【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/カーボンアロイ触媒」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒とアイオノマーとを含む層(A)と、触媒とアイオノマーとを含む層(B)とが積層された電極構造体であり、層(A)に含まれる触媒は70重量%以上が炭素触媒であり、層(B)に含まれる触媒は70重量%以上が白金担持カーボン触媒である、燃料電池用カソード電極構造体。
(a)電解質膜、(b)電解質膜の一方の表面上に積層された請求項1〜3のいずれかに記載のカソード電極構造体、及び(c)電解質膜の他方の表面上に積層されたアノード、を有する膜・電極接合体。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、以下PEFCと略記することがある)は比較的低温で、高効率での発電が可能なことから、燃料電池自動車(FCV)や定置用電熱併供システム(CG−FC)等への適用に対して期待が高い。
【0003】
燃料電池の電極に用いられる触媒としては、性能の点から白金触媒が使用されてきたが、資源量の制約や価格が高価なことが、PEFCシステムを普及させる上での大きな制約の一つとなっている。特に、PEFCのカソード(空気極又は酸素極とも呼ばれる)においては、十分な発電特性を得るためには多量の白金触媒を必要とするという重大な問題がある。
【0004】
そこで、わが国はもとより米国をはじめとする世界中で、白金等の高価な貴金属を低減した触媒やそもそも、これら貴金属を必要としない、PEFCの電極用触媒(以下、非白金触媒と称することがある)について、精力的にその研究開発が行われている。
【0005】
このように開発されている触媒のうち、白金類ではない金属を用いたものとしては、タンタル、ジルコニウムなどの酸化物、窒化物などの使用が提案されている。
【0006】
また、実質的に金属を使用しない炭素触媒としては、古くより窒素やホウ素を含む炭素触媒が研究されている(特許文献1〜8、非特許文献1〜4)。
【0007】
さらに、白金は使用するがその使用量自体を低減する手法として、白金以外の金属をコアとしコアの外面にシェル状に白金触媒層を形成するコアシェル型の触媒の作製の報告がある(特許文献9〜10)。これら報告では、白金は一般的にカーボンブラック等の炭素材料に担持して、白金担持カーボン触媒として用いられている。このようなことから、炭素触媒と白金触媒とを組み合わせて用いることは白金の使用量の低減方法として有効な手段であると考えられ、これまでに炭素触媒への電解析出法による白金の担持が報告されている(特許文献11)。
【0008】
しかしながら、白金の触媒活性を高めるためには、白金を直径数nm程度の微細な粒子とし、さらに、このような非常に微細な白金粒子を炭素触媒へ担持、混合する技術が必要であったが、未だ確立されていなかったため、特に炭素触媒との組み合わせにおいて、より簡便である方法が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術では達成していなかった問題点を解消し、白金の使用量を低減しつつ、高い性能を有する、炭素触媒と白金触媒とからなる触媒および燃料電池の電極に用いる電極構造体を提供することにある。また本発明の他の目的は、この電極構造体を含む、高い発電特性を示す膜・電極接合体(MEA)及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述のように、カソード電極構造体において、炭素触媒と白金との有効な組み合わせについて、解決すべく鋭意検討した。その結果、膜・電極接合体(MEA)のカソード電極において電極構造体の一方の面の触媒が炭素触媒からなり、もう一方の面の触媒が白金担持カーボン触媒からなる多層の電極構造体が高い発電特性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、以下の発明を包含する。
1.触媒とアイオノマーとを含む層(A)と、触媒とアイオノマーとを含む層(B)とが積層された電極構造体であり、層(A)に含まれる触媒は70重量%以上が炭素触媒であり、層(B)に含まれる触媒は70重量%以上が白金担持カーボン触媒である、燃料電池用カソード電極構造体。
2.下記式(1)〜(2)を満たす、上記1記載の燃料電池用カソード電極構造体。
0.1≦X≦5 (1)
0.001≦Y≦0.5 (2)
(式中、Xは電極構造体中の炭素触媒の含有量(mg/cm
2)を表し、Yは電極構造体の白金含有量(mg/cm
