特許第6298210号(P6298210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6298210
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】新規澱粉分解物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/212 20160101AFI20180312BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   A23L29/212
   C12P19/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-219089(P2017-219089)
(22)【出願日】2017年11月14日
【審査請求日】2017年11月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】上原 悠子
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−074057(JP,A)
【文献】 特開昭55−120758(JP,A)
【文献】 特開2010−229234(JP,A)
【文献】 特開2016−202106(JP,A)
【文献】 米国特許第05904940(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/212−29/225
A23L 27/00−27/60
C12P 19/00−19/24
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)から(C)の数値を満た
(A)DE値が18を超え27以下、
(B)30℃における30質量%水溶液の粘度が50〜250mPa・s、及び
(C)30質量%水溶液を4℃で3日間保存した後の濁度が1.0以下
かつ、ワキシー種澱粉である原料澱粉を液化酵素で加水分解し、その70℃における25質量%水溶液の粘度が20〜250mPa・sの範囲にあるときに、該液化酵素の反応を停止させ、糖化酵素でさらに加水分解することにより製造される、澱粉分解物
【請求項2】
(D)分子量5,000以上の糖組成物含有量が固形分当たり70質量%以上である、請求項1記載の澱粉分解物。
【請求項3】
(B)30℃における30質量%水溶液の粘度が55〜200mPa・sである、請求項1又は2記載の澱粉分解物。
【請求項4】
(A)DE値が19以上26以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の澱粉分解物。
【請求項5】
ワキシー種澱粉である原料澱粉を液化酵素で加水分解し、その70℃における25質量%水溶液の粘度が20〜250mPa・sの範囲にあるときに、該液化酵素の反応を停止させ、糖化酵素でさらに加水分解することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の澱粉分解物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の澱粉分解物を含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な澱粉分解物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉分解物を飲食品に用いることは従来から行われており、その際、澱粉懸濁液にα−アミラーゼ(液化酵素)やグルコアミラーゼ(糖化酵素)を作用させたり、酸を用いたりして、所望するDE値の澱粉分解物を得る方法は既に知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、澱粉懸濁液をα−アミラーゼで二段加水分解(液化)して得られる、DE値5〜18の老化しにくい澱粉分解物が開示される。