特許第6297875号(P6297875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6297875
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】剥離部材
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20180312BHJP
   G03G 15/14 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   G03G15/20 530
   G03G15/14 101A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-62155(P2014-62155)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-184556(P2015-184556A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】柳川 洋志
(72)【発明者】
【氏名】山添 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和夫
【審査官】 飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−171551(JP,A)
【文献】 特開2002−148984(JP,A)
【文献】 特開2003−343522(JP,A)
【文献】 特開2001−235959(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0221842(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真装置のローラから用紙を剥離する剥離部材であって、
該剥離部材は、一枚の金属板からなり、前記ローラに先端部を接触または近接させる剥離シート部と、該剥離シート部よりも肉厚の支持部とを有し、
前記剥離シート部は、前記金属板の一長辺側を圧延して形成された圧延部であって、長手方向に厚みが一定であり、その通紙面および反通紙面に突起を有さない平面であり、
前記支持部において、前記剥離シート部と反対側の端部に、相手部材への固定部であり前記端部外側に開放された形状の凹部が、長手方向に沿って離間して複数個形成されていることを特徴とする剥離部材。
【請求項2】
前記剥離シート部の最先端部の厚みが、0.05〜0.4mmであることを特徴とする請求項1記載の剥離部材。
【請求項3】
前記剥離シート部は、その両短辺側および前記先端部である長辺側に圧延された後に前記両短辺側および前記長辺側を所定寸法に切断して形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の剥離部材。
【請求項4】
前記剥離部材は、少なくとも前記剥離シート部の通紙面にシリコーン系粘着剤を介して非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなり、
前記非粘着性樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、およびテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項記載の剥離部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置に設置される各種ローラから用紙を剥離する剥離部材に関し、特に定着ローラなどの定着部材用の剥離部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置には、感光ドラム上に形成された静電潜像をトナーなどの現像剤を用いて用紙上に現像し、その後定着させるために各種のローラが設けられている。現像部には感光ドラムや、乾式電子写真装置を除いて、オイル塗布ローラなどがあり、定着部には定着ローラや加圧ローラなどを有している。従来、感光ドラム、定着ローラ、加圧ローラなどには、用紙がローラに巻き付き円滑な動作の妨げになるのを防ぐために分離爪が設けられている。この分離爪は、その先端をローラの外周面に摺接させながら用紙の端をすくい上げることにより、ローラに用紙が巻き付くことを防いでいる。この分離爪のローラとの接触部の幅は約1〜10mmであり、1本のローラに対して4〜16個配置されている。分離爪はローラに対し局部的に接触しているため、どうしてもローラを部分的に摩耗させてしまい良好な画像が得られなくなる。また、用紙に対しても局部的に接触するため、用紙に転写された現像剤を掻き取りやすく、さらに掻き取った現像剤が分離爪にも付着することによって用紙が汚れやすくなる場合があった。