2)を表す。)
3.炭素触媒中の窒素原子の含有量が炭素原子に対して0.1原子%以上10原子%以下である、上記1または2に記載の燃料電池用カソード電極構造体。
4.(a)電解質膜、(b)電解質膜の一方の表面上に積層された上記1〜3のいずれかに記載のカソード電極構造体、及び(c)電解質膜の他方の表面上に積層されたアノード、を有する膜・電極接合体。
5.電解質膜とカソード電極構造体の層(B)とが接するように積層されてなる、上記4記載の膜・電極接合体。
6.カソード及び/又はアノードの電解質膜を有していない表面上にガス拡散層を有する、上記4または5に記載の膜・電極接合体。
7.カソード及び/又はアノードとガス拡散層との間に、マイクロポーラス層を有する、上記6に記載の膜・電極接合体。
8.上記4〜7のいずれかに記載の膜・電極接合体の両面にセパレータを有する、燃料電池。
9.上記1〜3のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極構造体とガス拡散層とからなるガス拡散層付電極。
10.ガス拡散層側と燃料電池用カソード電極構造体の層(A)とが接するように積層されてなる上記9記載のガス拡散層付電極。
11.上記1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池用カソードとガス拡散層との間に、マイクロポーラス層を有する、上記9または10記載のガス拡散層付電極。
12.基材と上記1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池用カソード電極構造体とから構成される、膜・電極接合体を製造するための転写シート。
13.基材と燃料電池用カソード電極構造体の層(A)が接するように積層されてなる、上記12に記載の転写シート。
14.基材がプラスチックスからなるフィルムまたは金属からなるフィルムから選ばれる、上記12または13記載の転写シート。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電極構造体は、高分子固体電解質形燃料電池用のカソードとして、酸素還元特性に優れており、また本発明の電極構造体を含む固体高分子形燃料電池は、発電特性に優れている。また本発明の電極構造体は、電極における白金の使用量を低減することが出来、燃料電池作製におけるコストの観点においても非常に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<カソード電極構造体>
本発明のカソード電極構造体は、触媒とアイオノマーとを含む層(A)と、触媒とアイオノマーとを含む層(B)とが積層された電極構造体であり、層(A)に含まれる触媒は70重量%以上が炭素触媒であり、層(B)に含まれる触媒は70重量%以上が白金担持カーボン触媒である。
【0017】
本発明のカソード電極構造体は、炭素触媒、白金担持カーボン触媒およびアイオノマーを全体として80重量%であることが好ましい。また、これら三者のみで構成される電極構造体も好ましく利用できる。重量%より小さいと触媒の活性点数が低下するほかプロトン伝導性が低下し、燃料電池として用いた際の発電特性が低下するため、更に好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。電極構造体には上述の三者以外の成分として、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの従来公知の導電助剤を含んでもよい。
【0018】
本発明において、触媒とアイオノマーとを含む層(A)に含まれる触媒は、70重量%以上が炭素触媒である。また、上限として100%が炭素触媒である層(A)も好ましく利用できる。70重量%より小さいと触媒の活性点数が低下するため燃料電池として用いた際の発電特性が低下するため、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0019】
触媒としては、炭素触媒の他にカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの従来公知の導電助剤や白金担持カーボン触媒を併せて用いることが出来る。
【0020】
本発明において、触媒とアイオノマーとを含む層(B)に含まれる触媒は、70重量%以上が白金担持カーボン触媒であることが好ましい。また、上限として100%が白金担持カーボン触媒である層(B)も好ましく利用できる。70重量%より小さいと触媒の活性点数が低下するため燃料電池として用いた際の発電特性が低下するため、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0021】