特許文献2には、α-アミラーゼ又は酸を用いて澱粉を分解する第1分解工程と、少なくとも枝切り酵素を用いて分解する第2分解工程とからなるグルコースポリマーの製造方法により製造される、DE値27以下であり、かつ分子量5,000以上の糖組成物含有量が固形分当たり18重量%以下であり、さらに含まれる単糖類が固形分当たり6重量%以下であることを特徴とするグルコースポリマーが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、でんぷんをオリゴ糖へと加水分解する第一のでんぷん加水分解酵素、及びでんぷん又はオリゴ糖をグルコースへと加水分解する第二のでんぷん加水分解酵素により澱粉懸濁液を処理して単糖リッチなシロップを製造したことが開示されている。また、特許文献4には、高いデキストロース含有量を有する澱粉加水分解物の生産法として、澱粉懸濁液を酵素による液化及び糖化後にナノ濾過透過物として得る方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献5には、透明性に優れた澱粉分解物を得ることを目的として、澱粉懸濁液を澱粉分解酵素で処理し、約2〜5万ダルトンの分子量を有するDE値が約8より小さいマルトデキストリンを分離して得る方法が開示されている。
特許文献6には、濃厚感を有するデキストリンを作成することを目的として、澱粉加水分解物に分岐酵素を反応させてDE値が2〜9で所定の粘度の分岐デキストリンを作成したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49−19049号公報
【特許文献2】特開2007−182563号公報
【特許文献3】特開2004−248673号公報
【特許文献4】特開2000−308499号公報
【特許文献5】特開平6−209784号公報
【特許文献6】特開2014−80518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、澱粉懸濁液における糖化酵素反応を適時終了させ、所望する画分を分離等することにより、澱粉分解物のDE値を適宜設定することは可能であったといえる。また、比較的粘度が高い澱粉分解物も報告されている。
しかしながら、飲食品に添加することを目的として、従来知られている粘度が高い澱粉分解物を使用すると、DE値が小さいことから甘味が低く抑えられ、濃厚感が得られたが、後味が残るという問題があった。一方、後味が口中に残らない従来のDE値の高い澱粉分解物を用いた場合には、甘味が強く、さらに粘度が低いことから、濃厚感が得られにくかった。すなわち、飲食品に従来の様々なDE値を有する澱粉分解物を用いた場合、コク(濃厚感)やキレ(味きれ)と表現される先味と後味の双方に優れた風味を飲食品に与えることは困難であった。
また、飲食品に澱粉分解物を添加する場合には、透明性が高く、飲食品の外観に影響を与えないものが望ましいが、従来の粘度の高い澱粉分解物では老化耐性が低く、保存中の老化により濁度が高くなってしまうため、溶液にした際に透明性の高いものが得られない。従って、コク(濃厚感)やキレ(味切れ)と表現される先味と後味の双方に優れた風味が良くかつ透明性の高い新規な澱粉分解物を得ることが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、原料澱粉を特定の澱粉分解酵素を用いて特定の条件で分解することにより、水溶液粘度及びDE値が所定範囲内であり、かつ透明性が高い澱粉分解物が得られ、コク(濃厚感)やキレ(味切れ)と表現される先味と後味の双方に優れかつ透明性を高く維持できる澱粉分解物が得られることを見いだした。
【0009】
すなわち、本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下の〔1〕〜〔9〕から構成されるものである。
〔1〕下記(A)から(C)の数値を満たす澱粉分解物:
(A)DE値が18を超え27以下、
(B)30℃における30質量%水溶液の粘度が50〜250mPa・s、及び
(C)30質量%水溶液を4℃で3日間保存した後の濁度が1.0以下。
〔2〕(D)分子量5,000以上の糖組成物含有量が固形分当たり70質量%以上である、〔1〕記載の澱粉分解物。
〔3〕(B)30℃における30質量%水溶液の粘度が55〜200mPa・sである、〔1〕又は〔2〕記載の澱粉分解物。
〔4〕(A)DE値が19以上26以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の澱粉分解物。
