断面図である。活性化装置3は、飼育海水のpH値を高めて二酸化炭素の濃度を低め、かつ有害なアンモニアをガス化して海水から除去するものであり、海水を活性化するための装置である。飼育海水は、アワビ、微生物等の活動により飼育海水中の二酸化炭素が増加しpH値が低下する。更に、アワビが出す排出物により、飼育海水中のアンモニア量が増大する。これらのアンモニアも可能な限り除去するのが好ましい。活性化装置3は、飼育海水のpH値を上げ、かつガス化したアンモニア等を海水から除去するものである。活性化装置3の主要部をなす噴流発生装置40について説明する。噴流を発生させる基本的な方法については、特開2000−563号公報にその詳細が記載されているので、詳細な説明は省略するが、噴流発生装置40の噴流発生原理についてのみ簡単に説明する。この噴流発生原理はコアンダ効果を利用し噴流を発生させるものである。
【0037】
一般に水力機械等において、キャビテーションの発生は振動や材料の腐食、破損をもたらすので避けなければならないが、この噴流発生装置40においては、生息水の酸素濃度の向上、又アルカリ化等に積極的にこの現象を利用するものである。一般にベルヌーイの定理が成立するところでは、キャビテーションは当然発生しない。前述のコアンダ効果は、流体が壁に引き寄せられる現象をいい、噴流においては、ウォータージェットが箱形の内部空間Vの壁に引き寄せられ渦を発生させる。噴流発生装置40の基部をなす噴流発生箱42は、本例では扁平の長方体状のものである。長手方向が鉛直になるように配置されている。噴流発生箱42の上面には、加圧された飼育海水をポンプユニット40から供給し下方に噴射させる噴射ノズル43が固定されている。
【0038】
噴射ノズル43は、断面が円筒の環状空間である。噴流発生箱42の内部には区画された噴流発生室44が形成されている。噴流発生室44の内部空間Vは、3次元の箱状の空間で扁平であり、空間の概ねの高さをHで、その概ねの幅をWで表し、鉛直(垂直)方向の長さをL1とし、噴射ノズル43の開口の有効直径をD1とすると、概略すると前述のように、渦流の発生条件として、D1<H、W/H>4、且つH<L1の関係にある。噴射ノズル43から噴出された噴流は、鉛直方向で内部空間Vの概ねの中心線の方向に噴射され、キャビテーションが発生する。噴射ノズル43の中心には、水酸化ナトリウム、酸素等の吸入するための吸入管45が配置されている。噴射ノズル43の中心部は負圧になるので、水酸化ナトリウム、空気又は酸素等を吸入することができる。
【0039】
吸入管45からの空気、酸素、水酸化ナトリウム、ケイ酸カリ水溶液、水ガラス(ケイ酸ナトリウムの水溶液)等を供給する。これらの必要な薬剤の供給は、定量ポンプ等で所望の供給量割合、又は設定された時間のみ供給する。また、噴流が噴射されると噴流発生室44の8隅にはコアンダ効果により低圧渦である付着渦等が発生する。このように渦流の伴った噴流の流れを発生させることにより、キャビテーションなどにより酸素等の気泡、薬剤等を微細化することができ溶存酸素濃度を高めることとなり、更に水酸化ナトリウムを加え中和する。これらの噴流、付着渦等により、飼育海水と酸素等気体、生息水と水酸化ナトリウム等の液体を均一に混合、撹拌する機能がある。水酸化ナトリウムを飼育海水に加えると、次式のような反応により、飼育海水中の二酸化炭素が減少する。
[化1]
2NaOH + CO
2 → Na
2CO
3 + H
2O
【0040】
このような反応と共に、内部空間Vで微細化された気泡を含む噴流は排出管46より開放タンク50内に排出される。魚、貝から排出されるアンモニアは、魚、貝等の呼吸器官への影響が出て、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値の低下が起こることが知られているので、可能な限りこれを除去する必要がある。水中でのアンモニアは、解離性(NH
4+)と非解離性(NH
3)の2形態をとり、それぞれの量は、一定の温度、圧力下において平衡している。非解離性アンモニアは、生物の神経と呼吸器を傷つけることが知られており、これを可能な限り減らさなければならない。飼育海水のpH値が上がれば([H
+]を減らせば)、又は水温を上げればアンモニアの溶解率が低下し、溶存中の非解離性のアンモニアは増える。
【0041】
飼育海水に上述した水酸化ナトリウムを加えてpH値を上げることは、二酸化炭素の溶存率は低下させることができるが、次の反応により非解離性のアンモニアが増えることになる。
[化2]
NH
4+ + NaOH → NH
3 + H
2O
そこで、飼育海水中の非解離性のアンモニアをアンモニアガスとして除去するのが好ましい。開放タンク50は、主にこのアンモニアを蒸発させるための槽であり、上部は開放されている。タンク50の底部には、金網51が配置されている。金網51のには、エアポンプから大量の空気を供給するための空気供給管52と連結された空気憤出管53が配置されている。
