(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒を膨張させる膨張器と、外気から採熱または放熱を行う室外熱交換器と、冷暖房対象空間において吸熱または放熱を行なう室内熱交換器と、外気温度を検出する外気温度センサとを備え、前記圧縮機の冷媒の入口側に第1圧力センサおよび第1温度センサが設けられ、出口側に第2圧力センサおよび第2温度センサが設けられているとともに、前記膨張器の冷媒入口側に第3温度センサが設けられてなる車両用空気調和機のメンテナンスの時期をデータ処理装置によって判定するメンテナンス時期判定方法であって、
前記データ処理装置は、
冷暖房運転中における前記第1圧力センサおよび第1温度センサと第2圧力センサおよび第2温度センサ、前記第3温度センサからの信号を読み込み、これらのセンサからの信号の値に基づいて前記圧縮機の圧縮開始時点の比エンタルピーと圧縮終了時点の比エンタルピーの差を算出し、算出された比エンタルピーの差と第1の設定値および該第1の設定値よりも大きな第2の設定値とをそれぞれ比較して、前記比エンタルピーの差が前記第2の設定値よりも大きい場合には車両用空気調和機のメンテナンスが必要であることを表示装置に表示し、前記比エンタルピーの差が前記第1の設定値よりも大きく前記第2の設定値よりも小さい場合には前記読み込んだ各センサの信号の値に基づいてモリエル線図上における冷凍サイクル図形を作成し、該冷凍サイクル図形を、予め作成され記憶装置に記憶されている正常状態における冷凍サイクル図形とともに同一のモリエル線図上に表わしたものを前記表示装置に表示することを特徴とする車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法。
前記記憶装置に外気温度に対応して正常状態における複数の冷凍サイクル図形を記憶しておき、前記比エンタルピーの差が前記第1の設定値よりも大きく前記第2の設定値よりも小さい場合には前記外気温度センサの信号を読み込み、前記各センサの信号の値に基づいて作成されたモリエル線図上における冷凍サイクル図形を、読み込んだ該温度に対応した正常状態の冷凍サイクル図形とともに同一のモリエル線図上に表わしたものを前記表示装置に表示することを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法。
前記比エンタルピーの差が前記第1の設定値よりも大きく前記第2の設定値よりも小さいと判定した場合には、さらに、前記読み込んだ各センサの信号の値に基づいて作成したモリエル線図上における冷凍サイクル図形と正常状態における冷凍サイクル図形との非重複率を算出し、該非重複率が所定の値よりも大きい場合に車両用空気調和機のメンテナンスが必要であることを前記表示装置に表示することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法。
前記比エンタルピーの差が前記第2の設定値よりも大きいと判定した場合には、さらに、前記圧縮機の入口側の前記第1圧力センサおよび第1温度センサと出口側に第2圧力センサおよび第2温度センサの信号に基づいて、入口と出口の温度差および入口と出口の圧力差と、凝縮工程の圧力値および蒸発工程の圧力値とを算出し、算出した値に基づいて前記圧縮機と室外熱交換器と室内熱交換器のいずれの性能が低下しているか判定して前記表示装置に表示することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1および2に開示されている空調機の故障を判定する技術は、故障が発生してから判断を行うものであるため、機器を修理して再運転を開始するまでの時間が長くなるという問題がある。
特に、車両用の空気調和機にあっては、空調機が故障した場合、空調機の動作を停止したまま車両を運行するのを回避する必要があるので、列車の運行に支障を来たすことがある。また、空調機が故障してから修理するのでは、維持コストが高くなるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、空調機が故障に至る前に、機器の劣化状態や故障の兆候を捉えてメンテナンスの時期を判断することについて検討した。しかしながら、上記特許文献1に開示されている回帰分析による判定技術を適用した場合には、数値変化の幅が小さいため、判定結果が空調機の個体差による影響を受け易く、判断にバラツキが生じるという課題がある。