〔5〕澱粉分解物の原料澱粉がワキシー種澱粉である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の澱粉分解物。
〔6〕原料澱粉を液化酵素で加水分解後、糖化酵素でさらに加水分解する、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の澱粉分解物の製造方法。
〔7〕原料澱粉を液化酵素で加水分解し、その70℃における25質量%水溶液の粘度が20〜250mPa・sの範囲にあるときに、該液化酵素の反応を停止させることを特徴とする、〔6〕記載の澱粉分解物の製造方法。
〔8〕原料澱粉がワキシー種澱粉である、〔6〕又は〔7〕記載の製造方法。
〔9〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の澱粉分解物を含む飲食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の澱粉分解物は、高DE値でありながら、その水溶液粘度は高く透明性に優れるため、甘味が低く後味が口中に残らず、食品の風味を損なうことなく濃厚感と味切れの双方を付与することができる。本発明の澱粉分解物は特に、液状又はペースト状の飲食品に好適に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】官能評価のスケールを示す。
図2】澱粉分解物30質量%水溶液を4℃で3日間保存後の状態の写真である(写真左から、実施例4、比較例2、比較例5及びパインデックス#100)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<澱粉分解物>
本発明の澱粉分解物は、下記(A)から(C)の数値を満たすものである。
(A)DE値が18を超え27以下
(B)30℃における30質量%水溶液の粘度が50〜250mPa・s
(C)30質量%水溶液を4℃で3日間保存した後の濁度が1.0以下
【0013】
本発明における「澱粉分解物」は、「水飴」、「デキストリン」、「マルトデキストリン」などとも呼ばれ、澱粉を酵素により加水分解して得られるものを指す。
【0014】
(A)DE値
本発明の澱粉分解物のDE値は、18を超え27以下であり、好ましくは18を超え26以下、より好ましくは19以上26以下である。上記範囲であれば、甘すぎず、味切れのよい澱粉分解物を提供することができ、飲食品に添加した場合にも飲食品の風味を損なうことがない。
本発明における「DE」値とは、「[(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)]×100」の式により求められる値で、レインエイノン法による分析値である。
【0015】
(B)粘度
(i)液化液
本発明の製造方法(後述)における「液化液」の粘度とは、液化工程後の澱粉分解物の25質量%水溶液の70℃におけるBM型粘度計(60回転/分、30秒間)による測定値である。本発明の液化液の70℃における25質量%水溶液の粘度は、好ましくは20〜250mPa・sであり、より好ましくは30〜200mPa・sであり、さらに好ましくは30〜150mPa・sであり、最も好ましくは30〜140mPa・sである。
(ii)糖化液及び澱粉分解物
本発明における「糖化液」又は「澱粉分解物」の粘度とは、糖化液又は澱粉分解物の30質量%水溶液の30℃におけるBM型粘度計(60回転/分、30秒間)による測定値である。
本発明の糖化液及び澱粉分解物の30℃における30質量%水溶液の粘度は、50〜250mPa・sであり、好ましくは50〜200mPa・sであり、より好ましくは55〜200mPa・sであり、さらに好ましくは60〜200mPa・sである。上記範囲であると濃厚感を付与できる澱粉分解物を提供することができる。
【0016】
(C)濁度
本発明の澱粉分解物の30質量%水溶液を品温4℃で3日間保存した後の濁度は1.0以下である。より好ましくは濁度は0.5以下、さらに好ましくは0.2以下、最も好ましくは0.05以下である。
本発明における「濁度」とは、澱粉分解物の30質量%水溶液の720nm(10cmセル)における吸光度である。
【0017】
(D)分子量5,000以上の糖組成物含有量
