(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成においては、貫通穴と突出融着部のシール幅が狭いため、長期信頼性において融着樹脂層から内部へ水分が透過するおそれがある。加えて、特許文献1に記載の構成以外にも、膨張した外装フィルムを突起物が突き破ることにより内部圧力を開放する構成もあるが、突起となる部品をデバイス毎に付ける等コスト増となる。また常に突起物がついているので、デバイスの取扱いにも注意が必要となる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、異常時に上昇した内部圧力を安全に開放することができ、信頼性が高い蓄電セル、外装フィルム及び蓄電モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蓄電セルは、蓄電素子と、外装体とを具備する。
上記外装体は、上記蓄電素子を収容し、上記蓄電素子側の第1の主面及びその反対側の第2の主面を有する金属層と、上記第1の主面に積層された樹脂からなる内部樹脂層と、上記第2の主面に積層された樹脂からなる外部樹脂層とを有し、上記金属層の上記第2の主面側に溝部が形成されている。
【0008】
この構成によれば、蓄電セルの異常によって蓄電セルの内部圧力が上昇すると、溝部が形成されている箇所において金属層が断裂し、その裂け目から内部樹脂層が膨張する。内部樹脂層は内部圧力がさらに上昇すると破裂し、内部圧力が開放される。即ち、溝部の形成箇所において内部圧力が開放されるため、溝部以外の部分からの圧力開放を防止することができる。また、通常時(蓄電セルに異常が生じていない時)には金属層によって水分の収容空間への透過が防止されており、蓄電セルの信頼性を確保することが可能である。
【0009】
上記外装体は、上記内部樹脂層が第1の厚みを有する第1の領域と、上記第1の厚みより小さい第2の厚みを有する第2の領域とを有し、上記溝部は、上記第2の領域に形成されてもよい。
【0010】
この構成によれば、溝部が存在する箇所に厚みの小さい第2の領域が形成されているため、内部樹脂層の第1の厚みに係わらず、低い圧力で内部圧力を開放させることが可能となる。
【0011】
上記内部樹脂層は、上記外部樹脂層を構成する樹脂より融点が低い樹脂を有してもよい。
【0012】
この構成によれば、内部樹脂層を構成する樹脂の融点より高く、外部樹脂層を構成する樹脂の融点より低い温度に設定したヒーターで外装フィルムを押圧することによって、内部樹脂層のみを熱加工することが可能であり、内部樹脂層における第2の領域を容易に形成することが可能となる。
【0013】
上記内部樹脂層は、無軸延伸ポリプロピレンからなり、上記外部樹脂層は、ナイロンからなり上記第2の主面に積層された第1外部樹脂層と、ポリエチレンテレフタレートからなり上記第1外部樹脂層に積層された第2外部樹脂層を含んでもよい。
【0014】
この構成によれば、無軸延伸ポリプロピレンの融点はポリエチレンテレフタレートとナイロンより融点の低いため、ヒーターによる押圧によって無軸延伸ポリプロピレンからなる内部樹脂層に第2の領域を容易に形成することができる。
【0015】
上記溝部は、上記外部樹脂層まで連続していてもよい。
【0016】
この構成により、異常時に金属層を速やかに断裂させて、上昇した蓄電セルの内部圧力をより効率的に開放することが可能となる。
【0017】
上記溝部の一部又は全部が絶縁物で埋められていてもよい。
【0018】
これにより、外部樹脂層の強度が向上し、通常時における外装フィルムの断裂を防止することが可能となる。
【0019】
上記絶縁物は、樹脂であってもよい。
【0020】
溝部に埋められる絶縁物としては、樹脂、紙、ガラス等の各種絶縁物を用いることができるが、シール性の観点から樹脂が好ましい。
【0021】
上記第2の厚みと上記第1の厚みの差は20μm以上50μm以下であってもよい。
【0022】