【0006】
また、上記特許文献2に開示されているマハラノビス距離を用いた判定技術を適用した場合には、動作に問題のないレベルの汚損や外気環境の変化までを機器の劣化や故障と誤認するおそれがあるという課題があることが分かった。
なお、車両用空調機においては、従来より、走行距離や使用時間に基づく修繕や部品交換による故障の未然防止が図られて来たが、機器の劣化の進行具合は列車によって異なるため、走行距離や使用時間に基づく修繕、部品交換では費用が割高になってしまうとともに、点検前に空調機が故障してしまうおそれもあった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、機器の個体差による影響を受けにくいとともに精度の高い判定を行うことができる車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法および空気調和機を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、メンテナンスに要するコストを低減することができる車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法および空気調和機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒を膨張させる膨張器と、外気から採熱または放熱を行う室外熱交換器と、冷暖房対象空間において吸熱または放熱を行なう室内熱交換器と、外気温度を検出する外気温度センサとを備え、前記圧縮機の冷媒の入口側に第1圧力センサおよび第1温度センサが設けられ、出口側に第2圧力センサおよび第2温度センサが設けられているとともに、前記膨張器の冷媒入口側に第3温度センサが設けられてなる車両用空気調和機のメンテナンスの時期をデータ処理装置によって判定するメンテナンス時期判定方法であって、
前記データ処理装置は、
冷暖房運転中における前記第1圧力センサおよび第1温度センサと第2圧力センサおよび第2温度センサ、前記第3温度センサからの信号を
読み込み、これらのセンサからの信号の値に基づいて前記圧縮機の圧縮開始時点の比エンタルピーと圧縮終了時点の比エンタルピーの差を算出し、算出された比エンタルピーの差と第1の設定値および該第1の設定値よりも大きな第2の設定値とをそれぞれ比較して、前記比エンタルピーの差が前記第2の設定値よりも大きい場合には車両用空気調和機のメンテナンスが必要であることを表示装置に表示し、前記比エンタルピーの差が前記第1の設定値よりも大きく前記第2の設定値よりも小さい場合には前記読み込んだ各センサの信号の値に基づいてモリエル線図上における冷凍サイクル図形を作成し、該冷凍サイクル図形を、予め作成され記憶装置に記憶されている正常状態における冷凍サイクル図形とともに同一のモリエル線図上に表わしたものを前記表示装置に表示するようにした。
【0009】
上記した手段によれば、走行距離や使用時間に基づいてメンテナンスを行うのではなく、空調機の性能が実際に低下したのを検出してメンテナンスを行えるので、空調機の個体それぞれに対応した判定結果が得られる。また、車両の信頼性を向上させるとともに、故障が発生する前にメンテナンスを行えるために故障が発生したから修繕したり部品を交換したりする場合に比べて所要コストを低減することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記記憶装置に外気温度に対応して正常状態における複数の冷凍サイクル図形を記憶しておき、前記比エンタルピーの差が前記第1の設定値よりも大きく前記第2の設定値よりも小さい場合には前記外気温度センサの信号を読み込み、前記各センサの信号の値に基づいて作成されたモリエル線図上における冷凍サイクル図形を、読み込んだ該温度に対応した正常状態の冷凍サイクル図形とともに同一のモリエル線図上に表わしたものを前記表示装置に表示するようにする。
これにより、比エンタルピーの差の値のみからは判断することが困難な空調機の性能低下を表示された冷凍サイクル図形から読み取ることが可能となり、精度の高いメンテナンス時期の判定を行うことができる。
