特許第6298001号(P6298001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6298001捕捉対象成分の置換システム、オイル劣化成分の置換システム、および内燃機関用オイルフィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6298001
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】捕捉対象成分の置換システム、オイル劣化成分の置換システム、および内燃機関用オイルフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20180312BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20180312BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   B01J20/28
   B01J20/10 A
   B01J20/10 B
   B01D15/00 K
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-60882(P2015-60882)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-179441(P2016-179441A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2016年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】森谷 浩司
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】稲見 規夫
(72)【発明者】
【氏名】福富 一平
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/093519(WO,A1)
【文献】 特開平02−252913(JP,A)
【文献】 特開2012−082692(JP,A)
【文献】 Microporous and Mesoporous Materials,2007年 4月21日,Vol.108,p.213-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
B01D 15/00−15/42
F01M 1/00−9/12
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分を捕捉して、添加剤を放出する捕捉対象成分の置換システムであって、
窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予め添加剤を吸着させた多孔体を液状有機化合物と接する面に設け
前記多孔体が、メソポーラスシリカおよびケイ酸マグネシウムから選択される少なくとも1つであり、
前記添加剤が、ZnDTPであることを特徴とする捕捉対象成分の置換システム。
【請求項2】
内燃機関用オイルに含まれるオイル劣化成分を捕捉して、オイル添加剤を放出するオイル劣化成分の置換システムであって、
窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を内燃機関用オイルと接する面に設け
前記多孔体が、メソポーラスシリカおよびケイ酸マグネシウムから選択される少なくとも1つであり、
前記オイル添加剤が、ZnDTPであることを特徴とするオイル劣化成分の置換システム。
【請求項3】
内燃機関用オイルに含まれるオイル劣化成分を捕捉して、オイル添加剤を放出する内燃機関用オイルフィルタであって、
窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を含むろ材を備え
前記多孔体が、メソポーラスシリカおよびケイ酸マグネシウムから選択される少なくとも1つであり、
前記オイル添加剤が、ZnDTPであることを特徴とする内燃機関用オイルフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕捉対象成分の置換システム、オイル劣化成分の置換システム、内燃機関用オイルフィルタ、および多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用の潤滑剤システムとして、潤滑剤の性能を増すために内燃機関内で使用可能な潤滑剤添加物の性能を置換または補完するよう調整されたオイルフィルタを有する潤滑システムが検討されている。特許文献1には、内燃機関潤滑システム内で使用する化学フィルタであって、この化学フィルタは濾過媒体を含み、この濾過媒体は(a)個々の粒子内に形成される内部細孔と隣接し合う粒子間に形成される間隙細孔とを含む粒子であって、当該内部細孔および当該間隙細孔は集合的に濾過媒体の細孔を定義するものである、前記粒子と、(b)前記内部細孔の少なくともいくつかに付随する強塩基材料とを含み、前記濾過媒体は、前記化学フィルタを流れるオイルに含まれる燃焼生成酸−弱塩基複合体を受容するのに十分な大きさの濾過媒体細孔から作られる25m/gm以上の表面積を有するものである化学フィルタが記載されている。
【0003】
オイル劣化を抑制するためには、オイル劣化に伴い減少していくオイル添加剤を補完することも必要であるが、オイル劣化成分を捕捉することも重要である。特許文献1の技術は、オイル添加剤を置換または補完する潤滑システムにより、オイル添加剤の含有量を調整できることを特徴としたものであり、オイル劣化成分を捕捉して添加剤を放出する置き換わり効果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−540123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分を捕捉して、添加剤を放出する捕捉対象成分の置換システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分を捕捉して、添加剤を放出する捕捉対象成分の置換システムであって、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予め添加剤を吸着させた多孔体を液状有機化合物と接する面に設け、前記多孔体が、メソポーラスシリカおよびケイ酸マグネシウムから選択される少なくとも1つであり、前記添加剤が、ZnDTPである捕捉対象成分の置換システムである。