内部樹脂層における第2の厚みを第1の厚みより20μm以上50μm以下の範囲で薄くすることにより、第1の領域における内部樹脂層の強度を維持したまま、第2の領域における内部樹脂層の破裂を容易にすることができる。
【0023】
上記金属層は、25μm以上80μm以下の厚みを有するアルミニウム箔であり、上記溝部は、上記金属層において上記金属層の厚みに対して1/10以上2/3以下の深さを有してもよい。
【0024】
この構成によれば、金属層における溝部の深さを金属層の厚みに対して1/10以上2/3以下とすることにより、蓄電セルの通常時に金属層を断裂させずに、外部からの水分の透過を防止することができる。また、異常時に金属層が速やかに断裂するため、溝部の開放圧力を小さくすることが可能となる。
【0025】
上記溝部は、上記金属層において上記金属層の厚みに対して1/3以上1/2以下の深さを有してもよい。
【0026】
これにより、蓄電セルの通常時に金属層を断裂させずに外部からの水分の透過を防止することができるだけではなく、異常時に金属層を速やかに断裂させて、上昇した蓄電セルの内部圧力をより安全に開放することが可能となる。
【0027】
上記外装体は、上記蓄電素子に対向して平面を形成する素子収容部と、上記素子収容部の周縁において上記内部樹脂層が互いに熱融着することによって形成されたシール部と、上記素子収容部と上記シール部の間の中間部を有し、上記溝部は、上記中間部に形成されてもよい。
【0028】
当該蓄電セルを積層し、蓄電モジュールを形成した場合に、素子収容部は隣接する蓄電セルや他の部材に当接する。このため、溝部が素子収容部に形成されている場合には、溝部における内部樹脂層の膨張が他の部材によって妨げられる。上記構成によれば、溝部は他の部材に当接しない位置に設けられているため、溝部における内部樹脂層の膨張が他の部材によって妨げられず、溝部の開放圧力を小さくすることが可能となる。
【0029】
上記素子収容部は、エンボス加工によって形成されてもよい。
【0030】
外装体は、柔軟性を有する外装フィルムが蓄電素子を被覆し、蓄電素子の形状によって素子収容部を形成するものであってもよい。また、外装体はエンボス加工によって予め素子収容部が形成されたものであってもよい。
【0031】
上記溝部は、上記シール部の周縁に対して平行に形成されてもよい。
【0032】
この構成によれば、溝部における内部樹脂層の膨張及び破裂を容易とし、溝部の開放圧力を小さくすることが可能である。
【0033】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る外装フィルムは、蓄電素子を収容する収容空間を形成する外装フィルムであって、上記蓄電素子側の第1の主面及びその反対側の第2の主面を有する金属層と、上記第1の主面に積層された樹脂からなる内部樹脂層と、上記第2の主面に積層された樹脂からなる外部樹脂層とを有し、上記金属層の上記第2の主面側に溝部が形成されている。
【0034】
上記構成を有する外装フィルムによって蓄電素子を被覆することにより、異常時に上昇した内部圧力を安全に開放することができ、信頼性が高い蓄電セルを作製することが可能である。
【0035】
上記溝部は、上記外部樹脂層まで連続していてもよい。
【0036】
この構成により、異常時に金属層を速やかに断裂させて、上昇した蓄電セルの内部圧力をより効率的に開放することが可能となる。
【0037】
上記溝部の一部又は全部が絶縁物で埋められていてもよい。
【0038】
これにより、外部樹脂層の強度が向上し、通常時における外装フィルムの断裂を防止することが可能となる。
【0039】
上記絶縁物は、樹脂であってもよい。
【0040】
溝部に埋められる絶縁物としては、樹脂、紙、ガラス等の各種絶縁物を用いることができるが、シール性の観点から樹脂が好ましい。
【0041】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蓄電モジュールは、複数の蓄電セルが積層された蓄電モジュールである。
上記蓄電セルは、蓄電素子と外装体とを具備する。