【0011】
また、望ましくは、前記比エンタルピーの差が前記第1の設定値よりも大きく前記第2の設定値よりも小さいと判定した場合には、さらに、前記読み込んだ各センサの信号の値に基づいて作成したモリエル線図上における冷凍サイクル図形と正常状態における冷凍サイクル図形との非重複率を算出し、該非重複率が所定の値よりも大きい場合に車両用空気調和機のメンテナンスが必要であることを前記表示装置に表示するようにする。
これにより、冷凍サイクル図形の表示を人間が見て判断する場合に比べて、客観性に優れかつばらつきの少ないメンテナンス時期の判定を行うことができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記比エンタルピーの差が前記第2の設定値よりも大きいと判定した場合には、さらに、前記圧縮機の入口側の前記第1圧力センサおよび第1温度センサと出口側に第2圧力センサおよび第2温度センサの信号に基づいて、入口と出口の温度差および入口と出口の圧力差と、凝縮工程の圧力値および蒸発工程の圧力値とを算出し、算出した値に基づいて前記圧縮機と室外熱交換器と室内熱交換器のいずれの性能が低下しているか判定して前記表示装置に表示するようにする。
これにより、メンテナンスを行う際に、重点的もしくは最初に点検すべき機器を知ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機器の個体差による影響を受けにくいとともに精度の高い判定を行うことができる車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法を実現することができる。また、車両用空気調和機のメンテナンスに要するコストを低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両用空気調和機のメンテナンス時期判定方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
一般的な冷房システムは、熱媒体の圧縮および膨張を行なって低温部から高温部へ熱を移動させるヒートポンプ(冷凍機)と、外気から採熱または放熱を行う室外熱交換器と、冷暖房対象空間において吸熱または放熱を行なう室内熱交換器と、システム全体を制御する制御手段とにより構成されている。
【0017】
ヒートポンプは、断熱状態で冷媒を圧縮する圧縮機、外気に熱を放出し冷媒を液化する凝縮器、冷媒を気化させる蒸発器等から構成されている。
本実施形態を適用して好適な車両用空気調和機は、冷媒ガスを圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒ガスを液化して熱を放出する凝縮器の機能を備えた室外熱交換器、冷媒ガスを膨張させる膨張器もしくは減圧器としての機能を有するキャピラリチューブ、冷媒ガスを気化して熱を吸収する蒸発器の機能を備えた室内熱交換器などを備える。
【0018】
図1は、本実施形態における車両用空気調和機のメンテナンス時期判定を行うシステムの概略構成を示した図である。
図1に示すように、1編成の列車の各車両Cの上部には空気調和機としての空調機ユニット10が設けられている。本実施形態のシステムにおいては、各車両の空調機ユニット10に圧縮機入り口側の吸入冷媒圧力を検出する圧力センサおよび吸入冷媒温度を検出する温度センサ、圧縮機出口側の吐出冷媒圧力を検出する圧力センサおよび吐出冷媒温度を検出する温度センサ、キャピラリチューブの入口側の冷媒温度を検出する温度センサ、外気温度を検出する温度センサとを設け、空調機ユニット10の状態を検出可能にする。
【0019】
また、先頭車両(または最後尾車両)に、各データ収集機能および無線通信機能を備えたデータ管理装置20を設け、該データ処理装置20と各車両の空調機ユニット10の制御部とをイーサネット(登録商標)のような有線式の車内LAN(ローカルエリアネットワーク)等の伝送路30を介して接続し、周期的に各車両の空調機ユニット10から検出データを収集可能に構成する。