【0008】
本発明は、内燃機関用オイルに含まれるオイル劣化成分を捕捉して、オイル添加剤を放出するオイル劣化成分の置換システムであって、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を内燃機関用オイルと接する面に設け、前記多孔体が、メソポーラスシリカおよびケイ酸マグネシウムから選択される少なくとも1つであり、前記オイル添加剤が、ZnDTPであるオイル劣化成分の置換システムである。
【0009】
本発明は、内燃機関用オイルに含まれるオイル劣化成分を捕捉して、オイル添加剤を放出する内燃機関用オイルフィルタであって、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を含むろ材を備え、前記多孔体が、メソポーラスシリカおよびケイ酸マグネシウムから選択される少なくとも1つであり、前記オイル添加剤が、ZnDTPである内燃機関用オイルフィルタである。
【0010】
本発明は、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予め添加剤を吸着させた多孔体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分を捕捉して、添加剤を放出する捕捉対象成分の置換システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で用いた濾過装置を示す概略図である。
図2】実施例における、赤外分光分析(FT−IR)で測定した多孔体分散前後の供試オイルとベースオイルとの差スペクトルによるZnDTPのスペクトル例を示す図である。
図3】実施例における、赤外分光分析(FT−IR)で測定した多孔体分散前後の供試オイルのギ酸由来のスペクトル例を示す図である。
図4】実施例における、赤外分光分析(FT−IR)で測定した多孔体分散前後の供試オイルのZnDTPのスペクトル例を示す図である。
図5】実施例における、ベースオイル+ZnDTPに多孔体を分散させてZnDTPの吸着を評価した結果を示す図である。
図6】実施例における、ベースオイル+ギ酸にZnDTPを吸着させたメソポーラスシリカ3を分散させたときのギ酸捕捉とZnDTP放出の割合を示す図である。
図7】実施例における、ベースオイルにZnDTPを吸着させたメソポーラスシリカ3を分散させたときのZnDTP放出の割合を示す図である。
図8】実施例における、ギ酸濃度による置き換わりへの影響を評価した結果を示す図である。
図9】実施例における、ベースオイル+ギ酸にZnDTPを吸着させた多孔体を分散させたときの多孔体のZnDTP放出量を示す図である。
図10】実施例における、多孔体によるZnDTPとギ酸の置き換わり効果を示す図である。
図11】実施例における、窒素ガス吸着法と水銀圧入法により測定した中心細孔直径、比表面積、細孔容積の違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明者らは、オイル劣化抑制技術の一環として進めている劣化物除去の一手法として、初期劣化物が重合してスラッジ化する前に初期劣化物を捕捉し、オイル劣化を抑制することを検討している。これまでにメソポーラス無機材による初期劣化物の捕捉効果を検証し、実機エンジンにおける耐久試験においてオイル劣化成分(オイル不溶解分)を低減できることを見出している。本実施形態では、多孔体にオイル添加剤を予め吸着させておき、オイル劣化物を捕捉するとともにオイル添加剤を放出する置き換わり効果について検証した。
【0015】
本発明者らは、液状有機化合物に含まれるオイルの劣化成分等の捕捉対象成分を、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、液状有機化合物に添加剤を予め吸着させた多孔体の細孔内に捕捉するとともに、オイル劣化に伴い減少していくオイル添加剤等の添加剤を補給することにより、液状有機化合物の性能を維持できることを見出した。本実施形態に係る多孔体は、細孔内に捕捉対象成分を捕捉することができ、さらに捕捉対象成分を捕捉することにより予め吸着させた添加剤を放出する置き換わり特性を有する。液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分の濃度が高いほど置き換わり効果が高く、液状有機化合物の性能を維持できる。
【0016】
特許文献1等の従来技術では、濾過媒体の比表面積、内部細孔等の有効範囲を、水銀圧入式ポロシメータを用いた水銀圧入法での測定値で規定しているが、下記実施例で示す通り、水銀圧入法での測定値は窒素ガス吸着法での測定値と相関がほとんどないことを見出した。そして、窒素ガス吸着法により測定した所定の値の中心細孔直径、比表面積、および細孔容積を有し、予め添加剤を吸着させた多孔体を用いることにより、液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分と添加剤の置き換わり効果が発揮されることを見出した。
【0017】
本実施形態に係る多孔体は、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予め添加剤を吸着させたものである。
【0018】
多孔体としては、メソポーラスシリカ、ケイ酸マグネシウムが好ましく、捕捉対象成分と添加剤の置き換わり効果に優れる等の点から、メソポーラスシリカがより好ましい。
【0019】
