(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297845
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】超電導コイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/06 120
H01F6/06 150
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-13632(P2014-13632)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-141989(P2015-141989A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】514025111
【氏名又は名称】昭和化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500152267
【氏名又は名称】丸八株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】上條 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】立花 敏行
(72)【発明者】
【氏名】菅原 寿秀
【審査官】
井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−140900(JP,A)
【文献】
特開2011−108918(JP,A)
【文献】
特開2012−186242(JP,A)
【文献】
特開2012−186241(JP,A)
【文献】
特開平11−005856(JP,A)
【文献】
特開平07−130532(JP,A)
【文献】
特開2011−014830(JP,A)
【文献】
特開2008−140905(JP,A)
【文献】
特開2008−130785(JP,A)
【文献】
特開平11−228717(JP,A)
【文献】
特開昭61−194252(JP,A)
【文献】
米国特許第05217796(US,A)
【文献】
特開2011−025626(JP,A)
【文献】
実開昭62−005923(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材に絶縁テープを重ね合わせた帯状体からなる複合線材を巻回した超電導コイルであって、
前記絶縁テープは、絶縁性の硬化樹脂部の間に熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布からなるシート体をサンドイッチした複合樹脂体を1つの層単位として単層又は積層させてなるとともに、前記硬化樹脂部の内部において前記複合樹脂体の主面に略垂直方向に向けて延びる前記高強度絶縁性長繊維の表面から突き出す起毛を与えられていることを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
絶縁性の硬化樹脂部の間に熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布からなるシート体をサンドイッチした複合樹脂体を1つの層単位として単層又は積層させてなるとともに、前記硬化樹脂部の内部において前記複合樹脂体の主面に略垂直方向に向けて延びる前記高強度絶縁性長繊維の表面から突き出す起毛を与えられている絶縁テープを超電導線材に重ね合わせた帯状体からなる複合線材を巻回した超電導コイルの製造方法であって、
前記シート体に前記硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、
前記プリプレグ中の前記シート体を起毛させる起毛ステップと、
前記プリプレグを前記超電導線材とともに巻合わせる巻合ステップと、
前記硬化樹脂を硬化させる硬化ステップと、を含むことを特徴とする超電導コイルの製造方法。
【請求項3】
前記起毛ステップは、前記プリプレグの複数を重ね合わせて前記起毛で前記シート体同士を架橋させるように起毛させるステップであることを特徴とする請求項2記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項4】
前記起毛ステップは、前記プリプレグを重ね合わせるにあたって、前記高強度絶縁性長繊維からなる追加繊維をその間に分散させるステップを含むことを特徴とする請求項3記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項5】
絶縁性の硬化樹脂部の間に熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布からなるシート体をサンドイッチした複合樹脂体を1つの層単位として単層又は積層させてなるとともに、前記硬化樹脂部の内部において前記複合樹脂体の主面に略垂直方向に向けて延びる前記高強度絶縁性長繊維の表面から突き出す起毛を与えられている絶縁テープを超電導線材に重ね合わせた帯状体からなる複合線材を巻回した超電導コイルの製造方法であって、