本発明の澱粉分解物は、澱粉の分解により生じる糖からなる組成物であり、分子量5,000以上の糖組成物(画分)含有量が、固形分当たり70質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、80質量%以下である。係る範囲であれば濃厚感、味切れを良好にすることができるからである。
本発明における分子量5,000以上の糖組成物含有量は、ゲルろ過によるHPLC(島津製作所社製)より得られる分子量分布から求めることができる。HPLCの分析条件は以下であり、プルラン標準品、マルトトリオースおよびグルコースを用いて検出時間に対する分子量の検量線を作成し、この検量線より分子量5,000の検出時間を算出したのち、算出された検出時間より前に検出されるピークの面積%を分子量5,000以上の糖組成物含有量とした。
[カラム]:TSKgel G2500PWXL,G3000PWXL、
G6000PWXL(東ソー(株)製)
[カラム温度]:80℃、
[移動相]:蒸留水、
[流速]:0.5ml/min、
[検出器]:示差屈折率計、
[サンプル注入量]:1質量%水溶液100μL、
[検量線]:プルラン標準品(昭和電工(株)製)、マルトトリオースおよびグルコース
【0018】
<澱粉分解物の製造>
上述の本発明の澱粉分解物は、原料澱粉を液化酵素で加水分解後、糖化酵素でさらに加水分解することを含む製造方法により製造することができる。
【0019】
本発明の澱粉分解物を得るための原料となる澱粉(原料澱粉)は、自然界に見出される天然澱粉その他遺伝子工学技術を含む標準的育種技術により得られた藻類を含む植物由来のものであればいずれでもよく、その代表的な供給源は、穀類、塊茎、根、藻、豆果及び果物である。より具体的な例としては、トウモロコシ、エンドウ、ジャガイモ、サツマイモ、バナナ、オオムギ、コムギ、米、サゴ、アマランス、タピオカ、カンナ、モロコシ及びこれらの糯種又は高アミロース種が挙げられる。
【0020】
本発明の澱粉分解物を得るための好ましい原料澱粉としては、ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉、ワキシーポテト澱粉といった糯種澱粉を挙げることができ、そのなかでも、ワキシータピオカ澱粉がより好ましい。高DE値で高い水溶液粘度を有しかつ高い透明性を有する澱粉分解物を得ることができるからである。
【0021】
液化酵素による加水分解工程を「液化工程」、糖化酵素により加水分解する工程を「糖化工程」とも呼ぶ。
本発明の澱粉分解物を得るための液化工程における液化酵素は、α−アミラーゼである。「α−アミラーゼ」とは、澱粉のα−1,4グルコシド結合を加水分解するエンド型の酵素をいい、例えば、クライスターゼSD−KM(天野エンザイム社製)や、ターマミル120L(ノボザイムズジャパン社製)などが挙げられる。このα−アミラーゼの使用量は、原料澱粉の固形分質量に対して0.01〜0.2質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.02〜0.12質量%である。
【0022】
上記の液化工程は、温度は、好ましくは70〜100℃、より好ましくは80〜95℃、pHは、好ましくは5.0〜7.0、より好ましくは5.5〜6.5、その処理時間は、好ましくは5〜40分、より好ましくは7〜30分の範囲で行うことができる。液化工程における原料澱粉の濃度は25〜40質量%程度であることが好ましい。液化工程において、加熱加圧蒸煮釜やジェットクッカーなどの加熱装置を用いてもよい。
液化工程では、反応溶液(液化液)の70℃における25質量%水溶液の粘度が所定範囲、例えば、20〜250mPa・sに到達した時点で、0.2MPa程度の加圧処理又はシュウ酸などの酸により反応を終了させてもよい。
【0023】
本発明の澱粉分解物を得るための糖化工程における糖化酵素は、例えばグルコアミラーゼである。本発明にいう「グルコアミラーゼ」とは、アミロースとアミロペクチンのα−1,4グルコシド結合を非還元末端からグルコース単位で加水分解するエキソ型の酵素をいい、例えば、グルクザイムNL4.2(天野エンザイム社製)や、グルコチーム#20000(ナガセケムテックス社製)、AMG300L(ノボザイムズジャパン社製)などが挙げられる。このグルコアミラーゼの使用量は、原料澱粉の固形分に対して0.01〜1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.02〜0.5質量%である。
