特許第6297866号(P6297866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297866
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】医療用複室容器
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20180312BHJP
   A61J 1/10 20060101ALI20180312BHJP
   B65D 81/32 20060101ALI20180312BHJP
   B65D 30/22 20060101ALI20180312BHJP
   B65D 77/08 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   A61J1/05 351A
   A61J1/10 333A
   B65D81/32 D
   B65D30/22 G
   B65D77/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-51078(P2014-51078)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-173767(P2015-173767A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小谷 義和
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−125063(JP,A)
【文献】 特開平01−240469(JP,A)
【文献】 特開2004−141631(JP,A)
【文献】 特開2011−072454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
A61J 1/10
B65D 30/22
B65D 77/08
B65D 81/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性シートで形成された容器本体が、対向する前記可撓性シート同士によって剥離可能に接合された仕切部と、前記仕切部によって区画された複数の薬液室とを有する医療用複室容器であって、
前記医療用複室容器の表面の前記仕切部の表面の部分には、前記仕切部の長手方向に延び、前記仕切部の開通を認識させるための直線状のラインが付されており、
前記仕切部と少なくとも1つの前記薬液室とに及ぶように、前記容器本体に絵マークが付されていて、前記直線状のラインは前記絵マークの一部を構成しており、
前記絵マークが顔を表す絵であり、
前記直線状のラインが、前記顔のうちの口を構成するものであることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記仕切部が剥離される際に、前記直線状のラインが曲線状のラインに変形することを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項3】
前記仕切部が、前記直線状のラインと交差する折り筋を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用複室容器。
【請求項4】
前記容器本体に絵マークが付されており、
前記仕切部が、対向する前記可撓性シート同士をさらに2つ折りに折り重ねた4層の積層部位を有し、前記積層部位が剥離可能に接合されており、
前記積層部位の最も内側に位置する2層の対向面に、前記絵マークの一部になっており、前記仕切部の開通により形状変化して前記仕切部の開通を認識させるためのパーツが付されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性シート同士を剥離可能に接合した仕切部によって複数の薬液室に区画されている医療用複室容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用複室容器は、例えば予め配合しておくと経時変化し易い2種の薬液を分離しておき用時に混合して患者に投与する腹膜透析や点滴のように、複数の薬液を混合して使用する医療に用いられている。医療用複室容器には、複数の薬液室に互いに異なる薬液が予め収容されている。医療用複室容器の使用を開始するときに、仕切部を剥離させて薬液室間を開通させ、複数の薬液を容器内で混合させる。混合した薬液は、医療用複室容器に設けられた薬液排出口から外部に排出され、透析や点滴に用いられる。
【0003】