さらに、データ管理装置20は、収集したデータを、無線通信機能によってWiFiのような高速無線LAN60を介して、定期的に外部の分析手段を備えた判定装置50へ送信するように構成されている。従って、データ管理装置20は、各車両の空調機ユニット10からのデータを受信するデータ受信手段と、受信したデータを記録するデータ記録手段と、記録されたデータを読み出して無線送信する無線通信手段とを備える。なお、各車両の空調機ユニット10から収集データを無線通信によって直接判定装置50へ送信するように構成してもよい。
【0020】
図2は、本実施形態における車両用空気調和機のメンテナンス時期判定を行うシステムのより具体的な構成を示した図である。
図2に示すように、車両用空気調和機側の制御手段40は、空調制御部41と、データ収集部42と、収集したデータ等を記憶、蓄積する半導体メモリあるいは磁気ディスク装置などからなるデータ記録部43と、データを送信するデータ送信部44などから構成されている。
図2には示されていないが、
図1における先頭車両のデータ管理装置20は、制御手段40と高速無線LAN60との間に設けるようにすることができる。この場合、データ送信部44は車内LANを介してデータを送信する機能を有するように構成される。一方、データ送信部44が直接データを高速無線LAN60を介して送信する場合、データ送信部44は無線通信機能を備えるように構成される。なお、データ記録部43は、各車両の制御手段40と先頭車両のデータ管理装置20の両方に設けても良いし、データ管理装置20にのみ設けても良い。
【0021】
メンテナンス時期判定を行う判定装置50は、高速無線LAN60を介して送られて来るデータを受信するデータ受信部51や受信したデータを記憶、蓄積するデータ蓄積部52、蓄積されたデータを分析するデータ分析部53、分析結果を表示する表示装置54などから構成されている。データ分析部53は、マイクロコンピュータのようなデータ処理装置によって構成することができる。
【0022】
空調制御部41には室内機の吹き出し口に設けられている温度センサや室内温度センサ、温度設定器11からの信号が入力されており、空調制御部41は、室内温度に応じて圧縮機の動作個数や能力を制御することで、室温が設定温度となるように空調制御を行う。また、空調制御部41は、送風用のファンのモータ13の駆動制御を行う。空調制御部41とデータ収集部42は、CPU(中央演算装置)と、該CPUが実行するプログラムとによって実現することができる。
【0023】
本実施形態においては、圧縮機の入り口側に設けられ吸入圧力を検出する圧力センサPS1および吸入冷媒温度を検出する温度センサTS1と、圧縮機の出口側に設けられ吐出圧力を検出する圧力センサPS2および吐出冷媒温度を検出する温度センサTS2と、キャピラリチューブの冷媒入口側に設けられ冷媒温度を検出する温度センサTS3と、外気温度を検出する温度センサTS0の検出信号がデータ収集部42に入力されている。
【0024】
図3には、車両用空調機の冷凍サイクルを構成する圧縮機1、室外熱交換器2、室内熱交換器3等の各機器と、上記各種センサの取り付け位置との関係が示されている。このうち、室外熱交換器2は凝縮器の機能を有し外気へ熱を放出し、室内熱交換器3は蒸発器の機能を有し外気から熱を吸収する。また、室外熱交換器2と室内熱交換器3との間には、冷媒に混じってしまった汚れや水分を除去したり冷媒を均一化したりする機能を有するドライヤ4と、膨張器もしくは減圧器として機能する複数本のキャピラリチューブ5と、該キャピラリチューブ5に冷媒を均等に分配するディストリビュータ6とが設けられている。
【0025】
図3に示すように、この実施例では、圧縮機1の冷媒入口側に圧力センサPS1と温度センサTS1が設けられ、圧縮機1の出口側に圧力センサPS2および温度センサTS2が設けられている。また、室外熱交換器2の外気取り入れ口の近傍に温度センサTS0が設けられている。さらに、本実施例では、キャピラリチューブ5の冷媒の入口側に設けられる温度センサTS3が、ディストリビュータ6に設けられている。
【0026】
データ収集部42は、空調機が稼働されると周期的に上記各センサからの信号を読み込んで、稼働中の圧力情報および温度情報を履歴情報としてデータ記録部43に記憶する。そして、予め決められた時刻になると、データ記録部43から履歴情報を読み出して、データ送信部44によって無線LAN60を介して判定装置50へ送信するように構成されている。