前記シート体を起毛させる起毛ステップと、
前記シート体に前記硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、
前記プリプレグを前記超電導線材とともに巻合わせる巻合ステップと、
前記硬化樹脂を硬化させる硬化ステップと、を含むことを特徴とする超電導コイルの製造方法。
【請求項6】
前記起毛ステップは、前記シート体の複数を重ね合わせて前記起毛でこれらを架橋させるように起毛させるステップであることを特徴とする請求項5記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項7】
前記起毛ステップは、前記シート体を重ね合わせるにあたって、前記高強度絶縁性長繊維からなる追加繊維をその間に分散させるステップを含むことを特徴とする請求項6記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項8】
前記起毛ステップは、前記シート体を貫くようにニードルを抜き差しし起毛処理するステップを含むことを特徴とする請求項2乃至7のうちの1つに記載の超電導コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル及びその製造方法に関し、特に、高い動作安定性を有する超電導コイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導特性を利用した超電導コイルが各種産業機械への適用を検討されている。超電導コイルは、所定の超電導線材を巻回し該線材を超電導特性を呈する温度まで冷却する冷却システムと組み合わせて使用される。
【0003】
例えば、特許文献1は、超電導線材を巻回した超電導コイルを積層させその中間部に伝熱板を挿着するとともに、超電導コイルの表層面に熱吸収体を装着して、伝熱板及び熱吸収体を熱輸送体を介して冷凍機に接続する超電導コイル及び冷却システムを開示している。ここでは超電導コイルの線材を間接的に冷凍機によって冷却している。また、特許文献2は、超電導コイルを容器内に満たされた液体ヘリウムなどの冷媒に浸漬し、超電導コイルの線材を冷媒に直接接触させて冷却する超電導コイル及び冷却システムを開示している。かかる冷却システムでは、容器内で蒸発した冷媒ガスを外部へ回収し冷凍機で液化させた後に、再度、容器内へ戻している。
【0004】
超電導線材を直接的又は間接的に冷却する特許文献1又は2のいずれのタイプの超電導コイルであっても、超電導線材同士を絶縁しながらこれを巻回する必要がある。かかる絶縁処理の方法として、超電導線材とともにプリプレグ絶縁材をコイル状に巻回し超電導線材同士を強く面接触させながら加熱処理して硬化させる方法や、超電導線材を巻回し絶縁樹脂を注入し硬化させる方法などが知られている。
【0005】
例えば、特許文献3では、無機繊維を主体にした紙状の絶縁体シートを超電導線材と重ね合わせて巻回することが開示されている。ここで、超電導線材同士を絶縁する絶縁体シートにおける必要な特性として、絶縁性能を確保しつつも充分に薄く、超電導線材とともに巻回できる柔軟性を有し、超電導線材を焼成する必要がある場合においては巻回後600℃以上の熱処理に耐え且つ超電導線材と反応しないこと、などが要求されると述べている。また、特許文献4では、絶縁体シートを与えることとなるプリプレグ絶縁材として、低い熱収縮率の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維からなる織布に未硬化のエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグ絶縁材が好ましいとしている。
【0006】
ところで、非特許文献1では、高い機械強度、絶縁性及び熱伝導性を有するとともに、低熱膨張係数の結晶性高分子を強化繊維に使用したエポキシ樹脂系FRPを開示している。かかるFRPを上記した絶縁体シートに使用することが考慮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−244109号公報
【特許文献2】特開2004−179443号公報
【特許文献3】特開平8−222430号公報
【特許文献4】特開2008−140900号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】上條弘貴、「スーパー繊維を鉄道に応用する」、RRR(公益財団法人鉄道総合技術研究所技報)、第68巻11号、2011年11月号、第6〜9頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
超電導コイルの動作安定性を確保するためには、超電導線材を所定の温度に冷却するとともにこれを維持することが必要である。また、非特許文献1の結晶性高分子を強化繊維に使用したエポキシ樹脂系FRPを絶縁体シートに採用する上では、超電導コイルの動作安定性を確保するよう、超電導線材及び絶縁体シートの間で生じる熱応力の低減、及び、動作熱による熱変動の吸収を考慮することも必要となる。