【0003】
このような問題に対して、電子写真装置のローラに線接触できる剥離部材として、ローラから用紙を剥離する、金属薄板からなる剥離シートを、レーザースポット溶接により金属製の支持部材に接合してなる剥離部材が提案されている(特許文献1参照)。この剥離部材は、剥離シートによるローラとの線接触が可能であり、該ローラの局部的な摩耗などを防止できる。
【0004】
また、電子写真装置の分離板(剥離部材)として、分離板の先端部を圧延し、その両端部に相手ローラとのギャップを設けるために、該分離板と同一金属板からなる突き当て部を設けた分離板が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−91222号公報
【特許文献2】特開2006−171551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の剥離部材は、薄板である剥離シートを金属製ベースプレートである支持部材により支持して該剥離シート先端部の精度を担保する構造であるため、簡易な形状であり、薄型化や小型化が可能である。また、支持部材と剥離シートとがレーザースポット溶接により接合されているので、剥離シートと支持部材とを接着剤により接合する場合と比較して、接合力が熱的に安定する。このため、薄板である剥離シートを用いながら、この剥離シートの波打ち現象の発生を抑制できる。なお、波打ち現象とは、剥離シートと支持部材とが、部分的に剥がれて剥離シートに波打ちを生じ、用紙がスムーズに剥離できない状態となる現象をいう。
【0007】
しかし、支持部材にレーザースポット溶接で剥離シートを溶接するには、レーザー照射装置や専用治具などの設備が必要になり、製造コストが高くなる。また、剥離シートと支持部材の材質によっては、十分な接合強度を確保した溶接が困難であり、波打ち現象を抑制できないおそれがある。
【0008】
一方、特許文献2では、剥離部(先端部)とその支持部が同一金属板から構成されるため、接合に関連する問題は起こらない。しかし、特許文献2の分離板は、両端部の突き当て部の高さで相手ローラとのギャップ量が決まり、微調整ができない。このため、相手ローラの精度などによっては、組み付け毎に寸法精度を測定後、マッチングによる組み付けが必要であり、工数が掛かる。また、突き当て部で相手ローラが摩耗する不具合が発生してもギャップ量の変更ができず、対処できない。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、剥離シート部の波打ち現象を抑え、ローラとの線接触が十分にでき、かつ、その接触部で相手ローラを傷つけず、優れた用紙剥離性能を発揮できる剥離部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の剥離部材は、電子写真装置のローラから用紙を剥離する剥離部材であって、該剥離部材は、一枚の金属板からなり、上記ローラに先端部(支持部と反対側の長辺端部)を接触または近接させる剥離シート部と、該剥離シート部よりも肉厚の支持部とを有し、上記剥離シート部は、上記金属板の一長辺側を圧延して形成され、長手方向に厚みが一定であり、その通紙面が平面であることを特徴とする。
【0011】
ここで「接触する」とは、剥離シート部の一辺(先端部)が、ローラの軸方向に対して線接触することをいう。また「近接する」とは、用紙がローラに巻き付くことを防止できる程度に、剥離シート部の一辺(先端部)がローラに接近配置されていることをいう。なお、電子写真装置のローラとは、例えば、感光ドラム、定着ローラ(ベルトロールを含む)、加圧ローラなどである。
【0012】
上記剥離シート部の最先端部の厚みが、0.05〜0.4mmであることを特徴とする。
【0013】
上記支持部において、上記剥離シート部と反対側の端部に、相手部材への固定部であり上記端部外側に開放された形状の凹部が、長手方向に沿って離間して複数個形成されていることを特徴とする。