上記外装体は、上記蓄電素子を収容し、上記蓄電素子側の第1の主面及びその反対側の第2の主面を有する金属層と、上記第1の主面に積層された樹脂からなる内部樹脂層と、上記第2の主面に積層された樹脂からなる外部樹脂層とを有し、上記内部樹脂層を上記蓄電素子側として上記蓄電素子を収容し、上記蓄電素子に対向して平面を形成する素子収容部と、上記素子収容部の周縁において上記内部樹脂層が互いに熱融着することによって形成されたシール部と、上記収容部と上記シール部の間の中間部を有し、上記中間部において上記金属層の上記第2の主面側に溝部が形成されている。
【0042】
この構成によれば、溝部は、外装体の中間部、即ち他の部材と接触しない位置に設けられているため、溝部における内部樹脂層の膨張が他の部材によって妨げられず、溝部の開放圧力を小さくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0043】
以上のように、本発明によれば異常時に上昇した内部圧力を安全に開放することができ、信頼性が高い蓄電セル、外装フィルム及び蓄電モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0046】
[蓄電セルの構造]
図1は、本実施形態に係る蓄電セル10の斜視図であり、
図2は、
図1のD−D線における蓄電セル10の断面図である。以下の図においてX方向、Y方向及びZ方向は相互に直交する3方向である。
【0047】
図1及び
図2に示すように、蓄電セル10は、外装フィルム20、蓄電素子30、正極端子40及び負極端子50を有する。
【0048】
蓄電セル10においては、2枚の外装フィルム20によって構成される外装体が収容空間R1を形成し、収容空間R1には蓄電素子30が収容されている。2枚の外装フィルム20は、蓄電素子30の周縁においてシールされており、外装体はシール部20aを備える。シール部20aについては後述する。
【0049】
蓄電素子30は、
図2に示すように、正極31、負極32及びセパレータ33を備える。正極31と負極32はセパレータ33を介して対向し、収容空間R1に収容されている。
【0050】
正極31は、蓄電素子30の正極として機能する。正極31は正極活物質及びバインダ等を含む正極材料からなるものとすることができる。正極活物質は例えば活性炭である。正極活物質は、蓄電セル10の種類に応じて適宜選択される。
【0051】
負極32は、蓄電素子30の負極として機能する。負極32は負極活物質及びバインダ等を含む負極材料からなるものとすることができる。負極活物質は例えばグラファイト、ハードカーボン等の炭素系材料である。負極活物質は、蓄電セル10の種類に応じて適宜選択される。
【0052】
セパレータ33は、正極31と負極32の間に配置され、電解液を通過させると共に正極31と負極32の接触を防止(絶縁)する。セパレータ33は、織布、不織布又は樹脂微多孔膜等であるものとすることができる。
【0053】
図2においては、正極31と負極32がそれぞれ一つずつ設けられているが、それぞれが複数設けられるものとすることも可能である。この場合、複数の正極31と負極32がセパレータ33を介して交互に積層されるものとすることができる。また、蓄電素子30は、正極31、負極32及びセパレータ33の積層体がロール状に巻回されたものとすることも可能である。
【0054】
蓄電素子30の種類は特に限定されず、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等とすることができる。収容空間R1には、蓄電素子30と共に電解液が収容される。この電解液は、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)の炭酸プロピレン(PC)溶液等であり、蓄電素子30の種類に応じて選択することができる。
【0055】
正極端子40は、正極31の外部端子である。