メソポーラス無機材は、複数の細孔(細孔直径が約1nm〜約50nm程度のメソサイズのメソ孔)を有する無機化合物である。無機化合物としては、特に制限はないが、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ゼオライト、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の無機酸化物、金属酸化物、活性炭等である。
【0020】
本実施形態に係る多孔体の窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径は、2nm以上であり、2.7nm〜4.0nmの範囲であることが好ましい。窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm未満である場合は、細孔の平均の大きさが捕捉、除去の対象となる捕捉対象成分の大きさよりも小さくなることが多くなるために、捕捉性能が低下する傾向にある。また、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が10nmを超える場合は、比表面積が低下して、捕捉性能が低下する傾向にある。多孔体の中心細孔直径を調整することにより、捕捉対象成分をその大きさにより選択することができる。
【0021】
中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径である。なお、細孔径分布曲線は、例えば、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、多孔体の粒子等を液体窒素温度(約−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0022】
本実施形態に係る多孔体において、細孔径分布曲線における中心細孔直径の約±40%の範囲に全細孔容積の約60%以上が含まれることが好ましい。この条件を満たす多孔体は、細孔の直径の均一性が高いことを意味する。ここで、「細孔径分布曲線における中心細孔直径の約±40%の範囲に全細孔容積の約60%以上が含まれる」とは、例えば、中心細孔直径が約3.00nmである場合、この約3.00nmの約±40%、すなわち約1.80〜約4.20nmの範囲にある細孔の容積の合計が、全細孔容積の約60%以上を占めていることを意味する。
【0023】
本実施形態に係る多孔体の窒素ガス吸着法で測定した比表面積は、500m/g以上であり、500〜1000m/gの範囲であることが好ましい。窒素ガス吸着法で測定した比表面積が500m/g未満であると、捕捉性能が低下する傾向にある。また、窒素ガス吸着法で測定した比表面積が1000m/gを超える場合は、中心細孔直径が2nm未満となる場合がある。比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0024】
本実施形態に係る多孔体の窒素ガス吸着法で測定した細孔容積は、0.6cm/g以上であり、0.6〜0.9cm/gの範囲であることが好ましい。窒素ガス吸着法で測定した細孔容積が0.6cm/g未満であると、捕捉性能が低下する傾向にある。細孔容積は、例えば、細孔径分布曲線の測定において測定した窒素ガスの吸着重量を窒素密度で除することによって求めることができる(例えば、日本分析化学会HP、http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2009/200907kaisetsu.pdf、解説「比表面積、細孔分布、粒度分布測定」(ぶんせき、2009年7月号)のガス吸着法を参照)。
【0025】
本実施形態に係る多孔体は、そのX線回折パターンにおいて約1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。X線回折ピークはそのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、約1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が約1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0026】
本実施形態に係る多孔体が有する細孔は、通常、多孔体の表面のみならず内部にも形成される。この細孔の形状は特に制限はないが、例えば、トンネル状に貫通したものであってもよく、また、球状もしくは六角柱状等の多角形状の空洞が互いに連結したような形状を有していてもよい。
【0027】
本実施形態に係る多孔体の細孔に捕捉される捕捉対象成分としては、液状有機化合物に含まれ、捕捉、除去の対象となるものであればよく、特に制限はないが、例えば、極性を有する極性化合物等が挙げられる。極性化合物は、多孔体の細孔に吸着することが可能な親和性を有する有機化合物分子を示し、例えば、上記親和性を有する分子であればその分子構造の一部に無機化合物の構造を有している分子であってもよい。例えば、内燃機関の潤滑油であるエンジンオイル等のオイルの劣化成分であるスラッジ、エンジンオイルの初期劣化物(スラッジ前駆体)、酸化生成分、水分、混入燃料成分等が挙げられる。
【0028】
処理対象となる液状有機化合物としては、捕捉処理温度において液体状の有機化合物であればよく、特に制限はない。液状有機化合物としては、例えば、パラフィン系、オレフィン系等の炭化水素溶液、エステル系溶液、エーテル系溶液、アルコール系溶液、グリコール系溶液、シリコーン系溶液等が挙げられ、それらの中でもパラフィン系、オレフィン系等の非極性の炭化水素溶液に適用することが好ましい。具体的には、例えば、エンジンオイル等のオイル、工作機械等の作動流体、燃料等が挙げられる。
【0029】
メソポーラス無機材は、例えば、水/アルコール混合溶媒中で、界面活性剤のミセル構造を鋳型にし、シリカ源となるアルコキシドをアルカリや酸で重合してシリカを合成することで作製することができる。
【0030】