【0024】
上記の糖化工程は、温度は、好ましくは45〜70℃、より好ましくは55〜65℃、pHは好ましくは3.0〜6.0、より好ましくは3.5〜5.0、処理時間は好ましくは3〜400分、より好ましくは10〜200分の範囲で行うのがよい。糖化工程における液化工程からの原料澱粉の濃度は15〜30質量%程度であることが好ましい。反応溶液(糖化液)の30質量%水溶液の30℃における粘度が50〜250mPa・s又は、DE値が18を超え27以下の範囲に到達した時点で、90℃以上の加温又は加圧処理により反応を終了させるのがよい。
【0025】
上記の液化及び糖化工程を経て得られた反応溶液は、精製工程としての珪藻土によるろ過及びイオン交換樹脂による脱塩を経て、濃縮して液状品とするか、噴霧乾燥等により粉末化して粉末品とすることができる。そして、さらに、精製後の澱粉分解物の液を還元(水素添加)して還元型澱粉分解物とすることもできる。
【0026】
このようにして得られる本発明の澱粉分解物は、DE値が18を超え27以下と大きいにもかかわらず、30℃における30質量%水溶液の粘度は50〜250mPa・sと高くなる。
【0027】
なお、高粘度デキストリンの代表例として、松谷化学工業社製「パインデックス#100」が挙げられるが、30℃における30質量%水溶液粘度は100mPa・sである一方、DE値は4と小さい。また、高DE値のデキストリンの代表例として、松谷化学工業社製「パインデックス#3」が挙げられるが、DE値は25〜30である一方、30℃における30質量%水溶液粘度は7mPa・sと低い。
【0028】
したがって、これら一般的な澱粉分解物と本発明の澱粉分解物を比べると、本発明の澱粉分解物が、これまでにないタイプの澱粉分解物であることがわかる。
【0029】
<飲食品>
本発明の他の態様は、上記澱粉分解物を含む飲食品である。飲食品の種類は特に限定されないが、例えば、コーヒー、紅茶、ジュース等の清涼飲料、アルコール飲料の飲料品、アイスクリーム、ミルクプリン、カスタードクリーム、ヨーグルト、ムース等の乳含有製品、つゆ・たれ類、すし酢、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、ソース等の調味製品、カレー、シチュー、濃厚流動食、経腸栄養剤、ゼリー等が挙げられる。特に乳含有製品、調味製品等の液状又はペースト状の飲食品において用いると、濃厚感及び味切れの双方に優れた効果を発揮するため、好ましい。
これらの飲食品に対し、本発明の澱粉分解物を、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは2〜11質量%含有させることにより、濃厚感及び味切れの双方に優れた飲食品を製造することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施形態を記載するが、実施例に特に限定されるものではない。実施例内において特に説明がない場合には、「%」は「質量%」を意味する。
【0031】
(実施例1)
ワキシータピオカ澱粉を水に懸濁して35質量%の澱粉スラリー液とした後、消石灰を用いてpH6.0に調整し、α−アミラーゼ(クライスターゼSD−KM、天野エンザイム社製)を原料の固形分に対して0.1質量%添加した。この澱粉スラリー液を、80℃に保温された加熱加圧蒸煮釜へ投入して反応を行った。反応の途中で、反応液の一部を95℃以上に加熱して失活し、25質量%の濃度に調整して70℃における粘度を測定し、粘度が20〜250mPa・sであることを確認して反応を終了した。反応液を0.2MPaにて酵素を失活して液化液を得た。酵素失活させた反応液の一部を25質量%の濃度に調整して70℃における粘度を測定したところ、49.8mPa・sであった。この液化液(固形分22質量%)を60℃に冷却後、シュウ酸を用いてpH4.5に調整し、グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野エンザイム社製)を原料の固形分に対して0.04質量%添加して、60℃で反応後、90℃以上で10分間保持し、酵素を失活させて糖化液を得た。得られた糖化液を、珪藻土によるろ過及びイオン交換樹脂による脱塩によって精製した後、25質量%まで濃縮し、噴霧乾燥により粉末化してDE値が26.0、30℃における30質量%水溶液の粘度が60.5mPa・sの澱粉分解物を得た。