図2に示すように、正極端子40は、正極配線41を介して正極31と電気的に接続され、シール部20aにおいて2つの外装フィルム20の間を通って収容空間R1の内部から外部へ引き出されている。正極端子40は導電性材料からなる箔又は線材等であるものとすることができる。
【0056】
負極端子50は、負極32の外部端子である。
図2に示すように負極端子50は、負極配線51を介して負極32と電気的に接続され、シール部20aにおいて2つの外装フィルム20の間を通って収容空間R1の内部から外部へ引き出されている。負極端子50は導電性材料からなる箔又は線材等であるものとすることができる。
【0057】
図3は、蓄電セル10をZ方向から見た模式図である。同図に示すように、シール部20aは、蓄電素子30の周縁に形成される。シール部20aは、外装フィルム20が互いに熱融着することにより形成され、収容空間R1を封止する。シール部20aの幅は例えば数mmから数十mm程度とすることができる
【0058】
[外装フィルムの構成]
図4は、外装フィルム20の断面図である。同図に示すように、外装フィルム20は、金属層25、内部樹脂層26及び外部樹脂層27から構成されている。
【0059】
金属層25は、箔状の金属からなる層であり、大気中の水分の透過を防ぐ機能を有する。金属層25は、
図4に示すように、第1の主面25aとその反対側の第2の主面25bとを有する。
【0060】
金属層25は、例えば、アルミニウムからなる金属箔とすることができる。また、金属層25はこの他にも銅、ニッケル又はステンレス等の箔であってもよい。金属層25の厚みは、25μm以上80μm以下が好適である。
【0061】
内部樹脂層26は、第1の主面25aに積層され、収容空間R1の内周面を構成し、金属層25を被覆して絶縁する。
【0062】
内部樹脂層26は、樹脂からなり、例えば、無軸延伸ポリプロピレン(CPP)からなるものとすることができる。この他にも、内部樹脂層26はポリエチレン、これらの酸変成物、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド又はエチレン−酢酸ビニル共重合体等からなるものとすることができる。また、内部樹脂層26は複数層の樹脂層が積層されて構成されてもよい。なお、内部樹脂層26を構成する材料は、外部樹脂層27を構成する材料より融点が低い材料が好適である。
【0063】
外部樹脂層27は、第2の主面25bに積層され、蓄電セル10の表面を構成し、金属層25を被覆して保護する。
【0064】
外部樹脂層27は2層の樹脂層からなるものとすることができる。
図4に示すように、外部樹脂層27は第1外部樹脂層271と第2外部樹脂層272が積層されて構成されている。また、外部樹脂層27は1層の樹脂層からなるものであってもよい。
【0065】
第1外部樹脂層271はナイロンからなり、第2外部樹脂層272はポリエチレンテレフタレートからからなるものとすることができる。また、第1外部樹脂層271及び第2外部樹脂層272の材料はこの他にも、ポリエチレンナフタレート、2軸延伸ポリプロピレン、ポリイミド又はポリカーボネート等からなるものとすることができる。なお、外部樹脂層27(第1外部樹脂層271及び第2外部樹脂層272)は、内部樹脂層26を構成する材料より融点が高い材料が好適である。
【0066】
上記構成を有する外装フィルム20の2枚が蓄電素子30を介して対向し、シール部20aでシールされた外装体によって収容空間R1が形成されている。シール部20aにおいては、2枚の外装フィルム20の内部樹脂層26が互いに熱融着されている。外装フィルム20は、内部樹脂層26が収容空間R1側(内側)となり、外部樹脂層27が表面側(外側)となるように配置される。
【0067】
外装フィルム20は、柔軟性を有する状態で用いられ、蓄電素子30の形状に応じて
図2に示すような周縁が湾曲した形状をなしてもよい。また、外装フィルム20は、予めエンボス加工によって同形状が形成された状態で用いられてもよい。2枚の外装フィルム20のどちらか一方には溝部が形成されている。
【0068】
[溝部について]
