(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297844
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】超電導コイル用巻軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20180312BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
H01F6/06 120
H01F6/06 150
H01F27/32 B
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-13629(P2014-13629)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-141988(P2015-141988A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】514025111
【氏名又は名称】昭和化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500152267
【氏名又は名称】丸八株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】上條 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】立花 敏行
(72)【発明者】
【氏名】菅原 寿秀
【審査官】
井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−140900(JP,A)
【文献】
特開2009−170725(JP,A)
【文献】
特開2012−186242(JP,A)
【文献】
特開2012−186241(JP,A)
【文献】
特開平11−005856(JP,A)
【文献】
特開平07−130532(JP,A)
【文献】
特開平08−187234(JP,A)
【文献】
特開平06−224026(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0193383(US,A1)
【文献】
特開平11−228717(JP,A)
【文献】
特開昭61−194252(JP,A)
【文献】
米国特許第05217796(US,A)
【文献】
特開2011−025626(JP,A)
【文献】
実開昭62−005923(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01F 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布のシート体を含む層を半径方向に重ねた繊維強化複合材料からなる中空の円筒形状の超電導コイル用巻軸の製造方法であって、
前記シート体に絶縁性の硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、
前記プリプレグの複数を重ね合わせて積層体を形成するステップと、
前記積層体を前記円筒形状に成形する成形ステップと、
前記硬化樹脂を硬化させる硬化ステップと、を含み、
前記成形ステップに先だって、前記積層体を貫くようにニードルを抜き差しし前記高強度絶縁性長繊維を分岐させて起毛を形成させ前記層の各々に含まれる前記シート体同士を架橋させる起毛ステップを更に含むことを特徴とする超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項2】
前記プリプレグを重ね合わせるにあたって、前記高強度絶縁性長繊維からなる追加繊維をその間に分散させるステップを含み、前記起毛ステップにおいて前記層の各々に含まれる前記シート体同士を前記追加繊維で架橋させることを特徴とする請求項1記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項3】
前記起毛ステップ後に、前記追加繊維が前記積層体の厚さ方向に向けられていることを特徴とする請求項2記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項4】
前記起毛ステップは、前記シート体の厚さ方向の熱伝導率に合わせて前記起毛量を調整するステップを含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項5】
前記成形ステップは、巻軸型の周囲に配置させるステップを含むことを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項6】
前記織布は、前記高強度絶縁性長繊維からなる長繊維束を縦横に直交させて平織り固定させてなることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項7】
前記長繊維束は、開繊処理されて帯状にした後に平織りされていることを特徴とする請求項6記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項8】
前記高強度絶縁性長繊維は、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、又は、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維のいずれかからなることを特徴とする請求項7記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【請求項9】