判定装置50は、データ受信部51により受信しデータ蓄積部52に蓄積されたデータをデータ分析部53が読み出して分析し、分析結果を表示装置54に表示する。これにより、空調機の故障が発生する前にメンテナンスが必要か否か知ることができる。
【0027】
次に、判定装置50によるデータ分析処理の内容について説明する。
本実施形態の判定装置50は、空調機の性能が劣化すると、モリエル線図における冷凍サイクルの形状が変化することを利用して性能劣化を見つけてメンテナンスの要否を判定するものである。さらに、空調機の性能劣化の主な原因としては、室内熱交換器における霜付きや室外熱交換器における汚れの付着、冷媒漏れ、キャピラリチューブの変形等が考えられるが、これらの原因の違いによってもモリエル線図における冷凍サイクルの形状が変化するので、本実施形態においては、それを利用して空調機の性能劣化の原因をも特定できるように工夫している。
【0028】
先ず、空調機の性能劣化を見つけてメンテナンスの要否を判定するようにした第1実施例のデータ分析処理の内容について、
図4のフローチャートを使用して説明する。
このデータ分析処理においては、先ず圧縮機の出入口に設けられている圧力センサPS1,PS2および冷媒温度センサTS1,TS2やキャピラリチューブの入口側の冷媒温度を検出する温度センサTS3からの信号を読み込む(ステップS1)。続いて、これらのセンサの値に基づいて、圧縮開始と終了時の比エンタルピーの差を算出する(ステップS2)。そして、算出した差分値が、予め設定された所定の設定値1よりも大きいか否か判定し(ステップS3)、小さい(No)と判定した場合は空調機の動作は正常であるとして、ステップS9で例えばメンテナンス不要の表示を行い、分析処理を終了する。
一方、上記ステップS3で、比エンタルピーの差が設定値1よりも大きい(Yes)と判定すると、ステップS4へ移行して、設定値1よりも大きい値に設定された設定値2よりも上記比エンタルピー差の方が大きいか否か判定する。
【0029】
空調機の性能が劣化すると、圧縮開始と終了時の比エンタルピーの差が大きくなるので、ステップS2で算出された比エンタルピーの差が設定値1よりも大きい場合には、空調機の性能が劣化している可能性が高いと判断することができる。そこで、その場合には、次のステップS4で、設定値2(>設定値1)よりも大きいか否か判定することとした。そして、比エンタルピーの差が設定値2よりも大きい(Yes)と判定されると、明らかに空調機の性能が劣化しているので、ステップS5へ進んで、空調機のメンテナンスが必要であることを、表示装置へ表示させる。
【0030】
一方、上記ステップS4で比エンタルピーの差が設定値2よりも小さい(No)と判定されると、この場合、算出された比エンタルピーの差分値のみからは明らかに空調機の性能が劣化しているとまでは判断できないので、ステップS6へ移行して、ステップS1で読み込んだ圧力センサPS1,PS2および冷媒温度センサTS1,TS2,TS3の値から、その時点での空調機のモリエル線図の冷凍サイクル形状を算出する。次に、外気温センサTS0からの信号を読み込み、外気温に対応した当該空調機の正常な状態での冷凍サイクル形状データをメモリから読み出す(ステップS7)。続いて、ステップS6で算出した冷凍サイクル形状とステップS7で読み込んだ冷凍サイクル形状を、同一のモリエル線図上に表した画像を、表示装置へ表示させる。オペレータは、表示装置に表示された2つの冷凍サイクル形状の画像を比較することで、空調機のメンテナンスが必要であるであるか否か判断することができる。
【0031】
ところで、空調機のモリエル線図の冷凍サイクル形状は、設定温度が同じであっても
図6に示すように、外気温度が異なると微妙にずれることが知られている。ただし、その場合における圧縮開始、終了時の比エンタルピー差は比較的小さな値となる。そのため、外気温度による影響を無視して圧縮機の出入口の冷媒圧力および冷媒温度から計算した比エンタルピーの差に基づいて空調機の性能劣化を正しく判断することが困難である。一方において、このような場合であっても、表示装置に表示された2つの冷凍サイクル形状の画像を比較することで、熟練者であれば、空調機のメンテナンスが必要な性能劣化が生じているか否か判断することができる。