このような医療用複室容器では、仕切部の開通を忘れてしまい、薬液同士を混合することなく使用してしまう可能性がある。そのため、仕切部の開通忘れを防止する対策が取られている。
【0004】
例えば特許文献1には、容器本体を透明フィルムで形成して、仕切部の開通前は薬液の液面よりも下方に位置すると共に開通後は薬液の液面よりも上方に位置する透明フィルムの領域にマークを印刷した医療用複室容器が記載されている。この医療用複室容器では、仕切部の開通前にはマークが視認し難く、開通後にはマークが視認し易くなる。このため、マークの表示の有無で開通の有無の確認が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−110385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された医療用複室容器では、仕切部の開通前後で変化する液面の変化領域内にマークを付す必要があり、大きな形状のマークを表示することができないため、マークの視認性に限度がある。又、仕切部の開通前にはマークが表示されていないため、開通後にマークが表示されることを忘れていると、開通していないことを直感的に認識できない。そのため、開通せずにそのまま使用してしまうことも考えられる。
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、仕切部の開通を表すためのマークの視認性に優れ、仕切部が開通していないことを直感的に認識することのできる医療用複室容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた本発明の医療用複室容器は、可撓性シートで形成された容器本体が、対向する前記可撓性シート同士によって剥離可能に接合された仕切部と、前記仕切部によって区画された複数の薬液室とを有する医療用複室容器であって、前記医療用複室容器の表面の前記仕切部の表面の部分には、前記仕切部の長手方向に延び、前記仕切部の開通を認識させるための直線状のラインが付されており、前記仕切部と少なくとも1つの前記薬液室とに及ぶように、前記容器本体に絵マークが付されていて、前記直線状のラインは前記絵マークの一部を構成しており、前記絵マークが顔を表す絵であり、前記直線状のラインが、前記顔のうちの口を構成するものであることを特徴とする。
【0009】
仕切部が剥離される際に、前記直線状のラインが曲線状のラインに変形することが好ましい。
【0012】
仕切部が、前記直線状のラインと交差する折り筋を有していることが好ましい。
【0013】
容器本体に絵マークが付されており、前記仕切部が、対向する前記可撓性シート同士をさらに2つ折りに折り重ねた4層の積層部位を有し、前記積層部位が剥離可能に接合されており、前記積層部位の最も内側に位置する2層の対向面に、前記絵マークの一部になっており、前記仕切部の開通により形状変化して前記仕切部の開通を認識させためのパーツが付されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用複室容器によれば、仕切部の表面に、仕切部の長手方向に延びる直線状のラインが付されていることにより、直線状のラインは視認性に優れ目立つため、開通前の直線状のラインを視認することで仕切部が開通していないことを直感的に認識することができる。そのため、仕切部の開通忘れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を適用する医療用複室容器の正面図である。
図2】本発明を適用する医療用複室容器の縦切断端面図である。
図3】本発明を適用する医療用複室容器の使用状態を示す正面図である。
図4】本発明を適用する医療用複室容器の使用状態を示す縦切断端面図である。
図5】本発明を適用する医療用複室容器の使用状態を示す仕切部の位置の横切断端面図である。
図6】本発明を適用する別な医療用複室容器の仕切部の位置の横切断端面図である。
図7】本発明を適用する別な医療用複室容器の使用状態を示す仕切部の位置の横切断端面図である。
図8】本発明を適用する別な医療用複室容器の使用状態を示す正面図である。
図9】本発明を適用するさらに別な医療用複室容器の正面図である。
図10】本発明を適用するさらに別な医療用複室容器の縦切断端面図である。
図11】本発明を適用するさらに別な医療用複室容器の使用状態を示す縦切断端面図である。
図12】本発明を適用するさらに別な医療用複室容器の使用状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0017】