触媒としては、白金担持カーボン触媒の他に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの従来公知の導電助剤や炭素触媒を併せて用いることが出来る。
【0022】
また、本発明のカソード電極構造体は、下記式(1)〜(2)を満たすことが好ましい。
0.1≦X≦5 (1)
0.001≦Y≦0.5 (2)
(式中、Xは電極構造体中の炭素触媒の含有量(mg/cm
2)を表し、Yは電極構造体の白金含有量(mg/cm
2)を表す。)
本発明の電極構造体は、多層構造を有し、膜・電極構造体(MEA)のカソードを構成する。
【0023】
Xが0.1より小さい場合、電極反応に寄与する炭素触媒の活性点が少なくなるため燃料電池の電極としての特性が低下し好ましくない。Xが5より大きい場合、電極へ活物質である酸素が十分に供給されないほか電極反応で発生する水を排出できないため燃料電池の電極としての特性が低下し好ましくない。Xの下限は、好ましくは0.5、より好ましくは0.8である。Xの上限は、好ましくは3.5、より好ましくは2.5である。
【0024】
Yが0.001より小さい場合、電極反応に寄与する白金担持カーボン触媒の活性点が少なくなるため燃料電池の電極としての特性が低下し好ましくない。Yが0.5より大きい場合、電極へ活物質である酸素が十分に供給されないほか電極反応で発生する水を排出できないため燃料電池の電極としての特性が低下するだけでなく、貴金属である白金の使用量の増加のため燃料電池のコストが増大し好ましくない。Yの下限は、好ましくは0.005、より好ましくは0.01である。Yの上限は、好ましくは0.2、より好ましくは0.1である。
【0025】
<炭素触媒>
本発明の電極構造体に用いられる炭素触媒は、窒素原子の含有量が炭素原子に対して0.1原子%以上10原子%以下であることが好ましい。窒素原子の含有量は、従来公知の技術により測定される元素比率を使用する。窒素原子の含有量が炭素原子に対して0.1原子%より大きい場合には、触媒作用を発揮し、有用な粒子状炭素触媒として使用することできる。
【0026】
窒素原子の含有量としては、炭素原子に対して0.2原子%より大きいことがさらに好ましく、0.5原子%より大きいことがより好ましい。逆に窒素原子の含有量が炭素原子に対して10原子%より多い場合には、比較的低温での触媒の製造が必要となるために、十分なグラファイト化が進まず、触媒内の電子伝導が損なわれる傾向があり、触媒特性の高いものが得られても、燃料電池電極としての性能が損なわれる懸念がある。
【0027】
本発明に用いる炭素触媒における窒素原子の含有量は、炭素原子に対して9原子%より小さいとさらに好ましく、8原子%より小さいとより一層好ましい。なお、上記の、原子比率で表された、炭素原子に対する窒素原子の含有量を、窒素/炭素原子比率、又はN/C比と称することがある。
【0028】
本発明の電極構造体に用いられる炭素触媒は、金属原子の存在量が、炭素原子に対して3.0原子%以下であることが好ましい。そのように金属量が少ない粒子状炭素触媒を、燃料電池の電極に使用すると、金属による副反応、例えば、過酸化水素の生成、ヒドロキシラジカルの生成反応が進行しにくく、燃料電池の電解質の劣化を抑制することができる。
【0029】
当該金属量の下限としては、特に厳密な制限は無いが、炭素触媒の製造において、検出されなくなるまで金属成分を完全に除去しようとすると操作が煩瑣になる等の恐れがある。そのような点を考慮すると、炭素触媒としては、炭素原子に対し金属原子が原子%で0.001以上のものも好ましい。本発明に用いる炭素触媒における鉄原子の含有量は、上限として炭素原子に対して1.5原子%より小さいとさらに好ましく、1.0原子%より小さいとより一層好ましい。下限としては炭素原子に対して0.01原子%より大きいことがさらに好ましく、0.05原子%より大きいことがより好ましい。なお、上記の、原子比率で表された、炭素原子に対する鉄原子の含有量を、鉄/炭素原子比率、又はFe/C比と称することがある。
【0030】
なお、上記の金属原子としては公知の種々の金属が対象となるが、代表的なものとしては、後述のとおり、高活性の粒子状炭素触媒を得るために製造時に添加されることがある、鉄、コバルト、ニッケル、銅、スズ、マンガン、及び亜鉛からなる群より選ばれる1種類以上の金属原子が挙げられる。
【0031】