メソポーラス無機材には、表面および細孔の少なくともいずれかに官能基修飾を施してもよい。官能基修飾としては、例えば、メチル、プロピル、ヘキシル、オクタデシル、フェニルト、アリル、ビニルン、シアノプロピル、3−ブロモプロピル、3−クロロプロピル、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3−グリシジロキシプロピル、3−イオドプロピル、3−メルカプトプロピル、[2−(7−オキサビシクロ[4、1、0]ヘプト−3−イル)エチル]、プロピルウレア、プロピルアニリン、3−フェニルアミノプロピル、アクリロキシプロピル、メタクリロキシプロピル、2−フェニルエチル、3、3、3−トリフルオロプロピル、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル、[3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル]、3−アミノプロピル、3−ジエチルアミノプロピル、ビス(3−メチルアミノ)プロピル、N、N−ジメチルアミノプロピル基、およびこれらの塩酸塩等が挙げられる。メソポーラス無機材の表面および細孔の少なくともいずれかに官能基修飾を施し、官能基を選択することにより、捕捉対象成分に対する吸着性、選択性等を調整することができる。これらのうち、捕捉対象成分の捕捉効果等の観点から、メソポーラス無機材が、炭化水素基を介してアミノ基またはアミノ基の塩酸塩で化学修飾されたものであることが好ましい。ここで、炭化水素基としては、炭素数1〜9の直鎖、分岐のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基等が挙げられ、炭素数1〜9の直鎖、分岐のアルキル基が好ましい。
【0031】
メソポーラス無機材に対する官能基修飾は、例えば、合成時にシリカ源であるアルコキシドの一部に官能基を有したものを混合して一緒に合成する共重合や、メソポーラス無機材に官能基が共有結合しているアルコキシドを反応させるグラフト法等の方法により行うことができる。
【0032】
メソポーラス無機材は球状でも不定形でもよい。ここで、「不定形」とは球状以外のメソポーラス無機材をいう。メソポーラス無機材としては、シリカ系のメソポーラス無機材であることが好ましい。また、シリカ系のメソポーラス無機材が、球状のシリカ系のメソポーラス無機材であることが好ましい。球状のシリカ系メソポーラス無機材の平均粒子径は、約1μm以下であることが好ましい。球状のシリカ系メソポーラス無機材としては、例えば、サブミクロンオーダの球状粒子形状となるよう合成した単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS:Monodispersed Mesoporous Silica Spheres、特開2005−089218号公報参照)等を用いることができる。
【0033】
球状のシリカ系メソポーラス無機材において、全粒子の約90重量%以上が平均粒子径の±10%の範囲内の粒子径を有することが好ましい。
【0034】
ここで、本明細書において「球状」とは、真の球体に限定されるものではなく、最小直径が最大直径の約80%以上(好ましくは約90%以上)である略球体も包含するものである。また、略球体の場合、その粒子径は原則として最小直径と最大直径との平均値をいう。本明細書において「平均粒子径」は、数平均粒子径として定義され、走査型電子顕微鏡写真から個々の粒子の直径を測定し、平均をとることで求めることができる。
【0035】
球状のシリカ系メソポーラス無機材は、例えば、溶媒中でシリカ原料と界面活性剤とを混合し、シリカ原料中に界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る工程(第1の工程)と、第1の工程で得られた多孔体前駆体粒子に含まれる界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る工程(第2の工程)とを含む方法により、得ることができる。
【0036】
シリカ原料としては、反応によりケイ素酸化物(ケイ素複合酸化物を含む)を形成可能なものであればよく、特に制限されないが、反応効率や得られるケイ素酸化物の物性等の観点から、アルコキシシラン、ケイ酸ナトリウム、層状シリケート、シリカ、またはこれらの任意の混合物を用いることが好ましく、中でもアルコキシシランを用いることがより好ましい。これらのシリカ原料は、単独で用いることもできるが、2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0037】
界面活性剤としては、例えば、下記一般式(1)で表されるアルキルアンモニウムハライド等が挙げられる。
【化1】
(式中、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは13〜25の整数をそれぞれ示す。)
【0038】
上記一般式(1)で表される界面活性剤としては、R、RおよびRの全てがメチル基でありかつ炭素数14〜26の長鎖アルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウムハライドであることが好ましく、中でもテトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、エイコシルトリメチルアンモニウムハライド、ドコシルトリメチルアンモニウムハライドがより好ましい。界面活性剤は1種類もしくは2種類以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0039】
このような界面活性剤は、シリカ原料と共に溶媒中で複合体を形成する。複合体中のシリカ原料は反応によりケイ素酸化物へと変化するが、界面活性剤が存在している部分ではケイ素酸化物が生成しないため、界面活性剤が存在している部分に孔が形成されることになる。すなわち、界面活性剤はシリカ原料中に導入されて孔形成のためのテンプレートとして機能する。
【0040】