図1に、本発明を適用する医療用複室容器1の一形態の正面図を示す。医療用複室容器1は、一例として、2液を混合して使用する腹膜透析液を収容するものである。医療用複室容器1は、第1の薬液室3、仕切部4、第2の薬液室5、第1の端部6、及び第2の端部7を有する容器本体2を備えている。又、医療用複室容器1は、第1の薬液室3に収容された第1の薬液17、第2の薬液室5に収容された第2の薬液18、及び、容器本体2から混合薬液を排出するための薬液排出部材8を備えている。
【0018】
腹膜透析液の場合、一例として、第1の薬液17はブドウ糖などの浸透圧物質を主成分とし低浸透圧比のもので、第2の薬液18は塩化ナトリウムと乳酸ナトリウムを主成分とし高浸透圧比のものである。この場合、第1の薬液17の方が第2の薬液18よりも量が多いので、第1の薬液室3の方が第2の薬液室5よりも形状が大きく形成されている。このため、仕切部4は、略長方形状の容器本体2の中央部よりも第2の薬液室5側(図の下側)に位置して形成されている。
【0019】
第1の薬液室3側の第1の端部6には、薬液排出部材8及び薬液注入口になる薬液注入部材13が設けられている。薬液注入部材13は、シリンジの針を穿刺可能なゴム状の栓で封止されている。第1の端部6には、容器吊下用の孔14が形成されている。第2の端部7には、容器吊下用の孔15が形成されている。尚、これらは腹膜透析液用の公知の医療用複室容器と同様のものであるため、詳細な説明を省略する。
【0020】
同図に示すように、医療用複室容器1は、仕切部4と、少なくとも第1の薬液室3とに及ぶように、外部から視認可能に、容器本体2の表面に絵マーク21が付されて表示されている。同図に示すように、絵マーク21が、仕切部4、第1の薬液室3、及び第2の薬液室5の全てに及ぶように容器本体2に付されていてもよい。絵マーク21は、絵で構成されたマーク(印、記号、絵記号)である。同図には、絵マーク21が顔を模式的に表す絵である例を示している。絵マーク21は、顔の絵を構成するパーツ(絵の構成部品)として、顔の輪郭22、一対の目23、及び口24を有している。
【0021】
顔の輪郭22は、一例として、略長方形の枠線で構成されている。顔の輪郭22は、第1の薬液室3、仕切部4、及び第2の薬液室5に及んで付されている。顔の輪郭22で囲まれた領域内に、一対の目23、及び口24が配置されている。目23は、一例として、塗りつぶした楕円形状で構成されている。一対の目23は、第1の薬液室3に付されている。口24は、直線状のライン25を含んで構成されている。口24は、容器本体2の表面の仕切部4の表面の部分に付されている。直線状のライン25は、仕切部4の長手方向に沿って延びている。つまり、直線状のライン25は、容器本体2を横断する方向に沿って配置されている。直線状のライン25の太さは、任意の太さで形成することができる。同図に示すように、口24が、直線状のライン25の両端に、短い長さの斜め線状のライン26,26を有して構成されていてもよい。斜め線状のライン26,26は、互いの距離が目23側で近くなるように、直線状のライン25に対して斜めに傾けられて配置されている。斜め線状のライン26として、円弧状に曲がった線(円弧状線)又は直線状の線を用いる。
【0022】
仕切部4に、絵マーク21と共にマーク29が付されていてもよい。マーク29は、図形、文字、記号である。マーク29が絵マークであってもよい。同図では、マーク29として、直線状のラインが付された例を示している。マーク29は、直線状のライン25の延長線上に、ライン25から間隔を開けて付されている。マーク(直線状のライン)29、直線状のライン25、マーク(直線状のライン)29のように間隔を開けて直線上に並んで配置されていることで、仕切部4に破線が表示されているように見える。このため、仕切部4の位置を一層目立たせることができる。同図では、マーク29を2つ付した例を示しているが、2以上の複数のマーク29を付してもよい。
【0023】
図2に、図1中のA−A線における医療用複室容器1の縦切断端面図を示す。容器本体2は、熱可塑性樹脂製の可撓性シート31によって形成されている。この例では、可撓性シート31を丸めて得られる筒状体を平らに潰すようにして用いることで、可撓性シート31a,31b同士が対向している。尚、2枚の別個の可撓性シート31a,31bを重ね合わせて対向させたり、1枚の平坦な可撓性シートを2つに折り重ねたりすることで、可撓性シート31a,31b同士が対向する容器本体2を形成してもよい。この場合、可撓性シート31a,31bの側部を剥離不能に接合して閉じればよい。
【0024】