炭素触媒は例えば、前掲の特許文献8、非特許文献5、6及び7に記載されているような、含窒素微粒子と鉄化合物の組成物を出発物質とした触媒の作製方法、含窒素有機化合物、鉄化合物と導電助剤との組組成物を出発物質触媒の作製方法、アンモニア等の活性ガスを用いた熱処理、多段階での熱処理など従来公知の手法を用いることで好適に製造することが出来る。
【0032】
なお、上記の鉄原子以外に公知の種々の金属を用いることもできる。代表的なものとしては、後述のとおり、高活性の炭素触媒を得るために製造時に添加されることがある、コバルト、ニッケル、銅、スズ、マンガン、及び亜鉛からなる群より選ばれる1種類以上の金属原子が挙げられる。
【0033】
<白金担持カーボン触媒>
本発明で用いられる白金担持カーボン触媒は、直径1〜10nmの白金粒子がカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、活性炭等の導電性を有する炭素材料に担持されたものである。白金担持カーボン触媒の白金の担持量は1〜80wt%であることが好ましく、さらに好ましくは5〜75wt%である。また本発明においては、白金にロジウム、ルテニウム、パラジウム、金等の貴金属類や、鉄、コバルトなどの遷移金属類を混合して用いることもできる。本発明の白金担持カーボン触媒は例えば、田中貴金属工業株式会社、石福金属工業株式会社、エレクトロケム社、ジョンソンマッセイ社等で取り扱う市販の触媒を用いることが出来る。
【0034】
<アイオノマー>
本発明の電極構造体に用いられるアイオノマーはプロトン伝導性を有する電解質で、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、ダウ膜などのパーフルオロスルホン酸電解質ポリマー、スルホン化トリフルオロポリスチレンなどの部分フッ素化電解質ポリマー、ポリイミドやポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチックのスルホン化体や、ポリベンズイミダゾールのリン酸ドープ体などの炭化水素系高分子電解質等のプロトン伝導性を有する電解質、この他、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、を分子中に有する水酸化物イオン伝導性を有する電解質からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0035】
<電極構造体の製造方法>
本発明の電極構造体は炭素触媒とアイオノマーとを溶媒に分散あるいは溶解させた触媒インクを用い種々の基材に塗布することにより製造することが出来る。本発明の電極構造体は多層構造からなるため、炭素触媒とアイオノマーからなるインク、白金担持カーボン触媒とアイオノマーからなるインクをそれぞれ作製し、複数回、基材へ塗布する方法が好ましく用いられる。
塗布方法としてはスクリーン印刷、スピンコーティング、インクジェット印刷、スプレードライ法など従来公知の塗布技術を用いることが出来る。
塗布する基材としてはテフロン(登録商標)、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムやアルミ、銅、鉄、ステンレス等の金属製のフィルム、ガス拡散層(GDL)やマイクロポーラス層(MPL)付ガス拡散層(GDL)、上述のアイオノマーからなるプロトン伝導性を有する膜などが挙げられる。
【0036】
<膜・電極接合体(MEA)製造のための転写シート>
上述のようにして、テフロン(登録商標)、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムやアルミ、銅、鉄、ステンレス等の金属製のフィルム等の基材に塗布した電極構造体はホットプレス等の公知の手段により電解質膜へ転写することで後述の膜・電極接合体(MEA)を作製することが出来る。
すなわち本発明は、基材と、基材の一方の面上に積層されたカソード電極構造体とを有する、膜・電極接合体(MEA)を製造するための転写シートを包含する。
【0037】
<膜・電極接合体(MEA)>
カソード電極構造体と、アノードとを、イオン伝導性を有する電解質膜の両表面上に設けることにより、燃料電池用の膜・電極接合体(MEA)とすることができる。
膜・電極接合体(MEA)は、(a)電解質膜、(b)電解質膜の一方の表面上に積層されたカソード電極構造体、及び(c)電解質膜の他方の表面上に積層されたアノード、を有する。
電解質膜とカソード電極構造体の層(B)とは接するように積層されてなることが好ましい。このようになっていることで電極における酸素還元反応が促進されより高い発電特性が得られる。
【0038】