シリカ原料および界面活性剤を混合するための溶媒として、水とアルコールとの混合溶媒を用いることができる。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エチレングリコール、グリセリンが挙げられ、シリカ原料の溶解性の観点からメタノールまたはエタノールが好ましい。また、シリカ原料中に界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を合成する際に、アルコールの含有量が45〜80容量%の水/アルコール混合溶媒を用いることが好ましく、アルコールの含有量が50〜70容量%のものを用いることがより好ましい。
【0041】
シリカ原料としてアルコキシシランを用いる場合は、例えば、以下のようにして多孔体前駆体粒子を得ることができる。まず、水とアルコールの混合溶媒に対して、界面活性剤および水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質を添加して界面活性剤の塩基性溶液を調製し、この溶液にアルコキシシランを添加する。添加されたアルコキシシランは溶液中で加水分解(または、加水分解および縮合)するために、添加後数秒〜数十分で白色粉末が析出する。この場合において、例えば、反応温度は0℃〜80℃とすることが好ましく、10℃〜40℃とすることがより好ましい。また、溶液は撹拌することが好ましい。
【0042】
沈殿物が析出した後、例えば、0℃〜80℃(好ましくは10℃〜40℃)で1時間〜10日、溶液をさらに撹拌してシリカ原料の反応を進行させる。撹拌終了後、必要に応じて室温で一晩放置して系を安定化させ、得られた沈殿物を必要に応じてろ過および洗浄することによって、多孔体前駆体粒子が得られる。
【0043】
また、シリカ原料として、アルコキシシラン以外のシリカ原料(ケイ酸ナトリウム、層状シリケートまたはシリカ等)を用いる場合は、シリカ原料を、界面活性剤を含有する水とアルコールの混合溶媒に添加し、シリカ原料中のケイ素原子と等モル程度になるように、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質をさらに添加して均一な溶液を調製する。その後、希薄酸溶液をシリカ原料中のケイ素原子に対して例えば1/2〜3/4倍モル添加するという方法により、多孔体前駆体粒子を作製することができる。
【0044】
第2の工程において界面活性剤を除去する方法としては、例えば、焼成による方法、有機溶媒で処理する方法、イオン交換法等を挙げることができる。
【0045】
焼成による方法においては、例えば、多孔体前駆体粒子を300〜1000℃、好ましくは400〜700℃で加熱する。加熱時間は例えば30分程度でもよいが、完全に界面活性剤を除去するには1時間以上加熱することが好ましい。また、焼成は空気中で行うことが可能であるが、多量の燃焼ガスが発生するため、窒素等の不活性ガスを導入して行ってもよい。また、有機溶媒で処理する場合は、用いた界面活性剤に対する溶解度が高い良溶媒中に多孔体前駆体粒子を浸漬して界面活性剤を抽出する。イオン交換法においては多孔体前駆体粒子を酸性溶液(少量の塩酸を含むエタノール等)に浸漬し、例えば50〜70℃で加熱しながら撹拌を行う。これにより、多孔体前駆体粒子の孔中に存在する界面活性剤が水素イオンでイオン交換される。なお、イオン交換により孔中には水素イオンが残存することになるが、水素イオンのイオン半径は十分小さいため孔の閉塞の問題は生じない。
【0046】
シリカ系メソポーラス無機材は、例えば、界面活性剤を鋳型としてシリカ源を原料として作製されるものであり、ケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格−Si−O−を基本とし、高度に架橋した網目構造を有している。このようなシリカ系材料は、ケイ素原子および酸素原子を主成分とするものであればよく、ケイ素原子の少なくとも一部が有機基の2箇所以上で炭素−ケイ素結合を形成しているものでもよい。このような有機基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素から2以上の水素がとれて生じる2価以上の有機基が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、有機基は、アミド基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフォン基、カルボキシル基、エーテル基、アシル基、ビニル基等を有するものであってもよい。
【0047】
MMSS以外のメソポーラス無機材の代表例として、FSM(Folded Sheet Mesoporousmaterial、特開2004−051573号公報参照)等が挙げられる。
【0048】
このようなメソポーラス無機材としては、例えば、炭素原子を1以上有する2価以上の有機基と、2価以上の有機基中の同一もしくは異なる炭素原子に結合した2以上の金属原子と、各金属原子に結合した1以上の酸素原子と、前記酸素原子を介して各金属原子に結合しており、かつ、炭素原子を1以上有する1以上の特性基と、を有しており、骨格に含まれる特性基のうち、少なくとも複数の細孔の内壁面に存在する特性基には、陽イオン交換能を有するイオン交換基がさらに結合している、あるいは、特性基が陽イオン交換能を有するイオン交換基に置換されている、メソポーラス材料が挙げられる。
【0049】
メソポーラス無機材が上述の骨格を有することにより、細孔内に取り込んだ捕捉対象成分を細孔内の特定の吸着位置、すなわち、有機化合物に対する高い親和性を有する「有機基」のサイトに吸着固定することができる。また、この有機基の種類を変えることにより、捕捉対象成分の種類やその分子サイズ等に応じて、この吸着位置(吸着サイト)のサイズおよび吸着力を変更することができる。
【0050】
前記骨格としては、下記一般式(2)で表される構成単位の少なくとも1種類からなることが好ましい。
【化2】