前記硬化樹脂は、エポキシ樹脂、又は、ポリエステル樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至8のうちの1つに記載の超電導コイル用巻軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルにおける超電導線材を巻回するための巻軸及びその製造方法に関し、特に、軽量でありながら機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導特性を利用した超電導コイルが各種産業機械への適用を検討されている。超電導コイルは、巻軸の周囲に所定の超電導線材を巻回し、該線材を超電導特性を呈する温度まで冷却して使用される。
【0003】
例えば、特許文献1は、容器内に満たされた液体ヘリウムなどの冷媒に超電導コイルを浸漬し超電導線材を冷媒に直接接触させて冷却して、磁気浮上式鉄道用超電導コイルなどとして使用され得る超電導コイルを開示している。蒸発した冷媒ガスについては容器の外部へ回収し冷凍機で液化させた後に、再度、容器内へ戻している。この循環システムにより新たな冷媒の補充を減じている。
【0004】
また、例えば、特許文献2では、超電導線材を巻回した超電導コイルを積層させその中間部に伝熱板を挿着するとともに、超電導コイルの表層面に熱吸収体を装着し、伝熱板及び熱吸収体を熱輸送体を介して冷凍機に接続する超電導コイル装置を開示している。ここでは、超電導線材は間接的に冷凍機により冷却される。また、超電導コイルの励磁により超電導コイル内部に発生する熱について、伝熱板で効率よく吸収させ、結果として、超電導コイルを効率よく冷却できるとしている。
【0005】
ところで、超電導コイルの軽量化、特に、上記したような輸送機器などに搭載される超電導コイルでは、軽量化の要求が大きい。これに対して、超電導コイルの主要部品である超電導線材については、所望の超電導特性を実現する上で代替が難しい。一方、例えば、特許文献2に開示の超電導コイルのように、その巻軸には一般的なステンレス鋼が使用されており、代替も可能と考えられる。
【0006】
超電導コイルの巻軸については、コイルとしての形状保持、低温環境下及び熱履歴に対する耐性、すなわち、使用環境下における十分な機械強度の維持とともに、高い絶縁性及び熱伝導性といった物理特性の維持も要求される。ここで、巻軸の機械的強度を維持しつつ軽量化するにあたっては、ステンレス鋼のような金属材料を巻軸に使用するよりも、FRPを使用する方が有利である。しかしながら、一般的なFRPにおける強化繊維である非晶質性高分子は機械強度及び絶縁性には優れるものの、その樹脂とともに熱伝導性が非常に低く、かかる点において、超電導コイルの巻軸の材料として、FRPは金属に劣っていると考えられる。
【0007】
これに対して、非特許文献1では、高い機械強度及び絶縁性に併せ、高い熱伝導性を有するFRPとして、結晶性高分子を強化繊維に使用したエポキシ樹脂系FRPを開示している。かかるFRPによれば、従来の金属製の超電導コイルの巻軸よりも軽量でありながら機械的及び物理的な特性に優れる巻軸を与え得ると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−179443号公報
【特許文献2】特開2001−244109号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】上條弘貴、「スーパー繊維を鉄道に応用する」、RRR(公益財団法人鉄道総合技術研究所技報)、第68巻11号、2011年11月号、第6〜9頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2のいずれのタイプの超電導コイルにあっても、超電導コイルを効率よく安定的に冷却するためには、超電導線材に接する又は隣接する巻軸において、熱伝導性が良好であって大きな熱異方性を有しないことが好ましい。ここで、非特許文献1では、平織したクロスを起毛処理させることで繊維の伸びる方向だけでなく、これと直交する厚さ方向への熱伝導性を高め得て、熱異方性を抑制し得ることを述べている。
【0011】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、FRPからなる超電導コイル用巻軸であって、熱異方性が低く、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による超電導コイル用巻軸の製造方法は、繊維強化複合材料からなる超電導コイル用巻軸の製造方法であって、熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布のシート体に硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、前記プリプレグ中の前記シート体を起毛させる起毛ステップと、前記プリプレグを所定の形状に成形した後に前記硬化樹脂を硬化させる成形ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、超電導コイル用巻軸としての絶縁性を損なうことなく、軽量化を達成できるとともに熱異方性をより低く抑えて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができるのである。
【0014】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記プリプレグの複数を重ね合わせて前記高強度絶縁性長繊維で前記シート体同士を架橋させるように起毛させるステップであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、熱異方性を低く抑えて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができる。