図5は溝部Sを含む外装フィルム20の断面図である。溝部Sは、同図に示すように、外部樹脂層27の表面から金属層25の途中まで形成されている。外部樹脂層27は、
図5に示すように溝部Sが形成されている箇所において完全に分離され、金属層25は同図に示すように溝部Sによって部分的に分離されている。
【0069】
具体的には溝部Sは、金属層25において第1の主面25aと第2の主面25bの間までの深さを有するものとすることができる。
図5に示すように、金属層25の厚みをTとすると、溝部Sの金属層25における深さFは厚みTの10分の1(T/10)以上3分の2(2T/3)以下が好適であり、より好適には3分の1(T/3)以上2分の1(T/2)以下である。
【0070】
また、外装フィルム20は、内部樹脂層26に薄肉部が形成された領域を有し、溝部Sは当該領域に形成されていてもよい。
図6は、内部樹脂層26が薄肉部を有する外装フィルム20の断面図である。
【0071】
同図に示すように、外装フィルム20は、内部樹脂層26が第1の厚みL1を有する第1の領域A1と、内部樹脂層26が第1の厚みL1より薄い第2の厚みL2を有する第2の領域A2とを有するものとすることができる。以下、内部樹脂層26のうち第2の厚みL2を有する部分を薄肉部26aする。なお、第1の厚みL1と第2の厚みL2は特に限定されないが、第1の厚みL1と第2の厚みL2の差が20μm以上50μm以下となる厚みが好適である。
【0072】
溝部Sは、
図6に示すように、第2の領域A2に形成されるものとすることができる。即ち、溝部Sは、外部樹脂層27から金属層25を介して薄肉部26aと対向するように形成される。なお、溝部Sは一部のみが薄肉部26aと対向していてもよい。
【0073】
[溝部の効果]
蓄電セル10の使用時において、通常時(蓄電素子30に異常が生じてない状態)、即ち収容空間R1の内部圧力が許容範囲内の場合には、外装フィルム20は
図5又は
図6に示した状態を維持する。この状態では溝部Sは金属層25を完全に分離していないため、金属層25によって水分が外装フィルム20を透過することが防止されている。
【0074】
蓄電セル10の使用時において蓄電素子30に異常が生じ、内部圧力が上昇すると、外装フィルム20が膨張する。これにより、金属層25は溝部Sが形成されている部分において断裂する。次いで、断裂した金属層25の裂け目から内部樹脂層26が部分的に外装フィルム20の外部に突出し、膨張する。そして、内部圧力が一定以上となると、外部へ突出した内部樹脂層26が破裂し、収容空間R1の内部圧力が開放される。
【0075】
このように、溝部Sが形成されていることにより、内部樹脂層26が破裂する位置を予め特定しておくことが可能である。仮に溝部Sが設けられていない場合、外装体において最も強度が弱いシール部20aが開裂し、内部圧力が開放される。その場合、蓄電素子30の周縁全体に形成されているシール部20aのどの部分が開裂するか予め特定することができない。
【0076】
溝部Sの深さは、通常時において金属層25が水分の透過を防止し、異常時において金属層25が速やかに断裂する深さが好適である。具体的には、金属層25における溝部Sの深さFを金属層25の厚みTの10分の1(T/10)以上3分の2(2T/3)以下とすることにより実現することができる。
【0077】
また、上記のように異常時における内部圧力の開放は、内部樹脂層26の破裂によって生じる。即ち、内部樹脂層26の強度によって、開放が生じる内部圧力(開放圧力)を調整することが可能である。内部樹脂層26の強度は、内部樹脂層26の厚みによって調整することができ、
図6に示すように薄肉部26aを設けることによって内部樹脂層26の強度を調整することができる。
【0078】
また、
図5に示すように内部樹脂層26は一定の厚みを有するものであってもよく、この場合には、内部樹脂層26の全体の厚みによって内部樹脂層26の強度を調整することができる。いずれの場合であっても、溝部Sにおける内部樹脂層26の破裂が生じる内部圧力が、シール部20aが開裂する内部圧力よりも小さければよい。
【0079】