(式(2)中、Rは炭素原子を1以上有する2価以上の有機基を示し、Mは金属原子を示し、Rは炭化水素基を示し、xはMの価数から1を差し引いた整数を示し、mは1以上x以下の整数を示し、pは2以上の整数を示す。ただし、Mが結合するR中の炭素は同一でも異なっていてもよく、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在するRには、陽イオン交換能を有するイオン交換基がさらに結合している。あるいは、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在するRが、陽イオン交換能を有するイオン交換基に置換されている。)
【0051】
また、前記骨格が、下記一般式(3)で表される構成単位の少なくとも1種類からなることが好ましい。
【化3】
(式(3)中、R、M、R、x、mおよびpはそれぞれ前記式(2)に記載のR、M、R、x、mおよびpと同義であり、Mは金属原子を示し、yはMの価数から1を差し引いた整数を示し、qは1以上y以下の整数を示す。ただし、MおよびMは互いに同一でも異なっていてもよく、Mが結合するR中の炭素は同一でも異なっていてもよく、Mが結合するR中の炭素は同一でも異なっていてもよく、少なくとも前記複数の細孔の内壁面に存在するRには、陽イオン交換能を有するイオン交換基がさらに結合している。)
【0052】
有機基(R)としては、炭素原子を1以上有しており、2以上の金属原子と結合するために2価以上の価数を有するものが挙げられる。このような有機基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素から2以上の水素原子が脱離して生じる2価以上の有機基が挙げられる。なお、上記の有機基を1種のみ含むものであっても、2種以上含むものであってもよい。適度な架橋度を有する結晶性の高いメソポーラス材料が得られることから、有機基の価数は2価であることが好ましい。2価の有機基としては、捕捉対象成分の大きさ等に応じて選択することが可能であり、メチレン基、エチレン基、フェニレン基等が挙げられる。
【0053】
特性基、炭化水素基(R)としては、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が1〜10のアルケニル基、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。
【0054】
上記の有機基における同一もしくは異なる炭素原子には2以上の金属原子(M,M)が結合するが、この金属原子(M,M)の種類は特に制限されず、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、スズ、鉛、バナジウム、ホウ素が挙げられる。中でも、有機基および酸素との結合性が良好なことから、ケイ素、アルミニウム、チタンが好ましい。
【0055】
なお、有機基に結合する「金属原子」とは、上記例示のように、周期表において金属に分類される元素の原子の他に、Si,P,S,Bを含むものである。また、上記の金属原子は有機基と結合するとともに酸素原子と結合して酸化物を形成するが、この酸化物は2種以上の金属原子からなる複合酸化物であってもよい。
【0056】
また、上記金属原子に結合している酸素原子のうちの少なくとも1つには、炭素原子を1以上有する特性基が結合する。この特性基は、少なくとも細孔の内壁面に存在する場合に、構成原子(例えば、水素原子等)の1つがとれて、そこに陽イオン交換基が結合されるものである。このような特性基は、酸素原子を介して金属原子に化学的に安定に結合できるものであれば特に限定されないが、炭化水素基であることが好ましい。
【0057】
前記イオン交換基としては、例えば、下記一般式(4)で表される構造を少なくとも有しているものが挙げられる。
Z−O−H (4)
(式(4)中、Zは、炭素原子、リン原子、硫黄原子、窒素原子、または、ハロゲン原子を示す。)
【0058】
本実施形態に係る多孔体は、粉末のまま使用してもよいし、必要に応じて成形して使用してもよい。成形する手段はどのようなものでも良いが、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、CIP(冷間静水等方圧プレス)などが好ましい。その形状は使用箇所、方法に応じて決めることができ、例えば円柱状、破砕状、球状、ハニカム状、凹凸状、波板状等が挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る多孔体の具体的な利用方法を以下に説明する。
【0060】
本実施形態に係る、液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分を捕捉するための捕捉対象成分捕捉用フィルタは、液状有機化合物から捕捉対象成分を捕捉、除去するものであって、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を含むろ材を備える。
【0061】
本実施形態に係る捕捉対象成分捕捉用フィルタは、内燃機関用オイルに含まれるオイル劣化成分を捕捉して、オイル添加剤を放出する内燃機関用オイルフィルタであって、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を含むろ材を備える内燃機関用オイルフィルタである。
【0062】
本実施形態に係る捕捉対象成分捕捉用フィルタまたは内燃機関用オイルフィルタによれば、上記多孔体を含むことにより、例えば、エンジンオイル等の初期劣化物(スラッジ前駆体)が重合してスラッジ化する前に、スラッジ前駆体をメソポーラス無機材の細孔内に捕捉してスラッジ化を抑制するとともに、オイル劣化に伴い減少していくオイル添加剤を補給することによりオイル性能を維持することが可能である。
【0063】
本実施形態に係る捕捉対象成分捕捉用フィルタにおいて、ろ材の表面に上記多孔体の粒子を含むこと、例えば、ろ材の繊維に上記多孔体の粒子が担持されていることが好ましい。
【0064】