【0014】
上記剥離シート部は、その両短辺側および上記先端部である長辺側に圧延された後に上記両短辺側および前記長辺側を所定寸法に切断して形成されたことを特徴とする。
【0015】
上記剥離部材は、少なくとも上記剥離シート部の通紙面にシリコーン系粘着剤を介して非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなり、上記非粘着性樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、およびテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の剥離部材は、電子写真装置のローラに先端部を接触または近接させる剥離シート部と、該剥離シート部よりも肉厚の支持部とを有する一枚の金属板からなるので、レーザー溶接のような専用治具やレーザー発生装置が不要であり、安価に剥離部材を製造できる。また、熱による影響もなく、複数部材を接合する場合に問題となる部位による結合力のばらつきもなく、波打ち現象が起こらない。このため、長期間にわたり剥離シート部の先端部を安定してローラに接触または近接でき、用紙をスムーズに剥離できる。さらに、剥離シート部は、金属板の一長辺側を圧延して形成され、長手方向に厚みが一定であり、その通紙面が平面であるので、通紙面に突き当て部のような凹凸部がなく、ローラを傷つけない。
【0017】
上記剥離シート部の最先端部の厚みが、0.05〜0.4mmであるので、剥離力を確保するためのローラへの圧接力を与えることができ、かつ、ジャミングの発生を防止できる。
【0018】
上記支持部において、シート部と反対側の端部に、相手部材への固定部であり上記端部外側に開放された形状の凹部が、長手方向に沿って離間して複数個形成されているので、複数個の凹部を用いて、支持部に固定する際、先端部とローラ間の距離を、個々に調整することができる。
【0019】
上記剥離シート部は、その両短辺側および上記先端部である長辺側に圧延された後に該両短辺側および該長辺側を所定寸法に切断して形成されているので、使用時の変形等を防止でき、剥離シート部2の先端部2aの精度に優れる。
【0020】
上記剥離部材は、少なくとも剥離シート部の通紙面にシリコーン系粘着剤を介して非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなるので、剥離シート部に強固に接着でき、定着温度においても接着効果が維持でき、高温耐久性に優れる。また、粘着剤によるクッション効果も期待できる。さらに、この非粘着性樹脂フィルムは、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、およびETFE樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであるので、トナーの付着防止効果が非常に高く、用紙との低摩擦特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の剥離部材を用いた定着装置の概要図である。
図2】本発明の剥離部材の一例を示す一部斜視図である。
図3図2の剥離部材に非粘着性樹脂フィルムを貼付した例を示す一部斜視図である。
図4図3の剥離部材の断面図(端面図)である。
図5】本発明の剥離部材の製造工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の剥離部材を用いた定着装置を図1に基づいて説明する。図1は剥離部材を用いたヒートローラ方式の定着装置の概要図である。定着装置は、ヒータ6aが内蔵され、矢印A方向に回転する定着ローラ6と、この定着ローラ6に接触して矢印B方向に回転する加圧ローラ7と、定着ローラ6および加圧ローラ7が接触して形成されるニップ部8の付近に配置される剥離部材1とから構成される。用紙9上に形成されたトナー像がニップ部8で定着されて定着された画像となる。剥離部材1の支持部3が、他部材である支持部材10にボルト5で固定されている。ニップ部8を通過した用紙9を定着ローラ6から剥離できるように、剥離部材1を構成する剥離シート部2の先端部が、定着ローラ6に接触または近接する位置に配置されている。
【0023】