膜・電極接合体は、カソード及び/又はアノードの電解質膜を有していない表面上にガス拡散層(GDL)を有することが好ましい。また膜・電極接合体は、カソード及び/又はアノードとガス拡散層(GDL)との間に、マイクロポーラス層(MPL)を有することが好ましい。このようになっていることで電極反応により発生した水を排出することでフラッディングを抑制するほか、電極を適度に保湿することでより高い発電特性が得られる。
【0039】
<電解質膜>
膜・電極接合体(MEA)を構成する電解質膜は、前記のアイオノマーを用いて形成される、電解質膜を用いることが出来る。電解質膜は厚み0.1〜300μmからなる膜であればよいが、好ましくは1〜200μm、さらに好ましくは3〜50μmである。
また前記の層(A)、層(B)に用いるアイオノマーと、電解質膜に用いるアイモノマーとは、同じ素材の組み合わせ、異なる素材の組み合わせいずれも好ましく用いることが出来る。
【0040】
<アノード>
アノードは、触媒金属及びアイオノマーを導電材に担持したものである。触媒金属としては、水素の酸化反応を促進する金属であればいずれのものでもよい。例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、あるいはそれらの合金からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。特に白金が多くの場合用いられ、これらはカーボンブラック、活性炭、黒鉛等などの導電材に坦持された状態で用いられる。触媒金属の担持量は電極が成形された状態で0.01〜10mg/cm
2が好ましい。
【0041】
触媒金属の担持量が0.01mg/cm
2より小さいと、十分な発電性能を示すことができず、10mg/cm
2より大きいと、得られる膜・電極接合体(MEA)の厚みが大きくなり、燃料電池の発電効率が小さくなる場合がある。
また、本発明の膜・電極接合体(MEA)において、電解質膜とカソード電極構造体の層(B)とが接するように積層されてなることが好ましい。このようになっていることで電極における酸素還元反応が促進されより高い発電特性が得られる。
【0042】
<ガス拡散層(GDL)>
本発明で用いられるガス拡散層(GDL)は燃料である水素や空気の電極への供給、電極での化学反応により生じた電子の集電、電解質膜の保湿などを担い、カーボンペーパー、カーボンクロスなどガス透過性、耐酸性、電気伝導性、機械強度に優れた従来公知の材料を用いることができる。またガス拡散層(GDL)の水の排出や保湿を促進するために電極側のガス拡散層(GDL)表面にマイクロポーラス層(MPL)を配することも好ましく利用できる。
本発明のガス拡散層(GDL)付電極構造体(GDE)はホットプレス法など従来公知の技術を用いてイオン電解質膜に接着させることでガス拡散層(GDL)付き膜・電極接合体(MEA)を作製することが出来る。すなわち本発明はGDL付きMEAを含む。
【0043】
<ガス拡散層(GDL)付電極構造体(GDE)>
上述の電極構造体の製造方法で、ガス拡散層(GDL)やマイクロポーラス層(MPL)に触媒インクを塗布して得られる電極構造体を含有する成形品はガス拡散層(GDL)付電極構造体(GDE)を形成する。すなわち本発明は多層構造を有する電極構造体から構成されるGDL付GDEを含む。
この場合、ガス拡散層側と電極構造体の層(A)が接するように積層されてなることが好ましい。このようになっていることで電極における酸素還元反応が促進されより高い発電特性が得られる。
【0044】
<燃料電池>
上述のような本発明の膜・電極接合体(MEA)の外側に、ガス拡散層(GDL)やセパレータを配したものを単セルとし、この様な単セル単独で用いるか、複数個を、冷却板等を介して積層して使用するなどして燃料電池とすることが可能である。
【0045】
ガス拡散層(GDL)は燃料である水素や空気の電極への供給、電極での化学反応により生じた電子の集電、電解質膜の保湿などを担い、カーボンペーパー、カーボンクロスなどガス透過性、耐酸性、電気伝導性、機械強度に優れた従来公知の材料を用いることができる。
【0046】
セパレータとしては、燃料電池積層体間の燃料や空気を遮断し、燃料流路を配したもので、従来公知の炭素材料やステンレスなどの金属材料を用いることができる。
【0047】
なお、本発明のカソード電極構造体を用いた膜・電極接合体(MEA)を有する燃料電池としては、特に固体高分子型燃料電池が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただしこれらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0049】