例えば、上記多孔体の粒子を含浸させたオイルフィルタ濾紙を備え、オイルフィルタ濾紙を従来のオイルフィルタと一体化した一体型オイルフィルタや、ハニカム構造の成形部材(オイルを循環させる際に、圧損が少なくなる構造)の少なくともオイルと接する面に上記多孔体を設けたエレメントを内蔵したフィルタを、従来よりエンジン等に取り付けられている、従来のオイルフィルタと抱き合わせて装着したもの等が挙げられる。ハニカム構造のエレメントとしては、上記多孔体をハニカム構造に成形したものでもよいし、ハニカム構造の金属、セラミック、樹脂等の成形部材の少なくともオイルと接する面に上記多孔体を付着、含浸等させたものでもよい。
【0065】
本実施形態に係る捕捉対象成分捕捉用フィルタとしては、ろ材が抄紙体であってもよく、抄紙体の繊維に上記多孔体の粒子が担持されている抄紙体をオイルフィルタ等として用いてもよい。
【0066】
本実施形態に係る捕捉対象成分捕捉用フィルタとしては、上記多孔体の成形体から構成されるものであってもよい。成形体は、例えば、上記多孔体をメンブランフィルタ等の上に分散させて、油圧成形機等により所定の圧力により圧縮成形することにより得られる。
【0067】
本実施形態に係るエンジンオイルは、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体が分散されているものである。上記多孔体が分散されていることにより、スラッジやスラッジ前駆体等の捕捉対象成分を選択的に捕捉するとともに、オイル劣化に伴い減少していくオイル添加剤を補給することによりオイル性能を維持することが可能である。
【0068】
本実施形態に係る捕捉対象成分の置換システムは、液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分を捕捉して、添加剤を放出するものであって、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予め添加剤を吸着させた多孔体を液状有機化合物と接する面に設けたものである。
【0069】
本実施形態に係る捕捉対象成分の置換システムは、例えば、内燃機関用オイルに含まれるオイル劣化成分を捕捉して、オイル添加剤を放出するオイル劣化成分の置換システムであって、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を内燃機関用オイルと接する面に設けたものである。
【0070】
本実施形態に係る捕捉対象成分の置換システムとしては、例えば、以下のような液状有機化合物収容容器等が挙げられる。
【0071】
本実施形態に係る液状有機化合物収容容器は、液状有機化合物を収容する収容部を備えるものであって、収容部の内面の少なくとも一部に、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予めオイル添加剤を吸着させた多孔体を含む。
【0072】
例えば、上記多孔体を内面塗布した内面塗布オイルパン等が挙げられる。内面塗布オイルパンは、オイルパンの内面に、樹脂系バインダあるいは無機系バインダと上記多孔体粒子の混合液を塗布する等の方法により、上記多孔体を設けたものである。
【0073】
樹脂系バインダとしては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、シアノアクリレート等が挙げられる。無機系バインダとしては、例えば、アルミナ系バインダ、シリカ・アルミナ系バインダ等が挙げられる。
【0074】
液状有機化合物収容容器の具体例としては、上記オイルパンの他に、専用タンク、配管部等が挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
ここでは、多孔体にオイル添加剤を予め吸着させておき、捕捉対象成分であるオイル劣化物を捕捉するとともにオイル添加剤を放出する置き換わり効果について検証した。
【0077】
<実施例および比較例>
1.供試多孔体
評価に用いた多孔体の窒素ガス吸着法による中心細孔直径、比表面積および細孔容積の測定値を表1に、水銀圧入法(水銀圧入式ポロシメータ)によるそれらの測定値を表2に示す。
【0078】
具体的には、窒素ガス吸着法では、比表面積・細孔分布測定装置(Quantachrome社製、AUTOSORB−1)を用い、液体窒素温度(77K)で測定を行った。比表面積はBET法、中心細孔直径はBJH法を用いて算出した。
【0079】
水銀圧入法では、以下の条件で測定を行った。
使用機器:Quantachrome社製、ポアマスター60GT
測定範囲:約1〜60,000psi(約4nm〜200μm)
解析方法:Washburn法
表面張力:480.0mN/m
接触角:140.0°
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
2.試験
供試オイル中にそれぞれ多孔体を分散させ、濾過後のオイル成分をフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)により解析して、劣化物捕捉と添加剤放出を定量した。
【0083】
2−1.供試オイル
ベースオイルに添加剤であるZnDTP(摩耗防止剤)、ギ酸(劣化成分)をそれぞれ配合して、供試オイルを作製した。ギ酸の濃度が高い供試オイルの作製時にはギ酸の分散性を高めるためコハク酸イミド(分散剤)を2質量%加えた。
【0084】
(1)ベースオイル+ZnDTP(ベースオイルに対して(以下同様)0.8質量%)
(2)ベースオイル+ギ酸(0.065質量%)
(3)ベースオイル+コハク酸イミド(2質量%)+ギ酸(1質量%、5質量%)
【0085】
[ベースオイル]
ベースオイルとして、GroupIIIベースオイル:YUBASE4(SK Corporation社)、動粘度:19.7mm/s(40℃)、4.2mm/s(100℃),S<10ppm、水素化分解・異性化鉱油を用いた。
[摩耗防止剤]
ZnDTP:LZ1371(日本ルーブリゾール社)secondaryタイプ
[劣化成分]
ギ酸:和光純薬工業 060−00486 88.0%
[分散剤]
コハク酸イミド:LZ6412(日本ルーブリゾール社)
【0086】
2−2.多孔体への添加剤吸着評価