【0015】
上記した発明において、前記プリプレグを重ね合わせるにあたって、前記高強度絶縁性長繊維からなる追加繊維をその間に分散させるステップを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、熱異方性をより低く抑えることができて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができる。
【0016】
また、本発明による超電導コイル用巻軸の他の製造方法は、繊維強化複合材料からなる超電導コイル用巻軸の製造方法であって、熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布のシート体を起毛させる起毛ステップと、前記シート体に硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、前記プリプレグを巻軸型の周囲に配置した上で前記硬化樹脂を硬化させる硬化ステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
かかる発明によれば、超電導コイル用巻軸としての絶縁性を損なうことなく、軽量化を達成できるとともに熱異方性をより低く抑えて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができるのである。
【0018】
また、本発明による超電導コイル用巻軸の他の製造方法は、繊維強化複合材料からなる超電導コイル用巻軸の製造方法であって、熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布のシート体を巻軸型の周囲に配置した上で起毛させる起毛ステップと、前記シート体に硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、前記硬化樹脂を硬化させる硬化ステップと、を含むことを特徴とする。
【0019】
かかる発明によれば超電導コイル用巻軸としての絶縁性を損なうことなく、軽量化を達成できるとともに熱異方性をより低く抑えて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができるのである。
【0020】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記シート体の複数を重ね合わせて前記高強度絶縁性長繊維でこれらを架橋させるように起毛させるステップであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、熱異方性を低く抑えて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができる。
【0021】
上記した発明において、前記シート体を重ね合わせるにあたって、前記高強度絶縁性長繊維からなる追加繊維をその間に分散させるステップを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、熱異方性をより低く抑えることができて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができる。
【0022】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記シート体を貫くようにニードルを抜き差しし起毛処理するステップを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、熱異方性を容易に低く抑え得て、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を製造することができる。
【0023】
また、本発明による超電導コイル用巻軸は、上記した製造方法によって得られることを特徴とする。かかる発明によれば、超電導コイル用巻軸としての絶縁性を損なうことなく、軽量化を達成できるとともに、熱異方性をより低く抑えて、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸を得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による超電導コイル用巻軸の斜視図である。
【
図2】本発明による超電導コイル用巻軸を含む超電導コイルの斜視図である。
【
図3】本発明による超電導コイル用巻軸の要部の断面図である。
【
図4】本発明による超電導コイル用巻軸に使用される織布の上面図である。
【
図5】本発明による製造方法を示すフロー図である。
【
図6】本発明による製造方法における積層させるプリプレグの斜視図である。
【
図7】本発明による製造方法におけるプリプレグの積層体の断面図である。
【
図8】プリプレグを巻き合わせた巻軸型の斜視図である。
【
図9】本発明による超電導コイル用巻軸に使用される不織布の断面図である。
【
図10】本発明による他の製造方法を示すフロー図である。
【
図11】本発明による他の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による1つの実施例としての超電導コイル用巻軸について、
図1乃至
図4を用いてその詳細を説明する。
【0026】
図1及び
図2に示すように、超電導コイル用巻軸10は、中空の円筒形状を有しており、その外周面に超電導線材1を絶縁体テープとともに巻回して、いわゆる「パンケーキコイル型」と称される超電導コイル20を与える。超電導コイル20は巻回の端部に電極11、12を備える。
【0027】