<炭素触媒の元素分析>
Perkin Elmer社製 2400IIを用い測定を行った。得られた炭素、水素、窒素の元素の組成から窒素原子の炭素原子に対するモル比率(窒素/炭素原子比率、又はN/C比と略記する場合がある)を百分率にて算出した。
【0050】
<炭素触媒のEPMA分析>
該炭素触媒における炭素原子に対する鉄原子のモル比率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA、株式会社島津製作所製EPMA−1400)による元素分析結果から求めた。EPMAによる元素分析は、得られた粒子状炭素触媒の粉末を、バインダーを用いずにペレット状に加工したものを用いて行った。得られた炭素、鉄の元素の組成から鉄原子の炭素原子に対するモル比率(鉄/炭素原子比率、又はFe/C比と略記する場合がある)を百分率にて算出した。
【0051】
<ポリマーの粘度測定>
溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いて調製したポリマー濃度0.5g/dLの試料溶液の30℃における相対粘度(溶液の粘度を溶媒の粘度で割った値:η
rel)を求め、これを基に下記式により還元粘度η
sp/Cを求めた。
η
sp/C=(η
rel−1)/C
(上記式中、η
sp/Cは還元粘度、η
relは相対粘度、Cは溶液中ポリマー濃度を表す)
【0052】
<燃料電池セルの発電試験>
アノード側に水素、カソード側に酸素を供給し加湿条件下、大気圧に対し100kPa加圧した水素、空気をアノード、カソードにそれぞれ供給し、80℃にて発電試験を行なった。開回路電圧を5分間測定後、セル電圧を0.9Vから0.4Vまで0.05Vごとに各5分間保持して電流密度を測定し、IV曲線を得た。0.5Vにて観察される電流密度を燃料電池の特性の指標とした。
【0053】
[参考例1]
(ポリアクリロニトリルの合成)
窒素気流下、トルエン280mlが入ったフラスコにアクリロニトリル56.35質量部を加え溶解させた後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.75質量部を加えた。60℃に昇温撹拌し、3.5時間反応させ、白色沈澱が発生したのを確認した後、反応を終了した。反応物にテトラヒドロフランを加え、ろ過し、ろ物をテトラヒドロフランにて洗浄、ろ過乾燥を行うことで、ポリアクリロニトリル粒子を得た。
得られたポリアクリロニトリルの濃度が0.5g/dLとなるようにNMPを加え、試料溶液を調製し、上記の方法で測定した特有粘度(η
inh)は1.34dL/gであった。
【0054】
[参考例2]
(炭素触媒の作製)
参考例1で得られたポリアクリロニトリル粒子を190℃から徐々に昇温し、230℃で、1時間空気中で熱処理することにより、ポリアクリロニトリル粒子の不融化体を得た。得られた不融化体に対し、鉄原子が0.3質量%の組成になるよう塩化鉄(II)4水和物を担持し、得られたポリアクリロニトリルの不融化体−塩化鉄(II)4水和物組成物を窒素気流下600℃で5時間熱処理を行った後、ボールミルによる分散処理を施した。次に、アンモニア気流下800℃で1時間、1000℃で1時間アンモニア気流下、熱処理(賦活処理)を行うことで粒子状の炭素触媒を得た。
得られた粒子状の炭素触媒の元素分析による窒素/炭素原子比率(N/C比)は3.22%、EPMA測定による鉄/原子比率(Fe/C)は0.24%であった。
【0055】
[参考例3−1]
(触媒インク−1:炭素触媒からなる触媒インクの作製)
参考例2で得られた炭素触媒を秤量し、エタノールを加え、そこにアイオノマー(Aldrich社、「Nafion」)の分散液を、炭素触媒と「Nafion」の質量比が2となるように加え、超音波で分散させることにより、触媒インク−1を作製した。
【0056】
[参考例3−2]
(触媒インク−2:白金担持カーボン触媒からなる触媒インクの作製)
市販の白金担持カーボン触媒を秤量し、エタノールを加え、そこにアイオノマー(Aldrich社、「Nafion」)の分散液を、白金と「Nafion」との質量比が0.9となるように加え、超音波で分散させることにより、触媒インク−2を作製した。
【0057】
[実施例1−1]
マイクロポーラス層付ガス拡散層(SGLカーボン社製)のマイクロポーラス層側の表面に、参考例3−1で製造した触媒インク−1を炭素触媒の担持量が1.0mg/cm
2となるように塗布し、熱風乾燥器にて溶媒を除去した。
さらにその上から参考例3−2で製造した触媒インク−2を白金の担持量が0.06mg/cm