本発明の剥離部材の一例を図2に基づいて説明する。図2は剥離部材の一部斜視図である。図2に示すように、剥離部材1は、一枚の金属板(略長尺平板)からなり、圧延部である剥離シート部2と、剥離シート部2よりも肉厚の支持部3とから構成される。剥離部材1の平面形状は、略長方形である。図中の黒矢印が通紙方向であり、剥離部材1の長手方向と通紙方向とは直交している。剥離シート部2の先端部2aは、通紙方向上流側であり、該剥離シート部の一長辺側の端部である。剥離シート部2は、通紙面2bが平面であり、突き当て部等の凹凸部を有さない。支持部3の通紙面3bは、剥離シート部2の通紙面2bと面一であり、これらで剥離部材1における通紙面を構成している。剥離部材1は、剥離シート部2の先端部2aを、定着ローラなどの各種ローラに接触または近接する位置に配置して、ローラから剥がれた用紙の端部を拾い取る(図1参照)。
【0024】
剥離シート部2は、金属板の一長辺側を圧延して形成され、長手方向に厚みが一定である。金属板の一長辺側をプレスで長手方向に圧延後、所定寸法に切断している。この際、金属板において、圧延部の長辺側(剥離シート部の先端部側)のみでなく、両短辺側にもスリット加工を施した後にプレスで圧延し、両短辺側および長辺側(先端部側)を所定寸法に切断することが好ましい。これにより、使用時の変形等を防止でき、剥離シート部2の先端部2aの精度に優れる。
【0025】
支持部3の厚みは一定であり、圧延前の金属板の厚みそのものである。支持部3において、剥離シート部2と反対側の端部3a(通紙方向下流側の端部)に、支持部材への固定部である凹部3cが、長手方向に沿って離間して複数個形成されている。凹部3cの個数および間隔は適宜設定する。凹部3cは絞り加工等により形成する。凹部3cは、端部3aの外側に開放された形状を有する。凹部3cの絞り加工による長手方向の変形は、所定の寸法に切断することが好ましく、これにより、絞り加工時に支持部の精度を悪化させることはない。凹部3cにはボルト固定用のボルト穴3dを有し、凹部3cの深さはボルトの頭の高さより深くすることが好ましい(後述の図4(c)参照)。
【0026】
剥離部材1を構成する金属板の材質としては、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス鋼などを使用できる。特に、ステンレス鋼であれば錆びることがなく、加工が容易であり安価なため好ましい。金属板の厚みは、1〜5mmの範囲が好ましく、圧延部である剥離シート部2の最先端部の厚みは、0.05〜0.4mmの範囲が好ましい。0.05mm未満では剥離力を確保するためのローラへの圧接力を与えることができなくなるおそれがあり、0.4mmをこえると剥離すべき用紙が剥離シート部2の先端部2aに突き当たってしまい、ジャミングの発生原因となるおそれがある。剥離シート部の厚みは長手方向には一定であるが、通紙方向には、一定(最先端部と同じ)でも、支持部3に向かい徐々に厚くなるような形状であってもよい。また、剥離シート部の幅(通紙方向幅)は長い方が好ましく、2〜20mmが好ましく、3mm以上10mm未満がより好ましい。
【0027】
剥離シート部2は、ローラの軸方向長さと略同じ長さの接触幅を有している。接触幅が大きいことによってローラに対する単位面積当たりの接触圧力が小さくなりローラ表面の局部的な摩耗が防止できる。なお、ローラの軸方向長さと略同じ長さとは、上記効果が得られる程度の長さをいい、具体的には少なくともローラの軸方向長さの半分程度以上であって、ローラの軸方向長さと同じか僅かに長ければよい。
【0028】
剥離シート部2は、その先端部2aの少なくとも通紙面に、用紙剥離性能が向上するように、潤滑性被膜を塗布するか、または非粘着性樹脂フィルムを貼付することが好ましい。特に、非粘着性樹脂フィルムを貼付することが用紙剥離性能と高温耐久性に優れるため好ましい。
【0029】
図3および図4に、図2の剥離部材に非粘着性樹脂フィルムを貼付した例を示す。図3は非粘着性樹脂フィルムを貼付した剥離部材の一部斜視図であり、図4(a)は剥離部材のボルト固定用の凹部を含む断面図(端面図)であり、図4(b)は該凹部がない部位の断面図(端面図)であり、図4(c)は支持部材を含めた断面図(端面図)である。図3および図4に示す例では、非粘着性樹脂フィルム4が、剥離シート部2の先端部2aを覆うように通紙面2bから反通紙面2cにわたり貼付されている。さらに、非粘着性樹脂フィルム4は、面一である支持部3の通紙面3bにわたり貼付されている。