【0032】
図4に示すデータ分析処理によれば、圧縮開始、終了時の比エンタルピー差が大きい時は比エンタルピー差に基づいてメンテナンスの必要性を判定して自動的に結果を表示し、圧縮開始、終了時の比エンタルピー差が小さい時は冷凍サイクル形状の画像を表示装置に表示するため、表示されたサイクル形状の画像を検討することで故障が発生したり予め設定した稼働時間や使用期間が経過したりする前に、メンテナンス時期の判定を行うことができる。
なお、
図6において、実線Aで示す冷凍サイクルは外気温が33℃の場合のもの、破線Bは外気温が38℃の場合の冷凍サイクル、一点鎖線Cは外気温が43℃の場合の冷凍サイクルを示している。
【0033】
次に、判定装置50によるデータ分析処理の第2の実施例について、
図5を用いて説明する。第2の実施例を適用するのに必要なシステムの構成は、
図2と同じであるので、説明は省略する。また、データ分析処理の内容は、
図4のステップS3までは同じであるので、ステップS1〜S3の図示および説明を省略する。
第2の実施例のデータ分析処理においては、ステップS4で、圧縮開始と終了時の比エンタルピーの差が設定値2よりも大きい(Yes)と判定すると、ステップS11へ進み、圧縮機の出入口の冷媒温度の差(T2−T1)が所定の温度(設定値3)よりも大きいか否か判定する。そして、この温度差(T2−T1)が設定値3よりも大きい(Yes)と判定すると、ステップS12へ移行して空調機のメンテナンスが必要であることを、表示装置により表示させる。
【0034】
本発明者らは、標準温度を33℃とし、室内熱交換器の表面を25%塞いだ場合と、50%塞いだ場合において空調機のモリエル線図の冷凍サイクルの変化を実験によって調べてみたところ、
図7に示すような結果が得られた。
図7において、実線Aで示す冷凍サイクルは正常な空調機のもの、破線Bは室内熱交換器の表面を25%塞いだ空調機の冷凍サイクル、一点鎖線Cは室内熱交換器の表面を50%塞いだ空調機の冷凍サイクルを示している。
【0035】
図7より、室内熱交換器の性能が低下すると蒸発工程の圧力のみが低くなっていることが分かる。これより、室内熱交換器の性能が低下すると蒸発工程の能力が低下し、その結果、圧縮機の出入口の冷媒温度差が増加して、圧縮工程で加えるエンタルピーが増加すると考えられる。よって、温度差(T2−T1)が設定値3よりも大きいような場合には室内熱交換器の性能低下による可能性が高いので、ステップS12における空調機のメンテナンス指示は、先ず室内熱交換器のメンテナンスを行うように表示によって指示することができる。
【0036】
一方、上記ステップS11で、圧縮機の出入口の冷媒温度の差(T2−T1)が所定の温度(設定値3)よりも小さい(No)と判定すると、ステップS13へ進んで、圧縮機の出入口の冷媒圧力の差(P2−P1)が所定の圧力(設定値4)よりも大きいか否か判定する。そして、この圧力の差(P2−P1)が設定値4よりも大きい(Yes)と判定すると、ステップS14へ進んで、凝縮工程の圧力が所定の圧力Pbよりも低いか否か判定する。ここで、凝縮工程の圧力が所定の圧力Pbよりも低い(Yes)と判定すると、ステップS15へ移行して空調機のメンテナンスが必要であることを、表示装置により表示させる。
【0037】
本発明者らは、標準温度を33℃とし、空調機から冷媒を10%抜いた場合と、20%抜いた場合において空調機のモリエル線図の冷凍サイクルの変化を実験によって調べてみたところ、
図8に示すような結果が得られた。
図8において、実線Aで示す冷凍サイクルは正常な空調機のもの、破線Bは空調機から冷媒を10%抜いた場合の冷凍サイクル、一点鎖線Cは空調機から冷媒を20%抜いた場合の冷凍サイクルを示している。
【0038】
図8より、空調機から冷媒を抜いて循環する冷媒の量を減らすと、凝縮工程の圧力および蒸発工程の圧力の両方が低くなることが分かる。これより、循環する冷媒の量が少なくなると凝縮工程と蒸発工程の両能力が低下し、その結果、圧縮機の出入口の冷媒温度差が増加して、圧縮工程で加えるエンタルピーが増加すると考えられる。よって、圧縮機の出入口の冷媒圧力差(P2−P1)が設定値4よりも大きくかつ凝縮工程の圧力が所定の圧力Pbよりも低い場合には、冷媒漏れが原因である可能性が高いので、ステップS15における空調機のメンテナンス指示は、先ず冷媒を補充するメンテナンスを行うように表示によって指示することができる。