【0042】
空気憤出管53は、多数のノズルを有しており、このノズルから空気を噴出させる。開放タンク50内の空気憤出管53により大量の空気をその底から噴出させて、タンク内の飼育海水をエアレーションする。噴流発生装置40のキャビテーション作用により、アンモニアは沸点は低いので、気化しやすくなり、エアレーションによる泡等に含まれて空中に放出されることになる。この結果、飼育海水中のアンモニアの濃度は減少することになる。開放タンク50の底面には、排水パイプ54が接続されており、水酸化ナトリウムが加えられ、かつアニモニアを除去した飼育海水を排水する。開放タンク50の排水パイプ54から排出された飼育海水は、そのまま飼育槽1に供給されて循環される。ケイ酸カリ水溶液、水ガラス(ケイ酸ナトリウムの水溶液)を供給する技術的な意味は、後述する。
【0043】
[微生物濾過槽5]
微生物濾過槽5は、主に好気性微生物を利用して、海水中に含まれているアワビの排泄物等の有機物を、主に好気性の硝化細菌等により酸化分解するものである。この構造、機能の概要は前述し、かつ公知技術(特開平10−118676号公報)なので、その説明は省略する。微生物濾過槽5で処理された飼育海水は、藻類栽培装置4の飼育海水の供給パイプ59に送られる。
【0044】
[藻類栽培装置4]
図8は、緑藻類を人工的に栽培し養殖するための藻類栽培装置である。藻類栽培装置4は、アオサ等の広義の意味の緑藻を人工的に栽培し養殖するための養殖装置である。藻類栽培装置4は、本例ではアオサを人工的に栽培し養殖するための養殖装置であり、アワビの飼育で発生した二酸化炭素(CO
2)、硝酸態窒素(NO
3-N)、リン酸態リン(PO
4-P)を吸収させ、かつアオサが光合成で発生した酸素(O
2)を海水に溶かす。藻類栽培装置4の透明水槽60は、アクリル等の透明材料で作られた槽であり、上部は開放されている。水槽60の底部には、金網61が配置されている。金網61には、エアポンプ62から空気を供給するための空気供給管63と連結された空気憤出管65が配置されている。
【0045】
空気憤出管65は、多数のノズルを有しており、このノズルから空気を噴出させる。水槽60内の空気憤出管65により、大量の空気をその底から噴出させて、透明水槽60内の飼育海水をエアレーションする。透明水槽60を設置している設置台66は、上面には光を反射するアルミ板のような反射板が配置されている。透明水槽60内には、本例ではアオサ67が養殖されている。透明水槽60の上部には、LEDで作られた照明器具68が配置されている。アオサ67は、透明水槽60が透明材料で作られているので、太陽光、及び照明器具69からの光を受けて、光合成によりアワビの飼育で発生した二酸化炭素(CO
2)、硝酸態窒素(NO
3-N)、リン酸態リン(PO
4-P)等を吸収して成長し、かつアオサが光合成で発生した酸素(O
2)を海水に溶かす。
【0046】
水槽60の上面には、棒材68が掛け渡してあり、この棒材68には施肥袋70が吊り下げられている。施肥袋70内には、本例では農業用肥料で使われているケイ酸カリが入れられている。ケイ酸カリは、単細胞性の珪藻類を繁茂させるために添加するものであり、このケイ素(Si)により単細胞性の珪藻類を、アワビ活着板15等に着生する珪藻類を増殖させる。ケイ酸カリに限らず、水ガラス(ケイ酸ナトリウムの水溶液)であってもよい。この飼育海水で発生した珪藻類は、アワビの餌となり、甲殻の形成に有効な栄養となる。透明水槽60の底には、排水パイプ71が接続されており、透明水槽60内の飼育海水を排水する。排水された飼育海水は、再び飼育槽1に送られる。
【0047】
[その他]
前述した水槽本体12は、FRP製等の合成樹脂製であったが、これをコンクリート製にして、かつの高さの/1/2程度を地面に埋め込むような構造を採用しても良い。この構造を採用すると、地中熱を有効に利用できる利点がある。また、コンクリートは、蓄熱性に優れているので温度変化を防ぎ地中熱を有効に利用できる。前述した実施の形態では、夜間と日中では、手動開閉弁9及び手動開閉弁10を切り替えて、運転する機器を変更していた。しかしながら、海水の劣化、汚染が激しいときは前述した全ての機器を運転しても良い。
【0048】
[全システム]
前述したように、アンモニア態窒素の水中濃度とアワビの酸素消費量には強い相関があり、この酸素消費量の低下は、エゾアワビ等の活動が低下していることを意味する。本システムは、アワビの糞尿等を由来とするアンモニア態窒素(アンモニア性窒素)を大幅に減少させることができた。また、溶存酸素量も増加することができた。また、単細胞性の珪藻類を繁茂させるためにケイ酸カリ等のケイ素(Si)の成分を添加したので、アワビの甲殻の形成が良好にできた。更に、本システムによるアワビの養殖は、殆どの飼育海水を循環させて使用するので、長期間飼育海水を交換する必要がないので、アワビにストレスがかからない。