【0032】
(実施例2〜9及び比較例1〜8)
実施例1における原料澱粉を表1に記載のものに変え、表1及び表2に記載した条件を用いて実施例1と同様の手順で澱粉分解物を調製し、表1および表2に記載される各DE値及び30℃における30質量%水溶液の粘度を有する各澱粉分解物を得た。
【0033】
(DE値測定)
実施例及び比較例のDE値をレインエイノン法(「澱粉糖関連工業分析法」、食品化学新聞社発行(平成3年11月1日発行))により測定した。
【0034】
(粘度測定)
(i)液化液
実施例及び比較例の液化液の粘度を、液化工程後の澱粉分解物の25質量%水溶液の70℃における粘度計(BM形 東機産業社製)により測定した。より具体的には、25質量%の液化液を70℃に調整し、60回転/分、ローター1または2を用いて30秒間測定した。
(ii)糖化液及び澱粉分解物
実施例及び比較例の糖化液及び澱粉分解物の粘度を、糖化液又は澱粉分解物の30質量%水溶液の30℃における粘度計(BM形 東機産業社製)により測定した。より具体的には、30質量%の糖化液又は澱粉分解を30℃に調整し、60回転/分、ローター1または2を用いて30秒間測定した。
【0035】
(濁度測定)
実施例及び比較例の澱粉分解物の30質量%水溶液を、30mlのガラス製のバイアル瓶に入れ、品温4℃で3日間保存した後、10cmの厚さのプラスティック材質のセルに移し、分光光度計(U−2900、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、720nmの波長における吸光度を測定した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
(官能評価)
実施例1〜9及び比較例1〜8で得られた澱粉分解物の10質量%水溶液について、よく訓練されたパネラー9名により官能評価を行い、官能評価項目は、先味としての「濃厚感」と後味としての「味切れ」に加えて、「甘味」そのものとした。なお、先味の「濃厚感」は、試料溶液を口に含んだ瞬間に感じるコクの強さを、後味の「味切れ」は、試料溶液を飲み込んだあとに濃厚感が喉に残らない度合を、「甘味」は、甘味の強さそのものを評価した。また、その評価基準は、図1に示すとおり、パインデックス#100及びパインデックス#3の各水溶液を基準とする「5段階のスケール」における位置付け(但し、整数)をもって行い、その9名の平均値を評価結果とした。評価結果は、3.0以上で目標に合致するパインデックス#100に近い濃厚感、パインデックス#3に近い味切れ、およびパインデックス#100に近い甘味のものとし、3.0未満では各項目において目標に合致しないものとした。
【0039】
(老化耐性評価)
各澱粉分解物の30質量%水溶液を4℃で3日間保存した後の濁度が1.0以下の場合、老化耐性があるとした。
【0040】
(分子量5,000以上の糖組成物含有量)
分子量5,000以上の糖組成物含有量は、ゲルろ過によるHPLCより得られる分子量分布から求めた。HPLCの分析条件は以下であり、プルラン標準品、マルトトリオースおよびグルコースを用いて検出時間に対する分子量の検量線を作成し、この検量線より分子量5,000の検出時間を算出したのち、算出された検出時間より前に検出されるピークの面積%を分子量5,000以上の糖組成物含有量とした。

[カラム]:TSKgel G2500PWXL,G3000PWXL、
G6000PWXL(東ソー(株)製)
[カラム温度]:80℃、
[移動相]:蒸留水、
[流速]:0.5ml/min、
[検出器]:示差屈折率計、
[サンプル注入量]:1質量%水溶液100μL、
[検量線]:プルラン標準品(昭和電工(株)製)、マルトトリオースおよびグルコース
以上の各澱粉分解物の官能評価及び目視評価の結果並びに分析値を、以下の表3及び4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