[溝部の形成位置について]
溝部Sは、外装フィルム20のうち、シール部20a以外のいずれかに設けることができる。
図7乃至
図10は、溝部Sの形成位置を示す模式図であり、
図7は蓄電セル10の断面図、
図9乃至
図10は蓄電セル10の平面図である。
【0080】
図7に示すように、外装体のうち、蓄電素子30に対向して平面を形成する部分を素子収容部20bとし、素子収容部20bとシール部20aの間の部分を中間部20cとする。
【0081】
図8に示すように、溝部Sは、中間部20cに形成することができる。具体的には溝部Sは、同図に示すように、最も接近するシール部20aの長手方向と平行に、数十mm程度の長さで形成することができる。
【0082】
また、溝部Sは必ずしも中間部20cに設けられてなくてもよく、
図9及び
図10に示すように、素子収容部20b上に設けられてもよい。溝部Sの延伸方向は特に限定されず、
図9に示すように、正極端子40及び負極端子50が設けられているシール部20aの長手方向に対して垂直でもよく、
図10に示すように同長手方向に対して平行でもよい。
【0083】
[蓄電モジュールについて]
本実施形態の蓄電セル10を複数積層することにより蓄電モジュールを構成することができる。
図11は、蓄電モジュール100の模式図である。蓄電モジュール100は、同図に示すように、複数の蓄電セル10、熱伝導シート101、プレート102及び支持部材103を備える。
【0084】
複数の蓄電セル10は、熱伝導シート101を介して積層され、支持部材103によって支持されている。蓄電セル10の数は2つ以上であってもよい。蓄電セル10の正極端子40及び負極端子50は図示しない配線又は端子によって蓄電セル10の間で接続されているものとすることができる。複数の蓄電セル10の最上面及び最下面には、プレート102が積層されている。
【0085】
同図に示すように蓄電セル10が積層されると、素子収容部20bは熱伝導シート101やプレート102と接触する。このため、溝部Sが素子収容部20bに形成されていると、これらの部材によって内部樹脂層26の膨張が妨げられる。これに対し、中間部20cに溝部Sが形成されている場合には、内部樹脂層26の膨張が妨げられず、所定圧力での内部圧力の開放が可能である。
【0086】
[変形例]
図12は変形例に係る蓄電セル10を示す断面図であり、
図13は別の変形例に係る外装フィルム20の断面図である。上記実施形態において、蓄電セル10は、2枚の外装フィルム20によって構成される外装体が収容空間R1を封止するものとしたがこれに限られない。
図12に示すように、蓄電セル10は、1枚の外装フィルム20が蓄電素子30を介して折り曲げられ、3辺がシールされて形成された外装体が収容空間R1を封止する構成であってもよい。溝部Sは、
図12に示すように、外装フィルム20のうちシール部20a以外の部分に設けられるものとすることができる。
【0087】
また、外装フィルム20は、
図13に示すように、溝部Sに絶縁物R2が埋められた構成とすることもできる。この場合、溝部Sの一部又は全部が絶縁物R2で埋められる。絶縁物R2は特に限定されず、樹脂、紙、ガラス等の各種絶縁物を用いることができるが、シール性の観点から樹脂が好ましい。
【0088】
[外装フィルムの製造方法]
本実施形態に係る外装フィルム20の製造方法について説明する。なお、以下に示す製造方法は一例であり、外装フィルム20は、以下に示す方法とは異なる方法で製造することも可能である。
【0089】
<溝部形成工程>
図14は、溝部Sの形成に用いられる溝部加工機80の模式図である。溝部加工機80は、
図14に示すように、ホーン81及び刃82を備える。
【0090】
ホーン81は、超音波振動が可能であり、刃82に対する方向(Z方向)に移動可能に構成されている。ホーン81の振動方向はZ方向とすることができる。刃82は刃先がホーン81に対向するように支持されている。刃82の形状及び大きさは特に限定されず、直線状、破線状、波線状、丸状及び四角等にすることができ、外装フィルム20のサイズに合わせた大きさとすることができる。