【0030】
非粘着性樹脂フィルムは、現像剤の付着が防止できる程度に非粘着性特性を有する樹脂フィルムであり、例えば、ポリエチレン樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム、および、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂、ポリビニルフルオライド樹脂などの公知のフッ素樹脂からなるフィルムが使用できる。特に、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、またはETFE樹脂からなるフッ素樹脂フィルムは、カラートナー(ポリエステル系バインダー樹脂を用いたトナーなど)に対する非粘着性にも優れており、また、耐熱性も十分に有する。なお、トナーに対する非粘着特性を確保可能な範囲であれば、非粘着性樹脂フィルムをケッチェンブラックやアセチレンブラックなどのカーボン微粉末を配合した非粘着性樹脂から形成することによって、静電気による用紙剥離性能の低下を防止することもできる。
【0031】
フッ素樹脂などの非粘着性樹脂フィルムの厚さは10〜200μmの範囲が好ましく、より好ましい範囲は40〜80μmである。10μm未満の厚さでは、現像剤との摩擦によって破れが生じるおそれや、僅かな摩耗によって剥離シート部の先端部が露出するおそれがある。また、剥離部材への貼付工程で皺になりやすく、取り扱いが困難になる。200μmをこえる厚さになると用紙剥離性能が低下する。
【0032】
剥離部材への非粘着性樹脂フィルムの貼付は、粘着剤、特に、シリコーン系粘着剤を貼付面に介在させて行なうことが好ましい。例えば、剥離部材への貼付面にシリコーン系粘着剤が予め付けられた非粘着性樹脂フィルムを用いる。シリコーン系粘着剤としては、例えば、SiO単位と(CHSiO単位とからなる共重合体とジオルガノポリシロキサン生ゴムを縮合させて得た粘着剤が挙げられる。シリコーン系粘着剤を介在させることで、剥離部材に強固に接着され定着温度においても接着効果が維持でき、粘着剤によるクッション効果も期待できる。その他、接着効果を高めるため、剥離部材への貼付面に、例えば、コロナ放電処理、スパッタエッチング処理、プラズマエッチング処理、金属ナトリウムによるTOS処理、紫外線照射処理などの表面処理を施すことが望ましい。
【0033】
シリコーン系粘着剤層の厚さは5〜50μmの範囲の厚さであればよい。5μmより薄いと接着効果が十分に得られない。また、50μmより厚いと剥離部材の厚さが相対的に厚くなることにより用紙剥離性能が低下するおそれがある。また、剥離シート部への非粘着性樹脂フィルムの貼付は、粘着剤を介在させずに行なうこともできる。例えば、剥離部材における貼付面(通紙面2b、3b)をプラズマエッチング処理などで粗面化した後、非粘着性樹脂フィルムを加熱圧着する方法が挙げられる。
【0034】
剥離部材と支持部材との固定構造を図4(c)に基づいて説明する。図4(c)に示すように、剥離部材1では、支持部3が、他部材である支持部材10にボルト5で固定されている。ボルト5は、凹部3cのボルト穴3dを通して支持部材10に固定される。ボルト締結時において、ボルト5の頭が凹部3cから突出しないようにすることで、用紙剥離性能の低下を防止できる。剥離部材が薄板等である場合は、ローラに接触等させる先端部精度を確保するため、支持部材で該先端部近傍までを支持する必要がある。これに対して本発明の剥離部材1は、剥離シート部2および支持部3を一体としたものであるので、該支持部3のみを他部材の支持部材10で支持すれば、安定して剥離シート部2も支持される。このため、剥離性能に大きな影響を与える剥離シート部2の先端部2aの水平精度を高く維持でき、優れた用紙剥離性能を発揮できる。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
厚さ1.5mmのステンレス(SUS304CSP)コイルを順送プレス型にて加工して剥離部材を製造した。製造工程を図5に基づき説明する。図5は製造工程の概略図であり、左側(A)〜(G)は平面図、右側(a)〜(g)は断面図である。まず、(A)に示す鋼板20上に、圧延領域22を圧延するためにスリット21を形成した。スリット21は、圧延領域22の長辺側22aと両短辺側22bの両方にわたり鋼板20をプレス型で打ち抜いて形成した。次に(a)に示すプレス型30で圧延領域22をプレスして厚みを0.2mmに圧延し、(B)および(b)に示す圧延部23を形成した。