2となるように塗布し熱風乾燥器にて溶媒を除去することで、炭素触媒と白金担持カーボン触媒の多層構造を有する電極を含むガス拡散電極(GDE)を得た。このGDEをカソードとして用いた。
【0058】
[実施例2−1]
マイクロポーラス層付ガス拡散層(SGLカーボン社製)のマイクロポーラス層側の表面に、参考例3−1で製造した触媒インク−1を炭素触媒の担持量が2.0mg/cm
2となるように塗布し、熱風乾燥器にて溶媒を除去した。
さらにその上から参考例3−2で製造した触媒インク−2を白金の担持量が0.06mg/cm
2となるように塗布し熱風乾燥器にて溶媒を除去することで、炭素触媒と白金担持カーボン触媒の多層構造を有する電極を含むガス拡散電極(GDE)を得た。このGDEをカソードとして用いた。
【0059】
[比較例1−1]
マイクロポーラス層付ガス拡散層(SGLカーボン社製)のマイクロポーラス層側の表面に、参考例3−1で製造した触媒インク−1を炭素触媒の担持量が1.0mg/cm
2となるように塗布し、熱風乾燥器にて溶媒を除去し、熱風乾燥器にて溶媒を除去することで、炭素触媒からなる電極を含むガス拡散電極(GDE)を得た。このGDEをカソードとして用いた。
【0060】
[比較例2−1]
マイクロポーラス層付ガス拡散層(SGLカーボン社製)のマイクロポーラス層側の表面に、参考例3−1で製造した触媒インク−1を炭素触媒の担持量が1.0mg/cm
2となるように塗布し、熱風乾燥器にて溶媒を除去し、熱風乾燥器にて溶媒を除去することで、白金担持カーボン触媒からなる電極を含むガス拡散電極(GDE)を得た。このGDEをカソードとして用いた。
【0061】
[比較例3−1]
マイクロポーラス層付ガス拡散層(SGLカーボン社製)のマイクロポーラス層側の表面に、参考例3−2で製造した触媒インク−2を白金の担持量が0.06mg/cm
2となるように塗布し、熱風乾燥器にて溶媒を除去し、熱風乾燥器にて溶媒を除去することで、白金担持カーボン触媒からなる電極を含むガス拡散電極(GDE)を得た。このGDEをカソードとして用いた。
【0062】
[参考例4]
(アノード側ガス拡散層電極の作製)
マイクロポーラス層付ガス拡散層(SGLカーボン社製)のマイクロポーラス層側の表面に、白金担持カーボンの分散液を塗布し、熱風乾燥器にて溶媒を除去し、アノード側ガス拡散層電極(GDE)を作製した。
【0063】
[実施例1−2]
(膜・電極接合体(MEA)、燃料電池の作製及び発電特性評価)
実施例1−1で作製したカソード側ガス拡散電極(GDE)及び参考例4で作製したアノード側ガス拡散層電極(GDE)を、それぞれ2cm角に切り出し、プロトン伝導性電解質膜(DuPont社製、「Nafion」NR211)の両面にガス拡散層が外側になるように配置し、ホットプレスにて貼り付けることで、GDL付きMEAを得た。得られたGDL付きMEAの両面をカーボン製セパレータで挟み、燃料電池セルを作製した。
得られた燃料電池セルにて上記の方法で発電特性の評価を行った。得られたGDL付きMEAの構成と、発電特性としてセル電圧0.5Vにおける電流密度を下記表1に示す。また、発電試験で得られたIV曲線を
図1に示す。
【0064】
[実施例2−2]
実施例2−1で作製したカソード側ガス拡散電極(GDE)及び参考例4で作製したアノード側のGDEを用いて実施例1−2と同様の操作を行った。得られたGDL付きMEAの構成と、発電特性としてセル電圧0.5Vにおける電流密度を下記表1に示す。また、発電試験で得られたIV曲線を
図1に示す。
【0065】
[比較例1−2]
比較例1−1で作製したカソード側ガス拡散電極(GDE)及び参考例4で作製したアノード側のGDEを用いて実施例1−2と同様の操作を行った。得られたGDL付きMEAの構成と、発電特性としてセル電圧0.5Vにおける電流密度を下記表1に示す。また、発電試験で得られたIV曲線を
図1に示す。
【0066】
[比較例2−2]
比較例2−1で作製したカソード側ガス拡散電極(GDE)及び参考例4で作製したアノード側のGDEを用いて実施例1−2と同様の操作を行った。得られたGDL付きMEAの構成と、発電特性としてセル電圧0.5Vにおける電流密度を下記表1に示す。また、発電試験で得られたIV曲線を
図1に示す。
【0067】
[比較例3−2]
比較例3−1で作製したカソード側ガス拡散電極(GDE)及び参考例4で作製したアノード側GDEを用いて実施例1−2と同様の操作を行った。得られたGDL付きMEAの構成と、発電特性としてセル電圧0.5Vにおける電流密度を下記表1に示す。また、発電試験で得られたIV曲線を
図1に示す。
【0068】
【表1】