【0091】
ホーン81と刃82は、ホーン81と刃82の間にできる隙間が10μm以下となるものが望ましい。なお、溝部加工機80はホーン81の替わりに刃82を超音波振動させる構成であってもよい。
【0092】
図15は、溝部の形成工程を示す模式図である。
図15(a)に示すように、溝部加工機80の刃82とホーン81の間に外装フィルム20をセットする。次いで、
図15(b)に示すように、ホーン81をZ方向に超音波振動させながら外装フィルム20をホーン81と刃82で挟む。
【0093】
この際、外装フィルム20にホーン81のZ方向の振動が伝播し、同図に示すように、刃82の先端が金属層25の第1の主面25aと第2の主面25bの間に到達する。これにより、
図15(c)に示すように、外装フィルム20に溝部Sが形成される。
【0094】
なお、刃82を超音波振動させながら、外装フィルム20を刃82とホーン81とで挟むことにより溝部Sを形成することも可能である。
【0095】
また、超音波振動を印加せずに、外装フィルム20にホーン81を押圧すると、刃82の刃先の状態及び外装フィルム20の表面状態により溝部Sの深さにバラつきが生じる。しかしながら、刃82の刃先及び外装フィルム20の表面状態が管理されていれば、超音波振動なしでの加工も可能である。溝部Sは数十μm程度の加工であるため、溝部Sの深さが不均一であると、溝部Sの開放圧力が影響を受ける。
【0096】
<薄肉部の形成工程>
図16は、薄肉部26aの形成に用いるシーラー90の模式図であり、
図16(a)は正面図、
図16(b)は側面図である。シーラー90は、ヒーター91及びヒーター92を備える。
【0097】
ヒーター91は、外装フィルム20を内部樹脂層26側から押付けて加熱する。ヒーター91は温度調節可能であり、外装フィルム20に対してヒーター押付推力の可変機能を有する。
【0098】
ヒーター92は、外装フィルム20を外部樹脂層27側から押付けて加熱する。ヒーター92は温度調節可能であり、外装フィルム20に対してヒーター押付推力の可変機能を有する。
【0099】
なお、ヒーター91とヒーター92は同一温度に調整される。また、薄肉部26aの厚みの均一性を確保するため、ヒーター91とヒーター92の平行度は、±0.02mmの範囲に調節されるのが望ましい。
【0100】
図17は、薄肉部26aの形成工程を示す模式図である。
図17(a)に示すように、外装フィルム20をシーラー90にセットする。この際、内部樹脂層26がヒーター91側に、外部樹脂層27がヒーター92側となるようにセットする。次いで、外装フィルム20にヒーター91とヒーター92を押付けて加熱する。
【0101】
ここで、本実施形態に係る外装フィルム20の内部樹脂層26は、外部樹脂層27を構成する材料より融点が低い材料から構成されるものとすることができる。これにより、ヒーター91及びヒーター92の温度を、内部樹脂層26を構成する材料の融点より高く、外部樹脂層27を構成する材料の融点より低く設定することで、
図17(b)に示すように、溝部Sを潰すことなく内部樹脂層26側のみに薄肉部26aが形成される。
【0102】
ヒーター91及びヒーター92の温度、推力、押付時間等のパラメータを調整することにより薄肉部26aの潰し量を制御することができる。薄肉部26aは、溝部Sの全部と対向するように形成することが理想的であるが、開放圧力が確保できれば溝部Sの一部と対向するように形成してもよい。
【0103】
<溝部検査工程>
図18は、外装フィルム20の検査工程の模式図である。外装フィルム20は、薄肉部26aと溝部Sが形成された後、
図18に示すように、円筒状に曲げられて溝部Sの深さが検査される。
【0104】
具体的には、
図18に示すように、外装フィルム20を円筒状に曲げて溝部Sを広げ、暗室にて内部樹脂層26側からバックライトを照らし、外部樹脂層27側から光の漏れを確認する。この際、金属層25が貫通、若しくは亀裂が入っている場合は、溝部Sからの光の漏れが確認される。金属層25に異常が無い場合は、溝部Sからの光の漏れは確認されない。外装フィルム20を円筒状にすることにより、溝部Sが強制的に開かれ、光の漏れの確認が容易となる。