【0010】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高い動作安定性を有する超電導コイル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による超電導コイルの製造方法の1つは、熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布のシート体に硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、前記プリプレグ中の前記シート体を起毛させる起毛ステップと、前記プリプレグを超電導線材とともに巻合わせる巻合ステップと、前記硬化樹脂を硬化させる硬化ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、巻合わせたプリプレグを硬化させて得られる絶縁体において、超電導コイルの軸方向及び周方向の高い熱伝導性に加え半径方向にも良好な熱伝導性を付与できて、超電導線材を冷却する上でその動作熱の吸収を良好に行い得る。よって、超電導線材及び絶縁体の間で生じる熱応力を低減でき、高い動作安定性を有する超電導コイルを提供できる。
【0013】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記プリプレグの複数を重ね合わせて前記高強度絶縁性長繊維で前記シート体同士を架橋させるように起毛させるステップであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、得られる絶縁体の半径方向の熱伝導性を良好にしつつ絶縁体の厚さを調整し、超電導線材及び絶縁体の間で生じる熱応力を緩和し得て、高い動作安定性を有する超電導コイルを提供できる。
【0014】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記プリプレグを重ね合わせるにあたって、前記高強度絶縁性長繊維からなる追加繊維をその間に分散させるステップを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、重ね合わせたプリプレグを硬化させて得られる絶縁体の厚さ方向の熱伝導性をさらに向上させ得て、より高い動作安定性を有する超電導コイルを提供できる。
【0015】
本発明による超電導コイルの製造方法の他の1つは、熱伝導性の高強度絶縁性長繊維からなる織布又は不織布のシート体を起毛させる起毛ステップと、前記シート体に硬化樹脂を塗布し含浸させてこれを半硬化させたプリプレグを得るプリプレグ形成ステップと、前記プリプレグを超電導線材とともに巻合わせる巻合ステップと、前記硬化樹脂を硬化させる硬化ステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
かかる発明によれば、巻合わせたプリプレグを硬化させて得られる絶縁体において、軸方向及び周方向の高い熱伝導性に加え半径方向にも良好な熱伝導性を付与できて、超電導コイルの動作熱の吸収を良好に行い得る。よって、超電導線材及び絶縁体の間で生じる熱応力を低減でき、高い動作安定性を有する超電導コイルを提供できる。
【0017】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記シート体の複数を重ね合わせて前記高強度絶縁性長繊維でこれらを架橋させるように起毛させるステップであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、得られる絶縁体の半径方向の熱伝導性を良好にしつつ絶縁体の厚さを調整し、超電導線材及び絶縁体の間で生じる熱応力を緩和し得て、高い動作安定性を有する超電導コイルを提供できる。
【0018】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記シート体を重ね合わせるにあたって、前記高強度絶縁性長繊維からなる追加繊維をその間に分散させるステップを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば重ね合わせたシート体から得られる絶縁体の厚さ方向の熱伝導性をさらに向上させ得て、より高い動作安定性を有する超電導コイルを提供できる。
【0019】
上記した発明において、前記起毛ステップは、前記シート体を貫くようにニードルを抜き差しし起毛処理するステップであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、良好な起毛を形成でき、より高い動作安定性を有する超電導コイルを提供できる。
【0020】
また、本発明による超電導コイルは、上記した超電導コイルの製造方法によって製造されることを特徴とする。
【0021】
かかる発明によれば、超電導線材を絶縁する絶縁体の半径方向の熱伝導性を良好にしつつ絶縁体の厚さを調整し、超電導線材及び絶縁体の間で生じる熱応力を緩和し得て、高い動作安定性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】本発明による製造した超電導コイルの要部の断面図である。
【
図3】本発明による超電導コイルに使用される織布の上面図である。