表3の実施例の結果より、ワキシー種を原料とし、DE値が18を超え27以下、30℃における30質量%水溶液の粘度が50〜200mPa・sの範囲にある澱粉分解物は、老化耐性が高く、官能評価においては濃厚感及び味切れが良好であり、さらに甘味が低い結果となった。すなわち、上記のDE値及び粘度の範囲内にある本発明の澱粉分解物にあっては、飲食品の風味や味質に影響を与えることなく濃厚感と味切れがよくさらに高い老化耐性を有することがわかった。
【0044】
表4の比較例の結果からわかるように、30℃における30質量%水溶液の粘度が50mPa・s未満では、濃厚感が弱く(比較例1〜3)、250mPa・sを超える範囲では、DE値が高い場合であっても、味切れが悪かった(比較例7、8)。また、DE値が18以下の場合も味切れが悪かった(比較例4、8)。一方、DE値が27を超えると甘さを感じた(比較例3、6)。原料がタピオカの場合は濁度が大きく上がってしまい、老化耐性が非常に低いことがわかった(比較例2、5)。
【0045】
(食品例1:コーヒー飲料)
実施例4及び比較例1の各澱粉分解物と、対照としてパインデックス#100及びパインデックス#3を用いて、表5に示した処方でコーヒー飲料を調製した。具体的には、コーヒー豆を10倍量の85℃熱水で5分間抽出し、冷却後ろ過しコーヒー抽出液を調製した。このコーヒー抽出液に他の原料を加えて混合溶解した後、水を加えて全量補正した。60℃まで加熱した後、ホモジナイザーで5000rpm、5分間処理し、次いで200kgf/cm2の圧力にて均質化処理し、缶に充填後、125℃、20分間レトルト殺菌を行い、コーヒー飲料を調製した。
【0046】
【表5】
※1 ユニカフェ社製
※2 三菱化学フーズ社製(シュガーエステルP−1670、S−570)
【0047】
得られたコーヒー飲料について、訓練されたパネラー6名の官能評価により、先味としての「濃厚感」、後味としての「味切れ」について評価を行った。評価結果を表6に示す。
なお、以降の食品の評価は、前述した澱粉分解物の評価方法に準じて行っている。
【0048】
【表6】
【0049】
その結果、実施例4の澱粉分解物を使用したコーヒー飲料は、濃厚感がありながらも、後味の味切れが良かった。一方、比較例1の澱粉分解物を使用したコーヒー飲料は後味の味切れは良好であったが、濃厚感が弱かった。
【0050】
(食品例2:アイスクリーム)
実施例4及び比較例1の澱粉分解物、対照としてパインデックス#100及びパインデックス#3を用いて、表7に示した処方でアイスクリームを調製した。具体的には無塩バター、生クリーム、バニラフレーバー以外の原料を加えて撹拌しながら内容物の温度が60℃に達するまで加熱した後、無塩バターと生クリームを加えて85℃に達するまで加熱撹拌した。続いてホモミキサーで8000rpm、5分間処理した後、高圧ホモジナイザーで150kgf/cm2の圧力にて均質化処理した。これをさらに冷水を用いて5℃まで冷却した後、庫内温度5℃の冷蔵庫に12時間保存したものにバニラフレーバーを添加し、アイスクリームフリーザーを用いてフリージングした後、−4℃で取り出してカップに充填し、−30℃の急速冷凍庫中で1時間硬化させ、アイスクリームを調製した。
【0051】
【表7】
※3 キユーピータマゴ社製(加糖凍結卵黄20)
※4 三栄源エフ・エフ・アイ社製(サンベストNN−749)
※5 高田香料社製(カスタードワニラエッセンスT−484)
【0052】
得られたアイスクリームについて、訓練されたパネラー6名の官能評価により、先味としての「濃厚感」及び後味としての「味切れ」について評価を行った。評価結果を表8に示す。
【0053】
【表8】
【0054】
その結果、実施例4の澱粉分解物を使用したアイスクリームは、濃厚感がありながらも味切れが良く、味切れが良い結果として後に風味が立つものであった。一方、比較例1の澱粉分解物を使用したアイスクリームは、味切れは良かったものの濃厚感が弱かった。
【0055】
(食品例3:めんつゆ)
実施例4及び比較例1の澱粉分解物、対照としてパインデックス#100及びパインデックス#3を用いて、表9に示した処方でめんつゆを調製した。具体的には、水以外の原料を混合したものを90℃まで加熱し、冷却後、水を加えて全量補正して調製した。
【0056】
【表9】
※6 富士食品工業社製
【0057】
得られためんつゆについて、訓練されたパネラー5名の官能評価により、先味としての「濃厚感」、後味としての「味切れ」について評価を行った。評価結果を表10に示す。