【0105】
この検査方法は、溝部Sの形成時に金属層25が貫通していないかどうかを確認することができるだけではなく、溝部Sを形成する際の超音波振動の影響による金属層25の亀裂の有無も確認することができる。また、この検査方法は非破壊検査であるので、外装フィルム20の全数検査が可能である。
【0106】
なお外装フィルム20は、浸透液の付着が許容される場合には、浸透液による溝部Sの検査も可能である。
【0107】
[蓄電セルの製造方法]
本実施形態に係る蓄電セル10は、上記製造方法により作製された外装フィルム20で蓄電素子30を囲み、電解液を充填した後、シール部20aによってシールすることにより製造することができる。2枚の外装フィルム20で収容空間R1を封止する場合には、溝部Sを有する外装フィルム20と溝部Sを有しない外装フィルム20を用いることができる。1枚の外装フィルム20で収容空間R1を封止する場合には溝部Sを有する外装フィルム20を用いることができる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明の実施例について説明する。上記実施形態において説明した蓄電セルを作製し、評価した。
図19は、本発明の実施例に係る蓄電セルをZ方向から見た模式図である。
【0109】
[蓄電セルの作製]
まず、厚さが80μmの無軸延伸ポリプロピレン(CPP)からなる内部樹脂層を、厚さが40μmのアルミニウムからなる金属層に接着剤で積層した。次に、金属層の内部樹脂層が積層された反対側の面にオリエンテッドナイロンからなり、厚さが15μmの第1外部樹脂層を接着剤で積層した。続いて、第1外部樹脂層の上に、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、厚さが12μmの第2外部樹脂層を接着剤で積層し、厚みが156μmの積層フィルムを作製した。
【0110】
次に、積層フィルムに長さが50mmの溝部を形成した。溝部の深さは第1外部樹脂層と第2外部樹脂層を貫通し、金属層の厚みの半分程度(20μm)の深さとした。次に、内部樹脂層に薄肉部を形成し、外装フィルムを作製した。薄肉部の厚みは30μmとした。
【0111】
次に、溝部を形成した外装フィルムと、溝部を形成していない外装フィルムで蓄電素子を囲み、両外装フィルムの内部樹脂層を熱融着させてシール部を形成し(
図2参照)、蓄電素子を封止することで蓄電セルを得た。この際、
図19に示すように、正極端子及び負極端子側のシール部の幅を10mmとし、それ以外のシール部の幅を6mmとした。また、溝部は、同図に示すように、正極端子及び負極端子側のシール部の端部から13mmの位置に形成した。
【0112】
蓄電セルはサイズが異なる2種類のものを作製した。蓄電セルAはX方向の幅を122mmとした。蓄電セルBはX方向の幅を84mmとした。また、蓄電セルAと蓄電セルBのそれぞれにおいて、内部樹脂層に薄肉部を有しないものを作製した。
【0113】
[蓄電セルの加圧試験]
各蓄電セルの開放圧力を測定した。測定は、蓄電セルをプレートによって挟持した状態と、プレートによって挟持していない状態でおこなった。プレートで挟持した状態は、蓄電モジュールにおける蓄電セルの状態を再現したものである。
【0114】
測定結果を
図20に示す。「フリー」は蓄電セルをプレートで挟持していない状態で測定した結果であり、「押え有」はプレートで挟持した状態で測定した結果である。同図に示すように蓄電セルのサイズや蓄電素子の状態に関わらず、薄肉部が形成された蓄電セルのほうが、開放圧力が低下していることが確認された。なお、いずれの構造であっても、圧力開放は溝部からであった。
【0115】
従って、これらの結果から、内部樹脂層に薄肉部を形成することで、溝部による開放圧力を小さくし、蓄電セルの安全性の向上を実現できることが確認された。