【
図4】本発明による製造方法を示すフロー図である。
【
図5】本発明による製造方法における積層させるプリプレグの斜視図である。
【
図6】本発明による製造方法におけるプリプレグの積層体の断面図である。
【
図7】本発明による超電導コイルに使用される不織布の断面図である。
【
図8】本発明による他の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による1つの実施例としての超電導コイルについて、
図1乃至
図3を用いてその詳細を説明する。
【0024】
図1に示すように、超電導コイル40は、超電導線材10に絶縁テープ11を重ね合わせた帯状体からなる複合線材20を中空の円筒体である巻軸30の外周面に巻回した、いわゆる「パンケーキコイル」と称されるコイル体である。巻軸30は、例えば、ステンレスなどの金属、セラミックス、又は、FRP(Fiber Reinforced Plastics)からなり、
図1では円筒状としたが、必要に応じて各種の形状を取り得る。超電導線材10としては、例えば、イットリウム系の超電導体を使用し得るが、その他の公知の超電導体であってもよい。
【0025】
図2に示すように、絶縁テープ11は厚さ方向へ層を重ねた積層体であって、硬化樹脂部7の間に繊維からなるシート体5をサンドイッチした複合樹脂体9を1つの層単位とした繊維強化複合材料積層体である。本実施例においては2層の複合樹脂体9を積層させているが、これは単層であってもよい。硬化樹脂部7は、絶縁性の高い、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂からなる。
【0026】
図3を併せて参照すると、シート体5は、高い絶縁性と熱伝導性とを兼ね備える高強度絶縁性長繊維、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維からなる長繊維束4を少なくとも互いに熱的に接触するように、縦横に直交させて平織り固定させた織布である。ここで、長繊維束4は必要に応じて開繊処理されて帯状にした後に平織りされている。なお、長繊維束4は帯状でなくとも、その断面形状を円形や異形状としてもよく、シート体5の織り方は、例えば、綾織、朱子織であってもよい。更に、縦糸部2及び横糸部3は、互いに材質や太さなどを異なるようにしてもよく、それぞれの間隔、互いの交差角度などはシート体5に要求される機械強度によって適宜変更され得る。
【0027】
再び、
図2を参照すると、積層して隣り合う複合樹脂体9同士の間には、追加繊維8が分散配置されている。追加繊維8は、長繊維束4と同様に、絶縁性を有する熱伝導性の高い長繊維であって、これを短く切断した短繊維(チョップドストランド)として与えられている。
【0028】
縦糸部2及び/又は横糸部3の長繊維束4は、その表面から突き出す起毛6を有し、硬化樹脂部7の内部において、複合樹脂体9の主面に略垂直方向に向けて延びている。起毛6は、長繊維束4と比較して細い径を有する線状体である。起毛6の1本1本は、隣接する複合樹脂体9に含まれる長繊維束4の表面から延びる他の起毛6と互いに接触し又は絡み合い、又は隣接する複合樹脂体9に含まれる長繊維束4に接触し、各複合樹脂体9内のシート体5同士を熱的に架橋している。
【0029】
ここで、シート体5は、縦糸部2及び横糸部3の高い熱伝導性を有する長繊維束4により、その主面に沿った方向に高い熱伝導性を有している。更に、シート体5同士は高い熱伝導性を有する長繊維束4及び/又は起毛6を介して熱的に架橋されている。故に、絶縁テープ11はその主面に沿った方向のみならず、厚さ方向にも高い熱伝導性を有している。また、追加繊維8も起毛6を有し、上記したと同様に、熱的な架橋の密度を高め得る。
【0030】
[第1の製造方法]
次に、上記した超電導コイル40の製造方法について、
図4に沿って
図5及び
図6を適宜、用いて説明する。
【0031】
まず、熱硬化性樹脂をシート体5に含浸させ、加熱乾燥させて半硬化した薄板状のプリプレグ9’(
図5参照)を得る(S1:プリプレグ成形ステップ)。プリプレグ9’は後述するように、最終的に硬化させることで複合樹脂体9を与える。
【0032】
続いて、
図5に示すように、必要に応じて複数枚のプリプレグ9’を積層させていく(S2:積層ステップ)。積層させるプリプレグ9’の枚数は、機械強度と、絶縁テープ11としての絶縁性能とに必要とされる厚さによって決定される。故に、プリプレグ9’を積層させずに単一としてもよい。また、必要に応じて、プリプレグ9’の一方の主面上に追加繊維8を分散させるように配置し、これを挟んでプリプレグ9’を重ね合わせる。
【0033】
続いて、
図6に示すように、プリプレグ9’の積層体に、ニードルパンチを施して長繊維束4及び/又は追加繊維8に起毛6を与える(S3:起毛ステップ)。ここで、ニードルパンチは、微小突起を有する針(ニードル)をプリプレグ9’の厚さ方向、すなわちシート体5の厚さ方向に突き刺し抜き取る動作を繰り返し与えて、長繊維束4及び/又は追加繊維8を引っ掛けるようにして起毛6を与えるものである。これにより、ニードルパンチを施す前のプリプレグ9’の積層体を示す