【0036】
剥離部材の固定用の凹部を形成するために、反圧延側に(C)に示すスリット24を形成すべく、該スリット相当部分を(c)に示すプレス型31で打ち抜いた。次に(D)に示す凹部3cを、(d)に示すプレス型32および33を用いて絞り加工により成形した。その後(E)の示す凹部3c内のボルト穴3dを、(e)に示すプレス型34で打ち抜いて形成した。
【0037】
圧延部の先端部精度を得るために、(f)に示すプレス型35で圧延部の長辺側と両短辺側を(F)に示す形状に打ち抜き、同時に反圧延側をプレス型36で打ち抜いた。なお、この工程は同時に行う必要はなく、別工程でも構わない。最後に(G)(g)に示すように、鋼板20より製品である剥離部材1を切り離した。剥離シート部2は、0.2mmに圧延された圧延部23からなる。
【0038】
次いで、剥離シート部2の通紙面と支持部3の通紙面にわたりフッ素樹脂フィルムを貼付けた。フッ素樹脂フィルムとしては、厚さ50μmのPTFEフィルム(NTN精密樹脂社製ベアリーFL3090)を準備し、剥離部材に貼り付ける表面に対して金属ナトリウムのアンモニア溶液に浸漬するエッチング処理を行なった。このフッ素樹脂フィルムのエッチング処理面に、ジメチルポリシロキサン生ゴムを含むシリコーン系粘着剤溶液(信越化学社製KR101)を均一に塗布し、120〜200℃で加熱乾燥した。その後室温まで自然冷却を行ない、約30μmのシリコーン系粘着剤層を形成した。
【0039】
貼付工程は、フッ素樹脂フィルムを、粘着剤層を有する表面を表向きにして皺にならないように平滑な板上に敷き、次に、剥離シート部の先端部を面取りして石油ベンジンで十分に脱脂した後、フッ素樹脂フィルムの略中央部に角部を丸めたローラ接触部(剥離シート部の先端部)を配置した。このローラ接触部を境界としてフィルムを剥離シート部の表面に貼付けた。このようにして、図4に示すようにフッ素樹脂フィルムをシリコーン系粘着剤を介して接着した剥離部材を得た。
【0040】
この剥離部材を試験用複写機(定着温度190℃、A4複写速度57枚/分)の定着部にセットし、画像比率30%のラインチャートを原稿とし、A4普通紙を用いて、5000枚の連続通紙による複写試験を30000枚まで行なった。5000枚毎に試験機を止め、複写済みの用紙を目視によって画像低下の有無を確認した。さらに、剥離部材を定着部から取り外し、フッ素樹脂フィルムの摩耗、トナー付着の有無および定着ローラの摩耗状況を確認した。
【0041】
試験の結果、実施例1の剥離部材は、30000枚の通紙試験終了まで画像低下がみられず、通紙試験終了後に確認したフッ素樹脂フィルムには損傷はなかった。また、剥離シート部にトナーの付着はなく、さらに定着ローラの摩耗も認められなかった。
【0042】
[比較例1]
厚さ200μmのステンレス(SUS304CSP)からなる金属薄板(剥離シート)を接触幅(L)となる長さ310mm、幅25mmにカットしてその内幅5mm長さ310mmを直角に曲げた。次に曲げた側の金属薄板の5ヶ所にボルトの頭が、完全に金属薄板の20mm幅の面より出ない程度に凹部を設け、凹部の底面にボルト穴を設けた。この薄板と金属支持板とを、シリコンゴム系接着剤である信越化学製RTV−KE1800ABCにて相互に接合し、実施例1と同じようにフッ素樹脂フィルムを貼り付け、実施例1と同一の評価試験を行なったところ、剥離シートの接合部全体が剥がれてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の剥離部材は、剥離シート部の波打ち現象を抑え、ローラとの線接触が十分にでき、かつ、その接触部で相手ローラを傷つけず、優れた用紙剥離性能を発揮できるので、電子写真装置に設置される定着ローラなどの各種ローラから用紙を剥離するための剥離部材として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 剥離部材
2 剥離シート部
3 支持部
4 非粘着性樹脂フィルム
5 ボルト
6 定着ローラ
7 加圧ローラ
8 ニップ部
9 用紙
10 支持部材
20 鋼板(金属板)
21、24 スリット
22 圧延領域
23 圧延部
30〜36 プレス型
図1
図2
図3
図4
図5