可撓性シート31の材料には、公知の医療用の材料を用いることができる。例えば可撓性シート31の材料として、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂のような熱可塑性樹脂が挙げられる。透明な可撓性シート31を用いることが、第1の薬液17及び第2の薬液18の視認性の観点から好ましい。
【0025】
仕切部4は、対向する可撓性シート31a,31b同士を剥離可能に接合して形成されている。仕切部4は、公知の医療用複室容器と同様に接合することで形成できる。例えば、可撓性シート31a,31b同士を剥離可能に弱く溶着(弱シール)することで仕切部4を形成する。溶着は、融着とも言われている。溶着には、熱溶着、超音波溶着、誘導溶着などの公知の方法を用いることができる。可撓性シート31a,31b同士を接着剤又は接着シートによって剥離可能に接着することで、仕切部4を形成してもよい。
【0026】
仕切部4によって容器本体2が区画され、容器本体2に第1の薬液室3及び第2の薬液室5が形成されている。仕切部4の可撓性シート31a,31bは平坦に形成されている。
【0027】
第1の端部6は、対向する可撓性シート31a,31b同士を剥離不能に接合して形成されている。同様に、第2の端部7は、対向する可撓性シート31a,31b同士を剥離不能に接合して形成されている。接合は、例えば強シールのような公知の溶着方法により行うことができる。溶着には、熱溶着、超音波溶着、誘導溶着などの公知の方法を用いることができる。第1の端部6により、第1の薬液17を収容する第1の薬液室3が液密に閉じられている。第1の端部6には、薬液排出部材8及び薬液注入部材13(図1参照)が、対向する可撓性シート31a,31bの間に挟まれて接合されることで、設けられている。
【0028】
絵マーク21(図1参照)は、図2中の可撓性シート31aの領域Bに付されている。絵マーク21は、容器本体2を製造する前の平坦な状態の可撓性シート31aに、インキを印刷して付して形成することが好ましい。可撓性シート31aには、図示しないが、製品名や内容量、使用上の注意等を示す文字やマークが印刷されるため、製品名等と共に印刷することで、絵マーク21を可撓性シート31aに簡便に付すことができる。尚、図示しないが、絵マーク21をシール状のフィルムに印刷し、このフィルムを平坦な状態の可撓性シート31aに密着して貼り付けて付してもよい。
【0029】
次に、医療用複室容器1の使用方法について説明する。
【0030】
図1図2に示すように、使用前の状態の医療用複室容器1は、仕切部4が平坦に形成されている。このため、図1に示すように、口24を構成する直線状のライン25が、真っ直ぐになっている。口24の形状によって顔の絵の感情を表現することができる。この絵マーク21は、口24が真っ直ぐの状態であるので、特別な感情を表現しておらず、通常(平常)の顔である。このように通常の顔で絵マーク21が表示されているときは、仕切部4が未開通であることを表している。使用者は、通常の顔の絵マーク21を視認することで、絵マーク21が付されていることの意味を思い出し、仕切部4が開通していないことを直感的に理解することができる。そのため、仕切部4の開通忘れを確実に防止することができる。
【0031】
絵マーク21は、仕切部4及び少なくとも第1の薬液室3に及ぶ形状であるため、比較的大きな形状で形成できる。そのため、絵マーク21は、視認性に優れたものになっている。操作者は、絵マーク21を見逃すことなく確実に視認して、仕切部4の開通忘れを防止することができる。
【0032】
図3に示すように、操作者は、使用を開始する直前に、医療用複室容器1の第1の薬液室3側を手91で強くつかみ第1の薬液17(図2参照)を仕切部4側へ押し出すように圧力をかけて押し潰す。この状態における医療用複室容器1の縦切断端面図(図1のA−A線に対応)を図4に示し、仕切部4の位置における横切断端面図を図5に示す。
【0033】
操作者が第1の薬液室3側を押し潰すことで、図4に示すように、仕切部4の可撓性シート31a,31bが剥離して開通する。このため、第1の薬液室3と第2の薬液室5とが1つに繋がり、第1の薬液17及び第2の薬液18が混合して混合薬液19になる。剥離した仕切部4の位置は、医療用複室容器1の内部に混合薬液19が満たされる部分に位置する。絵マーク21は領域Bの位置に付されている。
【0034】
仕切部4の可撓性シート31a,31bの間が混合薬液19で満たされるため、図5に示すように、仕切部4の横切断端面が略楕円形状の曲面になる。同図中に示す可撓性シート31aの領域Cに口24が付されている。