図6(a)に対して、
図6(b)に示すように、長繊維束4及び/又は追加繊維8の一部を分岐させて、プリプレグ9’の積層体に針の往復動の方向である厚さ方向に延びる起毛6を分肢形成させ、隣り合うシート体5同士を起毛6で架橋させ得るのである。また、追加繊維8は、ニードルパンチにより、プリプレグ9’の厚さ方向に向きを変化させられて、隣り合うシート体5の双方を熱的に架橋させ得る。
【0034】
続いて、起毛させたプリプレグ9’の積層体と超電導線材10とを重ね合わせるようにして巻軸30の外周面に巻回させる(S4:巻合ステップ)。最後に、この巻合わせたプリプレグ9’を加熱処理して樹脂7’を硬化させ、複合樹脂体9からなる絶縁テープ11を形成させて、超電導コイル40を得る(S5:硬化ステップ)。
【0035】
以上、本実施例による絶縁テープ11は、高い熱伝導性を有する長繊維束4からなるシート体5をその厚さ方向に起毛させ、その主面に沿った方向に加え、厚さ方向にも高い熱伝導性を与えられる。つまり、絶縁テープ11及び超電導線材10を巻合わせた超電導コイル40は、軸方向及び周方向に高い熱伝導性を有し、また半径方向にも良好な熱伝導性を有するのである。故に、コイルの動作熱を良好に吸収し、超電導線材10及び絶縁テープ11の間で生じる熱応力を低減し、高い動作安定性を与える。また、熱膨張係数の小さい長繊維束4によれば、超電導コイル40の使用時の熱履歴に対して寸法変化が小さく、高い動作安定性を与えることとなる。
【0036】
ここで、絶縁テープ11は、高い絶縁性を有するからその厚さを薄くでき得て、厚さ方向の熱伝導性を高め得る。その一方で、絶縁テープの機械強度を高めるべく厚さを増したとしても、厚さ方向の熱伝導性を損なうこともない。つまり、絶縁テープ11の厚さに依存せず、超電導コイル40の動作安定性が維持されるのである。
【0037】
なお、上記した実施例では、シート体5に織布を用いたが、
図7に示すような、繊維14をフェルト状に集積させて固定させた不織布を用いてもよい。繊維14は、長繊維束4と同様に、絶縁性を有しつつ熱伝導性の高い高強度絶縁性長繊維からなる。詳細には、
図7を参照すると、シート体5’の内部において、繊維14同士はランダムに交絡しながらも仮想平面P1に沿うようにして配置される。かかる構造では、所定の熱伝導性を付与するために形成させる起毛6の量を相対的に少なくでき、起毛ステップS3における作業時間を削減できる。
【0038】
[第2の製造方法]
次に、超電導コイル40の他の製造方法について、
図8に沿って説明する。
【0039】
まず、織布によるシート体5を必要に応じて積層させていく(S11:積層ステップ)。積層させるシート体5の枚数は、機械的強度と絶縁テープ11として必要とされる絶縁性能とによって決定され、積層せずに単一のシート体5であってもよい。また、必要に応じて、シート体5の一方の主面上に追加繊維8を分散させるように配置し、これを挟んでシート体5を重ね合わせてもよい。
【0040】
続いて、積層させたシート体5に、ニードルパンチを施して長繊維束4及び/又は追加繊維8に起毛6を与える(S12:起毛ステップ)。起毛ステップS12については、第1の製造方法で説明した起毛ステップS3と同様である。なお、追加繊維8を挿入すると、シート体5は樹脂7’を含まず、追加繊維8をシート体5の厚さ方向に起立させ得てシート体5同士の架橋を促進させ、厚さ方向の熱伝導性を容易に向上できる。
【0041】
続いて、積層、起毛させたシート体5に、熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱乾燥させて半硬化したプリプレグ9’(
図6(b)参照)の積層体を得る(S13:プリプレグ形成ステップ)。さらに、プリプレグ9’と超電導線材10とを重ね合わせるように巻軸30の外周面に巻回させる(S14:巻合ステップ)。最後に、この巻合わせたプリプレグ9’を加熱処理して樹脂7’を硬化させ、複合樹脂体9からなる絶縁テープ11を形成させるとともに、超電導コイル40を得る(S15:硬化ステップ)。
【0042】
かかる製造方法によっても、第1の製造方法と同様に、超電導線材10及び絶縁テープ11の間で生じる熱応力を低減でき、高い動作安定性を有する超電導コイル40を得ることができる。特に、シート体5への熱硬化性樹脂の含浸に先だって起毛6を形成させ、起毛6の量を比較的容易に増加させ得て、シート体5同士の厚さ方向の熱伝導率を容易に調整できる。
【0043】
なお、第1の製造方法と同様に、織布の代わりに繊維14をフェルト状に集積させて固定させた不織布(
図7参照)をシート体5’として用いてもよい。
【0044】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。例えば、複合線材20は、超電導線材10の周囲を絶縁テープ11によって被覆した帯状体とした後に、巻軸30の外周面に巻回してもよい。
【符号の説明】
【0045】
4 長繊維束
5 シート体
6 起毛
7 硬化樹脂部
7’ 樹脂
8 追加繊維
9 複合樹脂体
9’ プリプレグ
10 超電導線材
11 絶縁テープ
30 巻軸
40 超電導コイル