図3に示すように、超電導コイル用巻軸10は、半径方向へ層を重ねた積層体であって、硬化樹脂部7の間にシート体5をサンドイッチした複合樹脂体9を1つの層単位とした繊維強化複合材料積層体である。なお、
図3では、硬化樹脂部7の厚さ方向中央であってその主面と略平行な仮想平面P1に沿ってシート体5を埋入させているが、シート体5の位置は適宜、硬化樹脂部7の厚さ方向に調整可能である。硬化樹脂部7は、絶縁性の高い、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂からなる。
【0028】
図4を併せて参照すると、シート体5は、高い絶縁性と熱伝導性とを兼ね備える高強度絶縁性長繊維、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維からなる長繊維束4を少なくとも互いに熱的に接触するように、縦横に直交させて平織り固定させた織布である。ここで、長繊維束4は必要に応じて開繊処理されて帯状にした後に平織りされる。なお、長繊維束4は帯状でなくとも、その断面形状を円形や異形状としてもよく、シート体5の織り方は、例えば、綾織、朱子織であってもよい。更に、縦糸部2及び横糸部3は、互いに材質や太さなどを異なるようにしてもよく、それぞれの間隔、互いの交差角度などはシート体5に要求される機械強度によって適宜変更され得る。
【0029】
再び、
図3を参照すると、積層されて隣り合う複合樹脂体9同士の間には、追加繊維8が挿入されて分散して配置されている。追加繊維8は、長繊維束4と同様に、絶縁性を有する熱伝導性の高い長繊維であって、これを短く切断した短繊維(チョップドストランド)として与えられている。
【0030】
縦糸部2及び/又は横糸部3の長繊維束4は、その表面から突き出した起毛6を有する。起毛6は硬化樹脂部7の内部において、複合樹脂体9の主面に略垂直方向に向けて延びている。起毛6は、長繊維束4と比較して細い径の線状体である。起毛6の1本1本は、隣接する複合樹脂体9に含まれる長繊維束4の表面から延びる他の起毛6と互いに接触し又は絡み合い、又は隣接する複合樹脂体9に含まれる長繊維束4に接触し、隣り合う2つの複合樹脂体9内のシート体5同士を熱的に架橋させている。
【0031】
ここで、シート体5は、縦糸部2及び横糸部3の高い熱伝導性を有する長繊維束4により、その主面に沿った方向に高い熱伝導性を有している。更に、シート体5同士は高い熱伝導性を有する長繊維束4及び/又は起毛6を介して熱的に架橋されている。故に、超電導コイル用巻軸10は、等方的に高い熱伝導性を有し、熱異方性を低く抑えられるのである。また、追加繊維8も起毛6を有し、上記したと同様に熱的な架橋の密度を高め、超電導コイル用巻軸10の熱異方性を低く抑え得る。
【0032】
[第1の製造方法]
次に、上記した超電導コイル用巻軸10の製造方法について、
図5に沿って
図6乃至
図8を適宜、用いて説明する。
【0033】
第1の製造方法では、まず、薄板状のプリプレグ9’(
図6参照)を得る(S1:プリプレグ形成ステップ)。プリプレグ9’は後述するように、最終的に硬化させて複合樹脂体9を与える。
【0034】
続いて、
図6に示すように、必要に応じて複数枚のプリプレグ9’を積層させていく(S2:積層ステップ)。積層させるプリプレグ9’の枚数は、超電導コイル用巻軸10の寸法とプリプレグ9’の厚さとで決定され、積層せずに単一のプリプレグ9’であってもよい。必要に応じて、追加繊維8はプリプレグ9’同士の間に挿入される。詳細には、プリプレグ9’の一方の主面上に追加繊維8を分散させるように配置し、これを挟んでプリプレグ9’を重ね合わせる。
【0035】
続いて、
図7に示すように、積層させたプリプレグ9’に、ニードルパンチを施して長繊維束4及び/又は追加繊維8に起毛6を与える(S3:起毛ステップ)。ここで、ニードルパンチは、微小突起を有する針(ニードル)をプリプレグ9’の厚さ方向、すなわちシート体5の厚さ方向に突き刺し、抜き取る動作を繰り返し与えて、長繊維束4及び/又は追加繊維8を引っ掛けるようにして起毛6を与えるものである。これにより、ニードルパンチを施す前のプリプレグ9’の積層体を示す
図7(a)に対して、
図7(b)に示すように、長繊維束4及び/又は追加繊維8の一部が分岐して、プリプレグ9’の積層体に針の往復動の方向である厚さ方向に延びる起毛6を形成させ、隣り合うシート体5同士を起毛6で架橋させ得るのである。また、追加繊維8は、プリプレグ9’の厚さ方向に向きを変化させ、隣り合うシート体5の双方を熱的に架橋させ得る。
【0036】
続いて、
図8に示すように、プリプレグ9’の積層体を、例えば、略円筒状体の巻軸金型30の周囲に巻き付けるなどして、所定の形状に成形する(S4:成形ステップ)。最後に、成形したプリプレグ9’を加熱処理して樹脂7’を硬化させ、複合樹脂体9からなる超電導コイル用巻軸10を得る(S5:硬化ステップ)。
【0037】
以上、本実施例による超電導コイル用巻軸10は、高強度絶縁性長繊維である長繊維束4からなるシート体5によって硬化樹脂部7を強化した繊維強化複合材料である複合樹脂体9によって形成されている。故に、軽量で高い絶縁性を有しつつ、低温環境下及びこれに伴う熱履歴に対する耐性、すなわち超電導コイルとして要求される形状を保持するための高い機械強度を有する。また、熱伝導性を有するシート体5をその厚さ方向に起毛させて隣り合うシート体5同士を熱的に架橋させて、超電導コイル用巻軸10の熱異方性を低く抑えている。つまり、超電導コイル用巻軸10は、機械的及び物理的な特性に優れる。特に、シート体5はプリプレグの状態で起毛6を形成し、起毛6による架橋構造を安定させ、隣り合うシート体5同士の熱伝導を安定的に高め得る。また、熱膨張係数の小さい長繊維束4によれば、上記したような超電導コイルの使用時の熱履歴に対して超電導コイル用巻軸10の寸法変化を小さくできて、高い動作安定性を与えられ好ましい。