【0035】
このため、図3に示すように、口24の直線状のライン25が曲線状のラインに変形し、絵マーク21が笑顔に変わる。操作者は、絵マーク21が笑顔に変化したことで、仕切部4が開通したことを、直ちに直感的に理解できる。直線状のライン25の両端に短い斜め線状のライン26が付されていると、口角が上がったように強調されて見えるため、笑顔をより強調することができる。
【0036】
絵マーク21は、開封時に手91によって隠されないように、内部に混合薬液19が満たされる範囲内の第1の薬液室3に付されていることが好ましい。
【0037】
腹膜透析では、通常、患者自身が医療用複室容器1の操作者になる。患者自身が、1日当たり数個の医療用複室容器1を開通させて使用する。このように腹膜透析を患者自身が行う場合には、医療用複室容器1の仕切部4を開通させる作業について、医師等が患者に対して最初に説明を行い、充分に理解させ覚えさせる必要がある。仕切部4を開通させる作業内容の説明を、通常の顔の絵マーク21を笑顔に変化させる作業であるというように顔の絵マーク21に関連付けて説明することで、作業内容に映像的(ビジュアル的、イメージ的、絵的)な要素を入れることができると共に、顔を変化させるという遊び的な要素を入れることができる。このような映像的かつ遊び的な要素を含む作業の説明は、単に言葉だけの説明よりも、遥かに理解し易く、覚え易く、忘れ難い。特に、患者が老人や子供である場合、映像的な要素や遊び的な要素を説明に入れることは、理解のし易さ、覚え易さ、忘れ難さの観点から重要であり、効果的である。このため、開通作業を行う患者自身が作業内容を忘れないため、仕切部4の開通忘れを効果的に防止することができる。又、顔の絵マーク21に関連付けたほうが、医師等も説明を行い易い。
【0038】
実際に患者自身が作業するときも、顔の絵マーク21を変化させるという遊び的な要素があるため、患者に楽しい感情を想起させる。ヒトの特性として、楽しい感情を想起させるようにする作業は、つまらない作業よりも忘れ難くなる。患者は通常の顔の絵マーク21(図1参照)を見たときに、絵マーク21を変化させるという遊びの要素を含む作業を直感的に直ちに想起するため、仕切部4の開通忘れを防止することができる。
【0039】
仕切部4の開通後の絵マーク21は、笑顔のように楽しい感情を想起させる絵であることが好ましい。例えば「困り顔」「怒り顔」「恐怖顔」に絵マーク21が変化する場合、患者に負の感情を想起させてしまう。ヒトの特性として、負の感情を想起させる作業は無意識のうちに避けたいと感じる。そのため、患者が無意識的に仕切部4の開通作業を避けないように、開通後の絵マーク21には、楽しい感情を想起させる絵を使用する。開通前の絵マーク21は、格別感情を表現しない通常の顔であることが好ましい。
【0040】
患者は、笑顔になった顔マーク21の医療用複室容器1を使用して、腹膜透析を行う。腹膜透析時には、図3に示す状態から医療用複室容器1の天地を逆にして、吊下用のフック(図示せず)に孔15を吊り掛けて使用する。したがって、透析時に絵マーク21の天地は逆になる。つまり、絵マーク21は、腹膜透析を行うときの向きに合わせるのではなく、仕切部4を開通するときに視認される向きに合わせて容器本体2に形成する。
【0041】
本発明の医療用複室容器1は、仕切部4の開通の前後で、仕切部4に付された絵マーク21の一部のパーツ(絵の構成部品)の形状が変化して見えることで、絵マーク21の印象や形態が全体的に変化して見えることに特徴がある。そのため、仕切部4の開通で形状変化し易いパーツが仕切部4に付されていることが好ましい。仕切部4は平坦な状態から曲面に変わる。直線状のライン25は、平坦な状態では直線に見え、曲面の状態では曲線に見えるので、仕切部4に好ましく付すことができる。直線状のライン25は、仕切部4が大きく形状変化する方向である仕切部4の長手方向と同じ方向に沿って付されていることが好ましい。直線状のライン25は、長いほど曲線になったことが強調されるため、可及的に長く形成されていることが好ましい。直線状のライン25は、例えば長方形状のような他の形状の一部であってもよい。尚、仕切部4に付すパーツの形状は、直線状のライン25に限定されず、デザインの必要性に応じ、円弧状の線、波線、鋸歯状の線など他の形状を用いてもよい。
【0042】
仕切部4に付された顔のパーツ(口24)を目立たせるために、仕切部4に付すパーツの色を、他の部位に付す顔のパーツ(顔の輪郭22、目23)の色とは異なる色を用いることが好ましい。例えば、口24を赤色等の明るい色で形成し、顔の輪郭22及び目23を黒色や青色等の暗い色で形成することが好ましい。口24と、顔の輪郭22及び目23とを、互いに補色の関係の色で形成してもよい。