【0039】
一方、上記ステップS14で、凝縮工程の圧力がPbよりも高い(No)と判定すると、ステップS16へ進んで、蒸発工程の圧力が所定の圧力Pcよりも低いか否か判定する。ここで、蒸発工程の圧力が所定の圧力Pcよりも低い(Yes)と判定すると、ステップS17へ進んで、蒸発工程開始時(膨張行程終了時)の比エンタルピーの値が所定の値(例えば正常時の値)よりも小さいか否か判定する。そして、蒸発工程開始時の比エンタルピーの値が所定の値よりも小さい(Yes)と判定すると、ステップS18へ進んで、空調機のメンテナンスが必要であり原因はキャピラリチューブの異常である可能性が高いことを、表示装置により表示させる。
【0040】
また、上記ステップS17で、蒸発工程開始時の比エンタルピーの値が所定の値よりも小さくない(No)と判定すると、ステップS19へ進んで、空調機のメンテナンスが必要であり原因は室外熱交換器の異常である可能性が高いことを、表示装置により表示させる。
本発明者らは、標準温度を33℃とし、空調機の数10本のキャピラリチューブのうち1本を潰した場合と、2本潰した場合において空調機のモリエル線図の冷凍サイクルの変化を実験によって調べてみたところ、
図9に示すような結果が得られた。
図9において、実線Aで示す冷凍サイクルは正常な空調機のもの、破線Bは空調機のキャピラリチューブを1本潰した場合の冷凍サイクル、一点鎖線Cは空調機のキャピラリチューブを2本潰した場合の冷凍サイクルを示している。
【0041】
図9より、空調機のキャピラリチューブを潰すと、凝縮工程の圧力は変わらない一方、蒸発工程の圧力は低くなって圧縮工程における圧縮前後の圧力差が大きくなるとともに、比エンタルピー差が大きくなることが分かる。これより、キャピラリチューブが潰れると蒸発工程の能力が低下し、その結果、圧縮機の出入口の冷媒圧力差が増加して、圧縮工程で加えるエンタルピーが増加すると考えられる。
なお、本実施例では、検証対象の空調機がキャピラリチューブを備えるタイプであるため、キャピラリチューブを潰した場合を想定したが、空調機の中にはキャピラリチューブを備えていないタイプもある。ただし、その場合にも、冷媒移送用の配管は備えているので、キャピラリ潰しは冷媒配管の詰まりのような冷媒の流量が減少する冷媒配管の異常と言い換えることができる。
【0042】
また、本発明者らは、標準温度を33℃とし、室外熱交換器の表面を25%塞いだ場合と、50%塞いだ場合において空調機のモリエル線図の冷凍サイクルの変化を実験によって調べてみたところ、
図10に示すような結果が得られた。
図10において、実線Aで示す冷凍サイクルは正常な空調機のもの、破線Bは室外熱交換器の表面を25%塞いだ空調機の冷凍サイクル、一点鎖線Cは室外熱交換器の表面を50%塞いだ空調機の冷凍サイクルを示している。
図10より、室外熱交換器の性能が低下すると蒸発工程の圧力が低くなるとともに、比エンタルピー差が大きくなることが分かる。これより、室外熱交換器の性能が低下すると蒸発工程の圧力が低下し、その結果、圧縮機の出入口の冷媒圧力差が増加して、圧縮工程で加えるエンタルピーが増加すると考えられる。
【0043】
また、
図9の冷凍サイクルと
図10の冷凍サイクルを比較すると、
図10の室外熱交換器の性能が低下した場合の冷凍サイクルにおける蒸発工程の開始時(膨張行程終了時)の比エンタルピーの値は、室外熱交換器の性能が低下していない場合における蒸発工程の開始時の比エンタルピーの値とほとんど変わらない。これに対し、
図9のキャピラリチューブを潰した状態の場合には、キャピラリチューブが潰れると蒸発工程の開始時の比エンタルピーの値が、正常な場合の比エンタルピーの値よりも小さくなっていることが分かる。
よって、蒸発工程開始時の比エンタルピーの値が所定の値よりも小さい(Yes)と判定して移行したステップS18における空調機のメンテナンスの必要性は、キャピラリチューブの潰れが原因である可能性が高く、先ずキャピラリチューブのメンテナンスを行うように表示によって指示することができる。