【0038】
また、超電導コイル用巻軸10は、非磁性であり、超電導コイルの稼働により磁化せず、誤差磁場の発生原因とならず、超電導コイル用の巻軸として優れた物理的特性を有するのである。
【0039】
なお、上記した実施例では、シート体5に織布を用いたが、
図9に示すような、繊維14をフェルト状に集積させて固定させた不織布を用いてもよい。繊維14は、長繊維束4と同様に、絶縁性を有しつつ熱伝導性の高い高強度絶縁性長繊維からなる。詳細には、
図9(a)を参照すると、シート体5’の内部において繊維14同士はランダムな方向を向いて絡み合っている。若しくは、
図9(b)を参照すると、シート体5’の内部において、繊維14同士はランダムに交絡しながらも仮想平面P1に沿うようにして配置されている。繊維14により、超電導コイル用巻軸10の熱異方性を低く抑え、起毛ステップS3において形成される起毛6の量を調整し得るのである。かかる構造では、所定の熱伝導性を付与するために形成させる起毛6の量を相対的に少なくでき、起毛ステップS3における作業時間を削減できる。
【0040】
また、超電導コイル用巻軸は上記した円筒形に限らず、プリプレグによって成形できる形状であればよい。特に、起毛6によって熱異方性を低く抑え得るので、物理的特性を犠牲にすることなく、成形し得る巻軸の形状は比較的、自由度に富むのである。
【0041】
[第2の製造方法]
次に、超電導コイル用巻軸10の他の製造方法について、
図10に沿って説明する。
【0042】
第2の製造方法では、必要に応じて複数枚の織布によるシート体5を積層させていく(S11:積層ステップ)。積層させるシート体5の枚数は、超電導コイル用巻軸10の寸法と積層されたシート体5によって得られるプリプレグ9’の厚さとで決定され、積層せずに単一のシート体5であっても良い。必要に応じて、追加繊維8はシート体5同士の間に挿入される。詳細には、シート体5の一方の主面上に追加繊維8を分散させるように配置し、これを挟んでシート体5を重ね合わせる。
【0043】
続いて、積層させたシート体5に、ニードルパンチを施して長繊維束4及び/又は追加繊維8に起毛6を与える(S12:起毛ステップ)。起毛ステップS12については、第1の製造方法で説明した起毛ステップS3と同様である。なお、追加繊維8を挿入すると、シート体5は樹脂7’を含まず、追加繊維8を厚さ方向に起立させてシート体5同士の架橋を促進させ、厚さ方向の熱伝導性を高め得る。
【0044】
続いて、積層・起毛させたシート体5に熱硬化性樹脂を含浸させ、これを加熱乾燥させて半硬化したプリプレグ9’(
図7(b)参照)の積層体を得る(S13:プリプレグ形成ステップ)。
【0045】
さらに、プリプレグ9’の積層体を略円筒状体の巻軸金型30(
図8参照)の周囲に配置する(S14:配置ステップ)。最後に、配置したプリプレグ9’を加熱処理して樹脂7’を硬化させ、複合樹脂体9からなる、超電導コイル用巻軸10を得る(S15:硬化ステップ)。
【0046】
かかる製造方法によっても、第1の製造方法と同様に、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル10を得ることができる。特に、シート体5に樹脂の含浸に先だって起毛6を形成させ、起毛6の量を比較的容易に増加させ得て、シート体5同士の厚さ方向の熱伝導率を調整できる。なお、第1の製造方法と同様に、織布の代わりに繊維14をフェルト状に集積させて固定させた不織布(
図9参照)をシート体5’として用いてもよい。
【0047】
[第3の製造方法]
次に、超電導コイル用巻軸10のさらに他の製造方法について、
図11に沿って説明する。
【0048】
第3の製造方法では、まず、織布によるシート体5を中実の巻軸金型30(
図8参照)の周囲に配置する(S21:配置ステップ)。シート体5は必要に応じて積層してもよい。積層させるシート体5の枚数は、超電導コイル用巻軸10の寸法とシート体5によって得られる複合樹脂体9の厚さとで決定され、積層させずに単一のシート体5であってもよい。必要に応じて、第2の製造方法と同様に、追加繊維8がシート体5同士の間に挿入される。
【0049】
続いて、巻軸金型30の周囲に配置されたシート体5の周囲からニードルパンチを施して長繊維束4及び/又は追加繊維8に起毛6を与える(S22:起毛ステップ)。起毛ステップS22については、第2の製造方法で説明した起毛ステップS12と同様である。
【0050】
続いて、巻軸金型30上で起毛されたシート体5に、熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱乾燥により半硬化させて、超電導コイル用巻軸10の形状に成形されたプリプレグ9’(
図7(b)参照)の積層体を得る(S23:プリプレグ形成ステップ)。最後に、プリプレグ9’の積層体を加熱処理して樹脂7を硬化させ、複合樹脂体9からなる超電導コイル用巻軸10を得る(S24:硬化ステップ)。
【0051】
かかる製造方法によっても、第1及び第2の製造方法と同様に、機械的及び物理的な特性に優れる超電導コイル用巻軸10を得ることができる。なお、第1及び第2の製造方法と同様に、織布の代わりに繊維14をフェルト状に集積させて固定させた不織布(
図9参照)をシート体5’として用いてもよい。
【0052】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0053】
2 縦糸部
3 横糸部
4 長繊維束
5、5’ シート体
6 起毛
7 硬化樹脂部
7’ 樹脂
8 追加繊維
9 複合樹脂体
9’ プリプレグ
10 超電導コイル用巻軸