【0043】
絵マーク21が顔であることが判る絵であれば、顔の輪郭22、目23、及び口24の形状、色等は適宜変更したり、一部のパーツを省略したりしてもよい。又、絵マーク21が、髪を示すパーツ(例えば波型状のラインや曲線状のライン)、耳を示すパーツなどの他の顔のパーツを有して構成されていてもよい。
【0044】
絵マーク21は、顔のように意味のある絵にした方が、操作者の注意を引き易くなるため好ましい。絵マーク21が、動物、風景などの絵、図形(例えば、三角形、四角形、星型、多角形)の組み合わせの絵など、任意の絵であってもよい。絵マーク21が文字を含んでいてもよい。又、絵マーク21として、容器本体2のうちの仕切部4だけに、仕切部4の長手方向に延びる直線状のライン25のみを付してもよい。
【0045】
絵マーク21は、容器本体2の片面(可撓性シート31a)だけに付されていてもよく、容器本体2の両面(可撓性シート31a,31b)に付されていてもよい。
【0046】
又、容器本体2に複数の仕切部4が形成されている場合、各々の仕切部4に対応させるように容器本体2に複数の絵マーク21が付されていてもよい。例えば、長方形状の容器本体2を長手方向に3つに区画する2つの仕切部4が形成されている場合、2つの仕切部4に対応させて容器本体2に2つの絵マーク21が付されていてもよい。
【0047】
次に、本発明を適用する別の医療用複室容器1aについて説明する。この医療用複室容器1aは、既に説明した医療用複室容器1の仕切部4に折り筋35を形成したものである。尚、既に説明した構成と同様の構成については同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0048】
図6に、医療用複室容器1aの仕切部4aの位置の横切断端面図を示す。同図は、筒状体に形成された可撓性シール31a,31bが平らに押し潰され、対向する可撓性シール31a,31bが剥離可能に接合されていることで、仕切部4aが形成されている状態を示している。仕切部4aの領域Dに、絵マーク21の口24(直線状のライン25)が付されている。この医療用複室容器1aでは、仕切部4aの中央部、すなわち口24の中央部に、折り筋35が付けられている。この折り筋35は、絵マーク21の付された側の可撓性シール31aが山折りになる向きで形成されている。
【0049】
図示しないが、折り筋35があっても仕切部4aはほぼ平面的であるので、顔の絵マーク21は図1とほぼ同様に見え、通常の顔に見える。
【0050】
折り筋35は、可撓性シール31a,31bを剥離可能に接合するときに、可撓性シール31a,31bを山形の型に押し付けながら行うことで形成できる。
【0051】
図7に、仕切部4aが剥離した状態の医療用複室容器1aの横切断端面図を示す。同図に示すように、仕切部4aが開通することで、仕切部4aの内部は混合薬液19で満たされる。このため、絵マーク21の口24(直線状のライン25)の付された領域Dが、曲面になる。さらに、可撓性シート31aには折り筋35が形成されているため、口24の中央部が外界側に山折りに突き出している。
【0052】
図8に、医療用複室容器1aの使用状態の正面図を示す。同図に示すように、操作者は容器本体2aの第1の薬液室3側を手91で押し潰ことで、仕切部4aが剥離する。絵マーク21の口24になっている直線状のライン25は、折り筋35があるため、中央部が外界側に突き出している。このため、同図に示すように、直線状のライン25の曲がりが強調されて見え、笑顔が一層強調されて見える。したがって、仕切部4aの開通の前後で、顔の表情の変化の度合いを大きくすることができる。顔の表情の変化の度合いが大きいと、操作者の記憶に残り易くなるので、仕切部4aの開通忘れを一層防止することができる。尚、折り筋35自体は、非着色であるので目立たず、顔の表情に影響しない。
【0053】
仕切部4aの中央部に1つの折り筋35を形成した例について説明したが、折り筋35を複数形成してもよい。折り筋35を形成する数や位置は適宜変えることができる。折り筋35を口24側に山折りに形成した例を説明したが、必要性に応じて、谷折りに形成してもよい。又、複数の折り筋35を形成するときに、例えば山折り、谷折り、山折りのように交互に形成するように、山折りと谷折りとを適宜組み合わせて形成してもよい。折り筋35は直線状のライン25と直角に交差する方向に形成することが好ましいが、直線状のライン25に対し、斜めに交差する方向に形成してもよい。