ベースオイル+ZnDTP(0.8質量%)に多孔体0.3質量%を入れ、ホットスターラ(アズワン製HSH−6D)を用いて撹拌した。撹拌条件は、回転子回転数:200rpm、オイル温度:80℃、撹拌時間:4時間とした。撹拌後のオイルを図1に示す濾過装置を用いてメンブランフィルタ(住友電工製POREFLON FP045 ポアサイズ:0.45μm)により濾過した後、回収した多孔体をヘキサンで洗浄して表面に付着したオイル分を除去した。
【0087】
2−3.添加剤と劣化成分の置き換わり評価
ベースオイル+ギ酸(0.065質量%):10gにZnDTPを吸着させた多孔体30mg(0.3質量%)を添加し、ホットスターラを用いて撹拌した。撹拌条件は、回転子回転数:200rpm、オイル温度:28℃、撹拌時間:4時間とした。撹拌後のオイルを図1に示す濾過装置により濾過した。
【0088】
3.置き換わりの評価方法
3−1.オイル成分解析
供試オイルと多孔体を分散させた後の濾過後オイルの成分をフーリエ変換赤外分光分析装置(FT−IR)により解析した。装置仕様と解析条件を以下に示す。
【0089】
フーリエ変換赤外分光分析装置:サーモニコレー・ジャパン社 Avatar360
使用セル:JASCO 液体用固定セル KBr t=0.1mm
積算回数:32回
【0090】
3−2.多孔体への添加剤吸着の定量
多孔体に吸着したZnDTPの定量は、多孔体分散前後の供試オイルとベースオイルとの差スペクトルによりZnDTP(波数:970cm−1)のピーク高さを測定して、その減少割合から求めた。図2にスペクトル例を示す。
【0091】
3−3.添加剤と劣化成分の置き換わりの定量
ZnDTPを吸着させた多孔体によるギ酸捕捉の定量は、ギ酸中C−Oの伸縮振動(波数:1210cm−1)のピーク高さ減少割合から求め、オイル中へのZnDTP放出の定量は、ZnDTP(波数:970cm−1)のピーク高さを測定して求めた。図3にギ酸捕捉スペクトル例を、図4にはZnDTPが放出された場合のスペクトル例を示す。
【0092】
4.結果
4−1.多孔体への添加剤吸着
ベースオイル+ZnDTP(0.8質量%)に多孔体(0.3質量%)を分散させてZnDTPの吸着を評価した結果を図5に示す。窒素ガス吸着法での多孔体の中心細孔径:2nm以上、比表面積:500m/g以上、細孔容積:0.6cm/g以上(図5の表中:○)を全て満たすメソポーラスシリカ2,3およびケイ酸マグネシウムにおけるZnDTP捕捉率が高く、劣化成分との置き換わりの可能性が高いと推察される(図5参照)。なお、従来技術(特表2008−540123号公報)の水銀圧入法による多孔体の物性測定結果では、粒子間での値が主体であると考えられ、窒素ガス吸着法による多孔体の物性測定結果との相関がみられないことがわかる(図11参照)。
【0093】
4−2.添加剤と劣化成分の置き換わり
ベースオイル+ギ酸(0.065質量%):10gにZnDTPを吸着させたメソポーラスシリカ3:30mg(0.3質量%)を分散させたときのギ酸捕捉とZnDTP放出の割合を図6に示す。ギ酸濃度0.065質量%においてはすべてのギ酸が捕捉され、メソポーラスシリカに吸着されていたZnDTPの10%がオイル中に放出された。一方、ギ酸が配合されていないベースオイル中におけるZnDTP放出割合は3%(図7参照)であり、ギ酸の共存によりZnDTPの放出割合が増加することがわかる。この結果から、ZnDTPとギ酸との置き換わりの可能性が考えられる。そこで、供試オイルとして、ベースオイル+コハク酸イミド(2質量%)+ギ酸(1質量%、5質量%)を用いて、ギ酸濃度による置き換わりへの影響を評価した結果、細孔径4nmにおいてギ酸濃度が高くなるほどギ酸の捕捉量、ZnDTPの放出量がより増加することがわかった(図8参照)。
【0094】
4−3.添加剤と劣化成分の置き換わり効果
ベースオイル+コハク酸イミド(2質量%)+ギ酸(5質量%):10gにZnDTPを吸着させた多孔体30mg(0.3質量%)を分散させたときの多孔体のZnDTP放出量を図9に示す。ZnDTPの放出量は、メソポーラスシリカ3とケイ酸マグネシウムが多く、酸化マグネシウムにおいては少ないことがわかる。また、ZnDTPの放出が多いメソポーラスシリカ3とケイ酸マグネシウムはギ酸も捕捉できており、ZnDTPとギ酸の置き換わり効果が確認できた(図10参照)。
【0095】
このように、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上である複数の細孔を有し、予め添加剤を吸着させた多孔体により、液状有機化合物に含まれる捕捉対象成分を捕捉して、添加剤を放出することができることを確認した。
【0096】
本実施例では、窒素ガス吸着法で測定した中心細孔直径が2nm以上、かつ比表面積が500m/g以上、かつ細孔容積が0.6cm/g以上であるメソポーラス無機材およびケイ酸マグネシウムの細孔内にオイルの劣化成分である初期劣化物(カルボン酸)であるギ酸を捕捉して、オイルのスラッジ化を抑制することによりオイル劣化を抑制できるとともに、オイル劣化に伴い減少していくオイル添加剤を補給することによりオイル性能を維持できることがわかった。上記特性のメソポーラス無機材およびケイ酸マグネシウムは細孔内に劣化成分であるギ酸を捕捉することができ、さらにギ酸を捕捉することにより予め吸着させた添加剤を放出する置き換わり特性を有していた。劣化成分の濃度が高いほど置き換わり効果が高く、オイル劣化を抑制できた。
【0097】
特許文献1で濾過媒体として挙げられている酸化マグネシウムは、添加剤であるZnDTP(摩耗防止剤)の捕捉率がメソポーラス無機材およびケイ酸マグネシウムと比較して低いため、劣化オイル中へのZnDTPの放出量も少なく、添加剤と劣化成分の置き換わり効果が少なかった。また、特許文献1では、濾過媒体の比表面積、内部細孔等の有効範囲を、水銀圧入式ポロシメータを用いた水銀圧入法での測定値で規定しているが、上記の通り、窒素ガス吸着法での測定値と相関がほとんどなく、濾過媒体の物性値による有意差がみられなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11