【0058】
【表10】
【0059】
その結果、実施例4の澱粉分解物を使用しためんつゆは、濃厚感がありながらも味切れが良く、味切れが良い結果として後に風味が立つものであった。一方、比較例1の澱粉分解物を使用しためんつゆは、味切れは良かったものの、濃厚感が弱かった。
【0060】
(食品例4:ミルクプリン)
実施例4及び比較例1の澱粉分解物、対照としてパインデックス#100及びパインデックス#3を用いて、表11に示した処方でミルクプリンを調製した。具体的には、原料を混合し、撹拌しながら70℃まで加熱した後、150kgf/cm2の圧力にて均質化処理し、カップに充填後、90℃、10分間殺菌を行い、ミルクプリンを調製した。
【0061】
【表11】
※7 DSP五協フード&ケミカル社製(ゲルメイトPC)
【0062】
得られたミルクプリンについて、訓練されたパネラー6名の官能評価により、先味としての「濃厚感」、後味としての「味切れ」について評価を行った。評価結果を表12に示す。
【0063】
【表12】
【0064】
その結果、実施例4の澱粉分解物を使用したミルクプリンは、濃厚感がありながらも味切れが良く、味切れが良い結果として後に風味が立つものであった。一方、比較例1の澱粉分解物を使用したミルクプリンは、味切れは良かったものの、濃厚感が弱かった。
【0065】
(食品例5:蒲焼きのたれ)
実施例4及び比較例1の澱粉分解物、対照としてパインデックス#100及びパインデックス#3を用いて、表13に示した処方で蒲焼きのたれを調製した。
【0066】
【表13】
【0067】
得られた蒲焼きのたれについて、訓練されたパネラー5名の官能評価により、先味としての「濃厚感」、後味としての「味切れ」について評価を行った。評価結果を表14に示す。
【0068】
【表14】
【0069】
その結果、実施例4の澱粉分解物を使用した蒲焼のたれは、濃厚感があり、味切れが良かった。一方、比較例1の澱粉分解物を使用した蒲焼のたれは、味切れは良かったものの、濃厚感が弱かった。
【0070】
(食品例6:ドレッシング)
実施例4及び比較例1の澱粉分解物、対照としてパインデックス#100及びパインデックス#3を用いて、表15に示した処方でドレッシングを調製した。具体的には、ごま油、サラダ油以外の原料を加えて溶解し、撹拌しながら80℃まで加熱した。冷却後、ごま油及びサラダ油を添加して容器に充填し、ドレッシングを調製した。
【0071】
【表15】
【0072】
得られたドレッシングについて、訓練されたパネラー5名の官能評価により、先味としての「濃厚感」、後味としての「味切れ」について評価を行った。評価結果を表16に示す。
【0073】
【表16】
【0074】
その結果、実施例4の澱粉分解物を使用したドレッシングは、濃厚感がありながらも味切れが良く、味切れが良い結果として後に風味が立つものであった。一方、比較例1の澱粉分解物を使用したドレッシングは、味切れは良かったものの、濃厚感が弱かった。
【0075】
(食品例7:マヨネーズ)
実施例4及び比較例1の澱粉分解物、対照としてパインデックス#100及びパインデックス#3を用いて、表16に示した処方でマヨネーズを調製した。具体的には、サラダ油以外の原料にサラダ油を少量ずつ添加して混合・撹拌し、コロイドミル(「MILL MIX」、(株)日本精機製作所)の4,000rpm、クリアランス0.3mmにて乳化し、マヨネーズを調製した。
【0076】
【表17】
【0077】
得られたマヨネーズについて、訓練されたパネラー5名の官能評価により、先味としての「濃厚感」、後味としての「味切れ」について評価を行った。評価結果を表16に示す。
【0078】
【表18】
【0079】
その結果、実施例4の澱粉分解物を使用したマヨネーズは、濃厚感があり、味切れが良かった。一方、比較例1の澱粉分解物を使用したマヨネーズは、味切れは良かったものの、濃厚感が弱かった。
【要約】
【課題】DE値と粘度が高くかつ透明性の高い粉分解物を得ることを課題とする。
【解決手段】(A)から(C):(A)DE値が18を超え27以下、(B)30℃における30質量%水溶液の粘度が50〜250mPa・s、(C)30質量%水溶液を4℃で3日間保存した後の濁度が1.0以下、の数値を満たす澱粉分解物により上記課題は達成される。
【選択図】なし
図1
図2