【0054】
次に、本発明を適用する別の医療用複室容器1bについて説明する。
【0055】
図9に、医療用複室容器1bの正面図を示す。この医療用複室容器1bは、仕切部4bを有する容器本体2bを備えている。
【0056】
容器本体2bには、顔の絵マーク21bが付されている。絵マーク21bは、顔の輪郭22、一対の目23、及び口24bを有している。仕切部4bには、口24bになる直線状のライン25が視認可能に付されている。
【0057】
図10に、図9中のE−E線における医療用複室容器1bの縦切断端面図を示す。容器本体2bは、対向する可撓性シート31a,31bが剥離可能に接合された仕切部4bを有し、この仕切部4bによって第1の薬液室3と第2の薬液室5とに区画されている。
【0058】
仕切部4は、対向する可撓性シート31a,31b同士をさらに2つ折りに折り重ねた4層の積層部位37を有し、この積層部位37が剥離可能に接合されている。仕切部4bは、可撓性シート31a側に4層の積層部位37が突出せず、可撓性シート31b側に4層の積層部位37が突出するように、可撓性シート31a,31bが曲げられている。積層部位37は、4層の積層部位37を例えば熱で弱シールすることで接合されている。
【0059】
同図中に示す領域Fに顔の絵マーク21bが付されて表示されている。仕切部4bの4層の積層部位37のうちの内側に位置する2層(可撓性シート31a)の対向面38に、絵マーク21b図12参照)の一部になる円弧状のライン27(図12参照)が予め付されている。円弧状のライン27と共に絵マーク21b(つまり絵マーク21b)は、仕切部4bを形成する前の平坦な状態の可撓性シート31aに、インキを印刷することで形成されている。
【0060】
図11に、仕切部4bを開通させた状態の医療用複室容器1bの縦切断端面図を示す。折り曲げられていた仕切部4bの4層の積層部位37(図10参照)が剥離して開かれる。これにより、仕切部4bを形成していた可撓性シート31a,31bの間が、混合薬液19で満たされる。同図中に示す可撓性シート31aの領域Fに顔の絵マーク21b図12参照)が表示される
【0061】
図12に、仕切部4bが開通した状態の医療用複室容器1bの正面図を示す。操作者が容器本体2bの第1の薬液室3を手91で押し潰すことで、仕切部4bが剥離して開通する。
【0062】
仕切部4bの剥離により、仕切部4bに隠れていた円弧状のライン27が視認可能に容器本体2bに現れて、口24bが表示される。口24bは、口24b図9参照)で表示されていた直線状のライン25の下に円弧状のライン27が足された形状である。このため、絵マーク21bとして、口24bを大きく開いて笑う笑顔が表示される。直線状のライン25も曲がって表示されるため、笑顔がより強調される。
【0063】
このように、医療用複室容器1bでは、口を閉じている通常の顔の絵マーク21bが口を開けて笑う笑顔の絵マーク21bに大きく変化する。したがって、操作者は顔の変化を一層認識し易く、形状変化が記憶に残りやすいので、仕切部4bの開通忘れを一層防止することができる。
【0064】
なお、変化前の絵マーク21bの形状、変化後の絵マーク21bの形状、及び積層部位37の対向面38に付すパーツの形状は、任意である。円弧状のライン27に換えて、例えば赤色で半月状に着色されているパーツを用いてもよい。この場合、笑顔の口24bが赤色に着色されて表示されるようになる。積層部位37の対向面38に絵のパーツと共に文字を付してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の医療用複室容器は、腹膜透析液の他に、複数の薬液を混合して体内に注入する点滴などの薬液の収容容器として用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1,1a,1b:医療用複室容器、2,2a,2b:容器本体、3:第1の薬液室、4,4a,4b:仕切部、5:第2の薬液室、6:第1の端部、7:第2の端部、8:薬液排出部材、13:薬液注入部材、14:孔、15:孔、17:第1の薬液、18:第2の薬液、19:混合薬液、21,21b,21b:絵マーク、22:顔の輪郭、23:目、24,24b,24b:口、25:直線状のライン、26:斜め線状のライン、27:円弧状のライン、29:マーク、31,31a,31b:可撓性シート、35:折り筋、37:積層部位、38:対向面、91:手、A,E:切断端面図の切断位置を示す線、B,C,D,F,F:領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12