【0044】
また、蒸発工程開始時の比エンタルピーの値が所定の値よりも小さくない(No)と判定して移行したステップS19における空調機のメンテナンスの必要性の表示においては、室外熱交換器の性能低下による可能性が高く、先ず室外熱交換器のメンテナンスを行うように表示によって指示することができる。
なお、
図9と
図10を比べると異常時における冷凍サイクルが良く似ていることから、適用するシステムによっては、室外熱交換器の性能低下とキャピラリチューブの潰れ(冷媒配管の詰まり)とを区別できないことも予想される。ただし、その場合にも、
図5のステップS16で蒸発工程の圧力が所定の圧力Pcよりも低い(Yes)と判定したら、メンテナンスの指示と共にその原因は室外熱交換器またはキャピラリチューブのいずれかの異常である可能性が高いことを、表示装置により表示させるようにしてもよい。
【0045】
一方、上記ステップS4で比エンタルピーの差が設定値2よりも小さい(No)と判定された場合や、ステップS13で圧縮機の出入口の冷媒圧力の差(P2−P1)が所定の圧力(設定値4)よりも小さい(No)と判定した場合、ステップS16で蒸発工程の圧力が所定の圧力Pcよりも高い(No)と判定した場合には、メンテナンスの必要性があるか否か明確には判断できないので、ステップS6へ移行する。
第1の実施例では、ステップS6で、圧力センサPS1,PS2および冷媒温度センサTS1,TS2,TS3の値から、その時点での空調機のモリエル線図の冷凍サイクル形状を算出し、次のステップS7で、外気温センサTS0からの信号を読み込んで外気温に対応した当該空調機の正常な状態でのモリエル線図の冷凍サイクル形状データをメモリから読み出し、続いて、ステップS6で算出した冷凍サイクル形状とステップS7で読み込んだ冷凍サイクル形状を、同一のモリエル線図上に表した画像を、表示装置へ表示させている(ステップS8)。
【0046】
これに対し、本第2の実施例では、冷凍サイクル形状画像を表示装置へ表示させるステップS8の代わりに、それぞれの冷凍サイクル形状における面積を算出する処理(ステップS21)と、正常な空調機の冷凍サイクルの面積と測定した冷凍サイクルの面積との非重複率を算出する処理(ステップS22)を設けている。そして、ステップS22で算出した非重複率が所定の値Raよりも大きいか否か判定し(ステップS23)、非重複率が所定の値Raよりも大きい(Yes)と判定すると、ステップS24へ進んで、メンテナンスを行うよう表示によって指示するようにしている。一方、ステップS22で算出した非重複率が所定の値Raよりも小さい(No)と判定した場合には、メンテナンスを行う必要性がないと判断して、ステップS25でメンテナンス不要の表示を行うようにしている。
【0047】
なお、上記非重複率とは、
図11に示すモリエル線図において、正常な空調機の冷凍サイクルAの面積に対するハッチングが付されている部分の面積の割合(%)を意味する。
図11において、破線Bで示されている図形は、今回の測定により得られたリアルタイムの空調機の冷凍サイクルである。実際の空調機は、劣化や故障の状況によってそれぞれ冷凍サイクルが、正常な空調機の冷凍サイクルAに対してさまざまに変化するため、圧縮機の出入口の圧力や冷媒温度からは空調機の性能が低下している明確に判断できない場合があるが、上記非重複率により空調機の性能低下を判断することで、客観性および信頼性の高い判断結果が得られるようになる。
【0048】
以上、本発明を、圧縮機と室内熱交換器と室外熱交換器が1つである空調機を例にとって説明してきたが、車両用の空調機は、一般に複数台の圧縮機と複数台の室内熱交換器および複数台の室外熱交換器によって構成されることが多い。その場合にも、本発明を適用可能であり、圧縮機ごとにそれぞれ入口および出口の圧力や冷媒温度を検出するセンサを設けて、圧縮機ごとに冷凍サイクルを検証して空調機の性能の劣化を判断するように構成するのが望ましい。
また、上記実施例における各機器の判定の項目や判定の基準となる設定値(しきい値)は、あくまでも一例であって、監視対象の空調機の構成が異なれば、それに応じて適宜変更することとなる。
さらに、本発明は車両用の空調機に限定されず、施設や建物などの空調機にも適用することができる。